説明

溶射用Ni基自溶合金粉末およびその製造方法と、該粉末を用いて得られる自溶合金溶射皮膜

【課題】室温での硬度(室温硬度)、耐摩耗性、耐熱衝撃性(耐熱サイクル特性)に加え、耐熱性の指標である高温下での硬度(高温硬度)に優れる溶射用Ni基自溶合金粉末およびその製造方法と、自溶合金溶射皮膜を提供する。
【解決手段】Cr、CおよびCoを含むNi基自溶合金からなり、粒径5μm以下のクロムカーバイドが、粒子内部に均一に析出している溶射用Ni基自溶合金粉末であり、30.0質量%〜65.0質量%のCrと、1.0質量%〜4.5質量%のCと、5.0質量%〜20.0質量%のCoと、0.5質量%〜4.0質量%のSiと、0.5質量%〜4.0質量%のBと、0.5質量%〜4.0質量%のMoと、選択的に0〜5.0質量%のFeとを含み、残部がNiおよび不可避的不純物である。さらに、45μm〜106μmの粒度範囲に整粒される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射に用いるNi基自溶合金粉末、特にアトマイズ法により得られるNi基自溶合金粉末とその製造方法、および、該粉末を用いて得られる自溶合金溶射皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射とは、例えば、対象物の所定部位に半溶融状態の金属粉末を吹き付け、当該部位の表面に皮膜を形成させる表面処理法の一種であり、硬質皮膜の形成が簡便かつ容易にできることから、損傷対策の最も有力な手段の一つとして多用されている。溶射による損傷対策には、予め、硬質である溶射皮膜を形成しておくことにより、損傷を予防する方法と、損傷があった後、溶射皮膜を形成することにより、損傷した部分を回復させる方法とがある。
【0003】
近年、発電設備のボイラーチューブなどのように、耐熱性、耐食性および耐摩耗性が求められる分野においても、損傷予防や損傷した部分の回復に、溶射が適用されるようになってきている。
【0004】
ボイラーチューブは、火力発電所やゴミ焼却炉、製鉄所のコークス乾式消火設備などにおいて、廃熱回収に用いられる。具体的には、ボイラーチューブの外側に高温の燃焼ガスを暴露させると共に、ボイラーチューブの内側に循環水を通過させることにより、燃焼ガスの熱を循環水に移行させ、循環水を高温で高圧の蒸気として、発電機のタービンを回すようにする。ボイラーチューブの外側は、高温の燃焼ガスによる腐食に加え、加熱された粉塵によるエロージョン摩耗を受けるため、耐食性と共に、耐熱性、耐摩耗性、および耐熱衝撃性が必要とされるため、溶射により溶射被膜が形成される。
【0005】
ボイラーチューブの外側の表面に溶射される材料としては、クロムカーバイド・ニッケルクロム(Cr32−NiCr)サーメット、Ni基自溶合金(JIS SFNi4種または5種)、あるいは、50Ni50Crなどの粉末が使用される。
【0006】
このうち、Cr32−NiCrや、タングステンカーバイト・コバルト(WC−Co)などのサーメット粉末は、硬度および融点が高く微細なCr32またはWCからなる一次粒子と、このような一次粒子のバインダ的役割を担うNi−Cr合金やCoとから構成される。サーメット粉末の製造には、造粒−焼結法が多用されている。造粒−焼結法では、Cr32またはWCなどの数μm以下の一次粒子と、CoやNi−Cr合金などの粉末(バインダ)とを、溶媒中で混練してスラリー状とし、得られたスラリーをスプレードライヤにより噴霧して、球形状とした後、溶媒を気化させ、焼結することにより、サーメット粉末を得ている。
【0007】
得られたサーメット粉末を、15μm〜53μm前後の微細な粒度範囲に整粒し、高速ガス炎溶射法、プラズマ溶射法などの溶射法を用いて、高速で母材に衝突させることにより、溶射皮膜を得る。サーメット粉末は、一次粒子が凝集結合した多孔質な二次粒子からなり、バインダが溶融する温度で溶射が可能であることから、高融点の元素を一次粒子として多量に添加できる。よって、緻密で耐摩耗性に優れ、耐熱性を有する溶射皮膜を形成できる。
【0008】
しかしながら、得られる溶射皮膜は、マトリックスとなるバインダ中に一次粒子が点在し、不均一なものとなる。また、溶射皮膜が、溶射時の衝突圧力により、サーメット粉末と母材との機械的結合を主として形成されるため、自溶合金粉末を用いて得た皮膜と比べると、粒子間結合力が低く、耐熱衝撃性(耐熱サイクル特性)に劣るため、特に熱衝撃により、割れや剥離を生じやすいという問題がある。
【0009】
一方、自溶合金粉末は、BやSiなどのフラックス成分を含むことを特徴としたNi基またはCo基の合金からなる粉末である。自溶合金粉末は、主として、原料を溶解炉で溶融して得た溶湯を、タンディッシュを介して、流量および流速を調整しつつ、高圧の水または不活性ガスと接触させ、粉砕および急速凝固させて、粉末を得るアトマイズ方法により製造される。
【0010】
自溶合金粉末を、サーメット粉末と同様に整粒し、高速ガス炎溶射法、プラズマ溶射法により溶射した後、熱を加えて再溶融処理を行う。これにより、粒子間結合力が向上し、母材と溶射皮膜の界面に拡散層が形成され、得られる溶射皮膜の皮膜密度が高くなり、耐熱性の指標である高温下での硬度、密着強度(耐剥離性)および耐熱衝撃性(耐熱サイクル特性)に優れる溶射皮膜を得ることができる。
【0011】
再溶融処理が行われることからも明らかなように、公知の自溶合金を用いた溶射皮膜には、再溶融処理を行わないと耐熱性(高温硬度)が低いという問題がある。かかる耐熱性の改善を目的とするものとして、Ni−16Cr−4Si−4B−4Fe−2.4Cu−2.4Mo−2.4W−0.5C等のNi基合金からなる自溶合金が知られているが、再溶融処理を行わないと耐熱衝撃性が向上しないため、やはり再溶融処理が必要であった。
【0012】
しかしながら、かかる自溶合金を用いて得られた再溶融処理を施した溶射皮膜であっても、近年の環境対策の一環として、発電効率を向上させ、かつダイオキシン発生を抑制するために、燃焼ガスの高温化および高圧化が要求されている状況下では、溶射皮膜の高温硬度が不十分となり、かかる要求に応えられていない。
【0013】
一方、溶射用自溶合金の改善材料として、例えば、特開平08−311630号公報に記載された、Ni基自溶合金粉末に、WCを混合した材料がある。WCは、Ni基自溶合金粉末との比重差により不均一な分布とならないようにするため、WC−CoやWC−NiCrなどのサーメットの状態で、自溶合金粉末に近い粒径で混合される。得られた混合粉末を用いて形成された溶射皮膜は、自溶合金マトリックス中に、WC系サーメット粒子が点在した状態となる。WC系サーメット粒子の存在により、耐摩耗性が通常の自溶合金を用いた溶射皮膜よりも向上し、従来、相反するとされてきた耐食性と耐磨耗性の両方の特性で良好な結果が得られる。
【0014】
しかしながら、マトリックスである自溶合金の特性を反映して、耐熱性に乏しく、高温環境下で使用するには不十分であるという問題がある。
【特許文献1】特開平08−311630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、再溶融処理を行わなくても、室温での硬度(室温硬度)、耐摩耗性、耐熱衝撃性(耐熱サイクル特性)に加え、耐熱性の指標である高温下での硬度(高温硬度)に優れた、Ni基自溶合金を用いた溶射皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、アトマイズ法を用いて得られるNi基自溶合金に対して、Cr、CおよびCoを含ませることにより、粒径5μm以下の微細なCr32やCr73などのクロムカーバイドが、粒子内部に均一に析出しているNi基自溶合金粉末が得られ、該Ni基自溶合金粉末を用いた溶射皮膜は、再溶融処理を行わなくても、公知の溶射皮膜と比較して、同等以上の室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の溶射用Ni基自溶合金粉末は、少なくともCr、CおよびCoを含み、粒径5μm以下のクロムカーバイドが、粒子内部に均一に析出していることを特徴とする。
【0018】
該溶射用Ni記事用合金粉末の具体的な組成は、30.0質量%〜65.0質量%のCrと、1.0質量%〜4.5質量%のCと、5.0質量%〜20.0質量%のCoと、0.5質量%〜4.0質量%のSiと、0.5質量%〜4.0質量%のBと、0.5質量%〜4.0質量%のMoとを含み、残部がNiおよび不可避的不純物であることが望ましい。
【0019】
あるいは、30.0質量%〜65.0質量%のCrと、1.0質量%〜4.5質量%のCと、5.0質量%〜20.0質量%のCoと、0.5質量%〜4.0質量%のSiと、0.5質量%〜4.0質量%のBと、0.5質量%〜4.0質量%のMoと、5.0質量%以下のFeを含み、残部がNiおよび不可避的不純物であることが望ましい。
【0020】
さらに、該溶射用Ni基自溶粉末の粒度範囲は、45μm〜106μmであることが望ましい。
【0021】
本発明のNi基自溶合金粉末は、所定の比率で原料を混合し、得られた混合物を溶融し、アトマイズ法により粉末とすることにより製造される。
【0022】
該溶射用Ni基合金粉末を公知の溶射法により溶射することにより、本発明の自溶合金溶射皮膜は、前記のいずれかの溶射用Ni基自溶合金粉末を用いて得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の溶射用Ni基自溶合金粉末を溶射して得られる自溶合金溶射皮膜は、再溶融処理を行わなくても、公知の自溶合金粉末、サーメット粉末を用いて得られる溶射皮膜と比較して、室温での硬度(室温硬度)、高温硬度、耐摩耗性、耐熱衝撃性(耐熱サイクル特性)のいずれもが、同等または同等以上であり、かつ、高い高温硬度を有しているため優れた耐高温エロージョン摩耗性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の溶射用Ni基自溶合金粉末における構成成分について、以下に、それぞれに係る限定理由を説明する。
【0025】
Crは、Cと結合して複炭化物を形成し、さらに、Bと結合して複硼化物を形成して、得られる溶射皮膜の硬度を高め、耐熱性、耐食性および耐磨耗性を著しく向上させる効果を持つ元素である。
【0026】
Crの含有率は、30.0質量%〜65.0質量%が好ましい。Crの含有率が30.0質量%未満では、複炭化物や複硼化物の形成が不充分となり、前述の特性が充分に得られない。また、65.0質量%を超えると、得られる溶射皮膜の靱性が低下したり、融点が上昇したりするとともに、加工面にブローホール等の欠陥を招き易くなる。
【0027】
Cは、主にCrまたはMoと結合して、複炭化物を形成することにより、得られる溶射皮膜の硬度および耐摩耗性の向上に寄与する元素である。
【0028】
Cの含有率は、1.0質量%〜4.5質量%が好ましい。Cの含有率が1.0質量%未満になると、粉末の融点が高くなり、溶射時の粉末付着歩留まりが低下して作業効率が低下する。また、得られる溶射皮膜がポーラスとなるばかりか、溶射皮膜中に晶出する複炭化物の量が少なくなり、十分な耐摩耗性が得られない。また、4.5質量%を超えると、硬度が過度に高くなると共に、靭性が低下し、加工時や使用時にクラックが発生しやすくなる。
【0029】
Coは、Cr、Mo、FeおよびNiと合金を形成することにより、溶射皮膜の硬度、高温硬度および耐熱性を向上させる効果を持つ元素である。
【0030】
Coの含有率は、5.0質量%〜20.0質量%が好ましい。Coの含有率が5.0質量%未満になると、形成される合金相が不充分となり、前述の特性が充分に得られない。また、20.0質量%を超えると、靭性が低下し、加工時や使用時にクラックが発生しやすくなる。
【0031】
Siは、後述するBと共に、溶射用の自溶合金材料として重要な元素であり、脱酸材として溶射皮膜中の酸化物や気孔を低減させて、耐熱衝撃性を向上させると共に、粉末の融点を低下させる効果を持つ。加えて、マトリックス中に固溶して、得られる溶射皮膜の硬さや耐摩耗性の向上に寄与する。
【0032】
Siの含有率は、0.5質量%〜4.0質量%が好ましい。Siの含有率が0.5質量%未満では、前述の効果が充分に得られない。また、4.0質量%を超えると、硬くなりすぎて脆くなり、加工時や使用時にクラックが発生しやすくなる。
【0033】
Bは、Siと同様に、溶射用の自溶合金材料として重要な元素であり、粉末の融点を低下させる。加えて、CrおよびMoと結合して、Cr−Mo−B系複硼化物を形成して、得られる溶射皮膜の硬度を高め、耐摩耗性の向上に寄与する。
【0034】
Bの含有率は、0.5質量%〜4.0質量%が好ましい。Bの含有率が0.5質量%未満では、Cr−Mo−B系複硼化物の形成量が少ないために、充分な効果が得られない。また、4.0質量%を超えると、Cr−Mo−B系複硼化物の形成量が過多となり、得られる溶射皮膜の靭性が低下する。
【0035】
Moは、Crと同様に、Cと結合して複炭化物を形成し、また、Bと結合して複硼化物を形成することにより、得られる溶射皮膜の耐磨耗性を大幅に向上させる効果を持つ元素である。また、一部は、Ni、Coマトリックス中に固溶して硫化物や塩化物などに対する耐食性を向上させる。
【0036】
Moの含有率は、0.5質量%〜4.0質量%が好ましい。Moの含有率が0.5質量%未満では、前述の複炭化物および複硼化物の形成が不充分で、効果が充分に得られない。また、4.0質量%を超えても、さらなる効果の向上は大きく期待できず、却って、得られる溶射皮膜の靱性や、粉末の自溶性の低下を招く。
【0037】
Niは、本発明の溶射用Ni基自溶合金粉末のマトリックスを形成する元素である。
【0038】
本発明の溶射用Ni基自溶合金粉末の特性を、より向上させるために、さらにFeを添加することが可能である。Feは、Niマトリックス中に固溶して、得られる溶射皮膜の強度をより向上させる元素であり、このような効果を目的として添加することが可能である。
【0039】
Feの含有率は、5.0質量%以下とする。Feの含有率が、5.0質量%を超えると、得られる溶射皮膜の硬さと耐食性が低下し、耐摩耗性と耐食性の劣化を招く。
【0040】
前述のように、本発明の組成範囲内で混合されて得られる混合物は、いったん、溶融されて溶融物とされる。そして、例えば、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法により、粉末とされる。これらのアトマイズ法では、アトマイズ条件のうち、溶融物と気体や液体との比率を変化させることにより、得られる粉末の粒度を調整することが可能である。
【0041】
溶射用Ni基自溶合金粉末の分級粒度範囲は、使用する溶射ガンの種類により異なるが、パウダーガンおよびプラズマ溶射ガンを使用する場合には、45μm〜125μm、45μm〜106μm、45μm〜90μm、20μm〜75μm、および10μm〜53μmが好適であり、中でも45μm〜106μmが好ましい。また、高速ガス炎溶射ガンを使用する場合には、5μm〜30μm、5μm〜38μm、5μm〜45μm、10μm〜45μm、15μm〜45μm、および20μm〜53μmが適切である。
【0042】
得られる粉末の粒度が、それぞれの粒度範囲よりも粗い場合には、溶射により緻密な溶射皮膜を形成させることが困難であり、硬度の低い溶射皮膜しか得られない。また、それぞれの粒度範囲よりも微細である場合には、粉末の流動性が低下するとともに、受熱効率の高い微細粉末が溶融して、溶射ガンのノズル内面に堆積するために、溶射の作業性が著しく損なわれる。
【0043】
原料を1550〜1700℃といった高温で溶解、均一化し、その後アトマイズ法により急冷し粉末を作製することにより、親和力の強いCrとCが結合し、粒径5μm以下のクロムカーバイド粒子が晶出し、それがマトリックス合金相内部に均一に分散し、析出する。なお、CoはNiやCrと結合し、NiCoCrマトリックス合金相を形成する。粉末粒子内部のクロムカーバイトの粒径が5μmを超えて粗大化すると、溶射被膜が脆くなり、耐磨耗性や耐熱衝撃性等が低下するため、好ましくない。また、内部に不均一に析出しても硬度のバラツキが発生するため、耐摩耗性、耐熱衝撃性、耐熱性を低下させるので好ましくない。
【0044】
以下、本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
まず、表1に示した組成となるように配合した原料を、高周波誘導真空溶解炉を用いて溶融した。得られた約1650℃の溶湯を、ガス−水アトマイズ法によって粉末にした。得られた粉末を、熱風乾燥後、振動式分級機にて45μm〜106μmに分級し、本実施例の溶射用Ni基自溶合金粉末を作製した。得られた溶射用Ni基自溶合金粉末の化学組成および分級粒度範囲は、表1に示した組成と同じであった。
【0046】
得られた溶射用Ni基自溶合金粉末の断面を、村上試薬(フェロシアン化カリと苛性カリを含むエッチング液)でエッチングし、電子顕微鏡で観察したところ、粒径5μm以下のCr32、Cr73、Cr236からなるクロムカーバイド粒子が、NiCoCrマトリックス合金相内部に均一に分散し、析出していた。
【0047】
次に、得られた溶射用Ni基自溶合金粉末を用いて、プラズマ溶射ガンにより、SS400軟鋼板上に溶射して、厚さ450μmの溶射皮膜を得た。さらに、得られた溶射皮膜の表面を、切削および研磨することにより平滑にし、室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性を次のように、測定した。
【0048】
室温硬度および高温硬度は、ビッカース硬度計(荷重:0.3kgf)を用いて、断面および表面について測定した。高温硬度は、200℃、400℃、および600℃に加熱保持して、測定した。
【0049】
耐摩耗性は、スガ式往復運動摩耗試験機を用い、荷重:3.25kgf、往復回数(DS):1600回、相手材:SiC#320研磨紙とし、JIS H 8503(めっきの耐摩耗性試験方法)の第9項(往復運動摩耗試験法)に規定された試験方法に準じて、耐摩耗量(DS/mg)を測定した。
【0050】
耐熱衝撃性は、熱サイクル試験で評価した。熱サイクル試験は、600℃の電気炉中に30分間保持した後、強制空冷する熱サイクルを30回繰り返し、1回ごとに、溶射皮膜に生ずる亀裂や剥離の有無を、目視およびカラーチェックにより、観察した。
【0051】
室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性の測定結果を、表2に示す。
【0052】
[実施例2〜4]
原料を、表1に示した組成となるように配合した以外は、実施例1と同様にして、溶射用Ni基自溶合金粉末を得た。得られた溶射用Ni基自溶合金粉末の化学組成および分級粒度範囲は、表1に示した組成と同じであった。また、得られた粉末を分析したところ、実施例1と同様に、いずれも粒径5μm以下のクロムカーバイドが、粒子内部に均一に析出していた。
【0053】
次に、溶射皮膜を実施例1と同様に得て、得られた溶射皮膜について、実施例1と同様に、室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性を測定した。室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性の測定結果を、表2に示す。
【0054】
[比較例1]
Crのみを50%添加し残部がNiである粉末を作製した。
【0055】
次に、溶射皮膜を実施例1と同様に得て、得られた溶射皮膜について、実施例1と同様に、室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性を測定した。室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性の測定結果を、表2に示す。
【0056】
[比較例2]
一般的に使用されている材料として、原料を、表1に示した組成となるように配合した以外は、実施例1と同様にして、溶射用Ni基自溶合金粉末を得た。得られた溶射用Ni基自溶合金粉末の化学組成および分級粒度範囲は、表1に示した組成と同じであった。
【0057】
次に、溶射皮膜を実施例1と同様に得て、得られた溶射皮膜について、実施例1と同様に、室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性を測定した。室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、および耐熱衝撃性の測定結果を、表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
以上の結果より、本発明の実施例1〜4で得られた溶射用Ni基自溶合金粉末を使用して得られた溶射皮膜は、再溶融処理を行わなくても、従来、使用されてきた公知の溶射皮膜と、同等もしくは同等以上の室温硬度、高温硬度、耐摩耗性、耐熱衝撃性(耐熱サイクル性)を有し、さらに、高い高温硬度を有しているため耐高温エロージョン摩耗性を有することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともCr、CおよびCoを含み、粒径5μm以下のクロムカーバイドが、粒子内部に均一に析出していることを特徴とする溶射用Ni基自溶合金粉末。
【請求項2】
30.0質量%〜65.0質量%のCrと、1.0質量%〜4.5質量%のCと、5.0質量%〜20.0質量%のCoと、0.5質量%〜4.0質量%のSiと、0.5質量%〜4.0質量%のBと、0.5質量%〜4.0質量%のMoとを含み、残部がNiおよび不可避的不純物である請求項1に記載の溶射用Ni基自溶合金粉末。
【請求項3】
30.0質量%〜65.0質量%のCrと、1.0質量%〜4.5質量%のCと、5.0質量%〜20.0質量%のCoと、0.5質量%〜4.0質量%のSiと、0.5質量%〜4.0質量%のBと、0.5質量%〜4.0質量%のMoと、5.0質量%以下のFeを含み、残部がNiおよび不可避的不純物である請求項1に記載の溶射用Ni基自溶合金粉末。
【請求項4】
粒度範囲が45μm〜106μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶射用Ni基自溶合金粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の溶射用Ni基自溶合金粉末を製造する方法であって、所定の比率で原料を混合し、得られた混合物を溶融し、アトマイズ法により粉末を得ることを特徴とするNi基自溶合金粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の溶射用Ni基自溶合金粉末を用いて得られた自溶合金溶射皮膜。

【公開番号】特開2008−115443(P2008−115443A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301118(P2006−301118)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】