説明

液塗布装置及び塗布方法

【課題】上層と下層との界面が波打つのを抑制できる液塗布装置及びこれを用いた液塗布方法を提供する。
【解決手段】スリットダイ20は、ガイドロール6の回転方向に離間し、開口24にて合流する上層用流路23a,下層用流路23bを有する。ガイドロール6の軸6aに対して垂直な断面において、上層用流路23aの中心線23aaと、下層用流路23bの中心線23bbと、がなす角αが0.5〜25°であり、上層用流路23aの中心線23aa及び下層用流路23bの中心線23bbの交点23xとガイドロール6の軸6aとを結ぶ線23xxと、上層用流路23aの中心線23aaとがなす角βがこの結ぶ線から上層用流路の中心線に向かってガイドロールの回転方向と逆方向に測定して0〜70°であり、及び、2つの流路23a,23bが合流する点23eと開口24との距離γが0.05〜2.8mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液塗布装置及び塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被塗布シートを案内するガイドロールと、ガイドロールの軸方向に伸びる開口を複数有し、ガイドロールによりガイドされた被塗布シートの表面に2つの液の層(以下、上層及び下層と呼ぶ)を塗布するスリットダイと、を備える液塗布装置が知られている(例えば特許文献1、2等参照、)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−300394号公報
【特許文献2】特公平6−49171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の液塗布装置では、上層と下層との界面が平面状ではなく波打つ場合が多く、このように界面が波打つと、特に下層が比較的薄い(例えば、5μm以下)場合に、下層の厚みが著しく不均一になり好ましくない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、上層と下層との界面が波打つのを抑制できる液塗布装置及びこれを用いた液塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る塗布装置は、被塗布シートを案内するガイドロールと、ガイドロールの軸方向に伸びる開口を有しガイドロールによりガイドされた被塗布シートの表面に液を塗布するスリットダイと、を備える。スリットダイは、ガイドロールの回転方向に離間し、開口にて合流する2つの流路を有する。そして、ガイドロールの軸に対して垂直な断面において、
1:2つの流路の内のガイドロールの回転方向前側の上層用流路の中心線と、2つの流路の内のガイドロールの回転方向後側の下層用流路の中心線と、がなす角αが0.5〜25°であり、
2:上層用流路の中心線及び下層用流路の中心線の交点とガイドロールの軸とを結ぶ線と、上層用流路の中心線と、がなす角βが、この結ぶ線から上層用流路の中心線に向かってガイドロールの回転方向と逆方向に測定して0〜70°であり、及び、
3:2つの流路が合流する点と開口との距離γが0.05〜2.8mmである。
【0007】
本発明によれば、α、β、γが上述の要件を満たすので、2つの流路に互いに異なる液を供給して被塗布シートの表面に2つの液の層の積層体を形成する際に、2つの層の界面の波打ちを抑制できる。
【0008】
ここで、ガイドロールの軸に対して垂直な断面において、上層用流路の幅:下層用流路の幅=3:2〜3:1であることが好ましい。これにより、特に下層が比較的薄い場合に界面の波打ちを抑制しやすい。
【0009】
また、開口よりも回転方向前側にガイドロールと対向するエッジ部を有し、エッジ部のガイドロールの回転方向に沿う長さδが0.01〜0.05mmであることが好ましい。
【0010】
これにより、界面の波打ちをより一層抑制できる。
【0011】
また、本発明に係る液塗布方法は、上述の液塗布装置における下層用流路に対して、固形分濃度が20〜30wt%の液を供給するものである。
【0012】
とくに、このような固形分濃度が高い液体を下層とした場合に、界面の波うちが激しくなりやすく、下層が部分的に消滅することが多いが、このような場合でも、均一性の高い下層を形成できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上層と下層との界面が波打つのを抑制できる液塗布装置及びこれを用いた液塗布方法を提供するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施形態にかかる塗布装置の概略構成図である。
【図2】図2は、図1のガイドロール及びスリットダイが対向する部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の塗布装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
本発明の塗布装置は、図1に示すように、液貯留タンク1a,1b、液供給ポンプ3a,3b、スリットダイ20、被塗布シート供給リール5、ガイドロール6、巻取りリール7、乾燥機8を主として有し、被塗布シートに対して、上層Lu及び下層Ldを有する積層体Lを同時に塗布するものである。
【0017】
液貯留タンク1a,1bには、それぞれ塗布される液体が貯留される。液体は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学デバイスの活物質含有層の形成用液体や、記録メディア形成用の液体等を用いることができる。例えば、活物質含有層形成用の液体としては、活物質、必要に応じて導電助剤、バインダー及び溶媒を含む液が挙げられる。活物質としては、リチウム含有金属酸化物や炭素粉、導電助剤としてはカーボンブラック等、バインダーとしてはPVDF等、溶媒としてはN-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。液の粘度は、例えば、1P〜500Pの範囲とすることができる。また、上層用の液貯留タンク1aに供給する塗布液の固形分濃度や下層用の液貯留タンク1bに供給する液の固形分濃度は特に限定されないが、通常、固形分濃度が高い方が後述する上層Luと下層Ldとの界面が波打ちやすくなり、本実施形態では、上層用、下層用の塗布液の固形分濃度が20〜30wt%であっても十分に実施可能である。
【0018】
液貯留タンク1aとスリットダイ20の入口21aとはラインL1aで接続され、液貯留タンク1bとスリットダイ20の入口21bとはラインL1bで接続されている。ラインL1a,L1bには液貯留タンク1a,1bの液をそれぞれスリットダイ20に定量供給する液供給ポンプ3a,3bが接続されている。液供給ポンプ3a,3bは特に限定されないが、精密ギヤポンプが好ましい。ラインL1a,L1bにはそれぞれバルブ2a,2bが接続されている。
【0019】
ガイドロール6は、円筒状の回転可能なロールである。このガイドロール6の周面には、被塗布シート供給リール5から供給され、巻取りリール7に巻き取られる被塗布シートSが掛け渡されており、図示矢印A方向に回転されて被塗布シートSを案内する。ガイドロール6の径は特に限定されないが、例えば、外径を10〜250mmとすることができる。た、ガイドロール6の回転速度は特に限定されないが、ガイドロール6の周面における線速度がライン速度(被塗布シートSの流れ速度)と等速となるように設定することが好ましい。
【0020】
被塗布シートSは特に限定されないが、例えば、PET、PEN、アラミド等が挙げられる。また、厚みや幅も特に限定されないが、例えば、それぞれ、5〜300μm、50〜2000mmとすることができる。
【0021】
スリットダイ20は、図1及び図2に示すように、ガイドロール6の軸方向に沿って1つの開口24が形成されている。このスリットダイ20は、スリットダイ20の入口21a、21bから流入した液体を、スリットダイ20の内部に空洞として設けられガイドロール6の軸方向に伸びるマニホールド22a,22bにおいて被塗布シートSの幅方向にそれぞれ広げ、スリット状の上層用流路(ガイドロールの回転方向前側の流路)23a、スリット状の下層用流路(ガイドロールの回転方向後側の流路)23bを通ってそれぞれ層状の上層及び下層とし、さらに開口24の手前でこれら2つの層が重なった積層体Lが形成されるように合流させ、その後この積層体を1つの開口24からシート状に吐出させ、ガイドロール6上を移動する被塗布シートS上に積層体Lを塗布するものである。被塗布シートS上に形成された積層体Lは、巻取りリール7によって移動される途中に乾燥機8によって乾燥される。乾燥機としては、熱線ヒータ、蒸気ヒータ、赤外線ヒータ等が挙げられる。
【0022】
続いて、スリットダイ20及びガイドロール6を、ガイドロール6の軸6aに垂直な断面で切断した図2を参照して、スリットダイ20の開口24の近傍について詳しく説明する。
【0023】
スリットダイ20の開口24のスリット幅24Wは、特に限定されないが、例えば、30〜500μmとすることができる。スリット幅24Wは、後述する上層用流路23aの幅23aW及び下層用流路23bの幅23bWの和以下であることが好ましい。
【0024】
上層用流路23a及び下層用流路23bは、開口24にそれぞれ連通しており、開口24よりも液の流れ方向手前側で合流している。すなわち、上層用流路23a及び下層用流路23bが合流する点23eは、開口24よりも液の流れ方向手前側に形成されている。ここで、合流する点23eとは、2つの流れが最初に混ざる点であり、側壁の連結部である。合流点23eの角度は、αと同じであることが好ましい。
【0025】
ここで、本実施形態のスリットダイ20は、ガイドロール6の軸6aに対して垂直な断面において、以下の3つの要件を備える。
【0026】
1:上層用流路23aの中心線23aaと、下層用流路23bの中心線23ccと、がなす角αが0.5〜25°である。
【0027】
2:上層用流路23aの中心線23aa及び下層用流路23bの中心線23bbの交点23xとガイドロール6の軸6aとを結ぶ線23xxと、上層用流路23aの中心線23aaとがなす角βが、結ぶ線23xxから上層用流路23aの中心線23aaに向かってガイドロール6の回転方向Aと逆方向に測定して0〜70°である。
【0028】
3:上層用流路23a及び下層用流路23bの合流する点23eと開口24との距離γが0.05〜2.8mmである。ここで、合流する点23eと開口24との距離とは、図2において、開口24のスリット幅Wを規定する線、すなわち、開口24の一端と他端とを結ぶ線(又はその延長線)に対して、合流点23eから垂線を引いたときのその垂線の長さである。
【0029】
上層用流路23aの幅23aW、及び下層用流路23bの幅23bWは、上層用流路23aの幅:下層用流路23bの幅=3:2〜3:1の範囲内となることが好ましい。ここで、流路の幅とは、ガイドロール6の軸に垂直な平面における流路の流れに垂直な方向の幅である。具体的には、例えば、上層用流路23aの幅は150〜300μm、下層用流路23bの幅は50〜100μmとすることができる。
【0030】
また、スリットダイ20の開口24よりも後流側(ガイドロールの回転方向前側)にはガイドロール6と対向するエッジ部20Eが形成されている。このエッジ部20Eのガイドロール6の回転方向の長さδ(以下、エッジ部20Eの長さδと呼ぶ)が、例えば0.5mm以上でも本発明の実施は可能であるが、上層及び下層間の界面の波打ちをより一層低減する観点から0.01〜0.05mmであることが好ましい。ここで、エッジ部20Eの長さδとは、ガイドロール6の周面に沿った長さである。
【0031】
このような塗布装置100において、液貯留タンク1a、1bからの液を液供給ポンプ3a、3bにてスリットダイ20に供給すると、液は、マニホールド22a,22b、上層用流路23a及び下層用流路23bを介して、開口24から、下層Ld上に上層Luが積層された積層体Lとして吐出され、ガイドロール6に案内される被塗布シートS上にシート状に塗布されることとなる。
【0032】
そして、本実施形態によれば、上述の角度α、β、及び、距離γが適切なものとされているので、被塗布シートSの表面に塗布される上層Ld及び下層Lu間の界面の波打ちを抑制することができる。このような効果が得られる理由は彰kでないが、例えば、2液が合流する際に生じる乱流が抑制されることがその一因と考えられる。
したがって、上層Lu及び下層Ldの厚みやこれらの和である積層体Lの厚みを均一にしやすい。これに対して、角度α、β、及び、距離γが上述の条件を満たさない場合には、上層Ld及び下層Lu間の界面の波打ちを抑制できず、場合によっては、下層Ldが全く形成されない部分が生じたりする。特に、下層Ldに対して設定する乾燥後の平均厚みが1〜10μm程度の場合は、従来の塗布装置では下層を均一に塗布することが著しく困難であるが、本実施形態では、十分に均一な下層を形成できる。また、上層と下層との粘度が大きく異なる例えば、差が8000〜10000cp程度でも実施可能である。
【0033】
特に、電気化学デバイスの電極を形成する際に、主活物質層と集電体との間に、集電体よりも高抵抗かつ薄い層を形成して電流の遮断を行ったりする際に、下層として5μm以下程度の層を形成する必要がるが、例えば、このような場合に特に好適である。
【0034】
本発明は上記実施形態に限定されず、さまざまな変形態様が可能である。例えば、上記実施形態では1つの開口24から2層の液体の層を積層して吐出しているが、3層以上でも構わない。
【実施例】
【0035】
(上層用塗布液)
活物質として、三元系正極材料(LiNiMnCoO−リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物)89質量部及びグラファイト(商品名:KS−6、ロンザ社製)3質量部、導電助剤としてカーボンブラック(商品名:DAB、電気化学工業(株)製)3質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(商品名:KYNAR 761、ATFINA社製)5質量部を混合分散した後、溶媒としてN−メチル−ピロリドン(NMP)を適量投入して固形分が25wt%となるように粘度調節し、スラリー状の上層用塗布液を調製した。
【0036】
(下層用塗布液)
リン酸鉄リチウム(LiFePO)90質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(商品名:KYNAR 761、ATFINA社製)10質量部を混合分散した後、溶媒としてN−メチル−ピロリドン(NMP)を固形分濃度15,20,25,30wt%になるよう投入して粘度調節し、スラリー状の下層用塗布液を4種類調製した。
【0037】
(実施例1〜22、比較例1〜4)
半径60.2mmのガイドロールを用い、厚み21μm、幅150mmのAlシートの表面に、スリット幅24Wが300μmの図2の如きスリットダイを用いて、上層用塗布液(乾燥厚み80μm)及び下層用塗布液(乾燥厚み5μm)を同時塗布し、乾燥して重層電極を形成した。ここで、スリットダイにおける、α、β、γ、δ、上層用流路の幅23aW及び下層用流路の幅23bWの組合せ、及び、下層用塗布液の固形分濃度は、表1に示すようにした。また、シートの送り速度は15m/minとした。なお、実施例3では、2つの流路をペットフィルムで仕切ることにより角度αを0.5°とした。比較例1ではβを−1°としたが、これは、上層用流路23aの中心線23aaを、結ぶ線23xxよりもガイドロール6の回転方向前側に傾斜させたことを意味する。比較例4では、2つの流路を1つの開口に合流させず、独立した2つの開口から各層を吐出させた。
【0038】
(評価)
重層電極の積層方向に対して垂直かつシート送り方向に平行な断面のSEM写真を撮影し、上層と下層との界面、及び、Alシートの表面を画像処理により抽出し、界面の位置の分布を取得し、界面の位置の標準偏差を取得した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例では、界面の波うちを十分に抑制できた。一方、比較例では、下層用の液が、ロールの回転方向の後ろ側に押し出される液ダレが起こり、下層は極めて不均一であった。
【表1】

【符号の説明】
【0040】
S…被塗布シート、6…ガイドロール、6a…ガイドロールの軸、20…スリットダイ、23a…上層用流路、23b…下層用流路、23aa…上層用流路の中心線、23bb…下層用流路の中心線、23…2つの流路が合流する点、23x…23aaと23bbとの交点、23xx…交点23xとガイドロールの軸6aとを結ぶ線、24…開口、100…液塗布装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布シートを案内するガイドロールと、
前記ガイドロールの軸方向に伸びる開口を有し前記ガイドロールによりガイドされた被塗布シートの表面に液を塗布するスリットダイと、
を備え、
前記スリットダイは、前記ガイドロールの回転方向に離間し、前記開口にて合流する2つの流路を有し、
前記ガイドロールの軸に対して垂直な断面において、
前記流路の内の前記ガイドロールの回転方向前側の上層用流路の中心線と、前記流路の内の前記ガイドロールの回転方向後側の下層用流路の中心線と、がなす角αが0.5〜25°であり、
前記上層用流路の中心線及び前記下層用流路の中心線の交点と前記ガイドロールの軸とを結ぶ線と、前記上層用流路の中心線とがなす角βが、前記結ぶ線から前記上層用流路の中心線に向かって前記ガイドロールの回転方向と逆方向に測定して0〜70°であり、及び、
前記2つの流路が合流する点と前記開口との距離γが0.05〜2.8mmである、液塗布装置。
【請求項2】
前記ガイドロールの軸に対して垂直な断面において、前記上層用流路の幅:前記下層用流路の幅=3:2〜3:1である請求項1記載の液塗布装置。
【請求項3】
前記開口よりも前記回転方向前側に前記ガイドロールと対向するエッジ部を有し、前記エッジ部の前記ガイドロールの回転方向に沿う長さδが0.01〜0.05mmである請求項1又は2記載の液塗布装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の液塗布装置における、前記下層用流路に対して、固形分濃度が20〜30wt%の液を供給する、液塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−221205(P2010−221205A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74759(P2009−74759)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】