説明

滞留時間制御による局所加工方法

【課題】 従来の滞留時間制御による局所加工方法では、加工に伴うワークの温度変化による加工レートの変動を考慮していなかったため、加工精度が悪かった。
【解決手段】 本発明は、局所加工ツールによる第一の加工量を設定する工程(工程1)と、
第一の加工量と前記ワークの温度・加工レートから前記ワークの第一の加工時間分布を求める工程(工程2)と、第一の加工時間分布に従い加工した際のワーク温度を求める工程(工程3)と、求められた前記ワーク温度と、前記温度・加工レートと、前記第一の加工時間分布から、第二の加工量を求める工程(工程4)と、第一の加工量と前記第二の加工量との差である、加工誤差量に応じて、第二の加工時間分布を設定する工程(工程5)と、
第二の加工時間分布に基づき、前記局所加工ツールが前記ワークを加工する工程と、を有することを特徴とする局所加工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウェハー、レンズやミラー、金型等の高精度素子を製造するための、局所加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物を所望の形状に加工する方法として、局所加工ツールの滞留時間を、所望加工量に応じて変動させながら走査する方法が知られている。つまり、所望加工量が多い加工点では局所加工ツールの滞留時間を相対的に長く、所望加工量が少ない加工点では局所加工ツールの滞留時間を相対的に短くして加工する。このような局所加工方法を滞留時間制御加工と呼ぶ。
【0003】
この方法は次の工程からなる。予め局所加工ツールの加工レートを、ワークと同質のダミーワークを加工することで求めておく。次に、ワークの加工前形状を測定し、加工前形状と設計形状との差から、所望加工量の分布を算出する。そして、所望加工量の分布と加工レートから、局所加工ツールの滞留時間の分布データを作成する。この滞留時間分布を求める演算はデコンボリューションと呼ばれており、シミュレーション法や汎関数フィルターFFT法(非特許文献1)、Van−Cittert法、Lucy−Richardson法など様々な手法がある。そして最後に、滞留時間の分布データに従い、局所加工ツールとワークとを相対運動させて加工を行う。実際の加工時間は滞留時間と、加工点間を移動するのに要する時間である移動時間との和となるので、実際の加工形状はあらかじめ定めた設計形状と平行な形状となる。実際の加工形状と設計形状との差分は、加工レートと移動時間が一定であれば容易に求めることができる。従って、移動中の加工量を予め考慮し、加工後のワークが所望形状となるように加工量を算出し、その上でワークを加工することで実際の加工形状と設計形状との差分が少ないワークを得ることができる。
【0004】
近年、高速かつ低ダメージな局所加工が可能な技術として、局所プラズマによる化学的な除去加工技術が注目されている。方式は種々あるが、プラズマジェット、プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)、PACE(Plasma Assisted Chemical Etching)などが代表的である。
【0005】
これらのうち、プラズマジェットを利用して所望の加工形状を得る方法が非特許文献2に開示されている。プラズマジェット加工等の局所加工における加工レートはワーク表面の温度に依存する。さらにプラズマジェット加工ツールの放出する熱量が大きいためワークの温度は、ワークに対するプラズマジェット加工ツールの滞留時間に依存する。
【0006】
ワークの加工レートは、図6(Siの加工レートの温度依存性を示した図)のように、ある温度まではワーク温度の上昇に伴って上昇するが、特定の温度以降は温度に対して加工レートは大きく変動せずに飽和する傾向がある。
【0007】
そこで、加工レートが滞留時間に対して一定とみなせる温度まで、ワークをヒーター等で加熱することで、プラズマジェットによる局所加熱の効果を小さくし、所望の加工形状を得る方法が従来とられていた(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】根岸ほか 精密工学会誌 第62巻 第3号(1996)408−412
【非特許文献2】G.Boehm et.al.,Proc.of the 9th ICPE(1999)231−236
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、(非特許文献2)の方法では、プラズマジェット加工ツールなど放出する熱量の大きい局所加工ツールを使用すると、加工を進めるうちにワークの温度が大きく変動してしまう。従って、ワークの温度をヒーターなどで加熱しておいても加工レートが加工点毎に無視できないほど異なるため、形状精度が悪いという問題があった。
【0010】
そこで本発明では、加工に伴うワークの温度変化を考慮した加工精度の高い局所加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を鑑みて本発明が提供する局所加工方法は、局所加工ツールとワークとを相対運動させて前記ワークを加工する局所加工方法であって、
前記局所加工ツールによる第一の加工量を設定する工程と、
前記第一の加工量と前記ワークの温度・加工レートから前記ワークの第一の加工時間分布を求める工程と、
前記第一の加工時間分布に従い加工した際のワーク温度を求める工程と、
求められた前記ワーク温度と、前記温度・加工レートと、前記第一の加工時間分布から、第二の加工量を求める工程と、
前記第一の加工量と前記第二の加工量との差である、加工誤差量に応じて、第二の加工時間分布を設定する工程と、
前記第二の加工時間分布に基づき、前記局所加工ツールが前記ワークを加工する工程と、
を有することを特徴とする局所加工方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の局所加工方法によれば、加工に伴うワークの温度変化を考慮して滞留時間分布を算出するので、ワークの温度変化により加工レートが変化する場合でも、ワークを所望の形状へ高精度に加工ができる。
【0013】
また、本発明の局所加工方法によれば、加工に伴うワークの温度変化による、ワークの熱変形も考慮して滞留時間分布を算出するので、更に高精度な加工ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1において、滞留時間分布を求めるフローを示す図である。
【図2】本発明に基づく、加工前形状と目標加工形状との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態2において、滞留時間分布を求めるフローを示す図である。
【図4】本発明に基づく加工を行う加工装置の概要を示す図である。
【図5】本発明に基づく加工の実施例と比較例とを比較する表である。
【図6】Siの加工レートの温度依存性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
本発明に基づく局所加工方法の第一の実施形態を、図1を用いて説明する。
【0016】
(工程1)まず、加工前のワーク表面形状を加工前形状として、触針式や光干渉式などの形状測定器を用いて測定する。測定した加工前形状と設計形状との差を、所望の加工量V0(x,y)として求める。x、yは定められた原点からのワーク上の座標をしめしており、したがって、例えばV0(x1,y1)はある特定の座標(x1,y1)での加工量を示している。したがってV0(x,y)は、ワーク上の特定の位置での加工量のいわば“分布”を示している。
【0017】
尚、ここで求めた加工量V0(x,y)は全ての加工点で0以上の値をとる暫定値である。この加工量V0(x,y)を第一の加工量とする。
【0018】
暫定値とする理由を図2に基づき説明する。上述の加工量V0(x,y)は加工前形状201と設計形状202との差分として定められる。局所加工ツールのワークに対する滞留時間が0であっても加工点間を移動するのに要する時間、加工は行われるので、目標加工形状は設計形状202の曲面に平行な形状203を設定する。ここに、目標加工形状203と設計形状202との差分をベース加工量と呼ぶこととする。加工レートが一定であれば、移動時間と加工レートからベース加工量を求め、目標加工形状203を一意的に設定することができる。ところが、加工に伴うワークの温度変化によって加工レートが変動する場合、加工点間を移動する間の加工量は、当該移動を行うまでの加工履歴によってワーク温度が異なるので、加工点毎に異なる。従って、滞留時間分布が決定していない段階で、ベース加工量を一意的に設定することができない。つまり、滞留時間分布と目標加工形状203は、同時に決定しなければならないので、加工量V0(x,y)は暫定値とする(以下の工程では計算の初期値)。
【0019】
加工量V0(x,y)は暫定値であるので、加工量V0(x,y)に含まれるベース加工量の初期値は0としておいて良い。あるいは、予め加工領域全域の滞留時間を0として、移動時間だけの加工時間で加工を実際に行い、加工形状を測定して得た最大の加工深さを、ベース加工量の初期値としても良い。この場合には、滞留時間分布を求める計算の所要時間を短縮できる。
【0020】
ワーク上の座標、温度、及び加工レートとの相関データである温度・加工レートU(x,y,T)は、予め実験により取得しておく。加工レートがワーク上の座標によらず一様とみなせる場合は、ワーク温度と加工レートとの相関データとして温度・加工レートU(T)を取得して、以下の工程にて用いても良い。
【0021】
具体的な温度・加工レートの取得方法は、ワークの温度を放射温度計などの温度測定手段により測定しながら、局所加工ツールを一方向に一定速度で走査したり、同じ場所で所定の時間加工したりして加工を行い、加工形状を測定して求める。
【0022】
(工程2)続いて、上述のV0(x,y)を初期値とする加工量V(x,y)と温度Tk1における温度・加工レートUk1(x,y,Tk)から、ワークの加工時間分布τ(x,y)を公知のデコンボリューション手法により求める。尚、加工時間は移動時間t0未満にはできないので、デコンボリューションの過程で、全ての加工点において移動時間t0以上になるように修正する。ここに温度Tk1は任意であるが、加工レートの極端に大きい、または小さい温度を選択すると、滞留時間を求める計算の所要時間が長くなる。そこで、温度を考慮した加工レートを取得した際に得られた温度の範囲から選択すると良い。このようにして第一の加工量とワークの温度・加工レートから算出されたワークの加工時間分布τ(x,y)を、第一の加工時間分布とする。
【0023】
(工程3)そして、第一の加工時間分布であるワークの加工時間分布τ(x,y)に従って加工した際の、ワーク温度またはワーク温度の時間変化を次のように求める。一つは、熱源が移動する非定常の熱シミュレーションを行う方法である。もう一つは、加工中の温度を測定しながら、加工時間τ(x,y)に従ってダミー加工を行い、各加工点の温度変化を関数化して求める方法である。このように求めた温度は、加工ツールが加工点(u,v)にあるときの、時刻tにおける座標(x,y)の温度T(u,v,x,y,t)である。尚、時刻tは0以上、τ(u,v)以下の値をとる。このようにして第一の加工時間分布に従い加工した際のワーク温度を求める。
【0024】
(工程4)次に、局所加工ツールによる実際のワーク加工量にあたる、第二の加工量V’(x,y)は、ワーク温度T(u,v,x,y,t)と、ワーク温度と加工レートの関係データである温度・加工レートU(x,y,T)と、上述のように暫定的に定めた第一の加工時間分布τ(x,y)から、次の(式1)で求める。尚、Aで示した積分領域は加工領域である。
【0025】
この場合ワーク温度T(u,v,x,y,t)はワークの温度の時間変化である。
【0026】
【数1】

【0027】
より簡便に実際の加工量である第二の加工量V’(x,y)を求めるには、局所加工ツールが加工点(u,v)にあるときの、時刻tにおける加工点(u,v)の温度をT(u,v,t)として、次の(式2)で求める。これは、近似計算により計算を高速化する場合だけでなく、ワーク自体の大きさが局所加工ツールに対して比較的小さいなど、ワークの温度が一様で局所加工ツールの相対位置と加工時間のみでワーク温度が決まる場合にも適用可能である。
【0028】
【数2】

【0029】
更に、簡便に第二の加工量V’(x,y)を求めるには、加工ツールが加工点(u,v)の加工を開始する時の温度をT(u,v)として、次の(式3)で求める。
【0030】
【数3】

【0031】
(工程5)次に、暫定的に定めたV0(x,y)を初期値とする第一の加工量V(x,y)と、実際の加工量にあたる第二の加工量V’(x,y)との差を加工誤差量ε(x,y)として求める(式4)。
【0032】
【数4】

【0033】
加工誤差量ε(x,y)が予め設定した目標誤差量δ以下であれば、決定された第一の加工時間分布τ(x,y)から移動時間t0を引いて、実際の滞留時間分布に相当する第二の加工時間分布D(x,y)を求める。目標誤差量δを超えている場合には、加工誤差量ε(x,y)が収斂回数に対して収束したかを判定する。収束した場合には、加工誤差量ε(x,y)の負値のうち、絶対値が最大となる値の絶対値を、所望加工量V(x,y)に加えて所望加工量を修正し、工程2に戻る。収束していない場合には、加工誤差量ε(x,y)と温度Tk2における温度・加工レートUk2(x,y,Tk2)から、修正時間d(x,y)を公知のデコンボリューション手法により求める。そして、修正時間d(x,y)を加工時間τ(x,y)に加え、更に、全ての加工点で移動時間t0以上となるように、加工時間を修正して、実加工時間を設定する。その修正時間は、加工量Vが実際の加工量である第二の加工量よりも多い、加工過多の加工点では負値を取り、逆に加工不足の加工点では正値を取る。従って修正時間は加工誤差量を0に近づける作用をする。そのため温度Tk2は、加工誤差量を最小化する収斂計算が、適正に収束するよう適宜選択する。加工レートの小さい温度を選択すると、収束は早くなるが、加工誤差量が振動しやすくなる。加工レートが大きい温度を選択すると、収束は遅くなる。加工時間の修正が完了したら、工程3に戻る。
【0034】
以上に述べた方法で第二の加工時間分布Dを求め、該加工時間分布に基づき局所加工ツールがワークを加工する。局所加工ツールの形態の一例は、ワークの構成元素と反応して、揮発性物質を生成する元素を含む、粒子をワークに照射することで除去加工を行うものである。具体的には、プラズマジェット、プラズマCVM、PACEなど、ラジカルを利用するものである。または、イオンビーム、GCIB(Gas Cluster Ion Beam)など荷電粒子を利用するものである。無論、本発明の局所加工ツールはこれらに限定されるものではなく、加工レートがワーク温度によって変化する如何なる形態の局所加工ツールであっても適用可能である。
【0035】
また、加工点の移動と滞留を繰り返す、断続的な相対運動による加工方法を述べたが、本発明の加工方法はこれに限定されるものではない。すなわち、加工点の通過時間が当該加工点の所望加工時間と一致するように、走査速度を連続的に変調して加工する連続的な相対運動による加工方法であっても良い。
【0036】
(実施形態2)
本発明に基づく局所加工方法の第二の実施形態を、図3を用いて説明する。第一の実施形態との差異は、加工レートと実際の加工形状をワークの熱変形を考慮して求める点にある。
【0037】
第一の実施形態と同様の方法で、ワークの温度Tと加工レートの関係データである温度・加工レートU(x,y,T)を予め求めておく。ここで測定した温度・加工レートU(x,y,T)は、ある温度でのワークの形状をもとにしている。しかし、実際の加工中のワークの形状は、熱変形のため、これとは異なっている場合がある。そこで、温度・加工レートU(x,y,T)を、加工中に測定した温度とワークの熱膨張係数を基に、実際の加工中の温度・加工レートU’(x,y,T)を予め求めておき、上述のUに換えてU’に変換する(工程1’)。熱膨張による変形がワークに、生じるとワークが膨張した部分を追加的に加工する必要があり、たとえば、あるワークが等方的な熱膨張特性を有してその熱膨張係数をαとすると、U(αx,αy,T)=U’(x,y,T)として加工を行う。
【0038】
以後、上記熱変形の分を加算した温度・加工レートU’(x,y,T)を利用して、(工程2)、(工程4’)および(工程5)を行う。
【0039】
実際の加工量を求める(工程4’)では、熱変形を考慮した温度・加工レートU’(x,y,t)を重ね合わせてなる加工量V”(x,y)を求める。
【0040】
その上で、(工程3)で求めたワーク温度と、ワークの熱膨張係数を基に、ある温度での(例えば室温)実際の加工量にあたる第二の加工量V’(x,y)を求める。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
本実施例では、(実施形態1)に基づき、プラズマジェットで平板の石英基板に、有効径40mm・曲率半径10mの凹球面を形成した例を示す。
【0042】
使用した加工装置の動作について図4に基づき説明する。プラズマジェット加工ツール402はフランジ416を介してチャンバー415内に設置されている。流量制御装置410により流量を制御したアルゴン、酸素、六フッ化硫黄をガス供給設備409からプラズマジェット加工ツール402に供給する。これらのガスを高周波電源408より印加した高周波電力により電離し、Fラジカルなどの活性種を含むプラズマジェット401を生成する。そして、該プラズマジェットをワーク403に照射して加工を行う。ワークホルダー404により保持したワークは、X軸駆動機構405、Y軸駆動機構406、Z軸駆動機構407を連接してなるワーク駆動機構418に搭載されている。該ワーク駆動機構によりワークとプラズマジェットとの相対走査が可能となっている。ワーク駆動機構はチャンバー外に設置の制御用コンピュータ414とフランジ417を介して接続されており、制御用コンピュータより発せられる制御信号に従って動作する。チャンバーは真空ポンプ413により排気が可能で、コンダクタンス可変バルブ412を併用することでチャンバー内の圧力を制御することができるようになっている。また、チャンバーにはビューポート411が設けてあり、ワークやプラズマジェットを観察することができる構成となっている。
【0043】
凹面形状の加工を行うに先立ち、ワーク温度と加工レートの関係データである温度・加工レートU(x,y,T)を求めるため、ダミーの石英基板に対して加工を行った。加工はプラズマジェット直下のワーク表面温度を不図示の放射温度計でビューポート411から測定しながら、0.5mm/sec以上2mm/sec以下の範囲から選択した種々の速度で1方向に走査して行った。加工時の温度は走査速度に依存し、およそ300℃から500℃であった。加工前後の基板表面形状を光干渉式の形状測定器で測定し、加工断面形状から加工レートを求めた。このようにして測定した加工時の温度Tと温度・加工レートUの関係をフィッティングし、U=f(x,y,T)なる関数で表した。
【0044】
次に、光干渉式の形状測定器で測定したワークの加工前形状と、設計形状との差をとり、第一の加工量V0(x,y)を求めた(工程1)。
【0045】
(工程2)及び(工程5)で用いる温度・加工レートUk1およびUk2は480℃における加工レートを採用した。また、デコンボリューションは汎関数フィルターFFT法により行った(工程2)。加工時間分布τ(x,y)からワーク温度T(u,v,x,y,t)を求めるため、熱源が移動する非定常の熱シミュレーションを行った(工程3)。実際の加工形状V’(x,y)は(式2)を基に求めた(工程4)。(式2)において使用するデータは、ワーク温度と加工レートの関係データである前述のU=f(x,y,T)を、温度Tの時間変化として前記熱シミュレーションの結果を、それぞれ入力した。実際の積分計算は区分求積法で行った。
【0046】
以上に述べた条件で収斂計算を実施し、第二の加工時間分布である滞留時間分布D(x,y)を求めた。
【0047】
ここに求めた滞留時間分布のデータを制御用コンピュータ414に入力し、各加工点の座標にプラズマジェットが滞留する時間がちょうど第二の加工時間分布D(x,y)のデータと一致するよう、プラズマジェットを発生させつつワーク駆動機構を制御してワークに凹面形状を形成する加工を行った。
【0048】
加工後の石英基板の形状を光干渉式の形状測定器で測定し、予想加工形状と比較したところ、PV(Peak to Valley)にて8%の加工誤差であった。
【0049】
(実施例2)
本実施例では、(実施形態2)に基づき、プラズマジェットで平板の石英ウェハーをワークの熱変形を考慮して平坦化した例を示す。
【0050】
まず(工程1’)において、加工中のワークの熱変形を考慮して実際の加工中の温度・加工レートU’(x,y,T)を求めるため、ダミーの石英ウェハーに対して加工を行った。加工はプラズマジェット直下のワーク表面温度分布を不図示のサーモグラフィーでビューポート411から測定しながら、0.5mm/sec以上2mm/sec以下の範囲から選択した種々の速度でワークを1方向に走査して行った。加工前後の基板表面形状を光干渉式の形状測定器で測定し、加工断面形状から加工レートを求めた。ここに求めた加工断面形状および加工時の温度と、石英の熱膨張係数から加工時の温度における加工断面形状を計算した。そして、加工時の温度における加工断面形状を基に実際の加工中の温度・加工レートU’(x,y,T)を求めた。そして、加工時の温度Tと実際の加工中の温度・加工レートU’との関係をU’=g(x,y,T)なる関数で表した。
【0051】
(工程2)と(工程5)で用いる温度・加工レートU’k1およびU’k2は480℃における実際の加工中の加工レートを採用した。また、デコンボリューションは汎関数フィルターFFT法により行った。第一の加工時間分布からワーク温度T(u,v,x,y,t)を求めるため、ワークに対して熱源が移動するように設定された非定常の熱シミュレーションを行った。
【0052】
(工程4’)において、まず、先に求めた実際の加工中の温度・加工レートU’=g(x,y,T)、ワーク温度T(u,v,x,y,t)を(式2)に入力し、加工形状V”(x,y)を得た。実際の積分計算は区分求積法で行った。次に、加工形状V”(x,y)とワーク温度とワークの熱膨張係数を基に室温まで冷却後の加工形状を計算し、実際の加工量にあたる第二の加工量V’(x,y)を求めた。このときのワーク温度は各加工点での滞留が終了した時刻tfにおける加工点の温度T(u,v,u,v,tf)を採用した。
【0053】
以上に述べた条件で収斂計算を実施し、第二の加工時間分布である滞留時間分布D(x,y)を求めた。更に、更新された所望加工量V(x,y)と加工前形状から、予想加工形状を求めた。
【0054】
ここに求めた滞留時間分布のデータを制御用コンピュータ414に入力し、各加工点の座標にプラズマジェットが滞留する時間がちょうど第二の加工時間分布である滞留時間分布D(x,y)のデータと一致するよう、ワーク駆動機構418を制御してワークを平坦化する加工を行った。
【0055】
加工後の石英基板の形状を光干渉式の形状測定器で測定し、予想加工形状と比較したところ、PV(Peak to Valley)にて6%の加工誤差であった。
【0056】
(比較例)
400℃に加熱した平板の石英基板に、プラズマジェットにより有効径40mm・曲率半径10mの凹球面を形成した例を示す。
【0057】
まず、加工レートを求めるため、400℃に加熱したダミーの石英基板の中央を2秒間照射した。加工完了後に加工形状を測定し、これを加工時間で除して加工レートを求めた。ここに求めた加工レートはワーク温度に依存せず、加工中に不変であるとみなした加工レートである。そして、加工前形状と設計形状との差から求めた第一の加工量を前記加工レートによりデコンボリュートする演算を行い、滞留時間分布を求めた。デコンボリューション手法は汎関数フィルターFFT法を適用した。また、予想加工形状は該滞留時間分布と前記加工レートとのコンボリューション演算により求めた。
【0058】
このようにして求めた滞留時間分布のデータを制御用コンピュータ414に入力し、各加工点の座標にプラズマジェットが滞留する時間がちょうど前記滞留時間分布のデータと一致するよう、ワーク駆動機構を制御してワークに凹面形状を形成する加工を行った。
【0059】
加工後の石英基板の形状を光干渉式の形状測定器で測定し、予想加工形状と比較したところ、PV(Peak to Valley)にて15%の加工誤差であった。
【0060】
以上に述べた実施例と比較例とを比較する表を図5に示す。加工に伴うワーク温度の変化と、ワーク温度の変化による加工レートの変化とを考慮して求めた滞留時間分布に従い加工を行うことで、大幅に加工精度が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の加工方法は、プラズマジェット加工等の放射する熱量の大きな局所加工ツールを大口径レンズなど比較的大きいワークを高精度に加工する際に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0062】
201 加工前形状
202 設計形状
203 目標加工形状
401 プラズマジェット
402 プラズマジェット加工ツール
403 ワーク
414 制御用コンピュータ
418 ワーク駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所加工ツールとワークとを相対運動させて前記ワークを加工する局所加工方法であって、
前記局所加工ツールによる第一の加工量を設定する工程と、
前記第一の加工量と前記ワークの温度・加工レートから前記ワークの第一の加工時間分布を求める工程と、
前記第一の加工時間分布に従い加工した際のワーク温度を求める工程と、
求められた前記ワーク温度と、前記温度・加工レートと、前記第一の加工時間分布から、第二の加工量を求める工程と、
前記第一の加工量と前記第二の加工量との差である、加工誤差量に応じて、第二の加工時間分布を設定する工程と、
前記第二の加工時間分布に基づき、前記局所加工ツールが前記ワークを加工する工程と、
を有することを特徴とする局所加工方法。
【請求項2】
加工時のワークの温度変化による熱膨張も含めて温度・加工レートを算出する工程を更に有し、ワーク温度と、該加工レートと、加工時間分布と、該ワークの熱膨張係数から第二の加工量を求めることを特徴とする、請求項1記載の局所加工方法。
【請求項3】
前記局所加工ツールは、プラズマジェット、プラズマCVM、PACE、イオンビーム、またはガスクラスターイオンビームを利用するツールであることを特徴とする請求項1または2記載の局所加工方法。
【請求項4】
前記ワーク温度は、ワークの温度の時間変化T(u,v,x,y,t)であることを特徴とする請求項1〜3にいずれか記載の局所加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−195094(P2012−195094A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56805(P2011−56805)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】