説明

活性エネルギー線硬化型液体組成物及び液体カートリッジ

【課題】水溶性、活性エネルギー線硬化性、水性インクの形成材料などに用いた場合の安定性に優れた活性エネルギー線硬化型液体組成物の提供。
【解決手段】少なくとも、アミノ基を含有する加水分解性シランの縮合物に、下記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物を含んでなることを特徴とする活性エネルギー線硬化型液体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型インクジェットインクに代表されるような、新規の活性エネルギー線硬化型液体組成物、及びそれを含む液体カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体上に液体組成物を付与し、そこに活性エネルギー線を含む光を照射することによって、その液体組成物中の硬化性物質を硬化させ、硬化膜を形成し画像を形成する方法が知られている。このような活性エネルギー線硬化型液体組成物やそれを用いた各種塗料は、近年では、グラフィックアート、サインアート、ディスプレイパネル製造、ラベル記録、パッケージ記録、また電子回路基板の作製などに広く応用されている。中でも、このような活性エネルギー線硬化性物質を含有する液体組成物を、インクとしてインクジェット記録方法に応用する技術が知られている。
【0003】
このようなインクジェット記録方法に活性エネルギー線硬化型液体組成物を用いる場合には、それに用いる硬化性物質として、非水性又は水性のものを適用することが考えられる。非水性硬化性物質を用いる場合には、大別して2つのタイプに分けられる。そのうちの1つとしては、トルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤中に顔料を分散した所謂油性インクである。もうひとつのタイプとしては、上記のような有機溶剤を用いず、液状のモノマー、オリゴマー、及び顔料分散体を含有する所謂100%硬化型インク(ノンソルベントインク)である。
【0004】
前記したような油性インクを用いる場合には、有機溶剤が大気中に揮散しやすくなることから、環境への十分な配慮が必要である。また、前記100%硬化型インクは、記録媒体上に付与したインク成分を全て硬化膜としなければならないために記録部分と非記録部分で凹凸が発生しやすく、画像の光沢感を得ることが難しい。そのため、高い画質が要求される用途への展開は難しいのが現状である。
【0005】
一方、水性の硬化性物質を適用する場合には、溶剤として水を主成分とする水系溶剤を用いるため、溶剤の揮散による環境への負荷が比較的少ない。また100%硬化型インクのような凹凸の発生も低く抑えることが可能である。このようなことから、インクジェット記録方法に、水性の硬化性物質を適用した活性エネルギー線硬化性液体組成物を用いる技術は極めて有用である。このような事情から、水性の活性エネルギー線硬化型液体組成物の開発、また同時にそれに応用可能な親水性の各種反応性樹脂の開発が求められている。
【0006】
こういった状況の中で、水性の活性エネルギー線硬化性物質の例として、一つには、酸性基及び(メタ)アクリロイル基又はビニル基を共に有する親水性の硬化性物質が知られている。このようなものとしては、例えば、無水琥珀酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル、オルソ無水フタル酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル、ビニルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0007】
また、別の例として、水に可溶であり、1分子中に2つ以上の重合性官能基を有し、工業的に生産されている化合物として、ポリエチレンオキシド鎖によって親水性を付与した硬化性物質が知られている。このようなものとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0008】
また、特許文献1には、多官能の親水性硬化性物質が開示されている。ここに開示されている化合物は、親水性を付与するための手法として、分子中における水酸基の数を増やすことを目的として用いたものである。
【0009】
また、特許文献2及び3には、ポリアルコールから誘導される親水性ポリエポキシドの(メタ)アクリル酸エステルなどが開示されている。これらに開示されている化合物は、活性エネルギー線による硬化性や硬化物の物性が、ある程度満足できるものであり、化合物を水溶液としたときの粘度もインクジェット用インクに要求される水準を満たすものである。
【0010】
さらに、特許文献4には、スピロ環含有(メタ)アクリレート化合物に加えて、エチレン性不飽和基含有化合物を有するエネルギー線硬化型粉体塗料用組成物が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平8−165441号公報
【特許文献2】特開2000−117960号公報
【特許文献3】特開2002−187918号公報
【特許文献4】特開2003−165927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記に挙げたような従来の各技術に記載されている化合物を、インクジェット記録方法に適用できるような活性エネルギー線硬化型液体組成物の主要材料とするには十分でない場合があった。例えば、1分子中に1つの重合性官能基を有する化合物においては、1分子中に1つしか重合性官能基を有さないため、重合速度が遅く、また、硬化膜の架橋度が低い場合が多い。そのため、近年の更なる高耐久化の要求を考慮すると、これらを適用した液体組成物は硬化性や硬化膜特性が概して劣り、本発明が目的とする主要材料とはなりにくい。
【0013】
また、本発明者らの検討によれば、前記した水に可溶であり、1分子中に2つ以上の重合性官能基を有し、かつ、工業的に生産されている化合物については、以下のような課題があることがわかった。すなわち、これらの化合物は、エチレンオキシド鎖が短いと水溶性に劣り、逆に、エチレンオキシド鎖が長いと水溶性は得られるものの、硬化膜特性、特に、硬度、密着性、ベタつきなどの性能において十分でない場合がある。
【0014】
また、前記した特許文献1に記載された化合物は、水溶性を有し、かつ、活性エネルギー線により硬化が可能であるが、その用途は、記録媒体用のインク受容層であり、本発明の課題に対し適用できるか不明である。また、本発明者らの検討によれば、これらの化合物を含有させると、液体組成物とした場合に、粘性が高くなりやすく、応用の範囲が限られるという課題がある。
【0015】
また、本発明者らの検討によれば、前記した特許文献2及び3に記載された化合物は、以下のような課題がある。すなわち、このような(メタ)アクリル酸エステル基を有する水性硬化性物質を、水性インクの材料に用いた場合には、下記のようなことが起こることがあった。水性インクの色材には、一般に広く、アニオン性基によって水性媒体中に顔料が分散された顔料分散体が用いられている。一方、上記のような水性硬化性物質を水性インク中に含有させると、(メタ)アクリル酸エステル基の加水分解によるアクリル酸の生成に伴って、水性インクのpHが酸性領域まで低下することがある。このような状態になると、元のpHがアルカリ〜中性領域に調製されていて、元来、インク中に安定して存在していた染料が析出したり、顔料分散体の凝集或いは沈降が生じ、水性インクの保存安定性の観点において問題を生じる場合がある。さらに、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録方法において特に顕著であるが、インク中の硬化性物質が予期しない反応により不溶物を生成してしまい、吐出安定性の観点において問題を生じる場合もある。
【0016】
また、前記した特許文献4に記載された化合物の用途は粉体塗料用組成物であり、その化合物が、液体組成物に適用できるものであるかも、水溶性であるかも不明である。さらに、1官能性マレイミド化合物などが好ましいと記載されていることから、十分な硬化性が得られるかも不明である。
【0017】
上記課題に対して、本発明者らは、1分子中に複数の非加水分解性光重合性基を有し、かつ、水溶性を示す化合物を含有する活性エネルギー線硬化型液体組成物が有効であることを見出した。硬化性物質を水溶性化させる方法としては、上述のように様々な方法が提案されている。しかし、上述の方法と異なり、本発明の組成物は、硬化性物質として水溶性のシラン縮合物を基本骨格に有する化合物を応用したものである。一方、水溶性のシラン縮合物を基本骨格に有する化合物として、下記のように、アミノ基を有する水溶性のシラン縮合物やオルガノポリシロキサンを利用した公知例がある。
【0018】
例えば、特開平8−208997号公報、特開平8−208998号公報、特開2000−247984号公報、特開2001−17228号公報、特開2002−188057号公報には以下の公知例が開示されている。すなわち、アミノ基含有シラン化合物を縮合してなる水溶性オルガノポリシロキサン組成物及びその製造方法が開示されており、いずれもコーティング材料として使用されるものである。しかしながら、これらの公知例には、光硬化性樹脂ましてや光硬化性インクへの言及がなく、本発明の課題に対して適用できるか不明である。
【0019】
また、特開2001−49160号公報、特開2004−161847号公報は、それぞれ、アミノシランとアルキルシランの縮合物、アミノシランとβ−ジケトン構造を有するシランの縮合物を含有した無機顔料のインク組成物が開示されている。そして、この公知例は、分散インクに添加して用いることで、印字物の耐擦過性を改善する手法を開示している。しかしながら、上記公知例に開示されたシランの縮合物は、光硬化性を示すものではない。
【0020】
さらに、特開2005−29771号公報には、アミノシラン化合物とマレイミド化合物からなる硬化性組成物が開示されている。しかしながら、上記公知例は、アミノシラン化合物とマレイミド化合物を加熱条件下で硬化反応させることで、耐熱性の樹脂を得ることを目的としており、本発明の目的とは無関係である。
【0021】
したがって、本発明の第一の目的は、少なくとも、水溶性、活性エネルギー線硬化性、水性インクの形成材料などとして用いた場合の安定性、などが優れた化合物を含有する活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供することにある。具体的には、充分な水溶性を示し、活性エネルギー線によって速やかにかつ充分に硬化する化合物を含み、形成される硬化物が下記の優れた特性を有し、また、熱や保存に対する安定性にも優れた活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供することにある。該活性エネルギー線硬化型液体組成物によって形成される硬化物は、強度及び密着性に優れ、定着性及び耐マーカー性に優れたものとなる。また、本発明の第二の目的は、前記した活性エネルギー線硬化型液体組成物を用いることで、上記効果を有する実用価値の高い液体カートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記した目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明の第一の実施形態として、少なくとも、アミノ基を含有する加水分解性シランの縮合物に、下記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物を含んでなることを特徴とする活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供する。

(上記式(I)において、R1は置換基を含んでいてもよい2価の有機基を表す。R2は少なくとも一方のカルボニル炭素に隣接した炭素原子が炭素−炭素二重結合を有している、置換基を有していてもよい2価の有機基を表し、R3は水酸基若しくはハロゲン原子を表す。)
【0023】
また、本発明は、第二の実施形態として、(1)アミノ基を含有する加水分解性シランと、(2)下記一般式(II)で示される加水分解性シランとの縮合物に、下記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物を少なくとも含んでなることを特徴とする活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供する。

(上記式(I)において、R1は置換基を含んでいてもよい2価の有機基を表す。R2は少なくとも一方のカルボニル炭素に隣接した炭素原子が炭素−炭素二重結合を有している、置換基を有していてもよい2価の有機基を表し、R3は水酸基若しくはハロゲン原子を表す。)

(上記式(II)において、R4はアミノ基を含有しない非加水分解性の有機残基を表し、R5は加水分解性の有機残基を表し、nは0乃至3のいずれかを表す。)
【0024】
また、本発明は、第三の実施形態として、上記の活性エネルギー線硬化型液体組成物のうちいずれかを少なくとも収容してなる液体収容部を具備することを特徴とする液体カートリッジを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第一、第二の態様によれば、各種性能に優れた活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供することができる。特に、液体組成物を構成する成分の水溶性や硬化性、その安定性などが非常に優れた水性の活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供することができる。このため、インクジェット記録方法に対して極めて好適に応用可能な、吐出安定性や保存安定性に優れた液体組成物が提供されて、定着性及び耐マーカー性に優れた画像の形成を安定して行うことが可能となる。また、本発明の第三の態様によれば、上記の優れた効果を達成できる活性エネルギー線硬化型液体組成物が収容されてなる液体収容部を具備する、実用価値の高い液体カートリッジを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。勿論、本発明の範囲は、この例示に限られるものではない。本発明者らは、前述した背景技術を深く鑑み、鋭意検討の結果、1分子中に複数の非加水分解性光重合性基を有し、かつ、水溶性を示す反応物[A]を含有する活性エネルギー線硬化型液体組成物を見出した。本発明において、上記反応物[A]の一つは、アミノ基を含有する加水分解性シランの縮合物に、下記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物である。

(上記式(I)において、R1は置換基を含んでいてもよい2価の有機基を表す。R2は少なくとも一方のカルボニル炭素に隣接した炭素原子が炭素−炭素二重結合を有している、置換基を有していてもよい2価の有機基を表す。R3は水酸基若しくはハロゲン原子を表す。)
【0027】
また、上記反応物[A]の他の形態は、(1)アミノ基を含有する加水分解性シランと、(2)下記一般式(II)で示される加水分解性シランとの縮合物に、上記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物である。

(上記式(II)において、R4はアミノ基を含有しない非加水分解性の有機残基を表し、R5は加水分解性の有機残基を表し、nは0乃至3のいずれかを表す。)
【0028】
また、上記構成を有する本発明においては、前記一般式(I)中のR2が、下記構造式(III)、(IV)、(V)のいずれかで表される構造であることも好ましい形態である。

【0029】
上記一般式(I)で示される化合物において、R2が、構造式(III)、(IV)及び(V)のいずれかで表される構造である場合、というのは、上記一般式(I)について次のように言い換えることができる。すなわち、構造式(III)、(IV)及び(V)の順に、マレイミド誘導体、イタコンイミド誘導体、シトラコンイミド誘導体である。
【0030】
本発明者らは、上記したこれらの反応物[A]を含有してなる活性エネルギー線硬化型液体組成物を用いることで初めて、前記した目的に対して、容易に予期できない顕著な効果が発現されることを見出し、本発明を成すに至ったものである。すなわち、上記した反応物[A]を用いることで、特に、光硬化性と水溶性とを両立した活性エネルギー線硬化型液体組成物の提供が可能になる。そして、該液体組成物はインクジェット記録方法に極めて好適に適用可能である。より具体的には、該反応物[A]は、水溶性であり、活性エネルギー線による硬化性に優れ、水性インクの形成材料として用いた場合においても、安定性に優れたものとなる。さらに、該反応物[A]によって形成される硬化物は、強度及び密着性に優れ、定着性及び耐マーカー性に優れたものとなる。また、該反応物[A]を含有させて、インクジェット記録などに用いる水性インクのような液体組成物とした場合にも、上記した特性を有することは勿論、該液体組成物は、吐出特性に優れ、熱や保存に対して安定性に優れたものとなる。さらに、上記活性エネルギー線硬化型液体組成物を収容してなる液体収容部を具備した液体カートリッジを提供することで、定着性や耐マーキング性などに優れた画像を安定して得ることが可能となる。尚、本発明でいう、該化合物が水溶性であるとは25℃・1気圧下の純水に対し1質量%以上溶解することを意味している。
【0031】
本発明に用いる、加水分解性シランの縮合物は、分子中にアミノ基を有している。そして、このアミノ基と、一般式(I)で示される化合物中のカルボキシル基若しくは酸ハライド基とが付加反応し、アミド結合を有する上記反応物[A]が得られる。代表例として、アミノ基と、カルボキシル基との反応例を下記に示す。

【0032】
アミド結合は、親水性であることから、これを有する反応物[A]は、水溶性を有することができる。無論、上記反応において、アミノ基と、カルボキシル基又は酸ハライド基とは、1:1で反応させる必要はなく、アミノ基に対して適切な比率で反応させればよい。すなわち、親水性のアミノ基が残存するような比率で、アミノ基とカルボキシル基又は酸ハライド基とを反応させ、得られる反応物[A]の水溶性を高めることも可能である。用途や様式により異なるため一概には言えないが、前記反応物[A]は、25℃・1気圧下の純水に対して1質量%以上、溶解するものであることが好ましい。また、公知の分散技術を適宜用いて乳化分散し、エマルジョンとして用いてもよい。同様に様々なカプセル化技術も応用可能である。
【0033】
また、アミノ基を含有する加水分解性シランは、必要に応じて、他の加水分解性シランと縮合させた後に、前記一般式(I)で示される化合物と反応させてもよい。他の加水分解性シランとしては、前記一般式(II)で示される化合物が挙げられ、光硬化性インクとしての要求特性(硬化性、水溶性、硬化物の記録媒体への密着性、耐擦過性など)を満足させる目的で、該シランの種類を、適宜選択して用いることができる。例えば、アミノ基を含有する加水分解性シランと芳香族を有するシラン(代表的には、フェニルトリアルコキシシラン)との縮合物に対して、一般式(I)の化合物を反応させてなる反応物は、以下の特徴を有する。すなわち、該反応物を含有してなる活性エネルギー線硬化型液体組成物を、インク形態とした場合、得られる硬化物のガラス転移点(Tg)がフェニル基の存在により高くなり、印字物のべたつきを低減させることができる。
【0034】
また、別の例として、アミノ基を含有する加水分解性シランとジアルキルシロキサン構造を有するシランとの縮合物に対して、前記一般式(I)の化合物を反応させてなる反応物は、以下の特徴を有する。すなわち、該反応物を含有してなる活性エネルギー線硬化型液体組成物を、インク形態とした場合、ジアルキルシロキサン構造に由来する滑り性により印字物の耐擦過性を改善することができる。
【0035】
次いで、本発明に用いられる、アミノ基含有の加水分解性シランについて具体例に基づき詳細に説明する。本発明において、アミノ基含有の加水分解性シラン化合物とは、加水分解性基として、アルコキシ基又はハロゲン原子などを有するシラン化合物であり、具体的には、以下のものが挙げられる。H2NCH2Si(OCH3)3、H2NCH2Si(OCH2CH3)3、H2NCH2SiCH3(OCH3)2、H2NCH2SiCH3(OCH2CH3)2、H2NCH2CH2Si(OCH3)3、H2NCH2CH2Si(OCH2CH3)3
2NCH2CH2SiCH3(OCH3)2、H2NCH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2、H2NCH2CH2CH2Si(OCH33、H2NCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3、H2NCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2
2NCH2CH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2、H(CH3)NCH2CH2CH2Si(OCH3)3、H(CH3)NCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3、H(CH3)NCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2
H(CH3)NCH2CH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2、H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3
2NCH2CH2NHCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2、H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2、H(CH3)NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH3)3
H(CH3)NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3、H(CH3)NCH2CH2NHCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2、H(CH3)NCH2CH2NHCH2CH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2
2NCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、H2NCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3、H2NCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2
2NCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2、H2NCH2CH2HNCH264CH2CH2Si(OCH3)3、H2NC64Si(OCH3)3など。無論、本発明において、アミノ基含有の加水分解性シランは、上記化合物に限定されるものではない。
【0036】
また、本発明において、前記アミノ基含有加水分解性シランと共存/縮合させて用いてもよい、前記一般式(II)で示される加水分解性シランについて説明する。本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、前記一般式(II)で示される加水分解性シランを用いることで、インク形態とした場合、様々な機能が付与される。例えば、フェニル基含有シランを用いることで、得られる硬化物の堅牢性の向上が図られる。また、ジアルキルシロキサン構造を有するシラン若しくはフルオロシランを用いることで、記録媒体へのぬれ性の改善及び硬化物の耐擦過性の向上が図られる。前記一般式(II)で示される加水分解性シランの具体例としては、以下のものが挙げられる。アルコキシシランとしてSi(OCH3)4、Si(OCH2CH3)4など。アリールシランとしてC65Si(OCH3)3、C65Si(OCH2CH3)3、C65CH2Si(OCH2CH3)3、C65CH2CH2Si(OCH3)3、C64[(CH2CH2Si(OCH3)3)2など。アルキルシランとしてCH3Si(OCH3)3、CH3Si(OCH2CH3)3、CH3CH2Si(OCH3)3、CH3CH2Si(OCH2CH3)3、CH3CH2CH2Si(OCH3)3、CH3CH2CH2Si(OCH2CH3)3、CH3CH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH3CH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3、(CH3)2Si(OCH3)2、(CH3)2Si(OCH2CH3)2、(CH3CH2)2Si(OCH3)2、(CH3CH2)2Si(OCH2CH3)2、CH3(C65)Si(OCH3)2、CH3(C65)Si(OCH2CH3)2
(C65)2Si(OCH3)2、(C65)2Si(OCH2CH3)2など。ビニルシランとしてCH2=CHSi(OCH3)3、CH2=CHSi(OCH2CH3)3、CH2=CHC64Si(OCH3)3、CH2=CHC64Si(OCH2CH3)3など。エポキシシランとしてCH2OCHCH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3、CH2OCHCH2OCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3など。アクリルシラン又はメタクリルシランとしてCH2=CHCOOCH2CH2CH2Si(OCH3)3、CH2=CHCOOCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3、CH3CH=CHCOOCH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH3CH=CHCOOCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3、CH3CH=CHCOOCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2、CH3CH=CHCOOCH2CH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2など。フルオロシランとしてCF3CH2CH2Si(OCH3)3、CF3CH2CH2Si(OCH2CH3)3、CF3CF2CH2CH2Si(OCH3)3、CF3CF2CH2CH2Si(OCH2CH3)3、CF3CF2CF2CF2CH2CH2Si(OCH3)3
CF3CF2CF2CF2CH2CH2Si(OCH2CH3)3
CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH2Si(OCH3)3
CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH2Si(OCH2CH3)3など。無論、本発明において、一般式(II)で示される加水分解性シランは、上記化合物に限定されるものではない。
【0037】
これらの前記一般式(II)で示される加水分解性シランは、単独で、若しくは複数種類を組み合わせて、前記アミノ基含有の加水分解性シランと縮合させることができる。また、前記一般式(II)で示される加水分解性シランのみを縮合させた後、これに前記アミノ基含有の加水分解性シランをさらに縮合させてもよい。一方、前記一般式(II)で示される加水分解性シランとして、エポキシシランなど、アミノ基と反応性のある化合物を用いる場合、添加量、添加のタイミングなどで適宜ゲル化が起こらないように配慮が必要な場合がある。さらに、アクリルシラン又はメタクリルシランを用いる場合においては、加水分解による悪影響を及ぼさない範囲で、添加量などの配慮が必要な場合がある。
【0038】
本発明による活性エネルギー線硬化型液体組成物をインクジェット記録方法に応用し、その吐出安定性や硬化膜などの評価を行った。その結果、重合速度、硬化膜の架橋度が充分であり、硬化膜のベタつきが少なく、予期しない反応による不溶物の生成も許容範囲内で、pHの変化も少なく保存安定性は良好であった。さらに、記録媒体への密着性も高い性能を示した。すなわち、活性エネルギー線硬化型液体組成物として総合的に極めて優れた性能を呈した。
【0039】
このように優れた性能が発現する理由は明確ではないが、本発明者らは、以下のように推測している。先ず、水溶性であるが、この反応物[A]が有するアミド結合が親水性であること、また、反応物[A]が有するアミノシランやシロキサン骨格も高い親水性を有していることなどが要因ではないかと推測される。また、良好な硬化性については、この反応物[A]が持つ下記に挙げるような構造的な特徴などが要因となって発現したのではないかと推測される。先ず、反応物[A]は、カルボニル基と該カルボニル基の炭素原子に隣接した不飽和炭素−炭素結合を有す環状連結基を有している。そして、この構造が重合性を持つことと、さらにそれが多官能にあること、また構造的に架橋密度が上がりやすく緻密な硬化膜になりやすいことなどが要因ではないかと推測される。さらに、安定性については、反応物[A]の内部に比較的安定性に劣る結合様式(例えばアクリル酸エステル基)がないこと、或いは、少ないことなどが要因ではないかと推測される。さらに、記録媒体に対しての密着性に関しては、反応物[A]が有するアミノシランやシロキサン骨格が記録媒体に良好なヌレ性を示すことが一因と考えられる。
【0040】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、水を含有して水性組成物として用いてもよい。また、本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は色材を含んでいてもよい。その場合には、本発明にかかる液体組成物は、インクとして利用することができる。その場合の構成と用いる色材について述べる。
【0041】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、色材を含有するインクに応用することで、活性エネルギー線などの照射によって硬化する、着色された活性エネルギー線硬化型インクとして利用することができる。この場合に用いる色材としては、顔料を水性媒体に均一に分散した顔料分散体を用いることが好ましい。顔料分散体としては、水性グラビアインク、水性の筆記具用の顔料分散体や、従来から知られているインクジェット用インクに用いられる顔料分散体などを全て好適に用いることができる。中でも特にアニオン性基により水性媒体中に顔料が安定に分散した顔料分散体は極めて好適である。
【0042】
アニオン性基により水性媒体中に顔料が安定に分散した顔料分散体としては、下記の刊行物に記載されているようなものを用いることができる。例えば、特開平8−143802号公報、特開平8−209048号公報、特開平10−140065号公報、米国特許第5,837,045号明細書及び米国特許第5,851,280号明細書に開示されている。本発明の液体組成物においては、これらの刊行物に記載されているような種々の顔料分散体をその色材として用いることができる。
【0043】
また、用いる顔料としては、カーボンブラックや有機顔料などが挙げられる。カーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。勿論これら以外にも、従来公知のカーボンブラックを用いることができる。また、マグネタイト、フェライトなどの磁性体微粒子やチタンブラックなどを顔料として用いてもよい。
【0044】
有機顔料としては、例えば、以下のものを用いることができる。トルイジンレッド、ハンザイエローなどのアゾ系顔料。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジなどのイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料。
【0045】
応用可能な有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、以下のものを用いることができる。C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、55、74、83、86、93、97、98、109、110、117、120、125、128、137、138、139など。また、C.I.ピグメントイエロー:147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185など。C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61、71など。C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、202、209、215、216、217など。また、C.I.ピグメントレッド:220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272など。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50など。C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64など。C.I.ピグメントグリーン:7、36など。C.I.ピグメントブラウン:23、25、26など。勿論、これら以外にも、従来公知の各種有機顔料を用いることができる。
【0046】
なお、上記した各種顔料を用いる場合には、分散剤を併用してもよい。分散剤は、顔料を水性媒体に安定に分散することができるものであれば、特に限定を受けるものではないが、例えば、ブロックポリマー、ランダムポリマー、グラフトポリマーなどを用いることができる。一例として下記のものが挙げられる。スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、又はこれらの塩など。ベンジルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、又はこれらの塩など。
【0047】
また、上記した各種顔料を用いる場合には、顔料粒子の表面にイオン性基を結合させることにより、分散剤を用いることなく媒体に分散することができる、所謂、自己分散型顔料を用いることもできる。
【0048】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は色材として、各種染料を用いることもできる。以下に応用可能な染料を、染料カラーインデックス(C.I.)ナンバーで示す。C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、49、61、71など。C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、44、86、87、98、100、130、132、142など。C.I.アシッドレッド1、6、8、32、35、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、254、256、289、315、317など。C.I.ダイレクトレッド1、4、13、17、23、28、31、62、79、81、83、89、227、240、242、243など。C.I.アシッドブルー9、22、40、59、93、102、104、113、117、120、167、229、234、254など。C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、78、86、90、106、199など。C.I.ダイレクトブラック:7、19、51、154、174、195など。
【0049】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、前記したような色材を含有することなく、言うなれば「透明なインク」の形態として用いることもできる。この場合には、色材を含有しないので実質的に無色透明の被膜を得ることができる。このような「透明インク」の用途は、以下のものが挙げられる。例えば、画像記録への種々の適性を記録媒体に付与するためのアンダーコート、又は通常のインクで形成した画像の表面保護、さらには装飾や光沢付与などを目的としたオーバーコートなどの用途に用いることができる。この場合、液体組成物は、酸化防止や退色防止などの用途に応じて、着色を目的としない無色の顔料や微粒子などを分散して含有することもできる。これらを添加することによって、アンダーコート、オーバーコートのいずれにおいても、記録物の画質、堅牢性、施工性(ハンドリング性)などの諸特性を向上することができる。
【0050】
本発明の液体組成物は、一般的に広く知られている技術である反応性希釈剤を含んでいてもよい。代表的な例を挙げると、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン又はヒドロキシエチルアクリルアミド若しくはメチレンビスアクリルアミドなどのアクリルアミドなどが挙げられる。また、単糖類のモノアクリレート、オリゴエチレンオキシドのモノアクリル酸エステル、及び2塩基酸のモノアクリル酸エステルなども挙げられる。
【0051】
本発明の液体組成物は、様々な性能の向上を目的とし、本来の特性を損なわない程度に、各種添加剤を含むこともできる。例えば、ある種の有機溶剤はインクに不揮発性を与えること、粘度を調整すること、表面張力を調整すること、記録媒体へのぬれ性を与えることなどの目的で添加される。
【0052】
以下に、本発明に用いることのできる有機溶剤を列挙する。本発明の液体組成物においては、これらの中から任意に選択したものを添加することができる。エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類など。メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどの1価のアルコール類など。
【0053】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、重合開始剤を含有してもよい。この際に使用する重合開始剤としては、反応性を最大限に発揮するためにも親水性であることが好ましい。本発明に用いることができる親水性の重合開始剤は、活性エネルギー線によってラジカルを生成する化合物であればいずれのものでもよい。特に、本発明においては、下記一般式(イ)、(ハ)〜(ヘ)で表される化合物からなる群より選択される少なくともひとつの化合物を重合開始剤として用いることができる。
【0054】

上記一般式(イ)中、R6はアルキル基、又はアリール基であり、R7は、アルキルオキシ基、フェニル基、又はOMであり、Mは、水素原子、又はアルカリ金属であり、R8は下記一般式(ロ)で表される基である。
【0055】

上記一般式(ロ)中、R9は、−[CH2]x2−(x2は0乃至1)、又はフェニレン基であり、m2は0乃至10であり、n2は0乃至1であり、R10は、水素原子、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又はこれらの塩である。
【0056】
上記一般式(イ)の好ましい具体例としては、下記構造式[B]に示される化合物が挙げられる。

【0057】

上記一般式(ハ)中、m3は1以上であり、n3は0以上であり、m3+n3は1乃至8である。
【0058】
上記一般式(ハ)の好ましい具体例としては、下記構造式[C]に示される化合物が挙げられる。

【0059】

上記一般式(ニ)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子、又はアルキル基であり、m4は5乃至10である。
【0060】
上記一般式(ニ)の好ましい具体例としては、下記構造式[D]に示される化合物が挙げられる。

【0061】

上記一般式(ホ)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子、又はアルキル基であり、R13は、−(CH2)x−(xは0乃至1)、−O−(CH2)y−(yは1乃至2)、又はフェニレン基であり、Mは水素原子、又はアルカリ金属である。
【0062】

前記一般式(ヘ)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子、又はアルキル基であり、Mは水素原子、又はアルカリ金属である。
【0063】
これらの中では、一般式(イ)、(ハ)及び(ニ)で表される化合物を用いることが好ましく、さらには、一般式(イ)及び(ハ)で表される化合物を用いることが特に好ましい。無論、本発明はこれらに限られるものではない。
【0064】
また、本発明においては、重合開始剤と増感剤を組み合わせて用いたり、2種類以上の重合開始剤を組み合わせて用いることもできる。2種類以上の重合開始剤を組み合わせて用いることで、1種類の重合開始剤では有効に利用できない波長の光を利用して、更なるラジカルの発生を期待することができる。また、前記したような重合開始剤は、活性エネルギー線として電子線を用いて液体組成物を硬化する電子線硬化法を採用する場合には必ずしも用いる必要はない。
【0065】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、液体収容部を有するカートリッジ(液体カートリッジ)に収容される液体としても、また、その液体カートリッジの充填用液体としても有効である。また、本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、インクジェット記録方式の中でも、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する方式の記録ヘッド及びインクジェット記録装置における吐出液体として、極めて優れた効果をもたらすものである。
【実施例】
【0066】
以下、本発明にかかる活性エネルギー線硬化型液体組成物のより具体的な実施例及びその比較例を挙げてさらに詳細に説明する。勿論、本発明は下記実施例に限られるものではないことは言うまでもない。
【0067】
活性エネルギー線硬化型液体組成物によって形成される膜の、強度及び成膜性、密着性を評価するために、下記のようにして鉛筆硬度試験を行った。先ず、表1に示す成分を混合して十分撹拌した後、ポアサイズ1.2ミクロンのフィルタにて加圧濾過を行い、実施例1〜10及び比較例1〜4の液体組成物を調製した。その際に使用した例示化合物1〜5及び比較化合物1〜2の構造は、以下のように調製したものである。また、使用した重合開始剤である、化合物B、Cの構造は、それぞれ、前記構造式[B]、[C]に示す通りである。なお、特に指定のない限り、各液体組成物又はインク中の成分の量は「質量部」を意味する。また、本発明においては、1画素あたり約5plのドットで600×600dpiのピッチで画像の全てを埋め尽くす記録を100%ベタと呼称する。
【0068】
[例示化合物1の調製]
アミノ基を含有する加水分解性シランとして、H2NCH2CH2Si(OCH2CH3)3を用い、これをイオン交換水で縮合させ、アミノ基を含有するシラン縮合物を作製した。次いで、このシラン縮合物中のアミノ基に対して0.7当量の割合で、下記構造式(I−1)で示されるマレイミド誘導体を添加し、これらを付加反応させた。その後、得られた反応溶液から、反応溶媒、水を除去することにより例示化合物1を得た。

【0069】
[例示化合物2の調製]
例示化合物1におけるアミノシランをH2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3に変える以外は、例示化合物1と同様にして例示化合物2を得た。
【0070】
[例示化合物3の調製]
例示化合物1におけるマレイミド誘導体を下記構造式(I−2)で示されるイタコンイミド誘導体に変える以外は、例示化合物1と同様にして例示化合物3を得た。

【0071】
[例示化合物4の調製]
アミノ基を含有する加水分解性シランとして、H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3を、前記一般式(II)で示される加水分解性シランとしてC65Si(OCH2CH3)3で示されるアリールシランを用いた。そして、これらをモル比2:1の割合でイオン交換水を用いて縮合させ、シラン縮合物を作製した。次いで、このシラン縮合物中のアミノ基に対して0.7当量の割合で、前記構造式(I−1)で示されるマレイミド誘導体を添加し、これらを付加反応させた。その後、得られた反応溶液から、反応溶媒、水を除去することにより例示化合物4を得た。
【0072】
[例示化合物5の調製]
前記一般式(II)で示される加水分解性シランとして(CH3)2Si(OCH3)2で示されるアルキルシランを用い、これをイオン交換水を用いて縮合させた。次いで、アミノ基を含有する加水分解性シランであるH2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3を添加し、さらに縮合反応を進め、アルキルシラン/アミノシラン縮合物を作製した。次いで、このシラン縮合物中のアミノ基に対して0.7当量の割合で、前記構造式(I−1)で示されるマレイミド誘導体を添加し、これらを付加反応させた。その後、得られた反応溶液から、反応溶媒、水を除去することにより例示化合物5を得た。
【0073】
具体例で使用した比較化合物1、2は以下の通りである。

【0074】

【0075】

【0076】

【0077】
表1に示した各液体組成物を用いて、下記のようにして、その強度などを評価した。バーコーターを用いて、市販のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに、実施例1〜10及び比較例1〜4の液体組成物を20g/m2となるように付与した。このようにして得られたPETフィルムに、UV照射装置を用いて紫外線を照射し塗工膜を得た。ここで用いたUVランプは、UV硬化性評価装置モデルLH6B(FUSION UV Systems Inc.製)であり、照射位置での強度は1,500mW/cm2である。また、PETフィルムの搬送速度は0.2m/秒であった。このように形成した膜の鉛筆硬度を市販の鉛筆硬度試験機HEIDON−14D(新東化学製)を用いて測定した。測定結果を表2に示す。鉛筆硬度試験はJISに準拠している。
【0078】

【0079】
表2の実施例の結果に示されているように、実施例1〜10の液体組成物を用いて形成した各塗工膜において、実用上問題ない鉛筆硬度が得られた。なお、比較例1〜4の各液体組成物を用いて形成した膜は、硬化は進んでいるものの、いずれも、十分にはPETフィルムに定着せず、鉛筆硬度試験機での鉛筆硬度の測定ができなかった。
【0080】
続いて、色材を含んだインク状態とした場合の液体組成物について、硬化性、吐出安定性、保存安定性の各評価を行った。先ず、シアンの顔料分散体を以下のように調製した。顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を用い、分散剤としてスチレン/アクリル酸/エチルアクリレートのランダムポリマー(平均分子量=3,500、酸価=150)を用いた。そして、これらをビーズミルにて分散し、顔料固形分が10質量%で、P/B比(顔料とバインダーの質量比率)が3:1であるシアン顔料分散体を得た。次に、表3に示す成分を混合して十分撹拌した後、ポアサイズ0.50μmのフィルタを用いて加圧濾過を行い、実施例11〜20、並びに、比較例5〜6の各シアンインクを調製した。なお、インクのpHは最終的に8.5となるように0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整した。また、比較例5〜6には、上記で用いたのと同じ比較化合物1及び2を用いた。
【0081】

【0082】
前記のように調製した実施例及び比較例の各シアンインクの評価を下記の要領で行った。先ず、画像形成装置として、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出するオンデマンド型インクジェット記録装置PIXUS550i(キヤノン製)を用意した。そして、該装置に、活性エネルギー線の照射が可能なように改造を施し、これを試験に使用した。具体的には、記録ヘッド部に隣接する部分に、マイクロ波を用いて外部から無電極で水銀灯を励起するUVランプを搭載した。UVランプはDバルブを用いたが、照射位置での強度は1,500mW/cm2であった。このインクジェット記録装置を用いて、下記(1)から(3)に記載する評価方法及び評価基準にしたがって評価した。
【0083】
(1)インク硬化性能
(1)−1:定着性
実施例11〜20、並びに、比較例5〜6のそれぞれのシアンインク、及び前記の改造したインクジェット記録装置を用いて、オフセット記録用紙OK金藤(三菱製紙製)に100%ベタの画像を形成した。先述の液体組成物を付与した場合と同程度の照射条件で、インクジェット記録と平行する形で紫外線を照射し塗工膜(画像)を得た。そして、塗工膜形成の10秒後に、前記記録媒体にシルボン紙を載せ、記録面に40g/cm2の荷重を載せた状態でシルボン紙を引っ張った。その結果、記録媒体の非記録部(白地部)及びシルボン紙に、記録部の擦れによって汚れが生じるか否かを目視で観察して定着性の評価を行った。定着性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表4に示す。
A:擦れによる部分が見られない。
B:擦れによる汚れ部分が殆ど見られない。
C:擦れによる汚れ部分が目立つ。
【0084】
(1)−2:耐マーカー性
実施例11〜20、並びに、比較例5〜6のそれぞれのシアンインク、及び前記の改造したインクジェット記録装置を用いて、上記と同様の条件でもってPPC用紙(キヤノン製)に12ポイントの文字を記録した。そして、記録1分後に、蛍光ペンスポットライターイエロー(パイロット製)を用いて、文字部を通常の筆圧で1度マーク(上書き)し、文字の乱れの有無を目視で観察して耐マーカー性の評価を行った。耐マーカー性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表4に示す。
A:マーカーによる文字の乱れが生じない。
B:マーカーによる文字の乱れがわずかに生じる。
C:マーカーによる文字の乱れが著しく生じる。
【0085】
(2)吐出安定性
実施例11〜20、並びに、比較例5〜6のそれぞれのシアンインク、及び前記の改造したインクジェット記録装置を用いて、上記と同様の条件でもってPPC用紙(キヤノン製)に横罫線を連続して記録した。その後、罫線の太さ、ドットの着弾位置を目視で観察して、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表4に示す。
A:線の太さに変化がなく、着弾位置のずれもない。
B:多少の太りがある。
C:線の細りがあり、着弾位置のずれも多少見られる。
【0086】
(3)保存安定性
実施例11〜20、並びに、比較例5〜6のそれぞれのシアンインクを、テフロン(登録商標)容器に入れ、密封した。これを、暗所60℃のオーブン中で1ヶ月保存し、保存前後の顔料の平均粒子径を比較して、保存安定性の評価を行った。保存安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表4に示す。
A:平均粒子径の変化が保存前後で±10%以内である。
B:平均粒子径の変化が保存前後で±10%を超えて±15%以内である。
C:平均粒子径の変化が保存前後で±15%を超える。
【0087】

【0088】
表4に示されているように、実施例11〜20の液体組成物で形成した各塗工膜及び液体組成物において、優れた定着性、耐マーカー性、吐出安定性、保存安定性が得られた。なお、比較例5〜6の各液体組成物を用いた場合には、部分的にではあるが吐出時の着弾位置のずれや、保存後分散性に大きな変化が見られるものがあった。
【0089】
次に、実施例14に用いたシアン顔料分散体を調製するのと同様にして、下記のごとくイエロー顔料分散体及びマゼンタ顔料分散体を調製した。
【0090】
顔料としてC.I.ピグメントイエロー13を用いたこと以外は、シアン顔料分散体を調製するのと同様にして、顔料固形分10質量%、P/B比=3:1、平均粒子径130nmのイエロー顔料分散体を調製した。
【0091】
顔料としてC.I.ピグメントレッド122を用いたこと以外は、シアン顔料分散体を調製するのと同様にして、顔料固形分10質量%、P/B比=3:1、平均粒子径125nmのマゼンタ顔料分散体を調製した。
【0092】
次に各々の顔料分散体を用い、上記シアンインクと同様の工程でもってイエローインク、及びマゼンタインクを調製した。
【0093】
上記で得られたイエローインク及びマゼンタインクに加えて、実施例14のシアンインクを組み合わせて、3色のインクからなる実施例14’のインクセットとした。このインクセットの中の2色のインクを用いて、実施例14で用いたものと同じインクジェット記録装置を用い、オフセット記録用紙OK金藤(三菱製紙製)に画像を記録した。具体的には、イエロー及びマゼンタの100%ベタ記録、並びに、イエローとマゼンタを1画素おきに交互に50%ずつ印字し結果的に100%ベタ記録した画像(2次色レッド)を記録した。このように形成した画像の、イエロー、マゼンタ、及びレッドの部分について、実施例14と同様の方法及び評価基準で定着性の評価を行った(それぞれ実施例14Y、14M、及び14Rとした)。また、実施例14Yのイエローインク及び実施例14Mのマゼンタインクについて、実施例14と同様の方法及び評価基準で吐出安定性及び保存安定性の評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0094】

【0095】
表5に示されているように、実施例14’のインクセットにおいて実用上問題ない定着性が得られた。また、実施例14Y、14Mについては実用上問題ない吐出安定性、保存安定性が得られた。
【0096】
以上本発明によれば、活性エネルギー線による硬化性が良好であり、かつ色材を含有したインク形態とした場合においても、実用的な硬化性能が得られる。画像の定着性、耐マーカー性、吐出安定性、保存安定性に優れるインクや液体組成物を提供することができる。なお、上記した実施例は、本発明の基本的構成を説明するために挙げたものであり、例えば、色材として染料を用いても、上記実施例と同様の性能の液体組成物を提供することができることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、アミノ基を含有する加水分解性シランの縮合物に、下記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物を含んでなることを特徴とする活性エネルギー線硬化型液体組成物。

(上記式(I)において、R1は置換基を含んでいてもよい2価の有機基を表し、R2は少なくとも一方のカルボニル炭素に隣接した炭素原子が炭素−炭素二重結合を有している、置換基を有していてもよい2価の有機基を表し、R3は水酸基若しくはハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
(1)アミノ基を含有する加水分解性シランと、(2)下記一般式(II)で示される加水分解性シランとの縮合物に、下記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物を少なくとも含んでなることを特徴とする活性エネルギー線硬化型液体組成物。

(上記式(I)において、R1は置換基を含んでいてもよい2価の有機基を表し、R2は少なくとも一方のカルボニル炭素に隣接した炭素原子が炭素−炭素二重結合を有している、置換基を有していてもよい2価の有機基を表し、R3は水酸基若しくはハロゲン原子を表す。)

(上記式(II)において、R4はアミノ基を含有しない非加水分解性の有機残基を表し、R5は加水分解性の有機残基を表し、nは0乃至3のいずれかを表す。)
【請求項3】
前記一般式(I)中のR2が、下記構造式(III)、(IV)、(V)のいずれかで表される構造である請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型液体組成物。

【請求項4】
アミノ基を含有する加水分解性シランの縮合物に、前記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物の水溶性が、25℃・1気圧下の純水に対し1質量%以上溶解するものである請求項1又は3に記載の活性エネルギー線硬化型液体組成物。
【請求項5】
(1)アミノ基を含有する加水分解性シランと、(2)前記一般式(II)で示される加水分解性シランとの縮合物に、前記一般式(I)で示される化合物を付加させてなる反応物の水溶性が、25℃・1気圧下の純水に対し1質量%以上溶解するものである請求項2又は3に記載の活性エネルギー線硬化型液体組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型液体組成物のうちいずれかを少なくとも収容してなる液体収容部を具備することを特徴とする液体カートリッジ。

【公開番号】特開2009−102499(P2009−102499A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274862(P2007−274862)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】