説明

消化管機能亢進剤

本発明は、より有効な、消化管機能亢進剤、詳細には機能性消化管障害予防・改善剤、食欲調節剤などの提供をすること、並びに、消化管機能を亢進しえる物質のスクリーニング方法の提供をすることを課題とする。
本発明は、T1Rアゴニストを有効成分として含有する、消化管機能亢進剤およびT1R受容体を発現する細胞を用いた、消化管機能を亢進し得る物質のスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管機能亢進剤、例えば機能性消化管障害予防・改善剤に関し、より詳しくは機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders;FGIDs)、特に腹部痛、胃もたれ、胸やけ等の機能性胃腸症(FD)や胃食道逆流症(GERD)等の上部消化管機能障害の予防・改善剤に関する。また、本発明は食欲調節剤に関する。さらに本発明は消化管機能を亢進しえる物質のスクリーニング法にも関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡診断が進歩しても、上腹部痛や不快感、食後の胃もたれ、悪心・嘔吐等の上部消化器症状の訴えに対して、症状を説明できない所見の症例が多く見られる。このような消化器症状を訴えながら内視鏡を含む一般検査により器質的疾患は見られず、症状を解明する所見が得られない状態をFD(functional dyspepsia:機能性ディスペプシア、non-ulcer dyspepsia、NUD:上腹部不定愁訴あるいは機能性胃腸症)と呼んでいる。アメリカ消化器病学会によれば、「FDは消化性潰瘍やガン症状のような器質的疾患が認められず、4週間以上にわたって胃の内容物の停滞に基づく腹部の膨満感、悪心・嘔吐、上腹部痛、食欲不振あるいは便通異常等の上腹部不定愁訴の続く病態」と定義されている。一方、わが国ではこれまでこうした症例を器質的な所見に関わりなく“慢性胃炎に伴う上腹部消化管愁訴”とし、臨床の場では慣例的に“胃炎”又は“慢性胃炎”と診断されてきた経緯が存在する。現在、FDのサブタイプとして、潰瘍症状型、消化管運動不全型、非特異型に分類されており、従来、胃アトニー、神経性消化不良、胃神経症と言われたものもこれらに含まれる。
【0003】
一方、器質的病変(逆流性食道炎、消化性潰瘍、急性胃炎、消化器がん、膵・胆道疾患等)を明らかに伴う場合においても、腹部痛や不快感、食後の胃もたれ、悪心・嘔吐等が認められており、これらの不快感覚改善は患者のQOL向上にとって急務とされている。FDは便秘に伴う排便困難感、残便感、腹痛、腹部膨満感等の下腹部消化管不定愁訴をあわせると、日本国内において総人口の約30%〜50%が何かしらの消化管の不定愁訴を経験していると推測され、実際にその3分の1は医療機関を受診していると言われている。腹部不定愁訴の発症には性別、加齢、ストレス、また欧米型の食生活による肥満が影響していると考えられており、腹部不定愁訴は生活習慣病と並ぶ現代社会を代表する病といえる。これほど重大な疾患でありながら、消化管不定愁訴の原因としては、種々の疾患(慢性胃炎、糖尿病、肥満、便秘等)との関連が示唆されているのみであり、その発生機序としては消化管運動機能の低下が示唆されているに留まっている。実際のFD患者で消化管運動機能の低下が認められているのは全体の30%であることを考え合わせると、FDの発生機序は完全に解明されていないことは明らかである。
【0004】
また、パーキンソン氏病、ハンチントン舞踏病、オリーブ橋小脳萎縮症等の進行性脳変性疾患や脳卒中患者等の多くは消化管運動機能障害を併発しており、消化管運動機能の改善によるQOL向上が必要であるとされている。これらの患者の中には言語障害、意識障害等の理由から自ら不定愁訴を訴えることのできない患者が多く存在すると考えられ、器質的な機能障害に対するケアと同時に、不定愁訴等の感覚障害を取り除くケアを実施することが真のQOL向上につながる。
【0005】
FDの治療にはこれまで、5−HT4受容体作動薬などの運動改善剤等が用いられてきた。例えば、シサプリドやメトクロプラミドは、胃腸管の運動亢進作用を有し、慢性胃炎、腹部膨満感、逆流性食道炎、腹部不定愁訴及び偽性腸閉塞の症状等の治療に使用されている。しかし、メトクロプラミドは中枢のドーパミンD2受容体への作用に対する錐体外路症状の副作用が認められ、また、シサプリドにおいてもパーキンソン症状が現れるのみならず、QT延長など循環器系への副作用があることが明らかにされている。さらに、モサプリド等も使用されているが、効果が十分でない場合があり、また腹部膨満感や胃痛等の副作用が出現する。逆流症状型(GERD)の治療にはH2拮抗剤やプロトンポンプ阻害剤が使用されているが、長期的に投与する場合、その安全性が未確定であるため定期的に検査する必要がある。したがって、これら既存の薬剤に十分な安全性が確保された状態で治療効果を求めることは困難な状況にある。
【0006】
食欲調節剤としては、中枢神経を作用点とするフェンフルラミンとフェンテルミン、シブトラミン、マジンドール等が知られているが、副作用としてのどの渇きや便秘、発汗、心悸亢進等を生じることがあり、より副作用が少ない食欲調節剤が求められている。
【0007】
一方、最近になり味覚はさまざまな受容体を介して情報伝達が行われていることが明らかになりつつある。哺乳類の味覚受容体としてT1RとT2RというG蛋白結合型受容体の2ファミリーが発見された(特許文献1〜3)。これらはヒトおよびげっ歯類の舌の味細胞に特異的に発現し、5基本味のうちの甘味、うま味、苦味受容に関与する。T1Rが甘味、うま味を認識する受容体であり、他方T2Rは苦味受容に関与するファミリーを形成する。T1Rに関してはそのサブユニットであるT1R1、T1R2、T1R3が知られている。T1R2とT1R3がヘテロ2量体を形成すると天然および人工甘味料に応答し甘味受容体として機能する。T1R1とT1R3が結合するとアミノ酸等のうま味物質に応答する。これらの味覚受容体の活性化により味細胞から未知の伝達物質が放出され味神経を刺激し、脳へ味覚情報が伝達される。しかし、これらの消化器系における存在や機能は知られていない。
【特許文献1】国際公開第2003/001876号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/015158号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/041684号パンフレット
【発明の開示】
【0008】
本発明は、より有効な、消化管機能亢進剤、詳細には機能性消化管障害予防・改善剤、食欲調節剤及びこれらを含有する組成物などを提供することを目的とする。また、本発明は、消化管機能を亢進しえる物質のスクリーニング方法の提供を目的とする。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものである。本発明者らはT1R受容体に着目して検討を行った結果、T1R受容体が胃内粘膜層、小腸粘膜層に存在すること、さらには、T1R受容体が消化管ホルモン産生細胞、特にガストリン産生細胞に発現していることを見出した。詳細には、胃・小腸では、消化管ホルモンの内分泌細胞が陽性であり、特に胃幽門前庭部では消化管ホルモンであるガストリンの産生細胞が陽性であった。そして、胃・小腸粘膜サンプルではT1R1のmRNAだけでなく味覚受容体T1R1+3として機能発現に必要なT1R3のmRNAの発現も認められた。係る知見に基づいて、T1R受容体を発現するヒトおよび動物由来消化管ホルモン産生細胞を利用することにより、同受容体に対するアゴニスト等をスクリーニングする方法、ひいては消化管機能を亢進しえる物質をスクリーニングする方法等を提供することが可能であることを見出した。さらに、T1R受容体に対するアゴニスト(以下単に「T1Rアゴニスト」ともいうことがある。)を用いて検討を行ったところ、T1R受容体アゴニストは、胃の内容物の胃からの排出(以下単に「胃排出」ともいう。)を促進することを見出した。胃排出は胃運動のみによって制御されるわけではなく、送り先である十二指腸以降での消化しやすさをも反映する。このことは消化吸収されにくい脂肪を多く含む食品で胃排出遅延がおこることからも明らかである。従って、胃排出促進作用を有するT1Rアゴニストにより、消化・吸収促進効果、すなわち消化管機能亢進作用が得られることが本発明者らにより見出された。また、胃排出促進は食後早期の腹部異常膨満感を軽減し食欲不振が改善され、さらに胃内容物の排出促進は消化吸収の促進をもたらし、栄養素の血中濃度が上昇を早期にもたらすため、食後早期に満足感を高める働きも期待できる。本発明者らは、上記知見に基づき、消化管機能亢進及び食欲調節に有効であることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明はT1Rアゴニストを有効成分として含有することを特徴とする消化管機能亢進剤および食欲調節剤、さらに消化管機能を亢進しえる物質をスクリーニングする方法などに関する。
【0010】
したがって、本発明は以下の内容を少なくとも含む。
〔1〕T1Rアゴニストを有効成分として含有する、消化管機能亢進剤。
〔2〕前記消化管機能亢進が機能性消化管障害の予防・改善である、上記〔1〕記載の剤。
〔3〕前記機能性消化管障害が上部消化管機能障害である、上記〔2〕記載の剤。
〔4〕前記機能性消化管障害が機能性胃腸症又は胃食道逆流症である、上記〔2〕記載の剤。
〔5〕T1Rアゴニストを有効成分として含有する、食欲調節剤。
〔6〕T1Rアゴニストが、アミド誘導体またはサイクラメートである、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の剤。
〔7〕アミド誘導体が、下記一般式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基、置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基、R3−NH−CO−又はR3−NH−(R3は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)、R2は置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)、置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)
で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、上記〔6〕に記載の剤。
〔8〕アミド誘導体が下記:
(1)3,6−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)−2−メトキシベンズアミド、(2)2,5−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)ベンズアミド、
(3)N−(1−エチルプロピル)−ベンゾフラン−2−カルボン酸アミド、
(4)N−(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸アミド、
(5)4−エトキシ−N−(1−プロピルブチル)ベンズアミドおよび
(6)3−(4−メトキシフェニル)−N−(1−プロピルブチル)アクリルアミド
からなる群より選択される化合物である、上記〔6〕または〔7〕に記載の剤。
〔9〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の剤を含有する医薬組成物。
〔10〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の剤を含有する飲食品であって、飲食品中の有効成分の含有量が0.01〜100,000重量ppmである飲食品。
【0013】
〔11〕T1R受容体を発現する細胞を用いた、消化管機能を亢進し得る物質のスクリーニング方法。
〔12〕消化管機能を亢進し得る物質が、T1Rアゴニスト若しくはT1Rモジュレータである、上記〔11〕に記載のスクリーニング方法。
〔13〕以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む、消化管機能を亢進し得る物質のスクリーニング方法:
(a)被検物質とT1R受容体を発現する細胞とを接触させる工程、
(b)被検物質に接触させた細胞におけるG蛋白質の活性化を測定し、該活性化を被検物質に接触させない対照細胞における活性化と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。
〔14〕G蛋白質の活性化を測定する指標が、細胞内カルシウム濃度、細胞内cAMP量、細胞外プロトン量及び細胞内消化管ホルモン分泌量から選ばれるものである、上記〔13〕に記載の方法。
〔15〕以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む、消化管機能を亢進し得る物質のスクリーニング方法:
(a)T1R受容体を発現する細胞に、被検物質及びT1R受容体に作用するリガンドを接触させる工程、
(b)当該細胞の細胞膜に結合したリガンドの量を測定し、該リガンドの量を被検物質に接触させない対照細胞におけるリガンドの量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。
【0014】
〔16〕T1Rアゴニストの有効量を、哺乳動物に投与することを含む、消化管機能亢進方法。
〔17〕前記消化管機能亢進が機能性消化管障害の予防・改善である、上記〔16〕記載の方法。
〔18〕前記機能性消化管障害が上部消化管機能障害である、上記〔17〕記載の方法。
〔19〕前記機能性消化管障害が機能性胃腸症又は胃食道逆流症である、上記〔17〕記載の方法。
〔20〕T1Rアゴニストの有効量を、哺乳動物に投与することを含む、食欲調節方法。
〔21〕T1Rアゴニストが、アミド誘導体またはサイクラメートである、上記〔16〕〜〔20〕のいずれかに記載の方法。
〔22〕アミド誘導体が、下記一般式(I):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R1は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基、置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基、R3−NH−CO−又はR3−NH−(R3は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)、R2は置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)、置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)
で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、上記〔21〕記載の方法。
〔23〕アミド誘導体が下記:
(1)3,6−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)−2−メトキシベンズアミド、(2)2,5−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)ベンズアミド、
(3)N−(1−エチルプロピル)−ベンゾフラン−2−カルボン酸アミド、
(4)N−(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸アミド、
(5)4−エトキシ−N−(1−プロピルブチル)ベンズアミドおよび
(6)3−(4−メトキシフェニル)−N−(1−プロピルブチル)アクリルアミド
からなる群より選択される化合物である、上記〔21〕または〔22〕に記載の方法。
〔24〕前記T1Rアゴニストと担体とを含む医薬組成物を、哺乳動物に投与することを含む、上記〔16〕〜〔23〕のいずれかに記載の方法。
〔25〕前記T1Rアゴニストを0.01〜100,000重量ppm含有した飲食品を、哺乳動物に投与することを含む、上記〔16〕〜〔23〕のいずれかに記載の方法。
【0017】
〔26〕消化管機能亢進用組成物の製造のための、T1Rアゴニストの使用。
〔27〕前記消化管機能亢進が機能性消化管障害の予防・改善である、上記〔26〕記載の使用。
〔28〕前記機能性消化管障害が上部消化管機能障害である、上記〔27〕記載の使用。
〔29〕前記機能性消化管障害が機能性胃腸症又は胃食道逆流症である、上記〔27〕記載の使用。
〔30〕食欲調節用組成物の製造のための、T1Rアゴニストの使用。
〔31〕T1Rアゴニストが、アミド誘導体またはサイクラメートである、上記〔26〕〜〔30〕のいずれかに記載の使用。
〔32〕アミド誘導体が、下記一般式(I):
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、R1は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基、置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基、R3−NH−CO−又はR3−NH−(R3は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)、R2は置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)、置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)
で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、上記〔31〕記載の使用。
〔33〕アミド誘導体が下記:
(1)3,6−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)−2−メトキシベンズアミド、(2)2,5−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)ベンズアミド、
(3)N−(1−エチルプロピル)−ベンゾフラン−2−カルボン酸アミド、
(4)N−(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸アミド、
(5)4−エトキシ−N−(1−プロピルブチル)ベンズアミドおよび
(6)3−(4−メトキシフェニル)−N−(1−プロピルブチル)アクリルアミド
からなる群より選択される化合物である、上記〔31〕または〔32〕に記載の使用。
〔34〕前記組成物が医薬品である、上記〔26〕〜〔33〕のいずれかに記載の使用。
〔35〕前記組成物がT1Rアゴニストを0.01〜100,000重量ppm含有した飲食品である、上記〔26〕〜〔33〕のいずれかに記載の使用。
【0020】
〔36〕T1Rアゴニストを有効成分として含有する、消化管機能亢進用組成物。
〔37〕前記消化管機能亢進が機能性消化管障害の予防・改善である、上記〔36〕記載の組成物。
〔38〕前記機能性消化管障害が上部消化管機能障害である、上記〔37〕記載の組成物。
〔39〕前記機能性消化管障害が機能性胃腸症又は胃食道逆流症である、上記〔37〕記載の組成物。
〔40〕T1Rアゴニストを有効成分として含有する、食欲調節用組成物。
〔41〕T1Rアゴニストが、アミド誘導体またはサイクラメートである、上記〔36〕〜〔40〕のいずれかに記載の組成物。
〔42〕アミド誘導体が、下記一般式(I):
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、R1は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基、置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基、R3−NH−CO−又はR3−NH−(R3は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)、R2は置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)、置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)
で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、上記〔41〕に記載の組成物。
〔43〕アミド誘導体が下記:
(1)3,6−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)−2−メトキシベンズアミド、(2)2,5−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)ベンズアミド、
(3)N−(1−エチルプロピル)−ベンゾフラン−2−カルボン酸アミド、
(4)N−(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸アミド、
(5)4−エトキシ−N−(1−プロピルブチル)ベンズアミドおよび
(6)3−(4−メトキシフェニル)−N−(1−プロピルブチル)アクリルアミド
からなる群より選択される化合物である、上記〔41〕または〔42〕に記載の組成物。
〔44〕医薬品である、上記〔36〕〜〔43〕のいずれかに記載の組成物。
〔45〕有効成分を0.01〜100,000重量ppm含有した飲食品である、上記〔36〕〜〔43〕のいずれかに記載の組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、「消化管機能亢進」とは、消化管の運動を亢進すること、また、消化吸収を亢進することをいい、直接消化管に作用して機能亢進せしめる場合と、内分泌系の分泌亢進(ホルモン等)や血流改善などを介しての二次的な機能亢進のいずれであっても良い。例えば、消化管障害により機能の低下した消化管の諸症状を改善することや、健常人の消化管機能を高め、障害を予防・改善することを指し、機能性消化管障害の予防・改善などが含まれる。このように、本発明の消化管機能亢進剤、該剤を含有する組成物(消化管機能亢進用組成物)は、消化管機能亢進を目的に用いることができ、さらには、器質的疾患の有無に関係なく、後に例示するような不定愁訴の予防・改善剤としても用いることができる。
【0024】
ここで、「機能性消化管障害」とは、消化性潰瘍やガン症状のような器質的疾患が認められず、消化管、特に胃の内容物の停滞等に基づく腹部の膨満感、悪心・嘔吐、腹部痛、食欲不振、胃酸の逆流あるいは便通異常(便秘、下痢など)等の腹部不定愁訴の続く病態を言い、消化管の器質的疾患が見られなくても、患者のQOLを低下させる再現性のある消化器症状が認められる症状をいう。例えば、機能性胃腸症、胃食道逆流症、糖尿病性胃麻酔(diabetic gastroparesis)、逆流性食道炎、術後消化管障害等を含む。ここで、本発明における「消化管」とは、食道から肛門までの一連の消化に携わる管腔臓器をいい、例えば、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸が挙げられる。
【0025】
「上部消化管」とは、食道、胃、十二指腸をいい、「上部消化管機能障害」とは、上部消化管における上述したような機能性障害のことを指し、機能性胃腸症、糖尿病性胃麻酔(diabetic gastroparesis)、逆流性食道炎、術後消化管障害などが含まれる。
【0026】
「機能性胃腸症」とは、消化性潰瘍やガン症状のような器質的疾患が認められず、胃の内容物の停滞等に基づく腹部の膨満感、悪心・嘔吐、上腹部痛、食欲不振などの上腹部不定愁訴の続く病態を言い、消化管の器質的疾患が見られなくても、患者のQOLを低下させる再現性のある消化器症状が認められる症状をいう。当該胃腸症はこれまで慢性胃炎や胃炎として診断されてきた疾患を含み、腹部痛、胃もたれ、胸やけ等の症状を呈することが多い。近年、開業医外来の患者の4〜6割が機能性胃腸症といわれており、ピロリ菌の除去療法により増加傾向にある。
【0027】
また、「胃食道逆流症」は逆流性食道炎も含み、胃酸が逆流することで発症し、一般に、胸やけ・胃酸が口まで上がってくる等の特有の症状がある。さらに、「嚥下」とは、水や食物を飲み込むことをいうが、食道に嚥下した食物塊などが詰まることで誤嚥や嘔吐を引き起こすなど、口腔、咽頭だけでなく、食道など消化管の運動も密接に関係している。
【0028】
本発明において、例えば機能性消化管障害における、改善可能な不定愁訴の具体的な症状としては、悪心、嘔吐、吐き気、胸焼け、膨満感、胃もたれ、ゲップ、胸中苦悶感、胸痛、胃部不快感、食欲不振、嚥下障害、胃酸の逆流等の代表的な上部消化管不定愁訴、腹痛、便秘、下痢等の下部消化管不定愁訴及び関連した愁訴、例えば息切れ、息苦しさ、意欲低下、喉頭閉塞・異物感(漢方でいう「梅核気」)、易疲労感、肩こり、緊張、口のかわき(口渇・口乾)、呼吸促迫、四肢熱感・冷感、集中困難、焦燥感、睡眠障害、頭痛、全身倦怠感、動悸、寝汗、不安感、ふらつき感、めまい感、熱感、のぼせ、発汗、腹痛、便秘、抑鬱感等が挙げられるが、これに限定されない。
【0029】
また、本発明において「食欲調節」とは、食欲不振の人の食欲を増強することや、過食傾向の人を正常な食行動に誘導することをいう。
【0030】
本発明の消化管機能亢進剤、機能性消化管障害予防・改善剤、食欲調節剤は、患者のQOLを低下させる再現性のある機能性消化管障害、特に機能性胃腸症、胃食道逆流症等の上部消化管機能障害を改善するための予防・改善剤として用いられる。なお、本発明において、「改善」とは、治療も含む概念である。以下、これらを単に本発明の剤と称することがある。
【0031】
本発明の剤はT1Rアゴニストを有効成分として含有するものである。本発明において「T1Rアゴニスト」とは、T1R受容体の活性を高める物質を意味し、T1R受容体に結合して直接的に活性化する物質だけでなく、T1Rアゴニストの作用を拡張するT1Rモジュレターをも包含する概念である。T1Rアゴニストとしては、種々の公知のT1R受容体アゴニストのほか、T1R受容体を活性化する化合物であればいずれの化合物を使用しても良い。そのような化合物は、T1R受容体を発現する細胞を用いたスクリーニングにより得ることができる。ここに、T1R受容体とは、T1R1、T1R2及びT1R3のサブユニット、又はこれらのバリアントから選択されるいずれか又は2以上の組み合わせをいい、これらのいずれか又は複数のサブユニットに対するアゴニストであれば、いずれも使用可能である。T1R1、T1R2、T1R3は、ヒト、サル、マウス、イヌ、ウシ、ウサギといった哺乳類や鳥類、魚類その他いかなる動物由来のタンパク質であってもよく、またこれらのバリアントであってもよい。なお、T1R1、T1R2、T1R3の配列は、それぞれ、
T1R1:mRNA Tas1r1、mouse NM_031867、rat XM_342986、human NM_138697
T1R2:mRNA Tas1R2、mouse NM_031873、rat AF127390、human NM_152232
T1R3:mRNA Tas1r3、mouse NM_031872、rat NM_130818、human XM_371210
としてGene bankに登録されている。
【0032】
公知のT1Rアゴニストとしては、サイクラメート(N-cyclohexylsulfamic acid)や、例えば、国際公開WO2005/041684号パンフレットに記載の化合物を挙げることができる。
【0033】
T1Rアゴニストには、アミド誘導体(アミドの部分構造を有する化合物)、具体的には、例えば、下記一般式(I)で表されるアミドの部分構造を有する化合物やこれらの薬理学的に許容される塩が含まれる。
【0034】
【化5】

【0035】
(式中、R1は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基、置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基、R3−NH−CO−又はR3−NH−(R3は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)、R2は置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)、置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)
【0036】
ここに、「炭素数2〜25のアルキル基」とは、炭素数2〜25、好ましくは炭素数3〜10の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、2−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、1−プロピルブチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基等が挙げられ、好ましくは1−エチルプロピル基、1−プロピルブチル基等である。
【0037】
ここに、「炭素数3〜25のシクロアルキル基」とは、炭素数3〜25、好ましくは炭素数5〜10のシクロアルキル基であり、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロヘプタデシル基、シクロオクタデシル基、シクロノナデシル基、シクロイコシル基、シクロヘンイコシル基、シクロドコシル基、シクロトリコシル基、シクロテトラコシル基、シクロペンタコシル基等が挙げられ、好ましくはシクロヘキシル基等である。
【0038】
かかるシクロアルキル基は、ベンゼン環と任意の位置で縮合してもよい。ベンゼンと縮合したシクロアルキル基としては、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−イル等が好ましい。
【0039】
ここに、「アリール基」とは、好適には炭素数6〜14であり、単環または多環式のいずれでもよい芳香族炭化水素基を示す。具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0040】
ここに、「アラルキル基」は、アルキル基の1以上の水素原子がアリール基で置換された基をいい、含有されるアリール基およびアルキル基の定義は上記と同様である。アルキル部分は、好適には炭素数1〜3である。アラルキル基としては、具体的には例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、2−ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0041】
ここに、「アリールアルケニル基」は、アルケニル基の1以上の水素原子がアリール基で置換された基をいい、含有されるアリール部分は、上記アリール基と同様である。アルケニル部分は、好適には炭素数2〜3であり、例えば、ビニル、アリル等があげられる。アリールアルケニル基としては、例えば、スチリル基、シンナミル基等が挙げられる。
【0042】
ここに、「ヘテロアリール基」とは、環原子として、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択されるヘテロ原子を、好適には1〜4個含有する、好適には5〜10個の単環または多環式の芳香族へテロ環基を示す。具体的には、例えば、(6員環基)としては、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジル基(=ピリミジニル基)、ピラジニル基;(5員環基)としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イソオキサゾリル基、オキサゾリル基、イソチアゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、トリアゾイル基、テトラゾリル基;(6−5員環基)としてはベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンズオキサゾリル基(=ベンゾオキサゾリル基)、ベンゾチアゾリル基、ベンズイミダゾリル基(=ベンゾイミダゾリル基)、インダゾリル基、ベンズイソキザゾリル基、ベンズイソチアゾリル基、ベンゾフラザニル基、ベンゾチアジアゾリル基、プリニル基、ベンゾジオキソリル;(6−6員環基)としては、キノリル基(=キノリニル基)、イソキノリル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、プテリジニル基;(5−5員環基)としては、イミダゾオキサゾリル基、イミダゾチアゾリル基、イミダゾイミダゾリル基、等が挙げられる。
【0043】
ここに、「ヘテロアラルキル基」とは、アルキル基の1以上の水素原子がヘテロアリール基で置換された基をいい、含有されるヘテロアリール基およびアルキル基の定義は上記と同様である。アルキル部分は、好適には炭素数1〜3である。具体的には、例えば、2−ピリジルエチル基、ベンゾフラニルメチル基等が挙げられる。
【0044】
ここに、「ヘテロアリールアルケニル基」とは、アルケニル基の1以上の水素原子がヘテロアリール基で置換された基をいい、含有されるヘテロアリール基およびアルケニル基の定義は上記と同様である。具体的には、例えば、2−ピリジルエチレン基等が挙げられる。
【0045】
これらの基は置換可能な位置に1個以上、好ましくは1〜3個の置換基を有していても良く、置換基を2個以上有する場合には、置換基は同一または異なっていても良い。該置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含むハロゲン原子、水酸基、オキソ基、アミノ基、メチル基、エチル基などを含む炭素数1〜6のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、メチレンジオキシ基などを含む炭素数1〜7のアルコキシ基、カルボキシル基、アセチル基、プロピオニル基などを含む炭素数2〜7のアシル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素数2〜10のアルキルカルバモイル基、炭素数7〜11のアリールカルバモイル基、炭素数5〜11のヘテロアリールカルバモイル基、炭素数8〜15のアリールアルキルカルバモイル基、炭素数6〜15のヘテロアリールアルキルカルバモイル基等が挙げられる。
【0046】
該置換基は、さらに置換可能な位置に上記のような置換基を有していても良い。
【0047】
R1としては、「置換基を有していても良いアリール基」、「置換基を有していても良いアリールアルケニル基」、「置換基を有していても良いヘテロアリール基」等が好ましい。
【0048】
R1で示される「置換基を有していても良いアリール基」としては、置換基を有していてもよいフェニル基等が好ましい。該置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜7、好ましくは1〜3のアルコキシ基等が好ましく、塩素、メトキシ基、エトキシ基、メチレンジオキシ基等が特に好ましい。
【0049】
R1で示される「置換基を有していても良いアリールアルケニル基」としては、置換基を有していてもよいスチリル基等が好ましい。該置換基としては、炭素数1〜7、好ましくは1〜3のアルコキシ基等が好ましく、メトキシ基等が特に好ましい。
【0050】
R1で示される「置換基を有していても良いヘテロアリール基」としては、置換基を有していてもよいベンゾフラニル基等が好ましい。
【0051】
R1としては、具体的には、3,6−ジクロロ−2−メトキシフェニル、2,5−ジクロロフェニル、5−ベンゾ[1,3]ジオキソール、4−エトキシフェニル、2−(4−メトキシフェニル)ビニル、ベンゾフラニル等が好ましい。
【0052】
R2としては、「置換基を有していても良いアリール基」、「置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基」、「置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)」等が好ましい。
【0053】
R2で示される「置換基を有していても良いアリール基」としては、置換基を有していてもよいフェニル基等が好ましい。該置換基としては、炭素数1〜7、好ましくは1〜3のアルコキシ基等が好ましく、エトキシ基等が特に好ましい。
【0054】
R2としては、具体的には、4−エトキシフェニル、1−エチルプロピル、1−プロピルブチル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル等が好ましい。
【0055】
本発明に用いられるT1Rアゴニスト、なかでも一般式(I)で表される化合物は、塩の形態であってもよい。かかる塩としては、無機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩及び有機塩基との塩等が挙げられ、薬理学的に許容される塩であれば特に限定されない。無機塩基との塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン等との塩が挙げられる。有機塩基との塩としては塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、オルニチンなど)、ヌクレオチド(プリン誘導体、ピリミジン誘導体など)、アルカロイド等が挙げられる。
【0056】
さらに、公知または新規の化合物からT1R受容体を活性化する物質(化合物)を以下に詳述する本発明のスクリーニング方法等により得て、それらを、消化管機能を亢進し得る本発明の有効成分として使用しても良い。
【0057】
以下、本発明のスクリーニング方法について説明する。
【0058】
本発明のスクリーニング方法は、T1R受容体を発現する細胞を用いて、被検物質によるT1R受容体の活性化の有無を調べて、「消化管機能を亢進し得る物質」をスクリーニングすることを特徴とする。「消化管機能を亢進し得る物質」としては、T1R受容体のアゴニスト若しくはモジュレータが挙げられ、いずれもT1R受容体活性を高める方向に調節する物質である。ここで、T1R受容体のモジュレータには、T1R受容体のアゴニストの活性を拡張する働きをする物質も含まれるものとする。
【0059】
T1R受容体の活性化の有無は、これに結合する物質(リガンド)、T1R受容体の活性を調節するシグナルとの反応を阻害する物質、T1R受容体にリガンドが結合することにより発生するシグナルを伝達する物質(セカンドメッセンジャー等)等の量を測定することで調べることができる。例えば、T1R受容体にグルタミン酸等のリガンドが結合することによって発生するセカンドメッセンジャーを検出することによって、T1R受容体の活性化を検出することができる。また、既知のリガンドを標識したものを用い、標識リガンドとT1R受容体との結合を測定することによっても、T1R受容体の活性化を検出することができる。
【0060】
ここで、T1R受容体は、リガンドが結合することによりGTP結合蛋白質(G蛋白質ともいう。Gs、Gi、Gq、Ggust等)に作用し、cAMP等のセカンドメッセンジャーを介して細胞の諸機能を制御している。このうち、Gqの活性化によっては、細胞内カルシウム濃度が上昇する。また、シグナル伝達における細胞内カルシウム濃度上昇の下流には、カルモジュリンやプロテインキナーゼCやアデニレートサイクレース等の細胞内酵素の活性化や細胞質・膜蛋白の燐酸化による急性期の機能調節がある。これらの細胞内酵素の活性化は細胞膜に存在するチャネル機能変化を引き起こす。また、T1R受容体が消化管ホルモン産生細胞、特にガストリン産生細胞に発現していることが本発明者らにより見出された。したがって、被検物質を、T1R受容体を発現する細胞に接触させ、細胞内カルシウム濃度、cAMPの細胞内蓄積量、チャンネル機能(例えば、細胞外プロトン産生量)、消化管ホルモン分泌量の測定値等を指標にしてG蛋白質の活性化をみることによって、被検物質によるT1R受容体の活性化の有無を検出することができる。
【0061】
本発明のスクリーニング方法で用いられるT1R受容体を発現する細胞は、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類などの動物に由来する細胞であり得る。好ましくは、上記動物に由来する消化管ホルモン産生細胞などを用いる。
【0062】
本発明のスクリーニング方法における被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0063】
すなわち、本発明のスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被検物質とT1R受容体を発現する細胞とを接触させる工程、
(b)被検物質に接触させた細胞におけるG蛋白質の活性化を測定し、該活性化を被検物質に接触させない対照細胞における活性化と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。
【0064】
上記スクリーニング方法(以下、方法Aともいう。)の工程(a)では、T1R受容体を発現する細胞が被検物質と接触条件下におかれる。該細胞に対する被検物質の接触は、培養培地中で行われ得る。培養培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択される。
【0065】
上記スクリーニング方法の工程(b)では、まず被検物質の存在下、T1R受容体を発現する細胞におけるG蛋白質の活性化が評価される。次いで該活性化を、被検物質の非存在下での活性化と比較する。ここで、G蛋白質の活性化を測定する指標としては、細胞内カルシウム濃度、細胞内cAMP量、細胞外プロトン量及び細胞内消化管ホルモン分泌量などが挙げられる。
【0066】
上記スクリーニング方法の工程(c)において、活性化の比較は、例えば、有意差の有無に基づいて行われる。評価の結果、被検物質の非存在下に対して被検物質の存在下で、活性化の上昇・拡張が確認できれば、その被検物質は消化管機能を亢進し得る物質と判定され得る。
【0067】
また、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、上記工程(a)で、被検物質およびT1Rアゴニストを、T1R受容体を発現する細胞と接触させ、(b)において、被検物質の存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合におけるG蛋白質の活性化と、被検物質の非存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合におけるG蛋白質の活性化とを比較し、(c)において、G蛋白質の活性化を拡張した物質を、消化管機能を亢進し得る物質(T1Rモジュレータ)として選択してもよい。
【0068】
また、本発明の他のスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)T1R受容体を発現する細胞に、被検物質及びT1R受容体に作用するリガンドを接触させる工程、
(b)当該細胞の細胞膜に結合したリガンドの量を測定し、該リガンドの量を被検物質に接触させない対照細胞におけるリガンドの量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。
【0069】
上記スクリーニング方法の工程(a)では、T1R受容体を発現する細胞が被検物質及びT1R受容体に作用するリガンドと接触条件下におかれる。該細胞に対する被検物質及びT1R受容体に作用するリガンドの接触は、培養培地中で行われ得る。培養培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択される。
【0070】
上記スクリーニング方法の工程(b)では、まず被検物質の存在下、T1R受容体を発現する細胞の細胞膜に結合したリガンドの量が評価される。次いでリガンドの量を、被検物質の非存在下でのリガンドの量と比較する。結合したリガンドの量は、例えば、放射標識リガンド等を用いることで、測定することができる。
【0071】
上記スクリーニング方法の工程(c)において、リガンドの量の比較は、例えば、有意差の有無に基づいて行われる。評価の結果、被検物質の非存在下に対して被検物質の存在下で、リガンド結合量の減少が確認できれば、その被検物質は消化管機能を亢進し得る物質と判定され得る。
【0072】
さらに、リガンド結合量の減少が確認できた物質を、前述のスクリーニング方法Aにより、T1Rアゴニストであることを確認することができる。
【0073】
T1Rに作用するリガンドとしては、特に限定されないが、例えばグルタミン酸、核酸等が挙げられる。
【0074】
以下に、T1R受容体を発現する細胞(T1R受容体を機能可能な状態で保持する細胞)を用いた、消化管機能を亢進し得る物質を検出する具体的な方法(1)〜(6)を例示する。
【0075】
(1)以下の工程(a)、(b)及び(c)を含むもの:
(a)被検物質とカルシウム感受性色素(例えば、Fura−2、Indo−1、Fluo−3等)を導入したT1R受容体を発現する細胞とを一定期間接触させる工程、
(b)被検物質に接触させた細胞における蛍光強度(細胞内カルシウム濃度)を測定し、該強度を被検物質に接触させない対照細胞における強度と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。
【0076】
ここで、上記スクリーニング方法の工程(a)において、被検物質を接触条件下におかれる、T1R受容体を発現する細胞とは、T1R受容体を発現する消化管ホルモン産生細胞であることが好ましい。例えば、被検物質と、カルシウム感受性色素を導入した消化管ホルモン産生細胞とを一定期間接触させたときの蛍光強度(細胞内カルシウム濃度)変化により、目的物質の検索を行う。T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質およびT1Rアゴニストを、カルシウム感受性色素(例えば、Fura−2、Indo−1、Fluo−3等)を導入したT1R受容体を発現する細胞と接触させてもよい。
【0077】
上記スクリーニング方法の工程(b)では、被検物質の存在下、T1R受容体を発現する細胞における蛍光強度(細胞内カルシウム濃度)が変動するか否かが評価される。これは、該測定された蛍光強度(細胞内カルシウム濃度)を、被検物質の非存在下での蛍光強度(細胞内カルシウム濃度)と比較することにより評価され得る。かかる蛍光強度は自体公知の方法を使用して測定できる。T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質の存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合における蛍光強度と、被検物質の非存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合における蛍光強度とを比較してもよい。
【0078】
上記スクリーニング方法の工程(c)において、蛍光強度の比較は、例えば、有意差の有無に基づいて行われる。蛍光強度の評価の結果、細胞内カルシウム濃度の上昇が確認できれば、その被検物質は消化管機能を亢進し得る物質と判定され得る。T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、蛍光強度の変動幅を拡張した物質を、消化管機能を亢進し得る物質(T1Rモジュレータ)として選択してもよい。
【0079】
(2)以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法:
(a)被検物質とT1R受容体を発現する細胞とを一定期間接触させる工程、
(b)被検物質に接触させた細胞におけるcAMP量を計測し、該cAMP量を被検物質に接触させない対照細胞におけるcAMP量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。なお、上記(a)及び(b)の工程は、例えばChaudhari N, Nat Neurosci 2000 Feb;3(2):113-9;Flor PJ, Neuropharmacology 1995 Feb;34(2):149-55の記載に基づいて行うことができる。
【0080】
cAMP量は、市販のアッセイキットを用いて測定することができる。
【0081】
上記スクリーニング方法の工程(a)において、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質およびT1Rアゴニストを、T1R受容体を発現する細胞と接触させてもよい。
【0082】
上記スクリーニング方法の工程(b)において、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質の存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合におけるcAMP量と、被検物質の非存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合におけるcAMP量とを比較してもよい。
【0083】
上記スクリーニング方法の工程(c)において、cAMP量の比較は、例えば、有意差の有無に基づいて行われる。cAMP量の評価の結果、cAMP量の増加が確認できれば、その被検物質は消化管機能を亢進し得る物質と判定され得る。T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、cAMP量の増加を拡張した物質を、消化管機能を亢進し得る物質(T1Rモジュレータ)として選択してもよい。
【0084】
(3)以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法:
(a)T1R受容体を発現する細胞に、被検物質及びT1R受容体に作用する既知のリガンド(例えばグルタミン酸、核酸等)を一定期間接触させる工程、
(b)当該細胞の細胞膜に結合したリガンドの量を測定し、該リガンドの量を被検物質に接触させない対照細胞におけるリガンドの量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。なお、上記(a)及び(b)の工程は、例えばNaples MA, Neuropharmacology 2001;40(2):170-7; Thomsen C, Neuropharmacology 1997 Jan;36(1):21-30の記載に基づいて行うことができる。
【0085】
既知リガンドの量は、それらの物質の一部を放射活性ラベルし、細胞膜に結合する放射活性の量により、測定することができる。
【0086】
上記スクリーニング方法の工程(c)において、リガンドの量の比較は、例えば、有意差の有無に基づいて行われる。リガンドの量の評価の結果、リガンド結合量の減少が確認できれば、その被検物質は消化管機能を亢進し得る物質と判定され得る。
【0087】
(4)以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法:
(a)被検物質とcAMP感受性蛍光蛋白質(例えばFlCRhR等)を導入したT1R受容体を発現する細胞とを一定期間接触させる工程、
(b)被検物質に接触させた細胞における蛍光強度(細胞内cAMP濃度)を測定し、該強度を被検物質に接触させない対照細胞における強度と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。なお、上記(a)及び(b)の工程は、例えばAdams SR, Nature 1991 Feb 21;349(6311):694-7に基づいて行うことができる。
【0088】
ここで、T1R受容体を発現する細胞はT1R受容体を発現する消化管ホルモン産生細胞であることが好ましい。
【0089】
上記スクリーニング方法の工程(a)において、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質およびT1Rアゴニストを、cAMP感受性蛍光蛋白質(例えばFlCRhR等)を導入したT1R受容体を発現する細胞と接触させてもよい。
【0090】
上記スクリーニング方法の工程(b)において、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質の存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合における蛍光強度(細胞内cAMP濃度)と、被検物質の非存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合における蛍光強度(細胞内cAMP濃度)とを比較してもよい。
【0091】
上記スクリーニング方法の工程(c)において、蛍光強度の比較は、例えば、有意差の有無に基づいて行われる。蛍光強度の評価の結果、蛍光強度の上昇が確認できれば、その被検物質は消化管機能を亢進し得る物質と判定され得る。T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、蛍光強度の上昇を拡張した物質を、消化管機能を亢進し得る物質(T1Rモジュレータ)として選択してもよい。
【0092】
(5)以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法:
(a)被検物質とT1R受容体を発現する細胞とを一定期間接触させる工程、
(b)被検物質に接触させた細胞における細胞外プロトン産生量を測定し、該プロトン産生量を被検物質に接触させない対照細胞における細胞外プロトン産生量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。なお、上記(a)、(b)及び(c)の工程は、例えばMcConnell HM, Science 1992 Sep 25;257(5078):1906-12の記載に基づいて行うことができる。
【0093】
ここで、T1R受容体を発現する細胞とはT1R受容体を発現する消化管ホルモン産生細胞であることが好ましく、例えば、T1R受容体アゴニストと被検物質とT1R受容体を発現する消化管ホルモン細胞とを一定期間接触させたときの細胞外プロトン産生量を測定し、該プロトン産生量を指標として目的物質を検出してもよい。プロトン産生量はサイトセンサーにより測定する。
【0094】
上記スクリーニング方法の工程(a)において、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質およびT1Rアゴニストを、T1R受容体を発現する細胞と接触させてもよい。
【0095】
上記スクリーニング方法の工程(b)において、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質の存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合における細胞外プロトン産生量と、被検物質の非存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合における細胞外プロトン産生量とを比較してもよい。
【0096】
上記スクリーニング方法の工程(c)において、プロトン産生量の比較は、例えば、有意差の有無に基づいて行われる。プロトン産生量の評価の結果、細胞外プロトン産生量の増加が確認できれば、その被検物質は消化管機能を亢進し得る物質と判定され得る。T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、細胞外プロトン産生量の増加を拡張した物質を、消化管機能を亢進し得る物質(T1Rモジュレータ)として選択してもよい。
【0097】
(6)以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法:
(a)被検物質とT1R受容体を発現する細胞とを一定期間接触させる工程、
(b)被検物質に接触させた細胞における消化管ホルモン分泌量を測定し、該消化管ホルモン分泌量を被検物質に接触させない対照細胞における消化管ホルモン分泌量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。
【0098】
ここで、T1R受容体を発現する細胞とはT1R受容体を発現する消化管ホルモン産生細胞であることが好ましく、例えば、T1R受容体アゴニストと被検物質とT1R受容体を発現する細胞消化管ホルモン産生細胞を一定期間接触させたときの消化管ホルモン分泌量を測定し、消化管ホルモン分泌量を指標として目的物質の検索を行ってもよい。消化管ホルモン分泌量は、市販のアッセイキットを用いて測定することができる。
【0099】
上記スクリーニング方法の工程(a)において、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質およびT1Rアゴニストを、T1R受容体を発現する細胞と接触させてもよい。
【0100】
上記スクリーニング方法の工程(b)において、T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、被検物質の存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合における消化管ホルモン分泌量と、被検物質の非存在下でT1Rアゴニストを細胞へ接触させた場合における消化管ホルモン分泌量とを比較してもよい。
【0101】
上記スクリーニング方法の工程(c)において、消化管ホルモン分泌量の比較は、例えば、有意差の有無に基づいて行われる。消化管ホルモン分泌量の評価の結果、消化管ホルモン分泌量の変動が確認できれば、その被検物質は消化管機能を亢進し得る物質と判定され得る。T1Rモジュレータをスクリーニングする場合は、消化管ホルモン分泌量の変動幅を拡張した物質を、消化管機能を亢進し得る物質(T1Rモジュレータ)として選択してもよい。
【0102】
本発明の剤は、医薬及び飲食品などとして有用であり、その投与対象としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)等が挙げられる。更に、本発明により、消化管機能亢進用及び食欲調節用組成物の製造のためのT1Rアゴニストの使用、T1Rアゴニストの有効量を、哺乳動物に投与することを含む、消化管機能亢進及び食欲調節方法が提供される。
【0103】
本発明の剤が医薬組成物に含有される場合、医薬組成物は、一般に、T1Rアゴニストと担体とを含む。担体としては、医薬として許容される担体であれば特に限定されないが、例えば後述の製剤用物質(例、賦形剤、溶剤等)が挙げられる。
【0104】
ここで、本発明の剤または医薬組成物(以下単に医薬ともいう)の投与形態は特に限定されないが、経口投与、直腸投与、注射、輸液による投与等の一般的な投与経路を経ることが出来る。
【0105】
経口投与の剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、(マイクロ)カプセル剤、チュアブル剤、シロップ、ジュース、液剤、懸濁剤、乳濁液、など、また注射剤としては静脈直接注入用、点滴投与用、活性物質の放出を延長する製剤等などの医薬製剤一般の剤型を採用することができる。
【0106】
これらの医薬は、常法により製剤化することができる。製剤上の必要に応じて、薬理学的に許容し得る各種の製剤用物質(補助剤等として)を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤型により適宜選択することができるが、例えば、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤等が挙げられる。更に、製剤用物質を具体的に例示すると、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトール及びその他の糖類、タルク、牛乳蛋白、ゼラチン、澱粉、セルロース及びその誘導体、動物及び植物油、ポリエチレングリコール、及び溶剤、例えば滅菌水及び一価又は多価アルコール、例えばグリセロール等を挙げることができる。
【0107】
本発明の医薬の投与量は、経口投与の場合、投与する患者の症状、年齢、投与方法によって異なるが、成人(体重60kgとして)に対する有効成分の一日当たりの投与量は、通常0.001mg〜1g程度、好ましくは0.01mg〜1g程度、より好ましくは0.1mg〜1g程度である。
【0108】
また、点滴投与、注射投与(経静脈投与)等、非経口投与(摂取)すること場合の投与量については、前記経口投与についての好ましい投与量(摂取量)範囲の10〜20分の1程度を投与することができる。
【0109】
また、本発明の医薬は他の薬剤を併用してもよく、かかる薬剤としては、例えばH2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬等の酸分泌抑制剤、5−HT受容体作用剤、D2拮抗剤等の運動機能改善剤、ムスカリン受容体拮抗薬、抗ガストリン薬、抗コリン薬等の制酸剤、テプレノン、プラウノトール、オルノプロスチル、エンプロスチル、ミソプロストール、レバミピド、スクラルファート、ポラプレジンク、アズレン、エグアレンナトリウム、グルタミン、アルジオキサ、ゲファルナート、エカベトナトリウム等の粘膜保護剤、スルファサラジン、5−ASA製剤、ステロイド、レミケード等の炎症性大腸炎治療剤を含有することができる。これらは一種又は二種以上を含有することができる。
【0110】
本発明の剤は、飲食品に含有されても良い。飲食品に含有される場合には、本発明の有効成分を含む一般的な食事形態であれば如何なるものでも良い。例えば、適当な風味を加えてドリンク剤、例えば清涼飲料、粉末飲料とすることもできる。具体的には、例えば、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー等に混ぜて飲食することができる。また、このような飲食品を厚生労働省の規定する保健機能食品として提供することも可能であり、この保健機能食品には、消化管機能亢進および食欲調節などの本発明の用途に用いるものであるという表示を付した飲食品、特に特定保健用食品、栄養機能食品なども含まれる。
【0111】
さらに、本発明の剤を濃厚流動食に添加したり、食品補助剤として利用することも可能である。食品補助剤として使用する場合、例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。本発明における食品補助剤とは、食品として摂取されるもの以外に栄養を補助する目的で摂取されるものをいい、栄養補助剤、サプリメント(特にダイエタリーサプリメント)などもこれに含まれる。
【0112】
本発明の剤が飲食品に含有される場合、成人1日当たりの有効成分の摂取量は、通常0.001mg〜1g程度、好ましくは0.01mg〜1g程度、より好ましくは0.1mg〜1g程度である。また、本発明の剤が飲食品に含有される場合、かかる飲食品中の有効成分の含有量は、通常0.01〜100,000重量ppm程度、好ましくは0.01〜10,000重量ppm程度、より好ましくは0.01〜1000重量ppm程度である。
【実施例】
【0113】
以下、本発明を詳細に説明するため実施例及び実験例を挙げるが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
(実施例1)免疫染色手法によるT1R1受容体局在の同定
<1>ラット胃および小腸の切片標本の作製
ラット(Sprague-Dawley系、雄、350〜400g)をエーテル麻酔下で心臓右心耳を切開して放血し、その後すぐ胃、小腸を採材した。胃は消化管ホルモン産生細胞が多く分布する幽門前庭部を、小腸は胃幽門より約5センチの部分を採材した。消化物が多量に腸内に残っている場合は、生理食塩水で腸管を洗浄した。
切り出した胃、腸管は切り開き、コルクボードに針で貼り付け、4%パラホルムアルデヒド(4℃)で一昼夜振蕩し、浸漬固定した。その後20% Sucrose−PBSに3〜4日浸漬して凍結保護(Cryoprotection)した後、包埋剤 OCT compound(商品名:Tissue-Tek、サクラ精機)に包埋し、クリオスタットで5〜7μmに薄切した。切片は室温にて乾燥させた後、各種染色に用いるまで4℃で保存した。
<2>抗T1R1受容体抗体による免疫染色
切片の免疫染色は、公知文献(Drengk et al., J. Auto. Nerv. Sys. 78: 109-112, 2000; Miampamba & Sharkey, J. Auto. Nerv. Sys. 77: 140-151, 1999)に記載の方法に準じて行った。
切片はまずPBSで洗浄した後、内因性ペルオキシダーゼによる反応を阻止するために、3%過酸化水素・メタノールで15分処理した。次に、切片をPBSで洗浄した後、10%正常馬血清を含む1%牛血清アルブミン添加PBS(1% BSA−PBS)を用いて1時間ブロッキングを行った。再びPBSで洗った後、1%正常馬血清を含む1% BSA−PBSで希釈した一次抗体(表1)を4℃で2晩反応させた。その後、切片をPBSで洗浄し、1% BSA−PBSで希釈した2次抗体(表1)を室温で1時間反応を行った。最後にVectorstain elite kit(Vector)を用いてABC(Avidin-biotin complex)反応を行い、0.025%ジアミノベンチジンで発色させた。反応終了後、切片をPBSで洗い、エタノール・キシレンで脱水、封入の後、顕微鏡にて観察した。一次抗体を用いないものをネガティブコントロールとした。使用した一次抗体、二次抗体の種類及び希釈倍率を、表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
<3>ヘマトキシリン染色
切片は流水で洗い、マイヤーのヘマトキシリン(Mayer's hematoxylin)(和光)で核染色し、色出しした後に、脱水・封入を行った。
<4>結果
免疫染色の結果を図1に示す。胃(図1A)および小腸(図1B)では抗T1R1受容体抗体により消化管粘膜に散在する細胞が染色された。胃、小腸ともに陽性細胞の上端は腸管の内腔に面しているという形態学的特長から消化管ホルモン産生細胞と推察された。これまで消化管ホルモン産生細胞における、T1R1受容体の発現はしられていない。T1R1受容体が消化管ホルモン産生細胞に発現していることから、機能的には消化管ホルモン内分泌調節との関連が示唆された。なお抗T1R1受容体抗体は味蕾の味細胞を染色することを確認した(図1C)。
【0116】
(実施例2)二重免疫染色手法によるT1R1受容体とガストリンの共局在の同定
<1>抗T1R1受容体抗体と抗ガストリン抗体による二重染色
胃の切片については抗T1R1受容体抗体と抗ガストリン抗体による二重染色を行った。切片をまずPBSで洗浄した後、10%正常馬血清を含む1%牛血清アルブミン添加PBS(1% BSA−PBS)を用いて1時間ブロッキングを行った。再びPBSで洗った後、1%正常馬血清を含む1% BSA−PBSで希釈した一次抗体の混合液(表2)を4℃で2晩反応させた。その後、切片をPBSで洗浄し、1% BSA−PBSで希釈した2次抗体(表2)を室温で2時間反応を行った。反応終了後、切片をPBSで洗い、エタノール・キシレンで脱水、封入の後、共焦点レーザー顕微鏡(LSM 510; Zeiss, Germany)にて観察した。一次抗体を用いないものをネガティブコントロールとした。使用した一次抗体、二次抗体の種類及び希釈倍率を、表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
<2>結果
共焦点顕微鏡において同一視野で観察した免疫染色の結果を図2に示す。抗T1R1受容体抗体(図2A)および抗ガストリン抗体(図2B)により胃粘膜に散在する細胞が染色された。図2Aと図2Bの重ね合わせ像(図2C)では染色像が一致した。このことから胃におけるT1R1陽性細胞は消化管ホルモンの一つガストリンの産生細胞であることが判明した。T1R1がガストリン産生細胞に発現していることから、機能的にはガストリン内分泌調節との関連が示唆された。
【0119】
(実施例3)分子生物学的手法による胃におけるT1R1mRNA発現の検出
<1>T1R1mRNA部分配列の増幅
ラット(Sprague-Dawley系)の胃より腺胃部および幽門前庭部の粘膜を採取した。舌は味蕾を含む茸状乳頭と味蕾を含まない部分組織を採取した。胃および舌の各部より採取したサンプルより抽出した全RNAを鋳型として、SuperScrip reverse transcriptase enzyme (Invitrogen,CA,USA)を用いて逆転写を行った。得られたcDNAを鋳型として、以下の遺伝子特異的プライマーとLA taq (TaKaRa)を用いT1R1を増幅した。
使用した遺伝子特異的プライマーを示す。
配列番号1:T1R1-824 Forward 5’-AGGACCACCGTGGTCGTGGTCTT-3’
配列番号2:T1R1-2163 Reverse 5’-GCACTCAAGAATCACCAGATGGG-3’
<2>結果
胃・幽門前庭部粘膜(図3、列5)および舌・茸状乳頭(図3、列2)由来のサンプルでは同一サイズのPCR産物が得られた。配列解析によりこれらのPCR産物は味細胞由来のT1R1の配列と一致した。一方、胃・腺胃部粘膜(図3、列4)や舌・非味蕾組織(図3、列3)からはPCR産物が得られなかった。また逆転写酵素なしで増幅反応操作をしたサンプル(図3、列6、7)からはPCR産物は得られなかった。胃・幽門前庭部は特にガストリン産生細胞が分布することで知られる。本実施例により免疫組織化学的手法のみならず分子生物学的手法によっても胃・幽門前庭部粘膜にT1R1の発現があることが裏付けられた。
【0120】
(実施例4)T1Rアゴニストを用いた胃内容物排出試験
<実験方法>
マウス胃排出法
雄性ICRマウスを使用した。0.05%フェノールレッドおよび試験薬(3.5mM サイクラメート、3.7mM MSG(monosodium glutamate)、下記製造例1の化合物1(1重量ppmおよび10重量ppm))を含む5%カゼイン流動食を0.5mL経口投与し、その30分後に開胸し、胃を摘出した。0.1N 水酸化ナトリウム(14mL)に入れ、ホモジナイズし、1時間室温に放置した。5mLの上清に20%トリクロロ酢酸0.5mL加え、遠心分離(3000回転,20分)した。上清に0.5N 水酸化ナトリウム 4mLを加え、吸光光度計(560nm)にて吸光度を測定した。なお、胃排出率は以下の算出式によって求めた。
胃排出率 (%) = (1- 試験サンプルの吸光度 /標準サンプルの吸光度)×100
なお、標準サンプルの吸光度は0.05% フェノールレッド溶液を投与直後に胃を摘出したものを用いた。
<実験結果>
結果を図4、5に示す。縦軸は胃排出率(%)を示している。図から明らかなようにサイクラメートおよび化合物1は胃排出を亢進した。
【0121】
(実施例5)T1Rアゴニストを用いた消化管運動試験
<実験方法>
覚醒イヌ消化管運動測定法
一夜絶食した雌性ビーグル犬に、1.0%イソフルレン麻酔下で開腹後、胃に消化管運動測定用トランスデューサーを輪状筋収縮を測定し得る方向に縫着し、閉腹した。術後2週間以上経過後、一夜絶食下で消化管運動を測定し、空腹期強収縮運動フェーズ3終了後10〜20分後に下記製造例に記載の化合物4、5及び6(10重量ppm)をそれぞれ添加した300 mlの濃厚流動食(味の素株式会社、メディエフ バッグ)を経口摂取させた(T1Rアゴニスト投与群 各n=1)。運動係数(motility index)の算出は、経口摂取後60分から90分までのベースラインと収縮波形で囲まれる面積とし、濃厚流動食単独を経口摂取させた値(コントロール投与群)の面積に対するパーセントとして表示した。
<実験結果>
結果を図6に示す。コントロール投与群と比較してT1Rアゴニスト投与群では、消化管運動が増大した。
【0122】
(実施例6)T1Rアゴニストを用いた胃内容物排出試験
<実験方法>
マウス胃排出法
雄性ICRマウスを使用した。0.05%フェノールレッドおよび試験薬(3.5mM サイクラメート、3.7mM MSG(monosodium glutamate)、下記製造例記載の化合物2,3,4,5(各10重量ppm))を含む5%カゼイン流動食を0.5mL経口投与し、その30分後に開胸し、胃を摘出した。0.1N 水酸化ナトリウム(14mL)に入れ、ホモジナイズし、1時間室温に放置した。5mLの上清に20%トリクロロ酢酸0.5mL加え、遠心分離(3000回転,20分)した。上清に0.5N 水酸化ナトリウム 4mLを加え、吸光光度計(560nm)にて吸光度を測定した。なお、胃排出率は以下の算出式によって求めた。
胃排出率 (%) = (1- 試験サンプルの吸光度 /標準サンプルの吸光度)×100
なお、標準サンプルの吸光度は0.05% フェノールレッド溶液を投与直後に胃を摘出したものを用いた。
<実験結果>
結果を図7に示す。縦軸は胃排出率(%)を示している。図から明らかなように化合物2〜5は胃排出を亢進した。
【0123】
製造例
以下の実施例に記載の方法により、下記表3記載の化合物1〜6を合成したが、これら化合物の合成法は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において合成された化合物の構造は核磁気共鳴スペクトル(Bruker AVANCE400(400MHz))及び質量分析(Thermo Quest TSQ700)によって同定した。
【0124】
(製造例1)3,6−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)−2−メトキシベンズアミド(化合物1)の合成
アセトニトリル(30mL)に3,6−ジクロロ−2−メトキシ安息香酸(1.68g,7.60mmol)とp−フェネチジン(1.04g,7.60mmol)とを加えた。この反応液に1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート(BOP,3.21g,7.60mmol)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA,4.0mL,23.5mmol)とを加えた後に反応液を室温で一夜撹拌した。この反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチル(100mL)を加えて撹拌した。有機層を水(50mL)、2N−塩酸水溶液(50mLx2)、飽和食塩水(50mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mLx2)、飽和食塩水(50mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ過して除き、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣を酢酸エチル−n−ヘキサンから2回再結晶し、表題化合物(1.11g,3.26mmol,42.9%)を白色結晶として得た。
1H-NMR (CDCl3,δ):1.44(t, J=7.0Hz, 3H), 3.99(s, 3H), 4.03(q, J=7.0Hz, 2H), 6.90(d, J=9.0Hz, 2H), 7.15(d, J=8.6Hz, 1H), 7.40(br.s, 1H), 7.36(d, J=8.6Hz, 1H), 7.50(d, J=9.0Hz, 2H).
ESI-MS: 340.2, 342.2(M+H)+.
【0125】
(製造例2)2,5−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)ベンズアミド(化合物2)の合成
3,6−ジクロロ−2−メトキシ安息香酸の代わりに2,5−ジクロロ安息香酸を用いる以外は製造例1と同様にして表題化合物を66.8%の収率で白色結晶として得た。
1H-NMR (CDCl3,δ):1.42(t, J=7.0Hz, 3H), 4.04(q, J=7.0Hz, 2H), 6.90(d, J=10.2Hz, 2H), 7.38(s, 2H), 7.51(d, J=10.2Hz, 2H), 7.74(s, 1H), 7.78(br.s, 1H).
ESI-MS: 310.2, 312.2(M+H)+.
【0126】
(製造例3)N−(1−エチルプロピル)−ベンゾフラン−2−カルボン酸アミド(化合物3)の合成
3,6−ジクロロ−2−メトキシ安息香酸の代わりにベンゾフラン−2−カルボン酸を、p−フェネチジンの代わりに3−アミノペンタンを用いる以外は製造例1と同様にして表題化合物を75.1%の収率で白色結晶として得た。
1H-NMR (CDCl3,δ):1.03(t, J=7.4Hz, 6H), 1.48-1.59(m, 2H), 1.64-1.75(m, 2H), 3.98-4.07(m, 1H), 6.35(br.d, 1H), 7.26-7.31(m, 1H), 7.38-7.43(m, 1H), 7.46(s, 1H), 7.50(d, J=8.4Hz, 1H), 7.68(d, J=8.4Hz, 1H).
ESI-MS: 232.0(M+H)+.
【0127】
(製造例4)N−(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸アミド(化合物4)の合成
3,6−ジクロロ−2−メトキシ安息香酸の代わりにピペロニル酸を、p−フェネチジンの代わりに1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフチルアミンを用いる以外は製造例1と同様にして表題化合物を74.7%の収率で白色結晶として得た。
1H-NMR (CDCl3,δ):1.84-1.96(m, 3H), 2.10-2.17(m, 1H), 2.76-2.88(m, 2H), 5.33-5.37(m, 1H), 6.01(s, 2H), 6.20(br.d, 1H), 6.80(d, J=8.5Hz, 1H), 7.12-7.33(m, 6H).
ESI-MS: 296.0(M+H)+.
【0128】
(製造例5)4−エトキシ−N−(1−プロピルブチル)ベンズアミド(化合物5)の合成
塩化メチレン(30mL)に4−エトキシ安息香酸(1.66g,10.0mmol)と4−ヘプチルアミン(1.15g,10.0mmol)とを加え、溶液を氷浴で0℃に保った。この反応液に1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt,1.68g,11.0mmol)と1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ヒドロクロリド(EDC,2.11g,11.0mmol)とを加えた後に氷浴をはずし、反応液を室温で一夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチル(100mL)を加えて撹拌した。有機層を水(50mL)、5%クエン酸水溶液(50mLx2)、飽和食塩水(50mL)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(50mLx2)、飽和食塩水(50mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ過して除き、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣を酢酸エチルから2回再結晶し、表題化合物(663mg,2.52mmol,25.2%)を白色結晶として得た。
1H-NMR (CDCl3,δ):0.90(t, 7.1Hz, 6H), 1.33-1.65(m, 15H), 4.07(q, J=7.0Hz, 2H), 4.10-4.20(m, 1H), 5.65-5.75(m, 1H), 6.90(d, J=8.8Hz, 2H), 7.71(d, J=8.8Hz, 2H).
ESI-MS: 264.0(M+H)+.
【0129】
(製造例6)3−(4−メトキシフェニル)−N−(1−プロピルブチル)アクリルアミド(化合物6)の合成
4−エトキシ安息香酸の代わりに4−メトキシ桂皮酸を用いる以外は製造例5と同様にして表題化合物を41.4%の収率で白色結晶として得た。
1H-NMR (CDCl3,δ):0.90(t, J=7.0Hz, 6H), 1.30-1.55(m, 12H), 3.82(s, 3H), 4.05-4.15(m, 1H), 5.35-5.55(m, 1H), 6.27(d, J=15.5Hz, 1H), 6.87(d, J=8.8Hz, 2H), 7.43(d,J=8.8Hz, 2H), 7.58(d, J=15.5Hz, 1H).
ESI-MS: 276.1(M+H)+.
【0130】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれば、例えば機能性消化管障害、特に機能性胃腸症、胃食道逆流症等の上部消化管機能障害の予防・改善に有用な、消化管機能亢進用医薬及び飲食品を提供することができる。本発明の組成物により、副作用を誘発することなく、安全かつ有効にFD等の消化管機能障害を伴う不定愁訴の予防・改善が可能になる。また、本発明のスクリーニング方法は、上記本発明の医薬および飲食品に配合する有効成分を検出するために使用するほか、生理学・生物化学分野における実験のために利用可能である。
【0132】
本出願は、日本で出願された特願2005−320827及び、米国で出願された米国特許出願60/738,561を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】図1は抗T1R1抗体による免疫染色の結果を示す。矢印は染色された細胞である。(A):胃・幽門前庭部、(B):小腸、(C):味蕾の味細胞。
【図2】図2は抗T1R1抗体と抗ガストリン抗体による同一視野における二重免疫染色の結果を示す。(A):T1R1染色像、(B):ガストリン染色像、(C):(A)と(B)の重ね合わせ像。
【図3】図3は各組織由来のPCR産物の電気泳動の結果を示す。左端:RNAマーカー、左端より2列目〜5列目:逆転写酵素存在下での増幅反応産物、6列目〜7列目:逆転写酵素非存在下での反応産物。(左端:RNAマーカー、列2:舌・茸状乳頭、列3:舌・非味蕾組織、列4:胃・腺胃部粘膜、列5:胃・幽門前庭部粘膜)。
【図4】図4はサイクラメートおよびMSGを投与した場合の胃排出率を示す。
【図5】図5は化合物1(1重量ppmおよび10重量ppm)を投与した場合の胃排出率を示す。
【図6】図6は化合物4、5、6(各10重量ppm)を投与した場合の消化管運動測定の結果を示す。
【図7】図7は化合物2,3,4,5(各10重量ppm)を投与した場合の胃排出率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
T1Rアゴニストを有効成分として含有する、消化管機能亢進剤。
【請求項2】
前記消化管機能亢進が機能性消化管障害の予防・改善である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
前記機能性消化管障害が上部消化管機能障害である、請求項2記載の剤。
【請求項4】
前記機能性消化管障害が機能性胃腸症又は胃食道逆流症である、請求項2記載の剤。
【請求項5】
T1Rアゴニストを有効成分として含有する、食欲調節剤。
【請求項6】
T1Rアゴニストが、アミド誘導体またはサイクラメートである、請求項1〜5のいずれかに記載の剤。
【請求項7】
アミド誘導体が、下記一般式(I):
【化1】


(式中、R1は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基、置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基、R3−NH−CO−又はR3−NH−(R3は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)、R2は置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)、置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)
で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、請求項6に記載の剤。
【請求項8】
アミド誘導体が下記:
(1)3,6−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)−2−メトキシベンズアミド、(2)2,5−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)ベンズアミド、
(3)N−(1−エチルプロピル)−ベンゾフラン−2−カルボン酸アミド、
(4)N−(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸アミド、
(5)4−エトキシ−N−(1−プロピルブチル)ベンズアミドおよび
(6)3−(4−メトキシフェニル)−N−(1−プロピルブチル)アクリルアミド
からなる群より選択される化合物である、請求項6または7に記載の剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の剤を含有する医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の剤を含有する飲食品であって、飲食品中の有効成分の含有量が0.01〜100,000重量ppmである飲食品。
【請求項11】
T1R受容体を発現する細胞を用いた、消化管機能を亢進し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
消化管機能を亢進し得る物質が、T1Rアゴニスト若しくはT1Rモジュレータである、請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む、消化管機能を亢進し得る物質のスクリーニング方法:
(a)被検物質とT1R受容体を発現する細胞とを接触させる工程、
(b)被検物質に接触させた細胞におけるG蛋白質の活性化を測定し、該活性化を被検物質に接触させない対照細胞における活性化と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。
【請求項14】
G蛋白質の活性化を測定する指標が、細胞内カルシウム濃度、細胞内cAMP量、細胞外プロトン量及び細胞内消化管ホルモン分泌量から選ばれるものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む、消化管機能を亢進し得る物質のスクリーニング方法:
(a)T1R受容体を発現する細胞に、被検物質及びT1Rに作用するリガンドを接触させる工程、
(b)当該細胞の細胞膜に結合したリガンドの量を測定し、該リガンドの量を被検物質に接触させない対照細胞におけるリガンドの量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、消化管機能を亢進し得る物質を選択する工程。
【請求項16】
T1Rアゴニストの有効量を、哺乳動物に投与することを含む、消化管機能亢進方法。
【請求項17】
前記消化管機能亢進が機能性消化管障害の予防・改善である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記機能性消化管障害が上部消化管機能障害である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記機能性消化管障害が機能性胃腸症又は胃食道逆流症である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
T1Rアゴニストの有効量を、哺乳動物に投与することを含む、食欲調節方法。
【請求項21】
T1Rアゴニストが、アミド誘導体またはサイクラメートである、請求項16〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
アミド誘導体が、下記一般式(I):
【化2】


(式中、R1は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基、置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基、R3−NH−CO−又はR3−NH−(R3は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)、R2は置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)、置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)
で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
アミド誘導体が下記:
(1)3,6−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)−2−メトキシベンズアミド、(2)2,5−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)ベンズアミド、
(3)N−(1−エチルプロピル)−ベンゾフラン−2−カルボン酸アミド、
(4)N−(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸アミド、
(5)4−エトキシ−N−(1−プロピルブチル)ベンズアミドおよび
(6)3−(4−メトキシフェニル)−N−(1−プロピルブチル)アクリルアミド
からなる群より選択される化合物である、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記T1Rアゴニストと担体とを含む医薬組成物を、哺乳動物に投与することを含む、請求項16〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記T1Rアゴニストを0.01〜100,000重量ppm含有した飲食品を、哺乳動物に投与することを含む、請求項16〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
消化管機能亢進用組成物の製造のための、T1Rアゴニストの使用。
【請求項27】
前記消化管機能亢進が機能性消化管障害の予防・改善である、請求項26記載の使用。
【請求項28】
前記機能性消化管障害が上部消化管機能障害である、請求項27記載の使用。
【請求項29】
前記機能性消化管障害が機能性胃腸症又は胃食道逆流症である、請求項27記載の使用。
【請求項30】
食欲調節用組成物の製造のための、T1Rアゴニストの使用。
【請求項31】
T1Rアゴニストが、アミド誘導体またはサイクラメートである、請求項26〜30のいずれかに記載の使用。
【請求項32】
アミド誘導体が、下記一般式(I):
【化3】


(式中、R1は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基、置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基、R3−NH−CO−又はR3−NH−(R3は置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)、R2は置換基を有していても良い炭素数2〜25のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数3〜25のシクロアルキル基(当該シクロアルキル基はベンゼンと縮合していてもよい)、置換基を有していても良いアリール基、置換基を有していても良いアラルキル基、置換基を有していても良いアリールアルケニル基、置換基を有していても良いヘテロアリール基、置換基を有していても良いヘテロアラルキル基又は置換基を有していても良いヘテロアリールアルケニル基を示す。)
で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、請求項31記載の使用。
【請求項33】
アミド誘導体が下記:
(1)3,6−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)−2−メトキシベンズアミド、(2)2,5−ジクロロ−N−(4−エトキシフェニル)ベンズアミド、
(3)N−(1−エチルプロピル)−ベンゾフラン−2−カルボン酸アミド、
(4)N−(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸アミド、
(5)4−エトキシ−N−(1−プロピルブチル)ベンズアミドおよび
(6)3−(4−メトキシフェニル)−N−(1−プロピルブチル)アクリルアミド
からなる群より選択される化合物である、請求項31または32に記載の使用。
【請求項34】
前記組成物が医薬品である、請求項26〜33のいずれかに記載の使用。
【請求項35】
前記組成物がT1Rアゴニストを0.01〜100,000重量ppm含有した飲食品である、請求項26〜33のいずれかに記載の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公表番号】特表2009−516637(P2009−516637A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521072(P2008−521072)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際出願番号】PCT/JP2006/322411
【国際公開番号】WO2007/052837
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】