説明

測位方法、プログラム及び測位装置

【課題】計測タイミングと出力タイミングとの時刻差に起因する測位精度の劣化を防止して、より真位置に近い位置が出力されるようにすること。
【解決手段】GPS衛星信号に基づいて携帯型電話機1の現在位置及び速度ベクトルが間欠的に計測される。そして、計測時刻と測位結果の出力時刻との時刻差が算出され、計測された位置と計測された速度ベクトルと算出された時刻差とを用いて、出力時刻における位置が推定される。そして、推定された位置を用いて出力位置が決定されて出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位装置が実行する測位方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星を利用した計測システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された測位装置に利用されている。GPSでは、自測位装置の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパラメータの値を、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自測位装置までの擬似距離等の情報に基づいて求める測位演算を行うことで、自測位装置の現在位置を測位する。また、GPS衛星と自測位装置の相対的な位置関係に基づいて、自測位装置の速度ベクトルを計測することもできる。
【0003】
しかし、測位用衛星からの衛星信号を用いた計測では、いわゆるマルチパスによる影響等、種々の誤差要因が存在しており、計測誤差の発生を回避することが困難であるため、計測誤差を低減させるための様々な技術が考案されている。その一例として、特許文献1には、測位演算により算出した測位位置と、推測航法演算により算出した推測航法演算位置との加重平均計算によって出力位置を決定する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平8−68651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、測位用衛星からの衛星信号を用いて現在位置及び速度ベクトルの計測を行ったタイミング(以下、「計測タイミング」と称す。)と、実際に位置を出力するタイミング(以下、「出力タイミング」と称す。)との間には、僅かながら時刻差が生じる。
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、単純に、測位演算により算出した測位位置と、推測航法演算により算出した推測航法演算位置との加重平均計算を行って出力位置を決定しているが、この2つの位置は異なるタイミングで算出された位置である。このため、計測タイミングと出力タイミングとの時刻差に起因して、測位装置の真位置に対して出力位置が時間的に遅れる位置遅れと呼ばれる測位精度の劣化が発生する問題があった。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、計測タイミングと出力タイミングとの時刻差に起因する測位精度の劣化を防止して、より真位置に近い位置が出力されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための第1の発明は、測位装置が実行する測位方法であって、測位用衛星から発信されている測位用信号に基づいて自測位装置の位置及び自測位装置の速度ベクトルを間欠的に計測することと、前記計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差を算出することと、前記計測された位置と前記計測された速度ベクトルと前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける位置を推定することと、前記推定された位置を用いて出力位置を決定して出力することと、を含む測位方法である。
【0008】
また、他の発明として、測位用衛星から発信されている測位用信号に基づいて自測位装置の位置及び自測位装置の速度ベクトルを間欠的に計測する計測部と、前記計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差を算出する時刻差算出部と、前記計測された位置と前記計測された速度ベクトルと前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける位置を推定する位置推定部と、前記推定された位置を用いて出力位置を決定して出力する出力位置決定部と、を備えた測位装置を構成してもよい。
【0009】
この第1の発明等によれば、測位用信号に基づいて自測位装置の位置及び速度ベクトルが間欠的に計測される。そして、この計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差が算出され、計測された位置と計測された速度ベクトルと算出された時刻差とを用いて、出力タイミングにおける位置が推定される。そして、推定された位置を用いて出力位置が決定されて出力される。
【0010】
計測した位置を用いて出力位置を決定するのではなく、計測された位置を元に推定した出力タイミングにおける位置を用いて出力位置を決定するようにしたことで、計測タイミングと出力タイミングとの時刻差に起因する位置遅れの発生を防止し、測位精度を向上させて、より真位置に近い位置を出力することが可能となる。
【0011】
また、第2の発明として、第1の発明の測位方法であって、前記出力タイミングにおける位置を推定することは、最新の及び過去の前記計測の結果に基づいて最新の計測時における加速度ベクトルを算出することと、最新の前記計測により求められた最新速度ベクトルと、前記算出された加速度ベクトルと、前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける速度ベクトルを推定することと、を含み、最新の前記計測により求められた最新位置と、前記推定された速度ベクトルと、前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける位置を推定することである測位方法を構成してもよい。
【0012】
この第2の発明によれば、最新速度ベクトルと、最新の計測時における加速度ベクトルと、計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差とを用いて、出力タイミングにおける速度ベクトルが推定される。そして、最新位置と、推定された速度ベクトルと、計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差とを用いて、出力タイミングにおける位置が推定される。
【0013】
また、第3の発明として、第2の発明の測位方法であって、前記出力タイミングにおける位置を推定することは、前記推定された速度ベクトルを、最新の前記計測により求められた最新速度ベクトルを用いて平滑化することを含み、最新の前記計測により求められた最新位置と、前記平滑化された速度ベクトルと、前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける位置を推定することである測位方法を構成してもよい。
【0014】
この第3の発明によれば、推定された速度ベクトルが、最新速度ベクトルを用いて平滑化される。そして、最新位置と、平滑化された速度ベクトルと、計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差とを用いて、出力タイミングにおける位置が推定される。
【0015】
また、第4の発明として、第1〜第3の何れかの発明の測位方法であって、前記出力位置を決定することは、過去の前記出力位置を用いて所定の推測航法演算により自測位装置の位置である推測航法演算位置を算出することと、前記推定された位置と前記推測航法演算位置とを用いて出力位置を決定することと、を含む測位方法を構成してもよい。
【0016】
この第4の発明によれば、過去の出力位置を用いて所定の推測航法演算により推測航法演算位置が算出され、推定された位置と推測航法演算位置とを用いて出力位置が決定される。
【0017】
また、第5の発明として、第4の発明の測位方法であって、前記出力位置を決定することは、前記推定された位置と前記推測航法演算位置との重みづけを前記算出された時刻差に基づいて可変に設定した所定の加重平均計算により前記出力位置を決定することである測位方法を構成してもよい。
【0018】
この第5の発明によれば、推定された位置と推測航法演算位置との重みづけを、計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差に基づいて可変に設定した所定の加重平均計算により、出力位置が決定される。計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差に基づいて重みづけを可変に設定して加重平均計算を行うようにしたことで、計測環境に左右されずに、適切な位置出力を行うことが可能となる。
【0019】
また、第6の発明として、第1〜第5の何れかの発明の測位方法を、測位装置に内蔵されたコンピュータに実行させるためのプログラムを構成してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、測位装置を備えた電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合の実施形態について説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけではない。
【0021】
1.機能構成
図1は、本実施形態における携帯型電話機1の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ5と、GPS受信部10と、ホストCPU(Central Processing Unit)30と、操作部40と、表示部50と、携帯電話用アンテナ60と、携帯電話用無線通信回路部70と、ROM(Read Only Memory)80と、RAM(Random Access Memory)90とを備えて構成される。
【0022】
GPSアンテナ5は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部10に出力する。尚、GPS衛星信号は、衛星毎に異なる拡散符号の一種であるPRN(Pseudo Random Noise)コードで直接スペクトラム拡散方式により変調された1.57542[GHz]の通信信号である。PRNコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号である。
【0023】
GPS受信部10は、GPSアンテナ5から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の現在位置を測位する測位回路であり、いわゆるGPS受信機に相当する機能ブロックである。GPS受信部10は、RF(Radio Frequency)受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とを備えて構成される。尚、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0024】
RF受信回路部11は、RF信号の処理回路ブロックであり、所定の局部発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ5から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部20に出力する。
【0025】
ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力されたIF信号に対して相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや時刻情報等を取り出して測位演算を行う回路部である。ベースバンド処理回路部20は、衛星捕捉・追尾部21と、CPU23と、ROM25と、RAM27とを備えて構成される。
【0026】
衛星捕捉・追尾部21は、RF受信回路部11から出力されたIF信号をもとに、GPS衛星信号の捕捉・追尾を行う回路部である。GPS衛星信号の捕捉は、捕捉対象とする各GPS衛星それぞれについて、装置内部で擬似的に発生させた拡散符合(レプリカPRNコード)とIF信号との相関値を算出し、最も振幅が大きい周波数成分及び位相成分を抽出する相関処理によって実現する。
【0027】
ホストCPU30は、ROM80に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサである。ホストCPU30は、CPU23から入力した出力位置をプロットしたナビゲーション画面を、表示部50に表示させる。
【0028】
操作部40は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたアイコンやボタンの信号をホストCPU30に出力する。この操作部40の操作により、通話要求やメールの送受信要求、GPSの起動要求等の各種指示入力がなされる。
【0029】
表示部50は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU30から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部50には、ナビゲーション画面や時刻情報等が表示される。
【0030】
携帯電話用アンテナ60は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0031】
携帯電話用無線通信回路部70は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0032】
ROM80は、読み取り専用の不揮発性の記憶装置であり、ホストCPU30が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、ナビゲーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。
【0033】
RAM90は、読み書き可能な揮発性の記憶装置であり、ホストCPU30により実行されるシステムプログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0034】
2.データ構成
図2は、ベースバンド処理回路部20のROM25に格納されたデータの一例を示す図である。ROM25には、ベースバンド処理(図6参照)として実行されるベースバンド処理プログラム251が記憶されている。
【0035】
ベースバンド処理とは、CPU23が、GPS計測処理を行って計測したGPS測位位置及び速度ベクトルと、最新の計測時刻(以下、「最新計測時刻」と称す。)と今回の計測において位置出力を行う時刻(以下、「今回出力時刻」と称す。)との時刻差と、を用いて、今回出力時刻における位置を推定するとともに、当該推定位置と推測航法演算により算出した推測航法演算位置との加重平均計算によって出力位置を決定する処理である。ベースバンド処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0036】
図3は、RAM27に格納されるデータの一例を示す図である。RAM27には、衛星データ271と、計測履歴データ273と、計測時刻差データ275と、計測出力時刻差データ277とが記憶される。
【0037】
図4は、衛星データ271のデータ構成の一例を示す図である。衛星データ271には、衛星捕捉・追尾部21により捕捉された各捕捉衛星2711それぞれについて、衛星速度ベクトル2712と、衛星位置2713とが対応付けて記憶される。衛星速度ベクトル2712は、例えば地球基準座標系における3次元のベクトルとして表され、衛星位置2713は、例えば地球基準座標系における3次元の座標値として表される。衛星データ271は、ベースバンド処理において、CPU23がGPS計測処理を行うために使用する。
【0038】
図5は、計測履歴データ273のデータ構成の一例を示す図である。計測履歴データ273には、時刻2731と、時刻種別2732と、速度ベクトル2733と、加速度ベクトル2734と、GPS測位位置2735と、推定位置2736と、推測航法演算位置2737と、出力位置2738とが対応付けて記憶されたデータであり、ベースバンド処理においてCPU23により更新される。
【0039】
時刻種別2732は、当該時刻2731の種別であり、当該時刻2731が計測を行った時刻であるか出力を行った時刻であるかに応じて、「計測」又は「出力」が記憶される。尚、同時刻の場合には「計測」と「出力」との2つのデータが計測履歴データ273に記憶されることとなり、一方に「計測」が、他方に「出力」が記憶されることとなる。時刻種別が「計測」の時刻のことを「計測時刻」と称し、時刻種別が「出力」の時刻のことを「出力時刻」と称する。
【0040】
速度ベクトル2733は、携帯型電話機1の3次元の速度ベクトルであり、計測時刻については、当該計測時刻にGPS計測処理によって計測された速度ベクトルが記憶される。また、出力時刻については、計測時刻における速度ベクトルを補正することで得られる当該出力時刻における速度ベクトルが記憶される。
【0041】
加速度ベクトル2734は、携帯型電話機1の3次元の加速度ベクトルであり、計測時刻については、当該計測時刻における速度ベクトルを基に算出された加速度ベクトルが記憶される。また、出力時刻については、加速度ベクトルが算出されないため、加速度ベクトル2734には「−(無し)」が記憶される。
【0042】
GPS測位位置2735には、当該計測時刻にGPS計測処理によって計測された携帯型電話機1の3次元の位置が記憶される。出力時刻については、GPS計測処理によって位置が計測されないため、GPS測位位置2735には「−(無し)」が記憶される。
【0043】
推定位置2736には、GPS測位位置2735と、速度ベクトル2733と、計測時刻と出力時刻との時刻差と、に基づいて推定された当該出力時刻における携帯型電話機1の3次元の位置が記憶される。計測時刻については、位置の推定がなされないため、推定位置2736には「−(無し)」が記憶される。
【0044】
推測航法演算位置2737には、推測航法演算処理により算出した当該出力時刻における携帯型電話機1の3次元の位置が記憶される。計測時刻については、推測航法演算処理がなされないため、推測航法演算位置2737には「−(無し)」が記憶される。
【0045】
出力位置2738には、推定位置2736と推測航法演算位置2737とを加重平均計算することで算出される携帯型電話機1の3次元の位置が記憶される。計測時刻については、出力位置が算出されることはないため、出力位置2738には「−(無し)」が記憶される。
【0046】
尚、本実施形態では、出力時刻は原則として所定時間間隔(例えば1秒間隔)であるものとする。また、測位環境等の影響により、計測を行うために十分な数のGPS衛星信号が衛星捕捉・追尾部21により捕捉されていない場合は、GPS計測処理を行うことができないため、計測時刻は所定時間間隔になるとは限らない。例えば、図5の計測履歴データ273では、時刻「tp3」〜「tp5」は全て出力時刻となっているが、この間にはGPS計測処理を行うことができなかったことを意味している。
【0047】
計測時刻差データ275は、最新計測時刻と、その1つ前の計測時刻との時刻差(以下、「計測時刻差」と称す。)のデータであり、ベースバンド処理においてCPU23により更新される。
【0048】
計測出力時刻差データ277は、最新計測時刻と、今回出力時刻との時刻差(以下、「計測出力時刻差」と称す。)のデータであり、ベースバンド処理においてCPU23により更新される。
【0049】
3.処理の流れ
図6は、CPU23によりROM25に記憶されているベースバンド処理プログラム251が読み出されて実行されることで、携帯型電話機1において実行されるベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。
【0050】
ベースバンド処理は、RF受信回路部11によるGPS衛星信号の受信と併せて、CPU23が、操作部40に測位開始指示の操作がなされたことを検出した場合に実行を開始する処理である。尚、携帯型電話機1の電源のON/OFFとGPSの起動/停止とを連動させ、携帯型電話機1の電源投入操作を検出した場合にベースバンド処理の実行を開始させることにしてもよい。
【0051】
先ず、CPU23は、衛星捕捉・追尾部21により捕捉されたGPS衛星信号に重畳されている航法メッセージを基に、各捕捉衛星2711の衛星速度ベクトル2712及び衛星位置2713を算出し、衛星情報としてRAM27の衛星データ271に記憶させる(ステップA1)。
【0052】
次いで、CPU23は、GPS計測処理を行う(ステップA3)。具体的には、ステップA1で算出した衛星情報に基づいて、例えば最小二乗法を用いた測位演算を行ってGPS測位位置2735を求める。また、捕捉衛星と携帯型電話機1の相対速度に基づいて携帯型電話機1の速度ベクトル2733を求める。そして、求めたGPS測位位置2735及び速度ベクトル2733を、現在の時刻2731及び時刻種別2732と対応付けてRAM27の計測履歴データ273に記憶させる。
【0053】
次いで、CPU23は、計測履歴データ273に記憶されている最新計測時刻と、その1つ前の計測時刻との時刻差を算出して計測時刻差とし(ステップA5)、RAM27の計測時刻差データ275を更新する。また、CPU23は、最新計測時刻と、今回出力時刻との時刻差を算出して計測出力時刻差とし(ステップA7)、RAM27の計測出力時刻差データ277を更新する。
【0054】
その後、CPU23は、次式(1)に従って、最新計測時刻における携帯型電話機1の加速度ベクトル2734を算出し(ステップA9)、計測履歴データ273に記憶させる。
【数1】

但し、「A(t)」は時刻「t」における加速度ベクトル、「V(t)」は時刻「t」における速度ベクトル、「tm」は計測時刻、「Δtm」は計測時刻差をそれぞれ示している。
【0055】
次いで、CPU23は、次式(2)に従って、今回出力時刻における携帯型電話機1の速度ベクトル2733を推定し(ステップA11)、計測履歴データ273に記憶させる。
【数2】

但し、「tp」は出力時刻、「Δtp」は計測出力時刻差をそれぞれ示している。
【0056】
そして、CPU23は、次式(3)に従って、今回出力時刻における推定位置2736を算出し(ステップA13)、計測履歴データ273に記憶させる。
【数3】

但し、「Pa(t)」は時刻「t」における推定位置、「Pg(t)」は時刻「t」におけるGPS測位位置をそれぞれ示している。
【0057】
式(3)からわかるように、本実施形態では、最新計測時刻におけるGPS測位位置「Pg(tm)」と、今回出力時刻における速度ベクトル「V(tp)」を最新計測時刻における速度ベクトル「V(tm)」を用いて平滑化した速度ベクトル「(V(tp)+V(tm))/2」と、計測出力時刻差「Δtp」とを用いて、今回出力時刻における推定位置「Pa(tp)」を算出する。
【0058】
次いで、CPU23は、次式(4)に従って推測航法演算を行って、今回出力時刻における推測航法演算位置2737を算出し(ステップA15)、計測履歴データ273に記憶させる。
【数4】

但し、「Pr(t)」は時刻「t」における推測航法演算位置、「P(t)」は時刻「t」における出力位置をそれぞれ示している。
【0059】
その後、CPU23は、ステップA13で算出した推定位置と、ステップA15で算出した推測航法演算位置との加重平均計算の重み「α」を算出する(ステップA17)。重み「α」は、計測出力時刻差「Δtp」の関数として表され、例えば図7に示すように、「Δtp=0」の時に「1.0」で、「Δtp」が増加するにつれて漸次減衰していく指数関数として表される。尚、「Δtp」が増加するにつれて漸次減衰していけば、指数関数以外の関数(例えば、1次関数)を用いることとしてもよい。
【0060】
次いで、CPU23は、ステップA17で算出した重み「α」を基に、次式(5)に従って推定位置と推測航法演算位置との加重平均計算を行って、今回出力時刻における出力位置2738を決定し(ステップA19)、計測履歴データ273に記憶させる。
【数5】

【0061】
式(5)から、重み「α」が小さいほど、推定位置寄りの位置が出力位置に決定されることがわかる。従って、図7に示した重み「α」の定性的なグラフとの関係から、計測出力時刻差「Δtp」が大きくなるほど、推定位置寄りの位置が出力位置に決定されることになる。
【0062】
その後、CPU23は、ステップA19で決定した出力位置を、ホストCPU30に出力する(ステップA21)。そして、CPU23は、計測を終了するか否かを判定し(ステップA23)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップA23;No)、ステップA1に戻る。また、計測を終了すると判定した場合は(ステップA23;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0063】
4.実験結果
図8は、本実施形態の手法を用いて出力位置を決定した実験結果の一例を示す図である。ここでは、携帯型電話機1が配置された自動車(スポーツカー)が左下のスタート地点において1分間停止した後、時速300kmまで加速走行した場合の各出力時刻における携帯型電話機1の真位置及び出力位置と、各計測時刻におけるGPS測位位置とをプロットした結果を示している。尚、出力時刻の時間間隔は1秒である。
【0064】
この図を見ると、GPS測位位置については真位置に対して約0.5秒の遅れが発生していることがわかるが、出力位置については全ての出力時刻において真位置とほぼ一致しており、精確な位置が出力されていることがわかる。
【0065】
5.作用効果
本実施形態によれば、GPS衛星信号に基づいて携帯型電話機1の現在位置及び速度ベクトルが間欠的に計測される。そして、計測時刻と測位結果の出力時刻との時刻差が算出され、計測された位置と計測された速度ベクトルと算出された時刻差とを用いて、出力時刻における位置が推定される。そして、推定された位置を用いて出力位置が決定されて出力される。
【0066】
計測した位置を用いて出力位置を決定するのではなく、計測した位置を元に推定した出力時刻における位置を用いて出力位置を決定するようにしたことで、計測時刻と出力時刻との時刻差に起因する位置遅れの発生を効果的に防止し、測位精度を向上させて、より真位置に近い位置を出力することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態では、推定位置と、推測航法演算によって算出した推測航法演算位置との加重平均計算を行って出力位置を決定することにしている。具体的には、計測出力時刻差が大きくなるほど、推定位置寄りの位置が出力位置となるような重みづけを行って加重平均計算を行う。これにより、計測環境に左右されずに、適切な出力位置を提供することが可能となる。
【0068】
6.変形例
6−1.電子機器
上述した実施形態では、測位装置を備えた電子機器として携帯型電話機を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、測位装置を備えたノート型パソコンやPDA(Personal Digital Assistant)、カーナビゲーション装置等の電子機器に適用することも可能である。
【0069】
6−2.衛星測位システム
また、上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムであってもよい。
【0070】
6−3.処理の分化
CPU23が行う処理の一部又は全部を、ホストCPU30が行うことにしてもよい。例えば、CPU23がGPS計測処理を行って携帯型電話機1の現在位置及び速度ベクトルを計測して、ホストCPU30に出力する。そして、ホストCPU30は、CPU23から入力したGPS測位位置及び速度ベクトルと、計測時刻と出力時刻との時刻差と、に基づいて、出力時刻における位置を推定する。そして、ホストCPU30は、推測航法演算を行って推測航法演算位置を算出し、推定位置と推測航法演算位置との加重平均計算を行って出力位置を決定する。さらに、GPS計測処理も含めてホストCPU30が実行することしてもよい。
【0071】
6−4.推定位置の算出
上述した実施形態では、最新計測時におけるGPS測位位置「Pg(tm)」と、今回出力時刻における速度ベクトル「V(tp)」を最新計測時刻における速度ベクトル「V(tm)」を用いて平滑化した速度ベクトル「(V(tp)+V(tm))/2」と、計測出力時刻差「Δtp」とを用いて、式(3)に従って今回出力時刻における推定位置「Pa(tp)」を算出するものとして説明した。しかし、適用する実施形態によっては、平滑化を行わずに速度ベクトル「V(tp)」をそのまま用いて推定位置「Pa(tp)」を算出することとしてもよい。具体的には、次式(6)に従って推定位置「Pa(tp)」を算出する。
【数6】

【0072】
6−5.推測航法演算位置の算出
また、上述した実施形態では、式(4)に従って推測航法演算位置「Pr(tp)」を算出するものとして説明した。しかし、計測時刻差「Δtm」が一定である場合は、最新及び過去3時刻分の計4時刻分の計測された速度ベクトルを用いて、次式(7)に従って推測航法演算位置「Pr(tp)」を算出することとしてもよい。
【数7】

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図2】ベースバンド処理回路部のROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図3】ベースバンド処理回路部のRAMに格納されたデータの一例を示す図。
【図4】衛星データのデータ構成の一例を示す図。
【図5】計測履歴データのデータ構成の一例を示す図。
【図6】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図7】加重平均計算の重みの定性的なグラフ。
【図8】実験結果の一例を示す図。
【符号の説明】
【0074】
1 携帯型電話機、 5 GPSアンテナ、 10 GPS受信部、 11 RF受信回路部、 20 ベースバンド処理回路部、 21 衛星捕捉・追尾部、 23 CPU、 25 ROM、 27 RAM、 30 ホストCPU、 40 操作部、 50 表示部、 60 携帯電話用アンテナ、 70 携帯電話用無線通信回路部、 80 ROM、 90 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位装置が実行する測位方法であって、
測位用衛星から発信されている測位用信号に基づいて自測位装置の位置及び自測位装置の速度ベクトルを間欠的に計測することと、
前記計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差を算出することと、
前記計測された位置と前記計測された速度ベクトルと前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける位置を推定することと、
前記推定された位置を用いて出力位置を決定して出力することと、
を含む測位方法。
【請求項2】
前記出力タイミングにおける位置を推定することは、
最新の及び過去の前記計測の結果に基づいて最新の計測時における加速度ベクトルを算出することと、
最新の前記計測により求められた最新速度ベクトルと、前記算出された加速度ベクトルと、前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける速度ベクトルを推定することと、
を含み、最新の前記計測により求められた最新位置と、前記推定された速度ベクトルと、前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける位置を推定することである、
請求項1に記載の測位方法。
【請求項3】
前記出力タイミングにおける位置を推定することは、
前記推定された速度ベクトルを、最新の前記計測により求められた最新速度ベクトルを用いて平滑化することを含み、
最新の前記計測により求められた最新位置と、前記平滑化された速度ベクトルと、前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける位置を推定することである、
請求項2に記載の測位方法。
【請求項4】
前記出力位置を決定することは、
過去の前記出力位置を用いて所定の推測航法演算により自測位装置の位置である推測航法演算位置を算出することと、
前記推定された位置と前記推測航法演算位置とを用いて出力位置を決定することと、
を含む、
請求項1〜3の何れか一項に記載の測位方法。
【請求項5】
前記出力位置を決定することは、前記推定された位置と前記推測航法演算位置との重みづけを前記算出された時刻差に基づいて可変に設定した所定の加重平均計算により前記出力位置を決定することである請求項4に記載の測位方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の測位方法を、測位装置に内蔵されたコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項7】
測位用衛星から発信されている測位用信号に基づいて自測位装置の位置及び自測位装置の速度ベクトルを間欠的に計測する計測部と、
前記計測のタイミングと測位結果の出力タイミングとの時刻差を算出する時刻差算出部と、
前記計測された位置と前記計測された速度ベクトルと前記算出された時刻差とを用いて、前記出力タイミングにおける位置を推定する位置推定部と、
前記推定された位置を用いて出力位置を決定して出力する出力位置決定部と、
を備えた測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−229293(P2009−229293A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76136(P2008−76136)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】