火花点火式ガソリンエンジン
【課題】着火アシストにより混合気の自着火を促進しながら、燃焼騒音やスートの増大を防止する。
【解決手段】本発明のエンジンでは、圧縮自己着火燃焼の実行領域の少なくとも一部に設定された特定運転領域(A3,B2)で、前段噴射P1および後段噴射P2に分けてインジェクタ21から燃料が噴射されるとともに、前段噴射P1から後段噴射P2までの間の所定時期に、少量の燃料をインジェクタ21から噴射させかつ点火プラグ20に火花点火を行わせる着火アシストが実行される。すると、この着火アシストによって上記点火プラグ20の電極付近に火炎が形成されるのをきっかけにして、点火プラグ20の電極から離れた場所で上記前段噴射P1に基づく混合気X1が自着火による燃焼を開始するとともに、それに引き続いて上記後段噴射P2に基づく混合気X2が自着火により燃焼する。
【解決手段】本発明のエンジンでは、圧縮自己着火燃焼の実行領域の少なくとも一部に設定された特定運転領域(A3,B2)で、前段噴射P1および後段噴射P2に分けてインジェクタ21から燃料が噴射されるとともに、前段噴射P1から後段噴射P2までの間の所定時期に、少量の燃料をインジェクタ21から噴射させかつ点火プラグ20に火花点火を行わせる着火アシストが実行される。すると、この着火アシストによって上記点火プラグ20の電極付近に火炎が形成されるのをきっかけにして、点火プラグ20の電極から離れた場所で上記前段噴射P1に基づく混合気X1が自着火による燃焼を開始するとともに、それに引き続いて上記後段噴射P2に基づく混合気X2が自着火により燃焼する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部がガソリンからなる燃料を燃焼室に噴射するインジェクタと、燃焼室に露出する電極から火花を放電する点火プラグと、上記インジェクタおよび点火プラグの動作を制御する制御手段とを備えるとともに、上記インジェクタから噴射された燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が少なくとも温間時に実行される火花点火式ガソリンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンの分野では、点火プラグの火花点火により強制的に混合気を着火させる燃焼形態(火花点火燃焼)が一般的であったが、近年、このような火花点火燃焼に代えて、いわゆる圧縮自己着火燃焼をガソリンエンジンに適用する研究が進められている。圧縮自己着火燃焼とは、燃焼室(気筒内)に生成された混合気をピストンで圧縮し、高温・高圧の環境下で、火花点火によらず混合気を自着火させるというものである。圧縮自己着火燃焼は、燃焼室の各所で同時多発的に自着火する燃焼であり、火花点火による燃焼に比べて燃焼期間が短く、より高い熱効率が得られると言われている。
【0003】
上記圧縮自己着火燃焼が適用されたガソリンエンジンの具体例として、例えば下記特許文献1に開示されたものが知られており、この特許文献1には、エンジンの一部の運転領域で、燃焼室に向けて燃料を複数回に分けて噴射するいわゆる分割噴射を行いながら、混合気を自着火により燃焼させることが開示されている。具体的には、圧縮行程よりも前に噴射された1回目の燃料により、燃料の濃度(混合気の空燃比)が均一な予混合領域を燃焼室に形成するとともに、圧縮行程後半の所定時期に行われる2回目の燃料噴射により、点火プラグの周りに混合気の成層領域を形成する。そして、ピストンが圧縮上死点の近傍に達した時点で、いわゆる着火アシストとして、点火プラグによる火花点火を行う。すると、この火花点火をきっかけに、上記成層領域内のリッチな混合気が燃焼するとともに、その燃焼による燃焼室の高温化をきっかけにして、上記予混合領域内の混合気が自着火により燃焼する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−74488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように、燃料濃度が均一な予混合領域内に燃料が偏在する成層領域が形成されるように燃料を分割噴射し、その状態で着火アシストを行うようにした場合には、特にエンジン負荷がある程度高まり、噴射されるトータルの燃料が増大したときに、上記予混合領域および成層領域内の両方の混合気がほとんど同時に燃焼することにより、筒内圧力が急上昇し、大きな燃焼騒音が発生するおそれがある。また、部分的に酸素が極端に不足した状態で燃焼が起きるため、多量のスート(炭素質粒子)が発生するおそれもある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、着火アシストにより混合気の自着火を促進しながら、燃焼騒音やスートの増大を効果的に防止することが可能な火花点火式ガソリンエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、少なくとも一部がガソリンからなる燃料を燃焼室に噴射するインジェクタと、燃焼室に露出する電極から火花を放電する点火プラグと、上記インジェクタおよび点火プラグの動作を制御する制御手段とを備えるとともに、上記インジェクタから噴射された燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が少なくとも温間時に実行される火花点火式ガソリンエンジンであって、上記制御手段は、上記圧縮自己着火燃焼の実行領域の少なくとも一部に設定された特定運転領域において、前段噴射および後段噴射を含む複数回に分けて上記インジェクタから燃料を噴射させるとともに、上記前段噴射から後段噴射までの間の所定時期に、上記前段噴射および後段噴射の各噴射量よりも少量の燃料を上記インジェクタから噴射させかつ上記点火プラグに火花点火を行わせる着火アシストを実行するものであり、上記着火アシストにより上記点火プラグの電極付近に火炎が形成されるのをきっかけに、上記点火プラグの電極から離れた場所で上記前段噴射に基づく混合気が自着火による燃焼を開始するとともに、それに引き続いて上記後段噴射に基づく混合気が自着火により燃焼するように、上記点火プラグの電極位置や上記前段噴射および後段噴射のタイミングが設定されたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、前段噴射と後段噴射との間に着火アシストを行い、その着火アシストに基づく火炎により燃焼室の高温化を図ることで、上記前段噴射および後段噴射に基づく混合気の自着火を、上記火炎の発生に引き続いて起こすようにしたため、混合気の自着火が比較的起き難い運転領域であっても、自着火による燃焼(圧縮自己着火燃焼)を安定的に継続させることができる。
【0009】
しかも、上記着火アシスト用の燃料噴射として、前段噴射および後段噴射よりも少量の燃料を噴射し、その燃料に基づく火炎の形成後は、点火プラグの電極から離れた場所で前段噴射に基づく混合気を燃焼させるとともに、後段噴射に基づく混合気を続けて燃焼させるようにしたため、少量の燃料を用いた着火アシストにより燃焼室の高温化を図りながら、それ以外の燃料(前段噴射および後段噴射により噴射された燃料)に基づく混合気を、火炎伝播ではなく自着火により確実に燃焼させることができる。これにより、着火アシストによる安定燃焼を図りながら、自着火により燃焼する混合気の割合を高くして、熱効率をより向上させることができる。
【0010】
さらには、着火アシストによる火炎の形成をきっかけに、着火アシストよりも前に実行された前段噴射に基づく混合気をまず燃焼させ始め、その燃焼の開始後に、着火アシストよりも後に実行された後段噴射に基づく混合気を燃焼させるようにしたため、上記前段噴射および後段噴射に基づく混合気が同時に燃焼することがなく、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの増大を効果的に防止することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、上記前段噴射は、上記着火アシスト用の火花点火の時点で上記点火プラグの電極よりもボア径方向の外側に離間した位置に混合気が偏在するようなタイミングで燃料を噴射するものであり、上記着火アシスト用の燃料噴射は、上記着火アシスト用の火花点火の時点で上記点火プラグの電極周りに混合気が形成されるようなタイミングで燃料を噴射するものである(請求項2)。
【0012】
この構成によれば、着火アシストにより電極付近に形成される火炎とは独立して、前段噴射に基づく混合気を自着火により確実に燃焼させることができるため、自着火により燃焼する混合気の割合を効果的に高められるという利点がある。
【0013】
上記構成において、より好ましくは、上記後段噴射は、上記前段噴射に基づく燃焼が起きている時点で上記燃焼室の中央部に混合気が偏在するようなタイミングで燃料を噴射するものである(請求項3)。
【0014】
このように、前段噴射に基づく混合気を燃焼室の外周部で燃焼させ、かつ後段噴射に基づく混合気を燃焼室の中央部で燃焼させるようにした場合には、各噴射に基づく混合気を別々の空間に分離しながら独立して燃焼させることができ、燃焼騒音やスートの増大をより効果的に防止することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、エンジンの温間時に設定される上記特定運転領域に、エンジンの高負荷域の少なくとも一部が含まれる(請求項4)。
【0016】
この構成によれば、インジェクタからのトータルの燃料噴射量が多くなり、燃焼騒音の増大等が特に懸念される高負荷域において、上記のような分割噴射および着火アシストを用いた圧縮自己着火燃焼を実行することにより、燃焼騒音を効果的に低減しつつ、スートの発生量を抑制することができる。
【0017】
上記構成において、より好ましくは、エンジンの温間時の上記特定運転領域が、エンジンの高回転かつ高負荷寄りの領域に設定されるとともに、この特定運転領域よりも低回転側に、上記インジェクタから分割噴射された燃料に基づく混合気を上記着火アシストを伴うことなく自着火させる運転領域である非アシスト領域が設定され、上記特定運転領域と非アシスト領域との境界ラインが、エンジンの温度条件が高いほど高回転側に、温度条件が低いほど低回転側に設定される(請求項5)。
【0018】
この構成によれば、エンジンの温度条件が高いほど混合気の着火性が高まり、着火アシストなしでも混合気の自着火が可能な上限の回転速度が上昇することに合わせて、着火アシストを用いた圧縮自己着火燃焼の実行領域(特定運転領域)を高回転側へと狭めることにより、混合気の着火性を担保しながら、着火アシストの実行頻度を全体として低下させることができる。これにより、着火アシストのために使用される燃料の量が低減されるため、さらなる熱効率の向上を図ることができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、エンジンの温間時以外は、少なくともエンジンの高回転域を含む運転領域で、点火プラグの火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行される(請求項6)。
【0020】
この構成によれば、エンジンの温度条件がそれほど高くなく、しかも回転速度が高いために燃料の受熱期間が短いという環境下で、火花点火による安定的な燃焼を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の火花点火式ガソリンエンジンによれば、着火アシストにより混合気の自着火を促進しながら、燃焼騒音やスートの増大を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態にかかる火花点火式ガソリンエンジンの全体構成を示す図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】上記エンジンの制御系を示すブロック図である。
【図4】(a)〜(c)は、エンジンの運転状態に応じた燃焼形態を選択するための制御マップの一例を示す図である。
【図5】図4(a)〜(c)の各制御マップに対応する3段階のエンジンの温度条件を説明するための図である。
【図6】図4(a)の制御マップにおける第1運転領域(A1)で実行される制御の内容を説明するためのタイムチャートである。
【図7】図4(a)の制御マップにおける第2運転領域(A2)で実行される制御の内容を説明するためのタイムチャートである。
【図8】図4(a)の制御マップにおける第3運転領域(A3)で実行される制御の内容を説明するためのタイムチャートである。
【図9】(a)〜(f)は、上記第2運転領域(A2)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。
【図10】(a)〜(h)は、上記第3運転領域(A3)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。
【図11】上記第3運転領域(A3)で行われる複数段の燃料噴射がそれぞれどのような領域で燃焼するかを模式的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される往復ピストン型の多気筒ガソリンエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。なお、エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものであればよく、その中身は、全てガソリンであってもよいし、ガソリンにエタノール(エチルアルコール)等を含有させたものでもよい。
【0024】
上記ピストン5はコネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されており、上記ピストン5の往復運動に応じて上記クランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
【0025】
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成され、燃焼室6に吸気ポート9および排気ポート10が開口し、各ポート9,10を開閉する吸気弁11および排気弁12が、上記シリンダヘッド4にそれぞれ設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、各気筒につき上記吸気ポート9および排気ポート10が2つずつ設けられるとともに、上記吸気弁11および排気弁12も2つずつ設けられている。
【0026】
ここで、「燃焼室」とは、狭義には、ピストン5が上死点まで上昇したときに当該ピストン5の上方に形成される空間のことを指すが、本明細書でいう燃焼室6とは、ピストン5の上下位置にかかわらずその上方に形成される空間のことを指すものとする(広義の燃焼室)。
【0027】
上記吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13,14によりクランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
【0028】
上記吸気弁11用の動弁機構13には、CVVL15が組み込まれている。CVVL15は、連続可変バルブリフト機構(Continuous Variable Valve Lift Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11のリフト量を連続的に(無段階で)変更するものである。CVVL15は、エンジンの全ての吸気弁11のリフト量を変更できるように設けられており、このCVVL15が駆動されると、各気筒2において一対の吸気弁11のリフト量が同時に変更されるようになっている。
【0029】
このような構成のCVVL15は既に公知であり、その具体例として、吸気弁11駆動用のカムをカムシャフトの回転と連動して往復揺動運動させるリンク機構と、リンク機構の配置(レバー比)を可変的に設定するコントロールアームと、コントロールアームを電気的に駆動することによって上記カムの揺動量(吸気弁11を押し下げる量)を変更するステッピングモータとを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
【0030】
上記排気弁12用の動弁機構14には、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を有効または無効にするON/OFFタイプの可変バルブリフト機構(Variable Valve Lift Mechanism)であるVVL16が組み込まれている。すなわち、VVL16は、排気弁12を排気行程だけでなく吸気行程でも開弁可能にするとともに、この吸気行程中の排気弁12の開弁動作を実行するか停止するかを切り替える機能を有している。VVL16は、エンジンの全ての排気弁12に対応して設けられており、かつ、各気筒2の一対の排気弁12に対し、それぞれ個別に、吸気行程中の開弁動作を実行または停止できるように構成されている。
【0031】
このような構成のVVL16は既に公知であり、その具体例として、排気弁12駆動用の通常のカム(排気行程中に排気弁12を押し下げるカム)とは別に吸気行程中に排気弁12を押し下げるサブカムと、このサブカムの駆動力が排気弁12に伝達されるのを有効または無効にするいわゆるロストモーション機構とを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
【0032】
上記VVL16の作用により排気弁12が吸気行程中に開弁することで、高温の排気ガスが排気ポート10から燃焼室6に逆流し、燃焼室6の高温化が図られるとともに、燃焼室6に導入される空気(新気)の量が低減される。以下では、このような排気弁12の再開弁(吸気行程中の開弁)による排気ガスの残留操作を、後述する外部EGR装置30による排気ガスの還流操作(外部EGR)と区別して、内部EGRと称する。
【0033】
上記エンジン本体1のシリンダヘッド4には、点火プラグ20およびインジェクタ21が、各気筒2につき1組ずつ設けられている。
【0034】
上記インジェクタ21は、燃焼室6をその天井面(燃焼室6を覆うシリンダヘッド4の下面)から臨むように設けられている。インジェクタ21には燃料供給管23が接続されており、この燃料供給管23を通じて供給される燃料(ガソリンを主成分とする燃料)が上記インジェクタ21の先端部から噴射されるようになっている。
【0035】
上記インジェクタ21は、いわゆる多噴口型のインジェクタであり、その先端部に12個の噴口を有している。これらの噴口の設置部(インジェクタ21の先端部)は、燃焼室6天井の中央部に位置しており、各噴口は、その開口端がボア径方向外側の斜め下方を向くように穿孔されている。このため、上記インジェクタ21の各噴口から燃料が噴射された場合、その燃料は、ピストン5の冠面(上面)に近づくほどボア径方向の外側に拡がるように放射状に噴射されることになる。
【0036】
上記点火プラグ20は、燃焼室6を上方から臨むように上記インジェクタ21と隣接して配置されている。具体的に、この点火プラグ20は、燃焼室6に露出する電極を先端部に有し、図外の点火回路からの給電に応じて上記電極から火花を放電する。
【0037】
上記エンジン本体1の吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された排気ガス(既燃ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
【0038】
上記吸気通路28は、単一の通路からなる共通通路部28cと、共通通路部28cの下流側端部に設けられたサージタンク28bと、気筒2ごとに分岐して設けられ、上記サージタンク28bと各気筒2の吸気ポート9とを接続する分岐通路部28aとを有している。
【0039】
上記排気通路29は、単一の通路からなる共通通路部29cと、気筒2ごとに分岐して設けられ、上記共通通路部29cの上流側端部と各気筒2の排気ポート10とを接続する分岐通路部29aとを有している。
【0040】
上記吸気通路28および排気通路29の間には、排気通路29を通過する排気ガスの一部を吸気通路28に還流させる外部EGR装置30が設けられている。具体的に、外部EGR装置30は、吸気通路28および排気通路29の各共通通路部28c,29cどうしを連通させるEGR通路31と、EGR通路31の途中部に設けられ、その内部を通過する排気ガスの流量を制御するEGRバルブ32と、EGR通路31を通過する排気ガスの温度を冷却する水冷式のEGRクーラ33とを有している。
【0041】
上記吸気通路28の共通通路部28cには、吸気通路28を通過する吸入空気の量を調節するスロットル弁25が設けられている。ただし、当実施形態では、上記CVVL15により吸気弁11のリフト量が調整され、また、VVL16により燃焼室6に残留する排気ガスの量が調整され、さらには、外部EGR装置30により吸気通路28に還流される排気ガスの量が調整されることから、これらの操作に基づいて、スロットル弁25を操作することなく、燃焼室6に導入される空気(新気)の量を調整することが可能である。このため、スロットル弁25は、エンジンの停止時等を除いて、全開もしくはそれに近い値に維持される。
【0042】
上記排気通路29の共通通路部29cには、排気ガス浄化用の触媒コンバータ35が設けられている。触媒コンバータ35には例えば三元触媒が内蔵されており、排気通路29を通過する排気ガス中の有害成分が上記三元触媒の作用により浄化されるようになっている。
【0043】
図2は、上記ピストン5の冠面の形状を具体的に説明するための拡大図である。この図2および先の図1に示すように、ピストン5の冠面の中央部には、凹状のキャビティ40が設けられている。キャビティ40は、上記インジェクタ21と対向する上向きの開口部40aを上端に有しており、この開口部40aの面積(開口面積)は、キャビティ40の内部の最大断面積(キャビティ40の各高さ位置における水平方向断面積の最大値)よりも小さく設定されている。すなわち、キャビティ40は、その開口部40aから所定深さまでの範囲において、上方に至るほど内径が狭くなるように上窄まり状に形成されている。
【0044】
上記キャビティ40よりもボア径方向の外側に位置するピストン5の冠面には、平面視円環状の環状凹部41が、キャビティ40の周囲を取り囲むように設けられている。この環状凹部41は、ボア径方向の外側に至るほど高さが低くなるように形成されており、その最大深さ(最外周部の深さ)は、キャビティ40の深さよりも浅く設定されている。
【0045】
また、上記環状凹部41よりもさらにボア径方向の外側に位置するピストン5の最外周部には、上記環状凹部41よりも上方に突出した円環状の立壁部42が設けられている。この立壁部42の突出高さは、上記キャビティ40上端の開口部40aを囲む部分(リップ部)と同一に設定されている。
【0046】
再び図1に戻って、上記エンジン本体1のシリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通するウォータジャケット(図示省略)が設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
【0047】
上記シリンダブロック3には、クランク角センサSW2が設けられている。クランク角センサSW2は、クランク軸7と一体に回転するクランクプレート(図示省略)の回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
【0048】
上記シリンダヘッド4には、動弁機構14におけるカムシャフトの角度を検出するためのカム角センサSW3が設けられている。カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じて、気筒判別(各気筒が吸気、圧縮、膨張、排気のいずれの行程にあるかの判別)用のパルス信号を出力するものである。
【0049】
最後に、上記吸気通路28のサージタンク28bには、吸気通路28を通過する吸入空気の温度(外気温)を検出するための外気温センサSW4が設けられている。
【0050】
(2)制御系
図3は、エンジンの制御系を示すブロック図である。本図に示されるECU50は、エンジンの各部を統括的に制御するための装置(本発明にかかる制御手段)であり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0051】
上記ECU50には、エンジンに設けられた各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU50は、エンジンに設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、および外気温センサSW4と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW4からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別情報、および外気温といった種々の情報を取得する。
【0052】
また、ECU50には、車両に設けられた各種センサからの情報も入力される。例えば、車両には、運転者により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSW5が設けられており、このアクセル開度センサSW5により検出されたアクセル開度が、上記ECU50に入力される。
【0053】
上記ECU50が有するより具体的な機能について説明すると、上記ECU50は、その主な機能的要素として、判定手段51、インジェクタ制御手段52、吸気制御手段53、内部EGR制御手段54、外部EGR制御手段55、および点火制御手段56を有している。
【0054】
上記判定手段51は、エンジン水温センサSW1の検出値から特定される冷却水温と、外気温センサSW4の検出値から特定される外気温と、クランク角センサSW2の検出値から特定されるエンジン回転速度と、アクセル開度センサSW5の検出値から特定されるエンジン負荷(目標トルク)とに基づいて、エンジンをどのような態様で制御すべきかを都度判定するものである。なお、以下では、エンジンの冷却水温をTw、外気温をTa、エンジン回転速度をNe、エンジン負荷をTとする。
【0055】
図4(a)〜(c)は、上記各値Tw,Ta,Ne,Tに基づき決定される制御の種類を区分けして示す設定図(制御マップ)である。エンジンの運転中、上記判定手段51は、この図4(a)〜(c)の各制御マップA〜Cに従うようにエンジンの制御内容を決定する。
【0056】
上記3種類の制御マップA〜Cは、エンジンの温度条件によって選択的に使用される。ここで、エンジンの温度条件とは、エンジンがどの程度暖かい温度環境下で運転されているかを表すものであり、エンジンの冷却水温Twおよび外気温Taが高いほど温度条件が高く、冷却水温Twまたは外気温Taが低いほど温度条件が低いことになる。
【0057】
当実施形態では、エンジンの温度条件が、図5に示すように、温間(W1)、準温間(W2)、冷間(W3)の3段階に分けられ、それぞれの段階に対応して上記図4(a)〜(c)の制御マップA〜Cのいずれかが使用される。すなわち、エンジンの冷却水温Twを横軸に、外気温Taを縦軸にとった図5の2次元領域において、冷却水温Twおよび外気温Taがともに高い領域W1にあるときを温間、冷却水温Twおよび外気温Taがともに低い領域W3にあるときを冷間、各領域W1,W3の間の領域W2にあるときを準温間とすると、温度条件が温間(W1)に該当するときには図4(a)のマップAが選択され、準温間(W2)に該当するときには図4(b)のマップBが選択され、冷間(W3)に該当するときには図4(c)のマップCが選択されるようになっている。
【0058】
上記図4(a)〜(c)の各制御マップA〜Cの中身について簡単に説明しておく。例えば、エンジンの温間時に選択される図4(a)の制御マップAでは、エンジンの運転領域が5つの領域A1〜A5に分割されている。これら各領域A1〜A5は、そのいずれもが、ピストン5の圧縮作用により混合気を自着火させる圧縮自己着火燃焼の実行領域として規定されている。ただし、各領域A1〜A5では、インジェクタ21からの燃料噴射の形態や、点火プラグ20を用いた着火アシストの有無、さらには内部EGRまたは外部EGRの有無等が異なり、これらの制御の相違によって、上記各領域A1〜A5が設定されている。
【0059】
また、準温間時に選択される図4(b)の制御マップBでは、エンジンの運転領域が5つの領域B1〜B5に分割されているが、上記温間時の制御マップ(図5(a))のときと異なり、圧縮自己着火燃焼の実行領域は、高回転側の領域B3を除いた領域B1,B2,B4,B5のみであり、上記高回転側の領域B3では、点火プラグ20の火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行されるようになっている。
【0060】
最後に、冷間時に選択される図4(c)の制御マップCにおいては、圧縮自己着火燃焼の実行領域は設定されておらず、エンジンの全ての運転領域を包含する領域C1で、一律に火花点火燃焼が実行される。
【0061】
再び図3に戻って、上記インジェクタ制御手段52は、上記インジェクタ21に内蔵された図外のニードル弁(インジェクタ21の先端部の噴口を開閉する弁)を電磁的に開閉することにより、インジェクタ21から燃焼室6に噴射される燃料の噴射量や噴射時期を制御するものである。
【0062】
上記吸気制御手段53は、上記CVVL15を駆動して吸気弁11のリフト量(開弁量)を変更する制御を行うものである。
【0063】
上記内部EGR制御手段54は、上記VVL16を駆動して排気弁12の吸気行程中の開弁を実行または停止することにより、燃焼室6に排気ガスを残留(逆流)させる操作(内部EGR)の有無を切り替えるものである。なお、当実施形態において、排気弁12は1気筒あたり2つ設けられているので、吸気行程中に開弁する排気弁12の数を0,1,2の間で切り替えることにより、上記燃焼室6に残留する排気ガスの量(内部EGR量)を段階的に変化させることが可能である。
【0064】
上記外部EGR制御手段55は、上記EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度を調節することにより、排気通路29から吸気通路28に排気ガスを還流する操作(外部EGR)の有無を切り替えるとともに、その外部EGRによる排気ガスの還流量(外部EGR量)を制御するものである。
【0065】
上記点火制御手段56は、上記点火プラグ20による火花点火のタイミング(点火時期)等を制御するものである。ただし、当実施形態において、点火プラグ20は、エンジンが火花点火燃焼により運転される場合や、混合気の自着火をアシストする着火アシストが必要な場合にのみ作動し、それ以外のときは基本的に(カーボン除去のために行われる吸気行程や排気行程中の点火動作を除いて)作動しない。
【0066】
(3)各制御マップに基づく制御
次に、以上のような機能を有するECU50によりエンジンがどのように制御されるかについて説明する。エンジンの運転中は、ECU50により、上記図4(a)〜(c)の各制御マップA〜Cに沿った制御が実行される。各制御マップA〜Cは、上述したように、エンジンの温度条件に応じて選択的に使用される。すなわち、エンジンの運転が開始されると、上記ECU50の判定手段51が、エンジン水温センサSW1および外気温センサSW4の各検出値(冷却水温Twおよび外気温Ta)に基づいて、エンジンの温度条件が温間、準温間、冷間のいずれであるのか(図5のW1,W2,W3のいずれに該当するのか)を逐次判定し、その結果に基づいて、上記制御マップA〜Cの中から適切なマップを選択する。そして、上記クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW5の各検出値に基づいて、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転速度Neの各値から特定される制御マップ上でのポイント)を特定するとともに、その運転点が、上記選択した制御マップにおけるいずれの運転領域に該当するかを調べる。
【0067】
該当する運転領域が判別されると、その領域に応じた適切な燃焼が行われるように、上記ECU50の各制御手段52〜56がエンジンの各部を制御する。以下に、エンジン制御の具体的な内容を、制御マップA〜Cごとに説明する。
【0068】
(3−1)制御マップA(温間時)
まず、エンジンの温間時(冷却水温および外気温の条件が図5の領域W1に該当するとき)に選択される制御マップA(図4(a))に基づき実行される燃焼制御について説明する。この制御マップAでは、エンジンの運転領域における比較的負荷Tの低い領域に、回転速度Ne全域にわたって領域A1が設定されている。また、この領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが所定値よりも低い領域には、領域A2が設定されているとともに、上記領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが上記所定値よりも高い領域には、領域A3が設定されている。さらに、上記領域A1と領域A2との間、および、領域A1と領域A3との間には、それぞれ、領域A4および領域A5が設定されている。以下では、これら各領域A1、A2,A3,A4,A5を、それぞれ、第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3、第4運転領域A4、第5運転領域A5と称する。
【0069】
先にも述べたとおり、上記制御マップAにおける第1〜第5運転領域A1〜A5は、いずれも、ピストン5の圧縮作用により混合気を自着火させる圧縮自己着火燃焼の実行領域として規定されているが、燃料噴射の形態や、着火アシストの有無等がそれぞれ異なる。なお、図4(a)において、制御マップA上に記載されている斜めのライン(低回転側ほど負荷が高くなるように左上がりに傾斜したライン)Lxは、燃焼騒音の観点から設定された一括噴射の限界ラインである。詳細は後述する運転領域ごとの説明の中でも述べるが、この一括噴射の限界ラインLxよりも低負荷側に位置する第1運転領域A1および第4運転領域A4では、インジェクタ21から必要量の燃料が一括して噴射される一方、上記限界ラインLxよりも高負荷側に位置する残りの運転領域(A2,A3,A5)では、燃焼騒音を低減する観点から、必要量の燃料が2回以上に分けてインジェクタ21から噴射される(分割噴射)。
【0070】
また、上記第2運転領域A2と第3運転領域A3との境界ラインをLyとすると、この境界ラインLyは、エンジンの温度条件が高いほど高回転側(図4(a)の矢印W1の側)に設定される。すなわち、第2運転領域A2と第3運転領域とは、燃料の分割噴射が行われるという点では同じであるが、後述するように、混合気の自着火を促進するための着火アシストを行うか否かが異なる。これは、第2運転領域A2よりもエンジン回転速度Neが高い第3運転領域A3の方が、燃料の受熱期間(燃料が高温・高圧環境下に晒される時間)が短く、混合気が自着火し難いため、第3運転領域A3では着火アシストを実行し、第2運転領域A2では着火アシストを実行しないものである。ただし、着火アシストなしで混合気が自着火する領域は、エンジンの冷却水温Twおよび外気温Taがともに高く、エンジンの温度条件が高いほど(つまり温度条件が図5の領域W1の右上側にあるほど)、より高回転側まで拡大すると考えられる。そこで、これに合わせて、上記第2運転領域A2と第3運転領域A3との境界ラインLyを、エンジンの温度条件が高いほど高回転側(矢印W1の側)に設定するようにしている。逆に、上記境界ラインLyは、エンジンの温度条件が低いほど(冷却水温Twまたは外気温Taが低いほど)、低回転側(矢印W2の側)に設定される。
【0071】
以下、上記制御マップAの各運転領域A1〜A5でそれぞれ実行される燃焼制御について詳細に説明する。
【0072】
(i)第1運転領域A1
図6は、エンジンが図4(a)の第1運転領域A1で運転されている場合の燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。本図に示すように、第1運転領域A1では、圧縮行程よりも前に噴射された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮作用によって自着火させる、一般的な予混合圧縮自己着火燃焼が実行される。なお、図4(a)の制御マップでは、このような予混合圧縮自己着火燃焼(Homogeneous-Charge Compression Ignition)が実行されることを指して、第1運転領域A1内に「HCCI」と表記している。
【0073】
具体的に、上記第1運転領域A1では、吸気行程中の所定時期にインジェクタ21から燃焼室6に燃料が噴射(P)され、この燃料噴射Pにより噴射された燃料と、吸気通路28から燃焼室6に導入される空気(新気)とからなる混合気が、ピストン5の圧縮作用により高温、高圧化し、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間のTDC)付近で自着火する。すると、このような自着火に基づき、波形Qaに示すような熱発生を伴う燃焼が生じることになる。
【0074】
ただし、第1運転領域A1は、負荷Tが比較的低く、インジェクタ21から噴射される燃料の量が少ないため、筒内温度を意図的に上昇させないと、失火が起きるおそれがある。そこで、上記第1運転領域A1では、VVL16を駆動して排気弁12を吸気行程中に開弁させることにより、燃焼室6で生成された排気ガスを燃焼室6に逆流させる内部EGRが実行される。すなわち、排気弁12は、通常、排気行程のみで開弁するが(図6のリフトカーブEX)、VVL16の駆動に基づき排気弁12を吸気行程でも開弁させることにより(リフトカーブEX’)、排気ポート10から燃焼室6に排気ガスを逆流させる。このように、高温の排気ガスを燃焼室6に逆流(残留)させることで、燃焼室6を高温化して、混合気の自着火を促進する。なお、燃焼室6に残留する排気ガスの量(内部EGR量)は、低負荷側ほど多く、高負荷側ほど少なく設定される。そのための制御として、例えば、第1運転領域A1における低負荷域(無負荷に近い領域)では、吸気行程中に開弁する排気弁12の数が2つとされ、それよりも負荷が高くなると、開弁数が1つに減らされる。
【0075】
上記のように、第1運転領域A1では、排気弁12の再開弁(吸気行程中の開弁)に基づく内部EGRが実行されるため、外部EGRについては停止される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度が全閉に設定されることにより、排気通路29から吸気通路28への排気ガスの還流が停止される。
【0076】
また、上記第1運転領域A1では、燃焼室6内の混合気の空燃比(実空燃比)を理論空燃比(14.7)で割った値である空気過剰率λが、2以上という大幅にリーンな値に設定される。そのため、CVVL15の駆動により吸気弁11(リフトカーブIN)のリフト量を増減する制御が実行され、燃焼室6に導入される新気の量が、上記インジェクタ21からの燃料噴射量に対しかなり過剰になるように制御される。このように大幅にリーンに設定された混合気を燃焼させた場合、燃焼温度が大幅に低下するため、冷却損失を低減して熱効率(燃費)を向上させることができる。なお、λ≧2にまでリーンになると、三元触媒によるNOxの浄化作用はほとんど期待できなくなるが、λ≧2での燃焼により生じるNOx量(生のNOx量)は大幅に少なくなるため、三元触媒以外に特別な触媒(例えばNOxトラップ触媒)を設けなくても、排気ガス中に含まれるNOxの量を十分に小さい値に抑制することができる。
【0077】
(ii)第2運転領域A2
上記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが比較的低い領域に設定された第2運転領域A2(図4(a))では、図7に示すような制御が実行される。すなわち、第2運転領域A2では、圧縮上死点付近とそれより前の圧縮行程中の所定時期とに設定された2回の噴射タイミング(P1,P2)に分けてインジェクタ21から燃料を噴射させ、それぞれの燃料に基づく混合気を自着火により燃焼させる制御が実行される。なお、後述する第3運転領域A3のときと異なり、第2運転領域A2では、点火プラグ20を用いた着火アシストは実行されない。このように、分割噴射に基づく混合気を着火アシストを伴うことなく自着火させる第2運転領域A2は、本発明にかかる「非アシスト領域」に相当する。図4(a)の制御マップでは、このような分割噴射に基づく(着火アシストなしの)圧縮自己着火燃焼が実行されることを指して、第2運転領域A2内に「多段CI」と表記している。また、以下の説明では、圧縮行程中に実行される1回目の燃料噴射P1を前段噴射、それより後の圧縮上死点付近(図例では膨張行程のごく初期)に実行される2回目の燃料噴射P2を後段噴射と称する。
【0078】
具体的に、上記第2運転領域A2において、前段噴射P1のタイミングは、圧縮上死点(TDC)を基準として、その上死点前(BTDC)60〜50°CA(CAはクランク角を表す)程度の期間内に設定され、後段噴射P2のタイミングは、上死点後(ATDC)0〜10°CA程度の期間内に設定される。また、前段噴射P1および後段噴射P2による各噴射量の割合については、前段噴射P1が10%以下で後段噴射P2が90%以上に設定されるパターンから、前段噴射P1が60%程度で後段噴射P2が40%程度に設定されるパターンまで、運転条件等により適宜の割合に設定される。
【0079】
上記前段噴射P1および後段噴射P2によるトータルの噴射量は、第2運転領域A2に対応する高い負荷に合わせて、第1運転領域A1のとき(燃料噴射Pによる噴射量)よりも増大される。また、このように増大設定される燃料噴射量に応じた多量の新気を燃焼室6に導入すべく、CVVL15が駆動されて吸気弁11のリフト量が増大される(リフトカーブIN)。そして、上記のように分割噴射された燃料と空気(新気)との混合気が圧縮上死点付近で自着火することにより、図中の波形Qbに示すように、時期の異なる2つのピークを有するような熱発生を伴う燃焼が生じる。なお、このような波形Qbの形状はあくまで概念的なものであり、実際には2つのピークが明確に現れない場合も当然にあり得る。
【0080】
上記のように前段噴射P1および後段噴射P2に分けて燃料を噴射するようにしたのは、燃焼騒音等の問題を考慮してのものである。すなわち、燃料噴射量の多い上記第2運転領域A2では、燃料を1回で噴射してしまうと、噴射された多量の燃料が短時間で全て燃焼する急激な燃焼が起きることにより、筒内圧力が急上昇し、燃焼騒音が著しく増大する等の事態を招くおそれがある。そこで、上記のように燃料を分割噴射することにより、比較的マイルドな燃焼が継続的に起きるようにして、上記のような燃焼騒音の増大等を回避するようにしている。
【0081】
ただし、たとえ燃料噴射を複数回に分割しても、インジェクタ21の配置やピストン5の形状によっては、各回に噴射された燃料どうしが混じり合い、その混じり合った燃料がほとんど同時に燃焼することがある。このように、噴射タイミングが異なる燃料どうしが混じり合った状態で燃焼が起きると、燃焼騒音が過大になるばかりでなく、燃焼時に必要な酸素が局所的に著しく不足し、多量のスート(炭素質粒子)が発生するおそれがある。
【0082】
このような問題に対し、当実施形態では、インジェクタ21が燃焼室6天井の中央部に配置されるとともに、ピストン5の冠面がキャビティ40等を有する特殊な形状に形成されているため、分割噴射された燃料が一緒に燃焼してしまうことがなく、上記のような燃焼騒音の増大やスートの大量発生を回避することが可能である(その詳細なメカニズムについては後述する)。
【0083】
また、上記第2運転領域A2では、上記のような燃料の分割噴射制御に加えて、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を無効にするようにVVL16が駆動され、排気弁12の吸気行程中の開弁が停止される。これにより、排気ガスが燃焼室6に逆流することがほとんどなくなり、内部EGRが禁止される。
【0084】
一方、第2運転領域A2では、上記のように禁止された内部EGRに代わり、外部EGRが実行される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32が所定開度まで開かれることにより、排気通路29から吸気通路28へ排気ガスを還流させる操作が実行される。
【0085】
このように、内部EGRから外部EGRへと切り替えるのは、燃焼室6の過度の高温化を防いで異常燃焼を回避するためである。すなわち、第2運転領域A2は、第1運転領域A1よりもエンジン負荷Tが高く、噴射されるトータルの燃料が多いため、燃焼に伴い発生する熱量が増大し、燃焼室6が高温化する傾向にある。このため、仮に第2運転領域A2でも内部EGRを継続したのでは、燃焼室6がますます高温化し、プリイグニッションやノッキング等の異常燃焼が起きるおそれがある。そこで、内部EGRから外部EGRに切り替えて、EGRクーラ33付きのEGR通路31を通過した(つまりEGRクーラ33により冷却された)排気ガスを吸気通路28に還流させることにより、燃焼室6の過度な高温化を防ぎ、上記のような異常燃焼を回避するようにしている。ただし、第2運転領域A2であっても、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは停止される。
【0086】
ここで、以上のような制御に基づき実現される第2運転領域A2での燃焼形態について、図9(a)〜(f)を参照しつつより具体的に説明する。図9(a)は、インジェクタ21から前段噴射P1が行われたときの状態を示している。このときのピストン5は、上述したように、圧縮上死点前(BTDC)60〜50°CA程度に位置している。このような位置にあるピストン5の冠面に向けて、上記インジェクタ21の先端部に備わる複数(12個)の噴口から放射状に燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、ピストン5の冠面のボア径方向の外側寄りに設けられた環状凹部41に向かうことになる。
【0087】
上記ピストン5の環状凹部41に向けて噴射された燃料(噴霧)は、その後、ピストン5の最外周部に設けられた立壁部42により上方にガイドされながら分散し、その分散した燃料に基づき、図9(b)に示すように、燃焼室6の外周部(主に環状凹部41の内部およびその上方空間)に混合気X1が形成される。ここで形成される混合気X1の空燃比は、燃焼室6の外周部だけの局所的な空燃比として、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。すなわち、理論空燃比程度の濃さの混合気X1が燃焼室6の外周部に局所的に形成されるように、上記前段噴射P1の噴射時期および噴射量が設定されている。
【0088】
もちろん、上記前段噴射P1によって、燃焼室6の外周部以外(例えばキャビティ40の内部)にも微量の燃料が存在し得るが、その燃料の濃度は、上記燃焼室6の外周部に比べれば極めて薄いものである。言い換えれば、前段噴射P1が実行された時点で、燃焼室6の外周部には、キャビティ40の内部よりもリッチな混合気X1が形成されていることになる。
【0089】
上記のように燃焼室6の外周部に形成された混合気X1は、ピストン5の上昇により圧縮されて高温・高圧化し、圧縮上死点付近までピストン5が達したところで、図9(c)に示すように自着火により燃焼する(圧縮自己着火)。なお、同図では、混合気X1が燃焼している領域を黒またはグレーに着色して示している。この混合気X1が燃焼する領域Y1は、上記混合気X1が形成された領域に対応して、燃焼室6の外周部分に限られる。
【0090】
上記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それと前後して(図例では前段噴射P1に基づく燃焼開始とほぼ同時に)、図9(d)に示すような後段噴射P2が実行される。この後段噴射P2のタイミングは、上述したように、ピストン5がその上昇端に至った時点(圧縮上死点)とほぼ同時かその直後のATDC0〜10°CA程度である。このようなタイミング(圧縮上死点付近)でインジェクタ21から燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、ピストン5の冠面の中央部に設けられたキャビティ40の内部へと向かうことになる。すると、このキャビティ40の内部に向けて噴射された燃料(噴霧)は、キャビティ40の周壁に沿って上方にガイドされながら分散し、その分散した燃料に基づき、図9(e)に示すように、燃焼室6の中央部(主にキャビティ40の内部)に混合気X2が形成される。この混合気X2の局所的な空燃比も、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1と同様、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。言い換えれば、上記後段噴射P2により、キャビティ40の内部には、前段噴射P1の実行時よりもリッチな(より具体的には、前段噴射P1により噴射された燃料に基づきキャビティ40内に形成される極めて薄い混合気の空燃比よりもリッチな)混合気X2が形成されていることになる。
【0091】
上記のような後段噴射P2に基づく混合気X2は、ピストン5が圧縮上死点に近く、しかも前段噴射P1に基づく混合気X1の燃焼が既に起きている状態で形成されるものである。このため、上記混合気X2は、図9(f)に示すように、後段噴射P2の後、短い時間で自着火に至り、燃焼する。この混合気X2が燃焼する領域Y2は、上記混合気X2が形成された領域に対応して、燃焼室6の中央部に限られる。すなわち、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1が、環状凹部41の設置部に対応する燃焼室6の外周部分(燃料領域Y1)で燃焼するのに対し、後段噴射P2に基づく混合気X2は、キャビティ40の設置部に対応する燃焼室6の中央部(上記燃料領域Y1よりもボア径方向の中心寄りに位置する燃焼領域Y2)で燃焼することになる。
【0092】
以上のように、第2運転領域A2では、負荷Tに応じた比較的多量の燃料を複数回(前段噴射P1および後段噴射P2)に分けて噴射することで、別々の空間に混合気(X1,X2)を形成し、それらを独立して自着火、燃焼させるようにしている。このような制御が行われる上記第2運転領域A2では、分割噴射された燃料が混じり合って同時に燃焼してしまうことがないため、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの増大を招く心配がない。しかも、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2は、それぞれ局所的にλ=1程度の空気過剰率に設定されるので、そのような環境下の燃焼により生成された排気ガスであれば、三元触媒のみによって十分に有害成分の浄化が可能である。
【0093】
(iii)第3運転領域A3
上記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ上記第2運転領域A2よりも回転速度Neが高い第3運転領域A3(図4(a))では、図8に示すような制御が実行される。すなわち、第3運転領域A3では、上記第2運転領域A2のときと同様、インジェクタ21からの燃料が複数回に分けて噴射されるが、上記第2運転領域A2のときとは異なり、前段噴射P1および後段噴射P2との間に、自着火を促進するための着火アシストが実行される。このように、燃料を分割噴射しつつ着火アシストを行うことにより混合気を自着火させる第3運転領域A3は、本発明にかかる「特定運転領域」に相当する。なお、図4(a)の制御マップでは、このような分割噴射および着火アシスト(Spark Asist)に基づく圧縮自己着火燃焼が実行されることを指して、第3運転領域A3内に「SA+多段CI」と表記している。
【0094】
具体的に、上記着火アシストとしては、圧縮行程中に実行される前段噴射P1と、圧縮上死点付近に実行される後段噴射P2との間の所定時期に、これら前段および後段噴射P1,P2の各噴射量よりも少量の燃料がインジェクタ21から噴射されるとともに(Pa)、その噴射Paの直後でかつ後段噴射P2よりも前に、点火プラグ20による火花点火Sが実行される。すると、このような着火アシストにより図8の波形Qc’のような少量の熱発生を伴う燃焼が生じるとともに、当該燃焼により燃焼室6が高温化するのをきっかけにして、続く波形Qcに示すように、上記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気が自着火により燃焼する。なお、以下では、着火アシストのために実行される少量の燃料噴射Pa(着火アシスト用の燃料噴射)のことをアシスト用噴射Pa、着火アシストのために実行される火花点火S(着火アシスト用の火花点火)のことをアシスト用点火Sと称する。
【0095】
上記アシスト用点火Sは、インジェクタ21の先端部(噴口)からアシスト用噴射Paとして噴射された燃料(噴霧)の先端が、点火プラグ20の電極の周辺を通過した直後のようなタイミング、つまり、点火プラグ21の電極の周りに上記アシスト用噴射Paに基づくリッチな混合気が存在するようなタイミングで実行される。なお、図1および図2に示したように、当実施形態では、インジェクタ21の先端部が燃焼室6天井の中央部に位置し、かつこのインジェクタ21の先端部からボア径方向の外側に少しずれた位置に点火プラグ20の電極が位置するように、インジェクタ21および点火プラグ20が近接して配置されているため、上記アシスト用噴射Paのタイミングから上記アシスト用点火Sのタイミングまでの時間は、かなり短いものとなる。ただし、インジェクタ21の先端部と点火プラグ20の電極との離間距離があまりに短いと、燃料がほとんど気化していない状態でアシスト用点火Sが実行されることになるため、上記離間距離は、少なくとも燃料の気化時間および空気との混合に必要な時間を確保できる程度の距離に設定される。一例として、インジェクタ21からの噴射圧力が30〜40MPa程度である場合に、インジェクタ21の先端中心から点火プラグの点火点(電極部の放電ギャップの中間点)までの距離は、10〜25mm程度に設定するのがよい。
【0096】
また、上述したように、インジェクタ21の先端部には12個の噴口が設けられるが、これら12個の噴口から放射状に噴射された燃料により形成される12本の噴霧と、上記点火プラグ20との位置関係としては、上記点火プラグ20の電極が、上記12本の噴霧のうちの2本の噴霧の間に位置するように配置されることが望ましい。このように、2本の噴霧の間に点火プラグ20の電極が配置されることで、未気化の燃料が電極に付着して着火性が損なわれることが回避される。
【0097】
なお、第3運転領域A3では、上記のような着火アシストに関する制御を除けば、第2運転領域A2のときとほぼ同様の制御が実行される。例えば、第3運転領域A3では、排気弁12を吸気行程中に開弁させる(排気ガスを燃焼室6に逆流させる)内部EGRが禁止されるとともに、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。ただし、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは禁止される。
【0098】
図10(a)〜(h)は、以上のような着火アシストに基づく圧縮自己着火燃焼が行われる第3運転領域A3での燃焼の様子を模式的に示す図である。図10(a)に示すように、第3運転領域A3では、上述した第2運転領域A2での前段噴射P1(図9(a))のタイミング(BTDC60〜50°CA程度)とほぼ同じタイミングで前段噴射P1が実行され、この前段噴射P1により、燃焼室6の外周部に、理論空燃比(λ=1)程度の空燃比をもった混合気X1が形成される。ただし、上記前段噴射P1のタイミングは、厳密には、上記第2運転領域A2での前段噴射P1のタイミングよりもわずかに早い時期に設定される。これは、第3運転領域A3では、第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、ピストンスピードが速いからである。つまり、ピストンスピードが速いと、インジェクタ21からの噴射燃料がピストン5の冠面付近に達するまでの間にピストン5が比較的大きく移動するため、ピストン5上の同様の位置に燃料(噴霧)を届かせようとすれば、インジェクタ21からの噴射タイミングをわずかにでも早める必要がある。このことは、後述する後段噴射P2の場合でも同様である。
【0099】
上記前段噴射P1の後は、図10(c)に示す着火アシストが実行される。すなわち、上記前段噴射P1の後、ピストン5がある程度上昇した時点(例えばBTDC30〜10°CA程度)で、着火アシスト用の燃料噴射であるアシスト用噴射Paが実行されるとともに、その直後に、アシストの火花点火であるアシスト用点火Sが実行される。すると、上記アシスト用噴射Paにより噴射された燃料に基づいて、点火プラグ20の電極周りにリッチな混合気が形成されるとともに、その混合気が上記アシスト用点火Sを火種として火炎を形成することにより、図10(d)に示すように、点火プラグ20の電極周りに混合気の燃焼領域Yaが局所的に形成される。
【0100】
上記のようにして着火アシストによる火炎(燃焼領域Ya)が生じると、その火炎による燃焼室6の高温化と、ピストン5の上昇による圧縮作用とが相俟って、燃焼室6の外周部に形成されていた上記前段噴射P1に基づく混合気X1が、図10(e)に示すように、圧縮上死点付近で自着火により燃焼する。この混合気X1の燃焼領域Y1は、燃焼室6の外周部分に限られ、点火プラグ20の電極からはボア径方向の外側に離間した領域となる。
【0101】
上記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それ以降は、上記第2運転領域A2のときと同様にして燃焼が進行していく。すなわち、上記前段噴射P1に基づく燃焼の開始とほぼ同時に、図10(f)に示すような後段噴射P2が実行され、その後段噴射P2に基づき、燃焼室6の中央部(主にキャビティ40の内部)に、理論空燃比(λ=1)程度の空燃比をもった混合気X2が形成される。すると、この混合気X2は、短い時間で自着火に至り、燃焼室6の中央部に上記混合気X2の燃焼領域Y2を形成する。
【0102】
以上のように、第3運転領域A3では、前段噴射P1および後段噴射P2の間に、点火プラグ20を用いて着火アシストを実行し、その着火アシストにより燃焼室6を高温化することにより、上記着火アシストに引き続いて上記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2をそれぞれ自着火により燃焼させるようにした。このように、着火アシストにより混合気の自着火を促進するようにした第3運転領域A3では、上述した第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、燃料の受熱期間が短くなる状況であるにもかかわらず、混合気が確実に自着火により燃焼し、失火が起きることが回避される。しかも、上記第2運転領域A2のときと同様、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2が別々の空間で独立して自着火、燃焼するため、燃焼騒音の増大やスートの発生についても回避される。
【0103】
図11は、上記第3運転領域A3で、着火アシストに基づく混合気の燃焼領域Yaと、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気の燃焼領域Y1,Y2との位置関係を模式的に示すための平面図である。上述した第3運転領域A3での燃焼形態によれば、図11のように、まず着火アシストに基づく燃焼領域Yaが点火プラグ20の周辺に限って形成され、これとほぼ重ならない燃焼室6の外周部に、前段噴射P1に基づく燃焼領域Y1が形成され、さらに、後段噴射P2に基づく燃焼領域Y2が、上記燃焼領域Y1よりもボア径方向の内側に形成される。これら各燃焼領域は、Ya→Y1→Y2の順に形成され、その発生位置または発生時期は、ほとんど重なり合うことがない。
【0104】
(iv)第4運転領域A4および第5運転領域A5
上記第4運転領域A4および第5運転領域A5は、第1運転領域A1と第2運転領域A2との間、または第1運転領域A1と第3運転領域A3との間に位置する領域であるから、上述の(i)〜(iii)で説明した各制御内容の中間的な制御が実行される。
【0105】
具体的に、第4運転領域A4では、インジェクタ21からの燃料噴射時期が、第1運転領域A1での燃料噴射時期よりもリタードされ、例えば圧縮行程中の1回に設定される。そのときの噴射量は、第1運転領域A1のときと同様、空気過剰率λが2以上になるように設定される。また、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。
【0106】
一方、第5運転領域A5では、圧縮行程中の所定時期およびそれより後の圧縮上死点付近の2回に分けて燃料を噴射する制御が実行される。そのときの噴射量は、空気過剰率λが局所的にλ=1程度になるように設定される。また、吸気行程中の排気弁12の開弁により排気ガスを燃焼室6に逆流させる内部EGRが実行される。
【0107】
(3−2)制御マップB(準温間時)
次に、エンジンの準温間時(冷却水温Twおよび外気温Taの条件が図5の領域W2に該当するとき)に選択される制御マップB(図4(b))に基づき実行される燃焼制御について説明する。この制御マップBでは、エンジン回転速度Neが比較的高い領域に、負荷Tの全域にわたって領域B3が設定されている。また、この領域B3よりも回転速度Neが低く、かつ負荷TがラインLx(一括噴射の限界ラインLx)よりも低い領域には、領域B1が設定されているとともに、この領域B1よりも負荷Tが高くかつ上記領域B3よりも回転速度Neが低い領域には、領域B2が設定されている。さらに、上記領域B1と領域B2との間には、領域B4および領域B5が設定されている。以下では、これら各領域B1、B2,B3,B4,B5を、それぞれ、第6運転領域B1、第7運転領域B2、第8運転領域B3、第9運転領域B4、第10運転領域B5と称する。これら各運転領域B1〜B5では、それぞれ次のような燃焼制御が実行される。
【0108】
(i)第8運転領域B3
上記制御マップBに基づく制御において、先の制御マップAのときと最も異なるのは、高回転側に設定された第8運転領域B3で、圧縮自己着火燃焼ではなく、点火プラグ20の火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行されることである。すなわち、エンジンの温度条件が相対的に低い準温間時は、温間時のときと比べて、筒内温度が低くなりがちであるため、特に燃料の受熱期間が短い高回転域において、混合気の自着火が困難になると考えられる。そこで、準温間時に使用される上記制御マップBでは、その高回転側の領域に、火花点火燃焼の実行領域である第8運転領域B3が設定されている。なお、第8運転領域B3で火花点火燃焼を実行する場合の混合気の空燃比は、理論空燃比(λ=1)もしくはその近傍に設定される。
【0109】
ここで、上記第8運転領域B3と他の運転領域(B1,B2,B5)との境界ラインをLzとすると、この境界ラインLzは、エンジンの温度条件に応じて可変的に設定される。すなわち、混合気の自着火が困難な領域は、エンジンの温度条件が低いほど(つまり図5の領域W2の左側または下側ほど)低回転側まで拡大するため、これに合わせて、混合気の自着火(圧縮自己着火燃焼)の限界ラインである上記境界ラインLzも、エンジンの温度条件が低いほど低回転側に設定される。
【0110】
(ii)その他の運転領域
上記SI燃料の実行領域である第8運転領域B3よりも低回転側に設定された他の運転領域(B1,B2,B4,B5)では、いずれの場合でも、混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が実行される。
【0111】
例えば、上記運転領域のうち、最も低負荷側に設定された第6運転領域B1では、上記制御マップAの第1運転領域A1のときと同じく、内部EGRにより燃焼室6の高温化を図りながら、圧縮行程よりも前にインジェクタ21から燃料を一括噴射することにより、圧縮上死点付近で混合気を自着火させる制御(HCCI)が実行される。
【0112】
上記第6運転領域B1よりも高負荷側に設定された第7運転領域B2は、燃焼騒音の観点から設定された一括噴射の限界ラインLxよりも高負荷側に位置するため、この第7運転領域B2では、圧縮行程から膨張行程にかけた複数回に分割して燃料を噴射する制御が実行される。また、このように分割噴射された燃料を、温間時(制御マップAのとき)よりも自着火し難い環境下で確実に自着火させるために、点火プラグ20を用いた着火アシストが実行される。すなわち、第7運転領域B2では、上記制御マップAの第3運転領域A3のときと同じく、燃料を分割噴射しつつ着火アシストを行うことにより、混合気を自着火させる制御(SA+多段CI)が実行される。なお、この第7運転領域B2は、上記第3運転領域A3と同じく、本発明にかかる「特定運転領域」に相当する。
【0113】
次に、第9運転領域B4および第10運転領域B5については、上記第6運転領域B1および第7運転領域B2の間に位置することから、両者の中間的な制御が実行される領域である。ただし、ここではその具体的な中身については説明を省略する。
【0114】
(3−3)制御マップC(冷間時)
最後に、エンジンの冷間時(冷却水温Twおよび外気温Taの条件が図5の領域W3に該当するとき)に選択される制御マップC(図4(c))における燃焼制御について説明する。この制御マップCでは、エンジンの運転領域の全域が、火花点火燃焼の実行領域C1として設定されている。すなわち、エンジンが冷間状態にあるときは、もはや混合気を自着火により燃焼させることは不可能であるため、エンジンの運転領域の全域で、圧縮自己着火燃焼ではなく、点火プラグ20の火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行される。
【0115】
(4)作用効果等
以上説明したように、当実施形態の火花点火式ガソリンエンジンでは、温間時もしくは準温間時に、少なくとも一部の運転領域で、混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が実行される。この圧縮自己着火燃焼の実行領域のうち、特定の運転領域(温間時の第3運転領域A3や準温間時の第7運転領域B2)では、前段噴射P1および後段噴射P2に分けてインジェクタ21から燃料が噴射されるとともに、前段噴射P1から後段噴射P2までの間の所定時期に、前段噴射P1および後段噴射P2の各噴射量よりも少量の燃料をインジェクタ21から噴射させかつ点火プラグ20に火花点火を行わせる着火アシストが実行される(図8および図10(c)参照)。すると、この着火アシストによって上記点火プラグ20の電極付近に火炎(図10(d)のYa)が形成され、これをきっかけにして、点火プラグ20の電極から離れた場所で上記前段噴射P1に基づく混合気X1が自着火による燃焼を開始するとともに(図10(e)のY1)、それに引き続いて上記後段噴射P2に基づく混合気X2が自着火により燃焼する(図10(h)のY2)。このような構成によれば、着火アシストにより混合気の自着火を促進しながら、燃焼騒音やスートの増大を効果的に防止することができる。
【0116】
すなわち、上記実施形態では、前段噴射P1と後段噴射P2との間に着火アシストを行い、その着火アシストに基づく火炎により燃焼室6の高温化を図ることで、上記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2の自着火を、上記火炎の発生に引き続いて起こすようにしたため、混合気の自着火が比較的起き難い運転領域であっても、自着火による燃焼(圧縮自己着火燃焼)を安定的に継続させることができる。
【0117】
しかも、上記着火アシスト用の燃料噴射(アシスト用噴射Pa)として、前段噴射P1および後段噴射P2よりも少量の燃料を噴射し、その燃料に基づく火炎の形成後は、点火プラグ20の電極から離れた場所(当実施形態では燃焼室6の外周部)で前段噴射P1に基づく混合気X1を燃焼させるとともに(図10(e))、後段噴射P2に基づく混合気X2を続けて燃焼させるようにしたため(図10(h))、少量の燃料を用いた着火アシストにより燃焼室6の高温化を図りながら、それ以外の燃料(前段噴射P1および後段噴射P2により噴射された燃料)に基づく混合気X1,X2を、火炎伝播ではなく自着火により確実に燃焼させることができる。これにより、着火アシストによる安定燃焼を図りながら、自着火により燃焼する混合気の割合(1燃焼サイクル中に形成される混合気のうち火炎伝播ではなく自着火により燃焼する混合気の割合)を高くして、熱効率をより向上させることができる。
【0118】
さらには、着火アシストによる火炎の形成をきっかけに、着火アシストよりも前に実行された前段噴射P1に基づく混合気X1をまず燃焼させ始め、その燃焼の開始後に、着火アシストよりも後に実行された後段噴射P2に基づく混合気X2を燃焼させるようにしたため、上記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2が同時に燃焼することがなく、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの増大を効果的に防止することができる。
【0119】
特に、上記実施形態では、着火アシスト用の火花点火(アシスト用点火S)の時点で、点火プラグ20の電極よりもボア径方向の外側に離間した位置(燃焼室6の外周部)に前段噴射P1に基づく混合気X1が偏在し、かつ上記点火プラグ20の電極周りに上記アシスト用噴射Paに基づく混合気が形成されるように、上記前段噴射P1およびアシスト用噴射Paのタイミングをそれぞれ設定したため、着火アシストにより電極付近に形成される火炎(図10(d)のYa)とは独立して、前段噴射P1に基づく混合気X1を自着火により確実に燃焼させることができ(図10(e)のY1)、自着火により燃焼する混合気の割合を効果的に高められるという利点がある。
【0120】
しかも、上記実施形態では、前段噴射P1に基づく燃焼が起きている時点で、燃焼室6の中央部に後段噴射P2に基づく混合気X2が偏在するように、当該後段噴射P2のタイミングを設定したため、前段噴射P1に基づく混合気X1を燃焼室6の外周部で燃焼させ、かつ後段噴射P2に基づく混合気X2を燃焼室6の中央部で燃焼させることにより、各噴射P1,P2に基づく混合気X1,X2を別々の空間に分離しながら独立して燃焼させることができ、燃焼騒音やスートの増大をより効果的に防止することができる。
【0121】
さらに、上記実施形態では、インジェクタ21として、燃焼室6天井の中央部から放射状に燃料(ガソリンを主成分とする燃料)を噴射する多噴口型のインジェクタを設けるとともに、このインジェクタ21と対向するピストン5冠面の中央部に凹状のキャビティ40を設けたため、このキャビティ40を利用して、上記のような混合気X1,X2の燃焼独立性をより確実に担保することができる。
【0122】
より具体的に、上記実施形態では、圧縮行程中に前段噴射P1を実行することにより、その噴射の時点で、上記ピストン5のキャビティ40よりもボア径方向の外側に位置する燃焼室6の外周部に、キャビティ40の内部よりもリッチな(λ=1程度の)混合気X1を形成するとともに(図10(b))、上記前段噴射P1よりも後の圧縮上死点付近で後段噴射P2を実行することにより、上記キャビティ40の内部に、上記前段噴射P1の実行時よりもリッチな(混合気X1と同様のλ=1程度の)混合気X2を形成するようにした(図10(g))。このように、主にキャビティ40の内と外に分けて混合気X1,X2を形成し、それらの混合気X1,X2を圧縮上死点付近で独立して自着火、燃焼させるようにした場合には、上記前段噴射P1および後段噴射P2に分けて噴射された燃料が混じり合って同時に燃焼してしまうといったことがなく、燃焼の独立性が十分に担保されるため、燃焼騒音やスートの増大をより確実に防止することができる。
【0123】
特に、上記実施形態では、キャビティ40よりもボア径方向外側のピストン5冠面に環状凹部41を設けたため、上記前段噴射P1によって噴射された燃料を上記環状凹部41に導入することにより、その環状凹部41の設置部に対応する燃焼室6の外周部に、上記前段噴射P1に基づく混合気X1を確実に留めておくことができる。この結果、当該前段噴射P1に基づく混合気X1を、その後の後段噴射P2に基づきキャビティ40内に形成される混合気X2から明確に分離することができ、それらの混合気X1,X2の燃焼独立性をさらに高めることができる。
【0124】
また、上記実施形態では、図4(a)に示した制御マップAが使用されるエンジンの温間時に、エンジンの高回転かつ高負荷寄りに設定された第3運転領域A3(特定運転領域)を、上記着火アシストおよび分割噴射に基づく圧縮自己着火燃焼の実行領域とし、上記第3運転領域A3よりも低回転側に設定された第2運転領域A2(非アシスト領域)を、着火アシストなしの圧縮自己着火燃焼(分割噴射に基づく混合気を着火アシストなしで自着火させる燃焼)の実行領域とした。そして、上記第2運転領域A2と第3運転領域A3との境界ラインLyを、エンジンの温度条件が高いほど高回転側に(矢印W1)、温度条件が低いほど低回転側に設定するようにした(矢印W2)。このような構成によれば、エンジンの温度条件が高いほど混合気の着火性が高まり、着火アシストなしでも混合気の自着火が可能な上限の回転速度が上昇することに合わせて、着火アシストを用いた圧縮自己着火燃焼の実行領域(第3運転領域A3)を高回転側へと狭めることにより、混合気の着火性を担保しながら、着火アシストの実行頻度を全体として低下させることができる。これにより、着火アシストのために使用される燃料の量が低減されるため、さらなる熱効率の向上を図ることができる。
【0125】
また、上記実施形態では、図4(b)(c)に示した制御マップB,Cが使用されるエンジンの準温間時または冷間時に、少なくともエンジンの高回転域を含む運転領域(マップBの第8運転領域B3、およびマップCの全運転領域C1)で、点火プラグ20の火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼を実行するようにしたため、エンジンの温度条件がそれほど高くなく、しかも回転速度Neが高いために燃料の受熱期間が短いという環境下で、失火を招くことなく安定的に混合気を燃焼させることができる。
【0126】
なお、上記実施形態では、エンジンの温度条件を、図5に示すように、温間(W1)、準温間(W2)、冷間(W3)の3段階に分け、それぞれの段階のときに、図4(a)〜(c)に示した3種類の制御マップA,B,Cのいずれかに従ってエンジンを制御するものとしたが、これら制御マップのバリエーションはあくまで一例に過ぎず、他のバリエーションも当然に考えられる。例えば、温間と準温間の間、または準温間と冷間の間に別の段階を規定し、そのような段階では、上記制御マップA〜Cとは異なる別の態様の制御マップを使用するようにしてもよい。
【0127】
また、上記実施形態では、上記制御マップA,B,Cを使い分ける基準となるエンジンの温度条件を、エンジンの冷却水温Twおよび外気温Taの2種類の温度値に基づき特定するようにしたが、エンジンの温度条件を特定するためのパラメータは、混合気の着火性に影響する温度に関するものであればよく、上記冷却水温Twおよび外気温Taの2種類に限られない。例えば、エンジンの吸気ポート9を通過する空気の温度のみによって、エンジンの温度条件の高低を判断してもよい。つまり、吸気ポート9内の空気の温度は、エンジン本体1の温度(冷却水温Tw)と外気温Twとの両方の影響により変動するものであり、燃焼室6に流入する直前の空気の温度であるため、混合気の着火性に直接的に影響する。よって、上記吸気ポート9を通過する空気の温度(吸気温度)のみによっても、エンジンの温度条件の高低を判断することが可能である。あるいは、エンジンが搭載される車両の仕向け地が特定の国地域に限られ、外気温Taの変動幅が年間を通じてそれほど大きく変わらない場合には、外気温Taの影響を無視できるので、エンジンの冷却水温Twのみによってエンジンの温度条件の高低を判断してもよい。
【0128】
また、上記実施形態では、図6〜図8を用いて、各種運転領域での燃料の噴射時期や着火アシストの時期について例示したが、これらはあくまで一例に過ぎず、上記燃料噴射時期や着火アシストの時期はエンジンの特性等によって適宜変更し得るものである。
【0129】
エンジンの温間時に使用される制御マップA(図4(a))の第2運転領域A2を例に挙げると、この第2運転領域A2では、圧縮上死点前60〜50°CA程度の期間内に前段噴射P1を実行するとともに、圧縮上死点後0〜10°CA程度の期間内に後段噴射P2を実行するものとしたが、こられ各噴射P1,P2のタイミングは、インジェクタ21からの燃料の噴射角(気筒中心軸に対する拡がり角度)やピストン5冠面の形状等が異なれば、これに合わせて変更する必要がある。
【0130】
より具体的に説明すると、例えば、インジェクタ21からの燃料の噴射角が上記実施形態の例よりも小さい場合には、鉛直下向きにより近い角度(つまりインジェクタ21から遠く離れないとボア径方向の外側に大きく拡がらないような角度)で燃料が噴射されるため、仮にピストン5の冠面の形状が上記実施形態と同一であると仮定すると、上記実施形態のときよりも早いタイミングで前段噴射P1および後段噴射P2を実行しなければ、当該各噴射P1,P2による燃料をそれぞれ所望の場所(燃焼室6の外周部およびキャビティ40の内部)に偏在させることができなくなる。このため、燃料の噴射角が小さい場合は、燃料噴射P1,P2の時期を早めるとよい。
【0131】
ただし、このような噴射角等の相違による影響があるとしても、設定可能な噴射角や、キャビティ40および環状凹部41等の配置バランス等を考慮すれば、後段噴射P2は、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期までの間のいずれかのタイミングで実行する必要があり、前段噴射P1は、上記後段噴射P2よりも前であって、かつ圧縮行程中に実行する必要があると考えられる。なお、ここでいう圧縮行程後期とは、圧縮行程を初期、中期、後期に分けたときの後期であって、圧縮上死点前(BTDC)60〜0°CAの範囲を指す。同様に、膨張行程初期とは、膨張行程を初期、中期、後期に分けたときの初期であって、圧縮上死点後(ATDC)0〜60°CAの範囲を指す。
【0132】
また、温間時(制御マップA)の第3運転領域A3や準温間時(制御マップB)の第7運転領域B2で実行される着火アシストの時期については、上記前段噴射P1および後段噴射P2の間の所定時期に行われるものであるから、例えば上記のように前段噴射P1および後段噴射P2の時期が変更された場合には、これに合わせて適宜変更すべきものである。
【0133】
また、分割噴射の回数についても、上記のような前段噴射P1および後段噴射P2の2回に限るものではない。例えば、前段噴射P1および後段噴射P2の前の予備噴射として、少量の燃料を前段噴射P1よりも前に噴射するようにしてもよい。
【0134】
また、上記実施形態では、インジェクタ21が多噴口型のインジェクタであり、その先端部に12個の噴口が設けられるものとしたが、噴口の数は12個に限られず、12個より多くても少なくてもよい。ただし、噴口の数があまりに少ないと、インジェクタ21から噴射された燃料の濃度が周方向に大きくばらつくことになる。このため、噴口の数は8個以上とすることが望ましい。噴口の数が8個以上であれば、上記前段噴射P1および後段噴射P2を実行した後、ごく短時間で、周方向にほぼ均一な空燃比をもった混合気を形成することができ、その後の自着火による燃焼(圧縮自己着火燃焼)を適正に行わせることができる。
【符号の説明】
【0135】
6 燃焼室
20 点火プラグ
21 インジェクタ
50 ECU(制御手段)
A2 非アシスト領域
A3 第3運転領域(特定運転領域)
B2 第7運転領域(特定運転領域)
Ly 境界ライン
P1 前段噴射
P2 後段噴射
Pa アシスト用噴射(着火アシスト用の燃料噴射)
S アシスト用点火(着火アシスト用の火花点火)
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部がガソリンからなる燃料を燃焼室に噴射するインジェクタと、燃焼室に露出する電極から火花を放電する点火プラグと、上記インジェクタおよび点火プラグの動作を制御する制御手段とを備えるとともに、上記インジェクタから噴射された燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が少なくとも温間時に実行される火花点火式ガソリンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンの分野では、点火プラグの火花点火により強制的に混合気を着火させる燃焼形態(火花点火燃焼)が一般的であったが、近年、このような火花点火燃焼に代えて、いわゆる圧縮自己着火燃焼をガソリンエンジンに適用する研究が進められている。圧縮自己着火燃焼とは、燃焼室(気筒内)に生成された混合気をピストンで圧縮し、高温・高圧の環境下で、火花点火によらず混合気を自着火させるというものである。圧縮自己着火燃焼は、燃焼室の各所で同時多発的に自着火する燃焼であり、火花点火による燃焼に比べて燃焼期間が短く、より高い熱効率が得られると言われている。
【0003】
上記圧縮自己着火燃焼が適用されたガソリンエンジンの具体例として、例えば下記特許文献1に開示されたものが知られており、この特許文献1には、エンジンの一部の運転領域で、燃焼室に向けて燃料を複数回に分けて噴射するいわゆる分割噴射を行いながら、混合気を自着火により燃焼させることが開示されている。具体的には、圧縮行程よりも前に噴射された1回目の燃料により、燃料の濃度(混合気の空燃比)が均一な予混合領域を燃焼室に形成するとともに、圧縮行程後半の所定時期に行われる2回目の燃料噴射により、点火プラグの周りに混合気の成層領域を形成する。そして、ピストンが圧縮上死点の近傍に達した時点で、いわゆる着火アシストとして、点火プラグによる火花点火を行う。すると、この火花点火をきっかけに、上記成層領域内のリッチな混合気が燃焼するとともに、その燃焼による燃焼室の高温化をきっかけにして、上記予混合領域内の混合気が自着火により燃焼する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−74488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように、燃料濃度が均一な予混合領域内に燃料が偏在する成層領域が形成されるように燃料を分割噴射し、その状態で着火アシストを行うようにした場合には、特にエンジン負荷がある程度高まり、噴射されるトータルの燃料が増大したときに、上記予混合領域および成層領域内の両方の混合気がほとんど同時に燃焼することにより、筒内圧力が急上昇し、大きな燃焼騒音が発生するおそれがある。また、部分的に酸素が極端に不足した状態で燃焼が起きるため、多量のスート(炭素質粒子)が発生するおそれもある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、着火アシストにより混合気の自着火を促進しながら、燃焼騒音やスートの増大を効果的に防止することが可能な火花点火式ガソリンエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、少なくとも一部がガソリンからなる燃料を燃焼室に噴射するインジェクタと、燃焼室に露出する電極から火花を放電する点火プラグと、上記インジェクタおよび点火プラグの動作を制御する制御手段とを備えるとともに、上記インジェクタから噴射された燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が少なくとも温間時に実行される火花点火式ガソリンエンジンであって、上記制御手段は、上記圧縮自己着火燃焼の実行領域の少なくとも一部に設定された特定運転領域において、前段噴射および後段噴射を含む複数回に分けて上記インジェクタから燃料を噴射させるとともに、上記前段噴射から後段噴射までの間の所定時期に、上記前段噴射および後段噴射の各噴射量よりも少量の燃料を上記インジェクタから噴射させかつ上記点火プラグに火花点火を行わせる着火アシストを実行するものであり、上記着火アシストにより上記点火プラグの電極付近に火炎が形成されるのをきっかけに、上記点火プラグの電極から離れた場所で上記前段噴射に基づく混合気が自着火による燃焼を開始するとともに、それに引き続いて上記後段噴射に基づく混合気が自着火により燃焼するように、上記点火プラグの電極位置や上記前段噴射および後段噴射のタイミングが設定されたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、前段噴射と後段噴射との間に着火アシストを行い、その着火アシストに基づく火炎により燃焼室の高温化を図ることで、上記前段噴射および後段噴射に基づく混合気の自着火を、上記火炎の発生に引き続いて起こすようにしたため、混合気の自着火が比較的起き難い運転領域であっても、自着火による燃焼(圧縮自己着火燃焼)を安定的に継続させることができる。
【0009】
しかも、上記着火アシスト用の燃料噴射として、前段噴射および後段噴射よりも少量の燃料を噴射し、その燃料に基づく火炎の形成後は、点火プラグの電極から離れた場所で前段噴射に基づく混合気を燃焼させるとともに、後段噴射に基づく混合気を続けて燃焼させるようにしたため、少量の燃料を用いた着火アシストにより燃焼室の高温化を図りながら、それ以外の燃料(前段噴射および後段噴射により噴射された燃料)に基づく混合気を、火炎伝播ではなく自着火により確実に燃焼させることができる。これにより、着火アシストによる安定燃焼を図りながら、自着火により燃焼する混合気の割合を高くして、熱効率をより向上させることができる。
【0010】
さらには、着火アシストによる火炎の形成をきっかけに、着火アシストよりも前に実行された前段噴射に基づく混合気をまず燃焼させ始め、その燃焼の開始後に、着火アシストよりも後に実行された後段噴射に基づく混合気を燃焼させるようにしたため、上記前段噴射および後段噴射に基づく混合気が同時に燃焼することがなく、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの増大を効果的に防止することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、上記前段噴射は、上記着火アシスト用の火花点火の時点で上記点火プラグの電極よりもボア径方向の外側に離間した位置に混合気が偏在するようなタイミングで燃料を噴射するものであり、上記着火アシスト用の燃料噴射は、上記着火アシスト用の火花点火の時点で上記点火プラグの電極周りに混合気が形成されるようなタイミングで燃料を噴射するものである(請求項2)。
【0012】
この構成によれば、着火アシストにより電極付近に形成される火炎とは独立して、前段噴射に基づく混合気を自着火により確実に燃焼させることができるため、自着火により燃焼する混合気の割合を効果的に高められるという利点がある。
【0013】
上記構成において、より好ましくは、上記後段噴射は、上記前段噴射に基づく燃焼が起きている時点で上記燃焼室の中央部に混合気が偏在するようなタイミングで燃料を噴射するものである(請求項3)。
【0014】
このように、前段噴射に基づく混合気を燃焼室の外周部で燃焼させ、かつ後段噴射に基づく混合気を燃焼室の中央部で燃焼させるようにした場合には、各噴射に基づく混合気を別々の空間に分離しながら独立して燃焼させることができ、燃焼騒音やスートの増大をより効果的に防止することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、エンジンの温間時に設定される上記特定運転領域に、エンジンの高負荷域の少なくとも一部が含まれる(請求項4)。
【0016】
この構成によれば、インジェクタからのトータルの燃料噴射量が多くなり、燃焼騒音の増大等が特に懸念される高負荷域において、上記のような分割噴射および着火アシストを用いた圧縮自己着火燃焼を実行することにより、燃焼騒音を効果的に低減しつつ、スートの発生量を抑制することができる。
【0017】
上記構成において、より好ましくは、エンジンの温間時の上記特定運転領域が、エンジンの高回転かつ高負荷寄りの領域に設定されるとともに、この特定運転領域よりも低回転側に、上記インジェクタから分割噴射された燃料に基づく混合気を上記着火アシストを伴うことなく自着火させる運転領域である非アシスト領域が設定され、上記特定運転領域と非アシスト領域との境界ラインが、エンジンの温度条件が高いほど高回転側に、温度条件が低いほど低回転側に設定される(請求項5)。
【0018】
この構成によれば、エンジンの温度条件が高いほど混合気の着火性が高まり、着火アシストなしでも混合気の自着火が可能な上限の回転速度が上昇することに合わせて、着火アシストを用いた圧縮自己着火燃焼の実行領域(特定運転領域)を高回転側へと狭めることにより、混合気の着火性を担保しながら、着火アシストの実行頻度を全体として低下させることができる。これにより、着火アシストのために使用される燃料の量が低減されるため、さらなる熱効率の向上を図ることができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、エンジンの温間時以外は、少なくともエンジンの高回転域を含む運転領域で、点火プラグの火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行される(請求項6)。
【0020】
この構成によれば、エンジンの温度条件がそれほど高くなく、しかも回転速度が高いために燃料の受熱期間が短いという環境下で、火花点火による安定的な燃焼を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の火花点火式ガソリンエンジンによれば、着火アシストにより混合気の自着火を促進しながら、燃焼騒音やスートの増大を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態にかかる火花点火式ガソリンエンジンの全体構成を示す図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】上記エンジンの制御系を示すブロック図である。
【図4】(a)〜(c)は、エンジンの運転状態に応じた燃焼形態を選択するための制御マップの一例を示す図である。
【図5】図4(a)〜(c)の各制御マップに対応する3段階のエンジンの温度条件を説明するための図である。
【図6】図4(a)の制御マップにおける第1運転領域(A1)で実行される制御の内容を説明するためのタイムチャートである。
【図7】図4(a)の制御マップにおける第2運転領域(A2)で実行される制御の内容を説明するためのタイムチャートである。
【図8】図4(a)の制御マップにおける第3運転領域(A3)で実行される制御の内容を説明するためのタイムチャートである。
【図9】(a)〜(f)は、上記第2運転領域(A2)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。
【図10】(a)〜(h)は、上記第3運転領域(A3)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。
【図11】上記第3運転領域(A3)で行われる複数段の燃料噴射がそれぞれどのような領域で燃焼するかを模式的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される往復ピストン型の多気筒ガソリンエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。なお、エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものであればよく、その中身は、全てガソリンであってもよいし、ガソリンにエタノール(エチルアルコール)等を含有させたものでもよい。
【0024】
上記ピストン5はコネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されており、上記ピストン5の往復運動に応じて上記クランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
【0025】
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成され、燃焼室6に吸気ポート9および排気ポート10が開口し、各ポート9,10を開閉する吸気弁11および排気弁12が、上記シリンダヘッド4にそれぞれ設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、各気筒につき上記吸気ポート9および排気ポート10が2つずつ設けられるとともに、上記吸気弁11および排気弁12も2つずつ設けられている。
【0026】
ここで、「燃焼室」とは、狭義には、ピストン5が上死点まで上昇したときに当該ピストン5の上方に形成される空間のことを指すが、本明細書でいう燃焼室6とは、ピストン5の上下位置にかかわらずその上方に形成される空間のことを指すものとする(広義の燃焼室)。
【0027】
上記吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13,14によりクランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
【0028】
上記吸気弁11用の動弁機構13には、CVVL15が組み込まれている。CVVL15は、連続可変バルブリフト機構(Continuous Variable Valve Lift Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11のリフト量を連続的に(無段階で)変更するものである。CVVL15は、エンジンの全ての吸気弁11のリフト量を変更できるように設けられており、このCVVL15が駆動されると、各気筒2において一対の吸気弁11のリフト量が同時に変更されるようになっている。
【0029】
このような構成のCVVL15は既に公知であり、その具体例として、吸気弁11駆動用のカムをカムシャフトの回転と連動して往復揺動運動させるリンク機構と、リンク機構の配置(レバー比)を可変的に設定するコントロールアームと、コントロールアームを電気的に駆動することによって上記カムの揺動量(吸気弁11を押し下げる量)を変更するステッピングモータとを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
【0030】
上記排気弁12用の動弁機構14には、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を有効または無効にするON/OFFタイプの可変バルブリフト機構(Variable Valve Lift Mechanism)であるVVL16が組み込まれている。すなわち、VVL16は、排気弁12を排気行程だけでなく吸気行程でも開弁可能にするとともに、この吸気行程中の排気弁12の開弁動作を実行するか停止するかを切り替える機能を有している。VVL16は、エンジンの全ての排気弁12に対応して設けられており、かつ、各気筒2の一対の排気弁12に対し、それぞれ個別に、吸気行程中の開弁動作を実行または停止できるように構成されている。
【0031】
このような構成のVVL16は既に公知であり、その具体例として、排気弁12駆動用の通常のカム(排気行程中に排気弁12を押し下げるカム)とは別に吸気行程中に排気弁12を押し下げるサブカムと、このサブカムの駆動力が排気弁12に伝達されるのを有効または無効にするいわゆるロストモーション機構とを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
【0032】
上記VVL16の作用により排気弁12が吸気行程中に開弁することで、高温の排気ガスが排気ポート10から燃焼室6に逆流し、燃焼室6の高温化が図られるとともに、燃焼室6に導入される空気(新気)の量が低減される。以下では、このような排気弁12の再開弁(吸気行程中の開弁)による排気ガスの残留操作を、後述する外部EGR装置30による排気ガスの還流操作(外部EGR)と区別して、内部EGRと称する。
【0033】
上記エンジン本体1のシリンダヘッド4には、点火プラグ20およびインジェクタ21が、各気筒2につき1組ずつ設けられている。
【0034】
上記インジェクタ21は、燃焼室6をその天井面(燃焼室6を覆うシリンダヘッド4の下面)から臨むように設けられている。インジェクタ21には燃料供給管23が接続されており、この燃料供給管23を通じて供給される燃料(ガソリンを主成分とする燃料)が上記インジェクタ21の先端部から噴射されるようになっている。
【0035】
上記インジェクタ21は、いわゆる多噴口型のインジェクタであり、その先端部に12個の噴口を有している。これらの噴口の設置部(インジェクタ21の先端部)は、燃焼室6天井の中央部に位置しており、各噴口は、その開口端がボア径方向外側の斜め下方を向くように穿孔されている。このため、上記インジェクタ21の各噴口から燃料が噴射された場合、その燃料は、ピストン5の冠面(上面)に近づくほどボア径方向の外側に拡がるように放射状に噴射されることになる。
【0036】
上記点火プラグ20は、燃焼室6を上方から臨むように上記インジェクタ21と隣接して配置されている。具体的に、この点火プラグ20は、燃焼室6に露出する電極を先端部に有し、図外の点火回路からの給電に応じて上記電極から火花を放電する。
【0037】
上記エンジン本体1の吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された排気ガス(既燃ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
【0038】
上記吸気通路28は、単一の通路からなる共通通路部28cと、共通通路部28cの下流側端部に設けられたサージタンク28bと、気筒2ごとに分岐して設けられ、上記サージタンク28bと各気筒2の吸気ポート9とを接続する分岐通路部28aとを有している。
【0039】
上記排気通路29は、単一の通路からなる共通通路部29cと、気筒2ごとに分岐して設けられ、上記共通通路部29cの上流側端部と各気筒2の排気ポート10とを接続する分岐通路部29aとを有している。
【0040】
上記吸気通路28および排気通路29の間には、排気通路29を通過する排気ガスの一部を吸気通路28に還流させる外部EGR装置30が設けられている。具体的に、外部EGR装置30は、吸気通路28および排気通路29の各共通通路部28c,29cどうしを連通させるEGR通路31と、EGR通路31の途中部に設けられ、その内部を通過する排気ガスの流量を制御するEGRバルブ32と、EGR通路31を通過する排気ガスの温度を冷却する水冷式のEGRクーラ33とを有している。
【0041】
上記吸気通路28の共通通路部28cには、吸気通路28を通過する吸入空気の量を調節するスロットル弁25が設けられている。ただし、当実施形態では、上記CVVL15により吸気弁11のリフト量が調整され、また、VVL16により燃焼室6に残留する排気ガスの量が調整され、さらには、外部EGR装置30により吸気通路28に還流される排気ガスの量が調整されることから、これらの操作に基づいて、スロットル弁25を操作することなく、燃焼室6に導入される空気(新気)の量を調整することが可能である。このため、スロットル弁25は、エンジンの停止時等を除いて、全開もしくはそれに近い値に維持される。
【0042】
上記排気通路29の共通通路部29cには、排気ガス浄化用の触媒コンバータ35が設けられている。触媒コンバータ35には例えば三元触媒が内蔵されており、排気通路29を通過する排気ガス中の有害成分が上記三元触媒の作用により浄化されるようになっている。
【0043】
図2は、上記ピストン5の冠面の形状を具体的に説明するための拡大図である。この図2および先の図1に示すように、ピストン5の冠面の中央部には、凹状のキャビティ40が設けられている。キャビティ40は、上記インジェクタ21と対向する上向きの開口部40aを上端に有しており、この開口部40aの面積(開口面積)は、キャビティ40の内部の最大断面積(キャビティ40の各高さ位置における水平方向断面積の最大値)よりも小さく設定されている。すなわち、キャビティ40は、その開口部40aから所定深さまでの範囲において、上方に至るほど内径が狭くなるように上窄まり状に形成されている。
【0044】
上記キャビティ40よりもボア径方向の外側に位置するピストン5の冠面には、平面視円環状の環状凹部41が、キャビティ40の周囲を取り囲むように設けられている。この環状凹部41は、ボア径方向の外側に至るほど高さが低くなるように形成されており、その最大深さ(最外周部の深さ)は、キャビティ40の深さよりも浅く設定されている。
【0045】
また、上記環状凹部41よりもさらにボア径方向の外側に位置するピストン5の最外周部には、上記環状凹部41よりも上方に突出した円環状の立壁部42が設けられている。この立壁部42の突出高さは、上記キャビティ40上端の開口部40aを囲む部分(リップ部)と同一に設定されている。
【0046】
再び図1に戻って、上記エンジン本体1のシリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通するウォータジャケット(図示省略)が設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
【0047】
上記シリンダブロック3には、クランク角センサSW2が設けられている。クランク角センサSW2は、クランク軸7と一体に回転するクランクプレート(図示省略)の回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
【0048】
上記シリンダヘッド4には、動弁機構14におけるカムシャフトの角度を検出するためのカム角センサSW3が設けられている。カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じて、気筒判別(各気筒が吸気、圧縮、膨張、排気のいずれの行程にあるかの判別)用のパルス信号を出力するものである。
【0049】
最後に、上記吸気通路28のサージタンク28bには、吸気通路28を通過する吸入空気の温度(外気温)を検出するための外気温センサSW4が設けられている。
【0050】
(2)制御系
図3は、エンジンの制御系を示すブロック図である。本図に示されるECU50は、エンジンの各部を統括的に制御するための装置(本発明にかかる制御手段)であり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0051】
上記ECU50には、エンジンに設けられた各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU50は、エンジンに設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、および外気温センサSW4と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW4からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別情報、および外気温といった種々の情報を取得する。
【0052】
また、ECU50には、車両に設けられた各種センサからの情報も入力される。例えば、車両には、運転者により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSW5が設けられており、このアクセル開度センサSW5により検出されたアクセル開度が、上記ECU50に入力される。
【0053】
上記ECU50が有するより具体的な機能について説明すると、上記ECU50は、その主な機能的要素として、判定手段51、インジェクタ制御手段52、吸気制御手段53、内部EGR制御手段54、外部EGR制御手段55、および点火制御手段56を有している。
【0054】
上記判定手段51は、エンジン水温センサSW1の検出値から特定される冷却水温と、外気温センサSW4の検出値から特定される外気温と、クランク角センサSW2の検出値から特定されるエンジン回転速度と、アクセル開度センサSW5の検出値から特定されるエンジン負荷(目標トルク)とに基づいて、エンジンをどのような態様で制御すべきかを都度判定するものである。なお、以下では、エンジンの冷却水温をTw、外気温をTa、エンジン回転速度をNe、エンジン負荷をTとする。
【0055】
図4(a)〜(c)は、上記各値Tw,Ta,Ne,Tに基づき決定される制御の種類を区分けして示す設定図(制御マップ)である。エンジンの運転中、上記判定手段51は、この図4(a)〜(c)の各制御マップA〜Cに従うようにエンジンの制御内容を決定する。
【0056】
上記3種類の制御マップA〜Cは、エンジンの温度条件によって選択的に使用される。ここで、エンジンの温度条件とは、エンジンがどの程度暖かい温度環境下で運転されているかを表すものであり、エンジンの冷却水温Twおよび外気温Taが高いほど温度条件が高く、冷却水温Twまたは外気温Taが低いほど温度条件が低いことになる。
【0057】
当実施形態では、エンジンの温度条件が、図5に示すように、温間(W1)、準温間(W2)、冷間(W3)の3段階に分けられ、それぞれの段階に対応して上記図4(a)〜(c)の制御マップA〜Cのいずれかが使用される。すなわち、エンジンの冷却水温Twを横軸に、外気温Taを縦軸にとった図5の2次元領域において、冷却水温Twおよび外気温Taがともに高い領域W1にあるときを温間、冷却水温Twおよび外気温Taがともに低い領域W3にあるときを冷間、各領域W1,W3の間の領域W2にあるときを準温間とすると、温度条件が温間(W1)に該当するときには図4(a)のマップAが選択され、準温間(W2)に該当するときには図4(b)のマップBが選択され、冷間(W3)に該当するときには図4(c)のマップCが選択されるようになっている。
【0058】
上記図4(a)〜(c)の各制御マップA〜Cの中身について簡単に説明しておく。例えば、エンジンの温間時に選択される図4(a)の制御マップAでは、エンジンの運転領域が5つの領域A1〜A5に分割されている。これら各領域A1〜A5は、そのいずれもが、ピストン5の圧縮作用により混合気を自着火させる圧縮自己着火燃焼の実行領域として規定されている。ただし、各領域A1〜A5では、インジェクタ21からの燃料噴射の形態や、点火プラグ20を用いた着火アシストの有無、さらには内部EGRまたは外部EGRの有無等が異なり、これらの制御の相違によって、上記各領域A1〜A5が設定されている。
【0059】
また、準温間時に選択される図4(b)の制御マップBでは、エンジンの運転領域が5つの領域B1〜B5に分割されているが、上記温間時の制御マップ(図5(a))のときと異なり、圧縮自己着火燃焼の実行領域は、高回転側の領域B3を除いた領域B1,B2,B4,B5のみであり、上記高回転側の領域B3では、点火プラグ20の火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行されるようになっている。
【0060】
最後に、冷間時に選択される図4(c)の制御マップCにおいては、圧縮自己着火燃焼の実行領域は設定されておらず、エンジンの全ての運転領域を包含する領域C1で、一律に火花点火燃焼が実行される。
【0061】
再び図3に戻って、上記インジェクタ制御手段52は、上記インジェクタ21に内蔵された図外のニードル弁(インジェクタ21の先端部の噴口を開閉する弁)を電磁的に開閉することにより、インジェクタ21から燃焼室6に噴射される燃料の噴射量や噴射時期を制御するものである。
【0062】
上記吸気制御手段53は、上記CVVL15を駆動して吸気弁11のリフト量(開弁量)を変更する制御を行うものである。
【0063】
上記内部EGR制御手段54は、上記VVL16を駆動して排気弁12の吸気行程中の開弁を実行または停止することにより、燃焼室6に排気ガスを残留(逆流)させる操作(内部EGR)の有無を切り替えるものである。なお、当実施形態において、排気弁12は1気筒あたり2つ設けられているので、吸気行程中に開弁する排気弁12の数を0,1,2の間で切り替えることにより、上記燃焼室6に残留する排気ガスの量(内部EGR量)を段階的に変化させることが可能である。
【0064】
上記外部EGR制御手段55は、上記EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度を調節することにより、排気通路29から吸気通路28に排気ガスを還流する操作(外部EGR)の有無を切り替えるとともに、その外部EGRによる排気ガスの還流量(外部EGR量)を制御するものである。
【0065】
上記点火制御手段56は、上記点火プラグ20による火花点火のタイミング(点火時期)等を制御するものである。ただし、当実施形態において、点火プラグ20は、エンジンが火花点火燃焼により運転される場合や、混合気の自着火をアシストする着火アシストが必要な場合にのみ作動し、それ以外のときは基本的に(カーボン除去のために行われる吸気行程や排気行程中の点火動作を除いて)作動しない。
【0066】
(3)各制御マップに基づく制御
次に、以上のような機能を有するECU50によりエンジンがどのように制御されるかについて説明する。エンジンの運転中は、ECU50により、上記図4(a)〜(c)の各制御マップA〜Cに沿った制御が実行される。各制御マップA〜Cは、上述したように、エンジンの温度条件に応じて選択的に使用される。すなわち、エンジンの運転が開始されると、上記ECU50の判定手段51が、エンジン水温センサSW1および外気温センサSW4の各検出値(冷却水温Twおよび外気温Ta)に基づいて、エンジンの温度条件が温間、準温間、冷間のいずれであるのか(図5のW1,W2,W3のいずれに該当するのか)を逐次判定し、その結果に基づいて、上記制御マップA〜Cの中から適切なマップを選択する。そして、上記クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW5の各検出値に基づいて、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転速度Neの各値から特定される制御マップ上でのポイント)を特定するとともに、その運転点が、上記選択した制御マップにおけるいずれの運転領域に該当するかを調べる。
【0067】
該当する運転領域が判別されると、その領域に応じた適切な燃焼が行われるように、上記ECU50の各制御手段52〜56がエンジンの各部を制御する。以下に、エンジン制御の具体的な内容を、制御マップA〜Cごとに説明する。
【0068】
(3−1)制御マップA(温間時)
まず、エンジンの温間時(冷却水温および外気温の条件が図5の領域W1に該当するとき)に選択される制御マップA(図4(a))に基づき実行される燃焼制御について説明する。この制御マップAでは、エンジンの運転領域における比較的負荷Tの低い領域に、回転速度Ne全域にわたって領域A1が設定されている。また、この領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが所定値よりも低い領域には、領域A2が設定されているとともに、上記領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが上記所定値よりも高い領域には、領域A3が設定されている。さらに、上記領域A1と領域A2との間、および、領域A1と領域A3との間には、それぞれ、領域A4および領域A5が設定されている。以下では、これら各領域A1、A2,A3,A4,A5を、それぞれ、第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3、第4運転領域A4、第5運転領域A5と称する。
【0069】
先にも述べたとおり、上記制御マップAにおける第1〜第5運転領域A1〜A5は、いずれも、ピストン5の圧縮作用により混合気を自着火させる圧縮自己着火燃焼の実行領域として規定されているが、燃料噴射の形態や、着火アシストの有無等がそれぞれ異なる。なお、図4(a)において、制御マップA上に記載されている斜めのライン(低回転側ほど負荷が高くなるように左上がりに傾斜したライン)Lxは、燃焼騒音の観点から設定された一括噴射の限界ラインである。詳細は後述する運転領域ごとの説明の中でも述べるが、この一括噴射の限界ラインLxよりも低負荷側に位置する第1運転領域A1および第4運転領域A4では、インジェクタ21から必要量の燃料が一括して噴射される一方、上記限界ラインLxよりも高負荷側に位置する残りの運転領域(A2,A3,A5)では、燃焼騒音を低減する観点から、必要量の燃料が2回以上に分けてインジェクタ21から噴射される(分割噴射)。
【0070】
また、上記第2運転領域A2と第3運転領域A3との境界ラインをLyとすると、この境界ラインLyは、エンジンの温度条件が高いほど高回転側(図4(a)の矢印W1の側)に設定される。すなわち、第2運転領域A2と第3運転領域とは、燃料の分割噴射が行われるという点では同じであるが、後述するように、混合気の自着火を促進するための着火アシストを行うか否かが異なる。これは、第2運転領域A2よりもエンジン回転速度Neが高い第3運転領域A3の方が、燃料の受熱期間(燃料が高温・高圧環境下に晒される時間)が短く、混合気が自着火し難いため、第3運転領域A3では着火アシストを実行し、第2運転領域A2では着火アシストを実行しないものである。ただし、着火アシストなしで混合気が自着火する領域は、エンジンの冷却水温Twおよび外気温Taがともに高く、エンジンの温度条件が高いほど(つまり温度条件が図5の領域W1の右上側にあるほど)、より高回転側まで拡大すると考えられる。そこで、これに合わせて、上記第2運転領域A2と第3運転領域A3との境界ラインLyを、エンジンの温度条件が高いほど高回転側(矢印W1の側)に設定するようにしている。逆に、上記境界ラインLyは、エンジンの温度条件が低いほど(冷却水温Twまたは外気温Taが低いほど)、低回転側(矢印W2の側)に設定される。
【0071】
以下、上記制御マップAの各運転領域A1〜A5でそれぞれ実行される燃焼制御について詳細に説明する。
【0072】
(i)第1運転領域A1
図6は、エンジンが図4(a)の第1運転領域A1で運転されている場合の燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。本図に示すように、第1運転領域A1では、圧縮行程よりも前に噴射された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮作用によって自着火させる、一般的な予混合圧縮自己着火燃焼が実行される。なお、図4(a)の制御マップでは、このような予混合圧縮自己着火燃焼(Homogeneous-Charge Compression Ignition)が実行されることを指して、第1運転領域A1内に「HCCI」と表記している。
【0073】
具体的に、上記第1運転領域A1では、吸気行程中の所定時期にインジェクタ21から燃焼室6に燃料が噴射(P)され、この燃料噴射Pにより噴射された燃料と、吸気通路28から燃焼室6に導入される空気(新気)とからなる混合気が、ピストン5の圧縮作用により高温、高圧化し、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間のTDC)付近で自着火する。すると、このような自着火に基づき、波形Qaに示すような熱発生を伴う燃焼が生じることになる。
【0074】
ただし、第1運転領域A1は、負荷Tが比較的低く、インジェクタ21から噴射される燃料の量が少ないため、筒内温度を意図的に上昇させないと、失火が起きるおそれがある。そこで、上記第1運転領域A1では、VVL16を駆動して排気弁12を吸気行程中に開弁させることにより、燃焼室6で生成された排気ガスを燃焼室6に逆流させる内部EGRが実行される。すなわち、排気弁12は、通常、排気行程のみで開弁するが(図6のリフトカーブEX)、VVL16の駆動に基づき排気弁12を吸気行程でも開弁させることにより(リフトカーブEX’)、排気ポート10から燃焼室6に排気ガスを逆流させる。このように、高温の排気ガスを燃焼室6に逆流(残留)させることで、燃焼室6を高温化して、混合気の自着火を促進する。なお、燃焼室6に残留する排気ガスの量(内部EGR量)は、低負荷側ほど多く、高負荷側ほど少なく設定される。そのための制御として、例えば、第1運転領域A1における低負荷域(無負荷に近い領域)では、吸気行程中に開弁する排気弁12の数が2つとされ、それよりも負荷が高くなると、開弁数が1つに減らされる。
【0075】
上記のように、第1運転領域A1では、排気弁12の再開弁(吸気行程中の開弁)に基づく内部EGRが実行されるため、外部EGRについては停止される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度が全閉に設定されることにより、排気通路29から吸気通路28への排気ガスの還流が停止される。
【0076】
また、上記第1運転領域A1では、燃焼室6内の混合気の空燃比(実空燃比)を理論空燃比(14.7)で割った値である空気過剰率λが、2以上という大幅にリーンな値に設定される。そのため、CVVL15の駆動により吸気弁11(リフトカーブIN)のリフト量を増減する制御が実行され、燃焼室6に導入される新気の量が、上記インジェクタ21からの燃料噴射量に対しかなり過剰になるように制御される。このように大幅にリーンに設定された混合気を燃焼させた場合、燃焼温度が大幅に低下するため、冷却損失を低減して熱効率(燃費)を向上させることができる。なお、λ≧2にまでリーンになると、三元触媒によるNOxの浄化作用はほとんど期待できなくなるが、λ≧2での燃焼により生じるNOx量(生のNOx量)は大幅に少なくなるため、三元触媒以外に特別な触媒(例えばNOxトラップ触媒)を設けなくても、排気ガス中に含まれるNOxの量を十分に小さい値に抑制することができる。
【0077】
(ii)第2運転領域A2
上記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが比較的低い領域に設定された第2運転領域A2(図4(a))では、図7に示すような制御が実行される。すなわち、第2運転領域A2では、圧縮上死点付近とそれより前の圧縮行程中の所定時期とに設定された2回の噴射タイミング(P1,P2)に分けてインジェクタ21から燃料を噴射させ、それぞれの燃料に基づく混合気を自着火により燃焼させる制御が実行される。なお、後述する第3運転領域A3のときと異なり、第2運転領域A2では、点火プラグ20を用いた着火アシストは実行されない。このように、分割噴射に基づく混合気を着火アシストを伴うことなく自着火させる第2運転領域A2は、本発明にかかる「非アシスト領域」に相当する。図4(a)の制御マップでは、このような分割噴射に基づく(着火アシストなしの)圧縮自己着火燃焼が実行されることを指して、第2運転領域A2内に「多段CI」と表記している。また、以下の説明では、圧縮行程中に実行される1回目の燃料噴射P1を前段噴射、それより後の圧縮上死点付近(図例では膨張行程のごく初期)に実行される2回目の燃料噴射P2を後段噴射と称する。
【0078】
具体的に、上記第2運転領域A2において、前段噴射P1のタイミングは、圧縮上死点(TDC)を基準として、その上死点前(BTDC)60〜50°CA(CAはクランク角を表す)程度の期間内に設定され、後段噴射P2のタイミングは、上死点後(ATDC)0〜10°CA程度の期間内に設定される。また、前段噴射P1および後段噴射P2による各噴射量の割合については、前段噴射P1が10%以下で後段噴射P2が90%以上に設定されるパターンから、前段噴射P1が60%程度で後段噴射P2が40%程度に設定されるパターンまで、運転条件等により適宜の割合に設定される。
【0079】
上記前段噴射P1および後段噴射P2によるトータルの噴射量は、第2運転領域A2に対応する高い負荷に合わせて、第1運転領域A1のとき(燃料噴射Pによる噴射量)よりも増大される。また、このように増大設定される燃料噴射量に応じた多量の新気を燃焼室6に導入すべく、CVVL15が駆動されて吸気弁11のリフト量が増大される(リフトカーブIN)。そして、上記のように分割噴射された燃料と空気(新気)との混合気が圧縮上死点付近で自着火することにより、図中の波形Qbに示すように、時期の異なる2つのピークを有するような熱発生を伴う燃焼が生じる。なお、このような波形Qbの形状はあくまで概念的なものであり、実際には2つのピークが明確に現れない場合も当然にあり得る。
【0080】
上記のように前段噴射P1および後段噴射P2に分けて燃料を噴射するようにしたのは、燃焼騒音等の問題を考慮してのものである。すなわち、燃料噴射量の多い上記第2運転領域A2では、燃料を1回で噴射してしまうと、噴射された多量の燃料が短時間で全て燃焼する急激な燃焼が起きることにより、筒内圧力が急上昇し、燃焼騒音が著しく増大する等の事態を招くおそれがある。そこで、上記のように燃料を分割噴射することにより、比較的マイルドな燃焼が継続的に起きるようにして、上記のような燃焼騒音の増大等を回避するようにしている。
【0081】
ただし、たとえ燃料噴射を複数回に分割しても、インジェクタ21の配置やピストン5の形状によっては、各回に噴射された燃料どうしが混じり合い、その混じり合った燃料がほとんど同時に燃焼することがある。このように、噴射タイミングが異なる燃料どうしが混じり合った状態で燃焼が起きると、燃焼騒音が過大になるばかりでなく、燃焼時に必要な酸素が局所的に著しく不足し、多量のスート(炭素質粒子)が発生するおそれがある。
【0082】
このような問題に対し、当実施形態では、インジェクタ21が燃焼室6天井の中央部に配置されるとともに、ピストン5の冠面がキャビティ40等を有する特殊な形状に形成されているため、分割噴射された燃料が一緒に燃焼してしまうことがなく、上記のような燃焼騒音の増大やスートの大量発生を回避することが可能である(その詳細なメカニズムについては後述する)。
【0083】
また、上記第2運転領域A2では、上記のような燃料の分割噴射制御に加えて、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を無効にするようにVVL16が駆動され、排気弁12の吸気行程中の開弁が停止される。これにより、排気ガスが燃焼室6に逆流することがほとんどなくなり、内部EGRが禁止される。
【0084】
一方、第2運転領域A2では、上記のように禁止された内部EGRに代わり、外部EGRが実行される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32が所定開度まで開かれることにより、排気通路29から吸気通路28へ排気ガスを還流させる操作が実行される。
【0085】
このように、内部EGRから外部EGRへと切り替えるのは、燃焼室6の過度の高温化を防いで異常燃焼を回避するためである。すなわち、第2運転領域A2は、第1運転領域A1よりもエンジン負荷Tが高く、噴射されるトータルの燃料が多いため、燃焼に伴い発生する熱量が増大し、燃焼室6が高温化する傾向にある。このため、仮に第2運転領域A2でも内部EGRを継続したのでは、燃焼室6がますます高温化し、プリイグニッションやノッキング等の異常燃焼が起きるおそれがある。そこで、内部EGRから外部EGRに切り替えて、EGRクーラ33付きのEGR通路31を通過した(つまりEGRクーラ33により冷却された)排気ガスを吸気通路28に還流させることにより、燃焼室6の過度な高温化を防ぎ、上記のような異常燃焼を回避するようにしている。ただし、第2運転領域A2であっても、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは停止される。
【0086】
ここで、以上のような制御に基づき実現される第2運転領域A2での燃焼形態について、図9(a)〜(f)を参照しつつより具体的に説明する。図9(a)は、インジェクタ21から前段噴射P1が行われたときの状態を示している。このときのピストン5は、上述したように、圧縮上死点前(BTDC)60〜50°CA程度に位置している。このような位置にあるピストン5の冠面に向けて、上記インジェクタ21の先端部に備わる複数(12個)の噴口から放射状に燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、ピストン5の冠面のボア径方向の外側寄りに設けられた環状凹部41に向かうことになる。
【0087】
上記ピストン5の環状凹部41に向けて噴射された燃料(噴霧)は、その後、ピストン5の最外周部に設けられた立壁部42により上方にガイドされながら分散し、その分散した燃料に基づき、図9(b)に示すように、燃焼室6の外周部(主に環状凹部41の内部およびその上方空間)に混合気X1が形成される。ここで形成される混合気X1の空燃比は、燃焼室6の外周部だけの局所的な空燃比として、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。すなわち、理論空燃比程度の濃さの混合気X1が燃焼室6の外周部に局所的に形成されるように、上記前段噴射P1の噴射時期および噴射量が設定されている。
【0088】
もちろん、上記前段噴射P1によって、燃焼室6の外周部以外(例えばキャビティ40の内部)にも微量の燃料が存在し得るが、その燃料の濃度は、上記燃焼室6の外周部に比べれば極めて薄いものである。言い換えれば、前段噴射P1が実行された時点で、燃焼室6の外周部には、キャビティ40の内部よりもリッチな混合気X1が形成されていることになる。
【0089】
上記のように燃焼室6の外周部に形成された混合気X1は、ピストン5の上昇により圧縮されて高温・高圧化し、圧縮上死点付近までピストン5が達したところで、図9(c)に示すように自着火により燃焼する(圧縮自己着火)。なお、同図では、混合気X1が燃焼している領域を黒またはグレーに着色して示している。この混合気X1が燃焼する領域Y1は、上記混合気X1が形成された領域に対応して、燃焼室6の外周部分に限られる。
【0090】
上記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それと前後して(図例では前段噴射P1に基づく燃焼開始とほぼ同時に)、図9(d)に示すような後段噴射P2が実行される。この後段噴射P2のタイミングは、上述したように、ピストン5がその上昇端に至った時点(圧縮上死点)とほぼ同時かその直後のATDC0〜10°CA程度である。このようなタイミング(圧縮上死点付近)でインジェクタ21から燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、ピストン5の冠面の中央部に設けられたキャビティ40の内部へと向かうことになる。すると、このキャビティ40の内部に向けて噴射された燃料(噴霧)は、キャビティ40の周壁に沿って上方にガイドされながら分散し、その分散した燃料に基づき、図9(e)に示すように、燃焼室6の中央部(主にキャビティ40の内部)に混合気X2が形成される。この混合気X2の局所的な空燃比も、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1と同様、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。言い換えれば、上記後段噴射P2により、キャビティ40の内部には、前段噴射P1の実行時よりもリッチな(より具体的には、前段噴射P1により噴射された燃料に基づきキャビティ40内に形成される極めて薄い混合気の空燃比よりもリッチな)混合気X2が形成されていることになる。
【0091】
上記のような後段噴射P2に基づく混合気X2は、ピストン5が圧縮上死点に近く、しかも前段噴射P1に基づく混合気X1の燃焼が既に起きている状態で形成されるものである。このため、上記混合気X2は、図9(f)に示すように、後段噴射P2の後、短い時間で自着火に至り、燃焼する。この混合気X2が燃焼する領域Y2は、上記混合気X2が形成された領域に対応して、燃焼室6の中央部に限られる。すなわち、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1が、環状凹部41の設置部に対応する燃焼室6の外周部分(燃料領域Y1)で燃焼するのに対し、後段噴射P2に基づく混合気X2は、キャビティ40の設置部に対応する燃焼室6の中央部(上記燃料領域Y1よりもボア径方向の中心寄りに位置する燃焼領域Y2)で燃焼することになる。
【0092】
以上のように、第2運転領域A2では、負荷Tに応じた比較的多量の燃料を複数回(前段噴射P1および後段噴射P2)に分けて噴射することで、別々の空間に混合気(X1,X2)を形成し、それらを独立して自着火、燃焼させるようにしている。このような制御が行われる上記第2運転領域A2では、分割噴射された燃料が混じり合って同時に燃焼してしまうことがないため、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの増大を招く心配がない。しかも、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2は、それぞれ局所的にλ=1程度の空気過剰率に設定されるので、そのような環境下の燃焼により生成された排気ガスであれば、三元触媒のみによって十分に有害成分の浄化が可能である。
【0093】
(iii)第3運転領域A3
上記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ上記第2運転領域A2よりも回転速度Neが高い第3運転領域A3(図4(a))では、図8に示すような制御が実行される。すなわち、第3運転領域A3では、上記第2運転領域A2のときと同様、インジェクタ21からの燃料が複数回に分けて噴射されるが、上記第2運転領域A2のときとは異なり、前段噴射P1および後段噴射P2との間に、自着火を促進するための着火アシストが実行される。このように、燃料を分割噴射しつつ着火アシストを行うことにより混合気を自着火させる第3運転領域A3は、本発明にかかる「特定運転領域」に相当する。なお、図4(a)の制御マップでは、このような分割噴射および着火アシスト(Spark Asist)に基づく圧縮自己着火燃焼が実行されることを指して、第3運転領域A3内に「SA+多段CI」と表記している。
【0094】
具体的に、上記着火アシストとしては、圧縮行程中に実行される前段噴射P1と、圧縮上死点付近に実行される後段噴射P2との間の所定時期に、これら前段および後段噴射P1,P2の各噴射量よりも少量の燃料がインジェクタ21から噴射されるとともに(Pa)、その噴射Paの直後でかつ後段噴射P2よりも前に、点火プラグ20による火花点火Sが実行される。すると、このような着火アシストにより図8の波形Qc’のような少量の熱発生を伴う燃焼が生じるとともに、当該燃焼により燃焼室6が高温化するのをきっかけにして、続く波形Qcに示すように、上記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気が自着火により燃焼する。なお、以下では、着火アシストのために実行される少量の燃料噴射Pa(着火アシスト用の燃料噴射)のことをアシスト用噴射Pa、着火アシストのために実行される火花点火S(着火アシスト用の火花点火)のことをアシスト用点火Sと称する。
【0095】
上記アシスト用点火Sは、インジェクタ21の先端部(噴口)からアシスト用噴射Paとして噴射された燃料(噴霧)の先端が、点火プラグ20の電極の周辺を通過した直後のようなタイミング、つまり、点火プラグ21の電極の周りに上記アシスト用噴射Paに基づくリッチな混合気が存在するようなタイミングで実行される。なお、図1および図2に示したように、当実施形態では、インジェクタ21の先端部が燃焼室6天井の中央部に位置し、かつこのインジェクタ21の先端部からボア径方向の外側に少しずれた位置に点火プラグ20の電極が位置するように、インジェクタ21および点火プラグ20が近接して配置されているため、上記アシスト用噴射Paのタイミングから上記アシスト用点火Sのタイミングまでの時間は、かなり短いものとなる。ただし、インジェクタ21の先端部と点火プラグ20の電極との離間距離があまりに短いと、燃料がほとんど気化していない状態でアシスト用点火Sが実行されることになるため、上記離間距離は、少なくとも燃料の気化時間および空気との混合に必要な時間を確保できる程度の距離に設定される。一例として、インジェクタ21からの噴射圧力が30〜40MPa程度である場合に、インジェクタ21の先端中心から点火プラグの点火点(電極部の放電ギャップの中間点)までの距離は、10〜25mm程度に設定するのがよい。
【0096】
また、上述したように、インジェクタ21の先端部には12個の噴口が設けられるが、これら12個の噴口から放射状に噴射された燃料により形成される12本の噴霧と、上記点火プラグ20との位置関係としては、上記点火プラグ20の電極が、上記12本の噴霧のうちの2本の噴霧の間に位置するように配置されることが望ましい。このように、2本の噴霧の間に点火プラグ20の電極が配置されることで、未気化の燃料が電極に付着して着火性が損なわれることが回避される。
【0097】
なお、第3運転領域A3では、上記のような着火アシストに関する制御を除けば、第2運転領域A2のときとほぼ同様の制御が実行される。例えば、第3運転領域A3では、排気弁12を吸気行程中に開弁させる(排気ガスを燃焼室6に逆流させる)内部EGRが禁止されるとともに、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。ただし、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは禁止される。
【0098】
図10(a)〜(h)は、以上のような着火アシストに基づく圧縮自己着火燃焼が行われる第3運転領域A3での燃焼の様子を模式的に示す図である。図10(a)に示すように、第3運転領域A3では、上述した第2運転領域A2での前段噴射P1(図9(a))のタイミング(BTDC60〜50°CA程度)とほぼ同じタイミングで前段噴射P1が実行され、この前段噴射P1により、燃焼室6の外周部に、理論空燃比(λ=1)程度の空燃比をもった混合気X1が形成される。ただし、上記前段噴射P1のタイミングは、厳密には、上記第2運転領域A2での前段噴射P1のタイミングよりもわずかに早い時期に設定される。これは、第3運転領域A3では、第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、ピストンスピードが速いからである。つまり、ピストンスピードが速いと、インジェクタ21からの噴射燃料がピストン5の冠面付近に達するまでの間にピストン5が比較的大きく移動するため、ピストン5上の同様の位置に燃料(噴霧)を届かせようとすれば、インジェクタ21からの噴射タイミングをわずかにでも早める必要がある。このことは、後述する後段噴射P2の場合でも同様である。
【0099】
上記前段噴射P1の後は、図10(c)に示す着火アシストが実行される。すなわち、上記前段噴射P1の後、ピストン5がある程度上昇した時点(例えばBTDC30〜10°CA程度)で、着火アシスト用の燃料噴射であるアシスト用噴射Paが実行されるとともに、その直後に、アシストの火花点火であるアシスト用点火Sが実行される。すると、上記アシスト用噴射Paにより噴射された燃料に基づいて、点火プラグ20の電極周りにリッチな混合気が形成されるとともに、その混合気が上記アシスト用点火Sを火種として火炎を形成することにより、図10(d)に示すように、点火プラグ20の電極周りに混合気の燃焼領域Yaが局所的に形成される。
【0100】
上記のようにして着火アシストによる火炎(燃焼領域Ya)が生じると、その火炎による燃焼室6の高温化と、ピストン5の上昇による圧縮作用とが相俟って、燃焼室6の外周部に形成されていた上記前段噴射P1に基づく混合気X1が、図10(e)に示すように、圧縮上死点付近で自着火により燃焼する。この混合気X1の燃焼領域Y1は、燃焼室6の外周部分に限られ、点火プラグ20の電極からはボア径方向の外側に離間した領域となる。
【0101】
上記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それ以降は、上記第2運転領域A2のときと同様にして燃焼が進行していく。すなわち、上記前段噴射P1に基づく燃焼の開始とほぼ同時に、図10(f)に示すような後段噴射P2が実行され、その後段噴射P2に基づき、燃焼室6の中央部(主にキャビティ40の内部)に、理論空燃比(λ=1)程度の空燃比をもった混合気X2が形成される。すると、この混合気X2は、短い時間で自着火に至り、燃焼室6の中央部に上記混合気X2の燃焼領域Y2を形成する。
【0102】
以上のように、第3運転領域A3では、前段噴射P1および後段噴射P2の間に、点火プラグ20を用いて着火アシストを実行し、その着火アシストにより燃焼室6を高温化することにより、上記着火アシストに引き続いて上記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2をそれぞれ自着火により燃焼させるようにした。このように、着火アシストにより混合気の自着火を促進するようにした第3運転領域A3では、上述した第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、燃料の受熱期間が短くなる状況であるにもかかわらず、混合気が確実に自着火により燃焼し、失火が起きることが回避される。しかも、上記第2運転領域A2のときと同様、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2が別々の空間で独立して自着火、燃焼するため、燃焼騒音の増大やスートの発生についても回避される。
【0103】
図11は、上記第3運転領域A3で、着火アシストに基づく混合気の燃焼領域Yaと、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気の燃焼領域Y1,Y2との位置関係を模式的に示すための平面図である。上述した第3運転領域A3での燃焼形態によれば、図11のように、まず着火アシストに基づく燃焼領域Yaが点火プラグ20の周辺に限って形成され、これとほぼ重ならない燃焼室6の外周部に、前段噴射P1に基づく燃焼領域Y1が形成され、さらに、後段噴射P2に基づく燃焼領域Y2が、上記燃焼領域Y1よりもボア径方向の内側に形成される。これら各燃焼領域は、Ya→Y1→Y2の順に形成され、その発生位置または発生時期は、ほとんど重なり合うことがない。
【0104】
(iv)第4運転領域A4および第5運転領域A5
上記第4運転領域A4および第5運転領域A5は、第1運転領域A1と第2運転領域A2との間、または第1運転領域A1と第3運転領域A3との間に位置する領域であるから、上述の(i)〜(iii)で説明した各制御内容の中間的な制御が実行される。
【0105】
具体的に、第4運転領域A4では、インジェクタ21からの燃料噴射時期が、第1運転領域A1での燃料噴射時期よりもリタードされ、例えば圧縮行程中の1回に設定される。そのときの噴射量は、第1運転領域A1のときと同様、空気過剰率λが2以上になるように設定される。また、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。
【0106】
一方、第5運転領域A5では、圧縮行程中の所定時期およびそれより後の圧縮上死点付近の2回に分けて燃料を噴射する制御が実行される。そのときの噴射量は、空気過剰率λが局所的にλ=1程度になるように設定される。また、吸気行程中の排気弁12の開弁により排気ガスを燃焼室6に逆流させる内部EGRが実行される。
【0107】
(3−2)制御マップB(準温間時)
次に、エンジンの準温間時(冷却水温Twおよび外気温Taの条件が図5の領域W2に該当するとき)に選択される制御マップB(図4(b))に基づき実行される燃焼制御について説明する。この制御マップBでは、エンジン回転速度Neが比較的高い領域に、負荷Tの全域にわたって領域B3が設定されている。また、この領域B3よりも回転速度Neが低く、かつ負荷TがラインLx(一括噴射の限界ラインLx)よりも低い領域には、領域B1が設定されているとともに、この領域B1よりも負荷Tが高くかつ上記領域B3よりも回転速度Neが低い領域には、領域B2が設定されている。さらに、上記領域B1と領域B2との間には、領域B4および領域B5が設定されている。以下では、これら各領域B1、B2,B3,B4,B5を、それぞれ、第6運転領域B1、第7運転領域B2、第8運転領域B3、第9運転領域B4、第10運転領域B5と称する。これら各運転領域B1〜B5では、それぞれ次のような燃焼制御が実行される。
【0108】
(i)第8運転領域B3
上記制御マップBに基づく制御において、先の制御マップAのときと最も異なるのは、高回転側に設定された第8運転領域B3で、圧縮自己着火燃焼ではなく、点火プラグ20の火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行されることである。すなわち、エンジンの温度条件が相対的に低い準温間時は、温間時のときと比べて、筒内温度が低くなりがちであるため、特に燃料の受熱期間が短い高回転域において、混合気の自着火が困難になると考えられる。そこで、準温間時に使用される上記制御マップBでは、その高回転側の領域に、火花点火燃焼の実行領域である第8運転領域B3が設定されている。なお、第8運転領域B3で火花点火燃焼を実行する場合の混合気の空燃比は、理論空燃比(λ=1)もしくはその近傍に設定される。
【0109】
ここで、上記第8運転領域B3と他の運転領域(B1,B2,B5)との境界ラインをLzとすると、この境界ラインLzは、エンジンの温度条件に応じて可変的に設定される。すなわち、混合気の自着火が困難な領域は、エンジンの温度条件が低いほど(つまり図5の領域W2の左側または下側ほど)低回転側まで拡大するため、これに合わせて、混合気の自着火(圧縮自己着火燃焼)の限界ラインである上記境界ラインLzも、エンジンの温度条件が低いほど低回転側に設定される。
【0110】
(ii)その他の運転領域
上記SI燃料の実行領域である第8運転領域B3よりも低回転側に設定された他の運転領域(B1,B2,B4,B5)では、いずれの場合でも、混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が実行される。
【0111】
例えば、上記運転領域のうち、最も低負荷側に設定された第6運転領域B1では、上記制御マップAの第1運転領域A1のときと同じく、内部EGRにより燃焼室6の高温化を図りながら、圧縮行程よりも前にインジェクタ21から燃料を一括噴射することにより、圧縮上死点付近で混合気を自着火させる制御(HCCI)が実行される。
【0112】
上記第6運転領域B1よりも高負荷側に設定された第7運転領域B2は、燃焼騒音の観点から設定された一括噴射の限界ラインLxよりも高負荷側に位置するため、この第7運転領域B2では、圧縮行程から膨張行程にかけた複数回に分割して燃料を噴射する制御が実行される。また、このように分割噴射された燃料を、温間時(制御マップAのとき)よりも自着火し難い環境下で確実に自着火させるために、点火プラグ20を用いた着火アシストが実行される。すなわち、第7運転領域B2では、上記制御マップAの第3運転領域A3のときと同じく、燃料を分割噴射しつつ着火アシストを行うことにより、混合気を自着火させる制御(SA+多段CI)が実行される。なお、この第7運転領域B2は、上記第3運転領域A3と同じく、本発明にかかる「特定運転領域」に相当する。
【0113】
次に、第9運転領域B4および第10運転領域B5については、上記第6運転領域B1および第7運転領域B2の間に位置することから、両者の中間的な制御が実行される領域である。ただし、ここではその具体的な中身については説明を省略する。
【0114】
(3−3)制御マップC(冷間時)
最後に、エンジンの冷間時(冷却水温Twおよび外気温Taの条件が図5の領域W3に該当するとき)に選択される制御マップC(図4(c))における燃焼制御について説明する。この制御マップCでは、エンジンの運転領域の全域が、火花点火燃焼の実行領域C1として設定されている。すなわち、エンジンが冷間状態にあるときは、もはや混合気を自着火により燃焼させることは不可能であるため、エンジンの運転領域の全域で、圧縮自己着火燃焼ではなく、点火プラグ20の火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行される。
【0115】
(4)作用効果等
以上説明したように、当実施形態の火花点火式ガソリンエンジンでは、温間時もしくは準温間時に、少なくとも一部の運転領域で、混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が実行される。この圧縮自己着火燃焼の実行領域のうち、特定の運転領域(温間時の第3運転領域A3や準温間時の第7運転領域B2)では、前段噴射P1および後段噴射P2に分けてインジェクタ21から燃料が噴射されるとともに、前段噴射P1から後段噴射P2までの間の所定時期に、前段噴射P1および後段噴射P2の各噴射量よりも少量の燃料をインジェクタ21から噴射させかつ点火プラグ20に火花点火を行わせる着火アシストが実行される(図8および図10(c)参照)。すると、この着火アシストによって上記点火プラグ20の電極付近に火炎(図10(d)のYa)が形成され、これをきっかけにして、点火プラグ20の電極から離れた場所で上記前段噴射P1に基づく混合気X1が自着火による燃焼を開始するとともに(図10(e)のY1)、それに引き続いて上記後段噴射P2に基づく混合気X2が自着火により燃焼する(図10(h)のY2)。このような構成によれば、着火アシストにより混合気の自着火を促進しながら、燃焼騒音やスートの増大を効果的に防止することができる。
【0116】
すなわち、上記実施形態では、前段噴射P1と後段噴射P2との間に着火アシストを行い、その着火アシストに基づく火炎により燃焼室6の高温化を図ることで、上記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2の自着火を、上記火炎の発生に引き続いて起こすようにしたため、混合気の自着火が比較的起き難い運転領域であっても、自着火による燃焼(圧縮自己着火燃焼)を安定的に継続させることができる。
【0117】
しかも、上記着火アシスト用の燃料噴射(アシスト用噴射Pa)として、前段噴射P1および後段噴射P2よりも少量の燃料を噴射し、その燃料に基づく火炎の形成後は、点火プラグ20の電極から離れた場所(当実施形態では燃焼室6の外周部)で前段噴射P1に基づく混合気X1を燃焼させるとともに(図10(e))、後段噴射P2に基づく混合気X2を続けて燃焼させるようにしたため(図10(h))、少量の燃料を用いた着火アシストにより燃焼室6の高温化を図りながら、それ以外の燃料(前段噴射P1および後段噴射P2により噴射された燃料)に基づく混合気X1,X2を、火炎伝播ではなく自着火により確実に燃焼させることができる。これにより、着火アシストによる安定燃焼を図りながら、自着火により燃焼する混合気の割合(1燃焼サイクル中に形成される混合気のうち火炎伝播ではなく自着火により燃焼する混合気の割合)を高くして、熱効率をより向上させることができる。
【0118】
さらには、着火アシストによる火炎の形成をきっかけに、着火アシストよりも前に実行された前段噴射P1に基づく混合気X1をまず燃焼させ始め、その燃焼の開始後に、着火アシストよりも後に実行された後段噴射P2に基づく混合気X2を燃焼させるようにしたため、上記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2が同時に燃焼することがなく、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの増大を効果的に防止することができる。
【0119】
特に、上記実施形態では、着火アシスト用の火花点火(アシスト用点火S)の時点で、点火プラグ20の電極よりもボア径方向の外側に離間した位置(燃焼室6の外周部)に前段噴射P1に基づく混合気X1が偏在し、かつ上記点火プラグ20の電極周りに上記アシスト用噴射Paに基づく混合気が形成されるように、上記前段噴射P1およびアシスト用噴射Paのタイミングをそれぞれ設定したため、着火アシストにより電極付近に形成される火炎(図10(d)のYa)とは独立して、前段噴射P1に基づく混合気X1を自着火により確実に燃焼させることができ(図10(e)のY1)、自着火により燃焼する混合気の割合を効果的に高められるという利点がある。
【0120】
しかも、上記実施形態では、前段噴射P1に基づく燃焼が起きている時点で、燃焼室6の中央部に後段噴射P2に基づく混合気X2が偏在するように、当該後段噴射P2のタイミングを設定したため、前段噴射P1に基づく混合気X1を燃焼室6の外周部で燃焼させ、かつ後段噴射P2に基づく混合気X2を燃焼室6の中央部で燃焼させることにより、各噴射P1,P2に基づく混合気X1,X2を別々の空間に分離しながら独立して燃焼させることができ、燃焼騒音やスートの増大をより効果的に防止することができる。
【0121】
さらに、上記実施形態では、インジェクタ21として、燃焼室6天井の中央部から放射状に燃料(ガソリンを主成分とする燃料)を噴射する多噴口型のインジェクタを設けるとともに、このインジェクタ21と対向するピストン5冠面の中央部に凹状のキャビティ40を設けたため、このキャビティ40を利用して、上記のような混合気X1,X2の燃焼独立性をより確実に担保することができる。
【0122】
より具体的に、上記実施形態では、圧縮行程中に前段噴射P1を実行することにより、その噴射の時点で、上記ピストン5のキャビティ40よりもボア径方向の外側に位置する燃焼室6の外周部に、キャビティ40の内部よりもリッチな(λ=1程度の)混合気X1を形成するとともに(図10(b))、上記前段噴射P1よりも後の圧縮上死点付近で後段噴射P2を実行することにより、上記キャビティ40の内部に、上記前段噴射P1の実行時よりもリッチな(混合気X1と同様のλ=1程度の)混合気X2を形成するようにした(図10(g))。このように、主にキャビティ40の内と外に分けて混合気X1,X2を形成し、それらの混合気X1,X2を圧縮上死点付近で独立して自着火、燃焼させるようにした場合には、上記前段噴射P1および後段噴射P2に分けて噴射された燃料が混じり合って同時に燃焼してしまうといったことがなく、燃焼の独立性が十分に担保されるため、燃焼騒音やスートの増大をより確実に防止することができる。
【0123】
特に、上記実施形態では、キャビティ40よりもボア径方向外側のピストン5冠面に環状凹部41を設けたため、上記前段噴射P1によって噴射された燃料を上記環状凹部41に導入することにより、その環状凹部41の設置部に対応する燃焼室6の外周部に、上記前段噴射P1に基づく混合気X1を確実に留めておくことができる。この結果、当該前段噴射P1に基づく混合気X1を、その後の後段噴射P2に基づきキャビティ40内に形成される混合気X2から明確に分離することができ、それらの混合気X1,X2の燃焼独立性をさらに高めることができる。
【0124】
また、上記実施形態では、図4(a)に示した制御マップAが使用されるエンジンの温間時に、エンジンの高回転かつ高負荷寄りに設定された第3運転領域A3(特定運転領域)を、上記着火アシストおよび分割噴射に基づく圧縮自己着火燃焼の実行領域とし、上記第3運転領域A3よりも低回転側に設定された第2運転領域A2(非アシスト領域)を、着火アシストなしの圧縮自己着火燃焼(分割噴射に基づく混合気を着火アシストなしで自着火させる燃焼)の実行領域とした。そして、上記第2運転領域A2と第3運転領域A3との境界ラインLyを、エンジンの温度条件が高いほど高回転側に(矢印W1)、温度条件が低いほど低回転側に設定するようにした(矢印W2)。このような構成によれば、エンジンの温度条件が高いほど混合気の着火性が高まり、着火アシストなしでも混合気の自着火が可能な上限の回転速度が上昇することに合わせて、着火アシストを用いた圧縮自己着火燃焼の実行領域(第3運転領域A3)を高回転側へと狭めることにより、混合気の着火性を担保しながら、着火アシストの実行頻度を全体として低下させることができる。これにより、着火アシストのために使用される燃料の量が低減されるため、さらなる熱効率の向上を図ることができる。
【0125】
また、上記実施形態では、図4(b)(c)に示した制御マップB,Cが使用されるエンジンの準温間時または冷間時に、少なくともエンジンの高回転域を含む運転領域(マップBの第8運転領域B3、およびマップCの全運転領域C1)で、点火プラグ20の火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼を実行するようにしたため、エンジンの温度条件がそれほど高くなく、しかも回転速度Neが高いために燃料の受熱期間が短いという環境下で、失火を招くことなく安定的に混合気を燃焼させることができる。
【0126】
なお、上記実施形態では、エンジンの温度条件を、図5に示すように、温間(W1)、準温間(W2)、冷間(W3)の3段階に分け、それぞれの段階のときに、図4(a)〜(c)に示した3種類の制御マップA,B,Cのいずれかに従ってエンジンを制御するものとしたが、これら制御マップのバリエーションはあくまで一例に過ぎず、他のバリエーションも当然に考えられる。例えば、温間と準温間の間、または準温間と冷間の間に別の段階を規定し、そのような段階では、上記制御マップA〜Cとは異なる別の態様の制御マップを使用するようにしてもよい。
【0127】
また、上記実施形態では、上記制御マップA,B,Cを使い分ける基準となるエンジンの温度条件を、エンジンの冷却水温Twおよび外気温Taの2種類の温度値に基づき特定するようにしたが、エンジンの温度条件を特定するためのパラメータは、混合気の着火性に影響する温度に関するものであればよく、上記冷却水温Twおよび外気温Taの2種類に限られない。例えば、エンジンの吸気ポート9を通過する空気の温度のみによって、エンジンの温度条件の高低を判断してもよい。つまり、吸気ポート9内の空気の温度は、エンジン本体1の温度(冷却水温Tw)と外気温Twとの両方の影響により変動するものであり、燃焼室6に流入する直前の空気の温度であるため、混合気の着火性に直接的に影響する。よって、上記吸気ポート9を通過する空気の温度(吸気温度)のみによっても、エンジンの温度条件の高低を判断することが可能である。あるいは、エンジンが搭載される車両の仕向け地が特定の国地域に限られ、外気温Taの変動幅が年間を通じてそれほど大きく変わらない場合には、外気温Taの影響を無視できるので、エンジンの冷却水温Twのみによってエンジンの温度条件の高低を判断してもよい。
【0128】
また、上記実施形態では、図6〜図8を用いて、各種運転領域での燃料の噴射時期や着火アシストの時期について例示したが、これらはあくまで一例に過ぎず、上記燃料噴射時期や着火アシストの時期はエンジンの特性等によって適宜変更し得るものである。
【0129】
エンジンの温間時に使用される制御マップA(図4(a))の第2運転領域A2を例に挙げると、この第2運転領域A2では、圧縮上死点前60〜50°CA程度の期間内に前段噴射P1を実行するとともに、圧縮上死点後0〜10°CA程度の期間内に後段噴射P2を実行するものとしたが、こられ各噴射P1,P2のタイミングは、インジェクタ21からの燃料の噴射角(気筒中心軸に対する拡がり角度)やピストン5冠面の形状等が異なれば、これに合わせて変更する必要がある。
【0130】
より具体的に説明すると、例えば、インジェクタ21からの燃料の噴射角が上記実施形態の例よりも小さい場合には、鉛直下向きにより近い角度(つまりインジェクタ21から遠く離れないとボア径方向の外側に大きく拡がらないような角度)で燃料が噴射されるため、仮にピストン5の冠面の形状が上記実施形態と同一であると仮定すると、上記実施形態のときよりも早いタイミングで前段噴射P1および後段噴射P2を実行しなければ、当該各噴射P1,P2による燃料をそれぞれ所望の場所(燃焼室6の外周部およびキャビティ40の内部)に偏在させることができなくなる。このため、燃料の噴射角が小さい場合は、燃料噴射P1,P2の時期を早めるとよい。
【0131】
ただし、このような噴射角等の相違による影響があるとしても、設定可能な噴射角や、キャビティ40および環状凹部41等の配置バランス等を考慮すれば、後段噴射P2は、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期までの間のいずれかのタイミングで実行する必要があり、前段噴射P1は、上記後段噴射P2よりも前であって、かつ圧縮行程中に実行する必要があると考えられる。なお、ここでいう圧縮行程後期とは、圧縮行程を初期、中期、後期に分けたときの後期であって、圧縮上死点前(BTDC)60〜0°CAの範囲を指す。同様に、膨張行程初期とは、膨張行程を初期、中期、後期に分けたときの初期であって、圧縮上死点後(ATDC)0〜60°CAの範囲を指す。
【0132】
また、温間時(制御マップA)の第3運転領域A3や準温間時(制御マップB)の第7運転領域B2で実行される着火アシストの時期については、上記前段噴射P1および後段噴射P2の間の所定時期に行われるものであるから、例えば上記のように前段噴射P1および後段噴射P2の時期が変更された場合には、これに合わせて適宜変更すべきものである。
【0133】
また、分割噴射の回数についても、上記のような前段噴射P1および後段噴射P2の2回に限るものではない。例えば、前段噴射P1および後段噴射P2の前の予備噴射として、少量の燃料を前段噴射P1よりも前に噴射するようにしてもよい。
【0134】
また、上記実施形態では、インジェクタ21が多噴口型のインジェクタであり、その先端部に12個の噴口が設けられるものとしたが、噴口の数は12個に限られず、12個より多くても少なくてもよい。ただし、噴口の数があまりに少ないと、インジェクタ21から噴射された燃料の濃度が周方向に大きくばらつくことになる。このため、噴口の数は8個以上とすることが望ましい。噴口の数が8個以上であれば、上記前段噴射P1および後段噴射P2を実行した後、ごく短時間で、周方向にほぼ均一な空燃比をもった混合気を形成することができ、その後の自着火による燃焼(圧縮自己着火燃焼)を適正に行わせることができる。
【符号の説明】
【0135】
6 燃焼室
20 点火プラグ
21 インジェクタ
50 ECU(制御手段)
A2 非アシスト領域
A3 第3運転領域(特定運転領域)
B2 第7運転領域(特定運転領域)
Ly 境界ライン
P1 前段噴射
P2 後段噴射
Pa アシスト用噴射(着火アシスト用の燃料噴射)
S アシスト用点火(着火アシスト用の火花点火)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がガソリンからなる燃料を燃焼室に噴射するインジェクタと、燃焼室に露出する電極から火花を放電する点火プラグと、上記インジェクタおよび点火プラグの動作を制御する制御手段とを備えるとともに、上記インジェクタから噴射された燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が少なくとも温間時に実行される火花点火式ガソリンエンジンであって、
上記制御手段は、上記圧縮自己着火燃焼の実行領域の少なくとも一部に設定された特定運転領域において、前段噴射および後段噴射を含む複数回に分けて上記インジェクタから燃料を噴射させるとともに、上記前段噴射から後段噴射までの間の所定時期に、上記前段噴射および後段噴射の各噴射量よりも少量の燃料を上記インジェクタから噴射させかつ上記点火プラグに火花点火を行わせる着火アシストを実行するものであり、
上記着火アシストにより上記点火プラグの電極付近に火炎が形成されるのをきっかけに、上記点火プラグの電極から離れた場所で上記前段噴射に基づく混合気が自着火による燃焼を開始するとともに、それに引き続いて上記後段噴射に基づく混合気が自着火により燃焼するように、上記点火プラグの電極位置や上記前段噴射および後段噴射のタイミングが設定されたことを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項2】
請求項1記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
上記前段噴射は、上記着火アシスト用の火花点火の時点で上記点火プラグの電極よりもボア径方向の外側に離間した位置に混合気が偏在するようなタイミングで燃料を噴射するものであり、
上記着火アシスト用の燃料噴射は、上記着火アシスト用の火花点火の時点で上記点火プラグの電極周りに混合気が形成されるようなタイミングで燃料を噴射するものであることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項3】
請求項2記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
上記後段噴射は、上記前段噴射に基づく燃焼が起きている時点で上記燃焼室の中央部に混合気が偏在するようなタイミングで燃料を噴射するものであることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
エンジンの温間時に設定される上記特定運転領域に、エンジンの高負荷域の少なくとも一部が含まれることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項5】
請求項4記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
エンジンの温間時の上記特定運転領域が、エンジンの高回転かつ高負荷寄りの領域に設定されるとともに、この特定運転領域よりも低回転側に、上記インジェクタから分割噴射された燃料に基づく混合気を上記着火アシストを伴うことなく自着火させる運転領域である非アシスト領域が設定され、
上記特定運転領域と非アシスト領域との境界ラインが、エンジンの温度条件が高いほど高回転側に、温度条件が低いほど低回転側に設定されることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
エンジンの温間時以外は、少なくともエンジンの高回転域を含む運転領域で、点火プラグの火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行されることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項1】
少なくとも一部がガソリンからなる燃料を燃焼室に噴射するインジェクタと、燃焼室に露出する電極から火花を放電する点火プラグと、上記インジェクタおよび点火プラグの動作を制御する制御手段とを備えるとともに、上記インジェクタから噴射された燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させる圧縮自己着火燃焼が少なくとも温間時に実行される火花点火式ガソリンエンジンであって、
上記制御手段は、上記圧縮自己着火燃焼の実行領域の少なくとも一部に設定された特定運転領域において、前段噴射および後段噴射を含む複数回に分けて上記インジェクタから燃料を噴射させるとともに、上記前段噴射から後段噴射までの間の所定時期に、上記前段噴射および後段噴射の各噴射量よりも少量の燃料を上記インジェクタから噴射させかつ上記点火プラグに火花点火を行わせる着火アシストを実行するものであり、
上記着火アシストにより上記点火プラグの電極付近に火炎が形成されるのをきっかけに、上記点火プラグの電極から離れた場所で上記前段噴射に基づく混合気が自着火による燃焼を開始するとともに、それに引き続いて上記後段噴射に基づく混合気が自着火により燃焼するように、上記点火プラグの電極位置や上記前段噴射および後段噴射のタイミングが設定されたことを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項2】
請求項1記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
上記前段噴射は、上記着火アシスト用の火花点火の時点で上記点火プラグの電極よりもボア径方向の外側に離間した位置に混合気が偏在するようなタイミングで燃料を噴射するものであり、
上記着火アシスト用の燃料噴射は、上記着火アシスト用の火花点火の時点で上記点火プラグの電極周りに混合気が形成されるようなタイミングで燃料を噴射するものであることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項3】
請求項2記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
上記後段噴射は、上記前段噴射に基づく燃焼が起きている時点で上記燃焼室の中央部に混合気が偏在するようなタイミングで燃料を噴射するものであることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
エンジンの温間時に設定される上記特定運転領域に、エンジンの高負荷域の少なくとも一部が含まれることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項5】
請求項4記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
エンジンの温間時の上記特定運転領域が、エンジンの高回転かつ高負荷寄りの領域に設定されるとともに、この特定運転領域よりも低回転側に、上記インジェクタから分割噴射された燃料に基づく混合気を上記着火アシストを伴うことなく自着火させる運転領域である非アシスト領域が設定され、
上記特定運転領域と非アシスト領域との境界ラインが、エンジンの温度条件が高いほど高回転側に、温度条件が低いほど低回転側に設定されることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の火花点火式ガソリンエンジンにおいて、
エンジンの温間時以外は、少なくともエンジンの高回転域を含む運転領域で、点火プラグの火花点火により混合気を強制的に燃焼させる火花点火燃焼が実行されることを特徴とする火花点火式ガソリンエンジン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
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【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−241588(P2012−241588A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111397(P2011−111397)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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