説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにアクチュエータ

【課題】圧電素子の変位特性を向上し高速駆動を実現できると共に圧電体層の破壊を抑制
して耐久性を向上することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにアクチュエー
タを提供する。
【解決手段】圧電体層70の端面がその外側に向かって傾斜する傾斜面で構成されており
、各圧電素子300を構成する下電極60が圧力発生室12の幅よりも狭い幅で形成され
ていると共に圧電体層70が下電極60よりも広い幅で形成されて当該下電極の端面が前
記圧電体層によって覆われており、振動板50の最表層が酸化チタン(TiOx)からな
る絶縁体膜52で構成され、下電極60の最表層がニッケル酸ランタン(LaNiyx
からなる配向制御層62で構成され、且つ配向制御層62及び少なくとも配向制御層62
上の圧電体層70aが、ペロブスカイト構造の結晶からなり且つ結晶面方位が(113)
に優先配向している構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の変位によってノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッド及び液体
噴射装置並びに圧電素子を具備するアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を噴射する液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、
例えば、圧力発生室が形成された流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下
電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を具備し、この圧電素子の変位によって圧力
発生室内に圧力を付与することで、ノズルからインク滴を噴射するものがある。このよう
なインクジェット式記録ヘッドに採用されている圧電素子は、圧電体層の結晶配向によっ
て変位特性が大きく変化することが知られている。そして、圧電素子を構成する圧電体層
の結晶が所定配向となるようにすることで、変位特性を向上させたものが複数提案されて
いる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、このように下電極、圧電体層及び上電極で構成される圧電素子においては、
圧電体層の端面が、その外側に向かって下り傾斜する傾斜面(テーパ面)となっているも
のがある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
例えば、特許文献2に記載の構成では、圧電体層の傾斜面となっている部分(以下、テ
ーパ部という)には上電極が形成されていないものの、下電極が複数の圧電素子に亘って
連続的に形成されているため、この圧電体層のテーパ部にも駆動電界が強くかかってしま
い圧電体層のテーパ部が破壊されてしまう虞がある。
【0005】
また特許文献1及び2に記載の構成では、圧電素子を構成する下電極が、複数の圧電素
子に亘って連続的に形成されているが、例えば、下電極が各圧電素子毎にパターニングさ
れ、圧電体層が下電極の外側まで連続的に形成されているものもある(例えば、特許文献
3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−66600号公報
【特許文献2】特開2007−118193号公報
【特許文献3】特開2000−32653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような特許文献3に記載の圧電素子においては、圧電体層のテーパ部に駆動電界が
強くかかることは無いため、このことに起因して圧電体層が破壊されてしまう虞はなくな
る。しかしながら、このような特許文献3に記載の構成に、例えば、特許文献1に記載の
圧電体層を採用して圧電素子の変位特性を向上させようとした場合、下電極上の圧電体層
と下電極の外側(振動板上)の圧電体層とで結晶性が変化してしまうためか、圧電素子を
駆動した際に、下電極の端部近傍で圧電体層が破壊されてしまう虞がある。また、圧電素
子の応答速度が遅く、圧電素子を高速駆動するのが難しいという問題もある。
【0008】
なお、このような問題は、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドだけでなく
、他の液滴を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在し、また液体噴射ヘッドだけ
でなく、圧電素子を具備するアクチュエータであれば同様に存在する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、圧電素子の変位特性を向上し
高速駆動を実現できると共に圧電体層の破壊を抑制して耐久性を向上することができる液
体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、液滴を吐出するノズルにそれぞれ連通する圧力発生室が
複数並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる
下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、前記圧電体層の端面がその外
側に向かって傾斜する傾斜面で構成され、各圧電素子を構成する前記下電極が前記圧力発
生室の幅よりも狭い幅で形成されていると共に前記圧電体層が前記下電極よりも広い幅で
形成されて当該下電極の端面が前記圧電体層によって覆われており、前記振動板の最表層
が酸化チタン(TiOx)からなる絶縁体膜で構成され、前記下電極の最表層がニッケル
酸ランタン(LaNiyx)からなる配向制御層で構成され、且つ前記配向制御層及び少
なくとも当該配向制御層上の前記圧電体層が、ペロブスカイト構造の結晶からなり且つ結
晶面方位が(113)に優先配向していることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる本発明では、圧電体層の結晶性が向上することで、圧電素子の高速駆動を実現で
きると共に圧電体層の破壊を抑制して耐久性を向上することができる。
【0011】
ここで、前記振動板と前記圧電体層との間に、前記下電極とは不連続で、最表層の少な
くとも一部が前記配向制御層で構成された金属層が形成されているのが好ましい。これに
より、下電極が形成されていない非能動部領域においても圧電体層の結晶性が向上し、圧
電体層全体が調和して変位し、変位量が確保できる。したがって、圧電素子の高速駆動を
より実現できると共に圧電体層の破壊を抑制して耐久性をより向上することができる。
【0012】
また、前記圧電体層の結晶構造は、菱面体晶、正方晶又は単斜晶であることが好ましい
。また、少なくとも前記配向制御層上の前記圧電体層が、柱状結晶からなることが好まし
い。さらに、前記絶縁体膜上の前記圧電体層も、柱状結晶からなることが好ましい。これ
により、圧電素子をより確実に高速駆動することができると共に、圧電素子の繰り返し駆
動に伴う圧電体層の破壊をより確実に抑えることができる。
【0013】
また、前記圧電体層で覆われた前記下電極の端面がその外側に向かって傾斜する傾斜面
となっていることが好ましい。これにより、下電極の端面部分に形成される圧電体層の結
晶性がさらに向上する。したがって、圧電素子をより確実に高速駆動することができると
共に、繰り返し駆動に伴う圧電体層の破壊をより確実に抑えることができる。
【0014】
また、前記下電極は、前記配向制御層の下層に当該配向制御層よりも抵抗率の低い材料
からなる導電層を有することが好ましい。これにより、複数の圧電素子を同時に駆動して
も十分な電流供給能力が得られる。したがって、並設された各圧電素子の変位特性を均一
化することができる。
【0015】
また、導電層を設ける場合、この前記導電層が前記配向制御層によって覆われているこ
とが好ましい。これにより下電極の配向制御層のみが圧電体層と接触するため、圧電体層
の結晶性がより確実に向上する。
【0016】
また、前記導電層が、金属材料、金属材料の酸化物又はこれらの合金からなることが好
ましい。特に、前記金属材料が、銅、アルミニウム、タングステン、白金、イリジウム、
ルテニウム、銀、ニッケル、オスミウム、モリブデン、ロジウム、チタン、マグネシウム
及びコバルトからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが望ましい。これらの
材料を用いることで、より確実に上述した電流供給能力が得られる。
【0017】
また、前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とすることが好まし
い。これにより、良好な変位特性を有する圧電素子となる。
【0018】
また、前記圧電体層の端面が、耐湿性を有する保護膜によって覆われていることが好ま
しい。また前記圧電体層の端面が、前記上電極によって覆われていることが好ましい。こ
れにより、大気中の水分等による圧電体層の破壊を抑制することができる。
【0019】
また、圧電素子の電極構造は特に限定されず、前記下電極が前記圧力発生室に対応して
独立して設けられて前記圧電素子の個別電極を構成し、前記上電極が前記圧力発生室の並
設方向に亘って連続的に設けられて前記圧電素子の共通電極を構成していてもよい。これ
により圧電素子の電極構造に拘わらず、圧電素子の変位特性を向上することができ且つ圧
電体層の破壊を抑制して耐久性を向上することができる。
【0020】
また、本発明は、このような液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置
にある。かかる本発明では、ヘッドの信頼性が向上した液体噴射装置を実現することがで
きる。
【0021】
さらに本発明は、基板の一方面側に設けられた振動板と、該振動板上に設けられた下電
極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、前記圧電体層の端面がその外側に
向かって傾斜する傾斜面で構成され、前記圧電体層が前記下電極よりも広い幅で形成され
て当該下電極の端面が前記圧電体層によって覆われており、前記振動板の最表層が酸化チ
タン(TiOx)からなる絶縁体膜で構成され、前記下電極の最表層がニッケル酸ランタ
ン(LaNiyx)からなる配向制御層で構成され、且つ前記配向制御層及び少なくとも
当該配向制御層上の前記圧電体層が、ペロブスカイト構造の結晶からなり且つ結晶面方位
が(113)に優先配向していることを特徴とするアクチュエータにある。
かかる本発明では、圧電体層の結晶性が向上することで、圧電素子の高速駆動を実現で
きると共に、圧電体層の破壊を抑制して耐久性を向上することができる。つまり高速応答
性と耐久性とを兼ね備えたアクチュエータを実現することができる。
【0022】
ここで、前記振動板と前記圧電体層との間に、前記下電極とは不連続で、最表層の少な
くとも一部が前記配向制御層で構成された金属層が形成されているのが好ましい。これに
より、下電極が形成されていない非能動部領域においても圧電体層の結晶性が向上し、圧
電体層全体が調和して変位し、変位量が確保できる。したがって、圧電素子の高速駆動を
より実現できると共に圧電体層の破壊を抑制して耐久性がより向上したアクチュエータを
実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録
ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面
図である。
【0024】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では結晶面方位が(110)である
シリコン単結晶基板からなり、その一方面には酸化膜からなる弾性膜51が形成されてい
る。流路形成基板10には、隔壁11によって区画され一方側の面が弾性膜51で構成さ
れる複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。
【0025】
流路形成基板10には、圧力発生室12の長手方向一端部側に、隔壁11によって区画
され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。連
通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部
15は、後述する保護基板30のリザーバ部32と連通して、各圧力発生室12の共通の
インク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する。
【0026】
ここで、インク供給路13は、圧力発生室12よりも狭い断面積となるように形成され
ており、連通部15から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持してい
る。例えば、インク供給路13は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生
室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されてい
る。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路を形成したが、
流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るの
ではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、各連通路14
は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部15側に延設してインク供給路13
と連通部15との間の空間を区画することで形成されている。
【0027】
なお、流路形成基板10の材料として、本実施形態ではシリコン単結晶基板を用いてい
るが、勿論これに限定されず、例えば、ガラスセラミックス、ステンレス鋼等を用いても
よい。
【0028】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の
端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィ
ルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミッ
クス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼などからなる。
【0029】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、振動板50を介して圧電
素子300が形成されている。そして、ここでは、この圧電素子300と圧電素子300
の駆動により変位が生じる振動板50とを合わせてアクチュエータと称する。本実施形態
では、流路形成基板10上に、上述したように弾性膜51が形成され、この弾性膜51上
には、酸化チタン(TiOx)からなる絶縁体膜52が形成され、これら弾性膜51と絶
縁体膜52とで振動板50が構成されている。
【0030】
振動板50(絶縁体膜52)上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とか
らなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧
電体層70及び上電極膜80を有する部分だけでなく、少なくとも圧電体層70を有する
部分を含む。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電
極を圧電体層70と共に圧力発生室12毎にパターニングして個別電極とする。
そして、ここではパターニングされた電極および圧電体層70から構成され、両電極へ
の電圧の印加により圧電歪みが生じる領域を圧電体能動部320という。
【0031】
ここで、本実施形態に係る圧電素子300の構造について詳しく説明する。図3に示す
ように、圧電素子300を構成する下電極膜60は、各圧力発生室12に対向する領域毎
に、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で設けられて各圧電素子300の個別電極を構成し
ている。そして下電極膜60の端面は、その外側に向かって傾斜する傾斜面となっている
。また下電極膜60は、各圧力発生室12の長手方向一端部側から周壁上まで延設され、
圧力発生室12の外側の領域で、例えば、金(Au)等からなるリード電極90とそれぞ
れ接続されており、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加
されるようになっている(図2参照)。
ここで、パターニングされた下電極膜60が形成されていない領域を非能動部領域33
0と呼ぶ。
【0032】
また下電極膜60は、本実施形態では、絶縁体膜52上に形成された導電層61と、導
電層61上に形成されたニッケル酸ランタン(LaNiyx)からなる配向制御層62と
で構成されている。導電層61は、配向制御層62よりも抵抗率の低い材料、例えば、金
属材料、金属材料の酸化物又はこれらの合金等からなる。導電層61を形成する金属材料
としては、具体的には、銅、アルミニウム、タングステン、白金、イリジウム、ルテニウ
ム、銀、ニッケル、オスミウム、モリブデン、ロジウム、チタン、マグネシウム及びコバ
ルトからなる群から選択される少なくとも一種が含むものであることが好ましい。
【0033】
配向制御層62として用いられるニッケル酸ランタンとしては、例えば、本実施形態で
は、x=3、y=1のLaNiO3を用いた。このようなニッケル酸ランタンからなる配
向制御層62は、下地となる導電層61の面方位の影響を実質的に受けず、ペロブスカイ
ト構造の結晶からなり且つ結晶面方位が(113)に優先配向している。
【0034】
なお、このような配向制御層62を形成する方法は、特に限定されず、例えば、スパッ
タ法、ゾル−ゲル法、MOD法等が挙げられ、成膜条件を適宜調整することで、上記のよ
うな結晶性を有する配向制御層62を形成することができる。
【0035】
圧電体層70は、圧力発生室12の幅方向においては、下電極膜60よりも広い幅で且
つ圧力発生室12よりも狭い幅で設けられている。すなわち圧電体層70は、下電極膜6
0上からその外側の絶縁体膜52上まで連続的に形成されている。一方、圧力発生室12
の長手方向においては、圧電体層70の両端部は、圧力発生室12の端部の外側まで延設
されている(図2参照)。そして圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60はこの圧
電体層70によって覆われている。なお圧力発生室12の長手方向一端部側の圧電体層7
0の端部は、圧力発生室12の端部近傍に位置しておりその外側の領域には下電極膜60
がさらに延設されている(図2参照)。
【0036】
ここで、配向制御層62(下電極膜60)上に形成されている圧電体層70aは、ペロ
ブスカイト構造の結晶からなる。また配向制御層62上の圧電体層70aは、配向制御層
62の結晶配向の影響を受けて結晶面方位が(113)に配向している。つまり圧電体層
70は、配向制御層62上にエピタキシャル成長して結晶面方位が(113)に配向して
いる。なお配向制御層62以外の部分に形成されている圧電体層70b、つまり絶縁体膜
52上の圧電体層70bも、ペロブスカイト構造の結晶からなり且つ結晶面配向が(11
3)に配向しているのが好ましい。
【0037】
このような圧電体層70を具備する圧電素子300は、圧電体層70の結晶性が優れて
いることで応答速度が向上すると共に耐久性も向上する。すなわち、圧電素子300の高
速駆動が可能となり、且つ圧電素子300の繰り返し駆動に伴う変位量の低下を抑えるこ
とができる。圧電素子300を繰り返し駆動すると、圧電素子300の劣化等に伴ってそ
の変位量は徐々に低下してしまうが、圧電体層70が良好な結晶性を有することで、この
変位量の低下も抑えられる。
【0038】
なお、圧電体層70は、その全体がペロブスカイト構造の結晶からなり且つ結晶面方位
が(113)に配向していることが好ましいが、絶縁体膜52上に形成されている圧電体
層70bは、圧電素子300の変位には実質的に影響しないため、必ずしもペロブスカイ
ト構造の結晶からなり且つ結晶面方位が(113)に配向している必要はない。つまり圧
電体層70は、少なくとも配向制御層62上に形成された部分(圧電体層70a)が、ペ
ロブスカイト構造の結晶からなり且つ結晶面方位が(113)に配向していればよい。
【0039】
また、圧電体層70、特に配向制御層62上の圧電体層70aの結晶構造は、菱面体晶
、正方晶又は単斜晶であることが好ましい。さらに圧電体層70は柱状結晶からなること
が好ましい。これにより、圧電素子300の変位量の低下をより確実に抑えつつ圧電素子
300の高速駆動を実現することができる。本発明の構成では、下電極膜60の最表層が
ニッケル酸ランタンからなる配向制御層62で構成され且つ振動板50の最表層が酸化チ
タンからなる絶縁体膜52で構成されており、圧電体層70の結晶は、下地となるこれら
配向制御層62及び絶縁体膜52から成長する。したがって、上記の何れかの結晶構造で
且つ柱状結晶である圧電体層70を比較的容易に形成することができる。
【0040】
圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr,Ti)O
3:PZT]を主成分とする材料で形成されていることが好ましいが、その他、マグネシ
ウム酸ニオブ酸鉛とチタン酸鉛の固溶体[Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3:P
MN−PT]、亜鉛酸ニオブ酸鉛とチタン酸鉛の固溶体[Pb(Zn1/3Nb2/3)O3
PbTiO3:PZN−PT]等を用いてもよい。いずれにしても圧電体層70の材料は
、ペロブスカイト構造の結晶からなるものであれば上記の材料に限定されない。
【0041】
なお、このような圧電体層70の製造方法は、特に限定されず、例えば、ゾル−ゲル法
、MOD法等が挙げられる。そして、このような方法によって圧電体層70を形成する際
、成膜条件や、加熱(焼成)条件等を適宜調整することで、上記のような結晶性を有する
圧電体層70を形成することができる。
【0042】
また、本実施形態では、上述したように下電極膜60の端面が、振動板50の表面に対
して略垂直な面ではなく傾斜面で構成されている(図3参照)。この下電極膜60の端面
の振動板50の表面に対する傾斜角度は、例えば、10〜30°であることが好ましい。
これにより、この下電極膜60の端面上にも圧電体層70が比較的良好に形成される。つ
まり、圧電体層70の結晶性が全体に亘ってさらに均一化される。したがって、圧電素子
300及び振動板50の変位量の低下がより確実に抑えられる。
【0043】
さらに、本実施形態では、上述したように下電極膜60が配向制御層62よりも抵抗率
の低い導電層61を有するため、複数の圧電素子300を同時に駆動しても、十分な電流
供給能力が得られる。したがって、並設された複数の圧電素子300を同時に駆動しても
、各圧電素子300の変位特性にばらつきが生じることなく、安定した略均一な変位特性
が得られる。
【0044】
上電極膜80は、本実施形態では、複数の圧力発生室12に対向する領域に連続的に形
成され、また圧力発生室12の長手方向他端部側から周壁上まで延設されている。すなわ
ち、上電極膜80は、圧力発生室12に対向する領域の圧電体層70の上面及び端面のほ
ぼ全域を覆って設けられている。これにより、圧電体層70への大気中の水分(湿気)の
浸透が上電極膜80によって実質的に防止される。したがって、水分(湿気)に起因する
圧電素子300(圧電体層70)の破壊を抑制することができ、圧電素子300の耐久性
を著しく向上することができる。
【0045】
このような振動板50及び圧電素子300からなるアクチュエータが形成された流路形
成基板10上には、圧電素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を
確保可能な圧電素子保持部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されてい
る。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影
響を殆ど受けない状態で保護されている。また、保護基板30には、流路形成基板10の
連通部15に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、
本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に沿って
設けられており、上述したように流路形成基板10の連通部15と連通されて各圧力発生
室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0046】
さらに、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護
基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、下電極膜60及びリード電極90
の端部がこの貫通孔33内に露出されている。そして、図示しないが、これら下電極膜6
0及びリード電極90は、貫通孔33内に延設される接続配線によって圧電素子300を
駆動するための駆動IC等に接続される。
【0047】
なお、保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂
等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが
より好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用
いて形成した。
【0048】
この保護基板30上には、さらに、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライア
ンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり
、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。固定板42は、金
属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚
さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓
性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0049】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給
手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満
たした後、図示しない駆動ICからの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞ
れの圧電素子300に電圧を印加し、圧電素子300をたわみ変形させることにより、各
圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0050】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4〜図7を参照
して説明する。なお、図4〜図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面
図である。
【0051】
まず、図4(a)に示すように、結晶面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる
シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110の表面に振動板50を形成する。具体
的には、まず、弾性膜51を構成する二酸化シリコン膜53を形成する。例えば、本実施
形態では、流路形成基板用ウェハ110の表面を熱酸化することによって弾性膜51(二
酸化シリコン膜53)を形成している。勿論、弾性膜51は、熱酸化以外の方法で形成し
てもよい。さらに、この弾性膜51(二酸化シリコン膜53)上に、酸化チタン(TiO
x)からなる絶縁体膜52を形成する。絶縁体膜52の形成方法は、特に限定されず、例
えば、スパッタ法等によって形成すればよい。
【0052】
ところで、振動板50を構成する絶縁体膜52は、圧電素子300を構成する圧電体層
70の鉛成分が弾性膜51や流路形成基板10に拡散するのを防止するための役割も果た
している。
【0053】
次いで、図4(b)に示すように、振動板50(絶縁体膜52)上に、導電層61及び
配向制御層62からなる下電極膜60を形成し、この下電極膜60を所定形状にパターニ
ングする。具体的には、例えば、白金(Pt)等の所定の金属材料を絶縁体膜52上にス
パッタリング法等によって導電層61を形成し、さらにこの導電層61上にニッケル酸ラ
ンタンからなる配向制御層62を形成する。その後、これら配向制御層62と導電層61
とを順次パターニングする。
【0054】
なお、配向制御層62の形成方法は、上述したように、例えば、スパッタ法、ゾル−ゲ
ル法、MOD法等が挙げられる。そして成膜条件を適宜調整することで、上述の結晶性を
有する配向制御層62を形成することができる。
【0055】
次に、図4(c)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる
圧電体層70を、下電極膜60が形成された流路形成基板用ウェハ110の全面に成膜す
る。圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有
機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成す
ることで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体
層70を形成した。勿論、圧電体層70の形成方法は、ゾル−ゲル法に限定されるもので
はなく、例えば、MOD法やスパッタリング法等を用いてもよい。
【0056】
そして、このような方法で圧電体層70を形成する際に、成膜条件や、加熱(焼成)条
件等を適宜調整することで、上述した結晶性を有する圧電体層70を形成することができ
る。
【0057】
次に、この圧電体層70を所定形状にパターニングする。具体的には、図5(a)に示
すように、圧電体層70上にレジストを塗布してこのレジストを露光及び現像することに
より所定パターンのレジスト膜200を形成する。すなわち、例えば、ネガレジストをス
ピンコート法等により圧電体層70上にレジストを塗布し、その後、所定のマスクを用い
て露光・現像・ベークを行うことによりレジスト膜200を形成する。勿論、ネガレジス
トの代わりにポジレジストを用いてもよい。なお本実施形態では、レジスト膜200の端
面が所定角度で傾斜するように形成している。
【0058】
次いで、図5(b)に示すように、このレジスト膜200をマスクとして圧電体層70
をイオンミリングすることによって所定形状にパターニングする。このとき、圧電体層7
0は、レジスト膜200の傾斜した端面に沿ってパターニングされる。つまり、圧電体層
70の端面が傾斜面となる。
【0059】
次に、図5(c)に示すように、圧電体層70上のレジスト膜200を剥離させる。レ
ジスト膜200の剥離方法は、特に限定されないが、例えば、有機剥離液等によって剥離
させればよい。その後、さらに圧電体層70の表面を所定の洗浄液等によって洗浄するこ
とでレジスト膜200を完全に除去する。
【0060】
次に、図6(a)に示すように、上電極膜80を流路形成基板用ウェハ110の全面に
形成し、この上電極膜80を所定形状にパターニングすることによって圧電素子300が
形成される。上電極膜80の材料としては、導電性が比較的高い材料であれば、特に限定
されないが、例えば、イリジウム、白金、パラジウム等の金属材料を用いることが好まし
い。また、上電極膜80の厚さは、圧電素子300の変位を妨げない程度の厚さで形成す
る必要がある。ただし、この上電極膜80は、本実施形態では、水分に起因する圧電体層
70の破壊を抑制するための耐湿保護膜を兼ねているため、比較的厚く形成されているこ
とが望ましい。
【0061】
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って金(Au
)からなるリード電極90を形成後、各圧電素子300毎にパターニングする。次に、図
6(c)に示すように、複数の保護基板30が一体的に形成される保護基板用ウェハ13
0を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。なお保護基板用ウ
ェハ130には、圧電素子保持部31、リザーバ部32及び貫通孔33が予め形成されて
いる。
【0062】
次いで、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みに薄くす
る。次に、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シ
リコン(SiNx)からなる保護膜55を新たに形成し、所定のマスクを介して保護膜5
5を所定形状にパターニングする。そして、図7(c)に示すように、この保護膜55を
マスクとして流路形成基板用ウェハ110を、例えば、KOH等のアルカリ溶液を用いた
異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、流路形成基板用ウェハ110
に、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15を形成する。
【0063】
その後は、図示しないが流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外
周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去し、流路形
成基板用ウェハ110にノズルプレート20を接合すると共に保護基板用ウェハ130に
コンプライアンス基板40を接合した後、これら流路形成基板用ウェハ110を、図1に
示すような一つのチップサイズに分割することによってインクジェット式記録ヘッドが製
造される。
【0064】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【0065】
本実施形態は、下電極膜の構成の他の例であり、下電極膜60以外の構成は実施形態1
と同様である。すなわち、実施形態1では、配向制御層62を導電層61上(上面)に形
成したのに対し、図8に示すように、本実施形態では、下電極膜60を構成する配向制御
層62Aを、導電層61の上面及び端面上、つまり導電層61を覆って設けるようにした

【0066】
このような構成では、下電極膜60の端面においても、圧電体層70が配向制御層62
A上に形成されることになるため、下電極膜60の端部近傍における圧電体層70の結晶
性がさらに向上する。
【0067】
(実施形態3)
図9は、実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図で
あり、図10は、図9の平面図及びそのB−B′断面図である。また図11は、実施形態
3に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す断面図である。なお図1〜図3に示し
た部材と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0068】
本実施形態は、圧電素子300を構成する下電極膜60Aが、圧電素子300の共通電
極を構成し、上電極膜80Aが個別電極を構成している以外は、実施形態1と同様である

【0069】
図示するように、本実施形態に係る下電極膜60Aは、各圧力発生室12に対向する領
域毎に、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で、各圧力発生室12の長手方向一端部側から
周壁上まで延設され、周壁上で連結されて各圧電素子300に共通する共通電極を構成し
ている。圧力発生室12の長手方向他端部側の下電極膜60Aの端部は、圧力発生室12
に対向する領域内に位置している。
【0070】
圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向に両端部の外側まで延設されており、圧力
発生室12に対向する領域の下電極膜60Aの上面及び端面が圧電体層70によって完全
に覆われている。また圧力発生室12の長手方向一端部側では、圧電体層70の外側まで
下電極膜60Aがさらに延設されている。
【0071】
上電極膜80Aは、圧電体層70の幅よりも広い幅で、各圧力発生室12に対向する領
域にそれぞれ独立して設けられている。すなわち上電極膜80Aは圧力発生室12間の隔
壁11上で切り分けられて圧電素子300の個別電極を構成している。また上電極膜80
Aは、圧力発生室12の長手方向他端部側から周壁上まで延設されている。
【0072】
なお本実施形態では、上電極膜80Aは、各圧力発生室12の長手方向他端部側で圧電
体層70の端部よりも外側まで延設されている。そして、この上電極膜80Aの端部近傍
にリード電極91が接続されており、このリード電極91を介して各圧電素子300に選
択的に電圧が印加されるようになっている。
【0073】
このような本実施形態の構成においても、圧電体層70が良好な結晶性を有することで
、圧電素子300の高速駆動を実現でき、また圧電体層70の破壊を抑制して耐久性を向
上することができる。さらに、圧電体層70の表面が上電極膜80Aによって覆われてい
ることで、水分等に起因する圧電素子300の破壊を抑制することができる。つまり、圧
電素子300の電極構造に拘わらず、圧電体層70の破壊を確実に抑制することができ、
耐久性を向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0074】
(実施形態4)
図12は、実施形態4に係るインクジェット式記録ヘッドの平面図及びその要部を示す
C−C′断面図である。なお実施形態1の図1〜図3に示した部材と同一部材には同一符
号を付し、重複する説明は省略する。
【0075】
本実施形態は、下電極膜60の他に、振動板50と圧電体層70との間に、下電極膜6
0とは不連続な金属層65が形成されている例であり、金属層65を加えた以外の構成は
実施形態1と同様である。
図12において、金属層65は、下電極膜60が形成されていない振動板50上の領域
で、圧電体層70との間に形成されている。また金属層65は、下電極膜60とは不連続
で、電気的に接続されていない。
金属層65の平面形状は、本実施形態で示した矩形状に限らず、下電極膜60と不連続
であればどのような形状であってもよい。また、断面形状も矩形状に限らず、下電極膜6
0と同様に台形状であってもよい。
【0076】
金属層65は、下電極膜60と同様な2層構造で、導電層61上に最表層として配向制
御層62が形成されている。導電層61及び配向制御層62を形成する材料としては、実
施形態1と同じものを用いることができるが、導電層61はこれらの材料に限らない。
このような構成では、下電極膜60が形成されていない非能動部領域330においても
圧電体層70bの結晶性が配向制御層62によって向上し、圧電体層70全体が調和して
変位し、変位量がより確保できる。したがって、圧電素子300の高速駆動をより実現で
きると共に圧電体層70の破壊を抑制して耐久性をより向上することができる。
【0077】
また、金属層65の構造は、実施形態2の図8で示した下電極膜60と同様に、配向制
御層62が導電層61を覆うような構造であってもよい。
このような構成では、金属層65の端面においても、圧電体層70が配向制御層62上
に形成されることになるため、圧電体層70の結晶性がさらに向上する。
【0078】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるも
のではない。
【0079】
例えば、上述の実施形態では、下電極膜60が、導電層61と配向制御層62との2層
で構成された例を説明したが、下電極膜60の構成は、これに限定されるものではない。
下電極膜60は、最表層がニッケル酸ランタンからなる配向制御層62で構成されていれ
ば、その下側の構成は特に限定されず、例えば、導電層61が複数層で構成されていても
よい。
【0080】
同様に、上述の実施形態では、振動板50が弾性膜51と絶縁体膜52との2層で構成
された例を説明したが、振動板50の構成は、これに限定されるものではない。振動板5
0は、最表層が酸化チタンからなる絶縁体膜52で構成されていればよく、例えば、弾性
膜51と絶縁体膜52との間、或いは、弾性膜51と流路形成基板10との間に、他の層
がさらに設けられていてもよい。
【0081】
さらに、例えば、上述の実施形態では、上電極膜80によって圧電体層70を覆い、こ
れにより圧電体層70の水分に起因する破壊を抑制するようにしたが、上電極膜80の構
成は、これに限定されるものではない。例えば、上電極膜80は、下電極膜60に対向す
る領域のみ設けられていてもよい。この場合には、圧電体層70のその他の部分に、例え
ば、酸化アルミニウム等からなる耐湿性を有する材料からなる保護膜を形成し、この保護
膜によって圧電体層70の水分に起因する破壊を抑制するようにしてもよい。
【0082】
また上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通
するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、液体噴射装置の一例と
してのインクジェット式記録装置に搭載される。図13は、そのインクジェット式記録装
置の一例を示す概略図である。図13に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有す
る記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び
2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ
3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。
この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカ
ラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しな
い複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録
ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動され
る。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示し
ない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上
を搬送されるようになっている。
【0083】
なお、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェ
ット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドの基本的構成は上述したものに限定され
るものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク
以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとし
ては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプ
レー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、F
ED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオc
hip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0084】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載され
るアクチュエータに限られず、他の装置に搭載されるアクチュエータにも、勿論適用する
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】実施形態2に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【図9】実施形態3に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図10】実施形態3に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図11】実施形態3に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【図12】実施形態4に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図13】一実施形態に係る記録装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルにそれぞれ連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と
、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極か
らなる圧電素子とを具備し、前記圧電体層の端面がその外側に向かって傾斜する傾斜面で
構成され、
各圧電素子を構成する前記下電極が前記圧力発生室の幅よりも狭い幅で形成されている
と共に前記圧電体層が前記下電極よりも広い幅で形成されて当該下電極の端面が前記圧電
体層によって覆われており、
前記振動板の最表層が酸化チタン(TiOx)からなる絶縁体膜で構成され、前記下電
極の最表層がニッケル酸ランタン(LaNiyx)からなる配向制御層で構成され、
且つ前記配向制御層及び少なくとも当該配向制御層上の前記圧電体層が、ペロブスカイ
ト構造の結晶からなり且つ結晶面方位が(113)に優先配向していることを特徴とする
液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記振動板と前記圧電体層との間に、前記下電極とは不連続で、最表層の少なくとも一
部が前記配向制御層で構成された金属層が形成されていることを特徴とする請求項1に記
載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記圧電体層の結晶構造は、菱面体晶、正方晶又は単斜晶であることを特徴とする請求
項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
少なくとも前記配向制御層上の前記圧電体層が、柱状結晶からなることを特徴とする請
求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記絶縁体膜上の前記圧電体層が、柱状結晶からなることを特徴とする請求項1〜4の
何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記圧電体層で覆われた前記下電極の端面がその外側に向かって傾斜する傾斜面となっ
ていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記下電極は、前記配向制御層の下層に当該配向制御層よりも抵抗率の低い材料からな
る導電層を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記導電層が前記配向制御層によって覆われていることを特徴とする請求項7に記載の
液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記導電層が、金属材料、金属材料の酸化物又はこれらの合金からなることを特徴とす
る請求項7又は8に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記金属材料が、銅、アルミニウム、タングステン、白金、イリジウム、ルテニウム、
銀、ニッケル、オスミウム、モリブデン、ロジウム、チタン、マグネシウム及びコバルト
からなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項9に記載の液体
噴射ヘッド。
【請求項11】
前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とすることを特徴とする請
求項1〜10の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記圧電体層の端面が、耐湿性を有する保護膜によって覆われていることを特徴とする
請求項1〜11の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
前記圧電体層の端面が、前記上電極によって覆われていることを特徴とする請求項1〜
12の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項14】
前記下電極が前記圧力発生室に対応して独立して設けられて前記圧電素子の個別電極を
構成し、前記上電極が前記圧力発生室の並設方向に亘って連続的に設けられて前記圧電素
子の共通電極を構成していることを特徴とする請求項13に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体
噴射装置。
【請求項16】
基板の一方面側に設けられた振動板と、該振動板上に設けられた下電極、圧電体層及び
上電極からなる圧電素子とを具備し、前記圧電体層の端面がその外側に向かって傾斜する
傾斜面で構成され、
前記圧電体層が前記下電極よりも広い幅で形成されて当該下電極の端面が前記圧電体層
によって覆われており、
前記振動板の最表層が酸化チタン(TiOx)からなる絶縁体膜で構成され、前記下電
極の最表層がニッケル酸ランタン(LaNiyx)からなる配向制御層で構成され、
且つ前記配向制御層及び少なくとも当該配向制御層上の前記圧電体層が、ペロブスカイ
ト構造の結晶からなり且つ結晶面方位が(113)に優先配向していることを特徴とする
アクチュエータ。
【請求項17】
前記振動板と前記圧電体層との間に、前記下電極とは独立し、最表層が前記配向制御層
で構成された金属層が形成されていることを特徴とする請求項16に記載のアクチュエー
タ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−255529(P2009−255529A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6324(P2009−6324)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】