説明

洗浄方法、処理装置及び記憶媒体

【課題】被処理体の表面に形成されたパターンの倒れ、あるいは被処理体の表面の膜荒れなどといった被処理体に対するダメージを抑えながら、被処理体の表面に付着したパーティクルなどの付着物を容易に除去すること。
【解決手段】ウエハWに対して前処理としてフッ化水素の蒸気の供給を行い、ウエハWの表面の自然酸化膜11を溶解させることにより、前記自然酸化膜11の表面に付着している付着物10について、ウエハWの表面からいわば浮いた状態となるようにする。その後、ウエハWの置かれる雰囲気よりも圧力の高い領域から下地膜12に対して反応性を持たない二酸化炭素ガスを供給し、断熱膨張により当該ガスを凝縮温度以下に冷却してガスクラスターを発生させる。そして、このガスクラスターを非イオン化の状態でウエハWに照射して、付着物10を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理体の表面に付着したパーティクルなどの付着物を除去する洗浄方法、処理装置及び前記方法の記憶された記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハなどの被処理体である基板(以下「ウエハ」と言う)の表面に付着したパーティクルや汚れなどの付着物を除去する技術として、例えば特許文献1、2に記載されているように、ウエハの表面にガスクラスターイオンビームを照射する方法が知られている。このような技術では、付着物におけるウエハに対する付着力に打ち勝つように、例えばガスクラスターイオンビームでは加速電圧やイオン化量によって、その物理的剪断力が調整される。
【0003】
しかし、ウエハ上に形成されたデバイス構造が微細化するにつれて、ガスクラスターイオンビームにより前記デバイス構造がダメージを受けやすくなってしまう。即ち、例えばウエハ上に形成された溝とラインとからなるパターンに対してガスクラスターイオンビームを照射すると、前記ラインの幅寸法が例えば数十nmオーダーの場合には、ガスクラスターイオンビームの照射により当該ラインが倒れてしまうおそれがある。また、パターンの形成されていない場合であっても、ガスクラスターイオンビームを照射した後は、ウエハの表面形状が悪くなってしまう。
【0004】
特許文献3には、薬液を用いて基板9上の自然酸化膜を除去した後、超音波振動の付与されたエアを噴出する技術が記載されており、また特許文献4には基板の表面にパルスレーザーを照射する技術について記載されている。しかし、これら特許文献3、4には、微細なデバイス構造におけるパーティクルの除去やウエハが受けるダメージについては触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−43975
【特許文献2】特開2008−304737
【特許文献3】特開2006−278387
【特許文献4】特開2009−224721
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、被処理体に対するダメージを抑えながら、被処理体の表面に付着したパーティクルなどの付着物を容易に除去できる洗浄方法、処理装置及び前記方法の記憶された記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の洗浄方法は、
付着物の付着した被処理体の表面から付着物を除去する洗浄方法において、
被処理体の表面及び付着物の少なくとも一方に対して、エッチング処理を含む前処理を行う工程と、
被処理体の置かれる処理雰囲気よりも圧力の高い領域から、前記被処理体の表面に露出している膜に対して反応性を持たない洗浄用ガスを処理雰囲気に吐出し、断熱膨張により前記洗浄用ガスの原子または分子の集合体であるガスクラスターを生成させる工程と、
前記前処理の行われた被処理体の表面に、洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
前記前処理は、被処理体の表面及び付着物の少なくとも一方に対する改質処理と、この改質処理により改質された改質層に対するエッチング処理とを含んでいても良い。
前記前処理を行う工程と前記付着物を除去する工程とは、同時に行われても良い。
前記前処理は、前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程を含んでいても良い。
【0009】
前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程は、前記洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程においてガスクラスターを照射する生成機構と同一の生成機構を用いても良いし、異なる生成機構を用いても良い。
前記洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程及び前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程は、ガスクラスターを照射する生成機構を複数配置して、これら生成機構からガスクラスターを照射する工程であっても良い。
前記洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程及び前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程は、ガスクラスターを照射する生成機構における被処理体に対する角度が可変な状態で行われても良い。
【0010】
本発明の処理装置は、
付着物の付着した被処理体の表面から付着物を除去する被処理体の処理装置において、
被処理体がその内部に載置される前処理室と、
この前処理室内に載置された被処理体の表面または付着物の少なくとも一方に対してエッチング処理を含む前処理を行うための前処理機構を有する前処理モジュールと、
被処理体がその内部に載置される洗浄処理室と、
この洗浄処理室に設けられ、前記洗浄処理室の内部の処理雰囲気よりも圧力の高い領域から、前記被処理体の表面に露出している膜に対して反応性を持たない洗浄用ガスを処理雰囲気に吐出して、断熱膨張により前記洗浄用ガスの原子または分子の集合体であるガスクラスターを生成させ、前記付着物を除去するために、前処理後の被処理体に供給するガスクラスターノズルと、
前記前処理室及び前記洗浄処理室に対して被処理体の受け渡しを行う搬送機構と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
前記前処理室は、内部が常圧雰囲気に保たれた常圧処理室であり、常圧雰囲気にて被処理体の搬送を行う常圧搬送室に接続され、
前記洗浄処理室は、内部が真空雰囲気に保たれた真空処理室であり、真空雰囲気にて被処理体の搬送を行う真空搬送室に気密に接続され、
前記常圧搬送室と前記真空搬送室との間には、内部の雰囲気の切り替えを行うためのロードロック室が設けられ、
前記常圧搬送室及び前記真空搬送室には、前記搬送機構として常圧搬送機構及び真空搬送機構が夫々設けられていても良い。
前記前処理室及び前記洗浄処理室は、内部が各々真空雰囲気に保たれた真空処理室であり、
前記前処理室及び前記洗浄処理室との間には、前記搬送機構が配置された真空搬送室が気密に介在して設けられていても良い。
前記前処理室及び前記洗浄処理室は、共通化されていても良い。
前記真空搬送室には、前記前処理に先立って行われる真空処理あるいは付着物の除去を行った後に続く真空処理を行うための真空処理室が気密に接続されていても良い。
【0012】
本発明の記憶媒体は、
被処理体の洗浄を行う処理装置に用いられ、コンピュータ上で動作するコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、既述の洗浄方法を実施するようにステップが組まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、被処理体の表面に付着した付着物を除去するにあたり、被処理体の表面及び付着物の少なくとも一方に対してエッチング処理を含む前処理を行って、付着物を被処理体の表面から脱離しやすくさせ、次いで被処理体の表面に露出している膜と反応性を持たない洗浄用ガスを用いてガスクラスターを生成させている。従って、洗浄用ガスのガスクラスターをイオン化していない状態で照射しても、付着物が被処理体から容易に脱離して除去されるので、被処理体に対するダメージを抑えながら、付着物を容易に除去できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態における洗浄方法が適用される被処理体の概要を示す模式図である。
【図2】前記被処理体の概要を示す模式図である。
【図3】前記洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図4】前記洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図5】前記洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図6】前記被処理体に前処理を行う装置を示す縦断面図である。
【図7】前記洗浄方法を実施するために被処理体にガスクラスターを照射する装置を示す縦断面図である。
【図8】前記洗浄方法を実施する被処理体処理装置を示す横断平面図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態の変形例における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図10】前記変形例の前処理に用いられる装置を示す縦断面図である。
【図11】前記変形例における処理装置を示す横断平面図である。
【図12】前記第3の実施の形態の前処理に用いられる装置を示す縦断面図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態における洗浄方法が適用される被処理体の概要を示す模式図である。
【図14】前記第2の実施の形態における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図15】前記第2の実施の形態における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図16】前記第2の実施の形態における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図17】前記第2の実施の形態におけるガスクラスターの照射及び前処理に用いられる装置を示す縦断面図である。
【図18】本発明の第3の実施の形態における洗浄方法が適用される被処理体の概要を示す模式図である。
【図19】前記第3の実施の形態における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図20】前記第3の実施の形態における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図21】前記第3の実施の形態の前処理に用いられる装置を示す縦断面図である。
【図22】本発明の第4の実施の形態における洗浄方法が適用される被処理体の概要を示す模式図である。
【図23】前記第4の実施の形態における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図24】本発明の第5の実施の形態における洗浄方法が適用される被処理体の概要を示す模式図である。
【図25】前記第5の実施の形態における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図26】前記第5の実施の形態における洗浄方法の作用を示す模式図である。
【図27】本発明の実施例で得られた実験結果を示すSEM写真である。
【図28】本発明の実施例で得られた実験結果を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施の形態:シリコン基板]
本発明の洗浄方法の第1の実施の形態について、図1〜図5を参照して説明する。始めに、この洗浄方法が適用されるウエハWの構成及び当該洗浄方法の概略について説明する。このウエハWは、図1に示すように、シリコン(Si)により構成されており、例えば凹部である溝5と凸部であるライン6とからなるパターン7が表面に形成されている。そして、この洗浄方法は、後述するように、前記ライン6の倒れやウエハWの表面の膜荒れといったウエハWに対するダメージの発生を抑制しながら、図2に示すようなウエハW表面の付着物10を容易に除去できるように構成されている。
【0016】
続いて付着物10について詳述すると、この付着物10は、例えばウエハWに対して前記パターン7を形成する際のプラズマエッチング処理や、あるいは当該プラズマエッチング処理に続いて行われるプラズマアッシング処理により生成した残渣物である。具体的には、付着物10は、前記溝5の内部から除去されたシリコンを含む無機物や、ウエハWの上層に積層されていた有機物からなるフォトレジストマスクの残渣である炭素(C)を含む有機物などにより構成されている。この時、例えばウエハWが保管中に大気に晒されることにより、付着物10は、ウエハWの表面に単に乗っている状態ではなく、微視的に見ると、図2に示すように、ウエハW表面に形成された自然酸化膜に囲まれ、強く張り付いている。即ち、ウエハWの表面には、付着物10を囲うような、例えば自然酸化膜が形成されており、それによって付着物10は、自然酸化膜に埋まった状態となっている。すなわち、ウエハWの表面に形成された架橋を介して付着物10が当該ウエハWに保持された状態となっている。
【0017】
この時、ウエハWの表面は、例えば当該ウエハWを大気中において搬送した時に酸化されて、シリコン酸化物(SiO2)からなる自然酸化膜11となっている。自然酸化膜11の厚さ寸法は、例えば1nm程度となっている。この自然酸化膜11の下方側のシリコンからなる領域について、以下の説明では下地膜12と呼ぶこととする。尚、ウエハWの表面と付着物10とが例えば化学的に結合して互いに連結されている場合もあるが、ここでは説明を簡略化するために、既述のようにこれらウエハWと付着物10間に形成された架橋によって保持されているものとしている。また、ウエハW及び付着物10の各々の表面形状及び寸法については、図1では模式的に示している。以降の図についても同様である。
【0018】
次いで、本発明の洗浄方法について詳述する。始めに、図3に示すように、前処理として、ウエハWにフッ化水素(HF)水溶液の蒸気を供給する。このフッ化水素の蒸気により、既述の自然酸化膜11が溶解して、フッ化シリコンとなり、気体として排気される。この時、ウエハWと付着物10間に形成された架橋もエッチングされ、ウエハWの表面は、図4に示すように、付着物10から見ると下方側に後退し、付着物10は表面から露出した状態となる。
【0019】
従って、ウエハWの表面の自然酸化膜に埋まっており、当該ウエハWに強く吸着していた付着物10は、前処理によってウエハWとの間の付着力が弱くなる。すなわち、付着物10は、ウエハWの表面がエッチングされることによって露出し、ウエハW表面に僅かにだけ接触した状態となる。この時、後述するように、付着物10にシリコン酸化物が含まれている場合には、当該付着物10についてもフッ化水素の蒸気によりエッチングされるが、ここではウエハWの表面について着目して説明している。尚、図4では、ウエハW(下地膜12)の上面と付着物10の下面とを離間させて描画しているが、実際にはこれら下地膜12と付着物10とは僅かに接触している。また、ウエハWにフッ化水素の蒸気を供給する装置については、公知の気化器と処理容器とを組み合わせて構成されることから、洗浄方法を実施する処理装置と併せて後述する。
【0020】
続いて、ガスクラスターを用いて、ウエハWの表面から付着物10を除去する。このガスクラスターは、ウエハWの置かれる処理雰囲気よりも圧力の高い領域から処理雰囲気にガスを供給して、断熱膨張によりガスの凝縮温度まで冷却することによって、ガスの原子または分子が集合体として寄り集まって生成する物質である。図5には、ガスクラスターを発生させるためのノズル23の一例を示している。このノズル23は、上下方向に伸びると共に下端部が開口するように概略円筒形状に形成された圧力室32と、この圧力室32の下端部に接続され、圧力室32の下端周縁部から当該圧力室32の中央部に向かって周方向に亘って水平に縮径してオリフィス部32aをなすと共に、このオリフィス部32aから下方に向かうにつれて拡径するガス拡散部33と、を備えている。前記オリフィス部32aにおける開口径及びオリフィス部32aと載置台22上のウエハWとの間の離間距離は、夫々例えば0.1mm及び6.5mm程度となっている。このノズル23の上端側には、圧力室32内に例えば二酸化炭素(CO2)ガスを供給するためのガス供給路34が接続されている。
【0021】
そして、処理雰囲気における処理圧力を例えば1〜100Pa程度の真空雰囲気に設定すると共に、ノズル23に対して例えば0.3〜2.0MPa程度の圧力で二酸化炭素ガスを供給する。この二酸化炭素ガスは、処理雰囲気に供給されると、急激な断熱膨張により凝縮温度以下に冷却されるので、互いの分子同士がファンデルワールス力により結合して、集合体であるガスクラスターとなる。この時、ガス供給路34やノズル23の下方側におけるガスクラスターの流路には、当該ガスクラスターをイオン化するためのイオン化装置が設けられておらず、従ってガスクラスターは、図5に示すように、非イオン化の状態でウエハWに向かって垂直に照射される。
【0022】
ウエハWの表面の付着物10は、既述のように前処理により当該ウエハWとの間の付着力が極めて弱くなっていて、下地膜12の表面とわずかに接触した状態となっている。そのため、ウエハW上の付着物10にガスクラスターが衝突すると、図5に示すように、このガスクラスターの吐出圧力により付着物10がウエハWの表面から吹き飛ばされて除去される。この時、ガスクラスターは、下地膜12と反応性を持たない二酸化炭素ガスにより構成されている。また、ガスクラスターをイオン化せずに、非イオン化の状態でウエハWに照射している。そのため、既述の前処理によって露出しているウエハWの表面部である下地膜12は、ガスクラスターの照射によって削り取られたり、または当該下地膜12の内部に形成された電気配線がチャージアップしたりなどといったダメージが起こらないか、あるいは当該ダメージが極めて低いレベルに抑えられる。従って、ガスクラスター照射後のウエハWの表面は、自然酸化膜11の表面に倣ったままの状態となる。
【0023】
こうしてウエハWの面内に亘ってガスクラスターが照射されるように、ウエハWをノズル23に対して相対的に水平方向に移動させると、面内に亘って付着物10が除去されて洗浄処理が行われる。尚、既述のフッ化水素の蒸気により溶解した自然酸化膜11の副生成物として、水が発生する場合には、ウエハWを後述する温調機構によって加温することで水の残留を抑制することができる。
【0024】
続いて、ウエハWに対して既述のフッ化水素水溶液の蒸気を供給する装置やガスクラスターを照射する装置を含めた処理装置について、以下に説明する。始めに、フッ化水素の蒸気をウエハWに供給する装置について図6を参照して説明する。この装置には、ウエハWを載置する載置台41が内部に設けられた処理容器42と、この処理容器42内にフッ化水素水溶液の蒸気を供給するための前処理機構である気化器43と、が設けられて前処理モジュールをなしている。図6中44はウエハWの搬送口、45は載置台41上のウエハWの表面においてフッ化水素の蒸気の凝縮を抑えるためのヒーターである。
【0025】
載置台41上のウエハWに対向するように、処理容器42の天井面には、気化器43から伸びるガス供給路46の一端側が接続されており、このガス供給路46から例えば窒素(N2)ガスなどのキャリアガスと共にフッ化水素の蒸気がウエハWに供給されるように構成されている。図6中V及びMは夫々バルブ及び流量調整部である。
処理容器42の床面には、当該処理容器42内の雰囲気を排気するための排気口51が例えば複数箇所に形成されており、この排気口51から伸びる排気路52には、バタフライバルブなどの圧力調整部53を介して真空ポンプ54が接続されている。
そして、この処理容器42では、気化器43において蒸発したフッ化水素水溶液の蒸気がキャリアガスにより載置台41上のウエハWに対して供給されると、既述のように自然酸化膜11が溶解する。
【0026】
次に、ウエハWに対してガスクラスターを照射する装置について、図7を参照して説明する。この装置には、図7に示すように、ウエハWを内部に収納して付着物10の除去処理を行うための洗浄処理室21が設けられており、この洗浄処理室21内には、ウエハWを載置するための載置台22が配置されている。洗浄処理室21の天井面における中央部には、上方側に向かって円筒状に突出する突出部21aが形成されており、この突出部21aには既述のノズル23がガスクラスターの生成機構として設けられている。このノズル23は、この例では鉛直方向下方側を向いている。図7中40は搬送口であり、Gはこの搬送口40の開閉を行うゲートバルブである。
【0027】
例えば搬送口40に寄った位置における洗浄処理室21の床面には、ここでは図示を省略するが、載置台22に形成された貫通口を貫通するように配置された支持ピンが設けられている。そして、載置台22に設けられた図示しない昇降機構及び前記支持ピンの協働作用によって、載置台22に対してウエハWを昇降させて、洗浄処理室21の外部の図示しないウエハ搬送アームとの間においてウエハWを受け渡すように構成されている。洗浄処理室21の床面には、当該洗浄処理室21内の雰囲気を真空排気するための排気路24の一端側が接続されており、この排気路24の他端側にはバタフライバルブなどの圧力調整部25を介して真空ポンプ26が接続されている。
【0028】
載置台22は、当該載置台22上のウエハWに対して面内に亘ってノズル23が相対的に走査されるように、洗浄処理室21内において水平方向に移動自在に構成されている。具体的には、載置台22の下方における洗浄処理室21の床面には、X軸方向に沿って水平に伸びるX軸レール27と、当該X軸レール27に沿って移動自在に構成されたY軸レール29と、が設けられている。そして、既述の載置台22は、Y軸レール29の上方に支持されている。尚、載置台22には、当該載置台22上のウエハWの温調を行うための図示しない温調機構が設けられている。
【0029】
圧力室32の上端部には、洗浄処理室21の天井面を貫通して伸びるガス供給路34の一端側が接続されており、このガス供給路34の他端側は、バルブ36及び流量調整部35を介して、二酸化炭素の貯留されたガス源37に接続されている。前記圧力室32には、図示しない圧力計が設けられており、後述の制御部67により、この圧力計を介して当該圧力室32内に供給されるガス流量が調整されるように構成されている。尚、ウエハWから除去した付着物10が当該ウエハWに再付着することを防止するため、またパターン7へのダメージをできるだけ小さくするため、更には溝5の底面に付着した付着物10を除去しやすくするために、載置台22に対するノズル23の角度や距離を図示しない駆動部により調整するようにしても良い。後述するように、前処理においてガスクラスターを照射する場合においても、同様にノズル23の角度や距離を調整するようにしても良い、
【0030】
続いて、処理容器42及び洗浄処理室21を備えた処理装置の全体の構成について、図8を参照して説明する。この処理装置には、例えば25枚のウエハWが収納された密閉型の搬送容器であるFOUP1を載置するための搬入出ポート60が横並びに例えば3箇所に設けられており、これら搬入出ポート60の並びに沿うように、大気搬送室61が設けられている。この大気搬送室61内には、ウエハWを搬送するための多関節アームにより構成されたウエハ搬送機構61aが常圧搬送機構として設けられている。また、大気搬送室61の側方側には、ウエハWの向きの調整及び位置合わせを行うためのアライメント室62が設けられており、この大気搬送室61の側方側には、前記アライメント室62に対向するように、既述の処理容器42が接続されている。また、大気搬送室61における搬入出ポート60の反対側の面には、常圧雰囲気と大気雰囲気との間で雰囲気の切り替えを行うためのロードロック室63が気密に接続されている。この例では、ロードロック室63は、横並びに2箇所に設けられている。
【0031】
大気搬送室61から見た時に、ロードロック室63、63よりも奥側には、真空雰囲気にてウエハWの搬送を行う真空搬送機構である搬送アーム64aの設けられた真空搬送室64が気密に接続されており、この真空搬送室64には、既述の洗浄処理室21が気密に設けられている。また、真空搬送室64には、ウエハWにパターン7を形成するためのプラズマエッチング処理の行われるエッチング処理室65と、フォトレジストマスクのプラズマアッシング処理の行われるアッシング処理室66と、が夫々気密に接続されている。尚、この真空搬送室64に、付着物10を除去した後の処理である例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)処理などを行う処理チャンバーを気密に接続しても良い。
【0032】
この処理装置には、装置全体の動作のコントロールを行うためのコンピュータからなる制御部67が設けられており、この制御部67のメモリ内には、以上説明した前処理及び洗浄処理に加えて、エッチング処理及びアッシング処理を行うためのプログラムが格納されている。このプログラムは、ウエハWに対する処理に対応した装置の動作を実行するようにステップ群が組まれており、ハードディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク、メモリカード、フレキシブルディスクなどの記憶媒体である記憶部68から制御部67内にインストールされる。
【0033】
この処理装置では、搬入出ポート60にFOUP1が載置されると、ウエハ搬送機構61aによりウエハWが当該FOUP1から取り出される。このウエハWには、例えば既述のパターン7に対応するようにパターニングされたフォトレジストマスクが表面に積層されている。次いで、アライメント室62においてウエハWのアライメントが行われた後、このウエハWは大気雰囲気に設定されたロードロック室63に搬入される。そして、ロードロック室63内の雰囲気が真空雰囲気に切り替えられた後、ウエハWは搬送アーム64aによりエッチング処理室65及びアッシング処理室66をこの順番で搬送されて、既述のパターン7の形成及びアッシング処理がこの順序で行われる。次いで、ウエハWは、ロードロック室63及び大気搬送室61を介して処理容器42内に搬送されて既述の前処理が行われた後、洗浄処理室21に搬入されてガスクラスターの照射処理が行われる。その後、処理済みのウエハWは、ロードロック室63及び大気搬送室61を介して元のFOUP1に戻される。
【0034】
上述の実施の形態によれば、ウエハWの表面に付着した付着物10を除去するにあたり、ウエハWに対して前処理としてフッ化水素の蒸気の供給を行い、ウエハWの表面の自然酸化膜11を溶解させている。そのため、付着物10は、ウエハWの表面とわずかにだけ接触した状態となり、当該表面との付着力が極めて弱くなる。従って、この付着物10に対して二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射することにより、当該付着物10を容易に除去できる。そのため、既述のように微細なパターン7の形成されたウエハWであっても、例えばガスクラスターの照射速度を抑えて付着物10を除去できるので、例えばライン6の倒れなどといったダメージの発生を抑制できる。
【0035】
この時、二酸化炭素ガスは、ウエハWの下地膜12に対して反応性を持っていない。また、ガスクラスターをイオン化せずにウエハWに照射している。そのため、ウエハWにガスクラスターを照射した時に、当該ウエハWの表面が荒れたり、あるいは物理的に削れたりするダメージの発生が抑えられる。また、ガスクラスターをイオン化していないので、例えば既述の洗浄処理室21にはガスあるいはガスクラスターをイオン化する装置が不要になり、そのため装置のコストを抑えることができる。
【0036】
また、処理容器42内においてウエハWをフッ化水素の蒸気の雰囲気中に暴露しているので、前処理によりウエハWの全面に対して付着物10の付着力を一度に低下させている。そのため、例えば従来の反応性ガスのガスクラスターだけを用いて付着物10を除去していた例と比べて、短時間で面内に亘って均一に処理できるので、スループットを高めることができる。更に、前処理とガスクラスターの照射とを組み合わせることにより、ガスやガスクラスター、あるいは薬液だけを用いて付着物10の除去を行う場合と比べて、ガスや薬液の使用量を抑えることができる。この時、前処理及びガスクラスターの照射のいずれの工程においても、ウエハWに対して薬液を供給していないので、廃液処理に要するコストを抑えることができる。
【0037】
既述の前処理を行うことによって、ウエハWの表面が導電性を持たない自然酸化膜11から導電性を持つ下地膜12となり、いわば当該表面が導電性を持つようになる。そのため、付着物10と自然酸化膜11とが既述の物理的な固着力に加えて例えば静電気力により互いに吸着している場合であっても、前処理により当該静電気力がなくなるか弱くなるので、付着物10がウエハWから除去されやすくなる。また、自然酸化膜11と付着物10とが互いに化学的に結合している場合であっても、当該結合している自然酸化膜11をエッチングしていることから、既述のように付着物10を容易に除去できる。
【0038】
[第1の実施の形態の変形例:シリコン基板の酸化]
続いて、第1の実施の形態の変形例について、図9を参照して説明する。既述の第1の実施の形態では、ウエハWの表面の自然酸化膜11を除去する場合について説明したが、自然酸化膜11は膜厚などの制御が困難であるため、洗浄過程における制御性や再現性が必要である場合には、以下のようにして前処理が行われる。
【0039】
洗浄過程における制御性や再現性が必要な場合には、始めに当該下地膜12の表層の酸化処理を行う。具体的には、図9に示すように、ウエハWの表面に酸化ガスである例えばオゾンガスを供給する。このオゾンガスにより、付着物10と接触している下地膜12の表層が僅かに例えば1nmだけ酸化して、改質層である酸化膜13が生成する。その後、既述のフッ化水素の蒸気の供給と、二酸化炭素ガスからなるガスクラスターの照射と、をこの順番で行うことにより、付着物10が前記酸化膜13と共に面内に亘って除去される。この例では、オゾンガスによる下地膜12の酸化処理とフッ化水素の蒸気の供給とにより前処理が行われることになる。ウエハWに対してオゾンガスを供給する装置としては、既述の図6における気化器43に代えてオゾンガス供給源(図示せず)を備えた装置が用いられる。
【0040】
ここで、ウエハWの下地膜12の酸化処理を行うにあたり、当該ウエハWにオゾンガスを供給したが、オゾンガスに代えて、オゾン水(オゾンガスを含有した水溶液)を供給しても良い。このようなオゾン水を供給する前処理モジュールの一例について、図10を参照して簡単に説明する。尚、オゾン水により下地膜12が酸化される様子や、その後の酸化膜13のエッチング処理やガスクラスターの照射については既述の例と同様であるため、説明を省略する。
【0041】
この装置には、ウエハWに対してオゾン水を供給するための処理容器81と、ウエハWを載置するための載置台をなすスピンチャック82と、が設けられており、スピンチャック82は、ウエハWの下面側中央部を支持すると共に、駆動部83により鉛直軸周りに回転自在及び昇降自在に構成されている。このスピンチャック82の上方には、ウエハWに対してオゾン水を吐出するためのオゾン水ノズル84が前処理機構として設けられている。スピンチャック82の上方側には、当該スピンチャック82上のウエハWに対向するように、当該ウエハWに対して前処理を行う雰囲気を密閉するための蓋体85が図示しない昇降機構により昇降自在に設けられており、既述のオゾン水ノズル84は、この蓋体85の中央部に取り付けられている。スピンチャック82の側方側には、周方向に亘ってウエハWの周縁部を臨むように配置されたリング状の排気路86が形成されており、この排気路86の下面側には、バタフライバルブなどの圧力調整機構87を介して真空ポンプ88が接続されている。図10中81aはウエハWの搬送口、81bは前記搬送口81aを開閉するためのシャッターである。
【0042】
この処理容器81では、スピンチャック82に吸着保持されると共に鉛直軸周りに回転するウエハWの中央部に対して、オゾン水ノズル84からオゾン水が吐出されると、このオゾン水は遠心力によりウエハWの周縁部側に引き伸ばされていき、ウエハWの面内に亘って液膜を形成する。そして、既述の酸化処理が終了すると、スピンチャック82が高速で回転してオゾン水を外縁部に振り切り、その後図示しないリンスノズルから吐出されるリンス液によりウエハWの表面が洗浄される。
【0043】
以上の第1の実施の形態及び第1の実施の形態の変形例において、ウエハW上にパターン7の形成された例について説明したが、パターン7の形成されていない酸化シリコン膜やシリコン膜であっても、同様に前処理及び二酸化炭素ガスからなるガスクラスターの照射により付着物10が容易に除去される。即ち、例えばCVD法により形成する際に用いるソースガスには有機物が含まれているので、この有機物がウエハWの表面に付着物10として付着した場合には、以上説明した例と同様に除去される。
【0044】
また、以上の例では前処理を大気雰囲気において行ったが、真空雰囲気にて行っても良い。この場合には、前処理を行うための処理容器42と、洗浄処理を行う洗浄処理室21と、を夫々既述の図8に示す真空搬送室64に個別に接続しても良いし、これら処理容器42と洗浄処理室21とを共通化しても良い。具体的には、図11及び図12に示すように、真空搬送室64には、処理容器42を兼用する洗浄処理室21が気密に接続されており、この洗浄処理室21には、既述のノズル23に加えて、フッ化水素ガスの貯留されたガス源47が設けられている。この例では、突出部21aの外縁よりも外側における洗浄処理室21の天井面には、ガス源47から伸びるガス供給路46が複数箇所に設けられており、これらガス供給路46の開口端は、載置台22上のウエハWの中央部に向かうように各々配置されている。
【0045】
この図12に示す装置では、例えば洗浄処理室21内の圧力を、前処理を行う処理圧力に設定すると共にウエハWに対して前処理を行い、次いで洗浄処理室21内の圧力を前記処理圧力よりも低圧(高真空)に設定した後、既述の洗浄処理が行われる。
【0046】
[第2の実施の形態:ゲルマニウム膜]
次いで、本発明の第2の実施の形態について、図13〜図16を参照して説明する。この第2の実施の形態では、ウエハWのシリコン層14の上層側には、図13に示すように、ゲルマニウム(Ge)膜からなる下地膜12が形成されている。そして、この下地膜12の表面には、付着物10が付着している。この場合における付着物10は、前記下地膜12を例えばCVD法などにより形成する時に生成する副生成物などを含んでいる。この第2の実施の形態では、以下の前処理が行われる。
【0047】
具体的には、下地膜12の表面に、オゾンガスを供給する。このオゾンガスにより、下地膜12の表層には、図14に示すように、当該表層が僅かに酸化されて酸化ゲルマニウム(Ge−O)膜15が改質層として生成する。次いで、図15に示すように、このウエハWに対して例えば水蒸気(H2O)からなるガスクラスターを照射すると、酸化ゲルマニウム膜15が水蒸気に溶解してエッチングされる。そのため、これらオゾンガスによる下地膜12の酸化処理と水蒸気のガスクラスターの供給とによる前処理によって、図16に示すように、付着物10はウエハWの表面とわずかにだけ接触した状態となり、付着力が極めて弱くなる。この時、水蒸気からなるガスクラスターは、下地膜12であるゲルマニウム膜とは反応性を持っていない。そのため、水蒸気からなるガスクラスターにより、下地膜12に対するダメージが抑えられた状態で酸化ゲルマニウム膜15が選択的にエッチングされる。
【0048】
そして、このウエハWに対して二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射すると、当該ガスクラスターについても下地膜12であるゲルマニウム膜とは反応性を持っていないので、下地膜12にはダメージを与えずに、付着物10あるいは付着物10と共に水蒸気に溶解した酸化ゲルマニウム膜15が除去される。
【0049】
この第2の実施の形態の下地膜12を酸化する装置としては、既述の図6に示す装置において気化器43に代えてオゾンガス源の接続された構成が用いられる。また、水蒸気からなるガスクラスターを照射する装置としては、既述の洗浄処理室21と同じ構成の前処理室を真空搬送室64に気密に接続すると共に、ガス源37として純水を気化する気化器が設けられる。第2の実施の形態では、ウエハWにオゾンガスを供給するためのガス供給路46と、水蒸気からなるガスクラスターを照射するノズル23と、が前処理機構をなす。また、下地膜12を酸化するにあたり、既述の図10の装置を用いて、オゾンガスに代えてオゾン水をウエハWに供給しても良い。
【0050】
この時、オゾンガスのガスクラスターを用いる場合には、図17に示すように、二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射するガス供給路34やガス源37と共に、純水を気化する気化器38及びこの気化器38から伸びる水蒸気供給路39をノズル23に接続しても良い。従って、この例では、前処理におけるガスクラスターを生成する生成機構は、洗浄用ガスのガスクラスターの生成機構と同一のものである。この場合には、既に説明したように、下地膜12を酸化した後、水蒸気からなるガスクラスターの供給及び二酸化炭素ガスからなるガスクラスターの供給をこの順番で行っても良い。また、後述の実施例から分かるように、これらガスクラスターを同時にウエハWに供給して、酸化ゲルマニウム膜15のエッチング処理と付着物10の除去とを同時に行っても良い。また、酸化ゲルマニウム膜15をエッチングする時に、水蒸気からなるガスクラスターを供給することに代えて、気体である水蒸気あるいは液体である純水をウエハWに供給しても良い。この場合には、図6や図10の装置において、フッ化水素水溶液やオゾン水に代えて純水が用いられる。
【0051】
[第3の実施の形態:フォトレジストマスク]
次に、本発明の第3の実施の形態について、図18及び図19を参照して説明する。この実施の形態では、図18に示すように、ウエハWに既述のパターン7を形成するためのフォトレジストマスク16に付着した付着物10を除去する例を示している。即ち、フォトレジストマスク16に対して露光処理及び現像処理を行ってパターニングした後には、当該パターニングによりフォトレジストマスク16から除去された有機成分がフォトレジストマスク16の表面に付着物10として付着するので、この付着物10を以下のようにして除去している。
【0052】
具体的には、ウエハWの表面に対して既述の図6に示す装置を用いて、前処理としてフッ化水素の蒸気に代えてオゾンガスを供給すると、図19に示すように、フォトレジストマスク16の表面は僅かに酸化し、エッチングされるので、付着物10は、フォトレジストマスク16に対する付着力が極めて弱くなる。そのため、このウエハWに対して二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射すると、当該ガスクラスターは前記表面の下層側の下地膜12であるフォトレジストマスク16とは反応性を持っていないので、付着物10と共に改質層18が除去される。
【0053】
この例においても、オゾンガスに代えてオゾン水をウエハWに供給しても良い。また、前処理として、オゾンガスを用いてガスクラスターを発生させ、当該ガスクラスターによりフォトレジストマスク16の表面を酸化しても良いし、この場合にはオゾンガスのガスクラスターと二酸化炭素ガスのガスクラスターとを同時にウエハWに供給して、前処理と付着物10の除去とを同時に行っても良い。
また、フォトレジストマスク16上の付着物10を除去する場合には、前処理としては、オゾンガスの供給に代えて、図20に示すように、紫外線(UV)を照射しても良い。即ち、紫外線を照射することによって、フォトレジストマスク16の表面が劣化により硬化して脆くなる。そのため、このフォトレジストマスク16に対して二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射すると、同様に付着物10と共にフォトレジストマスク16の表面における硬化した層が除去される。従って、この例においては、二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射する工程は、前処理の一部(フォトレジストマスク16の表面のエッチング)を兼ねていると言える。あるいは、前処理として、オゾンガスの供給と紫外線(UV)を照射に同時に行っても良い。この場合、記述の例と同様に、表面のエッチングによって付着物10の付着力が極めて弱くなるので、このウエハWに対して二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射すると、付着物10は容易に除去される。
【0054】
ウエハWに紫外線を照射する装置について、図21を参照して簡単に説明する。この装置には、処理容器91と、この処理容器91内に設けられた載置台92とが配置されている。載置台92に対向する位置における処理容器91の天井面には、例えば石英などからなる透明窓93が気密に取り付けられており、この透明窓93の上方側に、載置台92上のウエハWに対して透明窓93を介して紫外線を照射するための紫外線ランプ94が前処理機構として設けられている。図21中95はガス供給管、96は例えば窒素ガスの貯留されたガス源であり、また97は真空ポンプ、98は搬送口である。この処理容器91は、例えば既述の真空搬送室64に気密に接続される。尚、ウエハWに紫外線を照射する前記処理容器91と、ウエハWにオゾンガスを供給する既述の図6の処理容器42とを共通化して、ウエハWに対してオゾンガスを供給しながら紫外線を照射しても良い。
【0055】
[第4の実施の形態:金属膜]
以下に、本発明の第4の実施の形態について図22及び図23を参照して説明する。この第4の実施の形態では、ウエハWのシリコン層14に積層した金属膜17あるいは既述の溝5内に埋め込んだ金属膜17上の付着物10を除去する例を示している。この例では、金属膜17は、例えばタングステン(W)により構成されている。即ち、金属膜17をCVD法などにより形成する時に用いられるソースガスには、既述のように有機物が含まれているので、図22に示すように、当該有機物からなる残渣が金属膜17の表面に付着物10として付着する場合がある。そこで、以下のようにしてこの付着物10を除去している。
【0056】
具体的には、図23に示すように、図6に示す装置を用いて、ウエハWに対して前処理として塩化水素(HCl)ガスを供給する。この塩化水素ガスにより、金属膜17の表層が僅かにエッチングされて除去されていく。そのため、付着物10は、金属膜17に対する付着力が極めて弱くなる。従って、このウエハWに対して、下地膜12である金属膜17に対して反応性を持っていない二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射すると、付着物10が容易に除去される。
この場合において前処理に用いられるガスとしては、塩化水素ガスに代えて、フッ化塩素(ClF3)ガスを用いても良い。また、金属膜17としては、タングステン膜に代えて、チタン膜であっても良い。
【0057】
[第5の実施の形態:付着物のエッチング]
ここで、本発明の第5の実施の形態について述べる。以上の各例では、前処理としてウエハWの表面をエッチングする例について説明したが、この第5の実施の形態では、ウエハWの表面をエッチングすることに代えて、付着物10の表面をエッチングしている。即ち、付着物10を構成する材質が既知の場合には、あるいは付着物10に含まれている材質の予測が立つ場合には、当該材質をエッチングすることにより、例えば付着物10の下端部は、ウエハW側から見ると上方側に後退することになる。従って、この場合にも付着物10がウエハWから脱離しやすくなり、同様に二酸化炭素ガスからなるガスクラスターにより当該付着物10を容易に除去できる。
【0058】
図24は、付着物10を構成する材質が酸化シリコンである場合についての例を示しており、当該付着物10は、ウエハWの表面である例えば金属膜17に付着している。この場合には、図25に示すように、フッ化水素の蒸気をウエハWに供給することにより、付着物10の表面がエッチングされるので、当該付着物10は、ウエハWの表面にいわば乗っているだけの状態となり、そのためその後二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射することにより容易に除去される。
【0059】
この第5の実施の形態では、付着物10が酸化シリコンである場合について説明したが、付着物10が有機物の場合にはオゾンや紫外線が前処理時にウエハWの表面に供給(照射)され、付着物10が金属粒子の場合には塩素系のガスが前処理時に供給される。また、付着物10がシリコンである場合には、既述の第1の実施の形態の変形例で説明したように、付着物10の表面のエッチングを行う前に、当該表面を予め酸化しても良い。更に、付着物10の内部が一様に同じ材質により構成されていなくても、付着物10の一部にエッチングされる物質が含まれていれば、当該一部をエッチングすることにより、同様にウエハWの表面に対する付着物10の付着力を低下させることができる。
また、図26に示すように、ウエハWの表面と付着物10の表面とに同じ材質この例では酸化シリコンが含まれている場合には、付着物10の表面と共にウエハWの表面についてもエッチングできるので、付着物10の付着力を更に低下させることができる。
【0060】
洗浄処理室21にてウエハWに照射するガスクラスターには、既述の各例では二酸化炭素ガスを用いたが、ガスクラスターに使用するガスとしては、二酸化炭素ガスに代えて、ウエハWの下地膜12に対して反応性を持たない非反応性ガス例えばアルゴン(Ar)ガスや窒素(N2)ガスを用いても良いし、あるいはこれらガスを混合して用いても良い。この時、二酸化炭素ガスからなるガスクラスターは、ガスクラスターのサイズ、すなわちガスクラスターの運動エネルギーが前記アルゴンガスや窒素ガスよりも大きく付着物10の除去効果が大きいので、この二酸化炭素ガスを用いてガスクラスターを生成させることが好ましい。
更に、後述の実施例に示すように、前記非反応性ガスと共に、ウエハWの表面または付着物10の表面をエッチングするエッチングガスによりガスクラスターを発生させ、いわば前処理(エッチング処理)と付着物10の除去処理とを同時に行っても良い。
【0061】
また、以上の各例において、洗浄工程あるいは前処理工程においてガスクラスターをウエハWに照射するノズル23については、各々一つだけ設けたが、各々複数配置しても良い。この場合には、各々のノズル23は、例えばウエハWの上方側において、当該ウエハWの外縁と同心円状となるようにリング状に複数並べると共に、このリング状に配置した複数のノズル23からなる照射部をウエハWの中心部側から外縁部に向かって複数周に亘って配置しても良い。また、ノズル23を複数配置する場合には、ウエハWの上方側に碁盤の目状に配置しても良い。
【0062】
以上説明した処理装置としては、前処理を行う装置と二酸化炭素ガスからなるガスクラスターを照射する装置とを備えた構成を挙げたが、これら装置を互いに個別にスタンドアローンの装置として配置して、これら装置間において外部のウエハアームによりウエハWの受け渡しを行っても良い。
また、本発明は、付着物10を除去するためのガスクラスターがイオン化していても、例えば解離の程度が弱い状態でイオン化していても権利範囲に含まれる。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明についての実験において得られた結果を説明する。この実験は、ベアシリコンウエハに対して粒径が23nmの酸化シリコン(シリカ)からなる粒子を吹き付けて当該ウエハを強制的に汚染させ、その後以下の実験条件に示す処理を行った時に、前記粒子の付着状況がどのように変化するか確認した。
【0064】
(実験条件)
比較例
ガスクラスターのガス:アルゴンガス100%
ガスクラスターノズルへの導入ガス圧力:0.899MPaG(ゲージ読み値)
実施例
ガスクラスターのガス:アルゴンガス95%+フッ化水素5%
ガスクラスターノズルへの導入ガス圧力:0.85MPaG(ゲージ読み値)
【0065】
比較例においてガスクラスターの照射前及び照射後において撮像したSEM(Scanning Electron Microscope)写真を図27の左側及び右側に夫々示す。図27では、アルゴンガスのガスクラスターの照射では粒子はほとんど除去されていないことが分かる。
一方、実施例においてガスクラスターの照射前及び照射後におけるSEM写真を図28の左側及び右側に夫々示すと、ガスクラスターの照射後には、ほぼ全ての粒子が除去できていることが分かる。従って、アルゴンガスのガスクラスターだけでは、粒子とウエハとの付着力に打ち勝つことができなかったが、アルゴンガスと共にフッ化水素ガスによりガスクラスターを発生させることにより、前記粒子を容易に除去できることが分かった。
【0066】
従って、フッ化水素のガスクラスターにより、既述のようにシリカ粒子の表面がエッチングされて、ウエハへの付着力が低下していると言える。そのため、実施例では、比較例より導入圧力が低くても、粒子を容易に除去できていた。この時、実施例では、アルゴンガスと共にフッ化水素ガスを用いてガスクラスターを発生させているが、これらガスを混合させることにより、前処理と洗浄処理とが同時に行われること、詳しくはシリカ粒子がエッチングされると速やかにアルゴンガスのガスクラスターにより除去されることが分かった。そのため、前処理と洗浄処理とを別個にこの順番で行った場合であっても、この実施例と同様に粒子を容易に除去できることが分かる。
【符号の説明】
【0067】
W ウエハ
7 パターン
10 付着物
11 自然酸化膜
12 下地膜
13 酸化膜
14 シリコン層
15 酸化ゲルマニウム膜
16 フォトレジストマスク
17 金属膜
23 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着物の付着した被処理体の表面から付着物を除去する洗浄方法において、
被処理体の表面及び付着物の少なくとも一方に対して、エッチング処理を含む前処理を行う工程と、
被処理体の置かれる処理雰囲気よりも圧力の高い領域から、前記被処理体の表面に露出している膜に対して反応性を持たない洗浄用ガスを処理雰囲気に吐出し、断熱膨張により前記洗浄用ガスの原子または分子の集合体であるガスクラスターを生成させる工程と、
前記前処理の行われた被処理体の表面に、洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程と、を含むことを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記前処理は、被処理体の表面及び付着物の少なくとも一方に対する改質処理と、この改質処理により改質された改質層に対するエッチング処理とを含むことを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記前処理を行う工程と前記付着物を除去する工程とは、同時に行われることを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記前処理は、前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程は、前記洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程においてガスクラスターを照射する生成機構と同一の生成機構を用いて照射する工程であることを特徴とする請求項4に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程は、前記洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程においてガスクラスターを照射する生成機構とは異なる生成機構を用いて照射する工程であることを特徴とする請求項4に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程は、ガスクラスターを照射する生成機構を複数配置して、これら生成機構からガスクラスターを照射する工程であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程は、ガスクラスターを照射する生成機構を複数配置して、これら生成機構からガスクラスターを照射する工程であることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか一つに記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記洗浄用ガスのガスクラスターを照射して、付着物を除去する工程は、ガスクラスターを照射する生成機構における被処理体に対する角度が可変な状態で行われることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一つに記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記エッチング処理を行うためにガスクラスターを照射する工程は、ガスクラスターを照射する生成機構における被処理体に対する角度が可変な状態で行われることを特徴とする請求項4ないし6または8のいずれか一つに記載の洗浄方法。
【請求項11】
付着物の付着した被処理体の表面から付着物を除去する被処理体の処理装置において、
被処理体がその内部に載置される前処理室と、
この前処理室内に載置された被処理体の表面または付着物の少なくとも一方に対してエッチング処理を含む前処理を行うための前処理機構を有する前処理モジュールと、
被処理体がその内部に載置される洗浄処理室と、
この洗浄処理室に設けられ、前記洗浄処理室の内部の処理雰囲気よりも圧力の高い領域から、前記被処理体の表面に露出している膜に対して反応性を持たない洗浄用ガスを処理雰囲気に吐出して、断熱膨張により前記洗浄用ガスの原子または分子の集合体であるガスクラスターを生成させ、前記付着物を除去するために、前処理後の被処理体に供給するガスクラスターノズルと、
前記前処理室及び前記洗浄処理室に対して被処理体の受け渡しを行う搬送機構と、を備えたことを特徴とする処理装置。
【請求項12】
前記前処理室は、内部が常圧雰囲気に保たれた常圧処理室であり、常圧雰囲気にて被処理体の搬送を行う常圧搬送室に接続され、
前記洗浄処理室は、内部が真空雰囲気に保たれた真空処理室であり、真空雰囲気にて被処理体の搬送を行う真空搬送室に気密に接続され、
前記常圧搬送室と前記真空搬送室との間には、内部の雰囲気の切り替えを行うためのロードロック室が設けられ、
前記常圧搬送室及び前記真空搬送室には、前記搬送機構として常圧搬送機構及び真空搬送機構が夫々設けられていることを特徴とする請求項5に記載の処理装置。
【請求項13】
前記前処理室及び前記洗浄処理室は、内部が各々真空雰囲気に保たれた真空処理室であり、
前記前処理室及び前記洗浄処理室との間には、前記搬送機構が配置された真空搬送室が気密に介在して設けられていることを特徴とする請求項5に記載の処理装置。
【請求項14】
前記前処理室及び前記洗浄処理室は、共通化されていることを特徴とする請求項7に記載の処理装置。
【請求項15】
前記真空搬送室には、前記前処理に先立って行われる真空処理あるいは付着物の除去を行った後に続く真空処理を行うための真空処理室が気密に接続されていることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか一つに記載の処理装置。
【請求項16】
被処理体の洗浄を行う処理装置に用いられ、コンピュータ上で動作するコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、請求項1ないし11のいずれか一つに記載の洗浄方法を実施するようにステップが組まれていることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2013−26327(P2013−26327A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157955(P2011−157955)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】