説明

減速装置及びその遊星歯車固定方法

【課題】遊星歯車を備えた減速装置において、遊星歯車を回転自在に支持する転がり軸受の軸方向移動を抑止する固定プレートの異常摩耗を防止する。
【解決手段】回転軸の回転を該回転軸に取り付けられた太陽歯車から遊星歯車を介し減速して回転伝達機構に伝達し、該遊星歯車を転がり軸受13を介してキャリア又は固定部材11の円筒軸12に嵌合固定してなる減速装置において、円筒軸12の端面12aに押え部材16を固定し、該押え部材を転がり軸受端面に当てて転がり軸受13の軸方向移動を係止し、該押え部材の内部に摩耗検知回路に接続された電極21を転がり軸受端面との間に設定寸法の空隙を介在させて配置し、該押え部材の転がり軸受13に対する摺接面が摩耗して該電極と転がり軸受端面とが接触した時に摩耗検知回路を作動させて該押え部材の摩耗を検知するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の走行装置等に使用され出力軸の回転を減速する減速装置に関し、詳しくは、出力軸の回転を減速して回転伝達機構に伝達する遊星歯車の固定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械は、クローラ等の走行装置で走行するが、走行装置の駆動装置として、走行ユニットが使用される。この走行ユニットは、本体車両に固定される固定ケーシングの内部に油圧モータを配置し、油圧モータの出力軸の回転を固定ケーシングに同心状に回転自在に嵌合した回転ケーシングに遊星歯車機構を介して伝達し、回転ケーシングの外周に設けたスプロケットによりクローラを駆動するように構成されている。
【0003】
特許文献1(特開2002−213568号公報)には、前述の走行ユニットの構成が開示されている。この走行ユニットは、回転ケーシング内に2段遊星歯車式の減速機構を内蔵している。
この減速機構を構成する遊星歯車は、キャリアに一体に形成された円筒形状の軸に転がり軸受を介して回転自在に取り付けられている。そして、キャリアに取り付けられた遊星歯車が転がり軸受の軸方向に移動しないように、ホルダ24でキャリアに固定されている(図1,図4、図5、図8、図9又は図10参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に開示された前記ホルダ24は、構造が複雑であり、その加工に手間がかかり、製造費が高コストとなる問題がある。また、ホルダ24はスペースを取るため、減速機構の狭い空間に取り付けるには不向きであるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明者等は、簡単な構成で低コストであり、省スペースが可能な固定手段を考案した。以下、この固定手段を採用した走行ユニットの構成を図5及び図6で説明する。図5において、走行ユニット100は、固定ケーシング105内に油圧モータ102を内蔵し、固定ケーシング103に対して回転ケーシング104を回転自在に嵌合し、回転ケーシング104に2段遊星歯車式の減速装置101を内蔵している。油圧モータ102が収容された空間は、油路等を有する蓋体105で密閉され、回転ケーシング104及び固定ケーシング103の内部空間は、潤滑油が封入された密閉空間sを形成している。
【0006】
回転ケーシング104は、固定ケーシング103の外側に軸受111で回転自在でかつ軸方向に移動しないように取り付けられている。回転ケーシング104と油圧モータ102とを組み上げた軸方向の略中央に、図示しないクローラ用スプロケットを取り付けるフランジ112からなる回転伝達機構が設けられている。
【0007】
回転ケーシング104の内周には内歯113が形成され、油圧モータ102の出力軸114の先端に第1太陽歯車115が固設されている。第1太陽歯車115と内歯113の間に、キャリア116にニードル軸受118を介して回転自在に支持された複数の第1遊星歯車117が噛み合っている。第1遊星歯車117は自転しながら第1太陽歯車115の周囲を公転する。第1遊星歯車117の第1太陽歯車115回りの公転運動が伝わるキャリア116の内周と第2太陽歯車121の外周とが係合して連動する。第2太陽歯車121は、出力軸114の外周側に出力軸114とは独立して回転可能なように装着されている。
【0008】
1個の第1太陽歯車115、1個の第1遊星歯車117、内歯113及び出力軸としても機能するキャリア116が第1段目の遊星歯車機構110を構成している。
固定ケーシング103の一端側から複数の円筒形状の軸122が一体に突設されている。この円筒軸122に、第2太陽歯車121と内歯113に噛み合う複数の第2遊星歯車123がニードル軸受124を介して回転自在に嵌合固定されている。
第2太陽歯車121と、自転しながら第2太陽歯車121の周囲を公転する複数の第2遊星歯車123と、出力軸として機能する内歯113が第2段目の遊星歯車機構120を構成している。
【0009】
以上の構成により、減速装置101は、油圧モータ102の駆動によって第1太陽歯車115が時計方向に回転すると、第1太陽歯車115及び内歯113の両方に噛み合う第1遊星歯車117が、キャリア116と共に、第1太陽歯車117の回りを公転する。
この回転が第2太陽歯車121に伝達され、さらに第2遊星歯車123を経て、内歯113を有する回転ケーシング104に伝達され、回転ケーシング104が減速して反時計方向に回転するので、フランジ112に取り付けられた図示しない回転伝達用スプロケットが回転駆動される。
【0010】
この減速装置101では、第1遊星歯車117又は第2遊星歯車123は、ニードル軸受118又は124を介して、キャリア116又は円筒軸122に回転自在に支持されている。ニードル軸受は、転がり軸受の1種で、転動体に細長いころを使用し、スペースを小さく取れる割りに、負荷容量と剛性が大きいため、減速装置101の軽量化及びコンパクト化に貢献できる。
【0011】
キャリア116の端面には、円板状の固定プレート131がボルト132によって取り付けられている。固定プレート131がニードル軸受118の転動体保持器(外輪及び内輪)の端面に当接し、これによって、ニードル軸受118の軸方向移動が係止される。
円筒軸122の端面には、第2太陽歯車121を取り巻くように、リング形状の板状体からなる固定プレート133がボルト134によって取り付けられている。図6は、円筒軸122の周辺部分を拡大した側面図である。
【0012】
図6において、円筒軸122の中心にボルト孔122aが穿設され、固定プレート133にボルト挿入孔133aが穿設されている。ボルト134がボルト孔122aに螺合して、固定プレート133を円筒軸122の端面に固定している。固定プレート133をニードル軸受124の転動体保持器(外輪125a及び内輪125b)の端面に固定することにより、ニードル軸受124の軸方向移動を係止している。なお、ニードル軸受124と固定ケーシング103との間に、リング状のプレート135を介装することにより、ニードル軸受124と円筒軸12の端面同士が合致するように位置決めしている。
【0013】
【特許文献1】特開2002−213568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
固定プレート131及び133を用いることによって、スペースを取らずかつ低コストでニードル軸受118及び124の軸方向移動を係止できる利点がある。ニードル軸受の外輪は図示しない遊星歯車の内面に圧入されるが、キャリア116又は円筒軸122との隙間などの影響で軸方向位置が変動する。これによって、該固定プレートとニードル軸受の保持器(外輪125a及び内輪125b)の端面が接触する。
【0015】
保持器端面にはバリ等があり、また、保持器の外輪125aは第2遊星歯車123と共に回転するので、外輪125aの端面と接する固定プレート131又は133の摺動面で摩耗が発生するという問題がある。外輪125aの代わりに、内輪125bを回転させるようにした構造の場合も同様の問題が生じる。
図5及び図6に示す減速装置では、運転中に固定プレート131又は133の摩耗の進行を検知できないという問題がある。
【0016】
固定プレートの摩耗が進行すると、固定プレートが破断し、減速装置の破損を招くおそれがある。また、摩耗粉が潤滑油に混入して、潤滑油が汚染され、汚染された潤滑油が他の摺動部位に移動するか、あるいは摩耗粉が直接摺動部位に混入して、該摺動部位の潤滑を損なう虞がある。
【0017】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、前述のような遊星歯車を備えた減速装置において、遊星歯車を回転自在に支持する転がり軸受の軸方向移動を抑止する固定プレートの摩耗を運転中に検知可能にして、固定プレートの異常摩耗を防止し、これによって、減速装置の破損を防止することを目的とする。
また、本発明は、ニードル軸受の保持器端面と接触する部位の摩耗を軽減できる固定プレートを実現して、該固定プレートの破損と摩耗粉による摺動部位の潤滑性悪化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するため、本発明の減速装置の遊星歯車固定方法は、
回転軸の回転を該回転軸に取り付けられた太陽歯車から遊星歯車を介し減速して回転伝達機構に伝達する減速装置であって、該遊星歯車を転がり軸受を介してキャリア又は固定部材の円筒軸に嵌合固定してなる減速装置の遊星歯車固定方法において、
前記円筒軸の端面に押え部材を固定し、該押え部材を転がり軸受端面に当てて転がり軸受の軸方向移動を係止すると共に、
該押え部材の内部に摩耗検知回路を構成する電極を転がり軸受端面との間に設定寸法の空隙を介在させて配置し、
該押え部材の転がり軸受に対する摺接面が摩耗して該電極と転がり軸受端面とが接触した時に該摩耗検知回路により該押え部材の摩耗を検知するようにしたものである。
【0019】
本発明方法では、遊星歯車を支持する円筒軸の端面に前記プレートを固定することにより、転がり軸受の軸方向の動きを係止する。該プレートは平坦な板状のものでよく、これによって、省スペース化を可能とし、かつ低コストとすることができる。従って、スペースに余裕のない減速装置に適用して好適である。
【0020】
また、前記構成により、運転中に押え部材の設定値までの摩耗を検知できるので、押え部材の適切な修理時期又は交換時期を遅滞なく選択できる。そのため、押え部材が破損する前に押え部材を修理又は交換できるので、押え部材の破損を防止できると共に、摩耗粉による摺動部位の潤滑性悪化を軽減できる。
【0021】
本発明方法において、押え部材を転がり軸受構成材より軟質の材料からなるプレートで構成し、該プレートのうち少なくとも転がり軸受端面と摺動する部位に該転がり軸受の当りを吸収可能な弾性をもたせることにより、転がり軸受の軸方向位置の変動に対して該プレートの当接面を追従させるようにして転がり軸受の片当りによるプレートの摩耗を軽減するようにするとよい。
【0022】
転がり軸受はベアリングの隙間などの影響でその軸方向位置が変動する。本発明方法では該プレートを転がり軸受構成材より軟質の材料で構成し、該転がり軸受の当りに対して吸収可能な弾性をもたせることにより、該プレートを転がり軸受の軸方向位置の変動に対しプレートの当接面を追従させるようにする。これによって、プレートに対する転がり軸受端面の片当りをなくし、プレートの摩耗を抑えることができる。
【0023】
また、前記構成において、前記プレートのうち少なくとも転がり軸受端面との摺動面に転がり軸受構成材より軟質の材料として、例えば銅又は青銅等の展延性材を被覆し、該被覆面を転がり軸受端面の軸方向位置の変動に倣った形状とすることにより、該プレートの摩耗を低減させるようにするとよい。
プレート面に展延性材を被覆することにより、転がり軸受の軸方向位置の変動に合わせて該被覆面の形状を追従させ、被覆面を転がり軸受の保持器端面に馴染ませることができる。これによって、低コストな手段でプレート面の摩耗を低減できる。
【0024】
なお、前記プレートの摩耗を抑える別な手段として、プレートのうち転がり軸受端面と摺動する部位の入口部及び出口部に、転がり軸受構成材より軟質の材料からなるアブレダブル材を埋め込み、該アブレダブル材の転がり軸受端面との摺動面を転がり軸受の軸方向位置の変動に合わせて初期摩耗させ、該摺動面を転がり軸受端面の動きに倣った表面形状とすることにより、プレート全体の摩耗を低減させるようにするとよい。
転がり軸受の保持器のうち回転輪の端面と接する部位のプレートの入口部及び出口部が最も片当りしやすく、従って、摩耗が激しい。
【0025】
そのため、この部位に前記アブレダブル材を埋め込み、転がり軸受の軸方向位置の変動に合わせてアブレダブル材を初期摩耗させる。これによって、初期摩耗したアブレダブル材が転がり軸受の端面と馴染むことにより、転がり軸受の片当りが緩和され、プレート全体の摩耗を低減できる。
【0026】
また、転がり軸受端面によるプレート面への片当りをさらに軽減する手段として、プレートのうち転がり軸受端面と接する面をクラウニング形状とすることにより、転がり軸受端面との当り面を少なくするとよい。これによって、プレートの摩耗をさらに低減することができる。
【0027】
前記本発明方法を実施するために直接使用可能な本発明の減速装置は、
回転軸に固設された太陽歯車と、該太陽歯車と噛み合う遊星歯車とを備え、該回転軸の回転を遊星歯車を介して減速して回転伝達機構に伝達し、該遊星歯車を転がり軸受を介してキャリア又は固定部材の円筒軸に嵌合固定してなる減速装置において、
押え部材の内部に転がり軸受端面との間に設定寸法の空隙を介在させて配置された電極と、該電極が組み込まれ該電極と転がり軸受端面とが接触した時に信号を発生する信号発生装置とを備えた摩耗検知回路を設け、
該押え部材の転がり軸受に対する摺接面が摩耗して該電極と転がり軸受端面とが接触した時に該摩耗検知回路により該押え部材の摩耗を検知するように構成したものである。
【0028】
本発明装置では、押え部材で転がり軸受の軸方向移動を係止して、転がり軸受が円筒軸から脱落するのを防止できる。押え部材は平坦な板状のものを用いることにより、省スペース化を可能とし、かつ低コストとすることができる。
また、押え部材が設定された寸法だけ摩耗した時に摩耗検知回路に組み込まれた電極が転がり軸受端面に接触すると、摩耗検知回路に組み込まれた信号発生装置が信号を発生することにより、押え部材の摩耗を検知できる。信号発生装置として、例えば、無線タグやダイオード等を使用できる。
これによって、減速装置の運転中に押え部材の許容摩耗量を検知でき、そこで押え部材を修理又は交換することによって、押え部材の異常摩耗を防ぐことができる。
【0029】
本発明装置において、押え部材を転がり軸受構成材より軟質の材料からなるプレートで構成し、転がり軸受の軸方向位置の変動に対して該プレートの当接面を追従させるようにして該プレートに対する転がり軸受の片当りを防止するように構成するとよい。
これによって、該プレートを転がり軸受の当りに対して吸収可能な弾性をもたせ、転がり軸受の軸方向位置の変動に対してプレートの当接面を追従させることができるので、プレートに対する転がり軸受の片当りを軽減し、プレートの摩耗を低減することができる。
【0030】
具体的には、プレートを2枚の剛性の板の間に転がり軸受構成材より軟質の材料で構成した板を介在させて構成するとよい。該軟質材料は、例えば、ゴム等の弾性体を用いることができる。これによって、2枚の剛性板と1枚の軟質板とを接合する等の簡単な方法で本発明に適用可能なプレートを製造できる。
【0031】
あるいは別な構成として、プレートを2枚の剛性の板の間にばね部材を介在させることにより、転がり軸受の軸方向位置の変動に対して該プレートの当接面を追従させるように構成するとよい。バネ部材の弾性の程度は、転がり軸受に対するプレートの当接面が、全体として転がり軸受構成材より軟質の材料となるように適宜選択する。
【0032】
あるいは別な構成として、減速装置が潤滑油封入空間に配置される場合には、プレートを転がり軸受構成材より軟質の樹脂材で構成し、プレートのうち少なくとも転がり軸受端面との摺動面に転がり軸受の摺動方向に複数の潤滑油導入溝を刻設するとよい。
これによれば、転がり軸受の初期の軸方向位置の変動時に、樹脂製のプレートの転がり軸受との接触面が転がり軸受の軸方向位置の変動に合わせて摩耗される。この結果、該プレート接触面が転がり軸受端面に適合して馴染むので、プレート面に対する転がり軸受の片当りをなくすことができる。そのため、全体としてプレートの摩耗を低減できる。
【0033】
加えて、潤滑油導入溝を設けることで、プレートと転がり軸受端面との接触面に潤滑油が導入される。これによって、摺動面の潤滑性が向上するため、プレートの摩耗をさらに低減できる。この場合、転がり軸受の摺動方向に潤滑油導入溝を設けているので、潤滑油導入溝への潤滑油の導入が促進される。
【0034】
あるいは、減速装置が潤滑油封入空間に配置される場合の別な構成として、減速装置が潤滑油封入空間に配置される場合、プレートを転がり軸受構成材より軟質の樹脂材で構成し、該プレートのうち少なくとも転がり軸受端面との摺動面にうずまき状の潤滑油導入溝を刻設するとよい。
これによって、前記構成と同様に、樹脂製のプレートによる摩耗低減効果に加えて、うずまき状の潤滑油導入溝を刻設することにより、摺動面に潤滑油が入りやすくなるので、摺動面の潤滑性が向上し、プレートの摩耗をさらに低減できる。
【0035】
さらに、これらの構成に加えて、転がり軸受の少なくとも回転輪の端面を凹凸面として該プレート面との接触面積を低減するように構成するとよい。これによって、回転輪端面によるプレートへの片当りを軽減できるので、プレートの摩耗を低減できる。
【0036】
本発明装置において、摩耗検知回路の信号発生装置が電極と転がり軸受端面が接触した時に可視的な信号を発生するものであるとよい。これによって、オペレータが摩耗検知信号の発生時期を確実に確認することができる。
【0037】
前記構成に加えて、電源に対して前記信号発生装置と可変抵抗器とを並列に配置して、該信号発生装置に流れる電流値を調整するように構成するとよい。これによって、電極と転がり軸受端面が接触しない状態の時に、摩耗検知回路に過不足のない電流値を流すことができる。従って、摩耗検知回路や摩耗検知回路に組み込まれた信号発生装置の作動状態を良好に保持できる。
【発明の効果】
【0038】
本発明方法によれば、回転軸の回転を該回転軸に取り付けられた太陽歯車から遊星歯車を介し減速して回転伝達機構に伝達する減速装置であって、該遊星歯車を転がり軸受を介してキャリア又は固定部材の円筒軸に嵌合固定してなる減速装置の遊星歯車固定方法において、前記円筒軸の端面に押え部材を固定し、該押え部材を転がり軸受端面に当てて転がり軸受の軸方向移動を係止すると共に、該押え部材の内部に摩耗検知回路を構成する電極を転がり軸受端面との間に設定寸法の空隙を介在させて配置し、該押え部材の転がり軸受に対する摺接面が摩耗して該電極と転がり軸受端面とが接触した時に該摩耗検知回路により該押え部材の摩耗を検知するようにしたことにより、前記押え部材により転がり軸受の軸方向移動を確実に防止できると共に、押え部材が許容限界の摩耗量に達した時に、それを検知することができるので、押え部材の異常摩耗を防止できる。そのため、押え部材の破損を防止できると共に、発生した摩耗粉による摺動部位の潤滑性の悪化を軽減することができる。
【0039】
また、本発明装置によれば、回転軸に固設された太陽歯車と、該太陽歯車と噛み合う遊星歯車とを備え、該回転軸の回転を遊星歯車を介して減速して回転伝達機構に伝達し、該遊星歯車を転がり軸受を介してキャリア又は固定部材の円筒軸に嵌合固定してなる減速装置において、押え部材の内部に転がり軸受端面との間に設定寸法の空隙を介在させて配置された電極と、該電極と転がり軸受端面とが接触した時に信号を発生する信号発生装置とを備えた摩耗検知回路を設け、該押え部材の転がり軸受に対する摺接面が摩耗して該電極と転がり軸受端面とが接触した時に該摩耗検知回路により該押え部材の摩耗を検知するように構成したことにより、前記本発明方法と同様の作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0041】
本発明の減速装置に係る一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は、本実施形態の減速装置のうちの遊星歯車支持機構10を示す側面図である。支持機構10は、図5に示す走行ユニットに適用される減速装置の一部をなす。
図1において、支持機構10は、走行ユニットを構成する減速装置のキャリア又は固定ケーシング11(以下「キャリア等11」という)に円筒形状の軸12が一体に固設されている。円筒軸12は、太陽歯車の周囲に複数個(例えば3個)配設されている。円筒軸12の外周面にニードル軸受13が装着されている。円筒軸12がキャリアに固設されていれば、遊星歯車はキャリアにより公転しながら自転する。円筒軸12が固定ケーシングに固設されていれば、遊星歯車が自転のみ行なう。
【0042】
ニードル軸受13は、転がり軸受の1種で、転動体13aと転動体13aを挟んで保持する保持器(外輪13b及び内輪13c)からなる。転動体13aは、小径の細長い円筒体からなり、ニードル軸受13の肉厚は薄く、スペースを取らないように構成され、スペースの割りに負荷容量と剛性が大きい特長をもつ。ニードル軸受13の外周側には、図示しない遊星歯車が嵌合固定される。遊星歯車の内周面はニードル軸受13の外輪13bの外周面に圧入される。
【0043】
キャリア等11とニードル軸受13との間には、リング状のプレート14を挿入して、円筒軸12の端面12aがニードル軸受13の外輪13bの端面13d及び内輪13cの端面13eと同一平面を形成するように位置決めしている。
円筒軸12の端面12aには、固定プレート16が当接されて、ボルト15により固定されている。ボルト15は円筒軸12の中心に穿設されたボルト孔12bに螺合して、固定プレート16を固定している。
【0044】
固定プレート16は、図5及び図6に示す固定プレート133と同様のリング形状を有した板状体で構成されている。固定プレート16は、剛性の、例えば金属製のプレート本体17と、中央にボルト孔17aが設けられ、ボルト15の周囲でプレート本体17に埋設されてプレート本体17を押える役目を有し、内部に摩耗検知装置20が埋設されたプレート押え金具18と、銅や青銅等のように、ニードル軸受13の外輪13b又は内輪13cより軟質の展延性材からなり、プレート本体17の転がり軸受13との当接面に被覆された展延性層19とからなる。
【0045】
展延性層19はニードル軸受13の保持器(内輪13c及び外輪13b)の構成材より軟質な材料が用いられている。
図3に示すように、固定プレート16は、ニードル軸受の保持器端面に当接して、ニードル軸受13の軸方向移動を係止している。
【0046】
次に、プレート押え金具18に埋設された摩耗検知装置20の構成を図2〜図4により説明する。図2において、プレート押え金具18の内部に電極21が埋設され、電極21の周囲は短絡しないように絶縁材22で覆われている。図3に示すように、電極21は、ニードル軸受13の回転輪(外輪13b)の端面に摺接する位置に配置されている。電極21の前面には、隙間cがもうけられ、電極前面と外輪端面13dとの間で設定された寸法δの隙間をもたせてある。外輪端面13dには、外輪13bの回転で電極21と対面する位置に、外輪端面と略同一高さとなるように検知金具23が埋設されている。電極21及び検知金具23は、摩耗検知回路20に接続されている。
【0047】
図4において、摩耗検知回路20には、電極21及び検知金具23のほか、固定抵抗器R、可変抵抗器R及び電池Eが設けられている。また、展延性層19が摩耗して、電極21と検知金具23とが接触した時に、可視的に判断できる信号発生装置24が設けられている。信号発生装置4は、例えば、無線タグと無線タグからの信号を受けて異常を表示する表示装置とから構成される。あるいは、ダイオードとダイオードの端子間電圧が零になったことを検知して異常を表示する装置(例えば発光ダイオード)とから構成してもよい。
【0048】
かかる構成で遊星歯車支持機構10を構成している。本実施形態のその他の構成は、図5に示す走行ユニットと同一構成である。支持機構10以外の減速装置の構成は、図5に示す減速装置101と同一構成である。支持機構10の周囲は潤滑油が封入された密閉空間sを形成している。
【0049】
かかる構成の本実施形態において、固定プレート16がニードル軸受13と接触する側の面に、ニードル軸受13の内輪13c又は外輪13bを構成する材料より軟質の材料からなる展延性層19を被覆していることにより、展延性層19がニードル軸受13の保持器端面、特に回転輪(外輪13b)の端面13dと摺接しているうちに、展延性層19の表面をニードル軸受13の軸方向位置の変動に合わせてそれに倣った形状とすることができる。これによって、展延性層19の表面をニードル軸受13の保持器端面に馴染ませることができるので、固定プレート16に対するニードル軸受13の片当りを緩和できる。従って、低コストで固定プレート16の摩耗を低減できる。
【0050】
摩耗検知回路20には電流が流れており、信号発生装置24として組み込まれたダイオードの端子間電圧は例えば150mVとなる。該ダイオード電圧は、信号発生装置24と並列に接続された可変抵抗器Rにより適宜に調整可能である。
展延性層19の摩耗が進行して、摩耗検知回路20のA−B間が接触すると、A−B間に電流が流れるため、信号発生装置24に電流が流れなくなり、信号発生装置24に組み込まれたダイオードの端子間電圧は0mVとなる。
本実施形態では、展延性層19が設定量δだけ摩耗した時に、電極21と検知金具23とが接触して、信号発生装置24が作動して異常を伝えるので、固定プレート16の摩耗量を正確に検知でき、固定プレート16の修理、取替え等の措置を実施できる。
【0051】
また、信号発生装置として、可視的に判断できる信号発生装置24を設けているので、オペレータが確実に固定プレート16の異常摩耗を確認できる。
さらに、摩耗検知回路20に可変抵抗器Rを設けているので、電極21と検知金具23とが接触していない時は、信号発生装置24のダイオード電圧を適宜に調整できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、油圧シャベル等の建設機械等に適用される減速装置の遊星歯車支持機構において、転がり軸受の軸方向移動を係止する固定プレートの異常摩耗を事前に検知して、固定プレートの破損と摩耗粉による汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る減速装置の遊星歯車支持機構の側面図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】前記実施形態の一部の正面図である。
【図4】前記実施形態の摩耗検知回路図である。
【図5】比較例として示す非公開の油圧シャベル等に用いられる走行ユニットの縦断面図である。
【図6】図5の走行ユニットの遊星歯車支持機構を示す側面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 遊星歯車支持機構
12,122 円筒軸
12a 円筒軸端面
13 ニードル軸受(転がり軸受)
13a 転動体
13b 外輪(保持器)
13c 内輪(保持器)
13d 外輪端面
13e 内輪端面
16 固定プレート
19 展延性層
20 摩耗検知回路
21 電極
24 信号発生装置
100 走行ユニット
101 減速装置
102 油圧モータ
104 回転ケーシング
103 固定ケーシング(固定部材)
112 フランジ(回転伝達機構)
114 油圧モータ出力軸
115 第1太陽歯車
116 キャリア
117 第1遊星歯車
121 第2太陽歯車
123 第2遊星歯車
c 隙間
s 潤滑油封入空間
δ 空隙の設定寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の回転を該回転軸に取り付けられた太陽歯車から遊星歯車を介し減速して回転伝達機構に伝達する減速装置であって、該遊星歯車を転がり軸受を介してキャリア又は固定部材の円筒軸に嵌合固定してなる減速装置の遊星歯車固定方法において、
前記円筒軸の端面に押え部材を固定し、該押え部材を転がり軸受端面に当てて転がり軸受の軸方向移動を係止すると共に、
該押え部材の内部に摩耗検知回路を構成する電極を転がり軸受端面との間に設定寸法の空隙を介在させて配置し、
該押え部材の転がり軸受に対する摺接面が摩耗して該電極と転がり軸受端面とが接触した時に該摩耗検知回路により該押え部材の摩耗を検知するようにしたことを特徴とする減速装置の遊星歯車固定方法。
【請求項2】
前記押え部材が転がり軸受構成材より軟質の材料からなるプレートであり、
該プレートのうち少なくとも転がり軸受端面と摺動する部位に該転がり軸受の当りを吸収可能な弾性をもたせることにより、転がり軸受の軸方向位置の変動に対して該プレートの当接面を追従させるようにして転がり軸受の片当りによるプレートの摩耗を軽減するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の減速装置の遊星歯車固定方法。
【請求項3】
前記プレートのうち少なくとも転がり軸受端面との摺動面に転がり軸受構成材より軟質の展延性材を被覆し、該被覆面を転がり軸受端面の軸方向位置の変動に倣った形状とすることにより、該プレートの摩耗を低減させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の減速装置の遊星歯車固定方法。
【請求項4】
回転軸に固設された太陽歯車と、該太陽歯車と噛み合う遊星歯車とを備え、該回転軸の回転を遊星歯車を介して減速して回転伝達機構に伝達し、該遊星歯車を転がり軸受を介してキャリア又は固定部材の円筒軸に嵌合固定してなる減速装置において、
押え部材の内部に転がり軸受端面との間に設定寸法の空隙を介在させて配置された電極と、該電極と転がり軸受端面とが接触した時に信号を発生する信号発生装置とを備えた摩耗検知回路を設け、
該押え部材の転がり軸受に対する摺接面が摩耗して該電極と転がり軸受端面とが接触した時に該摩耗検知回路により該押え部材の摩耗を検知するように構成したことを特徴とする減速装置。
【請求項5】
前記押え部材が転がり軸受構成材より軟質の材料からなるプレートであり、転がり軸受の軸方向位置の変動に対して該プレートの当接面を追従させるようにして該プレートに対する転がり軸受の片当りを防止するように構成したことを特徴とする請求項4に記載の減速装置。
【請求項6】
前記信号発生装置が前記電極と転がり軸受端面が接触した時に可視的な信号を発生するものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の減速装置。
【請求項7】
前記摩耗検知回路において、電源に対して前記信号発生装置と可変抵抗器とを並列に配置して、該信号発生装置に流れる電流値を調整するように構成したことを特徴とする請求項6に記載の減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43682(P2010−43682A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207641(P2008−207641)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】