説明

無段変速機の制御装置

【課題】ロックアップクラッチの耐久性を向上させる。
【解決手段】クラッチ締結時間Taおよびロックアップ制御時間Tbが設定される。制御開始時点のタービン回転数Nt1に基づきロックアップ制御時間Tb経過後のタービン回転数Nt2が設定される。タービン回転数Nt2に回転数差ΔNbが加算され、ロックアップ制御時間Tb経過後のエンジン回転数Ne2が設定される。エンジン回転数Ne2と制御開始時点のエンジン回転数Ne1とに基づきエンジン回転数Neの目標値が設定され、この目標値に従ってロックアップクラッチの締結力が制御される。クラッチ締結時間Ta経過後のエンジン回転数Ne3から回転数差ΔNbが減算され、クラッチ締結時間Ta経過後のタービン回転数Nt3が設定される。タービン回転数Nt1〜Nt3に基づきタービン回転数Ntの目標値が設定され、この目標値に従って変速機構が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチを備える無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力伝達系に組み付けられる無段変速機(CVT)は、入力軸に設けられるプライマリプーリと、出力軸に設けられるセカンダリプーリと、これらのプーリに掛け渡される駆動チェーンとを有している。それぞれのプーリの溝幅を変化させて駆動チェーンの巻き付け径を変化させることにより、変速比を連続的に変化させることが可能となっている。また、エンジン動力を無段変速機に対して滑らかに伝達するため、エンジンと無段変速機との間にはトルクコンバータが組み込まれている。滑り要素であるトルクコンバータには、エンジンのクランク軸と無段変速機の入力軸とを直結するロックアップクラッチが組み込まれている。
【0003】
このロックアップクラッチを解放した場合には、トルクコンバータを介して動力が伝達されることから、ロックアップクラッチ前後の回転数差は拡大する傾向となる。そして、ロックアップクラッチを締結した場合には、ロックアップクラッチ前後の回転数差が縮小されることになるが、ロックアップクラッチの出力側回転数は車速に連動することから、ロックアップクラッチの入力側回転数が出力側回転数に向けて引き下げられることになる。すなわち、ロックアップクラッチを締結することは、エンジン回転数の急速な低下を招いて締結ショックを発生させる要因となっていた。そこで、ロックアップクラッチの締結ショックを軽減するため、出力側回転数を高めるように変速制御を行う無段変速機の制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−292448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ロックアップクラッチの締結ショックを軽減するためには、単に出力側回転数を高めるだけでなく、ロックアップクラッチを滑らかに締結状態に切り換えることが必要である。しかしながら、ロックアップクラッチを滑らかに締結することは、ロックアップクラッチを長く過渡状態に保持することから、ロックアップクラッチの発熱量を増大させる要因となっていた。このような発熱量の増大は、クラッチフェーシングの焼損等を招いてロックアップクラッチの耐久性を低下させる要因となっていた。
【0006】
本発明の目的は、ロックアップクラッチの締結ショックを抑制しつつ、ロックアップクラッチの耐久性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の無段変速機の制御装置は、エンジンと変速機構との間にロックアップクラッチを備える無段変速機の制御装置であって、前記ロックアップクラッチを解放状態から締結状態に切り換える際に許容されるクラッチ締結時間を設定する締結時間設定手段と、前記クラッチ締結時間に基づいて、クラッチ締結完了時点における前記ロックアップクラッチの入力回転数比を設定する入力回転数比設定手段と、前記クラッチ締結時間に基づいて、クラッチ締結完了時点における前記ロックアップクラッチの出力回転数比を設定する出力回転数比設定手段と、前記入力回転数比に向けて前記ロックアップクラッチを締結制御するクラッチ制御手段と、前記出力回転数比に向けて前記変速機構をダウンシフト制御する変速機制御手段とを有し、前記変速機構をダウンシフト制御しながら前記クラッチ締結時間内に前記ロックアップクラッチを締結状態に切り換えることを特徴とする。
【0008】
本発明の無段変速機の制御装置は、前記入力回転数比は、前記ロックアップクラッチの入力回転数と前記変速機構の出力回転数との回転数比であり、前記出力回転数比は、前記ロックアップクラッチの出力回転数と前記変速機構の出力回転数との回転数比であることを特徴とする。
【0009】
本発明の無段変速機の制御装置は、前記締結時間設定手段は、前記ロックアップクラッチ前後の回転数差と前記ロックアップクラッチに対する入力トルクとの少なくともいずれか一方に基づいて前記クラッチ締結時間を設定することを特徴とする。
【0010】
本発明の無段変速機の制御装置は、前記クラッチ締結時間の経過後に、前記変速機制御手段は前記変速機構をアップシフト制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クラッチ締結時間に基づいてクラッチ締結完了時点におけるロックアップクラッチの入力回転数比と出力回転数比とを設定し、入力回転数比に基づいてロックアップクラッチを締結制御し、出力回転数比に基づいて変速機構をダウンシフト制御するようにしたので、クラッチ締結時間内にロックアップクラッチを締結状態に切り換えることが可能となる。これにより、ロックアップクラッチの締結ショックを抑制しつつ、ロックアップクラッチの耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】車両に搭載される無段変速機を示すスケルトン図である。
【図2】無段変速機の油圧制御系を示す概略図である。
【図3】ロックアップ制御に用いられる締結特性マップの一例を示す説明図である。
【図4】車両発進後のロックアップ制御におけるエンジン回転数およびタービン回転数の推移を示す線図である。
【図5】CVT制御ユニットのロックアップ制御系を示すブロック図である。
【図6】車両発進後のロックアップ制御における回転数比の推移を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車両に搭載される無段変速機10を示すスケルトン図である。図1に示すように、無段変速機10は、エンジン11に駆動されるプライマリ軸12と、これに平行となるセカンダリ軸13とを有している。プライマリ軸12とセカンダリ軸13との間には変速機構14が設けられており、セカンダリ軸13と駆動輪15との間には減速機構16や差動機構17が設けられている。
【0014】
プライマリ軸12にはプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20は固定シーブ20aと可動シーブ20bとを備えている。可動シーブ20bの背面側には作動油室21が区画されており、作動油室21内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。また、セカンダリ軸13にはセカンダリプーリ22が設けられており、このセカンダリプーリ22は固定シーブ22aと可動シーブ22bとを備えている。可動シーブ22bの背面側には作動油室23が区画されており、作動油室23内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。さらに、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とには駆動チェーン24が巻き掛けられている。そして、プーリ20,22の溝幅を変化させて駆動チェーン24の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸12からセカンダリ軸13に対する無段変速が可能となる。
【0015】
このような変速機構14にエンジン動力を伝達するため、クランク軸25とプライマリ軸12との間にはトルクコンバータ30および前後進切換機構31が設けられている。トルクコンバータ30は、クランク軸25にフロントカバー32を介して連結されるポンプインペラ33と、このポンプインペラ33に対向するとともにタービン軸34に連結されるタービンランナ35とを備えている。滑り要素であるトルクコンバータ30には、エンジン動力の伝達効率を向上させるため、クランク軸25とタービン軸34とを直結するロックアップクラッチ36が設けられている。ロックアップクラッチ36はタービンランナ35に連結されるクラッチプレート37を有しており、このクラッチプレート37はフロントカバー32とタービンランナ35との間に配置されている。クラッチプレート37のタービンランナ35側にはアプライ室38が区画されており、クラッチプレート37のフロントカバー32側にはリリース室39が区画されている。
【0016】
アプライ室38に作動油を供給してリリース室39から作動油を排出することにより、クラッチプレート37はフロントカバー32に押し付けられ、ロックアップクラッチ36はクランク軸25とタービン軸34とを直結する締結状態となる。一方、リリース室39に作動油を供給してアプライ室38から作動油を排出することにより、クラッチプレート37はフロントカバー32から引き離され、ロックアップクラッチ36はクランク軸25とタービン軸34とを切り離す解放状態となる。また、リリース室39とアプライ室38との圧力を調整することにより、ロックアップクラッチ36を締結状態であるスリップロックアップ状態に制御することも可能である。このスリップロックアップ状態に制御することにより、ロックアップクラッチ36を所定のスリップ状態に保持することができ、クランク軸25とタービン軸34との回転数差を一定(例えば100rpm)に保持することが可能となる。
【0017】
また、前後進切換機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列40、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を備えている。これら前進クラッチ41や後退ブレーキ42を制御することにより、エンジン動力の伝達径路を切り換えることが可能となる。前進クラッチ41を締結して後退ブレーキ42を解放することにより、タービン軸34の回転をそのままプライマリプーリ20に伝達することが可能となる。一方、前進クラッチ41を解放して後退ブレーキ42を締結することにより、タービン軸34の回転を逆転してプライマリプーリ20に伝達することが可能となる。なお、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を共に解放することにより、タービン軸34とプライマリ軸12とを切り離すことが可能となる。
【0018】
図2は無段変速機10の油圧制御系を示す概略図である。図2に示すように、プライマリプーリ20、セカンダリプーリ22、トルクコンバータ30等に対して作動油を供給するため、油圧制御系にはエンジン11に駆動されるオイルポンプ50が設けられている。オイルポンプ50に接続されるセカンダリ圧路51は、セカンダリプーリ22の作動油室23に接続されるとともにセカンダリ圧制御弁52の調圧ポート52aに接続されている。このセカンダリ圧制御弁52を介して調圧されるライン圧としてのセカンダリ圧は、駆動チェーン24に滑りを生じさせることのないように、エンジントルクや目標変速比等に基づいて調圧される。また、セカンダリ圧路51はプライマリ圧制御弁53の入力ポート53aに接続されており、プライマリ圧制御弁53の出力ポート53bから延びるプライマリ圧路54はプライマリプーリ20の作動油室21に接続されている。このプライマリ圧制御弁53を介して調圧されるプライマリ圧は、目標変速比に向けてプライマリプーリ20の溝幅を制御するように、目標変速比やセカンダリ圧等に基づいて調圧される。
【0019】
また、ロックアップクラッチ36に作動油を供給するため、トルクコンバータ30とセカンダリ圧路51との間には、クラッチ圧を調圧するクラッチ圧制御弁55と油路を切り換えるスイッチ弁56とが設けられている。セカンダリ圧路51から分岐する分岐油路57はクラッチ圧制御弁55の入力ポート55aに接続されており、クラッチ圧制御弁55の出力ポート55bから延びるクラッチ圧路58はスイッチ弁56に接続されている。また、潤滑圧路59から分岐する分岐油路60はスイッチ弁56に対して接続されている。さらに、スイッチ弁56には、アプライ室38に連通するアプライ圧路61と、リリース室39に連通するリリース圧路62とが接続されている。ロックアップクラッチ36を締結状態に切り換える際には、スイッチ弁56内のスプール弁軸が締結位置に切り換えられる。これにより、アプライ圧路61からアプライ室38にクラッチ圧が供給され、リリース圧路62からリリース室39の作動油が排出される。一方、ロックアップクラッチ36を解放状態に切り換える際には、スイッチ弁56内のスプール弁軸が解放位置に切り換えられる。これにより、アプライ圧路61からアプライ室38の作動油が排出され、リリース圧路62からリリース室39に潤滑圧が供給される。
【0020】
このような油圧制御系に対して制御信号を出力するCVT制御ユニット70は、図示しないマイクロプロセッサ(CPU)を備えており、このCPUにはバスラインを介してROM、RAMおよびI/Oポートが接続される。ROMには制御プログラムや各種マップデータなどが格納されており、RAMにはCPUで演算処理したデータが一時的に格納されている。また、I/Oポートを介してCPUには各種センサから車両状態を示す検出信号が入力される。CVT制御ユニット70に接続される各種センサとしては、プライマリプーリ20の回転数Npを検出するプライマリ回転数センサ71、セカンダリプーリ22の回転数Nsを検出するセカンダリ回転数センサ72、車速Vを検出する車速センサ73、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ74、タービン軸の回転数(タービン回転数)Ntを検出するタービン回転数センサ75、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ76、スロットルバルブのスロットル開度Toを検出するスロットル開度センサ77、セレクトレバー78の操作状況を検出するインヒビタスイッチ79等が設けられている。
【0021】
以下、ロックアップクラッチ36を解放状態から締結状態に切り換えるロックアップ制御について説明する。図3はロックアップ制御に用いられる締結特性マップの一例を示す説明図である。また、図4は車両発進後のロックアップ制御におけるエンジン回転数Neおよびタービン回転数Ntの推移を示す線図である。なお、エンジン回転数Neはロックアップクラッチ36の入力回転数であり、タービン回転数Ntはロックアップクラッチ36の出力回転数である。
【0022】
図3に示すように、締結特性マップには、ロックアップクラッチ36を締結するロックアップ領域と、ロックアップクラッチ36を解放するコンバータ領域とが区画されている。CVT制御ユニット70は、車速Vとアクセル開度Accとに基づき図3の締結特性マップを参照し、コンバータ領域からロックアップ領域への移行を判定したときにロックアップ制御を開始する。また、所定の加速状態においては、ロックアップクラッチ36は締結状態としてのスリップロックアップ状態に制御されるようになっている。なお、図4の線図には、ロックアップクラッチ36を解放状態からスリップロックアップ状態に切り換えたときのエンジン回転数Neおよびタービン回転数Ntの推移が示されている。
【0023】
図4に示すように、車速Vが上昇していない発進直後においては、ロックアップクラッチ36が解放状態であるため、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの回転数差ΔNaを拡大させながら、タービン回転数Ntは徐々に上昇することになる。そして、図示する場合には、タービン回転数NtがNt1に達したときに、コンバータ領域からロックアップ領域への移行が判定され、ロックアップクラッチ36を締結状態に切り換えるロックアップ制御が開始される。ロックアップ制御が開始されると、CVT制御ユニット70によってクラッチ締結時間Taおよびロックアップ制御時間Tbが設定される。
【0024】
ここで、クラッチ締結時間Taとは、クラッチフェーシングが受ける焼損等のダメージを防止する観点から設定される時間であり、車両状態を示すロックアップクラッチ36前後の回転数差ΔNaやロックアップクラッチ36に対する入力トルクTiに基づき設定される時間である。すなわち、ロックアップクラッチ36を解放状態から締結状態に切り換える過程の過渡状態においては、ロックアップクラッチ36の発熱量が増大することになる。このため、ロックアップクラッチ36を過渡状態に長く保持することは、ロックアップクラッチ36の劣化を招く要因となっていた。そこで、ロックアップクラッチ36を締結する際に許容されるクラッチ締結時間Taを回転数差ΔNaや入力トルクTiに基づき設定し、このクラッチ締結時間Ta内にロックアップクラッチ36を締結することにより、クラッチフェーシングの焼損等を防ぎながらロックアップ制御を実行させている。また、CVT制御ユニット70によって設定されるロックアップ制御時間Tbとは、ロックアップ制御に伴う一連の制御動作が行われる時間であり、車両状態を示すアクセル開度Accや車速Vに基づき設定される時間となっている。なお、クラッチ締結時間Taやロックアップ制御時間Tbを設定する際には、試験やシミュレーションによって予め設定された演算式やデータ等が用いられている。また、入力トルクTiとはロックアップクラッチ36に入力されるエンジントルクであり、エンジン回転数Neやスロットル開度Toに基づいて算出されている。
【0025】
続いて、CVT制御ユニット70は、制御開始時点のタービン回転数Nt1とロックアップ制御時間Tbとに基づき、ロックアップ制御時間Tbの経過時点におけるタービン回転数Nt2を設定する。このタービン回転数Nt2は、車両の駆動力が維持されると仮定して得られる回転数であり、予め設定された加速特性線Lに従って設定される回転数である。次いで、CVT制御ユニット70は、タービン回転数Nt2に対してスリップロックアップ状態での回転数差ΔNb(例えば100rpm)を加算し、ロックアップ制御時間Tbの経過時点におけるエンジン回転数Ne2を設定する。そして、CVT制御ユニット70は、エンジン回転数Ne2と制御開始時点のエンジン回転数Ne1とを結ぶことにより、ロックアップ制御におけるエンジン回転数Neの目標値を設定する。続いて、CVT制御ユニット70は、クラッチ締結時間Taの経過時点におけるエンジン回転数Ne3から、スリップロックアップ状態での回転数差ΔNbを減算し、クラッチ締結時間Taの経過時点におけるタービン回転数Nt3を設定する。そして、CVT制御ユニット70は、タービン回転数Nt1,Nt3を結ぶとともに、タービン回転数Nt3,Nt2を結ぶことにより、ロックアップ制御におけるタービン回転数Ntの目標値を設定する。
【0026】
そして、エンジン回転数NeがNe1からNe3に達する迄、つまりクラッチ締結時間Taが経過する迄は、上昇するエンジン回転数Neを目標値に沿って抑制するように、CVT制御ユニット70はロックアップクラッチ36の締結力を制御する。また、タービン回転数NtがNt1からNt3に達する迄、つまりクラッチ締結時間Taが経過する迄は、CVT制御ユニット70は変速機構14のダウンシフト制御を実行し、目標値に沿ってタービン回転数Ntを素早く上昇させる。一方、タービン回転数NtがNt3からNt2に達する迄、つまりクラッチ締結時間Taが経過してからロックアップ制御時間Tbが経過する迄は、CVT制御ユニット70は変速機構14のアップシフト制御を実行し、目標値に沿ってタービン回転数Ntを緩やかに上昇させる。
【0027】
このように、ロックアップクラッチ36と変速機構14とを制御することにより、クラッチ締結時間Taを超えることなく、ロックアップクラッチ36をスリップロックアップ状態(締結状態)に切り換えることが可能となる。すなわち、ロックアップクラッチ36の締結力を引き上げながら、変速機構14のダウンシフト制御を実行してタービン回転数Ntを引き上げるようにしたので、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの回転数差を縮小することができ(ΔNa→ΔNb)、ロックアップクラッチ36を締結する際の負荷を抑制することが可能となる。これにより、クラッチ締結時間Taを堅持することができるため、ロックアップクラッチ36の耐久性を向上させることが可能となる。しかも、ロックアップクラッチ36を締結する際に、エンジン回転数Neの低下を抑制することができるため、ロックアップクラッチ36の締結品質を向上させることが可能となる。さらに、ロックアップクラッチ36をスリップロックアップ状態に切り換えた後に、変速機構14のアップシフト制御を実行して変速比を戻すようにしたので、ロックアップ前後の駆動力変化を抑制して走行品質を向上させることが可能となる。
【0028】
続いて、前述したロックアップ制御の実行手順について詳細に説明する。図5はCVT制御ユニット70のロックアップ制御系を示すブロック図である。図6は車両発進後のロックアップ制御における回転数比(Ne/Ns,Nt/Ns)の推移を示す線図である。なお、図6に示すNe1〜Ne3,Nt1〜Nt3は、図4に示したNe1〜Ne3,Nt1〜Nt3と同じ値である。
【0029】
図5に示すように、CVT制御ユニット70は、ロックアップ判定部80、クラッチ締結時間設定部81、ロックアップ制御時間設定部82、回転数比変化量演算部83を有している。ロックアップ判定部80は、車速Vとアクセル開度Accとに基づき図3の締結特性マップを参照することにより、ロックアップ制御を実行するか否かについて判定する。なお、ロックアップ判定部80にはクラッチジャダーに関する情報が入力されており、ロックアップ判定部80はクラッチジャダーを加味して、ロックアップ制御を実行するか否かについて判定している。そして、ロックアップ制御の実行が決定されると、クラッチ締結時間設定部(締結時間設定手段)81は、車両状態を示すロックアップクラッチ36前後の回転数差ΔNaやロックアップクラッチ36に対する入力トルクTiに基づいて、ロックアップクラッチ36のクラッチ締結時間Taを設定する。また、ロックアップ制御の実行が決定されると、ロックアップ制御時間設定部82は、車両状態を示すアクセル開度Accや車速Vに基づいて、一連の制御動作が行われるロックアップ制御時間Tbを設定する。また、ロックアップ制御の実行が決定されると、回転数比変化量演算部83は、車両状態を示すエンジン回転数Ne、タービン回転数Ntおよびセカンダリ回転数Nsに基づいて、ロックアップ制御における回転数比(Ne/Ns)の変化量である回転数比変化量Qを演算する。ここで、図6に示すように、回転数比変化量Qとは、前述したダウンシフト制御を伴うことなく、クラッチ制御のみでロックアップクラッチ36を締結状態に切り換える際に要求される変化量である。
【0030】
また、CVT制御ユニット70は、ダウンシフト係数演算部84、入力回転数比変化量演算部85、出力回転数比変化量演算部86を有している。ダウンシフト係数演算部84は、クラッチ締結時間Taとロックアップ制御時間Tbとに基づいてダウンシフト係数k(k=1−Ta/Tb)を演算する。また、出力回転数比変化量演算部86は、回転数比変化量Qおよびダウンシフト係数kに基づいて、目標出力回転数比変化量Qb(Qb=Q×k)を演算する。この目標出力回転数比変化量Qbは、変速機構14をダウンシフト制御することでロックアップクラッチ36の締結完了時点迄に引き上げる出力回転数比の変化量である。なお、出力回転数比とは、ロックアップクラッチの出力回転数であるタービン回転数Ntと、変速機構14の出力回転数であるセカンダリ回転数Nsとの回転数比Nt/Nsである。すなわち、出力回転数比変化量演算部86は出力回転数比設定手段として機能しており、目標出力回転数比変化量Qbを設定することで、クラッチ締結完了時点におけるロックアップクラッチ36の出力回転数比Nt3/Nsを設定している。さらに、入力回転数比変化量演算部85は、回転数比変化量Qおよびダウンシフト係数kに基づいて、目標入力回転数比変化量Qa(Qa=Q×(1−k))を演算する。この目標入力回転数比変化量Qaは、目標出力回転数比変化量Qbに基づくダウンシフト制御を行ったときにロックアップクラッチ36の締結完了時点迄に引き下げられる入力回転数比の変化量である。なお、入力回転数比とは、ロックアップクラッチ36の入力回転数であるエンジン回転数Neと、変速機構14の出力回転数であるセカンダリ回転数Nsとの回転数比Ne/Nsである。すなわち、入力回転数比変化量演算部85は入力回転数比設定手段として機能しており、目標入力回転数比変化量Qaを設定することで、クラッチ締結完了時点におけるロックアップクラッチ36の入力回転数比Ne3/Nsを設定している。
【0031】
さらに、CVT制御ユニット70は、クラッチ制御部87および変速機制御部88を有している。クラッチ制御部(クラッチ制御手段)87は、クラッチ締結時間Taおよび目標入力回転数比変化量Qaに基づいて、単位時間毎の目標回転数比Xa(Xa=(Ne1/Ns)−∫(Qa/Ta)dt)を設定する。また、変速機制御部(変速機制御手段)88は、クラッチ締結時間Ta、ロックアップ制御時間Tb、目標出力回転数比変化量Qbに基づいて、単位時間毎の目標変速比Xbを設定する。ロックアップ制御が開始されてからクラッチ締結時間Taが経過する迄は、単位時間毎の目標変速比Xbは以下の式(1)に従って算出される。また、クラッチ締結時間Taが経過してからロックアップ制御時間Tbが経過する迄は、単位時間毎の目標変速比Xbは以下の式(2)に従って算出される。
Xb=(Nt1/Ns)+∫(Qb/Ta)dt …(1)
Xb=(Nt3/Ns)−∫(Qb/(Tb−Ta))dt …(2)
そして、クラッチ制御部87によって演算された目標回転数比Xaは、図示しない駆動回路を介して制御電流に変換される。この制御電流はクラッチ圧制御弁55に供給され、ロックアップクラッチ36の締結力が制御されることになる。すなわち、目標回転数比Xaに従ってロックアップクラッチ36を制御することにより、ロックアップクラッチ36は入力回転数比Ne3/Nsに向けて制御されることになる。また、変速機制御部88によって演算された目標変速比Xbは、図示しない駆動回路を介して制御電流に変換される。この制御電流はプライマリ圧制御弁53やセカンダリ圧制御弁52に供給され、変速機構14のダウンシフト制御やアップシフト制御が実行されることになる。すなわち、目標変速比Xbに従って変速機構14を制御することにより、クラッチ締結時間Taの経過前は出力回転数比Nt3/Nsに向けてダウンシフト制御される一方、クラッチ締結時間Taの経過後は出力回転数比Nt2/Nsに向けてアップシフト制御されることになる。
【0032】
これまで説明したように、クラッチ締結時間Taに基づいてクラッチ締結完了時点の入力回転数比Ne3/Nsと出力回転数比Nt3/Nsとを設定し、出力回転数比Nt3/Nsに向けて変速機構14をダウンシフト制御しながら、入力回転数比Ne3/Nsに向けてロックアップクラッチ36を締結状態に切り換えるようにしたので、クラッチ締結時間Taを堅持することが可能となる。これにより、ロックアップクラッチ36の締結ショックを抑制しつつ、ロックアップクラッチ36の耐久性を向上させることが可能となる。また、ロックアップクラッチ36を締結状態に切り換えた後に、変速機構14のアップシフト制御を実行して変速比を戻すようにしたので、ロックアップ前後の駆動力変化を抑制して走行品質を向上させることが可能となる。
【0033】
また、図4に示すように、ロックアップ制御時間Tbを設定する際には、ロックアップ制御時間Tbの経過時点におけるエンジン回転数Ne2が、制御開始時点のエンジン回転数Ne1を上回るように、ロックアップ制御時間Tbの長さが設定されている。これにより、ロックアップクラッチ36を締結状態に切り換え、更に変速機構14のアップシフト制御を行った場合であっても、エンジン回転数Neの落ち込みを防止することができるため、ロックアップ制御の質を向上させることが可能となる。
【0034】
さらに、前述したように、ロックアップ制御を実行する際には、車両状態に応じてクラッチ締結完了時点の入力回転数比Ne3/Nsと出力回転数比Nt3/Nsとを設定するようにしたので、如何なるロックアップタイミングであっても、ロックアップクラッチ36の締結ショックを抑制しつつ、ロックアップクラッチ36の耐久性を向上させることが可能となる。また、車両状態に応じてクラッチ締結完了時点の入力回転数比Ne3/Nsと出力回転数比Nt3/Nsとを自動的に設定するようにしたので、変速制御を伴ったロックアップ制御の複雑化を回避することが可能となる。
【0035】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、ロックアップクラッチ36をスリップロックアップ状態に切り換えているが、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとを一致させるように、ロックアップクラッチ36を締結状態に切り換えても良いことはいうまでもない。この場合には、クラッチ締結完了時点の入力回転数比Ne3/Nsと出力回転数比Nt3/Nsとは一致することになる。
【0036】
また、前述の説明では、ロックアップ制御を実行する際にアクセル開度Accを用いているが、アクセル開度Accに代えてスロットル開度Toを用いても良い。また、無段変速機としてチェーンドライブ式の無段変速機10を挙げて説明したが、これに限られることはなく、トロイダル式の無段変速機に対して本発明を適用しても良い。さらに、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とに駆動チェーン24を巻き掛けているが、これに限られることはなく、多数のエレメントをバンドで保持した駆動ベルトを巻き掛けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0037】
10 無段変速機
11 エンジン
14 変速機構
36 ロックアップクラッチ
81 クラッチ締結時間設定部(締結時間設定手段)
85 入力回転数比変化量演算部(入力回転数比設定手段)
86 出力回転数比変化量演算部(出力回転数比設定手段)
87 クラッチ制御部(クラッチ制御手段)
88 変速機制御部(変速機制御手段)
Ta クラッチ締結時間
ΔNa 回転数差
Ti 入力トルク
Ne エンジン回転数(入力回転数)
Nt タービン回転数(出力回転数)
Ns セカンダリ回転数(出力回転数)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと変速機構との間にロックアップクラッチを備える無段変速機の制御装置であって、
前記ロックアップクラッチを解放状態から締結状態に切り換える際に許容されるクラッチ締結時間を設定する締結時間設定手段と、
前記クラッチ締結時間に基づいて、クラッチ締結完了時点における前記ロックアップクラッチの入力回転数比を設定する入力回転数比設定手段と、
前記クラッチ締結時間に基づいて、クラッチ締結完了時点における前記ロックアップクラッチの出力回転数比を設定する出力回転数比設定手段と、
前記入力回転数比に向けて前記ロックアップクラッチを締結制御するクラッチ制御手段と、
前記出力回転数比に向けて前記変速機構をダウンシフト制御する変速機制御手段とを有し、
前記変速機構をダウンシフト制御しながら前記クラッチ締結時間内に前記ロックアップクラッチを締結状態に切り換えることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の無段変速機の制御装置において、
前記入力回転数比は、前記ロックアップクラッチの入力回転数と前記変速機構の出力回転数との回転数比であり、
前記出力回転数比は、前記ロックアップクラッチの出力回転数と前記変速機構の出力回転数との回転数比であることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の無段変速機の制御装置において、
前記締結時間設定手段は、前記ロックアップクラッチ前後の回転数差と前記ロックアップクラッチに対する入力トルクとの少なくともいずれか一方に基づいて前記クラッチ締結時間を設定することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無段変速機の制御装置において、
前記クラッチ締結時間の経過後に、前記変速機制御手段は前記変速機構をアップシフト制御することを特徴とする無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−158046(P2011−158046A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21325(P2010−21325)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】