説明

水蒸気バリアーフィルム、水蒸気バリアーフィルムの製造方法及び電子機器

【課題】高い水蒸気バリアー性能を有するとともに、耐水性、耐熱性及び透明性及び平滑性に優れた水蒸気バリアーフィルムとその製造方法及びその水蒸気バリアーフィルムを用いた電子機器を実現する。
【解決手段】基材1上に水蒸気バリアー層2と保護層3が積層された水蒸気バリアーフィルム10(11)を製造するにあたり、ポリシラザンを含有した第1の塗布液を基材1上に塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して水蒸気バリアー層2を形成する工程と、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が40以下の第一溶媒と、蒸発速度が100以上の第二溶媒を含み、且つポリシロキサンを含有した第2の塗布液を水蒸気バリアー層2上に塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して保護層3を形成する工程とを経るようにして、水蒸気バリアーフィルム10(11)を作製するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気バリアーフィルム、水蒸気バリアーフィルムの製造方法及び水蒸気バリアーフィルムを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック基板やフィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物を含む薄膜(ガスバリアー層)を形成したガスバリアーフィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスによる変質を防止するため、各種ガスの遮断を必要とする物品を包装する用途で用いられている。また、上記包装用途以外にも、各種ガスによる変質を防止するために、太陽電池、液晶表示素子、有機EL素子等の電子デバイスを封止する用途にも使用されている。ガスバリアーフィルムは、ガラス基材と比べてフレキシブル性に優れており、ロール式での生産適性や、電子デバイスの軽量化および取り扱い性の点において優位である。
【0003】
このようなガスバリアーフィルムを製造する方法としては、主に、プラズマCVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法、化学蒸着法)によってフィルムなどの基材上にガスバリアー層を形成する方法や、ポリシラザンを主成分とする塗布液を基材上に塗布した後に表面処理を施してガスバリアー層を形成する方法、あるいはそれらを併用する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの製造方法で形成されたガスバリアー層には、基材表面の突起やガスバリアー層中への異物の混入により生じた微細孔などの欠陥、ガスバリアー層の膨張・収縮により生じた微小なひび割れなどの欠陥、取り扱い時の折り曲げや接触などに起因した傷などの欠陥等が発生してしまうことがある。このような欠陥箇所が生じたガスバリアー層では、その欠陥箇所を通じて水蒸気等のガスが透過してしまい完全に遮断できていない。
【0005】
一方、液晶表示装置(LCDパネル)においては、軽量/割れない/フレキシブルといった理由から、ガラス基材から樹脂基材へ置き換えることが求められている。但し、バリアー性/透明性/膜厚ムラ低減(平滑性)の観点から全てを満足する樹脂基材が無いのが現状である。
【0006】
また、LCDパネルに用いられる樹脂基材(バリアーフィルム)は、LCD製造工程を経るため、そのLCD製造工程を経た後でもバリアー性が維持されなければならない。また、LCDパネルが使われる環境においても、バリアー性が維持されなければならない。LCD製造工程において、バリアー性に影響を与える工程としては、純水やアルカリ水などによる洗浄工程や、TCF(パターン電極)作成時の200℃程度の加熱工程などがある。また、LCDパネルは、高温高湿の環境で使用されることがある。これら洗浄水浸漬処理、高温加熱処理、高温高湿環境に晒されても、樹脂基材(バリアーフィルム)のバリアー性が維持されること、つまり、耐水性/耐熱性を有することや、その他、基材変形を起こさないといった性能を具備することが求められている。
【0007】
このようなバリアー層・バリアーフィルムの課題に対して、水蒸気の透過を抑制する様々な改良技術が開示されている。
例えば、特許文献1に記載の発明では、高い水蒸気バリアー性を奏するためにガスバリアー層の他に捕水層を設ける技術について開示されている。
また、特許文献2に記載の発明では、2層の無機ガスバリアー層を有する水蒸気バリアーフィルムにおいて、2層の無機ガスバリアー層の間に少なくとも1層のアルカリ土類金属一酸化物からなる吸湿性層を形成することで、水蒸気バリアー性能を高める技術について開示されている。
また、特許文献3に記載の発明では、透明基板上に少なくとも1層の金属窒化物膜が形成されてなる透明積層体において、その金属窒化物膜が、少なくとも酸素分子及び/又は水分子が存在する雰囲気中において酸化されうるものにした技術について開示されている。
また、特許文献4に記載の発明では、防湿性フィルムに吸湿性フィルムを挟み込むことで水蒸気バリアー性を向上させる技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−90633号公報
【特許文献2】特開2006−82241号公報
【特許文献3】特開2009−29070号公報
【特許文献4】特開平7−153571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献の技術によるバリアーフィルムでは、洗浄水浸漬処理、高温加熱処理、高温高湿環境に晒されることによって、バリアー性能が低下する恐れがあることが判った。また、バリアー性の悪化以外にもバリアーフィルムの変形や変色が生じることが判った。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高い水蒸気バリアー性能を有するとともに、耐水性、耐熱性及び透明性及び平滑性に優れた水蒸気バリアーフィルムとその製造方法及びその水蒸気バリアーフィルムを用いた電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
基材上に、水蒸気バリアー層と、前記水蒸気バリアー層上に積層された保護層とを備えた水蒸気バリアーフィルムであって、
前記水蒸気バリアー層は、ポリシラザンを含有した第1の塗布液を塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して形成された層であり、
前記保護層は、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が40以下の第一溶媒と、蒸発速度が100以上の第二溶媒を含み、且つポリシロキサンを含有した第2の塗布液を塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して形成された層であることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水蒸気バリアーフィルムにおいて、
前記第一溶媒の蒸発速度は20以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の水蒸気バリアーフィルムにおいて、
前記第一溶媒は、全溶媒中20%以下の割合であることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の水蒸気バリアーフィルムにおいて、
前記水蒸気バリアー層は、50nm以上1μm以下の膜厚を有し、前記保護層は、100nm以上10μm以下の膜厚を有することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の水蒸気バリアーフィルムにおいて、
前記水蒸気バリアー層の形成時に照射される真空紫外光の積算光量は、1000mJ/cm以上10000mJ/cm以下であり、前記保護層の形成時に照射される真空紫外光の積算光量は、500mJ/cm以上10000mJ/cm以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れか一項に記載の水蒸気バリアーフィルムにおいて、
前記基材は、その線膨張係数が50ppm/℃以下であり、且つ全光線透過率が90%以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、
基材上に水蒸気バリアー層と保護層が積層された水蒸気バリアーフィルムの製造方法であって、
ポリシラザンを含有した第1の塗布液を前記基材上に塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して前記水蒸気バリアー層を形成する工程と、
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が40以下の第一溶媒と、蒸発速度が100以上の第二溶媒を含み、且つポリシロキサンを含有した第2の塗布液を前記水蒸気バリアー層上に塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して前記保護層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の発明は、電子機器であって、
請求項1〜6の何れか一項に記載の水蒸気バリアーフィルムまたは請求項7に記載の水蒸気バリアーフィルムの製造方法によって得られた水蒸気バリアーフィルムと、前記水蒸気バリアーフィルムによって封止された電子デバイスを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い水蒸気バリアー性能を有するとともに、耐水性、耐熱性及び透明性及び平滑性に優れた水蒸気バリアーフィルムとその製造方法及びその水蒸気バリアーフィルムを用いた電子機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る水蒸気バリアーフィルムの一例を示す説明図である。
【図2】本発明に係る水蒸気バリアーフィルムの一例を示す説明図である。
【図3】水蒸気バリアーフィルムを用いて有機EL素子を封止した有機ELパネルの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0022】
本発明に係る水蒸気バリアーフィルム(10、11)は、樹脂フィルムなどのガス透過性を有する基材1上に、少なくとも1層の水蒸気バリアー層2と、その水蒸気バリアー層2を覆うように積層された少なくとも1層の保護層3とを備えている。
水蒸気バリアー層2は、ポリシラザンを含有した第1の塗布液を塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して形成した層である。
保護層3は、ポリシロキサンを含有した第2の塗布液を塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して形成した層である。特に、ポリシロキサンを含有した第2の塗布液は、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が40以下の第一溶媒と、蒸発速度が100以上の第二溶媒を含むことで、その第2の塗布液の乾燥速度が調整されている。第2の塗布液の乾燥速度が、ポリシロキサン膜が良好に成膜する固化速度に対応して適切に調整されることによって、好適な保護層3を形成することが可能になっている。
【0023】
また、基材1の平滑性や基材1に対する水蒸気バリアー層2の密着性を向上させるための中間層として、平滑層4やアンカーコート層を基材表面に設けてもよい。
また、基材1に傷や汚れが付くことを防止するため耐傷層や、基材1が加熱された際に内部から表面へモノマー、オリゴマー等の低分子量成分が析出する、いわゆるブリードアウトを抑制する目的でのブリードアウト防止層5を基材表面に設けてもよい。
【0024】
具体的に、本発明に係る水蒸気バリアーフィルム10は、例えば、図1に示すように、基材1と、その基材1の一方の面上に順に積層された、水蒸気バリアー層2と保護層3を備えている。
また、本発明に係る水蒸気バリアーフィルム11は、例えば、図2に示すように、基材1と、その基材1の一方の面に形成された平滑層4と、平滑層4上に積層された水蒸気バリアー層2と保護層3を備え、さらに基材1の他方の面にブリードアウト防止層5を備えている。
【0025】
以下、本発明の水蒸気バリアーフィルム10、11の構成について詳細に説明する。
【0026】
(基材)
本発明の水蒸気バリアーフィルムを構成するガス透過性を有する基材は、可撓性を有する折り曲げ可能なフィルム基材であることが好ましい。この基材は、水蒸気バリアー層や保護層を保持することができるフィルム状の基材であれば、特に限定されるものではない。
ここで、本発明でいうガス透過性を有する基材とは、モコン法に従いMOCON社製PERMATRAN−W3/33を用いて、JIS規格のK7129法(温度40℃、湿度90%RH)に基づいて測定した水蒸気透過率が、0.5g/m/日以上であるものと定義する。
【0027】
水蒸気バリアーフィルムの基材に適用可能な樹脂基材としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ナイロン(Ny)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の樹脂材料からなる樹脂フィルム、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルム(製品名シルプラス、新日鐵化学株式会社製)、さらには上記した樹脂フィルムを2層以上積層して構成される積層樹脂フィルム等を用いることができる。
これら樹脂フィルムのうち、コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等のフィルムが好ましく用いられる。
また、デバイスを封止する加工工程で高温処理が必要な場合には、耐熱性と透明性を両立した透明ポリイミドのフィルム、例えば、東洋紡株式会社製の透明ポリイミド系フィルム タイプHMや、三菱瓦斯化学株式会社製の透明ポリイミド系フィルム ネオプリムL L−3430などを好ましく用いることができる。
【0028】
本発明に用いる基材の厚さは5〜500μm程度が好ましく、さらに好ましくは25〜250μmである。
【0029】
また、上記の樹脂材料を用いた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。
また、上記の樹脂材料からなる基材は、従来公知の一般的な製法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸等の公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍であることが好ましい。
【0030】
また、本発明に用いる基材は、その線膨張係数が50ppm/℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは1ppm/℃以上50ppm/℃以下である。
線膨張係数が50ppm/℃以下の基材を適用することで、液晶表示装置(LCDパネル)に本発明の水蒸気バリアーフィルムを使用した場合、環境温度変化等に対する色ズレの発生を抑制することができる。
本発明で規定する線膨張係数は、例えば、下記の方法に従って求めることができる。
セイコーインスツル社製のEXSTAR TMA/SS6000型熱応力歪測定装置を用いて、測定する基材を、窒素雰囲気下、1分間に5℃の割合で温度を30℃から50℃まで上昇させた後、一旦ホールドし、再び1分間に5℃の割合で温度を上昇させて30〜150℃の時の値を測定して、線膨張係数を求める。荷重を5gにして引張モードで測定を行う。
【0031】
また、本発明に用いる基材は、全光線透過率が90%以上であることが好ましい。全光線透過率が90%以上の基材を適用することで、液晶表示装置(LCDパネル)に本発明の水蒸気バリアーフィルムを使用した場合、高い輝度を得ることができる。
本発明でいう全光線透過率は、分光光度計(可視紫外線分光光度計 UV−2500PC 島津製作所)を用いて、ASTM D−1003規格に従って可視光線の入射光量に対する全透過光量を測定し、可視光域における平均透過率を全光線透過率とした。
【0032】
(水蒸気バリアー層)
本発明において、基材上あるいは基材上に形成した中間層(例えば平滑層)上に、水蒸気バリアー層を形成する方法として、ポリシラザン改質層を形成する方法を適用することができる。この方法は、ポリシラザンを含有した第1の塗布液を湿式塗布法により基材上あるいは基材上の中間層上に塗布して乾燥した後、その乾燥した塗膜に真空紫外光を照射することによってポリシラザン改質層とした水蒸気バリアー層を形成する方法である。
【0033】
水蒸気バリアー層に用いる「ポリシラザン」とは、珪素−窒素結合を有するポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等の結合を有するSiO、Si及び両方の中間固溶体SiO等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
そのポリシラザンを含む第1の塗布液を、基材などの上に塗布する方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0034】
水蒸気バリアー層の塗布厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、水蒸気バリアー層の塗布厚さは、乾燥後の膜厚が10nm〜10μm程度であることが好ましく、さらに好ましくは50nm以上1μm以下である。水蒸気バリアー層の膜厚が50nm以上であれば十分なバリアー性を得ることができる。また、膜厚が1μm以下であれば高い光線透過性を実現でき、かつ水蒸気バリアー層の形成に際して安定した塗布を行うことができる。
【0035】
また、水蒸気バリアー層は、加熱温度が50℃以上200℃以下の加熱工程を経て形成されることが好ましい。加熱温度が50℃以上であれば十分なバリアー性を得ることができ、200℃以下であれば基材が変形することなく平滑性の高い水蒸気バリアー層を形成することができる。この加熱工程には、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用する加熱方法を適用することができる。また、その加熱雰囲気としては、大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下など、いずれの条件でもよい。
【0036】
また、ポリシラザンとしては、基材の性状を損なわないように塗布するために、比較的低温でセラミック化してシリカに変性する化合物が好ましく、例えば、特開平8−112879号公報に記載の下記一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有する化合物が好ましい。
【0037】
【化1】

【0038】
上記一般式(1)において、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。
本発明では、得られる水蒸気バリアー層としての緻密性の観点から、R、R及びRの全てが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
また、そのSiと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより下地である基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より膜厚(平均膜厚)を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。そこで用途に応じて適宜、パーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
【0039】
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と、6及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体または固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。これらは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。
【0040】
低温でセラミック化するポリシラザンの他の例としては、上記一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有するポリシラザンに、珪素アルコキシドを反応させて得られる珪素アルコキシド付加ポリシラザン(例えば、特開平5−238827号公報参照)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−122852号公報参照)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−240208号公報参照)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(例えば、特開平6−299118号公報参照)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(例えば、特開平6−306329号公報参照)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(例えば、特開平7−196986号公報参照)等が挙げられる。
【0041】
ポリシラザンを含有する第1の塗布液を調製する有機溶媒としては、ポリシラザンと容易に反応するような特性を有するアルコール系や水分を含有するものを用いることは好ましくない。従って、具体的には、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒や、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。詳しくは、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等がある。これらの有機溶媒は、ポリシラザンの溶解度や有機溶媒の蒸発速度等の特性にあわせて選択し、複数の有機溶媒を混合してもよい。
【0042】
ポリシラザン含有の第1の塗布液中におけるポリシラザン濃度は、目的とするポリシラザン塗膜の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35質量%程度であることが好ましい。
【0043】
ポリシラザン含有の第1の塗布液中には、酸化珪素化合物への転化を促進するため、アミンや金属の触媒を添加することもできる。具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製のアクアミカ NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
【0044】
本発明に用いるポリシラザン含有の第1の塗布液により形成された水蒸気バリアー層は、真空紫外光照射による改質処理前または改質処理中に含まれる水分の量が制御されていることが好ましい。
真空紫外光照射による改質処理前または改質処理中にポリシラザン層(ポリシラザン膜)中に入りうる水分の供給源としては、例えば、基材表面からの移行、あるいは雰囲気中の水蒸気の吸収がある。基材側からポリシラザン層中に移行する水分の制御は、ポリシラザン含有の塗布液を塗布する前に基材を一定の温度湿度環境下で保存して、含水量を所望の値に制御することができる。所望の値は、後述の雰囲気中の湿度によって異なるが、通常、質量として1000ppm以下、好ましくは、300ppm以下である。
【0045】
ポリシラザン含有の第1の塗布液を基材などの上に塗布し、乾燥する工程においては、主に有機溶媒を取り除くため、乾燥条件を熱処理等の方法で適宜決めることができ、熱処理温度は迅速処理の観点から高い温度であることが好ましいが、樹脂フィルムである基材に対する熱ダメージを考慮し、温度と処理時間を適宜決定することが好ましい。例えば、基材として、ガラス転位温度(Tg)が70℃のポリエチレンテレフタレート基材を用いる場合には、熱処理温度は150℃以下を設定することができる。処理時間は溶媒が除去され、かつ基材への熱ダメージが少なくなるように短時間に設定することが好ましく、熱処理温度が150℃以下であれば30分以内に設定することができる。
【0046】
ポリシラザン含有の水蒸気バリアー層形成用塗布液(第1の塗布液)を基材上に塗布、乾燥する工程における雰囲気は、比較的低湿に制御されていることが好ましいが、低湿度環境における湿度は温度により変化するので、温度と湿度の関係は露点温度の規定により好ましい形態が示される。好ましい露点温度は4℃以下(温度25℃/湿度25%)で、より好ましい露点温度は−8℃(温度25℃/湿度10%)以下、さらに好ましい露点温度は−31℃(温度25℃/湿度1%)以下である。また、水分を取り除きやすくするため、減圧乾燥してもよい。減圧乾燥における圧力は常圧〜0.1MPaを選ぶことができる。
【0047】
本発明におけるポリシラザンの改質処理とは、ポリシラザン化合物の一部または全部が、酸化珪素または酸化窒化珪素への転化する反応をいう。
この改質処理は、ポリシラザンの転化反応に基づく公知の方法を選ぶことができる。ポリシラザン化合物の置換反応による酸化珪素膜または酸化窒化珪素膜の形成には450℃以上の高温が必要であり、樹脂フィルムを基材に用いたフレキシブル基板においては、適応が難しい。従って、本発明の水蒸気バリアーフィルムを作製するに際しては、プラスチック基板への適用という観点から、より低温で転化反応が可能な、真空紫外光を照射して改質する方法を適用する。
【0048】
本発明における水蒸気バリアーフィルムの製造方法において、乾燥し水分が取り除かれたポリシラザン塗膜は、真空紫外光の照射による処理で改質する。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸化珪素膜または酸化窒化珪素膜を形成することが可能である。
【0049】
この真空紫外光照射により、セラミックス化に寄与するOとHOや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化される。そして、励起したポリシラザンのセラミックス化が促進され、得られるセラミックス膜が緻密になる。紫外光照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
【0050】
本発明での真空紫外光照射処理には、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することが可能である。なお、本発明でいう真空紫外光とは、10〜200nmの波長を有する電磁波を含む紫外光をいう。
【0051】
真空紫外光の照射は、照射される改質前のポリシラザン層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
基材にプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm、好ましくは50〜200mW/cmになるように基材−真空紫外線照射ランプ間の距離を設定し、0.1秒〜10分間の照射を行うことができる。
【0052】
特に、本発明においては、ポリシラザン層を改質して水蒸気バリアー層を形成する際の真空紫外光の積算光量としては、1000mJ/cm以上、10,000mJ/cm以下であることが好ましい。真空紫外光の積算光量が1000mJ/cm以上であれば十分なバリアー性を得ることができ、10,000mJ/cm以下であれば基材が変形することなく平滑性の高い水蒸気バリアー層を形成することができる。
【0053】
一般に、紫外線照射時の基材温度が150℃以上になると、基材がプラスチックフィルム等の場合には、基材が変形したりその強度が劣化したりするなど、基材の特性が損なわれることになる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いフィルムなどの場合には、より高温での改質処理が可能である。従って、この紫外線照射時の基材温度としては、一般的な上限はなく、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
【0054】
このような真空紫外線の発生手段としては、例えば、エキシマランプ等が挙げられる。また、発生させた紫外線を改質前のポリシラザン層に照射する際には、照射効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてから改質前のポリシラザン層に当てることもできる。
【0055】
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。ポリシラザン層を有する基材が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基材やポリシラザン層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは0.5秒〜3分である。
【0056】
また、真空紫外光(VUV)を照射する際の、酸素濃度は300ppm〜10000ppm(1%)とすることが好ましく、更に好ましくは、500ppm〜5000ppmである。このような酸素濃度の範囲に調整することにより、酸素過多の水蒸気バリアー層の生成を防止してバリアー性の劣化を防止することができる。
真空紫外光(VUV)照射時にこれら酸素以外のガスとしては乾燥不活性ガスを用いることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。
酸素濃度の調整は、照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
【0057】
本発明においては、前述の通り、改質前のポリシラザン層の改質処理方法は、真空紫外光照射による処理である。真空紫外光照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光のエネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温で酸化珪素膜の形成を行う方法である。これに必要な真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。
なお、Xe、Kr、Ar、Ne等の希ガスの原子は化学的に結合して分子を形成しないため、不活性ガスと呼ばれる。しかし、放電等によりエネルギーを得た希ガスの原子(励起原子)は、他の原子と結合して分子を形成することができる。例えば、希ガスがキセノンの場合には、
e+Xe→e+Xe
Xe+Xe+Xe→Xe+Xe
となり、励起されたエキシマ分子であるXeが基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光(真空紫外光)を発光する。
【0058】
エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動・再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
【0059】
エキシマ発光を得るには、誘電体バリアー放電を用いる方法が知られている。誘電体バリアー放電とは、両電極間に誘電体(エキシマランプの場合は透明石英)を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じる雷に似た非常に細いmicro dischargeと呼ばれる放電である。
【0060】
また、効率よくエキシマ発光を得る方法としては、誘電体バリアー放電以外には無電極電界放電も知られている。無電極電界放電とは、容量性結合による放電であり、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極及びその配置は、基本的には誘電体バリアー放電と同じでよいが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的にまた時間的に一様な放電が得られる。
【0061】
そして、Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。また、有機物の結合を解離させる波長の短い172nmの光のエネルギーは能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン膜の改質を実現できる。従って、波長185nm、254nmの紫外線を発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて、高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板、樹脂フィルム等への照射を可能としている。
【0062】
また、エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で単一波長のエネルギーを照射するため、照射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を有する。このため、熱の影響を受けやすいとされるポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムを基材とする水蒸気バリアーフィルムへの照射に適している。
【0063】
(保護層)
本発明において、水蒸気バリアー層上に保護層を形成する方法として、ポリシロキサン改質層を形成する方法を適用することができる。この方法は、ポリシロキサンを含有した第2の塗布液を湿式塗布法により水蒸気バリアー層上に塗布して乾燥した後、その乾燥した塗膜に真空紫外光を照射することによってポリシロキサン改質層とした保護層を形成する方法である。
本発明における保護層を形成するために用いる第2の塗布液は、主には、ポリシロキサン及び有機溶媒を含有する。
【0064】
保護層の形成に適用可能なポリシロキサンとしては、特に制限はないが、下記一般式(2)で表されるオルガノポリシロキサンが、特に好ましい。
本実施形態ではポリシロキサンとして、一般式(2)で表されるオルガノポリシロキサンを例に説明する。
【0065】
【化2】

【0066】
上記一般式(2)において、R〜Rは、各々同一又は異なる炭素数1〜8の有機基を表す。R〜Rは、アルコキシ基及び水酸基のいずれかを含む。mは1以上である。
〜Rで表される炭素数1〜8の有機基としては、例えば、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基、ビニル基、フェニル基、γ−メタクリルオキシプロピル基等の(メタ)アクリル酸エステル基、γ−グリシドキシプロピル基等のエポキシ含有アルキル基、γ−メルカプトプロピル基等のメルカプト含有アルキル基、γ−アミノプロピル基等のアミノアルキル基、γ−イソシアネートプロピル基等のイソシアネート含有アルキル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の脂環状アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、カプロイル基等のアシル基等が挙げられる。
更に本発明では、上記一般式(2)において、mが1以上で、かつ、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜20,000であるオルガノポリシロキサンが特に好ましい。該オルガノポリシロキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量が、1000以上であれば、形成する保護層に亀裂が生じ難く、水蒸気バリアー性を維持することができ、20,000以下であれば、形成される保護層の硬化が充分となり、そのため得られる保護層として十分な硬度が得られる。
【0067】
また、保護層の形成に適用可能な有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、非プロトン系溶媒等が挙げられる。
【0068】
ここで、アルコール系溶媒としては、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、iso−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、tert−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどが好ましい。
【0069】
ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−iso−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−iso−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノン、フェンチョンなどのほか、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2,4−オクタンジオン、3,5−オクタンジオン、2,4−ノナンジオン、3,5−ノナンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ヘプタンジオンなどのβ−ジケトン類などが挙げられる。これらのケトン系溶媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0070】
アミド系溶媒としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルモルホリン、N−アセチルピペリジン、N−アセチルピロリジンなどが挙げられる。これらアミド系溶媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0071】
エステル系溶媒としては、ジエチルカーボネート、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸iso−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸iso−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルなどが挙げられる。これらエステル系溶媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0072】
非プロトン系溶媒としては、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N,N′,N′−テトラエチルスルファミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチルモルホロン、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、N−メチルイミダゾール、N−メチル−4−ピペリドン、N−メチル−2−ピペリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルテトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノンなどを挙げることができる。以上の有機溶媒は、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0073】
本発明において、保護層の形成に用いる有機溶媒としては、上記の有機溶媒のなかではアルコール系溶媒が好ましい。
特に、本実施形態において、保護層の形成に用いる有機溶媒は、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が40以下の第一溶媒と、蒸発速度が100以上の第二溶媒を含んでいる。なお、第一溶媒の蒸発速度は20以下であることが好ましい。
そして、第一溶媒と第二溶媒を混合した全溶媒中、第一溶媒は20%以下の割合に調整されており、その溶媒の蒸発速度であって、第2の塗布液の乾燥速度が、ポリシロキサン膜が良好に成膜する固化速度に対応して適切に調整されている。
【0074】
具体的に、保護層の形成に用いる有機溶媒は、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が100以下の溶媒を含み、蒸発速度が1000以下100以上の溶媒と0.01以上40以下の溶媒を併用することが好ましい。蒸発速度が1000より速い(高い)と保護層の膜厚ムラが生じることがある。蒸発速度が0.01より遅い(低い)とバリアー性が悪化することがある。
更に好ましくは、第一溶媒の蒸発速度は20以下であり、その蒸発速度が10以下0.1以上であれば、なお好ましい。
【0075】
ここで、溶媒の蒸発速度は、以下のようにして求めることができる。
例えば、窒素ガスを供給可能にしたフード付き化学天秤2台を用い、両者の天秤皿に濾紙No.5C(9cmφ)を入れた10cmφのシャーレをのせ、一方に酢酸−n−ブチル、他方に試料をそれぞれ0.7mLずつとる。窒素ガスを30NL/mLの流速で各シャーレに向けて同時に供給して、酢酸−n−ブチル及び試料のそれぞれの重量変化を30秒経過毎に同時に測定する。そして、60秒、90秒、120秒においての酢酸−n−ブチルの減少重量に対する試料の減少重量の百分率をそれぞれ求め、これらの平均値として蒸発速度を求めることができる。
なお、各有機溶媒の蒸発速度は、「最新コーティング技術」(1983年(株)総合技術センター発行)17〜19ページの表5等に記載されており、上記した方法で蒸発速度を求めるのではなく、本発明ではこのような公知の値を採用してもよい。蒸発速度は、23℃、相対湿度50%、大気圧下で測定した値である。
【0076】
蒸発速度が40以下の溶媒としては、例えば、ベンジルアルコール等のアルキルアルコール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコール2エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールアルキルエーテル、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等が挙げられ、これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
また、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブタノール、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ―ブチロラクトン、α―テルピネオール、イソホロン、p−シメン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アニソールなどが挙げられる。
また、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、3−メトキシブタノール、プロピオン酸n−ペンチル、酢酸オキソヘキシル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、イソホロン、3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−オン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、1,3−ブチレングリコールジアセテート、3−メトキシブタノール、シクロヘキサノールアセテートなどを挙げることができる。
【0077】
蒸発速度が100以上の溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を挙げることができる。
【0078】
保護層形成用の第2の塗布液の塗布方法としては、スピンコート、ディッピング、ローラーブレード、スプレー法などが挙げられる。
【0079】
保護層形成用の第2の塗布液により形成する保護層の厚さとしては、100nm〜10μmの範囲が好ましい。保護層の膜厚が100nm以上であれば、高湿下でのバリアー性を確保することができる。また、保護層の膜厚が10μm以下であれば、保護層形成時に安定した塗布性を得ることができ、かつ高い光線透過性を実現できる。
また、保護層は、その膜密度が通常0.35〜1.2g/cmであり、好ましくは0.4〜1.1g/cm、さらに好ましくは0.5〜1.0g/cmである。膜密度が0.35g/cm以上であれば、十分な塗膜の機械的強度を得ることができる。
【0080】
本発明における保護層は、ポリシロキサンを含む第2の塗布液を、湿式塗布法により水蒸気バリアー層上に塗布して乾燥した後、その乾燥した塗膜に真空紫外光を照射することによって形成する。
この保護層の形成に用いる真空紫外光としては、前述の水蒸気バリアー層の形成で説明したものと同様の真空紫外光照射処理による真空紫外光を適用することができる。
また、本発明においては、ポリシロキサン膜を改質して保護層を形成する際の真空紫外光の積算光量としては、500mJ/cm以上、10,000mJ/cm以下であることが好ましい。真空紫外光の積算光量が500mJ/cm以上であれば十分なバリアー性能を得ることができ、10,000mJ/cm以下であれば、基材に変形を与えることなく平滑性の高い保護層を形成することができる。
【0081】
また、本発明における保護層は、加熱温度が50℃以上、200℃以下の加熱工程を経て形成されることが好ましい。加熱温度が50℃以上であれば十分なバリアー性を得ることができ、200℃以下であれば、基材に変形を与えることなく平滑性の高い保護層を形成することができる。この加熱工程には、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用する加熱方法を適用することができる。また、その加熱雰囲気としては、大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下など、いずれの条件でもよい。
【0082】
(その他の構成層)
次いで、本発明の水蒸気バリアーフィルムに用いられる、水蒸気バリアー層及び保護層以外の構成層について説明する。
【0083】
(アンカーコート層)
本発明の水蒸気バリアーフィルムにおいては、必要に応じて中間層として、水蒸気バリアー層と基材との密着性を向上させ、かつ高い平滑性を得る観点から、基材上にアンカーコート層を形成してもよい。
このアンカーコート層の形成に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂及びアルキルチタネート等から選ばれる1種、あるいは2種以上併せて使用することができる。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。
上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により基材上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコート層を形成することができる。
このアンカーコート剤の塗布量としては、乾燥状態で0.1〜5g/m程度が好ましい。
【0084】
(平滑層)
また、本発明の水蒸気バリアーフィルムにおいては、基材上に中間層として平滑層を設けてもよい。平滑層は基材の一方の面上に形成される。
平滑層は、微小な突起等が存在する基材の粗面を平坦化し、基材表面の突起等によって基材上に成膜する水蒸気バリアー層などに、凹凸やピンホールが生じないようにするために設けられる。このような平滑層は、例えば、感光性樹脂を硬化させて形成される。
【0085】
この平滑層の形成に用いられる感光性樹脂としては、例えば、ラジカル反応性不飽和結合を有するアクリレート化合物を含有する樹脂組成物、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物を含有する樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを溶解させた樹脂組成物等が挙げられる。また、上記のような樹脂組成物の任意の混合物を使用することも可能であり、光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性モノマーを含有している感光性樹脂であれば特に制限はない。反応性モノマーは、1種または2種以上の混合物として、あるいは、その他の化合物との混合物として使用することができる。
【0086】
また、感光性樹脂の組成物は、光重合開始剤を含有する。光重合開始剤は、1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0087】
この平滑層を基材の表面に形成する方法は、特に制限はないが、例えば、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、ディップ法等のウェットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
【0088】
また、平滑層を形成する際には、必要に応じて、上記した感光性樹脂に酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を加えることができる。また、形成した平滑層への成膜性向上や、平滑層に成膜された膜のピンホール発生防止等のために適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。
【0089】
なお、感光性樹脂を溶媒に溶解または分散させた塗布液を用いて平滑層を形成する際に使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、α−もしくはβ−テルピネオール等のテルペン類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン等のケトン類、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−メトキシエチルアセテート、シクロヘキシルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等の酢酸エステル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、3−エトキシプロピオン酸エチル、安息香酸メチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0090】
また、平滑層の平滑性は、JIS B 0601で規定される表面粗さで表現される値で、最大断面高さRt(p)が、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。Rtが10nm以上であれば、その後に形成する水蒸気バリアー層塗布液を塗布する段階で、ワイヤーバー、ワイヤレスバー等の塗布方式で平滑層表面に塗工手段が接触する場合に、安定した塗布性が得られる。また、Rtが30nm以下であれば、その後に形成する水蒸気バリアー層塗布液を塗布した後の凹凸を平滑化することができる。
【0091】
また、平滑層を形成する際に加える添加剤としての好ましい態様のひとつは、感光性樹脂中に、表面に光重合反応性を有する感光性基が導入された反応性シリカ粒子(以下、単に反応性シリカ粒子ともいう)を含むものである。ここで、光重合性を有する感光性基としては、(メタ)アクリロイルオキシ基に代表される重合性不飽和基等を挙げることができる。また、感光性樹脂は、この反応性シリカ粒子の表面に導入された光重合反応性を有する感光性基と光重合反応可能な化合物、例えば、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物を含むものであってもよい。また感光性樹脂としては、このような反応性シリカ粒子や重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物に適宜汎用の希釈溶剤を混合することによって固形分を調整したものを用いることができる。
【0092】
ここで、反応性シリカ粒子の平均粒子径としては、0.001〜0.1μmの平均粒子径であることが好ましい。平均粒子径をこのような範囲にすることにより、後述する平均粒子径1〜10μmの無機粒子からなるマット剤と組合せて用いることによって、防眩性と解像性とをバランスよく満たす光学特性と、ハードコート性とを兼ね備えた平滑層を形成し易くなる。なお、このような効果をより得易くする観点からは、さらに平均粒子径が0.001〜0.01μmの反応性シリカ粒子を用いることがより好ましい。
【0093】
本発明において、平滑層中には、上述の様な無機粒子を質量比として20%以上、60%以下含有することが好ましい。20%以上添加することで、水蒸気バリアー層との密着性が向上する。一方60%以下であれば、フィルムを湾曲させることを抑制し、加熱処理を行った場合にクラックの発生を防止でき、水蒸気バリアーフィルムの透明性や屈折率等の光学的物性に影響を及ぼすことがない。
【0094】
なお、本発明では、重合性不飽和基修飾加水分解性シランが、加水分解性シリル基の加水分解反応によって、シリカ粒子との間に、シリルオキシ基を生成して化学的に結合しているようなものを、反応性シリカ粒子として用いることができる。加水分解性シリル基としては、例えば、アルコキシリル基、アセトキシリル基等のカルボキシリレートシリル基、クロシリル基等のハロゲン化シリル基、アミノシリル基、オキシムシリル基、ヒドリドシリル基等が挙げられる。重合性不飽和基としては、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、プロペニル基、ブタジエニル基、スチリル基、エチニイル基、シンナモイル基、マレート基、アクリルアミド基等が挙げられる。
【0095】
本発明において、平滑層の厚さとしては、1〜10μm、好ましくは2〜7μmであることが望ましい。平滑層の厚さを1μm以上にすることにより、平滑層を有する水蒸気バリアーフィルムとしての平滑性を十分なものにし易くなる。また、平滑層の厚さを10μm以下にすることにより、水蒸気バリアーフィルムの光学特性のバランスを調整し易くなると共に、平滑層を水蒸気バリアーフィルムの一方の面にのみ設けた場合におけるその水蒸気バリアーフィルムのカールを抑え易くすることができるようになる。
【0096】
(ブリードアウト防止層)
また、本発明の水蒸気バリアーフィルムにおいては、基材の裏面側表面に、ブリードアウト防止層を形成してもよい。
【0097】
ブリードアウト防止層は、平滑層を有するフィルムを加熱した際に、基材中から表面に未反応のオリゴマー等が移行して、フィルム表面を汚染する現象を抑制する目的で、平滑層を有する基材の反対面に設けられる。ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば、基本的に平滑層と同じ構成をとっても構わない。
【0098】
ブリードアウト防止層に含ませることが可能な重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物としては、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する多価不飽和有機化合物、あるいは分子中に1個の重合性不飽和基を有する単価不飽和有機化合物等を挙げることができる。
【0099】
その他の添加剤として、マット剤を含有してもよい。マット剤としては、平均粒子径が0.1〜5μm程度の無機粒子が好ましい。このような無機粒子としては、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等の1種または2種以上を併せて使用することができる。なお、無機粒子からなるマット剤は、ハードコート剤の固形分100質量部に対して2質量部以上、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上、20質量部以下、好ましくは18質量部以下、より好ましくは16質量部以下の割合で混合されていることが望ましい。
【0100】
また、ブリードアウト防止層には、ハードコート剤及びマット剤の他の成分として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、光重合開始剤等を含有させてもよい。
【0101】
熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル及びその共重合体、塩化ビニル及びその共重合体、塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール系樹脂、アクリル樹脂及びその共重合体、メタクリル樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0102】
熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0103】
電離放射線硬化性樹脂としては、光重合性プレポリマーもしくは光重合性モノマー等の1種または2種以上を混合した電離放射線硬化塗料に、電離放射線(紫外線または電子線)を照射することで硬化するものを使用することができる。ここで光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート等が使用できる。また光重合性モノマーとしては、上記に記載した多価不飽和有機化合物等が使用できる。
【0104】
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾインベンゾエート、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパン、α−アシロキシムエステル、チオキサンソン類等が挙げられる。
【0105】
以上のようなブリードアウト防止層は、ハードコート剤、マット剤及び必要に応じて添加される他の成分を配合して、所定の希釈溶剤を加えて塗布液として調製し、その塗布液を基材の表面に従来公知の塗布方法によって塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることにより形成することができる。なお、電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプ等から発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する手法、または走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射する手法により行うことができる。
【0106】
ブリードアウト防止層の厚さとしては、1〜10μm、好ましくは2〜7μmであることが望ましい。ブリードアウト防止層の厚さを1μm以上にすることにより、水蒸気バリアーフィルムとしての耐熱性を十分なものにし易くなる。また、ブリードアウト防止層の厚さを10μm以下にすることにより、水蒸気バリアーフィルムの光学特性のバランスを調整し易くなると共に、平滑層を水蒸気バリアーフィルムの一方の面に設けた場合におけるその水蒸気バリアーフィルムのカールを抑え易くすることができるようになる。
【0107】
(電子機器としての有機ELパネル)
本発明に係る水蒸気バリアーフィルム10(11)は、太陽電池、液晶表示素子、有機EL素子等の電子デバイスを封止する封止フィルムとして用いることができる。
この水蒸気バリアーフィルム10(11)を封止フィルムとして用いた電子機器である有機ELパネル20の一例を図3に示す。
有機ELパネル20は、図3に示すように、水蒸気バリアーフィルム10と、水蒸気バリアーフィルム10上に形成されたITOなどの透明電極6と、透明電極6を介して水蒸気バリアーフィルム10上に形成された有機EL素子7と、その有機EL素子7を覆うように接着剤層8を介して配設された対向フィルム9等を備えている。なお、透明電極6は、有機EL素子7の一部を成すともいえる。
この水蒸気バリアーフィルム10における保護層が形成された面に、透明電極6と有機EL素子7が形成されるようになっている。
また、対向フィルム9は、アルミ箔などの金属フィルムのほか、本発明に係る水蒸気バリアーフィルムを用いてもよい。対向フィルム9に水蒸気バリアーフィルムを用いる場合、保護層が形成された面を有機EL素子7に向けて、接着剤層8によって貼付するようにすればよい。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0109】
(実施例1)
《基材の作製》
水蒸気バリアーフィルムの基材となる樹脂基材(樹脂フィルム)に、ブリードアウト防止層や平滑層を形成してなる支持基材として、以下の基材(ア)、基材(イ)、基材(ウ)の3種類の基材を作製した。
【0110】
〔基材(ア)の作製〕
熱可塑性樹脂基材として、両面に易接着加工された厚さ125μmのポリエステルフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、極低熱収PET Q83)を用い、下記に示すように、片面にブリードアウト防止層を、反対面に平滑層を形成したものを基材(ア)とした。
〈ブリードアウト防止層の形成〉
上記熱可塑性樹脂基材の片面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7535を、乾燥後の膜厚が4.0μmになる条件で塗布した後、80℃で3分間の乾燥処理と、空気雰囲気下で高圧水銀ランプ使用した照射エネルギー量1.0J/cmの光照射による硬化処理を行って、ブリードアウト防止層を形成した。
〈平滑層の形成〉
次いで、上記熱可塑性樹脂基材のブリードアウト防止層を形成した面とは反対側の面側に、JSR株式会社製のUV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を、乾燥後の膜厚が4.0μmになる条件で塗布した後、80℃で3分間の乾燥処理と、空気雰囲気下で高圧水銀ランプを使用した照射エネルギー量1.0J/cmの光照射による硬化処理を行って、平滑層を形成した。
【0111】
上記作製した基材(ア)における平滑層の表面粗さを、JIS B 0601で規定される方法に準拠して測定した結果、Rzで約25nmであった。
表面粗さは、SII社製のAFM(原子間力顕微鏡)SPI3800N DFMを用いて測定した。一回の測定範囲は80μm×80μmとし、測定箇所を変えて三回の測定を行って、それぞれの測定で得られたRzの値を平均したものを測定値とした。
【0112】
また、上記作製した基材(ア)の線膨張係数を、下記の方法に従って測定した結果、65ppm/℃であった。
セイコーインスツル社製のEXSTAR TMA/SS6000型熱応力歪測定装置を用いて、測定する基材(ア)を、窒素雰囲気下、1分間に5℃の割合で温度を30℃から50℃まで上昇させた後、一旦ホールドし、再び1分間に5℃の割合で温度を上昇させて30〜150℃の時の値を測定して、線膨張係数を測定した。
【0113】
〔基材(イ)の作製〕
耐熱性樹脂基材として、両面に易接着加工が施された200μm厚みの透明ポリイミド系フィルム(三菱瓦斯化学株式会社製、ネオプリムL)を用い、下記に示すように、基材の両面に平滑層を形成したものを、基材(イ)とした。
〈平滑層塗布液の作製〉
トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(エポライト100MF 共栄社化学社製)を8.0g、エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポライト40E 共栄社化学社製)を5.0g、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン:OX−SQ−H(東亞合成社製)を12.0g、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを32.5g、Al(III)アセチルアセトネートを2.2g、メタノールシリカゾル(日産化学社製、固形分濃度30質量%)を134.0g、BYK333(ビックケミー・ジャパン社製、シリコン系界面活性剤)を0.1g、ブチルセロソルブを125.0g、0.1モル/Lの塩酸水溶液を15.0g混合し、充分に攪拌した。これを室温でさらに静置脱気して、平滑層塗布液を得た。
〈平滑層aの形成〉
上記耐熱性樹脂基材の一方の面側に、定法によりコロナ放電処理を施した後、上記平滑層塗布液を、乾燥後の膜厚が4.0μmとなる条件で塗布した後、80℃で3分間乾燥した。更に、120℃で10分間の加熱処理を施して、平滑層aを形成した。
〈平滑層bの形成〉
上記耐熱性樹脂基材の平滑層aを形成した面とは反対側の面に、上記平滑層aの形成方法と同様にして、平滑層bを形成した。
【0114】
上記作製した基材(イ)における平滑層a及び平滑層bの表面粗さを、JIS B 0601で規定される方法に準拠して測定した結果、Rzで約20nmであった。なお、表面粗さの測定は、上記基材(ア)の作製に用いたのと同様の方法で行った。
【0115】
また、上記作製した基材(イ)の線膨張係数を、前記の方法と同様にして測定した結果、40ppm/℃であった。
【0116】
〔基材(ウ)の作製〕
上記基材(イ)の作製において、耐熱性樹脂基材としての透明ポリイミド系フィルム(三菱瓦斯化学株式会社製、ネオプリムL)に代えて、耐熱性樹脂基材として、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格としたフィルムである、100μm厚の新日鐵化学社製のシルプラスH100を用いた以外は同様にして、基材(ウ)を作製した。なお、基材(ウ)の平滑層a及び平滑層bの表面粗さを同様にして測定した結果、Rzは約20nmであった。
また、上記作製した基材(ウ)の線膨張係数を、前記の方法と同様にして測定した結果、80ppm/℃であった。
【0117】
《水蒸気バリアーフィルムの作製》
表1−1、表1−2に示す各種条件で作製する基材、水蒸気バリアー層、保護層の組み合わせによって、No.1〜30の水蒸気バリアーフィルム(30パターン)を作製した。
【0118】
【表1−1】

【表1−2】

【0119】
〔水蒸気バリアー層の作製〕
対象とする基材(ア、イ、ウ)の平滑層上に、下記ポリシラザン化合物を含有する第1の塗布液を、スピンコーターを用いて乾燥後の膜厚がそれぞれ表1−1、表1−2に示す設定膜厚となる条件で塗布した。乾燥条件は、100℃で2分としてポリシラザン塗膜を形成した。
〈ポリシラザン化合物含有塗布液の調製〉
無触媒のパーヒドロポリシラザンを20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN120−20)と、アミン触媒を固形分で5質量%含有するパーヒドロポリシラザンの20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NAX120−20)を混合して用い、アミン触媒を固形分として1質量%になるように調整した後、さらに必要があればジブチルエーテルで希釈することにより、総固形分量が2質量%〜20質量%のジブチルエーテル溶液として、ポリシラザン化合物含有塗布液(第1の塗布液)を調製した。この第1の塗布液を、水蒸気バリアー層の設定膜厚に応じて適宜(適量)用いた。
【0120】
〈真空紫外線照射処理〉
上記のようにポリシラザン塗膜を形成した後、下記の方法に従って真空紫外線照射処理を施し、各水蒸気バリアー層を形成した。各処理条件(真空UV照射量)の詳細は表1−1、表1−2に示した。
本実施形態では、周知の真空紫外線照射装置を用いて真空紫外線(真空UV)照射を行った。
真空紫外線照射装置は、例えば、試料が載置される試料ステージと、172nmの真空紫外線を照射可能な二重管構造を有するXeエキシマランプと、それらを内部に保持する装置チャンバー等を備えている。装置チャンバー内には、ガス供給口から窒素と酸素とが適量供給され、ガス排出口から排気することで、チャンバー内部から実質的に水蒸気を除去してチャンバー内を所定の酸素濃度に維持することが可能になっている。また、試料ステージは、装置チャンバー内を水平に所定の速度で往復移動することができる。また、試料ステージは所定の加熱手段により、所望の温度に維持することができる。
そして、ポリシラザン塗膜が形成された試料が試料ステージに載置され、試料ステージが水平移動する際、試料の塗膜表面と、エキシマランプ管面との最短距離が3mmとなるように試料ステージの高さが調整されており、そのエキシマランプによって真空紫外線が試料のポリシラザン塗膜に向けて照射される。
真空紫外線照射工程で試料の塗膜表面に照射されるエネルギーは、浜松ホトニクス社製の紫外線積算光量計:C8026/H8025 UV POWER METERを用い、172nmのセンサヘッドを用いて測定した。測定に際しては、Xeエキシマランプ管面とセンサヘッドの測定面との最短距離が、3mmとなるようにセンサヘッドを試料ステージ中央に設置し、かつ、装置チャンバー内の雰囲気が、真空紫外線照射工程と同一の酸素濃度となるように窒素と酸素とを供給し、試料ステージを0.5m/minの速度で移動させて測定を行った。測定に先立ち、Xeエキシマランプの照度を安定させるため、Xeエキシマランプ点灯後に10分間のエージング時間を設け、その後試料ステージを移動させて測定を開始した。
この測定で得られた照射エネルギーを元に、試料ステージの移動速度を調整することで表1−1、表1−2に示した照射エネルギーとなるように調整し、水蒸気バリアー層の形成を行った。なお、真空紫外線照射処理に際しては、照射エネルギー測定時と同様に、10分間のエージング後に行った。
【0121】
〔保護層の作製〕
対象とする水蒸気バリアー層上に、下記ポリシロキサン化合物を含有する第2の塗布液を、スピンコーターを用いて乾燥後の膜厚がそれぞれ表1−1、表1−2に示す設定膜厚となる条件で塗布した。乾燥条件は、120℃で2分としてポリシロキサン塗膜を形成した。
〈ポリシロキサン化合物含有塗布液の調整〉
ポリシロキサン化合物含有塗布液(第2の塗布液)が含有するポリシロキサン化合物としては、以下の3種類の素材(「1」「2」「3」)を用い、各素材を表1−1、表1−2に示す溶媒(溶媒No.1〜No.5)に添加して、第2の塗布液を調整した。この第2の塗布液を、保護層の設定膜厚に応じて適宜(適量)用いた。
なお、表1−1、表1−2に示す溶媒No.1〜No.5が、表1−1、表1−2に示す配合比で配合された混合溶媒に、以下の各素材(「1」「2」「3」)が添加され、第2の塗布液が調整されている。
【0122】
〈第2の塗布液が含有する素材〉
・素材「1」;JSR株式会社製の「グラスカHPC7003」
この「グラスカHPC7003」を表1−1、表1−2に示す溶媒(溶媒No.1〜No.5の混合溶媒)で希釈し、その後、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステルを固形分に対して10:1の割合で添加して第2の塗布液とした(固形分量10%の塗布液)。
・素材「2」;モメンティブ社製の「TSF84」
この「TSF84」を表1−1、表1−2に示す溶媒(溶媒No.1〜No.5の混合溶媒)で希釈し、その後、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステルを固形分に対して10:1の割合で添加して第2の塗布液とした(固形分量10%の塗布液)。
・素材「3」;信越シリコーン社製の「X−40−9238」
この「X−40−9238」を表1−1、表1−2に示す溶媒(溶媒No.1〜No.5の混合溶媒)で希釈し、その後、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステルを固形分に対して10:1の割合で添加して第2の塗布液とした(固形分量10%の塗布液)。
【0123】
〈第2の塗布液の溶媒〉
第2の塗布液には、表1−1、表1−2に示すように、以下の溶媒が含まれている。
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が150のイソプロピルアルコール。
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が250のメタノール。
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が70のイソブチルアルコール。
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が50のブタノール。
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が6のブチルセロソルブ。
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が21のプロピレングリコールn−プロピルエーテル。
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が12の3−メトキシブタノール。
ここで、イソプロピルアルコール(表1−1、表1−2における溶媒No.1)とメタノール(表1−1、表1−2における溶媒No.2)が、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時の蒸発速度が100以上の第二溶媒である。また、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、3−メトキシブタノール(表1−1、表1−2における溶媒No.5)が、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時の蒸発速度が40以下の第一溶媒である。
これら溶媒を、表1−1、表1−2に示すNo.1〜30の水蒸気バリアーフィルムに応じた配合で混合して適宜用いた。
【0124】
〈真空紫外線照射処理〉
上記の様にしてポリシロキサン塗膜を形成した後、水蒸気バリアー層の作製と同様の方法に従い、真空紫外線照射処理を施して、各保護層を形成した。各処理条件(真空UV照射量)の詳細は表1−1、表1−2に示した。
【0125】
(水蒸気バリアーフィルムの評価)
以上のように作製した水蒸気バリアーフィルムの試料No.1〜30について、水蒸気バリアーフィルムとしての性能評価を行った。
水蒸気バリアーフィルムの性能評価は、基準性能(初期性能)として、水蒸気バリアー性、透明性、平滑性の評価項目について行った。また、耐水性、耐熱性に関する評価としてそれぞれ、水蒸気バリアー性、透明性、基材変形の評価項目について行った。
【0126】
(評価1:水蒸気バリアー性の評価)
水蒸気バリアー性の評価を行うにあたって、以下の装置と材料を使用した。
〈使用装置〉
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
〈評価材料〉
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
〈水蒸気バリアー性評価用試料の作製〉
真空蒸着装置(JEE−400)を用い、作製した水蒸気バリアーフィルム(試料No.1〜30)の保護層表面に、マスクを通して12mm×12mmのサイズで金属カルシウムを蒸着させた。
その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムを蒸着させて仮封止をした。次いで、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下に移して、アルミニウム蒸着面に封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス社製)を介して厚さ0.2mmの石英ガラスを張り合わせ、紫外線を照射して樹脂を硬化接着させて本封止することで、水蒸気バリアー性評価用試料を作製した。
そして、恒温恒湿度オーブンを用い、得られた評価用試料を85℃、90%RHの高温高湿下で、20時間、40時間、60時間のそれぞれで保存し、12mm×12mmの金属カルシウム蒸着面積に対する金属カルシウムが腐食した面積を%表示で算出し、下記の基準に従って水蒸気バリアー性を評価した。
○:金属カルシウムが腐食した面積が1.0%未満である
△:金属カルシウムが腐食した面積が1.0%以上、5.0%未満である
×:金属カルシウムが腐食した面積が、5.0%以上である
こうして得られた評価結果を、表2に示す。
【0127】
(評価2:透明性の評価)
各水蒸気バリアーフィルム(試料No.1〜30)について、目視により透明性の評価を行った。
実用上問題のないレベルを○、やや懸念のあるレベルを△、明らかに着色しているレベルを×とした。評価結果を表2に示す。
【0128】
(評価3:平滑性の評価)
各水蒸気バリアーフィルム(試料No.1〜30)について、目視によって膜厚ムラの程度を確認し、平滑性の評価を行った。
実用上問題のないレベルを○、やや懸念のあるレベルを△、明らかにムラがあるレベルを×とした。評価結果を表2に示す。
【0129】
(評価4:耐水性の評価)
各水蒸気バリアーフィルム(試料No.1〜30)を、100℃のサーモ機に24時間投入した後、25℃の純水に24時間浸漬した。更に、その後100℃のサーモ機に24時間投入した後、室温まで冷却して、上記評価1〜3の評価を行い、水蒸気バリアー性、透明性(変色)、基材変形(平滑性)の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0130】
(評価5:耐熱性の評価)
各水蒸気バリアーフィルム(試料No.1〜30)に対し、220℃で10分間の大気雰囲気下で加熱処理を施した。この際、水蒸気バリアーフィルムの保護層表面に加熱装置の部材が接触しないように保持した。加熱処理後、室温の大気中に取り出し、そのまま室温まで冷却した後に、上記評価1〜3の評価を行い、水蒸気バリアー性、透明性(変色)、基材変形(平滑性)の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0131】
【表2】

【0132】
表2に示した評価結果から明らかなように、ポリシラザンを含有した第1の塗布液を基材上に塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して水蒸気バリアー層を形成する工程と、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が40以下の第一溶媒と、蒸発速度が100以上の第二溶媒を含み、且つポリシロキサンを含有した第2の塗布液を水蒸気バリアー層上に塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して保護層を形成する工程とを経て形成された、本発明に係る水蒸気バリアーフィルム(試料No.5〜15,17〜20、23〜30)は、水蒸気バリアー性に優れるとともに、良好な透明性及び平滑性を有することがわかる。
更に、本発明に係る水蒸気バリアーフィルム(試料No.5〜15,17〜20、23〜30)は、加熱及び純水浸漬処理あるいは高温加熱処理を施した後でも、優れた水蒸気バリアー性、透明性、平滑性を維持していることがわかる。
【0133】
これは、ポリシラザンを含みバリアー性を有する水蒸気バリアー層を、ポリシロキサンを含む保護層で覆っていることにより、水蒸気バリアー層が水蒸気や湿気に晒されることを防いで、水蒸気バリアー層が水分により破壊されることを防止していることによる。
特に、本発明の製造方法に従って作製された保護層は、その乾燥速度がポリシロキサン膜が良好に成膜する固化速度に対応して適切に調整された第2の塗布液を用いて形成されているので、その保護膜の強度やカバー性能は安定している。そして、カバー性が良好な保護層は水蒸気バリアー層を好適に保護し、水蒸気バリアー層が水分や温度変化に起因して損傷することを防ぐことができる。また、この保護層は、水蒸気バリアー層の僅かな損傷であれば、その損傷部分を押さえ込むように被覆して、水蒸気バリアー層の劣化の進行を防ぐことができる。
【0134】
以上のように、本発明に係る水蒸気バリアーフィルムは、高い水蒸気バリアー性能を有するとともに、耐水性、耐熱性及び透明性及び平滑性に優れた水蒸気バリアーフィルムであるといえる。
【0135】
(実施例2)
《有機EL素子・有機ELパネルの作製》
実施例1で作製した各水蒸気バリアーフィルム(試料No.1〜30)を封止フィルムとして用い、下記の方法に従って電子デバイスの一例として、有機ELパネルを作製した。
実施例1で作製した試料No.1〜30の水蒸気バリアーフィルムの保護層上に、以下の方法により透明導電膜を作製した。
【0136】
〈透明導電膜の形成〉
プラズマ放電装置としては電極が平行平板型のものを用い、この電極間に上記各試料の水蒸気バリアーフィルムを載置し、且つ混合ガスを導入して薄膜形成を行った。なお、アース(接地)電極としては、200mm×200mm×2mmのステンレス板に高密度、高密着性のアルミナ溶射膜を被覆し、その後、テトラメトキシシランを酢酸エチルで希釈した溶液を塗布乾燥後、紫外線照射により硬化させ封孔処理を行い、このようにして被覆した誘電体表面を研磨し、平滑にしてRmaxが5μmとなるように加工した電極を用いた。また、印加電極としては、中空の角型の純チタンパイプに対し、アース電極と同様の条件にて誘電体を被覆した電極を用いた。印加電極は複数作製し、アース電極に対向して設け放電空間を形成した。また、プラズマ発生に用いる電源としては、パール工業(株)製高周波電源CF−5000−13Mを用い、周波数13.56MHzで、5W/cmの電力を供給した。
そして、電極間に以下の組成の混合ガスを流し、プラズマ状態とし、上記の水蒸気バリアーフィルムを大気圧プラズマ処理し、保護層上に錫ドープ酸化インジウム(ITO)膜を100nmの厚さで成膜し、透明導電膜付の試料1〜30を得た。
放電ガス:ヘリウム 98.5体積%
反応性ガス1:酸素 0.25体積%
反応性ガス2:インジウムアセチルアセトナート 1.2体積%
反応性ガス3:ジブチル錫ジアセテート 0.05体積%
【0137】
〈有機EL素子の作製〉
得られた透明導電膜付の試料1〜30の100mm×100mmを基板とし、これにパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた水蒸気バリアーフィルム基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した。この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートにα−NPD(下記の式(3))を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにホスト化合物としてCBP(下記の式(4))を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにバソキュプロイン(BCP(下記の式(5)))を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにIr−1(下記の式(6))を100mg入れ、更に別のモリブデン製抵抗加熱ボートにAlq(下記の式(7))を200mg入れ、真空蒸着装置に取付けた。
【0138】
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0139】
次いで、真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明支持基板に蒸着し、正孔輸送層を設けた。
更にCBPとIr−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.2nm/秒、0.012nm/秒で前記正孔輸送層上に共蒸着して発光層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
更にBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層の上に蒸着して膜厚10nmの正孔阻止層を設けた。
その上に、更にAlqの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔阻止層の上に蒸着して、更に膜厚40nmの電子輸送層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
引き続き、フッ化リチウム0.5nm及びアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、それぞれ透明導電膜付の試料1〜30を用いた有機EL素子試料1〜30を作製した。
【0140】
〈有機EL素子の封止〉
窒素ガス(不活性ガス)によりパージされた環境下で、有機EL素子試料1〜30のアルミニウム蒸着面と、厚さ100μmのアルミ箔を対面させる様にして、ナガセケムテックス社製エポキシ系接着剤を用いて接着させて封止を行った。
【0141】
(有機EL素子の評価:ダークスポット耐性、輝度ムラ耐性の評価)
封止された有機EL素子試料1〜30を、40℃、90%RHの環境下で通電を行い、ダークスポットの発生等と輝度ムラの状況を、0日から120日までの変化を観察した。
その結果、本発明の水蒸気バリアーフィルム(試料No.5〜15,17〜20、23〜30)を用いて作製した有機EL素子は、比較例(試料No.1〜4,16,21〜22)を用いたものに対し、ダークスポット耐性及び輝度ムラ耐性に優れた特性を備えていることを確認することができた。
【0142】
なお、本発明の適用は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0143】
1 基材
2 水蒸気バリアー層
3 保護層
4 平滑層
5 ブリードアウト防止層
7 有機EL素子(電子デバイス)
10 水蒸気バリアーフィルム
11 水蒸気バリアーフィルム
20 有機ELパネル(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、水蒸気バリアー層と、前記水蒸気バリアー層上に積層された保護層とを備えた水蒸気バリアーフィルムであって、
前記水蒸気バリアー層は、ポリシラザンを含有した第1の塗布液を塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して形成された層であり、
前記保護層は、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が40以下の第一溶媒と、蒸発速度が100以上の第二溶媒を含み、且つポリシロキサンを含有した第2の塗布液を塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して形成された層であることを特徴とする水蒸気バリアーフィルム。
【請求項2】
前記第一溶媒の蒸発速度は20以下であることを特徴とする請求項1に記載の水蒸気バリアーフィルム。
【請求項3】
前記第一溶媒は、全溶媒中20%以下の割合であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水蒸気バリアーフィルム。
【請求項4】
前記水蒸気バリアー層は、50nm以上1μm以下の膜厚を有し、前記保護層は、100nm以上10μm以下の膜厚を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の水蒸気バリアーフィルム。
【請求項5】
前記水蒸気バリアー層の形成時に照射される真空紫外光の積算光量は、1000mJ/cm以上10000mJ/cm以下であり、前記保護層の形成時に照射される真空紫外光の積算光量は、500mJ/cm以上10000mJ/cm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の水蒸気バリアーフィルム。
【請求項6】
前記基材は、その線膨張係数が50ppm/℃以下であり、且つ全光線透過率が90%以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の水蒸気バリアーフィルム。
【請求項7】
基材上に水蒸気バリアー層と保護層が積層された水蒸気バリアーフィルムの製造方法であって、
ポリシラザンを含有した第1の塗布液を前記基材上に塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して前記水蒸気バリアー層を形成する工程と、
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時に、蒸発速度が40以下の第一溶媒と、蒸発速度が100以上の第二溶媒を含み、且つポリシロキサンを含有した第2の塗布液を前記水蒸気バリアー層上に塗布して乾燥した後に、真空紫外光を照射して前記保護層を形成する工程と、を備えることを特徴とする水蒸気バリアーフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項に記載の水蒸気バリアーフィルムまたは請求項7に記載の水蒸気バリアーフィルムの製造方法によって得られた水蒸気バリアーフィルムと、前記水蒸気バリアーフィルムによって封止された電子デバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−59927(P2013−59927A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200152(P2011−200152)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】