説明

流体封入式エンジンマウント

【課題】弁体の安定した変位に基づき第二のオリフィス通路の遮断状態と連通状態が確実に切り換えられて、優れた防振効果が得られると共に、弁体が変位する際に部材同士の打ち当たりに起因する問題となる打音の発生も有利に抑えられる、新規な構造の流体封入式エンジンマウントを提供する。
【解決手段】ソレノイドアクチュエータ54による弁体84の駆動に伴って相互に接近せしめられる対向部位を非圧縮性流体の封入領域に設けて、対向部位の一方にはその対向面に開口して非圧縮性流体が満たされた凹所89を形成すると共に、対向部位の他方にはその対向面上に突出する突部95を形成し、弁体84の連通位置と遮断位置の他方の変位側において凹所89に突部95が入り込むダッシュポット構造の減衰機構を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持させるエンジンマウントに係り、特に内部に封入された流体の流動作用に基づいて防振効果が発揮される流体封入式エンジンマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、パワーユニットと車両ボデーの間に装着されて両者を防振連結乃至は防振支持せしめるエンジンマウントの一種として、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で相互に連結して、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室と、壁部の一部が変形容易な可撓性膜で構成された平衡室を形成し、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、両室を相互に連通せしめるオリフィス通路を設けた構造の流体封入式エンジンマウントが知られている。このような流体封入式エンジンマウントでは、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用を利用して防振効果が得られることから、例えば自動車用エンジンマウント等への適用が検討されている。
【0003】
ところで、上述の流体封入式エンジンマウントにおいては、走行状態等に応じて、異なる周波数域の振動が入力されることから、複数の異なる周波数域の振動に対して、何れも有効な防振効果が発揮されることが望ましい。しかし、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮されるのは、オリフィス通路が予めチューニングされた比較的に狭い周波数域に限られるという問題があった。
【0004】
そこで、かかる問題を解決するために、例えば特許文献1(特開昭59−151637号公報)には、受圧室と平衡室を仕切る仕切部材に第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路をそれぞれ形成して、第二のオリフィス通路を第一のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングすると共に、ソレノイドアクチュエータにより駆動変位せしめられる弁体を用いて第二のオリフィス通路を連通状態と遮断状態に切り換えるようにした流体封入式エンジンマウントが提案されている。このようなエンジンマウントによれば、ソレノイドによる駆動変位方向と反対に向けて弁体を付勢する圧縮コイルスプリングが設けられており、ソレノイドへの通電を走行状態等に応じて制御することにより、弁体が切り換え作動される。そして、第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を通じての各流体の流動作用に基づく防振効果がそれぞれ有効に発揮されて、複数の周波数域の振動に対する防振効果が得られる。
【0005】
ところで、特許文献1に記載の流体封入式エンジンマウントにおいては、第二のオリフィス通路の連通状態と遮断状態を弁体で安定して切り換えるために、弁体を開位置と閉位置にそれぞれ確実に位置決め保持することが有効である。そこで、弁体の変位端では、一般に、当接型のストッパ機構が採用される。
【0006】
しかしながら、かかる弁体のストッパ機構を採用した場合には、弁体のストッパ機構における当接時に発生する打音が問題となり易い。特に、ソレノイドアクチュエータでは、ソレノイドに対して可動子が近づくに従って累進的に駆動力が増す。それ故、コイルスプリングで位置決め保持された弁体のソレノイドアクチュエータに対する駆動初期に充分な駆動力が得られるようにソレノイドアクチュエータの出力を設定すると、弁体がストッパ機構に当接する位置では非常に大きな駆動力が弁体に作用してしまうこととなり、大きな打音が発生してしまうという問題があったのである。
【0007】
なお、かかる弁体の当接打音に対処するために、例えば、当接面間に緩衝ゴムを設けることも考えられる。
【0008】
しかしながら、弁体の変位方向に緩衝ゴムを設けると、弁体の可動領域が制限されてしまう。また、緩衝ゴムを配するために特別の部品とその装置及び組み付けのための工程とが新たに必要となる。しかも、緩衝ゴムでは衝撃吸収が充分に得られ難く、打音抑制効果の耐久性確保も難しい。
【0009】
【特許文献1】特開昭59−151637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、弁体の安定した変位に基づき第二のオリフィス通路の遮断状態と連通状態が確実に切り換えられて、優れた防振効果が得られると共に、弁体が変位する際に他部材との打ち当たりに起因する問題となる打音の発生も抑えられる、新規な構造の流体封入式エンジンマウントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0012】
すなわち、本発明の特徴とするところは、パワーユニットと車両ボデーの一方に取り付けられる第一の取付部材と、パワーユニットと車両ボデーの他方に取り付けられる第二の取付部材とを本体ゴム弾性体で連結して、第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側に、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、受圧室と平衡室を相互に連通せしめる第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を仕切部材にそれぞれ形成して、第一のオリフィス通路よりも第二のオリフィス通路を高周波数域にチューニングする一方、第二のオリフィス通路を連通させる連通位置と遮断させる遮断位置とに変位せしめられる弁体と、それら連通位置と遮断位置の一方に向けて弁体を付勢してかかる位置に保持する付勢手段と、付勢手段による付勢力に抗して弁体をそれら連通位置と遮断位置の他方に駆動してかかる位置に保持するソレノイドアクチュエータを設けた流体封入式エンジンマウントにおいて、ソレノイドアクチュエータで駆動される弁体の連通位置と遮断位置の他方の側への変位端を当接によって規定するストッパ機構を設ける一方、ソレノイドアクチュエータによる弁体の駆動に伴って相互に接近せしめられる対向部位を非圧縮性流体の封入領域に設けて、対向部位の一方にはその対向面に開口して非圧縮性流体が満たされた凹所を形成すると共に、対向部位の他方にはその対向面上に突出する突部を形成し、ソレノイドアクチュエータで駆動される弁体の連通位置と遮断位置の他方の変位側において凹所に突部が入り込むダッシュポット構造の減衰機構を構成した流体封入式エンジンマウントにある。
【0013】
このような本発明に従う構造とされた流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体が、ソレノイドの通電により付勢手段の付勢力に抗して一方から他方に向けて変位せしめられて、ストッパ機構に当接することにより、弁体の他方の変位端が規定される。これにより、第二のオリフィス通路の連通状態または遮断状態が安定して維持される。
【0014】
本発明に係る流体封入式エンジンマウントでは、ソレノイドアクチュエータによる弁体の駆動に伴って相互に接近せしめられる対向部位の一方に非圧縮性流体が満たされた凹所が形成されていると共に、対向部位の他方に突部が形成されており、ソレノイドアクチュエータで駆動される弁体の連通位置と遮断位置の他方の変位側において凹所に突部が入り込むダッシュポット構造の減衰機構が構成されている。これにより、弁体が他方の変位側に位置せしめられる際に、突部が凹所に入り込むことで発揮される流体の流動抵抗やずりせん断作用や粘性作用等による減衰作用に基づいて、ソレノイドアクチュエータにおいて出力が一方の変位側に比して大きくなる他方の変位側での弁体の加速度的な変位が抑えられる。その結果、弁体がストッパに打ち当たる際の速度やパワーが抑えられて、問題となる打音が効果的に防止されるのである。
【0015】
それ故、本発明に従う構造とされた流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体のストッパ機構への当接に伴う第二のオリフィス通路の遮断状態および連通状態の安定化と、弁体がストッパ機構に打ち当たる際に問題となる打音の発生防止が、両立して高度に達成され得るのである。
【0016】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントでは、弁体を強磁性材で形成して、仕切部材における第二のオリフィス通路を通じての流体流路上に弁体を変位可能に配設すると共に、流体流路を構成する壁部と弁体の間に付勢手段を配設して弁体を連通位置と遮断位置の一方に向けて付勢する一方、仕切部材における弁体の周りにソレノイドを配設して、それら弁体やソレノイド、付勢手段からなるソレノイドアクチュエータを仕切部材に対して組み込んだ構造が、採用されても良い。このような構造によれば、ソレノイドアクチュエータを収容配置するハウジングが既存の仕切部材で実現されて、特別に新たに設けられる必要がなくなることから、部品点数の削減により低コスト化が有利に図られ得る。しかも、ソレノイドや弁体が第二の取付部材の外方に突出することが抑えられることから、マウントのコンパクト化が有利に図られ得る。
【0017】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントでは、弁体が有底円筒形状を有しており、突部を弁体の開口縁部に形成すると共に、仕切部材においてソレノイドアクチュエータによる弁体の駆動に伴って突部が接近する位置に凹所を設けた構造が、採用されても良い。このような構造によれば、ソレノイドアクチュエータによる弁体の駆動に伴って相互に接近せしめられる対向部位が、有底円筒形状の弁体の開口縁部とそれと対向せしめられる仕切部材によって、周方向に大きく確保される。これによって、ダッシュポット構造による目的とする減衰作用が安定して得られる。
【0018】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントでは、付勢手段としてコイルスプリングを採用し、コイルスプリングの一方の端部が弁体の内側に収容配置されて、弁体の周壁部によってコイルスプリングが軸直角方向に位置決めされていると共に、コイルスプリングの他方の端部を仕切部材に支持させて、該弁体を周壁部の開口部分から底部に向かう連通位置と遮断位置の一方に向けて付勢した構造が、採用されても良い。このような構造によれば、付勢手段としてコイルスプリングが採用されて、かかるコイルスプリングが弁体に対して軸直角方向に位置決めされていることから、付勢手段が簡単な構造で実現されると共に、弁体に有利に支持せしめられて、付勢手段による付勢力を弁体に一層確実に及ぼすことが出来る。
【0019】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントでは、仕切部材には、第二のオリフィス通路を通じての流体流路上において弁体が収容配置される弁収容領域を設けて、弁収容領域に開口形成した流体流動用の連通孔を弁体によって閉塞せしめることにより第二のオリフィス通路を遮断状態とすると共に、ソレノイドへの通電によって弁体を弁収容領域の壁部から離隔せしめて連通孔を開口することにより第二のオリフィス通路を連通状態とする構造が、採用されても良い。このような構造によれば、弁体を収容配置せしめる専用の収容領域が仕切部材に形成されることによって、弁体がより安定して仕切部材に配設され、第二のオリフィス通路の遮断状態と連通状態が一層高度に制御される。また、弁収容領域や連通孔の形状や大きさ等を設計変更することにより、第二のオリフィス通路を通じての流体流路の通路断面積や長さ等が設計変更されることから、第二のオリフィス通路のチューニングのし易さや自由度等の更なる向上が図られ得る。
【0020】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントでは、弁収容領域において弁体の連通位置と遮断位置の一方の変位側に弁座を設けて、弁座に連通孔を形成しており、弁体を弁座に重ね合わせることで、弁体の連通位置と遮断位置の一方の変位端を規定すると共に、連通孔を弁体により閉塞せしめて第二のオリフィス通路を遮断状態とする構造が、採用されても良い。このような構造によれば、付勢手段による付勢力が弁体の一方の変位側の弁座に安定して及ぼされることとなり、この弁座に弁体が重ね合わせられて、連通孔が閉塞されることによって第二のオリフィス通路が遮断されるようになっていることから、弁体を第二のオリフィス通路の遮断状態に位置せしめてかかる位置に保持する態様が一層有利に実現され得る。
【0021】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントでは、弁収容領域において第二のオリフィス通路の受圧室側から平衡室側に向けて弁体が付勢手段で付勢されている一方、付勢手段による付勢方向側の変位側で弁体が弁収容領域の壁部に当接して連通孔が閉塞されると共に、受圧室と平衡室の圧力が弁体の変位方向の各一方の面に及ぼされるようになっており、振動入力時に受圧室に発生する負圧によって弁体が付勢手段による付勢力に抗して連通孔が連通状態とされるようになっている構造が、採用されても良い。このような構造によれば、衝撃的な乃至は大荷重の振動が入力されて、受圧室に過大な負圧が生ぜしめられた際に、負圧の作用で弁体が変位せしめられて第二のオリフィス通路の流体流路の一部を構成する連通孔が連通状態となって、受圧室と平衡室が連通孔を通じて短絡せしめられる。これにより、受圧室の過負圧状態が解消されて、かかる過負圧状態が保持されることに起因するキャビテーション気泡の発生に伴う異音の発生が有利に抑えられる。
【0022】
すなわち、本構造に係る流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体として、受圧室と平衡室の相対的な圧力が変位方向の各一方の面に及ぼされる構造のものが採用されていることによって、弁体の他に、受圧室の過負圧状態下で受圧室と平衡室を短絡せしめる短絡機構を特別に設ける必要もない。それによって、本構造では、例えば、米国特許第6921067号明細書に示されるように、受圧室と平衡室の圧力が弁体の変位方向の各一方の面に及ぼされ難い構造の弁体が採用されていることによって、弁体に短絡機能が備わっていない従来構造の流体封入式エンジンマウントに比して、部品点数の増加を抑えつつ、防振効果の向上が図られ得るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。先ず、図1には、本発明の流体封入式エンジンマウントに係る一実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と、第二の取付部材としての第二の取付金具14が、本体ゴム弾性体16で連結された構造とされている。そして、第一の取付金具12が図示しない自動車のパワーユニット側の取付部材に取り付けられると共に、第二の取付金具14が図示しない自動車のボデー側の取付部材に取り付けられる。これにより、パワーユニットが車両ボデーに対してエンジンマウント10を介して弾性的に支持されるようになっている。
【0024】
なお、図1では、自動車に装着する前のエンジンマウント10の単体での状態が示されているが、自動車へのマウント装着状態では、パワーユニットの吊り下げによるパワーユニットの分担支持荷重がマウント軸方向(図1中、上下)に入力されることにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14がマウント軸方向で相互に接近する方向に変位して、本体ゴム弾性体16が弾性変形する。また、かかる装着状態下、防振すべき主たる振動は、略マウント軸方向に入力されることとなる。以下の説明中、特に断りのない限り、上下方向は、マウント軸方向となる図1中の上下方向をいう。
【0025】
より詳細には、第一の取付金具12は、裁頭円錐台形状乃至は円柱形状を呈している。また、第一の取付金具12の中央部分には、上端面に開口する螺子穴18を備えており、図示しないパワーユニット側の部材が固定ボルトを介して螺子穴18に螺着固定されることにより、第一の取付金具12が、パワーユニットに固定的に取り付けられるようになっている。
【0026】
また、第二の取付金具14は、大径の略円筒形状とされており、上端部には、軸直角方向外方に延び出す円環形状の外フランジ状部20が形成されていると共に、下端部には、軸直角方向内方に延び出す内フランジ状部22が形成されている。この第二の取付金具14には、図示しないブラケット金具が固定されるようになっており、ブラケット金具が図示しない車両ボデー側の部材に固定されることで、第二の取付金具14が車両ボデーに対して固定的に取り付けられるようになっている。
【0027】
これら第一の取付金具12と第二の取付金具14が、相互に同一中心軸上に配設されると共に、第一の取付金具12が第二の取付金具14の外フランジ状部20側の開口端面と軸方向に所定距離を隔てて対向位置せしめられている。第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、本体ゴム弾性体16が介装されている。
【0028】
本体ゴム弾性体16は、全体として略裁頭円錐台形状を呈する厚肉のゴム弾性体であって、その下端中央部分には、軸方向下方に向かって開口する逆すり鉢形状の大径凹所24が形成されている。そして、本体ゴム弾性体16の上端部に対して第一の取付金具12の軸方向中間部から下端部に至る部分が埋め込まれるように加硫接着されていると共に、本体ゴム弾性体16の下端部の外周面に対して第二の取付金具14の軸方向中間部分乃至は上端部分の内周面が重ね合わされて加硫接着されている。これにより、本体ゴム弾性体16が第一の取付金具12と第二の取付金具14を一体的に備えた一体加硫成形品として形成されていると共に、第二の取付金具14の一方(図1中、上)の開口部が本体ゴム弾性体16によって流体密に閉塞されている。また、第二の取付金具14における軸方向中間部分から下端部分にかけての内周面には、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉のシールゴム層26が全体に亘って被着形成されている。なお、本体ゴム弾性体16における大径凹所24の開口端面の外周縁部がシールゴム層26の内周面よりも軸直角方向内側に位置せしめられていることによって、本体ゴム弾性体16とシールゴム層26の境界部分には、円環形状の環状段差部28が形成されている。
【0029】
また、第二の取付金具14の軸方向下側の開口部分には、仕切部材30が組み付けられている。仕切部材30は、全体として略円形ブロック形状を呈しており、仕切部材本体32のと上板金具34を含んで構成されている。なお、仕切部材30は、磁化されない材料で形成されていることが望ましい。
【0030】
仕切部材本体32は、略円形ブロック形状を呈しており、本実施形態では、硬質の合成樹脂材で形成されている。また、仕切部材本体32の軸方向の略中央部分の外周面には、互いに軸方向に離隔してそれぞれ周方向に連続して延びる第一の係止溝36と第二の係止溝38が形成されている。
【0031】
さらに、仕切部材本体32の外周面には、周溝40が開口形成されている。周溝40は、仕切部材本体32における第一及び第二の係止溝36,38を軸方向に跨いだ両側で、それぞれ周方向に所定の長さで延びる一対の溝部を備えており、一対の溝部の各周上の一箇所で、仕切部材本体32をトンネル上に延びる図示しない接続穴で相互に接続された形態を有している。また、周溝40の周方向一方の端部となる、上側の溝部における接続穴と反対側の端部には、仕切部材本体32の上端面を貫通して連通窓44が形成されている。
【0032】
また、仕切部材本体32の中央部分には、下端面に開口する浅底円形状の下側凹所42が形成されている。更に、周溝40の周方向他方の端部となる、下側の溝部における接続穴と反対側の端部には、仕切部材本体32において下側凹所42の周壁部を構成する部位を貫通して連通窓46が形成されている。即ち、周溝40と下側凹所42は、連通窓46を通じて相互に接続されている。
【0033】
さらに、仕切部材本体32の下側凹所42よりも上方の中央部分には、上方に向かって開口する中央凹所48が形成されている。これにより、仕切部材本体32の中央部分において、中央凹所48の底面と下側凹所42の底面の間の部分が、薄肉の円板形状を呈しており、この円板形状の部分によって、本実施形態に係る弁座50が形成されている。弁座50の径方向中間部分乃至は外周部分には、周方向に離隔して複数配された透孔からなる連通孔52が貫設されている。
【0034】
仕切部材本体32における中央凹所48の周壁部には、ソレノイドとしてのコイル部材54が設けられている。コイル部材54は、上側ヨーク55や下側ヨーク56、コイル58を含んで構成されている。上側および下側ヨーク55,56は、鉄等の強磁性体を用いて形成されており、上側ヨーク55が中央部分に円形の孔を備えた略円環板形状を有していると共に、下側ヨーク56が軸方向に延びる円筒状部の下端部分に軸直角方向内方に広がる内フランジ状部を一体的に備えた筒状とされている。また、コイル58は、径方向外側に向かって矩形凹状に開口する断面で周方向に連続して延びる筒状を有する合成樹脂製のボビンに対して、ボビンの凹所を充填するように巻回されることで、全体として略円筒形状を有している。このような下側ヨーク56が中央凹所48の段差状の壁部に沿って配設されていると共に、コイル58のボビンの下端部が下側ヨーク56の内フランジ状部に対して軸方向に重ね合わせられ、且つコイル58の外周部分が下側ヨーク56の筒状部に対して軸直角方向に重ね合わせられている。また、上側ヨーク55の外周縁部が中央凹所の上方の周壁部に嵌め込まれて、上側ヨーク55がコイル58のボビンの上端部および下側ヨークの上端部分に対して軸方向に重ね合わせられている。これにより、コイル58の内周壁部を除いた周りを上側ヨーク55および下側ヨーク56が囲むような形態で、コイル部材54が中央凹所48の周壁部において仕切部材本体32と略同軸的に配設されている。特に、コイル58の内周壁部(面)と下側ヨーク56の内周縁部(面)が軸直角方向に位置合わせされて、軸方向に延びており、中央凹所48の周壁面を構成している。それによって、中央凹所48が、仕切部材本体32の中央部分において軸方向に略一定の円形断面で延びている。
【0035】
また、上側ヨーク55の上端部は、仕切部材本体32の中央凹所48の周りに設けられる外周部分の上端部と略同じ高さに位置せしめられている。また、上側ヨーク55の内周縁部が、コイル58の内周壁部や下側ヨーク56の内周縁部よりも軸直角方向内方に延び出しており、弁座50の径方向中間部分乃至は外周部分と軸方向で対向位置せしめられている。
【0036】
仕切部材本体32には、リード線60が設けられていて、リード線60の一方の端部が仕切部材本体32の内部においてコイル58に接続されていると共に、リード線60の他方の端部が仕切部材本体32の仕切部材本体の外周面から外部に延びて電源装置62に接続されている。これにより、電源装置62からリード線60を通じてコイル58に通電可能となっている。なお、電源装置62には、例えば、装着される自動車の電気系統の電源等が、好適に採用され得る。
【0037】
仕切部材本体32の上面および上側ヨーク55の上面には、上板金具34が重ね合わされている。上板金具34は、薄肉の略円板形状を呈しており、例えば鋼板等の金属材料で形成された高剛性の部材とされている。上板金具34の外径が仕切部材本体32の外径と略等しくされている。更に、上板金具34の略中央部分には、透孔64が厚さ方向(図1中、上下)に貫設されていると共に、上板金具34の外周部分には、切り欠き状の連通窓66が形成されている。ここで、透孔64は、仕切部材本体32の中央凹所48の開口端面の大きさに比して小さくされている。
【0038】
このような上板金具34が、仕切部材本体32と同軸的に配されて、仕切部材本体32の上面に重ね合わせられていることにより、仕切部材30が構成されている。また、仕切部材本体32と上板金具34は、図示しない位置決め手段によって周方向に互いに位置決めされており、上板金具34の連通窓66が仕切部材本体32の周溝40の一方の端部に形成された連通窓44と軸方向で投影する位置に位置せしめられている。かかる位置決め手段としては、例えば仕切部材本体32の上端部と上板金具34の一方における周方向の所定の位置に突部を突設すると共に、それら他方における周方向の所定の位置に通孔を貫設して、突部を通孔に挿通することで仕切部材本体32と上板金具34の周方向の変位を規制する、係止機構が好適に採用される。
【0039】
特に、仕切部材本体32と上板金具34の組み付けにおいて、仕切部材本体32の中央凹所48の開口部分が上板金具34の中央部分で覆蓋されていることによって、仕切部材30の中央部分には、弁座50と下側ヨーク56の内周縁部とコイル58の内周壁部と上板金具34が協働して、軸方向に略一定の円形断面で延びる弁収容領域68が構成されている。
【0040】
弁収容領域68の軸方向一方(図1中、下)の端部には、弁座50が位置せしめられており、弁座50に形成された連通孔52を通じて、弁収容領域68と下側凹所42が相互に連通せしめられている。
【0041】
弁収容領域68における弁座50と軸方向で対向位置せしめられる軸方向他方(図1中、上)の端部には、上側ヨーク55の内周部分と更にその上方に上板金具34の中央部分が位置せしめられており、上側ヨーク55の内孔65と上板金具34の透孔64を通じて、弁収容領域68が上板金具34の上部外方に連通せしめられている。
【0042】
この仕切部材30が第二の取付金具14の下側開口部から軸方向に差し入れられ、上板金具34の外周部分が第二の取付金具14の環状段差部28に重ね合わせられることによって、仕切部材30の第二の取付金具14に対する軸方向の挿入端が規定されている。また、第二の取付金具14に対して外方から八方絞り等の縮径加工が施されて、第二の取付金具14の軸方向中間部分から下端部にかけての筒状部分が、上板金具34および仕切部材本体32の上端部乃至は軸方向中間部分に至る部位に嵌着固定されていることに基づいて、仕切部材30が第二の取付金具14に固定されている。また、第二の取付金具14の縮径加工による変形に伴い、第二の取付金具14の軸方向下端部に設けられた内フランジ状部22が、仕切部材本体32の第一の係止溝36に対して係合せしめられて、仕切部材30が第二の取付金具14に対して軸方向に位置決め固定されている。
【0043】
仕切部材30の下方には、可撓性膜としてのダイヤフラム70が配設されている。ダイヤフラム70は、充分な弛みを有する薄肉のゴム膜で形成されており、略円形ドーム形状を呈している。また、ダイヤフラム70の外周縁部には、固定金具72が加硫接着されている。固定金具72は、薄肉の略円筒形状を呈しており、その上端部には径方向内方に延び出す内フランジ状部が74形成されている。また、固定金具72の軸方向下側の内周面乃至は下端縁部にダイヤフラム70の外周縁部が加硫接着されていると共に、固定金具72の軸方向中間部分乃至は上側の内周面にはダイヤフラム70と一体成形された薄肉のシールゴム層76が全面に亘って加硫接着されている。
【0044】
固定金具72が仕切部材30の下端部から軸方向に外挿されると共に、固定金具72に縮径加工が施されて、固定金具72が仕切部材30の軸方向下側部分に嵌着固定されることによって、ダイヤフラム70が仕切部材30に対して固定的に組み付けられている。なお、固定金具72の仕切部材30に対する軸方向の挿入端は、ダイヤフラム70の外周部分が仕切部材本体32の下端部分の外周側に重ね合わせることによって規定されている。また、固定金具72の縮径加工による変形に伴い、固定金具72の上端部に形成された内フランジ状部74が、仕切部材本体32の第二の係止溝38に対して係合せしめられていることにより、ダイヤフラム70が、仕切部材30延いては第二の取付金具14に対して軸方向に位置決め固定されている。上述の説明からも明らかなように、本実施形態では、ダイヤフラム70が、仕切部材30を介して第二の取付金具14に固定的に支持せしめられていると共に、第二の取付金具14の下方の開口部が、仕切部材30およびダイヤフラム70によって流体密に閉塞されている。
【0045】
このようにして仕切部材30とダイヤフラム70が第一及び第二の取付金具12,14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に組み付けられることにより、仕切部材30を挟んだ軸方向一方(図1中、上)の側において、本体ゴム弾性体16の大径凹所24が仕切部材30で閉塞された領域には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室78が形成されている。また、仕切部材30を挟んだ軸方向他方(図1中、下)の側において、固定金具72の開口が仕切部材30で閉塞された固定金具72の内側領域には、壁部の一部がダイヤフラム70で構成されて容積変化が容易に許容される平衡室80が形成されている。これら受圧室78と平衡室80には、非圧縮性流体が封入されている。封入される非圧縮性流体としては、例えば水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油等が採用されるが、特に流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。また、受圧室78や平衡室80への非圧縮性流体の封入は、例えば、第一及び第二の取付金具12,14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対する仕切部材30やダイヤフラム70の組み付けを非圧縮性流体中で行うことによって、好適に実現される。更に好適には、仕切部材30とダイヤフラム70が、同時に非圧縮性流体中で本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に組み付けられることにより、大径凹所24や固定金具72の内側等に空気が残留する問題が解消されて、残留空気に起因する受圧室78や平衡室80での気泡の発生が抑えられる。
【0046】
仕切部材30が第二の取付金具14に組み付けられることに伴い、仕切部材30の上方外周面が、第二の取付金具14に被着されたシールゴム層26を介して第二の取付金具14の内周面に流体密に重ね合わされることによって、仕切部材30の周溝40の上側溝部が流体密に閉塞されている。更に、ダイヤフラム70の固定金具72が仕切部材30に組み付けられることに伴い、仕切部材30の下方外周面が、固定金具72に被着されたシールゴム層76を介して固定金具72の内周面に流体密に重ね合わされることによって、仕切部材30の周溝40の下側溝部が流体密に閉塞されている。これにより、第二の取付金具14の内周面や固定金具72の内周面、周溝40の壁面が協働して、仕切部材30の外周部分を周方向に所定の長さで延びる第一のオリフィス通路82が形成されている。第一のオリフィス通路82の一方の端部が、仕切部材本体32の連通窓44および上板金具34の連通窓66を通じて受圧室78に接続されていると共に、第一のオリフィス通路82の他方の端部が、仕切部材本体32の連通窓46を通じて平衡室80に接続されている。それによって、受圧室78と平衡室80が第一のオリフィス通路82を通じて相互に連通せしめられて、それら両室78,80間で、第一のオリフィス通路82を通じての流体流動が許容されるようになっている。
【0047】
また、仕切部材30に設けられた弁収容領域68は、上板金具34の透孔64を通じて受圧室78に連通されていると共に、仕切部材本体32の連通孔52を通じ平衡室80に連通されており、その弁収容領域68には、受圧室78や平衡室80と同様に非圧縮性流体が封入されている。ここで、弁収容領域68には、弁体としての弁金具84が収容配置されている。
【0048】
弁金具84は、鉄やケイ素鋼等の強磁性材料を用いて形成されていると共に、軸方向に延びる円筒形状の筒状部86と、筒状部86の下端部分を閉塞するようにして軸直角方向に広がる円板形状の弁板部88とを含んで構成され、全体として有底円筒形状を呈している。弁金具84の外径寸法が、弁収容領域68の横寸法となるコイル58乃至は下側ヨーク56の内径寸法に比して僅かに小さくされている。また、マウント軸方向(図1中、上下)に延びる高さ寸法に関して、弁金具84の高さ寸法が、弁収容領域68の高さ寸法に比して、所定の大きさだけ小さくされている。また、弁板部88中央部分には、貫通孔90が厚さ方向に貫設されている。
【0049】
かかる弁金具84が弁収容領域68を構成する中央凹所48の開口部から軸方向に内挿され、弁金具84の筒状部86が弁収容領域68の周壁部に沿って延びるように配設されている。これにより、弁金具84が、弁収容領域68延いては弁収容領域68の周りに設けられたコイル部材54と略同軸的に位置決め配置されている。なお、弁収容領域68の周壁部(コイル部材54の内周壁部)と弁金具84の筒状部86の間には、全周に亘って微小な隙間が形成されており、かかる隙間の存在によって弁金具84の軸方向変位等が好適に許容されるようになっているが、隙間を通じての流体流動はほとんど生ぜしめられないように、隙間の大きさ、即ち弁収容領域68の周壁部と筒状部86の間の離隔距離が設定されている。
【0050】
また、弁金具84の弁板部88が、弁収容領域68の軸方向一方(図1中、下)の端部に配された弁座50と軸方向に対向位置せしめられていると共に、弁金具84の筒状部86の開口端部が、弁収容領域68の軸方向他方(図1中、上)の端部に配された上側ヨーク55の内周側の下端部分と軸方向に対向位置せしめられている。
【0051】
ここで、仕切部材30に配設されたコイル部材54の上側ヨーク55において、弁金具84の変位方向となる軸方向(図1中、上下)で弁金具84の筒状部86の開口端部と対向位置せしめられた部位には、凹所89が形成されている。凹所89は、上側ヨーク55の厚さ方向中間部分から下端面に向かって開口して、弁収容領域68に接続されていることにより、凹所89の内側に弁収容領域68と同一の非圧縮性流体が封入されている。本実施形態では、凹所89の形状が、矩形断面で周方向に連続して延びる筒状部86の開口端部の形状に合わされており、かかる開口端部よりも一回り大きな矩形凹状断面で周方向に連続して延びている。
【0052】
また、弁金具84の高さ寸法が、弁収容領域68における弁座50と上側ヨーク55の間の軸方向寸法と同じかそれよりも僅かに小さくされている。それによって、弁金具84の筒状部86の開口端部が凹所89に入り込む分だけ、弁金具84が弁収容領域68において軸方向に変位可能に収容配置されている。
【0053】
また、弁金具84の弁板部88に形成された貫通孔90と弁座50に形成された連通孔52が、弁金具84の弁収容領域68への配設状態下において、軸方向で互いに投影しない位置に配されている。
【0054】
ここにおいて、受圧室78と平衡室80は、上板金具34の透孔64や上側ヨーク55の内孔65、弁収容領域68、弁金具84の貫通孔90、弁座50の連通孔52を通じて相互に連通せしめられており、本実施形態では、受圧室78と平衡室80を相互に連通する第二のオリフィス通路92が、それら透孔64、内孔65、弁収容領域68、貫通孔90および連通孔52によって構成されている。
【0055】
特に本実施形態では、第一のオリフィス通路82を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、例えば、該流体の共振作用に基づいてエンジンシェイク等に相当する10Hz前後の低周波数域の振動に対して有効な防振効果(高減衰効果)が発揮されるようにチューニングされている。一方、第二のオリフィス通路92を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、例えば該流体の共振作用に基づいてアイドリング振動や低速こもり音等に相当する20〜40Hz程度の中周波数域乃至は高周波数域の振動に対して有効な防振効果が得られるようにチューニングされている。即ち、第二のオリフィス通路92のチューニング周波数が、第一のオリフィス通路82のチューニング周波数に比して高周波数域に設定されている。これら第一のオリフィス通路82や第二のオリフィス通路92のチューニングは、例えば、受圧室78や平衡室80の各壁ばね剛性、即ちそれら各室78,80を単位容積だけ変化させるのに必要な圧力変化量に対応する本体ゴム弾性体16やダイヤフラム70等の各弾性変形量に基づく特性値を考慮しつつ、各オリフィス通路82,92の通路長さと通路断面積を調節することによって行うことが可能であり、一般に、オリフィス通路82,92を通じて伝達される圧力変動の位相が変化して略共振状態となる周波数を、それらオリフィス通路82,92のチューニング周波数として把握することが出来る。
【0056】
また、弁収容領域68における上板金具34と弁金具84の軸方向間には、付勢手段(付勢スプリング)としてのコイルスプリング94が配設されている。コイルスプリング94の一方(図1中、下)の端部が、弁金具84に内挿されて、軸直角方向で筒状部86に重ね合わされていると共に、軸方向で弁金具84の弁板部88に重ね合わされている。即ち、コイルスプリング94が、弁金具84の筒状部86によって弁金具84と同一中心軸上に配されるように軸直角方向に位置決めされている。また、コイルスプリング94の他方(図1中、上)の端部が、上側ヨーク55の内孔65の周りの下端部に重ね合わされており、本実施形態では、上側ヨーク55と弁金具84の間で予圧縮された状態で配設されている。
【0057】
弁金具84がコイルスプリング94により軸方向下方に向かって付勢されて、弁座50に対して軸方向上方から押し当てられることにより、弁金具84の弁収容領域68における変位方向(本実施形態ではマウント軸方向)の一方(図1中、下)の変位端が規定されるようになっている。ここで、弁座50の連通孔52と弁金具84に形成された貫通孔90は、軸方向で互いに投影しない位置に、換言すると径方向で互いに異なる位置に設けられていることから、弁金具84の弁板部88が弁座50に重ね合わせられた状態下、連通孔52が弁金具84の貫通孔90よりも径方向内側の中央部分によって閉塞せしめられていると共に、貫通孔90が弁座50の連通孔52よりも径方向外側の径方向中間部分乃至は外周部分によって閉塞せしめられている。
【0058】
従って、コイル58に通電せずに、コイルスプリング94の付勢力に基づき弁金具84の弁板部88が弁座50に重ね合わされた状態において、弁金具84の貫通孔90および弁座50の連通孔52の閉塞に伴い、弁収容領域68と平衡室80が弁座50と弁板部88によって流体密に仕切られており、第二のオリフィス通路92が遮断状態とされるようになっている。なお、第二のオリフィス通路92の遮断状態は、受圧室78と平衡室80の間で第二のオリフィス通路92を通じての流体流路による流体流動作用が有効に生ぜしめられない状態をいう。
【0059】
一方、コイル58に対して電源装置62から通電されると、コイル部材54と強磁性材で形成された弁金具84の間に発生する磁力によって、弁金具84がコイルスプリング94による付勢力に抗して軸方向上方に吸引変位せしめられるようになっている。
【0060】
かかる弁金具84の吸引変位によって、弁板部88が弁座50から軸方向上方に離隔せしめられることから、弁板部88の貫通孔90および弁座50の連通孔52が連通状態とされて、弁収容領域68と平衡室80が相互に連通せしめられる。その結果、第二のオリフィス通路92が連通状態とされて、受圧室78と平衡室80の間で第二のオリフィス通路92を通じての流体流路による流体流動作用が有効に生ぜしめられる状態になる。
【0061】
要するに、コイル58への電力供給を制御することにより、弁金具84の弁板部88を弁座50に対して接近方向と離隔方向に変位せしめることが出来て、第二のオリフィス通路92の遮断状態と連通状態を切り換えることが可能となっている。
【0062】
そこにおいて、コイル58への通電により弁金具84を軸方向上方に向かって吸引変位せしめると、筒状部86の開口端部が、非圧縮性流体が封入された凹所89に入り込むようになっており、凹所89が筒状部86の開口端部よりも一回り大きくされていることから、筒状部86が凹所89に入り込んだ状態で筒状部86と凹所89の開口縁部との間に微小隙間が形成される。この微小隙間を通じて凹所89と弁収容領域68の間の流体流動が生ぜしめられることにより、かかる流体の流動作用に基づいて減衰効果が発揮される。即ち、本実施形態では、筒状部86の開口端部によって、凹所89に入り込む突部95が構成されており、それら非圧縮性流体が封入された凹所89と突部95を含んで、ダッシュポット構造の減衰機構が構成されている。
【0063】
特に本実施形態では、コイル58への通電による磁界の作用で弁板部88が弁座50から離隔せしめられると、弁金具84の筒状部86の開口端部(突部95)が上側ヨーク55の凹所89の底部に当接する位置にまで吸引変位せしめられるようになっており、更にかかる当接状態を維持するように、コイル58への電力供給を制御している。即ち、仕切部材30に設けられた上側ヨーク55の凹所89の底部が、ストッパ96(ストッパ機構)として構成されており、弁金具84が仕切部材30のストッパ96に当接することで、弁金具84の弁収容領域68における変位方向の他方(図1中、上)の変位端が規定され、しかもかかる当接状態が維持されることで、第二のオリフィス通路92が連通状態に保持されるのである。
【0064】
さらに、本実施形態では、受圧室78の圧力が、上板金具34の透孔64および上側ヨーク55の内孔65を通じて、弁金具84の変位方向の他方(図1中、上)に向かう、筒状部86の上端面(開口周縁面)や弁板部88の他方の面に及ぼされるようになっている一方、平衡室80の圧力が、仕切部材本体32の連通孔52を通じて、弁金具84の変位方向の一方(図1中、下)に向かう弁板部88の一方の面に及ぼされるようになっている。そして、コイル58に通電せずに、コイルスプリング94の付勢力に基づき弁板部88が弁座50に重ね合わされて、第二のオリフィス通路92を遮断せしめた状態において、衝撃的に大きな振動が入力されること等により受圧室78に大きな負圧が発生して、受圧室78と平衡室80の相対的な圧力差が大きくなると、前述の弁板部88の両面や筒状部86の上端面に受圧室78の過負圧作用が及ぼされることにより、弁金具84がコイルスプリング94による付勢力に抗して弁座50から離隔して、第二のオリフィス通路92を連通状態とするようになっている。要するに、コイル58の非通電状態下、受圧室78が過負圧状態になると、コイル58に通電せずとも、弁金具84が変位して、第二のオリフィス通路92が連通せしめられるのであり、それによって、受圧室78と平衡室80が第二のオリフィス通路92を通じて短絡せしめられて、受圧室78の過負圧状態が通常の圧力状態に移行するのである。
【0065】
上述の如き構造とされた自動車用エンジンマウント10においては、自動車の走行時に、外部の電源装置62によるコイル58への通電を行わないことで、コイルスプリング94の付勢力で弁金具84が弁座50に当接する状態が維持せしめられて、第二のオリフィス通路92が遮断状態に維持されるようになっている。これにより、自動車の走行時に問題となるエンジンシェイクが入力されると、第二のオリフィス通路92を通じての圧力漏れが阻止されて、受圧室78と平衡室80の相対的な圧力差に基づいて第一のオリフィス通路82を通じての流体流動が有効に生ぜしめられることとなり、受圧室と平衡室90の間で流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果が有利に発揮される。
【0066】
一方、自動車の停車時には、電源装置62によって外部からコイル58に給電されるようになっており、コイル58が磁場を形成することによって、弁金具84が磁力の作用により軸方向上方に向かって吸引変位されるようになっている。そして、弁金具84の弁板部88が弁座50から軸方向上方に離隔せしめられると共に、弁金具84の突部95が仕切部材30のストッパ96に当接することにより、弁座50に形成された連通孔52や弁板部88に形成された貫通孔90が何れも連通せしめられた状態に保持されて、第二のオリフィス通路92の連通状態が保持されている。これにより、自動車の停車状態で、第一のオリフィス通路82のチューニング周波数よりも高周波数域において問題となるアイドリング振動当が入力された際に、第一のオリフィス通路82を通じての流体流動作用が実質的に生ぜしめられない一方、第二のオリフィス通路92を通じての流体流路による共振作用等の流動作用が有効に生ぜしめられて、かかる流動作用に基づき優れた防振効果が得られる。
【0067】
特に本実施形態では、弁金具84とコイル部材54からなるソレノイドアクチュエータが仕切部材30に設けられていることから、ソレノイドアクチュエータを収容配置するハウジングを特別に新たに設ける必要がなくなり、それによって、部品点数の削減に基づき低コスト化が有利に図られ得ることに加え、マウント10のコンパクト化が有利に図られ得る。
【0068】
また、本実施形態では、弁金具84が、コイル58の通電によりコイルスプリング94の付勢力に抗して第二のオリフィス通路92を遮断する一方の変位側から第二のオリフィス通路92を連通する他方の変位側に向けて変位せしめられて、ストッパ96に当接することにより、弁金具84の他方の変位端が規定される。それによって、第二のオリフィス通路92の遮断状態が安定して保持されることから、例えばストッパ96を設けずに弁金具を弁座から離隔せしめるだけで第二のオリフィス通路の連通状態を保持するようにした構造のエンジンマウントに比して、連通状態を保持するのに必要な電力の最小値が容易に設定されるのであって、使用コストの削減が有利に図られ得る。
【0069】
ところで、上述の如くコイル部材54の通電による磁界の作用で、軸方向に吸引変位せしめられるソレノイド駆動式の弁金具84は、一般に、一方から他方に向かって吸引変位せしめられる変位側に近づくにつれて、磁界の作用が大きくなることにより、変位が大きくなる特性を有している。即ち、本実施形態では、弁金具84が弁座50から離隔してストッパ96に接近するにつれて、ソレノイドアクチュエータによる吸引変位力が大きくなるものと考えられる。
【0070】
そこにおいて、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10では、弁金具84の他方の変位側にダッシュポット構造の減衰機構が設けられており、弁金具84が他方の変位側に位置せしめられる際に、ダッシュポット構造の減衰機構による減衰効果に基づいて、ソレノイドアクチュエータにより弁体を一方から他方に向けて吸引変力する力が抑えられるようになっている。
【0071】
これにより、弁金具84がストッパ96に当接する際に、前述のソレノイドアクチュエータの特性による弁金具84の過大な変位力が抑えられて、弁金具84がストッパ96に衝撃的に乃至は加速度的に大きく打ち当たることが抑えられる。
【0072】
また、弁金具84の変位方向で、ダッシュポット構造の減衰機構が設けられた他方の変位側と反対の一方の変位側には、かかる減衰機構が設けられていないことから、弁金具84が一方の変位側に位置せしめられる際に、変位が減衰作用により抑えられることもない。即ち、吸引変位力が他方の変位側に比して小さな一方の変位側では、ダッシュポット構造による減衰作用で変位が抑えられるおそれがないことから、弁金具84が一方から他方に向かって滑らかに変位することが可能となるのであり、それによって、第二のオリフィス通路92における連通状態と遮断状態の移行がスムーズに実現されるのである。
【0073】
それ故、本実施形態に係る流体封入式エンジンマウント10においては、弁金具84のストッパ96への当接に伴う第二のオリフィス通路の遮断状態および連通状態の高精度化と、弁金具84がストッパ96に打ち当たる際に問題となる打音の発生防止が、両立して高度に達成され得るのである。
【0074】
また、本実施形態では、有底円筒形状の弁金具84が採用されていることにより、一方の変位側に当接する部分(弁板部88)や他方の変位側に当接する部分(筒状部86や突部95)の構成、更にコイルスプリング94を内挿して支持せしめる構造がコンパクトに実現されて、構造が簡略とされると共に、マウント10のコンパクト化が有利に図られ得る。
【0075】
しかも、本実施形態では、コイルスプリング94によって弁金具84に及ぼされる付勢力が適当に調節されており、大振幅振動の入力によって受圧室78に大きな負圧が生じた場合には、コイルスプリング94の付勢力に基づき弁座50に当接状態にある弁金具84が、負圧の作用によってコイルスプリング94の付勢力に抗して弁座50から離隔せしめられるようになっている。これにより、コイル58の通電により弁金具84を吸引変位せしめなくとも、第二のオリフィス通路92が連通状態とされて、第二のオリフィス通路92を通じての流体流動により受圧室78の圧力と平衡室80の圧力が速やかに平衡状態とされるようになっている。それ故、受圧室78の過大な負圧に起因すると考えられるキャビテーションによる異音や振動の発生が有利に抑えられる。
【0076】
また、本実施形態では、マウント軸方向(図1中、上下)に延びる高さ寸法に関して、突部95を備えた弁金具84の高さ寸法が弁収容領域68の高さ寸法に比して小さくされており、弁金具84の弁板部88が弁座50に当接して、コイルスプリング94の付勢力により弁金具84が第二のオリフィス通路92を連通させる連通位置に保持された状態で、突部95が凹所89から離隔配置されている。これにより、突部95の凹所89への嵌まり込みに伴うダッシュポット作用による減衰効果が、弁金具84をソレノイドアクチュエータによって他方の変位側に近づけた場合にのみ発揮される。その結果、突部95の凹所89への嵌まり込みに伴う弁金具84の切換作動の速度低下が抑えられて、速やかな切換作動が実現され得る。
【0077】
なお、本実施形態において、突部95と凹所89の位置関係は上述の形態に限定されるものでなく、例えばマウント軸方向に延びる高さ寸法に関して、弁金具84の高さ寸法を弁収容領域68の高さ寸法よりも大きくして、弁金具84の弁板部88が弁座50に当接して、コイルスプリング94の付勢力により弁金具84が第二のオリフィス通路92を連通させる連通位置に保持された状態で、突部95が凹所89に入り込んでいても良い。そして、弁金具84の弁収容領域68における駆動変位に伴い、突部95が凹所89に入り込んだままの状態で、凹所89の壁部に沿って変位せしめるようにしても良い。これにより、弁金具84の弁収容領域68の周壁部等への干渉や、弁金具84のこじり変位が防止されて、弁金具84の作動安定性が向上される。
【0078】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0079】
例えば、弁金具84や仕切部材30、第一のオリフィス通路82、第二のオリフィス通路92、コイル部材54、コイルスプリング94、凹所89および突部95からなるダッシュポット構造の減衰機構等における形状や大きさ、構造、数、配置等の形態は、例示の如き形態に限定されるものではない。以下、図面を参照しつつ、前記実施形態と異なる形態の自動車用エンジンマウントについて説明することもあるが、前記実施形態と実質的に同一の構造とされた部材および部位については、図中に当該実施形態と同一の符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0080】
すなわち、前記実施形態では、ダッシュポット構造の減衰機構の一部を構成する突部95が、弁金具84の筒状部86の開口端部によって構成されていたが、例えば、図2にも示されているように、筒状部86の開口端部に一体形成された外フランジ状部98によって構成しても良く、かかる外フランジ状部98や凹所89における形状や大きさ等を適当に設計することによって、減衰効果をチューニングすることも可能である。また、ダッシュポット構造の減衰機構を、弁金具84の底部側に設けることも可能である。更に、前記した特開昭59−151637号公報に記載されているように、弁体とは別体のソレノイドアクチュエータを採用する場合等においては、弁体に駆動力を及ぼす駆動ロッド等の弁体とは異なる部分にダッシュポット構造の減衰機構を設けることも可能である。
【0081】
また、前記実施形態では、凹所89や突部95が、何れも略一定の断面で周方向に連続して延びていたが、要求される減衰効果や形成スペース等に応じて、周方向で断面を異ならせたり、周上の一部又は複数部位においてダッシュポット構造の減衰機構を部分的に形成したりすることも勿論可能である。
【0082】
また、前記実施形態では、弁金具84の突部95が仕切部材30の凹所89に入り込んで減衰効果が発揮されると共に、突部95が凹所89の底部に当接することによって弁金具84のアクチュエータによる吸引変位側の変位端が規定されるようになっていたが、例えば弁金具における突部とは別の部位が仕切部材に当接することによって弁金具84の変位端が規定されるようにしても良い。
【0083】
また、前記実施形態では、仕切部材30と一体形成された弁座50に連通孔52が貫設されて、弁板部88が弁座50に当接して、連通孔52が弁板部88で直接に覆蓋されることにより、第二のオリフィス通路92が連通状態とされるようになっていたが、例えば、仕切部材30の中央を軸方向に貫通する中央孔の一方の開口部を上板金具34で覆蓋すると共に、他方の開口部を平板形状の弁座金具で覆蓋することによって、弁収容領域68を構成し、更に弁収容領域68における弁座金具の側において弁金具84の径方向外方に位置する隙間が、弁座金具の外周部分を貫通して平衡室80に接続されることによって、弁収容領域68と平衡室80を接続する一又は二以上の連通孔を形成して、弁金具84の弁板部88が弁座金具の中央に当接された際に、弁金具84の筒状部86で当該連通孔が閉塞されることによって、第二のオリフィス通路92の遮断状態が実現されるようにしても良い。
【0084】
また、前記実施形態では、弁金具84の弁板部88がコイルスプリング94の付勢力により仕切部材30の弁座50に当接して弁座50の連通孔52を覆蓋することにより、第二のオリフィス通路92を遮断状態とする一方、コイル58の通電により弁金具84が付勢力に抗してストッパ96に向かって吸引変位してストッパ96に当接することで、第二のオリフィス通路92の連通状態が維持されるようになっていたが、例えば、上板金具34の中央に透孔64を設けない代わりに、上板金具34の径方向中間部分乃至は外周部分と弁収容領域68の周壁部の間を連続して延びる一又は二以上の透孔を形成し、弁板部88を弁座金具に当接した状態で、透孔の受圧室78と弁収容領域68を接続する連通状態を確保することによって、第二のオリフィス通路92を連通状態とする一方、コイル58の通電により弁金具84が付勢力に抗してストッパ96に向かって吸引変位してストッパ96に当接することに伴い、透孔が弁金具84の筒状部86で閉塞されることによって、第二のオリフィス通路92を遮断状態とすることも可能である。
【0085】
また、例えば、本出願人が先に出願した特願2007−11253号の明細書および図面等にも示されているように、仕切部材の下側凹所の開口部を覆蓋するようにして弾性変形可能な可動ゴム膜を配設し、可動ゴム膜の固有振動数を、第二のオリフィス通路のチューニング周波数と同様に、自動車の問題となる中乃至高周波数域にチューニングすることによって、アイドリング振動の入力時に第二のオリフィス通路を通じての流体流動が、可動ゴム膜の共振作用によって有利に実現されるようにしても良い。
【0086】
また、前記実施形態では、コイル58の周りに強磁性材で形成された上側ヨーク55や下側ヨーク56が配されているが、ヨークは必ずしも必要ではなく、例えば、非磁性の合成樹脂材料からなる仕切部材本体32に対してコイル58が埋設配置される等しても良い。
【0087】
また、仕切部材30は、必ずしも外周面の一部が外部に露出されている必要はなく、例えば、筒状とされた第二の取付金具の内周側に圧入されることにより、第二の取付金具に組み付けられるようになっていても良い。
【0088】
また、前記実施形態では、コイル部材54や付勢手段としてのコイルスプリング94が仕切部材に設けられていたが、第二のオリフィス通路を開閉する弁体とは別にソレノイドアクチュエータを設け、該ソレノイドアクチュエータの出力軸を弁体に連結して駆動するようにした流体封入式エンジンマウントに対しても適用可能である。具体的に例示すると、例えば、特許文献1(特開昭59−151637号公報)に示されているように、第二の取付部材の外周面に突設されたハウジング内にコイル部材(ソレノイド)を設けて、第二の取付部材に対して軸直角方向に変位可能に支持せしめられる弁軸の一方の端部に弁体を設けると共に、他方の端部に強磁性部材からなる可動子を設けて、この可動子をコイル部材の内側に配設して弁体を吸引作動させるソレノイドアクチュエータを構成する一方、ソレノイドアクチュエータによる吸引方向と反対方向に弁体を付勢するコイルスプリングを設けて、弁軸をコイル部材による吸引変位力とコイルスプリングの付勢力を利用して軸方向に駆動変位せしめることに伴い、弁体を第二のオリフィス通路の連通位置と遮断位置に変位せしめる構造において、その流体封入領域内で弁体の変位に伴って作動するダッシュポット構造の減衰機構を採用することも可能である。
【0089】
また、弁体による第二のオリフィス通路の開閉機構は限定されない。例えば前記した米国特許第6921067号明細書に記載の如き径方向に延びる開口窓を開閉する弁体機構も、本発明において採用可能である。
【0090】
加えて、前記実施形態では、本発明を自動車用エンジンマウントに適用したものの具体例について説明したが、本発明は、自動車用ボデーマウントやデフマウント等の他、自動車以外の各種振動体の防振装置に対して、何れも、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントの縦断面図。
【図2】本発明の別の一具体例としての自動車用エンジンマウントの縦断面図。
【符号の説明】
【0092】
10:自動車用エンジンマウント、12:第一の取付金具、14:第二の取付金具、16:本体ゴム弾性体、30:仕切部材、52:連通孔、54:コイル部材、58:コイル、64:透孔、65:内孔、68:弁収容領域、76:透孔、70:ダイヤフラム、78:受圧室、80:平衡室、82:第一のオリフィス通路、84:弁金具、89:凹所、90:連通孔、92:第二のオリフィス通路、94:コイルスプリング、95:突部、96:ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーユニットと車両ボデーの一方に取り付けられる第一の取付部材と、該パワーユニットと該車両ボデーの他方に取り付けられる第二の取付部材とを本体ゴム弾性体で連結して、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通せしめる第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を該仕切部材にそれぞれ形成して、該第一のオリフィス通路よりも該第二のオリフィス通路を高周波数域にチューニングする一方、該第二のオリフィス通路を連通させる連通位置と遮断させる遮断位置とに変位せしめられる弁体と、それら連通位置と遮断位置の一方に向けて該弁体を付勢してかかる位置に保持する付勢手段と、該付勢手段による付勢力に抗して該弁体をそれら連通位置と遮断位置の他方に駆動してかかる位置に保持するソレノイドアクチュエータを設けた流体封入式エンジンマウントにおいて、
前記ソレノイドアクチュエータで駆動される前記弁体の前記連通位置と前記遮断位置の他方の側への変位端を当接によって規定するストッパ機構を設ける一方、該ソレノイドアクチュエータによる該弁体の駆動に伴って相互に接近せしめられる対向部位を前記非圧縮性流体の封入領域に設けて、該対向部位の一方にはその対向面に開口して該非圧縮性流体が満たされた凹所を形成すると共に、該対向部位の他方にはその対向面上に突出する突部を形成し、該ソレノイドアクチュエータで駆動される該弁体の前記連通位置と前記遮断位置の他方の変位側において該凹所に該突部が入り込むダッシュポット構造の減衰機構を構成したことを特徴とする流体封入式エンジンマウント。
【請求項2】
前記弁体を強磁性材で形成して、前記仕切部材における前記第二のオリフィス通路を通じての流体流路上に該弁体を変位可能に配設すると共に、該流体流路を構成する壁部と該弁体の間に前記付勢手段を配設して該弁体を前記連通位置と前記遮断位置の一方に向けて付勢する一方、該仕切部材における該弁体の周りに前記ソレノイドを配設して、それら弁体やソレノイド、付勢手段からなる前記ソレノイドアクチュエータを該仕切部材に対して組み込んだ請求項1に記載の流体封入式エンジンマウント。
【請求項3】
前記弁体が有底円筒形状を有しており、前記突部を該弁体の開口縁部に形成すると共に、前記仕切部材において前記ソレノイドアクチュエータによる該弁体の駆動に伴って該突部が接近する位置に前記凹所を設けた請求項1又は2に記載の流体封入式エンジンマウント。
【請求項4】
前記付勢手段としてコイルスプリングを採用し、該コイルスプリングの一方の端部が前記弁体の内側に収容配置されて、該弁体の周壁部によって該コイルスプリングが軸直角方向に位置決めされていると共に、該コイルスプリングの他方の端部を前記仕切部材に支持させて、該弁体を該周壁部の開口部分から底部に向かう前記連通位置と前記遮断位置の一方に向けて付勢した請求項3に記載の流体封入式エンジンマウント。
【請求項5】
前記仕切部材には、前記第二のオリフィス通路を通じての流体流路上において前記弁体が収容配置される弁収容領域を設けて、該弁収容領域に開口形成した流体流動用の連通孔を該弁体によって閉塞せしめることにより該第二のオリフィス通路を遮断状態とすると共に、前記ソレノイドへの通電によって該弁体を該弁収容領域の壁部から離隔せしめて該連通孔を開口することにより該第二のオリフィス通路を連通状態とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の流体封入式エンジンマウント。
【請求項6】
前記弁収容領域において前記弁体の前記連通位置と前記遮断位置の一方の変位側に弁座を設けて、該弁座に前記連通孔を形成しており、該弁体を該弁座に重ね合わせることで、該弁体の該連通位置と該遮断位置の一方の変位端を規定すると共に、該連通孔を該弁体により閉塞せしめて前記第二のオリフィス通路を遮断状態とする請求項5に記載の流体封入式エンジンマウント。
【請求項7】
前記弁収容領域において前記第二のオリフィス通路の前記受圧室側から前記平衡室側に向けて前記弁体が前記付勢手段で付勢されている一方、該付勢手段による付勢方向側の変位側で該弁体が該弁収容領域の壁部に当接して前記連通孔が閉塞されると共に、該受圧室と該平衡室の圧力が該弁体の変位方向の各一方の面に及ぼされるようになっており、振動入力時に該受圧室に発生する負圧によって該弁体が該付勢手段による付勢力に抗して変位して該連通孔が連通状態とされるようになっている請求項5又は6に記載の流体封入式エンジンマウント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−52591(P2009−52591A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217473(P2007−217473)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】