説明

炭化燃料の製造方法およびその装置

【課題】塩素を含有する有機系廃棄物から、塩素含有量が少ない炭化燃料を高収率で製造できる方法およびその装置を提供する。
【解決手段】炭化燃料を製造する際に、塩素を含有する有機系廃棄物を加熱分解して塩素分をガス側に除去しつつ炭化物を生成する炭化工程、前記炭化工程で分離した塩素分を含有する排ガスを脱塩素すると共に、乾留ガスとタールに分ける分離工程、前記炭化工程で生成した炭化物と前記分離工程で分けられたタールを混合して炭化燃料とする混合工程、を含んで操業すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素を含有する有機系廃棄物から、塩素含有量の少ない炭化燃料を製造するための方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我々の周りでは、種々な有機系廃棄物が毎日多量に排出されている。例えば、食品メーカーからは食材の残渣、飲料メーカーからは野菜や果物の搾りかす、飲食店からは厨芥、一般家庭からは生ごみや下水汚泥などの有機系廃棄物が排出されている。こうした有機系廃棄物は、一般的には焼却処分されるが、一部については炭化処理して炭化物とし、これを炭化燃料や緑農地資材として再利用している。特に炭化燃料は、カーボン・ニュートラルな燃料として有効と考えられる。
【0003】
有機系廃棄物のうち、下水汚泥を燃料として再資源化する技術が、例えば、非特許文献1や非特許文献2に提案されている。このうち非特許文献1には、下水汚泥を炭化させて炭化物とし、これを石炭に混合して火力発電所等の燃料とすることが記載されている。ここでは、できるだけ多くの熱量を回収するために、400℃程度の低温で炭化することが推奨されている。炭化処理を高温で行なうと、タールが揮発して炭化ガスとなって分離・除去されるため、炭化物の収量が減るからである。
【0004】
ところで、下水汚泥には、下水汚泥処理時に使用される薬剤や生活排水、し尿に起因する塩素分が含まれており、食材の残渣や、野菜や果物の搾りかす、厨芥、生ごみ等にも塩素分が含まれている。その塩素の量は、乾燥汚泥中に通常0.1〜0.2%程度、最大で0.4%程度になっている。こうした塩素を含有する有機系廃棄物を400℃程度の低温で炭化すると、炭化処理時に塩素分が揮発・除去されず、炭化物にそのまま残存することとなる。塩素を含む炭化物を、例えば、ボイラの燃料として用いたり、コークスの代替品として用いると、炉内耐火物や排ガスの配管を損傷する原因となる。そこで炭化物の燃料としての利用分野を拡大させるには、炭化物から塩素を除去する必要がある。
【0005】
一方、非特許文献2には、キルン内を乾燥汚泥を通して加熱処理することにより炭化させ、固定炭素主体の有機分に変化させることが記載されている。ここでは、石炭火力発電所で燃料として利用できる代替燃料(バイオマス燃料)の目標規格が開示されており、塩素量は1.0%以下と記載されている。しかしこの塩素量レベルは非常に高く、炉内耐火物や排ガスの配管の腐食を低減するには、塩素量は、石炭と同じレベルの0.1%以下(好ましくは0.05%以下)に抑えることが望まれる。また、この非特許文献2には、キルンの具体的な操業条件(特に加熱温度)について記載されておらず、塩素低減手段についても明記されていない。
【0006】
下水汚泥に限らず、上述した食材の残渣や、野菜や果物の搾りかす、厨芥、生ごみ等にも多少なりとも塩素分が含まれており、こうした有機系廃棄物を炭化燃料に加工する場合には、同様の問題が発生する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「三井造船技法」、No.190、2007年3号、P.39〜44
【非特許文献2】「電気製鋼」、第78巻1号、2007年2月、P.73〜78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、塩素を含有する有機系廃棄物から、塩素含有量が少ない炭化燃料を高収率で製造できる方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る炭化燃料の製造方法は、塩素を含有する有機系廃棄物を加熱分解して塩素分をガス側に除去しつつ炭化物を生成する炭化工程、前記炭化工程で分離した塩素分を含有する排ガスを脱塩素すると共に、乾留ガスとタールに分ける分離工程、前記炭化工程で生成した炭化物と前記分離工程で分けられたタールを混合して炭化燃料とする混合工程、を含む点に要旨を有する。
【0010】
前記塩素分を含有する排ガスの脱塩素は、塩素含有排ガスを水中および/または塩基性水溶液中へ通すことによって行なえばよい。前記分離工程で分けられた乾留ガスは、前記炭化工程における熱源として使用できる。前記分離工程で分けられたタールの一部は、前記炭化工程における熱源として使用できる。
【0011】
本発明に係る炭化燃料の製造装置は、塩素を含有する有機系廃棄物を加熱分解して塩素分をガス側に除去しつつ炭化物を生成させるための炭化炉、前記炭化炉で分離した塩素分を含有する排ガスを脱塩素すると共に、乾留ガスとタールに分けるための分離槽、前記炭化炉で生成した炭化物と前記分離槽で分けられたタールを混合して炭化燃料とする混合手段、を含む点に要旨を有する。
【0012】
前記炭化炉は、熱源供給手段と接続されており、前記分離槽で分けられた乾留ガスを、前記熱源供給手段の燃料として供給するための経路を有していてもよい。また、前記分離槽で分けられたタールの一部を、前記熱源供給手段の燃料として供給するための経路を有していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塩素を含有する有機系廃棄物を高温で加熱分解して塩素分をガス側に除去しつつ炭化物を生成し、更に脱塩素ガス技術を適用することによって、塩素の除去された炭化物を得ることができる。そのため炭化燃料の利用分野を拡大でき、結果として、塩素を含有する有機系廃棄物の再資源化を促進できる。また、本発明では、上記脱塩素と平行して乾留ガスとタールの分離を行い、分離したタールの一部を上記炭化物と混合して炭化燃料としているため、加熱分解を高温で行っても、炭化燃料の収率を高めることができる。また、乾留ガスは、炭化炉の熱源として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係る炭化燃料の製造装置を示す概略説明図である。
【図2】図2は、本発明で用いることのできる分離槽20の一構成例を示す概略説明図である。
【図3】図3は、本発明に係る炭化燃料の他の製造装置を示す概略説明図である。
【図4】図4は、本発明に係る炭化燃料の他の製造装置を示す概略説明図である。
【図5】図5は、炭化温度に対する塩素量または発熱量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、塩素を含有する有機系廃棄物(例えば、下水汚泥など)から、塩素含有量の少ない炭化燃料を製造することによって、炭化燃料の利用分野を拡大させ、塩素含有有機系廃棄物の再資源化を促進するという主旨で鋭意検討を重ねてきた。その結果、塩素含有有機系廃棄物を炭化処理するときに塩素分をガス側に分離することによって、塩素を殆んど含まない炭化物を生成できること、またこの炭化物に、炭化処理時に分離した塩素含有排ガスから回収した脱塩素済タールを配合して炭化燃料を形成することで、炭化燃料の収率を高めることができること、この炭化燃料を燃料として利用することで、塩素含有有機系廃棄物の再資源化を促進できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
以下、上記炭化燃料を製造する方法と、この方法を実現できる装置について、図面を用いて説明する。なお、下記図面は、本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で設計変更してもよい。
【0017】
図1は、本発明に係る炭化燃料の製造装置を示す概略説明図である。図1中、10は炭化炉、20は分離槽、21はポンプ、22は薬液槽、30は混合手段(混合機)、31は成形機、32は炭化燃料、40は熱源供給手段、50は弁をそれぞれ示している。
【0018】
図1では、塩素を含有する有機系廃棄物を経路101を通して炭化炉10へ供給し、加熱分解して塩素分を分離しつつ炭化物を生成させる。
【0019】
塩素を含有する有機系廃棄物とは、有機廃棄物を主体とし、塩素分を含有しているものを指す。この有機系廃棄物としては、例えば、食品メーカーから排出される食材残渣や、飲料メーカーから排出される野菜や果物の搾りかす、飲食店から排出される厨芥、一般家庭から排出される生ごみ、下水処理場から排出される下水汚泥などが挙げられる。これらのなかでも、本発明では、特に下水汚泥を用いることができる。下水汚泥には、生活排水やし尿に含まれる塩素分の他、下水汚泥の処理過程で凝集剤として利用する塩化鉄由来の塩素が含まれているため、こうした塩素を含有する下水汚泥は、再資源化の用途が限られているからである。
【0020】
炭化炉10へ供給する上記有機系廃棄物の含水率は、約40%以下であることが好ましい。含水率が40%を超えていると、炭化炉10へ供給される熱エネルギーの水分除去に利用される割合が増加し、コスト高となる他、炭化効率が低下するからである。有機系廃棄物の含水率は、例えば、濃縮したり、加熱して水分を蒸発させて調整すればよい。
【0021】
炭化炉10では、上記有機系廃棄物を常法に従って炭化処理する。炭化炉10には、熱源供給手段40が経路109を介して接続されており、この熱源供給手段40から供給される熱によって炭化炉10内は加熱される。炭化炉10内で有機系廃棄物を加熱することで、有機系廃棄物を揮発分(例えば、ガス、水分、タールなど)と不揮発分(例えば、チャー、灰分など)に分離でき、このうち不揮発分が炭化物となる。
【0022】
炭化処理を行なうときの雰囲気は、低酸素状態あるいは無酸素状態とすればよく、上記有機系廃棄物を外部から加熱して蒸し焼きにすればよい。
【0023】
上記熱源供給手段40としては、例えば、燃焼設備が挙げられる。燃焼設備では、都市ガスや天然ガスなどの気体燃料、或いは灯油などの液体燃料を燃焼させ、燃焼設備から排出された高温の排ガスを炭化炉10へ経路109を通して供給することによって、炭化炉10内を加熱することができる。燃焼設備としては、例えば、熱風炉を用いることができる。熱風炉を用いた場合には、熱風炉に供給される燃料を燃焼させることによって排出される高温の排ガスを熱源として炭化炉10へ供給できる。なお、この高温の排ガスはガス排出経路104を通して排出される。
【0024】
炭化炉10で上記有機系廃棄物を加熱分解するときの温度は、できるだけ低くする方が炭化物の収率が高くなる。しかし、炭化処理を低温で行なうと、有機系廃棄物から塩素分が揮発・除去されず、炭化処理して得られる炭化物に塩素が残留してしまう。そのため炭化物の燃料としての利用分野が限られてしまう。
【0025】
そこで本発明では、炭化燃料の利用分野拡大を優先して、炭化処理における加熱分解温度を、上記有機系廃棄物から塩素分を揮発・除去できる温度とする。炭化燃料の利用分野拡大が可能になるような有機系廃棄物から塩素分を揮発・除去できる温度とは、常圧の場合は、具体的には、750℃以上である。この温度は、好ましくは760℃以上であり、より好ましくは770℃以上である。炭化炉10における加熱温度は、高くするほど上記有機系廃棄物から塩素分を除去でき、塩素含有量の少ない炭化物を得ることができるが、炭化炉の耐熱温度を考慮すると、上限は900℃程度である。但し、炭化炉を900℃に設定すると、熱源供給手段40から供給する外部エネルギー量が増大し、炭化プロセスの効率が悪くなるため、好ましくは850℃以下、より好ましくは830℃以下とするのがよい。
【0026】
炭化炉10で生成した炭化物は、経路102を通して混合機30へ供給され、別の経路106から供給されるタールと混合される。混合機30については後で詳述する。
【0027】
一方、炭化炉10で炭化処理したときに分離した塩素分を含有する排ガスは、経路103を通して分離槽20へ供給される。この排ガスには、塩素ガスの他、有機系廃棄物から揮発・除去されたタールや乾留ガス、水蒸気などが含まれる。
【0028】
上記塩素分を含有する排ガスに含まれるタール量は、炭化炉10で行う炭化処理温度を高くするほど増大する。一方、炭化物に含まれるタール量が少なくなると、炭化物の収量が減少する。
【0029】
そこで本発明では、上記炭化工程で分離した塩素分を含有する排ガスを分離槽20で、脱塩素すると共に、乾留ガスとタールに分離し、分けられたタールは、経路106を通して混合機30へ供給し、別の経路102から供給される炭化物と混合する。
【0030】
上記分離槽20としては、例えば、スクラバーなどを用いることができる。分離槽20について図2を用いて説明する。図2は、本発明で用いることのできる分離槽20の一例を示す概略説明図である。上記図1と対応する箇所には同一の符号を付している。図2中、23はデミスタを示している。
【0031】
図2に示す分離槽20には、塩基性水溶液または水24が供給されており、水面の上方には、経路103の端部(排ガスの吹き込み口)103aが設けられている。排ガスの吹き込み口103aには、図示しない経路から加圧水が供給されており、排ガスを随伴した加圧水が塩基性水溶液または水24へ供給される。
【0032】
経路103から供給される塩素含有排ガスに含まれる塩素分が、例えば、HClガスのような酸性ガスの場合は、分離槽20に塩基性水溶液を供給しておくことで、該酸性ガスが水溶液に含まれる塩基性成分によって中和除去される。また、塩素含有排ガスが塩基性水溶液24で冷却されることで、乾留ガスとタールに分けられる。
【0033】
一方、塩素含有排ガスに含まれる塩素ガスが、例えば、Cl2ガスのような中性ガスの
場合は、上記塩基性水溶液の代わりに水を分離槽20へ供給しておけばよい。塩素含有排ガスを水中を通すことで、塩素含有排ガスに含まれる中性ガスは水へ溶解し、塩素が溶解除去される。
【0034】
以下、分離槽20で分けられた(a)タール、(b)乾留ガス、(c)中和・溶解分について説明する。
【0035】
[(a)タール]
分離槽20で塩素含有排ガスが冷却されて生成するタールは、分離槽20内に供給されている水の上方に浮遊して凝集する。こうして分離槽20で分けられたタールは、図1に示す経路106を通して混合機30へ供給され、上記炭化工程で生成した炭化物と混合される。
【0036】
上記タールと炭化物を混ぜて得られる混合物は、経路112を通して成形機31へ供給され、炭化燃料32に成形される。タールと炭化物を混合して炭化燃料32とすることで、高温で炭化処理して炭化燃料を製造したときよりも、炭化燃料の収率を増大させることができる。また、タールと炭化物を混合して炭化燃料を製造することにより、炭化物単独の発熱量に比べて単位質量あたりの発熱量を高めることができる。
【0037】
即ち、塩素を含有する有機系廃棄物として、例えば、汚泥を用い、この汚泥を800℃に加熱すると、汚泥は炭化物、タール、ガス、その他成分に分解・分離される。具体的には、後述する実施例で用いた下水汚泥の場合は、分解物全体の質量に占める炭化物の質量は約66%、タールの質量は約1%、ガスの質量は約24%、その他成分の質量は約9%であった。一方、分解物全体の発熱量に占める炭化物の熱量割合は約14%、タールの熱量割合は約4%、ガスの熱量割合は約71%、その他成分の熱量割合は約11%であった。従って、分解物全体の質量に占めるタールの質量は、高々1%程度であるが、分解物全体の発熱量に占めるタールの熱量割合は4%程度であり、タールは単位質量あたりの発熱量が高いことが分かる。そのため、上記有機系廃棄物を加熱分解して得られる塩素分含有排ガスからタールを分離・回収し、このタールを炭化物と混合して炭化燃料とすることで、炭化燃料の単位質量あたりの発熱量を向上させることができる。
【0038】
また、炭化物に配合するタールは、上述したように、塩素分が除去されているため、炭化燃料32に含まれる塩素量は低減される。本発明によれば、炭化燃料に含まれる塩素量は、0.05%以下とすることができる。この炭化燃料は、例えば、ボイラの燃料として用いたり、コークスの代替品として用いても、炉内耐火物や排ガス配管に損傷を与えないため、利用分野を拡大できる。
【0039】
上記炭化燃料32の形状は球状とすればよいが、多少変形してラグビーボール状や角状、ペレット状であってもよい。炭化燃料の大きさは特に限定されず、例えば、最大径が10mm程度とすればよい。
【0040】
分離槽20で分けられたタールの一部は、熱源供給手段40の燃料として利用してもよい。例えば、上記有機系廃棄物の水分変動が大きく、炭化するために外部から投入するエネルギー(例えば、燃料や電気等)が増加した場合は、分離槽20で分けられたタールの一部を熱源供給手段40へ供給し、熱源供給手段40の燃料として用いることができる。
【0041】
上記タールの一部を熱源供給手段40の燃料として用いるために、図1に点線で示すように、分離槽20と経路108を経路109で接続すればよい。経路108からは、熱源供給手段40で熱を発生させるために、例えば、灯油などの液体燃料が供給されている。この燃料に、経路109を通して上記タールを配合することで、経路108から供給される液体燃料の量を低減できる。経路109には、図1に点線で示すように、弁50を設けてタールの供給先や供給量を制御すればよく、弁50に代えて、経路106と経路109の分岐点に、図示しない三方弁を設けてもよい。
【0042】
[(b)乾留ガス]
分離槽20で塩素含有排ガスから塩素が除去されて分けられる気体成分は、乾留ガスである。乾留ガスとしては、可燃性のガス(例えば、水素ガスやメタンガス、一酸化炭素ガスなど)を回収することができる。
【0043】
この乾留ガスは、デミスタ23を通して水分を除去した後、分離槽20の上部から経路107を通して排出される。排出された乾留ガスは、上記熱源供給手段40の燃料として利用できる。熱源供給手段40の燃料として利用するには、図1に示すように、分離槽20は上記熱源供給手段40と経路107で接続すればよい。乾留ガスを上記熱源供給手段40の燃料として利用することで、熱源供給手段40に図示しない供給手段から供給される都市ガスや灯油などの燃料の量を低減できる。
【0044】
[(c)中和・溶解分]
《塩素含有排ガスに含まれる塩素分が酸性の場合》
塩素含有排ガスに含まれる塩素分が酸性の場合は、該塩素含有排ガスを分離槽20内に供給されている塩基性水溶液中を通すことで、塩素含有排ガスに含まれる塩素分を中和除去できる。塩基性水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムなどの塩基性成分を含む水溶液を用いればよい。
【0045】
分離槽20に供給した塩基性水溶液自体と、中和反応で生成した塩素の中和物(例えば、NaClやKClなど)を溶解した水溶液は、図1、図2に示すポンプ21を動作させることで循環経路105を通して分離槽20から抜き出され、一部は経路110から系外へ排出される。水溶液の一部はそのまま分離槽20へ返送すればよい。循環経路105には、図1、図2に示すように、薬液槽22と、該薬液槽22と循環経路105を接続する経路111を設ければよい。薬液槽22に塩基性成分を充填しておき、該塩基性成分を経路111を通して循環経路105内を流れる水溶液へ供給することで、水溶液に含まれる酸性ガス(HClガスなど)を中和除去できる。
【0046】
《塩素含有排ガスに含まれる塩素分が中性の場合》
塩素含有排ガスに含まれる塩素分が中性の場合は、該塩素含有排ガスを分離槽20に供給されている水中を通すことで、塩素含有排ガスに含まれる塩素分を溶解除去できる。塩素分を溶解した水溶液は、図1、図2に示すポンプ21を動作させることで循環経路105を通して分離槽20から抜き出され、一部は経路110から系外へ排出される。水溶液の一部はそのまま分離槽20へ返送すればよい。なお、塩素含有排ガスに含まれる塩素分が中性の場合は、薬液槽22の代わりに補充水槽を設ければよく、経路110から系外へ排出した水溶液の量に応じて補充水槽から水を供給すればよい。
【0047】
分離槽20の態様は、上記図2に示したものに限定されるものではなく、例えば、塩素含有排ガスを塩基性水溶液中や水中へ通して塩素を除去すると共にタールと乾留ガスに分けた後、液状成分(タールと分離槽20内の水分)を別の油液分離槽へ供給し、ここでタールと、塩基性水溶液または水を分けてもよい。
【0048】
本発明では、分離槽20を2つ以上設けてもよい。分離槽20を2つ設けた装置の構成例を図3に示す。図1、図2と対応する箇所には同一の符号を付した。
【0049】
図3に示す装置では、図1に示した装置に対して、2つ目の分離槽20aを設けている。この分離槽20aは、経路115で分離槽20と接続されており、経路106aで経路106と接続されている。分離槽20aには、循環経路105aが設けられており、該循環経路105aの途中にはポンプ21aと、水溶液を系外へ排出するための経路110aが設けられている。図3に示す装置においては、分離槽20は熱源供給手段40と接続されていない代わりに、分離槽20aと熱源供給手段40が経路107aで接続されている。
【0050】
分離槽20と分離槽20aには、水または塩基性水溶液のどちらかを供給しておく。即ち、分離槽20に水、分離槽20aに塩基性水溶液を供給してもよいし、分離槽20に塩基性水溶液、分離槽20aに水を供給してもよい。以下では、分離槽20に塩基性水溶液、分離槽20aに水を供給した例を取りあげて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
塩素含有排ガスを、経路103を通して分離槽20に供給されている塩基性水溶液中を通すことで、塩素含有排ガスに含まれる酸性ガス(HClガスなど)を中和除去できる。塩素含有排ガスを塩基性水溶液で冷却することにより分離されたタール分は、経路106を通して、必要により水分が除去された後、混合機30へ供給される。
【0052】
分離槽20には、図1、図2と同様に、ポンプ21と薬液槽22を備えた循環経路105が設けられており、分離槽20内の水溶液の一部を系外へ排出すると共に、薬液槽22から塩基性成分を供給すればよい。
【0053】
分離槽20で分離された乾留ガスは、経路115を通して分離槽20aへ供給される。乾留ガスを、分離槽20aに供給されている水中を通すことで、乾留ガスに含まれる中性の塩素ガスを溶解除去できる。中性の塩素ガスを除去した乾留ガスは、経路107aを通して熱源供給手段40へ供給される。
【0054】
分離槽20aは、経路106aで経路106と接続されており、分離槽20aで分けられたタールが、必要に応じて水分を除去された後、経路106aを通して混合機30へ供給される。
【0055】
塩素ガスを溶解した水溶液の一部は、ポンプ21aを動作させることで、その一部を分離槽20aから抜き出し、経路110aから系外へ排出すればよい。残りの水溶液は、経路105aを通して分離槽20aへ返送すればよい。また、分離槽20aから抜き出した水溶液に、図示しない薬液槽から塩基性成分を供給し、これを分離槽20へ返送してもよい。なお、分離槽20aには、図示しない水供給手段から必要に応じて水を供給すればよい。
【0056】
このように塩素含有排ガスを塩基性水溶液中と水中の両方を通過させることによって、該塩素含有排ガスが酸性ガス(HClなど)と中性の塩素ガスの両方を含む場合であっても、両方の塩素ガスを有効的に溶解除去できる。
【0057】
本発明では、上記有機系廃棄物の加熱分解は、2段階に分けて行なってもよい。2段階に分けることで、タールの収率を一層高めることができる。炭化工程を2段階に分けて行なうときに用いる炭化燃料の製造装置を図4に示す。なお、図1と対応する箇所には同一の符号を付した。
【0058】
図4に示した炭化燃料の製造装置では、図1に示した構成例に対して炭化炉を2つ設けている(図4の10aと10b)。炭化炉10aと炭化炉10bには、熱源供給手段40から延びて接続された経路109aと経路109bから熱源が供給されており、炭化炉10aと炭化炉10bは、経路114で接続されている。炭化炉10aの温度は300〜500℃程度に設定し、炭化炉10bの温度は750〜900℃程度に設定すればよい。
【0059】
上記有機系廃棄物を、まず、炉内が低温に設定されている炭化炉10aで加熱することで、タールを分解させることなく経路103aから回収できる。即ち、上記有機系廃棄物を750〜900℃の高温に設定された炭化炉へ供給すると、有機系廃棄物に含まれるタールは揮発除去されるが、このときタールの一部は熱分解してガス化するため、炭化炉から排出される排ガスを分離槽20で冷却しても回収できるタール量は減少する。一方、上記有機系廃棄物を、300〜500℃の低温に設定された炭化炉10aで加熱すれば、タールは揮発除去されるものの熱分解は起こらない。そのため、炭化炉10aで発生したタールを多く含む排ガスを、経路103aを通して分離槽20へ供給すれば、多くのタールを回収できる。
【0060】
但し、300〜500℃では、上記有機系廃棄物に含まれる塩素は有効に揮発除去できないため、炭化炉10aで加熱された処理物は、高温に設定された炭化炉10bへ供給する。この炭化炉10bで加熱することで、塩素分を揮発除去できると共に、有機系廃棄物を炭化処理できる。このとき塩素を多く含む揮発分は、経路103bを通して分離槽20へ供給される。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
[実験例1]
塩素を含む有機系廃棄物として塩素を0.22%含有する下水汚泥を下記条件で炭化し、得られた炭化物に含まれる塩素量と発熱量を測定した。なお、本実験例1では、熱源供給手段40を設けず、炭化炉10の代わりに電気炉を用いて実験を行った。電気炉は2つ用い、電気炉10aは500℃、電気炉10bは500℃、650℃、800℃、900℃のいずれかに設定した。
【0063】
炭化処理は、下水汚泥を窒素雰囲気下で90分間加熱して行なった。最初の60分間は、電気炉10aで500℃とし、残りの30分は、電気炉10bで500℃、650℃、800℃、900℃のいずれかとして2段階に分けて行なった。
【0064】
炭化処理して得られた炭化物に含まれる塩素量は、炭化物を1350℃で燃焼させてイオンクロマトグラフで定量分析した。分析結果を下記表1に示す。また、炭化温度に対する塩素量の変化を示したグラフを図5に◇で示す。なお、表1には、炭化温度として電気炉10bでの温度を示した。
【0065】
また、炭化処理して得られた炭化物の発熱量を、燃研式自動ボンベ熱量計「型式:CA−4PJ、株式会社島津製作所製」で測定した。測定結果を下記表1に示す。また、炭化温度に対する発熱量の変化を示したグラフを図5に■で示す。
【0066】
表1および図5から明らかなように、炭化処理温度を高くするほど炭化物に含まれる塩素量を低減できる。一般的に、火力発電所で使用されている石炭に含まれる塩素量が0.05%程度であることから、このレベルまで上記下水汚泥に含まれる塩素量を低減するには、概ね750℃以上に加熱して炭化する必要があることが分かる。一方、炭化物の発熱量は、炭化処理の温度によらず、ほぼ一定であることが分かる。
【0067】
【表1】

【0068】
[実験例2]
図1に示した装置を用い、上記実験例1で用いたのと同じ有機系廃棄物(下水汚泥)を下記条件で炭化処理し、炭化燃料を製造した。なお、本実験例2では、炭化炉10の代わりに電気炉を用いて実験を行った。電気炉10は800℃に設定した。
【0069】
炭化処理は、下水汚泥を窒素雰囲気下で、800℃、90分間加熱して行なった。炭化処理後、電気炉10で生成した炭化物を、経路102を通して混合機30へ供給した。
【0070】
一方、電気炉10で炭化処理したときに分離した塩素分を含有する排ガスは、経路103を通して分離槽20へ供給した。分離槽20には、塩基性水溶液(濃度30質量%の水酸化ナトリウム水溶液)を供給しておき、上記排ガスに含まれる酸性ガス(HClガス)を中和除去した。このとき分離槽20に供給された塩基性水溶液の水面付近からタールを回収し、回収したタールは経路106を通して混合機30へ供給し、上記炭化物と混合した。タールと炭化物を混ぜて得られた混合物を、経路112を通して成形機31へ供給し、ペレット状の炭化燃料に成形した。
【0071】
塩素分を含有する排ガスに含まれる酸性ガスを中和除去した後の乾留ガスは、デミスタ23を通して水分を除去した後、分離槽20の上部から経路107を通して排出し、熱源供給手段40へ供給して燃料の一部として使用した。
【0072】
成形して得られたペレット状の炭化燃料に含まれる塩素量と、この発熱量を上記実験例1と同じ条件で測定した。その結果、炭化燃料に含まれる塩素量は0.05質量%であり、発熱量は18310J/gであった。
【0073】
本実験例2で得られた結果と、上記実験例1の表1に示したNo.3(炭化温度は800℃)の結果とを対比すると、炭化燃料の単位質量あたりの発熱量は、実験例2のように排ガスから回収されたタールを混合することで、約26%向上できることが分かった。
【符号の説明】
【0074】
10 炭化炉(電気炉)
20 分離槽
21 ポンプ
22 薬液槽
23 デミスタ
24 塩基性水溶液
30 混合手段(混合機)
31 成形機
32 炭化燃料
40 熱源供給手段
50 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含有する有機系廃棄物から炭化燃料を製造する方法であって、
前記有機系廃棄物を加熱分解して塩素分をガス側に除去しつつ炭化物を生成する炭化工程、
前記炭化工程で分離した塩素分を含有する排ガスを脱塩素すると共に、乾留ガスとタールに分ける分離工程、
前記炭化工程で生成した炭化物と前記分離工程で分けられたタールを混合して炭化燃料とする混合工程、
を含むことを特徴とする炭化燃料の製造方法。
【請求項2】
前記脱塩素は、塩素含有排ガスを水中および/または塩基性水溶液中へ通すことによって行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記分離工程で分けられた乾留ガスを、前記炭化工程における熱源として使用する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記分離工程で分けられたタールの一部を、前記炭化工程における熱源として使用する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
塩素を含有する有機系廃棄物から炭化燃料を製造するための装置であって、
前記有機系廃棄物を加熱分解して塩素分をガス側に除去しつつ炭化物を生成させるための炭化炉、
前記炭化炉で分離した塩素分を含有する排ガスを脱塩素すると共に、乾留ガスとタールに分けるための分離槽、
前記炭化炉で生成した炭化物と前記分離槽で分けられたタールを混合して炭化燃料とする混合手段、
を含むことを特徴とする炭化燃料の製造装置。
【請求項6】
前記炭化炉は、熱源供給手段と接続されており、前記分離槽で分けられた乾留ガスを、前記熱源供給手段の燃料として供給するための経路を有しているものである請求項5に記載の製造装置。
【請求項7】
前記炭化炉は、熱源供給手段と接続されており、前記分離槽で分けられたタールの一部を、前記熱源供給手段の燃料として供給するための経路を有しているものである請求項5または6に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−77399(P2010−77399A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179834(P2009−179834)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】