説明

潤滑剤付きゴムブッシュおよび潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法

【課題】内周面に潤滑剤が安定して高精度に付着されて、ゴムブッシュのロッド状部材への装着後にも、付着された潤滑剤をゴムブッシュとロッド状部材の間に安定して介在せしめ得る潤滑剤付きゴムブッシュとその製造方法を提供すること。
【解決手段】ゴムブッシュ16の周上の一箇所にスリットを設けて、スリットの形成部位を開口状態に変形させることにより、ゴムブッシュ16をロッド状部材に対して軸直角方向に嵌付け可能とする一方、ゴムブッシュ16を回転可能に支持する回転支持台32と、中空孔に挿入可能とされて且つ中空孔の中心軸に直交する方向に開口する吐出口が形成されたノズル56を備える潤滑剤吐出装置を用いて、ゴムブッシュ16を回転支持台32で中心軸回りに回転させつつ、吐出口80から潤滑剤26を吐出させることにより、ゴムブッシュ16の内周面に対して潤滑剤26を螺旋形の線状に付着させて塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状とされて内周面と外周面に弾性連結される部材の各一方が取り付けられるゴムブッシュとその製造方法に関するものであって、特に内周面が摺動面とされて潤滑剤が付着されている潤滑剤付きゴムブッシュとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性連結される部材間に配設されて、それら部材を相互に弾性連結乃至は弾性支持せしめるゴムブッシュが知られている。ゴムブッシュは、筒体形状を有しており、弾性連結される一方の部材であるロッド状部材に対して外挿されて取り付けられると共に、弾性連結される他方の部材が外周面に取り付けられることにより、それら弾性連結される部材間に介装されるようになっている。
【0003】
ところで、ゴムブッシュには、ロッド状部材に重ね合わされる内周面が摺動面とされているものがある。例えば、自動車のスタビライザバーに取り付けられるスタビライザブッシュ等がそれであり、内周面が摺動面とされることにより、ゴムブッシュの中央孔においてスタビライザバーの捻りにより摺動が許容される構造となっている。なお、特許文献1(特開2007−176274号公報)には、スタビライザブッシュの一例が示されている。
【0004】
かかる内周面が摺動面とされたゴムブッシュでは、ロッド状部材が摺動せしめられた場合に、ゴムブッシュとロッド状部材の間での摩擦に起因する異音や、磨耗による耐久性の低下等が問題となり易い。このような問題を解決する一つの方法として、ゴムブッシュの内周面とロッド状部材の外周面の間にグリース等の潤滑剤を介在させて、摺動抵抗を小さくすることが有効であると考えられている。
【0005】
そこにおいて、ゴムブッシュの内周面とロッド状部材の外周面の間に潤滑剤を介在させる方法としては、例えば、作業者がゴムブッシュの内周面に対して潤滑剤を手指にて塗布することが考えられる。しかしながら、このような手指による塗布では、ゴムブッシュの製造効率が著しく低下するという問題がある。しかも、手指による潤滑剤の塗布では、複数の製品間で塗布状態に斑が生じ易く、安定した品質の製品を得ることが困難となり易いと共に、個々の製品においても、適量の潤滑剤を精度良く塗布することが困難であることから、目的とする製品の性能を実現できないおそれがある。更に、手指による潤滑剤の塗布には多くの作業従事者が必要となると共に、グリース等の潤滑剤を手指で塗るという作業の性質上、労働環境としても良いとは言い難い。
【0006】
なお、グリース等の潤滑剤を入れた水槽にゴムブッシュを浸すことにより、全体に均一な潤滑剤層を形成する、所謂どぶ付けによる塗布も考えられるが、ゴムブッシュでは、摺動面である内周面以外に潤滑剤が付着すると、目的とする性能を実現出来なくなる等の不具合が生じる場合があり、充分に現実的であるとは言い難かった。
【0007】
また、ゴムブッシュの内周面に対して適当な潤滑剤の塗布が出来た場合にも、ゴムブッシュをロッド状部材に外挿するに際して、潤滑剤がそれらゴムブッシュとロッド状部材の間から逃げてしまうおそれがある。
【0008】
すなわち、ゴムブッシュとロッド状部材の間に隙間があると、その隙間に外部から砂等の異物が入り込むおそれがあり、摺動性を維持することが出来なくなったり、耐久性が低下するといった問題が生じ得る。それ故、ゴムブッシュは、ロッド状部材に対して密着状態で装着されることが好ましい。そのような密着状態でロッド状部材に装着されるゴムブッシュを、内周面に潤滑剤を塗布した後でロッド状部材の端部から外挿して装着すると、ゴムブッシュの内周面に塗布された潤滑剤が、ゴムブッシュをロッド状部材に外挿して軸方向にスライド移動させることによって、ロッド状部材の外周面に剥ぎ取られるようにしてゴムブッシュとロッド状部材の重ね合わせ部分から外側に逃げてしまう。これにより、ゴムブッシュの内周面に塗布された潤滑剤が摺動面には残らず、摺動面に塗布された潤滑剤の量を精度良く設定することは到底出来ないのであって、目的とする摺動性を安定して実現することは極めて困難であった。
【0009】
しかも、ゴムブッシュのロッド状部材への装着後に、ゴムブッシュのスライド移動によってロッド状部材の外周面に付着した潤滑剤を拭き取る必要があり、余分な手間がかかる結果ともなり兼ねなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2007−176274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、ゴムブッシュの内周面に潤滑剤が安定して高精度に塗布されていると共に、ゴムブッシュのロッド状部材への装着後にも、塗布された潤滑剤をゴムブッシュの内周面とロッド状部材の外周面の間に安定して介在せしめ得るようにされた新規な構造の潤滑剤付きゴムブッシュを提供することにある。
【0012】
また、本発明は、上記の如き潤滑剤付きゴムブッシュを量産性良く安定して高品質に製造することが出来る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0014】
すなわち、本発明は、筒体形状を有しており、弾性連結される一方のロッド状部材に外挿されて取り付けられると共に、防振連結される他方の部材が外周面に対して取り付けられることによって、それら防振連結される部材間に装着されるゴムブッシュにおいて、該ゴムブッシュの内周面と該ロッド状部材の外周面との間に潤滑剤を塗布することにより潤滑剤付きゴムブッシュを製造する方法であって、前記ゴムブッシュを、その周上の一箇所において軸方向に延びるスリットが設けられて該スリットの形成部位を開口状態に弾性変形させることにより前記ロッド状部材に対して軸直角方向に嵌め合わせて装着されるものとする一方、該ゴムブッシュを中心軸回りで回転可能に支持せしめる回転支持台を用いると共に、該ゴムブッシュの中空孔に挿入可能とされて且つ該ゴムブッシュの該中空孔の中心軸に直交する方向に向けて開口する吐出口が形成されたノズルを備えてなる潤滑剤吐出装置を用い、該ゴムブッシュを該回転支持台で中心軸回りに回転させつつ、該潤滑剤吐出装置の該ノズルの該吐出口から前記潤滑剤を一定方向に吐出させることにより、該ゴムブッシュの該中空孔の内周面に対して該潤滑剤を螺旋形の線状に付着させて塗布することを特徴とする。
【0015】
このような本発明に従う潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、ゴムブッシュを回転支持台で回転させつつ、潤滑剤吐出装置のノズルの吐出口から潤滑剤をゴムブッシュの内周面に向かって一定方向に吐出させることによって、ゴムブッシュの中空孔の内周面に潤滑剤が付着されるようになっている。それ故、ゴムブッシュの内周面に対する潤滑剤の塗布を機械的に実現することが出来て、ゴムブッシュに対する潤滑剤の塗布量を高精度に設定することが出来る。
【0016】
さらに、ゴムブッシュへの潤滑剤の付着を機械的に実現することにより、優れた量産性を実現することが出来て、安定した品質の潤滑剤付きゴムブッシュを簡単に製造することが可能となる。
【0017】
更にまた、ゴムブッシュにおいて潤滑剤の塗布が必要とされる内周面にのみ潤滑剤を付着せしめることが出来て、塗布される潤滑剤の量を少なく抑えることが出来ると共に、潤滑剤が内周面以外に付着することによる不具合を回避することが出来る。
【0018】
また、潤滑剤がゴムブッシュに対して螺旋形の線状に付着されており、ゴムブッシュをロッド状部材に対して取り付けることにより、線状に付着された潤滑剤がゴムブッシュとロッド状部材の間に満遍なく広がるようになっている。これによれば、ゴムブッシュの内周面の全体に潤滑剤を噴霧する等して塗布する場合に比して、潤滑剤の過剰な塗布を防ぐことが出来る。
【0019】
さらに、ゴムブッシュの周上の一箇所にスリットを形成することにより、ロッド状部材をゴムブッシュの中空孔に対してスリットを通じて軸直角方向に嵌め付けることが可能となっている。これにより、ゴムブッシュのロッド状部材への取付けに際して、潤滑剤がロッド状部材の外周面に剥ぎ取られるようにしてゴムブッシュとロッド状部材の重ね合わせ面間から外側に逃げるのを防ぐことが出来る。
【0020】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、前記回転支持台によって前記ゴムブッシュを中心軸方向で移動不能に支持せしめて中心軸回りに回転させつつ、前記潤滑剤吐出装置における前記ノズルを中心軸回りに回転不能に支持せしめて該ゴムブッシュに対して軸方向で移動させることにより、該ゴムブッシュの前記中空孔の内周面に対して該潤滑剤を螺旋形の線状に付着させて塗布することが望ましい。
【0021】
このように、回転支持台によってゴムブッシュの回転させると共に、潤滑剤を吐出するノズルを回転不能に支持させて軸方向で移動させることにより、潤滑剤やエアを供給するホース等がノズルに接続されている場合にも、ゴムブッシュの内周面に対して潤滑剤を螺旋形に付着させることが出来る。また、潤滑剤の吐出による反力が作用せしめられるノズルを回転させる場合に比べて、ゴムブッシュとノズルの相対的な位置をより安定させることが出来て、潤滑剤を目的とする形状で精度良く付着させることが出来る。
【0022】
さらに、上述の如き本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、前記回転支持台に対して前記ゴムブッシュの中心軸を鉛直方向に向けて載置することにより該ゴムブッシュを該回転支持台によって鉛直下方から支持せしめる一方、前記潤滑剤吐出装置における前記ノズルを該ゴムブッシュの上方の開口部から軸方向下方に向けて挿し入れて移動させることによって、該ゴムブッシュの上側開口部から下側開口部に向けて螺旋状に延びるように前記潤滑剤を該ゴムブッシュの内周面に塗布することが望ましい。
【0023】
このような製造方法を採用することにより、ノズルの軸方向での移動が、ノズルと回転支持台との当接によって制限される。それ故、ノズルが潤滑剤を吐出している状態でゴムブッシュの内周側から外れた位置に移動せしめられるのを防ぐことが出来て、潤滑剤が周囲に飛び散ることによる汚染等の問題を容易に回避することが出来る。
【0024】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、前記ゴムブッシュの前記中空孔の中心軸上に前記ノズルを位置せしめると共に、前記回転支持台により該ゴムブッシュの該中空孔の中心軸回りに該ゴムブッシュを回転せしめつつ、該ノズルの前記吐出口から前記潤滑剤を吐出させても良い。
【0025】
このように、ゴムブッシュを回転支持台によって中空孔の中心軸回りに回転せしめることにより、ノズルの吐出口からゴムブッシュの内周面までの距離が常に略一定とされる。これにより、ノズルの吐出口から吐出される潤滑剤のゴムブッシュへの付着条件が全体に亘って略一定とされて、ゴムブッシュの内周面に付着された潤滑剤の付着状態を、全体に亘って略均一とすることが出来る。
【0026】
また、中空孔の中心軸上にノズルを位置せしめることにより、例えば周上の複数箇所に吐出口を有する構造のノズルを採用した場合にも、各吐出口からゴムブッシュの内周面までの距離が略一定とされる。それ故、ゴムブッシュの内周面に対する各吐出口から吐出される潤滑剤の付着条件が全体に亘って略一定とされて、ゴムブッシュの内周面全体に亘って潤滑剤の安定した付着状態を実現可能となる。
【0027】
なお、ここで言う潤滑剤の付着条件とは、例えば、吐出される潤滑剤の速度や、付着後における広がり方(潤滑剤の付着面積)等が考えられる。
【0028】
一方、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、前記ゴムブッシュの前記中空孔の中心軸に対して偏心させて前記ノズルを位置せしめると共に、前記回転支持台により該ゴムブッシュの該中空孔の中心軸回りに該ゴムブッシュを回転せしめつつ、該ノズルの前記吐出口から前記潤滑剤を吐出させるようにしても良い。
【0029】
このように、ゴムブッシュを回転支持台によって中空孔の中心軸回りに回転せしめることにより、ノズルの吐出口からゴムブッシュの内周面までの距離が常に略一定とされる。これにより、ノズルの吐出口から吐出される潤滑剤のゴムブッシュへの付着条件が全体に亘って略一定とされて、ゴムブッシュの内周面に付着された潤滑剤の付着状態を、全体に亘って略均一とすることが出来る。
【0030】
また、中空孔の中心軸に対して偏心させてノズルを位置せしめることにより、ゴムブッシュの中空孔が大きい場合にも、ノズルの吐出口からゴムブッシュの内周面までの距離を小さく設定することが可能となる。これにより、ゴムブッシュの中空孔が大きい場合にも、ゴムブッシュの内周面に対する潤滑剤の付着条件を適当に設定することが出来て、目的とする潤滑剤の付着状態を実現することが出来る。
【0031】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、前記ノズルの前記吐出口から前記潤滑剤を吐出させて前記ゴムブッシュの前記中空孔の内周面に付着させるに際して、該ノズルの該吐出口と該ゴムブッシュの該中空孔の内周面との対向面間距離を2mm〜30mmの範囲内に設定することが望ましい。
【0032】
すなわち、吐出口とゴムブッシュの内周面との離隔距離が2mmよりも小さいと、ゴムブッシュとノズルの相対的な移動に伴って、ゴムブッシュの内周面に付着せしめた潤滑剤がノズルによって引き剥がされるおそれがあり、目的とする潤滑剤の付着状態を安定して実現出来なくなるおそれがある。また、吐出口とゴムブッシュの内周面との離隔距離が30mmを超えると、目的とする潤滑剤の付着条件を実現するためにノズルにおける潤滑剤の吐出圧を大きくする必要が生じるおそれがある。従って、ノズルの吐出口とゴムブッシュの内周面の離隔距離を上述の如き範囲に設定することによって、これらの問題を回避することが出来る。
【0033】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、前記ゴムブッシュとして、その前記中空孔の内周面が凹凸の付された粗面とされているものを用いることが望ましい。
【0034】
このようにゴムブッシュの内周面を粗面とすることにより、ゴムブッシュの内周面に付着された潤滑剤が重力の作用等によって垂れるのを防ぐことが出来る。それ故、潤滑剤を目的とする螺旋形の線状で略均一に付着させることが出来て、ゴムブッシュとロッド状部材の間に満遍なく潤滑剤を介在せしめることが出来る。特に、螺旋状に延びる凹溝又は凸条を形成することにより、内周面に付着した潤滑剤のブッシュ軸方向への流れ出し経路を、かかる螺旋状の凹溝又は凸条に沿って一層長く設定し、軸方向外部への潤滑剤の流れ出しをより効果的に防止することが可能となる。
【0035】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、前記ゴムブッシュを前記回転支持台で支持せしめた後に回転を開始し、その回転数が予め設定された所定値に達した後に、該ゴムブッシュに対して軸方向に離隔位置せしめた前記ノズルを接近方向に移動開始し、該ノズルの前記吐出口が該ゴムブッシュの該中空孔に入った後に、該ノズルの該吐出口から前記潤滑剤を吐出開始し、該ノズルの該吐出口が該ゴムブッシュの該中空孔の他方の端部に至った時に該潤滑剤の吐出を停止すると共に、該ゴムブッシュの回転を停止するようにしても良い。
【0036】
このように予め所定の回転数だけゴムブッシュを回転せしめた後に、ノズルによる潤滑剤の吐出を開始して潤滑剤をゴムブッシュの内周面に付着せしめることにより、安定した速さで回転するゴムブッシュに対して吐出された潤滑剤を付着せしめることが出来て、ゴムブッシュの内周面に付着する潤滑剤の付着状態をゴムブッシュの軸方向で全体に亘って略均一とすることが出来る。
【0037】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法においては、前記ノズルの前記吐出口から、前記潤滑剤に直接に加圧して該潤滑剤をエア混入させない単独状態で吐出させることが望ましい。
【0038】
このように、潤滑剤を直接に加圧して、空気が混入していない単独状態でノズルから吐出させることにより、空気の混入量の斑によって潤滑剤の吐出量が変化するのを防いで、ゴムブッシュの内周面に付着される潤滑剤の量を高精度に設定することが可能となる。また、空気の混入によって、潤滑剤が粒状或いは霧状に拡散するのを防いで、潤滑剤を目的とする螺旋形の線状に付着せしめることが出来る。
【0039】
また、本発明は、潤滑剤付きゴムブッシュであって、上述の何れかの態様に係る潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法によって製造されたものも特徴とする。
【0040】
このような本発明に従う構造とされた潤滑剤付きゴムブッシュにおいては、ゴムブッシュの内周面に付着された潤滑剤によって、ゴムブッシュとロッド状部材の間の摺動抵抗を低減せしめて、ロッド状部材の摺動に起因する異音の発生やゴムブッシュの磨耗を効果的に防ぐことが出来る。
【0041】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュにおいては、周上の一箇所において軸方向に延びるように設けられた前記スリットの形成部位が開口状態に弾性変形せしめられることにより前記ロッド状部材に対して軸直角方向に嵌め合わされて装着されていることが望ましい。
【0042】
このように潤滑剤付きゴムブッシュがロッド状部材に対して軸直角方向に嵌め合わされて装着されるようになっていることにより、ゴムブッシュのロッド状部材への装着によって、ゴムブッシュの内周面に付着された潤滑剤がロッド状部材に剥ぎ取られるのを防いで、ゴムブッシュとロッド状部材の重ね合わせ面間の略全体に亘って予め設定された適量の潤滑剤が過不足なく介在せしめられた状態を実現することが出来る。
【0043】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュは、好適には、自動車のスタビライザバーに対して外挿されて、内周面において該スタビライザバーの外周面に対して摺動可能に取り付けられる一方、外周面において車両ボデー側に固定的に取り付けられることによって自動車用スタビライザブッシュとして用いられる。
【0044】
捻り剛性を利用して車体の安定性を向上せしめるスタビライザバーを車両ボデーに対して弾性的に連結するスタビライザブッシュとして、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュが用いられることにより、スタビライザバーとゴムブッシュの間に予め設定された一定量の潤滑剤が高い信頼性をもって介在せしめられ得る。これにより、スタビライザバーがゴムブッシュの中空孔内において中心軸回りで摺動せしめられることによる異音の発生や磨耗の進行を効果的に低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0046】
先ず、図1,2には、本発明に従う構造とされた潤滑剤付きゴムブッシュとして、自動車用のスタビライザブッシュ10が車両に装着された状態で示されている。このスタビライザブッシュ10は、全体として筒体形状を有しており、弾性連結される一方の部材であるロッド状部材としてのスタビライザバー12に対して外挿されて、内周面がスタビライザバー12の外周面に対して摺動可能に重ね合わされている一方、弾性連結される他方の部材としての車両ボデー14が外周面に対して固定的に取り付けられている。なお、以下の説明において、上下方向とは、特に説明がない限り、図1中の上下方向を言うものとする。また、軸方向とは、特に説明がない限り、後述するロッド嵌着孔18の中心軸方向である図2中の左右方向を言うものとする。
【0047】
より詳細には、スタビライザブッシュ10は、ゴムブッシュとしての本体ゴム弾性体16を有している。本体ゴム弾性体16は、図3,4に示されているように、全体として筒体形状であって、特に本実施形態では、上面(図1における上側の面)が円弧状の湾曲面で構成された略一定の蒲鉾形断面形状を有している。また、本実施形態における本体ゴム弾性体16は、略中央部分に中空孔としてのロッド嵌着孔18が形成されることによって、全体として筒体形状とされている。ロッド嵌着孔18は、スタビライザバー12の外径と同じか僅かに小さい内径を有する円形の孔であって、略一定の断面形状で直線的に延びて、本体ゴム弾性体16を貫通している。
【0048】
また、本体ゴム弾性体16において、ロッド嵌着孔18の中心軸方向の端部には、それぞれフランジ部20が形成されている。フランジ部20は、本体ゴム弾性体16の上面と側面から外側に向かって突出するように連続的に形成されており、ロッド嵌着孔18の中心軸方向に対して直交して広がっている。
【0049】
また、本体ゴム弾性体16には、保持溝22が形成されている。保持溝22は、軸方向に傾斜して周方向に延びる螺旋状の凹溝であって、本体ゴム弾性体16の内周面に開口して本体ゴム弾性体16の軸方向全長に亘って連続的に形成されている。これにより、本実施形態における本体ゴム弾性体16の内周面は、凹凸を付された粗面となっている。なお、粗面とは、シボ状等の微小な凹凸が付された面や、突起や突条或いは凹溝や凹所が形成された面を含むものであって、全体に亘って平滑な平坦面以外のものを言う。より好適には、螺旋状に延びる凹溝又は凸条が採用される。
【0050】
なお、保持溝22の深さは、好適には、0.1mm〜1.0mmとされており、より好適には、0.4mm〜1.0mmとされている。また、保持溝22の幅は、0.5mm〜2.0mmの範囲に設定されることが望ましい。
【0051】
蓋し、保持溝22の深さが0.1mmを下回る場合には、本体ゴム弾性体16の内周面の凹凸によって発揮される後述するグリース26が軸方向に垂れるのを防ぐ効果や、保持溝22内へのグリース26の保持が、実現され難くなるおそれがある。また、保持溝22の深さが1.0mmより大きくされると、本体ゴム弾性体16において隣り合う保持溝22の間に位置する部分がスタビライザバー12の軸直入力や摺動によって変形を生じ易くなり、剛性不足や過剰な変形による破損等といった耐久性の低下が問題となるおそれがあると共に、保持溝22に多量のグリース26が入り込むこととなって、必要なグリース26の量が増すといった問題も生じるからである。
【0052】
一方、保持溝22の幅が0.5mmよりも小さいと、保持溝22の深さが0.1mmよりも小さい場合と同様に、グリース26の軸方向での垂れ防止効果やグリース26の保持機能が十分に発揮され難くなるおそれがある。また、保持溝22の幅が2.0mmよりも大きいと、保持溝22の深さが1.0mmよりも大きい場合と同様に、本体ゴム弾性体16の剛性不足や耐久性の低下や、グリース26の塗布量の増加といった問題が生じるおそれがある。
【0053】
また、本体ゴム弾性体16には、スリット24が形成されている。スリット24は、図3,4に示されているように、筒体形状とされた本体ゴム弾性体16の周上の一部に設けられており、本体ゴム弾性体16のロッド嵌着孔18に達するように形成されている。更に、スリット24は、本体ゴム弾性体16の軸方向で全長に亘って延びており、本体ゴム弾性体16の軸方向両端面に達するように形成されている。要するに、スリット24が形成されることによって、本体ゴム弾性体16は周上の一部で切り割られており、本体ゴム弾性体16を弾性変形せしめることで、スリット24の形成部位において本体ゴム弾性体16が開口可能とされている。
【0054】
ここにおいて、本体ゴム弾性体16のロッド嵌着孔18には、図5に拡大して示されているように、潤滑剤としてのグリース26が付着せしめられている。グリース26は、本体ゴム弾性体16とスタビライザバー12の摺動抵抗を低減するものであって、例えば、シリコーングリースやフッ素グリース等の各種グリース、或いは各種のグリース(潤滑油)にモリブデン粒子等の潤滑性を有する微粒子乃至は粉末を混入せしめたもの等が、適宜に使用される。
【0055】
また、グリース26は、図6に示されているような、潤滑剤塗布装置28によって本体ゴム弾性体16の内周面に付着されて塗布される。より詳細には、潤滑剤塗布装置28は、ベース30を有しており、ベース30に対して回転支持台32と潤滑剤吐出装置34が取り付けられている。なお、以下の説明において、上下方向とは、鉛直上下方向である図6中の上下方向を言う。
【0056】
回転支持台32は、電動モータ36と回転テーブル38を更に有している。電動モータ36は、直流電流が給電されることにより回転軸40が中心軸回りに回動せしめられる公知の電動機であって、ベース30に対して回転軸40が鉛直上方に向かって突出するように固定されている。
【0057】
また、電動モータ36の回転軸40には、回転テーブル38が取り付けられている。回転テーブル38は、本体ゴム弾性体16の最大外径よりも大径とされた略円板形状を有しており、回転テーブル38の中央に電動モータ36の回転軸40が固定されている。これにより、電動モータ36への給電によって回転テーブル38が回転せしめられるようになっている。
【0058】
また、回転テーブル38は、チャック装置42を備えている。本実施形態におけるチャック装置42は、回転テーブル38の上方に突出せしめられた四つの把持爪44を有している。把持爪44は、回転テーブル38の周方向で相互に離隔して配置されており、径方向で駆動可能とされている。また、本実施形態における把持爪44は内周側の面が凹凸の形成された粗面とされている。そして、回転テーブル38の中央部分に設置されたワーク(本実施形態では、本体ゴム弾性体16)が、把持爪44の径方向中央側への駆動によって固定的に把持されるようになっていると共に、把持爪44の径方向外側への駆動によって把持状態を解除されるようになっている。
【0059】
なお、チャック装置42は、一般的に知られている公知構造のワークを固定する装置であって、その詳細な構造は従来のチャック装置と同様であることから、ここでは詳細な説明を省略する。また、チャック装置42としては、例えば、周上に設けられた複数の把持爪44を相互に接近/離隔方向に向けて、遠心力を利用して作動する遠心式のシリンダ機構によって駆動せしめるものや、モータによって駆動せしめるもの等が、好適に採用され得る。更に、本実施形態では四つの把持爪44を有する構造を例示するが、把持爪44の数や形状が異なるチャック装置や、筒体形状の把持筒部にワークが嵌め込まれて、該把持筒部の拡径又は縮径によってワークの固定と解放を切り換えるようにされたチャック装置等を採用することも出来る。
【0060】
以上により、ロッド嵌着孔18が鉛直上下方向で延びるように本体ゴム弾性体16を回転テーブル38上に載置して、チャック装置42で固定的に把持せしめることにより、回転支持台32は、本体ゴム弾性体16を、中心軸回りでの回転を許容された状態で支持出来るようになっている。
【0061】
一方、潤滑剤吐出装置34は、回転テーブル38の上方に位置せしめられており、例えば、特許第2838690号公報等に開示されている高粘度材噴霧装置のノズル本体の如き構造を有している。なお、潤滑剤吐出装置34自体の基本的な構造については、特許第2838690号公報等にも開示されている公知の構造を採用することが出来るのであって、かかる基本構造自体が本発明の要部を構成するものではないことから、ここでは潤滑剤吐出装置34の基本構造に関する簡単な説明に留めて、特徴部分を記載しておく。
【0062】
すなわち、潤滑剤吐出装置34は、ベース30によって支持される本体部46を備えている。本体部46は、ベース30から鉛直上方に延びる支柱48に対して、水平方向に延びる支持アーム50を介して取り付けられており、サーボモータ52によって上下に変位可能とされている。
【0063】
サーボモータ52は、通電によって潤滑剤吐出装置34を軸方向で往復変位せしめるようになっており、外部に設けられた制御装置54によって作動状態が制御されるようになっている。なお、サーボモータ52としては、公知構造の直流電動機やブラシレス直流電動機,二相誘導電動機等を採用することが出来る。
【0064】
また、本体部46には、ノズル56が取り付けられている。ノズル56は、全体として小径の略有底円筒形状を有しており、本体部46から鉛直下方に向かって直線的に突出せしめられている。また、本実施形態において、ノズル56は、回転テーブル38の上方に位置せしめられており、ノズル56の中心軸が電動モータ36の回転軸40の中心軸と同一直線上に位置するように配置されている。なお、ノズル56の構造に関する以下の説明において、軸方向とは、特に説明がない限り、ノズル56の中心軸方向である図7中の上下方向を言うものとする。
【0065】
より詳細には、ノズル56は、図7に示されているように外筒部58と内筒部60を有する二重構造とされている。外筒部58は、略円筒形状とされて上下方向に延びる周壁部62に対して、下端開口部を覆うように円板形状の底壁部64を固着せしめた構造とされており、全体として略有底円筒形状を呈している。また、本実施形態では、外筒部58を構成する周壁部62と底壁部64の間に環状のシールゴム66が介在せしめられており、それら周壁部62と底壁部64の間が流体密にシールされている。更に、本実施形態では、周壁部62の下端部が内周面にねじ山を刻設された雌ねじ部とされている。
【0066】
さらに、外筒部58には、周上の一部において周壁部62を軸直角方向に貫通する第一の連通孔67が形成されている。第一の連通孔67は、略円形の断面を有する貫通孔であって、かかる第一の連通孔67を通じて外筒部58の内周側に形成された領域が外部に連通されている。
【0067】
また、内筒部60は、略円筒形状とされて上下方向で直線的に延びる周壁部68に対して、その下端開口部を覆うように略円板形状の底壁部70が螺着された構造となっており、全体として略有底円筒形状を呈している。また、内筒部60は、外筒部58よりも小径とされていると共に、外筒部58よりも軸方向での長さが短くなっており、内筒部60が外筒部58の内周側に離隔して配置されている。
【0068】
さらに、内筒部60には、周上の一部において周壁部68を軸直角方向に貫通する第二の連通孔71が形成されている。第二の連通孔71は、略円形の断面を有する貫通孔であって、かかる第二の連通孔71を通じて内筒部60の内周側に形成された領域が外部に連通されている。
【0069】
更にまた、外筒部58に形成された第一の連通孔67と、内筒部60に形成された第二の連通孔71は、同一直線上に位置するように形成されていると共に、第一の連通孔67が第二の連通孔71よりも大径とされている。
【0070】
また、外筒部58の下端部と内筒部60の下端部の間には、保持部72が設けられている。保持部72は、略有底円筒形状とされて外周面にねじ山が刻設されており、外筒部58の底壁部64と一体形成されて上方に向かって突出せしめられている。また、保持部72の内周面には、略全面に亘って緩衝ゴム層76が被着形成されている。そして、保持部72が外筒部58の周壁部62に対して下方から螺入せしめられることにより、保持部72を備えた底壁部64が周壁部62の下端部に固定されると共に、内筒部60の下端部が保持部72の内周側に嵌め入れられる。これにより、外筒部58の下端部と内筒部60の下端部が保持部72によって相対的に位置決めされるようになっている。
【0071】
ここにおいて、ノズル56の先端部分には、空気吐出口78と潤滑剤吐出口80が設けられている。空気吐出口78は、軸直角方向に延びる略円筒形状の金具であって、外筒部58の下端部分に形成された第一の連通孔67に挿し入れられて固定されている。また、潤滑剤吐出口80は、空気吐出口78に比して小径とされて軸直角方向に延びる略円筒形状の金具であって、内筒部60の外周面に固着されることによって中央孔が第二の連通孔71と接続されている。
【0072】
また、本実施形態においては、空気吐出口78が潤滑剤吐出口80よりも充分に大径とされていると共に、それら空気吐出口78と潤滑剤吐出口80が同一中心軸上に配置されており、空気吐出口78の内周面と潤滑剤吐出口80の外周面が全周に亘って相互に離隔せしめられている。これにより、外筒部58の内周面と内筒部60の外周面の間の領域が、空気吐出口78内周面と潤滑剤吐出口80の外周面の対向面間を通じて外部空間に連通されていると共に、内筒部60の内周側の領域が、潤滑剤吐出口80の中央孔を通じて外部空間に連通されている。なお、本実施形態においては、潤滑剤吐出口80が空気吐出口78よりも外側に突出せしめられている。
【0073】
このような構造とされたノズル56には、空気供給路82と潤滑剤供給路84がそれぞれ接続されている。空気供給路82と潤滑剤供給路84は、ノズル56の基端部である上端部に接続されており、空気供給路82を通じて、加圧された空気が外筒部58と内筒部60の間に供給されるようになっていると共に、潤滑剤供給路84を通じて、加圧されたグリース26が内筒部60の中央空間に供給されるようになっている。
【0074】
空気供給路82は、中空のゴムホースで形成されており、一方の端部がノズル56に接続されていると共に、他方の端部が大気中に開放されている。更に、大気中に開放された側の空気供給路82の開口部には、エアフィルタ86が取り付けられており、埃や砂塵等の外部から空気供給路82内への侵入がエアフィルタ86によって防がれるようになっている。
【0075】
また、空気供給路82の経路上には、気送ポンプ88が配設されている。気送ポンプ88は、給電によって空気供給路82の大気開放側の端部から吸引された空気をノズル56側に向かって圧送する装置であって、従来から知られているポンプを採用することが出来る。また、本実施形態では、気送ポンプ88の作動が制御装置54によって制御されるようになっている。
【0076】
さらに、空気供給路82の経路上において、ノズル56と気送ポンプ88の間には、第一の調圧弁90が配設されている。この第一の調圧弁90によって、大気中からノズル56へ供給される空気の圧力が適当に調節されるようになっている。
【0077】
一方、潤滑剤供給路84は、空気供給路82と同様にゴムホースで形成されており、一方の端部がノズル56に接続されていると共に、他方の端部が容器に入れられたグリース26中に開口せしめられている。
【0078】
また、潤滑剤供給路84の経路上には、液送ポンプ92が配設されている。液送ポンプ92は、給電によってグリース26中に開口せしめられた側の端部から吸引されたグリース26をノズル56側に向かって圧送する装置であって、気送ポンプ88と同様に従来から知られているポンプを採用することが出来る。また、本実施形態では、液送ポンプ92の作動が制御装置54によって制御されるようになっている。
【0079】
さらに、潤滑剤供給路84の経路上において、ノズル56と液送ポンプ92の間には、第二の調圧弁94が配設されている。この第二の調圧弁94によって、大気中からノズル56へ供給されるグリース26の圧力が適当に調節されるようになっている。
【0080】
そして、ノズル56に接続される空気供給路82によって、加圧された空気が外筒部58の内周面と内筒部60の外周面の間の領域に対して供給されることにより、空気吐出口78から空気が吐出されるようになっている。また、ノズル56に接続される潤滑剤供給路84によって、加圧されたグリース26が内筒部60の内周側の領域に対して供給されることにより、潤滑剤吐出口80からグリース26が吐出されるようになっている。このことからも明らかなように、本実施形態における吐出口が、潤滑剤吐出口80の外側端部開口によって形成されている。
【0081】
本実施形態に従う構造とされたノズル56では、空気の供給経路とグリース26の供給経路がそれぞれ設けられており、グリース26が空気の混入していない単独状態で吐出されるようになっている。また、中央部分から吐出されるグリース26の周囲を取り囲むように加圧された空気が噴射されるようになっており、吐出されたグリース26の外側への拡散が、吐出空気の圧力によって効果的に防がれるようになっている。なお、このようなグリース26の拡散を防止する効果を有効に得るためには、空気吐出口78から吐出される空気の圧力を、潤滑剤吐出口80から吐出されるグリース26の圧力と同じか、それよりも僅かに高圧に設定することが望ましい。
【0082】
ここにおいて、以上の如き構造とされた潤滑剤塗布装置28を用いて本体ゴム弾性体16のロッド嵌着孔18の内周面に対してグリース26が付着せしめられる。以下に、潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法について、本実施形態に係るスタビライザブッシュ10を用いて説明する。
【0083】
先ず、所定の形状を有する成形用金型のキャビティに対して、ゴム材料を充填し、加硫成形することによって、本実施形態に従う構造とされた本体ゴム弾性体16を得る。これにより、本実施形態におけるゴムブッシュの準備工程が完了する。
【0084】
次に、準備された筒体形状の本体ゴム弾性体16の周上の一箇所において、ロッド嵌着孔18に達するスリット24を軸方向の全長に亘って延びるように形成する。これにより、本実施形態におけるスリット24の形成工程が完了する。なお、このスリット24は、本実施形態の如く、周方向で連続する筒体形状に成形された本体ゴム弾性体16を、カッタナイフ等によって成形後に周上の一箇所で切り割ることによって形成しても良いし、本体ゴム弾性体16を予めスリット24を備えた形状で加硫成形しても良い。また、かかるスリット24は、本体ゴム弾性体16の弾性によって密着して閉じた状態になっている必要はなく、ある程度の隙間をもって開口状態とされていても良い。更にまた、そのようにスリット24の部分に開口状態の隙間が形成されている場合において、スタビライザバー12への装着状態下では本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいてかかる隙間が消失してスリット24が密着状態とされることが望ましいが、必ずしもかかる隙間の消失が要件とされるものでない。
【0085】
このようにして、準備された本体ゴム弾性体16は、ロッド嵌着孔18が鉛直上下方向(図6の上下方向)で延びるように潤滑剤塗布装置28の回転テーブル38上に載置されて、チャック装置42によって固定される。なお、本体ゴム弾性体16は、回転テーブル38上に載置されると共に、チャック装置42で固定されることにより、回転テーブル38に対して相対的に変位不能に支持されており、回転テーブル38が回転駆動せしめられると、本体ゴム弾性体16が回転テーブル38と一体的に回転せしめられるようになっている。
【0086】
また、本体ゴム弾性体16を回転テーブル38に固定した後に、制御装置54によって電動モータ36が作動を開始せしめられる。これにより、電動モータ36の回転軸40に取り付けられた回転テーブル38が回転せしめられて、本体ゴム弾性体16が回転軸40を中心として回転せしめられる。特に本実施形態では、電動モータ36の回転軸40の中心軸が、本体ゴム弾性体16に形成されたロッド嵌着孔18の中心軸と同一直線上に位置せしめられており、回転軸40の回転による回転テーブル38の回転に伴って、本体ゴム弾性体16がロッド嵌着孔18の中心軸を中心として回転せしめられるようになっている。
【0087】
また、回転テーブル38の回転数が所定値を超えると、制御装置54によってサーボモータ52が作動せしめられて、ノズル56を備えた潤滑剤吐出装置34が回転テーブル38に接近する方向に向かって直線的に駆動せしめられる。これによって、潤滑剤吐出装置34のノズル56が本体ゴム弾性体16の内周側であるロッド嵌着孔18に対して、鉛直上側の開口部から挿し入れられる。
【0088】
そして、潤滑剤吐出装置34の変位によって、ノズル56の潤滑剤吐出口80が、ロッド嵌着孔18の一方(鉛直上側)の開口部から本体ゴム弾性体16の内周側に入り込んで、軸方向で予め設定されたグリース26の付着開始位置まで移動せしめられると、制御装置54によって気送ポンプ88および液送ポンプ92が作動せしめられて、加圧された空気が、ノズル56の先端部に設けられた空気吐出口78から吐出せしめられると共に、加圧されたグリース26が、ノズル56の先端部に設けられた潤滑剤吐出口80から吐出せしめられる。これらにより、本体ゴム弾性体16の内周面に対して、ノズル56から吐出されたグリース26が付着せしめられる。
【0089】
また、ノズル56からグリース26および空気を連続的に吐出せしめつつ、回転テーブル38の回転と、ノズル56を含む潤滑剤吐出装置34の下方への移動を、略一定の速さで維持することにより、本体ゴム弾性体16の内周面に対してグリース26を螺旋形に付着せしめることが出来る。本実施形態では、グリース26の吐出開始位置と吐出終了位置を適当に設定することにより、本体ゴム弾性体16の軸方向略全長に亘って螺旋状に延びるグリース26の塗布状態が実現されるようになっている。
【0090】
また、グリース26は、空気の混入していない単独状態で射出されると共に、グリース26の外周側において空気が噴出されることにより、拡散することなく本体ゴム弾性体16に付着せしめられるようになっている。それ故、本体ゴム弾性体16の内周面に付着されたグリース26は、螺旋形の線状を呈している。本実施形態では、図8に示されているように、グリース26が保持溝22と反対向きに傾斜して延びる螺旋状に付着せしめられている。
【0091】
なお、本実施形態では、図8に示されているように、ノズル56の中心軸が、本体ゴム弾性体16に形成されたロッド嵌着孔18の中心軸と同一直線上に位置せしめられており、潤滑剤吐出装置34が鉛直下方に向かって駆動変位せしめられることによって、ノズル56がロッド嵌着孔18の中心線上で本体ゴム弾性体16の内周側に挿し入れられるようになっている。また、ノズル56は、本体部46に対して固設されており、中心軸回りで回転不能に支持されている。
【0092】
さらに、本実施形態では、グリース26を本体ゴム弾性体16の内周面に付着せしめるに際して、潤滑剤吐出口80の先端から本体ゴム弾性体16の内周面までの距離:dが2mm〜30mmとされていることが望ましく、より好適には、5mm〜15mmとされている。蓋し、潤滑剤吐出口80が本体ゴム弾性体16に対して接近し過ぎると、本体ゴム弾性体16の内周面に付着されたグリース26が潤滑剤吐出口80の先端によって剥ぎ取られて、目的とするグリース26の付着状態を実現出来なくなるおそれがある。一方、潤滑剤吐出口80が本体ゴム弾性体16の内周面から離れ過ぎると、グリース26が本体ゴム弾性体16の内周面に到達する際の速度を充分な大きさで得ることが難しくなって、安定した付着状態の実現が困難となったり、付着状態を維持するためにグリース26の吐出圧を高めることが必要となったりするからである。
【0093】
次に、ノズル56における潤滑剤吐出口80がロッド嵌着孔18の軸方向でグリース26の付着終了位置まで移動せしめられると、電動モータ36と気送ポンプ88と液送ポンプ92が、制御装置54によって何れも停止せしめられる。これにより、電動モータ36の停止によって本体ゴム弾性体16の回転が停止されて静止状態とされると共に、気送ポンプ88による空気の圧送と、液送ポンプ92によるグリース26の圧送が停止されて、空気吐出口78からの空気の射出と、潤滑剤吐出口80からのグリース26の射出が何れも停止される。
【0094】
また、空気およびグリース26の吐出が停止された後に、サーボモータ52が逆作動せしめられて、潤滑剤吐出装置34が鉛直上方に向かって駆動変位し、初期位置に移動せしめられる。これにより、ノズル56が本体ゴム弾性体16のロッド嵌着孔18から抜け出して上方に離隔位置せしめられる。
【0095】
そして、チャック装置42による固定を解除することによって、内周面にグリース26が付着された本体ゴム弾性体16を得ることが出来る。以上によって、本実施形態における潤滑剤付着工程が完了する。
【0096】
このようにして得られたグリース26を付着された本体ゴム弾性体16は、スタビライザバー12に装着される。即ち、本体ゴム弾性体16は、図9に示されているように、スリット24の形成部分において開口するように変形せしめることにより、スリット24を通じてスタビライザバー12に対して軸直角方向に嵌め付けられる。そして、本体ゴム弾性体16は、スタビライザバー12に対して外挿状態で装着されている。
【0097】
ここにおいて、グリース26が付着された本体ゴム弾性体16がスタビライザバー12に外挿されると、本体ゴム弾性体16の内周面に対して線状に付着されたグリース26が本体ゴム弾性体16の内周面とスタビライザバー12の外周面の間で挟み込まれて、図5に示されているように、それら本体ゴム弾性体16とスタビライザバー12の間で塗り広げられる。これにより、グリース26が本体ゴム弾性体16の内周面とスタビライザバー12の外周面の間の略全体に亘って介在せしめられるようになっており、本体ゴム弾性体16がスタビライザバー12に対して摺動可能に装着されている。
【0098】
また、本体ゴム弾性体16の外周面には、ブラケット金具96が取り付けられている。ブラケット金具96は、図1,2に示されているように、本体ゴム弾性体16の外周面形状に対応する略U字形状を有する金属板で形成されており、端部に一体形成された一対の固定フランジ98が車両ボデー14に対してボルト固定されることにより、本体ゴム弾性体16の外周面が車両ボデー14に取り付けられるようになっている。
【0099】
かかる車両への取付下において、本体ゴム弾性体16は、ブラケット金具96と車両ボデー14の対向面間で圧縮されており、本体ゴム弾性体16が、ロッド嵌着孔18が縮径する方向に弾性変形せしめられている。そして、本体ゴム弾性体16の内周面がスタビライザバー12の外周面に対して密着せしめられている。
【0100】
このように、本体ゴム弾性体16の内周面がスタビライザバー12の外周面に密着せしめられることにより、本体ゴム弾性体16の内周面に対して螺旋形の線状に付着されたグリース26が、本体ゴム弾性体16の内周面とスタビライザバー12の外周面の間でより効果的に塗り広げられて、それら本体ゴム弾性体16とスタビライザバー12の当接面の全体に亘って介在せしめられるようになっている。
【0101】
このように、本実施形態のスタビライザブッシュ10にあっては、潤滑剤塗布装置28を用いて、本体ゴム弾性体16の内周面に対して螺旋形の線状にグリース26が付着せしめられるようになっており、グリース26を本体ゴム弾性体16の内周面に対して精度良く塗布することが可能となっている。それ故、グリース26の塗布済みスタビライザブッシュ10を品質良く実現することが出来ると共に、均一な品質のスタビライザブッシュ10を安定して得ることが出来る。
【0102】
また、スタビライザブッシュ10を構成する本体ゴム弾性体16の内周面に対して精度良くグリース26を塗布することによって、スタビライザバー12の摺動による異音の発生や磨耗による性能の悪化、更には耐久性の低下等の問題を効果的に防ぐことが出来る。
【0103】
また、潤滑剤塗布装置28によって、グリース26の塗布作業を人手を要することなく自動的に行うことが出来て、スタビライザブッシュ10を効率良く製造することが出来ると共に、低コストで得ることも出来る。
【0104】
また、本実施形態におけるスタビライザブッシュ10では、本体ゴム弾性体16にスリット24が形成されており、本体ゴム弾性体16のスタビライザバー12への装着時に、スリット24が開口するように本体ゴム弾性体16を弾性変形せしめることで、本体ゴム弾性体16がスタビライザバー12に対して軸直角方向で嵌め付けられるようになっている。
【0105】
これにより、本体ゴム弾性体16のスタビライザバー12への取付けに際して、本体ゴム弾性体16の内周面に付着せしめられたグリース26が、スタビライザバー12における本体ゴム弾性体16の装着部位を外れた部分に付着するのを防ぐことが出来る。従って、本体ゴム弾性体16とスタビライザバー12の間に所定量のグリース26を安定して介在せしめることが出来ると共に、スタビライザバー12がグリース26の付着によって汚れるのを防いで、本体ゴム弾性体16のスタビライザバー12への装着後にグリース26の拭取り作業が必要となるのを避けることが出来る。
【0106】
また、本実施形態においては、ロッド嵌着孔18が鉛直上下方向で延びるように本体ゴム弾性体16が回転テーブル38上に載置されており、ロッド嵌着孔18の下側開口部が回転テーブル38によって閉塞されていると共に、ロッド嵌着孔18の上側開口部から挿し入れられたノズル56が、グリース26を吐出しながら軸方向下方に向かって変位せしめられるようになっている。これによれば、ノズル56の変位制御の不良等が発生した場合にも、ノズル56の先端が回転テーブル38に当接せしめられることによって、ノズル56の変位が制止される。それ故、グリース26の吐出状態にあるノズル56が、本体ゴム弾性体16の軸方向外側に変位せしめられるのを防いで、グリース26の周囲への射出を回避することが出来る。
【0107】
また、本実施形態では、ノズル56が回転を阻止されていると共に、回転テーブル38がロッド嵌着孔18の中心軸回りで回転せしめられるようになっている。これにより、ノズル56の潤滑剤吐出口80から本体ゴム弾性体16の内周面までの距離が、常に略一定に保たれることとなる。それ故、本体ゴム弾性体16の内周面に付着する時点におけるグリース26の速さを、塗布領域の全体に亘って略一定とすることが出来て、付着時の衝撃によるグリース26の広がり方等の均一化を図ることが可能となる。また、重力の作用等によって、グリース26の付着位置がずれるのを防いで、本体ゴム弾性体16の内周面上における所定の位置に対して精度良くグリース26を付着せしめることが出来る。
【0108】
また、本実施形態においては、本体ゴム弾性体16の内周面に保持溝22が形成されており、本体ゴム弾性体16の内周面が凹凸を付された形状となっている。それ故、グリース26が重力の作用等によって所定の付着位置から軸方向に垂れるのを防いで、目的とするグリース26の付着状態を安定して維持することが出来る。
【0109】
特に、本実施形態では、保持溝22が螺旋状に形成されている。これにより、グリース26が重力の作用等によって軸方向で直線的に垂れるのを防ぐことが出来ると共に、スタビライザバー12への装着下においては、軸方向でのグリース26の広がりが実現されて、摺動面全体へのグリース26の塗布による摺動時の異音や磨耗の低減効果を効果的に得ることが出来る。
【0110】
また、本実施形態では、グリース26と空気が異なる吐出口78,80から吐出せしめられており、グリース26が空気を混入されていない単独状態で吐出されるようになっている。これにより、吐出されるグリース26の量の変化を防いで、適量のグリース26を安定して付着せしめることが出来ると共に、空気の混在によってグリース26が粒状や霧状に拡散せしめられるのを防いで、グリース26を本体ゴム弾性体16の内周面における所定位置に対して精度良く付着せしめることが出来る。
【0111】
しかも、本実施形態では、潤滑剤吐出口80の外周側を取り囲むように空気吐出口78が形成されており、吐出されたグリース26の周囲を囲むように空気が噴出されるようになっている。これにより、グリース26と同時に噴出された空気の圧力によって、グリース26が外側に拡散するのを一層効果的に防ぐことが出来る。
【0112】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0113】
例えば、前記実施形態においては、ノズル56がロッド嵌着孔18の中心軸上で本体ゴム弾性体16の内周側に挿し入れられるようになっているが、図10に示されているように、前記実施形態において、ノズル56がロッド嵌着孔18の中心軸に対して偏心して挿し入れられるようになっていても良い。これによれば、ロッド嵌着孔18が大径であって、ノズル56を中心軸上に挿し入れると潤滑剤吐出口80から本体ゴム弾性体16までの距離が大きくなる場合にも、潤滑剤吐出口80と本体ゴム弾性体16の内周面との距離:d’を適当に設定することが出来て、目的とするグリース26の付着状態を実現することが出来る。
【0114】
また、前記実施形態においては、重力の作用等によるグリース26の垂れを防ぐために、本体ゴム弾性体16の内周面に開口する螺旋形の保持溝22が形成された構造が示されている。しかしながら、例えば、本体ゴム弾性体16の内周面に開口して周方向に延びる環状の凹溝を、軸方向で所定距離を隔てて複数条形成することによっても、付着されたグリース26の軸方向への垂れを防ぐことが可能となる。更に、例えば、本体ゴム弾性体16の内周面を凹凸の付されたシボ状等の粗面とすることによっても、グリース26が垂れるのを効果的に防ぐことが出来る。
【0115】
また、前記実施形態では、グリース26が、本体ゴム弾性体16の内周面において、保持溝22の傾斜方向に対して反対向きの傾斜を有する螺旋形となるように付着されているが、グリース26は、例えば、保持溝22とは異なる傾斜角度で保持溝22と同じ傾斜方向に傾斜する螺旋形となるように付着されていても良い。また、例えば、グリース26は、保持溝22と同じ傾斜方向に同じ傾斜角度で保持溝22に沿って延びるように付着されるようになっていても良い。
【0116】
また、前記実施形態においては、ノズル56が本体ゴム弾性体16のロッド嵌着孔18に対して鉛直上方から挿し入れられて、ノズル56が上方から下方に向けて移動する際にグリース26が本体ゴム弾性体16に付着されるようになっている。しかしながら、このようなグリース26の付着方法は、あくまでも一例であって、異なる制御方法によっても目的とするグリース26の付着状態を実現することは可能である。
【0117】
具体的には、例えば、本体ゴム弾性体16をチャック装置42によって回転テーブル38に固定して、中心軸回りで回転せしめた後に、ノズル56を作動方向の最下端、換言すれば、回転テーブル38に最も接近した位置まで移動せしめる。そして、ノズル56を回転テーブル38から離隔する方向である鉛直上方へ移動せしめる際に、グリース26を吐出せしめて本体ゴム弾性体16に付着させるようになっていても良い。
【0118】
また、例えば、前記実施形態と同様に、ノズル56の下方への変位時にグリース26を吐出させて本体ゴム弾性体16に付着せしめると共に、ノズル56が作動方向の最下端に到達した後に、折り返して上方に向かって移動せしめられるようにして、上方への移動時にもグリース26が吐出されるようにしても良い。要するに、ノズル56の往方向への作動時と復方向への作動時の両方においてグリース26が吐出されるようになっていても良い。
【0119】
さらに、例えば、前記実施形態と同様に、ノズル56が下方に向かって移動せしめられる際にグリース26が吐出されるようにすると共に、ノズル56が作動方向の最下端に到達した後に、グリース26の吐出が停止された状態でノズル56を上方に移動せしめる。そして、再びグリース26を吐出せしめながら、ノズル56を下方に移動させて、かかるノズル56の作動方向一方向のみにおけるグリース26の吐出を、所定の回数だけ繰り返すようにされていても良い。特に、グリース26の吐出を開始する軸方向での位置を変化させることにより、多数条の螺旋形線状にグリース26を塗布することも可能となる。これによれば、本体ゴム弾性体16の内周面に付着されるグリース26の量を容易に調節することが出来る。
【0120】
また、前記実施形態においては、ノズル56の先端において潤滑剤吐出口80が周上の一箇所に形成されているが、例えば、ノズル56の先端において周方向に離隔して複数の潤滑剤吐出口80が形成されていても良い。これによれば、同時に複数条のグリース26を本体ゴム弾性体16に付着せしめることが出来て、作業時間を増すことなくグリース26の付着量を適当に設定することが出来る。特に周方向で異なる方向に向かってグリース26を吐出する複数の潤滑剤吐出口80が形成されている場合には、各潤滑剤吐出口80と本体ゴム弾性体16の離隔距離を略一定とするために、ノズル56がロッド嵌着孔18の中心軸上に挿し入れられることが望ましい。
【0121】
また、潤滑剤吐出口80は、ノズル56の中心軸方向で所定距離を隔てて複数が形成されていても良い。これにより、同時に複数条のグリース26を本体ゴム弾性体16に対して付着せしめることが出来る。なお、軸方向で離隔する複数の潤滑剤吐出口80が設けられている場合には、ノズル56がロッド嵌着孔18の中心軸に対して平行を為すように挿し入れられることが望ましい。
【0122】
また、前記実施形態では、ノズル56が鉛直方向でロッド嵌着孔18に挿し入れられるようになっていたが、例えば、ロッド嵌着孔18が水平方向で延びるように固定すると共に、本体ゴム弾性体16をロッド嵌着孔18の中心軸回りで回転せしめた状態で、ノズル56を水平方向でロッド嵌着孔18に対して挿し入れて、グリース26を吐出するようにしても良い。特に鉛直下向きにグリース26を吐出せしめることにより、重力の影響によるグリース26の付着位置のずれを回避することが出来る。
【0123】
また、本体ゴム弾性体16のゴム材料として、シリコーンオイル等の潤滑剤が含有された自己潤滑ゴムを採用することも出来る。これにより、本体ゴム弾性体16の内周面における摺動抵抗をより有利に低減せしめることが出来得る。
【0124】
また、本発明に係る潤滑剤付きゴムブッシュは、必ずしもスタビライザブッシュとしてのみ採用されるものではなく、内周面が摺動面とされる各種のゴムブッシュとして好適に採用される。なお、本発明の適用範囲が自動車用のゴムブッシュのみに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0125】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の一実施形態としてのスタビライザブッシュの車両への装着状態を示す図2のI−I断面図。
【図2】図1のII−II断面図。
【図3】同スタビライザブッシュを構成する本体ゴム弾性体を示す図4のIII−III断面図。
【図4】図3のIV−IV断面図。
【図5】同スタビライザブッシュのスタビライザバーへの装着状態の要部を拡大して示す断面図。
【図6】同本体ゴム弾性体にグリースを塗布する潤滑剤塗布装置の概略図。
【図7】同潤滑剤塗布装置のノズルの先端部分を拡大して示す断面図。
【図8】グリースの塗布作業時における同潤滑剤塗布装置の要部を示す断面拡大図。
【図9】グリース付き本体ゴム弾性体のスタビライザバーへの取付けを説明する断面図。
【図10】本発明に係る別態様の潤滑剤塗布装置を用いたグリースの塗布作業を示す要部の断面拡大図。
【符号の説明】
【0127】
10:スタビライザブッシュ,12:スタビライザバー,16:本体ゴム弾性体,18:ロッド嵌着孔,22:保持溝,24:スリット,26:グリース,32:回転支持台,34:潤滑剤吐出装置,56:ノズル,80:潤滑剤吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体形状を有しており、弾性連結される一方のロッド状部材に外挿されて取り付けられると共に、防振連結される他方の部材が外周面に対して取り付けられることによって、それら防振連結される部材間に装着されるゴムブッシュにおいて、該ゴムブッシュの内周面と該ロッド状部材の外周面との間に潤滑剤を塗布することにより潤滑剤付きゴムブッシュを製造する方法であって、
前記ゴムブッシュを、その周上の一箇所において軸方向に延びるスリットが設けられて該スリットの形成部位を開口状態に弾性変形させることにより前記ロッド状部材に対して軸直角方向に嵌め合わせて装着されるものとする一方、
該ゴムブッシュを中心軸回りで回転可能に支持せしめる回転支持台を用いると共に、
該ゴムブッシュの中空孔に挿入可能とされて且つ該ゴムブッシュの該中空孔の中心軸に直交する方向に向けて開口する吐出口が形成されたノズルを備えてなる潤滑剤吐出装置を用い、
該ゴムブッシュを該回転支持台で中心軸回りに回転させつつ、該潤滑剤吐出装置の該ノズルの該吐出口から前記潤滑剤を一定方向に吐出させることにより、
該ゴムブッシュの該中空孔の内周面に対して該潤滑剤を螺旋形の線状に付着させて塗布することを特徴とする潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項2】
前記回転支持台によって前記ゴムブッシュを中心軸方向で移動不能に支持せしめて中心軸回りに回転させつつ、前記潤滑剤吐出装置における前記ノズルを中心軸回りに回転不能に支持せしめて該ゴムブッシュに対して軸方向で移動させることにより、該ゴムブッシュの前記中空孔の内周面に対して該潤滑剤を螺旋形の線状に付着させて塗布する請求項1に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項3】
前記回転支持台に対して前記ゴムブッシュの中心軸を鉛直方向に向けて載置することにより該ゴムブッシュを該回転支持台によって鉛直下方から支持せしめる一方、前記潤滑剤吐出装置における前記ノズルを該ゴムブッシュの上方の開口部から軸方向下方に向けて挿し入れて移動させることによって、該ゴムブッシュの上側開口部から下側開口部に向けて螺旋状に延びるように前記潤滑剤を該ゴムブッシュの内周面に塗布する請求項2に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項4】
前記ゴムブッシュの前記中空孔の中心軸上に前記ノズルを位置せしめると共に、前記回転支持台により該ゴムブッシュの該中空孔の中心軸回りに該ゴムブッシュを回転せしめつつ、該ノズルの前記吐出口から前記潤滑剤を吐出させる請求項1乃至3の何れか一項に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項5】
前記ゴムブッシュの前記中空孔の中心軸に対して偏心させて前記ノズルを位置せしめると共に、前記回転支持台により該ゴムブッシュの該中空孔の中心軸回りに該ゴムブッシュを回転せしめつつ、該ノズルの前記吐出口から前記潤滑剤を吐出させる請求項1乃至3の何れか一項に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項6】
前記ノズルの前記吐出口から前記潤滑剤を吐出させて前記ゴムブッシュの前記中空孔の内周面に付着させるに際して、該ノズルの該吐出口と該ゴムブッシュの該中空孔の内周面との対向面間距離を2mm〜30mmの範囲内に設定する請求項1乃至5の何れか一項に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項7】
前記ゴムブッシュとして、その前記中空孔の内周面が凹凸の付された粗面とされているものを用いる請求項1乃至6の何れか一項に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項8】
前記ゴムブッシュを前記回転支持台で支持せしめた後に回転を開始し、その回転数が予め設定された所定値に達した後に、該ゴムブッシュに対して軸方向に離隔位置せしめた前記ノズルを接近方向に移動開始し、該ノズルの前記吐出口が該ゴムブッシュの該中空孔に入った後に、該ノズルの該吐出口から前記潤滑剤を吐出開始し、該ノズルの該吐出口が該ゴムブッシュの該中空孔の他方の端部に至った時に該潤滑剤の吐出を停止すると共に、該ゴムブッシュの回転を停止する請求項1乃至7の何れか一項に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項9】
前記ノズルの前記吐出口から、前記潤滑剤に直接に加圧して該潤滑剤をエア混入させない単独状態で吐出させる請求項1乃至8の何れか一項に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載の潤滑剤付きゴムブッシュの製造方法によって形成されていることを特徴とする潤滑剤付きゴムブッシュ。
【請求項11】
周上の一箇所において軸方向に延びるように設けられた前記スリットの形成部位が開口状態に弾性変形せしめられることにより前記ロッド状部材に対して軸直角方向に嵌め合わされて装着されている請求項10に記載の潤滑剤付きゴムブッシュ。
【請求項12】
自動車のスタビライザバーに対して外挿されて、内周面において該スタビライザバーの外周面に対して摺動可能に取り付けられる一方、外周面において車両ボデー側に固定的に取り付けられることによって自動車用スタビライザブッシュを構成する請求項10又は11に記載の潤滑剤付きゴムブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−125625(P2009−125625A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300801(P2007−300801)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】