説明

液浸露光装置および液浸露光方法

【課題】液浸液を液浸露光装置の外周ステージから露光ステージに向かって移動させる際に、有機膜の外周端縁が基板から剥離することを防止する。
【解決手段】液浸露光装置100は、露光ステージ10、外周ステージ20、投影レンズ30および駆動部40を備えている。駆動部40は、露光ステージ10の周囲に配置された外周ステージ20を、有機膜50が上面に設けられた基板52に対して昇降方向に相対駆動する。そして、外周ステージ20は駆動部40により基板52と非接触に相対駆動されるとともに、外周ステージ20の上面22のうち有機膜50に近接する近接縁24の一部または全部は、駆動部40に駆動される下限位置が有機膜50と面一またはその下方であり、上限位置Hが有機膜50よりも上方である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液浸露光装置および液浸露光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶表示素子、撮像素子などに例示されるデバイスの微細なパターニングに用いられるリソグラフィー法として、液浸露光技術が知られている。液浸露光技術では、基板上に形成された感光性の有機材料からなるレジストなどの膜(有機膜)を露光するに際して、露光光を集束する投影レンズと有機膜との間を屈折率が1以上の液浸液で満たした状態でおこなう。
投影レンズは、基板の上方を面内方向に水平駆動されて、有機膜上の多数の露光エリアに対して露光光を逐次照射する。ここで、基板や有機膜の有効面積をあげるため、近年は基板の周縁近傍まで有機膜が形成され、さらに有機膜の周縁近傍まで露光エリアが設けられている。したがって、投影レンズは有機膜の内部領域のみならず、その周縁を跨いで外部領域に至る位置まで水平駆動される。このため、投影レンズに引き摺られて移動する液浸液が基板の周縁から流れ落ちてしまうことのないよう、近年の液浸露光装置では、基板を載置する露光ステージの周囲に外周ステージを設けている。
【0003】
この種の技術に関し、下記特許文献1には、露光ステージに載置された基板と外周ステージとの間に、弾性材料からなる密着部材を設けた半導体製造装置の発明が記載されている。また、下記特許文献2には、露光ステージと外周ステージとの間に可撓性のシール部材を装着した露光装置の発明が記載されている。これらの装置によれば、液浸液が基板の周縁より裏面側に回り込んで露光ステージと外周ステージとの間に漏れ出してしまうことを、密着部材やシール部材によって防止することができるとされている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−120889号公報
【特許文献2】特開2006−200562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6は、上記特許文献に記載の液浸露光装置110を模式的に示す部分縦断面図である。液浸露光装置110における上下方向と内外方向を、図中に両側矢印にて示す。
露光ステージ10の上面には基板52が載置され、基板52の表面には有機膜50が形成されている。一方、露光ステージ10が設置された基台12には、露光ステージ10の周囲を囲むように外周ステージ20が配置されている。外周ステージ20の上面22は、有機膜50や基板52とほぼ面一の高さに設定されている。
ここで、有機膜50に露光光を照射する投影レンズ30は、有機膜50の上部に設けられ、有機膜50に対向した状態で水平方向(図中、左右方向)に駆動される。
【0006】
投影レンズ30は鏡筒32の下端部に装着されており、鏡筒32の内面と投影レンズ30と有機膜50とで囲まれる領域に液浸液60が充填されている。かかる状態で投影レンズ30や鏡筒32を水平駆動すると液浸液60は追随して移動する。露光ステージ10または基板52と外周ステージ20との間には、密着部材(シール部材)112が装着されている。
【0007】
しかしながら、上記の装置では、液浸液60が外周ステージ20から露光ステージ10に向かって白抜き矢印の方向に移動した際に、有機膜50の外周端縁54が基板52から剥離することが問題となる。すなわち、同図に示すように、液浸露光装置110の外側(同図右側)から内側(同図左側)に向かう液浸液60の移動方向は有機膜50に対して逆目方向にあたる。このため、液浸液60との横向き(内向き)の接触抵抗によって外周端縁54がピール(剥離)する恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液浸露光装置は、有機膜が上面に設けられた基板を載置する露光ステージと、
前記露光ステージの周囲に配置された外周ステージと、
前記露光ステージの上方に設けられて前記基板に対して面内方向に相対移動するとともに、前記有機膜との間に液浸液を保持した状態で前記有機膜を露光する投影レンズと、
前記外周ステージを前記基板に対して昇降方向に相対駆動する駆動部と、
を備え、
前記外周ステージは前記駆動部により前記基板と非接触に相対駆動されるとともに、
前記外周ステージの上面のうち前記有機膜に近接する近接縁の一部または全部は、前記駆動部に相対駆動される下限位置が前記有機膜と面一またはその下方であり、上限位置が前記有機膜よりも上方であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の液浸露光方法は、基板の上面に設けられた有機膜と、前記基板の上方に設けられた露光用の投影レンズとの間に液浸液を保持した状態で、前記投影レンズおよび前記液浸液を、前記基板の面内方向に相対移動させて前記有機膜を露光する液浸露光方法であって、
前記基板の周囲に該基板と非接触に配置された外周ステージを前記基板に対して昇降方向に相対駆動して、前記外周ステージの上面のうち前記有機膜に近接する近接縁の一部または全部を前記有機膜よりも上方の第一高さ位置に配置した状態で、前記投影レンズを前記外周ステージの上部から前記基板の上部に向かって相対移動させ、前記液浸液を前記有機膜の外周端縁と非接触に前記上面から前記有機膜の表面に相対移動させる第一移動工程を含む。
【0010】
上記各発明によれば、外周ステージの近接縁が、有機膜に対して少なくとも面一からその上方にかけて昇降可能である。このため、外周ステージの近接縁を有機膜よりも上方にセットすることにより、近接縁から有機膜にかけて下り段差が形成される。したがって、かかる状態で液浸液を液浸露光装置の外側から内側に向かって移動させた際には、かかる下り段差を液浸液が跨いで下ることとなる。よって、有機膜のうち外周ステージの近接縁のきわめて近傍に位置する外周端縁は、液浸液によって飛び越され、液浸液と直接に接触しない。
【0011】
なお、上記発明においては上下方向を規定しているが、これは構成要素の相対関係を便宜的に規定するものであって、重力方向の上下を必ずしも意味しない。
【0012】
また、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液浸露光技術によれば、液浸液を液浸露光装置の外側から内側に向かって移動させる際に、有機膜の外周端縁が基板から剥離することがない。このため、基板および有機膜の外周付近まで露光エリアが設けられている場合にも、有機膜を損なうことなく投影レンズおよび液浸液を駆動して露光をおこなうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
<液浸露光装置>
図1は、本発明の実施形態にかかる液浸露光装置100の一例を模式的に示す部分縦断面図である。液浸露光装置100における上下方向と内外方向を、図中に両側矢印にて示す。
図2は、本実施形態の液浸露光装置100の平面図である。図1は、図2に一点鎖線で示す領域のI-I縦断面図にあたり、図中の左方は図示を省略している。
【0016】
はじめに、本実施形態の液浸露光装置100の概要について説明する。
液浸露光装置100は、露光ステージ10、外周ステージ20、投影レンズ30および駆動部40を備えている。
露光ステージ10には、有機膜50が上面に設けられた基板52を載置する。
外周ステージ20は、露光ステージ10の周囲に配置されている。
投影レンズ30は、露光ステージ10の上方に設けられて基板52に対して面内方向に相対移動するとともに、有機膜50との間に液浸液60を保持した状態で有機膜50を露光する。
駆動部40は、外周ステージ20を基板52に対して昇降方向に相対駆動する。
本実施形態の液浸露光装置100において、外周ステージ20は駆動部40により基板52と非接触に相対駆動される。
そして、外周ステージ20の上面22のうち有機膜50に近接する近接縁24の一部または全部は、駆動部40に相対駆動される下限位置Lが有機膜50と面一またはその下方であり、上限位置Hが有機膜50よりも上方である。
【0017】
次に、本実施形態の液浸露光装置100について詳細に説明する。
液浸露光装置100は、半導体素子や液晶表示素子、撮像素子などに例示されるデバイスの製造工程におけるリソグラフィー工程をおこなう装置である。以下、本実施形態では液浸露光装置100として、半導体製造装置の一つである縮小投影型露光装置(ステッパー)を例示するが、当業者であれば、液浸露光をおこなう他の装置に本発明を適用することが可能である。
【0018】
基板52には、略円形のシリコンウェハを用いることができる。基板52の主面の一方には有機膜50が被膜形成されている。有機膜50としては、金属配線層をフォトリソグラフィー法によりパターン形成するためのレジスト層を例示することができる。レジスト層は、感光性の有機材料を含んでいる。
図1に示すように、基板52は、厚み方向に面取りされた周縁53を除く全面(主面)が平坦に形成されている。有機膜50は、基板52の主面のほぼ全面に形成されている。
かかる基板52は、有機膜50の形成された主面を上面として露光ステージ10に載置されている。
【0019】
図2に示すように、露光ステージ10の平面視形状は、基板52の形状にあわせて円形または略円形をなしている。
露光ステージ10の周囲には、露光ステージ10および基板52から僅かに離間して、これらを取り囲むように外周ステージ20が設けられている。したがって、外周ステージ20は、少なくとも露光ステージ10に近接する内周側は円形をなしている。本実施形態では、外周ステージ20の上面22は一体の輪帯形状(円環状)をなしている。
露光ステージ10および外周ステージ20は、基台12の上に設置されている。
【0020】
図1に示すように、基板52は、周縁53が露光ステージ10よりも外周側に張り出している。すなわち、本実施形態の基板52は、露光ステージ10の載置面11よりも大径である。
一方、外周ステージ20には、内周側の中間高さ位置に凹部26が設けられている。外周ステージ20は、露光ステージ10、基板52および有機膜50に対して非接触に配置されている。このため、凹部26を外周ステージ20の内周側に形成して、基板52の周縁53に対する逃げを設けている。
【0021】
露光ステージ10の上方には、基板52に対向して投影レンズ30が設けられている。投影レンズ30は、露光光を集光して有機膜50に照射するための光学部材である。投影レンズ30は鏡筒32に保持されている。
鏡筒32は、図示しない駆動機構によって、基板52に対して昇降(面直)方向および水平(面内)方向に相対駆動される。
そして、鏡筒32および投影レンズ30は、有機膜50に形成された露光エリアに位置合わせされた状態で、照射装置(図示せず)から照射された露光光を有機膜50に向けて通過させる。
【0022】
投影レンズ30は、有機膜50との間に液浸液60を保持した状態で有機膜50を露光する。液浸液60は基板52の上面の一部に供給され、いわゆるパーシャルフィル状態となる。液浸液60を接触させた投影レンズ30や鏡筒32を水平駆動すると、液浸液60は投影レンズ30の下面や鏡筒32の内壁面との親和力によって引き摺られ、水平方向に追随して移動する。
液浸液60には、純水(超純水)のほか、グリセリンやアニソールなど純水よりも屈折率の大きい液体を用いることができる。
【0023】
駆動部40は、外周ステージ20を有機膜50に対して昇降方向に相対駆動する。本実施形態では、駆動部40として、液浸露光装置100の昇降(上下)方向に伸縮する油圧ジャッキを例示する。本実施形態では、三式の駆動部40(40a,40b,40c)が、平面視円環状の外周ステージ20の下部に120度間隔で配置されている。
なお、本発明においては、駆動部40の駆動方式はとくに限定されるものではなく、流体圧式のほか、モーター式や電磁式などでもよい。
そして、駆動部40a〜40cを個別に動作させることにより、外周ステージ20の昇降および傾斜を自在に制御する。すなわち、駆動部40a〜40cは、外周ステージ20を均一に昇降駆動することが可能である。また、駆動部40a〜40cは、外周ステージ20の中心高さを変えずに上面22を任意方向に傾斜させることも可能であり、外周ステージ20の中心高さを昇降させつつ上面22を任意方向に傾斜させることも可能である。
【0024】
なお、本実施形態では、露光ステージ10を静置して鏡筒32および外周ステージ20を駆動することとしているが、本発明はこれに限られない。たとえば、鏡筒32を空間に固定し、外周ステージ20を基台12に固定したうえで、露光ステージ10を水平方向および昇降方向に駆動することも可能である。
【0025】
図1に示すように、外周ステージ20のうち凹部26よりも上部は、基板52に向かって庇(ひさし)状に迫り出している。これにより、外周ステージ20の上面22のうち、内周側の縁(近接縁24)は、有機膜50に対して僅かな幅の空隙Vをもって近接している。
【0026】
かかる状態で、駆動部40a〜40cを個別に、またはいずれか複数を同時に昇降動作させることにより、外周ステージ20の上面22を昇降させ、また任意の向きに傾斜させることができる。これにより本実施形態の液浸露光装置100では、近接縁24の少なくとも一部が、有機膜50の面一高さまたはその下方から、有機膜50よりも上方まで移動可能である。
【0027】
図1に示す外周ステージ20の上面22は水平に設けられ、近接縁24は有機膜50の上面と面一にある。これにより、投影レンズ30および鏡筒32を液浸露光装置100の外方(同図右方)に水平駆動した場合、液浸液60はこれに追随して、有機膜50の外周端縁54から外周ステージ20の上面22(近接縁24)に移動することができる。
以下、ことわりなき場合、近接縁24とは、外周ステージ20の内周側の全縁ではなく、そのうち液浸液60の通過領域にあたる一部分を意味する場合がある。
【0028】
ここで、近接縁24の高さを有機膜50の上面に対して面一に合わせた場合、液浸液60は自身の粘性と表面張力により、所定の幅までの空隙Vであればこれを乗り越えることができる。
なお、本実施形態において近接縁24が有機膜50と面一の高さにあるとは、両者の高さが幾何学的に厳密に一致していることを意味するものではなく、有機膜50と外周ステージ20の上面22とを行き来する液浸液60の移動が有意に妨げられる程度の段差がない状態をいう。
【0029】
<液浸露光方法>
図3および図4を用いて、本実施形態の液浸露光装置100により実行される液浸露光方法(以下、本方法という場合がある)を説明する。
図3は、外周ステージ20の上面22から有機膜50に向かって液浸液60が移動する様子を模式的に示す部分縦断面図である。
図4は、有機膜50から外周ステージ20の上面22に向かって液浸液60が移動する様子を模式的に示す部分縦断面図である。
なお、図3,4では、投影レンズ30および鏡筒32(図1を参照)は図示を省略している。
【0030】
本方法は、基板52の上面に設けられた有機膜50と、基板52の上方に設けられた露光用の投影レンズ30との間に液浸液60を保持した状態で、投影レンズ30および液浸液60を、基板52の面内方向に相対移動させて有機膜50を露光する液浸露光方法に関する。
そして、本方法は、図3に示すように、基板52の周囲に基板52と非接触に配置された外周ステージ20を基板52に対して昇降方向に相対駆動して、外周ステージ20の上面22のうち有機膜50に近接する近接縁24の一部または全部を有機膜50よりも上方の第一高さ位置(上限位置H)に配置した状態で、投影レンズ30を外周ステージ20の上部から基板52の上部に向かって相対移動させ、液浸液60を有機膜50の外周端縁54と非接触に上面22から有機膜50の表面に相対移動させる第一移動工程を含む。
【0031】
本実施形態の投影レンズ30は、基板52および外周ステージ20の上部を基板52の面内方向に相対移動する。
第一移動工程において、駆動部40は、投影レンズ30および液浸液60が外周ステージ20の上部から基板52の上部に向かって相対移動する際に、液浸液60と接触する近接縁24を有機膜50よりも上方に配置する。
【0032】
すなわち、図2に示す駆動部40aを上昇させて駆動部40cを下降させるなどして、外周ステージ20の近接縁24を有機膜50よりも上方に位置させる。また、駆動部40bの昇降動作により、液浸液60の近傍における上面22の傾斜角度を微調整することができる。
かかる状態で、図3に白抜き矢印で示すように、投影レンズ30を液浸露光装置100の径方向の内側に向けて水平駆動する。そして、投影レンズ30の一部が外周ステージ20の上部から露光ステージ10の上部に差し掛かると、投影レンズ30の下面に保持された液浸液60の一部は、自身の粘性と表面張力により空隙Vを跨いで有機膜50に移る。
【0033】
ここで、本方法のように外周ステージ20の近接縁24を有機膜50よりも上方に配置したことにより、液浸液60と有機膜50との最外接触位置Cは、外周端縁54よりも所定距離だけ内側となる。最外接触位置Cから外周端縁54までの距離は、液浸液60の粘性や表面張力のほか、投影レンズ30の水平駆動速度や、近接縁24の上限位置Hと有機膜50との高低差などのパラメータによって変動する。最外接触位置Cを外周端縁54よりも内側とすることにより、液浸液60が外周端縁54に対して内側(逆目)方向への横力を与えることがなくなるため、外周端縁54における有機膜50の剥離を劇的に低減することができる。すなわち、液浸液60と有機膜50との接触による粘性摩擦は、有機膜50における最外接触位置Cよりも内側に対してのみ作用するところ、かかる摩擦力は外周端縁54に対しては引張力となるため、外周端縁54の剥離を生じることがない。
【0034】
また、本方法は、図4に示すように、第一高さ位置(上限位置H)よりも下方の第二高さ位置(下限位置L)に近接縁24の一部または全部を配置した状態で、投影レンズ30および液浸液60を、基板52の上部から外周ステージ20の上部に向かって相対移動させる第二移動工程をさらに含む。
【0035】
駆動部40は、投影レンズ30および液浸液60が基板52の上部から外周ステージ20の上部に向かって相対移動する際に、液浸液60と接触する近接縁24を有機膜50と面一またはその下方に配置する。
すなわち、本方法では、第二高さ位置(下限位置L)を有機膜50と面一またはその下方としている。
【0036】
具体的には、図2に示す駆動部40aを下降させて駆動部40cを上昇させるなどして、外周ステージ20の近接縁24を有機膜50と面一またはその下方に位置させる。
【0037】
これにより、投影レンズ30および液浸液60が空隙Vを跨いで露光ステージ10と外周ステージ20の双方に亘って配置された状態で、有機膜50の外周端縁54の近傍を露光することができる。そして、第二移動工程をおこなうに際して、外周ステージ20の近接縁24を有機膜50と面一またはその下方に配置することにより、液浸液60が近接縁24と衝突して分離または泡沫化することが防止される。
すなわち、液浸液60が外方に移動する際に近接縁24が有機膜50よりも高位にあると、液浸液60は上り段差を乗り越えて外周ステージ20に移動しなければならないところ、本方法ではこれが回避される。言い換えると、かかる上り段差を乗り越えられなかった液浸液60は空隙Vより落下して基板52の裏面側に流れ出すこととなるが、本方法ではこの問題が生じない。
【0038】
本方法では、とくに近接縁24の下限位置Lを、図4に示すように有機膜50の上面よりも下方としている。
これにより、液浸液60が有機膜50から外周ステージ20に向かって径方向の外側に移動する際に下り段差を跨ぐこととなるため、液浸液60が空隙Vに落下することをさらに好適に防止することができる。
【0039】
なお、本方法においては、第一移動工程と第二移動工程をおこなう順番は任意であり、いずれを先におこなっても、両工程を交互に複数回おこなっても、一方の工程と他方の工程の一部または全部を互いに重複したタイミングでおこなってもよい。
また、第一移動工程において液浸液60が通過する近接縁24と、第二移動工程において液浸液60が通過する近接縁24とは、互いに同一箇所であっても、異なる箇所であってもよい。
【0040】
すなわち、外周ステージ20の上面22の内周縁のうち、一部を有機膜50よりも上方に配置し、他の一部を下方に配置しておく。そして、液浸液60を、上記一部の近接縁24を通過させて外周ステージ20から露光ステージ10に向かって内向きに移動させ、上記他の一部の近接縁24を通過させて露光ステージ10から外周ステージ20に向かって外向きに移動させてもよい。
【0041】
図3,4に示すように、本実施形態の駆動部40は、近接縁24が液浸液60と接触するとき、投影レンズ30および液浸液60の相対移動方向に向かって上面22が下り傾斜した状態となるよう外周ステージ20を駆動する。
すなわち、本方法の第一移動工程(図3)および第二移動工程(図4)にて、外周ステージ20の上面22を昇降させて、投影レンズ30の相対移動方向に向かって下り傾斜させておく。
【0042】
具体的には、図3に示す第一移動工程では、外周ステージ20の上面22を有機膜50に向かって下り傾斜させる。また、図4に示す第二移動工程では、外周ステージ20の上面22を、有機膜50に向かって上り傾斜、つまり外周ステージ20の外側に向かって下り傾斜させる。
【0043】
これにより、第一移動工程および第二移動工程において、液浸液60が移動先の面(有機膜50の上面および外周ステージ20の上面22)に対して滑らかに接触する。したがって、第一移動工程においては外周端縁54の剥離がさらに抑制され、第二移動工程においては液浸液60の分離や泡沫化がさらに抑制される。
【0044】
また、本実施形態の液浸露光装置100においては、駆動部40a〜40cの昇降動作によって外周ステージ20の上面22を傾斜させることにより、近接縁24は昇降方向のみならず面内方向にも移動する。
すなわち、近接縁24は、外周ステージ20の上昇移動時に、上昇方向および有機膜50に近接する方向に移動し、外周ステージ20の下降移動時に、下降方向および有機膜50より離間する方向に移動する。
【0045】
これにより、第一移動工程では、近接縁24と外周端縁54との水平距離が近接して、液浸液60の最外接触位置Cと外周端縁54との径方向の距離を拡大することができる。このため、外周端縁54の剥離がさらに好適に抑えられる。
そして、第二移動工程では、近接縁24が基板52の周縁53と干渉しないよう、近接縁24を基板52から離間させつつ降下させる。
なお、第二移動工程では、液浸液60は有機膜50の外周端縁54に対して順面方向に接触するため、有機膜50と近接縁24との距離によらず、外周端縁54の剥離の問題は発生しない。
【0046】
本実施形態の液浸露光装置100では、鏡筒32の駆動機構(図示せず)と駆動部40とは電気的に接続されている。そして、駆動部40による外周ステージ20の昇降駆動の動作は、投影レンズ30および鏡筒32と同期してリアルタイムに制御される。
【0047】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0048】
図5は、上記実施形態にかかる液浸露光装置100の変形例を模式的に示す部分縦断面図である。同図では、変形例にかかる液浸露光装置100によって第一移動工程をおこなう状態を示している。
本変形例では、有機膜50よりも上方に移動した近接縁24が、有機膜50の外周端縁54に対して面内方向に重なり合っている。
すなわち、本変形例の液浸露光装置100では、上昇駆動された外周ステージ20の近接縁24が、有機膜50の外周端縁54を超えて基板52の中心側に迫り出している。
【0049】
本変形例のように、近接縁24が有機膜50の外周端縁54よりも内側に迫り出した状態で液浸液60を径方向の内側に移動させることにより、液浸液60を外周端縁54に対して確実に非接触とすることができる。このため、本変形例の液浸露光装置100によれば、液浸露光工程を実施した際の有機膜50の剥離がさらに好適に防止される。
【0050】
なお、本変形例において、近接縁24が有機膜50の外周端縁54に対して面内方向に重なるのは、近接縁24が上限位置H(図3を参照)に位置している場合に限られない。すなわち、近接縁24は、図5の状態をこえてさらに上昇可能であってもよい。その場合に、基板52の周縁53と外周ステージ20との干渉を防ぐため、上限位置Hでは近接縁24が外周端縁54に対して必ずしも重なっていなくてもよい。
また、本変形例において、近接縁24が外周端縁54に対して面内方向に重なり合っているとは、近接縁24の一部が外周端縁54に対して面内方向に一致して接している状態と、近接縁24が有機膜50にオーバーラップしている状態とを含む。
【0051】
なお、上記実施形態では、駆動部40(40a〜40c)として三点式の昇降装置を例示したが、本発明はこれに限られない。駆動部40を外周ステージ20に対して異なる四箇所以上に配置することはもちろんのこと、外周ステージ20の一箇所または二箇所を昇降させる態様としてもよい。たとえば、外周ステージ20の下面の一箇所を昇降する駆動部40を設けるとともに、外周ステージ20を、露光ステージ10の周囲を相対的に転回させてもよい。この場合、露光ステージ10上を移動する投影レンズ30の位置に応じて、当該位置に隣接する近接縁24が昇降されるよう外周ステージ20および駆動部40を転回しておく。そして、露光ステージ10の上部から外周ステージ20の上部に移動した投影レンズ30が、第一移動工程において再び露光ステージ10に向かって内向きに移動して戻る際に、駆動部40を駆動して近接縁24を上昇させるとよい。これにより、投影レンズ30の面内位置によらず、一式の駆動部40による昇降駆動によって、外周端縁54の全周に関して剥離の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態にかかる液浸露光装置の一例を模式的に示す部分縦断面図である。
【図2】本実施形態の液浸露光装置の平面図である。
【図3】外周ステージの上面から有機膜に向かって液浸液が移動する様子を模式的に示す部分縦断面図である。
【図4】有機膜から外周ステージの上面に向かって液浸液が移動する様子を模式的に示す部分縦断面図である。
【図5】変形例にかかる液浸露光装置を模式的に示す部分縦断面図である。
【図6】公知の液浸露光装置を模式的に示す部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 露光ステージ
11 載置面
12 基台
20 外周ステージ
22 上面
24 近接縁
26 凹部
30 投影レンズ
32 鏡筒
40 駆動部
50 有機膜
52 基板
53 周縁
54 外周端縁
60 液浸液
100,110 液浸露光装置
112 密着部材(シール部材)
C 最外接触位置
H 上限位置
L 下限位置
V 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機膜が上面に設けられた基板を載置する露光ステージと、
前記露光ステージの周囲に配置された外周ステージと、
前記露光ステージの上方に設けられて前記基板に対して面内方向に相対移動するとともに、前記有機膜との間に液浸液を保持した状態で前記有機膜を露光する投影レンズと、
前記外周ステージを前記基板に対して昇降方向に相対駆動する駆動部と、
を備え、
前記外周ステージは前記駆動部により前記基板と非接触に相対駆動されるとともに、
前記外周ステージの上面のうち前記有機膜に近接する近接縁の一部または全部は、前記駆動部に相対駆動される下限位置が前記有機膜と面一またはその下方であり、上限位置が前記有機膜よりも上方であることを特徴とする液浸露光装置。
【請求項2】
前記投影レンズが前記基板および前記外周ステージの上部を前記基板の面内方向に相対移動する請求項1に記載の液浸露光装置であって、
前記駆動部が、
前記投影レンズおよび前記液浸液が前記基板の上部から前記外周ステージの上部に向かって相対移動する際に、前記液浸液と接触する前記近接縁を前記有機膜と面一またはその下方に配置し、かつ、
前記投影レンズおよび前記液浸液が前記外周ステージの上部から前記基板の上部に向かって相対移動する際に、前記液浸液と接触する前記近接縁を前記有機膜よりも上方に配置することを特徴とする請求項1に記載の液浸露光装置。
【請求項3】
前記下限位置が、前記有機膜よりも下方である請求項1または2に記載の液浸露光装置。
【請求項4】
前記駆動部は、前記近接縁が前記液浸液と接触するとき、前記投影レンズおよび前記液浸液の相対移動方向に向かって前記上面が下り傾斜した状態となるよう前記外周ステージを駆動することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液浸露光装置。
【請求項5】
前記近接縁は、
前記外周ステージの上昇移動時に、上昇方向および前記有機膜に近接する方向に移動し、
前記外周ステージの下降移動時に、下降方向および前記有機膜より離間する方向に移動することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液浸露光装置。
【請求項6】
前記有機膜よりも上方に移動した前記近接縁が、前記有機膜の外周端縁に対して面内方向に重なり合うことを特徴とする請求項5に記載の液浸露光装置。
【請求項7】
基板の上面に設けられた有機膜と、前記基板の上方に設けられた露光用の投影レンズとの間に液浸液を保持した状態で、前記投影レンズおよび前記液浸液を、前記基板の面内方向に相対移動させて前記有機膜を露光する液浸露光方法であって、
前記基板の周囲に該基板と非接触に配置された外周ステージを前記基板に対して昇降方向に相対駆動して、前記外周ステージの上面のうち前記有機膜に近接する近接縁の一部または全部を前記有機膜よりも上方の第一高さ位置に配置した状態で、前記投影レンズを前記外周ステージの上部から前記基板の上部に向かって相対移動させ、前記液浸液を前記有機膜の外周端縁と非接触に前記上面から前記有機膜の表面に相対移動させる第一移動工程を含む液浸露光方法。
【請求項8】
前記第一高さ位置よりも下方の第二高さ位置に前記近接縁の一部または全部を配置した状態で、前記投影レンズおよび前記液浸液を、前記基板の上部から前記外周ステージの上部に向かって相対移動させる第二移動工程をさらに含む請求項7に記載の液浸露光方法。
【請求項9】
前記第二高さ位置が、前記有機膜と面一またはその下方である請求項8に記載の液浸露光方法。
【請求項10】
前記第一移動工程および第二移動工程にて、前記外周ステージの前記上面を、前記投影レンズの相対移動方向に向かって下り傾斜させておくことを特徴とする請求項8または9に記載の液浸露光方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−153661(P2010−153661A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331501(P2008−331501)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】