説明

溶融金属精錬用浸漬管、溶融金属の製造方法及びステンレス鋼の製造方法

【課題】ステンレス鋼に含有される介在物、特に硬質介在物を低減し、製品の表面疵や加工時の割れを防止可能な溶融金属精錬用浸漬管の提供。
【解決手段】本体が、SiO2:5%以下、C:35%以下、SiC:10%以下,Al2O3:40〜80%,残部がその他の耐火成分および不可避的不純物からなる組成を有するAl2O3-C系耐火物からなるとともに、本体の外周の一部が、C:30%以下、SiC:10%以下,ZrO2:60〜90%,残部がその他の耐火成分および不可避的不純物からなる組成を有するZrO2-C系耐火物からなる浸漬管1を、ステンレス溶鋼3に浸漬し、浸漬管1の内部にガス5を吹き込みながらガス5の圧力を変化させることにより浸漬管1の内部にステンレス溶鋼3の下降流7を生成し、下降流7により容器2の底部へ向かう、ガスの円環状気泡8を生成することにより、ステンレス溶鋼3に含まれる介在物8bを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属精錬用浸漬管、溶融金属の製造方法及びステンレス鋼の製造方法に関し、具体的には、ステンレス鋼に含有される介在物、特に硬質介在物を低減するのに有効な溶融金属精錬用浸漬管、溶融金属の製造方法及びステンレス鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼に含まれる鋼中介在物は、その数が多数であるか、又は融点が高い硬質介在物であると、製品(ステンレス鋼板)におけるスリバー疵等の表面欠陥や、加工時における割れの発生原因となる。また、硬質介在物は圧延による伸展が生じないので製品に大型のまま残存し、ステンレス鋼板の機械的性質を低下させる。このため、これまでにも、ステンレス鋼に含まれる硬質介在物を低減する発明が多数提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、脱酸材としてSiを用い、かつAl含有物質を無添加とし、これに加えてスラグ塩基度(T.CaO/SiO)を1.4〜2.0の範囲内に制御することにより、Al系あるいはAl−MgOスピネル系の硬質介在物の生成を抑制する発明が開示されている。
【0004】
しかし、この発明では、スラグ塩基度(T.CaO/SiO)を2.0以下に抑制すること、及びAlを使用できないことの2点から、ステンレス鋼の酸素活量が比較的高いレベルに維持され、脱硫反応が進行し難くなる。このため、この発明は、熱間加工性を維持するために低硫化が厳しく要求される2相系ステンレス鋼や高合金鋼、あるいはベローズ用ステンレス鋼に対しては適用できない。
【0005】
また、精錬条件を制御することにより介在物を軟質化する発明の他に、硬質介在物自体を除去する発明として、浸漬管を介して溶鋼に吹き込む不活性ガスの気泡によって硬質介在物を捕捉して浮上分離を促進する発明が広く用いられている。そして、この不活性ガスの気泡を微細化することにより硬質介在物の除去効率を向上できることが、経験的に知られている。Yoonらは、水−石炭系での実験を行うことにより、この気泡の微細化により硬質介在物の除去効率が向上する理由を、(a)気泡の個数の増加による衝突確率の増加、及び(b)気泡の表面積の増加による介在物との接触確率の増加にあるとしている。図11は、溶鋼−介在物(介在物径10μm)系について気泡径d(mm)と介在物の捕捉確率(d=10mmに対する捕捉確率の比(−))との関係について推算した結果を示すグラフである。図11にグラフで示すように、気泡径dが小さくなると介在物の捕捉確率が飛躍的に向上することがわかる。
【0006】
溶鋼中に微細気泡を分散させる発明(以下、本明細書ではこの発明を「浸漬管法」という。)として、特許文献2〜4には、耐火物からなる浸漬管を溶鋼中へ浸漬し、浸漬管の先端に設置した羽口から不活性ガスを溶鋼に吹き込みながら浸漬管の内部の圧力を変化させて溶鋼の下降流を生成することにより、不活性ガスの円環状気泡を溶鋼に吹き込む発明が開示されている。これらの発明により溶鋼に吹き込まれた円環状気泡は、最終的に、容器底部で微細な気泡に分裂して溶鋼内へ分散することから、溶鋼内への均一な拡散と高い気泡利用効率とが得られる。また、溶鋼とこの溶鋼の上部に存在するスラグとの界面よりも深い位置から下降流を吐出することができるので、乱流が生じてもスラグ系介在物の再巻き込みを生じない。このように、浸漬管法は、溶鋼に含まれる介在物を高効率で安定して除去することができる発明として、極めて優れたものである。
【特許文献1】特開平10−158720号公報
【特許文献2】特開2002−180124号公報
【特許文献3】特開2003−82411号公報
【特許文献4】特開2004−315893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らは、この優れた浸漬管法をステンレス鋼の精錬に適用しようとすると、浸漬管を構成する耐火物の耐久性に課題があることを知見した。
ステンレス鋼は、普通鋼に比較して、低硫化をより厳格に要求される。このため、ステンレス鋼の精錬に用いるスラグやフラックスには、流動性の向上および酸素活量の低下による脱硫反応の促進を目的として、蛍石(CaF)が10%以上20%以下(本明細書では特にことわりがない限り組成に関する「%」は「質量%」を意味する)添加される。しかし、このように蛍石を多く添加すると、溶鋼、スラグ及び耐火物の界面において生じる反応が促進され、耐火物の損耗及び浸潤速度が著しく大きくなる。本発明者らが、特許文献2に開示される浸漬管法で用いる、Alキャスタブル系耐火物からなる浸漬管を、ステンレス鋼の精錬におけるステンレス溶鋼及び溶融スラグに浸漬したところ、スラグが耐火物に浸潤し、耐火物の体積膨張とそれに伴う亀裂とが早期に発生した。
【0008】
このため、Alキャスタブル耐火物からなる浸漬管を用い、ステンレス鋼を対象として浸漬管法を実施すると、早期に発生する耐火物の亀裂部からの加圧ガスのリークおよび大気の吸い込みによる操業効率の低下を生じるばかりか、大気中の酸素による溶鋼再酸化または亀裂進展による耐火物脱落といった問題を生じ、製品品質にも影響する。したがって、浸漬管法をステンレス鋼の介在物の除去に適用することは、浸漬管の耐火物を向上しない限り、困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本体が、SiO:5%以下、C:35%以下、SiC:10%以下、Al:40%〜80%、残部がその他の耐火成分および不可避的不純物からなる組成を有するAl−C系耐火物からなるとともに、本体の外周の一部が、C:30%以下、SiC:10%以下、ZrO:60%〜90%、残部がその他の耐火成分および不可避的不純物からなる組成を有するZrO−C系耐火物からなることを特徴とする溶融金属精錬用浸漬管である。
【0010】
別の観点からは、本発明は、この本発明に係る溶融金属精錬用浸漬管を用いる精錬工程を含むことを特徴とする溶融金属の製造方法である。
また、本発明は、この本発明に係る溶融金属精錬用浸漬管を、ZrO−C系耐火物からなる部分が溶融金属収容容器に収容される溶融金属とこの溶融金属の上部に存在するスラグとの界面に接するように、溶融金属に浸漬し、溶融金属精錬用浸漬管の内壁に設置されるノズルから溶融金属精錬用浸漬管の内部にガスを吹き込みながら溶融金属精錬用浸漬管の内部に供給するガスの圧力を変化させることにより溶融金属精錬用浸漬管の内部に溶融金属の下降流を生成し、この下降流により容器の底部へ向かう、ガスの円環状気泡を生成することにより、溶融金属に含まれる介在物を低減する処理を行う精錬工程を含むことを特徴とするステンレス鋼の製造方法である。
【0011】
この本発明に係るステンレス鋼の製造方法では、ステンレス鋼が、(a)含有する非金属介在物がAlを含む1種以上で構成され、非金属介在物の平均組成がAl:80%以上であるとともに、極値統計法による推定値で試料5g中における非金属介在物の最大円相当径が35μm以下であること、又は(b)含有する非金属介在物がAl−MgOを含む2種以上で構成され、非金属介在物の平均組成がAl:40%以上、MgO:15%以上であるとともに、極値統計法による推定値で5g中における非金属介在物の最大円相当径が35μm以下であることが、望ましい。
【0012】
本発明に係るステンレス鋼の製造方法により製造されるステンレス鋼は、含有する非金属介在物がAlを含む1種以上で構成され、この非金属介在物の平均組成がAl:80%以上であるとともに、極値統計法による推定値で試料5g中における非金属介在物の最大円相当径が35μm以下であるものである。
【0013】
また、本発明に係るステンレス鋼の製造方法により製造されるステンレス鋼は、含有する非金属介在物がAl−MgOを含む2種以上で構成され、この非金属介在物の平均組成がAl:40%以上、MgO:15%以上であるとともに、極値統計法による推定値で5g中における非金属介在物の最大円相当径が35μm以下であるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る溶融金属精錬用浸漬管、溶融金属の製造方法及びステンレス鋼の製造方法により、ステンレス鋼に含有される介在物、特に硬質介在物を低減すること、具体的には、ステンレス鋼の精錬において、溶製時に溶融金属内に浸漬した1つあるいは複数の浸漬管の内壁に設置されたノズルから浸漬管の内部の溶融金属にガスを吹き込み、浸漬管の上部で溶融金属と接する雰囲気ガスの圧力を変化させることにより、還元法およびスラグあるいはフラックス塩基度の制限、また蛍石の添加量の制約なく硬質介在物の低減を行うことで、製品の表面疵や加工時の割れを防止することができる。したがって、ステンレス鋼に対しても、普通鋼に対するのと同様に、浸漬管法を安定して適用することが可能になる。
【0015】
さらに、本発明に係る浸漬管法をステンレス鋼の精錬に適用することにより、Al又はAl−MgO系により構成される硬質介在物の試料5g中の最大円相当径が極値統計法による推定値で35μm以下のステンレス鋼を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、以降の説明では、溶融金属がステンレス溶鋼である場合を例にとる。
はじめに、本発明の原理を簡単に説明する。
【0017】
図1は、本発明が対象とする浸漬管法0を概念的に示す説明図である。
本実施の形態では、同図に示すように、溶融金属精錬用浸漬管(以下、単に「浸漬管」という)1の先端部近傍を、溶融金属収容容器(以下、単に「容器」という)2に収容されたステンレス溶鋼3へ浸漬し、浸漬管1の内部のステンレス溶鋼3へ、浸漬管1の内壁に設置されたノズル4を介して、Ar、N、H、He、Ne又はこれらのうち二種以上を混合した不活性気体5を吹き込んだ状態で、ステンレス溶鋼3と接する部分6を加圧する。
【0018】
これにより、容器2の内部のステンレス溶鋼3に下降流7が発生し、それとともに吹き込まれた不活性気体5の気泡が下降する。浸漬管1の下端を通過した下降流7には、図1中の左上拡大図に示すように渦輪8aが形成され、これら渦輪8aの中心に気泡が集積し、円環状気泡8が形成される。
【0019】
この円環状気泡8は、容器2の底部へと下降していく。この際に、図1中の左下拡大図に示すように渦輪8aに巻き込まれた介在物8bが、円環状気泡8に捕捉される。
介在物8bを捕捉した円環状気泡8は、容器2の底部へ到達した後に、図1中の右下拡大図に示すように渦輪8aの乱れにより、微細な気泡9へ分裂する。
【0020】
そして、微細な気泡9は、図1中の右上拡大図に示すように介在物8bを捕捉したままステンレス溶鋼3の表面へ浮上する。
このような現象が実際に発生することは、水モデル試験によって明らかにされている。本発明は、ステンレス溶鋼3中の介在物8bの除去にこの浸漬管法のメカニズムを適用するものである。
【0021】
ステンレス鋼の精錬に浸漬管法を適用するに際しては、浸漬管1の材質を、ステンレス溶鋼3への浸漬に十分に耐え得るように設定する必要がある。浸漬管1を損傷させる主な要因は、スラグ−メタル界面における溶損あるいはスラグ浸潤、又は、熱衝撃による破損の2つである。これらに対する対策を説明する。
【0022】
スラグ−メタル界面における溶損あるいはスラグ浸潤について適性のある耐火物を選定するため、表1に示す組成を有するAl−C系耐火物Aと、ZrO−C系耐火物B及びAlキャスタブル系耐火物Cを、図2に示すように予め接着した浸漬管41を準備した。なお,表1中におけるその他の成分はCaO,Fe,Cr,TiO等の耐火成分あるいは不可避的不純物の総和である.
【0023】
【表1】

【0024】
そして、図3に示すように、表2に示す組成に調整したスラグ44を予め添加し、1600℃に溶融及び保持したSUS304溶鋼45内へ、Al−C系耐火物A、ZrO−C系耐火物B又はAlキャスタブル系耐火物Cからなる耐火物42、43を装着された浸漬管1を浸漬し、16分間保持した。
【0025】
【表2】

【0026】
表3に、浸漬試験結果(試験後のスラグ−メタル界面の位置における耐火物の溶損速度(mm/h)及び外観変化)をまとめて示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表3に示すように、Al−C系耐火物は、溶損量が37.5mm/hと極めて大きいとともに、Alキャスタブル系耐火物は、スラグ浸潤によって逆に膨張し(溶損量−18.8mm/h)、亀裂が発生した。これに対し、ZrO−C系耐火物の溶損速度は、7.5mm/hとAl−C系耐火物の溶損速度の(1/5)と極めて小さく、かつ亀裂も生じなかった。このことから、ZrO−C系耐火物は、高い耐スラグ侵食性を有し、ステンレス鋼の精錬にも適用できる材質であることが分かる。
【0029】
しかしながら、ZrO−C系耐火物は熱衝撃に弱く、ステンレス溶鋼へ浸漬する前の予熱が不十分であると、容易に破損して亀裂が発生する。図1を参照しながら上述したように、浸漬管法は、浸漬管1の内部の圧力を変化させてステンレス溶鋼3の下降流を生成するものであることから、浸漬管1に亀裂が生ずると加圧ガスのリークや大気の吸い込みにより圧力変化が抑制され、操業効率が著しく低下する。また、浸漬管1の内部のステンレス溶鋼3はスラグあるいはフラックスによって遮断されないので、大気中の酸素によるステンレス溶鋼3の再酸化や窒素のピックアップ等を生じてしまい、ステンレス溶鋼3の品質が低下する。
【0030】
そこで、本実施の形態では、熱衝撃による破損が生じても破損が内部まで進展して亀裂が発生することを防止するために、浸漬管の本体をAl−C系耐火物により構成するとともに、この本体の外周の一部をZrO−C系耐火物により構成する。
【0031】
図4は、本実施の形態の浸漬管10の構造を示す説明図であって、図4(a)は正面図、図4(b)は図4(a)におけるA−A断面図である。
本実施の形態の浸漬管10の本体11は、Al−C系耐火物により構成される。さらに、この本体11の外周の一部12は、ZrO−C系耐火物により構成される。そして、図4(a)に示すように、ZrO−C系耐火物を施工される、本体11の外周の一部12が、スラグーメタル界面13に接するとともに、この一部12以外の本体11の外周部及び浸漬管10の内周は、耐熱衝撃性が良好なAl−C系耐火物により構成される。
【0032】
そして、Al−C系耐火物として、熱衝撃性に優れることから無予熱であっても浸漬可能な組成(SiO:20%、C:30%、ZrO:5%、SiC:2%、残部Al)を有するAl−C系耐火物を用いて、浸漬試験を行った。
【0033】
その結果、使用後の浸漬管10の本体11の内周部に亀裂の発生が見られた。これは、スラグ−メタル界面部のZrO−C系耐火物、及び本体部のAl−C系耐火物それぞれの熱膨張率が約2倍と大きいので、これにより浸漬時に大きな熱応力が発生したためと考えられる。浸漬管1の構造解析を行ったところ、望ましいZrO−C系耐火物とAl−C系耐火物の熱膨張率比は0.8以上かつ1.2以下であるという知見が得られた。そして、図5にグラフで示すように、Al−C系耐火物の熱膨張率は、SiO含有量が低下するとZrO−C系耐火物に近い値となる。
【0034】
そこで、本実施の形態では、浸漬管1の本体部11に含有SiO量を低減したAl−C系耐火物、具体的には、SiO:5%以下、C:35%以下、SiC:10%以下、Al:40%以上80%以下、残部がその他の耐火成分および不可避的不純物からなる組成を有するAl−C系耐火物を用いるとともに、この本体11の外周の一部12が、C:30%以下、SiC:10%以下、ZrO:60%以上90%以下、残部がその他の耐火成分および不可避的不純物からなる組成を有するZrO−C系耐火物を用いる。
【0035】
Al−C系耐火物、ZrO−C系耐火物それぞれの組成を限定する理由を説明する。
Al−C系耐火物におけるSiOは、各耐火物におけるSiO量と熱膨張率との関係を示す図5のグラフに示すように、含有量が5%を越えると上述したように熱膨張率が低下し、ZrO−C系耐火物及びAl−C系耐火物それぞれの熱膨張率比が1.2以上となるので、浸漬時の熱応力による浸漬管の損傷を招く。そこで、Al−C系耐火物におけるSiO量は5%以下と限定する。同様の観点から、4%以下であることが望ましい。
【0036】
Al−C系耐火物におけるC含有量が35%を越えると、耐酸化性及び耐食性が低下するとともに、溶鋼中のCを上昇させる。そこで、Al−C系耐火物におけるC含有量は35%以下と限定する。同様の観点から、32%以下であることが望ましい。
【0037】
Al−C系耐火物におけるSiC含有量が10%を越えると、著しく耐食性を損ない、またC単体と同様に溶鋼中のC量を上昇させる。そこで、Al−C系耐火物におけるSiC量は10%以下と限定する。同様の観点から、5%以下であることが望ましい。
【0038】
Al−C系耐火物におけるAl含有量が40%を下回ると、耐食性を低下させるとともに熱膨張率が低下して、SiO同様に浸漬時の浸漬管の損傷を招く。一方、Al含有量が80%を上回ると、これに伴ってその他の成分の含有量が低下して耐スポーリング性の低下を招く。そこで、Al−C系耐火物におけるAl量は40%以上80%以下と限定する。同様の観点から、50%以上70%以下であることが望ましい。
【0039】
Al−C系耐火物におけるその他の耐火成分としては、CaO,MgO,Fe,Cr,TiO,ZrO等の1種又は2種以上がある。これらの耐火成分の含有量の総和が3%未満であると耐スポーリング性を低下させ、一方15%超であるとこれに伴ってAlの量が低下するので耐食性が低下する。そこで、その他の耐火成分の含有量の総和は3%以上15%以下と限定する。同様の観点から、5%以上10%以下であることが望ましい。
【0040】
一方、ZrO−C系耐火物におけるC含有量が30%を越えると、耐酸化性及び耐食性が低下するとともに、溶鋼中のCを上昇させる。そこで、ZrO−C系耐火物におけるC含有量は30%以下と限定する。同様の観点から、25%以下であることが望ましい。
【0041】
ZrO−C系耐火物におけるSiC含有量が10%を越えると、著しく耐食性を損ない、またC単体と同様に溶鋼中のC量を上昇させる。そこで、ZrO−C系耐火物におけるSiC含有量は10%以下と限定する。同様の観点から、5%以下であることが望ましい。
【0042】
ZrO−C系耐火物におけるZrO含有量が60%を下回ると、耐食性を低下させるとともに熱膨張率が低下して浸漬時の浸漬管の損傷を招く。一方、ZrO含有量が80%を上回ると、これに伴ってその他の成分の含有量が低下して耐スポーリング性の低下を招く。そこで、ZrO−C系耐火物におけるZrO含有量は60%以上80%以下と限定する。同様の観点から、65%以上75%以下であることが望ましい。
【0043】
ZrO−C系耐火物におけるその他の耐火成分としては、CaO,MgO,SiO,Fe,Cr,TiO,Al等の1種又は2種以上がある。これらの耐火成分の含有量の総和が2%未満であると耐スポーリング性を低下させ、一方15%超であるとこれに伴ってZrOの量が低下するので耐食性が低下する。そこで、その他の耐火成分の含有量の総和は、2%以上15%以下と限定する。同様の観点から、3%以上10%以下であることが望ましい。
【0044】
このように、本実施の形態では、本体11が、SiO:5%以下、C:35%以下、SiC:10%以下、Al:40%以上80%以下、その他耐火成分と不可避的不純物からなる組成を有するAl−C系耐火物からなるとともに、この本体11の外周の一部12が、C:30%以下、SiC:10%以下、ZrO:60%以上90%以下、その他耐火成分と不可避的不純物からなる組成を有するZrO−C系耐火物からなる浸漬管10を用いる精錬工程を含むことにより、ステンレス溶鋼を製造する。
【0045】
具体的には、この浸漬管10を、ZrO−C系耐火物からなる部分12が、容器に収容されるステンレス溶鋼とこのステンレス溶鋼の上部に存在するスラグとの界面13に接するように、ステンレス溶鋼に浸漬する。次に、浸漬管10の内壁に設置されるノズルから浸漬管10の内部にガスを吹き込みながら浸漬管10の内部に供給するガスの圧力を変化させることにより浸漬管10の内部にステンレス溶鋼の下降流を生成する。これにより、この下降流によりステンレス溶鋼を収容する容器の底部へ向かう、ガスの円環状気泡を生成することにより、ステンレス溶鋼に含まれる介在物を低減する処理を行う精錬工程を経て、ステンレス鋼を製造する。
【0046】
この方法により、(a)含有する非金属介在物がAlを含む1種以上で構成され、非金属介在物の平均組成がAl:80%以上であるとともに、極値統計法による推定値で試料5g中における非金属介在物の最大円相当径が35μm以下であるステンレス鋼、又は(b)含有する非金属介在物がAl−MgOを含む2種以上で構成され、非金属介在物の平均組成がAl:40%以上、MgO:15%以上であるとともに、極値統計法による推定値で5g中における非金属介在物の最大円相当径が35μm以下であるステンレス鋼を、製造することができる。
【0047】
本実施の形態におけるステンレス鋼の組成は、
(a)JIS G 4304に規定されるSUS309(C:0.08%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Ni:12.00%以上15.00%以下、Cr:22.00%以上24.00%以下)、
(b)JIS G 4304に規定されるSUS310S(C:0.08%以下、Si:1.50%以下、Mn:2.00%以下、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Ni:19.00%以上22.00%以下、Cr:24.00%以上26.00%以下)、
(c)JISG 4304に規定されるSUS329J4L(C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.50%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:5.50%以上7.50%以下、Cr:24.00%以上26.00%以下、Mo:2.50%以上3.50%以下、N:0.08〜0.30%)、
(d)JISG 4304に規定されるSUS316L(C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Ni:12.00%以上15.00%以下、Cr:16.00%以上18.00%以下、Mo:2.00〜3.00%)、
(e)JISG 4304に規定されるSUS301(C:0.15%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Ni:6.00%以上8.00%以下、Cr:16.00%以上18.00%以下)
を基本組成とし、さらに、Sを0.002%未満に低減したものである。
【0048】
これらのJIS規格のステンレス鋼の熱間加工性は、代表的なステンレス鋼であるSUS304あるいはSUS430の熱間加工性よりも低い。特に、S含有量が0.002%以上であると熱間加工性が著しく低下し、熱間圧延の際にヘゲ疵等の表面欠陥が増加する。S含有量を低減するためにはスラグ塩基度(T.CaO/SiO)を2.0以上に高くすること,あるいは脱酸材としてAlを使用することにより酸素活量を低減する必要があるが、酸素活量を低減させると、平均組成が、Al80%以上、又は、Al40%以上及びMgO15%以上である大型かつ硬質の介在物を生成し、表面欠陥の原因となる。
【0049】
しかし、本実施の形態では、上述したように浸漬管法による微細気泡を生成することにより、これらの介在物を速やかに除去することができるので、本実施の形態におけるステンレス鋼の組成を上述したように規定することができる。
【0050】
したがって、本実施の形態によれば、SUS309、SUS310S、SUS329J4L、SUS316L又はSUS301を基本組成としてさらにSを0.002%未満に低減したステンレス鋼に含有される介在物、特に硬質介在物を低減すること、具体的には、これらのステンレス鋼の精錬において、溶製時にステンレス溶鋼内に浸漬した1つあるいは複数の浸漬管の内壁に設置されたノズルから浸漬管の内部のステンレス溶鋼にガスを吹き込み、浸漬管の上部でステンレス溶鋼と接する雰囲気ガスの圧力を変化させることにより、還元法およびスラグあるいはフラックス塩基度の制限、また蛍石の添加量の制約なく硬質介在物の低減を行うことができ、これにより、これらのステンレス鋼からなる製品の表面疵や加工時の割れを防止することができる。したがって、これらのステンレス鋼に対しても、普通鋼に対するのと同様に浸漬管法を安定して適用できるようになる。
【0051】
さらに、本実施の形態により、Al又はAl−MgO系により構成される硬質介在物の試料5g中の最大円相当径が極値統計法による推定値で35μm以下のステンレス鋼を、得ることが可能になる。
【実施例】
【0052】
さらに、本発明を、実施例を参照しながらより具体的に説明する。
図6は、本実施例で用いた装置20の構成を模式的に示す説明図である。本実施例では、40トン電気炉で溶解し、耐火物を内張りされた取鍋21へと出鋼された、JIS G4304 SUS301の組成であるステンレス溶鋼22を、VODにより脱炭・Al還元精錬及び脱硫処理を実施しSを0.002%未満に低下させた後、事前に予熱した浸漬管23を、取鍋21に収容されたステンレス溶鋼22へ浸漬した。
【0053】
本実施例では、浸漬管23に、加圧用ガスGの供給管24及び電磁弁25からなる加圧用ガス供給系26と、排気管27、電磁弁28、排気バッファ29、電磁弁30及び排気ポンプ31からある加圧用ガス排気系32とを接続してあり、これらを組み合わせて用いることにより、浸漬管23の内部の圧力を自在に制御できるように構成している。本実施例では、この装置を用いてステンレス鋼22のスラグ排出処理を行った。
【0054】
その後、浸漬管23の下部先端部に施工した羽口からアルゴンガスを吹き込みながら、不活性ガスによる浸漬管23内の加圧及び真空ポンプによる減圧処理を、表3に示す条件(加圧時間、加圧後保持時間、減圧時間、減圧後保持時間、サイクル、加圧圧力、減圧圧力及び羽口ガス流量))で300秒間繰り返した。
【0055】
【表4】

【0056】
なお、加圧及び減圧条件は、湯面揺動を抑制するために、特許文献4に記載された発明に準じて設定し、また設備費の低減のため加圧及び減圧制御装置には特許文献3に記載された減圧室を設けた。
【0057】
図7は、本実施例における浸漬管23の内部の圧力変動の状況を経時的に示すグラフである。図7にグラフで示すように、減圧工程において浸漬管23の内部の圧力と、減圧室(排気バッファー)29の圧力とが略一致していることから、大気の吸い込み、すなわち浸漬管23の破損が生じておらず安定した操業が可能であることがわかる。また、実施後の浸漬管23を直接目視で観察しても、亀裂等の破損は確認できなかった。
【0058】
図8は、浸漬後のスラグーメタル界面位置における浸漬管耐火物の寸法変化率の結果を示すグラフである。Al−C系耐火物を装着したものと比較して、耐火物の寿命は20倍に向上し、ステンレス精錬においても浸漬管法の安定した適用が可能になる。
【0059】
浸漬管法の介在物除去効果を評価するために、本実施例と同様にVODにて脱炭及びAl還元精錬を行ったステンレス溶鋼に対して、従来の鋼中介在物除去手法であるポーラスによるアルゴンバブリング法(以下、本明細書では「バブリング法」という)を行った。
【0060】
底吹きの攪拌動力は、下記(1)に示したNakanishiらによる攪拌動力式で22W/tonと設定し,保持時間は実施例と同様の300秒とした.
ε=0.0285×(V×T/M)×log(1+H/148)・・・・・・・(1)
この(1)式において、εは攪拌動力(W/ton)を示し、Vはガス流量(Nl/min)を示し、Tは溶鋼温度(K)を示し、Mは溶鋼重量(T)を示し、さらにHはガス吹き込み深さ(cm)を示す。
【0061】
なお、この攪拌動力を選定した理由は、溶鋼面をスラグによって大気から遮断できる程度に弱く、かつ溶鋼の偏熱および偏析が生じない程度に強い攪拌動力が得られるためである。
【0062】
浸漬管法およびバブリング法の双方の処理の前後における溶鋼サンプルを採取した。鋼中介在物評価のために、溶鋼サンプルから採取した切粉5gを10%Br−MeOHにて溶解して非金属介在物の抽出を行い、これを10μmメンブランフィルタによってろ過した残渣を表5に示した条件にて検鏡した。
【0063】
【表5】

【0064】
個々の介在物の粒径評価に先立って、SEM−EPMA法を用いて介在物の組成を調査した。代表的な介在物組成は、表6に示した通りAlあるいはAl−MgO系の硬質介在物、また軟質介在物であるCaO−Al系あるいはCaO−Al−MgO系であった。以下の極値統計法で評価する介在物は硬質のAlあるいはAl−MgO系を対象とした。
【0065】
【表6】

【0066】
各視野について、個々の介在物の長径をL(μm)、短径をW(μm)として介在物の円相当径√(πLW/4)の最大値を求めた。30視野の上記で求めた√(πLW/4)の値を小さいものから順に並べ替え、それぞれ√(πLW/4)(j=1〜30)として、各jについて累積分布関数F=100×(j/31)(%)を計算した。横軸に円相当径√(πLW/4)を、縦軸に基準化変数y=−ln(−ln(j/31))を取ったグラフを描き、最小二乗法によって近似直線を求める。
【0067】
そして、図9(バブリング法)及び図10(浸漬管法)に示すように、試料5gに相当する基準化変数Yj=8.33(すなわち、累積分布関数Fjの値が99.976%となる場合)の円相当径√(πLW/4)の値を読み取り、これを最大円相当介在物径とした。
【0068】
表7に、検査基準面積と試料5gに対応する基準化変数、またその予想最大円相当介在物径を示す。
【0069】
【表7】

【0070】
バブリング法では処理前後で最大円相当介在物径が変わらなかった一方、浸漬管法を実施した場合には最大介在物径が42.83μmから32.41μmへと低減した。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明が対象とする浸漬管法を概念的に示す説明図である。
【図2】表1に示す組成を有するAl−C系耐火物Aと、ZrO−C系耐火物B及びAlキャスタブル系耐火物Cを予め接着した浸漬管を示す説明図である。
【図3】表2に示す組成に調整したスラグを予め添加し、1600℃に溶融及び保持したSUS304溶鋼内へ浸漬管を浸漬した状況を模式的に示す説明図である。
【図4】図4は、本実施の形態の浸漬管の構造を示す説明図であって、図4(a)は正面図、図4(b)は図4(a)におけるA−A断面図である。
【図5】Al−C系耐火物及びZrO−C系耐火物それぞれの熱膨張率に及ぼすSiO量の影響を示すグラフである。
【図6】実施例で用いた装置の構成を模式的に示す説明図である。
【図7】実施例における浸漬管の内部の圧力変動の状況を経時的に示すグラフである。
【図8】浸漬後のスラグーメタル界面位置における浸漬管耐火物の寸法変化率の結果を示すグラフである。
【図9】バブリング法における基準化変数と介在物円相当径との関係を示すグラフである。
【図10】浸漬管法における基準化変数と介在物円相当径との関係を示すグラフである。
【図11】浸漬管法において溶鋼−介在物系について気泡径d(mm)と介在物の捕捉確率(d=10mmに対する捕捉確率の比(−))との関係について推算した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、本体が、SiO:5%以下、C:35%以下、SiC:10%以下、Al:40%〜80%、残部がその他の耐火成分および不可避的不純物からなる組成を有するAl−C系耐火物からなるとともに、前記本体の外周の一部が、C:30%以下、SiC:10%以下、ZrO:60%〜90%、残部がその他の耐火成分および不可避的不純物からなる組成を有するZrO−C系耐火物からなることを特徴とする溶融金属精錬用浸漬管。
【請求項2】
請求項1に記載された溶融金属精錬用浸漬管を用いる精錬工程を含むことを特徴とする溶融金属の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載された1又は2以上の溶融金属精錬用浸漬管を、前記ZrO−C系耐火物からなる部分が溶融金属収容容器に収容される溶融金属と該溶融金属の上部に存在するスラグとの界面に接するように、前記溶融金属に浸漬し、該溶融金属精錬用浸漬管の内壁に設置されるノズルから該溶融金属精錬用浸漬管の内部にガスを吹き込みながら該溶融金属精錬用浸漬管の内部に供給するガスの圧力を変化させることにより該溶融金属精錬用浸漬管の内部に前記溶融金属の下降流を生成し、該下降流により前記容器の底部へ向かう、前記ガスの円環状気泡を生成することにより、前記溶融金属に含まれる介在物を低減する処理を行う精錬工程を含むことを特徴とするステンレス鋼の製造方法。
【請求項4】
前記ステンレス鋼は、含有する非金属介在物がAlを含む1種以上で構成され、該非金属介在物の平均組成がAl:80質量%以上であるとともに、極値統計法による推定値で試料5g中における前記非金属介在物の最大円相当径が35μm以下である請求項3に記載されたステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、含有する非金属介在物がAl−MgOを含む2種以上で構成され、該非金属介在物の平均組成がAl:40質量%以上、MgO:15質量%以上であるとともに、極値統計法による推定値で5g中における前記非金属介在物の最大円相当径が35μm以下である請求項3に記載されたステンレス鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−13787(P2008−13787A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183196(P2006−183196)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】