説明

液浸上層膜用重合体および液浸用上層膜形成組成物

【課題】 248nm(KrF)および193nm(ArF)の露光波長での十分な透過性と、フォトレジスト膜とインターミキシングを起こすことなくフォトレジスト上に被膜を形成でき、さらに液浸露光時の水に溶出することなく安定な被膜を維持し、かつアルカリ現像液に容易に溶解する上層膜を形成する。
【解決手段】 フッ素原子含む基をその側鎖に有する繰返し単位を含み、水との接触角が90°以上となる膜を形成することができ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により測定される重量平均分子量が2,000〜100,000であることを特徴とする液浸上層膜用重合体であって、この重合体は、液浸露光されるフォトレジスト膜に被覆される上層膜を形成するための液浸上層膜形成組成物の樹脂成分として利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィの微細化のために使用される液浸露光時にフォトレジストの保護と、フォトレジスト成分の溶出を抑え投影露光装置のレンズを保護する上層膜を形成するのに有用な液浸用上層膜形成組成物および該上層膜に用いることができる液浸上層膜用重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等を製造するに際し、フォトマスクとしてのレチクルのパターンを投影光学系を介して、フォトレジストが塗布されたウェハ上の各ショット領域に転写するステッパー型、またはステップアンドスキャン方式の投影露光装置が使用されている。
投影露光装置に備えられている投影光学系の解像度は、使用する露光波長が短く、投影光学系の開口数が大きいほど高くなる。そのため、集積回路の微細化に伴い投影露光装置で使用される放射線の波長である露光波長は年々短波長化しており、投影光学系の開口数も増大してきている。
また、露光を行なう際には、解像度と同様に焦点深度も重要となる。解像度R、および焦点深度δはそれぞれ以下の数式で表される。
R=k1・λ/NA (i)
δ=k2・λ/NA2 (ii)
ここで、λは露光波長、NAは投影光学系の開口数、k1、k2はプロセス係数である。同じ解像度Rを得る場合には短い波長を有する放射線を用いた方が大きな焦点深度δを得ることができる。
【0003】
この場合、露光されるウェハ表面にはフォトレジスト膜が形成されており、このフォトレジスト膜にパターンが転写される。従来の投影露光装置では、ウェハが配置される空間は空気または窒素で満たされている。このとき、ウェハと投影露光装置のレンズとの空間が屈折率nの媒体で満たされると、上記の解像度R、焦点深度δは以下の数式にて表される。
R=k1・(λ/n)NA (iii)
δ=k2・nλ/NA2 (iv)
例えば、ArFプロセスで、上記媒体として水を使用すると波長193nmの光の水中での屈折率n=1.44を用いると、空気または窒素を媒体とする露光時と比較し、解像度Rは69.4%(R=k1・(λ/1.44)NA)、焦点深度は144%(δ=k2・1.44λ/NA2)となる。
このように露光するための放射線の波長を短波長化し、より微細なパターンを転写できる投影露光する方法を液浸露光といい、リソグラフィの微細化、特に数10nm単位のリソグラフィには、必須の技術と考えられ、その投影露光装置も知られている(特許文献1参照)。
液浸露光方法においては、ウェハ上に塗布・形成されたフォトレジスト膜と投影露光装置のレンズはそれぞれ液浸媒体と接触する。そのため、フォトレジスト膜に液浸媒体が浸透し、フォトレジストの解像度が低下することがある。また、投影露光装置のレンズはフォトレジストを構成する成分が液浸媒体へ溶出することによりレンズ表面を汚染することもある。
【0004】
このため、フォトレジスト膜と液浸媒体、例えば水とを遮断する目的で、フォトレジスト膜上に上層膜を形成する方法があるが、この上層膜は放射線の波長に対して十分な透過性とフォトレジスト膜とインターミキシングを起こすことなくフォトレジスト膜上に保護膜を形成でき、さらに液浸露光時に液浸媒体に溶出することなく安定な被膜を維持し、かつ現像液であるアルカリ液に容易に溶解する上層膜が形成される必要がある。
また、通常のドライな環境での使用を前提に設計したレジストをそのまま液浸レジストとして使用できることが求められている。そのためには、ドライ用として設計された元の性能を劣化させずレジスト膜を液浸用液体から保護できる液浸用上層膜が必要となる。
さらに、液浸媒体として水を用いる場合、高速スキャン露光時にウェハの端部から水などの液浸媒体がこぼれ落ちたり、水の切れが悪いためにウォーターマークが残りやすくなるという問題がある。
【特許文献1】特開平11−176727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような課題を克服するためなされたもので、露光波長、特に248nm(KrF)および193nm(ArF)での十分な透過性を持ち、フォトレジスト膜とインターミキシングを起こすことなくフォトレジスト上に被膜を形成でき、さらにドライ露光を行なった場合からの性能劣化がなく、ウォーターマークが残り難く、かつアルカリ現像液に容易に溶解する上層膜を形成するための液浸用上層膜形成組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液浸上層膜用重合体は、フッ素原子を含む基をその側鎖に有する繰返し単位を含み、水との接触角が90°以上となる膜を形成することができ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により測定される重量平均分子量が2,000〜100,000であることを特徴とする。
また、上記フッ素原子を含む基をその側鎖に有する繰返し単位は、下記の式(1)で表される単量体を、全単量体に対して、10〜70モル%重合させて得られることを特徴とする。
【化2】

(R、R'およびR''は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、ヒドロキシメチル基、トリフルオロメチル基、シアノ基、またはフェニル基を表し、Aは、単結合、酸素原子、カルボニル基、カルボニルオキシ基、オキシカルボニル基を表し、Bは、単結合、炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Xは1価の有機基を表し、nは3〜20の整数を表す。
本発明の液浸上層膜形成組成物は、液浸露光されるフォトレジスト膜に被覆される上層膜を形成するための液浸上層膜形成組成物であって、該組成物は、現像液に溶解する樹脂が上記重合体であり、1価アルコールを含む溶媒に溶解されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液浸上層膜形成組成物は、樹脂成分としてフッ素原子を含む基をその側鎖に有する繰返し単位を含み、水との接触角が90°以上となる膜を形成することができるので、液浸露光時に、ウェハの端部から水がこぼれ落ちることがなくなり、さらに高速でスキャン露光しても水の切れがよいことでウォーターマークが残り難くなる。また、その上層膜は液浸露光時に、レンズおよびレジストを保護し、解像度、現像性等にも優れたレジストパターンを形成することができる。
そのため、今後さらに微細化が進行すると予想される半導体デバイスの製造に極めて好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
液浸用上層膜を形成するための組成物より得られる上層膜は、液浸露光時にフォトレジスト膜と水とが直接接触することを防ぎ、水の浸透によるフォトレジスト膜のリソグラフィ性能を劣化させることがなく、かつフォトレジスト膜より溶出する成分による投影露光装置のレンズの汚染を防止する作用がある。
【0009】
本発明の液浸用上層膜形成組成物を構成する樹脂は、水との接触角が90°以上となる膜を形成することができ、放射線照射時に液浸媒体、特に水に安定な膜を形成することができ、かつレジストパターンを形成するための現像液に溶解する樹脂である。
水との接触角は、後述する各実施例での上層膜形成条件で上層膜を形成したときの該上層膜表面と水との接触角をいう。この接触角の測定はKRUS社製DSA−10を用いて行ない、塗膜を形成した基板上に0.5mlの純水を滴下し、滴下後2〜11秒後の接触角を1秒おきに測定し、平均値を接触角として求めた。
また、放射線照射時において水に安定な膜とは、後述する水への安定性評価方法により測定したときの膜厚変化が初期膜厚の3%以内であることをいう。また、レジストパターン形成後の現像液に溶解するとは、アルカリ性水溶液を用いた現像後のレジストパターン上に目視で残渣がなく上層膜が除去されていることをいう。すなわち、本発明に係る樹脂は水に対して殆ど溶解することなく、かつ液浸媒体を介して照射される放射線照射後のアルカリ性水溶液を用いる現像時に、該アルカリ性水溶液に溶解するアルカリ可溶性樹脂である。
【0010】
フッ素原子含む基をその側鎖に有する繰返し単位は、水との接触角が90°以上となる膜を形成できる繰返し単位であり、フッ素化アルキレン基を側鎖に有する繰返し単位であることが好ましい。
フッ素化アルキレン基を側鎖に有する繰返し単位を生成する単量体としては、下記の式(1)で表される単量体が好ましい。
【化3】

R、R'およびR''は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、ヒドロキシメチル基、トリフルオロメチル基、またはフェニル基を表し、Aは、単結合、酸素原子、カルボニル基、カルボニルオキシ基、オキシカルボニル基を表し、Bは、単結合、炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Xは1価の有機基を表し、nは3〜20の整数を表す。
AおよびBで表される炭素数1〜20の2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基もしくは1,2−プロピレン基などのプロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基、ヘプタデカメチレン基、オクタデカメチレン基、ノナデカメチレン基、インサレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,2−プロピレン基、1−メチル−1,4−ブチレン基、2−メチル−1,4−ブチレン基、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、または、2−プロピリデン基等の飽和鎖状炭化水素基、1,3−シクロブチレン基などのシクロブチレン基、1,3−シクロペンチレン基などのシクロペンチレン基、1,4−シクロヘキシレン基などのシクロヘキシレン基、1,5−シクロオクチレン基などのシクロオクチレン基等の炭素数3〜10のシクロアルキレン基などの単環式炭化水素環基、1,4−ノルボルニレン基もしくは2,5−ノルボルニレン基などのノルボルニレン基、1,5−アダマンチレン基、2,6−アダマンチレン基などのアダマンチレン基等の2〜4環式炭素数4〜20の炭化水素環基などの架橋環式炭化水素環基等が挙げられる。
【0011】
Xは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子が水との接触角を向上させることができるので好ましい。
nは3〜20の整数である。nが3より小さいと水との接触角を向上させる効果に乏しく、nが20をこえるとアルカリ現像液で現像した際にスカムや現像欠陥が残りやすくなる。また、(CF2nで表されるパーフルオロアルキレン基は、直鎖状または分岐状であってもよい。好ましくは水との接触角を向上させることができる直鎖状のパーフルオロアルキレン基である。
【0012】
式(1)で表される単量体としては、ビスコート6F、ビスコート6FM、ビスコート8F、ビスコート8FM、ビスコート17F、ビスコート17FM(以上、大阪有機化学社製)、ライトアクリレートFA−108、ライトアクリレートFM−108(以上、共栄社化学製)等が例示できる。
【0013】
式(1)で表される好ましい単量体の例としては、パーフルオロアルキレン基を側鎖に有する(メタ)アクリレートが好ましい。
パーフルオロアルキレン基−(CF2n−を側鎖に有する(メタ)アクリレート単量体としては、例えばパーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−デカフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−テトラデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロノニル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10−オクタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロノニルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロデシル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート等のフルオロアルキル基の炭素数が3〜20であるフルオロアルキル(メタ)アクリレート類、
【0014】
3[4[1−トリフルオロメチル−2,2−ビス[ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル]エチニルオキシ]ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル)2−フェニルアクリレート、(1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル)2−ベンジルアクリレート、(1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル)2−エトキシアクリレート、(1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル)2−シクロヘキシルアクリレート、(1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル)2−シアノアクリレート等を挙げることができる。これらのフルオロアルキル基含有単量体は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
式(1)で表される好ましい単量体の具体例としては、以下に表される、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルアクリレート(M−1)、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチルアクリレート(M−2)、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート(M−3)が挙げられる。
【化4】

【0016】
本発明の重合体は、水に安定な膜を形成でき、かつレジストパターン形成後の現像液に溶解するアルカリ可溶性樹脂を得るために、式(1)で表される単量体とともに、カルボキシル基を有する繰返し単位、および少なくともα位にフルオロアルキル基を有するアルコール性水酸基をその側鎖に有する繰返し単位をそれぞれ生成するラジカル重合性単量体を単独でまたは混合して使用することができる。
【0017】
カルボキシル基を有する繰返し単位を生成するラジカル重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、アトロパ酸、3−アセチルオキシ(メタ)アクリル酸、3−ベンゾイルオキシ(メタ)アクリル酸、α−メトキシアクリル酸、3−シクロヘキシル(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等の不飽和ポリカルボン酸類;該不飽和ポリカルボン酸のモノメチルエステル、モノエチルエステル、モノn−プロピルエステル、モノn−ブチルエステル等のモノエステル類;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−カルボキシアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−カルボキシメチルアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−メトキシカルボニルアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−アセチルオキシアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−フェニルアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−ベンジルアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−メトキシアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−シクロヘキシルアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、2−α−シアノアクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸等を挙げることができる。
上記の内、(メタ)アクリル酸、クロトン酸が好ましい。
【0018】
少なくともα位にフルオロアルキル基を有するアルコール性水酸基をその側鎖に有する単量体としては、フルオロアルキル基としてトリフルオロメチル基を有する単量体が好ましい。α位にフルオロアルキル基を少なくとも1個含むことにより、フルオロアルキル基の電子吸引性によりアルコール性水酸基の水素原子が離脱しやすくなり、水溶液中で酸性を呈する。そのため、純水に対しては不溶性となるが、アルカリ可溶性となる。この例としては、下記式(2)で表されるラジカル重合性単量体が挙げられる。
【化5】

ここで、式(2)中のR1は、式(1)中のRと同一である。
式(2)中のR2は有機基を表し、好ましくは2価の炭化水素基を表す。2価の炭化水素基の中で好ましくは鎖状または環状の炭化水素基を表す。
好ましいR2としては、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基もしくは1,2−プロピレン基などのプロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基、ヘプタデカメチレン基、オクタデカメチレン基、ノナデカメチレン基、インサレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,2−プロピレン基、1−メチル−1,4−ブチレン基、2−メチル−1,4−ブチレン基、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、または、2−プロピリデン基等の飽和鎖状炭化水素基、1,3−シクロブチレン基などのシクロブチレン基、1,3−シクロペンチレン基などのシクロペンチレン基、1,4−シクロヘキシレン基などのシクロヘキシレン基、1,5−シクロオクチレン基などのシクロオクチレン基等の炭素数3〜10のシクロアルキレン基などの単環式炭化水素環基、1,4−ノルボルニレン基もしくは2,5−ノルボルニレン基などのノルボルニレン基、1,5−アダマンチレン基、2,6−アダマンチレン基などのアダマンチレン基等の2〜4環式炭素数4〜30の炭化水素環基などの架橋環式炭化水素環基等が挙げられる

【0019】
特に、R2として2価の脂肪族環状炭化水素基を含むときは、ビストリフルオロメチル−ヒドロキシ−メチル基と該脂肪族環状炭化水素基との間にスペーサーとして炭素数1〜4のアルキレン基を挿入することが好ましい。
また、式(2)としては、R2が2,5−ノルボルニレン基を含む炭化水素基、1,2−プロピレン基が好ましい。
上記式(2)で表される繰返し単位を生成する好適なラジカル重合性単量体を式(M−6)、(M−11)、(M−12)に表す。
【化6】

【0020】
本発明のアルカリ可溶性樹脂には、樹脂の分子量、ガラス転移点などを制御する目的で、他のラジカル重合性単量体を共重合することができる。「他の」とは、前出のラジカル重合性単量体以外のラジカル重合性単量体の意味である。また、酸解離性基含有単量体を共重合することができる。
他のラジカル重合性単量体または酸解離性基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸アリールエステル類、ジカルボン酸ジエステル類、ニトリル基含有ラジカル重合性単量体、アミド結合含有ラジカル重合性単量体、脂肪酸ビニル類、塩素含有ラジカル重合性単量体、共役ジオレフィン、水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、アルケニルスルホン酸等を挙げることができる。
具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシ−ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリルレート、2−エチル−2−アダマンチル(メタ)アクリルレート、2−プロピル−2−アダマンチル(メタ)アクリルレート、2−ブチル−2−アダマンチル(メタ)アクリルレート、1−メチル−1−シクロヘキシル(メタ)アクリルレート、1−エチル−1−シクロヘキシル(メタ)アクリルレート、1−プロピル−1−シクロヘキシル(メタ)アクリルレート、1−ブチル−1−シクロヘキシル(メタ)アクリルレート、1−メチル−1−シクロペンチル(メタ)アクリルレート、1−エチル−1−シクロペンチル(メタ)アクリルレート、1−プロピル−1−シクロペンチル(メタ)アクリルレート、1−ブチル−1−シクロペンチル(メタ)アクリルレート、1−アダマンチル−1−メチルエチル(メタ)アクリルレート、1−ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−1−メチルエチル(メタ)アクリルレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジエチルなどのジカルボン酸ジエステル;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アリールエステル;スチレン、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニ−ルトルエン、p−メトキシスチレン等の芳香族ビニル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル基含有ラジカル重合性単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、トリフルオロメタンスルホニルアミノエチル(メタ)アクリルレートなどのアミド結合含有ラジカル重合性単量体;酢酸ビニルなどの脂肪酸ビニル類;塩化ビニル、塩化ビニリデンなどの塩素含有ラジカル重合性単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ジメチルブタジエン等の共役ジオレフィン類を用いることができる。
また、水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリルレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリルレート、2−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルレート、3−ヒドロキシ−1−アダマンチル(メタ)アクリルレート、3,5−ジヒドロキシ−1−アダマンチル(メタ)アクリルレート、等が挙げられ、これらのうち、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルレート、3−ヒドロキシ−1−アダマンチル(メタ)アクリルレートが好ましい。
また、アルケニルスルホン酸としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、3−ブテニルスルホン酸、2−ブテニルスルホン酸、1,3−ブタジエニルスルホン酸などの1価または2価の不飽和結合を有するスルホン酸を用いることができる。
これらの単量体は単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上記の式(1)で表される単量体を、全単量体に対して、10〜70モル%、好ましくは10〜50モル%重合させて得られる。10モル%未満であると水との接触角が90°以上とすることが困難になる。また70モル%をこえると現像液であるアルカリ水溶液への溶解性が低くなり該上層膜の除去ができずに現像後のレジストパターン上に残渣が発生してしまうおそれがある。
また、カルボキシル基を有する繰返し単位、および/または、少なくともα位にフルオロアルキル基を有するアルコール性水酸基をその側鎖に有する繰返し単位は、全単量体に対して、5〜90モル%、好ましくは10〜70モル%配合することが好ましい。5モル%未満であると現像液であるアルカリ水溶液への溶解性が低くなり、該上層膜の除去ができずに現像後のレジストパターン上に残渣が発生するおそれがあり、90モル%をこえると塗膜の水への接触角が充分に大きくならない。さらに上記他のラジカル重合性単量体の割合は、50モル%以下である。
【0022】
アルカリ可溶性樹脂を製造する際に用いられる重合溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの多価アルコールのアルキルエーテルアセテート類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類が挙げられる。これらのうち、環状エーテル類、多価アルコールのアルキルエーテル類、多価アルコールのアルキルエーテルアセテート類、ケトン類、エステル類などが好ましい。
【0023】
また、ラジカル重合における重合触媒としては、通常のラジカル重合開始剤が使用でき、例えば2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−(2−メチルプロピオン酸メチル)、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−(4−メトキシ−2−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート、1,1'−ビス−(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどの有機過酸化物および過酸化水素などを挙げることができる。過酸化物をラジカル重合開始剤に使用する場合、還元剤を組み合わせてレドックス型の開始剤としてもよい。
【0024】
上記方法で得られるアルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量(以下、Mwと略称する)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ法ポリスチレン換算で通常2,000〜100,000であり、好ましくは2,500〜50,000、より好ましくは3,000〜20,000である。この場合、アルカリ可溶性樹脂のMwが2,000未満では、上層膜としての耐水性および機械的特性が著しく低く、一方100,000をこえると、後述する溶媒に対する溶解性が著しく悪い。また、樹脂のMwとゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算数平均分子量(以下、Mnと略称する)との比(Mw/Mn)は、通常、1〜5、好ましくは1〜3である。
なお、樹脂は、ハロゲン、金属等の不純物が少ないほど好ましく、それにより、上層膜としての塗布性とアルカリ現像液への均一な溶解性をさらに改善することができる。樹脂の精製法としては、例えば、水洗、液々抽出等の化学的精製法や、これらの化学的精製法と限外ろ過、遠心分離等の物理的精製法との組み合わせ等を挙げることができる。本発明において、樹脂は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
本発明の液浸用上層膜形成組成物を構成する溶媒は、上記アルカリ可溶性樹脂を溶解させるとともに、フォトレジスト膜上に塗布するに際し、そのフォトレジスト膜とインターミキシングを起こすなどしてリソグラフィの性能を劣化させることがない溶媒が使用できる。
そのような溶媒としては、1価アルコールを含む溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、n−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−メチルー2−ブタノール、3−メチルー2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール等の炭素数1〜6の1価アルコール、2,2−ジメチル−3−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、4,4−ジメチル−2−ペンタノール、3−エチル−3−ペンタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−メチル−3−ヘキサノール、5−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−2−ヘキサノール等の炭素数7の1価アルコール;2−エチル−1−ヘキサノール、4−メチル−3−ヘプタノール、6−メチル−2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、2−プロピル−1−ペンタノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノール等の炭素数8の1価アルコール;2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、3−エチル−2,2−ジメチル−ペンタノール、1−ノナノール、2−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール等の炭素数9の1価アルコール;1−デカノール、2−デカノール、4−デカノール、3,7−ジメチル−1−オクタノール、3,7−ジメチル−3−オクタノール、等の炭素数10の1価アルコール等が挙げられる。これらのアルコールは、単独でも、2種以上の組み合わせにても使用することができる。
これらのアルコールの中で1−ブタノール、3−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノールが沸点、引火点の観点から好ましい。
【0026】
また、該上層膜をフォトレジスト膜上に塗布するに際し、塗布性を調整する目的で、他の溶媒を混合することもできる。他の溶媒は、フォトレジスト膜を浸食せずに、かつ上層膜を均一に塗布する作用がある。
他の溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの多価アルコールのアルキルエーテルアセテート類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチルなどのエステル類、水が挙げられる。これらのうち、環状エーテル類、多価アルコールのアルキルエーテル類、多価アルコールのアルキルエーテルアセテート類、ケトン類、エステル類、水が好ましい。
【0027】
上記、他の溶媒の配合割合は、溶媒成分中の30重量%以下であり、好ましくは20重量%以下である。30重量%をこえると、フォトレジスト膜を浸食し、上層膜との間にインターミキシングを起こすなどの不具合を発生し、フォトレジストの解像性能を著しく劣化させる。
【0028】
本発明の液浸用上層膜形成組成物には、塗布性、消泡性、レベリング性などを向上させる目的で界面活性剤を配合することもできる。
界面活性剤としては、例えばBM−1000、BM−1100(以上、BMケミー社製)、メガファックF142D、同F172、同F173、同F183(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、フロラードFC−135、同FC−170C、同FC−430、同FC−431(以上、住友スリーエム(株)製)、サーフロンS−112、同S−113、同S−131、同S−141、同S−145(以上、旭硝子(株)製)、SH−28PA、同−190、同−193、SZ−6032、SF−8428(以上、東レダウコーニングシリコーン(株)製)などの商品名で市販されているフッ素系界面活性剤を使用することができる。
これらの界面活性剤の配合量は、アルカリ可溶性樹脂100重量部に対して好ましくは5重量部以下である。
【0029】
本発明の液浸用上層膜形成組成物を用いたフォトレジストパターン形成方法について説明する。フォトレジストパターンの形成はフォトレジスト膜を形成する工程と、その上に上層膜を形成する工程と、その後レジストパターンを形成する工程とを含む。
基板上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト膜を形成する工程において、基板は、例えばシリコンウェハ、アルミニウムで被覆したウェハ等を用いることができる。また、レジスト膜の潜在能力を最大限に引き出すため、例えば特公平6−12452号公報等に開示されているように、使用される基板上に有機系あるいは無機系の反射防止膜を形成しておくことができる。
使用されるフォトレジストは、特に限定されるものではなく、レジストの使用目的に応じて適時選定することができる。レジストの例としては、酸発生剤を含有する化学増幅型のポジ型またはネガ型レジスト等を挙げることができる。
本発明の組成物で形成される液浸用上層膜を用いる場合、特にポジ型レジストが好ましい。化学増幅型ポジ型レジストにおいては、露光により酸発生剤から発生した酸の作用によって、重合体中の酸解離性有機基が解離して、例えばカルボキシル基を生じ、その結果、レジストの露光部のアルカリ現像液に対する溶解性が高くなり、該露光部がアルカリ現像液によって溶解、除去され、ポジ型のレジストパターンが得られる。
フォトレジスト膜は、フォトレジスト膜を形成するための樹脂を適当な溶媒中に、例えば0.1〜20重量%の固形分濃度で溶解したのち、例えば孔径30nm程度のフィルターでろ過して溶液を調製し、このレジスト溶液を、回転塗布、流延塗布、ロール塗布等の適宜の塗布方法により基板上に塗布し、予備焼成(以下、「PB」という。)して溶媒を揮発することにより形成する。なお、この場合、市販のレジスト溶液をそのまま使用できる。
【0030】
該フォトレジスト膜に上記液浸用上層膜形成組成物を用いて上層膜を形成する工程は、フォトレジスト膜上に本発明の上層膜形成組成物を塗布し、通常、再度焼成することにより、本発明の上層膜を形成する工程である。この工程は、フォトレジスト膜を保護することと、フォトレジスト膜より液体へレジスト中に含有する成分が溶出することにより生じる投影露光装置のレンズの汚染を防止する目的で上層膜を形成する工程である。
上層膜の厚さはλ/4m(λは放射線の波長、mは上層膜の屈折率)の奇数倍に近いほど、レジスト膜の上側界面における反射抑制効果が大きくなる。このため、上層膜の厚さをこの値に近づけることが好ましい。なお、本発明においては、レジスト溶液塗布後の予備焼成および上層膜形成組成物溶液塗布後の焼成のいずれかの処理は、工程簡略化のため省略してもよい。
【0031】
該フォトレジスト膜および上層膜に水を媒体として、所定のパターンを有するマスクを通して放射線を照射し、次いで現像することにより、レジストパターンを形成する工程は、液浸露光を行ない、所定の温度で焼成を行なった後に現像する工程である。
フォトレジスト膜および上層膜間に満たされる水はpHを調整することもできる。特に純水が好ましい。
液浸露光に用いられる放射線は、使用されるフォトレジスト膜およびフォトレジスト膜と液浸用上層膜との組み合わせに応じて、例えば可視光線;g線、i線等の紫外線;エキシマレーザ等の遠紫外線;シンクロトロン放射線等のX線;電子線等の荷電粒子線の如き各種放射線を選択使用することができる。特にArFエキシマレーザ(波長193nm)あるいはKrFエキシマレーザ(波長248nm)が好ましい。
また、レジスト膜の解像度、パターン形状、現像性能等を向上させるために、露光後に焼成(以下、「PEB」という。)を行なうことが好ましい。その焼成温度は、使用されるレジスト等によって適宜調節されるが、通常、30〜200℃程度、好ましくは50〜150℃である。
次いで、フォトレジスト膜を現像液で現像し、洗浄して、所望のレジストパターンを形成する。この場合、本発明の液浸用上層膜は別途剥離工程に付する必要はなく、現像中あるいは現像後の洗浄中に完全に除去される。これが本発明の重要な特徴の1つである。
【0032】
本発明におけるレジストパターンの形成に際して使用される現像液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、n−プロピルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、ピロール、ピペリジン、コリン、1,8−ジアザビシクロ−[5,4,0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ−[4,3,0]−5−ノナン等を溶解したアルカリ性水溶液を挙げることができる。また、これらの現像液には、水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類や、界面活性剤を適量添加することもできる。上記アルカリ性水溶液を用いて現像した場合は、通常、現像後水洗する。
【実施例】
【0033】
液浸上層膜用重合体(A−1)〜(A−15)を以下に示す方法により合成した。また、比較用重合体(C−1)〜(C−3)を以下に示す方法により合成した。なお、各重合体のMwおよびMnは、東ソー(株)製高速GPC装置(型式「HLC−8120」)に東ソー(株)製のGPCカラム(商品名「G2000HXL」;2本、「G3000HXL」;1本、「G4000HXL」;1本)を用い、流量1.0ml/分、溶出溶剤テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。また、重合体中の各繰返し単位の割合は、13C NMRにより測定した。
各重合体合成に用いた上記(M−1)〜(M−3)および(M−6)以外の単量体を式(M−4)、(M−5)および(M−7)〜(M−10)として以下に表す。
【化7】

【0034】
実施例1〜実施例15、および比較例1〜比較例3
実施例1に係る液浸上層膜用重合体(A−1)は、式(M−3)で表される単量体を40モル%、式(M−5)で表される単量体を25モル%、式(M−8)で表される単量体を30モル%、式(M−10)で表される単量体を5モル%、およびアゾビスイソ吉草酸メチル8モル%をメチルエチルケトン200gに溶解し、均一溶液としたモノマー溶液を準備した。なお、アゾビスイソ吉草酸メチルの濃度は全単量体および開始剤の合計モル数に対するモル%である。また、全単量体の重量は100gとした。
その後、メチルエチルケトン100gを投入した1000mlの三口フラスコを30分窒素パージした。窒素パージ後、フラスコ内を攪拌しながら80℃に加熱し、事前に調製した上記モノマー溶液を滴下漏斗を用いて、10ml/5分の速度で滴下した。滴下開始時を重合開始時点として、重合を5時間実施した。重合終了後、反応溶液を30℃以下に冷却し、次いで該反応溶液をヘプタン2000g中へ投入し、析出した白色粉末をろ別した。
ろ別した白色粉末をヘプタン400gと混合してスラリーとして攪拌する操作を2回繰り返して洗浄した後、4−メチル−2−ペンタノール200gに溶解した。この樹脂溶液に水1000gを加えて分液ロートを用いて攪拌した後、水を取り除く操作を2度繰り返した後に、ロータリーエバポレーターを用いて4−メチル−2−ペンタノールを取り除き、更に60℃にて24時間真空乾燥して白色粉末の重合体(A−1)を得た(72g、収率72重量%)。
以下、表1に示す組成の樹脂を同様な手法で合成した。仕込み時の単量体モル%を表1に、得られた重合体中の各単量体に基く繰返し単位のモル%、収率、分散度(Mw/Mn)およびMwを表2に示す。
【0035】
【表1】

【表2】

【0036】
実施例16〜実施例30、および比較例4〜比較例6
液浸用上層膜形成組成物を上記実施例で得られた各重合体を用いて作製した。表2に示す重合体の固形分1gに対して、表3に示す溶媒99gの比率になるように溶媒を加え2時間攪拌した後、孔径200nmのフィルターでろ過して溶液を調製した。なお、表3において、Bはノルマルブタノールを、4M2Pは4−メチル−2−ペンタノールをそれぞれ表す。表3において混合溶媒の場合の溶媒比は重量比を表す。
得られた上層膜形成組成物の評価を次に示す方法で行なった。結果を表3に示す。
(1)溶解性の評価方法(溶解性)
表3に示す溶媒99gに該上層膜用樹脂となる各重合体1gを加え、スリーワンモーターを使用して100rpm、3時間攪拌した。なお、実施例1〜15得られた重合体は、その重合体溶液を100℃で24時間乾燥して乾固したものを使用した。その後、重合体と溶媒との混合物が均一な溶液となっていれば溶解性が良好であると判断して「○」、溶け残りや白濁が見られれば溶解性が乏しいとして「×」とした。
【0037】
(2)上層膜除去性の評価方法(除去性)
CLEAN TRACK ACT8(東京エレクトロン(株))にて8インチシリコンウェハ上に上記上層膜をスピンコート、90℃、60秒ベークを行ない、膜厚32nmの塗膜を形成した。膜厚はラムダエースVM90(大日本スクリーン(株))を用いて測定した。本塗膜をCLEAN TRACK ACT8で60秒間パドル現像(現像液2.38%TMAH水溶液)を行ない、振り切りによりスピンドライした後、ウェハ表面を観察した。このとき、残渣がなく現像されていれば、除去性「○」、残渣が観察されれば「×」とした。
(3)インターミキシングの評価方法(インターミキシング)
予めHMDS処理(100℃、60秒)を行なった8インチシリコンウェハ上にJSR ArF AR1221Jをスピンコート、ホットプレート上で90℃、60秒PBを行ない所定膜厚(300nm)の塗膜を形成した。本塗膜上に、上記液浸用上層膜組成物をスピンコート、PB(90℃、60秒)により膜厚32nmの塗膜を形成した後、CLEAN TRACK ACT8のリンスノズルより超純水をウェハ上に60秒間吐出させ、4000rpmで15秒間振り切りによりスピンドライを行ない、ついで同CLEAN TRACK ACT8でLDノズルにてパドル現像を60秒間行ない、上記上層膜を除去した。なお、この現像工程では現像液として2.38%TMAH水溶液を使用した。液浸用塗膜は、現像工程により除去されるが、レジスト塗膜は未露光であり、そのまま残存する。当工程の前後にてラムダエースVM90(大日本スクリーン(株))で膜厚測定を行ない、レジスト膜厚の変化が0.5%以内であれば、レジスト塗膜と液浸用上層膜間でのインターミキシングが無いと判断して「○」、0.5%をこえたときは「×」とした。
【0038】
(4)液浸用上層膜組成物の水への安定性評価(耐水性)
8インチシリコンウェハ上にスピンコート、PB(90℃、60秒)により液浸用上層膜組成物の塗膜(膜厚30nm)を形成し、ラムダエースVM90で膜厚測定を行なった。同基板上に、CLEAN TRACK ACT8のリンスノズルより超純水をウェハ上に60秒間吐出させた後、4000rpmで15秒間振り切りによりスピンドライした。この基板を、再び膜厚測定した。このときの膜厚の減少量が初期膜厚の3%以内であれば、安定と判断して「○」、3%をこえれば「×」とした。
【0039】
(5)パターニング評価
上記上層膜を使用したレジストのパターニングの評価方法を記す。
8インチシリコンウェハ上に下層反射防止膜ARC29A(ブルワーサイエンス社製)をスピンコートにより膜厚77nm(PB205℃、60秒)で塗膜を形成した後、JSR ArF AR1221Jのパターニングを実施した。AR1221Jは、スピンコート、PB(130℃、90秒)により膜厚205nmとして塗布し、PB後に本上層膜をスピンコート、PB(90℃、60秒)により膜厚32nmの塗膜を形成した。ついで、ArF投影露光装置S306C(ニコン(株))で、NA:0.78、シグマ:0.85、2/3Annの光学条件にて露光を行ない、CLEAN TRACK ACT8のリンスノズルより超純水をウェハ上に60秒間吐出させた後、4000rpmで15秒間振り切りによりスピンドライした。その後、CLEAN TRACK ACT8ホットプレートにてPEB(130℃、90秒)を行ない、同CLEAN TRACK ACT8のLDノズルにてパドル現像(60秒間)、超純水にてリンス、ついで4000rpmで15秒間振り切りによりスピンドライした。
本基板を走査型電子顕微鏡(日立計測器(株)製S−9360)で90nmライン・アンド・スペースのパターンを観察し、線幅が90nmになる露光量を最適露光量とした。この最適露光量において解像しているライン・アンド・スペースパターンの最小寸法を解像度とした。その結果を表3に示した。また、90nmライン・アンド・スペースパターンの断面形状を観察した。図1はライン・アンド・スペースパターンの断面形状である。基板1上に形成されたパターン2の膜の中間での線幅Lbと、膜の上部での線幅Laを測り、0.9<=(La−Lb)/Lb<=1.1の時を「矩形」、(La−Lb)/Lb<0.9の時を「テーパー」、(La−Lb)/Lb>1.1の時を「頭張り」として評価した。
(6)接触角の測定
接触角の測定には、KRUS社製DSA−10を用いた。パターニング評価膜形成時の条件で塗膜を形成した基板上に0.5mlの純水を滴下し、滴下後2〜11秒後の接触角を1秒おきに測定し、平均値を接触角として求めた。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0040】
上述した本発明の重合体は、フッ素原子含む基をその側鎖に有する繰返し単位を含み、水との接触角が90°以上となる膜を形成できるので、液浸露光時に、ウェハの端部から水がこぼれ落ちることがなくなり、さらに高速でスキャン露光しても水の切れがよいことでウォーターマークが残り難くなる。また、その上層膜は液浸露光時に、レンズおよびレジストを保護し、解像度、現像性等にも優れたレジストパターンを形成することができる。そのため、今後さらに微細化が進行すると予想される半導体デバイスの製造に極めて好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ライン・アンド・スペースパターンの断面形状を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
2 パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素原子含む基をその側鎖に有する繰返し単位を含み、水との接触角が90°以上となる膜を形成することができ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により測定される重量平均分子量が2,000〜100,000であることを特徴とする液浸上層膜用重合体。
【請求項2】
前記フッ素原子を含む基をその側鎖に有する繰返し単位は、下記の式(1)で表される単量体を、全単量体に対して、10〜70モル%重合させて得られることを特徴とする請求項1記載の液浸上層膜用重合体。
【化1】

(R、R'およびR''は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、またはフェニル基を表し、Aは、単結合、酸素原子、カルボニル基、カルボニルオキシ基、オキシカルボニル基を表し、Bは、単結合、炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Xは1価の有機基を表し、nは3〜20の整数を表す。)
【請求項3】
液浸露光されるフォトレジスト膜に被覆される上層膜を形成するための液浸上層膜形成組成物であって、
該組成物は、現像液に溶解する樹脂が1価アルコールを含む溶媒に溶解されてなり、その樹脂が請求項1または請求項2記載の重合体であることを特徴とする液浸上層膜形成組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−335916(P2006−335916A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163537(P2005−163537)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】