無機薄膜及びその製造方法、並びにガラス
【課題】撥水性、滑水性、耐久性に優れた薄膜を提供する。
【解決手段】表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である。
【解決手段】表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機薄膜及びその製造方法、並びにガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタンを中心とする半導体光触媒を用いたセルフクリーニング(自己浄化)技術に関する研究が行われている。このセルフクリーニング技術は、光照射により親水性を呈する(以下、「超親水化」ともいう)半導体光触媒の性質を利用して、付着した油性の汚損成分を降雨や水洗等によって容易に除去できるようにする技術である。また、このセルフクリーニング技術は、光照射により有機物を分解する半導体光触媒の性質(有機物分解性)を利用して、付着した油性の汚損成分を分解し除去できるようにする技術である。
【0003】
一方、撥水化処理に関する技術として、フッ素系樹脂等を用いたコーティング技術や、フッ素系樹脂と半導体光触媒とを含有する膜に関する技術(例えば、特許文献1及び2参照)が知られている。
【特許文献1】特開平10−237430号公報
【特許文献2】特開2001−152138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のセルフクリーニング技術では表面が親水性であるため、汚損成分の除去に水が不可欠である問題や、本質的に表面エネルギーが高く汚損物質が付着しやすい問題がある。また、表面が親水性であるため、像がゆがみ、視認性に劣る傾向がある。このため、撥水性を要求される用途(例えば、自動車のフロントガラス等)への適用が難しい問題がある。
また、上記フッ素系樹脂等を用いたコーティング技術では、水を弾きはするものの水滴が転落しづらい(即ち、滑水性に劣る)ため、水滴除去性に劣る問題がある。また、コーティング剤自身が有機物であるために耐久性に劣る問題もある。
また、上記フッ素系樹脂と半導体光触媒とを含有する膜に関する技術を用いた場合、有機物であるフッ素系樹脂自身(膜自身)が光触媒の作用により酸化分解を被りやすく、耐久性に劣る問題がある。
以上により、撥水性及び滑水性に優れ、更に、耐久性も備えた薄膜の開発が求められている。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れた無機薄膜及びその製造方法並びにガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である無機薄膜である。
<2> 酸化チタンを含む<1>に記載の無機薄膜である。
<3> 光照射によっても水に対する接触角の低下が認められない<1>又は<2>に記載の無機薄膜である。
【0007】
<4> 酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件でスパッタリングにより成膜された後、マイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理により結晶化されて得られた<1>〜<3>のいずれか1つに記載の無機薄膜である。
【0008】
<5> 結晶質光触媒層の反応面が層厚100nm以下の非晶質光触媒層で被覆された構造である<1>〜<4>のいずれか1つに記載の無機薄膜。
<6> 前記非晶質光触媒層の層厚が、5nmより厚く、かつ50nm以下である<5>に記載の無機薄膜。
<7> 反応面から前記結晶質光触媒層に至る、前記非晶質光触媒層を貫通する10nm以下の径の孔を有する<5>又は<6>に記載の無機薄膜。
【0009】
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載の無機薄膜を製造する方法であって、支持体上に、酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件のスパッタリングにより無機薄膜を成膜する成膜工程と、成膜された無機薄膜にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施して結晶化させるプラズマ処理工程と、を有する無機薄膜の製造方法である。
【0010】
<9> <1>〜<7>のいずれか1つに記載の無機薄膜により全部又は一部を被覆されたガラスである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れた薄膜及びその製造方法並びにガラスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪無機薄膜≫
本発明の無機薄膜は、表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である。
本発明の無機薄膜は、水に対する接触角(以下、「水接触角」ともいう)が30°以上であり、撥水性に優れる。このため、比較的表面エネルギーが低く、汚損物質が付着しにくい。更に、窓ガラス、レンズ、鏡等を被覆する用途に用いた場合には、水膜で像がゆがむ現象を抑制でき、視認性も良好となる。
また、本発明の無機薄膜は、水滴転落角が40°以下であり、滑水性に優れる。このため、傾斜により水滴を除去する性質(水滴除去性)に優れる。
更に、本発明の無機薄膜は有機膜に比べて耐久性に優れる。
【0013】
以上のように、本発明の無機薄膜は、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れている。
従って、本発明の無機薄膜は、例えば、早く乾燥させることが必要な部位を被覆する用途や、水膜で像が歪まないことが必要とされる用途(即ち、視認性が必要とされる用途)に有用である。例えば、レンズ、窓、鏡などのガラス製品を被覆する用途(例えば、自動車のフロントガラス等)に有用である。
【0014】
<撥水性、滑水性>
本発明において「撥水性」とは、水接触角で評価される静的撥水性(Static hydrophobicity)を指す。水接触角が大きいほど静的撥水性に優れている。
また、本発明において「滑水性」とは、水滴転落角で評価される動的撥水性(Dynamic hydrophobicity)を指す。水滴転落角が小さいほど動的撥水性に優れている。
以下、静的撥水性(撥水性)及び動的撥水性(滑水性)について説明する。
【0015】
静的撥水性の制御に関する設計原理は古典的研究から明快で、Young式(表面張力の平衡:γSV = γSL + γLV cos θ)、Cassie式(複合則:cos θ' = f cos θ1+ (1 − f)cos θ2 )、Wenzel式(粗さの影響:cos θ' = r(γSV − γSL)/γLV = r cos θ)の3つの式でほぼ説明できる。
上記Young式において、θ、γSV、γSL、及びγLVは、それぞれ、接触角、固体−気体の表面張力、固体−液体の界面張力、液体−気体の表面張力である。
上記Cassie式において、θ' 、f、θ1、及びθ2は、それぞれ、成分1と成分2からなる複合表面での接触角、液体との界面での固体の面積分率、成分1の接触角、成分2の接触角である。
上記Wenzel式において、θ'、r、γSV 、γSL、γLV、及びθは、それぞれ、粗面での接触角、Wenzelのラフネスファクター(表面の粗さにより大きくなった実際の表面積を見かけの表面積で割ったもの)、固体−気体の表面張力、固体−液体の界面張力、液体−気体の表面張力、平滑面での接触角である。
上記3つの式については、例えば、特開2001-152138号公報段落0035〜0052、R. N. Wenzel, J. Phys. Colloid Chem., 53, 1466-7 (1949)、A. B. D. Cassie, Discuss. Farady Soc., 3, 11-16 (1948)、等で詳細に説明されている。
【0016】
一方、動的撥水性については、静的撥水性(すなわち水接触角)との対応関係が実験的に認められないことが多い。例えば、静的撥水性が優れていても、付着した液滴成分が除去されやすいとは限らず、撥水面を垂直に傾けても水滴が付着し続けることもある。静的撥水性との対応関係が認められないことの理由として、従来は、水分子との物理化学的な作用が異なるなどの説明がなされていた。
これに対して、ナノレベルの平滑性を極力高めるために、溶剤や反応時間などを注意深く調整したFAS17 (1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltrimethoxysilane)コーティング、 およびODS (octadecyltrimethoxysilane)コーティングを塗布した表面の動的撥水性は、静的撥水性との対応関係が良好であり、ナノレベルの凹凸が動的撥水性に大きな影響を与えていることが示された(N.Yoshida et.al、Journal of the American Chemical Society 128(3), 743-747(2006))。従来、Wenzel式で示される表面粗さの影響や、表面凹凸の激しい撥水性素材の表面に見られるような超撥水(固体と空気の複合材料としてCassie式から計算される状態)でいう表面粗さは、μmレベルのスケールの議論が主であり、水分子のサイズに近似するようなナノスケールは想定されていない。それにもかかわらず、動的撥水性においてはこのようなスケールの凹凸が大きく影響していることを示したもので、従来知られていなかった重要な知見である。
【0017】
本発明は、ナノスケールの平滑性を制御することにより(具体的には、無機薄膜の表面粗さ(Ra)を2nm以下に制御することにより)、無機材料表面においても優れた動的撥水性(滑水性)及び静的撥水性(撥水性)を実現できるとの知見に基づいて完成されたものである。
【0018】
本発明の無機薄膜は、水接触角が30°以上である。
水接触角が30°未満であると、表面エネルギーが高くなり、汚損物質が付着しやすくなる傾向がある。また、水が付着したときの視認性が悪化する傾向がある。
本発明において、水に対する接触角(水接触角)は、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)を用い、3mgの水滴(蒸留水)を薄膜表面に滴下し、滴下後1〜10秒の間に測定された値を指す。
前記水接触角は、表面エネルギーの観点や視認性の観点より、好ましくは40°以上であり、より好ましくは50°以上であり、特に好ましくは60°以上である。
【0019】
また、本発明の無機薄膜(後述する酸化チタンを含む無機薄膜である場合を含む)は、表面エネルギーの観点や視認性の観点より、光照射によっても水接触角の低下が認められないことが好ましい。
本発明において「光照射によっても水接触角の低下が認められない」とは、光照射されても無機薄膜の水接触角が実質的に低下しない(但し、10°程度の低下は許容される)ことを意味する。
また、本発明の無機薄膜は光照射前及び光照射後のいずれにおいても、水接触角が30°以上であることが好ましく、40°以上がより好ましく、50°以上が更に好ましく、60°以上が特に好ましい。
本発明において、「光照射」とは、ブラックライト(FL10BL−B,National)を用いて波長400nm以下の紫外光(UV光)を、1μW/cm2〜5mW/cm2の強さで照射することを指す。
【0020】
本発明の無機薄膜は、水滴転落角が40°以下である。
水滴転落角が40°を超えると、傾斜により水滴を除去することが難しくなる(即ち、水滴除去性が悪化する)傾向がある。
ここで、水滴転落角は、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)および転落角測定装置(SA−11,協和界面化学株式会社)を用いて測定された値を指す。具体的には、薄膜上に30mgの水滴を滴下した後、前記転落角測定装置を用いて該薄膜を傾けながら、前記接触角測定装置に付属しているカメラから水滴を観察し、水滴が転落する瞬間の水滴転落角を測定する。なお、転落する瞬間とは、水滴の前端点および後端点の両方が移動し始める瞬間である。
前記水滴転落角は、水滴除去性の観点より、好ましくは35°以下である。
【0021】
<表面粗さ>
本発明の無機薄膜は、表面粗さ(Ra)が2nm以下であることが必要である。
ここで、表面粗さ(Ra)は、JIS B0601(1994)に規定されている算術平均粗さを指す。
本発明における表面粗さ(Ra)は、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、株式会社キーエンス製)を用い、測定範囲50μm四方について測定された値を指す。
表面粗さ(Ra)が2nmを超えると、水接触角が小さくなり(例えば、水接触角が30°未満となり)、水滴転落角が大きくなる(例えば、水滴転落角が40°を超える)傾向がある。
水接触角を大きくし水滴転落角を小さくする観点より、前記表面粗さ(Ra)は1.6nm以下であることが好ましく、1.2nm以下であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明の無機薄膜は、水接触角を大きくし水滴転落角を小さくする観点より、表面粗さ(Rz)が150nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。ここで、表面粗さ(Rz)は、JIS B0601(1994)に規定されている十点平均粗さを指す。
本発明における表面粗さ(Rz)は、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、キーエンス株式会社製)を用い、測定範囲50μm四方について測定された値を指す。
【0023】
また、本発明の無機薄膜の膜厚には特に限定はないが、本発明の効果をより効果的に得る観点より、10μm以下であることが好ましく、10〜1000nmであることがより好ましい。
【0024】
<材質>
本発明の無機薄膜の材質には特に限定は無いが、本発明の効果をより効果的に得る観点より、金属酸化物を含む材質であることが好ましく、酸化チタン及び/又はITO(Indium Tin Oxide)を含む材質であることがより好ましく、酸化チタンを含む材質であることが特に好ましい。
【0025】
前記酸化チタンを含む無機薄膜としては、酸化チタンのみからなる薄膜(即ち、酸化チタン単味の薄膜)であってもよいし、酸化チタンと他の成分とを含む混合系の薄膜であってもよい。
前記混合系の薄膜としては、例えば、酸化チタン及び酸化ジルコニウムを含む薄膜や、酸化チタン及び酸化ハフニウムを含む薄膜が好適である。
また、前記酸化チタンは、有機物分解性の観点からは、結晶化されていることが好ましい。本発明にいう「結晶化」とは、X線構造解析で結晶性を有すると判断される程度に結晶性を有する部分が存在している状態(部分的であれば非晶質部分が含まれていてもよい)を指す。また、酸化チタンが結晶化したか否かは、有機物分解性の有無によっても確認できる。
特に、本発明の無機薄膜が結晶化された酸化チタンを含む場合には、撥水性、滑水性、耐久性に加え、光触媒活性(特に、有機物分解性)をも備えることができる。このため、自動車のフロントガラス等の前述の用途により好適となる。
結晶化された酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型が挙げられるが、中でも、有機物分解性の観点からは、アナターゼ型であることが好ましい。
【0026】
また、一般に酸化チタンは、光照射により水接触角が低下する現象(超親水化現象;例えば、水接触角が10°以上にまで低下することがある)を示すことが多いが、本発明の無機薄膜に酸化チタンが含まれる場合には、前述の通り、該無機薄膜は光照射によっても水接触角の顕著な低下が認められないことが好ましい。
【0027】
上記のような性質を有する、酸化チタンを含む無機薄膜の製造方法には特に限定はないが、例えば、酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件でスパッタリングにより成膜した後、マイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理により結晶化させる方法が好適である。これらの方法の詳細については後述する。
【0028】
<無機薄膜の構造>
本発明の無機薄膜は、表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である限り、その構造については特に限定はなく、単層構造であっても2層以上の積層構造であってもよい。
但し、接触角、水滴転落角、及び光触媒活性(有機物分解性)の観点からは、本発明の無機薄膜は、結晶質光触媒層の反応面が非晶質光触媒層で被覆された積層構造であることが好ましい(以下、「非晶質」を「アモルファス」ともいう)。
ここでいう「結晶質光触媒層」には、結晶質部位のみからなる光触媒層だけでなく、非晶質部位と結晶質部位とが混在している光触媒層も含まれる。即ち、前記結晶質光触媒層は、一部又は全部が結晶化されている光触媒層である。
また、前記反応面とは、支持体に接する面の反対側の露出面を指す。本明細書中では、反応面を単に「表面」ということがある。
また、本明細書中では、「非晶質」を「アモルファス」ということがある。
【0029】
前記非晶質光触媒層の層厚には特に限定はないが、光触媒活性(有機物分解性)の観点からは、100nm以下であることが好ましい。
更に、接触角、水滴転落角、及び光触媒活性(有機物分解性)の観点からは、5nmより厚く、かつ50nm以下であることがより好ましく、7nm以上でかつ50nm以下であることが更に好ましく、7nm以上でかつ30nm以下であることが特に好ましい。
更に、光触媒活性(有機物分解性)の観点からは、前記非晶質光触媒層の表面から前記結晶質光触媒層に至る10nm以下の径の孔を有することが好ましい。ここで、「径」とは、孔の直径(孔が不定形である場合には最大径)を表す。
前記無機薄膜(前記非晶質触媒層)は前記孔を複数有していることが好ましく、前記孔の数は、接触角、水滴転落角、及び光触媒活性(有機物分解性)さらに機械的強度の観点からは、100nm×100nmあたり10以上1000以下が好ましい。
【0030】
以下、本発明の無機薄膜の特に好ましい構造について、図12を参照して説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
図12は、本発明の無機薄膜の特に好ましい構造の一例を模式的に表した断面図である。
図12に示す無機薄膜10は、支持体1(例えば、ガラス等)上に備えられた無機薄膜であり、結晶質光触媒薄膜2の反応面(表面)が非晶質光触媒層4により被覆された積層構造となっている。
【0031】
更に、無機薄膜10は、前記非晶質光触媒層4の表面から前記結晶質光触媒層2に至る10nm以下の径の孔6を多数有している。但し、孔6は必須ではない。また、孔6は、図12のように前記非晶質光触媒層4の表面から結晶質光触媒薄膜2の表面までの孔である必要はなく、結晶質光触媒薄膜2の内部まで続く孔であってもよい。
【0032】
上記構造を有する無機薄膜10では、結晶質光触媒薄膜2の表面を被覆する非晶質光触媒層4により、結晶質光触媒薄膜2による超親水化現象がより効果的に抑制される。このため、光照射後においても、より高い水接触角及びより低い水滴転落角が維持される。
また、上記構造を有する無機薄膜10では、前記非晶質光触媒層4の表面から前記結晶質光触媒層2に至る孔6により、非晶質光触媒層4で覆われた状態においても、結晶質光触媒薄膜2による光触媒活性(有機物分解性)がより効果的に維持される。
【0033】
結晶質光触媒薄膜2と非晶質光触媒層4とは、同成分であっても、異なる成分であってもよいが、製造上の観点からは同成分(例えば、酸化チタン)であることが好ましい。
結晶質光触媒薄膜2と非晶質光触媒層4とが同成分である場合の製造方法として、例えば、スパッタリングにより非晶質膜(例えば、非晶質の酸化チタン)を形成し、形成された非晶質膜にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施して、膜の内部(膜表面からみて支持体1に近い側)の全部又は一部を結晶化させる方法等が挙げられる。この方法では、結晶化された膜の内部が、結晶質光触媒薄膜2となる。
結晶質光触媒薄膜2と非晶質光触媒層4とが、同成分か異なる成分かを問わない製造方法としては、結晶質光触媒薄膜2と非晶質光触媒層4とをこの順に順次形成する方法が挙げられる。
【0034】
≪無機薄膜の製造方法≫
以上で説明した本発明の無機薄膜を製造する方法としては特に限定はないが、支持体上に(好ましくは、スパッタリングにより)無機薄膜を形成する成膜工程と、形成された無機薄膜にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施して該無機薄膜を結晶化させるプラズマ処理工程と、を含む方法が好ましい。
【0035】
<成膜工程>
成膜工程では、支持体上に無機薄膜を成膜する。
成膜直後であって後述するプラズマ処理工程前(以下、この状態をアズデポ(as depo)状態ともいう)の無機薄膜は、本発明の効果をより効果的に得る観点から、非晶質膜であることが好ましい。ここで、非晶質膜とは、X線構造解析により検出可能な結晶構造の秩序が生じていない状態の膜を指す。
成膜の方法は、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、イオンプレーティング、真空蒸着、ゾルゲル法等のウェット成膜等、公知の方法を用いることができるが、本発明の効果をより効果的に得る観点からは、スパッタリングであることが好ましい。
また、スパッタリングとしては、特に、RFマグネトロンスパッタリングが好適である。スパッタリングの条件としては、酸素とアルゴンとの雰囲気中にて行う条件が好ましい。
【0036】
以下、スパッタリングの更に好ましい条件について説明する。
酸素分圧は、プラズマ処理により期待する結晶化を行うという観点から、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。
また、全圧は、プラズマ処理により期待する結晶化を行うという観点から、12Pa以下であることが好ましく、4Pa以下であることが好ましく、2Pa以下であることがより好ましい。
スパッタリングの電力としては特に限定はないが、プラズマ処理後の表面粗さ(Ra)をより小さくする観点、及び適切な成膜速度を達成するという観点から、500W〜2000Wが好ましく、800W〜1500Wがより好ましい。
スパッタリングの温度(支持体(ガラス基板等)の温度)としては特に限定はないが、緻密な薄膜を得る観点、及び成膜時における意図しない結晶化を防ぐ観点から、200℃以下が好ましく、30℃〜100℃がより好ましい。
【0037】
支持体としては特に限定はなく、ガラス、金属、プラスチック、樹脂、セラミックス、半導体、結晶、紙、木材等、種々の材料を特に制限なく用いることができるが、本発明の効果をより効果的に得る観点からは、ガラス、セラミックスが好ましく、ガラスが特に好ましい。支持体は、そのまま用いてもよいし、表面にシリカ(SiO2)膜等が形成されたものを用いてもよい。
また、後述するマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理として、低温プラズマによる処理を行う場合には、支持体として、耐熱性の低い樹脂を用いることも可能である。
【0038】
<プラズマ処理工程>
プラズマ処理工程は、成膜工程において成膜された無機薄膜(アズデポ状態の無機薄膜)にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施す工程である。
本発明において、マイクロ波とは周波数が300MHzより大きく300GHz以下である波を指し、高周波とは周波数が1kHz以上300MHz以下である波を指す。
【0039】
前記マイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理としては、低温プラズマ処理であることが好ましい。
低温プラズマ処理については、国際公開第03/031673号パンフレットや、H. Ohsaki , Y. Shibayama, M. Suzuki, A. Kinbara a, H. Yashiro, T. Watanabe’ Room temperature crystallization by RF plasma’ Thin Solid Films 516 4490-4494 (2008) に詳細に記載されており、これらの文献に記載の処理は本発明においても好適である。
これらの文献に記載の低温プラズマ処理は、減圧雰囲気下で温和なプラズマを作用させることで結晶化を引き起こさせる方法であり、高周波加熱に似たプロセスである。
しかし、(1)ガス圧などのプラズマの状態そのものが、結晶化の有無に大きな影響があること、(2)薄膜にプラズマを作用させても赤外温度計で測定できる範囲のマクロな温度上昇がほとんど見られないのに、熱処理と同等の結晶化が可能である、というような特徴がある。さらにこのようなプラズマ処理による結晶化の際に緻密化も生じ、熱処理によって結晶化した薄膜より密度が向上することも明らかにされている。
【0040】
低温プラズマの発生条件としては、たとえば、印加周波数1kHz〜300MHz、圧力5Pa以上、投入電力が300W以上であることが好ましい。
また、上記低温プラズマは、少なくとも酸素ガス又は酸素元素を含むガスを励起することにより発生するプラズマであることが好ましい。あるいは、本発明の無機薄膜が酸素欠損により特性が与えられる金属酸化物膜である場合、上記低温プラズマは、少なくともアルゴンガス、窒素ガス、又はそれらを含むガスを励起することにより発生するプラズマであることが好ましい。
【0041】
次に、前記低温プラズマ処理の条件について詳細を述べる。
低温プラズマとは、電子温度がイオンや中性粒子の温度より遥かに高い、熱的に非平衡なプラズマで、一般に数百Pa以下のガス圧で生成する。印加する交流電界の周波数は、気体放電が生じ、且つ熱プラズマを生じさせないために1kHz〜300MHzが好ましいが、より望ましくは工業的使用に割り振られ、既存の装置での使用が行われている13.56MHzが適する。また、本発明において使用される高周波電界は、プラズマの発生に使用される高周波によって兼ねられることが望ましい。
【0042】
投入電力としては、たとえば、300W以上が適切である。しかしながら、適切な投入電力はプラズマを発生させる装置のサイズによって変化するため、より容積の小さなチャンバーを用いる場合には、より低い投入電力による処理も適切である。なお、後述の実施例におけるチャンバー容積を用い、プラズマ発生が行われている空間の単位体積当たりの投入電力密度に換算すると、300Wはおよそ1.97×104Wm−3である。必要とされる投入電力の決定は、この単位体積当たりの電力を用いても判断可能である。
【0043】
プラズマの発生に用いるガスは、酸素、アルゴン、窒素、あるいはそれらの混合体であり、全圧5Pa以上、より好ましくは50Pa以上が適している。実施例に示すように、多くの酸化物においては純度99.9%以上の酸素ガスを用いたプラズマによる処理が、特性が安定するためより好ましい。この場合、低温プラズマとしては、少なくとも酸素ガスあるいは酸素元素を含むガスを励起することにより発生するプラズマを用いることができる。ただし、酸素の欠損により各種の特性が付与される、もしくは制御される酸化物膜の場合には、酸素以外のガス、例えばアルゴンや窒素を用いることもでき、低温プラズマとしては、少なくともアルゴンガス、窒素ガス、又はそれらを含むガスを励起することにより発生するプラズマを用いることができる。
【0044】
プラズマ処理時間に関しては、主に非晶質からなる金属酸化物膜のプラズマへの暴露は、0でないX線回折パターンを示す程度の結晶性を有する、あるいは微結晶が内包された膜を得るためには3分以内の暴露で充分であるが、X線回折パターンのピーク半値幅0.5以下の、良好な結晶性を有する酸化物膜の形成には10分以内の暴露がより好ましい。
【0045】
プラズマ処理時間の下限は、無機薄膜の結晶化の観点からは、1分間が好ましく、5分間がより好ましい。
また、プラズマ処理時間の上限は、無機薄膜の表面粗さ(Ra)を2nm以下により容易に調整する観点からは、10分間が特に好ましいが、30分間以上の処理を行っても構わない。
【0046】
上記のようなプロセスは一見スパッタと類似しているが、使用可能な装置としては、マグネットを使用せず、プラズマ内の荷電粒子を加速しない、容量結合型の対向電極間に高周波電力を印加することでプラズマを生成することができるような真空設備を用いることが望ましい。このとき、電場を印加する電極は、プラズマを発生させるチャンバー内に両方あるいは片方が露出していても、あるいはチャンバー外に設置されていても構わない。この設備と通常のスパッタ装置との差は、対向電極(スパッタ装置であればターゲット側の電極)に収束マグネットを使用しないため、対向電極に対して高密度のプラズマが集中せず、均一なプラズマを生成できるため、スパッタリングのような物理的な切削現象は起こりにくく、反応性の高い酸素イオンを容易に入手することが可能となる。尚、容量結合型よりプラズマ密度の高い、誘導結合型の装置も本発明に使用できる。また、設備的にはプラズマリアクター、リアクティブ・イオン・エッチング装置といった市販の装置を使用してもよい。
【0047】
これらの設備は、電極に磁場を使用しておらず、上述のような反応性の高い均一なプラズマを生成することができる。このプラズマ照射の効果はアンプパワー、ガス流量などの条件に依存する。この処理により、結晶性、基材への密着性、膜の硬度などの機械的物性に優れた金属酸化物薄膜を、適当な非晶質の酸化物膜から、非加熱で均質に形成することができる。
【0048】
本発明の無機薄膜の製造方法は、前記成膜工程及び前記プラズマ処理工程以外の他の工程を有していてもよい。
他の工程としては、成膜工程の手前に、シリカ(SiO2)膜等の下地膜を形成する工程等である。
【0049】
以上、本発明の無機薄膜の製造方法について説明したが、特に好ましくは下記の製造方法である。
即ち、支持体上に、酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件のスパッタリングにより薄膜(例えば、酸化チタンを含む薄膜)を成膜する成膜工程と、成膜された薄膜をマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理により結晶化させるプラズマ処理工程と、を有する製造方法が特に好ましい。
このような製造方法によれば、表面粗さ(Ra)が2nm以下の無機薄膜を容易に得ることができる。
【0050】
≪ガラス≫
本発明のガラスは、上記で説明した本発明の無機薄膜により全部又は一部を被覆されたものである。
即ち、本発明のガラスは、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れた本発明の無機薄膜により被覆されているため、例えば、水滴転落性に優れたガラス(例えば、自動車のフロントウインドウ、等)として好適に用いることができる。特に、無機薄膜が酸化チタンを含む膜である場合には、水滴転落性に優れ、かつ、残存する汚染物が光触媒作用で酸化分解されるセルフクリーニングガラスとして好適である。
ガラスの種類には特に限定はなく、ソーダライムガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、石英ガラス等の公知のガラスを用いることができる。
本発明のガラスの具体的形態としては、本発明の無機薄膜に更にシリカを含み、該無機薄膜によりソーダライムガラスの全部又は一部を被覆した形態が挙げられる。また、本発明の無機薄膜によりソーダライムガラスの全部又は一部を、該無機薄膜と該ガラスとの間にシリカを介在させて被覆した形態も好適である。
【0051】
本発明の無機薄膜及びその製造方法並びにガラスは、以上で説明したとおり、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れるため、車両関連、住宅関連、光学機器関連、産業機器関連、医療関連、電子部品関連、電気製品関連等、様々な産業分野に適用できる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
<試料1〜試料12(結晶化TiO2薄膜)の作製>
(試料1の作製)
洗浄したソーダライムガラス基板(基板サイズ100mm×100mm)上に、下記条件のスパッタリングにより下地膜としての酸化ケイ素薄膜(以下、「SiO2薄膜」という)を成膜した。
形成されたSiO2薄膜の膜厚をDEKTAK 6M ((株)アルバック社)を用いて測定したところ、20nmであった。
【0054】
〜 SiO2スパッタリング条件 〜
・装置:パーソナルコーター(日真精機株式会社製の仕様変更機)
・電源:REACTIVE PLASMA GENERATOR(ENI Technology,Inc.製PRG−50)、投入電力:250W(パルス)
・ターゲット:Si
・基板加熱:なし
・バックプレッシャー:2.0×10−4Pa
・スパッタリング時の全圧:酸素(100%)をガス流量30sccmで導入し、メインバルブを調整して全圧0.5Paとした。
以上のスパッタリング条件で、プリスパッタの後、SiO2薄膜を20nm成膜した。
なお、本実験ではパルス電源によりスパッタリングを行ったが、RF電源を用いてスパッタしてもよく、また、ターゲットもSiに限らず、SiO2を用いArガスでスパッタする成膜方法があることはいうまでもない。
【0055】
次に、上記で形成されたSiO2薄膜上に、下記条件のスパッタリングにより酸化チタン薄膜(以下、「TiO2薄膜」という)を成膜した。
【0056】
〜 TiO2スパッタリング条件 〜
・装置:パーソナルコーター(日真精機株式会社製の仕様変更機)
・電源:MAGNETRON DRIVE(Advanced Energy製)、投入電力:DC1200W
・ターゲット:Ti
・基板加熱:なし
・バックプレッシャー:2.0×10−4Pa、
・スパッタリング時の全圧:酸素をガス流量6sccmで、Arをガス流量24sccmで、それぞれ導入し、メインバルブを調整して全圧0.3Paとした。このとき、酸素分圧は20%である。
以上のスパッタリング条件で、プリスパッタの後、TiO2薄膜を100nm成膜した。
【0057】
上記スパッタリングにより成膜したTiO2薄膜(アズデポ状態)に、下記条件で酸素プラズマ処理を10分間施し、TiO2薄膜を結晶化させて、試料1(結晶化TiO2薄膜)を得た。酸素プラズマ処理は、常温で開始し、非加熱状態で上記の時間行った。
【0058】
〜酸素プラズマ処理条件〜
容量結合型の並行電極を備えた容積13665cm3の円筒形チャンバー内に、TiO2薄膜(アズデポ状態)付き基板を配置し、流量100cc/分(容器内圧50Pa)で酸素を導入し、前記並行電極間に、RF周波数13.56MHz、アンプパワー300Wの高周波電力を印加することによりプラズマを発生させて行った。
この条件における酸素プラズマ処理時間と基板温度との関係を調べたところ、常温(22℃)から開始して、処理時間10分間で80℃、処理時間30分間で100℃、処理時間60分で110℃であった。
【0059】
上記酸素プラズマ処理により得られた試料1(結晶化TiO2薄膜)の膜厚を、DEKTAK 6M ((株)アルバック社)を用いて測定したところ、100nmであった。
【0060】
(試料2〜試料3の作製)
上記試料1の作製において、アズデポ状態のTiO2薄膜に対する酸素プラズマ処理の時間を、後述の表3に示すように変更した以外は上記試料1の作製と同様にして、試料2〜試料3を作製した。得られた試料2〜試料3における結晶化TiO2薄膜の膜厚は、いずれも100nmであった。
【0061】
(試料4〜試料6の作製)
上記試料1〜試料3の作製において、下地膜であるSiO2薄膜を設けず、ガラス基板上に直接TiO2薄膜を成膜した以外は上記試料1〜試料3の作製と同様にして、試料4〜試料6を作製した。作製条件の詳細は後述の表3に示す。
【0062】
(試料7〜試料12の作製)
上記試料1〜試料6の作製において、アズデポ状態のTiO2薄膜に対する酸素プラズマ処理を、マッフル炉(KDF−P90G,株式会社デンケン製)内で行う雰囲気温度500℃の熱処理に変更した以外は試料1〜試料6の作製と同様にして、試料7〜試料12をそれぞれ作製した。作製条件の詳細は後述の表3に示す。
【0063】
<表面粗さの測定>
上記で得られた試料1〜試料12について、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、株式会社キーエンス製)を用い、測定範囲50μm四方の条件で、表面粗さ(算術平均粗さRa、最大高さRy、及び十点平均粗さRz)の測定を行った。これらの測定はJIS B0601(1994)に準拠して行った。
【0064】
図1に、プラズマ処理されたTiO2薄膜(試料5、実施例)の表面のAFM像を、図2に、熱処理されたTiO2薄膜(試料11、比較例)の表面のAFM像を、それぞれ示す。
図1に示すように、プラズマ処理されたTiO2薄膜(試料5、実施例)表面は突起がほとんど見られないのに対し、図2に示すように、熱処理されたTiO2薄膜(試料11、比較例)表面は多数の突起が確認された。
また、後述の表3に示すように、プラズマ処理により得られた試料1〜試料6は、熱処理により得られた試料7〜試料12に比べて、表面粗さが小さいことが確認された。
【0065】
<XRD(X線回折)測定>
各試料について、XRD(X線回折)測定を下記条件にて行った。
〜XRD測定条件〜
X線回折装置(RINT2100、株式会社リガク製)を使用した。平行ビーム法で管電圧40kV、管電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャンスピード2°/min、の条件で対陰極として銅、フィルターとしてニッケルを使用してXRD測定を行った。
【0066】
図3(A)に、プラズマ処理により得られたTiO2薄膜(下地SiO2膜有り、試料1)についての測定結果を、図3(B)に、熱処理により得られたTiO2薄膜(下地SiO2膜有り、試料7)の測定結果を、図3(C)に、アズデポ状態のTiO2薄膜(下地SiO2膜有り)についての測定結果を、それぞれ示す。
図3(A)及び図3(B)に示すように、プラズマ処理により得られた試料1(図3(A)中「Plasma 10min」)及び熱処理により得られた試料7(図3(B)中「aneal」)では、ともに25°付近にアナターゼ型酸化チタンに由来する強い回折線が観測され、いずれも酸化チタンが結晶化していることが確認された。一方、図3(C)に示すように、アズデポ状態のTiO2薄膜(図3(C)中「20%O2TiO2 asdepo」)では、回折線が認められず酸化チタンが非晶質であることが確認された。
【0067】
図4(A)に、プラズマ処理により得られたTiO2薄膜(下地SiO2膜無し、試料4)の測定結果を、図4(B)に、熱処理により得られたTiO2薄膜(下地SiO2膜無し、試料10)についての測定結果を、それぞれ示す。
図4に示すように、プラズマ処理により得られた試料4(図4(A)中「Plasma 10min」)及び熱処理により得られた試料10(図4(B)中「aneal」)では、ともに25°付近にアナターゼ型酸化チタンに由来する強い回折線が観測され、いずれも酸化チタンが結晶化していることが確認された。
【0068】
<水滴転落角の測定>
上記で得られた試料1〜試料12のそれぞれについて、TiO2薄膜表面の水滴転落角を測定した。
水滴転落角の測定は、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)および転落角測定装置(SA−11,協和界面化学株式会社)を用いて行った。具体的には、薄膜上に30mgの水滴を滴下した後、前記転落角測定装置を用いて該薄膜を傾けながら、前記接触角測定装置に付属しているカメラから水滴を観察し、水滴が転落する瞬間(水滴の前端点および後端点の両方が移動し始める瞬間)の転落角を測定した。
測定結果を表3に示す。表3中、「>90」の表記は、薄膜を90°に傾けても水滴が転落しなかったことを示す。
【0069】
図5に、表面粗さ(Ra)と水滴転落角との関係(試料1〜試料12)を示す。
図5中、水滴転落角90°のプロットは、薄膜を90°に傾けても水滴が転落しなかったことを示す。
図5に示すように、表面粗さ(Ra)が2nm以下になると、水滴転落角が低下する(即ち、動的撥水性が向上する)ことがわかる。すなわち、転落角にナノスケールの表面粗さが大きく影響していることがわかる。この結果は、先に示したN.Yoshida et.al、Journal of the American Chemical Society, 128(3), 743-747(2006).から推定した作業仮説をサポートしているが、その際、表面粗さがある値を超えて平滑になると効果が現れるという閾値が存在する傾向を示していることは興味深い。
【0070】
<水接触角の測定>
上記で得られた試料1〜試料12のそれぞれについて、TiO2薄膜表面の水接触角を測定した。
水接触角は、(Drop Master500,協和界面化学株式会社)を用い、3mgの水滴(蒸留水)を薄膜表面に滴下し、滴下後1〜10秒の間に測定した。
測定結果を表3に示す。
【0071】
図6に、表面粗さ(Ra)と水接触角との関係(試料1〜試料12)を示す。
図6に示すように、表面粗さ(Ra)が2nm以下になると、水接触角が高くなる(即ち、静的撥水性が向上する)ことがわかる。
このように、ナノスケールの表面粗さは、水滴転落角だけでなく、水接触角にも影響していることがわかった。
【0072】
図5及び図6に示すように、試料1〜試料12においては動的撥水性と静的撥水性は良く対応し、表面粗さ(Ra)2nmを境に水接触角と水滴転落角とが同時に変化した。
以上より、今回のナノスケールの表面平滑性制御は、動的撥水性にのみ効果を及ぼすのではなく、静的撥水性を高めることで動的撥水性も向上したものと思われる。
【0073】
<UV照射による水接触角の変化>
上記で得られた試料1〜試料12のそれぞれについて、UV照射時間に対する水接触角の変化を測定した。
ここで、UV照射は、ブラックライト(FL10BL−B、National社製)を用い、ランプと基板との距離を調節することにより2μW/cm2の強さに設定して行った。
【0074】
表1及び図7に、試料1〜試料6(プラズマ処理されたTiO2薄膜)についての結果を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1及び図7に示すように、試料1〜試料6(プラズマ処理されたTiO2薄膜)では、UV照射を172時間行っても水接触角(WCA/°)の実質的な低下は認められず、水接触角は40°以上に維持されていた。このように、試料1〜試料6(プラズマ処理されたTiO2薄膜)は、「結晶化されているにも関わらず、光照射によって水接触角が低下しない」という特異な性質を有していた。
【0077】
表2及び図8に、試料7〜試料12(熱処理されたTiO2薄膜)についての結果を示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2及び図8に示すように、試料7〜試料12(熱処理されたTiO2薄膜)では、UV照射により水接触角の著しい低下が認められた。具体的には、UV照射後20時間で水接触角は15°以下に低下し、UV照射後70時間で水接触角は10°程度又はそれ以下に低下した。
更に、UV照射開始から227時間経過後以降UV照射を止め、各試料を暗所にて保管したところ、水接触角は再び上昇した。
【0080】
<光触媒活性の評価>
上記で得られた試料1〜試料12のそれぞれについて、光照射によるイソプロピルアルコール(IPA)ガスの気相分解に関する実験を行い、光触媒活性を評価した。
まず、合成空気で置換した密閉容器内に上記で得られた試料1(結晶化TiO2薄膜)を静置し、IPAガス(イソプロピルアルコールガス)を濃度2000ppmとなるように注入し、暗所で23時間保存した。その後、試料1に紫外線(UV)を照射した。
ここで、紫外線としては、ブラックライト(FL10BL−B、National社製)を用いた。また、試料1に照射する紫外線の強さは、ライトと基板との距離を調節して2μW/cm2となるように設定した。
UV照射時間毎に密閉容器内の気体を採取し、ガスクロマトグラフィーにより、残存するIPAガスの濃度、アセトン(中間生成物)の濃度、及びCO2(最終生成物)の濃度を測定した。
UV照射時間に対するCO2の濃度の増加率を最小自乗法により求め、この増加率を光触媒活性とした。
試料2〜試料12についても、上記試料1と同様の実験を行い、光触媒活性を求めた。
【0081】
図9に、試料1(実施例)についての前述の光触媒活性の評価結果を、図10に試料7(比較例)についての光触媒活性の評価結果を、それぞれ示す。
図9及び図10において、横軸(Time/h)はUV照射時間(単位:時間)を表し、左側の縦軸(IPA Conc./ppm)は、残存するIPAガスの濃度(単位:ppm)を表す軸であり、右側の縦軸(CO2,Aceton Conc./ppm)は、最終生成物であるCO2の濃度(単位:ppm)及び中間生成物であるアセトンの濃度(単位:ppm)を表す軸である。また、菱形のプロットはIPAガスの濃度を、正方形のプロットはCO2の濃度を、三角形のプロットはアセトンの濃度を、それぞれ示している。正方形プロットに沿った直線は、正方形プロットから最小自乗法により求めた直線を示している。
図9及び図10に示すように、試料1(実施例)、試料7(比較例)ともに光触媒活性が認められ、酸化チタンが結晶化されていることが確認された。
【0082】
試料1〜試料12についての光触媒活性を後述する表3に示す。
表3に示すように、試料1〜試料12のすべてにおいて光触媒活性が認められ、酸化チタンが結晶化されていることが確認された。
【0083】
以上、試料1〜試料12の測定結果をまとめると下記表3のようになる。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示すように、試料1、試料2、及び試料4〜試料6では、表面粗さ(Ra)が2nm以下、水接触角が30°以上、水滴転落角が40°以下であり、水滴除去性(撥水性及び滑水性)及び耐久性に優れていることが確認された。
また、試料1、試料2、及び試料4〜試料6は、他の試料と同様に光触媒活性を有しており、酸化チタンが結晶化されていることが確認された。
【0086】
図11は、今回の実験結果に基づき、表面粗さと撥水性(動的撥水性及び静的撥水性)との関係を概念的に示したグラフである。
図11に示すように、表面粗さがマイクロスケール(μm scale)の領域では、表面が粗くなるに従い撥水性(Hydrophobicity)が向上するのに対し(Cassie mode)、表面粗さがナノスケール(nm scale)の領域では、ナノ効果(nano effect)により、表面が平滑になるに従い撥水性が向上することが明らかとなった。なお、図11において、撥水性が向上するとは、水接触角が大きくなり、水滴転落角が小さくなることを示している。
このナノ効果を用いれば、通常は親水的であると考えられている材料に関しても、ある程度の撥水性、特に動的撥水性を付与できる。例えば、光触媒の酸化分解を受けない無機材料を構成成分とした薄膜でも、表面の組織制御を適切に行うことにより、動的濡れ性の優れた表面を得ることができる。
【0087】
<断面構造の観察>
上記で作製した無機薄膜の断面を、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製H-9000NAR;加速電圧300kV;最大倍率200万倍)にて観察した。
図13(A)は、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた上記試料1の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、図13(B)は、TiO2薄膜を熱処理して得られた上記試料7の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図13(A)に示すように、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた上記試料1の断面は、図12に示す無機薄膜の断面と同様の構造を有していた。
即ち、支持体であるガラス基板(substrate)上に、一部(図13(A)中の○で囲った箇所)が結晶化されたTiO2層(層厚100nm程度)が存在し、その上に非晶質のTiO2層(amorphous)が存在していた。非晶質のTiO2層(amorphous)の層厚はおよそ9nmであった。
一方、図13(B)に示すように、TiO2薄膜を熱処理して得られた上記試料7の断面は、アナターゼ結晶粒子からなる一様な構造(層厚100nm程度)を有していた。
【0088】
図14(A)は、図13(A)と同様に、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた上記試料1の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、図14(B)は、図14(A)中の破線の○で囲った部分、即ち、非晶質層(Amorphous layer)部分の拡大写真である。
図14(A)に示すように、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた上記試料1の段面は、図12に示す無機薄膜10の断面と同様の構造となっていた。
即ち、支持体であるガラス基板(substrate)上に、一部が結晶化されたTiO2層(以下、「結晶質TiO2層」ともいう)が存在し、その上に非晶質のTiO2層(amorphous)が存在していた。非晶質のTiO2層(amorphous layer)の層厚は9nmであった。
なお、図14(A)中では、上記「結晶質TiO2層」のうち、結晶化された部分(Crystallized region)を○で囲っている。その他の箇所は非晶質(Amorphous region)である。
【0089】
更に、図14(B)に示すように、非晶質のTiO2層(Amorphous layer)には、非晶質のTiO2層表面から結晶質TiO2層に至る10nm以下の径の孔(Channel structure)が複数観測された。
この孔により、非晶質TiO2層で覆われた状態においても、結晶質TiO2層による光触媒活性(有機物分解性)が、高く維持される。
【0090】
〔実施例2〕
<水接触角の、非晶質層の層厚依存性調査>
実施例2として、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理(Anneal)した試料上に5nm、10nm、20nmの各層厚の非晶質TiO2層を有する試料を作製した。
非晶質TiO2層は、実施例1におけるTiO2スパッタリング条件と同様の条件で成膜した。
得られた各試料を用い、UV照射時間毎の水接触角の変化を測定し、水接触角の、非晶質層の層厚依存性を調査した。
試料の作製条件、水接触角の測定条件については、実施例1と同様である。
【0091】
図15(A)は、熱処理(Anneal)により得られた「TiO2/SiO2/ガラス」試料(比較例)の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、図15(B)は、対照用であるガラスの、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
なお、図15〜18中、UV照射時間の「Hr」はhour(時間)を示す。
図15(A)に示すように、「TiO2/SiO2/ガラス」試料(比較例)の水接触角は、UV照射直後から10°以下に低下し、超親水化現象が確認された。
図15(B)に示すように、ガラスの接触角は、UV照射時間に依存せず、常に、30°程度であった。
【0092】
図16(A)は、ガラス基板上に層厚20nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/Glass 20nm」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図16(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚20nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/SiO2/Glass Aneal後20%O2_TiO2_20nm成膜サンプル」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図17(A)は、ガラス基板上に層厚10nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/Glass 10nm」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図17(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚10nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/SiO2/Glass Aneal後20%O2_TiO2_10nm成膜サンプル」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図18(A)は、ガラス基板上に層厚5nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/Glass 5nm」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図18(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚5nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/SiO2/Glass Aneal後20%O2_TiO2_5nm成膜サンプル」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【0093】
図16(A)、図17(A)、及び図18(A)に示すように、ガラス基板上に非晶質TiO2層を有する試料の水接触角は、非晶質TiO2層の層厚によらず、UV照射によってせいぜい30度程度にまでしか低下しないことがわかった。つまり非晶質のTiO2には水接触角を10度以下にまで低下させる能力がないことがわかった。
また、図16(B)及び図17(B)に示すように、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚10nm以上の非晶質TiO2層を形成した試料ではUV照射によりその水接触角は大きく低下せず30度程度を維持することがわかった。なお、図18(B)に示すように、非晶質TiO2層の層厚が5nmの場合には、下地の結晶質TiO2層の影響を受けて水接触角が15度程度にまで低下することがわかった。このことから、結晶質のTiO2の水接触角への影響を防ぐためには、非晶質層が5nmよりも厚いことが望ましいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】プラズマ処理されたTiO2薄膜(実施例)のAFM像である。
【図2】熱処理されたTiO2薄膜(比較例)のAFM像である。
【図3】(A)は、プラズマ処理されたTiO2薄膜(下地SiO2薄膜有り、試料1)のXRD測定結果であり、(B)は、熱処理されたTiO2薄膜(下地SiO2薄膜有り、試料7)のXRD測定結果であり、(C)は、アズデポ状態のTiO2薄膜のXRD測定結果(下地SiO2薄膜有り)である。
【図4】(A)は、プラズマ処理されたTiO2薄膜(下地SiO2薄膜無し、試料4)のXRD測定結果であり、(B)は、熱処理されたTiO2薄膜のXRD測定結果(下地SiO2薄膜無し、試料10)のXRD測定結果である。
【図5】表面粗さ(Ra)と水滴転落角との関係を示すグラフである。
【図6】表面粗さ(Ra)と水接触角との関係を示すグラフである。
【図7】プラズマ処理されたTiO2薄膜の、UV照射時間に対する水接触角の変化を示すグラフである。
【図8】熱処理されたTiO2薄膜の、UV照射時間に対する水接触角の変化を示すグラフである。
【図9】本実施例に係る無機薄膜の光触媒活性を示すグラフである。
【図10】比較例に係る無機薄膜の光触媒活性を示すグラフである。
【図11】表面粗さと撥水性との関係を概念的に示したグラフである。
【図12】本発明の無機薄膜の好ましい構造の一例を概念的に示した断面図である。
【図13】(A)は、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた試料1(実施例)の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、(B)は、TiO2薄膜を熱処理して得られた試料7(比較例)の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図14】(A)は、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた試料1の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、(B)は、(A)中の破線の○で囲った部分、即ち、非晶質層(Amorphous layer)部分の拡大写真である。
【図15】(A)は、熱処理(Anneal)により得られた「TiO2/SiO2/ガラス」試料(比較例)の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、(B)は、対照用であるガラスの、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【図16】(A)は、ガラス基板上に層厚20nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚20nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【図17】(A)は、ガラス基板上に層厚10nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚10nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【図18】(A)は、ガラス基板上に層厚5nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚5nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
1 支持体
2 結晶質光触媒層
4 非晶質光触媒層
6 孔
10 無機薄膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機薄膜及びその製造方法、並びにガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタンを中心とする半導体光触媒を用いたセルフクリーニング(自己浄化)技術に関する研究が行われている。このセルフクリーニング技術は、光照射により親水性を呈する(以下、「超親水化」ともいう)半導体光触媒の性質を利用して、付着した油性の汚損成分を降雨や水洗等によって容易に除去できるようにする技術である。また、このセルフクリーニング技術は、光照射により有機物を分解する半導体光触媒の性質(有機物分解性)を利用して、付着した油性の汚損成分を分解し除去できるようにする技術である。
【0003】
一方、撥水化処理に関する技術として、フッ素系樹脂等を用いたコーティング技術や、フッ素系樹脂と半導体光触媒とを含有する膜に関する技術(例えば、特許文献1及び2参照)が知られている。
【特許文献1】特開平10−237430号公報
【特許文献2】特開2001−152138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のセルフクリーニング技術では表面が親水性であるため、汚損成分の除去に水が不可欠である問題や、本質的に表面エネルギーが高く汚損物質が付着しやすい問題がある。また、表面が親水性であるため、像がゆがみ、視認性に劣る傾向がある。このため、撥水性を要求される用途(例えば、自動車のフロントガラス等)への適用が難しい問題がある。
また、上記フッ素系樹脂等を用いたコーティング技術では、水を弾きはするものの水滴が転落しづらい(即ち、滑水性に劣る)ため、水滴除去性に劣る問題がある。また、コーティング剤自身が有機物であるために耐久性に劣る問題もある。
また、上記フッ素系樹脂と半導体光触媒とを含有する膜に関する技術を用いた場合、有機物であるフッ素系樹脂自身(膜自身)が光触媒の作用により酸化分解を被りやすく、耐久性に劣る問題がある。
以上により、撥水性及び滑水性に優れ、更に、耐久性も備えた薄膜の開発が求められている。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れた無機薄膜及びその製造方法並びにガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である無機薄膜である。
<2> 酸化チタンを含む<1>に記載の無機薄膜である。
<3> 光照射によっても水に対する接触角の低下が認められない<1>又は<2>に記載の無機薄膜である。
【0007】
<4> 酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件でスパッタリングにより成膜された後、マイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理により結晶化されて得られた<1>〜<3>のいずれか1つに記載の無機薄膜である。
【0008】
<5> 結晶質光触媒層の反応面が層厚100nm以下の非晶質光触媒層で被覆された構造である<1>〜<4>のいずれか1つに記載の無機薄膜。
<6> 前記非晶質光触媒層の層厚が、5nmより厚く、かつ50nm以下である<5>に記載の無機薄膜。
<7> 反応面から前記結晶質光触媒層に至る、前記非晶質光触媒層を貫通する10nm以下の径の孔を有する<5>又は<6>に記載の無機薄膜。
【0009】
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載の無機薄膜を製造する方法であって、支持体上に、酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件のスパッタリングにより無機薄膜を成膜する成膜工程と、成膜された無機薄膜にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施して結晶化させるプラズマ処理工程と、を有する無機薄膜の製造方法である。
【0010】
<9> <1>〜<7>のいずれか1つに記載の無機薄膜により全部又は一部を被覆されたガラスである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れた薄膜及びその製造方法並びにガラスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪無機薄膜≫
本発明の無機薄膜は、表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である。
本発明の無機薄膜は、水に対する接触角(以下、「水接触角」ともいう)が30°以上であり、撥水性に優れる。このため、比較的表面エネルギーが低く、汚損物質が付着しにくい。更に、窓ガラス、レンズ、鏡等を被覆する用途に用いた場合には、水膜で像がゆがむ現象を抑制でき、視認性も良好となる。
また、本発明の無機薄膜は、水滴転落角が40°以下であり、滑水性に優れる。このため、傾斜により水滴を除去する性質(水滴除去性)に優れる。
更に、本発明の無機薄膜は有機膜に比べて耐久性に優れる。
【0013】
以上のように、本発明の無機薄膜は、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れている。
従って、本発明の無機薄膜は、例えば、早く乾燥させることが必要な部位を被覆する用途や、水膜で像が歪まないことが必要とされる用途(即ち、視認性が必要とされる用途)に有用である。例えば、レンズ、窓、鏡などのガラス製品を被覆する用途(例えば、自動車のフロントガラス等)に有用である。
【0014】
<撥水性、滑水性>
本発明において「撥水性」とは、水接触角で評価される静的撥水性(Static hydrophobicity)を指す。水接触角が大きいほど静的撥水性に優れている。
また、本発明において「滑水性」とは、水滴転落角で評価される動的撥水性(Dynamic hydrophobicity)を指す。水滴転落角が小さいほど動的撥水性に優れている。
以下、静的撥水性(撥水性)及び動的撥水性(滑水性)について説明する。
【0015】
静的撥水性の制御に関する設計原理は古典的研究から明快で、Young式(表面張力の平衡:γSV = γSL + γLV cos θ)、Cassie式(複合則:cos θ' = f cos θ1+ (1 − f)cos θ2 )、Wenzel式(粗さの影響:cos θ' = r(γSV − γSL)/γLV = r cos θ)の3つの式でほぼ説明できる。
上記Young式において、θ、γSV、γSL、及びγLVは、それぞれ、接触角、固体−気体の表面張力、固体−液体の界面張力、液体−気体の表面張力である。
上記Cassie式において、θ' 、f、θ1、及びθ2は、それぞれ、成分1と成分2からなる複合表面での接触角、液体との界面での固体の面積分率、成分1の接触角、成分2の接触角である。
上記Wenzel式において、θ'、r、γSV 、γSL、γLV、及びθは、それぞれ、粗面での接触角、Wenzelのラフネスファクター(表面の粗さにより大きくなった実際の表面積を見かけの表面積で割ったもの)、固体−気体の表面張力、固体−液体の界面張力、液体−気体の表面張力、平滑面での接触角である。
上記3つの式については、例えば、特開2001-152138号公報段落0035〜0052、R. N. Wenzel, J. Phys. Colloid Chem., 53, 1466-7 (1949)、A. B. D. Cassie, Discuss. Farady Soc., 3, 11-16 (1948)、等で詳細に説明されている。
【0016】
一方、動的撥水性については、静的撥水性(すなわち水接触角)との対応関係が実験的に認められないことが多い。例えば、静的撥水性が優れていても、付着した液滴成分が除去されやすいとは限らず、撥水面を垂直に傾けても水滴が付着し続けることもある。静的撥水性との対応関係が認められないことの理由として、従来は、水分子との物理化学的な作用が異なるなどの説明がなされていた。
これに対して、ナノレベルの平滑性を極力高めるために、溶剤や反応時間などを注意深く調整したFAS17 (1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltrimethoxysilane)コーティング、 およびODS (octadecyltrimethoxysilane)コーティングを塗布した表面の動的撥水性は、静的撥水性との対応関係が良好であり、ナノレベルの凹凸が動的撥水性に大きな影響を与えていることが示された(N.Yoshida et.al、Journal of the American Chemical Society 128(3), 743-747(2006))。従来、Wenzel式で示される表面粗さの影響や、表面凹凸の激しい撥水性素材の表面に見られるような超撥水(固体と空気の複合材料としてCassie式から計算される状態)でいう表面粗さは、μmレベルのスケールの議論が主であり、水分子のサイズに近似するようなナノスケールは想定されていない。それにもかかわらず、動的撥水性においてはこのようなスケールの凹凸が大きく影響していることを示したもので、従来知られていなかった重要な知見である。
【0017】
本発明は、ナノスケールの平滑性を制御することにより(具体的には、無機薄膜の表面粗さ(Ra)を2nm以下に制御することにより)、無機材料表面においても優れた動的撥水性(滑水性)及び静的撥水性(撥水性)を実現できるとの知見に基づいて完成されたものである。
【0018】
本発明の無機薄膜は、水接触角が30°以上である。
水接触角が30°未満であると、表面エネルギーが高くなり、汚損物質が付着しやすくなる傾向がある。また、水が付着したときの視認性が悪化する傾向がある。
本発明において、水に対する接触角(水接触角)は、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)を用い、3mgの水滴(蒸留水)を薄膜表面に滴下し、滴下後1〜10秒の間に測定された値を指す。
前記水接触角は、表面エネルギーの観点や視認性の観点より、好ましくは40°以上であり、より好ましくは50°以上であり、特に好ましくは60°以上である。
【0019】
また、本発明の無機薄膜(後述する酸化チタンを含む無機薄膜である場合を含む)は、表面エネルギーの観点や視認性の観点より、光照射によっても水接触角の低下が認められないことが好ましい。
本発明において「光照射によっても水接触角の低下が認められない」とは、光照射されても無機薄膜の水接触角が実質的に低下しない(但し、10°程度の低下は許容される)ことを意味する。
また、本発明の無機薄膜は光照射前及び光照射後のいずれにおいても、水接触角が30°以上であることが好ましく、40°以上がより好ましく、50°以上が更に好ましく、60°以上が特に好ましい。
本発明において、「光照射」とは、ブラックライト(FL10BL−B,National)を用いて波長400nm以下の紫外光(UV光)を、1μW/cm2〜5mW/cm2の強さで照射することを指す。
【0020】
本発明の無機薄膜は、水滴転落角が40°以下である。
水滴転落角が40°を超えると、傾斜により水滴を除去することが難しくなる(即ち、水滴除去性が悪化する)傾向がある。
ここで、水滴転落角は、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)および転落角測定装置(SA−11,協和界面化学株式会社)を用いて測定された値を指す。具体的には、薄膜上に30mgの水滴を滴下した後、前記転落角測定装置を用いて該薄膜を傾けながら、前記接触角測定装置に付属しているカメラから水滴を観察し、水滴が転落する瞬間の水滴転落角を測定する。なお、転落する瞬間とは、水滴の前端点および後端点の両方が移動し始める瞬間である。
前記水滴転落角は、水滴除去性の観点より、好ましくは35°以下である。
【0021】
<表面粗さ>
本発明の無機薄膜は、表面粗さ(Ra)が2nm以下であることが必要である。
ここで、表面粗さ(Ra)は、JIS B0601(1994)に規定されている算術平均粗さを指す。
本発明における表面粗さ(Ra)は、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、株式会社キーエンス製)を用い、測定範囲50μm四方について測定された値を指す。
表面粗さ(Ra)が2nmを超えると、水接触角が小さくなり(例えば、水接触角が30°未満となり)、水滴転落角が大きくなる(例えば、水滴転落角が40°を超える)傾向がある。
水接触角を大きくし水滴転落角を小さくする観点より、前記表面粗さ(Ra)は1.6nm以下であることが好ましく、1.2nm以下であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明の無機薄膜は、水接触角を大きくし水滴転落角を小さくする観点より、表面粗さ(Rz)が150nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。ここで、表面粗さ(Rz)は、JIS B0601(1994)に規定されている十点平均粗さを指す。
本発明における表面粗さ(Rz)は、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、キーエンス株式会社製)を用い、測定範囲50μm四方について測定された値を指す。
【0023】
また、本発明の無機薄膜の膜厚には特に限定はないが、本発明の効果をより効果的に得る観点より、10μm以下であることが好ましく、10〜1000nmであることがより好ましい。
【0024】
<材質>
本発明の無機薄膜の材質には特に限定は無いが、本発明の効果をより効果的に得る観点より、金属酸化物を含む材質であることが好ましく、酸化チタン及び/又はITO(Indium Tin Oxide)を含む材質であることがより好ましく、酸化チタンを含む材質であることが特に好ましい。
【0025】
前記酸化チタンを含む無機薄膜としては、酸化チタンのみからなる薄膜(即ち、酸化チタン単味の薄膜)であってもよいし、酸化チタンと他の成分とを含む混合系の薄膜であってもよい。
前記混合系の薄膜としては、例えば、酸化チタン及び酸化ジルコニウムを含む薄膜や、酸化チタン及び酸化ハフニウムを含む薄膜が好適である。
また、前記酸化チタンは、有機物分解性の観点からは、結晶化されていることが好ましい。本発明にいう「結晶化」とは、X線構造解析で結晶性を有すると判断される程度に結晶性を有する部分が存在している状態(部分的であれば非晶質部分が含まれていてもよい)を指す。また、酸化チタンが結晶化したか否かは、有機物分解性の有無によっても確認できる。
特に、本発明の無機薄膜が結晶化された酸化チタンを含む場合には、撥水性、滑水性、耐久性に加え、光触媒活性(特に、有機物分解性)をも備えることができる。このため、自動車のフロントガラス等の前述の用途により好適となる。
結晶化された酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型が挙げられるが、中でも、有機物分解性の観点からは、アナターゼ型であることが好ましい。
【0026】
また、一般に酸化チタンは、光照射により水接触角が低下する現象(超親水化現象;例えば、水接触角が10°以上にまで低下することがある)を示すことが多いが、本発明の無機薄膜に酸化チタンが含まれる場合には、前述の通り、該無機薄膜は光照射によっても水接触角の顕著な低下が認められないことが好ましい。
【0027】
上記のような性質を有する、酸化チタンを含む無機薄膜の製造方法には特に限定はないが、例えば、酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件でスパッタリングにより成膜した後、マイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理により結晶化させる方法が好適である。これらの方法の詳細については後述する。
【0028】
<無機薄膜の構造>
本発明の無機薄膜は、表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である限り、その構造については特に限定はなく、単層構造であっても2層以上の積層構造であってもよい。
但し、接触角、水滴転落角、及び光触媒活性(有機物分解性)の観点からは、本発明の無機薄膜は、結晶質光触媒層の反応面が非晶質光触媒層で被覆された積層構造であることが好ましい(以下、「非晶質」を「アモルファス」ともいう)。
ここでいう「結晶質光触媒層」には、結晶質部位のみからなる光触媒層だけでなく、非晶質部位と結晶質部位とが混在している光触媒層も含まれる。即ち、前記結晶質光触媒層は、一部又は全部が結晶化されている光触媒層である。
また、前記反応面とは、支持体に接する面の反対側の露出面を指す。本明細書中では、反応面を単に「表面」ということがある。
また、本明細書中では、「非晶質」を「アモルファス」ということがある。
【0029】
前記非晶質光触媒層の層厚には特に限定はないが、光触媒活性(有機物分解性)の観点からは、100nm以下であることが好ましい。
更に、接触角、水滴転落角、及び光触媒活性(有機物分解性)の観点からは、5nmより厚く、かつ50nm以下であることがより好ましく、7nm以上でかつ50nm以下であることが更に好ましく、7nm以上でかつ30nm以下であることが特に好ましい。
更に、光触媒活性(有機物分解性)の観点からは、前記非晶質光触媒層の表面から前記結晶質光触媒層に至る10nm以下の径の孔を有することが好ましい。ここで、「径」とは、孔の直径(孔が不定形である場合には最大径)を表す。
前記無機薄膜(前記非晶質触媒層)は前記孔を複数有していることが好ましく、前記孔の数は、接触角、水滴転落角、及び光触媒活性(有機物分解性)さらに機械的強度の観点からは、100nm×100nmあたり10以上1000以下が好ましい。
【0030】
以下、本発明の無機薄膜の特に好ましい構造について、図12を参照して説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
図12は、本発明の無機薄膜の特に好ましい構造の一例を模式的に表した断面図である。
図12に示す無機薄膜10は、支持体1(例えば、ガラス等)上に備えられた無機薄膜であり、結晶質光触媒薄膜2の反応面(表面)が非晶質光触媒層4により被覆された積層構造となっている。
【0031】
更に、無機薄膜10は、前記非晶質光触媒層4の表面から前記結晶質光触媒層2に至る10nm以下の径の孔6を多数有している。但し、孔6は必須ではない。また、孔6は、図12のように前記非晶質光触媒層4の表面から結晶質光触媒薄膜2の表面までの孔である必要はなく、結晶質光触媒薄膜2の内部まで続く孔であってもよい。
【0032】
上記構造を有する無機薄膜10では、結晶質光触媒薄膜2の表面を被覆する非晶質光触媒層4により、結晶質光触媒薄膜2による超親水化現象がより効果的に抑制される。このため、光照射後においても、より高い水接触角及びより低い水滴転落角が維持される。
また、上記構造を有する無機薄膜10では、前記非晶質光触媒層4の表面から前記結晶質光触媒層2に至る孔6により、非晶質光触媒層4で覆われた状態においても、結晶質光触媒薄膜2による光触媒活性(有機物分解性)がより効果的に維持される。
【0033】
結晶質光触媒薄膜2と非晶質光触媒層4とは、同成分であっても、異なる成分であってもよいが、製造上の観点からは同成分(例えば、酸化チタン)であることが好ましい。
結晶質光触媒薄膜2と非晶質光触媒層4とが同成分である場合の製造方法として、例えば、スパッタリングにより非晶質膜(例えば、非晶質の酸化チタン)を形成し、形成された非晶質膜にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施して、膜の内部(膜表面からみて支持体1に近い側)の全部又は一部を結晶化させる方法等が挙げられる。この方法では、結晶化された膜の内部が、結晶質光触媒薄膜2となる。
結晶質光触媒薄膜2と非晶質光触媒層4とが、同成分か異なる成分かを問わない製造方法としては、結晶質光触媒薄膜2と非晶質光触媒層4とをこの順に順次形成する方法が挙げられる。
【0034】
≪無機薄膜の製造方法≫
以上で説明した本発明の無機薄膜を製造する方法としては特に限定はないが、支持体上に(好ましくは、スパッタリングにより)無機薄膜を形成する成膜工程と、形成された無機薄膜にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施して該無機薄膜を結晶化させるプラズマ処理工程と、を含む方法が好ましい。
【0035】
<成膜工程>
成膜工程では、支持体上に無機薄膜を成膜する。
成膜直後であって後述するプラズマ処理工程前(以下、この状態をアズデポ(as depo)状態ともいう)の無機薄膜は、本発明の効果をより効果的に得る観点から、非晶質膜であることが好ましい。ここで、非晶質膜とは、X線構造解析により検出可能な結晶構造の秩序が生じていない状態の膜を指す。
成膜の方法は、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、イオンプレーティング、真空蒸着、ゾルゲル法等のウェット成膜等、公知の方法を用いることができるが、本発明の効果をより効果的に得る観点からは、スパッタリングであることが好ましい。
また、スパッタリングとしては、特に、RFマグネトロンスパッタリングが好適である。スパッタリングの条件としては、酸素とアルゴンとの雰囲気中にて行う条件が好ましい。
【0036】
以下、スパッタリングの更に好ましい条件について説明する。
酸素分圧は、プラズマ処理により期待する結晶化を行うという観点から、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。
また、全圧は、プラズマ処理により期待する結晶化を行うという観点から、12Pa以下であることが好ましく、4Pa以下であることが好ましく、2Pa以下であることがより好ましい。
スパッタリングの電力としては特に限定はないが、プラズマ処理後の表面粗さ(Ra)をより小さくする観点、及び適切な成膜速度を達成するという観点から、500W〜2000Wが好ましく、800W〜1500Wがより好ましい。
スパッタリングの温度(支持体(ガラス基板等)の温度)としては特に限定はないが、緻密な薄膜を得る観点、及び成膜時における意図しない結晶化を防ぐ観点から、200℃以下が好ましく、30℃〜100℃がより好ましい。
【0037】
支持体としては特に限定はなく、ガラス、金属、プラスチック、樹脂、セラミックス、半導体、結晶、紙、木材等、種々の材料を特に制限なく用いることができるが、本発明の効果をより効果的に得る観点からは、ガラス、セラミックスが好ましく、ガラスが特に好ましい。支持体は、そのまま用いてもよいし、表面にシリカ(SiO2)膜等が形成されたものを用いてもよい。
また、後述するマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理として、低温プラズマによる処理を行う場合には、支持体として、耐熱性の低い樹脂を用いることも可能である。
【0038】
<プラズマ処理工程>
プラズマ処理工程は、成膜工程において成膜された無機薄膜(アズデポ状態の無機薄膜)にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施す工程である。
本発明において、マイクロ波とは周波数が300MHzより大きく300GHz以下である波を指し、高周波とは周波数が1kHz以上300MHz以下である波を指す。
【0039】
前記マイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理としては、低温プラズマ処理であることが好ましい。
低温プラズマ処理については、国際公開第03/031673号パンフレットや、H. Ohsaki , Y. Shibayama, M. Suzuki, A. Kinbara a, H. Yashiro, T. Watanabe’ Room temperature crystallization by RF plasma’ Thin Solid Films 516 4490-4494 (2008) に詳細に記載されており、これらの文献に記載の処理は本発明においても好適である。
これらの文献に記載の低温プラズマ処理は、減圧雰囲気下で温和なプラズマを作用させることで結晶化を引き起こさせる方法であり、高周波加熱に似たプロセスである。
しかし、(1)ガス圧などのプラズマの状態そのものが、結晶化の有無に大きな影響があること、(2)薄膜にプラズマを作用させても赤外温度計で測定できる範囲のマクロな温度上昇がほとんど見られないのに、熱処理と同等の結晶化が可能である、というような特徴がある。さらにこのようなプラズマ処理による結晶化の際に緻密化も生じ、熱処理によって結晶化した薄膜より密度が向上することも明らかにされている。
【0040】
低温プラズマの発生条件としては、たとえば、印加周波数1kHz〜300MHz、圧力5Pa以上、投入電力が300W以上であることが好ましい。
また、上記低温プラズマは、少なくとも酸素ガス又は酸素元素を含むガスを励起することにより発生するプラズマであることが好ましい。あるいは、本発明の無機薄膜が酸素欠損により特性が与えられる金属酸化物膜である場合、上記低温プラズマは、少なくともアルゴンガス、窒素ガス、又はそれらを含むガスを励起することにより発生するプラズマであることが好ましい。
【0041】
次に、前記低温プラズマ処理の条件について詳細を述べる。
低温プラズマとは、電子温度がイオンや中性粒子の温度より遥かに高い、熱的に非平衡なプラズマで、一般に数百Pa以下のガス圧で生成する。印加する交流電界の周波数は、気体放電が生じ、且つ熱プラズマを生じさせないために1kHz〜300MHzが好ましいが、より望ましくは工業的使用に割り振られ、既存の装置での使用が行われている13.56MHzが適する。また、本発明において使用される高周波電界は、プラズマの発生に使用される高周波によって兼ねられることが望ましい。
【0042】
投入電力としては、たとえば、300W以上が適切である。しかしながら、適切な投入電力はプラズマを発生させる装置のサイズによって変化するため、より容積の小さなチャンバーを用いる場合には、より低い投入電力による処理も適切である。なお、後述の実施例におけるチャンバー容積を用い、プラズマ発生が行われている空間の単位体積当たりの投入電力密度に換算すると、300Wはおよそ1.97×104Wm−3である。必要とされる投入電力の決定は、この単位体積当たりの電力を用いても判断可能である。
【0043】
プラズマの発生に用いるガスは、酸素、アルゴン、窒素、あるいはそれらの混合体であり、全圧5Pa以上、より好ましくは50Pa以上が適している。実施例に示すように、多くの酸化物においては純度99.9%以上の酸素ガスを用いたプラズマによる処理が、特性が安定するためより好ましい。この場合、低温プラズマとしては、少なくとも酸素ガスあるいは酸素元素を含むガスを励起することにより発生するプラズマを用いることができる。ただし、酸素の欠損により各種の特性が付与される、もしくは制御される酸化物膜の場合には、酸素以外のガス、例えばアルゴンや窒素を用いることもでき、低温プラズマとしては、少なくともアルゴンガス、窒素ガス、又はそれらを含むガスを励起することにより発生するプラズマを用いることができる。
【0044】
プラズマ処理時間に関しては、主に非晶質からなる金属酸化物膜のプラズマへの暴露は、0でないX線回折パターンを示す程度の結晶性を有する、あるいは微結晶が内包された膜を得るためには3分以内の暴露で充分であるが、X線回折パターンのピーク半値幅0.5以下の、良好な結晶性を有する酸化物膜の形成には10分以内の暴露がより好ましい。
【0045】
プラズマ処理時間の下限は、無機薄膜の結晶化の観点からは、1分間が好ましく、5分間がより好ましい。
また、プラズマ処理時間の上限は、無機薄膜の表面粗さ(Ra)を2nm以下により容易に調整する観点からは、10分間が特に好ましいが、30分間以上の処理を行っても構わない。
【0046】
上記のようなプロセスは一見スパッタと類似しているが、使用可能な装置としては、マグネットを使用せず、プラズマ内の荷電粒子を加速しない、容量結合型の対向電極間に高周波電力を印加することでプラズマを生成することができるような真空設備を用いることが望ましい。このとき、電場を印加する電極は、プラズマを発生させるチャンバー内に両方あるいは片方が露出していても、あるいはチャンバー外に設置されていても構わない。この設備と通常のスパッタ装置との差は、対向電極(スパッタ装置であればターゲット側の電極)に収束マグネットを使用しないため、対向電極に対して高密度のプラズマが集中せず、均一なプラズマを生成できるため、スパッタリングのような物理的な切削現象は起こりにくく、反応性の高い酸素イオンを容易に入手することが可能となる。尚、容量結合型よりプラズマ密度の高い、誘導結合型の装置も本発明に使用できる。また、設備的にはプラズマリアクター、リアクティブ・イオン・エッチング装置といった市販の装置を使用してもよい。
【0047】
これらの設備は、電極に磁場を使用しておらず、上述のような反応性の高い均一なプラズマを生成することができる。このプラズマ照射の効果はアンプパワー、ガス流量などの条件に依存する。この処理により、結晶性、基材への密着性、膜の硬度などの機械的物性に優れた金属酸化物薄膜を、適当な非晶質の酸化物膜から、非加熱で均質に形成することができる。
【0048】
本発明の無機薄膜の製造方法は、前記成膜工程及び前記プラズマ処理工程以外の他の工程を有していてもよい。
他の工程としては、成膜工程の手前に、シリカ(SiO2)膜等の下地膜を形成する工程等である。
【0049】
以上、本発明の無機薄膜の製造方法について説明したが、特に好ましくは下記の製造方法である。
即ち、支持体上に、酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件のスパッタリングにより薄膜(例えば、酸化チタンを含む薄膜)を成膜する成膜工程と、成膜された薄膜をマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理により結晶化させるプラズマ処理工程と、を有する製造方法が特に好ましい。
このような製造方法によれば、表面粗さ(Ra)が2nm以下の無機薄膜を容易に得ることができる。
【0050】
≪ガラス≫
本発明のガラスは、上記で説明した本発明の無機薄膜により全部又は一部を被覆されたものである。
即ち、本発明のガラスは、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れた本発明の無機薄膜により被覆されているため、例えば、水滴転落性に優れたガラス(例えば、自動車のフロントウインドウ、等)として好適に用いることができる。特に、無機薄膜が酸化チタンを含む膜である場合には、水滴転落性に優れ、かつ、残存する汚染物が光触媒作用で酸化分解されるセルフクリーニングガラスとして好適である。
ガラスの種類には特に限定はなく、ソーダライムガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、石英ガラス等の公知のガラスを用いることができる。
本発明のガラスの具体的形態としては、本発明の無機薄膜に更にシリカを含み、該無機薄膜によりソーダライムガラスの全部又は一部を被覆した形態が挙げられる。また、本発明の無機薄膜によりソーダライムガラスの全部又は一部を、該無機薄膜と該ガラスとの間にシリカを介在させて被覆した形態も好適である。
【0051】
本発明の無機薄膜及びその製造方法並びにガラスは、以上で説明したとおり、撥水性、滑水性、及び耐久性に優れるため、車両関連、住宅関連、光学機器関連、産業機器関連、医療関連、電子部品関連、電気製品関連等、様々な産業分野に適用できる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
<試料1〜試料12(結晶化TiO2薄膜)の作製>
(試料1の作製)
洗浄したソーダライムガラス基板(基板サイズ100mm×100mm)上に、下記条件のスパッタリングにより下地膜としての酸化ケイ素薄膜(以下、「SiO2薄膜」という)を成膜した。
形成されたSiO2薄膜の膜厚をDEKTAK 6M ((株)アルバック社)を用いて測定したところ、20nmであった。
【0054】
〜 SiO2スパッタリング条件 〜
・装置:パーソナルコーター(日真精機株式会社製の仕様変更機)
・電源:REACTIVE PLASMA GENERATOR(ENI Technology,Inc.製PRG−50)、投入電力:250W(パルス)
・ターゲット:Si
・基板加熱:なし
・バックプレッシャー:2.0×10−4Pa
・スパッタリング時の全圧:酸素(100%)をガス流量30sccmで導入し、メインバルブを調整して全圧0.5Paとした。
以上のスパッタリング条件で、プリスパッタの後、SiO2薄膜を20nm成膜した。
なお、本実験ではパルス電源によりスパッタリングを行ったが、RF電源を用いてスパッタしてもよく、また、ターゲットもSiに限らず、SiO2を用いArガスでスパッタする成膜方法があることはいうまでもない。
【0055】
次に、上記で形成されたSiO2薄膜上に、下記条件のスパッタリングにより酸化チタン薄膜(以下、「TiO2薄膜」という)を成膜した。
【0056】
〜 TiO2スパッタリング条件 〜
・装置:パーソナルコーター(日真精機株式会社製の仕様変更機)
・電源:MAGNETRON DRIVE(Advanced Energy製)、投入電力:DC1200W
・ターゲット:Ti
・基板加熱:なし
・バックプレッシャー:2.0×10−4Pa、
・スパッタリング時の全圧:酸素をガス流量6sccmで、Arをガス流量24sccmで、それぞれ導入し、メインバルブを調整して全圧0.3Paとした。このとき、酸素分圧は20%である。
以上のスパッタリング条件で、プリスパッタの後、TiO2薄膜を100nm成膜した。
【0057】
上記スパッタリングにより成膜したTiO2薄膜(アズデポ状態)に、下記条件で酸素プラズマ処理を10分間施し、TiO2薄膜を結晶化させて、試料1(結晶化TiO2薄膜)を得た。酸素プラズマ処理は、常温で開始し、非加熱状態で上記の時間行った。
【0058】
〜酸素プラズマ処理条件〜
容量結合型の並行電極を備えた容積13665cm3の円筒形チャンバー内に、TiO2薄膜(アズデポ状態)付き基板を配置し、流量100cc/分(容器内圧50Pa)で酸素を導入し、前記並行電極間に、RF周波数13.56MHz、アンプパワー300Wの高周波電力を印加することによりプラズマを発生させて行った。
この条件における酸素プラズマ処理時間と基板温度との関係を調べたところ、常温(22℃)から開始して、処理時間10分間で80℃、処理時間30分間で100℃、処理時間60分で110℃であった。
【0059】
上記酸素プラズマ処理により得られた試料1(結晶化TiO2薄膜)の膜厚を、DEKTAK 6M ((株)アルバック社)を用いて測定したところ、100nmであった。
【0060】
(試料2〜試料3の作製)
上記試料1の作製において、アズデポ状態のTiO2薄膜に対する酸素プラズマ処理の時間を、後述の表3に示すように変更した以外は上記試料1の作製と同様にして、試料2〜試料3を作製した。得られた試料2〜試料3における結晶化TiO2薄膜の膜厚は、いずれも100nmであった。
【0061】
(試料4〜試料6の作製)
上記試料1〜試料3の作製において、下地膜であるSiO2薄膜を設けず、ガラス基板上に直接TiO2薄膜を成膜した以外は上記試料1〜試料3の作製と同様にして、試料4〜試料6を作製した。作製条件の詳細は後述の表3に示す。
【0062】
(試料7〜試料12の作製)
上記試料1〜試料6の作製において、アズデポ状態のTiO2薄膜に対する酸素プラズマ処理を、マッフル炉(KDF−P90G,株式会社デンケン製)内で行う雰囲気温度500℃の熱処理に変更した以外は試料1〜試料6の作製と同様にして、試料7〜試料12をそれぞれ作製した。作製条件の詳細は後述の表3に示す。
【0063】
<表面粗さの測定>
上記で得られた試料1〜試料12について、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、株式会社キーエンス製)を用い、測定範囲50μm四方の条件で、表面粗さ(算術平均粗さRa、最大高さRy、及び十点平均粗さRz)の測定を行った。これらの測定はJIS B0601(1994)に準拠して行った。
【0064】
図1に、プラズマ処理されたTiO2薄膜(試料5、実施例)の表面のAFM像を、図2に、熱処理されたTiO2薄膜(試料11、比較例)の表面のAFM像を、それぞれ示す。
図1に示すように、プラズマ処理されたTiO2薄膜(試料5、実施例)表面は突起がほとんど見られないのに対し、図2に示すように、熱処理されたTiO2薄膜(試料11、比較例)表面は多数の突起が確認された。
また、後述の表3に示すように、プラズマ処理により得られた試料1〜試料6は、熱処理により得られた試料7〜試料12に比べて、表面粗さが小さいことが確認された。
【0065】
<XRD(X線回折)測定>
各試料について、XRD(X線回折)測定を下記条件にて行った。
〜XRD測定条件〜
X線回折装置(RINT2100、株式会社リガク製)を使用した。平行ビーム法で管電圧40kV、管電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャンスピード2°/min、の条件で対陰極として銅、フィルターとしてニッケルを使用してXRD測定を行った。
【0066】
図3(A)に、プラズマ処理により得られたTiO2薄膜(下地SiO2膜有り、試料1)についての測定結果を、図3(B)に、熱処理により得られたTiO2薄膜(下地SiO2膜有り、試料7)の測定結果を、図3(C)に、アズデポ状態のTiO2薄膜(下地SiO2膜有り)についての測定結果を、それぞれ示す。
図3(A)及び図3(B)に示すように、プラズマ処理により得られた試料1(図3(A)中「Plasma 10min」)及び熱処理により得られた試料7(図3(B)中「aneal」)では、ともに25°付近にアナターゼ型酸化チタンに由来する強い回折線が観測され、いずれも酸化チタンが結晶化していることが確認された。一方、図3(C)に示すように、アズデポ状態のTiO2薄膜(図3(C)中「20%O2TiO2 asdepo」)では、回折線が認められず酸化チタンが非晶質であることが確認された。
【0067】
図4(A)に、プラズマ処理により得られたTiO2薄膜(下地SiO2膜無し、試料4)の測定結果を、図4(B)に、熱処理により得られたTiO2薄膜(下地SiO2膜無し、試料10)についての測定結果を、それぞれ示す。
図4に示すように、プラズマ処理により得られた試料4(図4(A)中「Plasma 10min」)及び熱処理により得られた試料10(図4(B)中「aneal」)では、ともに25°付近にアナターゼ型酸化チタンに由来する強い回折線が観測され、いずれも酸化チタンが結晶化していることが確認された。
【0068】
<水滴転落角の測定>
上記で得られた試料1〜試料12のそれぞれについて、TiO2薄膜表面の水滴転落角を測定した。
水滴転落角の測定は、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)および転落角測定装置(SA−11,協和界面化学株式会社)を用いて行った。具体的には、薄膜上に30mgの水滴を滴下した後、前記転落角測定装置を用いて該薄膜を傾けながら、前記接触角測定装置に付属しているカメラから水滴を観察し、水滴が転落する瞬間(水滴の前端点および後端点の両方が移動し始める瞬間)の転落角を測定した。
測定結果を表3に示す。表3中、「>90」の表記は、薄膜を90°に傾けても水滴が転落しなかったことを示す。
【0069】
図5に、表面粗さ(Ra)と水滴転落角との関係(試料1〜試料12)を示す。
図5中、水滴転落角90°のプロットは、薄膜を90°に傾けても水滴が転落しなかったことを示す。
図5に示すように、表面粗さ(Ra)が2nm以下になると、水滴転落角が低下する(即ち、動的撥水性が向上する)ことがわかる。すなわち、転落角にナノスケールの表面粗さが大きく影響していることがわかる。この結果は、先に示したN.Yoshida et.al、Journal of the American Chemical Society, 128(3), 743-747(2006).から推定した作業仮説をサポートしているが、その際、表面粗さがある値を超えて平滑になると効果が現れるという閾値が存在する傾向を示していることは興味深い。
【0070】
<水接触角の測定>
上記で得られた試料1〜試料12のそれぞれについて、TiO2薄膜表面の水接触角を測定した。
水接触角は、(Drop Master500,協和界面化学株式会社)を用い、3mgの水滴(蒸留水)を薄膜表面に滴下し、滴下後1〜10秒の間に測定した。
測定結果を表3に示す。
【0071】
図6に、表面粗さ(Ra)と水接触角との関係(試料1〜試料12)を示す。
図6に示すように、表面粗さ(Ra)が2nm以下になると、水接触角が高くなる(即ち、静的撥水性が向上する)ことがわかる。
このように、ナノスケールの表面粗さは、水滴転落角だけでなく、水接触角にも影響していることがわかった。
【0072】
図5及び図6に示すように、試料1〜試料12においては動的撥水性と静的撥水性は良く対応し、表面粗さ(Ra)2nmを境に水接触角と水滴転落角とが同時に変化した。
以上より、今回のナノスケールの表面平滑性制御は、動的撥水性にのみ効果を及ぼすのではなく、静的撥水性を高めることで動的撥水性も向上したものと思われる。
【0073】
<UV照射による水接触角の変化>
上記で得られた試料1〜試料12のそれぞれについて、UV照射時間に対する水接触角の変化を測定した。
ここで、UV照射は、ブラックライト(FL10BL−B、National社製)を用い、ランプと基板との距離を調節することにより2μW/cm2の強さに設定して行った。
【0074】
表1及び図7に、試料1〜試料6(プラズマ処理されたTiO2薄膜)についての結果を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1及び図7に示すように、試料1〜試料6(プラズマ処理されたTiO2薄膜)では、UV照射を172時間行っても水接触角(WCA/°)の実質的な低下は認められず、水接触角は40°以上に維持されていた。このように、試料1〜試料6(プラズマ処理されたTiO2薄膜)は、「結晶化されているにも関わらず、光照射によって水接触角が低下しない」という特異な性質を有していた。
【0077】
表2及び図8に、試料7〜試料12(熱処理されたTiO2薄膜)についての結果を示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2及び図8に示すように、試料7〜試料12(熱処理されたTiO2薄膜)では、UV照射により水接触角の著しい低下が認められた。具体的には、UV照射後20時間で水接触角は15°以下に低下し、UV照射後70時間で水接触角は10°程度又はそれ以下に低下した。
更に、UV照射開始から227時間経過後以降UV照射を止め、各試料を暗所にて保管したところ、水接触角は再び上昇した。
【0080】
<光触媒活性の評価>
上記で得られた試料1〜試料12のそれぞれについて、光照射によるイソプロピルアルコール(IPA)ガスの気相分解に関する実験を行い、光触媒活性を評価した。
まず、合成空気で置換した密閉容器内に上記で得られた試料1(結晶化TiO2薄膜)を静置し、IPAガス(イソプロピルアルコールガス)を濃度2000ppmとなるように注入し、暗所で23時間保存した。その後、試料1に紫外線(UV)を照射した。
ここで、紫外線としては、ブラックライト(FL10BL−B、National社製)を用いた。また、試料1に照射する紫外線の強さは、ライトと基板との距離を調節して2μW/cm2となるように設定した。
UV照射時間毎に密閉容器内の気体を採取し、ガスクロマトグラフィーにより、残存するIPAガスの濃度、アセトン(中間生成物)の濃度、及びCO2(最終生成物)の濃度を測定した。
UV照射時間に対するCO2の濃度の増加率を最小自乗法により求め、この増加率を光触媒活性とした。
試料2〜試料12についても、上記試料1と同様の実験を行い、光触媒活性を求めた。
【0081】
図9に、試料1(実施例)についての前述の光触媒活性の評価結果を、図10に試料7(比較例)についての光触媒活性の評価結果を、それぞれ示す。
図9及び図10において、横軸(Time/h)はUV照射時間(単位:時間)を表し、左側の縦軸(IPA Conc./ppm)は、残存するIPAガスの濃度(単位:ppm)を表す軸であり、右側の縦軸(CO2,Aceton Conc./ppm)は、最終生成物であるCO2の濃度(単位:ppm)及び中間生成物であるアセトンの濃度(単位:ppm)を表す軸である。また、菱形のプロットはIPAガスの濃度を、正方形のプロットはCO2の濃度を、三角形のプロットはアセトンの濃度を、それぞれ示している。正方形プロットに沿った直線は、正方形プロットから最小自乗法により求めた直線を示している。
図9及び図10に示すように、試料1(実施例)、試料7(比較例)ともに光触媒活性が認められ、酸化チタンが結晶化されていることが確認された。
【0082】
試料1〜試料12についての光触媒活性を後述する表3に示す。
表3に示すように、試料1〜試料12のすべてにおいて光触媒活性が認められ、酸化チタンが結晶化されていることが確認された。
【0083】
以上、試料1〜試料12の測定結果をまとめると下記表3のようになる。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示すように、試料1、試料2、及び試料4〜試料6では、表面粗さ(Ra)が2nm以下、水接触角が30°以上、水滴転落角が40°以下であり、水滴除去性(撥水性及び滑水性)及び耐久性に優れていることが確認された。
また、試料1、試料2、及び試料4〜試料6は、他の試料と同様に光触媒活性を有しており、酸化チタンが結晶化されていることが確認された。
【0086】
図11は、今回の実験結果に基づき、表面粗さと撥水性(動的撥水性及び静的撥水性)との関係を概念的に示したグラフである。
図11に示すように、表面粗さがマイクロスケール(μm scale)の領域では、表面が粗くなるに従い撥水性(Hydrophobicity)が向上するのに対し(Cassie mode)、表面粗さがナノスケール(nm scale)の領域では、ナノ効果(nano effect)により、表面が平滑になるに従い撥水性が向上することが明らかとなった。なお、図11において、撥水性が向上するとは、水接触角が大きくなり、水滴転落角が小さくなることを示している。
このナノ効果を用いれば、通常は親水的であると考えられている材料に関しても、ある程度の撥水性、特に動的撥水性を付与できる。例えば、光触媒の酸化分解を受けない無機材料を構成成分とした薄膜でも、表面の組織制御を適切に行うことにより、動的濡れ性の優れた表面を得ることができる。
【0087】
<断面構造の観察>
上記で作製した無機薄膜の断面を、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製H-9000NAR;加速電圧300kV;最大倍率200万倍)にて観察した。
図13(A)は、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた上記試料1の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、図13(B)は、TiO2薄膜を熱処理して得られた上記試料7の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図13(A)に示すように、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた上記試料1の断面は、図12に示す無機薄膜の断面と同様の構造を有していた。
即ち、支持体であるガラス基板(substrate)上に、一部(図13(A)中の○で囲った箇所)が結晶化されたTiO2層(層厚100nm程度)が存在し、その上に非晶質のTiO2層(amorphous)が存在していた。非晶質のTiO2層(amorphous)の層厚はおよそ9nmであった。
一方、図13(B)に示すように、TiO2薄膜を熱処理して得られた上記試料7の断面は、アナターゼ結晶粒子からなる一様な構造(層厚100nm程度)を有していた。
【0088】
図14(A)は、図13(A)と同様に、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた上記試料1の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、図14(B)は、図14(A)中の破線の○で囲った部分、即ち、非晶質層(Amorphous layer)部分の拡大写真である。
図14(A)に示すように、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた上記試料1の段面は、図12に示す無機薄膜10の断面と同様の構造となっていた。
即ち、支持体であるガラス基板(substrate)上に、一部が結晶化されたTiO2層(以下、「結晶質TiO2層」ともいう)が存在し、その上に非晶質のTiO2層(amorphous)が存在していた。非晶質のTiO2層(amorphous layer)の層厚は9nmであった。
なお、図14(A)中では、上記「結晶質TiO2層」のうち、結晶化された部分(Crystallized region)を○で囲っている。その他の箇所は非晶質(Amorphous region)である。
【0089】
更に、図14(B)に示すように、非晶質のTiO2層(Amorphous layer)には、非晶質のTiO2層表面から結晶質TiO2層に至る10nm以下の径の孔(Channel structure)が複数観測された。
この孔により、非晶質TiO2層で覆われた状態においても、結晶質TiO2層による光触媒活性(有機物分解性)が、高く維持される。
【0090】
〔実施例2〕
<水接触角の、非晶質層の層厚依存性調査>
実施例2として、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理(Anneal)した試料上に5nm、10nm、20nmの各層厚の非晶質TiO2層を有する試料を作製した。
非晶質TiO2層は、実施例1におけるTiO2スパッタリング条件と同様の条件で成膜した。
得られた各試料を用い、UV照射時間毎の水接触角の変化を測定し、水接触角の、非晶質層の層厚依存性を調査した。
試料の作製条件、水接触角の測定条件については、実施例1と同様である。
【0091】
図15(A)は、熱処理(Anneal)により得られた「TiO2/SiO2/ガラス」試料(比較例)の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、図15(B)は、対照用であるガラスの、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
なお、図15〜18中、UV照射時間の「Hr」はhour(時間)を示す。
図15(A)に示すように、「TiO2/SiO2/ガラス」試料(比較例)の水接触角は、UV照射直後から10°以下に低下し、超親水化現象が確認された。
図15(B)に示すように、ガラスの接触角は、UV照射時間に依存せず、常に、30°程度であった。
【0092】
図16(A)は、ガラス基板上に層厚20nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/Glass 20nm」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図16(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚20nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/SiO2/Glass Aneal後20%O2_TiO2_20nm成膜サンプル」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図17(A)は、ガラス基板上に層厚10nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/Glass 10nm」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図17(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚10nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/SiO2/Glass Aneal後20%O2_TiO2_10nm成膜サンプル」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図18(A)は、ガラス基板上に層厚5nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/Glass 5nm」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
図18(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚5nmの非晶質TiO2層を有する試料(「20%O2_TiO2/SiO2/Glass Aneal後20%O2_TiO2_5nm成膜サンプル」)における、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【0093】
図16(A)、図17(A)、及び図18(A)に示すように、ガラス基板上に非晶質TiO2層を有する試料の水接触角は、非晶質TiO2層の層厚によらず、UV照射によってせいぜい30度程度にまでしか低下しないことがわかった。つまり非晶質のTiO2には水接触角を10度以下にまで低下させる能力がないことがわかった。
また、図16(B)及び図17(B)に示すように、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚10nm以上の非晶質TiO2層を形成した試料ではUV照射によりその水接触角は大きく低下せず30度程度を維持することがわかった。なお、図18(B)に示すように、非晶質TiO2層の層厚が5nmの場合には、下地の結晶質TiO2層の影響を受けて水接触角が15度程度にまで低下することがわかった。このことから、結晶質のTiO2の水接触角への影響を防ぐためには、非晶質層が5nmよりも厚いことが望ましいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】プラズマ処理されたTiO2薄膜(実施例)のAFM像である。
【図2】熱処理されたTiO2薄膜(比較例)のAFM像である。
【図3】(A)は、プラズマ処理されたTiO2薄膜(下地SiO2薄膜有り、試料1)のXRD測定結果であり、(B)は、熱処理されたTiO2薄膜(下地SiO2薄膜有り、試料7)のXRD測定結果であり、(C)は、アズデポ状態のTiO2薄膜のXRD測定結果(下地SiO2薄膜有り)である。
【図4】(A)は、プラズマ処理されたTiO2薄膜(下地SiO2薄膜無し、試料4)のXRD測定結果であり、(B)は、熱処理されたTiO2薄膜のXRD測定結果(下地SiO2薄膜無し、試料10)のXRD測定結果である。
【図5】表面粗さ(Ra)と水滴転落角との関係を示すグラフである。
【図6】表面粗さ(Ra)と水接触角との関係を示すグラフである。
【図7】プラズマ処理されたTiO2薄膜の、UV照射時間に対する水接触角の変化を示すグラフである。
【図8】熱処理されたTiO2薄膜の、UV照射時間に対する水接触角の変化を示すグラフである。
【図9】本実施例に係る無機薄膜の光触媒活性を示すグラフである。
【図10】比較例に係る無機薄膜の光触媒活性を示すグラフである。
【図11】表面粗さと撥水性との関係を概念的に示したグラフである。
【図12】本発明の無機薄膜の好ましい構造の一例を概念的に示した断面図である。
【図13】(A)は、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた試料1(実施例)の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、(B)は、TiO2薄膜を熱処理して得られた試料7(比較例)の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図14】(A)は、TiO2薄膜をプラズマ処理して得られた試料1の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、(B)は、(A)中の破線の○で囲った部分、即ち、非晶質層(Amorphous layer)部分の拡大写真である。
【図15】(A)は、熱処理(Anneal)により得られた「TiO2/SiO2/ガラス」試料(比較例)の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、(B)は、対照用であるガラスの、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【図16】(A)は、ガラス基板上に層厚20nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚20nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【図17】(A)は、ガラス基板上に層厚10nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚10nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【図18】(A)は、ガラス基板上に層厚5nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフであり、(B)は、「TiO2/SiO2/ガラス」試料を熱処理した試料上に、層厚5nmの非晶質TiO2層を形成した試料の、UV照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
1 支持体
2 結晶質光触媒層
4 非晶質光触媒層
6 孔
10 無機薄膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である無機薄膜。
【請求項2】
酸化チタンを含む請求項1に記載の無機薄膜。
【請求項3】
光照射によっても水に対する接触角の低下が認められない請求項1又は請求項2に記載の無機薄膜。
【請求項4】
酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件でスパッタリングにより成膜された後、マイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理により結晶化されて得られた請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の無機薄膜。
【請求項5】
結晶質光触媒層の反応面が層厚100nm以下の非晶質光触媒層で被覆された構造である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の無機薄膜。
【請求項6】
前記非晶質光触媒層の層厚が、5nmより厚く、かつ50nm以下である請求項5に記載の無機薄膜。
【請求項7】
反応面から前記結晶質光触媒層に至る、前記非晶質光触媒層を貫通する10nm以下の径の孔を有する請求項5又は請求項6に記載の無機薄膜。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の無機薄膜を製造する方法であって、
支持体上に、酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件のスパッタリングにより無機薄膜を成膜する成膜工程と、
成膜された無機薄膜にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施して結晶化させるプラズマ処理工程と、
を有する無機薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の無機薄膜により全部又は一部を被覆されたガラス。
【請求項1】
表面粗さ(Ra)が2nm以下であり、水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である無機薄膜。
【請求項2】
酸化チタンを含む請求項1に記載の無機薄膜。
【請求項3】
光照射によっても水に対する接触角の低下が認められない請求項1又は請求項2に記載の無機薄膜。
【請求項4】
酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件でスパッタリングにより成膜された後、マイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理により結晶化されて得られた請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の無機薄膜。
【請求項5】
結晶質光触媒層の反応面が層厚100nm以下の非晶質光触媒層で被覆された構造である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の無機薄膜。
【請求項6】
前記非晶質光触媒層の層厚が、5nmより厚く、かつ50nm以下である請求項5に記載の無機薄膜。
【請求項7】
反応面から前記結晶質光触媒層に至る、前記非晶質光触媒層を貫通する10nm以下の径の孔を有する請求項5又は請求項6に記載の無機薄膜。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の無機薄膜を製造する方法であって、
支持体上に、酸素分圧40%以下かつ全圧12Pa以下の条件のスパッタリングにより無機薄膜を成膜する成膜工程と、
成膜された無機薄膜にマイクロ波プラズマ処理及び/又は高周波プラズマ処理を施して結晶化させるプラズマ処理工程と、
を有する無機薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の無機薄膜により全部又は一部を被覆されたガラス。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図12】
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図12】
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−37648(P2010−37648A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325532(P2008−325532)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究成果にかかわる特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発研究機構 循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト 光触媒関連基礎技術の開発ならびに新環境科学領域の創成事業 委託研究、産業活力再生特別措置法30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究成果にかかわる特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発研究機構 循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト 光触媒関連基礎技術の開発ならびに新環境科学領域の創成事業 委託研究、産業活力再生特別措置法30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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