説明

洗浄方法及び洗浄装置

【課題】LSI用半導体ウエハやMEMS用基板のような微細構造を有する被洗浄物を、洗浄によるダメージを与えることなく、ガス溶解水により効果的に洗浄してこれらの被洗浄物を高度に清浄化する。
【解決手段】洗浄容器内10で、被洗浄物を、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含む洗浄液(過飽和ガス溶解液)と接触させて洗浄する。洗浄容器に、過飽和ガス溶解液を導入するか、或いは、洗浄容器内に洗浄液を導入した後加圧ガスを導入して洗浄容器内で過飽和ガス溶解液を調製した後、洗浄容器内で被洗浄物を過飽和ガス溶解液に接触させた状態で洗浄容器内を減圧し、過飽和ガス溶解液から発生した過飽和の溶存ガスの気泡で被洗浄物を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の被洗浄物の表面を効果的に洗浄する方法及び装置に関する。本発明の洗浄方法及び洗浄装置は、特に半導体用のシリコンウェハ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)用基板、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板、フォトマスク用石英基板等、高度な清浄度が要求される電子材料(電子部品や電子部材等)などの洗浄に好適である。
【背景技術】
【0002】
LSI用半導体ウェハ、MEMS用基板、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板、フォトマスク用石英基板などの電子材料の表面から、微粒子、有機物、金属などを除去するために、従来、いわゆるRCA洗浄法と呼ばれる過酸化水素をベースとする濃厚薬液による高温でのウェット洗浄が行われていた。RCA洗浄法は、電子材料の表面の金属などを除去するために有効な方法であるが、高濃度の酸、アルカリや過酸化水素を多量に使用するために、廃液中にこれらの薬液が排出され、廃液処理において中和や沈殿処理などに多大な負担がかかるとともに、多量の汚泥が発生する。
【0003】
そこで、特定のガスを純水に溶解させ、必要に応じて微量の薬剤を添加して調製したガス溶解水が、高濃度薬液に代わって使用されるようになってきている。ガス溶解水による洗浄であれば、被洗浄物への薬剤の残留の問題も少なく、洗浄効果も高いため、洗浄用水の使用量の低減を図ることができる。
【0004】
従来、電子材料用洗浄水としてのガス溶解水に用いられる特定のガスとしては、水素ガス、酸素ガス、オゾンガス、希ガス、炭酸ガスなどがある。
【0005】
ガス溶解水の洗浄効果は、ガスを溶解させていない水による洗浄効果に比べて高いものではあるが、その微粒子除去等の洗浄効果は十分に高いものとは言えず、ガス溶解水による洗浄効果を十分に発現させるためには、超音波洗浄を組み合わせる必要がある。例えば、特許文献1には、超純水に水素ガスを溶解させ、過酸化水素を添加した洗浄液を用い、この洗浄液に超音波を照射しながら被洗浄物を洗浄する洗浄方法が提案されている。
【0006】
しかし、超音波洗浄設備は高価なため、洗浄コストを引き上げる要因となる。
また、近年の電子材料は、従来にない微細な構造をもち、濃厚薬液によるわずかなエッチングや超音波により構造体に与えられるダメージが問題となっている。特に、LSI用半導体ウエハの微細パターン溝、コンタクトホールや、近年急速に開発・実用化が進んできたMEMS用基板の微細な凹凸のような微細構造にダメージを与えないように、濃厚薬液や超音波を使用しない新しい洗浄技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−296463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、超音波を用いることなく、LSI用半導体ウエハやMEMS用基板のような微細構造を有する被洗浄物を、ガス溶解水により、洗浄によるダメージを与えることなく効果的に洗浄して、これらの被洗浄物を高度に清浄化する洗浄方法及び洗浄装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、洗浄に用いる洗浄液に、飽和溶解度以上のガスを溶解させておき、その後、圧力を下げたときに、この過飽和の溶存ガスが活性な気泡となって洗浄液から発生すると、そのスクラブ効果、気泡衝突の衝撃力、気液界面の吸着力などの物理化学的な洗浄作用が、被洗浄物や被洗浄物の表面の微粒子等の汚泥物質に及ぼされることとなり、超音波を用いることなくガス溶解水による洗浄効果を向上させることができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 洗浄容器内で、被洗浄物を、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含む洗浄液(以下、この洗浄液を「過飽和ガス溶解液」と称す。)と接触させて洗浄する方法であって、該洗浄容器に、該過飽和ガス溶解液を導入するか、或いは、該洗浄容器内に洗浄液を導入した後加圧ガスを導入して該洗浄容器内で該過飽和ガス溶解液を調製する第1の工程と、該洗浄容器内で被洗浄物を該過飽和ガス溶解液に接触させた状態で、該洗浄容器内を減圧して該過飽和ガス溶解液から気泡を発生させる第2の工程とを含むことを特徴とする洗浄方法。
【0012】
[2] [1]において、前記第1の工程と第2の工程からなる洗浄工程を複数回行うことを特徴とする洗浄方法。
【0013】
[3] [2]において、前記洗浄工程と、次の洗浄工程との間に、前記洗浄容器内の洗浄液を入れ換える第3の工程を有することを特徴とする洗浄方法。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記溶存ガスが、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水素ガス、オゾンガス、清浄空気、及び希ガスよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする洗浄方法。
【0015】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記洗浄液が、純水又は超純水或いは薬剤を溶解させた純水又は超純水であることを特徴とする洗浄方法。
【0016】
[6] [5]において、前記薬剤が、アルカリ、酸、キレート剤及び界面活性剤よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする洗浄方法。
【0017】
[7] [6]において、前記アルカリがアンモニアであることを特徴とする洗浄方法。
【0018】
[8] 洗浄容器内で、被洗浄物を、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含む洗浄液(以下、この洗浄液を「過飽和ガス溶解液」と称す。)と接触させて洗浄する装置であって、密閉可能な耐圧性の洗浄容器と、該洗浄容器に該過飽和ガス溶解液を導入する手段と、該洗浄容器内を減圧する手段と、該洗浄容器内の洗浄液を排出する手段とを有し、該洗浄容器内で被洗浄物を該過飽和ガス溶解液に接触させた状態で、該洗浄容器内を減圧して該過飽和ガス溶解液から気泡を発生させることにより該被洗浄物を洗浄することを特徴とする洗浄装置。
【0019】
[9] 洗浄容器内で、被洗浄物を、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含む洗浄液(以下、この洗浄液を「過飽和ガス溶解液」と称す。)と接触させて洗浄する装置であって、密閉可能な耐圧性の洗浄容器と、該洗浄容器に該洗浄液を導入する手段と、該洗浄容器に加圧ガスを導入して、該洗浄容器内の洗浄液に、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含有させる手段と、該洗浄容器内を減圧する手段と、該洗浄容器内の洗浄液を排出する手段とを有し、該洗浄容器内で被洗浄物を該過飽和ガス溶解液に接触させた状態で、該洗浄容器内を減圧して該過飽和ガス溶解液から気泡を発生させることにより該被洗浄物を洗浄することを特徴とする洗浄装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ガス溶解水を用いた洗浄で、省資源かつ低コストに効率的な洗浄を行って、被洗浄物を高度に清浄化することができる(請求項1,8,9)。
【0021】
即ち、前述の如く、過飽和ガス溶解液を入れた洗浄容器の圧力を低くすると、過飽和ガス溶解液中の過飽和の溶存ガスが、ヘンリーの法則に従って気泡となって発生し、洗浄液と分離する。この過飽和の溶存ガスの気泡は洗浄容器内の至るところで発生し、被洗浄物の微細な凹部内においても、その表面に有効に作用する活性な気泡となる。
発生する気泡の量や活性の程度は、過飽和ガス溶解液の溶存ガス量(洗浄液へのガス圧入時の加圧ガス圧力や水圧に関係する。)やその後の減圧の程度などに依存するが、減圧により発生する気泡は、溶存ガスの更なる気化と気泡同士の合体等により次第に体積を増し、洗浄液表面に浮上して消える。この減圧に伴う気泡発生、成長、浮上の過程で、気泡のスクラブ効果、気泡衝突の衝撃力、気液界面の吸着力などの物理化学的な洗浄作用が、被洗浄物や被洗浄物の表面の微粒子等の汚泥物質に及ぼされることとなり、高い洗浄効果を得ることができる。しかして、この気泡による洗浄作用は、被洗浄物に対して大きなダメージを与えるものではなく、LSI半導体ウエハやMEMS用基といった微細構造体に対しても効果的な洗浄を行える。
【0022】
本発明において、洗浄容器内において、被洗浄物を過飽和ガス溶解液に接触させた状態とする第1の工程と、その後洗浄容器内を減圧して過飽和ガス溶解液から気泡を発生させる第2の工程とからなる洗浄工程を複数回繰り返し行うことにより、より一層高い洗浄効果を得ることができる(請求項2)。
また、このように洗浄工程を繰り返し行う場合において、洗浄工程間で洗浄液を入れ替えることにより、更にその洗浄効果が向上する(請求項3)。
【0023】
本発明において、前記溶存ガスとしては、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水素ガス、オゾンガス、清浄空気、及びアルゴンガスよりなる群から選らばれる1種又は2種以上が好ましい(請求項4)。
【0024】
また、ガスを溶解させる液としては純水又は超純水、或いはこれらに薬剤を溶解させたものを用いることが好ましく(請求項5)、この薬剤としては、アルカリ、酸、キレート剤及び界面活性剤よりなる群から選ばれる1種又は2種以上、特にアンモニアが好ましく、このような薬剤を含むことにより、より一層良好な洗浄効果を得ることができる(請求項6,7)。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の洗浄装置の実施の形態の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の洗浄方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
[被洗浄物]
本発明の洗浄方法の洗浄対象となる被洗浄物としては特に制限はないが、本発明はその優れた洗浄効果から、半導体用のシリコンウェハ、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板、フォトマスク用石英基板、MEMS用基板等、高度な清浄度が要求させる電子材料(電子部品や電子部材等)の洗浄に好適であり、とりわけ、LSI用半導体ウエハやMEMS用基板のように、微細パターンや微細凹凸を有し、その微細構造体の洗浄時のダメージが問題となる被洗浄物に対して有効である。
【0028】
[第1の工程]
本発明においては、まず、被洗浄物を入れた洗浄容器に過飽和ガス溶解液を導入するか、或いは、洗浄容器に洗浄液を導入した後、加圧ガスを導入して洗浄容器内で過飽和ガス溶解液を調製する。
ここで、過飽和ガス溶解液とは、該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含むものである。
【0029】
洗浄液の溶存ガス量が飽和溶解度未満では、その後の第2の工程で洗浄液から活性な気泡を発生させることができず、本発明による優れた洗浄効果を得ることはできない。
【0030】
洗浄液の溶存ガス量は、飽和溶解度以上で多い方が洗浄効果が高くなる傾向があるが、溶存ガス量を過度に多くすると、そのための加圧設備や洗浄容器の耐圧構造等が過大となり、実用的ではなくなる。従って、洗浄液の溶存ガス量は、飽和溶解度の1〜5倍、特に1〜3倍、とりわけ1.5〜3倍とすることが好ましい。
なお、以下において、飽和溶解度に対する溶存ガス量の倍数を飽和度と称し、例えば、飽和溶解度と等量であれば「飽和度1」、飽和溶解度の2倍量であれば「飽和度2」、飽和溶解度の3倍量であれば「飽和度3」と称す。
【0031】
過飽和ガス溶解液の溶存ガス種としては特に制限はなく、例えば、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水素ガス、オゾンガス、清浄空気、アルゴンガス等の希ガスが挙げられる。これらは1種のみが洗浄液中に溶存していてもよく、2種以上が洗浄液中に溶存していてもよい。2種以上のガスが洗浄液中に溶存している場合、その合計で飽和度1以上であればよい。
【0032】
予め調製した過飽和ガス溶解液を洗浄容器に導入させる場合、上述のようなガスを液中に飽和溶解度以上に溶解させる方法としては特に制限はないが、ガス溶解膜モジュールを用い、ガス溶解膜モジュールの気相室にガスを加圧供給して液相室内の液に溶解させる方法が挙げられる。
また、洗浄容器内で過飽和ガス溶解液を調製する場合には、後述の如く、洗浄容器に洗浄液を導入した後、この容器内に加圧ガスを導入すれば良い。
【0033】
上述のようなガスを溶解させて過飽和ガス溶解液を調製するための液体(以下「原水」と称す場合がある。)としては、一般に、被洗浄物を要求される清浄度に洗浄することができる程度に処理された純水又は超純水が用いられる。
【0034】
原水は、特定の溶存ガスのみを含む洗浄液を調製するためには、脱気処理した水であることが好ましく、また、脱気処理水であれば、ガスを効率的に飽和溶解度以上に溶解させることができる点においても好ましい。
脱気の程度としては、80%以上、望ましくは90%以上であることが好ましい。
ただし、原水の脱気処理は必須要件ではない。
原水の脱気処理には、通常、脱気膜モジュールを用いることができる。
【0035】
また、原水には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルカリ剤や、フッ化水素、塩化水素、硫酸などの酸、キレート剤、界面活性剤などの薬剤の1種又は2種以上を添加して洗浄機能性を高めることもできる。特に、アンモニア等のアルカリ剤を添加して、洗浄液のpHを7以上、好ましくは9〜14のアルカリ性に調整することにより、洗浄により被洗浄物から剥離した微粒子等の汚染物質の被洗浄物への再付着を防止するなどの効果で洗浄効果を高めることができる。なお、このpH調整にはアルカリ性薬剤を用いる他、アルカリ性ガスを用いても良いが、取扱いが簡便で濃度管理を容易に行えるアンモニアを用いることが好ましい。特にアンモニアを1mg/L以上、例えば1〜200mg/L程度添加して、pH7〜11に調整した洗浄液を用いることにより、良好な洗浄効果を得ることができる。なお、この洗浄液のpHが過度に高かったりアンモニアの添加量が過度に多いと、被洗浄物に対するダメージが出るおそれがあり、好ましくない。
原水へのアンモニア等の薬剤の添加は、ガスの溶解後であっても溶解前であっても良い。
また、これらの薬剤は、不純物を含まない高純度品を用いることが好ましい。
【0036】
[第2の工程]
本発明では、上記第1の工程後、洗浄容器内で被洗浄物を過飽和ガス溶解液に接触させた状態で、好ましくは、被洗浄物の全体を過飽和ガス溶解液に浸漬させた状態で、この洗浄容器内を減圧して過飽和ガス溶解液から気泡を発生させることにより、被洗浄物を洗浄する。
この減圧の程度としては特に制限はないが、一般的には大気圧とするのが簡便である。
これにより、過飽和ガス溶解液から気泡が発生し、その優れた洗浄作用で被洗浄物を効果的に洗浄することができる。
この第2の工程は、通常、洗浄容器内を減圧することによる洗浄液からの気泡の発生が終了するまで行われる。
【0037】
[洗浄工程の繰り返し]
上記の第1の工程と第2の工程よりなる洗浄工程は、これを繰り返し行うことにより、より一層優れた洗浄効果を得ることができる。
この場合、洗浄工程の繰り返し回数には特に制限はないが、2〜50回、特に2〜10回程度行うことが効果的である。この繰り返し回数が少な過ぎると、洗浄工程を繰り返し行うことによる洗浄効果の向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると洗浄効果に対して洗浄コスト、洗浄時間が過大となり、好ましくない。
【0038】
[第3の工程]
上述のように、洗浄工程を繰り返し行う場合、洗浄容器内の洗浄液を入れ換えずに行っても良いが、洗浄容器内の洗浄液を入れ換えることにより、その都度高清浄な洗浄液で洗浄を行うことができ、更に優れた洗浄効果を得ることができる。
【0039】
洗浄液を入れ換える第3の工程は、特に洗浄容器内で過飽和ガス溶解液を調製する態様において有効であり、この場合、次のような操作を行うことが好ましい。
(1) 洗浄容器に原水を導入した後、加圧ガスを圧入して、洗浄容器内で過飽和ガス溶解液を調製する(第1の工程)。
(2) その後洗浄容器内を減圧して気泡を発生させて被洗浄物を洗浄する(第2の工程)。
(3) 次いで、洗浄容器内の洗浄液を洗浄容器外へ排出する(第3の工程)。
(4) 上記(1)〜(3)の工程を必要回数繰り返す。
【0040】
洗浄容器内の洗浄液の入れ換えに際して、洗浄容器内に導入される洗浄液は、前回の洗浄工程で用いた洗浄液と同一のものであってもよく、原水の種類(薬剤の有無)、溶存ガスの種類やその飽和度が異なるものであってもよい。また、洗浄液を入れ換える第3の工程は、すべての洗浄工程間に設けずに、一部の洗浄工程間にのみ設けてもよい。
【0041】
[仕上げ洗浄]
本発明の洗浄方法においては、第2の工程後、洗浄容器内の洗浄液を排出した後、溶存ガスを含まない原水、好ましくは純水又は超純水を洗浄容器内に導入して再び排出する仕上げ洗浄(リンス洗浄)を行ってもよい。また、このリンス洗浄を複数回行ってもよい。
【0042】
[乾燥]
上記洗浄後は、洗浄容器から被洗浄物を取り出し、乾燥を行う。乾燥方法は特に限定はなく、スピン乾燥、IPA乾燥、IPAペーパー乾燥、マランゴニ乾燥、窒素ガスによるブロー乾燥等により行うことができる。
【0043】
[洗浄装置]
以下に、本発明の洗浄装置の一例を示す図1を参照して、本発明の洗浄装置及びこの洗浄装置を用いた本発明の洗浄方法をより具体的に説明する。
【0044】
図1において、10は、耐圧性の洗浄容器であり、蓋部10Aと容器部10Bとで分割可能であり、かつ、これらのフランジ部を当接することにより密閉可能な構造とされている。
11,12は、洗浄容器10の底部から洗浄液又はリンス水を洗浄容器10内に導入するための配管であり、開閉バルブVを有する。
13は、洗浄容器10の頂部から、洗浄液又はリンス水をオーバーフローするオーバーフロー用配管を兼ねた洗浄容器10内の減圧用のガス抜き配管であり、開閉バルブVを有する。
14は、加圧ガスを洗浄容器10内に導入するためのガス導入配管であり、開閉バルブVを有する。
15は、配管12を経て洗浄容器内の洗浄液排液を排出するための排出配管であり、開閉バルブVを有する。
【0045】
この洗浄容器10により、次のような手順で本発明に従って、被洗浄物を洗浄することができる。
【0046】
(1) 洗浄容器10の蓋部10Aを取り外し、洗浄容器10内に被洗浄物を入れる。洗浄容器10内で発生する気泡が効果的に被洗浄物に接触するように、被洗浄物の洗浄面が液面に対し垂直となるように設置することが好ましい。
洗浄容器10内に被洗浄物を入れた後は、蓋部10Aを取り付けて、洗浄容器10を密閉する。
(2) 開閉バルブV,Vを閉、開閉バルブV,Vを開として、洗浄液の原水を配管11,12を経て、配管13からオーバーフローするまで洗浄容器10内に導入し、その後、開閉バルブV,Vを閉とする。
(3) 開閉バルブVを開として、加圧ガスを配管14を経て洗浄容器10に圧入し、洗浄容器10内の原水に飽和溶解度以上にガスを溶解させて過飽和ガス溶解液を調製し、その後開閉バルブVを閉とする。このガス圧入時の加圧ガスの圧力は、調製される過飽和ガス溶解液の飽和度に比例するものであり、通常の場合、加圧ガス圧力は0.01〜2.0MPa、特に0.01〜1.0MPaとすることが好ましい。この加圧ガス圧力が低過ぎると過飽和ガス溶解液の飽和度が低いために洗浄効果が十分でなく、高過ぎると加圧設備、洗浄容器の耐圧構造が過大となる。
(4) 開閉バルブVを開として、洗浄容器10内を減圧し、過飽和ガス溶解液から気泡を発生させ、洗浄容器10内の被洗浄物を洗浄する。
(5) 気泡の発生が終了したら、開閉バルブV開のまま、開閉バルブV,Vを開として、洗浄容器10内の洗浄液を排出する。
(6) 必要に応じて、上記(2)〜(5)を繰り返す。或いは、(3),(4)を繰り返した後(5)を行う。
(7) 開閉バルブV,Vを閉、開閉バルブV,Vを開として、リンス水を配管11,12を経て、配管13からオーバーフローするまで洗浄容器10内に導入し、その後、リンス水の供給を停止した後、開閉バルブVを開いて、洗浄容器10内のリンス水を排出する。
このリンス洗浄も必要に応じて複数回行ってもよい。
【0047】
上記一連の工程が終了した後は、前述の如く、洗浄容器10から被洗浄物を取り出して乾燥する。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
図1に示す洗浄装置により、以下の汚染ウェハを被洗浄物として洗浄実験を行った。
【0050】
<被洗浄物>
半導体の製造工程の一部であるケミカルメカニカルポリッシングに用いられるシリカ研磨材で汚染させた後、乾燥させたシリコンウエハ(以下「汚染ウエハ」という。)
【0051】
洗浄手順は次の通りである。
(1) 洗浄容器10の蓋部10Aを取り外し、洗浄容器10内に汚染ウエハを入れ汚染ウエハ表面が垂直となるように固定した後、蓋部10Aを取り付けて、洗浄容器10を密閉した。
なお、洗浄容器は5MPaの耐圧容器であり、その容積は5Lである。
【0052】
(2) 開閉バルブV、Vを閉、開閉バルブV,Vを開として、超純水を配管11,12を経て、配管13からオーバーフローするまで洗浄容器10内に導入し、その後、開閉バルブV,Vを閉とした。
(3) 開閉バルブVを開として、加圧した窒素ガス(ガス圧力0.5MPa)を配管14を経て洗浄容器10に圧入し、洗浄容器10内の超純水に飽和度5となるように窒素ガスを溶解させて過飽和ガス溶解液を調製し、その後開閉バルブVを閉とした。
(4) 開閉バルブVを開として、洗浄容器10内を大気圧となるように減圧し、過飽和ガス溶解液から気泡を発生させ、洗浄容器10内の汚染ウエハを洗浄した。
(5) 気泡の発生が終了したら、開閉バルブV開のまま、開閉バルブV,Vを開として、洗浄容器10内の洗浄液を排出した。
(6) 開閉バルブV,Vを閉、開閉バルブV,Vを開として、リンス水として超純水を配管11,12を経て、配管13からオーバーフローするまで洗浄容器10内に導入し、その後、リンス水の供給を停止した後、開閉バルブVを開として、洗浄容器10内のリンス水を排出した。
(7) 洗浄容器10から洗浄したウエハを取り出して遠心力により水分を除去することにより乾燥した。
上記洗浄前後のウエハの微粒子数をトプコン社製「WM−1500 欠陥検査装置」を用いて測定し、除去率(洗浄前の微粒子数−洗浄後の微粒子数)/洗浄前の微粒子数 ×100)を算出し、結果を表1に示した。
【0053】
[実施例2]
実施例1において、工程(3),(4)を繰り返し、合計5回行った後、工程(5)に移行したこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表1に示した。
【0054】
[実施例3]
実施例1において、工程(3),(4)を繰り返し、合計10回行った後、工程(5)に移行したこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表1に示した。
【0055】
[実施例4]
実施例1において、工程(2)において、超純水にアンモニアを溶解させた1mg/L濃度のアンモニア水(pH9.4)を用いたこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表1に示した。
【0056】
[実施例5]
実施例4において、工程(3),(4)を繰り返し、合計5回行った後、工程(5)に移行したこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表1に示した。
【0057】
[実施例6]
実施例4において、工程(3),(4)を繰り返し、合計10回行った後、工程(5)に移行したこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表1に示した。
【0058】
[実施例7]
実施例5において、工程(3)における窒素ガス圧力を1.0MPaとして、飽和度10の過飽和ガス溶解液としたこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表1に示した。
【0059】
[実施例8]
実施例5において、工程(3)における窒素ガス圧力を1.5MPaとして、飽和度15の過飽和ガス溶解液としたこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表1に示した。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、工程(3),(4)を省略したこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表1に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1より、ガスの圧入、減圧を繰り返すことで、超音波を用いることなく、汚染ウエハ上の微粒子を効率的に洗浄除去できることがわかる。また、洗浄液にアンモニアを添加すると、一旦、汚染ウエハから剥離した微粒子の再付着が防止され、更に洗浄効果が向上することが分かる。
【0063】
[実施例9]
図1に示す洗浄装置を用い、実施例1で洗浄したものと同様の汚染ウエハを以下の手順で洗浄し、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表2に示した。
【0064】
(1) 洗浄容器10内に実施例1と同様に汚染ウエハを入れて固定した。
(2) 開閉バルブV,Vを閉、開閉バルブV,Vを開として、1mg/L濃度のアンモニア水(pH9.4)を配管11,12を経て、配管13からオーバーフローするまで洗浄容器10内に導入し、その後、開閉バルブV,Vを閉とした。
(3) 開閉バルブVを開として、加圧した窒素ガス(ガス圧力1.0MPa)を配管14を経て洗浄容器10に圧入し、洗浄容器10内のアンモニア水に飽和度10となるように窒素ガスを溶解させて過飽和ガス溶解液を調製し、その後、開閉バルブVを閉とした。
(4) 開閉バルブVを開として、洗浄容器10内を大気圧となるように減圧し、過飽和ガス溶解液から気泡を発生させ、洗浄容器10内の汚染ウエハを洗浄した。
(5) 気泡の発生が終了したら、開閉バルブV開のまま、開閉バルブV,Vを開として、洗浄容器10内の洗浄液を排出した。
(6) 開閉バルブV,Vを閉、開閉バルブV,Vを開として、リンス水として超純水を配管11,12を経て、配管13からオーバーフローするまで洗浄容器10内に導入し、その後、リンス水の供給を停止した後、開閉バルブVを開として、洗浄容器10内のリンス水を排出した。
(7) 洗浄容器10から洗浄したウエハを取り出して実施例1と同様に乾燥した。
【0065】
[実施例10]
実施例9において、工程(2)〜(5)を繰り返し、合計2回行った後、工程(6)に移行したこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表2に示した。
【0066】
[実施例11]
実施例9において、工程(2)〜(5)を繰り返し、合計5回行った後、工程(6)に移行したこと以外は同様にして汚染ウエハの洗浄を行い、同様に微粒子除去率を調べ、結果を表2に示した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2より、ガス注入、減圧を繰り返すだけでなく、更に洗浄液を交換することにより、洗浄効果がより一層向上することが分かる。
【符号の説明】
【0069】
10 洗浄容器
10A 蓋部
10B 容器部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄容器内で、被洗浄物を、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含む洗浄液(以下、この洗浄液を「過飽和ガス溶解液」と称す。)と接触させて洗浄する方法であって、
該洗浄容器に、該過飽和ガス溶解液を導入するか、或いは、該洗浄容器内に洗浄液を導入した後加圧ガスを導入して該洗浄容器内で該過飽和ガス溶解液を調製する第1の工程と、
該洗浄容器内で被洗浄物を該過飽和ガス溶解液に接触させた状態で、該洗浄容器内を減圧して該過飽和ガス溶解液から気泡を発生させる第2の工程と
を含むことを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の工程と第2の工程からなる洗浄工程を複数回行うことを特徴とする洗浄方法。
【請求項3】
請求項2において、前記洗浄工程と、次の洗浄工程との間に、前記洗浄容器内の洗浄液を入れ換える第3の工程を有することを特徴とする洗浄方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記溶存ガスが、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水素ガス、オゾンガス、清浄空気、及び希ガスよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする洗浄方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記洗浄液が、純水又は超純水或いは薬剤を溶解させた純水又は超純水であることを特徴とする洗浄方法。
【請求項6】
請求項5において、前記薬剤が、アルカリ、酸、キレート剤及び界面活性剤よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする洗浄方法。
【請求項7】
請求項6において、前記アルカリがアンモニアであることを特徴とする洗浄方法。
【請求項8】
洗浄容器内で、被洗浄物を、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含む洗浄液(以下、この洗浄液を「過飽和ガス溶解液」と称す。)と接触させて洗浄する装置であって、
密閉可能な耐圧性の洗浄容器と、
該洗浄容器に該過飽和ガス溶解液を導入する手段と、
該洗浄容器内を減圧する手段と、
該洗浄容器内の洗浄液を排出する手段と
を有し、
該洗浄容器内で被洗浄物を該過飽和ガス溶解液に接触させた状態で、該洗浄容器内を減圧して該過飽和ガス溶解液から気泡を発生させることにより該被洗浄物を洗浄することを特徴とする洗浄装置。
【請求項9】
洗浄容器内で、被洗浄物を、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含む洗浄液(以下、この洗浄液を「過飽和ガス溶解液」と称す。)と接触させて洗浄する装置であって、
密閉可能な耐圧性の洗浄容器と、
該洗浄容器に該洗浄液を導入する手段と、
該洗浄容器に加圧ガスを導入して、該洗浄容器内の洗浄液に、当該洗浄液の液温における飽和溶解度以上の溶存ガスを含有させる手段と、
該洗浄容器内を減圧する手段と、
該洗浄容器内の洗浄液を排出する手段と
を有し、
該洗浄容器内で被洗浄物を該過飽和ガス溶解液に接触させた状態で、該洗浄容器内を減圧して該過飽和ガス溶解液から気泡を発生させることにより該被洗浄物を洗浄することを特徴とする洗浄装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−204958(P2011−204958A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71676(P2010−71676)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】