説明

測距装置

【課題】物体までの距離が短いか、長いかにかかわらず、当該物体までの距離の計測が精度よく行える測距装置を提供する。
【解決手段】測距装置1は、物体までの距離が長いときには、LD3aがレーザ光を発信してから、PD4aが反射光を受光するまでの経過時間を計測し、この経過時間に基づいてLD3aが発信したレーザ光を反射した物体までの距離を計測する。一方、物体までの距離が短いときには、画像処理部8から入力された、撮像画像における、撮像レンズの光軸位置と、LD3aから発信されたレーザ光の照射位置と、の相対的な位置関係から、物体までの距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両等の移動体に搭載され、当該移動体の前方に存在する物体までの距離を計測する測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者が車両を安全に走行させるのを援助する車載装置として、レーザ光を利用して車両の前方に存在する物体を検知する光学式のレーダ装置(以下、単にレーダ装置と言う。)があった。このレーダ装置は、車両前方の検知領域でレーザ光を水平方向(車両の幅方向)に走査し、この検知領域に存在する物体を検知する。レーダ装置は、レーザ光を発信してから、その反射光を受信するまでの経過時間に基づいて、発信したレーザ光を反射した物体までの距離を計測する。また、このときのレーザ光の発信方向から、このレーザ光を反射した物体が存在する方向を得る。レーダ装置は、レーザ光を検知領域で走査しながら、この物体までの距離および方向を得る処理を繰り返し行い、検知領域内に存在する物体毎に、車両に対する相対位置や、大きさを得る。また、レーダ装置は、検出した物体毎に、時間経過にともなう距離および方向の変化を検出し、さらに車両の走行速度や走行方向を用い、停止している物体であるか、移動している物体であるかの判別や、移動している物体であれば、その物体の移動速度や移動方向の算出等も行う。レーダ装置は、検知結果を車両側の制御ユニット(以下、車両側制御ユニットと言う。)に通知する。車両側制御ユニットは、レーダ装置から通知された車両前方に存在する物体の検知結果に基づいて、車両の走行速度や走行方向等を制御する。
【0003】
また、特許文献1には、カメラのオートフォーカス制御(以下、AF制御と言う。)に用いる、被写体までの距離を計測する測距装置が記載されている。この測距装置は、距離計測用の光源と、被写体からの反射光を受ける受光素子と、を備え、受光素子において反射光が受光された位置と、光源と受光素子との相対的な位置関係と、に基づいて被写体までの距離を計測する構成である。
【特許文献1】特開昭61−246614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したレーダ装置では、物体との距離が短くなるにつれて量子化誤差が相対的に大きくなり、物体までの距離の計測精度が低下する。これは、レーダ装置の距離分解能に応じて計測結果が不連続なディジタル値として出力されることに起因する。距離分解能が1mの場合、100m先の物体を検出しているときは、その距離が99mとなったとしても、この切り替わりによる変化は1%に過ぎない。しかし、10m先の物体を検出しているときに、その距離が短くなり9mとなると10%近い変化となる。レーダ装置は、物体との間隔と経過時間に基づいて物体との相対的な速度を算出しているため、近距離においては物体との距離が変化すると、これにともなってに相対速度が大きく変化することとなる。すなわち、物体との距離が短くなるにつれて、レーダ装置で検知している物体の移動速度(自車両との相対速度)が不連続に変化する。このため、物体との距離が短い場合、車両側制御ユニットにおける自車両の走行制御が円滑に行えないことがある。
【0005】
また、特許文献1に記載されている測距装置の構成では、物体である被写体との距離が長くなるにつれて距離分解能が低下し、その結果、物体までの距離の計測精度が低下する。したがって、上述のレーダ装置に換えて、特許文献1に記載されている構成の測距装置を利用すると、物体との距離が長い場合、車両側制御ユニットにおける自車両の走行制御が円滑に行えない。
【0006】
この発明の目的は、物体までの距離が短いか、長いかにかかわらず、当該物体までの距離の計測が精度よく行える測距装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の測距装置は、上述した問題を解決するために、以下のように構成している。
【0008】
この測距装置は、車両等の移動体に搭載されるものである。発信手段がレーザ光を発信し、受信手段がその反射光を受信する。第1の距離計測手段は、前記発信手段がレーザ光を発信してから、前記受信手段がレーザ光を受信するまでの経過時間に基づいて、レーザ光を反射した物体までの距離を計測する。また、第2の計測手段が、撮像手段が撮像した撮像画像におけるレーザ光の位置、および予め記憶した前記発信手段と前記撮像手段との相対的な位置関係に基づいてレーザ光が照射された物体までの距離を計測する。画像処理手段が、撮像手段が撮像した撮像画像におけるレーザ光の位置を、この撮像画像の輝度分布に基づいて求める。
【0009】
第1の距離計測手段では、物体との距離が長いと、距離に対する量子化誤差が相対的に小さいので、物体までの距離計測の精度が高い。一方、第2の計測手段は、撮像画像に対する画像処理により物体までの距離を計測することから、物体との距離が短いほど、物体までの距離計測の分解能が高くなる。すなわち、物体との距離が短いほど、物体までの距離計測の精度が高くなる。
【0010】
そして、切換手段が、計測されている物体までの距離が予め定めた切換距離よりも短い場合に、前記第2の距離計測手段で物体までの距離計測を行う。すなわち、物体までの距離が短いときには、当該物体までの距離を、量子化誤差が大きい第1の計測手段で計測するのではなく、第2の計測手段で計測する。これにより、物体までの距離が短い場合であっても、当該物体までの距離の計測が精度よく行える。また、切換手段は、計測されている物体までの距離が前記切換距離よりも長い場合に、前記第1の距離計測手段で物体までの距離計測を行う構成とすればよい。これにより、物体までの距離が長い場合であっても、当該物体までの距離の計測が精度よく行える。したがって、物体までの距離が短いか、長いかにかかわらず、当該物体までの距離の計測が精度よく行える。
【0011】
また、前記画像処理手段は、前記発信手段からレーザ光が発信されていないときに前記撮像手段が撮像した撮像画像と、前記発信手段からレーザ光が発信されているときに前記撮像手段が撮像した撮像画像と、の差分画像から、前記撮像手段が撮像した撮像画像におけるレーザ光の位置を求める構成とするのが好ましい。このようにすれば、前記撮像手段が撮像した撮像画像におけるレーザ光の位置検知が、外乱光による影響を受けることなく行える。これにより、前記第2の距離計測手段における物体までの距離の計測が、外乱光の影響を受けることなく行える。
【0012】
また、前記切換手段が、計測されている物体までの距離が前記切換距離よりも長い場合であっても、前記移動体の速度が予め定めた切換速度よりも低速であれば、例外的に、前記第2の距離計測手段で物体までの距離計測を行うようにしてもよい。このようにすれば、物体が検知領域外から移動体の近くに割り込んできた場合にも、速やかに対応できる。
【0013】
なお、計測されている物体までの距離が前記切換距離よりも長く、且つ前記移動体の速度が予め定めた切換速度よりも高速である場合には、物体が検知領域外から移動体の近くに割り込んでくる可能性が低いので、前記第2の距離計測手段で物体までの距離計測を行っても、特に問題が生じることはない。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、物体までの距離が短いか、長いかにかかわらず、当該物体までの距離の計測が精度よく行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態である測距装置について説明する。
【0016】
図1は、この発明の実施形態である測距装置の主要部の構成を示す図である。この測距装置1は、移動体である車両に搭載される。この測距装置1は、制御部2と、発信部3と、受信部4と、走査部5と、水平走査位置検出部6と、撮像部7と、画像処理部8と、外部インタフェース9(以下、外部I/F9と言う。)と、を備えている。制御部2は、本体各部の動作を制御する。制御部2は、後述する動作を実行するための実行プログラムや、動作時に用いるパラメータ等を記憶するメモリ2aを有している。発信部3は、発光素子であるレーザダイオード3a(以下、LD3aと言う。)、LD3aの発光を制御する発光制御部3b、およびLD3a発光面に対向して配置した投光レンズ3cを備えている。また、受信部4は、受光素子であるフォトダイオード4a(以下、PD4aと言う。)、PD4aの出力信号を処理する受信回路4b、およびPD4aの受光面に対向して配置した受光レンズ4cを備えている。
【0017】
図2に示すように、投光レンズ3cと受光レンズ4cとは連結されている。走査部5は、LD3aの発光面に対して、投光レンズ3cを図2における走査方向(水平方向)に移動する。LD3aから発信されたレーザ光の発信方向は、投光レンズ3cの移動にともなって水平方向に変化する。すなわち、走査部5が投光レンズ3cを移動することにより、LD3aから発信されたレーザ光が水平方向に走査される。また、上述したように、受光レンズ4cは、投光レンズ3cに連結されているので、走査部5による投光レンズ3cの移動に同期して、PD4aの受光面に対して左右方向に移動する。これにより、LD3aから発信されたレーザ光の反射光をPD4aの受光面に集光することができる。
【0018】
図2において、投光レンズ3cを右方向に移動するにつれて、LD3aから発信されたレーザ光の照射方向が右側に傾き、反対に投光レンズ3cを左方向に移動するにつれて、LD3aから発信されたレーザ光の照射方向が左側に傾く。図2(A)は、レーザ光の発信方向が略正面になる状態を示しており、図2(B)は、レーザ光の発信方向が正面より右側に傾いた状態を示している。
【0019】
なお、図2では、曲率を内周側から外周側に段階的に変化させた、いわゆるフレスネルレンズを用いた投光レンズ3c、および受光レンズ4cを示しているが、LD3aから発信されたレーザ光の走査範囲を確保することができれば、曲率が単一のレンズを用いてもよい。
【0020】
水平走査位置検出部6は、走査部5からLD3aに対する投光レンズ3cの位置を取得し、これを制御部2に入力する。制御部2は、水平走査位置検出部6から入力されたLD3aに対する投光レンズ3cの位置から、LD3aが発信したレーザ光の照射方向を検出する。撮像部7は、CCD等の撮像素子や、この撮像素子上に撮像領域の画像を投影する撮像レンズを有する。撮像部7は、撮像素子上に投影されている画像を撮像画像として取り込む。撮像部7の撮像領域は、LD3aから発信されるレーザ光の走査領域を含んでいる。画像処理部8は、撮像部7で撮像された撮像画像を処理し、当該撮像画像における、撮像レンズの光軸位置と、LD3aから発信されたレーザ光の照射位置と、の相対的な位置関係を取得し、制御部2に入力する。
【0021】
制御部2は、以下に示す(A)、(B)2つの手法で、検知した物体までの距離を計測する。
(A)制御部2は、LD3aがレーザ光を発信してから、PD4aが反射光を受光するまでの経過時間を計測し、この経過時間に基づいてLD3aが発信したレーザ光を反射した物体までの距離を計測する。
(B)制御部2は、画像処理部8から入力された、撮像画像における、撮像レンズの光軸位置と、LD3aから発信されたレーザ光の照射位置と、の相対的な位置関係から、物体までの距離を算出する。
【0022】
外部I/F9は、搭載されている車両側の制御ユニット(以下、車両側制御ユニットと言う。)との入出力を制御する。測距装置1は、計測した物体までの距離等を、外部I/F9を介して車両側制御ユニットに通知する。また、測距装置1は、外部I/F9を介して車両側制御ユニットから車両の走行速度等の情報を取得する。車両側制御ユニットには、車速センサや、ヨーレートセンサ等が設けられている。
【0023】
図3は、測距装置を移動体である車両に取り付けた状態を示す図である。LD3a、投光レンズ3c、PD4a、受光レンズ4c、および走査部5を組み込んだ検知ヘッド21は、車両20の前面のラジエータグリルに取り付けられる。検知ヘッド21は、LD3aから発信されたレーザ光を車両20の前方に照射する。この検知ヘッド21は、組み込まれている走査部5が投光レンズ3cを車両20の幅方向(水平方向)に移動し、LD3aから発信されたレーザ光を水平方向に走査する。また、撮像部7は、車内のルームミラー近傍に取り付けられる。撮像部7は、車両20の前方を撮像する向きに取り付けられる。撮像部7の撮像レンズの光軸は、車両20の正面に合わせている。検知ヘッド20と、撮像部7とは、図3に示すように、車両20の幅方向に平行に取り付けられており、その間隔である基線長はAである。また、車両20の前後方向における、検知ヘッド20と、撮像部7との間隔であるオフセットはdである。
【0024】
なお、図3に示す30は、車両20の前方を走行している前方車両である。
【0025】
ここで、検知した物体までの距離を計測する2つの手法について説明する。まず、上述した、LD3aがレーザ光を発信してから、PD4aが反射光を受光するまでの経過時間を計測し、この経過時間に基づいてLD3aが発信したレーザ光を反射した物体までの距離を計測する手法について説明する。発光制御部3bは、LD3aからレーザ光を間欠発信させる。また、走査部5が投光レンズ3cを水平方向に移動し、LD3aから発信されたレーザ光を、図4に示す走査領域で走査する。制御部2は、LD3aがレーザ光を発信してから、PD4aで反射光を受光するまでの経過時間Tを計測する。制御部2は、この経過時間Tを用いて、レーザ光を反射した物体までの距離Lを、
L=c×T/2 (c:レーザ光の伝搬時間)
により算出する。また、制御部2は、水平走査位置検出部6から得た投光レンズ3cの位置に基づいて、レーザ光の照射方向を得ることで、レーザ光を反射した物体が存在する方向を取得する。これにより、制御部2は、車両20に対する、レーザ光を反射した物体の相対的な位置を検出する。制御部2は、LD3aから発信されたレーザ光を走査領域で走査しながら、上述した距離の計測を繰り返して行うことで、走査領域内に存在する物体毎に、時間経過にともなう相対的な位置の変化を取得する。また、外部I/F9を介して、車両側制御ユニットから得た車両20の走行速度等を用いて、検知した物体が停止している物体であるか、移動している物体であるかや、移動している物体である場合の移動速度等を得る。
【0026】
次に、画像処理部8から入力された、撮像画像における、撮像レンズの光軸位置と、LD3aから発信されたレーザ光の照射位置と、の相対的な位置関係から、物体までの距離を算出する手法について説明する。画像処理部8は、発光制御部3bによりLD3aからレーザ光を発信したときに、撮像部7において撮像している撮像画像を取り込む。画像処理部8は、ここで取り込んだ画像を処理し、撮像部7の撮像レンズの光軸と、撮像されているレーザ光の輝点の中心と、の水平方向の距離mを得る(図5参照)。制御部2は、画像処理部8で得た距離mを用いて、レーザ光が照射された物体までの距離Lを、
L=f×A/m−d (f:撮像レンズの焦点距離
A:基線長
d:オフセット)
により算出する。
【0027】
ここで、物体までの距離Lと、撮像部7の撮像素子上における撮像レンズの光軸位置から最大輝度となる点(LD3aから発信されたレーザ光が対象物に当たることによって生じる輝点の中心)までの水平方向の画素数(上記mに相当する。)と、の関係を図6に示す。図6から明らかなように、物体までの距離が短くなるにつれて、量子化誤差が低減される。
【0028】
また、撮像画像におけるレーザ光の輝点の検出は、太陽光等の外乱光の影響を抑えるために、LD3aからレーザ光を発信していないときの撮像画像と、LD3aからレーザ光を発信したときの撮像画像と、の差分画像を用いるのが好ましい。また、LD3aから発信されるレーザ光を透過するバンドパスフィルタ(BPF)を撮像部7に設けてもよい。
【0029】
なお、上述した(A)にかかる手法での物体までの距離計測は、物体までの距離が短くなると、量子化誤差が大きくなる。
【0030】
この実施形態の、測距装置1は、物体までの距離が長いときには、上述した(A)にかる手法(以下、第1の距離計測手法と言う。)で物体までの距離を計測し、物体までの距離が短くなると、例えば物体までの距離が10m以下になると、上述した(B)にかる手法(以下、第2の距離計測手法と言う。)で物体までの距離を計測する。以下、この実施形態の測距装置1の具体的な動作について説明する。
【0031】
図7は、この測距装置の動作を示すフローチャートである。測距装置1は、第1の距離計測手法による計測を開始する(s1)。これにより、走査部5がLD3aから発信されたレーザ光で走査領域を走査し、制御部2が当該走査領域内に存在する物体毎に、その物体までの距離の計測を行う。測距装置1は、検知している物体が移動している物体の場合は、この物体までの距離の比較に移る。検知している物体が移動していない物体である場合は、物体が移動している物体であるかどうかの判断を繰り返して行う(s2)。測距装置1は、物体との距離を継続して計測しているので、経過時間と距離の変化に基づいて、移動体と、検知している物体と、の相対速度を求めることができる。また、測距装置1は、外部I/F9を通じて車両側制御ユニットから車速センサが得た移動体の速度を取得することができるので、移動体との相対速度と、移動体自体の速度を用いることにより、物体の速度を求めることができる。したがって、物体が停止しているのか、移動しているのかについて判断することができる。
【0032】
s2にかかる判定処理を設けているので、車両20の走行中に路側に設置されている道路標識や、看板等の停止している物体を検知し、当該物体との距離が切換距離以内になったときに、第1の距離計測手法から、第2の距離計測手法に切り換えることがない。すなわち、第1の距離計測手法から、第2の距離計測手法への無駄な切り換えが行われるのを抑えることができる。
【0033】
測距装置1は、検知している物体が移動している物体である場合に、この物体との距離が予め定めた切換距離(例えば、10m)以下になると(s3)、走査部5によるレーザ光の走査を停止し、レーザ光の照射方向を撮像部7の撮像レンズの光軸の方向に合わせる(s4)。そして、第2の距離計測手法による計測を開始する(s5)。測距装置1は、第2の距離計測手法で、切換距離以内に存在する物体が検知できている間、第2の距離計測手法で物体までの距離を計測する(s6)。測距装置1は、切換距離以内に存在する物体が検知できない状態になると、第2の距離計測手法での物体までの距離の計測を停止し(s7)、第1の距離計測手法による計測を開始する(s8)。その後、一定時間(例えば、30s)経過するのを待って(s9)、s2に戻る。
【0034】
s9にかかる判定処理を設けているので、物体までの距離を計測する手法(第1の距離計測手法と、第2の距離計測手法)の切換が、連続的に繰り返し行われるという事態も生じない。したがって、本体の動作を安定させることができる。
【0035】
このように、測距装置1は、切換距離以内に存在する物体が検知されていないときには、計測精度がよりよい第1の距離計測手法により物体までの距離を計測し、切換距離以内に存在する物体が検知されているときには、計測精度がよりよい第2の距離計測手法により物体までの距離を計測する。すなわち、検知している物体までの距離に応じて、計測精度がよりよい手法で、当該物体までの距離を計測する。したがって、検知している物体までの距離が短いか、長いかにかかわらず、当該物体までの距離の計測が精度よく行える。
【0036】
次に、この発明の別の実施形態である測距装置について説明する。この実施形態の測距装置1も、上述した実施形態と同じ構成である。上述した第1の距離計測手法では、車両20の正面であっても、存在している物体を検知することができない領域(以下、不検知領域と言う。)がある。図8にハッチングで示す領域が、この不検知領域である。
【0037】
また、車両側制御ユニットが、測距装置1による前方車両30の検知結果に基づいて、車両20の走行速度や走行方向等を制御する追従走行を行っているときは、この前方車両30の位置が検知できれば問題がない。そこで、この実施形態の測距装置1では、図9に示す処理を実行する。図9では、図7と同じ処理については同じステップ番号(s*)を付している。上記実施形態と異なる点は、s2で検知している物体が移動している物体でないと判定した場合、またはs3で検知している物体との距離が予め定めた切換距離(例えば、10m)以下でないと判定した場合に、s11以降の処理を実行する点である。
【0038】
測距装置1は、車両側制御ユニットが車両20を前方車両30の追従走行を行っており(s11)、且つ車両20の走行速度が予め定められた切換速度(例えば20Km/H)以下であれば(s12)、走査部5によるレーザ光の走査を停止し、レーザ光の照射方向を撮像部7の撮像レンズの光軸に合わせる(s13)。そして、第2の距離計測手法による計測を開始する(s14)。s13、s14にかかる処理は、それぞれ上述したs4、s5にかかる処理と同じである。測距装置は、上記2つの条件が満足しないときには、s2に戻る。
【0039】
すなわち、測距装置1は、前方車両30の追従走行が切換速度以下で行われているとき、第2の距離計測手法による計測を開始する。
【0040】
なお、このとき、前方車両30までの距離が切換距離よりも長いと、前方車両30との距離の計測精度が低下するが、車両20の走行速度が比較的低速であるので、特に問題が生じることはない。
【0041】
また、このときに、自車両20と、前方車両30との間に、不検知領域から別の車両が割り込んできた場合であっても、この割り込んできた車両までの距離が精度良く計測できるので、割り込まれた車両に対する危険回避等の走行制御を車両側制御ユニットに迅速に行わせることができる。
【0042】
測距装置1は、s14で第2の距離計測手法による計測を開始すると、追従走行している前方車両30までの距離が検出できなくなるか(s15)、または車両20の走行速度が切換速度よりも高速になると(s16)、s7以降の処理を実行する。s15における、「前方車両30までの距離が検出できなくなる」とは、撮像部7の撮像画像から発信したレーザ光の輝点が検出できないという意味であり、前方車両30までの距離が切換距離よりも長くなったという意味ではない。
【0043】
このように、この測距装置1は、車両側制御ユニットにおける車両20の走行制御の状態に応じて、第1の距離計測手法と、第2の距離計測手法との切換を行う。したがって、車両側制御ユニットにおける車両20の走行制御が一層適正に行える。
【0044】
なお、LD3aから発信するレーザ光の形状が細い円断面の光束である場合、前方の対象物に光束が当たらないことがある。図10に示すように、例えば、車両20と前方車両30との高さの差異が大きい場合、LD3aから発信するレーザ光が前方車両30に当たらない場合がある。また、前方車両30が大型車で、レーザ光が前方車両30のデファレンシャルなどの奥まった部分に当たった場合、車間距離を長めに測定してしまうこととなる。この誤計測による車間距離に応じて前方車両30の直後に車間距離を詰めて車両20を停止させる制御を行った場合、荷台等の突出部に接触する虞がある。このため、LD3aから発信するレーザ光は、縦長断面形状であることが望ましい。また、LD3aから発信するレーザ光を、上下方向に順次走査するように構成してもよい。
【0045】
また、第2の距離計測手法においては、図6に示したように対象物までの距離が長くなるにつれ、光軸と輝点との距離(画素数)が減少する。このため、量子化誤差が増大する問題がある。そこで、撮像部7で用いる撮像レンズの焦点距離を切り換える構成を設け、対象物との距離に応じて、使用する撮像レンズを切り換えるようにしてもよい。例えば、
対象部が極めて近い距離に存在する場合は、焦点距離が短い広角レンズを用い、
少し離れた場合は、中程度の焦点距離の標準レンズを用い、
ある程度はなれた場合は、焦点距離が長い望遠レンズを用いる、
ように構成してもよい。撮像レンズの切り換えは、第1の距離計測手法により計測した物体との距離に基づいて切り替えても良いし、第2の距離計測手法で計測した物体との距離に基づいて切り替えても良い。
【0046】
さらに、撮像部7を複数用いてもよい。例えば、LD3aとの水平方向の基線長を保ちながら、一つの撮像部7をラジエータグリル近辺に設置し、別の撮像部7をルームミラーの前方に設置する。そして、2つの撮像部7で撮像した撮像画像毎に、物体までの距離を計測し、計測結果を比較して、何れかの撮像部7の光軸がずれているかどうかを判断するようにしてもよい。また、何れかの撮像部7において撮影した画像から、LD3aから照射されたレーザ光によって生じるはずの輝点が検出できない場合は、検出出来た側の計測結果を採用することにし、何れの撮像部7において撮影した画像からも輝点が検出できない場合に、第1の距離計測手法に切り換える構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の実施形態である測距装置の主要部の構成を示す図である。
【図2】レーザ光を走査する機構部を説明する図である。
【図3】測距装置を移動体である車両に取り付けた状態を示す図である。
【図4】LDから発信されたレーザ光の走査領域を示す図である。
【図5】撮像画像における、撮像レンズの光軸と、撮像画像における最大輝度となる点を示す図である。
【図6】物体までの距離Lと、撮像画像における最大輝度となる点までの水平方向の画素数と、の関係を示す図である。
【図7】測距装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】不検知領域を示す図である。
【図9】別の実施形態の測距装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】レーザ光の形状が細い円断面の光束である場合に、前方の対象物に光束が当たらない例を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1−測距装置
2−制御部
2a−メモリ
3−発信部
3a−レーザダイオード(LD)
3b−発光制御部
3c−投光レンズ
4−受信部
4a−フォトダイオード
4b−受信回路
4c−受光レンズ
5−走査部
6−水平走査位置検出部
7−撮像部
8−画像処理部
9−外部I/F

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される測距装置において、
レーザ光を発信する発信手段と、
前記発信手段から発信されたレーザ光について、物体からの反射光を受信する受信手段と、
前記発信手段がレーザ光を発信してから、前記受信手段が反射光を受信するまでの経過時間に基づいてレーザ光を反射した物体までの距離を計測する第1の距離計測手段と、
前記発信手段から発信されるレーザ光の照射領域を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した撮像画像の輝度分布に基づきレーザ光の位置を求める画像処理手段と、
前記画像処理手段が求めたレーザ光の位置、および予め記憶した前記発信手段と前記撮像手段との相対的な位置関係に基づいてレーザ光が照射された物体までの距離を計測する第2の距離計測手段と、
計測されている物体までの距離と予め定めた切換距離に基づき、物体までの距離の計測を、前記第1の距離計測手段と、前記第2の距離計測手段のどちらで行うかを切り換える切換手段と、を備えた測距装置。
【請求項2】
前記画像処理手段は、前記発信手段からレーザ光が発信されていないときに前記撮像手段が撮像した撮像画像と、前記発信手段からレーザ光が発信されているときに前記撮像手段が撮像した撮像画像と、の差分画像から、前記撮像手段が撮像した撮像画像におけるレーザ光の位置を求める手段である、請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記移動体の移動速度を取得する移動速度取得手段を備え、
前記切換手段は、計測されている物体までの距離が前記切換距離よりも長い場合であっても、前記移動速度取得手段が取得した前記移動体の速度が予め定めた切換速度よりも低速であれば、前記第2の距離計測手段で物体までの距離計測を行う手段である、請求項1または2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記切換手段は、計測されている物体までの距離が前記切換距離よりも長く、且つ前記移動体の速度が予め定めた切換速度よりも高速であれば、前記第1の距離計測手段で物体までの距離計測を行う手段である、請求項1または2に記載の測距装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−224620(P2008−224620A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67355(P2007−67355)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】