説明

混練押出機での粘度調整方法、および、混練押出機

【課題】混練押出機をコンパクトに構成する。また、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物の残留量を抑制し、いろいろなメルトフローレートのポリプロピレンの処理に対応させる。
【解決手段】最上流側の混練翼部21で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられたゲート装置31(第1の流路絞り機構)と、ゲート装置31の下流側の混練翼部22で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられたバタフライ弁36(第2の流路絞り機構)と、を備えた混練押出機1を用いる。ポリプロピレンと過酸化物とを混練するに際して、ゲート装置31によってポリプロピレンの充満率を高めるとともに、最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンが所定温度未満の場合は、バタフライ弁36によってポリプロピレンの充満率を高めることにより、最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンを当該所定温度以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂用の混練押出機での粘度調整方法、及び樹脂用の混練押出機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリプロピレンなどの原料樹脂(樹脂パウダー)を溶融させ、各種添加剤と混練させる混練押出機がある。この混練押出機は、ビス−ブレーキング(Vis-breaking)、あるいは、クラッキング(Cracking)と呼ばれる生産方法に用いられる。さらに詳しくは、原料供給機(原料供給ホッパー)から混練押出機に原料樹脂を供給する際に、同時に過酸化物を混練押出機に供給する。供給された原料樹脂と過酸化物とを混練押出機内で混ぜ、原料樹脂と過酸化物とを高温で反応させる。この反応により、原料樹脂の分子間主鎖が切断され、原料樹脂の分子量を低下させる。これにより、製品となる樹脂ペレットを任意の粘度や任意のメルトフローレートに調整していく。このような混練押出機は例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
過酸化物を原料樹脂と十分反応させるためには一定の滞留時間および混練樹脂温度が必要であり、必要な滞留時間および混練樹脂温度は過酸化物の種類により異なる。なお、滞留時間とは、混練押出機内での過酸化物および原料樹脂の混合物の滞留時間(混練時間)である。混練樹脂温度とは、混練押出機内での原料樹脂および過酸化物の温度(環境温度、運転樹脂温度)である。図2のグラフに、過酸化物の半減期(すなわち過酸化物の反応時間)と、温度との関係を示す。過酸化物Aは、200℃における半減期が10秒未満である。過酸化物Aは、従来の混練押出機での滞留時間と混練樹脂温度で問題なく原料樹脂と反応していた。よって、従来の混練押出機では、過酸化物Aを用いて製品樹脂ペレットを要求粘度に調整できていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−276422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、新たに用いられようと試みられている過酸化物は半減期が長く、200℃における半減期が10秒以上である(図2参照。以下、この過酸化物を過酸化物Bという)。すなわち、過酸化物Bを原料樹脂と十分に反応させるには過酸化物Aに比べ長い滞留時間と高い混練樹脂温度とが要求される。よって、特許文献1に記載のような従来の混練押出機で過酸化物Bを使用すると、滞留時間と混練樹脂温度とが不足して過酸化物Bと原料樹脂とが十分反応しない。よって、製品樹脂ペレットを要求粘度に調整できない場合がある。さらに、製品樹脂ペレット内の過酸化物の残留量は10ppm以下とするのが環境面から好ましいところ、過酸化物が10ppmより多く残留してしまう(以下、混練押出機から排出された製品樹脂ペレット内の過酸化物の残留量を単に「過酸化物の残留量」という)。
【0006】
ここで、図2に示すグラフから分かるように、混練樹脂温度をできるだけ高めることで、また、滞留時間をできるだけ長くすることで、より多くの過酸化物が反応する。すなわち、混練樹脂温度と滞留時間との積が大きいほど、過酸化物がより多く反応する。そこで、混練樹脂温度を高める方法としては、混練押出機のスクリュの混練翼部における形状を強練りの形状にすることや、スクリュの回転速度を大きくすることが考えられる。「強練りの形状にする」とは、例えば、捻れ角を小さくした混練翼を長く配置したり、戻し方向に捻れた混練翼を設けたり、ニーディングディスクや混練ロータセグメントを備えた形状にすることである。また、滞留時間を増やす方法としては、混練押出機のバレルを長くすることや、バレルの内径を大きくすることが考えられる。
【0007】
スクリュの混練翼部における形状を強練りの形状とすれば、混練樹脂温度が上がる。一方で、高粘度の樹脂の粘度を調整する場合は、エネルギー削減や下流の造粒性能の観点から混練樹脂温度が低い方が好ましい。しかしながら、スクリュの混練翼部における形状を強練りの形状とするのみでは、生産する樹脂の粘度に応じて混練樹脂温度を調整できない。
【0008】
スクリュの回転速度を上げれば、混練樹脂温度が上がる。しかしながら、スクリュ回転速度によって調整できる混練樹脂温度の幅は十分な大きさではない。すなわち、高粘度の樹脂を生産するときに適正な(低い)混練樹脂温度にし、かつ、前述の過酸化物Bを十分に反応させられる(高い)混練樹脂温度とすることは不可能である。
【0009】
混練押出機を長くする、または、バレルの内径を大きくすると、滞留時間が長くなる。しかしながら高粘度の樹脂を生産する場合、必要以上にコスト高になり、さらに、滞留時間が長すぎると混練樹脂温度が上がりすぎてしまう場合もある。
【0010】
そこで本発明の目的は、混練押出機をコンパクトに構成でき、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物の残留量を抑制でき、いろいろなメルトフローレートのポリプロピレンの処理に対応できる混練押出機、および、混練押出機での粘度調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
第1の発明は、ポリプロピレンと過酸化物とを混練してポリプロピレンの粘度調整を行う混練押出機での粘度調整方法である。前記混練押出機として、少なくとも2箇所の混練翼部を備えたスクリュと、最上流側の前記混練翼部より上流側に設けられた過酸化物供給部と、最上流側の前記混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた第1の流路絞り機構と、前記第1の流路絞り機構の下流側の前記混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた第2の流路絞り機構と、を備えたものを用いる。前記過酸化物として、200℃における半減期が10秒以上のものを用いる。前記ポリプロピレンと過酸化物とを混練するに際して、前記第1の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めるとともに、最下流側の前記混練翼部で混練されたポリプロピレンが所定温度未満の場合は、前記第2の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めることにより、最下流側の当該混練翼部で混練されたポリプロピレンを当該所定温度以上とする。
【0012】
この混練押出機での粘度調整方法では、ポリプロピレンと過酸化物とを混練するに際して、第1の流路絞り機構によって最上流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を高める。よって、この充満率を高めない場合に比べ、最上流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの温度が高くなる。
また、第2の流路絞り機構は、第1の流路絞り機構の下流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられる。この充満率を高めた場合は、この充満率を高めない場合に比べ、第1の流路絞り機構の下流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの温度が高くなる。
ここで、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物を用いた場合、かつ、最下流側の混練翼部で混練されたポリプロピレンが所定温度未満の場合は、第1の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めるのみでは、混練押出機から排出されたポリプロピレン中の過酸化物の残留量が所定値よりも大きくなってしまう。
一方で、この混練押出機での粘度調整方法では、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物を用いる。また、最下流側の混練翼部で混練されたポリプロピレンが所定温度未満の場合は、第2の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めることにより、最下流側の混練翼部で混練されたポリプロピレンを所定温度以上とする。よって、ポリプロピレンと過酸化物とがより多く反応する。したがって、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物の残留量を前記所定値以下に抑制できる。
また、この混練押出機での粘度調整方法では、最下流側の混練翼部で混練されたポリプロピレンが所定温度以上の場合は、第1の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率および温度を高めればよく、第2の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率や温度を高める必要はない。このように、この混練押出機での粘度調整方法では、いろいろなメルトフローレートのポリプロピレンの処理に対応することができる。
また、この混練押出機での粘度調整方法では、混練押出機の長さを長くする必要も、バレル内径を大きくする必要もなく、上記のように過酸化物の残留量を抑制できる。したがって、混練押出機をコンパクトに構成できる。
【0013】
第2の発明は、ポリプロピレンと過酸化物とを混練してポリプロピレンの粘度調整を行う混練押出機での粘度調整方法である。前記混練押出機として、少なくとも2箇所の混練翼部を備えたスクリュと、最上流側の前記混練翼部より上流側に設けられた過酸化物供給部と、最上流側の前記混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた第1の流路絞り機構と、前記第1の流路絞り機構の下流側の前記混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた第2の流路絞り機構と、を備えたものを用いる。前記過酸化物として、200℃における半減期が10秒以上のものを用いる。前記ポリプロピレンと過酸化物とを混練するに際して、前記第1の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めるとともに、原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)以上の場合は、前記第2の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高める。
【0014】
この混練押出機での粘度調整方法では、第1の発明と同様に、第1の流路絞り機構は、最上流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率および温度を高める。
また、第1の発明と同様に、第2の流路絞り機構は、第1の流路絞り機構の下流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率および温度を高めることが可能である。
ここで、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物を用いた場合、かつ、原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)以上の場合は、第1の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めるのみでは、混練押出機から排出されたポリプロピレン中の過酸化物の残留量が所定値よりも大きくなってしまう。
一方で、この混練押出機での粘度調整方法では、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物を用いる。また、原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)以上の場合は、第2の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高める。これにより、第1の流路絞り機構の下流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの温度が高まる。よって、ポリプロピレンと過酸化物とがより多く反応する。したがって、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物の残留量を前記所定値以下に抑制できる。
また、この混練押出機での粘度調整方法では、原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)未満の場合は、第1の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率および温度を高めればよく、第2の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率や温度を高める必要はない。このように、この混練押出機での粘度調整方法では、いろいろなメルトフローレートのポリプロピレンの処理に対応することができる。
また、この混練押出機での粘度調整方法では、第1の発明と同様に、混練押出機をコンパクトに構成できる。
【0015】
第3の発明の混練押出機での粘度調整方法では、前記混練押出機のバレル内における前記スクリュの軸方向中央より上流側のポリプロピレンの充満率を高めた上で、当該充満率が高められたポリプロピレンを最上流側の前記混練翼部で混練する。
【0016】
この混練押出機での粘度調整方法では、ポリプロピレンの充満率をスクリュの軸方向中央より下流側でのみ高める場合に比べ、より上流側で一早くポリプロピレンの温度が高められる。よって、温度が高められたポリプロピレンの混練押出機内での滞留時間がより長くなる(温度と時間との積が大きくなる)。したがって、ポリプロピレンと過酸化物とがより多く反応し、その結果、過酸化物の残留量をより抑制できる。
【0017】
第4の発明の混練押出機は、ポリプロピレンと過酸化物とを混練してポリプロピレンの粘度調整を行う混練押出機である。この混練押出機は、少なくとも2箇所の混練翼部を備えたスクリュであってバレル内における当該スクリュの軸方向中央より上流側に最上流側の当該混練翼部が設けられたスクリュと、最上流側の前記混練翼部より上流側に設けられた過酸化物供給部と、最上流側の前記混練翼部の下流側に設けられるとともに最上流側の当該混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更する第1の流路絞り機構と、前記第1の流路絞り機構の下流側の前記混練翼部の下流側に設けられた第2の流路絞り機構と、を備える。
【0018】
この混練押出機では、第1の発明と同様に、第1の流路絞り機構は、最上流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率および温度を高める。
また、最上流側の混練翼部は、バレル内におけるスクリュの軸方向中央より上流側に設けられる。よって、第3の発明と同様に、ポリプロピレンの温度が一早く高められ、その状態におけるポリプロピレンの混練押出機内での滞留時間がより長くなるので、過酸化物の残留量をより抑制できる。
また、第1の発明と同様に、第2の流路絞り機構は、第1の流路絞り機構の下流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率および温度を高めることが可能である。よって、第1の流路絞り機構のみでは過酸化物の残留量を所定値以下に抑制できないメルトフローレートのポリプロピレンを処理する場合でも、第2の流路絞り機構でポリプロピレンの充満率および温度を高めれば、過酸化物の残留量をより抑制できる。一方で、第1の流路絞り機構のみで過酸化物の残留量を所定値以下に抑制できるメルトフローレートのポリプロピレンを処理する場合は、第2の流路絞り機構でポリプロピレンの充満率および温度を高める必要はない。このように、単一の混練押出機でいろいろなメルトフローレートのポリプロピレンの処理に対応することができる。
また、この混練押出機では、第1の発明と同様に、混練押出機をコンパクトに構成できる。
【0019】
第5の発明の混練押出機の第1の流路絞り機構では、ポリプロピレンの通過流路の開度を全開の20%以下まで調整可能である。
【0020】
この混練押出機では、第1の流路絞り機構がポリプロピレンの通過流路を全開の20%より大きい開度までのみ調整できる場合に比べ、最上流側の混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率および温度の調整幅をより広げることができる。よって、対応(混練)可能なポリプロピレンのメルトフローレートの幅をより広げることができる。
【0021】
第6の発明の混練押出機では、内径Dの前記バレルの内側に配置された前記スクリュの長さLが、L/D=30以上に設定される。
【0022】
この混練押出機では、ポリプロピレンの混練押出機内での総滞留時間を十分長くとることができる。よって、半減期の長い過酸化物についてもポリプロピレンとより多く反応する。したがって、第1の流路絞り機構および第2の流路絞り機構と組み合わせることで、半減期の長い過酸化物についても残留量がより抑制されるように混練押し出し機を調整できる。
【0023】
第7の発明の混練押出機では、ポリプロピレンの混練押出機内での総滞留時間が15秒以上に調整可能となるように、前記スクリュの長さ、前記第1の絞り機構の開度の調整範囲、および、前記第2の絞り機構の開度の調整範囲が設定されている。
【0024】
この混練押出機では、ポリプロピレンの混練押出機内での総滞留時間を十分長くとることができ、半減期の長い過酸化物についても残留量がより抑制されるように混練押出機を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態の混練押出機を模式的に示す図である。
【図2】過酸化物の半減期と温度との関係を示すグラフである。
【図3】混練押出機内のポリプロピレンの温度分布を模式的に示すグラフである。
【図4】変形例の図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1〜図3を参照して本発明の混練押出機および混練押出機での粘度調整方法の実施形態について説明する。
【0027】
本実施形態の混練押出機1は、図1に示すように、樹脂(ポリプロピレン)と過酸化物とを混練して樹脂の粘度調整を行う機械である。混練押出機1は、原料供給ホッパー11から投入された粉体状の樹脂を溶融させると同時に、過酸化物を樹脂に練込み化学反応させる機械である。なお、混練押出機1は、混練押出機1と造粒機(図示なし)とで構成された、製品樹脂ペレットを製造する混練造粒装置の一部としてもよい。混練押出機1は、バレル10と、バレル10に取り付けられた原料供給ホッパー11と、バレル10または原料供給ホッパー11に取り付けられた過酸化物供給部12と、バレル10内に配置されたスクリュ20と、バレル10に設けられたゲート装置31(第1の流路絞り機構)およびバタフライ弁36(第2の流路絞り機構)とを備える。
【0028】
バレル10は、スクリュ20を内側に配置する筒状部材である。バレル10の上流側端部付近には、原料樹脂が供給される原料供給口10aが形成される。バレル10の下流側端部には、材料(混練された樹脂)が排出される先端排出口10bが形成される。
【0029】
原料供給ホッパー11は、粉体状の原料である樹脂パウダー、具体的には粉体状のポリプロピレンをバレル10内へ導入する装置である。原料供給ホッパー11は、バレル10の原料供給口10aに接続される。
【0030】
過酸化物供給部12は、原料に対して過酸化物を供給する部分である。過酸化物供給部12は、最上流側の混練翼部21(後述)より上流側に設けられる。具体的には、過酸化物供給部12は、原料供給ホッパー11に取り付けられ、過酸化物を原料供給ホッパー11内に入れる。または、過酸化物供給部12は、最上流側のバレル10に取り付けられ、過酸化物をバレル10内に入れる。なお、過酸化物供給部12は、液体状又は粉体状の過酸化物を原料に対して供給するものであれば何でも良く、例えばノズルまたはホッパー(図示なし)等である。
【0031】
過酸化物供給部12から供給される過酸化物Bは、200℃における半減期が10秒以上のものである(約10秒以上でも良い)。この過酸化物Bの半減期と温度との関係を図2に示す。過酸化物Bは、温度が高いほど半減期が短い(反応速度が速い)。
【0032】
スクリュ20は、図1に示すように、軸回りに回転することで、上流側の原料供給口10aから下流側の先端排出口10bに向かって樹脂を搬送する部材である。スクリュ20は、バレル10の内側に配置される。スクリュ20のバレル10内における長さLは、バレル10の内径をDとすると、L/D=30以上(L/D≧30)を満たすように設定される。このL/Dは、スクリュ軸のねじれ剛性や製造上の面から、一般的にはL/D=40程度が上限である。スクリュ20は、平行に配置された2本(2軸)のスクリュ20、20で構成される(図1では、図1における手前側の1本のみ図示している)。なお、バレル10の内径Dは、(2本分のスクリュ20、20ではなく)1本のスクリュ20の直径に対応する部分の長さである。
【0033】
また、スクリュ20により搬送される樹脂は、具体的にはポリプロピレン及び過酸化物を含む被混練材であるが、以下ではこの被混練材を単に「ポリプロピレン」という。スクリュ20は、少なくとも2箇所の混練翼部21及び22と、送り翼部23と、を備える。スクリュ20の混練翼部21、22及び送り翼部23における、バレル10とスクリュ20との間の容積Vに対するポリプロピレンの体積Vmの割合Vm/Vを充満率という。
【0034】
混練翼部21及び22は、ポリプロピレンを混練および昇温する部分であり、スクリュ20に少なくとも2箇所設けられる。混練翼部21及び22は、具体的には例えばニーディングディスクや混練ロータセグメントである。混練翼部21及び22の長さが短すぎるとポリプロピレンの混練効果がない。そこで、混練翼部21及び22の長さM1及びM2は、バレル10の内径Dに対し、M1/D≧1、及び、M2/D≧1を満たすように設定される。
【0035】
混練翼部21(最上流側の混練翼部)は、複数の混練翼部21及び22のうち最も上流側の(最初の)混練翼部である。混練翼部21は、バレル10内におけるスクリュ20の軸方向中央20cより上流側に配置される(設けられる)。言い換えれば、スクリュ20の長さLのうち上流側のL/2の範囲内に混練翼部21が配置される。混練翼部21は、スクリュ20の上流側端部に近い部分(バレル10の原料供給口10aに近い部分)に配置することが好ましい。この場合、より上流側でポリプロピレンの温度を上げることができる。すなわち、ポリプロピレンの温度と移動距離との積(図3の面積S)をより大きくできる。
【0036】
混練翼部22は、ゲート装置31の下流側の混練翼部(第1の流路絞り機構の下流側の混練翼部)である。また、混練翼部22は、複数の混練翼部21及び22のうち最も下流側の(最後の)混練翼部である(最下流側の混練翼部)。混練翼部22は、例えば、バレル10内におけるスクリュ20の軸方向中央20cより下流側に配置される。
【0037】
ゲート装置31およびバタフライ弁36は、バレル10内におけるポリプロピレンの通過面積(ゲート装置31やバタフライ弁36をスクリュ20の軸方向に見た場合における材料通過流路の開度)を調整する流路絞り機構である。ゲート装置31およびバタフライ弁36で材料通過流路の開度を絞るほど、その手前の(上流側の)混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率が高まり、充満率が高められたポリプロピレンの温度が高まる(上がる)とともに滞留時間が長くなる。ゲート装置31の手前(上流側)には温度センサー32が、バタフライ弁36の手前には温度センサー37が設けられる。ゲート装置31およびバタフライ弁36の開度は、温度センサー32及び37により測定されたポリプロピレンの温度に応じて調整される。
【0038】
ゲート装置31(第1の流路絞り機構)は、最上流側の混練翼部21で混練されるポリプロピレンの充満率を高める(変更する)装置である。すなわち、バレル10内におけるスクリュ20の軸方向中央20cより上流側においてポリプロピレンの充満率を高める装置である。ゲート装置31は、ポリプロピレンの通過流路の開度を全開の20%以下まで調整可能である。すなわち、全開(開度100%)〜全開の20%以下のある開度(例えば開度15%)までの範囲内で調整可能である。ゲート装置31は、最上流側の混練翼部21の下流側(例えば、混練翼部21の下流側に隣接する位置)に設けられる。ゲート装置31は、例えば、バレル10の軸方向中央10c付近に設けられる。ゲート装置31は、具体的には、スクリュ20の途中に形成された断面円形部(翼を設けていない部分)を上下から取り囲むように配置された2枚の板状部材であり、これら2枚の板が同時に上下に動くことにより混練押出機1内の流路面積の開度(ポリプロピレンの通過流路の開度)を変える構造となっている。
【0039】
バタフライ弁36(第2の流路絞り機構)は、ゲート装置31の下流側の混練翼部22で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた弁である。バタフライ弁36は、ゲート装置31の下流側の混練翼部22の下流側に設けられる。言い換えれば、ゲート装置31とバタフライ弁36との間に混練翼部22が位置するように、バタフライ弁36が配置される。バタフライ弁36は、バレル10の軸方向中央10cより下流側の、例えば先端排出口10b付近の、スクリュ20より下流側の位置に配置される。バタフライ弁36は、具体的には、邪魔板が回転することにより、混練押出機1内の流路面積(ポリプロピレンの通過流路の開度)を変える構造となっている。また、バタフライ弁36の開度は次の場合に変える。
【0040】
バタフライ弁36の開度は、最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンが所定温度未満の場合([条件1]とする)に変える。具体的には例えば、過酸化物として200℃における半減期が10秒以上のものを使用する場合、温度センサー37で計測された温度が240℃未満の場合に変える(温度を計測する位置は、最下流側の混練翼部22より下流側であればどこでも良い。例えば先端排出口10bの外側でも良い)。バタフライ弁36を絞ることで、混練翼部22で混練されたポリプロピレンが所定温度(240℃)となる。さらに詳しくは、ゲート装置31の下流側(バタフライ弁36の上流側)の混練翼部22で混練されるポリプロピレンの充満率を高めて、最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンを所定温度(240℃)以上とする。
【0041】
または、バタフライ弁36の開度は、原料のポリプロピレン(混練前の、原料供給ホッパー11に供給されるポリプロピレン)のメルトフローレートが所定値以上の場合([条件2]とする)、具体的にはメルトフローレートが7(g/10分)以上の場合に変える(絞る)。これにより、ゲート装置31の下流側(バタフライ弁36の上流側)の混練翼部22で混練されるポリプロピレンの充満率および温度を高める。
なお、上記[条件1]または[条件2]のいずれか一方を満たす場合にバタフライ弁36の開度を変えても良く、また、[条件1]かつ[条件2]を満たす場合にバタフライ弁36の開度を変えても良い。
【0042】
また、混練押出機1では、ポリプロピレンの混練押出機1内での総滞留時間が15秒以上に調整可能となるように、スクリュ20の長さL、ゲート装置31の開度の調整範囲、および、バタフライ弁36の開度の調整範囲が設定されている。なお、ポリプロピレンの混練押出機1内での総滞留時間を長くするには、スクリュ20の長さLを長くする、または、ゲート装置31またはバタフライ弁36の開度を絞ればよい。
【0043】
なお、混練押出機1は、ポリプロピレンと過酸化物とを混練してポリプロピレンの粘度調整を行う装置であるが、この混練押出機1を用いて過酸化物を供給せずに運転する場合も想定される。混練押出機1を過酸化物を供給しない運転に用いる場合は、エネルギー削減や下流の造粒性能の観点から混練樹脂温度(混練されるポリプロピレンの温度)が低い方が好ましい。したがって、混練押出機1は、原料樹脂(ポリプロピレン)の粘度に応じて混練樹脂温度を調整できるだけでなく、過酸化物を供給する場合としない場合とに応じて混練樹脂温度を調整できることが好ましい。
ここで、上述したように、過酸化物の残留量を抑制するために、スクリュ20の形状を強練りの形状とすることが考えられる。しかしながら、スクリュ20の形状を強練りの形状とするのみでは、過酸化物を供給する場合としない場合とに応じて混練樹脂温度を調整することは不可能である。
また、過酸化物の残留量を抑制するために、スクリュ20の回転速度を調整することが考えられる。しかしながら、この調整範囲は狭いため、過酸化物を供給する場合としない場合とに応じた混練樹脂温度の調整は不可能である。
また、過酸化物の残留量を抑制するために、混練押出機1(バレル10やスクリュ20)を長くする、または、バレル10の内径Dを大きくすることが考えられる。しかしながらこの場合、混練押出機1に過酸化物を供給しない場合に必要以上にコスト高となる。
一方で混練押出機1では、ゲート装置31およびバタフライ弁36の開度を大きくすることで混練樹脂温度が高まり過ぎることのないように調整でき、過酸化物を供給しない場合にも対応できる。さらに混練押出機1では、混練押出機1を長くする必要もバレル10の内径Dを大きくする必要もない(後述)。
【0044】
次に、混練押出機1を用いてポリプロピレンの粘度を調整した実施例1〜5について説明する。
【0045】
(実施例1)
実施例1では、メルトフローレート7(g/10分)未満(具体的には1(g/10分))のポリプロピレンの粘度を調整した。過酸化物は、200℃における半減期が10秒以上のもの(過酸化物B)を使用した。ゲート装置31を全閉(ポリプロピレンの通過流路の開度は15%)とし、バタフライ弁36は全開(同100%)とした。なお、ゲート装置31の位置は、バレル10の軸方向中央10c付近とした。また、下記の条件で実験を行った。製品樹脂ペレット内の過酸化物Bの残留量は表1に示す割合となった。なお、表1では、ゲート装置31を「絞り1(途中)」と、バタフライ弁36を「絞り2(先端)」と記載している。また、メルトフローレートは、JIS K6760に規定される試験機に相当するものを用い、JIS K7210に規定される測定方法に基づいて測定することができるが、本実施例においては原料樹脂のメルトフローレートとして材料メーカの公表値を用いている。
【0046】
原料樹脂:ポリプロピレン
原料樹脂のメルトフローレート:約1(g/10分)
過酸化物B:約950ppm添加
処理量:428kg/h
バレル内径D(混練押出機1の口径):約70mm
L/D(スクリュ長Lとバレル内径Dとの比):30
最上流側の混練翼部21部の位置:スクリュ20の軸方向中央20cよりも上流側
【0047】
【表1】

【0048】
上述したように過酸化物の残留量は10ppm以下が望ましいところ、実施例1の過酸化物の残留量は10ppmより十分小さい量(0.3ppm以下)に減った。なお、排出樹脂温度(最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンの温度。先端排出口10b付近のポリプロピレンの温度)は240℃以上の247℃であった。
【0049】
(実施例2〜5)
実施例2〜4では、メルトフローレート7(g/10分)以上(具体的には7[g/10分])のポリプロピレンの粘度を調整した。過酸化物は、200℃における半減期が10秒以上のもの(過酸化物B)を使用した。実施例2及び3では、ゲート装置31のみ調整し、バタフライ弁36は全開とした。実施例4及び5では、ゲート装置31及び、バタフライ弁36を調整した。また、下記の条件で実験を行った。各実施例の製品樹脂ペレット内の過酸化物の残留量は表2に示す割合となった。
【0050】
原料樹脂:ポリプロピレン
原料樹脂のメルトフローレート:約7(g/10分)
過酸化物B:約450ppm添加
処理量:428kg/h
バレル内径D(押出機口径):約70mm
L/D(スクリュ長Lとバレル内径Dとの比):30
最上流側の混練翼部21部の位置:スクリュ20の軸方向中央20cよりも上流側
【0051】
【表2】

【0052】
実施例2及び3では、過酸化物の残留量は10ppm以上となった。なお、実施例2及び3では排出樹脂温度が240℃未満の229℃であった。
この結果から、ゲート装置31のみ備える混練押出機では、高粘度の樹脂を生産するとき(実施例1の場合)に適正な混練樹脂温度にすることは可能だが、過酸化物Bを十分反応させる(残留量を10ppm未満とする)ほど混練樹脂温度を高めることは不可能であることが分かった。なお、バタフライ弁36のみ備える混練押出機では、ゲート装置31のみ備える場合に比べ、ポリプロピレンの移動距離と温度との積(後述する図3の面積S)が小さいので、過酸化物Bを十分反応させるほど混練樹脂温度を高めることは不可能であることが分かる。
【0053】
実施例4及び5では、過酸化物の残留量は10ppmより十分小さい量(0.69ppm及び0.3ppm以下)に減った。なお、実施例4及び5では、排出樹脂温度は240℃以上(240℃及び246℃)であった。
【0054】
(上記実施形態の混練押出機等の特徴)
本実施形態の混練押出機1、および、混練押出機1での粘度調整方法には以下の特徴がある。
【0055】
(特徴1)
この混練押出機1での粘度調整方法では、ポリプロピレンと過酸化物とを混練するに際して、ゲート装置31によって最上流側の混練翼部21で混練されるポリプロピレンの充満率を高める。よって、この充満率を高めない場合に比べ、最上流側の混練翼部21で混練されるポリプロピレンの温度が高くなる。
また、バタフライ弁36は、ゲート装置31の下流側の混練翼部22で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられる。この充満率を高めた場合は、この充満率を高めない場合に比べ、ゲート装置31の下流側の混練翼部22で混練されるポリプロピレンの温度が高くなる。
【0056】
ここで、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物B(図2参照)を用いた場合、かつ、最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンが所定温度(240℃)未満の場合は、ゲート装置31によってポリプロピレンの充満率を高めるのみでは、混練押出機1から排出されたポリプロピレン中の過酸化物Bの残留量が所定値(10ppm)よりも大きくなってしまう。
一方で、この混練押出機1での粘度調整方法では、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物Bを用いる。そして、最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンが所定温度(240℃)未満の場合は、バタフライ弁36によってポリプロピレンの充満率を高める。これにより、最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンを所定温度(240℃)以上とする。よって、ポリプロピレンと過酸化物Bとがより多く反応する。したがって、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物Bの残留量を所定値(10ppm)以下に抑制できる。
【0057】
また、この混練押出機1での粘度調整方法では、最下流側の混練翼部22で混練されたポリプロピレンが所定温度(240℃)以上の場合は、ゲート装置31によってポリプロピレンの充満率および温度を高めればよく、バタフライ弁36によってポリプロピレンの充満率や温度を高める必要はない。このように、この混練押出機1での粘度調整方法では、いろいろなメルトフローレートのポリプロピレンの処理に対応することができる。
【0058】
また、この混練押出機1での粘度調整方法では、混練押出機1の長さ(バレル10やスクリュ20の長さ)を長くする必要も、バレル10の内径Dを大きくする必要もなく、上記のように過酸化物Bの残留量を抑制できる。したがって、混練押出機1をコンパクトに構成できる。
【0059】
(特徴2)
200℃における半減期が10秒以上の過酸化物Bを用いた場合、かつ、原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)以上の場合は、ゲート装置31によってポリプロピレンの充満率を高めるのみでは、混練押出機1から排出されたポリプロピレン中の過酸化物Bの残留量が所定値(10ppm)よりも大きくなってしまう。
一方で、この混練押出機1での粘度調整方法では、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物Bを用いる。また、原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)以上の場合は、バタフライ弁36によってポリプロピレンの充満率を高める。これにより、ゲート装置31の下流側の混練翼部22で混練されるポリプロピレンの温度が高まる。よって、ポリプロピレンと過酸化物Bとがより多く反応する。したがって、200℃における半減期が10秒以上の過酸化物Bの残留量を所定値(10ppm)以下に抑制できる。
【0060】
また、この混練押出機1での粘度調整方法では、原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)未満の場合は、ゲート装置31によってポリプロピレンの充満率および温度を高めればよく、バタフライ弁36によってポリプロピレンの充満率や温度を高める必要はない。このように、この混練押出機1での粘度調整方法では、いろいろなメルトフローレートのポリプロピレンの処理に対応することができる。
【0061】
(特徴3)
この混練押出機1での粘度調整方法では、バレル10内におけるスクリュ20の軸方向中央20cより上流側のポリプロピレンの充満率を高めた上で、この充満率が高められたポリプロピレンを最上流側の混練翼部21で混練する。よって、ポリプロピレンの充満率をスクリュ20の軸方向中央20cより下流側でのみ高める場合に比べ、より上流側で一早くポリプロピレンの温度が高められる。よって、温度が高められたポリプロピレンの混練押出機1内での滞留時間がより長くなる(温度と時間との積が大きくなる)。したがって、ポリプロピレンと過酸化物とがより多く反応し、その結果、過酸化物Bの残留量をより抑制できる。
【0062】
この特徴について図3に基づいてさらに説明する。図3に、混練押出機1(図1参照。以下、混練押出機1の構成要素については図1参照)の軸方向位置と樹脂(ポリプロピレン)の温度との関係を示す。ゲート装置31やバタフライ弁36がない、あるいは流路を絞っていない場合の樹脂温度分布を破線T1で示す。ゲート装置31やバタフライ弁36で流路を絞った場合の樹脂温度分布を実線T2で示す。流路を絞った場合は、流路を絞らない場合に比べ、ポリプロピレンの移動距離と温度との積が面積Sだけ大きくなる(なお、ポリプロピレンの移動速度を一定とすれば、移動距離が長いと滞留時間も長くなる)。この面積Sが大きいほど過酸化物Bの反応がよく行われることになる。また、混練押出機1の先端排出口10bでのポリプロピレンの温度が同じでも(排出樹脂温度を図3の温度T3に固定したとすると)、ポリプロピレンの温度を高める位置が上流側であるほど(原料供給口10aに近いほど)、面積Sが大きくなる。これを踏まえると、図1に示すように、混練押出機1では、バレル10内におけるスクリュ20の軸方向中央20cより上流側のポリプロピレンの充満率および温度を高めるので、単に排出樹脂温度T3(図3参照)を高めるよりも効果的に過酸化物を反応させることができる。
【0063】
(特徴4)
この混練押出機1では、最上流側の混練翼部21は、バレル10内におけるスクリュ20の軸方向中央20cより上流側に設けられる。よって、(特徴3)で述べたように、混練翼部21でポリプロピレンの温度が一早く高められ、その状態におけるポリプロピレンの混練押出機1内での滞留時間がより長くなるので、過酸化物Bの残留量をより抑制できる。
【0064】
また、バタフライ弁36は、ゲート装置31の下流側の混練翼部22で混練されるポリプロピレンの充満率および温度を高めることが可能である。よって、ゲート装置31のみでは過酸化物Bの残留量を所定値(10ppm)以下に抑制できないメルトフローレートのポリプロピレンを処理する場合でも、バタフライ弁36でポリプロピレンの充満率および温度を高めれば、過酸化物Bの残留量をより抑制できる。一方で、ゲート装置31のみで過酸化物Bの残留量を所定値(10ppm)以下に抑制できるメルトフローレートのポリプロピレンを処理する場合は、バタフライ弁36でポリプロピレンの充満率および温度を高める必要はない。このように、単一の混練押出機1でいろいろなメルトフローレートのポリプロピレンの処理に対応することができる。
【0065】
(特徴5)
この混練押出機1のゲート装置31では、ポリプロピレンの通過流路の開度を全開の20%以下まで調整可能である。よって、ゲート装置31が同開度を全開の20%より大きい開度までのみ調整できる場合に比べ、最上流側の混練翼部21で混練されるポリプロピレンの充満率および温度の調整幅をより広げることができる。よって、対応(混練)可能なポリプロピレンのメルトフローレートの幅をより広げることができる。
【0066】
(特徴6)
この混練押出機1では、内径Dのバレル10の内側に配置されたスクリュ20の長さLが、L/D=30以上に設定される。よって、L/D=30未満の場合に比べ、ポリプロピレンの混練押出機1内での総滞留時間を十分長くとることができる。よって、半減期の長い過酸化物Bについてもポリプロピレンとより多く反応する。したがって、上記のL/Dの設定と、流路絞り機構(ゲート装置31、バタフライ弁36)とを組み合わせることで、半減期の長い過酸化物についても残留量がより抑制されるように混練押し出し機を調整できる。
【0067】
(特徴7)
この混練押出機1では、ポリプロピレンの混練押出機1内での総滞留時間が15秒以上に調整可能となるように、スクリュ20の長さL、ゲート装置31の開度の調整範囲、および、バタフライ弁36の開度の調整範囲が設定されている。よって、同総滞留時間を十分長くとることができ、半減期の長い過酸化物Bについてもの残留量がより抑制されるように混練押出機1を調整できる。
【0068】
(変形例)
図4に変形例の混練押出機101を示す。図1に示すバタフライ弁36は、図4に示すゲート装置136に置換しても良い。ゲート装置136は、上述したバタフライ弁36と同様の条件で動作させる。ゲート装置136は、バレル10の例えば先端排出口10b付近の、スクリュ20の途中に形成された断面円形部を上下から取り囲むように配置(設置)される。ゲート装置136は、ゲート装置31より下流側の混練翼部22の下流側に設けておけばよく、例えば混練翼部22に隣接して配置される。
【0069】
(その他の変形例)
上記実施形態では、第2の流路絞り機構(バタフライ弁36(図1参照)またはゲート装置136(図4参照))によりポリプロピレンの充満率が変更可能とされた混練翼部22、すなわち「第1の流路絞り機構(ゲート装置31)の下流側の混練翼部22」は、「最下流側の混練翼部22」でもあった。しかしながら、スクリュ20に混練翼部が3以上設けられている場合は、「第1の流路絞り機構の下流側の混練翼部」(混練翼部aとする)と「最下流側の混練翼部」(混練翼部bとする)とは別個の混練翼部でも良い。例えば、図1および図4に示すゲート装置31と混練翼部22との間に混練翼部aを設けても良い。また例えば、図4に示すゲート装置136よりも下流側に混練翼部bを設けても良い。
【0070】
また例えば、第2の流路絞り機構(バタフライ弁36(図1参照)またはゲート装置136(図4参照))は、混練翼部22で混練されたポリプロピレンの温度が240℃未満の場合、または、原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)以上の場合に流路を絞った。しかしながら、流路を絞るか絞らないかを判断する基準となる具体的な温度やメルトフローレートの値は、目標とする過酸化物の残留量(例えば10ppm以下)に応じて適宜変更できる。
【符号の説明】
【0071】
1、101 混練押出機
10 バレル
12 過酸化物供給部
20 スクリュ
21 混練翼部(最上流側の混練翼部)
22 混練翼部(第1の流路絞り機構の下流側の混練翼部、最下流側の混練翼部)
31 ゲート装置(第1の流路絞り機構)
36 バタフライ弁(第2の流路絞り機構)
136 ゲート装置(第2の流路絞り機構)
D 内径
L 長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンと過酸化物とを混練してポリプロピレンの粘度調整を行う混練押出機での粘度調整方法であって、
前記混練押出機として、
少なくとも2箇所の混練翼部を備えたスクリュと、
最上流側の前記混練翼部より上流側に設けられた過酸化物供給部と、
最上流側の前記混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた第1の流路絞り機構と、
前記第1の流路絞り機構の下流側の前記混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた第2の流路絞り機構と、を備えたものを用い、
前記過酸化物として、200℃における半減期が10秒以上のものを用い、
前記ポリプロピレンと過酸化物とを混練するに際して、
前記第1の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めるとともに、
最下流側の前記混練翼部で混練されたポリプロピレンが所定温度未満の場合は、前記第2の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めることにより、最下流側の当該混練翼部で混練されたポリプロピレンを当該所定温度以上とする、混練押出機での粘度調整方法。
【請求項2】
ポリプロピレンと過酸化物とを混練してポリプロピレンの粘度調整を行う混練押出機での粘度調整方法であって、
前記混練押出機として、
少なくとも2箇所の混練翼部を備えたスクリュと、
最上流側の前記混練翼部より上流側に設けられた過酸化物供給部と、
最上流側の前記混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた第1の流路絞り機構と、
前記第1の流路絞り機構の下流側の前記混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更可能に設けられた第2の流路絞り機構と、を備えたものを用い、
前記過酸化物として、200℃における半減期が10秒以上のものを用い、
前記ポリプロピレンと過酸化物とを混練するに際して、
前記第1の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高めるとともに、
原料のポリプロピレンのメルトフローレートが7(g/10分)以上の場合は、前記第2の流路絞り機構によってポリプロピレンの充満率を高める、混練押出機での粘度調整方法。
【請求項3】
前記混練押出機のバレル内における前記スクリュの軸方向中央より上流側のポリプロピレンの充満率を高めた上で、当該充満率が高められたポリプロピレンを最上流側の前記混練翼部で混練する、請求項1または2に記載の混練押出機での粘度調整方法。
【請求項4】
ポリプロピレンと過酸化物とを混練してポリプロピレンの粘度調整を行う混練押出機であって、
少なくとも2箇所の混練翼部を備えたスクリュであって、バレル内における当該スクリュの軸方向中央より上流側に最上流側の当該混練翼部が設けられたスクリュと、
最上流側の前記混練翼部より上流側に設けられた過酸化物供給部と、
最上流側の前記混練翼部の下流側に設けられるとともに、最上流側の当該混練翼部で混練されるポリプロピレンの充満率を変更する第1の流路絞り機構と、
前記第1の流路絞り機構の下流側の前記混練翼部の下流側に設けられた第2の流路絞り機構と、を備えた混練押出機。
【請求項5】
前記第1の流路絞り機構では、ポリプロピレンの通過流路の開度を全開の20%以下まで調整可能である、請求項4に記載の混練押出機。
【請求項6】
内径Dの前記バレルの内側に配置された前記スクリュの長さLが、L/D=30以上に設定された、請求項4または5に記載の混練押出機。
【請求項7】
ポリプロピレンの混練押出機内での総滞留時間が15秒以上に調整可能となるように、前記スクリュの長さ、前記第1の絞り機構の開度の調整範囲、および、前記第2の絞り機構の開度の調整範囲が設定されている、請求項4〜6のいずれか1項に記載の混練押出機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−51228(P2012−51228A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195322(P2010−195322)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】