説明

液体原料のバブリング気化供給方法及び装置

【課題】バブリング量の変化に追従してピックアップ量を制御することができるバブリング気化供給方法及び装置を提供する。
【解決手段】熱交換器11が内蔵された密閉原料槽10内に液体原料Lを貯えると共に導入管8を挿入し、熱交換器11に所定温度の熱媒Mを循環させつつ導入管8にキャリアガスCを所定流量で導入して液体原料Lをバブリングし、バブリングによる気化ガスGとキャリアガスCとの混合ガス(G+C)を原料槽10の気相部から抜出して供給する。好ましくは、導入管8上に熱交換器14を設け、所定温度の熱媒Mを原料槽10内の熱交換器11及び導入管8上の熱交換器14に循環させつつキャリアガスCを導入する。更に好ましくは、原料槽10に原料補充管15を接続すると共に補充管15上に熱交換器16を設け、その熱交換器16にも熱媒Mを循環させながら液体原料Lを補充する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体原料のバブリング気化供給方法及び装置に関し、とくに液体原料をキャリアガスのバブリングにより気化させて供給する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、半導体基板5を気相エピタキシャル成長法で製造する半導体製造装置2にバブリング気化供給装置1を適用した従来例を示す(非特許文献1参照)。図示例のバブリング気化供給装置1は、例えばトリクロロシラン(SiHCl、TCS)、四塩化ケイ素(SiCl)等の液体原料Lを原料槽(バブラー容器)10に貯え、その液体原料Lに水素(H)等のキャリアガスCを吹き込んでバブリングし、バブリングによる液体原料Lの気化ガスGとキャリアガスCとの混合ガス(以下、反応ガスということがある)を反応炉3に供給する。反応ガス(G+C)を所定流量で供給しながら反応炉3を加熱コイル4で加熱することにより、反応炉3内に配置された半導体基板5の表面に反応ガス中のSi原子を析出させて所望厚さの単結晶層を成長させる。また図示例の半導体製造装置2は、反応ガスと同時にB、PH等の不純物ガスを反応炉3へ供給することにより、結晶過程の成長層に不純物を導入(ドーピング)することができる。このようにバブリング気化供給装置1は構造が簡単で不純物ドーピングが容易である等の利点を有しており、気相エピタキシャル成長法だけでなく、半導体基板上の薄膜生成に用いる化学気相成長法(CVD法)、光ファイバ等の製造に用いる気相軸付け法(VAD法)などにおいても広く利用されている。
【0003】
図8のようなバブリング気化供給装置1では、気化ガスGの供給流量(反応ガス中の気化ガスGの濃度。以下、ピックアップ量ということがある)を安定的に調節・制御できることが重要であり、ピックアップ量が不所望に変動すると反応炉3で製造される製品の品質に影響が生じてしまう。従来の一般的な供給装置1は、図示例のように液体原料Lを貯える密閉原料槽10と、原料槽10の液相部にキャリアガスCを導入する導入管8と、原料槽10の気相部から反応ガス(G+C)を抜出して反応炉3へ供給する供給管7とを有し、キャリアガスCの導入流量(以下、バブリング量ということがある)によってピックアップ量を制御している。ただし、供給装置1が温度制御されていない環境下に置かれていると、図7(A)の液温変化のグラフに示すようにバブリング時の気化潜熱によって原料槽10内の液体原料Lの温度が徐々に低下し、同図(B)のグラフに示すようにキャリアガスCのバブリング量(図示例ではC1又はC2sccm)が一定であってもピックアップ量が不所望に変動してしまい、バブリング量によってピックアップ量を制御することが難しくなる。
【0004】
バブリング気化供給装置1におけるピックアップ量の不所望の変動を避けるため、従来から図8に示すように原料槽10内の液体原料Lの温度を維持・制御する保温液槽9又はジャケット型保温装置33(図3参照)を設け、液体原料Lを所定温度に維持・制御しながら反応ガス(G+C)を供給することが行われている。図示例では、導入管8にキャリアガスCのバブリング量を制御する流量制御弁6aを介在させ、液体原料Lの温度に基づいてキャリアガスCのバブリング量を制御することにより、原料槽10から反応炉3へ供給するピックアップ量を所定流量に制御している。
【0005】
また特許文献1及び2が開示するように、反応ガス(G+C)を反応炉3へ供給する供給管7上に図8に点線で示すようなコンデンサ(凝縮器)7aを設け、コンデンサ7aにおいて気化ガスGの蒸気圧が飽和蒸気圧に近接するように反応ガスを冷却することにより、ピックアップ量を安定させることも行われている。例えば特許文献1の供給装置1は、液体原料Lの所定温度T1とキャリアガスCのバブリング量とに基づいて気化ガスGが飽和蒸気圧に達する所定温度T2(T2<T1)を求め、コンデンサ7aを所定温度T2に維持・制御することにより原料槽10で発生した反応ガスを飽和蒸気圧にまで冷却し、冷却で液化した気化ガス(液体原料)を原料槽10へ戻すと共にコンデンサ7aへ経て反応炉3に供給されるピックアップ量を飽和蒸気圧に対応した所定流量とすることによりピックアップ量の変動を避けている。また特許文献2は、コンデンサ7aの温度だけでなく圧力も一定に維持・制御することにより、液体原料Lの温度変化だけでなく反応炉3側に圧力変化が生じた場合でもピックアップ量の変動が避けられる供給装置1を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−257232号公報
【特許文献2】特開平8−047629公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】古川静二郎著「電子情報通信学会編・電子情報通信学会大学シリーズE−1・半導体デバイス」株式会社コロナ社、昭和57年10月30日初版、54〜57頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図8のように原料槽10の外側に配置した保温液槽9等によって液体原料Lの温度を維持・制御するバブリング気化供給装置1は、原料槽10自体の熱容量が大きいので保温液槽9と液体原料Lとの熱平衡を得るために時間を要し、しかも蒸気圧の比較的低い液体原料Lを用いる場合は小さな保温エネルギーで熱平衡を得る必要があることから、液体原料Lの温度制御の応答性が悪い問題点がある。このため、例えばキャリアガスCのバブリング初期時において気化潜熱によって液体原料Lの温度が低下し、ピックアップ量に不所望な変動を生じることが経験されている。また、ピックアップ量を間欠的に又は経時的に変化させながら供給すること(以下、両者をまとめて間欠的供給ということがある)が求められる場合は、キャリアガスCのバブリング量の変化に精度よく追従させてピックアップ量を制御する(例えばパルス状に制御する)ことが必要となるが、図8のバブリング気化供給装置1ではバブリング量の変化時に気化潜熱による液体原料Lの温度変化が避けられず、ピックアップ量をバブリング量に追従させることが難しいため、間欠的供給に十分対応できない問題点もある。
【0009】
これに対し特許文献1のようにコンデンサ7aを用いたバブリング気化供給装置1によれば、たとえ液体原料Lの温度制御の応答性が悪くても、コンデンサ7aにおいてピックアップ量を飽和蒸気圧に対応した所定流量に制御できるので、バブリング初期時の気化潜熱によるピックアップ量の不所望な変動を避けることができる。ただし、特許文献1の供給装置1においてもピックアップ量を変化させるためにはコンデンサ7aの温度を設定し直さなければならず、コンデンサ7aの温度設定(設定温度での熱平衡を得るため)には時間を要する(時間遅れが発生する)ことから、バブリング量の変化に追従させてピックアップ量を迅速に制御することが難しく、間欠的供給に十分対応することができない。ピックアップ量の間欠的供給に対応するため、バブリング量の変化に追従してピックアップ量を制御できるバブリング気化供給装置の開発が必要である。
【0010】
そこで本発明の目的は、バブリング量の変化に追従してピックアップ量を制御することができるバブリング気化供給方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1の実施例を参照するに、本発明による液体原料のバブリング気化供給方法は、熱交換器11が内蔵された密閉原料槽10内に液体原料Lを貯えると共に導入管8を挿入し、熱交換器11に所定温度の熱媒Mを循環させつつ導入管8にキャリアガスCを所定流量で導入して液体原料Lをバブリングし、バブリングによる気化ガスGとキャリアガスCとの混合ガス(G+C)を原料槽10の気相部から抜出して供給してなるものである。
【0012】
好ましくは、図1に示すように導入管8上に熱交換器14を設け、所定温度の熱媒Mを原料槽10内の熱交換器11及び導入管8上の熱交換器14に循環させつつキャリアガスCを導入する。更に好ましくは、原料槽10に原料補充管15を接続し、混合ガス(G+C)の供給時に原料槽10内に液体原料Lを補充する。この場合は、図1に示すように補充管15上に熱交換器16を設け、その熱交換器16に熱媒Mを循環させながら液体原料Lを補充することが望ましい。
【0013】
また、図1のブロック図を参照するに、本発明による液体原料のバブリング気化供給装置は、液体原料Lを貯える熱交換器11が内蔵された密閉原料槽10、原料槽10の液相部に挿入されてキャリアガスCを所定流量で導入する導入管8、原料槽10の気相部に接続されてバブリングによる気化ガスGとキャリアガスCとの混合ガス(G+C)を抜出して供給する供給管7、及び原料槽10の熱交換器11に所定温度の熱媒Mを循環させる熱媒循環路20を備えてなるものである。
【0014】
好ましくは図1に示すように、循環路20に、循環路20に連通して熱媒Mを蓄える恒温槽21と、恒温槽21内の熱媒Mを循環路20に循環させるポンプ22と、熱媒Mを所定温度に維持する加熱・冷却器23とを含める。望ましくは、導入管8上に、恒温槽21内に配置され又は恒温槽21に連通する熱交換器14を設ける。
【0015】
更に好ましくは、原料槽10に原料補充管15を接続し、原料槽10内の液量を計測する計測器19と、計測器19の計測値に応じて補充管15から液体原料Lを原料槽10内に補充する液量制御装置17とを設ける。この場合は、図1に示すように補充管15上に、恒温槽21内に配置され又は恒温槽21に連通する熱交換器16を設けることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明による液体原料のバブリング気化供給方法及び装置は、熱交換器11が内蔵された密閉原料槽10内に液体原料Lを貯えると共に導入管8を挿入し、熱交換器11に所定温度の熱媒Mを循環させながら導入管8にキャリアガスCを所定流量で導入して液体原料Lをバブリングし、バブリングによって発生した気化ガスGとキャリアガスCとの混合ガス(G+C)を反応ガスとして供給するので、次の有利な効果を奏する。
【0017】
(イ)原料槽10に内蔵された熱交換器11によって液体原料Lの温度を制御するので、熱交換器11に循環させる熱媒Mと液体原料Lとを迅速に熱交換させることができ、液体原料Lの温度制御の応答性を高めることができる。
(ロ)熱交換器11に所定温度の熱媒Mを循環させながら液体原料LにキャリアガスCを吹き込むので、キャリアガスCの吹き込み時の気化潜熱による液体原料Lの温度低下を熱媒Mとの熱交換によって小さく抑えると共に、キャリアガスCの吹き込み停止時に液体原料Lの温度を迅速に復旧させることができる。
(ハ)従って、キャリアガスCのバブリング量が変動する場合でも液体原料Lを実質的に所定温度に維持し、バブリング量の変化に追従させてピックアップ量を制御する間欠的供給に対応することが可能となる。
(ニ)導入管8上に熱交換器14を設け、キャリアガスCを所定温度の熱媒Mと熱交換させたうえで原料槽10に吹き込むことにより、原料槽10内の液体原料Lの温度変化を更に小さく抑え、バブリング量に対するピックアップ量の追従精度の低下を避けることができる。
(ホ)また、原料槽10に液体原料Lを補充する場合も、液体原料Lを所定温度の熱媒Mと熱交換させたうえで補充することにより、バブリング量に対するピックアップ量の追従精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるバブリング気化供給装置の一実施例の説明図である。
【図2】本発明のバブリング気化供給装置の効果を確認する実験装置の説明図である。
【図3】ジャケット型保温装置を用いたバブリング気化供給装置の実験装置の説明図である。
【図4】図2の実験装置を用いたピックアップ量の間欠的供給の実験結果を示すグラフである。
【図5】図2の実験装置における原料槽内の液量とピックアップ量との関係を示すグラフである。
【図6】図2の実験装置を用いて原料槽内の液温及びピックアップ量の変化を確認した実験結果を示すグラフである。
【図7】温度制御のないバブリング気化供給装置の原料槽内の液温及びピックアップ量の変化を確認した実験結果を示すグラフである。
【図8】従来のバブリング気化供給装置の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明によるバブリング気化供給装置1の実施例を示す。図示例の供給装置1は、図8に示す従来の供給装置1と同様に、液体原料Lを貯える密閉原料槽10と、原料槽10の液相部に挿入されたキャリアガス導入管8と、原料槽10の気相部に接続された反応ガス供給管7とを有している。図示例の導入管8上には流量制御装置(例えばマスフローコントローラ)6が設けられており、流量制御装置6によって原料槽10に吹き込むキャリアガスCを所定バブリング量に制御することができる。必要に応じて、後述する温度制御部27による液体原料Lの温度を流量制御装置6に入力し、液体原料Lの温度に基づいてバブリング量を制御することも可能である。また、図示例の導入管8の末端(吹き出し端)には原料槽10の底部の広範囲にわたりキャリアガスCを分散させる発泡器12が接続されており、発泡器12によってキャリアガスCを原料槽10の底部全体に分散させて吹き込むことにより、液体原料L内に気化潜熱による温度バラツキが発生することを防止している。
【0020】
図示例のバブリング気化供給装置1は、原料槽10に内蔵の熱交換器11と、その熱交換器11に所定温度の熱媒Mを循環させる熱媒循環路20とを有している。原料槽10に熱交換器11を内蔵することにより、図8のように原料槽10を外側から保温する供給装置1に比して熱媒Mと液体原料Lとの熱交換の迅速化を図り、液体原料Lの温度制御の応答性を高めると共に液体原料Lの気化潜熱による温度低下を小さく抑えてピックアップ量の不所望な変動を抑えることができる。図示例の熱媒循環路20は、熱媒Mを蓄える恒温槽21と、恒温槽21内の熱媒Mを循環路20に循環させるポンプ22と、循環路20上の熱媒Mを所定温度に維持する加熱・冷却器23とに接続されている。加熱・冷却器23をコントローラ26の温度制御部27に接続し、温度制御部27で循環路20及び恒温槽21内の熱媒Mを所定温度に維持することにより、原料槽10内の液体原料Lの不所望な温度変化を防止する。ただし、熱媒Mの温度制御機構は図示例に限定されず、従来技術に属する他の温度制御機構を用いて熱媒Mを所定温度に維持してもよい。
【0021】
更に図示例のバブリング気化供給装置1は、原料槽10に接続された原料補充管15と、原料槽10内の液量を計測する計測器(例えば電子天秤、ロードセル等)19とを有している。計測器19によって原料槽10内の液体原料Lの液量(又は質量)を計測し、液体原料Lの減少が検知された場合に液体原料Lを補充管15から原料槽10に補充する。図示例では、補充管15上に液体原料Lの補充流量を制御する液量制御装置17を設けると共に計測器19をコントローラ26の液位制御部28に接続し、液位制御部28によって原料槽10内の液体原料Lが所定液位に維持されるように液体原料Lの補充流量を制御することができる。ただし、液体原料Lの補充流量の制御は本発明に必須の条件ではなく、ピックアップ量の制御に必要が生じた場合にのみ付加すれば足りる。補充流量の制御の必要性については後述する。
【0022】
[実験例1]
図1のバブリング気化供給装置1によるピックアップ量の制御性能を確認するため、図2に示すような供給装置1を試作して実験を行った。図2の実験装置では、約1.5リットルの原料槽10に液体原料Lとして所定液量のTCS(トリクロロシラン、沸点31.8℃、蒸気圧53.3hPa、比重1.34)を貯え、補充管15に接続した液体原料タンク18からTCSを適宜補充しながら原料槽10内を所定液位(=100%)に維持した。またキャリアガスCとして水素(H)を用い、導入管8に接続したキャリアガスタンク8aから流量制御装置6で流量を制御しながら原料槽10に水素を導入すると共に、ピックアップ量の間欠的供給への対応を検討するために流量制御装置6によってキャリアガスCの流量を導入4分、停止5分のサイクルで変化させた。更に、原料槽10の内蔵熱交換器11に恒温槽21から熱媒循環路20を介して所定温度(=25℃)に制御された熱媒Mを循環させることにより、原料槽10内の液体原料Lを所定温度(=25℃)に維持しつつ実験を行った。
【0023】
先ず、キャリアガスCの導入サイクルに伴う液体原料Lの液温の変化を確認するため、原料槽10の内部に設けた温度計32により液温を継続的に検出した。併せて、キャリアガスCの導入サイクルに伴うピックアップ量の変化を確認するため、原料槽10の供給管7に接続したスクラバー31によりピックアップ量を継続的に検出した。更に、比較検討のために図3に示すようなジャケット型保温装置33を設けたバブリング気化供給装置を試作し、温度制御装置34により原料槽10内の液体原料Lを所定温度(=25℃)に維持しながら図2と同様の流量及びサイクルでキャリアガスCの導入する実験を行い、液体原料Lの液温及びピックアップ量の変化を継続的に検出した。温度計32及びスクラバー31に接続されたデータロガー30に記録された実験結果を図4に示す。
【0024】
図4において、熱交換器なしの液温変化及びピックアップ量変化のグラフはジャケット型保温装置33を用いた図3のバブリング気化供給装置による実験結果を示し、熱交換器ありの液温変化及びピックアップ量変化のグラフは図2に示す本発明のバブリング気化供給装置1による実験結果を示す。同図のグラフから分かるように、ジャケット型保温装置33を用いたバブリング気化供給装置では液体原料Lの温度制御の応答性が悪く、キャリアガスCの導入時に液体原料Lの液温が急激に低下すると共に導入停止時に液体原料Lの液温が急激に上昇し、キャリアガスCの導入サイクルに追従させてピックアップ量を制御することは困難であった。これに対し本発明のバブリング気化供給装置1では、キャリアガスCの導入時に液体原料Lの液温が多少変動するものの所定温度(=25℃)にほぼ維持することができ、キャリアガスCの導入に応じてピックアップ量をパルス状に変化させることができ、キャリアガスCの導入サイクルに追従させてピックアップ量を制御することができた。すなわち図4の実験結果から、本発明のように原料槽10に熱交換器11を内蔵したバブリング気化供給装置を用いれば、液体原料Lの温度制御の応答性を高めて液体原料Lの変動を小さく抑えることができ、バブリング量の変化に追従してピックアップ量を制御できることを確認することができた。
【0025】
[実験例2]
実験例1では、補充管15により液体原料Lを適宜補充しながら原料槽10内の液量を所定液位(=100%)に維持したが、原料槽10内の液量によるピックアップ量の変動を確認するため、原料槽10内の液位を75%及び50%に維持しながら実験例1と同様に所定の流量及びサイクルでキャリアガスCを導入して各バブリングサイクル(間欠気化時)におけるピックアップ量のピーク値の変化を検出する実験を行った。実験結果を図5のグラフに示す。図5の実験結果から、原料槽10内の液量が一定に維持されていれば、各バブリングサイクル(間欠気化時)のピックアップ量をほぼ一定値(図示例ではピックアップ量≒P3)とすることができ、本発明のバブリング気化供給装置1によってバブリングサイクルに応じてピックアップ量をパルス状に変化させる間欠的供給が可能であることを確認できた。
【0026】
ただし、図5から分かるように、原料槽10内の液量を50%、75%、100%と変動させた場合に、ピックアップ量に僅かであるが有意な差が検出された。このような差が生じた原因は原料槽10に導入するキャリアガスCの温度に起因するものと思われたので、図2に点線で示すようにキャリアガスCの導入管8上に熱交換器14を設け、恒温槽21の熱媒Mを原料槽10内の熱交換器11だけでなく導入管8上の熱交換器14にも循環させながらキャリアガスCを導入する実験を繰り返した。その結果、図5に示されたような原料槽10内の液量の相違によるピックアップ量の差を解消することができた。キャリアガスCを所定温度(=25℃)の熱媒Mと熱交換させたうえで原料槽10に吹き込むことにより、原料槽10内の液量の相違に起因する液体原料Lの温度変化(気化潜熱による温度変化)を小さく抑え、バブリング量に対するピックアップ量を理論値に近付けることができたからと考えられる。
【0027】
図6は、図2の実験装置において、所定温度の熱媒Mと熱交換させたキャリアガスCを流量制御装置6で一定流量(図示例ではC1又はC2sccm)に制御して連続的に吹き込みながら、原料槽10内の液温の変化及びキャリアガスCのピックアップ量の変化を継続的に検出した実験の結果を示す。この場合は、原料槽10内の液量はバブリングの継続によって徐々に減少するものの、同図のグラフから分かるように、原料槽10内の液温をほぼ一定値に維持することができ、キャリアガスCのピックアップ量もほぼ一定値に維持することができた。この実験結果から、原料槽10内に液体原料Lと同じ所定温度に制御されたキャリアガスCを吹き込みことにより、バブリングによって原料槽10内の液量が多少変動しても、バブリング量に応じてほぼ理論値どおりのピックアップ量を供給できることを確認することができた。
【0028】
すなわち図1に示すように、原料槽10内の熱交換器11により所定温度の熱媒Mを液体原料Lと熱交換させると共に、熱交換器14により所定温度の熱媒MをキャリアガスCと熱交換させながら原料槽10に間欠的にバブリングすれば、図5に示したような原料槽10内の液量の変動に起因するピックアップ量のバブリング量に対する追従精度の低下を避け、本発明のバブリング気化供給装置1をピックアップ量の間欠的供給に一層適切に対応させることが可能となる。キャリアガスCと熱媒Mとの熱交換は、図2のようにポンプ25により恒温槽21の熱媒Mを導入管8上の熱交換器14に循環させる方法に限らず、図1に示すように導入管8上の熱交換器14を恒温槽21内に配置する方法としてもよい。図1のように熱交換器14を恒温槽21内に配置すれば、図2のようなポンプ25を省略することができ、本発明のバブリング気化供給装置1のコンパクト化及び省エネルギー化を図ることもできる。
【0029】
こうして本発明の目的である「バブリング量の変化に追従してピックアップ量を制御することができるバブリング気化供給方法及び装置」を提供することができた。
【実施例1】
【0030】
上述した実験例2では、図5のような原料槽10内の液量の相違によるピックアップ量の差をキャリアガスCの温度制御によって解消しているが、そのようなピックアップ量の差を原料槽10内の液位制御によって解消することも可能である。すなわち図1に示すように、補充管15上に液体原料Lの補充流量を制御する液量制御装置17を設け、原料槽10の液量を計測する計測器19をコントローラ26の液位制御部28と接続し、液位制御部28によって原料槽10内への液体原料Lの補充流量を制御して液体原料Lを所定液位に維持すれば、図5のようなピックアップ量の変動を防止できる。
【0031】
ただし、補充する液体原料Lの温度が原料槽10内の所定温度と相違する場合は、液体原料Lの補充によるピックアップ量の変動が生じるおそれがある。図1の実施例では、補充管15上に設けた熱交換器16も恒温槽21内に配置し、液体原料Lを所定温度の熱媒Mと熱交換させたうえで原料槽10に補充することにより、液体原料Lの補充による液体原料Lの温度変化を防止している。熱交換器16を恒温槽21内に配置する方法に代えて、図2の熱交換器14のように恒温槽21の熱媒Mを補充管15上の熱交換器16にポンプで循環させてもよい。望ましくは、図1のように恒温槽21の熱媒Mを原料槽10内の熱交換器11と導入管8上の熱交換器14と補充管15上の熱交換器16とに循環させ、キャリアガスCの導入及び液体原料Lの補充に伴う液体原料Lの温度変化を最小限に抑える。液体原料Lの温度変化を最小限に抑えることにより、バブリング量に応じてピックアップ量をパルス状に変化させる間欠的供給が可能なバブリング気化供給装置1とすることが期待できる。
【符号の説明】
【0032】
1…バブリング気化供給装置 2…半導体製造装置
3…反応炉 4…加熱コイル
5…半導体基板 5a…サセプタ
6…流量制御装置 6a…流量制御弁
7…反応ガス供給管 7a…コンデンサ(凝縮器)
8…キャリアガス導入管 8a…キャリアガスタンク
9…保温液槽 10…原料槽
11…熱交換器 12…発泡器
14…熱交換器 15…液体原料補充管
16…熱交換器 17…液量制御装置
18…液体原料タンク 19…計測器(電子天秤)
20…熱媒循環路 21…恒温槽
22…ポンプ 23…加熱・冷却器
24…ドレイン管 25…ポンプ
26…コントローラ(コンピュータ) 27…温度制御部
28…液位制御部 30…データロガー
31…スクラバー 32…温度計
33…ジャケット型保温装置(ヒータ) 34…温度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器が内蔵された密閉原料槽内に液体原料を貯えると共に導入管を挿入し、前記熱交換器に所定温度の熱媒を循環させつつ導入管にキャリアガスを所定流量で導入して液体原料をバブリングし、前記バブリングによる気化ガスとキャリアガスとの混合ガスを原料槽の気相部から抜出して供給してなる液体原料のバブリング気化供給方法。
【請求項2】
請求項1の供給方法において、前記導入管上に熱交換器を設け、前記所定温度の熱媒を原料槽内の熱交換器及び導入管上の熱交換器に循環させつつキャリアガスを導入してなる液体原料のバブリング気化供給方法。
【請求項3】
請求項1又は2の供給方法において、前記原料槽に原料補充管を接続し、前記混合ガスの供給時に原料槽内に液体原料を補充してなる液体原料のバブリング気化供給方法。
【請求項4】
請求項3の供給方法において、前記補充管上に熱交換器を設け、当該熱交換器に前記熱媒を循環させながら液体原料を補充してなる液体原料のバブリング気化供給方法。
【請求項5】
請求項1から3の何れか供給方法において、前記キャリアガスを原料槽の液相部に間欠的にバブリングし、前記キャリアガスの導入に応じて混合ガスを間欠的に供給してなる液体原料のバブリング気化供給方法。
【請求項6】
液体原料を貯える熱交換器が内蔵された密閉原料槽、前記原料槽の液相部に挿入されてキャリアガスを所定流量で導入する導入管、前記原料槽の気相部に接続されてバブリングによる気化ガスとキャリアガスとの混合ガスを抜出して供給する供給管、及び前記原料槽の熱交換器に所定温度の熱媒を循環させる熱媒循環路を備えてなる液体原料のバブリング気化供給装置。
【請求項7】
請求項6の供給装置において、前記循環路に、当該循環路に連通して熱媒を蓄える恒温槽と、当該恒温槽内の熱媒を循環路に循環させるポンプと、当該熱媒を所定温度に維持する加熱・冷却器とを含めてなる液体原料のバブリング気化供給装置。
【請求項8】
請求項7の供給装置において、前記導入管上に、前記恒温槽内に配置され又は恒温槽に連通する熱交換器を設けてなる液体原料のバブリング気化供給装置。
【請求項9】
請求項6から8の何れかの供給装置において、前記原料槽に原料補充管を接続し、前記原料槽内の液量を計測する計測器と、前記計測器の計測値に応じて補充管から液体原料を原料槽内に補充する液量制御装置とを設けてなる液体原料のバブリング気化供給装置。
【請求項10】
請求項9の供給装置において、前記補充管上に、前記恒温槽内に配置され又は恒温槽に連通する熱交換器を設けてなる液体原料のバブリング気化供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−284628(P2010−284628A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142809(P2009−142809)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(595175264)ヘンミ計算尺株式会社 (4)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】