説明

永久磁石およびその製造方法

【課題】単一組成から成り、中心部から周縁部にかけて変化するように保磁力および磁化が分布する永久磁石およびその製造方法を提供する。
【解決手段】焼結によって多数のナノサイズの結晶粒が一体化されて成り、
体積全体に亘って化学組成が実質的に均一であり、
体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように配向度が分布していることを特徴とする永久磁石。この永久磁石を製造する方法は、
磁石材料を溶融し急冷することにより結晶粒がナノサイズの多数の凝固リボンを形成する工程、
上記多数の凝固リボンを加圧成形して焼結することにより一体化し焼結体とする工程、
上記焼結体に、その体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように歪が分布する塑性加工を施す工程
を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一組成から成り、中心部から周縁部にかけて変化するように保磁力および磁化が分布する永久磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排ガスによる環境問題や石油資源の有限性を克服するために、電気自動車あるいはハイブリッド自動車の開発が進められている。その駆動用モータのロータに設けられる永久磁石は、モータを高効率化するために特有の性能が求められる。例えば、ロータ内部に磁石を埋め込んだ内磁型の場合、磁石の周縁部では磁石の中心部に比べて外部磁界が相対的に強いため、磁石の磁力を保持するために高い保磁力が要求され、逆に、磁石の中心部では磁石の周縁部に比べて外部磁界は相対的に弱いため周縁部ほど高い保磁力は求められず、むしろモータのトルク性能に寄与する高い磁化が要求される。すなわち、磁石の中心部では高い磁化が、磁石の周縁部では高い保磁力が要求される。
【0003】
特許文献1等には、表面からDyを拡散させてDy濃度の分布によって、中心部から周縁部にかけて変化するように保磁力および磁化が分布させることが開示されている。しかし高価な希土類元素であるDyを用いるためコストが高く実用化されていない。
【0004】
特許文献2、3には、内側に高磁化の磁石を配置し、外側に高保磁力の磁石を配置した複合構造の磁石が開示されている。しかし、これらは磁気特性の異なる複数の磁石を組み立てる必要があり、煩雑でありコストもかかるという欠点があった。
【0005】
磁気特性を種々に変える方法としては、特許文献4に結晶歪によって保磁力が低下する現象があることが記載されており、特許文献5,6には結晶粒径が0.1nm〜1μmの超急冷リボンから得られる希土類−鉄−ボロン系磁石合金の粉末を金属筒に充填し、650〜900℃の非酸化雰囲気で上下パンチにより一軸圧縮することで、磁石合金の粉末に塑性変形を付与して磁気異方化させた塊を粉砕してボンド磁石の材料とすることが記載されており、特許文献7には、磁石成形冶具の磁石材粉末と接する加圧面として、平坦な面の他、湾曲、突起、窪み、溝等を有する面が記載されている。
【0006】
これらの特許文献も、単一組成から成り、中心部から周縁部にかけて変化するように保磁力および磁化が分布する永久磁石およびその製造方法については何ら示唆がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−11973号公報
【特許文献2】特開2008−130781号公報
【特許文献3】特開2006−261433号公報
【特許文献4】特公平7−33521号公報
【特許文献5】特開平11−233323号公報
【特許文献6】特開2003−342618号公報
【特許文献7】特開2007−250577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、単一組成から成り、中心部から周縁部にかけて変化するように保磁力および磁化が分布する永久磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、
焼結によって多数のナノサイズの結晶粒が一体化されて成り、
体積全体に亘って化学組成が実質的に均一であり、
体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように配向度が分布していることを特徴とする永久磁石が提供される。
【0010】
更に、本発明によれば、
磁石材料を溶融し急冷することにより結晶粒がナノサイズの多数の凝固リボンを形成する工程、
上記多数の凝固リボンを加圧成形して焼結することにより一体化し焼結体とする工程、
上記焼結体に、その体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように歪が分布する塑性加工を施す工程
を含む永久磁石の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の永久磁石は、配向度が高くなると保磁力は低くなり、磁化は高くなるという事実を利用して、周縁部では低い配向度で高い保磁力を確保し、中心部では高い配向度で高い磁化を確保する。
【0012】
本発明の製造方法は、周縁部では低く、中心部では高くなるように歪が分布する塑性加工により、周縁部で低く中心部で高くなる配向度の分布が形成され、本発明の永久磁石の保磁力と磁化の分布が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、保磁力と加工度および加工温度との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、種々の加工度について、圧縮軸に垂直な断面内の各部位の残留磁化、保磁力、配向度を示す。
【図3】図3は、加工度と配向度および保磁力変化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ナノサイズの結晶粒を用いることにより、下記の利点(1)(2)が得られる。
【0015】
(1)モータ用として用いた場合、高温(自動車用では160℃程度)での保磁力が必要である。従来は高温保磁力を確保するためにDy等の高価な希土類元素を添加していた。本発明においては、ナノサイズの結晶粒を用いたことにより、保磁力の温度感受性が低くなり、すなわち温度上昇による保磁力低下が少なくなり、その結果、高温でも高い保磁力を確保できる。
【0016】
(2)本発明の永久磁石は、焼結体に塑性加工を施すため、加工性を確保する必要がある。従来の焼結磁石は結晶粒径が3μm〜5μm程度であったため、加工性が悪く割れが発生するため、必要な配向度分布を得るための高い歪で塑性加工できなかった。本発明では、ナノサイズ、すなわち30nm〜500nm、望ましくは30nm〜100nmの結晶粒径を用いたことにより、高い歪を付与する塑性加工が可能になった。一般に磁石材料は硬くて塑性変形し難いが、本発明の塑性加工における塑性変形は、焼結体の結晶粒内で主辷り系の辷り変形だけでなく、結晶粒界での粒界辷りが生じることで進行する。このような変形形態では、ナノサイズの微細な結晶粒はそれ自体の辷り変形と粒界辷りによってフローし、焼結体が体積全体として塑性変形できる。結晶粒がナノサイズであると、従来のようにミクロサイズの結晶粒の場合に比べて、単位体積中に存在する結晶粒界の量が多くなり、粒界辷りのサイトが多くなるため、バルク体としての塑性変形が容易になる。
【0017】
本発明の永久磁石は、従来技術のようなDyの濃度分布(特許文献1)も、複数の磁石の組み合わせ(特許文献2、3)も必要とせず、体積全体に亘って実質的に均一な化学組成を有する。化学組成が実質的に均一であるとは、製造上のバラツキの範囲内で一定という意味である。
【0018】
本発明の永久磁石は、体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように配向度が分布している。配向度は、永久磁石を構成する個々の結晶粒の方位が特定の方向に配向している程度である。周縁部あるいは中心部という特定の領域の配向度は領域内の結晶粒の配向度の平均値であり、本発明においては、残留磁化Mrと飽和磁化Msとの比Mr/Msによって定義する。
【0019】
体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように配向度が分布していることにより、体積の周縁部から中心部にかけて、保磁力は低くなるように分布し、磁化は高くなるように分布する。より具体的には、残留磁化Mrと飽和磁化Msとの比の百分率で定義した配向度100×Mr/Msが周縁部の最低値でも75%以上であることが望ましい。
【0020】
本発明の永久磁石は、特にモータ用として適している。
【0021】
本発明の永久磁石の製造方法においては、磁石材料を溶融し急冷することにより結晶粒がナノサイズの多数の凝固リボンを形成し、これを加圧成形して焼結することにより一体化し焼結体とし、この焼結体に、その体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように歪が分布する塑性加工を施す。
【0022】
塑性加工の方法は、特に限定しないが、望ましくは、一軸圧縮による加工により行うことにより、圧縮軸に垂直な面内で上記のように歪を分布させることが容易にできる。
【0023】
上記のように歪を分布させるために、一軸圧縮は、焼結体の被圧縮面は圧縮冶具によって圧縮軸に垂直な方向の変形を実質的に拘束されないように行なうことが望ましい。
【0024】
上記のように歪を分布させるために、一軸圧縮は、圧縮前の被加工物の高さをT0、圧縮後の被加工物の高さをTとして、〔(T0−T)/T0〕×100で定義した加工度が40%〜70%である範囲内で行なうことが望ましい。
【0025】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0026】
下記の条件および手順で本発明の永久磁石を作製した。
【0027】
〔ナノ粒子の作製〕
2などの不活性雰囲気中にてアーク溶製炉を用いて、化学組成Nd15Fe777Ga1の試料を溶解し、溶湯温度1450℃から冷却ディスク円周面に注湯することにより急冷凝固させ粉末試料を得た。粉末粒子は、寸法30nm〜500nmのリボン形状のナノ粒子であり、結晶とアモルファスとの混合物であった。
【0028】
〔加圧成形+焼結〕
2などの不活性雰囲気中にて、20℃/secの急速加熱で500〜700℃に昇温しながら、100MPa以上に加圧成形すると同時に焼結し、初期冷却速度が10〜50℃/secで急速冷却した。全工程を1分以内の短時間で完了させた。急速加熱・冷却による短時間加圧焼結は、粒径粗大化を防止するためである。これによりφ10×8〜9mmのサンプルが得られた。
【0029】
〔塑性加工〕
大気中にて、一軸圧縮により塑性加工を行なった。その際、加工温度:室温〜160℃、加工度:0〜76%、SPS電流(加熱通電電流)1000A、加熱速度20〜50℃/sec、圧縮圧力100MPaとした。塑性加工はネットシェイプで行い、最終的に切削加工などにより歪が開放されないようにした。
【0030】
図1に、得られたサンプルの保磁力と加工度および加工温度との関係を示す。保磁力は、サンプルの中心部における測定値である。加工度は、圧縮前のサンプル高さをT0、圧縮後のサンプル高さをTとして、〔(T0−T)/T0〕×100で定義する。同図中の点線は、比較材として塑性加工なしのDy添加焼結磁石についての測定結果を示す。
【0031】
図1に示した塑性加工後の中心の保磁力は、加工度の増加により低下し、同じく、加工温度の上昇によって低下している。ここで重要な特徴は、本発明の塑性加工を施したサンプルは、温度上昇に対する保磁力の低下の傾向が比較材であるDy添加焼結磁石に比べて小さいことである。すなわち、本発明材は比較材よりも、高温における保磁力を高く確保できる。
【0032】
表1〜4に、加工度0%、52%、67%、76%の場合の試料中の圧縮軸に垂直な断面内の各部位で測定した残留磁化Mr(T)、保磁力Hc(kOe)、配向度Mr/Msをそれぞれまとめて示す。なお表中には、M27k(T)(27kOe印加磁場における磁化)の値およびBHmax(MGOe)最大エネルギー積の値も示した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
図2に、表1〜4の測定結果を圧縮軸に垂直な断面内の各部位に記入して示す。
【0038】
配向度は、加工度0%(焼結したまま)では全面でほぼ一定、加工度52%、67%で中心部が大きく周縁部が小さい分布を示し、加工度76%で再び全面でほぼ一定となる。このように配向度に分布を持たせるためには、適した加工度の範囲があることが分かる。
【0039】
図3に、試料中心部(*)について加工度と配向度および保磁力変化率との関係を示す。
【0040】
(*)加工度によって1試料当たりの測定部位数が異なるため、表1〜4および図2での試料中心部の部位表示は加工度によって異なり、加工度0%で部位表示は「5」、52%で「7」、67%で「7」、76%で「5」となっている。
【0041】
図3に示したように、加工度と配向度Mr/Msとの関係はほぼ線形であり、下記の一次式で近似できる。
【0042】
x=2.44×(y−53.8)
x:加工度(%)
y:配向度(Mr/Ms)
実用的には配向度75%以上を必要とするので、これに対応して図3から加工度40%以上が必要である。
【0043】
しかし、加工度が高すぎると図2に示した加工度76%の場合のように配向度がむしろ均一化してしまう。したがって、加工度は70%程度を超えないことが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、単一組成から成り、中心部から周縁部にかけて変化するように保磁力および磁化が分布する永久磁石およびその製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石材料を溶融し急冷することにより結晶粒がナノサイズの多数の凝固リボンを形成する工程、
上記多数の凝固リボンを加圧成形して焼結することにより一体化し焼結体とする工程、
上記焼結体に、その体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように歪が分布する塑性加工を施す工程
を含む永久磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記塑性加工は一軸圧縮による加工であり、圧縮軸に垂直な面内で上記のように歪が分布することを特徴とする永久磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、圧縮前の被加工物の高さをT0、圧縮後の被加工物の高さをTとして、〔(T0−T)/T0〕×100で定義した加工度が40%〜70%であることを特徴とする永久磁石の製造方法。
【請求項4】
焼結によって多数のナノサイズの結晶粒が一体化されて成り、
体積全体に亘って化学組成が実質的に均一であり、
体積の周縁部から中心部にかけて高くなるように配向度が分布していることを特徴とする永久磁石。
【請求項5】
請求項4において、上記体積の周縁部から中心部にかけて、保磁力は低くなるように分布し、磁化は高くなるように分布していることを特徴とする永久磁石。
【請求項6】
請求項4または5において、残留磁化Mrと飽和磁化Msとの比の百分率で定義した配向度100×Mr/Msが周縁部の最低値でも75%以上であることを特徴とする永久磁石。
【請求項7】
請求項4から6までのいずれか1項において、モータ用であることを特徴とする永久磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−3662(P2011−3662A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144479(P2009−144479)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】