説明

溶接接合部品及び溶接接合方法

【課題】リングギヤとこのリングギヤを組み付ける部品本体との溶接接合部の耐荷重性能を高める。
【解決手段】リングギヤ3の貫通孔13にデフケース1の円筒部15を挿入するとともに、リングギヤ3の背面部17の外周側の突出部17aと、デフケース1の大径部19の外周側の突出部19aとを互いに突き合わせて突合せ部5とし、この突合せ部5を溶接して溶接接合部23を形成する。リングギヤ3のギヤ部11に作用する荷重Fはギヤ部11の幅方向ほぼ中央部にあり、この荷重Fが突合せ部5の径方向幅W内に掛かるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周側にギヤ部を備えるリングギヤの中心の貫通孔に部品本体の挿入部を挿入するとともに、リングギヤのギヤ部と反対側の背面部を本体部の側面に突き合わせ、この突合せ部の外周側を溶接により接合固定した溶接接合部品及び溶接接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車におけるファイナルドライブユニットとして設けてあるデファレンシャル装置のデフケースと、デフケースの外周部に取り付けるリングギヤは、環状のリングギヤをデフケースに嵌め込んだ状態で、ボルトにより締結する工法が用いられている。
【0003】
ところが、近年では、上記2部品の締結部近傍をその外周に沿って溶接することにより、ボルトを廃止するとともに、ボルトを締結するための2部品の一部をも除去することで、ファイナルドライブユニットの軽量化を達成できるようにしている(例えば下記特許文献1参照)。
【0004】
この場合、リングギヤをデフケースに嵌め込んだときにこれら2部品の互いに当接する突合せ部を溶接するが、この突合せ部の溶接位置については、リングギヤのギヤ部に作用する荷重を特に考慮したものになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−514511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、リングギヤに噛合する他のギヤからリングギヤに荷重が作用したときには、溶接接合部に無理な荷重が作用する恐れがあり、溶接接合部の耐荷重性能が不充分となる場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、リングギヤとこのリングギヤを組み付ける部品本体との溶接接合部の耐荷重性能を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リングギヤのギヤ部と反対側の背面部と部品本体の側面との互いの突合せ部を、溶接により接合固定した溶接接合部品であって、リングギヤのギヤ部が受ける荷重の中心部を突合せ部の径方向幅内に位置させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リングギヤのギヤ部に作用する荷重は、リングギヤと部品本体とを溶接接合する突合せ部の径方向幅内に主に掛かることになるので、リングギヤと部品本体との溶接接合部の耐荷重性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は図2の溶接接合部品における溶接後の溶接接合部を示す要部の断面図、(b)は(a)に対応する溶接前の断面図である。
【図2】本発明の第1の一実施形態に係わる溶接接合部品を示す正面図である。
【図3】本発明の比較例を示す、図1(a)に対応する断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる溶接接合部を示す、図1(a)に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
図2に示すように、自動車におけるファイナルドライブユニットとして設けてあるデファレンシャル装置のデフケース1に対し、リングギヤ3を図2中で左方向から嵌め込み、互いの突合せ部5の外側部分である外周部分に対して溶接することで、これら2部品相互を溶接接合する。
【0013】
溶接する際には、例えばレーザビームや電子ビームなどの高密度エネルギビーム7を照射して行うが、その際溶加材となるフィラーワイヤ9を使用する。フィラーワイヤ9としては、通常デフケース1が鋳鉄材であることから、溶融した鋳鉄材が硬化したときに割れが発生することを防ぐ目的で、鉄に対してなじみのよいNi(ニッケル)成分を含んだものを使用する。
【0014】
リングギヤ3は、外周部にギヤ部11を備えるとともに、図1(a),(b)に示すように中心部に貫通孔13を備えて全体として環状に形成してある。一方、デフケース1は、上記リングギヤ3の貫通孔13に挿入する挿入部としての円筒部15を備えて中空構造としている。
【0015】
また、デフケース1は、円筒部15の外径よりも外径が大きく、かつ、リングギヤ3のギヤ部11と軸方向反対側の背面部17に対向する側面となる大径部19を、円筒部15に隣接して備えている。
【0016】
上記軸方向に互いに対向する背面部17及び大径部19は、外周側にて互いに対向する軸方向に突出する突出部17a及び19aを備え、これら各突出部17a及び19a同士を互いに付き合わせることで、溶接前の状態を示す図1(b)のように前記した突合せ部5を形成する。この突合せ部5の径方向内側における背面部17と大径部19との間には、環状の隙間21を形成してある。
【0017】
そして、上記した突合せ部5は径方向幅となる接合幅Wを備えており、この接合幅Wの幅(径)方向中心に、リングギヤ3に他の図示しないギヤが噛合して回転する際に受ける荷重Fの中心部が位置している。すなわち、リングギヤ3が受ける荷重Fの中心部を、溶接接合部23となる突合せ部5の径方向幅の幅方向中心に一致させている。
【0018】
次に、作用を説明する。溶接後の図1(a)に対し溶接前の図1(b)に示すように、リングギヤ3の貫通孔13にデフケース1の円筒部15を挿入するとともに、リングギヤ3側の突出部17aとデフケース1側の突出部19aとを互いに当接させることで、突合せ部5が形成される。このとき、突合せ部5より径方向内側の背面部17と大径部19との間に環状の隙間21が形成される。
【0019】
上記図1(b)の状態で溶接作業を行う際に、例えばレーザビームや電子ビームなどの高密度エネルギビーム7を突合せ部5に照射して行い、その際溶加材となるフィラーワイヤ9を使用する。
【0020】
このように、高密度エネルギビーム7を突合せ部5に向けて照射し、母材であるデフケース1及びリングギヤ3側の各突出部17a及び19aの先端面付近が溶融し始めたら、フィラーワイヤ9を順次供給していく。このとき、デフケース1及びリングギヤ3を、図示しない溶接設備の回転駆動機構によって、リングギヤ3の中心軸線を中心として一体的に回転させることで、上記した突合せ部5の全周にわたって溶接することになる。
【0021】
溶接時には、各突出部17a及び19aが溶融するとともに、順次供給するフィラーワイヤ9が溶融する。これにより、図1(a)に示すように、デフケース1及びリングギヤ3とフィラーワイヤ9とが溶融した溶融金属部で構成される溶接接合部23が形成されて、これら両者が接合固定されることになる。
【0022】
このようにして溶接接合したデフケース1とリングギヤ3とからなる本実施形態の溶接接合部品は、図1(a)に示すように、リングギヤ3に図示しない他のギヤが噛合して回転する際に受ける荷重Fの中心部が、突合せ部5の接合幅Wの幅方向中心に位置している。
【0023】
これにより、上記した荷重Fは、溶接接合部23の軸方向幅のほぼ中心位置に作用することになり、その結果リングギヤ3とこのリングギヤ3を組み付けるデフケース1との溶接接合部23の耐荷重性能を高めることができる。
【0024】
例えば、図3に示す比較例のように、溶接接合部23が荷重Fに対して径方向内側(図3中で下方)にずれている場合には、荷重Fがギヤ部11に作用したときに溶接接合部23が片持ちで荷重Fを支持するような構造となってしまい、リングギヤ3は矢印Aで示す方向に撓み変形する恐れがある。この結果、溶接接合部23に無理な負荷が作用して破損に至る場合がある。
【0025】
これに対して本実施形態では、図1(a)に示すように荷重Fが作用する方向の延長線上に溶接接合部23の中心が存在するので、図3の構造に比較して耐荷重性能が極めて高いものとなる。
【0026】
また、本実施形態では、リングギヤ3の背面部17とデフケース1の大径部19との互いの対向面を、その径方向全長にわたり接触させるのではなく、これら背面部17と大径部19との間に環状の隙間21を設けてその外周側の突合せ部5に対して径方向外側から径方向内側に向けて貫通溶接を行う構造としている。このため、図1(a)に示す溶接接合部23は、図1(b)における突合せ部5の外周側から内周側にわたり形成されることになり、したがって溶接接合部23の内周側に突出部17a,19a相互の突合せ面が残ることを抑制でき、これにより応力集中を抑制することが可能となる。
【0027】
また、本実施形態では、上記した貫通溶接によって、隙間21内の少なくとも一部にも溶融金属を存在させることができ、これにより溶接接合部23の容積(体積)がより拡大し、溶接強度を高めることができる。その際、本実施形態では、溶接作業時に隙間21の外周側にて突出部17a,19a相互を互いに当接させることになるので、溶接作業時でのリングギヤ3のデフケース1に対する組み付け安定性が高まり、溶接接合部品として高品質化を達成することができる。
【0028】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、図4に示すように、図1(a)に示す第1の実施形態に対し、各突出部17a,19a相互の突合せ部5の径方向幅(接合幅W)の範囲内に、荷重Fの中心部が位置しているものとする。なお、図4では、荷重Fの中心部が接合幅Wの中心よりやや径方向内側(図4中で下方)に位置している。
【0029】
すなわち、本実施形態では、上記した荷重Fが、必ずしも突合せ部5の径方向幅(接合幅W)の幅方向中心に一致している必要がなく、突合せ部5の径方向幅の範囲内に位置していればよい。
【0030】
第2の実施形態によれば、上記した荷重Fは突合せ部5の径方向幅内に作用することになるので、リングギヤ3とこのリングギヤ3を組み付けるデフケース1との溶接接合部23の耐荷重性能を高めることができる。この場合、荷重Fを、溶接接合部23の径方向幅(接合幅W)の幅方向中心に一致させる必要がないので、部品を製造するに際してその加工精度が第1の実施形態ほどに必要がなく、製造コストを抑えることが可能となる。
【0031】
なお、上記した各実施形態では、リングギヤ3の背面部17及びデフケース1の大径部19に突出部17a及び19aをそれぞれ設けているが、突出部17a,19aのうち一方側のみ設けてこの一方側の例えば突出部17aを他方側の突出部19aを設けていない側に突き合わせてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 デフケース(部品本体)
3 リングギヤ
5 突合せ部
11 リングギヤのギヤ部
13 リングギヤの貫通孔
15 デフケースの円筒部(挿入部)
17 リングギヤの背面部
19 デフケースの大径部(側面)
21 リングギヤの背面部とデフケースの大径部との隙間
F リングギヤに作用する荷重(荷重の中心部)
W 突合せ部の接合幅(突合せ部の径方向幅)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側にギヤ部を備えるリングギヤの中心の貫通孔に部品本体の挿入部を挿入するとともに、前記リングギヤの前記ギヤ部と反対側の背面部を前記部品本体の側面に突き合わせ、この突合せ部の外周側を溶接により接合固定することで、これらリングギヤと部品本体とを互いに組み付ける溶接接合部品であって、前記リングギヤのギヤ部が受ける荷重の中心部を前記突合せ部の径方向幅内に位置させたことを特徴とする溶接接合部品。
【請求項2】
前記リングギヤが受ける荷重の中心部と、前記突合せ部の径方向幅の幅方向中心とを互いに一致させたことを特徴とする請求項1に記載の溶接接合部品。
【請求項3】
前記突合せ部の径方向内側の前記リングギヤと前記部品本体との間に隙間を設けことを特徴とする請求項1または2に記載の溶接接合部品。
【請求項4】
外周側にギヤ部を備えるリングギヤの中心の貫通孔に部品本体の挿入部を挿入するとともに、前記リングギヤの前記ギヤ部と反対側の背面部を前記部品本体の側面に突き合わせ、この突合せ部の外周側を溶接により接合固定することで、これらリングギヤと部品本体とを互いに組み付ける溶接接合方法であって、前記リングギヤのギヤ部が受ける荷重の中心部を前記突合せ部の径方向幅内に位置させた状態で前記突合せ部の外周側を溶接接合することを特徴とする溶接接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−47420(P2011−47420A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194207(P2009−194207)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】