説明

水素脆化チタン管の作製方法およびその装置

【課題】非破壊検査方法等において、標準試料として必要な水素脆化チタン管を容易に作製する方法およびその装置を提供する。
【解決手段】本発明の水素脆化チタン管の作製方法は、チタン管の表面を溶液中で金属に擦り付けることを特徴とし、また作製装置は、溶液を入れる容器、該容器内に配置され、チタン管を挿入する孔を有する金属製バッフル、該金属製バッフルの孔に挿入されたチタン管の一端を保持し、回転させるための回転手段からなり、該金属製バッフルの孔の直径がチタン管外径より0.04〜2mm大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素脆化チタン管の作製方法および装置に関する。詳しくはチタン管の水素脆化の程度を測定する際に必要な水素脆化チタン管の作製方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンは海水環境等で非常に耐食性に優れるため、熱交換器の伝熱管等に多く用いられている。しかし、チタンの伝熱管は水素脆化が発生することがあり、材料強度が落ち、伝熱管の割れに繋がる可能性がある。
水素脆化の検査は、顕微鏡による断面ミクロ組織検査によって行われることが多い。この破壊検査方法に対して、非破壊検査方法として渦流センサーを用いる方法が知られている(特許文献1参照。)。
【0003】
このような非破壊検査方法において、水素脆化の有無およびその程度を精度良く測定するためには、標準試料となる種々の水素脆化されたチタン管が必要であり、水素脆化されたチタン管を容易に良く作製できる方法が望まれている。
【特許文献1】特開2001−141698号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、非破壊検査方法等において、標準試料として必要な水素脆化されたチタン管を容易に作製する方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、水素脆化されたチタン管を容易に作製する方法およびその装置について鋭意検討した結果、チタン管の表面を溶液中で金属に擦り付けることによって、水素脆化チタン管を容易に作製できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、チタン管の表面を溶液中で金属に擦り付けることを特徴とする水素脆化チタン管の作製方法である。
本発明の方法は、低酸素濃度条件下で行うのが好ましい。
また、加熱下に行うことによって、水素脆化層を早く作製できる。
更に、本発明は、溶液を入れる容器、該容器内に配置され、チタン管を挿入する孔を有する金属製バッフル、該金属製バッフルの孔に挿入されたチタン管の一端を保持し、回転させるための回転手段からなり、該金属製バッフルの孔の直径がチタン管外径より0.04〜2mm大きいことを特徴とする水素脆化チタン管の作製装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、非破壊検査方法等において、標準試料として必要な水素脆化チタン管を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図を基に本発明を詳細に説明する。図1は本発明の水素脆化チタン管の作製装置の実施態様の例を示す図である。
容器1内に金属製バッフル6が水平に配置されている。金属製バッフルには孔が開けられており、この孔に水素脆化を発生させるチタン管を垂直に挿入し、その上端を軸受け3介して保持し、回転手段2によって、チタン管が回転させられる。
チタン管5と孔の金属バッフル6との間隔は、約0.02〜1mm、好ましくは約0.03〜0.07mm、すなわち、金属製バッフルの孔の直径がチタン管外径より約0.04〜2mm、好ましくは約0.06〜0.14mm大きくしてある。
容器内には金属製バッフルが浸るように溶液が入れられている。
チタン管を回転させることにより、チタン管は振れて金属製バッフルの孔の内面に擦り付けられる。このことによって、擦り付けられたチタン管の表面に水素脆化が発生する。
チタン管5と孔の金属バッフル6との間隔が、約0.02より小さくなると、チタン管の回転が滑らかに行われなくなり、また約1mmより大きくなると、チタン管の表面が金属に十分に擦り付けられなくなり、好ましくない。
【0009】
バッフルは金属製であり、通常、SUS304、SUS316等のステンレス鋼、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、チタン等が用いられる。バッフルの厚さは、特に制限されるものではないが、約3〜20mmである。
溶液としては、純水または塩化ナトリウム、硫酸等の電解質を含有する水溶液、有機溶媒等が挙げられ、特に限定されるものではない。
溶液中に酸素が多いと水素脆化が起こり難く、通常、窒素等で脱気して得られる低酸素濃度の溶液が使用される。溶液中の酸素は約1ppm以下が好ましい。
溶液の温度は、常温〜約250℃で行われるが、加熱下に行うことによって、水素脆化層を早く、または厚く作製することができる。
チタン管の回転は、回転数が約1〜1000rpm、好ましくは約10〜100ppmで行われる。
上記のようにしてチタン管の表面を金属に擦り付ける時間は、作製する水素脆化の厚さ、実施する温度等によって決められるが、通常、約3〜100日である。
図1においては、チタン管を垂直に保持して回転させているが、水平に保持して回転させて行う装置とすることも可能である。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例で詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0011】
図1に示すと同様の装置を用いて水素脆化チタン管の作製を行った。
容積1.3リットルのハステロイC−22製容器内に、厚さが5mmで、孔径が19.2mmφのバッフルを水平に配置した。外径19.05mmφ、内径16.65mmφ、長さ85mmのチタン管を挿入し、上端を回転軸および軸受けを介してモーターに接続した。加熱はマントルヒータを用いて容器の外面から行った。容器内には温度の制御のための温度計(図示していない)を挿入した。
【0012】
容器内には、純水1リットルを入れ、窒素ガスを15時間吹き込み脱気した。脱気した後のガス中の酸素濃度は10ppb以下であった。
チタン管を回転数50rpmで回転させ、ヒーターで加熱し、水を所定の温度にし、30日間処理した。
その後、顕微鏡による断面ミクロ組織検査を行い、層状水素化物の厚さを求めた。温度は50℃、100℃、154℃で行った。
なお、使用したチタン管は、含有する不純物濃度が、H:0.03重量%、N:0重量%、O:0.09重量%、Fe:0.04重量%のものである。
結果を表1および図2に示す。
【0013】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水素脆化チタン管の作製装置の実施態様の例を示す図である。
【図2】実施例における温度と層状水素化物厚さとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
1 容器
2 回転手段
3 軸受け
4 溶液
5 チタン管
6 金属製バッフル




【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン管の表面を溶液中で金属に擦り付けることを特徴とする水素脆化チタン管の作製方法。
【請求項2】
低酸素濃度条件下で行うことを特徴とする請求項1記載の作製方法。
【請求項3】
加熱下に行うことを特徴とする請求項1または2記載の作製方法。
【請求項4】
溶液を入れる容器、該容器内に配置され、チタン管を挿入する孔を有する金属製バッフル、該金属製バッフルの孔に挿入されたチタン管の一端を保持し、回転させるための回転手段からなり、該金属製バッフルの孔の直径がチタン管外径より0.04〜2mm大きいことを特徴とする水素脆化チタン管の作製装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−218828(P2007−218828A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42075(P2006−42075)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】