説明

炭化珪素半導体装置およびその製造方法

【課題】ゲート電圧が閾値近傍に近づくときに発生する過剰なドレイン電流を抑制する。
【解決手段】トレンチ6の先端部に形成されたn-型チャネル層7がトレンチ6の長辺に位置する部分よりも膜厚が厚くなるため、そのトレンチ6の先端部においてJFET構造が構成されないようにする。例えば、トレンチ6の先端部をp+型領域20にて埋め尽くすようにする。これにより、トレンチ6の先端部のJFET構造の閾値がトレンチ6の長辺に位置する部分のJFET構造の閾値からずれることによる影響を受けることがない。したがって、ゲート電圧が閾値近傍に近づくときに発生する過剰なドレイン電流を抑制できる構造のSiC半導体装置とすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレンチ構造のJFETもしくはMOSFETを備えた炭化珪素(以下、SiCという)半導体装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トレンチ構造のJFETを備えたSiC半導体装置が特許文献1、2に開示されている。図7は、この従来のSiC半導体装置を示した図であり、図7(a)は、平面パターン図、図7(b)は、図7(a)のX−X’断面図、図7(b)は、図7(a)のY−Y’断面図である。
【0003】
この図に示されるように、n+型SiC基板J1上に、n-型ドリフト層J2とp+型の第1ゲート領域J3およびn+型ソース領域J4を順に形成したのち、これらを貫通するトレンチJ5を形成し、このトレンチJ5内にn-型チャネル層J6およびp+型の第2ゲート領域J7を形成した構造としている。そして、図示しないが第2ゲート領域J7に対して電気的に接続したゲート電極に印加するゲート電圧を制御することにより、n+型ソース領域J4に電気的に接続されたソース電極とn+型SiC基板J1に電気的に接続されたドレイン電極との間にドレイン電流を流すという動作を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−328014号公報
【特許文献2】特開2003−69041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のSiC半導体装置は、例えば、図7(a)に示されるように各トレンチJ5が短冊状に構成されると共に、各トレンチJ5が平行に並べられることでストライプ状にレイアウトされる。しかしながら、各トレンチJ5を短冊状に配置した場合に、過剰なドレイン電流が発生することが確認された。図8は、従来のSiC半導体装置におけるゲート電圧に対するドレイン電流特性を調べたときの特性図である。この図に示されるように、ゲート電圧がJFETを作動させる閾値近傍に近づくと、閾値を超える以前からドレイン電流が発生していることが確認できる。このような閾値近傍において発生するドレイン電流により、JFETを理想的な特性、つまりゲート電圧が閾値に至った時に初めてドレイン電流が流れ始めるという理想的な特性を得ることができないという問題が発生する。
【0006】
なお、このような問題は、JFETに限るものではなく、蓄積型のチャネル層を備えるようなMOSFETについても同様に発生することを確認している。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、トレンチ構造のJFETもしくはMOSFETを備える場合において、ゲート電圧が閾値近傍に近づくときに発生する過剰なドレイン電流を抑制できる構造のSiC半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題について本発明者らが鋭意検討を行ったところ、トレンチJ5の先端部に形成されるJFET構造が影響して発生しているということが判った。つまり、トレンチJ5を短冊状にする場合、基本的にはトレンチJ5の長辺を使用してJFETを構成することになるが、n+型ソース領域J4をエピタキシャル成長にて形成していることから基板全体にn+型ソース領域J4が形成されることになり、トレンチJ5の先端部にもJFETが構成されることになる。このため、トレンチJ5の先端部に形成されるJFET構造の閾値がトレンチJ5の長辺に形成されるJFET構造の閾値と異なった値となり、上記問題を発生させると考えられる。
【0009】
これについて、トレンチJ5の幅を変えて確認した。図9は、トレンチJ5の幅を変更したときのトレンチJ5の先端部の各部の様子を示した平面図である。この図に示されるように、トレンチJ5の幅を1.2μm、1.7μm、2.1μmに設定した場合、トレンチJ5の先端部において成長したn-型チャネル層J6の厚みは、それぞれ0.8μm、0.6μm、0.5μmであった。このような現象は、n-型チャネル層J6を形成する際のマイグレーションのトレンチJ5の幅に対する依存性により発生するもので、毛細管現象によりトレンチJ5の幅が狭くなるほど先端部へのマイグレーションが大きくなるために発生する。なお、参考としてn-型チャネル層J6のうちトレンチJ5の長辺部に形成される部分と先端部に形成される部分との成長量の違いについて確認したところ、図10に示す結果となり、トレンチJ5の幅が大きくなると両者の差が縮まるが、トレンチJ5の幅が小さくなるほど両者の差が広がるという結果となった。
【0010】
さらに、上記した各場合についてゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idの特性を調べたところ、図11のような結果となった(なお、図中WはトレンチJ5の幅を示している)。
【0011】
図11の破線で示したように、理想的には、ゲート電圧Vgが閾値に達したときにドレイン電流が流れるという特性であるべきであるが、従来のSiC半導体装置の構造だとゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idの特性が理想的な特性からすれている。そして、このズレは、トレンチJ5の先端に形成されるn-型チャネル層J6の厚みに応じて変化しており、厚みが厚いほどズレ量が大きくなっている。これは、n-型チャネル層J6の厚みが大きくなるほど、閾値が低下するためであり、トレンチJ5の幅が狭くなってトレンチJ5の先端部のn-型チャネル層J6が厚くなる程、先端部に構成されるJFET構造の閾値が影響して理想的な状態からずれてしまう。したがって、トレンチJ5の先端部においてJFET構造が形成されないようにすれば、上記の問題が発生しないようにできると言える。
【0012】
そこで、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、JFETを備えたSiC半導体装置において、トレンチ(6)の両先端部にソース領域(4)の厚みよりも深い第2導電型領域(20)を形成し、少なくともトレンチ(6)の両先端部に位置するソース領域(4)およびチャネル領域(7)が第2導電型領域(20)にて埋め尽くされるようにすることで、トレンチ(6)の両先端部にソース領域(4)が形成されないようにすることを特徴としている。
【0013】
このように構成されたJFETを備えるSiC半導体装置では、トレンチ(6)の両先端部に形成されたチャネル層(7)がトレンチ(6)の長辺に位置する部分よりも膜厚が厚くなっていたとしても、そのトレンチ(6)の両先端部においてJFET構造が構成されないようにできる。このため、トレンチ(6)の両先端部にJFET構造が構成される従来構造の場合のように、その両先端部のJFET構造の閾値がトレンチ(6)の長辺に位置する部分のJFET構造の閾値からずれることによる影響を受けることがない。したがって、ゲート電圧が閾値近傍に近づくときに発生する過剰なドレイン電流を抑制できる構造のSiC半導体装置とすることが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明では、MOSFETを備えたSiC半導体装置において、トレンチ(6)の両先端部にソース領域(4)が形成されていないことを特徴としている。このように、MOSFETを備えるSiC半導体装置においても、請求項1と同様の構造を採用することで、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0015】
この場合、請求項3に記載したように、トレンチ(6)を複数本が平行に並べられたストライプ状とする場合には、第2導電型領域(20)が複数本のトレンチ(6)の先端部の領域を含む連続した領域となるようにすることができる。
【0016】
請求項4または5に記載の発明は、請求項1ないし3に記載のSiC半導体装置の製造方法に関するものである。これら各請求項に記載した製造方法により、上記各SiC半導体装置を製造することが可能となる。
【0017】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるSiC半導体装置を示した図であり、(a)は、平面パターン図、(b)は、(a)のA−A’断面図、(b)は、(a)のB−B’断面図、(d)は、(a)のC−C’断面図である。
【図2】従来構造と第1実施形態の構造のゲート電圧(V)に対するドレイン電流(A)の特性を調べた結果を示した図である。
【図3】図1に示すSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるSiC半導体装置を示した図であり、(a)は、平面パターン図、(b)は、(a)のD−D’断面図、(b)は、(a)のE−E’断面図である。
【図5】図4に示すSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかるSiC半導体装置を示した図であり、(a)は、平面パターン図、(b)は、(a)のF−F’断面図、(b)は、(a)のG−G’断面図である。
【図7】従来のSiC半導体装置を示した図であり、(a)は、平面パターン図、(b)は、(a)のX−X’断面図、(b)は、(a)のY−Y’断面図である。
【図8】従来のSiC半導体装置におけるゲート電圧に対するドレイン電流特性を調べたときの特性図である。
【図9】トレンチJ5の幅を変更したときのトレンチJ5の先端部の各部の様子を示した平面図である。
【図10】n-型チャネル層J6のうちトレンチJ5の長辺部に形成される部分と先端部に形成される部分との成長量の違いを調べた結果を示す図である。
【図11】ゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idの特性を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるSiC半導体装置を示した図であり、図1(a)は、平面パターン図、図1(b)は、図1(a)のA−A’断面図、図1(b)は、図1(a)のB−B’断面図、図1(d)は、図1(a)のC−C’断面図である。
【0022】
図1(a)〜(d)に示すSiC半導体装置は、n+型SiC基板1を用いて構成されている。n+型SiC基板1としては、例えばオフ基板を用いることができるが、n+型SiC基板1に形成されるJFETのセルのレイアウトとオフ方向については無関係であり、JFETのセルのレイアウトをオフ方向に合わせる必要はない。
【0023】
まず、JFETの基本構造について説明する。JFETの基本構造は、図1(b)に示される構造とされている。具体的には、n+型SiC基板1の上に、n-型ドリフト層2、p+型の第1ゲート領域3、n+型ソース領域4が順に形成された半導体基板5にトレンチ6が形成されており、トレンチ6の内壁上から半導体基板5の表面上にかけて、n-型チャネル層7が形成されている。このn-型チャネル層7の表面上には、トレンチ6の内部を完全に埋め込むようにp+型の第2ゲート領域8が形成されている。そして、第2ゲート領域8の表面上にはゲート電極9が形成されており、その上には層間絶縁膜10を介してソース電極11が形成されている。ソース電極11は、層間絶縁膜10に形成されたコンタクトホールを介してn+型ソース領域4に電気的に接続されている。さらに、n+型SiC基板1の裏面にはドレイン電極12が形成されており、ドレイン領域となるn+型SiC基板1に対して電気的に接続されている。このような構造により、JFETの基本構造が構成されている。
【0024】
また、図1(a)に示されるように、トレンチ6の開口形状は短冊状とされており、このような開口形状である複数のトレンチ6が平行に並べられることでストライプ状に配置されている。そして、図1(c)、(d)に示されるように、トレンチ6の先端部の周辺を含めてn+型SiC基板1の外縁部においてn+型ソース領域4が除去されたメサ構造とされていると共に、トレンチ6の先端部においてn-型チャネル層7および第2ゲート領域8が除去された凹形状とされている。このため、n+型ソース領域4は、各トレンチ6の長辺に隣接する位置のみが残された状態となり、その領域のみにJFET構造が構成された状態となっている。
【0025】
このように構成されたJFETを備えるSiC半導体装置では、トレンチ6の先端部に形成されたn-型チャネル層7がトレンチ6の長辺に位置する部分よりも膜厚が厚くなっていたとしても、そのトレンチ6の先端部においてJFET構造が構成されないようにできる。このため、トレンチ6の先端部にJFET構造が構成される従来構造の場合のように、その先端部のJFET構造の閾値がトレンチ6の長辺に位置する部分のJFET構造の閾値からずれることによる影響を受けることがない。したがって、ゲート電圧が閾値近傍に近づくときに発生する過剰なドレイン電流を抑制できる構造のSiC半導体装置とすることが可能となる。
【0026】
特に、トレンチ6の先端部において、n-型チャネル層7のうちトレンチ6の長辺部に形成される部分よりも厚くなっている領域およびその領域から第1ゲート領域3の厚さよりも長い領域が除去された凹形状とされるようにすると良い。このようにすることで、膜厚が増大したチャネル部とn+型ソース領域4の距離がチャネル長以上となり、閾値電圧付近のオフ時においても、ドレイン電流が完全にカットされ、過剰ドレイン電流の発生を防止することができる。
【0027】
図2は、n+型ソース領域4がトレンチ6の先端部にまで残されているような従来構造と本実施形態のようにトレンチ6の先端部においてn+型ソース領域4を除去した凹形状の構造それぞれの場合におけるゲート電圧(V)に対するドレイン電流(A)の特性を調べた結果を示した図である。この図に示されるように、本実施形態の構造では、従来構造の場合のように、ゲート電圧が閾値近傍に近づいたときにドレイン電流が流れてしまうことは無く、閾値になって初めてドレイン電流が流れるようにできる。この実験結果からも、ゲート電圧が閾値近傍に近づくときに発生する過剰なドレイン電流を抑制できる構造のSiC半導体装置にできていることが判る。
【0028】
次に、本実施形態にかかるSiC半導体装置の製造方法について説明する。図3は、本実施形態にかかるSiC半導体装置の製造工程を示した断面図であり、紙面左側は図1(b)に相当する断面、紙面右側は図1(d)に相当する断面の製造工程中の様子を示している。
【0029】
まず、図3(a)に示す工程では、n+型SiC基板1の表面上にn-型ドリフト層2とp+型の第1ゲート領域3とn+型ソース領域4を順にエピタキシャル成長させることで、半導体基板5を構成する。
【0030】
続いて、図3(b)に示す工程では、トレンチ6の形成予定領域が開口する図示しないマスクを配置したのち、RIE(Reactive Ion Etching)等の異方性エッチングを行うことでトレンチ6を形成する。そして、エピタキシャル成長により、n-型チャネル層7を形成する。このとき、n-型チャネル層7のマイグレーションにより、トレンチ6の底部および先端部では、トレンチ6の長辺側の側壁表面よりもn-型チャネル層7の膜厚が厚く形成される。
【0031】
また、図3(c)に示す工程では、n-型チャネル層7の表面上にp+型層からなる第2ゲート領域8をエピタキシャル成長させたのち、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などによってn+型ソース領域4が露出するまで第2ゲート領域8およびn-型チャネル層7を平坦化し、これらがトレンチ6の内部にのみ残るようにする。
【0032】
この後、基板外縁部においてn+型ソース領域4を除去することでメサ構造を構成するが、このときに同時にトレンチ6の先端部近辺においてn+型ソース領域4とn-型チャネル層7および第2ゲート領域8を部分的に除去して凹形状とする。具体的には、基板外縁部やn+型ソース領域4とn-型チャネル層7および第2ゲート領域8のうち部分的に除去する部分が開口するマスクを配置した後、RIE等の異方性エッチングを行うことで、マスクの開口している部分を除去する。これにより、基板外縁部のn+型ソース領域4に加えて、トレンチ6の先端部においてn+型ソース領域4とn-型チャネル層7および第2ゲート領域8が部分的に除去されて凹形状となる。そして、ゲート電極9の形成工程、層間絶縁膜10の形成工程、コンタクトホール形成工程、ソース電極11の形成工程およびドレイン電極12の形成工程等、従来と同様の製造工程を施すことで、図1に示したSiC半導体装置が完成する。
【0033】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる手法によって、トレンチ6の先端部にJFET構造が構成されなくなるようにするものであり、SiC半導体装置の基本的な構造は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0034】
図4は、本実施形態にかかるSiC半導体装置を示した図であり、図4(a)は、平面パターン図、図4(b)は、図4(a)のD−D’断面図、図4(b)は、図4(a)のE−E’断面図である。
【0035】
図4(a)〜(c)に示されるように、本実施形態では、第1実施形態のようにトレンチ6の先端部近傍においてn+型ソース領域4とn-型チャネル層7および第2ゲート領域8を部分的に除去するのではなく、この先端部近傍の領域にp型不純物をイオン注入することで、p+型領域20を構成している。具体的には、p+型領域20は、図4(a)に示すように、各トレンチ6の先端部をすべて含むように短冊状(長方形状)にレイアウトされており、第1ゲート領域3もしくは第2ゲート領域8よりも浅く、かつ、n+型ソース領域4よりも深くされている。そして、このp+型領域20により、少なくともトレンチ6の先端部においてn+型ソース領域4と第2ゲート領域8との間に位置するn-型チャネル層7がすべてp+型領域20によって埋め尽くされることで、トレンチ6の先端部にJFET構造が構成されないようにしている。
【0036】
このように、トレンチ6の先端部近辺をp+型領域20にて埋め尽くすようにしても、トレンチ6の先端部にJFET構造が構成されないようにできるため、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0037】
図5は、本実施形態にかかるSiC半導体装置の製造工程を示した図であり、紙面左側は図4(b)に相当する断面、紙面右側は図4(c)に相当する断面の製造工程中の様子を示している。ただし、図5では、第1実施形態と異なる部分についてのみ示してある。
【0038】
まず、第1実施形態と同様に、図3(a)〜(c)に示す工程まで行うことで、図5(a)に示す構造を得る。続いて、図示しないが、LTO等のマスクを配置したのち、p+型領域20の形成予定領域を開口させる。そして、そのマスクを用いてp型不純物をイオン注入し、熱処理によって活性化することにより、図5(b)に示すようにp+型領域20を形成する。この後については図示しないが、メサ構造を構成するために、基板外縁部においてn+型ソース領域4を除去する工程やゲート電極9の形成工程、層間絶縁膜10の形成工程、コンタクトホール形成工程、ソース電極11の形成工程およびドレイン電極12の形成工程等、従来と同様の製造工程を施すことで、図4に示したSiC半導体装置が完成する。
【0039】
このように、本実施形態のSiC半導体装置の製造方法は、p+型領域20の形成工程を行うこと、および、メサ構造を構成する際にn+型ソース領域4とn-型チャネル層7および第2ゲート領域8を部分的に除去しないようにすることが第1実施形態と異なるが、基本的には第1実施形態と同様である。
【0040】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる手法によって、トレンチ6の先端部にJFET構造が構成されなくなるようにするものであり、SiC半導体装置の基本的な構造は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0041】
図6は、本実施形態にかかるSiC半導体装置を示した図であり、図6(a)は、平面パターン図、図6(b)は、図6(a)のF−F’断面図、図6(b)は、図6(a)のG−G’断面図である。
【0042】
図6(a)〜(c)に示されるように、本実施形態では、第1実施形態のようにトレンチ6の先端部近傍においてn+型ソース領域4とn-型チャネル層7および第2ゲート領域8を部分的に除去するのではなく、n+型ソース領域4を選択的にイオン注入することによって形成し、n+型ソース領域4がトレンチ6の先端部近傍の領域に形成されないようにする。具体的には、図6(a)に示すように、各トレンチ6の長辺に隣接する部分にはn型不純物がイオン注入されることでn+型ソース領域4が形成されるようにしているが、図6(a)〜(c)に示されるように、トレンチ6の先端部近傍においては第2ゲート領域8の表面と同じ高さまで第1ゲート領域3が形成された状態となるようにし、n+型ソース領域4が形成されないようにしている。
【0043】
このように、n+型ソース領域4を選択的にイオン注入することによって形成し、n+型ソース領域4がトレンチ6の先端部近傍の領域に形成されないようにしても、トレンチ6の先端部にJFET構造が構成されないようにできるため、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
なお、このような構造のSiC半導体装置の製造方法は、n+型ソース領域4の形成工程をイオン注入によって行うことが第1実施形態と異なるが、基本的には第1実施形態と同様である。
【0045】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、JFETを備えたSiC半導体装置について説明したが、第2ゲート領域8の代わりに、n-型チャネル層7の表面にゲート絶縁膜を形成すると共にゲート絶縁膜の表面にゲート電極を配置したMOSFETを備えるSiC半導体装置についても、上記各実施形態と同様の構造を採用することができる。MOSFETを備えた半導体において上記各実施形態の構造を採用すれば、トレンチ6の先端部においてMOSFET構造が構成されないようにできることから、上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
なお、MOSFETとJFETの製造方法の相違に関しては、n-型チャネル層7を形成した後に熱酸化等によってゲート絶縁膜を形成する工程、ゲート絶縁膜の表面にゲート電極を形成する工程、上記各実施形態で第1ゲート領域3として説明していた領域をベース領域として、このベース領域が露出するまでゲート電極とゲート絶縁膜およびn-型チャネル層7を平坦化する工程を行うことが上記各実施形態と異なるが、その他の点については上記各実施形態と同様である。
【0047】
また、上記第1実施形態ではトレンチ6の先端部近傍の広い範囲において凹形状とし、上記第2実施形態ではトレンチ6の先端部近傍の広い範囲においてp+型領域20を形成した。しかしながら、これらも単なる一例を示したにすぎず、少なくともトレンチ6の先端にJFET構造が構成されないように、n+型ソース領域4を除去できる凹形状、もしくはn+型ソース領域4をp型に反転させられるp+型領域20が形成されれば良い。ただし、トレンチ6の先端部において、n-型チャネル層7のうちトレンチ6の長辺部よりも厚くなっている領域がすべて除去された凹形状、もしくはp+型領域20で埋め尽くされるようにすると、エッチングマスクやp型不純物のイオン注入マスクのマスクずれが生じたとしても、より確実にトレンチ6の先端部にJFET構造やMOSFET構造が構成されないようにすることができる。
【0048】
また、上記各実施形態では、n-型チャネル層7にチャネル領域が設定されるnチャネルタイプのJFETやMOSFETを例に挙げて説明したが、各構成要素の導電型を逆にしたpチャネルタイプのJFETやMOSFETに対しても本発明を適用することができる。
【0049】
さらに、上記第1、第2実施形態では、n+型ソース領域4をエピタキシャル成長させたものについて説明したが、第1ゲート領域3に対してn型不純物をイオン注入することによってn+型ソース領域4を形成しても良い。
【0050】
なお、上記各実施形態では、一方向を長手方向とする短冊状のトレンチ6として、長方形を例に挙げて説明したが、必ずしも長方形である必要はなく、平行四辺形や先端部の中心部を尖らせた六角形状(例えば正六角形の相対する二辺のみ長くした形状)などの短冊状としても構わない。
【符号の説明】
【0051】
1 n+型SiC基板
2 n-型ドリフト層
3 第1ゲート領域(ベース層)
4 n+型ソース領域
5 半導体基板
6 トレンチ
7 n-型チャネル層
8 第2ゲート領域
9 ゲート電極
10 層間絶縁膜
11 ソース電極
12 ドレイン電極
20 p+型領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる第1導電型基板(1)と、前記第1導電型基板(1)上にエピタキシャル成長によって形成された第1導電型のドリフト層(2)と、前記ドリフト層(2)上にエピタキシャル成長によって形成された第2導電型の第1ゲート領域(3)と、前記第1ゲート領域(3)上にエピタキシャル成長もしくはイオン注入により形成された第1導電型のソース領域(4)とを有する半導体基板(5)と、
前記ソース領域(4)および第1ゲート領域(3)を貫通して前記ドリフト層(2)まで達し、一方向を長手方向とした短冊状のトレンチ(6)と、
前記トレンチ(6)の内壁上にエピタキシャル成長によって形成された第1導電型のチャネル層(7)と、
前記チャネル層(7)の上に形成された第2導電型の第2ゲート領域(8)とを有したJFETを備え、
前記トレンチ(6)の両先端部に前記ソース領域(4)の厚みよりも深い第2導電型領域(20)が形成されており、少なくとも前記トレンチ(6)の両先端部に位置する前記ソース領域(4)および前記チャネル領域(7)が前記第2導電型領域(20)にて埋め尽くされていることにより、前記トレンチ(6)の両先端部において前記ソース領域(4)が形成されていないことを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
炭化珪素からなる第1導電型基板(1)と、前記第1導電型基板(1)上にエピタキシャル成長によって形成された第1導電型のドリフト層(2)と、前記ドリフト層(2)上にエピタキシャル成長によって形成された第2導電型のベース層(3)と、前記ベース層(3)上にエピタキシャル成長もしくはイオン注入により形成された第1導電型のソース領域(4)とを有する半導体基板(5)と、
前記ソース領域(4)およびベース層(3)を貫通して前記ドリフト層(2)まで達し、一方向を長手方向とした短冊状のトレンチ(6)と、
前記トレンチ(6)の内壁上にエピタキシャル成長によって形成された第1導電型のチャネル層(7)と、
前記チャネル層(7)の上に形成されたゲート絶縁膜と、
前記トレンチ(6)内において前記ゲート絶縁膜の表面に形成されたゲート電極とを有したMOSFETを備え、
前記トレンチ(6)の両先端部に前記ソース領域(4)の厚みよりも深い第2導電型領域(20)が形成されており、少なくとも前記トレンチ(6)の両先端部に位置する前記ソース領域(4)および前記チャネル領域(7)が前記第2導電型領域(20)にて埋め尽くされていることにより、前記トレンチ(6)の両先端部において前記ソース領域(4)が形成されていないことを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記トレンチ(6)は複数本が平行に並べられたストライプ状とされており、前記第2導電型領域(20)は、複数本の前記トレンチ(6)の先端部の領域を含む連続した領域であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
炭化珪素からなる第1導電型基板(1)と、前記第1導電型基板(1)上にエピタキシャル成長によって形成された第1導電型のドリフト層(2)と、前記ドリフト層(2)上にエピタキシャル成長によって形成された第2導電型の第1ゲート領域(3)と、前記第1ゲート領域(3)上にエピタキシャル成長もしくはイオン注入により形成された第1導電型のソース領域(4)とを有する半導体基板(5)を用意する工程と、
前記ソース領域(4)および第1ゲート領域(3)を貫通して前記ドリフト層(2)まで達し、一方向を長手方向とした短冊状のトレンチ(6)を形成する工程と、
前記トレンチ(6)の内壁上にエピタキシャル成長によって第1導電型のチャネル層(7)を形成する工程と、
前記チャネル層(7)の上に形成された第2導電型の第2ゲート領域(8)を形成する工程と、
前記チャネル層(7)および前記第2ゲート領域(8)を前記ソース領域(4)が露出するまで平坦化する工程と、
前記平坦化の後に、前記トレンチ(6)の両先端部に前記ソース領域(4)の厚みよりも深く、少なくとも前記トレンチ(6)の両先端部に位置する前記ソース領域(4)を埋め尽くす第2導電型領域(20)を形成する工程と、を含むことを特徴とするJFETを備える炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
炭化珪素からなる第1導電型基板(1)と、前記第1導電型基板(1)上にエピタキシャル成長によって形成された第1導電型のドリフト層(2)と、前記ドリフト層(2)上にエピタキシャル成長によって形成された第2導電型のベース層(3)と、前記ベース層(3)上にエピタキシャル成長もしくはイオン注入により形成された第1導電型のソース領域(4)とを有する半導体基板(5)を用意する工程と、
前記ソース領域(4)およびベース層(3)を貫通して前記ドリフト層(2)まで達し、一方向を長手方向とした短冊状のトレンチ(6)を形成する工程と、
前記トレンチ(6)の内壁上にエピタキシャル成長によって第1導電型のチャネル層(7)を形成する工程と、
前記チャネル層(7)の上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記トレンチ(6)内において前記ゲート絶縁膜の表面にゲート電極を形成する工程と、
前記ソース領域(4)が露出するまで前記ゲート電極と前記ゲート絶縁膜および前記チャネル層(7)を平坦化する工程と、
前記平坦化の後に、前記トレンチ(6)の両先端部に前記ソース領域(4)の厚みよりも深く、少なくとも前記トレンチ(6)の両先端部に位置する前記ソース領域(4)を埋め尽くす第2導電型領域(20)を形成する工程と、を含むことを特徴とするMOSFETを備える炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記トレンチ(6)を形成する工程では、前記トレンチ(6)を複数本が平行に並べられたストライプ状とし、
前記第2導電型領域(20)を形成工程では、複数本の前記トレンチ(6)の先端部の領域を含む連続した領域に前記第2導電型領域(20)を形成することを特徴とする請求項4または5に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−151484(P2012−151484A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53176(P2012−53176)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2009−294799(P2009−294799)の分割
【原出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】