説明

流体噴射方法

【課題】切除力と切除速度を独立して調整可能な流体噴射方法を実現する。
【解決手段】流体噴射装置1に係る流体噴射方法は、圧力室80の容積を圧電素子30及びダイアフラム40により変化させて流体噴射開口部96から流体をパルス状に噴射する脈流発生部20と、脈流発生部20に流体を供給するポンプ10と、が備えられ、ポンプ10から供給される流体供給流量と、圧力室80の容積変化の周波数(圧電素子30の駆動周波数に相当)と、を比例の関係で変化させる。圧力室80の容積変化量(排除体積)は切除力を変化させ、排除体積と駆動周波数の積は切除速度を変化させることから、切除力と切除速度を独立して調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体をパルス状に噴射する流体噴射方法、流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織を切開または切除する手術具として、脈流発生手段の駆動によって流体を脈流に変換して流体をパルス状に高速噴射させる流体噴射装置が提案されている。この流体噴射装置は、流体噴射条件を決定する複数の制御パラメーターを同時に変更する1入力多制御パラメーター変更手段により、適切な流体噴射条件で流体噴射が可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−39384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルス状に流体を噴射して生体組織を切開または切除する場合、パルス一個当たりの切除力と単位時間当たりの切除速度が重要な流体噴射条件となる。しかしながら、特許文献1では、予め想定された複数の制御パラメーターの中から1入力多制御パラメーター変更手段により1組の流体噴射条件を選択して流体噴射条件を決定しているため、きめ細かく流体噴射条件を設定するためには膨大なパラメーターの組み合わせを用意しておく必要がある。このことは、使用者にとって最適な流体噴射条件を都度選択することが容易ではなく、操作性が悪いことが推測される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例に係る流体噴射方法は、所定の流体供給流量の流体を圧力室に供給することと、所定の周波数で前記圧力室の容積を変化させることによって、脈流を発生させることと、前記脈流を噴射することと、を含み、前記流体供給流量が、前記周波数に比例することを特徴とする。
【0007】
ここで、圧力室の容積変化量はパルス一個当たりの切除力(切除深さ)を決定する。つまり、圧力室の容積変化量は圧力室から排出される流体の排除体積に相当する。そして、圧力室の容積変化の周波数は単位時間当たりの切除速度(切除軌跡長さ)を決定する。
【0008】
流体噴射開口部から噴射される流体噴射流量は、圧力室から排出される流体の排除体積と容積変化の周波数との積に比例すると考えられるので、流体噴射流量と容積変化の周波数は比例の関係になる。従って、圧力室の容積変化の周波数を高くすれば流体噴射流量も増加する。本適用例では、容積変化の周波数に比例して流体供給手段からの流体供給流量を変化させることが可能である。よって、流体噴射流量に対して必要とされる流体供給流量を確保し、パルス一個当たりの切除力と切除速度それぞれを独立して適切に調整できることから、膨大なパラメーターの組み合わせを用意することなく、使用者は最適な流体噴射条件で容易に流体噴射装置を操作することができる。
【0009】
[適用例2]上記適用例に係る流体噴射方法において、前記脈流を発生させることは、圧電素子に電圧を印加することによって前記圧力室の容積を変化させることを含み、前記圧力室の容積を減少させる期間に対応する電圧印加期間を、前記周波数に関わらず一定にすることが好ましい。
【0010】
圧力室の容積変化は、容積変更手段の駆動波形の変化に相当する。したがって、圧力室の容積を減少させている時間に対応して容積変更手段の変化時間を一定にすれば、容積変化の周波数を変えても容積の減少時間における駆動波形のスルーレートは変化しないので、パルス一個当たりの切除力は変わりにくい。従って、単に周波数を変化させるよりも、パルス一個当たりの切除力を一定に維持しながら、切除速度を変化させることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例に係る流体噴射方法は、前記流体供給流量は、前記圧力室から排出される流体の排除体積に比例することが好ましい。
【0012】
流体供給流量と容積変化の周波数とが比例の関係にある場合、周波数に対する流体供給流量の変化は勾配をもった直線で表される。この際、排除体積を変化させれば流体噴射流量も変化するため流体供給流量に過不足が発生する。そこで、排除体積の変化に応じて上述の直線の勾配を変化させることで流体供給流量の変化量を変更することができ、流体供給流量の過不足を適切に補いながら、排除体積すなわちパルス一個当たりの切除力を変化させることができる。従って、適用例1より広い範囲で、パルス一個当たりの切除力と単位時間当たりの切除速度それぞれを独立して調整でき、使用者は最適な流体噴射条件を容易に設定し操作することができる。
【0013】
[適用例4]上記適用例に係る流体噴射方法は、前記流体供給流量が、前記排除体積と前記周波数との積以上であることが好ましい。
【0014】
流体供給流量が流体噴射流量より少ない場合は供給不足によりパルス一個当たりの切除力が弱くなる。また、流体供給流量が流体噴射流量より多い場合は供給量過多となり流体噴射時以外に流体噴射開口部から流体が流出して手術部位の視認性が悪くなることが予測される。そこで、流体噴射開口部から噴射される流体噴射流量が圧力室から排出される流体の排除体積と容積変化の周波数との積に比例する場合、比例係数がほぼ1に近いときには、圧力室から排出される流体の排除体積と容積変化の周波数との積を流体噴射開口部から噴射される流体噴射流量として考えることができ、排除体積と周波数との積を流体供給量と等しくすることにより、所望のパルス一個当たりの切除力を得ると共に、良好な視認性を実現できる。
【0015】
なお、流体噴射装置の構造や流体の噴射の程度によっては、流体噴射直後に流体のイナータンス効果で流体が流体噴射開口部側に引き込まれて、排除体積よりも流体が多く流出されることが考えられる。このような場合、パルス一個当たりの切除力が弱くなる可能性がある。そこで、流体供給流量を排除体積と周波数との積よりも若干大きくすることにより、少なくともイナータンス効果による流出分だけ流体供給流量を増加することができるため、所望のパルス一個当たりの切除力を得ると共に、手術部位の視認性への影響を低減できる。
【0016】
[適用例5]本適用例に係る流体噴射装置は、所定の流体供給流量の流体を圧力室に供給する流体供給手段と、所定の周波数で前記圧力室の容積を変化させることによって脈流を発生させ、前記脈流を噴射する脈流発生手段と、前記流体供給流量が前記周波数に比例するように、前記流体供給手段及び前記脈流発生手段の少なくともいずれかを制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
流体噴射開口部から噴射される流体噴射流量は、圧力室から排出される流体の排除体積と容積変化の周波数との積に比例すると考えられるので、流体噴射流量と容積変化の周波数は比例の関係になる。従って、圧力室の容積変化の周波数を高くすれば流体噴射流量も増加する。本適用例では、容積変化の周波数に比例して流体供給手段からの流体供給流量を変化させることが可能である。よって、流体噴射流量に対して必要とされる流体供給手段からの流体供給流量を確保し、パルス一個当たりの切除力と切除速度それぞれを独立して適切に調整できる。従って、膨大なパラメーターの組み合わせを用意することなく、使用者は最適な流体噴射条件で容易に流体噴射装置を操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係る手術具としての流体噴射装置を示す構成説明図。
【図2】脈流発生部を流体の噴射方向に沿って切断した断面図。
【図3】駆動制御部の概略構成を示すブロック説明図。
【図4】圧電素子の駆動波形の1例を示す駆動波形図。
【図5】圧力室の容積変化を示す模式図であり、(a)は圧電素子に電圧を印加しない状態、(b)は電圧を印加した場合を示す。
【図6】駆動周波数と流体供給流量の関係を模式的に示すグラフ。
【図7】排除体積を変化させる場合の圧電素子の駆動波形を模式的に表す駆動波形図。
【図8】排除体積を変化させた場合の駆動周波数と流体供給流量の関係を模式的に示すグラフ。
【図9】実施形態2に係る駆動波形を模式的に表す駆動波形図。
【図10】流体供給流量と排除体積の関係を模式的に示すグラフ。
【図11】駆動周波数を変化させた場合の排除体積と流体供給流量の関係を模式的に示すグラフ。
【図12】繰り返し周波数を低くした場合の駆動波形を模式的に表す駆動波形図。
【図13】繰り返し周波数を高くした場合の駆動波形を模式的に表す駆動波形図。
【図14】繰り返し周波数をさらに高くした場合の駆動波形を模式的に表す駆動波形図。
【図15】排除体積と駆動周波数との積と流体供給流量との関係を模式的に表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明による流体噴射装置は、インク等を用いた描画、細密な物体及び構造物の洗浄、手術用メス等様々に採用可能であるが、以下に説明する実施形態では、生体組織を切開または切除することに好適な流体噴射装置を例示して説明する。従って、実施形態にて用いる流体は、水または生理食塩水等の液体である。
(実施形態1)
【0020】
図1は、実施形態1に係る手術具としての流体噴射装置を示す構成説明図である。図1において、流体噴射装置1は、流体を収容する流体供給容器2と、流体供給手段としてのポンプ10と、ポンプ10から供給される流体を脈流に変換させる脈流発生手段としての脈流発生部20と、ポンプ10と脈流発生部20の駆動を制御する制御手段としての駆動制御部15を備えている。ポンプ10と脈流発生部20とは流体供給チューブ4によって接続されている。
【0021】
脈流発生部20には、細いパイプ状の接続流路管90が接続され、接続流路管90の先端部には流路径が縮小された流体噴射開口部96を有するノズル95が挿着されている。
【0022】
また、脈流発生部20には、流体噴射条件切替え操作部25を有し、本実施形態では流体噴射条件切替え操作部として切除力ダイアル26、切除速度ダイアル27と、ON/OFFスイッチ28が備えられている。
【0023】
このように構成される流体噴射装置1における流体の流動を簡単に説明する。流体供給容器2に収容された流体は、ポンプ10によって吸引され、一定の圧力で流体供給チューブ4を介して脈流発生部20に供給される。脈流発生部20には、圧力室80(図2、参照)と、この圧力室80の容積を変化させる容積変更手段としての圧電素子30とダイアフラム40と、が備えられており、圧電素子30を駆動して圧力室80内において脈流を発生させ、接続流路管90、ノズル95を介して流体をパルス状に高速噴射する。
【0024】
ここで脈流とは、流体の流れる方向が一定で、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動を伴った流体の流動を意味する。脈流には、流体の流動と停止とを繰り返す間欠流も含むが、流体の流量または流速が周期的または不定期に変動していればよいため、必ずしも間欠流である必要はない。
【0025】
同様に、流体をパルス状に噴射するとは、噴射する流体の流量または移動速度が周期的または不定期に変動した流体の噴射を意味する。パルス状の噴射の一例として、流体の噴射と非噴射とを繰り返す間欠噴射が挙げられるが、噴射する流体の流量または移動速度が周期的または不定期に変動していればよいため、必ずしも間欠噴射である必要はない。
【0026】
次に、本実施形態に係る脈流発生部20の構造について説明する。
図2は、本実施形態に係る脈流発生部20を流体の噴射方向に沿って切断した断面図である。脈流発生部20は、ポンプ10から流体供給チューブ4を介して圧力室80に流体を供給する入口流路81と、圧力室80の容積を変化させる容積変更手段としての圧電素子30及びダイアフラム40と、圧力室80に連通する出口流路82と、を有して構成されている。入口流路81には流体供給チューブ4が接続されている。
【0027】
ダイアフラム40は、円盤状の金属薄板からなり、ケース50とケース70によって密着されている。圧電素子30は、本実施形態では積層型圧電素子であって、両端部の一方がダイアフラム40に、他方が底板60に固着されている。
【0028】
圧力室80は、ケース70のダイアフラム40に対向する面に形成される凹部とダイアフラム40とによって形成される空間である。圧力室80の略中央部には出口流路82が開口されている。
【0029】
ケース70とケース50とは、それぞれ対向する面において接合一体化されている。ケース70には、出口流路82に連通する接続流路91を有する接続流路管90が嵌着され、接続流路管90の先端部にはノズル95が挿着されている。そして、ノズル95には、流路径が縮小された流体噴射開口部96が開口されている。
【0030】
次に、本実施形態の駆動制御部の構成について説明する。
図3は、本実施形態に係る駆動制御部の概略構成を示すブロック説明図である。駆動制御部15は、ポンプ10の駆動制御を行うポンプ駆動回路152と、圧電素子30を駆動制御する圧電素子駆動回路153と、ポンプ駆動回路152と圧電素子駆動回路153とを制御する制御回路151と、を有して構成されている。
【0031】
なお、制御回路151には、ポンプ10からの流体供給流量を決定するポンプ10の駆動周波数と、パルス一個当たりの切除力を決定する圧力室80の容積変化量(圧力室80から排出される排除体積)と、切除速度を決定する圧力室80の容積変化の周波数(圧電素子30の駆動周波数に相当する)を、切除力ダイアル26、切除速度ダイアル27からの指令に基づき算出する演算回路が含まれている(図示せず)。また、圧電素子駆動回路153には、圧電素子30の所定の駆動波形を生成する波形形生成回路(図示せず)が含まれる。
【0032】
次に、本実施形態における脈流発生部20の流体吐出動作について図1、図2を参照して説明する。本実施形態の脈流発生部20の流体吐出は、入口流路81側の合成イナータンスL1と出口流路82側の合成イナータンスL2の差によって行われる。
【0033】
まず、イナータンスについて説明する。
イナータンスLは、流体の密度をρ、流路の断面積をS、流路の長さをhとしたとき、L=ρ×h/Sで表される。流路の圧力差をΔP、流路を流れる流体の流量をQとした場合に、イナータンスLを用いて流路内の運動方程式を変形することで、ΔP=L×dQ/dtという関係が導き出される。
【0034】
つまり、イナータンスLは、流量の時間変化に与える影響度合いを示しており、イナータンスLが大きいほど流量の時間変化が少なく、イナータンスLが小さいほど流量の時間変化が大きくなる。
【0035】
ここで、入口流路81側の合成イナータンスL1は、入口流路81の範囲において算出される。この際、ポンプ10と入口流路81を接続する流体供給チューブ4は柔軟性を有するため、合成イナータンスL1の算出から削除してもよい。
【0036】
また、出口流路82側の合成イナータンスL2は、本実施形態では出口流路82と接続流路91の範囲のイナータンスである。なお、接続流路管90の管壁の厚さは、流体の圧力伝播に対して十分な剛性を有している。
【0037】
そして、本実施形態では、入口流路81側の合成イナータンスL1が出口流路82側の合成イナータンスL2よりも大きくなるように、入口流路81の流路長及び断面積、出口流路82の流路長及び断面積を設定する。
【0038】
次に、流体吐出動作について説明する。
ポンプ10によって入口流路81には、所定の圧力で流体が供給されている。その結果、圧電素子30が動作を行わない場合、ポンプ10の吐出力と入口流路81側全体の流路抵抗の差によって流体は圧力室80内に流動する。
【0039】
ここで、圧電素子30に駆動信号が入力され、圧電素子30がダイアフラム40の圧力室80側の面に対して垂直方向(矢印A方向)に急激に伸長したとすると、伸長した圧電素子30によってダイアフラム40が押圧され、ダイアフラム40が圧力室80の容積を縮小する方向に変形する。圧力室80内の圧力は、入口流路81側及び出口流路82側の合成イナータンスL1,L2が十分な大きさを有していれば急速に上昇して数十気圧に達する。
【0040】
この圧力は、入口流路81に加えられていたポンプ10による圧力よりはるかに大きいため、入口流路81から圧力室80内への流体の流入はその圧力によって減少し、出口流路82からの流出は増加する。
【0041】
さらに、入口流路81側の合成イナータンスL1は、出口流路82側の合成イナータンスL2よりも大きいため、入口流路81から圧力室80へ流入する流量の減少量よりも、出口流路82から吐出される流体の増加量のほうが大きくなる。その結果、接続流路91にパルス状の流体吐出、つまり、脈流が発生する。この吐出の際の圧力変動が、接続流路管90内(接続流路91)を伝播して、先端のノズル95の流体噴射開口部96から流体が噴射される。
【0042】
ここで、流体噴射開口部96の流路径は、出口流路82の流路径よりも縮小されているので、流体はさらに高圧となり、パルス状の液滴となって高速噴射される。
【0043】
一方、圧力室80内は、入口流路81からの流体流入量の減少と出口流路82からの流体流出の増加との相互作用で、圧力上昇直後に真空状態となる。そして、圧電素子30を元の形状に復元すると、ポンプ10の圧力と、圧力室80内の真空状態の双方によって一定時間経過後、入口流路81の流体は圧電素子30の動作前(伸長前)と同様な速度で圧力室80内に向かう流れが復帰する。
【0044】
入口流路81内の流体の流動が復帰した後、圧電素子30の伸長があれば、流体噴射開口部96からパルス状の液滴を継続して噴射する。
(実施形態1に係る脈流発生部の駆動方法)
【0045】
続いて、脈流発生部20の駆動方法について説明する。
まず、圧電素子30の駆動波形について説明する。
図4は、圧電素子の駆動波形の1例を示す駆動波形図である。駆動波形の1周期は、正の電圧方向にオフセットして位相が−90度ずれたsin波形と休止期間とを合わせた時間である。圧電素子30は正の電圧が印加されると伸長(図2、矢印A方向)するものとすると、時間t1(以降、電圧上昇時間t1と表す)の区間は圧力室80の容積を減少させている時間に相当する。また、時間t2(電圧降下時間t2と表す)の区間では圧電素子30の電荷を除去する区間であって、圧電素子30は縮小する。つまり、電圧降下時間t2の区間では圧力室80の容積は増加する。
【0046】
ここで、駆動波形の周波数を変化させる場合には休止期間の長さを変えるので、電圧上昇時間t1は変わらず、電圧上昇のスルーレートが変わらない。従って、パルス一個当たりの切除力は変わらない。なお、本実施形態では、圧力室80の容積変化の周波数は、圧電素子30の駆動周波数に相当する。
【0047】
次に、駆動波形の1周期における圧力室の容積変化量について説明する。
図5は、圧力室の容積変化を示す模式図であり、(a)は圧電素子に電圧を印加しない状態、(b)は電圧を印加した場合を示している。なお、電圧印加期間における容積変化は、圧電素子30の圧電特性によって異なるが、本実施形態では電圧を印加することで容積を縮小させる場合を例示する。図5(a)は、圧電素子30は電圧が印加されない初期状態にあるので、圧力室80の容積も縮小されない状態(図中、ダイアフラム40の位置をBで示す)にある。
【0048】
なお、容積変化量はダイアフラム40の変位可能な面積と圧電素子30の伸長した分の長さの積で表される。
ここで、圧電素子30に所定の電圧を印加すると、図5(b)に示すように圧力室80の容積は減少される(図中、ダイアフラム40の位置をB’で示す)。ここで、ダイアフラム40がBからB’まで移動すると、圧力室80は、図中斜線で表す分だけ容積が変化する。そして、この容積に相当する流体が出口流路82から送出される。従って、以降、この圧力室80の容積変化分を流体の排除体積と表す。
【0049】
従って、圧電素子30の駆動電圧のゲインを固定すれば、圧電素子30による排除体積はほぼ一定である。ここで、排除体積を一定にした状態で、圧電素子30の駆動周波数を上げれば、駆動周波数に応じて流体噴射流量も比例的に増加する。よって、ポンプ10からの流体供給流量も流体噴射流量に合わせて増加させる必要がある。
(流体噴射方法)
【0050】
続いて、本実施形態における流体噴射方法について説明する。
図6は、駆動周波数と流体供給流量の関係を模式的に示すグラフである。
排除体積が初期設定の状態で圧電素子30の駆動周波数を変化させる場合を説明する。まず、切除力を切除力ダイアル26にて設定する。切除力ダイアル26では所望の排除体積を選択して以降固定する。なお、切除力ダイアル26による切除力の設定は、圧電素子30の圧電定数などの条件が既に分かっている場合には、排除体積を決める条件となる駆動電圧のゲインを排除体積の代わりに用いてもよい。
【0051】
そして、切除速度ダイアル27を操作して所望の駆動周波数を選択し、流体噴射流量を設定する。流体噴射流量は、排除体積と圧電素子30の駆動周波数の積で算出される。従って、排除体積が一定の場合、圧電素子30の駆動周波数を高くすることで、流体噴射流量が駆動周波数に比例し増加する。流体噴射流量を増加させると切除速度が高くなる。
【0052】
このように駆動周波数を高くして流体噴射流量を増加させる場合には、ポンプ10からの流体供給流量を増加させる必要がある。そこで、図6に示すように、圧電素子30駆動周波数に比例する関係となるようにポンプ10からの流体供給流量を決定する。
なお、圧電素子30の駆動周波数とポンプ10の流体供給流量は、制御回路151に含まれる演算部によって演算され、圧電素子駆動回路153、ポンプ駆動回路152に入力し、それぞれの駆動条件で駆動する。
【0053】
本実施形態によれば、圧力室80の容積変化の周波数、つまり、圧電素子30の駆動周波数を高くすれば流体噴射流量も増加する。従って、圧力室80の排除体積を最適(一定)に維持しながら駆動周波数を変化させることに伴う流体噴射流量の変化に比例してポンプ10からの流体供給流量を変化させることにより、必要とされる流体供給流量を確保し、パルス一個当たりの切除力と切除速度それぞれを独立して適切に調整できることから、膨大なパラメーターの組み合わせを用意することなく、使用者は最適な流体噴射条件で容易に流体噴射装置を操作することができる。
【0054】
また、流体供給流量過多になり、流体噴射時以外に余分な流体がノズル95から流出して、手術部位の視認性が悪くなるというような問題を排除することができる。
【0055】
続いて、流体供給流量と駆動周波数とが比例の関係にあるときに(図6、参照)、排除体積を変化させる場合について説明する。
まず、切除力ダイアル26を操作して排除体積を設定する。排除体積は、圧電素子30の伸長長さとダイアフラム40の可動面積の積により算出される。伸長長さは、圧電素子30へ印加する電圧を制御することで決定される。このようにして、パルス一個当たりの切除力を決定する。
【0056】
図7は、排除体積を変化させる場合の圧電素子の駆動波形を模式的に表す駆動波形図である。切除力ダイアル26にてパルス一個当たりの切除力を調整するとき、排除体積を増やす場合には駆動波形のゲイン(電圧)を上げ、排除体積を減らす場合には駆動波形のゲイン(電圧)を下げる。つまり、駆動波形のゲイン分だけ排除体積が相対的に変化する。
【0057】
次に、切除速度ダイアル27を操作して圧電素子30の駆動周波数を設定する。
図8は、排除体積を変化させた場合の駆動周波数と流体供給流量の関係を模式的に示すグラフである。流体供給流量は駆動波形の周波数(駆動周波数)と比例の関係であって直線で表される(図6も参照する)。流体供給流量は流体噴射流量と少なくとも同量とする。流体噴射流量は、排除体積と圧電素子30の駆動周波数の積で算出されることから、図8に示すように排除体積を増やす場合には直線の勾配を排除体積増加分に合わせて大きくさせ、排除体積を減らす場合には直線の勾配を排除体積減少分に合わせて小さくさせればよい。
【0058】
この際、駆動波形はゲインを変化させると、図7に示すように、駆動波形の電圧上昇時間t1のスルーレートも変化する。このことにより厳密には流体噴射流量と排除体積とは比例しない。従って、直線の勾配を変化させる場合には、直線の傾きのデータを制御回路151(図3、参照)にルックアップテーブルとして格納しておき、切除力ダイアル26操作時に、ルックアップテーブルから読み出せばよい。
【0059】
したがって、流体供給流量と圧電素子30の駆動周波数とが比例の関係にある場合、排除体積を変化させれば流体噴射流量も変化するため流体供給流量に過不足が発生する。そこで、排除体積の変化に応じて上述の直線の勾配を変化させることで流体供給流量の変化量を変更することができ、流体供給流量の過不足を適切に補いながら、排除体積すなわちパルス一個当たりの切除力を変化させることができる。従って、適用例1より広い範囲で、パルス一個当たりの切除力と単位時間当たりの切除速度それぞれを独立して調整でき、使用者は最適な流体噴射条件を容易に設定し操作することができる。
(実施形態2)
【0060】
続いて、実施形態2に係る流体噴射方法について説明する。実施形態2は、前述した実施形態1が、流体供給流量を圧電素子の駆動周波数に対して比例の関係で変化させていることに対して、流体供給流量を排除体積に対して比例の関係で変化させることに特徴を有している。なお、流体噴射装置1、脈流発生部20の構成及び流体噴射作用は実施形態1と同様であるため説明を省略する。
【0061】
図9は、本実施形態に係る駆動波形を模式的に表す駆動波形図、図10は、流体供給流量と排除体積の関係を模式的に示すグラフである。図9に図示した駆動波形は矩形波を例示している。この駆動波形の周波数をあげる場合には休止期間の長さを変える。なお、駆動波形は矩形波のため、駆動電圧のゲインを変えても電圧上昇のスルーレートは変わらない。従って、駆動電圧のゲインを上げてダイアフラム40変位を大きくすることによって圧電素子の1駆動における排除体積が増加すれば、流体噴射流量も排除体積に比例して増加する。
【0062】
ここで、圧電素子30の駆動周波数を最適(一定)にした状態で、切除力ダイアル26を操作して所望の排除体積を選択する。すると、制御回路151からポンプ駆動回路152と圧電素子駆動回路153に駆動命令が入力され、ポンプ10及び圧電素子30が駆動する。つまり、ポンプ10から流体噴射流量の変化に応じた流体供給流量で流体が供給される。
【0063】
ここで、流体噴射流量は排除体積と駆動周波数の積に比例するため、排除体積の変化に比例して流体噴射流量が変化する。従って、流体噴射流量に対して過不足なく流体を供給するためには、図10に表すように排除体積の変化に比例して流体供給流量を変化させればよい。
【0064】
このように、本実施形態では、排除体積の変化に対して流体供給流量を比例して変化させることにより必要とされる流体供給流量を確保し、パルス一個当たりの切除力と単位時間当たりの切除速度それぞれを独立して調整でき、最適な流体噴射条件を容易に設定し操作することができる。
【0065】
また、流体供給流量過多になることを抑制し、流体噴射時以外に余分な流体がノズル95から流出して、手術部位の視認性が悪くなるというような問題を排除することができる。
【0066】
次に、上述したように、流体供給流量と排除体積とが比例の関係にあるときに(図10、参照)、駆動周波数を変化させる場合について説明する。
図11は、駆動周波数を変化させた場合の排除体積と流体供給流量の関係を模式的に示すグラフである。流体供給流量は排除体積に対して比例の関係であってある勾配をもった直線で表わされる(図10も参照する)。
【0067】
流体噴射流量は、排除体積と圧電素子30の駆動周波数の積の比例で算出されることから、図11に示すように駆動周波数を上げる場合には直線の勾配を駆動周波数増加分に合わせて大きくさせ、駆動周波数を下げる場合には直線の勾配を駆動周波数減少分に合わせて小さくさせればよい。
【0068】
なお、駆動波形によっては、駆動周波数を変化させると、駆動波形の電圧上昇のスルーレートも変化する場合がある。このとき厳密には流体噴射流量は駆動周波数に比例しない。従って、直線の勾配を変化させるためには、直線の傾きのデータを制御回路151(図3、参照)にルックアップテーブルとして格納しておき、切除速度ダイアル27操作時に、ルックアップテーブルから読み出せばよい。
【0069】
このように、圧電素子30の駆動周波数を変化させれば流体噴射流量も変化するため流体供給流量に過不足が発生する。そこで、圧電素子30の駆動周波数に応じて上述の直線の勾配を変化させることで流体供給流量の変化量を変更することができ、流体供給流量の過不足を適切に補いながら、圧電素子30の駆動周波数すなわち単位時間当たりの切除速度を変更することができる。従って、適用例1より広い範囲で、パルス一個当たりの切除力と単位時間当たりの切除速度それぞれを独立して調整でき、使用者は最適な流体噴射条件を容易に設定し操作することができる。
(実施形態3)
【0070】
続いて、実施形態3に係る流体噴射方法について説明する。実施形態3は、前述した実施形態1及び実施形態2に対して、駆動周波数を変化させる場合、圧力室80の容積を減少させている時間に対する圧電素子30の駆動波形の電圧上昇時間をほぼ一定にしていることを特徴としている。なお、流体噴射装置1、脈流発生部20の構成及び流体噴射作用は実施形態1と同様であるため説明を省略する。
【0071】
ここで、基本の駆動波形を図4と同じにした場合において、繰り返し周波数を低くした場合について説明する。
図12は、繰り返し周波数を低くした場合の駆動波形を模式的に表す駆動波形図である。このような場合、休止期間を長くするだけで圧力室80の容積を減少させている時間に対する圧電素子30の駆動波形の変化時間、つまり、電圧上昇時間t1は変化させる必要がないからスルーレートも変わらない。従って、パルス一個当たりの切除力を変化させずに圧電素子30の駆動周波数を変更することができる。すなわち、パルス一個当たりの切除力と単位時間当たりの切除速度をそれぞれ独立して調整することを可能にし、前述した実施形態1及び実施形態2の考え方に適合可能である。
【0072】
次に、繰り返し周波数を高くした場合について説明する。
図13は、繰り返し周波数を高くした場合の駆動波形を模式的に表す駆動波形図である。図13に表す駆動波形では、基本の駆動波形(図4、参照)に対して、休止期間は短くなっているが、存在している。従って、電圧上昇時間t1は変化させる必要がなくスルーレートが変わらない。すなわち、前述した実施形態1及び実施形態2の考え方に適合可能である。
【0073】
次に、繰り返し周波数を更に高くした場合について説明する。
図14は、繰り返し周波数をさらに高くした場合の駆動波形を模式的に表す駆動波形図である。つまり、図14で表す駆動波形の1周期が、図13に表す1周期よりも短くなった場合を表している。このような駆動波形では休止期間が存在しないために、単に図13に示される基本の波形の間隔を短くしただけでは前後の波形が交差してしまう。そこで、圧力室80の容積を拡大している電圧降下時間t2を基本の波形よりも短くすることで、電圧上昇時間t1を基本の電圧上昇時間に対して変えないように駆動波形を形成する。これにより、電圧上昇時間t1は変化しないため、スルーレートが変化しないため、実施形態1及び実施形態2の考え方に適合可能となっている。
【0074】
圧電素子30の駆動電圧のゲインを変えないとき、電圧上昇時間t1を一定にしておけば、駆動周波数を変化させても電圧上昇時間t1のスルーレートは変わらないため、パルス一個当たりの切除力が変わりにくい。従って、単に駆動周波数を変化させるよりも、パルス一個当たりの切除力を一定に維持しながら、切除速度を変化させることができる。なお、前述の通り、t1は圧電素子30の駆動波形の形状や極性に関わらず、圧力室80の容積を減少させている時間に対応していればよい。
(実施形態4)
【0075】
続いて、実施形態4に係る流体噴射方法について説明する。実施形態4は、ポンプ10からの流体供給流量を、排除体積と駆動周波数との積に等しくするか、排除体積と駆動周波数との積よりも大きくすることを特徴としている。なお、流体噴射装置1、脈流発生部20の構成及び流体噴射作用は実施形態1と同様であるため説明を省略する。
【0076】
図15は、排除体積と駆動周波数の積と流体供給流量との関係を模式的に表すグラフである。流体噴射流量は排除体積と駆動周波数との積で決定される。なお、流体供給流量と流体噴射流量とが比例の関係にあるが、流体供給流量が流体噴射流量より少ない場合は供給不足によりパルス一個当たりの切除力が弱くなる。また、流体供給流量が流体噴射流量より多い場合には供給量過多となり流体噴射時以外にノズル95から流体が流出して手術部位の視認性が悪くなることが予測される。そこで、容積変化量と前記周波数との積は流体噴射流量を等しくすることにより、所望のパルス一個当たりの切除力を得ると共に、良好な視認性を容易に実現できる。
【0077】
なお、圧力室の容積を変化させ、且つ入口流路側の合成イナータンスと出口流路側の合成イナータンスの差によって流体をパルス状に噴射する脈流発生部を有する流体噴射装置では、流体噴射直後に流体のイナータンス効果で流体が流体噴射開口部96側に引き込まれて、排除体積よりも多く流出されることが考えられる。このような場合、流体噴射流量が流体供給流量より大きくなるため、パルス一個当たりの切除力が弱くなる可能性がある。そこで、少なくともイナータンス効果による流出分だけ流体供給流量を増加する必要がある。従って、流体供給流量を排除体積と駆動周波数との積(流体噴射量)よりも多くしておくことが望ましい。
【0078】
ここで、流体供給流量を流体噴射流量より多くした場合、流体噴射時以外に余分な流体がノズル95から流出し、手術部位の視認性が悪くなることが考えられる。そこで、供給流量を排除体積と駆動周波数との積と同じか、排除体積と駆動周波数との積の2倍以下の範囲にすることがより好ましい。
【0079】
これは、イナータンス効果により流体がノズル95側に引っ張られる量は、本来の排除体積よりも少ないことから、余分な流体がノズル95から流出することよりもパルス一個当たりの切除力の確保を重視しているからである。
【0080】
このように、排除体積と駆動周波数との積を流体供給流量と等しくすることにより、所望のパルス一個当たりの切除力を得ると共に、良好な視認性を実現できる。
【0081】
また、流体供給流量を排除体積と駆動周波数との積の2倍以下にすれば、所望のパルス一個当たりの切除力を得ると共に、手術部位の視認性への影響を低減できる。
(変形例)
【0082】
上述の実施形態では、圧力室の容積変更手段として、圧電素子30を駆動してダイアフラム40を変位させることによって脈流を発生させる構成としたが、圧電素子30を駆動してプランジャー(ピストン)を変位させることによって脈流を発生させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1…流体噴射装置、10…流体供給手段としてのポンプ、20…脈流発生部、30…容積変更手段としての圧電素子、40…ダイアフラム、80…圧力室、96…流体噴射開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の流体供給流量の流体を圧力室に供給することと、
所定の周波数で前記圧力室の容積を変化させることによって、脈流を発生させることと、
前記脈流を噴射することと、
を含み、
前記流体供給流量が、前記周波数に比例することを特徴とする流体噴射方法。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射方法であって、
前記脈流を発生させることは、圧電素子に電圧を印加することによって前記圧力室の容積を変化させることを含み、
前記圧力室の容積を減少させる期間に対応する電圧印加期間を、前記周波数に関わらず一定にすることを特徴とする流体噴射方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射方法であって、
前記流体供給流量は、前記圧力室から排出される流体の排除体積に比例することを特徴とする流体噴射方法。
【請求項4】
請求項3に記載の流体噴射方法であって、
前記流体供給流量が、前記排除体積と前記周波数との積以上であることを特徴とする流体噴射方法。
【請求項5】
所定の流体供給流量の流体を圧力室に供給する流体供給手段と、
所定の周波数で前記圧力室の容積を変化させることによって脈流を発生させ、前記脈流を噴射する脈流発生手段と、
前記流体供給流量が前記周波数に比例するように、前記流体供給手段及び前記脈流発生手段の少なくともいずれかを制御する制御手段と、
を有することを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−38527(P2011−38527A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198587(P2010−198587)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【分割の表示】特願2009−188296(P2009−188296)の分割
【原出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】