説明

無段変速機の制御装置

【課題】油圧超過およびベルト滑りの発生を抑制する無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】プライマリプーリ2と、セカンダリプーリ3と、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3とに巻き掛けられた動力伝達部材4とを有するバリエータ1と、トルクコンバータ6とを備える無段変速機30を制御する無段変速機の制御装置であって、トルクコンバータ6よりも駆動輪17側に位置する回転体15の回転速度を検出する回転速度検出手段12と、単位時間当たりの回転速度の変化量を算出する回転速度変化量算出手段12と、トルクコンバータ6の入力軸と出力軸との回転速度差が大きいほど、変化量のリミッタの絶対値を大きく設定するリミッタ設定手段12と、変化量とリミッタとのうち絶対値が小さい方の値を最終変化量として設定する最終変化量設定手段12と、最終変化量に基づいてバリエータ1に供給する油圧を制御する油圧制御手段12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無段変速機の回転速度をセンサによって検出し、検出した回転速度の変化量が上限しきい値を上回っている、もしくは下限しきい値を下回っている場合には、前回ルーチン実行時に検出した検出値と所定時間前の移動平均値とから算出した出力補正値を用いるものが、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−344860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の発明の上限しきい値および下限しきい値は、センサの誤差や外乱などによる誤検出が生じた場合に、出力補正値が用いられるようにマージンを持って設定されている。
【0005】
マージンは、センサの検出精度が高い領域においては、センサの出力値が最終的な回転速度とされるようにし、センサの検出精度が低い領域においては、出力補正値が最終的な回転速度とされるようにすることが望ましい。
【0006】
ここで、トルクコンバータにおいて、入力回転速度と出力回転速度とに回転速度差が生じている場合(例えばコンバータ状態)には、外乱などによる影響がトルクコンバータによって吸収されるため、センサによる検出精度は高くなる。一方、トルクコンバータにおいて、入力回転速度と出力回転速度とに回転速度が生じていない場合(ロックアップ状態)には、外乱などによる影響をトルクコンバータで吸収できないので、センサによる検出精度は低くなる。
【0007】
すなわち、トルクコンバータにおいて回転速度差がある場合には、センサの出力値が最終的な回転速度となり、回転速度差がない場合には、出力補正値が最終的な回転速度となり易くすることが望ましい。
【0008】
しかし、上記の発明では、トルクコンバータの状態(コンバータ状態、ロックアップ状態など)を考慮することなく上限値などを設定している。そのため、マージンを大きくし過ぎるとトルクコンバータがロックアップ状態となっている場合に、誤差や外乱などの影響を受け、センサの検出精度が低いにも関わらず、センサの出力値が最終的な回転速度として設定されるおそれがある。一方マージンを小さくし過ぎるとトルクコンバータがコンバータ状態となっている場合に、センサの検出精度が高いにも関わらず、出力補正値が最終的な回転速度として設定されるおそれがある。このようにして、精度が低い回転速度が最終的な回転速度として設定され、精度が低い回転速度に基づいて変速機の油圧が制御されると、油圧供給超過によって燃費が悪化し、油圧供給不足によってベルト滑りが発生する、といった問題点がある。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、トルクコンバータの状態に合わせて最終的な回転速度を算出し、精度が高い回転速度に基づいて変速機の油圧を制御することで、燃費を向上し、ベルト滑りを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様に係る無段変速機の制御装置は、溝幅を油圧によって変化させる入力側のプライマリプーリと、溝幅を油圧によって変化させる出力側のセカンダリプーリと、プライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられた動力伝達部材とを有するバリエータと、駆動源とバリエータとの間に配置されたトルクコンバータとを備える無段変速機を制御する無段変速機の制御装置であって、トルクコンバータよりも駆動輪側に位置する回転体の回転速度を検出する回転速度検出手段と、単位時間当たりの回転速度の変化量を算出する回転速度変化量算出手段と、トルクコンバータの入力軸と出力軸との回転速度差が大きいほど、変化量のリミッタの絶対値を大きく設定するリミッタ設定手段と、変化量とリミッタとのうち絶対値が小さい方の値を最終変化量として設定する最終変化量設定手段と、最終変化量に基づいてバリエータに供給する油圧を制御する油圧制御手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
この態様によると、トルクコンバータの状態に合わせて変化量のリミッタを設定し、精度が高い最終変化量を用いてバリエータに供給する油圧を制御するので、燃費を向上し、ベルト滑りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の無段変速機を備えた車両の概略を示す図である。
【図2】本実施形態の最終角加速度を算出するためのフローチャートである。
【図3】本実施形態のリミッタ設定制御を示すフローチャートである。
【図4】プライマリプーリ回転速度と、トルクコンバータの締結状態と、上限リミッタとの関係を示す図である。
【図5】プライマリプーリ回転速度と、トルクコンバータの締結状態と、下限リミッタとの関係を示す図である。
【図6】プライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態の無段変速機30を備えた車両の概略を示す。無段変速機30は、トルクコンバータ6と、前後進切換機構7と、バリエータ1と、変速機コントローラ12とを備える。
【0015】
バリエータ1はプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3を両者のV溝が整列するよう配して備え、これらプーリ2、3のV溝にベルト4が掛け渡される。
【0016】
プライマリプーリ2に同軸にエンジン5が配置され、エンジン5とプライマリプーリ2との間にエンジン5の側から順次トルクコンバータ6および前後進切替機構7を設ける。
【0017】
トルクコンバータ6は、ロックアップクラッチ6aを備える。トルクコンバータ6は、ロックアップクラッチ6aが完全に締結されたロックアップ状態と、ロックアップクラッチ6aが完全に解放されたコンバータ状態と、ロックアップクラッチ6aが半締結されたスリップ状態とに切り替えられる。
【0018】
前後進切替機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤをトルクコンバータ6を介してエンジン5に結合し、キャリアをプライマリプーリ2に結合する。前後進切替機構7は更に、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤおよびキャリア間を直結する前進クラッチ7b、およびリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備え、前進クラッチ7bの締結時にエンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転をそのままプライマリプーリ2に伝達し、後進ブレーキ7cの締結時にエンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転を逆転減速下にプライマリプーリ2へ伝達する。
【0019】
プライマリプーリ2の回転はベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転はその後、出力軸8、歯車組9およびディファレンシャルギヤ装置10を経て駆動輪17に伝達される。
【0020】
上記の動力伝達中にプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間における回転伝動比(変速比)を変更可能にするために、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3のV溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a、3aとし、他方の円錐板2b、3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板とする。これら可動円錐板2b、3bはライン圧を元圧として作り出したプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecをプライマリプーリ室2cおよびセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a、3aに向け附勢され、これによりベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間での動力伝達を行う。
【0021】
変速に際しては、目標変速比I(o)に対応させて発生させたプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psec間の差圧により両プーリ2、3のV溝幅を変化させ、プーリ2、3に対するベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで目標変速比I(o)を実現する。
【0022】
プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecの出力は、前進走行レンジの選択時に締結する前進クラッチ7b、および後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cの締結油圧の出力と共に変速制御油圧回路11により制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御される。
【0023】
変速機コントローラ12は、プライマリプーリ回転速度Npriを検出するプライマリプーリ回転センサ13からの信号と、セカンダリプーリ回転速度Nsecを検出するセカンダリプーリ回転センサ14からの信号と、アクセルペダル踏み込み量APOを検出するアクセル開度センサ16からの信号と、エンジン5の制御を司るエンジンコントローラ19からエンジン回転速度や燃料噴時間などが入力される。
【0024】
変速機コントローラ12は、CPU、ROM、RAMなどによって構成されており、ROMに格納されたプログラムをCPUによって読み出すことによって、無段変速機30の機能が発揮される。
【0025】
次に本実施形態の最終角加速度の算出するための制御について図2のフローチャートを用いて説明する。以下で説明する制御は所定時間毎に実行されており、例えば1/100秒毎に実行される。
【0026】
ステップS100では、変速機コントローラ12は、プライマリプーリ回転センサ13によって算出したプライマリプーリ回転速度Npriに基づいて角速度ω0を算出する。変速機コントローラ12は、プライマリプーリ2と一体に回転する回転体15によって発せられたパルス信号をプライマリプーリ回転センサ13によって検出して角速度ω0を算出する。本実施形態では、変速機コントローラ12は、単位時間当たりのパルス間の合計時間を単位時間当たりのパルス数によって除算して角速度ω0を算出する。
【0027】
ステップS101では、変速機コントローラ12は、角速度ω0の移動平均ωAVEを式(1)を用いて算出する。
【0028】
【数1】

【0029】
ω-nは、今回の制御からn回前に計算したプライマリプーリ2の角速度を示す。ここでは、今回の制御の直近の5つの角速度(n=5)を用いて、移動平均ωAVEを算出する。つまり、移動平均ωAVEは、今回の制御よりも5回前の制御によって算出した角速度ω-5から、前回の制御によって算出した角速度ω-1までの移動平均である。
【0030】
なお、ローパスフィルタを用いて、検出精度を向上することも可能であるが、ローパスフィルタを用いた場合には、例えば髭状に突出した異常値がある場合に、異常値の影響が大きくなり、誤差が大きくなる。また、フィルタの時定数分だけ応答が遅くなる。
【0031】
本実施形態では、移動平均を用いることで、処理負荷が小さくなり、検出精度を向上し、応答性を向上することができる。
【0032】
今回算出された角速度ω0は、次回の制御で使用される角速度ω-1として記憶され、今回の移動平均ωAVEを算出するために使用された角速度ω-1〜ω-5は、順次、角速度ω-2〜ω-4として更新される。
【0033】
ステップS102では、変速機コントローラ12は、今回算出された角速度ω0と移動平均ωAVEとの差分tmp1を式(2)により算出する。
【0034】
【数2】

【0035】
ステップS103では、変速機コントローラ12は、差分tmp1を単位時間Δtで除算することで、角加速度tmp2を算出する。
【0036】
ステップS104では、変速機コントローラ12は、角加速度の上限リミッタΔωHおよび下限リミッタΔωLをリミッタ設定制御によって算出する。
【0037】
ここでリミッタ設定制御について図3のフローチャートを用いて説明する。
【0038】
ステップS200では、変速機コントローラ12は、トルクコンバータ6の締結状態を判定する。
【0039】
ステップS201では、変速機コントローラ12は、プライマリプーリ回転速度Npriと、トルクコンバータ6の締結状態とを用いて、図4から上限リミッタΔωHを算出し、図5から下限リミッタΔωLを算出する。
【0040】
図4は、プライマリプーリ回転速度Npriと、トルクコンバータ6の締結状態と、上限リミッタΔωHとの関係を示す図である。上限リミッタΔωHは、プライマリプーリ回転速度Npriが大きくなるほど大きくなり、かつトルクコンバータ6の締結状態が、ロックアップ状態、スリップ状態、コンバータ状態となるにつれて大きくなる。
【0041】
図5は、プライマリプーリ回転速度Npriと、トルクコンバータ6の締結状態と、下限リミッタΔωLとの関係を示す図である。下限リミッタΔωLは、プライマリプーリ回転速度Npriが大きくなるほど負の方向に大きくなり、かつトルクコンバータ6の締結状態が、ロックアップ状態、スリップ状態、コンバータ状態となるにつれて負の方向に大きくなる。
【0042】
図2に戻り、ステップS105では、変速機コントローラ12は、角加速度tmp2と、下限リミッタΔωLとを比較する。そして、変速機コントローラ12は、角加速度tmp2が下限リミッタΔωL以下の場合、つまり角加速度tmp2の絶対値が下限リミッタΔωLの絶対値以上の場合には、ステップS106へ進む。一方、変速機コントローラ12は、角加速度tmp2が下限リミッタΔωLよりも大きい場合、つまり角加速度tmp2の絶対値が下限リミッタΔωLの絶対値よりも小さい場合には、ステップS107へ進む。
【0043】
ステップS106では、変速機コントローラ12は、下限リミッタΔωLを最終角加速度Δωとして設定する。
【0044】
ステップS107では、変速機コントローラ12は、角加速度tmp2と、上限リミッタΔωHとを比較する。そして、変速機コントローラ12は、角加速度tmp2が上限リミッタΔωH以上の場合、つまり角加速度tmp2の絶対値が上限リミッタΔωHの絶対値以上の場合は、ステップS108へ進む。一方、角加速度tmp2が上限リミッタΔωHよりも小さい場合、つまり角加速度tmp2の絶対値が上限リミッタΔωHの絶対値よりも小さい場合には、ステップS109へ進む。
【0045】
ステップS108では、変速機コントローラ12は、上限リミッタΔωHを最終角加速度Δωとして設定する。
【0046】
ステップS109では、変速機コントローラ12は、角加速度tmp2を最終角加速度Δωとして設定する。
【0047】
上記制御では、プライマリプーリ回転速度Npriが大きくなるほど、角加速度tpm2が最終角加速度Δωとして設定され易くなる。プライマリプーリ回転センサ13は、プライマリプーリ回転速度Npriが小さくなると、単位時間当たりのパルス数が少なくなり、プライマリプーリ回転速度Npriの演算精度が低くなる。つまり、プライマリプーリ回転速度Npriが大きくなると、プライマリプーリ回転速度Npriの演算精度が高くなり、ステップS103によって算出された角速度tmp2の演算精度も高くなる。そのため、ステップS201においてプライマリプーリ回転速度Npriが大きいほど、上限リミッタΔωHおよび下限リミッタΔωLの絶対値は大きくなる。その結果、プライマリプーリ回転速度Npriが大きいほど角加速度tmp2が最終角加速度Δωとして設定され易くなる。
【0048】
また、トルクコンバータ6の締結状態がコンバータ状態となるにつれて、上限リミッタΔωHおよび下限リミッタΔωLの絶対値は大きくなり、角加速度tpm2が最終角加速度Δωとして設定される易くなる。トルクコンバータ6がロックアップ状態、スリップ状態、コンバータ状態となるにつれて、トルクコンバータ6は外乱などによる影響を吸収することができ、角加速度tmp2の演算精度が高くなる。そのため、トルクコンバータ6の締結状態がコンバータ状態となるにつれて、角加速度tpm2が最終角加速度Δωとして設定される易くなる。
【0049】
次に、図2を用いて設定した最終角加速度Δωを用いたプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecの制御方法について図6のフローチャートを用いて説明する。
【0050】
ステップS300では、変速機コントローラ12は、アクセルペダル踏み込み量APOやエンジン回転速度などからエンジントルクTeを算出する。
【0051】
ステップS301では、変速機コントローラ12は、エンジントルクTeと、最終角加速度Δωとを用いて式(3)からバリエータ1に入力する入力トルクTinを算出する。
【0052】
【数3】

【0053】
式(3)において、Iはトルクコンバータ6および前後進切換機構7における慣性モーメントである。慣性モーメントIは、トルクコンバータ6の締結状態がコンバータ状態、スリップ状態、ロックアップ状態となるにつれて大きくなる。これは、プライマリプーリ2からエンジン5を見た場合にエンジン5が負荷となり、トルクコンバータ6の締結状態がロックアップ状態となるにつれて負荷が大きくなるからである。また、慣性モーメントIは、前後進切換機構7の回転要素が多いほど大きくなる。
【0054】
ステップS302では、変速機コントローラ12は、目標変速比I(o)を算出する。変速機コントローラ12は、セカンダリプーリ回転速度Nsecから求める車速TVOとアクセルペダル踏み込み量APOとを用いて、予め設定した変速マップを基に目標入力回転速度を求め、これをセカンダリプーリ回転速度Nsecで除算することにより、運転状態(車速TVOおよびアクセルペダル踏み込み量APO)に応じた理論変速比Ipを求める。
【0055】
次いで、プライマリプーリ回転速度Npriをセカンダリプーリ回転速度Nsecで除算することにより実変速比ipを演算し、理論変速比Ipと実変速比ipとの間における偏差を求めたのち、外乱補償した理論変速比Iに、ハードウェアによる応答遅れを加味した一次遅れフィルタ{1/(Tm・s+1)}をかけて目標変速比I(o)を算出する。
【0056】
ステップS303では、変速機コントローラ12は、入力トルクTinと目標変速比I(o)とに基づいて目標プライマリプーリ圧Ppri(o)および目標セカンダリ圧Psec(o)を算出する。
【0057】
ステップS304では、変速機コントローラ12は、目標プライマリプーリ圧Ppri(o)および目標セカンダリプーリ圧Psec(o)に基づいてプライマリプーリ室2cおよびセカンダリプーリ室3cに油を給排し、プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecを制御する。
【0058】
以上の制御によってプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecが制御され、変速が実現される。
【0059】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0060】
トルクコンバータ6の締結状態がロックアップ状態、スリップ状態、コンバータ状態となるにつれて、絶対値が大きくなるように上限リミッタΔωHおよび下限リミッタΔωLを算出する。そして、角加速度tmp2の絶対値と、上限リミッタΔωHまたは下限リミッタΔωLの絶対値のうち小さい方の値を最終角加速度Δωとして設定する。
【0061】
トルクコンバータ6がスリップ状態またはコンバータ状態の場合には、外乱などによる影響をトルクコンバータ6によって吸収することができる。よって、プライマリプーリ回転センサ13によって検出するプライマリプーリ回転速度Npriに基づいて算出した角加速度tmp2の精度は高い。この場合には、最終角加速度Δωとして角加速度tmp2を設定することで、プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecを正確に制御することができ、燃費を向上し、ベルト滑りを抑制することができる(請求項1に対応の効果)。
【0062】
また、トルクコンバータ6がロックアップ状態の場合には、外乱などによる影響がプライマリプーリ回転センサ13にも及び、プライマリプーリ回転センサ13によって検出したプライマリプーリ回転速度Npriに基づいて算出した角加速度tmp2の精度は低い。この場合には、最終角加速度Δωとして上限リミッタΔωHまたは下限リミッタΔωLを設定することで、外乱などの影響を抑制し、プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecを正確に制御することができ、燃費を向上し、ベルト滑りを抑制することができる(請求項1に対応の効果)。
【0063】
本実施形態を用いずに、プライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧をエンジントルクの変化に基づいて制御すると、トルクコンバータなどにおけるイナーシャトルクによって、エンジントルクの変化に基づくトルク変化がバリエータでは起きていないにも関わらず、プライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧を上昇または減少させる場合がある。そのため、必要圧に対して、油圧供給超過による燃費の悪化や、油圧供給不足によるベルト滑りが発生するおそれがある。
【0064】
これに対して、本実施形態では、バリエータ1の入力トルクTinに基づいてプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecを制御することで、トルクコンバータ6などにおけるイナーシャトルクなどの影響を受けずに、プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecを正確に制御することができる。そのため、燃費を向上し、ベルト滑りの発生を抑制することができる。さらに、角加速度Δωを正確に算出することができるので、バリエータ1に入力する入力トルクTinを正確に算出することができ、プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecを正確に制御することができる。そのため、燃費を向上し、ベルト滑りの発生を抑制することができる(請求項2に対応する効果)。
【0065】
プライマリプーリ回転速度Npriが大きくなるほど、上限リミッタΔωHおよび下限リミッタΔωLの絶対値を大きくすることで、プライマリプーリ回転速度Npriの演算精度が高い場合には最終角加速度Δωとして角加速度tmp2が設定されるようにする。これにより、最終角加速度Δωの精度を向上することができ、燃費を向上し、ベルト滑りの発生を抑制することができる(請求項3に対応する効果)。
【0066】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【0067】
上記実施形態では、下限リミッタΔωLを設定し、角加速度tmp2が負の値となる場合にもリミットをかけているが、角加速度tmp2が負の値となる場合には、下限リミッタΔωLを設定せずに、角加速度tmp2を最終角加速度Δωとしてもよい。これにより、角加速度tmp2が負の方向となる場合、つまりバリエータ1に伝達されるトルクが減少する場合に、下限リミッタΔωLが最終角加速度Δωとして設定されることがない。そのため、バリエータ1でベルト滑りがしょうじないために必要な油圧よりも低い油圧にプライマリプーリ圧Ppriまたはセカンダリプーリ圧Psecが制御されることがない。よって、プライマリプーリまたはセカンダリプーリで油圧不足によってベルト滑りが生じることを抑制することができる(請求項4に対応する効果)。
【0068】
また、本実施形態では、プライマリプーリ回転センサ13に基づいて角加速度tmp2を算出したが、これ限られることはなく、トルクコンバータ6よりも駆動輪17側に配置された例えばタービン回転センサ、車速センサを用いて角加速度を算出してもよい。
【0069】
また、本実施形態では、ベルト4をプライマリプーリ2とセカンダリプーリ3とに巻き回した動力伝達部材として説明したが、これに限られることはなく、複数のリンクをピンで連結したチェーンであってもよい。
【0070】
また、本実施形態では、駆動源としてエンジン5を用いたが、モータであっても良い。
【符号の説明】
【0071】
1 バリエータ
2 プライマリプーリ
3 セカンダリプーリ
4 ベルト(動力伝達部材)
5 エンジン(駆動源)
6 トルクコンバータ
12 変速機コントローラ(回転速度検出手段、回転速度変化量算出手段、リミッタ設定手段、最終変化量設定手段、油圧制御手段、入力トルク算出手段)
15 回転体
30 無段変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝幅を油圧によって変化させる入力側のプライマリプーリと、溝幅を油圧によって変化させる出力側のセカンダリプーリと、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとに巻き掛けられた動力伝達部材とを有するバリエータと、
駆動源と前記バリエータとの間に配置されたトルクコンバータとを備える無段変速機を制御する無段変速機の制御装置であって、
前記トルクコンバータよりも駆動輪側に位置する回転体の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
単位時間当たりの前記回転速度の変化量を算出する回転速度変化量算出手段と、
前記トルクコンバータの入力軸と出力軸との回転速度差が大きいほど、前記変化量のリミッタの絶対値を大きく設定するリミッタ設定手段と、
前記変化量と前記リミッタとのうち絶対値が小さい方の値を最終変化量として設定する最終変化量設定手段と、
前記最終変化量に基づいて前記バリエータに供給する油圧を制御する油圧制御手段とを備えることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機の制御装置であって、
前記最終変化量に基づいて前記バリエータに入力する入力トルクを算出する入力トルク算出手段を備え、
前記油圧制御手段は、前記入力トルクに基づいて前記バリエータに供給する油圧を制御することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無段変速機の制御装置であって、
前記回転速度検出手段は、前記回転体の回転により発せられるパルス信号に基づいて前記回転速度を検出し、
前記リミッタ設定手段は、前記回転体の回転速度が大きいほど前記リミッタの絶対値を大きくすることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の無段変速機の制御装置であって、
前記最終変化量設定手段は、前記変化量が負の場合には前記変化量を前記最終変化量として設定することを特徴とする無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−197914(P2012−197914A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63899(P2011−63899)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】