説明

洗浄方法

【課題】フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合物を有する被洗浄物を、良好に除去できる洗浄方法を提供する。
【解決手段】フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合物を有する被洗浄物を、含フッ素化合物を含有する洗浄液に浸す浸漬工程を有する洗浄方法であって、前記含フッ素化合物が、炭素数5以上の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキル基を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)や大規模集積回路(LSI)等の各種基板の製造工程において好適に用いられる洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIやMEMSを製作するためには微細パターンが必要となる。このような微細パターンは、露光、現像、リンスを経て形成されるレジストパターンをマスクとして、エッチングを行い、その後洗浄を行って形成されるエッチングパターンである。エッチングには主としてフッ素系ガスを用いたプラズマエッチングが使用される。プラズマエッチングにおいてパターン寸法精度を向上させるには、プラズマ重合膜をパターン側壁に堆積させながら、エッチングを施すことが必要である。これにより、エッチングの際に生じるサイドエッチングを防止することができる。サイドエッチングとは、ガスプラズマで生じた反応種(例えばフッ素ラジカル)が横方向に拡散してパターン寸法を大きくする現象である。
例えば、シリコン酸化膜エッチングではCFガスプラズマ中に添加したハイドロトリフルオロカーボンCHFによりCFフラグメントが生じて(CFからなる構造を有するプラズマ重合膜が生じる。シリコンエッチングでは六フッ化イオウSFと、(CF源になるCのプラズマを交互に生じさせることにより、エッチングとプラズマ重合膜堆積を繰り返してサイドエッチングを防止できる。
【0003】
以上のように、プラズマエッチングではプラズマ重合膜の堆積が不可欠であるが、エッチング終了後には該プラズマ重合膜を除去することが必要である。すなわち、エッチングが終了したときには、例えば図3(a)に示すように、パターン53の側面にプラズマ重合膜54が堆積しているため、それを除去して図3(b)の状態とすることが不可欠である。図中符号51は基板、52は下地膜を示す。
プラズマ重合膜が残存していると、欠陥、汚染、パーティクルの原因となり、製造歩留まりの低下を引き起こすが、プラズマ重合膜の除去は容易ではない。またプラズマ重合膜は、詳細には上記(CFからなる重合体だけで構成されるわけではなく、シリコン等のエッチング反応物や被エッチング膜の下地膜成分(例えばタングステン等の金属)が包含されており、これらのエッチング残渣成分の存在がプラズマ重合膜の除去を一層難しくしている。
【0004】
また、かかるプラズマ重合膜は、プラズマエッチングを行う装置の内壁にも付着する。従来、装置内壁上のプラズマ重合膜の洗浄は、洗浄液に浸けてブラシ等で擦り落とす方法で行われていた。
【0005】
フッ素系溶剤を用いた洗浄方法としては、これまでクロロフルオロカーボン(CFC)を用いて油脂類等を洗浄除去する方法がよく知られているが、最近では、フッ素含量が多く、表面張力の小さいハイドロフルオロエーテル(HFE)やハイドロフルオロカーボン(HFC)を用いて、基板の洗浄が行われている。その洗浄プロセスとしては、例えば図4(a)に示すように、フッ素系溶剤61の中に常温で基板62を浸すととともに、超音波振動子からなる超音波発信器63でフッ素系溶剤61および基板62を振動させる。この後、図4(b)に示すように、ヒーター65でフッ素系溶剤を加熱することによって該溶剤を気化させ、これによって生じたフッ素系溶剤蒸気66を基板62にあてて基板62の表面をリンスした後に乾燥させる。
【0006】
下記特許文献1は、デバイス基板に付着しているレジストを含フッ素溶剤で洗浄する方法に関するもので、常温または30℃の含フッ素溶剤にデバイス基板を浸漬させる方法、予め超臨界状態とした含フッ素溶剤にデバイス基板を接触させる方法、常温または30℃の含フッ素溶剤にデバイス基板を浸漬させた後、該含フッ素溶剤を超臨界状態とする方法が記載されている。
【特許文献1】国際公開第2007/114448号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フッ素系溶剤を用いた一般的な従来の洗浄方法では、プラズマ重合膜を良好に除去できる程度の、高度な洗浄効果は得られない。
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合物を有する被洗浄物を、良好に除去できる洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の洗浄方法は、フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合物を有する被洗浄物を、含フッ素化合物を含有する洗浄液に浸す浸漬工程を有する洗浄方法であって、前記含フッ素化合物が、炭素数5以上の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキル基を有することを特徴とする。
前記含フッ素化合物が、ハイドロフルオロエーテルおよびハイドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
前記含フッ素化合物が、パーフルオロアルキル基とアルキル基がエーテル結合を介して結合されているハイドロフルオロエーテルであることが好ましい。
または、前記含フッ素化合物が、Cn+m2n+12m+1(ただし、nは5〜9の整数であり、mは0〜2の整数である。)で表わされるハイドロフルオロカーボンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗浄方法によれば、フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合物を有する被洗浄物を、良好に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<含フッ素化合物を含有する洗浄液>
[含フッ素化合物]
含フッ素化合物を含有する洗浄液(以下、フッ素系溶剤ということもある)に用いられる含フッ素化合物は、パーフルオロアルキル基を有する。
含フッ素化合物におけるパーフルオロアルキル基(以下、Rf基ということもある。)は、C2n+1(nは整数)で表される鎖状または分岐状のアルキル基の炭素原子に結合している全ての水素原子がフッ素原子によって置換されている基(C2n+1(nは整数))である。本発明において、該Rf基の炭素数(n)は5以上であり、6以上がより好ましい。該Rf基の炭素数(n)が5以上であると、プラズマ重合物の除去効果が高い。
含フッ素化合物が一分子内にRf基を2個以上有する場合、少なくとも1個が炭素数(n)5以上、より好ましくは6以上であればよい。より好ましくは、全てのRf基が炭素数(n)5以上、好ましくは6以上である。
また、炭素数(n)が6個以上の炭素−炭素結合連鎖を有するRf基は、エーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい。すなわちRf基は、C2p+1−O−C2q−(p、qはそれぞれ独立に1以上の整数であり、pまたはqの少なくとも一方は5以上である。)で表される基であってもよい。この場合のRf基の炭素数はpとqの合計(p+q)であり、6以上となる。上記p、qのうち、少なくともpは5以上であることが好ましい。
該Rf基の炭素数の上限は、洗浄後の乾燥性の問題や、液体としてハンドリングするための融点や粘性などの点からは10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。
パーフルオロアルキル基を有する含フッ素化合物は、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびハイドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。これらのうちでもハイドロフルオロエーテルおよびハイドロフルオロカーボンから選ばれる1種以上が、地球温暖化係数が小さく、環境負荷が小さい点で好ましい。
含フッ素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
ハイドロフルオロエーテルは、パーフルオロアルキル基とアルキル基がエーテル結合を介して結合されているものが好ましい。
炭素数5以上のRf基を有するハイドロフルオロエーテルの具体例としては、メチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCH)、エチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCHCH)、メチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCH)、エチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCHCH)、メチルパーフルオロヘプチルエーテル(C15OCH)、エチルパーフルオロへプチルエーテル(C15OCHCH)、メチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCH)、エチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCHCH)、メチルパーフルオロノニルエール(C19OCH)、エチルパーフルオロノニルエーテル(C19OCHCH)、メチルパーフルオロデシルエーテル(C1021OCH)、エチルパーフルオロデシルエーテル(C1021OCHCH)等が挙げられる。
【0012】
これらの中で、洗浄剤としての使いやすさ(洗浄後の乾燥性、室温で低粘性の液体として扱うことができる等)の観点から、メチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCH)、エチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCHCH)、メチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCH)、エチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCHCH)、メチルパーフルオロヘプチルエーテル(C15OCH)、エチルパーフルオロへプチルエーテル(C15OCHCH)、メチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCH)、エチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCHCH)が好ましい。
【0013】
ハイドロフルオロカーボンは、Cn+m2n+12m+1(ただし、nは5〜9の整数であり、mは0〜2の整数である。)で表わされるものが好ましい。
炭素数5以上のRf基を有するハイドロフルオロカーボンの具体例としては、
1H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、3H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、1H−トリデカフルオロヘキサン(C13H)、1H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、3H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、1H−ヘプタデカフルオロオクタン(C17H)、1H−ノナデカフルオロノナン(C19H)、1H−パーフルオロデカン(C1021H)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(C13CHCH)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、7,7,8,8−ヘプタデカフルオロデカン(C17CHCH)等が挙げられる。
【0014】
これらの中で、洗浄剤としての使いやすさ(洗浄後の乾燥性、室温で低粘性の液体として扱うことができる等)の観点から、1H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、3H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、1H−トリデカフルオロヘキサン(C13H)、1H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、3H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、1H−ヘプタデカフルオロオクタン(C17H)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(C13CHCH)が好ましい。
【0015】
パーフルオロカーボンとしては、鎖状または分岐状の炭化水素の全ての水素原子をフッ素原子に置換した化合物(全フッ素化炭化水素);鎖状または分岐状のアルキルアミンのアルキル基の全ての水素原子をフッ素原子に置換した化合物(全フッ素化アルキルアミン);
鎖状または分岐状のアルキルエーテルの全ての水素原子をフッ素原子に置換した化合物(全フッ素化アルキルエーテル)等が挙げられる。
該炭化水素、アルキルアミンのアルキル基、およびアルキルエーテルにおける好ましい炭素数は、上記Rf基の好ましい炭素数と同じである。
洗浄液における、含フッ素化合物の含有量は、50質量%超が好ましく、80質量%超がより好ましい。
【0016】
[他の含フッ素化合物]
上記炭素数5以上の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素化合物を用いるとともに、これに含まれない他の含フッ素化合物を併用してもよい。
他の含フッ素化合物としては、ハイドロクロロフルオロカーボン類(例えば、ジクロロペンタフルオロプロパン、ジクロロフルオロエタン等);含フッ素ケトン類;含フッ素エステル類、含フッ素不飽和化合物;含フッ素芳香族化合物等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
浸漬工程における温度および圧力条件において液体または超臨界流体であるものを選択して用いることが好ましい。
洗浄液(フッ素系溶剤)中における、これらの他の含フッ素化合物の含有量は、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0017】
[含フッ素アルコール]
本発明における洗浄液(フッ素系溶剤)は、含フッ素アルコールを含有してもよい。含フッ素アルコールとはフッ素原子およびヒドロキシ基を有する化合物を意味する。含フッ素アルコールは公知の化合物の中から、浸漬工程における温度および圧力条件において液体または超臨界流体であるものを選択して用いることが好ましい。また洗浄液に含まれる含フッ素化合物と共沸混合物を構成することがより好ましい。
含フッ素アルコールの具体例としては2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
洗浄液(フッ素系溶剤)中における、含フッ素アルコールの含有量は、後述する有機溶剤との合計量が5〜20質量%程度となる範囲が好ましい。
【0018】
[フッ素原子を有しない有機溶剤]
本発明における洗浄液(フッ素系溶剤)は、さらにフッ素原子を有しない有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は公知のものから、浸漬工程における温度および圧力条件において液状であるものを選択して用いることが好ましい。また洗浄液に含まれる含フッ素化合物と共沸混合物を構成することがより好ましい。
有機溶剤の具体例としては、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸塩類;ジメチルエタノールアミン、アリルアミン、アミノベンジルアミン等のアミン類等が挙げられる。
これらの有機溶剤はpH調整剤として用いることもでき、これらの添加によって、パーティクル再付着を防ぐために必要なゼータ電位を調整できる。
【0019】
[他の成分]
本発明における洗浄液(フッ素系溶剤)は、上記含フッ素化合物、他の含フッ素化合物、含フッ素アルコール、および有機溶剤の他に、必要に応じて、フッ素原子を有しない他の成分を含有することができる。
例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミド、アルキルモノグリセリルエーテル等のノニオン界面活性剤;アルキルジメチルアミンオキシド等の両性界面活性剤;モノアルキル硫酸塩等のアニオン界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤等の界面活性剤を、単独でもしくは2種類以上組み合わせて添加してもよい。
界面活性剤を添加する場合、その添加量は洗浄液(フッ素系溶剤)中0.01〜5質量%が好ましい。
【0020】
洗浄液(フッ素系溶剤)の調製方法は、特に限定されず、上記含フッ素化合物および必要に応じて添加される成分を均一に混合することにより得られる。
【0021】
<被洗浄物>
本発明の洗浄方法において、洗浄の対象である被洗浄物はプラズマ重合物を含む。
本発明におけるプラズマ重合物は、フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生する堆積物であり、フッ素含有ガスに、(CF源になるCFフラグメントを形成し得る化合物(例えばC、CHF)が含まれている場合に多く形成される。また、レジストパターンがプラズマエッチング中に分解されて生成するCHフラグメント等もプラズマ重合膜の形成に関与する場合もある。プラズマ重合物は、エッチング残渣成分を含有するものも含む。
プラズマ重合物は、フッ素系溶剤を用いた従来の洗浄方法では良好な洗浄が難しかったが、本発明の洗浄方法を用いることにより、良好に除去することができる。
【0022】
例えば、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)や大規模集積回路(LSI)を初めとする各種基板の製造工程において、基板上に堆積したプラズマ重合膜や、プラズマエッチングを行う装置の内壁に付着したプラズマ重合膜の除去に適用することが好ましい。
【0023】
<洗浄方法>
本発明の洗浄方法について説明する。被洗浄物として基板上のプラズマ重合膜を例に挙げて説明する。
[浸漬工程]
開放系または密閉系の容器中、基板をフッ素系溶剤(洗浄液)に浸す(浸漬工程)。このとき、以下の(a)または(b)のいずれかの条件で浸漬を行うことが好ましい。
(a)フッ素系溶剤の温度を80℃以上の温度に上げる。フッ素系溶剤は液体状態または超臨界状態とする。液体状態が好ましい。フッ素系溶剤の温度を、これに含まれる含フッ素化合物の沸点以上とする場合は、密閉系で加圧下に浸漬工程を行うことが好ましい。フッ素系溶剤の温度を、これに含まれる含フッ素化合物の沸点未満とする場合は、開放系で浸漬工程を実施してもよいが、密閉系または還流部を設けた装置で実施することが好ましい。
浸漬工程におけるフッ素系溶剤の温度の上限は特に限定されないが、200℃以下で充分な洗浄効果が得られる。該温度を必要以上に高くするとコスト的に不利になる。
(b)フッ素系溶剤の温度を室温(25℃)以上80℃未満とし、超音波を印加してフッ素系溶剤および基板を振動させる。
特に、プラズマ重合物を良好に除去できる点で(a)の条件がより好ましい。
(a)または(b)の条件で浸漬工程を行う方法は、プラズマ重合膜以外の被洗浄物をフッ素系溶剤で洗浄する方法として公知の方法を適宜用いて行うことができる。
【0024】
浸漬工程において、フッ素系溶剤に基板を浸漬させる時間(浸漬時間)は、短すぎると洗浄効果が不充分となり、長すぎると洗浄効率がおちるため、これらの不都合が生じない範囲に設定すればよい。例えば浸漬時間は1〜120分が好ましく、10〜60分がより好ましい。
また必要であれば、浸漬工程中にフッ素系溶剤を1回以上交換してもよい。フッ素系溶剤を交換する場合、フッ素系溶剤の種類、フッ素系溶剤の温度(t)、および/または雰囲気圧力を変えてもよい。
浸漬工程は、バッチ式でなく、フッ素系溶剤を適宜の流量で流し続ける連続式で行ってもよい。
【0025】
[超臨界工程]
本方法において、浸漬工程で液体状態のフッ素系溶剤中に基板を所定の浸漬時間だけ浸漬させた(浸漬工程)後、該フッ素系溶剤の温度を臨界温度以上とし、かつ雰囲気圧力を臨界圧力以上とすることにより、基板が浸漬されているフッ素系溶剤を超臨界流体とする工程(超臨界工程)を行ってもよい。
超臨界状態にすることにより拡散速度が上がるため、超臨界流体となったフッ素系溶剤が微細領域にまで浸透して、細部にわたっての洗浄が可能となる。これにより洗浄効果をより向上させることができる。また、超臨界流体となった状態で乾燥させると、超臨界状態では表面張力が作用しないために不要な応力がかからず、基板上に形成されたパターン等の構造体を壊すことなく乾燥させることができる。
【0026】
超臨界工程において、超臨界状態のフッ素系溶剤に基板を接触させる時間(接触時間)は、短すぎると洗浄効果が充分に向上せず、長すぎると効率が落ちるため、これらの不都合が生じない範囲に設定すればよい。例えば接触時間は1〜120分が好ましく、10〜60分がより好ましい。
【0027】
所定の浸漬時間が終了したら、あるいは超臨界工程を行った場合は所定の接触時間が終了したら、熱せられたフッ素系溶剤を排出する。さらに密閉系で行った場合は、密閉容器を開放して大気圧とする。そして、最後に基板を取り出す。その後、必要に応じて乾燥させる。
特に密閉容器中でフッ素系溶剤が標準沸点以上に熱せられた状態、または超臨界状態となっている場合は、密閉容器を開放させることによって、基板表面に付着していたフッ素系溶剤は瞬時に乾燥して、基板は乾燥状態になる。したがって、特定の乾燥手段を必要としない。
こうして、フッ素系溶剤で洗浄された基板が得られる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<プラズマ重合膜除去の試験例>
表1は、プラズマ重合膜を各種の含フッ素化合物からなるフッ素系溶剤を用いて洗浄したときの洗浄効果を示したものである。フッ素系溶剤(洗浄液)は表に示す含フッ素化合物の100質量%からなる。被洗浄物としては、Cガスプラズマを用いてシリコン基板上に堆積させた厚さ800〜900nmのプラズマ重合膜(パターニングされていないベタ膜)を用いた。
【0029】
[洗浄条件]
(1)30℃・超音波:大気圧中、30℃に温度調整したフッ素系溶剤に浸漬させ、超音波発信器でフッ素系溶剤および基板を振動させる方法で10分間洗浄した後、120℃のオーブンで1時間加熱乾燥した。
(2)100℃:密閉された空間中にフッ素系溶剤を導入し、100℃に加熱し、この状態のフッ素系溶剤に基板を1時間浸漬して取り出した。
【0030】
[評価]
各条件で洗浄した基板を目視で観察し、プラズマ重合膜が全面にわたって残留しているものは×、プラズマ重合膜の一部は除去できたが完全には除去できなかったものは△、完全に除去できたものは○とした。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果より、30℃で超音波条件で洗浄を行った場合も、100℃加熱条件下で洗浄を行った場合も炭素数5以上の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素化合物で洗浄を行った場合(試験例6〜10)には、プラズマ重合膜が完全に除去されることが確認できた。これはプラズマ重合膜は、その主成分と考えられる(CFからなる構造を有しており、フッ素系溶剤中のRf基(C2n+1)の炭素鎖がより長い(nがより大きい)方がプラズマ重合膜が膨潤しやすく、この結果溶解しやすくなるためと考えられる。
【0033】
図1、2は、SFガスプラズマとCガスプラズマの交互処理によりエッチングしたシリコンパターン(図1は幅100μm、図2は幅20μm、深さは両者とも40μm)の側面を、C13CHCH(試験例7)で洗浄したときの、洗浄の程度を調べたオージェ分光分析結果を示すグラフである。
洗浄は、80℃に加熱したC13CHCH(試験例7)に、密閉状態でパターンを30分間浸漬して取り出した。
この図の結果より、パターン幅やパターン深さに依存せずに、洗浄後は検出限界以下までフッ素濃度が低下している、すなわちプラズマ重合膜が完全に除去されていることがわかる。
【0034】
このように、本発明の洗浄方法によれば、フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合膜を有する被洗浄物を、良好に洗浄して該プラズマ重合膜を除去できる。
したがって、例えばフッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程に用いられたエッチング装置の内壁カバーに付着したプラズマ重合物や、該エッチング工程で加工されたパターン内壁のプラズマ重合膜を効率良く除去することができる。かかるプラズマ重合膜はプラズマ重合物のほかにエッチング残渣成分を含む場合が多いが、その場合でも良好にプラズマ重合膜を除去することができる。
【0035】
[実施例1]
シリコン基板上に公知のフォトリソグラフィを用いて50〜300nm幅のレジストパターンを形成した。このシリコン基板をSFガスプラズマとCガスプラズマの交互処理でエッチング加工して、シリコンからなるパターンを形成した。
この後、基板を密閉可能な容器に移載し、容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を導入し、基板を該フッ素系溶剤中に浸漬させた。
容器を密閉し、容器内およびフッ素系溶剤の温度を90℃に昇温した。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同様に作成した基板を、C13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を50℃に加温した洗浄槽に浸漬し、20〜100kHzのウルトラソニックで超音波加震による洗浄を10分間実施した後、C13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を沸点まで加熱した蒸気リンス槽に移送し、C13CHCH蒸気によるリンスを5分間実施した。この後、基板を蒸気リンス槽から取り出してそのまま乾燥させた。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0037】
[実施例3]
ガスプラズマ、またはCHFガスプラズマが使用されたエッチング装置の内壁カバーを密閉可能な容器に移載し、容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を導入し、該内壁カバーを該フッ素系溶剤中に浸漬させた。
この状態で、容器内およびフッ素系溶剤の温度を100℃に昇温した。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から内壁カバーを取り出した。乾燥は不要であった。得られた内壁カバーは、付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0038】
[実施例4]
銅配線が形成され、その上にメチルシルセスキオキサンからなる絶縁膜が形成された基板上に公知のフォトリソグラフィを用いて30〜100nm幅のレジストパターンを形成した。絶縁膜をCHF/CF/Ar混合ガスプラズマによりエッチング加工して絶縁膜パターンを形成した。この後、基板を、温度を100℃にした密閉可能な容器に移載して、密閉状態とした。容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を導入し、基板を該フッ素系溶剤中に浸漬させた。フッ素系溶剤を毎分100cc/minで流し続けながらパターン側壁に付着しているプラズマ重合膜を溶解・除去した。10分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0039】
[実施例5]
実施例1において、フッ素系溶剤を、C13H(試験例9)90質量%とジメチルエタノールアミン10質量%とを混合してアルカリ性とした混合液に変更し、容器内の温度を100℃とし、容器内の圧力が0.8MPaになるように背圧弁で調整した。その他は実施例1と同様にして基板をフッ素系溶剤中に30分間浸漬させた。この後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0040】
[実施例6]
本例では、Cガスプラズマを用いる誘導結合プラズマエッチング装置の内部にセットされる、セラミック製の装置部品を洗浄した。
まずセラミック製装置部品を密閉可能な容器に移載し、容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を満たした。
容器を密閉し、容器内およびフッ素系溶剤の温度を100℃に昇温した。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器からセラミック製装置部品を取り出した。乾燥は不要であった。
得られたセラミック製装置部品は、付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の洗浄方法によるプラズマ重合膜の洗浄効果を示す図である。
【図2】本発明の洗浄方法によるプラズマ重合膜の洗浄効果を示す図である。
【図3】プラズマ重合膜の除去工程を説明するための図である。
【図4】従来の基板の洗浄方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0042】
51 基板、
52 下地膜、
53 パターン、
54 プラズマ重合膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合物を有する被洗浄物を、含フッ素化合物を含有する洗浄液に浸す浸漬工程を有する洗浄方法であって、
前記含フッ素化合物が、炭素数5以上の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキル基を有することを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記含フッ素化合物が、ハイドロフルオロエーテルおよびハイドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記含フッ素化合物が、パーフルオロアルキル基とアルキル基がエーテル結合を介して結合されているハイドロフルオロエーテルである、請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記含フッ素化合物が、Cn+m2n+12m+1(ただし、nは5〜9の整数であり、mは0〜2の整数である。)で表わされるハイドロフルオロカーボンである、請求項2記載の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−283652(P2009−283652A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133953(P2008−133953)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】