説明

溶削済み鋼材の表面検査方法および表面検査装置

【課題】表面を溶削された鋼材の表面に残留する湯だれや未溶削部などの欠陥を精度良く確実に検出できる溶削済み鋼材の表面検査方法、およびこれに用いる検査装置を提供する。
【解決手段】1200℃以上に加熱され且つ表面f1〜f4,c1〜c4を溶削された鋼材Mの該表面を撮像する第1カメラ10、および、該カメラ10により得られた画像の輝度信号bsを温度に換算し、健常部位との温度差により湯だれ部mdや未溶削部umの疑似欠陥部分の有無を判別する信号処理部11を含む疑似欠陥検出部12と、上記撮像がされた同じ鋼材Mの表面f1〜f4,c1〜c4にレーザL1を照射するレーザ照射装置2、照射された該レーザL1が拡散反射された鋼材Mの表面f1〜f4,c1〜c4を撮像する第2カメラ7、および、該カメラ7により得られた画像を基に、鋼材Mの表面を連続した断面形状により3次元的に示す画像処理部8を含む3次元計測部9と、を備えている、溶削済み鋼材の表面検査装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を溶削(ホットスカーフィング)された分塊圧延材や連続鋳造材などの鋼材の表面に残留する湯だれや未溶削部などの欠陥を精度良く確実に検出できる溶削済み鋼材の表面検査方法、およびこれに用いる表面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、分塊圧延された鋼材を熱間圧延するに際し、該鋼材における表面の形状および寸法を整えるため、予め均熱炉で1300℃以上に加熱した状態で、上記表面を溶削してから熱間圧延工程に送給して、所定の断面形状に成形している。しかし、溶削時において、鋼材の表面から溶削された鋼材の一部が液滴状になる湯だれや一定の範囲にわたる未溶削部などの欠陥が残っていると、熱間圧延時の成形精度を低下させてしまう場合がある。
そのため、溶削された鋼材の表面における湯だれや未溶削部などの欠陥を検出するべく、鋼材の表面をCCDカメラにより連続的に撮像し、表面ごとに得られた輝度信号を温度に換算し、健常部位との温度差に基づいて、上記湯だれを検出する湯だれ検査装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、該検査装置では、湯だれと疑わしい部位の表面を検出できるに留まり、該湯だれの厚み(変位量)が測定できないため、検出精度がバラ付く、という問題があった。
【0003】
一方、ホットスカーフマシンの前後において、レーザ距離計により溶削前後の被溶削材寸法を測定し、その差を溶削量として求めるため、レーザ距離計として被溶削材の高さ寸法および幅寸法ともに2次元レーザ距離計を用い、係るレーザ距離計により測定された溶削前後の各断面プロフィールの差により、被溶削材の溶削量プロフィールを求めるホットスカーフ溶削量測定方法および測定装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、上記溶削量測定方法は、ホットスカーフマシンによる被溶削材の溶削量(数量値)を測定することにより、該マシンの溶削制御を行うものであって、溶削に伴う被溶削材の表面に生じ得る湯だれや未溶削部の位置およびそれらの厚みや大きさ(変位量)を検出することができない、という問題があった。しかも、高温状態の鋼材の表面は、赤色系の色彩を呈するため、一般的なレーザでは、表面の断面形状を撮像し難い、という問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−15662号公報(第1〜4頁、図1〜4)
【特許文献2】特開平5−237654号公報(第1〜7頁、図1〜4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、表面を溶削された鋼材の表面に残留する湯だれや未溶削部などの欠陥を精度良く確実に検出できる溶削済み鋼材の表面検査方法、およびこれに用いる検査装置を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、所定温度以上の高温に加熱された溶削済みの鋼材の表面部分間の温度差により湯だれなどの疑いのある疑似欠陥位置を検出し、更に鋼材の表面に照射されたレーザが反射した該表面を連続撮像して得られた3次元形状のうち、上記疑似欠陥位置の3次元形状の形態により、変位量を含む欠陥部分を正確に検出する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明による溶削済み鋼材の表面検査方法(請求項1)は、1200℃以上に加熱され且つ表面を溶削された鋼材の該表面を連続撮像し、得られた画像の輝度信号を温度に換算し、健常部位との温度差を基にして、湯だれや未溶削部の疑いがある疑似欠陥位置を検出する第1ステップと、上記鋼材の表面に対して照射されたレーザが拡散反射した該鋼材の表面を連続撮像して、上記鋼材の表面を連続する断面形状で3次元的に示す第2ステップと、を含む、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、前記高温に加熱された溶削済みの鋼材の表面を連続撮像し、係る表面から放射されるエネルギに応じた輝度信号を温度に換算して、健常部位との温度差により、湯だれや未溶削部の疑いがある疑似欠陥位置を検出する第1ステップを行うと共に、レーザが照射されて拡散反射した上記鋼材の表面を連続撮像し、該表面を連続する複数の断面形状(プロフィール)によって3次元的に示す第2ステップを行うことで、上記疑似欠陥位置のみにおける厚み方向に沿った正確な変位量(湯だれの厚みや、湯だれ周縁の傾斜の急峻度など)を検出できる。係る変位量を基にすることで、後述する第3ステップのように、溶削に伴う湯だれなどの欠陥を正確に検出することが可能となる。
しかも、高温状態にある溶削済みの鋼材を正確に検査できるため、次の熱間圧延工程などにおける加工に適した温度の鋼材を送ることもできる。
【0008】
尚、前記鋼材は、断面が角形状あるいは円形で、且つ軸方向が比較的長尺なブルームあるいはビレットなどである。係る鋼材の表面には、平坦面(側面)のほか、一対の側面間のR付きのコーナー部、あるいは円柱状の曲面も含まれる。
また、1200℃以上に加熱された前記鋼材を検査対象としたのは、熱間圧延などの熱間加工に先立って、溶削された鋼材を均熱炉に装入して1300℃以上に加熱し、係る高温状態を保ちつつ熱間加工を施すためである。
更に、溶削による火炎は、上記鋼材の各表面、R状のコーナ部、ないし円周面に対し、該鋼材の外周面方向または円周面の接線方向に沿って吹き付けられる。
また、前記レーザの波長帯域は、450〜550nmが推奨される。係る波長帯域には、後述する緑色系あるいは青緑色系の半導体レーザが好適である。
加えて、前記拡散反射とは、鋼材の表面に照射されたレーザが、当該表面からあらゆる方向に沿って反射することである。
【0009】
また、本発明には、前記第1ステップで撮像される鋼材の表面と、前記第2ステップで撮像される鋼材の表面とは、同じである、溶削済み鋼材の表面検査方法(請求項2)も含まれる。
これによれば、前記第1ステップと第2ステップとを同時に且つ平行して同じ鋼材の表面に対して行えるので、係る同じ表面で検出された疑似欠陥位置における断面形状の3次元的な解析により、当該疑似欠陥位置での厚み方向に沿った変位を迅速且つ一層正確に検出することができる。
尚、高温の前記鋼材の表面から放射されるエネルギの波長帯域と、前記レーザの波長帯域とを、後述するように離すことにより、相互の干渉を予防できる。
【0010】
更に、本発明には、前記第1ステップおよび第2ステップの後に、第1ステップで検出された疑似欠陥位置に対応する上記鋼材の表面の3次元的な断面形状における厚み方向に沿った変位量を基に、湯だれや未溶削部の欠陥の正否を判定する第3ステップと、を備えている、溶削済み鋼材の表面検査方法(請求項3)も含まれる。
これによれば、前記第1ステップにより検出された前記鋼材の表面における疑似欠陥位置のみについて、前記第2ステップにて得られた3次元形状を基にして、厚み方向に沿った変位量(湯だれの厚みや、湯だれ周縁の傾斜の急峻度など)を測定することで、湯だれなどの真の欠陥部分であるか否かを正確に判別できる。
尚、前記第1〜第3ステップは、連続した単一のソフトウェア(プログラム)に従って行えるようにしても良い。
【0011】
一方、本発明による溶削済み鋼材の表面検査装置(請求項4)は、1200℃以上に加熱され且つ表面を溶削された鋼材の該表面を撮像する第1カメラ、および、該カメラにより得られた画像の輝度信号を温度に換算し、健常部位との温度差により湯だれ部や未溶削部の疑似欠陥部分の有無を判別する信号処理部を含む疑似欠陥検出部と、上記撮像がされた同じ鋼材の表面にレーザを照射するレーザ照射装置、照射された該レーザが拡散反射された上記鋼材の表面を撮像する第2カメラ、および、該第2カメラにより得られた画像を基に、上記鋼材の表面を連続した断面形状により3次元的に示す画像処理部を含む3次元計測部と、を備えている、ことを特徴とする。
【0012】
これによれば、前記第1カメラにより、前記溶削済みの鋼材の表面を連続撮像し、前記信号処理部により、係る鋼材の表面から放射されるエネルギに応じた輝度信号を温度に換算して、健常部位との温度差により、湯だれや未溶削部などの疑いがある疑似欠陥位置を判別できると共に、前記照射装置から照射され且つ上記と同じ鋼材の表面で拡散反射したレーザを含む該表面を第2カメラにより連続撮像し、得られた上記表面の画像を画像処理部により、複数の断面形状を基に該表面を3次元的に示すことで、疑似欠陥位置における厚み方向に沿った変位量を正確に検知できる。従って、溶削に伴って鋼材の表面に生じる湯だれなどの欠陥を、正確且つ迅速に検知することができる。
尚、湯だれや未溶削部を有する鋼材は、搬送ラインから取り出され、係る欠陥部分を切削するなどした後に、再度加熱されて搬送ラインに投入される。
【0013】
更に、本発明には、前記レーザ照射装置から鋼材の表面に照射されるレーザは、緑色系あるいは青色系の半導体レーザである、溶削済み鋼材の表面検査装置(請求項5)も含まれる。
これによれば、1200℃以上に加熱された前記鋼材の表面が放つ放射エネルギによって、該鋼材の表面が高輝度の赤色系を呈していても、該表面に対して線状に照射されて該表面の断面形状に倣って反射されるレーザが彩度や色相が全く異なる緑色系あるいは青色系であるため、検出すべき表面の断面形状を明瞭に再現することが容易となる。従って、高温状態である溶削済みの鋼材の表面における断面形状を正確に検出して、該表面を確実に3次元的に示すことができる。
尚、前記第1カメラによって得られた画像の輝度信号の波長帯域は、800〜1400nmであるのに対し、上記レーザの波長帯域は450〜550nmと約250nm離れているので、鋼材における同じ表面を同時に撮像しても、互いに悪影響を与えることはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による一形態の溶削済み鋼材の表面検査装置を示す斜視図。
【図2】上記表面検査装置を示す平面図。
【図3】異なる形態の表面検査装置を示す図2と同様な平面図。
【図4】表面に湯だれを含む検査すべき鋼材を示す部分断面図。
【図5】表面に未溶削部を含む検査すべき鋼材を示す部分断面図。
【図6】鋼材表面の温度差により疑似欠陥部を検出する例を示す模式的グラフ。
【図7】鋼材表面の複数の断面形状による3次元的形状例を示す模式的グラフ。
【図8】本発明の第1ステップ乃至第3ステップを示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による一形態の溶削済み鋼材の表面検査装置(以下、単に表面検査装置と称する)1を示す斜視図、図2は、該検査装置1を示す平面図である。
表面検査装置1は、図1,2に示すように、軸方向に沿って搬送(矢印Rで示す)される鋼材Mの表面f2を撮像する第1カメラ10、および信号処理部11を含む疑似欠陥検出部12と、上記表面f2にレーザL1を照射するレーザ照射装置2、上記表面f2で反射したレーザL2を撮像する第2カメラ7、および画像処理部8を含む3次元計測部9と、を備えている。
前記鋼材Mは、全長が約10数mで、且つ一辺が250mmで且つ各角部に所定のアールが付されたほぼ正方形の断面を有し、予め、表面f1〜f4ごとには幅方向に沿って平行に、角部(コーナー部)c1〜c4ごとには接線状にして放射された火炎による溶削が全面に施されていると共に、図示しない均熱炉内において、予め1300℃以上に加熱されたものである。
【0016】
前記疑似欠陥検出部12において、第1カメラ10は、CCDカメラであり、図1に示すように、1200℃以上に加熱された鋼材Mの表面f2を連続撮像し、信号処理部11によって、係る表面f2からの放射されたエネルギEに基づく当該画像の輝度信号bsを温度に換算し、後述するように、健常部位との温度差に基づいて、湯だれなどの欠陥と疑わしい疑似欠陥部分の有無が判別される。尚、図1中の符号5,6は、上記第1カメラ10の集光レンズである。
また、3次元計測部9において、図1,図2に示すように、照射装置2から斜めに照射され、凸レンズ3、シリンドカルレンズ4を通過することにより直線状に拡大されたレーザL1は、前記高温度に加熱された鋼材Mの表面f2で拡散反射する。この際、鋼材Mの当該表面f2から直角に反射したレーザL2は、当該表面f2の断面形状に倣った凹凸形の線状となり、第2カメラ7によって連続撮像され、更に画像処理部8において、得られた画像を基に上記表面f2を連続した複数の断面形状によって3次元的に示される。
【0017】
尚、前記第2カメラ7も、第1カメラ10と同様なCCDカメラである。
また、前記レーザL1,L2は、緑色系あるいは青色系の半導体レーザであり、その波長帯域は450〜550nmである。該レーザL1,L2は、例えば、一対の半導体素子(AlGaAs)など間から外部に誘導放出されるレーザである。
更に、第2カメラ7の向きを鋼材Mの表面f2と直角にしたのは、前記表面f2に反射したレーザL2による鋼材Mの断面形状を正確に撮像するためである。
また、前記鋼材Mの表面f1〜f4および角部c1〜c4は、単一の表面検査装置1によって順次検査されるか、あるいは、複数組の専用の表面検査装置1によって個別に検査される。
加えて、前記疑似欠陥検出部12を、3次元計測部9のレーザ照射装置2と第2カメラ7との間に配置したのは、鋼材Mの同じ表面f2を同時に撮像し、且つ本発明の第1〜第3ステップS1〜S3を正確且つ迅速に行うためである。
【0018】
図3は、異なる形態の表面検査装置1aを示す前記童話右の平面図である。
表面検査装置1aも、図3に示すように、前記同様の疑似欠陥検出部12と3次元計測部9とを備えている。係る表面検査装置1aが前記表面検査装置1と相違するのは、疑似欠陥検出部12の第1カメラ10を、3次元計測部9の第2カメラ7の隣に平行にして配置し、鋼材Mの表面f2から直角に反射したレーザL2と第2カメラ7との間にハーフミラーm1を斜め45度で配置すると共に、該ハーフミラーm1の横に同じ向きの45度で反射ミラーm2を更に配置した点である。
即ち、鋼材Mの表面f2から直角に反射したレーザL2と共に放射された放射エネルギーEは、ハーフミラーm1およびミラーm2に順次反射して、第1カメラ10に撮像された後、得られた画像の輝度信号bsを信号処理部11で温度に換算され、健常部位との温度差を計算される。
以上の表面検査装置1aによれば、鋼材Mの同じ表面f2の部分を確実に撮像し、係る画像を疑似欠陥検出部12と3次元計測部9と迅速に送ることができる。
【0019】
図4は、検査すべき鋼材Mの角部(表面)c4に位置する湯だれmdを示す部分断面図である。例えば、鋼材Mの平坦な表面f1,f4の幅方向に沿って放射された1300℃以上の火炎によって、溶削された溶湯は、上記表面f1,f4上を移動した後、外部に吹き飛ばれる。しかし、溶削された溶湯の一部が外部に飛ばされず、上記表面f1,f4に隣接する角部c4に液滴形状の断面で且つ全体が棒形状に付着することにより、図示のように湯だれmdが形成される場合がある。係る湯だれmdは、鋼材Mの本体部分との境界付近に沿って、スケールのような酸化物oxを層状に形成している場合もある。
係る湯だれmdの厚みが0.3mm以上になると、熱間圧延時において成形ロールの表面や当該鋼材Mの表面に傷を生じるおそれがある、という問題がある。
【0020】
図5は、検査すべき鋼材Mの角部c4に位置する未溶削部umを示す部分断面図である。係る未溶削部umは、角部c4の接線方向に沿って火炎を放射することで溶削を行った際に、角部c4の表層が一定の面積にわたって溶削されなかったことに起因して生じる。該未溶削部umも、厚みが0.3mm以上になると、熱間圧延の成形精度を低下させるなどの原因となる。
しかし、溶削済みの鋼材Mにおいて、基準となる断面寸法に対し、厚み方向で0.3mm程度の差がある場合、前記湯だれmdや未溶削部umの欠陥に基づくものか、鋼材M自体の軸方向に沿った表面肌の影響かの判別が困難である。係る問題を解決し、表面肌と欠陥とを正確に区別することが本発明の目的でもある。
【0021】
以下において、前記図1〜図3に示した表面検査装置1(1a)を用いた本発明による溶削済み鋼材Mの表面検査方法について説明する。
予め、全ての表面f1〜f4、および角部c1〜c4を溶削された前記と同じ寸法の鋼材Mを、図示しない均熱炉に装入して、1300℃以上に加熱・保持した。係る鋼材Mを均熱炉から取り出し、図示しない搬送ローラ群の上をその軸方向に沿って走行(矢印R)させた。
上記鋼材Mは、1200℃以上であるため、その表面f1〜f4、および角部c1〜c4からは、赤色系の放射エネルギEが周囲に向けて放射されている。
例えば、第1カメラ10によって、鋼材Mの角部c4を撮像して得られた画像の輝度信号bsは、信号処理部11において対応する温度に換算された。
そして、図6のグラフで示すように、係る角部c4における幅(外周面)方向に沿った位置ごとの温度を示すと、図6中の実線で示す健常部位に対し、その一部(局部)において破線で示すように、温度が数10℃(X)高い部分が現れた。係る破線部分は、その左右の傾斜度(急峻度)により、表面f1の溶削に伴って生じた湯だれmdが角部c4に付着したものと推定された。係る湯だれmdの位置は、疑似欠陥部として信号処理部11に記録された(第1ステップS1)。
【0022】
一方、前記鋼材Mの同じ位置の角部c4に対して、前記レーザ照射装置2から緑色系あるいは青色系で且つ波長帯域が450〜550nmの半導体レーザL1を斜め45度で照射した。該レーザL1は、上記角部c4において拡散反射した。そのうち、当該角部c4に対し直角な径方向に沿った視覚で予め配置されていた第2カメラ7には、鋼材Mの角部c4から放射されるエネルギEに応じた赤色系の背景と、係る背景の中に当該角部c4の幅(外周面)方向に沿った断面形状を緑色または青色の線状で示すレーザL2とからなる画像が、連続して撮像された。
次に、図7のグラフで示すように、画像処理部8において、上記角部c4において撮像された上記レーザL2に基づく複数の断面形状pf1〜pf5を、時系列的に並列したことで、当該角部c4を3次元的に示した(第2ステップS2)。尚、図7中の断面形状pf1〜pf5は、緑色系または青色系の線状として表示された。
図7で示すように、角部c4の軸方向に沿った異なる位置の断面形状pf1〜pf5において、図7中の実線示す当該角部c4の断面形状(輪郭)に対し、図7中の破線で示す山形状に突出した部分が連続して現れた。係る複数の山形状部分において、互いに隣接していない山形状部分ごとの高さ(変位量)Yは、それぞれ0.3mm以上であった。
【0023】
更に、画像処理部8において、前記信号処理部11から送信された第1ステップS1で疑似欠陥部と推定した角部c4の位置と、第2ステップS2で確認された破線の山形状部分の位置とを、照合した結果、同じ位置であった。
その結果、第1ステップS1で疑似欠陥部と推定した通り、角部c4の当該位置には、2箇所以上における厚み(高さ:変位量)Yが少なくとも0.3mmである湯だれmdが存在していたことを確認できた(第3ステップS3)。
以上の第1ステップS1〜第3ステップS3は、鋼材Mにおける角部c4以外の他の表面(f1〜f4,c1〜c3)に対しても平行して行った。
尚、図1中で示すように、画像処理部8の上記照合に伴う判定の結果は、記録・表示部14に送信され、前記鋼材Mについての製造記録(履歴)とされたり、注意的に表示され、必要な捕集ないし整備工程に回送するなどに活用される。
【0024】
また、前記第1ステップS1の疑似欠陥部分および第2ステップS2における複数の破線の山形状部分は、前記図5で示した未溶削部umの検出にも適用される。
更に、第2ステップS2,S3では、複数の破線の山形状部分からなり、全体がテーブルマウンテン形状を呈する部分を未溶削部umとすることも可能である。
加えて、以上において説明した第1ステップS1乃至第3ステップS3は、図8に示す流れ図として表すことができ、係る流れ図に対応したプログラム(ソフトウェア)を、搭載したパソコンなどの制御手段を、前記疑似欠陥検出部12および3次元計測部9に併設した形態の表面検査装置1(x)としても良い。
【0025】
以上において説明した本発明による溶削済み鋼材Mの表面検査方法によれば、高温に加熱された溶削済み鋼材Mの表面(c4)を連続撮像し、該表面からの放射エネルギEに応じた輝度信号bsを温度に換算し、健常部位との温度差xにより、湯だれmdなどと推測される疑似欠陥位置を検出する第1ステップS1を行い、レーザL1が拡散反射した上記鋼材Mの同じ表面を連続撮像し、該表面を連続する複数の断面形状pf1〜pf5にて3次元的に示す第2ステップS2を行うことで、上記疑似欠陥位置における厚み方向に沿った正確な変位量(湯だれの厚みなど)を検出できた。係る変位量を基にすることで、第3ステップS3のように、溶削に伴う湯だれmdなどの欠陥を正確に検出することができた。
【0026】
一方、本発明による溶削済み鋼材Mの表面検査装置1,1aによれば、第1カメラ10により、前記鋼材Mの表面(c4)を連続撮像し、信号処理部11により、該鋼材Mの表面からの放射エネルギEに応じた輝度信号bsを温度に換算して、健常部位との温度差により、湯だれmdなどと疑われる疑似欠陥位置を判別できると共に、照射装置2から照射され且つ鋼材Mの同じ表面で拡散反射したレーザL2を含む該表面を第2カメラ7により連続撮像し、得られた画像を画像処理部8において、複数の断面形状pf1〜pf5を基に該表面を3次元的に示すことで、疑似欠陥位置での厚み方向に沿った変位量yを正確に検知できる。その結果、溶削に伴う湯だれmdなどの欠陥を正確且つ迅速に検査することができる。
尚、本発明の検査対象となる鋼材には、断面が円形、長方形、長円形、あるいは楕円形である鋼材も含まれる。
また、本発明の検査対象となる溶削に伴う欠陥には、鋼材の表面における過溶削部分も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、製鋼業界において、表面を溶削された鋼材の表面に残留する湯だれや未溶削部などの欠陥を精度良く確実・迅速に検出できる溶削済み鋼材の表面検査方法、およびこれに用いる検査装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1,1a…………表面検査装置, 2…………………レーザ照射装置,
7…………………第2カメラ, 8…………………画像処理部,
9…………………3次元計測部, 10………………第1カメラ,
11………………信号処理部, 12………………疑似欠陥検出部,
M…………………鋼材, f1〜f4………表面,
c1〜c4………角部(表面), L1,L2………レーザ,
md………………湯だれ(欠陥), um………………未溶削部(欠陥),
S1〜S3………第1〜第3ステップ, pf1〜pf5…断面形状,
Y…………………変位量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1200℃以上に加熱され且つ表面を溶削された鋼材の該表面を連続撮像し、得られた画像の輝度信号を温度に換算し、健常部位との温度差を基にして、湯だれや未溶削部の疑いがある疑似欠陥位置を検出する第1ステップと、
上記鋼材の表面に対して照射されたレーザが拡散反射した該鋼材の表面を連続撮像して、上記鋼材の表面を連続する断面形状で3次元的に示す第2ステップと、を含む、
ことを特徴とする溶削済み鋼材の表面検査方法。
【請求項2】
前記第1ステップで撮像される鋼材の表面と、前記第2ステップで撮像される鋼材の表面とは、同じである、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶削済み鋼材の表面検査方法。
【請求項3】
前記第1ステップおよび第2ステップの後に、
第1ステップで検出された疑似欠陥位置に対応する上記鋼材の表面の3次元的な断面形状における厚み方向に沿った変位量を基に、湯だれや未溶削部の欠陥の正否を判定する第3ステップと、を備えている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の溶削済み鋼材の表面検査方法。
【請求項4】
1200℃以上に加熱され且つ表面を溶削された鋼材の該表面を撮像する第1カメラ、および、該カメラにより得られた画像の輝度信号を温度に換算し、健常部位との温度差により湯だれ部や未溶削部の疑似欠陥部分の有無を判別する信号処理部を含む疑似欠陥検出部と、
上記撮像がされた同じ鋼材の表面にレーザを照射するレーザ照射装置、照射された該レーザが拡散反射された上記鋼材の表面を撮像する第2カメラ、および、該第2カメラにより得られた画像を基に、上記鋼材の表面を連続した断面形状により3次元的に示す画像処理部を含む3次元計測部と、を備えている、
ことを特徴とする溶削済み鋼材の表面検査装置。
【請求項5】
前記レーザ照射装置から鋼材の表面に照射されるレーザは、緑色系あるいは青色系の半導体レーザである、
ことを特徴とする請求項4に記載の溶削済み鋼材の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−236215(P2012−236215A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106992(P2011−106992)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】