説明

水素貯蔵装置

【課題】最大発熱量に満たない水素吸蔵合金の発熱に相応した熱交換能力に抑えながら、水素吸蔵合金への水素充填(吸蔵)を効率良く行なうことを可能にする。
【解決手段】水素貯蔵タンク10内の水素吸蔵合金12に水素吸蔵する際の水素の供給を、水素吸蔵合金12の発熱量が100kJ/sec以下になるように、調整バルブV1により水素の供給圧力を制御して行なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金を用いて水素の貯蔵および外部供給を行なうのに好適な水素貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば水素ガスを貯蔵する場合、水素ガスを圧縮してボンベに充填したり、水素貯蔵が可能な水素吸蔵合金や水素吸着材料を用いることが広く行なわれている。
【0003】
ボンベでは容積が大きい割りには壁厚が大きいために内容量が小さく、重量も大きいことから、特に水素吸蔵合金等を用いた水素の貯蔵技術に関する検討が盛んに行なわれている。
【0004】
例えば水素吸蔵合金は、一般に、冷却下で水素を加圧すると吸蔵反応(発熱反応)が進行し、逆に減圧下で熱を与えると放出反応(吸熱反応)が進行し、水素の吸蔵・放出に際して熱の移動を伴なうことが知られている。そのため、水素を一時的に貯蔵し、必要に応じて水素を放出する使用形態において、多量の水素を貯蔵しあるいは放出するためには、熱の移動が良好に行なわれることが重要となる。
すなわち、水素吸蔵合金は、水素を放出するときには顕熱を消費して温度低下し、この温度低下が大きくなると水素の放出速度は低下し、逆に水素を吸蔵するときには発熱し、この温度上昇が大きくなると水素の吸蔵速度も低下し、反応速度は下がってしまう。
【0005】
そこで、水素吸蔵・放出に要する時間を短縮するために、タンク温度が水素吸蔵材の水素吸蔵温度に上昇したときに水素吸蔵合金を効率よく冷却して水素充填効率を向上させたり、水素吸蔵合金の劣化に伴なうプラトー圧の減少、温度の上昇に拘らず、常に水素吸蔵合金に対して最適な圧力で水素を充填する等の様々な技術が検討、開示されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0006】
ところが、水素の吸蔵開始初期や水素消費後の再充填時など、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素量が少ない状態での水素充填では、水素の吸蔵反応が急速に進行するために、水素吸蔵合金の発熱も大きく、水素の充填性能(充填速度、充填量等)を確保するためには、水素吸蔵合金から発生する熱を効率よく熱交換する必要がある。
【0007】
熱交換性能を効率よく行なう方法としては、従来から、熱交換器等自体の熱交換性能を向上させる、あるいは熱媒流量を増したり、熱媒温度を下げる等の方法が採られている。
【0008】
水素充填初期の発熱に関連して、水素充填の際、水素タンクへの充填時にタンク内圧が高まることによる発熱と、圧力の高い水素供給源から供給された水素が水素タンク内で膨張することによる発熱とが同時に発生することから、水素タンク内の水素温度が水素充填を開始した初期に最高値に達すること等に着目し、水素充填初期には水素タンク内の圧力に応じて水素の充填速度を制限する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−060815号公報
【特許文献2】特開2002−228098号公報
【特許文献3】特開2001−355795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、水素充填初期に水素タンク内の圧力に応じて水素の充填速度を制限する方法では、水素タンクに直接水素を充填する場合には効果的であると推測されるものの、水素吸蔵合金を用いて水素を貯蔵する場合には、必ずしもタンク内圧を認識するだけでは水素吸蔵合金の発熱量を一定値下に抑えられず、発熱に伴なう水素吸蔵合金の劣化や吸蔵効率の低下を回避することは困難である。
【0010】
また、水素吸蔵合金を用いた(例えば水素貯蔵タンクへの)水素貯蔵は、水素吸蔵合金における水素吸蔵量が少ない段階で充填開始したときの水素の吸蔵開始初期等では、水素吸蔵による発熱量が最も大きくなることから、一般には備えられる熱交換器の性能もその最大となる発熱量に合わせて設定される。吸蔵初期以降は、徐々に水素の吸蔵反応速度(充填速度)も低下して発熱量も下がるため、熱交換スペックが一回の水素充填に必要な熱交換量を上回る傾向にあり、システム全体として熱交換に効率損が生じている。また、必要スペックを超える熱交換器はそれ自体の体格や重量も大きく不利である。
【0011】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、熱交換性能を最大発熱量に満たない発熱に相応した熱交換能力に抑えながら、水素の貯蔵(吸蔵)を効率良く行なうことができる水素貯蔵装置を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、特に水素の充填開始初期や水素消費後の再充填開始時など、水素吸蔵合金における水素吸蔵量が少ない段階で水素を吸蔵させる場合に発熱量が最も大きくなるが、この段階を超えると比較的発熱量が小さくなるため、比較的発熱量の大きくない通常熱交換時に必要な熱交換量に合わせて熱交換能力を設定しても、発熱と冷却との間の熱量制御の仕方によっては、熱交換能力を上げることなく、例えば発熱が最大となる場合の熱交換量をも賄うことができるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の水素貯蔵装置は、水素吸蔵合金が収容され、水素の貯蔵が可能な水素貯蔵タンクと、水素貯蔵タンクに水素貯蔵する際の水素の供給を、前記水素吸蔵合金からの発熱量が100kJ/secを越えない所定値以下になるように(好ましくは前記水素吸蔵合金を冷却しつつ)制御する水素供給制御手段と、を設けて構成したものである。
【0014】
本発明の水素貯蔵装置においては、水素吸蔵合金自体の水素吸蔵に伴なう発熱に着目し、例えば水素の充填開始初期など水素吸蔵合金での水素吸蔵量が少ない状態で水素供給したときは吸蔵速度が速く急発熱しやすいことから、水素吸蔵合金自体の発熱量が100kJ/secを越えないように所定値(好ましくは30kJ/sec)以下になるように、水素吸蔵量の少ない段階は水素が吸蔵される速度を抑え、その後は前記発熱量の範囲内で吸蔵速度を高める制御を行なうことで、水素吸蔵に伴なう急激な発熱を回避できるので、比較的発熱量の大きくない通常熱交換時に必要な熱交換量に合わせた熱交換能力の設定が可能になり、熱交換器等の体格や重量等を小さく軽減しつつ、熱交換に必要な熱交換能力を確保することができる。
【0015】
水素供給制御手段による水素の供給制御は、水素貯蔵タンクに供給される水素の供給圧力に基づいて行なうことができる。
【0016】
水素の供給開始後に水素吸蔵合金の発熱量が前記所定値(100kJ/sec以下)を超える場合に、例えば水素貯蔵タンクに設けた圧力センサの検出圧力の値やその変化量から、供給される水素の供給圧力を水素吸蔵合金自体の発熱量が100kJ/sec以下の所定値を超えないように(好ましくは30kJ/sec以下に)抑える制御をするので、水素吸蔵合金の発熱量が急激に大きくなるのを回避でき、水素吸蔵合金の劣化回避および水素の吸蔵効率を確保できる。その後は、発熱量の緩和に応じて供給圧力を上げて水素吸蔵速度を高めることができる。
【0017】
水素供給制御手段による水素の供給制御は、水素貯蔵タンクに供給される水素の供給流量に基づいて行なうことができる。
【0018】
上記同様に、水素の供給開始後に水素吸蔵合金の発熱量が所定値(100kJ/sec以下)を超える場合に、例えば水素貯蔵タンクに水素を供給する供給配管に取り付けられた流量センサの検出値やその変化量から、供給される水素の供給流量を水素吸蔵合金自体の発熱量が100kJ/sec以下の所定値を超えないように(好ましくは30kJ/sec以下に)抑える制御をするので、発熱量が急激に大きくなるのを回避でき、水素吸蔵合金の劣化回避および水素の吸蔵効率を確保できる。その後は、発熱量の緩和に応じて供給流量を上げて水素吸蔵速度を高めることができる。
【0019】
本発明の水素貯蔵装置には、冷媒を流通し、水素吸蔵合金と熱交換可能な冷却手段を更に設けることができる。この冷却手段を設けた場合は、上記の水素供給制御手段による水素の供給制御は、水素吸蔵合金と熱交換する冷媒の流量に基づいて行なうことができる。
【0020】
本発明における冷媒は、水素吸蔵合金を所望の温度に制御するために、水素吸蔵合金との間の熱交換により熱を移動させるための流体である。
【0021】
水素の供給を開始して水素吸蔵合金の発熱量が所定値(100kJ/sec以下)を超える場合に、冷媒を流通する例えば冷却管を水素吸蔵合金との熱交換が行なえるように水素貯蔵タンク内に配し、この冷却管に取り付けられた流量センサの検出値やその変化量から、冷却管内を流通する冷媒の流量を、水素吸蔵合金自体の発熱量が100kJ/sec以下の所定値を超えない(好ましくは30kJ/sec以下)ように(例えば冷媒用ポンプの出力を上げて)増やす制御をするので、発熱量が急激に大きくなるのを回避でき、水素吸蔵合金の劣化回避および水素の吸蔵効率を確保できる。その後は、発熱量の緩和に応じて流量を下げることができる。
【0022】
本発明の水素貯蔵装置は、更に、前記水素貯蔵タンク内の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段により検出された温度に基づく上昇温度ΔTから前記水素貯蔵タンクへの水素供給に伴なう圧力差により生じた上昇温度Δtを減じた値から算出される熱量Qが100kJ/secを越えない所定値以下であるか否かを判定する判定手段とを設けた構成が好ましい。
この場合、判定手段により水素吸蔵合金の発熱量として前記熱量Qが100kJ/sec以下の所定値を越えていると判定されたときに、例えば水素の供給を停止あるいは絞る等して、水素貯蔵する際の水素の供給を水素吸蔵合金からの発熱量が100kJ/secを越えない所定値以下になるように制御することができる。逆に、100kJ/sec以下の所定値以下であると判定されたときには、水素貯蔵タンクに上記の水素供給制御手段により積極的に水素を供給することができる。
【0023】
本発明の水素貯蔵装置は、水素吸蔵合金に水素充填する際の水素吸蔵合金の発熱が急激に大きくなる場合の熱量に合わせた熱交換効率を基準にするのではなく、多くの場面で通常に行なわれる水素吸蔵の際に生ずる発熱量に合わせた熱交換効率を基準とした熱交換能力が設定されたものであり、必要とされる能力以上に体格や重量等が嵩むのを排除したシステムの構築が可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、熱交換性能を最大発熱量に満たない発熱に相応した熱交換能力に抑えながら、水素の貯蔵(吸蔵)を効率良く行なうことができる水素貯蔵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の水素貯蔵装置の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明においては下記の実施形態に制限されるものではない。
【0026】
(第1実施形態)
本発明の水素貯蔵装置の第1実施形態を図1〜図2を参照して説明する。本実施形態の水素貯蔵装置は、水素吸蔵合金(以下、単に「MH」ともいう。)の発熱量に応じて、水素貯蔵タンクに供給される水素の圧力を水素供給管に取り付けられた調整バルブにより制御し、水素吸蔵合金自体の発熱量が100kJ/secを超えないように、水素圧力を抑える構成としたものである。
【0027】
本実施形態の水素貯蔵装置は、水素吸蔵合金であるTi20Cr4535合金が収容された水素貯蔵タンク10と、この水素貯蔵タンク10に水素貯蔵する際の水素の供給を制御する水素供給制御手段である制御装置100とを備えている。
【0028】
水素貯蔵タンク10は、断面円形で耐圧性を有する高圧タンク11と、高圧タンク11の内部に収容された水素吸蔵合金であるTi20Cr4535合金12と、水素吸蔵合金との間で熱交換が行なえるように冷却手段として水素吸蔵合金中に埋設された冷却水管13とを備えている。
【0029】
高圧タンク11は、ステンレス合金(SUS316L)を用いて断面円形の筒型に成形し、筒の長さ方向の両端が閉塞された中空体であり、35MPaの耐圧性能を有している。壁厚や断面形状、サイズなどは、目的等に応じて、上記以外の任意の厚み、矩形、楕円形などの任意の形状、サイズを選択することができる。タンクの材質も、アルミニウム合金や、アルミニウム合金の中空状ライナと炭素繊維強化樹脂とを組み合わせた構造なども選択可能である。
【0030】
高圧タンク11の長手方向の一端には、水素供給口および水素排出口が形成されており、水素供給口には、水素をタンク内に供給するための水素供給管14の一端が接続されており、水素排出口には、水素を排出して外部に供給するための水素排出管15の一端が接続されている。
【0031】
水素供給管14は、他端が水素ステーションなどの水素供給装置と接続されると共に、さらに管部に調整バルブV1、水素圧センサS1、およびフローメータM1が取り付けられている。本実施形態では、調整バルブV1の弁開閉により、供給される水素の圧力を調整し、調整後の水素の圧力を水素圧センサS1により検出できるようになっている。そして、水素供給管を流通して水素貯蔵タンク10に水素が供給されたときには、供給された水素を高圧タンク11内の水素吸蔵合金12に吸蔵させて貯蔵することができる。
なお、供給される水素の流量をフローメータM1により検出し、バルブV1の弁開閉により圧力と共に更に水素の流量も調整するようにしてもよい。
【0032】
水素排出管15の他端は、水素貯蔵装置とは別に配置されている水素使用装置である燃料電池(FCスタック;以下、FCともいう)30と接続されており、FC30から水素の排出要求があったときには、水素貯蔵タンク10に貯蔵されている水素を水素排出管15を通じて供給できるようになっている。
【0033】
燃料電池30は、高分子電解質が触媒層および拡散層で挟まれた積層構造を更にセパレータで挟んだセル構造(単セル)が複数積層されたスタック構造など、目的等に応じた構成にすることができる。FC30は、水素が供給されると電池反応を生じて発電する。
【0034】
高圧タンク11の他端には、冷却水供給口および冷却水排出口が形成されており、これらを介して水素貯蔵タンク10内に冷却水管13が配されている。タンク外部から冷却水管13を通じて供給された冷却水は、水素貯蔵タンク内のMH中に埋設されている管内を流通しながらMHとの間で熱交換が行なえるようになっている。
【0035】
冷却水管13は、U字型に成形された断面円形のアルミニウム管であり、アルミニウム管の一端(以下、熱媒供給端ともいう)から供給された冷却水は他端(以下、熱媒排出端ともいう)から排出され、アルミニウム管の熱媒供給端、熱媒排出端と接続して構築される循環系により冷却水の循環が行なえる構成になっている。
また、冷却水管13の冷却水流通方向における冷却水排出口下流側には、冷却水の温度を検出する温度センサS4が取り付けられている。
【0036】
熱媒供給端は、3方バルブV2を介して配管21の一端と接続されており、この配管21には、配管途中でポンプP1を備えた供給配管22が一端で接続されている。供給配管22の他端は、ポンプP2を備えた供給配管24と接続されている。また、冷却水管13の熱媒排出端は、3方バルブV3を介して排出配管23の一端と接続されている。そして、供給配管24の一端と排出配管23の他端とがそれぞれラジエータ25と接続されることにより、ラジエータ25を挟んで供給配管24、供給配管22、配管21、冷却水管13および排出配管23が接続されてなる循環系が構築されている。
【0037】
3方バルブV2には、水素貯蔵タンク10に冷却水を送らずにラジエータに戻すための戻し配管27の一端が接続されており、この戻し配管27の他端は、図1に示すように冷却水管13の配管途中で接続されてバイパスを形成している。
なお、冷却水管13の管外壁には、壁面から突出させてMH中に入り込んでMHとの熱交換が効率よく行なわれるように、アルミニウム製などの熱交換用のフィンが取り付けられていてもよい。
【0038】
MHと熱交換を行なう冷媒には、冷却水以外にもLLC〔ロングライフクーラント(長期間使用可能な液)〕など種々の物質を利用することができ、(1)使用できる圧力が適当である、(2)単位体積あたりの熱容量または潜熱が大きく、伝熱係数が大きい、(3)装置を腐食しない、(4)不燃性・安価・無毒などの環境や経済性の面で負担が少ない等の特徴から目的に合わせて選択することができる。
【0039】
水素吸蔵合金(MH)は、外部から水素供給口を介して水素が供給されると水素を吸蔵して貯蔵することができ、必要に応じて加熱したりタンク内圧を低くしたときには、MHに吸蔵されている水素を外部に放出し、燃料電池等の水素使用装置に供給することができる。
【0040】
水素吸蔵合金としては、Ti20Cr4535合金に限られるものではなく、2元系合金、3元系合金、4元系合金などの各種合金を挙げることができる。例えば、TiCrV系合金、TiCrMn系合金、LaNi系合金、TiFe系合金、TiVMo合金、TiCrVNi合金、TiCrMoV系合金などから、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0041】
水素吸蔵合金(MH)の形態は、粉状、粒状、ペレット状などのいずれの形状、サイズであってもよい。
水素吸蔵合金は、例えば、所望の組成、組成比となるように金属粉をアーク溶解して粗合金とし、(好ましくは更にアニールして)これをボールミル等の粉砕機を用いて粉砕処理する等して得たものを使用することができ、得られた粉状物等のMHをタンク内に(好ましくは高密度に)充填する等して水素貯蔵タンクを作製することができる。
【0042】
更に、高圧タンク11には、タンク内部の温度を検出する温度センサS2と、タンク内部の圧力を検出するための圧力センサS3とが取り付けられている。
【0043】
なお、供給配管24の他端は、燃料電池(FCスタック)30の、水素排出管15が接続されていない側に設けられた冷却水供給口に接続されており、ポンプP2を駆動させることにより、ラジエータ24で冷却された冷却水をFC側に供給できるようになっている。また、FC30の同じ側には、FC内を流通した冷却水を排出するための冷却水排出口において、バルブV4を備えた排出配管26が接続されている。
【0044】
排出配管26は、バルブV4を介して配管21と接続されており、3方バルブV2の切替えにより、例えばFCから排出された冷却水を水素貯蔵タンク10に流通し、あるいは水素貯蔵タンク10に送らずにラジエータに戻すことができる。例えば、FC30との熱交換により昇温した冷却水を水素貯蔵タンク10に送ることにより、水素の放出を促進することも可能である。
また、3方バルブV3には、バイパス管28が接続され、冷却水管13および供給配管24を連通させることができ、温度センサS4の検出温度などに基づいて切替えることができる構成になっている。
【0045】
調整バルブV1、フローメータM1、水素圧センサS1、温度センサS2,S4、圧力センサS3、3方バルブV2,V3、バルブV4、ポンプP1〜P2、ラジエータ、燃料電池(FCスタック)30等は、図1に示すように、制御装置100と電気的に接続されており、制御装置100によって動作タイミングが制御されるようになっている。この制御装置100は、FC30と接続されている不図示の負荷の大きさに応じて水素ガスおよびエアの量を調節することにより出力を制御する該FCの通常の発電運転制御を担うと共に、水素貯蔵タンク10に水素供給する際の水素供給制御を担うものである。
【0046】
以下、本実施形態の制御装置100による制御ルーチンについて、水素貯蔵タンクに水素を供給する際の水素の供給を、水素吸蔵合金自体の発熱量が100kJ/secを超えないように、供給される水素の圧力を調節する水素供給制御ルーチンのみを詳細に説明する。図2は、調整バルブを調節して供給水素の圧力を制御する水素供給制御ルーチンを示すものである。
【0047】
本ルーチンが実行されると、図2に示すように、ステップ100において、温度センサS2により、水素貯蔵タンク10(高圧タンク11)の内部温度Tが所定の複数のタイミングで取り込まれる。
【0048】
同様に、ステップ120において、圧力センサS3により、水素貯蔵タンク10(高圧タンク11)の内部圧力Pが所定の複数のタイミングで取り込まれる。
【0049】
次に、ステップ140において、取り込まれたn個の温度Tおよび圧力Pから、所定時間(time)当たりの温度上昇ΔT(℃/time)と、所定時間(time)当たりの圧力上昇ΔP(atm/time)とを求める。
【0050】
ここで、ステップ100またはステップ120において、水素の供給開始時の内部温度T、内部圧力Pを予め取り込んで基準値とし、これら基準値に対する変動値を求めるための値として、例えば基準値を取り込んだ後の所定時間(time)経過後に再び内部温度T、内部圧力Pを取り込むようにしてもよい。この場合、ステップ140では、{(内部温度T−T)/time}から温度上昇ΔT(℃/time)を、{(内部圧力P−P)/time}から圧力上昇ΔP(atm/time)をそれぞれ求めることができる。
また、過去に取り込まれた内部温度、内部圧力(例えば、新たに取り込む直前の内部温度T、内部圧力P)を記憶しておき、新たにステップ100、120で取り込まれた値(T,P)と対比して温度上昇ΔT、圧力上昇ΔPを求めることもできる。
【0051】
ステップ160において、ステップ140で求められた圧力上昇ΔP(atm/time)をもとに、圧力上昇に伴なう上昇温度Δt(℃/time)を算出する。
【0052】
ステップ180では、ステップ140で求めた温度上昇ΔTから、ステップ160で算出した上昇温度Δtを減算して水素吸蔵合金自体の発熱温度(ΔT−Δt)℃を求めた後、この温度値から単位時間当たりの発熱量Q(kJ/sec)を算出する。
【0053】
ステップ200において、ステップ180で得た発熱量Qが100kJ/sec以下であるか否かが判定され、発熱量Qが100kJ/secを越えていると判定されたときには、水素吸蔵合金の発熱量が多く、熱交換による冷却が追いつかないおそれがあり、その結果として水素吸蔵合金の劣化や水素吸蔵効率の低下を招くおそれがあるので、次のステップ220において、水素圧センサS1で水素圧を検出しながら調整バルブV1の開度を絞り、水素貯蔵タンク10に供給される水素の圧力を減ずる。このように制御することにより、発熱量が急激に大きくなるのを回避でき、発熱量が大きい場合の熱交換を、吸蔵速度が速い場合など発熱量が大きい場合に合わせた熱交換能力に上げることなく賄うことができる。また、水素吸蔵合金を損なうことがなく、水素吸蔵効率も保てる。
なお、本実施形態では、水素の圧力制御を行なうため、図1中のフローメータM1は必ずしも設けられている必要はない。
【0054】
このように、発熱量Qが100kJ/secを超えないように、供給される水素の圧力を減ずるように制御する。このときの制御としては、「発熱量Qが100kJ/secを超えない所定値以下(例えば30kJ/sec以下)であるか否か」を判定するようにすることができる。
例えば、単一のみならず複数の高圧タンクを備えている場合などにおいて、高圧タンクごとに「発熱量Qが所定値として例えば30kJ/sec以下であるか否か」を判定し、発熱量Qが所定値を越えていると判定されたときに水素の圧力を減ずるように制御することができる。好ましくは、高圧タンク1本あたり30kJ/sec以下であってもよい。
【0055】
逆に、ステップ200において、発熱量Qが100kJ/sec以下であると判定されたときには、水素吸蔵合金の発熱量は比較的小さく、熱交換による冷却性能を保つことができるので、ステップ240において調整バルブV1を全開しまたは段階的に所定の開度に更に開く。
【0056】
ステップ260では、水素貯蔵タンク10への水素の供給が終了したか否かが判定され、水素の供給が終了していないと判定されたときには、水素貯蔵タンク10の水素吸蔵合金12への水素吸蔵(充填)が完了しておらず、水素供給の継続中に水素吸蔵合金の発熱量が大きくなる(すなわち発熱量Q>100kJ/secとなる)おそれがあるので、そのままステップ100に戻って同様の制御が繰り返される。
【0057】
なお、ステップ260において、水素の供給が終了したと判定されたときには、水素吸蔵合金への水素吸蔵(充填)が完了し、発熱量が大きくなるおそれがないので、水素貯蔵タンク10への水素の供給が停止され、そのまま本ルーチンを終了する。
【0058】
上記のように、水素吸蔵合金の単位時間当たりの発熱が所定量(100kJ/sec)を超える場合に、水素貯蔵タンクに供給される水素の圧力が抑えられるように制御することにより、熱交換器などの熱交換能力を上げる必要がなく、体格や重量を小さく抑えたシステム構成に構築することが可能である。
【0059】
(第2実施形態)
本発明の水素貯蔵装置の第2実施形態を説明する。本実施形態の水素貯蔵装置は、水素吸蔵合金(MH)の発熱量に応じて、水素吸蔵タンクに供給される水素の流量を水素供給管に取り付けられた調整バルブにより制御し、水素吸蔵合金自体の発熱量が100kJ/secを超えないように水素流量を抑える構成としたものである。
【0060】
なお、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0061】
本実施形態の水素貯蔵装置では、図2に示すように、ステップ200において、ステップ180で得た発熱量Qが100kJ/sec以下であるか否かが判定され、発熱量Qが100kJ/secを越えていると判定されたときには、水素吸蔵合金の発熱量が多く、熱交換による冷却が追いつかないおそれがあり、その結果として水素吸蔵合金の劣化や水素吸蔵効率の低下を招くおそれがあるので、次のステップ220において、フローメータM1で水素流量を検出しながら「調整バルブV1の開度を絞り」、水素貯蔵タンク10に供給される水素量を減ずる。
【0062】
このように制御することにより、第1実施形態と同様に、急激な発熱量の増加を回避でき、発熱量が大きい場合の熱交換を、吸蔵速度が速い場合など発熱量が大きい場合に合わせた熱交換能力に上げることなく、賄うことができる。また、急激な温度上昇に伴なう水素吸蔵合金の劣化を回避でき、水素吸蔵効率も保てる。
【0063】
逆に、ステップ200において、発熱量Qが100kJ/sec以下であると判定されたときには、水素吸蔵合金の発熱量は比較的小さく、熱交換による冷却性能を保つことができるので、ステップ240において「調整バルブV1を全開しまたは段階的に所定の開度に開」く。
【0064】
なお、本実施形態では、水素流量を制御するため、図1中の水素圧センサS1は必ずしも設けられている必要はない。
【0065】
(第3実施形態)
本発明の水素貯蔵装置の第3実施形態を説明する。本実施形態の水素貯蔵装置は、水素吸蔵合金(MH)の発熱量に応じて、水素吸蔵タンク内に配された冷却水管内を流通する冷却水(冷媒)の流量を冷却水管に取り付けられたポンプP1により、水素吸蔵合金自体の発熱量が100kJ/secを超えないように制御する構成としたものである。
【0066】
なお、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0067】
本実施形態の水素貯蔵装置では、第1実施形態と同様に、図2のステップ200において、ステップ180で得た発熱量Qが100kJ/sec以下であるか否かが判定され、発熱量Qが100kJ/secを越えていると判定されたときには、水素吸蔵合金の発熱量が多く、熱交換による冷却が追いつかないおそれがあり、その結果として水素吸蔵合金の劣化や水素吸蔵効率の低下を招くおそれがあるので、次のステップ220において、供給配管22に取り付けられた「ポンプP1の駆動(出力)を高め」て冷却水の流量を増し、水素吸蔵合金との熱交換効率を向上させる。
【0068】
このように制御することにより、第1実施形態と同様に、急激な発熱量の増加を回避でき、発熱量が大きい場合の熱交換を、吸蔵速度が速い場合など発熱量が大きい場合に合わせた熱交換能力にまでスペックを上げることなく、賄うことができる。また、急激な温度上昇に伴なう水素吸蔵合金の劣化を回避でき、水素吸蔵効率も保てる。
【0069】
逆に、ステップ200において、発熱量Qが100kJ/sec以下であると判定されたときには、水素吸蔵合金の発熱量は比較的小さく、熱交換による冷却性能を保つことができるので、ステップ240において「ポンプP1の駆動を初期の出力値に戻し、あるいはより小さい出力に減」ずる。
【0070】
なお、本実施形態では、冷却水の流量を制御するため、図1中の水素圧センサS1およびフローメータM1は必ずしも設ける必要はない。
【0071】
上記の実施形態では、水素吸蔵合金からの発熱量が100kJ/sec以下になるように、水素貯蔵タンクに供給される水素の供給圧力、供給流量、または冷却水の流量をそれぞれ単独で調節して制御する場合を説明したが、供給圧力、供給流量および冷却水の流量の2つ以上を組み合わせて調節することにより制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水素貯蔵装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態において調整バルブを調節して供給水素の圧力を制御する水素供給制御ルーチンを示す流れ図である。
【符号の説明】
【0073】
10…水素貯蔵タンク
12…水素吸蔵合金
100…制御装置
V1…調整バルブ
S2…温度センサ
S3…圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金が収容され、水素の貯蔵が可能な水素貯蔵タンクと、
前記水素貯蔵タンクに水素貯蔵する際の水素の供給を、前記水素吸蔵合金からの発熱量が100kJ/secを越えない所定値以下になるように制御する水素供給制御手段と、
を備えた水素貯蔵装置。
【請求項2】
前記水素供給制御手段は、水素の供給を、前記水素貯蔵タンクに供給される水素の供給圧力を調節して制御することを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵装置。
【請求項3】
前記水素供給制御手段は、水素の供給を、前記水素貯蔵タンクに供給される水素の供給流量を調節して制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素貯蔵装置。
【請求項4】
冷媒を流通し、前記水素吸蔵合金と熱交換可能な冷却手段を更に備え、
前記水素供給制御手段は、水素の供給を、前記冷媒の流量を調節して制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素貯蔵装置。
【請求項5】
前記水素貯蔵タンク内の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段により検出された温度に基づく上昇温度ΔTから前記水素貯蔵タンクへの水素供給に伴なう圧力差により生じた上昇温度Δtを減じた値から算出される熱量Qが100kJ/secを越えない所定値以下であるか否かを判定する判定手段とを更に備え、
前記水素供給制御手段は、前記発熱量として前記熱量Qが前記所定値を越えていると判定されたときに、水素の供給を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−45650(P2008−45650A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221128(P2006−221128)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】