説明

演算増幅器

【課題】従来に比してより少ない追加素子数で、消費電流を増加させることなく、出力電流の最大値を、回路定数の調整によって、他の諸特性に影響を及ぼすことなく設定可能とする。
【解決手段】入力信号に対して差動増幅を行う差動増幅回路101と、差動増幅回路101の出力を電圧・電流変換して出力するプリドライバ回路103と、プリドライバ回路103の出力により駆動される出力段106とを有してなる演算増幅器であって、プリドライバ回路103を構成するプリドライバ用トランジスタ3のベース電流の増加を抑圧し、出力電流(出力ソース電流)の過電流保護を可能とした過電流保護回路104が設けられたものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算増幅器に係り、特に、出力電流の出力制限機能の改善等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
演算増幅器の出力回路は、出力段から大電流を出力する能力を備えることで、低抵抗の負荷を駆動可能とすることが理想とされる。しかし一方で、大電流を出力することは、IC自体の発熱を招き、最悪時には焼損に至ることも懸念されるため、出力電流の最大値を制限する必要もある。
例えば、図9には、特許文献1等に開示されているような、AB級出力段を有する一般的な演算増幅器の回路構成例が示されており、以下、同図を参照しつつ、その出力ソース電流の最大値について説明する。
【0003】
まず、この演算増幅器は、差動増幅回路とAB級出力回路に大別されて構成されたものとなっている。
差動増幅回路は、電圧増幅回路A1とカレントミラー回路102Aとから構成されており、カレントミラー回路102Aは、pnp型トランジスタQ1、及び、Q2を有して構成されたものとなっている。
そして、電圧増幅回路A1の出力は、プリドライバ部としてのpnp型トランジスタQ3により電流変換されて、次段のAB級出力回路を駆動するようになっている。
AB級出力回路は、pnp型トランジスタQ8とnpn型トランジスタQ9を有してなるAB級出力段と、2つのアイドリング電流回路104a,104bとから構成されたものとなっている。
【0004】
npn型トランジスタQ4,Q5、及び、ダイオードD1を用いて構成されたアイドリング電流回路104aは、npn型トランジスタQ9のアイドリング電流を決定する回路であり、pnp型トランジスタQ6,Q7、及び、ダイオードD2を用いて構成されたアイドリング電流回路104bは、pnp型トランジスタQ8のアイドリング電流を決定する回路となっている。
なお、定電流源CS2,CS4の電流値は、出力段のトランジスタQ8,Q9のアイドリング電流が等しくなるように設定され、また、定電流源CS1の電流値は、トランジスタQ3に流れる電流と、トランジスタQ5,Q6を通して定電流源CS3に流れ込む電流値の合計となるように設定されるものとなっている。
【0005】
次に、かかる構成において、演算増幅器から出力ソース電流Ioutが出力される際の回路動作を説明する。
出力ソース電流Ioutは、トランジスタQ8のコレクタ電流として流れる。この際、トランジスタQ8のベースからは、ベース電流IbQ8が流れ出す。
このベース電流IbQ8は、トランジスタQ3のコレクタ電流に加算され、トランジスタQ3のべースからは、コレクタ電流の増加に応じてベース電流IbQ3が流出することとなる。
このベース電流IbQ3は、電圧増幅器A1に流れ込むが、電圧増幅器A1のトランジスタQ3に接続されたノードは、演算増幅器の電圧利得を高めるために高出力インピーダンスとなっているため、電圧増幅器A1に流れ込む電流の大きさが常に一定に保とうとされる。
【0006】
そのため、ベース電流IbQ3の増加分は、トランジスタQ1のコレクタ電流IcQ1の減少分として相殺される。そして、コレクタ電流IcQ1を減少させるため、トランジスタQ2のコレクタ電流IcQ2も減少する。
すなわち、ベース電流IbQ3の増加分がコレクタ電流IcQ2の減少分となり、出力ソース電流Ioutを増加させるようになっている。
したがって、出力ソース電流Ioutの出力能力、すなわち、出力ソース電流の最大値Iout(max)は、コレクタ電流IcQ2の減少を、どの程度許容できるかに依存するものとなる。このコレクタ電流IcQ2の減少を許容できる大きさを、IcQ2(dec)と定義し、IcQ2(dec)は下記する式1により表される。
【0007】
IcQ2(dec)=IcQ1−IbQ3=IcQ2−IbQ3・・・式1
【0008】
ただし、上述の式1においては、式の簡素化のため、トランジスタQ1,Q2で構成されたカレントミラー回路は理想的なものであり、コレクタ電流IcQ2は、コレクタ電流IcQ1に完全にコピーさせると仮定してある。
したがって、出力ソース電流の最大値Iout(max)は、下記する式2のように定義することができる。
【0009】
Iout(max)=Hfe(Q8)×{Hfe(Q3)+1}×IcQ2(dec)=Hfe(Q8)×{Hfe(Q3)+1}×(IcQ2−IbQ3)・・・式2
【0010】
ここで、Hfe(Q8)は、トランジスタQ8の電流増幅率、Hfe(Q3)は、トランジスタQ3の電流増幅率である。
この式2より出力ソース電流の最大値は、電流増幅率Hfe(Q3)、Hfe(Q8)、コレクタ電流IcQ2、ベース電流IbQ3により決定されることが理解できる。したがって、出力ソース電流の最大値Iout(max)を制限するには、上述のパラメータを調整する必要がある。
【0011】
しかしながら、電流増幅率Hfe(Q3)、Hfe(Q8)は、半導体製造プロセスに依存するため、素子単体の増幅率を回路設計の段階で調整することはできない。また、コレクタ電流IcQ2は、回路設計により調整可能であるが、出力ソース電流の最大値を調整するためにコレクタ電流IcQ2を調整すれば、演算増幅器の消費電流等の諸特性が最適化できない場合がある。
【0012】
一方、ベース電流IbQ3は出力ソース電流の大きさに依存する変数であるため、調整不可能な要素である。
したがって、出力ソース電流の最大値を所望の値に制限するためには、何らの過電流保護回路を追加する必要がある。
このような過電流保護回路としては、例えば、特許文献2等に開示された回路構成のものなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−219617号公報(第5−8頁、図1−図4)
【特許文献2】特開2010−16708号公報(第5−10頁、図1−図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、例えば、特許文献2に示された過電流保護回路にあっては、動回路内に設けられた抵抗器の抵抗値を調整することで出力ソース電流の最大値Iout(max)を任意に調整できるものの、この過電流保護回路から演算増幅器の一部のトランジスタに対して定常的にコレクタ電流を流すこととなるため、消費電流が増加するという問題がある。
また、上述の特許文献2に示された過電流保護回路は、最小でもトランジスタ3素子、抵抗1素子を必要とし、演算増幅器全体としての回路規模が大きくなり、小型化の要請に反するという問題もある。
【0015】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、従来に比してより少ない追加素子数で、消費電流を増加させることなく、出力電流の最大値を、回路定数の調整によって、他の諸特性に影響を及ぼすことなく設定可能な演算増幅器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る演算増幅器は、
入力信号に対して差動増幅を行う差動増幅回路と、前記差動増幅回路の出力を電圧・電流変換して出力するプリドライバ回路と、前記プリドライバ回路の出力により駆動される出力段とを有してなる演算増幅器であって、
前記プリドライバ回路を構成するプリドライバ用トランジスタのベース電流の増加を抑圧し、出力電流の過電流保護を可能とした過電流保護回路が設けられてなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来に比してより少ない追加素子数で、回路全体の消費電流を増加させることなく出力電流の最大値を、回路定数の調整により、他の諸特性に影響を及ぼすことなく所望の値に制限することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における演算増幅器の第1の構成例を示す回路図である。
【図2】本発明の実施の形態における演算増幅器の第2の構成例を示す回路図である。
【図3】本発明の実施の形態における演算増幅器の第3の構成例を示す回路図である。
【図4】図1乃至図3に示された本発明の実施の形態における演算増幅器の出力電流と出力電圧の特性例を示す特性線図である。
【図5】本発明の実施の形態における演算増幅器の第4の構成例を示す回路図である。
【図6】本発明の実施の形態における演算増幅器の第5の構成例を示す回路図である。
【図7】本発明の実施の形態における演算増幅器の第6の構成例を示す回路図である。
【図8】図5乃至図7に示された本発明の実施の形態における演算増幅器の出力電流と出力電圧の特性例を示す特性線図である。
【図9】従来の演算増幅器の回路構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図8を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
以下説明する演算増幅器の第1乃至第6の構成例の内、第1乃至第3の構成例は、特に、出力ソース電流の最大値の調整に適するものであり、第4乃至第6の構成例は、特に、出力シンク電流の最大値の調整に適するものである。
最初に、本発明の実施の形態における演算増幅器の第1の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
最初に、この第1の構成例における演算増幅器の回路構成について説明する。
この第1の実施例における演算増幅器は、差動増幅回路101と、プリドライバ回路103と、過電流保護回路104と、アイドリング電流供給回路105と、プッシュプル出力段106とに大別されて構成されたものとなっている。
【0020】
差動増幅回路101は、電圧増幅器(図1においては「A1」と表記)15と電流供給回路102とを有してなり、電圧増幅器15は、その非反転入力端子IN+と反転入力端子IN−に、外部から印加された信号の差分に応じた電圧信号が、2つの出力端子間に出力されるよう構成されたものとなっている。
そして、電圧増幅器15の出力端子には、次述するように電流供給回路102による電流供給がなされるようになっている。
【0021】
電流供給回路102は、pnp型の第1及び第2のトランジスタ(図1においては、それぞれ「Q1」、「Q2」と表記)1,2を有して構成されており、本発明の実施の形態においては、第1及び第2のトランジスタ1,2は、カレントミラー回路を構成したものとなっている。
すなわち、第1及び第2のトランジスタ1,2は、相互にベースが接続されると共に、その接続点と第2のトランジスタ2のコレクタが接続されており、第2のトランジスタ2は、いわゆるダイオード接続されたものとなっている。
【0022】
そして、第1及び第2のトランジスタ1,2のエミッタには、正電源電圧端子41を介して外部から電源電圧Vccが印加されるようになっている一方、第1のトランジスタ1のコレクタは、電圧増幅器15の一方の出力端子に、第2のトランジスタ2のコレクタは、電圧増幅器15の他方の出力端子に、それぞれ接続されている。
【0023】
プリドライバ回路103は、プリドライバ用トランジスタとしてのpnp型の第3のトランジスタ3を用いてなり、電圧増幅器15の出力電圧を電流変換してプッシュプル出力段106を駆動するようになっている。
かかるプリドライバ回路103において、第3のトランジスタ3のベースは、電圧増幅器15の一方の出力端子が接続されて、電圧増幅器15の出力電圧が印加されるようになっている。
【0024】
また、第3のトランジスタ3のエミッタと正電源電圧端子41の間には、第1の定電流(図1においては「CS1」と表記)21が直列接続されて設けられると共に、エミッタは、プッシュプル出力段106を構成するnpn型の第8のトランジスタ(図1においては「Q8」と表記)8のベースに接続される一方、第3のトランジスタ3のコレクタは、次述する過電流保護回路104を構成するnpn型の第10のトランジスタ(図1においては「Q10」と表記)10のベース、及び、第1の抵抗器(図1においては「R1」と表記)31の一端に接続されている。
【0025】
過電流保護回路104は、第10のトランジスタ(過電流保護回路用トランジスタ)10と第1の抵抗器31とを有してなり、後述するように出力ソース電流の最大値Iout(max)を制限するよう構成されたものとなっている。
すなわち、第10のトランジスタ10のコレクタは、第2のトランジスタ2のコレクタと共に、電圧増幅器15の他方の出力端子に接続される一方、エミッタは負電源電圧端子42に接続され、負電源電圧が印加可能とされている。なお、本発明の実施の形態において、負電源電圧はグランド電位となっている。
一方、第10のトランジスタ10のベースは、第1の抵抗器31を介して負電源電圧端子42に接続されている。
【0026】
アイドリング電流供給回路105は、第8及び第9のトランジスタ8,9のアイドリング電流の供給を可能とするもので、npn型の第4及び第5のトランジスタ(図1においては、それぞれ「Q4」、「Q5」と表記)4,5と第1のダイオード(図1においては「D1」と表記)16により第9のトランジスタ(図1においては「Q9」と表記)9のアイドリング電流を決定する回路が、また、pnp型の第6及び第7のトランジスタ(図1においては、それぞれ「Q6」、「Q7」と表記)6,7と第2のダイオード(図1においては「D2」と表記)17により第8のトランジスタ8のアイドリング電流を決定する回路が、それぞれ構成されたものとなっている。
【0027】
まず、第4及び第5のトランジスタ4,5は、相互にベースが接続されると共に、その接続点と第4のトランジスタ4のコレクタが接続されており、第4のトランジスタ4は、いわゆるダイオード接続されたものとなっている。さらに、第4のトランジスタ4のコレクタと正電源電圧端子41の間には、第2の定電流源(図1においては「CS2」と表記)22が直列接続されて設けられている。
また、第5のトランジスタ5のコレクタは、第8のトランジスタ8のベースに接続されたものとなっている。
【0028】
一方、第4のトランジスタ4のエミッタは、第1のダイオード16のアノードに接続され、この第1のダイオード16のカソードは、負電源電圧端子42に接続されている。
また、第5のトランジスタ5のエミッタは、第9のトランジスタ9のベースに接続されると共に、エミッタと負電源電圧端子42との間には、第3の定電流源(図1においては「CS3」と表記)23が直列接続されて設けられたものとなっている。
【0029】
次に、第6及び第7のトランジスタ6,7は、相互にベースが接続されると共に、その接続点と第7のトランジスタ7のコレクタが接続されており、第7のトランジスタ7は、いわゆるダイオード接続されたものとなっている。さらに、第7のトランジスタ7のエミッタには、第2のダイオード17のカソードが接続されており、この第2のダイオード17のアノードは、正電源電圧端子41に接続されている。
また、第6のトランジスタ6のエミッタは、第8のトランジスタ8のベースに接続されている。
【0030】
さらに、第6のトランジスタ6のコレクタは、第9のトランジスタ9のベースに接続される一方、第7のトランジスタ7のコレクタと負電源電圧端子42との間には、第4の定電流源(図1においては「CS4」と表記)24が直列接続されて設けられたものとなっている。
【0031】
プッシュプル出力段106は、pnp型の第8のトランジスタ8とnpn型の第9のトランジスタ9とから構成されており、AB級出力段となっている。すなわち、第8及び第9のトランジスタ8,9は、コレクタが相互に接続されると共に、出力端子43に接続されている。
また、第8のトランジスタ8のエミッタは、正電源電圧端子41に、第9のトランジスタ9のエミッタは、負電源電圧端子42に、それぞれ接続されている。
【0032】
かかる構成において、第2の定電流源22の出力電流値と第4の定電流源24の出力電流値は、第8及び第9のトランジスタ8,9のアイドリング電流が等しくなるように設定されている。
また、第1の定電流源21の出力電流は、第3のトランジスタ3に流れる電流と、第5及び第6のトランジスタ5,6を介して第3の定電流源23に流れる電流の合計となるように設定されている。
【0033】
次に、かかる構成において、出力ソース電流Ioutが出力される際の回路動作について説明する。
出力ソース電流Ioutは、第8のトランジスタ8のコレクタ電流として流れるもので、この際、ベースからはベース電流IbQ8が流れ出す。
このベース電流IbQ8は、第3のトランジスタ3のコレクタ電流に加算され、第3のトランジスタ3のベースからは、そのコレクタ電流の増加に応じてベース電流IbQ3が流れ出し、電圧増幅器15に流れ込む。
【0034】
ここで、第3のトランジスタ3に接続される電圧増幅器15のノードは、演算増幅器の電圧利得を高めるために高出力インピーダンスとなっている。したがって、電圧増幅器15に流れ込む電流の大きさは、常に一定値に保持せしめられることとなる。そのため、ベース電流IbQ3の増加分は、第1のとランジスタ1のコレクタ電流IcQ1の減少分として相殺される。
そして、コレクタ電流IcQ1を減少させるために、第2のトランジスタ2のコレクタ電流IcQ2も減少する。
【0035】
一方、第3のトランジスタ3のコレクタ電流IcQ3は、第1の抵抗器31に流れ、そこで電圧降下を生じるが、この電圧降下が0.6V程度に達すると、第10のトランジスタ10からコレクタ電流IcQ1が流れ出す。
ここで、出力ソース電流の最大値Iout(max)は、従来同様、第2のとランジスタ2のコレクタ電流IcQ2の減少をどの程度許容できるかに依存する。
そこで、コレクタ電流IcQ2の減少を許容できる大きさをIcQ2(dec)と定義すると、その値は、下記する式3により表される。
【0036】
IcQ2(dec)=IcQ1−IbQ3−IcQ10=IcQ2−{Is×exp(IcQ3×R1/Vt)}・・・式3
【0037】
ここで、Isは、第10のトランジスタ10の逆方向飽和電流、Vtは熱電位である。また、第3のトランジスタ3のコレクタ電流IcQ3は第1の定電流源21より流れる電流ICS1、第3の定電流源23より流れる電流ICS3を用いて、下記する式4のように表される。
【0038】
IcQ3=ICS1−ICS3+IbQ8−IbQ3=ICS1−ICS3+Iout/Hfe(Q8)−IbQ3・・・式4
【0039】
したがって、出力ソース電流の最大値Iout(max)は、下記する式5のように表される。
【0040】
Iout(max)=Hfe(Q8)×{Hfe(Q3)+1}×IcQ2(dec)=Hfe(Q8)×{Hfe(Q3)+1}×(IcQ2−IbQ3−IcQ10)=Hfe(Q8)×{Hfe(Q3)+1}×[IcQ2−IbQ3−Is×exp{(ICS1−ICS3+Iout/Hfe(Q8))−IbQ3)×R1/Vt}]・・・式5
【0041】
ここで、Hfe(Q8)は第8のトランジスタ8の電流増幅率、Hfe(Q3)は第3のトランジスタ3の電流増幅率である。また、式5の右辺のIoutは、出力ソース電流であるが、出力ソース電流が最大値となった場合は、Iout=Iout(max)となる。
したがって、式5は、下記する式6に書き換えることができる。
【0042】
Iout(max)=Hfe(Q8)×{Hfe(Q3)+1}×[IcQ2−IbQ3−Is×exp{(ICS1−ICS3+Iout(max)/Hfe(Q8)−IbQ3)×R1/Vt}]・・・式6
【0043】
式6は超越方程式であるため、Iout(max)は数値解のみ得ることができる。したがって、式6により、第1の抵抗器31の抵抗値を調整することで、出力ソース電流の最大値Iout(max)を任意に調整可能であることが理解できる。
図4には、本発明の実施の形態における演算増幅器において、出力ソース電流の最大値Iout(max)を調整した際の出力電圧の変化特性例が示されており、以下、同図について説明する。
【0044】
同図において、点線の特性線は、従来回路(図9参照)のもので、実線の特性線は、本発明の実施の形態における演算増幅器のものである。
同図によれば、従来回路の場合、出力電流が60mA以上流れるのに対して、本発明の実施の形態における演算増幅器では、第1の抵抗器31を調整することで、出力ソース電流の最大値Iout(max)を40mA程度に調整可能であることが理解できる。
【0045】
また、先に示した式3、式4より、第10のトランジスタ10のコレクタ電流IcQ10は、出力ソース電流Ioutが特定の値まで増加した際に流れることが理解できる。すなわち、出力ソース電流Ioutが特定の値以下では、コレクタ電流IcQ10は流れない。したがって、出力ソース電流Ioutが小さい状態では従来と異なり、消費電流が増加することはない。
このように、本発明の実施の形態における演算増幅器においては、過電流保護回路104が、従来と異なり、より少ない素子数(2素子)で、消費電流の増加を招くことなく、出力ソース電流の最大値Iout(max)の調整が可能となっている。
【0046】
次に、第2の構成例について、図2を参照しつつ説明する。
なお、図1に示された構成例における構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第2の構成例は、第1の構成例における過電流保護回路104において、コンデンサ(図2においては「C1」と表記)33を追加し、新たに過電流保護回路104Aとしたものである。
【0047】
すなわち、コンデンサ33は、その一端が第2のトランジスタ2のコレクタと第10のトランジスタ10のコレクタの相互の接続点に接続されると共に、電圧増幅器15の他方の出力端に接続される一方、他端は、第10のトランジスタ10のベースと第3のトランジスタ3のコレクタとの相互の接続点に接続されたものとなっている。
かかるコンデンサ33の追加により、出力ソース電流の最大値Iout(max)の高周波成分の除去が可能となっている。
【0048】
コンデンサ33の追加による第10のトランジスタ10の遮断周波数ftは、第10のトランジスタ10のトランスコンダクタンスgmQ10を用いて、下記する式7により求められる。
【0049】
ft=gmQ10/2πC1・・・式7
【0050】
なお、ここで、C1はコンデンサ33の容量である。
しかして、第10のトランジスタ10は、式7で表された遮断周波数ft以上の周波数を有する信号に対して減衰特性を示すこととなる。
第10のトランジスタ10は、先に式3に表されたように、コレクタ電流IcQ10が出力ソース電流の最大値Iout(max)に寄与するものとなっている。したがって、コンデンサ33の追加により、出力ソース電流の最大値Iout(max)におけるコレクタ電流IcQ10起因の高周波成分の除去が可能となっている。
なお、直流解析の結果は、先に第1の構成例において説明した図4に示された特性と基本的に同様であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略する。
【0051】
次に、第3の構成例について、図3を参照しつつ説明する。
なお、図1、又は、図2に示された構成例における構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第3の構成例は、第1の構成例における過電流保護回路104において、コンデンサ(図3においては「C1」と表記)33、及び、第2の抵抗器(図3においては「R2」と表記)32を追加し、新たに過電流保護回路104Bとしたものである。
【0052】
すなわち、第2の抵抗器32は、第10のトランジスタ10のエミッタと負電源電圧端子42との間に設けられたものとなっている。
なお、コンデンサ33は、図2に示された第2の構成例と同様に接続されて設けられたものとなっている。
かかる構成においては、第2の抵抗器32を設けることで、コンデンサ33の容量が小さくても、出力ソース電流の最大値Iout(max)の高周波成分の除去が可能となっている。
一方、コンデンサ33の容量を小さくすることは、演算増幅器の周波数特性への影響を軽減するという新たなメリットを生ずる。
【0053】
次に、この第3の構成例における遮断周波数ftを導出する。
まず、第10のトランジスタ10と第2の抵抗器32とからなるトランスコンダクタンスGmは、近似的に下記する式8により与えられる。
【0054】
Gm≒gmQ10/(1+gmQ10×R2)・・・式8
【0055】
したがって、式8を用いて、第10のトランジスタ10の遮断周波数ftは、下記する式9により表される。
【0056】
ft=Gm/2πC1=gmQ10/{2πC1(1+gmQ10×R2)}・・・式9
【0057】
ここで、R2は、第2の抵抗器32の抵抗値である。
このように、第2の抵抗器32を追加することで、遮断周波数ftは、第2の構成例で示した式7で求められる遮断周波数に比べ、1/(1+gmQ10×R2)倍に低下する。したがって、この第3の構成例では、特定の遮断周波数を得るために必要とされるコンデンサ33の容量値を、第2の構成例に比して小さくすることが可能となる。
なお、直流解析の結果は、先に第1の構成例において説明した図4に示された特性と基本的に同様であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略する。
【0058】
次に、特に、出力シンク電流の最大値の調整に適する第4乃至第6の構成例について、図5乃至図8を参照しつつ説明する。
最初に、第4の構成例について、図5を参照しつつ説明する。
なお、図1に示された第1の構成例と同一の構成要素には、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第4の構成例は、図1に示された第1の構成例の回路を、出力シンク電流の最大値の調整に適する回路とするため、以下説明するように、一部のトランジスタの種類を変更し、それに伴う回路接続を変更した点が第1の構成例と異なるものであり、かかる点を除けば、基本的には第1の構成例と同一の構成を有するものである。
【0059】
以下、具体的に説明すれば、まず、電流供給回路102の第1及び第2のトランジスタ1a,2aは、npn型トランジスタが用いられ、各々のエミッタは共に負電源電圧端子42に接続されたものとなっている。
また、プリドライバ用トランジスタとしての第3のトランジスタ3aには、npn型トランジスタが用いられ、そのエミッタは第9のトランジスタ9のベースに接続されると共に、第1の定電流源21を介して負電源電圧端子42に接続されている。
一方、第3のトランジスタ3aのコレクタは、第10のトランジスタ10aのベースに接続されると共に、第1の抵抗器31を介して正電源電圧端子41に接続されている。
【0060】
また、過電流保護回路104において、第10のトランジスタ10aには、pnp型トランジスタが用いられ、そのエミッタは正電源電圧端子41に接続されたものとなっている。
また、第8のトランジスタ8のベースは、第5のトランジスタ5のコレクタに接続されると共に、第3の定電流源23を介して正電源電圧端子41に接続されたものとなっている。
【0061】
かかる構成とすることにより、出力シンク電流の最大値Iout(max)の調整が可能となる。
以下、その出力シンク電流の最大値Iout(max)の調整機能について説明する。
出力シンク電流の最大値Iout(max)は、第1の構成例において示した式6におけるHfe(Q8)をHfe(Q9)に書き換えることで、下記する式10により表される。
【0062】
Iout(max)=Hfe(Q9)×{Hfe(Q3)+1}×[IcQ2−IbQ3−Is×exp{(ICS1−ICS3+Iout(max)/Hfe(Q9)−IbQ3)×R1/Vt}]・・・式10
【0063】
かかる式10は、超越方程式であるため、Iout(max)は数値解のみ得ることができる。式10により、第1の抵抗器31の抵抗値を調整することで、出力シンク電流の最大値Iout(max)を任意に調整可能であることが理解できる。
図8には、かかる構成において、出力シンク電流の最大値Iout(max)を調整した際の出力電圧の変化特性例が示されており、以下、同図について説明する。
同図において、点線の特性線は、従来回路(図9参照)のもので、実線の特性線は、第4の構成例の演算増幅器のものである。
【0064】
同図によれば、従来回路の場合、出力電流が70mA以上流れるのに対して、本発明の実施の形態における演算増幅器では、第1の抵抗器31を調整することで、出力シンク電流の最大値Iout(max)を40mA程度に調整可能であることが理解できる。
【0065】
次に、第5の構成例について、図6を参照しつつ説明する。
なお、図5に示された第4の構成例と同一の構成要素には、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第5の構成例は、第4の構成例における過電流保護回路104において、コンデンサ(図6においては「C1」と表記)33を追加し、新たに過電流保護回路104Aとしたものである。
【0066】
すなわち、コンデンサ33は、その一端が第2のトランジスタ2aのコレクタと第10のトランジスタ10aのコレクタの相互の接続点に接続されると共に、電圧増幅器15の他方の出力端に接続される一方、他端は、第10のトランジスタ10aのベースと第3のトランジスタ3aのコレクタとの相互の接続点に接続されたものとなっている。
かかるコンデンサ33の追加により、出力シンク電流の最大値Iout(max)の高周波成分を、先に示された式7で表される遮断周波数で除去することができるものとなっている。
なお、直流解析の結果は、先に第4の構成例において説明した図8に示された特性と基本的に同様であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略する。
【0067】
次に、第6の構成例について、図7を参照しつつ説明する。
なお、図5、図6に示された第4、第5の構成例と同一の構成要素には、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第6の構成例は、第4の構成例における過電流保護回路104において、コンデンサ(図7においては「C1」と表記)33、及び、第2の抵抗器(図7においては「R2」と表記)32を追加し、新たに過電流保護回路104Bとしたものである。
【0068】
すなわち、第2の抵抗器32は、第10のトランジスタ10aのエミッタと正電源電圧端子41との間に設けられたものとなっている。
なお、コンデンサ33は、図6に示された第5の構成例と同様に接続されて設けられたものとなっている。
かかる構成においては、第2の抵抗器32を設けることで、コンデンサ33の容量が小さくても、出力シンク電流の最大値Iout(max)の高周波成分を、先に示された式7で表される遮断周波数で除去することができるものとなっている。一方、コンデンサ33の容量を小さくすることは、演算増幅器の周波数特性への影響を軽減するという新たなメリットを生ずる。
なお、直流解析の結果は、先に第4の構成例において説明した図8に示された特性と基本的に同様であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略する。
っている。
【産業上の利用可能性】
【0069】
出力電流の制限が必要とされる演算増幅器に適用できる。
【符号の説明】
【0070】
10…第10のトランジスタ
31…第1の抵抗器
32…第2の抵抗器
33…コンデンサ
101…差動増幅回路
103…プリドライバ回路
104…過電流保護回路
105…アイドリング電流供給回路
106…プッシュプル出力段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に対して差動増幅を行う差動増幅回路と、前記差動増幅回路の出力を電圧・電流変換して出力するプリドライバ回路と、前記プリドライバ回路の出力により駆動される出力段とを有してなる演算増幅器であって、
前記プリドライバ回路を構成するプリドライバ用トランジスタのベース電流の増加を抑圧し、出力電流の過電流保護を可能とした過電流保護回路が設けられてなることを特徴とする演算増幅器。
【請求項2】
前記過電流保護回路は、過電流保護回路用トランジスタと、第1の抵抗器とを有してなる一方、
前記差動増幅回路は、2つの出力端子間に差動出力が得られるよう構成されてなる電圧増幅器と、前記電圧増幅器の2つの出力端子に高出力インピーダンスで電流供給を可能とした電流供給回路とを有してなり、
前記電圧増幅器の一方の出力端子には、前記プリドライバ用トランジスタのベースが接続される一方、前記電圧増幅器の他方の出力端子には、前記過電流保護回路用トランジスタのコレクタが接続され、
前記過電流保護回路用トランジスタのエミッタは、前記過電流保護回路用トランジスタがnpn型トランジスタの場合には負電源電圧が、前記過電流保護回路用トランジスタがpnp型トランジスタの場合には正電源電圧が、それぞれ印加可能とされ、前記過電流保護回路用トランジスタのベースは、前記プリドライバ用トランジスタのコレクタに接続されると共に、前記第1の抵抗器を介して、前記過電流保護回路用トランジスタがnpn型トランジスタの場合には負電源電圧が、前記過電流保護回路用トランジスタがpnp型トランジスタの場合には正電源電圧が、それぞれ印加可能に構成されてなることを特徴とする請求項1記載の演算増幅器。
【請求項3】
前記過電流保護回路用トランジスタのコレクタと前記プリドライバ用トランジスタのコレクタとの間にコンデンサが接続されてなることを特徴とする請求項2記載の演算増幅器。
【請求項4】
前記過電流保護回路用トランジスタのエミッタに、第2の抵抗器を介して、記過電流保護回路用トランジスタがnpn型トランジスタの場合には負電源電圧が、前記過電流保護回路用トランジスタがpnp型トランジスタの場合には正電源電圧が、それぞれ印加可能としてなることを特徴とする請求項3記載の演算増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−66067(P2013−66067A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203627(P2011−203627)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】