説明

潤滑油組成物

【課題】粘度−温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することが可能であり、すすや金属摩耗粉が混入しているような潤滑油の劣化時においても十分な低摩擦性すなわち省燃費性を維持し、摩耗防止性や清浄性等の耐久性、酸化安定性に優れ、さらには低灰化が可能であり、排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することが可能な潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、尿素アダクト値が4質量%以下であり且つ粘度指数が100以上である潤滑油基油と、組成物全量を基準として、0.01〜10質量%の無灰摩擦調整剤と、リン量として0.01〜0.2質量%のリン含有摩耗防止剤と、を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、潤滑油の分野では、高度精製鉱油等の潤滑油基油に流動点降下剤等の添加剤を配合することによって、潤滑油の低温粘度特性等の改善が図られている(例えば、特許文献1〜3を参照)。また、高粘度指数基油の製造方法としては、天然や合成のノルマルパラフィンを含む原料油について水素化分解/水素化異性化による潤滑油基油の精製を行う方法が知られている(例えば、特許文献4〜6を参照)。
【0003】
潤滑油基油及び潤滑油の低温粘度特性の評価指標としては、流動点、曇り点、凝固点などが一般的である。また、ノルマルパラフィンやイソパラフィンの含有量等の潤滑油基油に基づき低温粘度特性を評価する手法も知られている。
【0004】
ところで、一般に、摺動部位を有する機関である、内燃機関、自動変速機、緩衝器、パワーステアリングなどの駆動系機器、ギヤなどには、その作動を円滑にするために潤滑油が用いられている。特に内燃機関用潤滑油は、主としてピストンリングとシリンダライナ、クランク軸やコネクティングロッドの軸受、動弁機構など、各部の潤滑のほか、エンジン内の冷却や燃焼生成物の清浄分散、さらには錆や腐食を防止するなどの作用を果たす。
【0005】
このように、内燃機関用潤滑油には、低温粘度特性だけでなく、多様な性能が要求されているのに加え、近年、省燃費性の向上や排ガス後処理装置対応のための低灰、低リン、低硫黄化、ロングドレイン性能の向上などトレードオフの性能を高次元で両立させることも求められている。内燃機関においては、潤滑油が関与する摩擦部分でのエネルギー損失が大きいために、摩擦損失低減や燃費低減対策として、例えば、特許文献7等に示すように、摩擦低減剤をはじめ、各種の添加剤を組み合わせた潤滑油が使用されている。
【0006】
従来、潤滑油の摩擦係数を低くするために、モリブデンジチオカーバメートやモリブデンジチオホスフェートに代表される有機モリブデン化合物の添加、該有機モリブデン化合物と金属系清浄剤の組み合わせ配合(例えば特許文献8参照)、又は該有機モリブデン化合物と硫黄系化合物の組み合わせ配合(例えば特許文献9参照)などが行われている。
【0007】
ところが、ディーゼルエンジンや、直噴タイプのガソリンエンジンにおいては、ピストン内で生成するすすが多量にエンジン油中に混入する。このすすは、表面活性を有するために、油中の極性添加剤を吸着したり、また、摩擦面に生成した被膜を削りとったりする作用を示す。そのため、このような苛酷な摩擦条件下では、摩擦低減効果に最も優れているとされる有機モリブデン化合物を用いても、すすや金属の摩耗粉等による阻害が原因で十分な摩擦低減効果が得られない。これを改善するための研究例は少なく、ディーゼルエンジンの省燃費性能向上のためにアルカリ金属ホウ酸塩水和物の配合をすること(例えば特許文献10参照)などが若干提案されているに過ぎない。
【0008】
一方、潤滑油の低粘度化も、燃費を向上する手段として有効であることが知られており、低粘度潤滑油にポリメタクリレートやエチレン−プロピレン共重合体等の粘度指数向上剤を添加したマルチグレードディーゼルエンジン油が一般に用いられている。しかしながら、これらの粘度指数向上剤のみを添加したマルチグレードディーゼルエンジン油の燃費低減効果は微々たるものであり、決して十分とはいえなかった。そのため、ディーゼルエンジンや、直噴タイプのガソリンエンジンにおいても、十分な燃費低減効果を発揮することが可能なエンジン油の技術開発が強く望まれてきた。
【0009】
ところで、ディーゼルエンジンについては、NOxや粒子状物質(SPM)の低減が急務となっており、これらの排ガスを低減させるために、例えば、高圧噴射、排ガス再循環システム(EGR)、酸化触媒、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)、あるいはNOx吸蔵還元触媒などの排ガス低減手段の導入が検討されつつある。
【0010】
しかし、排ガス低減手段の中で、特に排ガス後処理装置の酸化触媒、NOx吸蔵還元触媒、及びDPFについては、使用するエンジン油の組成によってその寿命が早まることが知られている。例えば、摩耗防止剤、あるいは酸化防止剤(過酸化物分解剤)として有効なジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPという)を含む潤滑油を用いた場合には、ZnDTP中の亜鉛分が燃焼過程において酸化物、リン酸塩あるいは硫酸塩等を形成し、触媒表面やフィルター内に堆積することで、これら排ガス後処理装置の浄化性能を損なう恐れがある。従って上記のような排ガス後処理装置を装着したエンジン用潤滑油にはZnDTPを添加しないか、使用してもその添加量を少量に抑えることが望ましい。また、金属系清浄剤や硫黄分についても金属酸化物や硫酸塩が灰分として堆積することにより上述した問題を生じやすいため、これらの含有量を極力低減することが望ましい。
【0011】
また、ディーゼルエンジン、特にEGRを装着したディーゼルエンジンにおいては、潤滑油中にすすが多量に混入することから、動弁系等の摩耗の増大、ピストン清浄性等の高温清浄性の悪化が懸念される。さらに、直噴ガソリンエンジンにおいても上記と同様のすす混入による悪影響や燃焼室デポジット及びバルブデポジットが懸念される。従って、ZnDTP、金属系清浄剤、硫黄分の含有量を単純に低減することは格別な困難性を伴い、その低減に伴う清浄性や摩耗防止性の低下を補うための新たな手段の検討が必要になる。
【0012】
排ガス後処理装置を装着したエンジン用の潤滑油組成物としては、硫酸灰分量を0.7質量%以下に抑えたディーゼルエンジン油組成物が提案されている(特許文献11参照)。また、すす混入時の清浄性や、摩耗防止性を改善するものとして、分散型粘度指数向上剤を含有するエンジン油が提案されている(特許文献12、13参照)。しかし、これらの提案においては、金属系清浄剤を低減した場合の高温清浄性や塩基価維持性能が必ずしも十分ではなく、ZnDTPの配合量を低減した場合における高温清浄性やすす混入下における摩耗防止性も十分に検討されていない。従って高温清浄性や塩基価維持性を高いレベルに維持又は向上させるとともに、ZnDTPの配合量を低減した場合に顕著となるすす混入時の摩耗を抑制するためには、さらなる検討の余地がある。
【特許文献1】特開平4−36391号公報
【特許文献2】特開平4−68082号公報
【特許文献3】特開平4−120193号公報
【特許文献4】特開2005−154760号公報
【特許文献5】特表2006−502298号公報
【特許文献6】特表2002−503754号公報
【特許文献7】特公平3−23595号公報
【特許文献8】特公平6−62983号公報
【特許文献9】特公平5−83599号公報
【特許文献10】特公平1−48319号公報
【特許文献11】特開2000−256690号公報
【特許文献12】特開2001−279287号公報
【特許文献13】特開2004−10799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近時、潤滑油の低温粘度特性の向上、さらには低温粘度特性と粘度−温度特性との両立に対する要求は益々高くなっており、上記従来の評価指標に基づき低温性能が良好であると判断された潤滑油基油を用いた場合であっても、かかる要求特性を十分に満足させることが困難となっている。
【0014】
なお、潤滑油基油への添加剤の配合により上記特性をある程度改善することはできても、この手法には限界がある。特に、流動点降下剤は、配合量を増加させてもその効果が濃度と比例関係ではなく、また、配合量の増加に伴ってせん断安定性が低下してしまう。
【0015】
また、上述した水素化分解/水素化異性化による潤滑油基油の精製方法においては、ノルマルパラフィンのイソパラフィンへの異性化率の向上及び潤滑油基油の低粘度化により低温粘度特性を改善する観点から、水素化分解/水素化異性化の条件の最適化が検討されているが、粘度−温度特性(特に高温での粘度特性)と低温粘度特性とは相反する関係にあるため、これらを両立することは非常に困難である。例えば、ノルマルパラフィンのイソパラフィンへの異性化率を高くすると、低温粘度特性は改善されるものの、粘度指数が低下するなど粘度−温度特性が不十分となる。さらに、上述したように流動点や凝固点等の指標が潤滑油基油の低温粘度特性の評価指標として必ずしも適切でないことも、水素化分解/水素化異性化の条件の最適化が困難となっていることの一因となっている。
【0016】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、粘度−温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することが可能であり、すすや金属摩耗粉が混入しているような潤滑油の劣化時においても十分な低摩擦性すなわち省燃費性を維持し、摩耗防止性や清浄性等の耐久性、酸化安定性に優れ、さらには低灰化が可能であり、排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することが可能な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明は、尿素アダクト値が4質量%以下であり且つ粘度指数が100以上である潤滑油基油と、組成物全量を基準として、0.01〜10質量%の無灰摩擦調整剤と、リン量として0.01〜0.2質量%のリン含有摩耗防止剤と、を含有することを特徴とする潤滑油組成物を提供する。
【0018】
なお、本発明でいう尿素アダクト値は以下の方法により測定される。秤量した試料油(潤滑油基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200g、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。
【0019】
また、本発明でいう粘度指数、並びに後述する40℃又は100℃における動粘度とは、それぞれJIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数及び40℃又は100℃における動粘度を意味する。
【0020】
本発明にかかる潤滑油基油組成物によれば、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たす潤滑油基油に、無灰摩擦調整剤及びリン含有摩耗防止剤をそれぞれ上記特定の範囲内で含有させることによって、実用温度範囲から0℃以下の低温条件において、粘性抵抗や攪拌抵抗を大幅に低減することによりその効果を発揮することができ、特に、すすが多量に混入するディーゼルエンジンや直噴ガソリンエンジン等の内燃機関に当該潤滑油基油が適用された場合にも、エネルギー損失を低減し、省エネルギー化を達成できる点で非常に有用である。
【0021】
なお、従来、水素化分解/水素化異性化による潤滑油基油の精製方法においてノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化率の向上が検討されていることは上述の通りであるが、本発明者らの検討によれば、単にノルマルパラフィンの残存量を低減するだけでは低温粘度特性を十分に改善することは困難である。すなわち、水素化分解/水素化異性化により生成するイソパラフィンの中にも低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分は含まれるが、従来の評価方法においてはその点について十分に認識されていない。また、ノルマルパラフィン及びイソパラフィンの分析にはガスクロマトグラフィー(GC)やNMRなどの分析手法が適用されるが、これらの分析手法ではイソパラフィンの中から低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分を分離又は特定することは、煩雑な作業や多大な時間を要するなど実用上有効であるとはいえない。
【0022】
これに対して、本発明における尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分、さらには潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンを精度よく且つ確実に捕集することができるため、潤滑油基油の低温粘度特性の評価指標として優れている。なお、本発明者らは、GC及びNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認している。
【0023】
本発明において、上記潤滑油基油は、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下であり且つ粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程を備える製造方法により製造されたものであることが好ましい。
【0024】
また、上記潤滑油基油の100℃における動粘度は3.5mm/s以上であることが好ましく、上記潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は2000mPa・s以下であることが好ましい。
【0025】
また、上記潤滑油基油のNOACK蒸発量は15質量%以下であることが好ましい。
【0026】
また、上記潤滑油基油の40℃における動粘度(単位:mm/s)とNOACK蒸発量(単位:質量%)との積は250以下であることが好ましい。
【0027】
また、上記無灰摩擦調整剤は、窒素、酸素、硫黄から選ばれる1種又は2種以上の元素を少なくとも3原子以上含有する化合物であることが好ましい。
【0028】
また、本発明の潤滑油組成物は、モリブデンジチオカーバメート及びモリブデンジチオホスフェート以外の有機モリブデン化合物を、組成物全量を基準として、モリブデン量として0.001〜0.2質量%含有することが好ましい。
【0029】
本発明の潤滑油組成物の用途は特に制限されないが、ディーゼルエンジン用又は直噴ガソリンエンジン用の潤滑油として用いた場合に特に優れた効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、粘度−温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することが可能であり、すすや金属摩耗粉が混入しているような潤滑油の劣化時においても十分な低摩擦性すなわち省燃費性を維持し、摩耗防止性や清浄性等の耐久性、酸化安定性に優れ、さらには低灰化が可能であり、排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することが可能な潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0032】
本発明の潤滑油組成物は、尿素アダクト値が4質量%であり、且つ粘度指数が100以上である潤滑油基油(以下、「本発明にかかる潤滑油基油」という。)を含有する。
【0033】
また、本発明にかかる潤滑油基油の尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、上述の通り4質量%以下であることが必要であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。また、潤滑油基油の尿素アダクト値は、0質量%でも良い。
【0034】
本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数は、粘度−温度特性の観点から、上述の通り100以上であることが必要であり、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、特に好ましくは140以上である。
【0035】
本発明にかかる潤滑油基油を製造するに際し、ノルマルパラフィン、またはノルマルパラフィンを含有するワックスを含有する原料油を用いることができる。原料油は、鉱物油又は合成油のいずれであってもよく、あるいはこれらの2種以上の混合物であってもよい。また、原料油中のノルマルパラフィンの含有量は、原料油全量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、一層好ましくは90質量%、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは97質量%以上である。
【0036】
また、本発明で用いられる原料油は、ASTM D86又はASTM D2887に規定する潤滑油範囲で沸騰するワックス含有原料であることが好ましい。原料油のワックス含有率は、原料油全量を基準として、好ましくは50質量%以上100質量%以下である。原料のワックス含有率は、核磁気共鳴分光法(ASTM D5292)、相関環分析(n−d−M)法(ASTM D3238)、溶剤法(ASTM D3235)などの分析手法によって測定することができる。
【0037】
ワックス含有原料としては、例えば、ラフィネートのような溶剤精製法に由来するオイル、部分溶剤脱ロウ油、脱瀝油、留出物、減圧ガスオイル、コーカーガスオイル、スラックワックス、フーツ油、フィッシャー−トロプシュ・ワックスなどが挙げられ、これらの中でもスラックワックス及びフィッシャー−トロプシュ・ワックスが好ましい。
【0038】
スラックワックスは、典型的には溶剤またはプロパン脱ロウによる炭化水素原料に由来する。スラックワックスは残留油を含有し得るが、この残留油は脱油により除去することができる。フーツ油は脱油されたスラックワックスに相当するものである。
【0039】
また、フィッシャー−トロプシュ・ワックスは、いわゆるフィッシャー−トロプシュ合成法により製造される。
【0040】
さらに、ノルマルパラフィンを含有する原料油として市販品を用いてもよい。具体的には、パラフィリント(Paraflint)80(水素化フィッシャー−トロプシュ・ワックス)およびシェルMDSワックス質ラフィネート(Shell MDS Waxy Raffinate)(水素化および部分異性化中間留出物合成ワックス質ラフィネート)などが挙げられる。
【0041】
また、溶剤抽出に由来する原料油は、常圧蒸留からの高沸点石油留分を減圧蒸留装置に送り、この装置からの蒸留留分を溶剤抽出することによって得られるものである。減圧蒸留からの残渣は、脱瀝されてもよい。溶剤抽出法においては、よりパラフィニックな成分をラフィネート相に残したまま抽出相に芳香族成分を溶解する。ナフテンは、抽出相とラフィネート相とに分配される。溶剤抽出用の溶剤としては、フェノール、フルフラールおよびN−メチルピロリドンなどが好ましく使用される。溶剤/油比、抽出温度、抽出されるべき留出物と溶剤との接触方法などを制御することによって、抽出相とラフィネート相との分離の程度を制御することができる。さらに原料として、より高い水素化分解能を有する燃料油水素化分解装置を使用し、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いてもよい。
【0042】
上記の原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下且つ粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程を経ることによって、本発明にかかる潤滑油基油を得ることができる。水素化分解/水素化異性化工程は、得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数が上記条件を満たせば特に制限されない。本発明における好ましい水素化分解/水素化異性化工程は、
ノルマルパラフィンを含有する原料油について、水素化処理触媒を用いて水素化処理する第1工程と、
第1工程により得られる被処理物について、水素化脱ロウ触媒を用いて水素化脱ロウする第2工程と、
第2工程により得られる被処理物について、水素化精製触媒を用いて水素化精製する第3工程と
を備える。
【0043】
なお、従来の水素化分解/水素化異性化においても、水素化脱ロウ触媒の被毒防止のための脱硫・脱窒素を目的として、水素化脱ロウ工程の前段に水素化処理工程が設けられることはある。これに対して、本発明における第1工程(水素化処理工程)は、第2工程(水素化脱ロウ工程)の前段で原料油中のノルマルパラフィンの一部(例えば10質量%程度、好ましくは1〜10質量%)を分解するために設けられたものであり、当該第1工程においても脱硫・脱窒素は可能であるが、従来の水素化処理とは目的を異にする。かかる第1工程を設けることは、第3工程後に得られる被処理物(潤滑油基油)の尿素アダクト値を確実に4質量%以下とする上で好ましい。
【0044】
上記第1工程で用いられる水素化触媒としては、6族金属、8−10族金属、およびそれらの混合物を含有する触媒などが挙げられる。好ましい金属としては、ニッケル、タングステン、モリブデン、コバルトおよびそれらの混合物が挙げられる。水素化触媒は、これらの金属を耐熱性金属酸化物担体上に担持した態様で用いることができ、通常、金属は担体上で酸化物または硫化物として存在する。また、金属の混合物を用いる場合は、金属の量が触媒全量を基準として30質量%以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。金属酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアなどの酸化物が挙げられ、中でもアルミナが好ましい。好ましいアルミナは、γ型またはβ型の多孔質アルミナである。金属の担持量は、触媒全量を基準として、0.5〜35質量%の範囲であることが好ましい。また、9−10族金属と6族金属との混合物を用いる場合には、9族または10族金属のいずれかが、触媒全量を基準として、0.1〜5質量%の量で存在し、6族金属は5〜30質量%の量で存在することが好ましい。金属の担持量は、原子吸収分光法、誘導結合プラズマ発光分光分析法または個々の金属について、ASTMで指定された他の方法によって測定されてもよい。
【0045】
金属酸化物担体の酸性は、添加物の添加、金属酸化物担体の性質の制御(例えば、シリカ−アルミナ担体中へ組み入れられるシリカの量の制御)などによって制御することができる。添加物の例には、ハロゲン、特にフッ素、リン、ホウ素、イットリア、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類酸化物、およびマグネシアが挙げられる。ハロゲンのような助触媒は、一般に金属酸化物担体の酸性を高めるが、イットリアまたはマグネシアのような弱塩基性添加物はかかる担体の酸性を弱くする傾向がある。
【0046】
水素化処理条件に関し、処理温度は、好ましくは150〜450℃、より好ましくは200〜400℃であり、水素分圧は、好ましくは1400〜20000kPa、より好ましくは2800〜14000kPaであり、液空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜10hr−1、より好ましく0.1〜5hr−1であり、水素/油比は、好ましくは50〜1780m/m、より好ましくは89〜890m/mである。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第1工程における水素化処理条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0047】
第1工程において水素化処理された後の被処理物は、そのまま第2工程に供してもよいが、当該被処理物についてストリッピングまたは蒸留を行い、被処理物(液状生成物)からガス生成物を分離除去する工程を、第1工程と第2工程との間に設けることが好ましい。これにより、被処理物に含まれる窒素分及び硫黄分を、第2工程における水素化脱ロウ触媒の長期使用に影響を及ぼさないでレベルにまで減らすことができる。ストリッピング等による分離除去の対象は主として硫化水素およびアンモニアのようなガス異物であり、ストリッピングはフラッシュドラム、分留器などの通常の手段によって行うことができる。
【0048】
また、第1工程における水素化処理の条件がマイルドである場合には、使用する原料によって残存する多環芳香族分が通過する可能性があるが、これらの異物は、第3工程における水素化精製により除去されてもよい。
【0049】
また、第2工程で用いられる水素化脱ロウ触媒は、結晶質又は非晶質のいずれの材料を含んでもよい。結晶質材料としては、例えば、アルミノシリケート(ゼオライト)またはシリコアルミノホスフェート(SAPO)を主成分とする、10または12員環通路を有するモレキュラーシーブが挙げられる。ゼオライトの具体例としては、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、フェリエライト、ITQ−13、MCM−68、MCM−71などが挙げられる。また、アルミノホスフェートの例としては、ECR−42が挙げられる。モレキュラーシーブの例としては、ゼオライトベータ、およびMCM−68が挙げられる。これらの中でも、ZSM−48、ZSM−22およびZSM−23から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、ZSM−48が特に好ましい。モレキュラーシーブは好ましくは水素形にある。水素化脱ロウ触媒の還元は、水素化脱ロウの際にその場で起こり得るが、予め還元処理が施された水素化脱ロウ触媒を水素化脱ロウに供してもよい。
【0050】
また、水素化脱ロウ触媒の非晶質材料としては、3族金属でドープされたアルミナ、フッ化物化アルミナ、シリカ−アルミナ、フッ化物化シリカ−アルミナ、シリカ−アルミナなどが挙げられる。
【0051】
脱ロウ触媒の好ましい態様としては、二官能性、すなわち、少なくとも1つの6族金属、少なくとも1つの8−10族金属、またはそれらの混合物である金属水素添加成分が装着されたものが挙げられる。好ましい金属は、Pt、Pdまたはそれらの混合物などの9−10族貴金属である。これらの金属の装着量は、触媒全量を基準として好ましくは0.1〜30質量%である。触媒調製および金属装着方法としては、例えば分解性金属塩を用いるイオン交換法および含浸法が挙げられる。
【0052】
なお、モレキュラーシーブを用いる場合、水素化脱ロウ条件下での耐熱性を有するバインダー材料と複合化してもよく、またはバインダーなし(自己結合)であってもよい。バインダー材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカとチタニア、マグネシア、トリア、ジルコニアなどのような他の金属酸化物との二成分の組合せ、シリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−マグネシアなどのような酸化物の三成分の組合せなどの無機酸化物が挙げられる。水素化脱ロウ触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒全量を基準として、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは35〜100質量%である。水素化脱ロウ触媒は、噴霧乾燥、押出などの方法によって形成される。水素化脱ロウ触媒は、硫化物化または非硫化物化した態様で使用することができ、硫化物化した態様が好ましい。
【0053】
水素化脱ロウ条件に関し、温度は好ましくは250〜400℃、より好ましくは275〜350℃であり、水素分圧は好ましくは791〜20786kPa(100〜3000psig)、より好ましくは1480〜17339kPa(200〜2500psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1〜10hr−1、より好ましくは0.1〜5hr−1であり、水素/油比は好ましくは45〜1780m/m(250〜10000scf/B)、より好ましくは89〜890m/m(500〜5000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第2工程における水素化脱ロウ条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0054】
第2工程で水素化脱ロウされた被処理物は、第3工程における水素化精製に供される。水素化精製は、残留ヘテロ原子および色相体の除去に加えて、オレフィンおよび残留芳香族化合物を水素化により飽和することを目的とするマイルドな水素化処理の一形態である。第3工程における水素化精製は、脱ロウ工程とカスケード式で実施することができる。
【0055】
第3工程で用いられる水素化精製触媒は、6族金属、8−10族金属又はそれらの混合物を金属酸化物担体に担持させたものであることが好ましい。好ましい金属としては、貴金属、特に白金、パラジウムおよびそれらの混合物が挙げられる。金属の混合物を用いる場合、金属の量が触媒を基準にして30質量%もしくはそれ以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。触媒の金属含有率は、非貴金属については20質量%以下、貴金属については1質量%以下が好ましい。また、金属酸化物担体としては、非晶質または結晶質酸化物のいずれであってもよい。具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアのような低酸性酸化物が挙げられ、アルミナが好ましい。芳香族化合物の飽和の観点からは、多孔質担体上に比較的強い水素添加機能を有する金属が担持された水素化精製触媒を用いることが好ましい。
【0056】
好ましい水素化精製触媒として、M41Sクラスまたは系統の触媒に属するメソ細孔性材料を挙げることができる。M41S系統の触媒は、高いシリカ含有率を有するメソ細孔性材料であり、具体的には、MCM−41、MCM−48およびMCM−50が挙げられる。かかる水素化精製触媒は15〜100Åの細孔径を有するものであり、MCM−41が特に好ましい。MCM−41は、一様なサイズの細孔の六方晶系配列を有する無機の多孔質非層化相である。MCM−41の物理構造は、ストローの開口部(細孔のセル径)が15〜100オングストロームの範囲であるストローの束のようなものである。MCM−48は、立方体対称を有し、MCM−50は、層状構造を有する。MCM−41は、メソ細孔性範囲の異なるサイズの細孔開口部で製造することができる。メソ細孔性材料は、8族、9族または10族金属の少なくとも1つである金属水素添加成分を有してもよく、金属水素添加成分としては、貴金属、特に10族貴金属が好ましく、Pt、Pdまたはそれらの混合物が最も好ましい。
【0057】
水素化精製の条件に関し、温度は好ましくは150〜350℃、より好ましくは180〜250℃であり、全圧は好ましくは2859〜20786kPa(約400〜3000psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1〜5hr−1、より好ましくは0.5〜3hr−1であり、水素/油比は好ましくは44.5〜1780m/m(250〜10,000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第3工程における水素化生成条件は、原料や処理装置の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0058】
また、第3工程後に得られる被処理物については、必要に応じて、蒸留等により所定の成分を分離除去してもよい。
【0059】
上記の製造方法により得られる本発明にかかる潤滑油基油においては、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たせば、その他の性状は特に制限されないが、本発明にかかる潤滑油基油は以下の条件を更に満たすものであることが好ましい。
【0060】
本発明にかかる潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜40質量%、更に好ましくは1〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0061】
なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が50質量%を超えると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0062】
本発明において、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1〜50質量%であることは、飽和分に占める非環状飽和分が99.9〜50質量%であることと等価である。ここで、非環状飽和分にはノルマルパラフィン及びイソパラフィンの双方が包含される。本発明にかかる潤滑油基油に占めるノルマルパラフィン及びイソパラフィンの割合は、尿素アダクト値が上記条件を満たせば特に制限されないが、イソパラフィンの割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは50〜99.9質量%、より好ましくは60〜99.9質量%、更に好ましくは70〜99質量%、特に好ましくは80〜99.9質量%である。潤滑油基油に占めるイソパラフィンの割合が前記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。
【0063】
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0064】
また、本発明でいう飽和分に占める環状飽和分及び非環状飽和分の割合とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されるナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)及びアルカン分(単位:質量%)を意味する。
【0065】
また、本発明でいう潤滑油基油中のノルマルパラフィンの割合とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により分離・分取された飽和分について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、当該飽和分に占めるノルマルパラフィンの割合を同定・定量したときの測定値を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。なお、同定・定量の際には、標準試料として炭素数5〜50のノルマルパラフィンの混合試料が用いられ、飽和分に占めるノルマルパラフィンは、クロマトグラムの全ピーク面積値(希釈剤に由来するピークの面積値を除く)に対する各ノルマルパラフィンに相当に相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ25mm、内径0.3mmφ、液相膜厚さ0.1μm)
昇温条件:50℃〜400℃(昇温速度:10℃/min)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/min)
スプリット比:90/1
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
【0066】
また、潤滑油基油中のイソパラフィンの割合とは、前記飽和分に占める非環状飽和分と前記飽和分に占めるノルマルパラフィンとの差を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。
【0067】
飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0068】
なお、本発明にかかる潤滑油基油において、原料として、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いた場合には、飽和分の含有量が90質量%以上、該飽和分に占める環状飽和分の割合が、30〜50質量%、該飽和分に占める非環状飽和分の割合が50〜70質量%、潤滑油基油中のイソパラフィンの割合が40〜70質量%、粘度指数が100〜135、好ましくは120〜130の基油が得られるが、尿素アダクト値が上記条件を満たすことで、本発明の効果、低温粘度特性の向上とすす混入時の摩耗防止性や低摩擦性を両立することができ、特に低温粘度特性の大幅な向上が実現できるという効果を得ることができる。また、本発明にかかる潤滑油基油において、原料としてワックス含有量が高い原料(例えばノルマルパラフィン含有量が50質量%以上)であるスラックワックス、フィッシャー−トロプシュワックスを用いた場合には、飽和分の含有量が90質量%以上、該飽和分に占める環状飽和分の割合が、0.1〜40質量%、該飽和分に占める非環状飽和分の割合が60〜99.9質量%、潤滑油基油中のイソパラフィンの割合が60〜99.9質量%、粘度指数が100〜170、好ましくは135〜160の基油が得られるが、尿素アダクト値が上記条件を満たすことで、本願発明の効果、低温粘度特性の向上とすす混入時の摩耗防止性や低摩擦性を両立することができ、特に高粘度指数と低温粘度特性に極めて優れた特性を有する潤滑油組成物を得ることができる。
【0069】
また、20℃における屈折率をn20、100℃における動粘度をkv100で表すとき、本発明にかかる潤滑油基油についてのn20−0.002×kv100は、好ましくは1.435〜1.450、より好ましくは1.440〜1.449、更に好ましくは1.442〜1.448、一層好ましくは1.444〜1.447である。n20−0.002×kv100を前記範囲内とすることにより、優れた粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、n20−0.002×kv100を前記範囲内とすることにより、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0070】
なお、n20−0.002×kv100が前記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となり、更には、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、n20−0.002×kv100が前記下限値未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。
【0071】
なお、本発明でいう20℃における屈折率(n20)とは、ASTM D1218−92に準拠して20℃において測定される屈折率を意味する。また、本発明でいう100℃における動粘度(kv100)とは、JIS K 2283−1993に準拠して100℃において測定される動粘度を意味する。
【0072】
また、本発明にかかる潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05〜3質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明にかかる潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0073】
なお、ここでいう芳香族分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0074】
また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、好ましくは80以上、より好ましくは82〜99、更に好ましくは85〜98、特に好ましくは90〜97である。潤滑油基油の%Cが80未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cが99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0075】
また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは1〜12、特に好ましくは3〜10である。潤滑油基油の%Cが20を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0076】
また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1〜0.5である。潤滑油基油の%Cが0.7を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは0であってもよいが、%Cを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0077】
更に、本発明にかかる潤滑油基油における%Cと%Cとの比率は、%C/%Cが7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%C/%Cが7未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%C/%Cは、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%C/%Cを200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0078】
なお、本発明でいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%C及び%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cが0を超える値を示すことがある。
【0079】
また、本発明の潤滑油基油のヨウ素価は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.15以下であり、また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点及び経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.05以上である。潤滑油基油のヨウ素価を0.5以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいうヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0080】
また、本発明にかかる潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明にかかる潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0081】
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られる潤滑油基油中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541−1996に準拠して測定される硫黄分を意味する。
【0082】
また、本発明にかかる潤滑油基油における窒素分の含有量は、特に制限されないが、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。窒素分の含有量が5質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0083】
また、本発明にかかる潤滑油基油の動粘度は、その100℃における動粘度は、好ましくは1.5〜20mm/s、より好ましくは2.0〜11mm/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が1.5mm/s未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が20mm/sを超える潤滑油基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、原料として重質ワックスを用いる場合であっても分解率を高めることが困難となるため好ましくない。
【0084】
本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(I)100℃における動粘度が1.5mm/s以上3.5mm/s未満、より好ましくは2.0〜3.0mm/sの潤滑油基油
(II)100℃における動粘度が3.0mm/s以上4.5mm/s未満、より好ましくは3.5〜4.1mm/sの潤滑油基油
(III)100℃における動粘度が4.5〜20mm/s、より好ましくは4.8〜11mm/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm/sの潤滑油基油。
【0085】
また、本発明にかかる潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0〜80mm/s、より好ましくは8.0〜50mm/sである。本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(IV)40℃における動粘度が6.0mm/s以上12mm/s未満、より好ましくは8.0〜12mm/sの潤滑油基油
(V)40℃における動粘度が12mm/s以上28mm/s未満、より好ましくは13〜19mm/sの潤滑油基油
(VI)40℃における動粘度が28〜50mm/s、より好ましくは29〜45mm/s、特に好ましくは30〜40mm/sの潤滑油基油。
【0086】
上記潤滑油基油(I)及び(IV)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度−温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、粘性抵抗や撹拌抵抗を著しく低減することができる。また、流動点降下剤を配合することにより、−40℃におけるBF粘度を2000mPa・s以下とすることができる。なお、−40℃におけるBF粘度とは、JPI−5S−26−99に準拠して測定された粘度を意味する。
【0087】
また、上記潤滑油基油(II)及び(V)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度−温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、更には揮発防止性及び潤滑性に優れる。例えば、潤滑油基油(II)及び(V)においては、−35℃におけるCCS粘度を3000mPa・s以下とすることができる。
【0088】
また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度−温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、更には揮発防止性、熱・酸化安定性及び潤滑性に優れる。
【0089】
また、本発明にかかる潤滑油基油の20℃における屈折率は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の20℃における屈折率は、好ましくは1.455以下、より好ましくは1.453以下、更に好ましくは1.451以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の20℃における屈折率は、好ましくは1.460以下、より好ましくは1.457以下、更に好ましくは1.455以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の20℃における屈折率は、好ましくは1.465以下、より好ましくは1.463以下、更に好ましくは1.460以下である。屈折率が前記上限値を超えると、その潤滑油基油の粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0090】
また、本発明にかかる潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0091】
また、本発明にかかる潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは1000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは3000mPa・s以下、より好ましくは2400mPa・s以下、更に好ましくは2000mPa・s以下、更に好ましくは1800mPa・s以下、更に好ましくは1600mPa・s以下、特に好ましくは1500mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは15000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下である。−35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう−35℃におけるCCS粘度とは、JIS K 2010−1993に準拠して測定された粘度を意味する。
【0092】
また、本発明にかかる潤滑油基油の−40℃におけるBF粘度は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の−40℃におけるBF粘度は、好ましくは10000mPa・s以下、より好ましくは8000mPa・sであり、更に好ましくは6000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の−40℃におけるBF粘度は、好ましくは1500000mPa・s以下、より好ましくは1000000mPa・s以下である。−40℃におけるBF粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。
【0093】
また、本発明にかかる潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (1)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0094】
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0095】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のρ15は、好ましくは0.825以下、より好ましくは0.820以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のρ15は、好ましくは0.835以下、より好ましくは0.830以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のρ15は、好ましくは0.840以下、より好ましくは0.835以下である。
【0096】
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0097】
また、本発明にかかる潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(2)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 (2)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0098】
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0099】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のAPは、好ましくは108℃以上、より好ましくは110℃以上である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のAPは、好ましくは113℃以上、より好ましくは119℃以上である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のAPは、好ましくは125℃以上、より好ましくは128℃以上である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0100】
また、本発明にかかる潤滑油基油のNOACK蒸発量は、特に制限されないが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のNOACK蒸発量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のNOACK蒸発量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のNOACK蒸発量は、好ましくは0質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。NOACK蒸発量が前記下限値の場合、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。また、NOACK蒸発量がそれぞれ前記上限値を超えると、潤滑油基油を内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、潤滑油の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0101】
また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の40℃における動粘度(単位:mm2/s)とNOACK蒸発量(単位:質量%)との積は、特に制限はないが、好ましくは250以下、より好ましくは240以下、更に好ましくは230以下、一層好ましくは220以下、特に好ましくは210以下、特に好ましくは200以下である。すなわち、40℃における動粘度(単位:mm2/s)とNOACK蒸発量(単位:質量%)との積が小さいほど、低粘度でありながら、低蒸発性を示すという、従来にない優れた潤滑油基油であることを意味する。
【0102】
また、本発明にかかる潤滑油基油の蒸留性状は、ガスクロマトグラフィー蒸留で、初留点(IBP)が290〜440℃、終点(FBP)が430〜580℃であることが好ましく、かかる蒸留範囲にある留分から選ばれる1種又は2種以上の留分を精留することにより、上述した好ましい粘度範囲を有する潤滑油基油(I)〜(III)及び(IV)〜(VI)を得ることができる。
【0103】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは260〜340℃、より好ましくは270〜330℃、更に好ましくは280〜320℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは310〜390℃、より好ましくは320〜380℃、更に好ましくは330〜370℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは340〜440℃、より好ましくは360〜430℃、更に好ましくは370〜420℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは405〜465℃、より好ましくは415〜455℃、更に好ましくは425〜445℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは430〜490℃、より好ましくは440〜480℃、更に好ましくは450〜490℃である。また、T90−T10は、好ましくは60〜140℃、より好ましくは70〜130℃、更に好ましくは80〜120℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは140〜200℃、より好ましくは150〜190℃、更に好ましくは160〜180℃である。また、T10−IBPは、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜90℃、更に好ましくは60〜80℃である。また、FBP−T90は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜55℃、更に好ましくは15〜50℃である。
【0104】
また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは310〜400℃、より好ましくは320〜390℃、更に好ましくは330〜380℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは350〜430℃、より好ましくは360〜420℃、更に好ましくは370〜410℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは390〜470℃、より好ましくは400〜460℃、更に好ましくは410〜450℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは420〜490℃、より好ましくは430〜480℃、更に好ましくは440〜470℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは450〜530℃、より好ましくは460〜520℃、更に好ましくは470〜510℃である。また、T90−T10は、好ましくは40〜100℃、より好ましくは45〜90℃、更に好ましくは50〜80℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは110〜170℃、より好ましくは120〜160℃、更に好ましくは130〜150℃である。また、T10−IBPは、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜55℃、更に好ましくは15〜50℃である。また、FBP−T90は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜55℃、更に好ましくは15〜50℃である。
【0105】
また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは440〜480℃、より好ましくは430〜470℃、更に好ましくは420〜460℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは450〜510℃、より好ましくは460〜500℃、更に好ましくは460〜480℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは470〜540℃、より好ましくは480〜530℃、更に好ましくは490〜520℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは470〜560℃、より好ましくは480〜550℃、更に好ましくは490〜540℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは505〜565℃、より好ましくは515〜555℃、更に好ましくは525〜565℃である。また、T90−T10は、好ましくは35〜80℃、より好ましくは45〜70℃、更に好ましくは55〜80℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは50〜130℃、より好ましくは60〜120℃、更に好ましくは70〜110℃である。また、T10−IBPは、好ましくは5〜65℃、より好ましくは10〜55℃、更に好ましくは10〜45℃である。また、FBP−T90は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは5〜50℃、更に好ましくは5〜40℃である。
【0106】
潤滑油基油(I)〜(VI)のそれぞれにおいて、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP、FBP−T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP及びFBP−T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。
【0107】
なお、本発明でいう、IBP、T10、T50、T90及びFBPとは、それぞれASTM D 2887−97に準拠して測定される留出点を意味する。
【0108】
また、本発明にかかる潤滑油基油における残存金属分は、製造プロセス上余儀なく混入する触媒や原料に含まれる金属分に由来するものであるが、かかる残存金属分は十分除去されることが好ましい。例えば、Al、Mo、Niの含有量は、それぞれ1質量ppm以下であることが好ましい。これらの金属分の含有量が上記上限値を超えると、潤滑油基油に配合される添加剤の機能が阻害される傾向にある。
【0109】
なお、本発明でいう残存金属分とは、JPI−5S−38−2003に準拠して測定される金属分を意味する。
【0110】
また、本発明にかかる潤滑油基油は、その動粘度に応じて以下に示すRBOT寿命を示すことが好ましい。例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のRBOT寿命は、好ましくは290min以上、より好ましくは300min以上、更に好ましくは310min以上である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のRBOT寿命は、好ましくは350min以上、より好ましくは360min以上、更に好ましくは370min以上である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のRBOT寿命は、好ましくは400min以上、より好ましくは410min以上、更に好ましくは420min以上である。RBOT寿命がそれぞれ前記下限値未満の場合、潤滑油基油の粘度−温度特性及び熱・酸化安定性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合には当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0111】
なお、本発明でいうRBOT寿命とは、潤滑油基油にフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール;DBPC)を0.2質量%添加した組成物について、JIS K 2514−1996に準拠して測定されたRBOT値を意味する。
【0112】
上記構成を有する本発明にかかる潤滑油基油は、粘度−温度特性及び低温粘度特性に優れると共に、粘性抵抗や撹拌抵抗が低く、更には熱・酸化安定性及び摩擦特性が改善されたものであり、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができるものである。また、本発明にかかる潤滑油基油に添加剤が配合された場合には当該添加剤の機能(流動点降下剤による低温粘度特性向上効果、酸化防止剤による熱・酸化安定性向上効果、摩擦調整剤による摩擦低減効果、摩耗防止剤による耐摩耗性向上効果など)をより高水準で発現させることができる。そのため、本発明にかかる潤滑油基油は、様々な潤滑油の基油として好適に用いることができる。本発明にかかる潤滑油基油の用途としては、具体的には、乗用車用ガソリンエンジン、二輪車用ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスヒートポンプ用エンジン、船舶用エンジン、発電エンジンなどの内燃機関に用いられる潤滑油(内燃機関用潤滑油)、自動変速機、手動変速機、無断変速機、終減速機などの駆動伝達装置に用いられる潤滑油(駆動伝達装置用油)、緩衝器、建設機械等の油圧装置に用いられる油圧作動油、圧縮機油、タービン油、工業用ギヤ油、冷凍機油、さび止め油、熱媒体油、ガスホルダーシール油、軸受油、抄紙機用油、工作機械油、すべり案内面油、電気絶縁油、切削油、プレス油、圧延油、熱処理油などが挙げられ、これらの用途に本発明にかかる潤滑油基油を用いることによって、各潤滑油の粘度−温度特性、熱・酸化安定性、省エネルギー性、省燃費性などの特性の向上、並びに各潤滑油の長寿命化及び環境負荷物質の低減を高水準で達成することができるようになる。
【0113】
本発明の潤滑油組成物においては、本発明にかかる潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明にかかる潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本発明にかかる潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明にかかる潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0114】
本発明にかかる潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が1〜100mm/sの溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
【0115】
また、合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0116】
ポリα−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0117】
これら、本発明にかかる潤滑油基油以外の他の基油の中でも、粘度指数が80以上、%Cが60以上、%Cが10以下である基油(以下、「第2の潤滑油基油」という。)を用いることが好ましい。
【0118】
第2の潤滑油基油の粘度指数は、好ましくは100以上、より好ましくは120以上であり、好ましくは170以下、より好ましくは135以下、その%Cは好ましくは70以上、より好ましくは75以上、好ましくは100以下、より好ましくは85以下であり、その%Cは好ましくは3以下、より好ましくは2以下、さらに好ましくは1以下であり、その−35℃におけるCCS粘度は、3000mPa・sを超えるものであり、好ましくは3500mPa・s以上であり、好ましくは100000mPa・s以下であり、より好ましくは50000mPa・s以下であり、さらに好ましくは15000mPa・s以下である。
【0119】
第2の潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは5mm/s以上、より好ましくは6mm/s以上であり、好ましくは35mm/s以下であり、より好ましくは20mm/s以下であり、さらに好ましくは12mm/s以下であり、特に好ましくは8mm/s以下である。第2の潤滑油基油として100℃動粘度が5mm/s以上のものを使用することで、すす混入下における摩耗防止性に優れるとともに、蒸発ロスを低減して長期間の使用においても粘度増加を抑制して低摩擦性能を維持しやすく、35mm/s以下のものを使用することで、低温始動性や冷態時における省燃費性を改善することができる。
【0120】
また、第2の潤滑油基油のNOACK蒸発量は、特に制限はないが、好ましくは0〜25質量%、より好ましくは2〜15質量%、特に好ましくは5〜10質量%である。第2の潤滑油基油としてNOACK蒸発量が上記範囲内のものを選択することで、蒸発ロスを低減して長期間の使用においても粘度増加を抑制して低摩擦性能を維持しやすく、2質量%以上のものを選択すると、低温粘度特性に優れた潤滑油組成物を得やすいため特に好ましい。
【0121】
また、第2の潤滑油基油の硫黄分は、特に制限はないが、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。第2の潤滑油基油として硫黄分が上記上限値以下のものを選択することで、熱・酸化安定性と高温清浄性及び低摩擦性をより高めた組成物を得ることができる。
【0122】
また、第2の潤滑油基油のヨウ素価は、特に制限はないが、高温清浄性に優れ、すす混入下における摩耗や摩擦を低減することができる点で、好ましくは8以下、より好ましくは6以下であり、製造工程における経済性の点で好ましくは0.01以上、より好ましくは1以上、さらに好ましくは3以上である。
【0123】
本発明にかかる潤滑油基油と上記第2の潤滑油基油とを併用する場合、第2の潤滑油基油の含有量は、特に制限はないが、潤滑油基油全量基準で、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0124】
本発明にかかる潤滑油基油とその他の潤滑油基油(上記第2の潤滑油基油を含む)との混合基油を用いる場合、当該混合基油の100℃における動粘度は、好ましくは3〜8mm/s、より好ましくは3.5〜6mm/s、さらに4〜5.5mm/sに調整してなることが好ましく、その粘度指数を好ましくは110以上、より好ましくは115以上、さらに好ましくは120以上、特に好ましくは125以上である。また、当該混合基油の硫黄分は、特に制限はなく、0.3質量%以下が好ましいが、塩基価維持性等の長寿命化性能をより高めることができる点で、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下である。また、当該混合基油のNOACK蒸発量は、特に制限はないが、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは10〜20質量%、特に好ましくは12〜15質量%である。さらに、当該混合基油の低温粘度特性に特に制限はないが、−30℃におけるCCS粘度が好ましくは20000mPa・s以下、より好ましくは7000mPa・s以下、さらに好ましくは3500mPa・s以下とすることが望ましい。ここで、CCS粘度とはJIS K 2010に準拠して測定された特定温度における粘度を意味する。
【0125】
本発明の潤滑油組成物においては、上記本発明にかかる潤滑油基油及び必要に応じて用いられるその他の潤滑油基油に、(A)無灰摩擦調整剤及び(B)リン含有摩耗防止剤がそれぞれ特定量配合される。
【0126】
(A)無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の無灰摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30の炭化水素基、好ましくはアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、イミド化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤、あるいは炭素数1〜30の炭化水素基と、窒素原子を2原子又はそれ以上有する各種無灰摩擦調整剤等が挙げられる。本発明においては、これらの無灰系摩擦調整剤の中でも、エステル結合もしくはアミド結合を有する無灰系摩擦調整剤であることが好ましく、窒素、酸素、硫黄から選ばれる1種又は2種以上の元素を少なくとも3原子以上有する無灰系摩擦調整剤が好ましく、2個以上の窒素原子と、酸素原子及び/又は硫黄原子とを有する化合物から選ばれる無灰摩擦調整剤、中でもアミド結合を有するものが特に好ましい。
【0127】
アミン化合物としては、炭素数6〜30の直鎖状もしくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族モノアミン、直鎖状もしくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族ポリアミン、又はこれら脂肪族アミンのアルキレンオキシド付加物等が例示できる。脂肪酸エステルとしては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸と、脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステル等が例示できる。脂肪酸アミドとしては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸と、脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとのアミド等が例示できる。
【0128】
窒素、酸素、硫黄から選ばれる1種又は2種以上の元素を少なくとも3原子以上有する無灰系摩擦調整剤として好適な例としては、グリセリンやソルビタン等の3価以上の多価アルコールとオレイン酸等の脂肪酸とのエステルや後述する、2原子以上の窒素原子と、酸素原子及び/又は硫黄原子とを有する化合物等が挙げられる。
【0129】
また2原子以上の窒素原子と、酸素原子及び/又は硫黄原子とを有する化合物から選ばれる各種無灰摩擦調整剤としては、窒素原子が2〜10原子、好ましくは2〜4原子、特に好ましくは2原子有し、酸素原子及び/又は硫黄原子、好ましくは酸素原子を1〜4原子、好ましくは1〜2原子有する化合物が挙げられ、中でもアミド結合を有するものが好ましい。これらの例としては、より具体的には、国際公開第2005/037967号パンフレットに例示されている、ヒドラジド(オレイン酸ヒドラジド等)、セミカルバジド(オレイルセミカルバジド等)、ウレア(オレイルウレア等)、ウレイド(オレイルウレイド等)、アロファン酸アミド(オレイルアロファン酸アミド等)及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中では、下記一般式(1)及び(2)で表される窒素含有化合物並びにその酸変性誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物が特に好ましい。
【化1】

【0130】
一般式(1)において、Rは炭素数1〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基、好ましくは炭素数10〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数10〜30の炭化水素基、より好ましくは炭素数12〜24のアルキル基、アルケニル基又は機能性を有する炭化水素基、特に好ましくは炭素数12〜20のアルケニル基であり、R及びRは、それぞれ個別に、炭素数1〜30の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基又は水素、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜10の炭化水素基又は水素、さらに好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素、より好ましくは水素であり、Xは酸素又は硫黄、好ましくは酸素を示す。一般式(1)で表される窒素含有化合物の最も好ましい例としては、具体的には、Xが酸素である化合物及びその酸変性誘導体、より具体的には、Xが酸素、Rが炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基、R及びRが水素である、ドデシルウレア、トリデシルウレア、テトラデシルウレア、ペンタデシルウレア、ヘキサデシルウレア、ヘプタデシルウレア、オクタデシルウレア、オレイルウレア等の炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するウレア化合物及びその酸変性誘導体が挙げられる。これらの中でもオレイルウレア(C1835−NH−C(=O)−NH)及びその酸変性誘導体(ホウ酸変性誘導体等)が特に好ましい例として挙げられる。
【化2】

【0131】
一般式(2)において、Rは炭素数1〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基であり、好ましくは炭素数10〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数10〜30の炭化水素基、より好ましくは炭素数12〜24のアルキル基、アルケニル基又は機能性を有する炭化水素基、特に好ましくは炭素数12〜20のアルケニル基であり、R〜Rは、それぞれ個別に、炭素数1〜30の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基又は水素、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜10の炭化水素基又は水素、より好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素、さらに好ましくは水素を示す。
【0132】
一般式(2)で表される窒素含有化合物としては、具体的には、炭素数1〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するヒドラジド及びその誘導体である。Rが炭素数1〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基、R〜Rが水素の場合、炭素数1〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するヒドラジド、R及びR〜Rのいずれかが炭素数1〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基であり、R〜Rの残りが水素である場合、炭素数1〜30の炭化水素基又は機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するN−ヒドロカルビルヒドラジド(ヒドロカルビルは炭化水素基等を示す)である。一般式(2)で表される窒素含有化合物の最も好ましい例としては、Rが炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基、R、R及びRが水素である、ドデカン酸ヒドラジド、トリデカン酸ヒドラジド、テトラデカン酸ヒドラジド、ペンタデカン酸ヒドラジド、ヘキサデカン酸ヒドラジド、ヘプタデカン酸ヒドラジド、オクタデカン酸ヒドラジド、オレイン酸ヒドラジド、エルカ酸ヒドラジド等の炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するヒドラジド化合物及びその酸変性誘導体(ホウ酸変性誘導体等)が挙げられる。これらの中では、オレイン酸ヒドラジド(C1733−C(=O)−NH−NH)及びその酸変性誘導体、エルカ酸ヒドラジド(C2141−C(=O)−NH−NH)及びその酸変性誘導体が特に好ましい例として挙げられる。
【0133】
これらの分子中に窒素原子を2つ又はそれ以上有する各種無灰摩擦調整剤に関する製造法やその好ましい態様については、上記国際公開第2005/037967号パンフレットに詳細に記載されており、必要に応じて有機金属化合物との錯体又は塩の形として本発明の潤滑油組成物に含有させてもよい。これら分子中に2原子以上の窒素原子と、酸素原子及び/又は硫黄原子とを有する各種無灰摩擦調整剤は、モリブデンジチオカーバメート等の従来使用されてきた摩擦低減剤と同等あるいはそれ以上の摩擦低減効果を発揮できる他、すす混入時においても摩擦低減効果が悪化しにくく、長期に渡りその効果を維持しやすいため特に好ましい。
【0134】
本発明の潤滑油組成物における(A)無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、0.01〜10質量%であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また10質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0135】
本発明の潤滑油組成物における(B)成分は、リン含有摩耗防止剤である。リン含有摩耗防止剤としては、リンを分子中に含有する摩耗防止剤であれば特に制限はないが、例えば、一般式(3)で表されるリン化合物、一般式(4)で表されるリン化合物、それらの金属塩、それらのアミン塩、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【化3】

【0136】
式(3)において、X、X及びXは、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、R、R及びR10は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示す。
【化4】

【0137】
式(4)において、X、X、X及びXは、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子(X、X及びXの1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R11、R12及びR13は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示す。
【0138】
上記R〜R13で表される炭素数1〜30の炭化水素含有基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基等の炭化水素基を有する炭化水素含有基を挙げることができ、炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数3〜18、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。これら炭化水素含有基は炭化水素基と、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のいずれかを分子中に含んでいてもよいが、炭素と水素からなる炭化水素基が望ましい。
【0139】
一般式(3)で表されるリン化合物としては、例えば、亜リン酸、モノチオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸、トリチオ亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル、トリチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル、トリチオ亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、ジチオ亜リン酸トリエステル、トリチオ亜リン酸トリエステル;及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0140】
一般式(4)で表されるリン化合物としては、例えば、リン酸、モノチオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、テトラチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、トリチオリン酸モノエステル、テトラチオリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、トリチオリン酸ジエステル、テトラチオリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、ジチオリン酸トリエステル、トリチオリン酸トリエステル、テトラチオリン酸トリエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1〜3つ有するホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、ホスホン酸ジエステル;炭素数1〜4の(ポリ)オキシアルキレン基を有する上記リン化合物;β−ジチオホスホリル化プロピオン酸やジチオリン酸とオレフィンシクロペンタジエン又は(メチル)メタクリル酸との反応物等の上記リン化合物の誘導体;及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0141】
一般式(3)又は(4)で表されるリン化合物の塩としては、リン化合物に金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩を挙げることができる。
【0142】
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましい
【0143】
上記窒素化合物としては、具体的には、アンモニア、モノアミン、ジアミン、ポリアミンが挙げられ、より具体的には、(E2)成分で後述するモリブデンのアミン錯体を構成するアミン化合物と同じものが例示できる。
【0144】
これら窒素化合物の中でもデシルアミン、ドデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン及びステアリルアミン等の炭素数10〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(これらは直鎖状でも分枝状でもよい。)が好ましい例として挙げることができる。
【0145】
本発明における(B)成分としては、上記のリン含有摩耗防止剤として、以下の(B1)〜(B3)から選ばれる少なくとも1種を主成分として本発明の潤滑油組成物に含有させることが特に望ましい。
(B1)炭素数3〜8から選ばれる2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛
(B2)炭素数3〜8から選ばれる1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛
(B3)硫黄を含有しないリン含有酸の金属塩
【0146】
上記(B1)及び(B2)成分としては、下記の一般式(5)で表されるものが例示できる。
【化5】

【0147】
式中R14、R15、R16及びR17は同一でも、異なっていてもよく、それぞれ個別に、炭素数3〜8の2級アルキル基又は1級アルキル基、好ましくは炭素数3〜6の2級アルキル基又は炭素数6〜8の1級アルキル基を示し、同一分子中に異なる炭素数のアルキル基、異なる構造のアルキル基(2級、1級)を有していてもよい。
【0148】
本発明においては、低濃度であってもすす混入下における摩耗を抑制しやすい点で(B1)炭素数3〜8から選ばれる2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有させることが好ましく、酸化安定性をより向上でき、塩基価維持性能を格段に高めることができる点で(B2)炭素数3〜8から選ばれる1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有させることが好ましく、すす混入下における摩耗の抑制性能と塩基価維持性能を高いレベルでバランスよく向上できる点で、(B1)及び(B2)成分を併用することが最も好ましい。
【0149】
なお、ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては任意の従来方法が採用可能であって、特に制限されないが、具体的には例えば、前記R14、R15、R16及びR17に対応するアルキル基を持つアルコールを五硫化二りんと反応させてジチオリン酸をつくり、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。
【0150】
また、上記(B3)成分は、硫黄を含有しないリン含有酸の金属塩であり、前記一般式(3)におけるX〜Xの全てが酸素原子(X、X及びXの1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)であるリン化合物の金属塩、前記一般式(4)におけるX〜Xの全てが酸素原子(X、X及びXの1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)であるリン化合物の金属塩が代表的な例として挙げられる。これら(B3)成分は、高温清浄性や酸化安定性、塩基価維持性などのロングドレイン性能を格段に高めることができる点で好ましく使用することができる。
【0151】
上記リン化合物の金属塩は、金属の価数やリン化合物のOH基の数に応じその構造が異なり、従ってその構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1モルとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2モルを反応させた場合、下記一般式(6)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【化6】

【0152】
また、例えば、酸化亜鉛1モルとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1モルとを反応させた場合、下記一般式(7)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【化7】

【0153】
これらの(B3)成分の中では、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛との塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛との塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛との塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2つ有するホスホン酸モノエステルと亜鉛との塩であることが好ましい。これらの成分は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。本発明においては、すす混入下における摩耗防止性により優れる点で、炭素数4〜12のアルキル基を1つ又は2つ有するアルキルリン酸エステル金属塩が好ましく、炭素数6〜8のアルキル基を1つ又は2つ有するモノ及び/又はジアルキルリン酸エステル金属塩がより好ましく、モノ及びジ2−エチルヘキシルリン酸亜鉛が特に好ましい。
【0154】
本発明の潤滑油組成物におけるリン含有摩耗防止剤、好ましくは上記(B1)、(B2)及び(B3)から選ばれる少なくとも1種の含有量の上限は、リン量として0.2質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、特に好ましくは0.06質量%以下であり、その下限値は、すす混入下における摩耗を抑制しやすい点で、リン量として0.01質量%以上であり、好ましくは0.02質量%以上、特に好ましくは0.04質量%以上である。
【0155】
リン含有摩耗防止剤の含有量がリン量として0.2質量%を超える場合には、高温清浄性や塩基価維持性が著しく悪化するために好ましくなく、0.09〜0.2質量%の場合、すす混入下においても摩耗が著しく発生しない点で好ましいが、低硫黄化や低リン化、あるいは高温清浄性や塩基価維持性をより高めることができる点で0.08質量%以下とすることが望ましい。
【0156】
本発明の潤滑油組成物は、上記本発明にかかる潤滑油基油、(A)無灰摩擦調整剤及び(B)リン含有摩耗防止剤を含有するものであるが、その性能をさらに高めるために、あるいは、潤滑油組成物の用途や要求される性能に応じて、(C)金属系清浄剤、(D)無灰分散剤、(E)有機モリブデン化合物から選ばれる1種又は2種以上を含有させることが好ましい。
【0157】
本発明の潤滑油組成物における(C)成分は、金属系清浄剤である。具体的には、スルホネート系清浄剤、フェネート系清浄剤、サリシレート系清浄剤、カルボキシレート系清浄剤を挙げることができ、いずれも使用可能である。本発明においては、すす混入下における摩耗防止性に特に優れる点で、スルホネート系清浄剤を使用することが特に好ましい。
【0158】
スルホネート系清浄剤としては、その構造に特に制限はないが、例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられ、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられ、アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化したりすることにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や硫酸が用いられる。
【0159】
なお、芳香族スルホン酸のアルキル化に際しては、直鎖状又は分枝状の(ポリ)オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等の炭素数2〜4のオレフィンのオリゴマーを用いることが好ましく、中でもエチレンオリゴマーを用いることが特に好ましい。エチレンオリゴマーから誘導される炭素数6〜40の直鎖α−オレフィンを用いてアルキル化されたアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩は、特に摩擦低減効果を高めることができる。ここでいう炭素数6〜40の直鎖α−オレフィンとしては、好ましくは炭素数10〜30、より好ましくは炭素数14〜20又は20〜30の直鎖α−オレフィンが挙げられ、得られるスルホネートの摩擦低減効果が特に優れる点で、炭素数20〜26の直鎖α−オレフィンであることが望ましい。
【0160】
また、スルホネート系清浄剤としては、上記のアルキル芳香族スルホン酸を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させたりすること等により得られる中性アルカリ土類金属スルホネートだけでなく、上記中性アルカリ土類金属スルホネートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネートや、炭酸ガス及び/又はホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で上記中性アルカリ土類金属スルホネートをアルカリ土類金属の塩基と反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性アルカリ土類金属スルホネート、ホウ酸塩過塩基性アルカリ土類金属スルホネートも含まれる。
【0161】
本発明でいうスルホネート系清浄剤としては、上記の中性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性アルカリ土類金属スルホネート及びこれらの混合物等を用いることができる。
【0162】
本発明におけるスルホネート系清浄剤としてはカルシウムスルホネート系清浄剤、マグネシウムスルホネート系清浄剤を使用することが好ましく、カルシウムスルホネート系清浄剤を使用することが特に好ましい。
【0163】
スルホネート系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0164】
本発明で用いるスルホネート系清浄剤の塩基価は任意であり、通常0〜500mgKOH/gであるが、含有量あたりの高温清浄性向上効果に優れる点から、塩基価が100〜450mgKOH/g、好ましくは200〜400mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。
【0165】
なおここでいう塩基価は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味している。
【0166】
サリシレート系清浄剤としては、その構造に特に制限はないが、炭素数1〜40のアルキル基を1〜2個有するサリチル酸の金属塩、好ましくはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0167】
本発明の潤滑油組成物に用いるサリシレート系清浄剤としては、低温粘度特性により優れる点で、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が高い方が好ましく、例えば、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜100mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が0〜15mol%であって、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が40〜100mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩であることが好ましい。また、本発明におけるサリシレート系清浄剤としては、高温清浄性や塩基価維持性により優れる点でジアルキルサリチル酸金属塩を含むものが好ましい。
【0168】
ここでいうモノアルキルサリチル酸金属塩は、3−アルキルサリチル酸金属塩、4−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等のアルキル基を1つ有するアルキルサリチル酸金属塩を意味し、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、85〜100mol%、好ましくは88〜98mol%、さらに好ましくは90〜95mol%であり、モノアルキルサリチル酸金属塩以外のアルキルサリチル酸金属塩、例えばジアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、0〜15mol%、好ましくは2〜12mol%、さらに好ましくは5〜10mol%である。また、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、40〜100mol%、好ましくは45〜80mol%、さらに好ましくは50〜60mol%である。なお、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の合計の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、上記3−アルキルサリチル酸金属塩、ジアルキルサリチル酸金属塩を除いた構成比に相当し、0〜60mol%、好ましくは20〜50mol%、さらに好ましくは30〜45mol%である。ジアルキルサリチル酸金属塩を少量含むことで高温清浄性、低温特性に優れ、塩基価維持性にも優れる組成物を得ることができ、3−アルキルサリシレートの構成比を40mol%以上とすることで、5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比を相対的に低くすることができ、油溶性を向上させることができる。
【0169】
また、サリシレート系清浄剤を構成するアルキルサリチル酸金属塩におけるアルキル基としては、炭素数10〜40、好ましくは炭素数10〜19又は炭素数20〜30、さらに好ましくは炭素数14〜18又は炭素数20〜26のアルキル基、特に好ましくは炭素数14〜18のアルキル基である。炭素数10〜40のアルキル基としては、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等の炭素数10〜40のアルキル基が挙げられる。これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であってもよく、1級アルキル基、2級アルキル基、3級アルキル基であってもよいが、本発明においては上記所望のサリチル酸金属塩を得やすい点で、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0170】
また、アルキルサリチル酸金属塩における金属としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられ、カルシウム、マグネシウムであることが好ましく、カルシウムであることが特に好ましい。
【0171】
サリシレート系清浄剤は、公知の方法等で製造することができ、特に制限はないが、例えば、フェノール1molに対し1mol又はそれ以上の、エチレン、プロピレン、ブテン等の重合体又は共重合体等の炭素数10〜40のオレフィン、好ましくはエチレン重合体等の直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションし、炭酸ガス等でカルボキシレーションする方法、あるいはサリチル酸1molに対し1mol又はそれ以上の当該オレフィン、好ましくは当該直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションする方法等により得たモノアルキルサリチル酸を主成分とするアルキルサリチル酸に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又はナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としたり、さらにアルカリ金属塩をアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。ここで、フェノール又はサリチル酸とオレフィンの反応割合を、好ましくは、例えば1:1〜1.15(モル比)、より好ましくは1:1.05〜1.1(モル比)に制御することでモノアルキルサリチル酸金属塩とジアルキルサリチル酸金属塩の構成比を所望の割合に制御することができ、また、オレフィンとして直鎖α−オレフィンを用いることで、3−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等の構成比を本願所望の割合に制御しやすくなるとともに、本発明において好ましい2級アルキルを有するアルキルサリチル酸金属塩を主成分として得ることができるため特に好ましい。なお、オレフィンとして分岐オレフィンを用いた場合には、ほぼ5−アルキルサリチル酸金属塩のみを得やすいが、本願所望の構成となるように3−アルキルサリチル酸金属塩等を混合して油溶性を改善する必要があり、製造プロセスが多様化するため好ましくない方法である。
【0172】
本発明の潤滑油組成物に好ましく用いられるサリシレート系清浄剤は、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金サリシレート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
【0173】
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0174】
本発明に使用されるサリシレート系清浄剤として最も好ましいものとしては、高温清浄性と塩基価維持性並びに低温粘度特性のバランスに優れる点から、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜95mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が5〜15mol%、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が50〜60mol%、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が35〜45mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩である。ここでいうアルキル基としては、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0175】
本発明において、サリシレート系清浄剤の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜300mgKOH/g、特に好ましくは100〜200mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上併用することができる。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0176】
フェネート系清浄剤としては、具体的には、炭素数4〜40、好ましくは炭素数6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノールと硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
【0177】
フェネート系清浄剤には、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金フェネート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
【0178】
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0179】
フェネート系清浄剤の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/gのものを使用することができる。
【0180】
これらの金属系清浄剤の金属比は特に制限はなく、通常1〜40であるが、本発明においては、すす混入下における摩耗を抑制しやすい点で、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、特に好ましくは6以上のものを少なくとも1種配合することが好ましい。また、安定性の点から、その金属比は好ましくは20以下、より好ましくは15以下である。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、せっけん基とは、金属塩を形成する相手方の有機基であり、スルホン酸含有基、サリチル酸含有基、フェノール含有基等を示す。
【0181】
本発明においては、すす混入下における摩耗防止性により優れる点で、金属比が6以上、好ましくは8〜15のスルホネート系清浄剤及び/又はフェネート系清浄剤を含有させることが望ましく、また、低摩擦性及び高温清浄性をより改善できる点で、金属比が2未満、好ましくは1.5以下の金属系清浄剤、中でもスルホネート系清浄剤及び/又はサリシレート系清浄剤、特にスルホネート系清浄剤を含有させることが望ましく、前記金属比が6以上のスルホネート系清浄剤及び/又はフェネート系清浄剤と、前記金属比が2未満のスルホネート系清浄剤及び/又はサリシレート系清浄剤とを併用することがより望ましく、金属比が6以上のスルホネート系清浄剤と、金属比が2未満のスルホネート系清浄剤を併用することが特に望ましい。
【0182】
本発明の潤滑油組成物において、(C)成分の含有量は潤滑油組成物全量基準で、金属量として0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%、より好ましくは0.1〜0.3質量%であり、さらに好ましくは0.15〜0.25質量%である。
また、(C)成分として、前記金属比が6以上のスルホネート系清浄剤及び/又はフェネート系清浄剤と、前記金属比が2未満のスルホネート系清浄剤及び/又はサリシレート系清浄剤を併用して含有させる場合の含有割合は特に制限はないが、上記理由により、前記金属比が6以上のスルホネート系清浄剤及び/又はフェネート系清浄剤に起因する金属量(M1)と前記金属比が2未満のスルホネート系清浄剤及び/又はサリシレート系清浄剤に起因する金属量(M2)との合計量に対する前記金属比が2未満のスルホネート系清浄剤及び/又はサリシレート系清浄剤に起因する金属量(M2)の質量比(M2/(M1+M2))として、好ましくは0.001〜0.5、より好ましくは0.01〜0.3、さらに好ましくは0.05〜0.2、特に好ましくは0.08〜0.12である。
【0183】
本発明における(D)成分は、無灰分散剤である。無灰分散剤としては、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルもしくはアルキル基を有するコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン、マンニッヒ塩基等の含窒素化合物、これら含窒素化合物にホウ酸、ホウ酸塩等のホウ素化合物、(チオ)リン酸、(チオ)リン酸塩等のリン化合物、有機酸、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等を作用させた誘導体等が挙げられる。
【0184】
本発明においては、これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。ここで、アルケニル基もしくはアルキル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられ、数平均分子量が700〜5000、特に900〜5000のポリブテン(ポリイソブテン)から誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基であることが好ましい。
【0185】
本発明で用いられる無灰分散剤の重量平均分子量は、3000〜20000であることが必要であり、好ましくは無灰分散剤の重量平均分子量は4000〜15000である。重量平均分子量が3000未満では、非極性基のポリブテニル基の分子量が小さくスラッジの分散性に劣り、また、酸化劣化の活性点となる恐れのある極性基のアミン部分が相対的に多くなって酸化安定性に劣るため、好ましくなく、一方、低温粘度特性の悪化を防止する観点から、その重量平均分子量は、20000以下であることが好ましく、15000以下であることが特に好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ウォーターズ社製の150−CALC/GPC装置に東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0186】
本発明の潤滑油組成物において好ましく用いられる無灰分散剤としては、例えば、下記一般式(8)又は(9)で表されるポリブテニルコハク酸イミドが挙げられる。
【化8】


【化9】

【0187】
一般式(8)及び(9)におけるPIBはポリブテニル基を示し、高純度イソブテンあるいは1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒あるいは塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られるポリブテンから得られるものであり、ポリブテン混合物中において末端にビニリデン構造を有するものが通常5〜100mol%含有される。スラッジ抑制効果に優れる点からnは2〜5の整数、好ましくは3〜4の整数であることが望ましい。
【0188】
一般式(8)又は(9)で表されるコハク酸イミドの製造法としては特に制限はないが、例えば、上記ポリブテンを塩素化したもの、好ましくは上記高純度イソブテンをフッ化ホウ素系触媒で重合させた高反応性ポリブテン(ポリイソブテン)、より好ましくは塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンを無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0189】
ビスコハク酸イミドを製造する場合は、該ポリブテニルコハク酸をポリアミンの2倍量(モル比)反応させればよく、モノコハク酸イミドを製造する場合は、該ポリブテニルコハク酸とポリアミンを等量(モル比)で反応させればよい。これらの中では、スラッジ分散性に優れる点から、ポリブテニルビスコハク酸イミドであることが好ましい。
【0190】
なお、上記製造法において用いられるポリブテンには、製造過程の触媒に起因する微量のフッ素分や塩素分が残留し得るので、吸着法や十分な水洗等の適切な方法によりフッ素分や塩素分が十分除去されたポリブテンを用いることが好ましい。フッ素や塩素の含有量としては、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下である。
【0191】
また、ポリブテンと無水マレインとの反応によりポリブテニルコハク酸無水物を得る工程では、従来、塩素を用いる塩素化法が適用されることが多い。しかし、この方法では、コハク酸イミド最終製品中に多量の塩素(例えば約2000〜3000ppm)が残留する結果となる。一方、塩素を用いない方法、例えば上記高反応性ポリブテンを用いた場合及び/又は熱反応法では、最終製品中に残る塩素を極めて低いレベル(例えば0〜30ppm)に抑えることができる。従って、潤滑油組成物中の塩素含有量を0〜30重量ppmの範囲の量に抑えるためには、塩素化法を用いず、上記高反応性ポリブテンを用いる方法及び/又は熱反応法によって得られたポリブテニルコハク酸無水物を用いることが好ましい。
【0192】
また、ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記一般式(8)又は(9)で表される化合物に、ホウ酸等のホウ素化合物や、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、有機酸等の含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和又はアミド化した、いわゆる変性コハク酸イミドとして用いることができる。特に、ホウ酸等のホウ素化合物との反応で得られるホウ素含有アルケニル(もしくはアルキル)コハク酸イミドは、熱・酸化安定性の面で有利である。
【0193】
一般式(8)又は(9)で表される化合物に作用させるホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル類等が挙げられる。
【0194】
ホウ酸としては、具体的には例えばオルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸等が挙げられる。
【0195】
ホウ酸塩としては、ホウ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられ、より具体的には、例えばメタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム、過ホウ酸リチウム等のホウ酸リチウム;メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のホウ酸ナトリウム;メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のホウ酸カリウム;メタホウ酸カルシウム、二ホウ酸カルシウム、四ホウ酸三カルシウム、四ホウ酸五カルシウム、六ホウ酸カルシウム等のホウ酸カルシウム;メタホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム、六ホウ酸マグネシウム等のホウ酸マグネシウム;及びメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0196】
また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル等が挙げられ、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。
【0197】
上記ホウ素化合物を作用させたコハク酸イミド誘導体は、耐熱性、酸化安定性に優れることから好ましく用いられる。
【0198】
また、一般式(8)又は(9)で表される化合物に作用させる含酸素有機化合物としては、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸もしくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる。
【0199】
このような含酸素有機化合物を作用させることで、例えば、一般式(8)又は(9)で表される化合物におけるアミノ基又はイミノ基の一部又は全部が次の一般式(10)で示す構造になると推定される。
【化10】

【0200】
上記一般式(10)中のR18は水素原子、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアルケニル基、炭素数1〜24アルコキシ基、又は−O−(R19O)Hで表されるヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレン基を示し、R19は炭素数1〜4のアルキレン基、mは1〜5の整数を示す。これらの中ではアミノ基又はイミノ基の全てにこれら含酸素有機化合物を作用させたものを主成分とするポリブテニルビスコハク酸イミドがスラッジ分散性に優れるため好ましく用いられる。そのような化合物は、例えば(8)式の化合物1モルに対し、例えば0.5〜(n−1)モル、好ましくは(n−1)モルの含酸素有機化合物を作用させることで得られる。このような含酸素有機化合物を作用させたコハク酸イミド誘導体は、スラッジ分散性に優れ、特にヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたものが好ましい。
【0201】
本発明の潤滑油組成物に無灰分散剤を含有させる場合の好ましい態様としては、(D1)重量平均分子量が6500以上の無灰分散剤及び/又は(D2)重量平均分子量が3000以上でありホウ素を含有する無灰分散剤、を含有させることが好ましく、すす混入下における摩耗を大幅に低減することができるとともに高温清浄性にも優れた組成物を得ることができる点で、これら(D1)及び(D2)を併用することが特に好ましい。これら無灰分散剤の中では、上記したポリブテニルコハク酸イミド及びその誘導体、特にビスタイプのものであることが望ましい。ここで、(D1)成分の重量平均分子量は6500〜20000であり、好ましくは8000以上、さらに好ましくは9000以上であり、好ましくは15000以下、特に好ましくは12000以下である。また、(D2)成分の重量平均分子量は3000〜20000であり、好ましくは4000〜6500、より好ましくは4500〜5500である。
【0202】
本発明の潤滑油組成物における(D)無灰分散剤の含有量は、組成物全量を基準として、窒素元素換算で、好ましくは0.01〜0.4質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.04質量%以上であり、また、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。(D)無灰分散剤の含有量が上記下限値に満たない場合は、すす混入下における摩耗防止性が不十分となるとともに、十分な清浄性効果が発揮しにくい傾向にあり、一方、その含有量が上記上限値を超える場合は、低温粘度特性の悪化及び抗乳化性が悪化する傾向にあるため上記範囲とすることが特に好ましい。
【0203】
なお、(D1)成分を使用する場合、すす混入下における摩耗防止性を高め、低温粘度特性にも優れる点で、その含有量は、組成物全量を基準として、窒素元素換算で、好ましくは0.005〜0.1質量%であり、より好ましくは0.01〜0.04質量%である。
【0204】
また、(D2)成分を使用する場合、十分な高温清浄性や熱安定性を高めるために、その含有量は、組成物全量を基準として、窒素元素換算で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、また、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.04質量%以下である。また、同様の理由で、その含有量は、組成物全量を基準として、ホウ素元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.008質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.04質量%以下、特に好ましくは0.02質量%以下である。
【0205】
また、(D2)成分としては、そのホウ素含有量と窒素含有量との質量比(B/N比)が、通常、0.1〜5、好ましくは0.1〜1、より好ましくは0.2〜0.6のものを選択して使用することが特に好ましい。
【0206】
なお、本発明における(D)無灰分散剤に起因するホウ素含有量と窒素含有量との質量比(B/N比)は、すす混入下における摩耗及び摩擦を低減し、高温清浄性を高めるために、好ましくは0.01〜5、好ましくは0.05〜1、より好ましくは0.1〜0.4、特に好ましくは0.1〜0.2となるように含有させることが望ましい。
【0207】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成により、すす混入下における摩耗及び摩擦を低減し、高温清浄性に優れるものであり、冷態時の始動性や省燃費性をも改善できるものであるが、その性能をさらに向上させるために、又は、その他の目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。特に、本発明の潤滑油組成物には、(E)成分として、有機モリブデン化合物が好ましく含有される。
【0208】
有機モリブデン化合物としては、(E1)モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメートから選ばれる有機モリブデン化合物(モリブデン系摩擦調整剤)及び(E2)モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメート以外の有機モリブデン化合物が挙げられる。(E2)成分としては、(E1)以外の有機モリブデン化合物であって、構成元素として硫黄を含有する有機モリブデン化合物及び構成元素として硫黄を含有しない有機モリブデン化合物(モリブデン系酸化防止剤)が挙げられ、本発明においては、(E2)成分を必須として含有させることが特に望ましい。
【0209】
モリブデンジチオホスフェートとしては、例えば、下記一般式(11)で表される化合物が挙げられる。
【化11】

【0210】
上記一般式(11)中、R20、R21、R22及びR23は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜30、好ましくは炭素数5〜18、より好ましくは炭素数5〜12のアルキル基、又は炭素数6〜18、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY、Y、Y及びYは、それぞれ個別に、硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0211】
アルキル基として好ましい例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよく、また直鎖状でも分枝状でもよい。
【0212】
(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよく、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる、全ての置換異性体が含まれる。
【0213】
好ましいモリブデンジチオホスフェートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化モリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオホスフェートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0214】
モリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、下記一般式(12)で表される化合物を用いることができる。
【化12】

【0215】
上記一般式(12)中、R24、R25、R26及びR27は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜24、好ましくは炭素数4〜13のアルキル基、又は炭素数6〜24、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY、Y、Y及びYは、それぞれ個別に、硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0216】
アルキル基として好ましい例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよく、また直鎖状でも分枝状でもよい。
【0217】
(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよく、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる、全ての置換異性体が含まれる。また、上記構造以外のモリブデンジチオカーバメートとしては、WO98/26030あるいはWO99/31113に開示されるようなチオ又はポリチオ−三核モリブデンにジチオカーバメート基が配位した構造を有するもの等が挙げられる。
【0218】
好ましいモリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオカーバメートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0219】
また、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメート以外の有機モリブデン化合物(E2)としては、(E1)以外の、構成元素として硫黄を含有する有機モリブデン化合物が挙げられる。構成元素として硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、あるいは酸化モリブデンの硫化物、モリブデン酸の硫化物の等の硫黄含有モリブデン化合物と、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の項で後述するアミン化合物、コハク酸イミド、有機酸、アルコール等の硫黄を含まない有機化合物との錯体等、あるいは後述する、構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物と、該硫黄を含まない有機化合物と、硫黄源(元素イオウ、硫化水素、五硫化リン、酸化硫黄、無機硫化物、ヒドロカルビル(ポリ)スルフィド、硫化オレフィン、硫化エステル、硫化ワックス、硫化カルボン酸、硫化アルキルフェノール、チオアセトアミド、チオ尿素等)とを反応させた硫黄含有有機モリブデン化合物等様々なものを挙げることができる。これらの硫黄含有有機モリブデン化合物は、例えば特開昭56−10591号公報、米国特許第4263152号公報等に詳細な製造方法が記載されている。
【0220】
また、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメート以外の有機モリブデン化合物(E2)としては、構成元素として硫黄を含有しない有機モリブデン化合物を用いることができる。
【0221】
構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0222】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO・nHO)、モリブデン酸(HMoO)、モリブデン酸アルカリ金属塩(MMoO;Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NHMoO又は(NH[Mo24]・4HO)、MoCl、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoCl等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。これらのモリブデン化合物の中でも、モリブデン−アミン錯体の収率の点から、6価のモリブデン化合物が好ましい。さらに、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0223】
また、モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物としては、特に制限されないが、窒素化合物としては、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、及びプロピルブチルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、ヘプタノールアミン、オクタノールアミン、ノナノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールプロパノールアミン、エタノールブタノールアミン、及びプロパノールブタノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
【0224】
モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−アミン錯体におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0225】
また、モリブデン−コハク酸イミド錯体としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。コハク酸イミドとしては、無灰分散剤の項で述べる炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドあるいはその誘導体や、炭素数4〜39、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数30を超え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−コハク酸イミド錯体におけるモリブデン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0226】
また、有機酸のモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたモリブデン酸化物あるいはモリブデン水酸化物、モリブデン炭酸塩又はモリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、前記(B3)成分の項で例示した、硫黄を含有しないリン含有酸、及びカルボン酸が好ましい。
【0227】
カルボン酸のモリブデン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。
【0228】
一塩基酸としては、炭素数が通常2〜30、好ましくは4〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0229】
また、一塩基酸としては、上記脂肪酸の他に、単環又は多環カルボン酸(水酸基を有していてもよい)を用いてもよく、その炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは7〜30である。単環又は多環カルボン酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を0〜3個、好ましくは1〜2個有する芳香族カルボン酸又はシクロアルキルカルボン酸等が挙げられ、より具体的には、(アルキル)ベンゼンカルボン酸、(アルキル)ナフタレンカルボン酸、(アルキル)シクロアルキルカルボン酸等が例示できる。単環又は多環カルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、サリチル酸、アルキル安息香酸、アルキルサリチル酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
【0230】
また、多塩基酸としては、二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸等が挙げられる。多塩基酸は鎖状多塩基酸、環状多塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状多塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状多塩基酸としては、炭素数2〜16の鎖状二塩基酸が好ましく、具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸、アルケニルコハク酸及びこれらの混合物等が挙げられる。また、環状多塩基酸としては、1、2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸の脂環式ジカルボン酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸等が挙げられる。
【0231】
また、アルコールのモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、アルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステルもしくは部分エーテル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)などのいずれであってもよい。なお、モリブデン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該モリブデン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのモリブデン塩に包含される。
【0232】
一価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のペンタノール、直鎖状又は分岐状のヘキサノール、直鎖状又は分岐状のヘプタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0233】
また、多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0234】
また、多価アルコールの部分エステルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエステル化された化合物等が挙げられ、中でもグリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリグリセリンモノオレート等が好ましい。
【0235】
また、多価アルコールの部分エーテルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエーテル化された化合物、多価アルコール同士の縮合によりエーテル結合が形成された化合物(ソルビタン縮合物等)などが挙げられ、中でも3−オクタデシルオキシ−1,2−プロパンジオール、3−オクタデセニルオキシ−1,2−プロパンジオール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等が好ましい。
【0236】
また、水酸基を有する窒素化合物としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたアルカノールアミン、並びに当該アルカノールのアミノ基がアミド化されたアルカノールアミド(ジエタノールアミド等)などが挙げられ、中でもステアリルジエタノールアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ヒドロキシエチルラウリルアミン、オレイン酸ジエタノールアミド等が好ましい。
【0237】
本発明における(E)有機モリブデン化合物としては、初期における摩擦低減効果に優れる点で、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメートから選ばれる1種又は2種以上の硫黄含有有機モリブデン化合物(E1)を使用することが好ましい。また、高温清浄性に優れ、粘度増加を抑制し、省燃費性能を長期間維持しやすい点で、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメート以外の有機モリブデン化合物(E2)を使用することが好ましい。なお(E2)成分としては、上記に例示したもののうち、硫黄含有モリブデン化合物(例えば硫化モリブデン、オキシ硫化モリブデン、モリブデン酸の硫化物等)と、構成元素として硫黄を含まない有機化合物(アミン化合物、コハク酸イミド、アルコール、カルボン酸等)との錯体又は塩、構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物(オキシモリブデン、モリブデン酸等)と、構成元素として硫黄を含まない有機化合物(アミン化合物、コハク酸イミド、アルコール、カルボン酸等等)との錯体又は塩、硫黄含有モリブデン化合物もしくは構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物と、構成元素として硫黄を含まない有機化合物と、硫黄源とを反応させた有機モリブデン化合物から選ばれる1種又は2種以上の有機モリブデン化合物が好ましい。
【0238】
本発明においては、高温清浄性にも優れ、すす混入下においても初期の省燃費性能の持続性に優れた組成物を得ることができる点で、(E2)を使用することが特に好ましい。
【0239】
本発明の組成物において、有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上であり、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上である。また、好ましくは0.2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、特に好ましくは0.03質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0240】
本発明の潤滑油組成物に好ましく添加することができる、有機モリブデン化合物(E)以外の添加剤としては、例えば、無灰酸化防止剤、有機金属系酸化防止剤、粘度指数向上剤、(B)成分以外の摩耗防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤を挙げることができる。
【0241】
無灰酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の無灰系酸化防止剤等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。酸化防止剤の添加により、潤滑油組成物の酸化防止性をより高められ、本発明の組成物の酸化安定性、高温清浄性及び塩基価維持性をより高めることができる。
【0242】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0243】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0244】
また、有機金属系酸化防止剤としては、金属を含有し、酸化防止効果の認められる公知の有機金属系酸化防止剤を使用することができるが、上述した有機モリブデン化合物のうちの(E2)成分を好ましく使用することができる。
【0245】
上記フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、有機金属酸化防止剤は組み合わせて配合してもよい。
【0246】
本発明の潤滑油組成物において酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で0.01〜20質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。その含有量が20質量%を超える場合は、配合量に見合った十分な性能が得られず、一方、その含有量が0.01質量%未満の場合、塩基価維持性の向上効果が小さいためそれぞれ好ましくない。
【0247】
粘度指数向上剤としては、非分散型あるいは分散型の粘度指数向上剤が挙げられる。具体的には、非分散型又は分散型ポリメタクリレート類、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、ポリメタクリレート−スチレン共重合体、ポリメタクリレート−オレフィン共重合体、及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。これらの粘度指数向上剤の重量平均分子量は特に制限はなく、通常1万〜100万であるが、省燃費性をより高め、せん断安定性にも優れる点で、好ましくは5万〜80万、より好ましくは10万〜60万、特に好ましくは15万〜50万である。また、粘度指数向上剤のPSSIは、特に制限はないが、好ましくは1〜60、より好ましくは10〜40、さらに好ましくは20〜30である。ここで、PSSI(永久せん断安定性指数:Permanent Shear Stability Index)とは、せん断安定性試験(ASTM D6278)試験前後の100℃における動粘度、基油の100℃における動粘度を用い、以下の計算式:
PSSI(%)={1−(せん断後の動粘度−基油の動粘度)/(せん断前の動粘度−基油の動粘度)}×100
により算出される指数を意味する。粘度指数向上剤を含有させる場合の含有量は、通常、組成物全量基準で0.1〜20質量%であり、好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは3〜10質量%である。
【0248】
(B)成分以外の摩耗防止剤としては、例えば硫黄系極圧剤を使用することができ、すす混入下における摩耗を抑制する効果が期待できる。
【0249】
硫黄系極圧剤としては、ジスルフィド類、ポリスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル、ジチオカーバメート、ジチオカルバミン酸亜鉛等の硫黄含有化合物等が挙げられ、硫化油脂が最も好ましい。これらの化合物の中でも、硫黄系極圧剤中の硫黄含有量が好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%のものを使用することが望ましい。硫黄系極圧剤中の硫黄含有量が高すぎてもすす混入下における摩耗を抑制する効果が硫黄含有量に見合う効果とはならず、かえって塩基価維持性能が悪化する恐れがあり、一方、硫黄系極圧剤中の硫黄含有量が小さい場合は、すす混入下における摩耗を抑制する効果が小さい。また、その他の摩耗防止剤としては、ホウ酸エステル、無灰系摩耗防止剤、金属系摩耗防止剤等公知のものを使用することができる。
【0250】
本発明の潤滑油組成物において、(B)成分以外の摩耗防止剤を含有させる場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0251】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0252】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0253】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0254】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0255】
本発明の潤滑油組成物が流動点降下剤を含有する場合、本発明にかかる潤滑油基油による流動点降下剤の添加効果が最大限に発揮されるため、優れた低温粘度特性(−40℃におけるMRV粘度が好ましくは20000mPa・s以下、より好ましくは15000mPa・s以下、更に好ましくは10000mPa・s以下)を達成することができる。なお、ここでいう−40℃におけるMRV粘度は、JPI−5S−42−93に準拠して測定された−40℃におけるMRV粘度を意味する。例えば上記基油(II)及び(V)に流動点降下剤を配合した場合、その−40℃におけるMRV粘度は、12000mPa・s以下とすることができ、より好ましくは10000mPa・s以下、更に好ましくは8000mPa・s、特に好ましくは6500mPa・s以下の極めて優れた低温粘度特性を有する潤滑油組成物を得ることができる。この場合、流動点降下剤の配合量は、組成物全量基準で0.05〜2質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%であるが、特にMRV粘度を低下させることができる点で0.15〜0.8質量%の範囲が最も良く、流動点降下剤としては、その重量平均分子量は好ましくは1〜30万、より好ましくは5〜20万のものが特に好ましく、さらに流動点降下剤としては、ポリメタアクリレート系のものが特に好ましい。
【0256】
消泡剤としては、潤滑油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で配合することができる。消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0257】
着色剤としては、通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、また任意の量を配合することができるが、通常その配合量は、組成物全量基準で0.001〜1.0質量%である。
【0258】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、流動点降下剤では、0.01〜1質量%、消泡剤では0.0001〜1質量%、着色剤では0.001〜1.0質量%の範囲で通常選ばれる。
【0259】
本発明の潤滑油組成物における硫黄含有量は特に制限はないが、0.3質量%以下であることが好ましく、0.26質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることが特に好ましい。硫黄含有量が0.3質量%より多くなると、排ガス後処理装置の酸化触媒、NOx吸蔵還元触媒、及びDPFの寿命が短くなる傾向にある。また、本発明の潤滑油組成物の硫酸灰分は、排気ガス後処理装置の性能の維持の点から、好ましくは1.2質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.9質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以上、特に0.7質量%以上とすることで、すす混入下における摩耗及び摩擦を低減できるとともに、高温清浄性にも優れた組成物を得ることができる。
【0260】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、エンジン等の潤滑性を適正に維持できる点で通常5〜30mm/sであるが、すす混入下における摩耗防止性を維持しやすく、攪拌抵抗による摩擦抵抗を抑制できる点で、好ましくは8〜25mm/s、より好ましくは9.3〜16.3mm/s、特に好ましくは9.3〜11.5mm/sである。
【0261】
また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、粘度−温度特性と省燃費性が向上する点から、通常140以上であり、好ましくは150以上、より好ましくは160以上、さらに好ましくは170以上であり、せん断安定性と高温清浄性や塩基価維持性能に優れる点から、好ましくは250以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは190以下である。
【0262】
さらに、本発明の潤滑油組成物は、150℃におけるTBS粘度を好ましくは2.6mPa・s以上、特に2.9〜3.7mPa・sとすることで、特にすす混入下における摩耗をより低減でき、−25℃におけるCCS粘度を3500mPa・s以下あるいは、−30℃におけるCCS粘度を3250mPa・s以下とすることで、冬季あるいは寒冷地においても低温始動性にも優れ、冷態時における省燃費性を改善することができ、0W−20、5W−20、0W−30、5W−30グレードのエンジン油、特に0W−30エンジン油として好適な潤滑油組成物を得ることができる。
【0263】
本発明の潤滑油組成物は、摩耗防止性及び摩擦低減性能に優れ、特にZnDTP等のリン化合物の配合量を低減した場合に顕著となるすす混入による摩耗増加や摩擦増加を抑制し、かつ長期に渡りこれを維持しやすく、排ガス後処理装置への影響を緩和しうる。従って、DPFや各種触媒等の排ガス後処理装置を装着したディーゼルエンジンや直噴ガソリンエンジン用に好適な潤滑油組成物である。また、このような用途のエンジン用だけでなく、二輪車用、四輪車用、発電用、コジェネレーション用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンにも好適に使用でき、さらには、硫黄分が50質量ppm以下の燃料を使用するこれらの各種エンジンに対しても好適に使用することができるだけでなく、船舶用、船外機用の各種エンジンに対しても有用である。また、低硫黄燃料、例えば、硫黄分が50質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下の燃料(例えばガソリン、軽油、灯油、アルコール、ジメチルエーテル、LPG、天然ガス、水素、GTL(ガストゥリキッド)燃料等)を用いる内燃機関用潤滑油に好適である。また、本発明の潤滑油組成物は、酸化安定性にも優れるため、自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。
【実施例】
【0264】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0265】
[基油1の製造]
まず、溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。溶剤脱ろうの際に除去され、スラックワックスとして得られたワックス分(以下、「WAX1」という。)を、潤滑油基油の原料油として用いた。WAX1の性状を表1に示す。
【0266】
【表1】

【0267】
次に、WAX1を原料油とし、水素化処理触媒を用いて水素化処理を行った。このとき、原料油中のノルマルパラフィンの分解率が10質量%以下となるように、反応温度および液空間速度を調整した。
【0268】
次に、上記の水素化処理により得られた被処理物について、貴金属含有量0.1〜5重量%に調整されたゼオライト系水素化脱ロウ触媒を用い、315℃〜325℃の温度範囲で水素化脱ロウを行った。
【0269】
更に、上記の水素化脱ロウにより得られた被処理物(ラフィネート)について、水素化生成触媒を用いて水素化精製を行った。その後蒸留により軽質分を分離して、表4に示す組成及び性状を有する基油1を得た。また、表4中、「尿素アダクト物中のノルマルパラフィン由来成分の割合」は、尿素アダクト値の測定の際に得られた尿素アダクト物についてガスクロマトグラフィー分析を実施することによって得られたものである(以下、同様である。)。
【0270】
次に、基油1に、自動車用潤滑油に一般的に用いられているポリメタアクリレート系流動点降下剤(重量平均分子量:約6万)を添加して潤滑油組成物を得た。流動点降下剤の添加量は、組成物全量基準で0.3質量%、0.5質量%および1.0質量%の3条件とした。次に、得られた各潤滑油組成物について、−40℃におけるMRV粘度を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0271】
[基油2の製造]
基油2の製造においては、WAX1をさらに脱油して得られたワックス分(以下、「WAX2」という。)を、潤滑油基油の原料として用いた。WAX2の性状を表2に示す。
【0272】
【表2】

【0273】
次に、WAX1の代わりにWAX2を用いたこと以外は基油1と同様にして、水素化処理、水素化脱ロウ、水素化精製及び蒸留を行い、表4に示す組成及び性状を有する潤滑油基油を得た。
【0274】
次に、基油2を用いたこと以外は基油1の場合と同様にして、ポリメタアクリレート系流動点降下剤を含有する潤滑油組成物を調製し、−40℃におけるMRV粘度を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0275】
[基油3の製造]
基油3においては、パラフィン含量が95質量%であり、20から80までの炭素数分布を有するFTワックス(以下、「WAX3」という。)を用いた。WAX3の性状を表3に示す。
【0276】
【表3】

【0277】
次に、WAX1の代わりにWAX3を用いたこと以外は基油1と同様にして、水素化処理、水素化脱ロウ、水素化精製及び蒸留を行い、表4に示す組成及び性状を有する潤滑油基油3を得た。
【0278】
次に、基油3を用いたこと以外は基油1の場合と同様にして、ポリメタアクリレート系流動点降下剤を含有する潤滑油組成物を調製し、−40℃におけるMRV粘度を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0279】
また、本発明にかかる潤滑油基油に該当しない高度水素化分解鉱油として、基油4及び基油5の組成及び性状を表5に示す。
【0280】
【表4】

【0281】
【表5】

【0282】
[実施例1、2、比較例1〜6]
実施例1、2及び比較例1〜6においては、表4に示す基油1、表5に示す基油5、並びに下記の基油6、7及び添加剤を用い、表6、7に示す組成を有する潤滑油組成物を調整した。表4、5中、基油の割合は基油全量基準、各添加剤の添加量は組成物全量基準で示している。
(基油)
基油6:ポリα−オレフィン系基油(100℃動粘度:3.9mm/s、粘度指数:126、S:0.01質量%未満、−35℃ CCS粘度:1500mPa・s、NOACK:12質量%)
基油7:エステル系基油(100℃動粘度9.2mm/s、粘度指数:176、流動点:−30℃、S:0.01質量%未満)
(添加剤)
A:オレイルウレア
B1:ジブチルリン酸亜鉛(リン含有量:13.2質量%、硫黄含有量:0質量%、亜鉛含有量:13質量%)
B2:sec−ブチル−ZnDTP/sec−ヘキシル−ZnDTPの混合物(亜鉛含有量:7.2質量%、リン含有量:6.2質量%、硫黄含有量:14.9質量%)
C1:カルシウムスルホネート(カルシウム含有量:2.4質量%、硫黄含有量:2.9質量%、金属比:1.0)
C2:過塩基性カルシウムスルホネート(カルシウム含有量:12.7質量%、硫黄含有量:2.0質量%、金属比:12)
C−3:カルシウムサリシレート(カルシウム含有量:2.1質量%、金属比:1.0)
D1:ビス型ポリブテニルコハク酸イミド(窒素含有量:0.6質量%、重量平均分子量:10000)
D2:ビス型ポリブテニルコハク酸イミドのホウ酸変性物(窒素含有量:1.5質量%、B:0.5質量%、重量平均分子量:5000)
E1:モリブデンジチオカーバメート(モリブデン含有量:10質量%、硫黄含有量:10質量%)
E2:オキシモリブデン−ジトリデシルアミン錯体
F:アルキルジフェニルアミン
G:エチレン−αオレフィンコポリマー系粘度指数向上剤(PSSI=24)、ポリメタクリレート系流動点降下剤、消泡剤等を含有する添加剤パッケージ。
【0283】
次に、実施例1、2、比較例1〜6の潤滑油組成物について、以下の評価方法によって性能を評価した。
【0284】
(1)高速四球摩耗試験
すす混入油を模擬的に調製するために、各潤滑油組成物にカーボンブラックを1.5質量%分散させ、JPI−5S−32−90に準拠して以下の試験条件で四球摩耗試験を行い、試験後の摩耗痕径を測定した。得られた結果を表6、7に示す。本試験においては、摩耗痕径が小さいものほど耐摩耗性に優れていることを意味する。
(試験条件)
回転数:1500rpm
荷重:294N
試験油温:110℃
試験時間:1時間
【0285】
(2)HFRR摩擦試験
各潤滑油組成物について、カーボンブラックを1.5質量%分散させたもの及びカーボンブラックを分散させていないもの(新油)の2種類を試験油として用意し、HFRR摩擦試験機を用いて以下の条件にて摩擦係数を測定した。得られた結果を表6、7に示す。本試験においては、摩擦係数が小さいものほど省燃費性に優れていることを意味し、カーボンブラック添加後の摩擦係数が小さいものほどすす混入下における摩擦低減効果及びその維持性に優れることを意味する。
(試験条件)
錘:200g
試験油温:100℃
振幅:1mm
振動数:50Hz
試験時間:1時間
摩擦係数測定:試験開始後50分〜60分後までの摩擦係数を平均した。
【0286】
【表6】

【0287】
【表7】

【0288】
表6、7に示す結果から明らかなとおり、実施例1、2の潤滑油組成物は、すす混入下における摩耗防止性能が著しく優れていることがわかり、また、すす混入下における摩擦係数も、すすが混入していない状態での摩擦係数と比べ、増加がほとんど認められない。この結果は、基油1に代えてPAO系基油や従来の水素化分解鉱油を使用した場合(比較例1〜6)と比べても大幅な改善が達成されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素アダクト値が4質量%以下であり且つ粘度指数が100以上である潤滑油基油と、組成物全量を基準として、0.01〜10質量%の無灰摩擦調整剤と、リン量として0.01〜0.2質量%のリン含有摩耗防止剤と、を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記潤滑油基油は、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下であり且つ粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程を備える製造方法により製造されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記潤滑油基油の100℃における動粘度が3.5mm/s以上であり、−35℃におけるCCS粘度が2000mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑油基油のNOACK蒸発量が15質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記潤滑油基油の40℃における動粘度(単位:mm/s)とNOACK蒸発量(単位:質量%)との積が250以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記無灰摩擦調整剤が、窒素、酸素、硫黄から選ばれる1種又は2種以上の元素を少なくとも3原子以上含有する化合物であることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
モリブデンジチオカーバメート及びモリブデンジチオホスフェート以外の有機モリブデン化合物を、組成物全量を基準として、モリブデン量として0.001〜0.2質量%含有することを特徴とする、請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
ディーゼルエンジン用又は直噴ガソリンエンジン用であることを特徴とする、請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の潤滑油組成物。


【公開番号】特開2008−274236(P2008−274236A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78233(P2008−78233)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】