液晶ポリマーフィルム金属張積層板
【課題】液晶ポリマーフィルムと導体層との密着性を向上させた金属張積層板の提供を目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するため、液晶ポリマーフィルム基材の表面に金属層を備える液晶ポリマーフィルム金属張積層板であって、当該金属層は、表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルム基材の表面に無電解法で形成した無電解金属メッキ層であることを特徴とした液晶ポリマーフィルム金属張積層板を採用する。特に、前記液晶ポリマーフィルム基材は、無電解金属メッキ層の形成前にUV照射による表面改質処理を施したものを用いることが好ましい。
【解決手段】上記目的を達成するため、液晶ポリマーフィルム基材の表面に金属層を備える液晶ポリマーフィルム金属張積層板であって、当該金属層は、表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルム基材の表面に無電解法で形成した無電解金属メッキ層であることを特徴とした液晶ポリマーフィルム金属張積層板を採用する。特に、前記液晶ポリマーフィルム基材は、無電解金属メッキ層の形成前にUV照射による表面改質処理を施したものを用いることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材として液晶ポリマーフィルムを用いた金属張積層板の製造方法に関する。特に、液晶ポリマーフィルム基材の上に無電解メッキ法で金属層を形成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器及び電気製品は、動作性能、演算速度を飛躍的に高めるため、高周波信号を使用した製品が多くなっている。例えば、コンピュータ機器においては、3GHzを超えるレベルのクロック周波数を備えた高速演算性能が求められる。また、地上波デジタル方法の普及に伴い、そのデジタル信号の高速処理が受像器を初めとする映像機器の全般において求められている。
【0003】
このような状況の下、プリント配線板に対しても安定した高周波領域の信号を伝送出来る性能が求められ、回路形状、回路材質、更にはクロストーク特性を考慮した層間絶縁性を確保するための層間絶縁材料(=基材)の適正な選択が行われてきた。
【0004】
この層間絶縁材料には、高周波電気特性、耐熱特性、耐吸湿性能に優れた材料を使用することが好ましく、液晶ポリマーフィルムの使用が検討されてきた。液晶ポリマーフィルムを基材として、その表面に導電層を形成して、金属張積層板を得るには、次のような方法を採用するのが一般的であった。即ち、特許文献1に開示されているように、例えば、液晶ポリマーフィルムに対して、通常の金属張積層板の製造方法では、熱間プレス成形することで、銅箔等を張り合わせる方法が広く採用される。ところが、係る方法を採用した場合、一般的な銅箔を使用すると、基材である液晶ポリマーフィルムと銅箔等の金属箔とを張り合わせた界面で、良好な密着性を得ることが出来ず、プリント配線板のエッチング製造プロセスでの負荷に耐える事が出来なかった。
【0005】
そこで、特許文献1では、液晶ポリマーフィルムと張り合わせる金属箔に、その表面粗さが6μm以上の一次凹凸と、その一次凹凸に沿って形成された表面粗さが0.4〜1.4μmの二次凹凸から構成される凹凸を有するものを用いることが開示されている。即ち、液晶ポリマーに対する金属箔の張り合わせ面に一定の粗さを付与してアンカー効果を用いようとしているのである。この結果、常態の剥離強さが良好で、屈曲させても液晶ポリマーフィルムと金属箔との界面での剥離が生じにくい積層体が得られると記載している。ところが、このような表面粗さの高い銅箔を使用すると、ファインピッチ回路の形成が困難になり、近年の電子機器の軽薄短小化、高周波領域における高速信号伝送が困難になる傾向が高くなる。
【0006】
以上のような問題を解決するため、特許文献2では、液晶ポリマーフィルムに張り合わせる銅箔表面の表面粗さ(Rz)が3.0μm以下であっても良好な密着性を得ることのできる方法として、光学的異方性の溶融相を形成する液晶ポリマーフィルムと銅箔とを重ね合わせ熱圧着して液晶ポリマーフィルムと銅箔との銅張積層板を製造するに際し、銅箔を気体中で150〜300℃の温度に加熱処理したのち、液晶ポリマーフィルムと熱圧着させることを特徴とする銅張積層板の製造方法を開示している。この特許文献2では、銅箔をあらかじめ加熱することが特徴であり、この加熱により銅箔表面金属の分布を安定させ、圧着の際に液晶ポリマーの吸着性が増し接着力が向上すると推定している。
【0007】
【特許文献1】特開平5−345387号公報
【特許文献2】特開2006−130761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示の銅張積層板の製造方法のように、銅箔を気体中で150〜300℃の温度に加熱処理し、銅箔表面に存在する金属の分布を安定させようとしても、使用する銅箔の表面に当初から存在する金属分布に大きな偏在があると、加熱により拡散させ均一化を図っても、自ずと限界が生じる。特に、広い面積の銅張積層板を得ようとしたときには、銅箔表面に存在する金属分布の不均一さを解消することは困難になる。その結果、基材である液晶ポリマーフィルムと銅箔との界面の密着性に関して、同一面内でのバラツキが大きくなる傾向が見られる。
【0009】
以上のような問題点が液晶ポリマーフィルムを基材に用いた金属張積層板に存在することから、液晶ポリマーフィルムと導体層との密着性を向上させた金属張積層板の提供が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、上記特許文献1及び特許文献2に開示の技術のように金属箔側に工夫を凝らすのではなく、新たな製造方法を採用して、従来に無い液晶ポリマーフィルム金属張積層板に想到した。以下、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板について述べる。
【0011】
本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、液晶ポリマーフィルム基材の表面に金属層を備える液晶ポリマーフィルム金属張積層板であって、当該金属層は、表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルム基材の表面に無電解法で形成した無電解金属メッキ層であることを特徴としたものである。
【0012】
そして、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の金属層を形成する前記無電解金属メッキ層は、厚さが0.01μm〜50μmであることが好ましい。
【0013】
更に、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の前記液晶ポリマーフィルム基材は、無電解金属メッキ層の形成前にUV照射による表面改質処理を施したものを用いることが好ましい。
【0014】
また、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、上記無電解金属メッキ層の表面に第2金属層を設け複数の金属層として2層以上の金属層が積層状態で存在することを特徴とする液晶ポリマーフィルム金属張積層板とする事も好ましい。
【0015】
そして、この前記第2金属層は、電解メッキ法、無電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせて形成したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の金属層を表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルムの表面に無電解法で形成したものであるため、当該無電解金属メッキ層と液晶ポリマーフィルムとの界面が平滑で滑らかであり、且つ、金属層の引き剥がし強さとして0.6kN/m以上の良好な密着性を発揮し、ファインピッチ回路の形成が容易である。しかも、無電解金属メッキのみを用いる限りは、製造コストが安価という点で優れる。
【0017】
また、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、上記無電解金属メッキ層の表面に第2金属層を設け複数の金属層として2層以上の金属層が積層状態で存在することにより、金属層の厚さが用途に応じて任意に調整可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の形態に関して、その製造方法を含めて説明する。
【0019】
本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、液晶ポリマーフィルム基材の表面に金属層を備える液晶ポリマーフィルム金属張積層板である。そして、表面粗さ(10点平均粗さ:Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルム基材の表面に、無電解法で形成した無電解金属メッキ層を備えることを特徴とする。
【0020】
最初に、液晶ポリマーフィルム基材に関して説明する。「液晶ポリマー」と言う用語は、液晶構造を示す高分子の総称として用いられる。液晶ポリマーは、高分子液晶が、低分子液晶と同じくある温度範囲でサーモトロピック型液晶又は溶液状態でリオトロピック型液晶を示すものに分類できる。しかし、リオトロピック型液晶は、ケブラーに代表される全芳香族ポリアミドが該当するが、成型材料として液晶構造を示すものでは無いため、ここで言う液晶ポリマーには含めない。そして、液晶ポリマーは、液晶構造を構成するメソゲン基が、主鎖にのみ入った主鎖型液晶ポリマー、側鎖にのみ入った側鎖型液晶ポリマー、又は主鎖及び側鎖の双方に入った複合型液晶ポリマーに分類できる。より具体的に言えば、サーモトロピック液晶ポリマーとしては、ザイダーやベクトラ等の全芳香族ポリエステル(液晶ポリエステルとも呼称される。)がある。この液晶ポリエステルに属する化合物の構造式を、以下の化1、化2、化3に示す。化1に示す液晶ポリマーは、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体であり、UL94HBを満足する良好な難燃性を示し、最も早く製造された液晶ポリマーである。化2に示す液晶ポリマーは、フェノールおよびフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体であり、良好な耐熱性を示し、荷重ひずみ温度が280℃を超える。化3に示す液晶ポリマーは、2,6−ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体である。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
【0024】
即ち、本件出願では、サーモトロピック液晶ポリマーを用いてフィルムに成形したものを液晶ポリマーフィルム基材と称している。この液晶ポリマーフィルム基材の特徴は、液晶ポリマーとしての剛直鎖の配向に起因し、耐熱性、強度、低熱膨張性に優れるためプリント配線板の絶縁層構成材料として好適である。そして、ここで言う液晶ポリマーフィルム基材の厚さに関しては、特段の限定はなく、任意の厚さの使用が可能である。
【0025】
更に、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の前記液晶ポリマーフィルム基材は、無電解金属メッキ層の形成前にUV照射による表面改質処理(以下、単に「UV改質処理」と称する。)を施したものを用いることが好ましい。UV照射による表面改質処理を施すことで無電解金属メッキ層と液晶ポリマーフィルム基材との密着性が飛躍的に高まるからである。ここで、液晶ポリマーフィルム基材の表面をUV改質処理すると、当該液晶ポリマーフィルム基材の表面に改質処理層が形成される。この改質処理層は、20nm〜200nmの厚さが好ましく、より好ましくは30nm〜180nmの厚さである。この改質処理層の深さが20nm未満の場合には、液晶ポリマーフィルム基材と無電解金属メッキ層との密着性が不安定になる。一方、この改質処理層の深さが200nmを超えると、改質処理層が深くなりすぎて、後述するように改質処理層内に入り込んだ析出金属をエッチングで除去する事が困難になり、プリント配線板材料としての表面絶縁抵抗が悪くなる。
【0026】
ここで、液晶ポリマーフィルム基材に対し、UV光を照射したときの挙動に関して簡単に述べる。UV光の照射時間を長くするほど、液晶ポリマーフィルム基材の表面形状の粗さが、nmオーダーで増大していく。改質処理層を形成しても液晶ポリマーフィルム基材の表面は、JIS B 0601−1994に基づいて、10点平均粗さとしての表面粗さ(Rzjis)を測定しても、1.0μm以下の値となる。このように液晶ポリマーフィルム基材と金属層との界面が平滑であれば、ファインピッチ回路をエッチング法で形成する際には、極めて有利となる。しかし、液晶ポリマーフィルム基材の表面粗さの変化と当該金属層との密着性との間には明確な相関が無いとの研究結果が得られた。従って、改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材と無電解金属メッキ層との密着性は、化学的要素が大きく寄与すると考えられる。
【0027】
そこで、鋭意研究した結果、以下のような見解が得られた。液晶ポリマーフィルム基材に対し、UV光を照射すると、雰囲気中の酸素がオゾン化して、オゾンの作用により液晶ポリマーフィルム基材の表面層の化学結合が切断され、生成した活性酸素原子が切断された表面層の分子と結合し、OH基、COH基、COOH基等の酸素に富んだ官能基が生成される。その結果、無電解金属メッキを実施する前の触媒化処理(キャタライズ)を行うキャタライザーの成分が、改質処理層内に入り込み、前記官能基と反応して改質処理層内で定着する。そして、その後無電解金属メッキを行うと、析出金属が改質処理層内で析出を開始して、液晶ポリマーフィルム基材表面にバルク金属層を析出形成すると考えられる。即ち、このときの無電解金属メッキ層は、当該改質処理層内にアンカー効果を示す微細な析出金属が根を張ったような状態になっていると言える。この結果、液晶ポリマーフィルム基材と無電解金属メッキ層とが、極めて良好な密着性を示すと考えられる。
【0028】
このときのUV照射の条件に関して述べる。照射雰囲気は、UV照射によりオゾン発生可能な酸素含有雰囲気(大気雰囲気を含む)を採用することが好ましい。照射するUV光の主波長は、240nm〜300nmの範囲、より好ましくは250nm〜260nmの範囲が好ましい。照射するUV光の主波長が240nm未満の場合には、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層が適正な厚さでなくなる。一方、照射するUV光の主波長が300nmを超える場合には、改質処理の照射時間を長くしても、良好な改質処理を行うことが出来ず、無電解金属メッキ層との良好な密着性を得ることが出来ない。
【0029】
そして、UV光の副波長も重要であり、この副波長が適正な範囲になければ、UV照射により雰囲気中の酸素のオゾンが起こりにくく、改質処理自体が実施しにくくなる。本件発明では、150nm〜200nmの波長の副波長を採用する事が好ましい。この副波長が150nm未満の場合には、一旦発生したオゾンの分解が起こりやすく、発生オゾンの安定性が損なわれるため、改質処理に寄与するオゾン量が減るために好ましくない。一方、副波長が、200nmを超えると、オゾン自体の発生量が少なくなり、液晶ポリマーフィルム基材表面の改質処理自体が行いづらくなる。
【0030】
そして、照射時間は、照射するUV光の主波長によっても異なるが、8分〜40分、より好ましくは10分〜30分の時間を採用して、20nm〜200nmの厚さの改質処理層を得ることが好ましい。なお、厳密に言えば、照射時間は、無電解メッキに用いる浴組成との相性が存在する。従って、現実の操業に当たっては、無電解メッキ液の種類に応じて、照射時間の最適化を図って、照射時間を定めるべきである。従って、以下の照射時間の限定理由も、通常考え得る無電解メッキ液を想定してのものである。この照射時間が8分未満の場合には、上記の主波長及び副波長で、適正な改質処理層を液晶ポリマーフィルム基材の表面に形成することができない。一方、照射時間が20分を超えるものにすると、改質処理層が劣化して金属層との良好な密着性が確保できなくなると共に、その厚さが200nmを超えるようになり、上述した理由により好ましくない。
【0031】
また、以上に述べたUV照射の条件を採用したとき、液晶ポリマーフィルム基材の表面での照射強度(UV強度)としては、1.0mW/cm2〜500.0mW/cm2の範囲、より好ましくは9.0mW/cm2〜400.0mW/cm2の範囲にあることが好ましい。この範囲を外れると、液晶ポリマーフィルム基材の表面改質処理が良好に行えない。更に、UV光源と被照射物である液晶ポリマーフィルム基材との間の照射距離は5mm〜500mmの範囲を採用することが好ましい。照射距離が5mm未満の場合には、広い面積での均一な照射性が損なわれ、工業的生産を考えた上での設備的観点からの困難性が高まる。一方、照射距離が500mmを超えると、UV光源への要求出力が大きくなり、経済性が損なわれるため、好ましくない。なお、ここでの照射強度は、浜松フォトニクス株式会社製のC6080−02を用いて測定した値で表示している。
【0032】
本件発明で用いるUV照射による表面改質処理を施した液晶ポリマーフィルム基材は、以上のようにして得られる。
【0033】
次に、無電解金属メッキ層に関して述べる。本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の金属層は、無電解法で形成される。従来、液晶ポリマーフィルムの表面に、無電解法で良好な密着性を確保した状態で金属層を形成することは困難と言われてきた。しかし、本件出願では、後述する製造方法を採用することで、市場に供給できなかった無電解法で無電解金属メッキ層を形成した液晶ポリマーフィルム基材を用いた金属張積層板の提供を可能にした。このときの無電解金属メッキ層は、厚さが0.01μm〜50μmであることが好ましい。無電解金属メッキ層の厚さが0.01μm未満の場合には、均一な無電解金属メッキ被膜を形成することが困難となり、事後的に電解金属メッキによるメッキアップで、均一な電解金属被膜の形成が困難となる。一方、無電解金属メッキ層の厚さを50μmを超えるものとしても、特段の不具合は生じないが、無電解金属メッキ被膜の成長速度が鈍化し工業的生産性が低下し、且つ、被膜表面が粗くなるため好ましくない。そして、この無電解金属メッキ層は、無電解メッキプロセスで形成可能なものの全てを含む概念で記載している。例えば、無電解銅メッキ、無電解ニッケルメッキ、無電解スズメッキ等である。
【0034】
また、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、上記無電解金属メッキ層を形成した後に、当該無電解金属メッキ層を第1金属層として、その表面に第2金属層を設けて、2層以上の複数の金属層を積層状態にして用いることも好ましい。このときの第2金属層の材質及び厚さは、用途に応じて任意に設定することが可能である。
【0035】
例えば、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板をプリント配線板製造に用いる際に、全て銅で構成した金属層を得る場合には、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層に無電解銅メッキを施し、その後、電解メッキ法、無電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせて銅層のメッキアップを行い、導体金属層を形成する。また、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層に無電解銅メッキを施し、その後、電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせてニッケル層のメッキアップを行い、高抵抗の導体金属層を形成する。更に、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層に無電解ニッケルメッキを施し、その後、電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせて銅層のメッキアップを行い、導体金属層を形成する。等種々の方法を採用することが可能である。
【0036】
なお、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の断面を、収束イオンビーム(FIB)加工観察法を採用し、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで、第1金属層である無電解金属メッキ層と第2金属層との分別を明瞭にして確認することが可能である。
【実施例1】
【0037】
以下、実施例1に関して述べるが、この実施例1に関する工程のフローが一目で理解できるように図1に工程のフロー図を示す。なお、水洗、乾燥等の常識的作業に関しては、図1の中にのみ示す。
【0038】
改質処理工程: 最初に液晶ポリマーフィルム基材を改質処理した。ここでは、株式会社クラレ製の厚さ25μmの液晶ポリマー(Vecster OC25)を、20mm×50mmに切り出して、これを試料用液晶ポリマーフィルム基材として用いた。そして、主波長253.7nm(副波長 184.9nm)を発光するUV照射装置として、高出力低圧水銀ランプPHOTO SURFACE PROCESSOR(セン特殊光源株式会社製/型式UVE−200)を、大気雰囲気中で用いて、ランプから基板までの照射距離を75mm(照射強度18mW/cm2)として、照射時間を8分〜20分で変化させて4種の改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材を得た。この工程が、図1のステップ1に相当する。なお、図3に改質処理前の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図4には、改質処理後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0039】
無電解メッキ工程: 次に、改質処理工程で得た改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層表面に無電解銅メッキを施した。このとき、図1に示すような前処理(アルカリ脱脂、コンディショニング、プレディップ、キャタライズ、アクセレレーター)を行った後、無電解銅メッキにより約0.1μmの無電解銅メッキ層を形成した。この工程が、図1のステップ2に相当する。このときの無電解銅メッキ液には、グリオキシル酸を還元剤とする浴を用いた。この浴組成を表1に詳細に示す。なお、図5にアルカリ脱脂後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図6には、コンディショニング後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図7にキャタライズ後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図8には、アクセレレーター後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
電気銅メッキ工程: 所謂メッキアップ工程である。その後、無電解銅メッキ層の表面に、電気銅メッキにより、導体金属層として約20μmの厚さとなるように銅を析出させ、液晶ポリマーフィルム金属張積層板を得た。この工程が図1のステップ3に相当する。このときの電気銅メッキの浴組成及び条件を、以下の表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
密着性評価試験: 以上のようにして得られた液晶ポリマーフィルム金属張積層板の液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層との密着性を評価するため、導体金属層を10mm幅の試験用直線回路として、JIS H 8504に準拠して、垂直引き剥がし試験機で引き剥がし強さを測定した。その結果を、比較例1と対比可能なように表4に纏めて示す。なお、図9には、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の銅層をエッチング除去して観察できる液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図10には、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの液晶ポリマーフィルム基材側の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図11には、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの導体金属層側の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【実施例2】
【0044】
以下、実施例2に関して述べるが、この実施例2に関する工程のフローが一目で理解できるように図2に工程のフロー図を示す。なお、水洗、乾燥等の常識的作業に関しては、図2の中にのみ示す。
【0045】
改質処理工程: 実施例1と同様の液晶ポリマーフィルム基材を用い改質処理した。そして、実施例1と同様のUV照射装置を採用し、基本的照射条件は同一とし、ランプから基板までの照射距離を35mm(照射強度18mW/cm2)として、照射時間を8分〜20分で変化させて4種の改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材を得た。この工程が、図2のステップ1に相当する。
【0046】
無電解メッキ工程: 次に、改質処理工程で得た改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層表面に無電解銅メッキを施した。このとき、図2に示すような前処理(アルカリ脱脂、コンディショニング、プレディップ、キャタライズ、アクセレレーター、前処理1、前処理2)を行った後、無電解銅メッキにより約0.1μmの無電解銅メッキ層を形成した。この工程が、図2のステップ2に相当する。このときの無電解銅メッキ液には、次亜りん酸ナトリウムを還元剤とする浴を用いた。この次亜リン酸塩を還元剤とする無電解銅メッキは、次亜リン酸の酸化反応に対する銅の触媒活性が殆どない。従って、当該メッキ浴中に、ニッケルイオンを含ませることにより、析出銅層中にはニッケルを共析させるようにして、自己触媒的な析出反応を得た。この浴組成を表3に詳細に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
電気銅メッキ工程: 実施例1と同様にして、無電解銅メッキ層の表面に、電気銅メッキして、導体金属層として約20μmの厚さとなるように銅を析出させ、液晶ポリマーフィルム金属張積層板を得た。この工程が図2のステップ3に相当する。このときの電気銅メッキの浴組成及び条件は、上記表2の実施例1と同様である。
【0049】
密着性評価試験: 実施例1と同様の密着性評価試験を行った。その結果を、比較例2と対比可能なように表5に纏めて示す。
【比較例】
【0050】
[比較例1]
この比較例では、実施例1と同様の方法を採用して液晶ポリマーフィルム金属張積層板を得たが、改質処理工程における照射時間を0分、5分、30分の3種類で行った。そして、実施例1と同様の密着性評価試験を行った。その結果を、実施例1と対比可能なように表4に纏めて示す。
【0051】
【表4】
【0052】
[比較例2]
この比較例では、実施例2と同様の方法を採用して液晶ポリマーフィルム金属張積層板を得たが、改質処理工程における照射時間を0分、5分、40分の3種類で行った。そして、実施例1と同様の密着性評価試験を行った。その結果を、実施例2と対比可能なように表5に纏めて示す。
【0053】
【表5】
【0054】
<実施例1と比較例1との対比>
表4を参照しつつ、実施例1と比較例1との対比を行う。実施例1の場合、改質処理を行うためのUV光の照射時間を8分〜20分を採用しているが、いずれの照射時間でも、引き剥がし強さが0.7kN/mを超えている。従って、プリント配線板製造用途として好適な液晶ポリマーフィルム金属張積層板となっていることが分かる。これに対し、0分、5分、30分の3種類の照射時間を採用した比較例1では、実施例1と比べて、明らかに引き剥がし強さの値が顕著に低下している。また、UV光を全く照射しない場合(照射時間0分)においては、無電解銅メッキ層の形成が全く出来ない。よって、明らかに実施例1の方が、比較例1に比べて、良好な液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層との密着性が得られていると言える。また、グリオキシル酸を還元剤とする無電解銅メッキ浴を用いる場合の適正な照射時間が、8分〜20分の間に存在することが理解できる。
【0055】
また、図3〜図11の走査型電子顕微鏡写真に関して述べる。図3のUV光を照射する前の液晶ポリマーフィルム基材の表面は、極めて滑らかな状態を呈している。この表面状態が、UV光を照射して改質処理を施すと、図4から分かるように、液晶ポリマーフィルム基材の表面に一定の粗さが見られるようになる。その後、図5〜図8から分かるように、アルカリ脱脂、コンディショニング、キャタライズ、アクセレレーターの各前処理を行っても顕著に変化することはない。従って、液晶ポリマーフィルム基材表面の粗さは、基本的に、UV光の照射による改質処理によって導入されるものと考えられる。そして、図9の液晶ポリマーフィルム金属張積層板の銅層をエッチング除去した液晶ポリマーフィルム基材の表面は、図8に示すアクセレレーター後の表面と大きな差異は生じない。即ち、無電解メッキ処理自体が、液晶ポリマーフィルム基材の改質表面を更に粗らすことは無いと考えられる。そして、図10の、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの液晶ポリマーフィルム基材側の表面をみると、液晶ポリマーフィルム基材の改質表面の形状が変化し、当該表面の樹脂が引きちぎられたように見える。そこで、図11の液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの導体金属層側の表面をみると、やはり導体金属層側にも、液晶ポリマーフィルム基材の樹脂が確認できる。即ち、液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層とは、極めて良好な密着性を示しており、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層内での破壊剥離のモードになっていることがわかる。よって、引き剥がし強さが良好な実施例1の場合、液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層と界面での剥離ではなく、改質処理層の樹脂破壊の強度を測定したものと言える。これらの傾向は、実施例2の場合も同様である。
【0056】
<実施例2と比較例2との対比>
表5を参照しつつ、実施例2と比較例2との対比を行う。実施例2の場合、改質処理を行うためのUV光の照射時間を10分〜40分を採用しているが、いずれの照射時間でも、引き剥がし強さが0.7kN/mを超えている。従って、プリント配線板製造用途として十分に使用可能な液晶ポリマーフィルム金属張積層板となる。これに対し、0分、5分、40分の3種類の照射時間を採用した比較例2では、実施例2と比べて、明らかに引き剥がし強さの値が顕著に低下している。また、UV光を全く照射しない場合(照射時間0分)においては、無電解銅メッキ層の形成が全く出来ない。よって、明らかに実施例2の方が、比較例2に比べて、良好な液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層との密着性が得られていると言える。また、次亜りん酸ナトリウムを還元剤とする無電解銅メッキ浴を用いる場合の適正な照射時間が、8分〜20分の間に存在することが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の金属層を表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルムの表面に無電解法で形成したものである。従って、プリント配線板製造用途に用いるとファインピッチ回路の形成が容易で、且つ、耐熱特性、高周波特性等に優れた液晶ポリマーフィルムの特徴を最大限に発揮できる。しかも、金属層を無電解メッキ法で形成しているにも拘わらず、当該無電解金属メッキ層と液晶ポリマーフィルムとの引き剥がし強さとして0.7kN/m以上の良好な密着性を発揮する。更に、無電解金属メッキを用いるため、製造コストが安価という点で優れる。また、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、上記無電解金属メッキ層の表面に第2金属層を設け複数の金属層として2層以上の金属層が積層状態とすることで、利用範囲をプリント配線板に限らず広範囲とすることができる。なお、本件明細書で、単に「プリント配線板」と称した場合には、フレキシブルプリント配線板及びリジッドフレキシブルプリント配線板の双方の概念を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1に関する工程のフロー図である。
【図2】実施例2に関する工程のフロー図である。
【図3】改質処理前の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図4】改質処理後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図5】アルカリ脱脂後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図6】コンディショニング後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図7】キャタライズ後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図8】アクセレレーター後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図9】液晶ポリマーフィルム金属張積層板の銅層をエッチング除去して観察できる液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図10】液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの液晶ポリマーフィルム基材側の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図11】液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの導体金属層側の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材として液晶ポリマーフィルムを用いた金属張積層板の製造方法に関する。特に、液晶ポリマーフィルム基材の上に無電解メッキ法で金属層を形成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器及び電気製品は、動作性能、演算速度を飛躍的に高めるため、高周波信号を使用した製品が多くなっている。例えば、コンピュータ機器においては、3GHzを超えるレベルのクロック周波数を備えた高速演算性能が求められる。また、地上波デジタル方法の普及に伴い、そのデジタル信号の高速処理が受像器を初めとする映像機器の全般において求められている。
【0003】
このような状況の下、プリント配線板に対しても安定した高周波領域の信号を伝送出来る性能が求められ、回路形状、回路材質、更にはクロストーク特性を考慮した層間絶縁性を確保するための層間絶縁材料(=基材)の適正な選択が行われてきた。
【0004】
この層間絶縁材料には、高周波電気特性、耐熱特性、耐吸湿性能に優れた材料を使用することが好ましく、液晶ポリマーフィルムの使用が検討されてきた。液晶ポリマーフィルムを基材として、その表面に導電層を形成して、金属張積層板を得るには、次のような方法を採用するのが一般的であった。即ち、特許文献1に開示されているように、例えば、液晶ポリマーフィルムに対して、通常の金属張積層板の製造方法では、熱間プレス成形することで、銅箔等を張り合わせる方法が広く採用される。ところが、係る方法を採用した場合、一般的な銅箔を使用すると、基材である液晶ポリマーフィルムと銅箔等の金属箔とを張り合わせた界面で、良好な密着性を得ることが出来ず、プリント配線板のエッチング製造プロセスでの負荷に耐える事が出来なかった。
【0005】
そこで、特許文献1では、液晶ポリマーフィルムと張り合わせる金属箔に、その表面粗さが6μm以上の一次凹凸と、その一次凹凸に沿って形成された表面粗さが0.4〜1.4μmの二次凹凸から構成される凹凸を有するものを用いることが開示されている。即ち、液晶ポリマーに対する金属箔の張り合わせ面に一定の粗さを付与してアンカー効果を用いようとしているのである。この結果、常態の剥離強さが良好で、屈曲させても液晶ポリマーフィルムと金属箔との界面での剥離が生じにくい積層体が得られると記載している。ところが、このような表面粗さの高い銅箔を使用すると、ファインピッチ回路の形成が困難になり、近年の電子機器の軽薄短小化、高周波領域における高速信号伝送が困難になる傾向が高くなる。
【0006】
以上のような問題を解決するため、特許文献2では、液晶ポリマーフィルムに張り合わせる銅箔表面の表面粗さ(Rz)が3.0μm以下であっても良好な密着性を得ることのできる方法として、光学的異方性の溶融相を形成する液晶ポリマーフィルムと銅箔とを重ね合わせ熱圧着して液晶ポリマーフィルムと銅箔との銅張積層板を製造するに際し、銅箔を気体中で150〜300℃の温度に加熱処理したのち、液晶ポリマーフィルムと熱圧着させることを特徴とする銅張積層板の製造方法を開示している。この特許文献2では、銅箔をあらかじめ加熱することが特徴であり、この加熱により銅箔表面金属の分布を安定させ、圧着の際に液晶ポリマーの吸着性が増し接着力が向上すると推定している。
【0007】
【特許文献1】特開平5−345387号公報
【特許文献2】特開2006−130761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示の銅張積層板の製造方法のように、銅箔を気体中で150〜300℃の温度に加熱処理し、銅箔表面に存在する金属の分布を安定させようとしても、使用する銅箔の表面に当初から存在する金属分布に大きな偏在があると、加熱により拡散させ均一化を図っても、自ずと限界が生じる。特に、広い面積の銅張積層板を得ようとしたときには、銅箔表面に存在する金属分布の不均一さを解消することは困難になる。その結果、基材である液晶ポリマーフィルムと銅箔との界面の密着性に関して、同一面内でのバラツキが大きくなる傾向が見られる。
【0009】
以上のような問題点が液晶ポリマーフィルムを基材に用いた金属張積層板に存在することから、液晶ポリマーフィルムと導体層との密着性を向上させた金属張積層板の提供が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、上記特許文献1及び特許文献2に開示の技術のように金属箔側に工夫を凝らすのではなく、新たな製造方法を採用して、従来に無い液晶ポリマーフィルム金属張積層板に想到した。以下、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板について述べる。
【0011】
本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、液晶ポリマーフィルム基材の表面に金属層を備える液晶ポリマーフィルム金属張積層板であって、当該金属層は、表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルム基材の表面に無電解法で形成した無電解金属メッキ層であることを特徴としたものである。
【0012】
そして、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の金属層を形成する前記無電解金属メッキ層は、厚さが0.01μm〜50μmであることが好ましい。
【0013】
更に、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の前記液晶ポリマーフィルム基材は、無電解金属メッキ層の形成前にUV照射による表面改質処理を施したものを用いることが好ましい。
【0014】
また、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、上記無電解金属メッキ層の表面に第2金属層を設け複数の金属層として2層以上の金属層が積層状態で存在することを特徴とする液晶ポリマーフィルム金属張積層板とする事も好ましい。
【0015】
そして、この前記第2金属層は、電解メッキ法、無電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせて形成したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の金属層を表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルムの表面に無電解法で形成したものであるため、当該無電解金属メッキ層と液晶ポリマーフィルムとの界面が平滑で滑らかであり、且つ、金属層の引き剥がし強さとして0.6kN/m以上の良好な密着性を発揮し、ファインピッチ回路の形成が容易である。しかも、無電解金属メッキのみを用いる限りは、製造コストが安価という点で優れる。
【0017】
また、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、上記無電解金属メッキ層の表面に第2金属層を設け複数の金属層として2層以上の金属層が積層状態で存在することにより、金属層の厚さが用途に応じて任意に調整可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の形態に関して、その製造方法を含めて説明する。
【0019】
本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、液晶ポリマーフィルム基材の表面に金属層を備える液晶ポリマーフィルム金属張積層板である。そして、表面粗さ(10点平均粗さ:Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルム基材の表面に、無電解法で形成した無電解金属メッキ層を備えることを特徴とする。
【0020】
最初に、液晶ポリマーフィルム基材に関して説明する。「液晶ポリマー」と言う用語は、液晶構造を示す高分子の総称として用いられる。液晶ポリマーは、高分子液晶が、低分子液晶と同じくある温度範囲でサーモトロピック型液晶又は溶液状態でリオトロピック型液晶を示すものに分類できる。しかし、リオトロピック型液晶は、ケブラーに代表される全芳香族ポリアミドが該当するが、成型材料として液晶構造を示すものでは無いため、ここで言う液晶ポリマーには含めない。そして、液晶ポリマーは、液晶構造を構成するメソゲン基が、主鎖にのみ入った主鎖型液晶ポリマー、側鎖にのみ入った側鎖型液晶ポリマー、又は主鎖及び側鎖の双方に入った複合型液晶ポリマーに分類できる。より具体的に言えば、サーモトロピック液晶ポリマーとしては、ザイダーやベクトラ等の全芳香族ポリエステル(液晶ポリエステルとも呼称される。)がある。この液晶ポリエステルに属する化合物の構造式を、以下の化1、化2、化3に示す。化1に示す液晶ポリマーは、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体であり、UL94HBを満足する良好な難燃性を示し、最も早く製造された液晶ポリマーである。化2に示す液晶ポリマーは、フェノールおよびフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体であり、良好な耐熱性を示し、荷重ひずみ温度が280℃を超える。化3に示す液晶ポリマーは、2,6−ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体である。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
【0024】
即ち、本件出願では、サーモトロピック液晶ポリマーを用いてフィルムに成形したものを液晶ポリマーフィルム基材と称している。この液晶ポリマーフィルム基材の特徴は、液晶ポリマーとしての剛直鎖の配向に起因し、耐熱性、強度、低熱膨張性に優れるためプリント配線板の絶縁層構成材料として好適である。そして、ここで言う液晶ポリマーフィルム基材の厚さに関しては、特段の限定はなく、任意の厚さの使用が可能である。
【0025】
更に、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の前記液晶ポリマーフィルム基材は、無電解金属メッキ層の形成前にUV照射による表面改質処理(以下、単に「UV改質処理」と称する。)を施したものを用いることが好ましい。UV照射による表面改質処理を施すことで無電解金属メッキ層と液晶ポリマーフィルム基材との密着性が飛躍的に高まるからである。ここで、液晶ポリマーフィルム基材の表面をUV改質処理すると、当該液晶ポリマーフィルム基材の表面に改質処理層が形成される。この改質処理層は、20nm〜200nmの厚さが好ましく、より好ましくは30nm〜180nmの厚さである。この改質処理層の深さが20nm未満の場合には、液晶ポリマーフィルム基材と無電解金属メッキ層との密着性が不安定になる。一方、この改質処理層の深さが200nmを超えると、改質処理層が深くなりすぎて、後述するように改質処理層内に入り込んだ析出金属をエッチングで除去する事が困難になり、プリント配線板材料としての表面絶縁抵抗が悪くなる。
【0026】
ここで、液晶ポリマーフィルム基材に対し、UV光を照射したときの挙動に関して簡単に述べる。UV光の照射時間を長くするほど、液晶ポリマーフィルム基材の表面形状の粗さが、nmオーダーで増大していく。改質処理層を形成しても液晶ポリマーフィルム基材の表面は、JIS B 0601−1994に基づいて、10点平均粗さとしての表面粗さ(Rzjis)を測定しても、1.0μm以下の値となる。このように液晶ポリマーフィルム基材と金属層との界面が平滑であれば、ファインピッチ回路をエッチング法で形成する際には、極めて有利となる。しかし、液晶ポリマーフィルム基材の表面粗さの変化と当該金属層との密着性との間には明確な相関が無いとの研究結果が得られた。従って、改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材と無電解金属メッキ層との密着性は、化学的要素が大きく寄与すると考えられる。
【0027】
そこで、鋭意研究した結果、以下のような見解が得られた。液晶ポリマーフィルム基材に対し、UV光を照射すると、雰囲気中の酸素がオゾン化して、オゾンの作用により液晶ポリマーフィルム基材の表面層の化学結合が切断され、生成した活性酸素原子が切断された表面層の分子と結合し、OH基、COH基、COOH基等の酸素に富んだ官能基が生成される。その結果、無電解金属メッキを実施する前の触媒化処理(キャタライズ)を行うキャタライザーの成分が、改質処理層内に入り込み、前記官能基と反応して改質処理層内で定着する。そして、その後無電解金属メッキを行うと、析出金属が改質処理層内で析出を開始して、液晶ポリマーフィルム基材表面にバルク金属層を析出形成すると考えられる。即ち、このときの無電解金属メッキ層は、当該改質処理層内にアンカー効果を示す微細な析出金属が根を張ったような状態になっていると言える。この結果、液晶ポリマーフィルム基材と無電解金属メッキ層とが、極めて良好な密着性を示すと考えられる。
【0028】
このときのUV照射の条件に関して述べる。照射雰囲気は、UV照射によりオゾン発生可能な酸素含有雰囲気(大気雰囲気を含む)を採用することが好ましい。照射するUV光の主波長は、240nm〜300nmの範囲、より好ましくは250nm〜260nmの範囲が好ましい。照射するUV光の主波長が240nm未満の場合には、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層が適正な厚さでなくなる。一方、照射するUV光の主波長が300nmを超える場合には、改質処理の照射時間を長くしても、良好な改質処理を行うことが出来ず、無電解金属メッキ層との良好な密着性を得ることが出来ない。
【0029】
そして、UV光の副波長も重要であり、この副波長が適正な範囲になければ、UV照射により雰囲気中の酸素のオゾンが起こりにくく、改質処理自体が実施しにくくなる。本件発明では、150nm〜200nmの波長の副波長を採用する事が好ましい。この副波長が150nm未満の場合には、一旦発生したオゾンの分解が起こりやすく、発生オゾンの安定性が損なわれるため、改質処理に寄与するオゾン量が減るために好ましくない。一方、副波長が、200nmを超えると、オゾン自体の発生量が少なくなり、液晶ポリマーフィルム基材表面の改質処理自体が行いづらくなる。
【0030】
そして、照射時間は、照射するUV光の主波長によっても異なるが、8分〜40分、より好ましくは10分〜30分の時間を採用して、20nm〜200nmの厚さの改質処理層を得ることが好ましい。なお、厳密に言えば、照射時間は、無電解メッキに用いる浴組成との相性が存在する。従って、現実の操業に当たっては、無電解メッキ液の種類に応じて、照射時間の最適化を図って、照射時間を定めるべきである。従って、以下の照射時間の限定理由も、通常考え得る無電解メッキ液を想定してのものである。この照射時間が8分未満の場合には、上記の主波長及び副波長で、適正な改質処理層を液晶ポリマーフィルム基材の表面に形成することができない。一方、照射時間が20分を超えるものにすると、改質処理層が劣化して金属層との良好な密着性が確保できなくなると共に、その厚さが200nmを超えるようになり、上述した理由により好ましくない。
【0031】
また、以上に述べたUV照射の条件を採用したとき、液晶ポリマーフィルム基材の表面での照射強度(UV強度)としては、1.0mW/cm2〜500.0mW/cm2の範囲、より好ましくは9.0mW/cm2〜400.0mW/cm2の範囲にあることが好ましい。この範囲を外れると、液晶ポリマーフィルム基材の表面改質処理が良好に行えない。更に、UV光源と被照射物である液晶ポリマーフィルム基材との間の照射距離は5mm〜500mmの範囲を採用することが好ましい。照射距離が5mm未満の場合には、広い面積での均一な照射性が損なわれ、工業的生産を考えた上での設備的観点からの困難性が高まる。一方、照射距離が500mmを超えると、UV光源への要求出力が大きくなり、経済性が損なわれるため、好ましくない。なお、ここでの照射強度は、浜松フォトニクス株式会社製のC6080−02を用いて測定した値で表示している。
【0032】
本件発明で用いるUV照射による表面改質処理を施した液晶ポリマーフィルム基材は、以上のようにして得られる。
【0033】
次に、無電解金属メッキ層に関して述べる。本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板の金属層は、無電解法で形成される。従来、液晶ポリマーフィルムの表面に、無電解法で良好な密着性を確保した状態で金属層を形成することは困難と言われてきた。しかし、本件出願では、後述する製造方法を採用することで、市場に供給できなかった無電解法で無電解金属メッキ層を形成した液晶ポリマーフィルム基材を用いた金属張積層板の提供を可能にした。このときの無電解金属メッキ層は、厚さが0.01μm〜50μmであることが好ましい。無電解金属メッキ層の厚さが0.01μm未満の場合には、均一な無電解金属メッキ被膜を形成することが困難となり、事後的に電解金属メッキによるメッキアップで、均一な電解金属被膜の形成が困難となる。一方、無電解金属メッキ層の厚さを50μmを超えるものとしても、特段の不具合は生じないが、無電解金属メッキ被膜の成長速度が鈍化し工業的生産性が低下し、且つ、被膜表面が粗くなるため好ましくない。そして、この無電解金属メッキ層は、無電解メッキプロセスで形成可能なものの全てを含む概念で記載している。例えば、無電解銅メッキ、無電解ニッケルメッキ、無電解スズメッキ等である。
【0034】
また、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、上記無電解金属メッキ層を形成した後に、当該無電解金属メッキ層を第1金属層として、その表面に第2金属層を設けて、2層以上の複数の金属層を積層状態にして用いることも好ましい。このときの第2金属層の材質及び厚さは、用途に応じて任意に設定することが可能である。
【0035】
例えば、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板をプリント配線板製造に用いる際に、全て銅で構成した金属層を得る場合には、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層に無電解銅メッキを施し、その後、電解メッキ法、無電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせて銅層のメッキアップを行い、導体金属層を形成する。また、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層に無電解銅メッキを施し、その後、電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせてニッケル層のメッキアップを行い、高抵抗の導体金属層を形成する。更に、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層に無電解ニッケルメッキを施し、その後、電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせて銅層のメッキアップを行い、導体金属層を形成する。等種々の方法を採用することが可能である。
【0036】
なお、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の断面を、収束イオンビーム(FIB)加工観察法を採用し、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで、第1金属層である無電解金属メッキ層と第2金属層との分別を明瞭にして確認することが可能である。
【実施例1】
【0037】
以下、実施例1に関して述べるが、この実施例1に関する工程のフローが一目で理解できるように図1に工程のフロー図を示す。なお、水洗、乾燥等の常識的作業に関しては、図1の中にのみ示す。
【0038】
改質処理工程: 最初に液晶ポリマーフィルム基材を改質処理した。ここでは、株式会社クラレ製の厚さ25μmの液晶ポリマー(Vecster OC25)を、20mm×50mmに切り出して、これを試料用液晶ポリマーフィルム基材として用いた。そして、主波長253.7nm(副波長 184.9nm)を発光するUV照射装置として、高出力低圧水銀ランプPHOTO SURFACE PROCESSOR(セン特殊光源株式会社製/型式UVE−200)を、大気雰囲気中で用いて、ランプから基板までの照射距離を75mm(照射強度18mW/cm2)として、照射時間を8分〜20分で変化させて4種の改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材を得た。この工程が、図1のステップ1に相当する。なお、図3に改質処理前の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図4には、改質処理後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0039】
無電解メッキ工程: 次に、改質処理工程で得た改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層表面に無電解銅メッキを施した。このとき、図1に示すような前処理(アルカリ脱脂、コンディショニング、プレディップ、キャタライズ、アクセレレーター)を行った後、無電解銅メッキにより約0.1μmの無電解銅メッキ層を形成した。この工程が、図1のステップ2に相当する。このときの無電解銅メッキ液には、グリオキシル酸を還元剤とする浴を用いた。この浴組成を表1に詳細に示す。なお、図5にアルカリ脱脂後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図6には、コンディショニング後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図7にキャタライズ後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図8には、アクセレレーター後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
電気銅メッキ工程: 所謂メッキアップ工程である。その後、無電解銅メッキ層の表面に、電気銅メッキにより、導体金属層として約20μmの厚さとなるように銅を析出させ、液晶ポリマーフィルム金属張積層板を得た。この工程が図1のステップ3に相当する。このときの電気銅メッキの浴組成及び条件を、以下の表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
密着性評価試験: 以上のようにして得られた液晶ポリマーフィルム金属張積層板の液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層との密着性を評価するため、導体金属層を10mm幅の試験用直線回路として、JIS H 8504に準拠して、垂直引き剥がし試験機で引き剥がし強さを測定した。その結果を、比較例1と対比可能なように表4に纏めて示す。なお、図9には、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の銅層をエッチング除去して観察できる液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図10には、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの液晶ポリマーフィルム基材側の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図11には、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの導体金属層側の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【実施例2】
【0044】
以下、実施例2に関して述べるが、この実施例2に関する工程のフローが一目で理解できるように図2に工程のフロー図を示す。なお、水洗、乾燥等の常識的作業に関しては、図2の中にのみ示す。
【0045】
改質処理工程: 実施例1と同様の液晶ポリマーフィルム基材を用い改質処理した。そして、実施例1と同様のUV照射装置を採用し、基本的照射条件は同一とし、ランプから基板までの照射距離を35mm(照射強度18mW/cm2)として、照射時間を8分〜20分で変化させて4種の改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材を得た。この工程が、図2のステップ1に相当する。
【0046】
無電解メッキ工程: 次に、改質処理工程で得た改質処理層を備える液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層表面に無電解銅メッキを施した。このとき、図2に示すような前処理(アルカリ脱脂、コンディショニング、プレディップ、キャタライズ、アクセレレーター、前処理1、前処理2)を行った後、無電解銅メッキにより約0.1μmの無電解銅メッキ層を形成した。この工程が、図2のステップ2に相当する。このときの無電解銅メッキ液には、次亜りん酸ナトリウムを還元剤とする浴を用いた。この次亜リン酸塩を還元剤とする無電解銅メッキは、次亜リン酸の酸化反応に対する銅の触媒活性が殆どない。従って、当該メッキ浴中に、ニッケルイオンを含ませることにより、析出銅層中にはニッケルを共析させるようにして、自己触媒的な析出反応を得た。この浴組成を表3に詳細に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
電気銅メッキ工程: 実施例1と同様にして、無電解銅メッキ層の表面に、電気銅メッキして、導体金属層として約20μmの厚さとなるように銅を析出させ、液晶ポリマーフィルム金属張積層板を得た。この工程が図2のステップ3に相当する。このときの電気銅メッキの浴組成及び条件は、上記表2の実施例1と同様である。
【0049】
密着性評価試験: 実施例1と同様の密着性評価試験を行った。その結果を、比較例2と対比可能なように表5に纏めて示す。
【比較例】
【0050】
[比較例1]
この比較例では、実施例1と同様の方法を採用して液晶ポリマーフィルム金属張積層板を得たが、改質処理工程における照射時間を0分、5分、30分の3種類で行った。そして、実施例1と同様の密着性評価試験を行った。その結果を、実施例1と対比可能なように表4に纏めて示す。
【0051】
【表4】
【0052】
[比較例2]
この比較例では、実施例2と同様の方法を採用して液晶ポリマーフィルム金属張積層板を得たが、改質処理工程における照射時間を0分、5分、40分の3種類で行った。そして、実施例1と同様の密着性評価試験を行った。その結果を、実施例2と対比可能なように表5に纏めて示す。
【0053】
【表5】
【0054】
<実施例1と比較例1との対比>
表4を参照しつつ、実施例1と比較例1との対比を行う。実施例1の場合、改質処理を行うためのUV光の照射時間を8分〜20分を採用しているが、いずれの照射時間でも、引き剥がし強さが0.7kN/mを超えている。従って、プリント配線板製造用途として好適な液晶ポリマーフィルム金属張積層板となっていることが分かる。これに対し、0分、5分、30分の3種類の照射時間を採用した比較例1では、実施例1と比べて、明らかに引き剥がし強さの値が顕著に低下している。また、UV光を全く照射しない場合(照射時間0分)においては、無電解銅メッキ層の形成が全く出来ない。よって、明らかに実施例1の方が、比較例1に比べて、良好な液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層との密着性が得られていると言える。また、グリオキシル酸を還元剤とする無電解銅メッキ浴を用いる場合の適正な照射時間が、8分〜20分の間に存在することが理解できる。
【0055】
また、図3〜図11の走査型電子顕微鏡写真に関して述べる。図3のUV光を照射する前の液晶ポリマーフィルム基材の表面は、極めて滑らかな状態を呈している。この表面状態が、UV光を照射して改質処理を施すと、図4から分かるように、液晶ポリマーフィルム基材の表面に一定の粗さが見られるようになる。その後、図5〜図8から分かるように、アルカリ脱脂、コンディショニング、キャタライズ、アクセレレーターの各前処理を行っても顕著に変化することはない。従って、液晶ポリマーフィルム基材表面の粗さは、基本的に、UV光の照射による改質処理によって導入されるものと考えられる。そして、図9の液晶ポリマーフィルム金属張積層板の銅層をエッチング除去した液晶ポリマーフィルム基材の表面は、図8に示すアクセレレーター後の表面と大きな差異は生じない。即ち、無電解メッキ処理自体が、液晶ポリマーフィルム基材の改質表面を更に粗らすことは無いと考えられる。そして、図10の、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの液晶ポリマーフィルム基材側の表面をみると、液晶ポリマーフィルム基材の改質表面の形状が変化し、当該表面の樹脂が引きちぎられたように見える。そこで、図11の液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの導体金属層側の表面をみると、やはり導体金属層側にも、液晶ポリマーフィルム基材の樹脂が確認できる。即ち、液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層とは、極めて良好な密着性を示しており、液晶ポリマーフィルム基材の改質処理層内での破壊剥離のモードになっていることがわかる。よって、引き剥がし強さが良好な実施例1の場合、液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層と界面での剥離ではなく、改質処理層の樹脂破壊の強度を測定したものと言える。これらの傾向は、実施例2の場合も同様である。
【0056】
<実施例2と比較例2との対比>
表5を参照しつつ、実施例2と比較例2との対比を行う。実施例2の場合、改質処理を行うためのUV光の照射時間を10分〜40分を採用しているが、いずれの照射時間でも、引き剥がし強さが0.7kN/mを超えている。従って、プリント配線板製造用途として十分に使用可能な液晶ポリマーフィルム金属張積層板となる。これに対し、0分、5分、40分の3種類の照射時間を採用した比較例2では、実施例2と比べて、明らかに引き剥がし強さの値が顕著に低下している。また、UV光を全く照射しない場合(照射時間0分)においては、無電解銅メッキ層の形成が全く出来ない。よって、明らかに実施例2の方が、比較例2に比べて、良好な液晶ポリマーフィルム基材と導体金属層との密着性が得られていると言える。また、次亜りん酸ナトリウムを還元剤とする無電解銅メッキ浴を用いる場合の適正な照射時間が、8分〜20分の間に存在することが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、液晶ポリマーフィルム金属張積層板の金属層を表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の液晶ポリマーフィルムの表面に無電解法で形成したものである。従って、プリント配線板製造用途に用いるとファインピッチ回路の形成が容易で、且つ、耐熱特性、高周波特性等に優れた液晶ポリマーフィルムの特徴を最大限に発揮できる。しかも、金属層を無電解メッキ法で形成しているにも拘わらず、当該無電解金属メッキ層と液晶ポリマーフィルムとの引き剥がし強さとして0.7kN/m以上の良好な密着性を発揮する。更に、無電解金属メッキを用いるため、製造コストが安価という点で優れる。また、本件発明に係る液晶ポリマーフィルム金属張積層板は、上記無電解金属メッキ層の表面に第2金属層を設け複数の金属層として2層以上の金属層が積層状態とすることで、利用範囲をプリント配線板に限らず広範囲とすることができる。なお、本件明細書で、単に「プリント配線板」と称した場合には、フレキシブルプリント配線板及びリジッドフレキシブルプリント配線板の双方の概念を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1に関する工程のフロー図である。
【図2】実施例2に関する工程のフロー図である。
【図3】改質処理前の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図4】改質処理後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図5】アルカリ脱脂後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図6】コンディショニング後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図7】キャタライズ後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図8】アクセレレーター後の液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図9】液晶ポリマーフィルム金属張積層板の銅層をエッチング除去して観察できる液晶ポリマーフィルム基材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図10】液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの液晶ポリマーフィルム基材側の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図11】液晶ポリマーフィルム金属張積層板の表面に形成した10mm幅の試験用直線回路を引き剥がしたときの導体金属層側の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーフィルム基材の表面に金属層を備える液晶ポリマーフィルム金属張積層板であって、
当該金属層は、液晶ポリマーフィルム基材の表面に無電解法で形成した無電解金属メッキ層であることを特徴とした液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項2】
当該金属層は、液晶ポリマーフィルム基材との接触表面の表面粗さ(10点平均粗さ:Rzjis)が1.0μm以下である請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項3】
前記無電解金属メッキ層は、厚さが0.01μm〜50μmである請求項1又は請求項2に記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項4】
前記液晶ポリマーフィルム基材は、無電解金属メッキ層の形成前にUV照射による表面改質処理を施したものである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項5】
液晶ポリマーフィルム基材の表面に2層以上の金属層が積層状態で存在する液晶ポリマーフィルム金属張積層板であって、
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板の無電解金属メッキ層の表面に第2金属層を設け複数の金属層としたことを特徴とする液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項6】
前記第2金属層は、電解メッキ法、無電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせて形成したものである請求項4に記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項1】
液晶ポリマーフィルム基材の表面に金属層を備える液晶ポリマーフィルム金属張積層板であって、
当該金属層は、液晶ポリマーフィルム基材の表面に無電解法で形成した無電解金属メッキ層であることを特徴とした液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項2】
当該金属層は、液晶ポリマーフィルム基材との接触表面の表面粗さ(10点平均粗さ:Rzjis)が1.0μm以下である請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項3】
前記無電解金属メッキ層は、厚さが0.01μm〜50μmである請求項1又は請求項2に記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項4】
前記液晶ポリマーフィルム基材は、無電解金属メッキ層の形成前にUV照射による表面改質処理を施したものである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項5】
液晶ポリマーフィルム基材の表面に2層以上の金属層が積層状態で存在する液晶ポリマーフィルム金属張積層板であって、
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板の無電解金属メッキ層の表面に第2金属層を設け複数の金属層としたことを特徴とする液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【請求項6】
前記第2金属層は、電解メッキ法、無電解メッキ法、物理蒸着法又はこれらを組み合わせて形成したものである請求項4に記載の液晶ポリマーフィルム金属張積層板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−221488(P2008−221488A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59211(P2007−59211)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【出願人】(000157049)関東化成工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【出願人】(000157049)関東化成工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】
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