説明

流体封入式能動型防振装置とその製造方法

【課題】防振装置本体と電磁式アクチュエータとの組付け誤差等に起因する可動子の固定子に対する相対的な傾斜や軸ずれを防ぐと共に、加振力の効率的な伝達によって目的とする防振性能を有効に実現することが出来る、新規な構造の流体封入式能動型防振装置とその製造方法を提供する。
【解決手段】アクチュエータとして、第二の取付部材18に固定されるコイル72を含んで構成された固定子68と、コイル72への通電によって固定子68に対して直線的に相対変位可能とされた可動子70とを備えた電磁式アクチュエータ14が採用されている。可動子70と加振部材56を連結する駆動軸36を可動子70に対する傾動と軸直角方向への変位が許容された状態で可動子70に組み付ける連結手段84と、連結手段84による傾動と軸直角方向への変位を阻止して可動子70と駆動軸36を固定する変位阻止手段98とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された流体の流動作用を利用する流体封入式防振装置であって、特に外部からの通電によって能動的な防振効果を発揮する流体封入式能動型防振装置とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を防振連結する装置として、ゴム弾性体の内部摩擦等に基づく防振効果を利用する防振装置が知られている。また、防振装置の一種として、内部に形成された流体室に非圧縮性流体が封入されており、封入された非圧縮性流体がオリフィス通路を通じて流動することで発揮される共振作用等に基づいた防振効果を利用する流体封入式防振装置も、一般的に知られている。更に、流体封入式防振装置においてより高度な防振性能を実現することを目的として、電磁式アクチュエータの加振力を流体室に及ぼすことにより、振動を能動的に低減する流体封入式能動型防振装置も提案されている。この流体封入式能動型防振装置は、流体室の壁部の一部を構成する加振部材と、通電によって一軸方向に加振駆動される可動子が、駆動軸によって相互に連結された構造を有しており、可動子の加振力が駆動軸を介して加振部材に伝達されることで、相殺的な防振効果が発揮されるようになっている。例えば、特許第3736991号公報(特許文献1)に記載のものが、それである。
【0003】
ところで、流体封入式能動型防振装置では、製造の容易さ等を考慮して、一般的に、非圧縮性流体を封入された流体室を有する防振装置本体と、電源装置からの通電によって加振力を発生する電磁式アクチュエータとが、別々に製造されて、後組付けされる。
【0004】
しかし、このような防振装置本体と電磁式アクチュエータとを製造後に組み付ける構造では、部品寸法の誤差等に起因して、防振装置本体と電磁式アクチュエータとの組付け時に相対的な軸ずれや傾斜を生じる場合がある。そして、防振装置本体と電磁式アクチュエータとの相対的な傾斜や軸ずれに伴って、駆動軸が所定の位置に対して傾斜または軸ずれを生じることにより、駆動軸に連結された可動子が固定子に対して傾斜や軸ずれ等を生じて、微小な隙間で離隔配置されるべき可動子と固定子が当接してしまうおそれがある。その結果、電磁式アクチュエータにおいて、かじりによる作動不良や、磨耗による耐久性の低下、更には摺接時の摩擦抵抗によって所期の加振力が発揮されないことに起因する防振性能の低下等といった不具合を生じる可能性があった。
【0005】
なお、特許文献1では、可動子の加振力を流体室に伝達する駆動軸が、筒状の可動子に対して遊挿されていると共に、それら駆動軸と可動子の間に挟まれた皿ばねによって駆動軸と可動子が弾性的に連結されている。そして、特許文献1では、防振装置本体と電磁式アクチュエータとの相対的な傾斜や軸ずれに起因する駆動軸の変位が可動子に対して直接的に作用するのを防止することで、可動子の固定子に対する当接回避が図られている。しかしながら、特許文献1の構造では、皿ばねの変形許容量が大きいと、加振力が可動子から駆動軸への伝達経路上において皿ばねの変形で吸収されて、目的とする防振性能が実現され難い。一方、皿ばねの変形許容量が小さいと、駆動軸と可動子との傾斜や軸ずれを充分に吸収することが出来ず、可動子の固定子に対する相対的な位置ずれを生じるおそれがあった。従って、加振力の効率的且つ高精度な伝達による高度な防振性能の実現と、優れた耐久性の確保とを、両立して実現することは、未だ困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3736991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、防振装置本体と電磁式アクチュエータとの組付け誤差等に起因する可動子の固定子に対する相対的な傾斜や軸ずれを防ぐと共に、加振力の効率的な伝達によって目的とする防振性能を有効に実現することが出来る、新規な構造の流体封入式能動型防振装置とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載するが、以下に記載の各構成は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。
【0009】
本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体によって連結すると共に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体を封入された流体室を形成することにより防振装置本体が形成されている一方、該流体室の壁部の別の一部が加振部材で構成されており、該加振部材に駆動力を及ぼして加振変位させるアクチュエータが該加振部材を挟んで該流体室と反対側に配設されて該防振装置本体に取り付けられている流体封入式能動型防振装置において、前記アクチュエータとして、前記第二の取付部材に固定されるコイルを含んで構成された固定子と、該コイルへの通電によって該固定子に対して直線的に相対変位可能とされた可動子とを備えた電磁式アクチュエータが採用されており、該可動子と前記加振部材を連結する駆動軸を該可動子に対する傾動と軸直角方向への変位が許容された状態で該可動子に組み付ける連結手段と、該連結手段による傾動と軸直角方向への変位を阻止して該可動子と該駆動軸を固定する変位阻止手段とを設けたことを特徴とする。
【0010】
第一の態様によれば、駆動軸と可動子が揺動と軸直角方向への変位を許容された状態で連結手段によって連結されることから、防振装置本体と電磁式アクチュエータとの組付け時の誤差や部品の寸法誤差等に起因する駆動軸の中心軸と可動子の中心軸との相対的な傾斜および軸ずれが許容される。それ故、可動子が、駆動軸から及ぼされるこじり方向や軸直角方向の力によって、固定子に対する相対的な傾斜および軸ずれを生じるのが防止されて、可動子と固定子の間でのかじり又は摺接による電磁式アクチュエータの作動不良や加振性能の低下、耐久性の低下等の不具合が回避される。加えて、駆動軸と可動子の相対的な傾斜および軸ずれによる連結不能が回避されることにより、防振装置本体と電磁式アクチュエータとの組付け時における不良品の発生が低減される。
【0011】
さらに、連結手段による連結後には、駆動軸と可動子が変位阻止手段によって揺動および変位不能に固定されることから、可動子の加振力を加振部材に伝達する伝達経路上において加振力が低減されて防振性能が低下するのを防ぐことが出来る。即ち、駆動軸が可動子に対して揺動および変位可能な状態では、可動子の軸方向加振力が駆動軸へ伝達される際に揺動方向や軸直角方向に分散されて、軸方向加振力の伝達効率が低下するおそれがあった。そこにおいて、駆動軸と可動子が連結後に固定されることにより、可動子の軸方向加振力が少ないロスで加振部材に伝達されて、流体室に対して目的とする加振力が及ぼされる。その結果、入力振動に対する能動的乃至は相殺的な防振効果が有効に発揮されて、目的とする優れた防振性能を得ることが出来る。
【0012】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載のものにおいて、前記連結手段が相対的な揺動を許容された軸受内輪と軸受外輪とを有するボールジョイントで構成されており、該ボールジョイントの該軸受内輪が前記駆動軸に設けられていると共に、該軸受外輪が筒状とされた前記可動子に挿入されて軸直角方向で相対変位可能に支持されている一方、前記電磁式アクチュエータが前記防振装置本体に取り付けられて、前記変位阻止手段により該軸受内輪と該軸受外輪が相互に固定されていると共に該軸受外輪が該可動子に固定されているものである。
【0013】
第二の態様によれば、連結手段としてボールジョイントが採用されることにより、駆動軸と可動子の揺動を許容し得る連結手段が従来から知られた構造を利用して具体的且つ容易に実現される。また、ボールジョイントにおいて可動子側となる軸受外輪が可動子に対して軸直角方向で相対変位可能に支持されていることから、駆動軸と可動子の軸直角方向での相対的な変位も、連結手段によって容易に許容される。
【0014】
本発明の第三の態様は、第二の態様に記載のものにおいて、前記軸受内輪が外周面を球状とされた膨出部を備えていると共に、前記軸受外輪が第一のリングと第二のリングとを含んで構成されて、前記駆動軸に対して該膨出部の軸方向両側から該第一のリングと該第二のリングが外挿されている一方、前記変位阻止手段により該第一のリングと該第二のリングが該膨出部を挟んだ両側から軸方向で接近側に締め付けられて前記可動子に固定されているものである。
【0015】
第三の態様によれば、第一のリングと第二のリングが膨出部を挟んだ両側から軸方向接近側に締め付けられることにより、変位阻止手段が第一,第二のリングと駆動軸および可動子の間に作用する摩擦抵抗を利用して極めて簡単な構造で実現される。なお、第一のリングと第二のリングは、例えば、それら第一,第二のリング自体或いは他の部材が可動子に対して軸方向で螺入または圧入されることにより、軸方向で接近側に締め付けられる。
【0016】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか一態様に記載のものを製造する方法であって、前記第一の取付部材と前記第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結して前記防振装置本体を形成する第一の準備工程と、前記固定子と前記可動子を組み合わせて前記電磁式アクチュエータを形成する第二の準備工程と、該防振装置本体に該電磁式アクチュエータを取り付ける取付工程と、前記取付工程後に、前記駆動軸と前記可動子とを前記連結手段によって相対的な傾動および軸直角方向への変位が許容された状態に組み付ける連結工程と、前記連結工程後に、該駆動軸と該可動子とを前記変位阻止手段によって相対変位不能に固定する変位阻止工程とを、含むことを特徴とする。
【0017】
第四の態様に示された製造方法によれば、連結工程において駆動軸と可動子との相対的な傾斜および軸ずれを吸収すると共に、連結工程後の変位阻止工程において駆動軸と可動子を固定することにより、本発明の流体封入式能動型防振装置を具体的に製造することが出来る。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、駆動軸と可動子が連結手段によって揺動および加振方向に対する直交方向への変位を許容された状態で連結されることにより、駆動軸の中心軸と可動子の中心軸との相対的な傾斜やずれが駆動軸と可動子の連結部分において吸収されて、それら駆動軸と可動子の連結不良や可動子と固定子の当接による作動不良および耐久性低下等が防止される。加えて、駆動軸と可動子が、連結手段による連結後に、変位阻止手段によって相互に固定されることにより、加振力の効率的な伝達も併せて実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図。
【図2】エンジンマウントの要部を拡大して示す縦断面図であって、(a)は軸傾斜と軸ずれの両方がない状態、(b)は軸傾斜のみがある状態、(c)は軸ずれのみがある状態、(d)は軸傾斜と軸ずれの両方がある状態を、それぞれ示す。
【図3】本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図。
【図4】本発明の別の一実施形態としての自動車用エンジンマウントの要部を拡大して示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
先ず、図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式能動型防振装置の第一の実施形態として、自動車用エンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、防振装置本体としてのマウント本体12に対して電磁式アクチュエータ14を取り付けた構造とされている。更に、マウント本体12は、第一の取付部材としての第一の取付金具16と第二の取付部材としての第二の取付金具18が本体ゴム弾性体20によって相互に連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、マウント軸方向である図1中の上下方向を言う。
【0022】
より詳細には、第一の取付金具16は、全体として略円柱形状を有しており、軸方向中間部分には外周側に広がる円環板状のフランジ部22が一体形成されている。また、第一の取付金具16には、中心軸上を延びて上面に開口する取付孔24が形成されており、取付孔24の内周面にねじ山が螺刻されている。そして、取付孔24に螺着されるボルトによって第一の取付金具16が図示しないパワーユニットに固定されるようになっている。
【0023】
第二の取付金具18は、薄肉大径の略段付き円筒形状を有しており、段差を挟んで上部が下部よりも小径とされている。更に、第二の取付金具18の下端部には、筒状のかしめ片26が下方に突出するように一体形成されている。また、第二の取付金具18には、ブラケット28が取り付けられている。ブラケット28は、大径の略円筒形状を有しており、その上端部には内フランジ状のストッパ部30が一体形成されていると共に、その下端外周面に複数の固定脚部32が固設されて下方に突出している。そして、固定脚部32が図示しない車両ボデーに対してボルト固定されることにより、第二の取付金具18がブラケット28を介して車両ボデーに取り付けられるようになっている。
【0024】
そして、第一の取付金具16が第二の取付金具18に対して、同一中心軸上で軸方向上方に離隔配置されて、それら第一の取付金具16と第二の取付金具18が本体ゴム弾性体20によって弾性的に連結されている。本体ゴム弾性体20は、大径の略円錐台形状を有しており、その小径側端部に第一の取付金具16が下部を埋設させた状態で加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面には第二の取付金具18の小径部分が重ね合わされて加硫接着されている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体20が第一の取付金具16および第二の取付金具18を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0025】
また、第二の取付金具18には、可撓性膜としてのダイヤフラム34が取り付けられている。ダイヤフラム34は、薄肉大径の略円環板形状を有するゴム膜であって、軸方向に充分な弛みを有している。また、ダイヤフラム34の内周縁部に駆動軸36が加硫接着されていると共に、外周縁部に固定金具38が加硫接着されている。
【0026】
駆動軸36は、直線的に延びる略ロッド形状を有しており、上端部に突起が一体形成されていると共に、軸方向中間部分にフランジ状の固着部40が一体形成されている。そして、固着部40がダイヤフラム34の内周縁部に加硫接着されることにより、駆動軸36はダイヤフラム34の径方向中央部分を貫通するように配設されている。
【0027】
固定金具38は、略L字形状の断面を有する環状の部材であって、その底壁部分にダイヤフラム34の外周縁部が加硫接着されている。そして、固定金具38が第二の取付金具18のかしめ片26にかしめ固定されることにより、ダイヤフラム34が第二の取付金具18の下側開口部を閉塞するように組み付けられている。
【0028】
このように、ダイヤフラム34が本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品に取り付けられることにより、第二の取付金具18の軸方向上側開口部が本体ゴム弾性体20で閉塞されると共に、第二の取付金具18の軸方向下側開口部がダイヤフラム34で閉塞される。これにより、第二の取付金具18の内周側における本体ゴム弾性体20とダイヤフラム34との軸方向対向面間には、外部空間から隔てられて非圧縮性流体を封入された流体封入領域が形成されている。なお、流体封入領域に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油,或いはそれらの混合液等が好適に採用される。加えて、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有利に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0029】
また、流体封入領域には、仕切部材42が配設されている。仕切部材42は、全体として厚肉の略円板形状を有しており、仕切部材本体44と、蓋金具46と、加振板48とを、含んで構成されている。
【0030】
仕切部材本体44は、厚肉の略円板形状を有していると共に、その径方向中央部分を軸方向に貫通する中央孔50が形成されている。また、仕切部材本体44の外周部分には、周方向に所定の長さで延びる周溝52が形成されており、仕切部材本体44の上面に開口している。
【0031】
蓋金具46は、薄肉の略円板形状とされており、その外径寸法が仕切部材本体44と略同一とされている。更に、蓋金具46には、小径円形の透孔54が径方向中間部分を厚さ方向に貫通するように複数形成されている。そして、蓋金具46は、仕切部材本体44に対して上方から重ね合わされて固定される。これにより、仕切部材本体44に形成された周溝52の開口部が蓋金具46で覆蓋されて、周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。
【0032】
加振板48は、加振部材56と嵌着金具58を支持ゴム弾性体60で連結した構造を有している。加振部材56は、小径の略有底円筒形状を有する硬質の部材であって、その底壁部には軸方向に貫通する小径の係止孔が貫通形成されている。嵌着金具58は、薄肉大径の略円筒形状とされており、その外径寸法が仕切部材本体44に形成された中央孔50の内径寸法よりも僅かに大きくなっている。支持ゴム弾性体60は、略円環板形状を有するゴム弾性体であって、全体としては内周側に向かって次第に厚肉となっている。そして、支持ゴム弾性体60の内周面が加振部材56の周壁部外周面に重ね合わされて加硫接着されると共に、支持ゴム弾性体60の外周面が嵌着金具58の内周面に重ね合わされて加硫接着されて、加振板48が形成されている。要するに、加振板48は、加振部材56と嵌着金具58を備えた支持ゴム弾性体60の一体加硫成形品とされている。
【0033】
この加振板48は、嵌着金具58が仕切部材本体44の中央孔50に圧入されることにより、中央孔50内で軸直角方向に広がるように配設されており、中央孔50が加振板48によって遮断されている。また、加振板48が蓋金具46に対して下方に所定距離を隔てて配置されており、蓋金具46と加振板48の軸方向対向面間に空間が形成されている。
【0034】
かくの如き構造とされた仕切部材42は、流体封入領域内で軸直角方向に広がるように配置されて、外周縁部が第二の取付金具18のかしめ片26によって固定される。これにより、仕切部材42は、第二の取付金具18によって支持されて、流体封入領域を上下に二分するように配置されている。そして、仕切部材42を挟んで軸方向上側には、壁部の一部を本体ゴム弾性体20で構成されて、振動入力時に内圧変動を及ぼされる受圧室62が形成されている。一方、仕切部材42を挟んで軸方向下側には、壁部の一部をダイヤフラム34で構成されて、容積変化を容易に許容される平衡室64が形成されている。なお、受圧室62と平衡室64には、非圧縮性流体が封入されている。
【0035】
また、仕切部材本体44の外周部分に形成された周溝52の周方向一方の端部が受圧室62に連通されると共に、他方の端部が平衡室64に連通されることにより、受圧室62と平衡室64を相互に連通するオリフィス通路65が形成される。なお、オリフィス通路65は、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)が適当に設定されることにより、エンジンシェイクに相当する低周波数にチューニングされている。
【0036】
また、蓋金具46と加振板48の軸方向対向面間に形成された空間にも非圧縮性流体が封入されており、壁部の一部を加振板48で構成された加振室66が該空間を利用して形成されている。また、加振室66が蓋金具46に貫通形成された複数の透孔54を通じて受圧室62に連通されていることにより、加振室66の液圧が受圧室62に及ぼされるようになっており、相互に連通された受圧室62と加振室66によって本実施形態の流体室が構成されている。
【0037】
また、駆動軸36の上端に形成された突起が、加振板48を構成する加振部材56の係止孔に挿通されて、かしめ固定されている。これにより、駆動軸36は、ダイヤフラム34を貫通するように配置されて、後述する可動子70から駆動軸36に及ぼされる加振力が加振部材56に対して伝達されるようになっている。
【0038】
以上のような構造とされたマウント本体12には、電磁式アクチュエータ14が取り付けられている。電磁式アクチュエータ14は、マウント本体12の下方に配設されており、第二の取付金具18によって固定的に支持される固定子68と、固定子68に対して軸方向で相対的に駆動変位される可動子70とを、含んで構成されている。
【0039】
固定子68は、非磁性材料で形成されたボビンに巻回されたコイル72を含んで構成されている。コイル72は、ボビンに固設された通電用端子を通じて外部から通電されるようになっており、コイル72への通電によって磁界が形成されるようになっている。また、コイル72には、上ヨーク金具74と下ヨーク金具76が取り付けられている。それら上下のヨーク金具74,76は、何れも強磁性材料で形成されており、上ヨーク金具74がコイル72の上面および内周面に重ね合わされていると共に、下ヨーク金具76がコイル72の下面に重ね合わされている。また、上下のヨーク金具74,76を取り付けられたコイル72は、ハウジング78を介して第二の取付金具18に支持されている。ハウジング78は、略有底円筒形状を有しており、その下部においてコイル72および上下のヨーク金具74,76が支持されていると共に、上端部に一体形成されたフランジがかしめ片26で固定されて、第二の取付金具18に連結されるようになっている。加えて、ハウジング78は、強磁性材料で形成されており、上下のヨーク金具74,76と協働してコイル72の周囲に磁路を形成している。そして、コイル72への通電によって、筒状とされた上ヨーク金具74の内周部分の下端と、環状とされた下ヨーク金具76の内周部分の上端に、それぞれ磁極が形成されるようになっている。なお、上ヨーク金具74の内周部分と下ヨーク金具76の外周部分との軸方向間には、絶縁体で形成された環状のスペーサが介装されている。
【0040】
可動子70は、軸方向にストレートに延びる略円筒形状を有しており、強磁性材料で形成されている。また、可動子70の上端縁部に内フランジ状の係止突部80が一体形成されている一方、可動子70の下端部は、その内周面が下方に向かって次第に拡径するテーパ形状とされて、下方に向かって次第に薄肉となっている。更に、可動子70の軸方向中間部分には、内周面に開口する係止凹溝82が全周に亘って形成されている。また、可動子70は、上ヨーク金具74の内径寸法に対応する外径寸法を有している。
【0041】
また、可動子70は、上ヨーク金具74の内周側に微小隙間を隔てて挿入配置されており、上ヨーク金具74の内周部分の下端および下ヨーク金具76の内周部分の上端に対して、軸方向上方に離隔配置されている。そして、コイル72への通電で上下のヨーク金具74,76に磁極が形成されることにより、固定子68と可動子70の間に軸方向の吸引力が及ぼされて、可動子70が固定子68に対して軸方向下方へ駆動変位されるようになっている。なお、本実施形態では、コイル72への通電のオン/オフを制御することにより、支持ゴム弾性体60の弾性を利用して問題となる振動の周波数に応じた加振力が発揮されるようになっている。尤も、交流電源によってコイル72への通電方向を制御することにより、可動子70に対して吸引力と排斥力を交互に及ぼすことで目的とする加振力を発揮するようにされた電磁式アクチュエータ等も採用可能である。
【0042】
かくの如き構造とされた電磁式アクチュエータ14は、マウント本体12の軸方向下側に配設されて、マウント本体12に取り付けられている。即ち、電磁式アクチュエータ14のハウジング78上端に一体形成されたフランジが第二の取付金具18のかしめ片26によって固定されることにより、マウント本体12と電磁式アクチュエータ14が相互に連結されている。
【0043】
また、マウント本体12の駆動軸36と、電磁式アクチュエータ14の可動子70は、連結手段としてのボールジョイント84を介して相互に連結される。ボールジョイント84は、駆動軸36側に取り付けられる軸受内輪86と、可動子70側に取り付けられる軸受外輪としての第一のリング88および第二のリング90とを、含んでいる。
【0044】
軸受内輪86は、略円筒形状を有しており、内周面の軸方向全長に亘ってねじ山が螺刻されたナット構造とされている。また、軸受内輪86の下部には、上部に比して大径の膨出部92が設けられており、膨出部92の外周面が球状の湾曲面とされている。
【0045】
一方、第一,第二のリング88,90は、何れも環状の金具であって、その外径寸法が可動子70の中央孔の内径寸法よりも小さくされていると共に、係止突部80の形成部位における可動子70の中央孔の内径寸法よりも大きくされている。また、第一のリング88の下部内周面が、軸受内輪86における膨出部92の上部外周面に対応する球状の当接面とされていると共に、第二のリング90の上部内周面が、軸受内輪86における膨出部92の下部外周面に対応する球状の当接面とされている。更に、第一のリング88の周上の複数箇所には、径方向全長に亘って連続する第一の凹溝94が上面に開口するように形成されている。更にまた、第二のリング90の周上の複数箇所には、径方向全長に亘って連続する第二の凹溝96が下面に開口するように形成されている。
【0046】
また、第一,第二のリング88,90が軸受内輪86に外挿されており、第一のリング88の当接面が軸受内輪86の膨出部92の上部外周面に重ね合わされると共に、第二のリング90の当接面が膨出部92の下部外周面に重ね合わされている。そして、膨出部92が第一,第二のリング88,90の軸方向間に挟み込まれて保持されている。これにより、軸受内輪86が第一,第二のリング88,90に対して揺動可能に保持されて、それら軸受内輪86と第一,第二のリング88,90によってボールジョイント84が構成されている。
【0047】
このような構造とされたボールジョイント84は、駆動軸36と可動子70の間に介装されている。即ち、軸受内輪86は、駆動軸36の下端部に設けられたボルト部分に螺着されると共に、下方からロックボルトが螺入されることにより、駆動軸36に対して固定される。一方、第一,第二のリング88,90は、可動子70の内周側に挿入されて、可動子70に対して径方向で所定の隙間を有して保持される。そして、軸受内輪86が駆動軸36に取り付けられると共に、第一,第二のリング88,90が可動子70に取り付けられることにより、駆動軸36と可動子70がボールジョイント84を介して連結されて相対的な傾斜を許容されている。なお、軸受内輪86の駆動軸36への装着時にネジ送りを調節することによって、可動子70と固定子68の軸方向での離隔距離(磁気ギャップ)を調整して加振力をチューニングすることが出来る。また、膨出部92が駆動軸36の下端部に一体形成されて、ボールジョイントの軸受内輪が駆動軸の下端部で構成されていても良い。
【0048】
さらに、可動子70の内周面と第一,第二のリング88,90の外周面との間に軸直角方向で所定の隙間が形成されていると共に、第一のリング88が可動子70の係止突部80に対して摺動可能な状態で軸方向下方から重ね合わされている。これらにより、第一,第二のリング88,90は、可動子70に対する径方向への相対変位が許容されており、駆動軸36と可動子70の軸ずれが第一,第二のリング88,90の軸直角方向への変位によって許容されている。
【0049】
これらによって、マウント本体12と電磁式アクチュエータ14の取付け下において、駆動軸36の中心軸と可動子70の中心軸が相対的に傾斜や軸ずれを生じている場合にも、それら駆動軸36と可動子70の連結部分においてずれを吸収することが出来る。
【0050】
より具体的に説明すると、マウント本体12と電磁式アクチュエータ14の取付け下において、駆動軸36の中心軸と可動子70の中心軸が一致している場合には、図2の(a)に示されているように、軸受内輪86と第一,第二のリング88,90が、それらの中心軸が相互に一致するように配置されて、駆動軸36と可動子70が同一中心軸上で連結される。
【0051】
駆動軸36の中心軸と可動子70の中心軸が相対的に角度:θだけ傾斜している場合には、図2の(b)に示されているように、軸受内輪86が第一,第二のリング88,90に対して角度:θだけ傾斜するように揺動される。これにより、駆動軸36と可動子70が相対的に傾斜した状態であっても、駆動軸36と可動子70が問題なく相互に連結されると共に、可動子70にこじり方向の力が及ぼされて、可動子70が固定子68に対して傾斜するのを回避できる。
【0052】
駆動軸36の中心軸と可動子70の中心軸が互いに平行(非傾斜)で且つ軸直角方向に距離:dのずれを生じている場合には、図2の(c)に示されているように、ボールジョイント84が可動子70に対して軸直角方向で距離:dだけ相対的に移動して駆動軸36と同一中心軸上に配置される。これにより、駆動軸36と可動子70が相対的に軸ずれを生じた状態であっても、駆動軸36と可動子70が問題なく相互に連結されると共に、可動子70に軸直角方向の力が及ぼされて、可動子70の固定子68に対する軸直角方向への相対変位が回避される。
【0053】
なお、図2の(d)に示されているように、駆動軸36の中心軸と可動子70の中心軸が、相対的に角度:θだけ傾斜していると共に、軸直角方向にずれている場合には、図2の(b)と図2の(c)とを組み合わせた状態で駆動軸36と可動子70が連結される。即ち、軸受内輪86が第一,第二のリング88,90に対して相対的に角度:θで傾斜するように揺動されると共に、ボールジョイント84全体が可動子70に対して軸直角方向に変位せしめられる。これらにより、駆動軸36と可動子70が安定して連結されると共に、可動子70の固定子68に対する傾動や変位が回避される。
【0054】
また、第一,第二のリング88,90は、固定部材としての固定リング98によって可動子70に対して位置決め保持される。固定リング98は、環状の金具であって、その外径寸法が可動子70の内径寸法よりも僅かに大きくされている。そして、第一,第二のリング88,90が可動子70の内周側に配置された後、固定リング98がそれら第一,第二のリング88,90の下方から可動子70に対して圧入固定されることにより、第一,第二のリング88,90が可動子70の内周側に保持されている。
【0055】
固定リング98の可動子70への圧入によって、軸受内輪86と第一,第二のリング88,90には、軸方向上向きの力が及ぼされる。これにより、第一,第二のリング88,90が膨出部92を挟んだ両側から軸方向で接近方向に締め付けられて、軸受内輪86の膨出部92外周面と第一,第二のリング88,90の各当接面との当接圧が大きくなる。その結果、軸受内輪86と第一,第二のリング88,90の間に作用する摩擦抵抗が増大して、それら軸受内輪86と第一,第二のリング88,90が実質的な剛結状態となり、駆動軸36と可動子70の相対的な揺動が規制される。一方、第一のリング88の上面と可動子70の係止突部80との当接圧が大きくなる。その結果、第一のリング88と可動子70の間に作用する摩擦抵抗が増大して、それら第一のリング88と可動子70が実質的な剛結状態となり、駆動軸36と可動子70の軸直角方向への相対変位が規制される。要するに、駆動軸36と可動子70は、固定リング98の可動子70への圧入固定によって、相対的な揺動および変位を防止されて、相互に固定された一体的な連結状態とされる。以上より明らかなように、固定リング98が変位阻止手段とされている。固定リング98の可動子70への固定方法は圧入に限定されるものではなく、例えば固定リング98が可動子70に螺入されて位置決めされていても良い。
【0056】
なお、コイル72への非通電時には、駆動軸36とボールジョイント84と可動子70とが、支持ゴム弾性体60の弾性力によって初期位置に保持されており、可動子70と固定子68の軸方向間距離(磁気ギャップ)が所定の寸法とされている。そして、コイル72への通電によって、可動子70が固定子68側(軸方向下側)へ吸引変位させられると共に、コイル72への通電停止によって、可動子70は、支持ゴム弾性体60の復元力に基づいて、固定子68に対して所定の隙間を隔てた初期位置に復帰させられる。
【0057】
また、駆動軸36と可動子70の固定完了後に、下ヨーク金具76の中央孔が底板部材100によって覆蓋されている。底板部材100は、円形の金属板で形成された支持部と、支持部の径方向中央部上面に固着されたゴムシートを備えており、下ヨーク金具76の下面に対して重ね合わされて、支持部の周上の複数箇所がネジ止めされることにより、下ヨーク金具76に固定されている。これにより、下ヨーク金具76の中央孔の下側開口部が密閉状態で閉塞されて、外部から粉塵等の異物の混入が防止されている。
【0058】
さらに、第一のリング88に複数の第一の凹溝94が形成されていると共に、第二のリング90に複数の第二の凹溝96が形成されている。加えて、係止突部80の形成箇所における可動子70の内径寸法および固定リング98の内径寸法が、何れも第一,第二のリング88,90の内径寸法よりも大きくされている。これらにより、駆動軸36と可動子70の固定完了後、可動子70を挟んだ上下両側の空間が、第一,第二の凹溝94,96と第一,第二のリング88,90の外周側の隙間とを通じて相互に連通されている。その結果、底板部材100による下ヨーク金具76の中央孔の密閉後にも、可動子70の加振変位に対する空気バネの影響が低減乃至は回避されて、目的とする加振力が精度良く発揮される。
【0059】
なお、本実施形態に従う構造のエンジンマウント10は、例えば、以下の如き方法で製造される。
【0060】
先ず、第一の取付金具16と第二の取付金具18を備えた本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品を形成すると共に、一体加硫成形品に対して仕切部材42とダイヤフラム34を取り付けて、マウント本体12を形成する。これにより、第一の準備工程を完了する。
【0061】
次に、ハウジング78に固定子68を取り付けると共に、筒状とされた固定子68の内孔に可動子70を挿入配置することにより、電磁式アクチュエータ14を形成する。これにより、第二の準備工程を完了する。
【0062】
そして、マウント本体12と電磁式アクチュエータ14を同一中心軸上で上下に配置して、第二の取付金具18でハウジング78をかしめ固定することにより、それらマウント本体12と電磁式アクチュエータ14を相互に連結する。これにより、取付工程を完了する。なお、マウント本体12と電磁式アクチュエータ14の連結時に、駆動軸36の下端部を可動子70に対して遊挿することが望ましい。また、かしめ固定後に、予め準備したブラケット28を第二の取付金具18に対して装着する。
【0063】
また、上記取付工程の完了後に、相対的な揺動および軸直角方向変位を許容した状態で駆動軸36と可動子70を連結する。即ち、先ず、第一のリング88を可動子70に対して挿入して、係止突部80に対して摺動可能に重ね合わせる。次に、軸受内輪86を可動子70および第一のリング88に挿入して、駆動軸36の下端部に螺着させる。最後に、第二のリング90を軸受内輪86に外挿して、可動子70の内周側に配置する。以上により、連結工程を完了する。
【0064】
その後、可動子70に対して固定リング98を圧入することにより、第二のリング90に軸方向上向きの力を及ぼして、駆動軸36と可動子70の揺動および変位を阻止する変位阻止手段を構成する。これにより、変位阻止工程を完了する。なお、固定リング98の圧入時には、係止凹溝82にジグを引っ掛けて可動子70を支持することにより、圧入力に対する反力を得ることが出来る。また、変位阻止工程の完了後に底板部材100を下ヨーク金具76に取り付けることにより、エンジンマウント10の製造が完了する。
【0065】
このような構造とされたエンジンマウント10の車両への装着下、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室62と平衡室64の間で相対的な圧力変動が惹起される。そして、低周波数にチューニングされたオリフィス通路65を通じて、受圧室62と平衡室64の間で流体流動が生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0066】
一方、アイドリング振動や走行こもり音に相当する中乃至高周波数の小振幅振動が入力されると、ECUからの信号等に基づいて電源装置からコイル72への通電が開始されて、可動子70が固定子68に対して所定の周波数で軸方向に加振変位される。そして、可動子70の加振力が、駆動軸36を介して加振部材56に伝達されることにより、加振室66に入力振動に対応する加振が及ぼされて、入力振動に対する相殺的な防振効果が発揮される。
【0067】
また、上述の如き構造とされたエンジンマウント10では、部品の寸法誤差等に起因するマウント本体12と電磁式アクチュエータ14の相対的な傾斜や軸ずれによって、加振部材56と可動子70との駆動軸36による連結不良が生じるのを回避可能とされていると共に、加振力の安定した伝達を実現することが出来る。
【0068】
すなわち、エンジンマウント10では、マウント本体12と電磁式アクチュエータ14との連結下において、駆動軸36の可動子70に対する揺動と軸直角方向への平行移動が何れも許容されている。これにより、マウント本体12と電磁式アクチュエータ14の相対的な傾斜や軸ずれが、駆動軸36と可動子70との連結部分で吸収されるようになっている。それ故、寸法誤差や組付け誤差等に起因するマウント本体12と電磁式アクチュエータ14の相対的な傾斜や軸ずれによって、駆動軸36と可動子70の連結が困難となったり、或いは連結状態が不安定になるのを回避することが出来る。加えて、駆動軸36と可動子70の傾斜や軸ずれによって可動子70と固定子68の間で相対的な傾斜や軸ずれを生じるのが防止されて、それら可動子70と固定子68のかじりや摺接が回避される。それ故、電磁式アクチュエータ14の作動の安定化および耐久性の向上が図られる。
【0069】
また、可動子70と駆動軸36は、それらの連結後に、固定リング98によって相対的な揺動および軸直角方向への変位を防止された状態で一体的に固定される。それ故、駆動軸36と可動子70との相対的な変位や傾斜によって、加振室66に及ぼされる加振力が低減されるのを防いで、中乃至高周波数振動に対する相殺的な防振効果を有効に得ることが出来る。
【0070】
次に、図3には、本発明に従う構造とされた流体封入式能動型防振装置の第二の実施形態として、自動車用エンジンマウント110が示されている。エンジンマウント110は、マウント本体112と電磁式アクチュエータ114を含んでいる。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0071】
より詳細には、マウント本体112は、仕切部材116を備えている。仕切部材116は、全体として略円板形状であって、仕切部材本体118と蓋金具46を更に備えている。
【0072】
仕切部材本体118は、厚肉の略円板形状を有しており、径方向中央部分が下方に突出して厚肉となっている。更に、仕切部材本体118の径方向中央部分には、上面に開口する円形の中央凹所120が形成されている。そして、仕切部材本体118の上面には、蓋金具46が重ね合わされて固定されており、中央凹所120の開口部が蓋金具46によって覆蓋されている。
【0073】
かくの如き構造を有する仕切部材116は、流体封入領域内で軸直角方向に広がるように配設されており、仕切部材116を挟んだ両側に受圧室62と平衡室64が形成されている。更に、仕切部材本体118と蓋金具46の間には、中央凹所120を利用して加振室122が形成されており、蓋金具46に形成された透孔54を通じて受圧室62に連通されている。
【0074】
また、仕切部材本体118の径方向中央部分には、中央凹所120の底壁部を軸方向に貫通する円形の中央孔124が、平衡室64と加振室122を軸方向で連通するように形成されている。なお、中央孔124が形成されることにより、仕切部材本体118が略環状とされており、仕切部材本体118の内周面によって、後述する加振部材126を軸方向に案内する筒状案内面が構成されている。
【0075】
また、仕切部材本体118の中央孔124には、加振部材126が配設されている。加振部材126は、全体として略円板形状を有しており、径方向中間部分が外周側に向かって次第に下傾するテーパ形状とされている。更に、加振部材126の外周縁部には、軸方向上方に向かって突出する筒状案内部128が一体形成されている。そして、加振部材126が仕切部材本体118の中央孔124内に配設されることにより、平衡室64と加振室122が加振部材126によって隔てられて、加振室122の壁部の一部が加振部材126で構成されている。なお、加振部材126は、鉄やアルミニウム合金等の金属や硬質の合成樹脂、ゴム等によって形成された硬質のピストン部材とされている。また、仕切部材本体118と加振部材126の径方向間に微小な隙間が形成されているが、該隙間を通じての流体流動は、防振性能上問題とならない程度に抑えられている。
【0076】
また、加振部材126には、駆動軸130が取り付けられている。駆動軸130は、軸方向に延びる略ロッド状の硬質部材であって、軸方向上端部分が加振部材126の径方向中央部に固定されている。また、駆動軸130の軸方向中間部分には、外周側に広がるフランジ状の固着部132が一体形成されており、ダイヤフラム34の中央部分が固着部132に加硫接着されている。また、駆動軸130の下端部は、外周面にねじ山を螺刻されたボルト構造とされている。
【0077】
また、加振部材126および駆動軸130は、板バネ134によって仕切部材本体118に弾性連結されている。板バネ134は、略円板形状を有する複数枚の金属バネを厚さ方向に積層した構造とされており、図中では必ずしも明らかではないが、厚さ方向に貫通する連通孔が形成されている。そして、板バネ134の外周縁部が仕切部材本体118の中央凹所120の底壁部に重ね合わされて固定されている一方、板バネ134の径方向中央が、加振部材126に対して上方から重ね合わされて、駆動軸130の上端部分によって加振部材126と共にかしめ固定されている。これらにより、加振部材126と駆動軸130が、仕切部材本体118に弾性連結されて、板バネ134の弾発力によって軸方向で弾性的に位置決め保持されている。
【0078】
一方、電磁式アクチュエータ114は、固定子68と可動子70を含んでおり、マウント本体112の下方に配置されて、第二の取付金具18に対して連結されている。また、マウント本体112と電磁式アクチュエータ114の連結下、マウント本体112の駆動軸130は、ボールジョイント84を介して、電磁式アクチュエータ114の可動子70に組み付けられている。そして、前記第一の実施形態と同様に、駆動軸130と可動子70の相対的な位置や傾斜角度が定められた後、固定リング98が可動子70に対して圧入固定されることにより、駆動軸130と可動子70の相対的な揺動や軸直角方向変位が阻止される。
【0079】
また、固定リング98の下方には、コイルスプリング136が配設される。コイルスプリング136は、その中心軸が電磁式アクチュエータ114の中心軸と略一致するように配設されて、可動子70に固定された固定リング98と、固定子68に固定された支持金具138との、軸方向対向面間に介装される。支持金具138は、外周面にねじ山を螺刻された略円板形状の部材であって、内周面にねじ山を螺刻された下ヨーク金具76に対して螺入される。これにより、コイルスプリング136が軸方向に所定量だけ予圧縮されて、固定子68と可動子70の間に軸方向の反発力が及ぼされている。
【0080】
加えて、支持金具138の軸方向位置が下ヨーク金具76の中央孔内で変更可能とされていることから、支持金具138の軸方向位置を調節することによりコイルスプリング136の予圧縮量を調整して、コイルスプリング136が発揮する反発力の大きさを調節することが出来る。そこにおいて、可動子70の軸方向位置は、コイルスプリング136の付勢力と液圧(壁バネ剛性)および板バネ134の付勢力との釣合いによって設定されることから、支持金具138の軸方向位置に応じて調節される。これにより、可動子70と固定子68の間に形成される磁気ギャップ(軸方向対向面間距離)の大きさが、支持金具138の軸方向位置の調節によって変更可能とされている。なお、支持金具138には六角形断面の貫通孔が形成されており、六角棒スパナによって支持金具138が下ヨーク金具76に対して螺入および位置調節されるようになっている。また、下ヨーク金具76の中央孔には、支持金具138の下方から円環形状のロック金具が螺入されて、支持金具138の下方への抜けが防止されている。更に、底板部材100が下ヨーク金具76に対してネジ止めされていることから、底板部材100を取り外して支持金具138の軸方向位置を再調整することも出来る。
【0081】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント110においても、前記第一の実施形態のエンジンマウント10と同様に、作動の信頼性向上や目的とする加振性能の安定した発揮、かじりや摺接を回避することによる耐久性の向上、加振力の伝達効率向上等の効果を得ることが出来る。
【0082】
加えて、コイルスプリング136とそれを支持する支持金具138を採用することにより、可動子70と固定子68の軸方向でのギャップを、マウント本体112と電磁式アクチュエータ114の組付け後に調整することが出来て、より高精度に所期の加振力を得ることが出来る。
【0083】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、第一の実施形態に示されたマウント本体12と第二の実施形態に示された電磁式アクチュエータ114とを組み合わせて、本発明に従う構造のエンジンマウントを形成することも出来る。これによれば、支持ゴム弾性体60に及ぼされる駆動軸36や可動子70の支持荷重が、コイルスプリング136によって分担されることから、支持ゴム弾性体60の耐久性向上を実現することが出来る。なお、第二の実施形態に示されたマウント本体112と第一の実施形態に示された電磁式アクチュエータ14とを組み合わせても良いことは、言うまでもない。
【0084】
また、第一,第二の実施形態では、変位阻止手段として、固定リング98を可動子70に圧入することによる摩擦抵抗の増大を利用しているが、変位阻止手段は摩擦抵抗を利用した構造に限定されるものではない。例えば、駆動軸36と可動子70の連結部分(前記第一,第二の実施形態では、ボールジョイント84)に接着剤や溶融金属,ろう材等を充填し凝固させて、それら駆動軸36と可動子70の連結部分を変位不能な状態に固定することによっても、変位阻止手段が実現され得る。より具体的には、図4に示されている構造等が採用され得る。即ち、可動子70に対して円板形状のネジ蓋部材140が螺入されて、ネジ蓋部材140と係止突部80の軸方向対向面間に所定の空間が形成されると共に、駆動軸142の下端部が可動子70の内周側に遊挿されて、該空間に挿し込まれる。そして、該空間に接着剤144が充填されて凝固することにより、駆動軸142が可動子70に対して固定されて、変位阻止手段が実現されるようになっていても良い。図4の構造では、可動子70に挿入される駆動軸142の下端部に、フランジ状の突出部分が一体形成されており、接着剤144による接着面積が大きく確保されている。なお、接着剤144を駆動軸142と可動子70の連結部分に保持する部材(図4におけるネジ蓋部材140)の可動子70への固定方法としては、例えば可動子70への圧入を採用することも出来る。尤も、瞬間的に固結する接着剤等を用いることにより、ネジ蓋部材140に相当する部材を省略することも出来る。
【0085】
また、連結手段の具体的な構造も、第一,第二の実施形態に示されたボールジョイント84によって限定的に解釈されるものではない。例えば、図4に示された構造においては、駆動軸142と可動子70との相対的な揺動および軸直角方向変位が接着剤144の凝固前に許容されていることをもって、連結手段が実現されている。
【0086】
また、本発明の適用範囲は、自動車用に限定されるものではなく、列車用や自動二輪車用のエンジンマウント等にも適用可能である。加えて、本発明は、エンジンマウントのみに適用されるものではなく、例えばボデーマウントやサブフレームマウント等、各種用途に用いられる流体封入式能動型防振装置に対して好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0087】
10,110:エンジンマウント(流体封入式能動型防振装置)、12,112:マウント本体(防振装置本体)、14,114:電磁式アクチュエータ、16:第一の取付金具(第一の取付部材)、18:第二の取付金具(第二の取付部材)、20:本体ゴム弾性体、36,130:駆動軸、56,126:加振部材、62:受圧室(流体室)、65:オリフィス通路、66,122:加振室(流体室)、68:固定子、70:可動子、72:コイル、84:ボールジョイント、86:軸受内輪、88:第一のリング、90:第二のリング、92:膨出部、98:固定リング(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体によって連結すると共に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体を封入された流体室を形成することにより防振装置本体が形成されている一方、該流体室の壁部の別の一部が加振部材で構成されており、該加振部材に駆動力を及ぼして加振変位させるアクチュエータが該加振部材を挟んで該流体室と反対側に配設されて該防振装置本体に取り付けられている流体封入式能動型防振装置において、
前記アクチュエータとして、前記第二の取付部材に固定されるコイルを含んで構成された固定子と、該コイルへの通電によって該固定子に対して直線的に相対変位可能とされた可動子とを備えた電磁式アクチュエータが採用されており、該可動子と前記加振部材を連結する駆動軸を該可動子に対する傾動と軸直角方向への変位が許容された状態で該可動子に組み付ける連結手段と、該連結手段による傾動と軸直角方向への変位を阻止して該可動子と該駆動軸を固定する変位阻止手段とを設けたことを特徴とする流体封入式能動型防振装置。
【請求項2】
前記連結手段が相対的な揺動を許容された軸受内輪と軸受外輪とを有するボールジョイントで構成されており、該ボールジョイントの該軸受内輪が前記駆動軸に設けられていると共に、該軸受外輪が筒状とされた前記可動子に挿入されて軸直角方向で相対変位可能に支持されている一方、前記電磁式アクチュエータが前記防振装置本体に取り付けられて、前記変位阻止手段により該軸受内輪と該軸受外輪が相互に固定されていると共に該軸受外輪が該可動子に固定されている請求項1に記載の流体封入式能動型防振装置。
【請求項3】
前記軸受内輪が外周面を球状とされた膨出部を備えていると共に、前記軸受外輪が第一のリングと第二のリングとを含んで構成されて、前記駆動軸に対して該膨出部の軸方向両側から該第一のリングと該第二のリングが外挿されている一方、前記変位阻止手段により該第一のリングと該第二のリングが該膨出部を挟んだ両側から軸方向で接近側に締め付けられて前記可動子に固定されている請求項2に記載の流体封入式能動型防振装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の流体封入式能動型防振装置を製造する方法であって、
前記第一の取付部材と前記第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結して前記防振装置本体を形成する第一の準備工程と、
前記固定子と前記可動子を組み合わせて前記電磁式アクチュエータを形成する第二の準備工程と、
該防振装置本体に該電磁式アクチュエータを取り付ける取付工程と、
前記取付工程後に、前記駆動軸と前記可動子とを前記連結手段によって相対的な傾動および軸直角方向への変位が許容された状態に組み付ける連結工程と、
前記連結工程後に、該駆動軸と該可動子とを前記変位阻止手段によって相対変位不能に固定する変位阻止工程と
を、含むことを特徴とする流体封入式能動型防振装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−276140(P2010−276140A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130347(P2009−130347)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】