説明

無段変速機の油圧制御装置

【課題】変速用ポンプを用いて無段変速機の滑らかな変速動作を達成する。
【解決手段】プライマリ圧路54とセカンダリ圧路55との間には変速用ポンプ62が設けられる。変速用ポンプ62は、セカンダリ圧路55からプライマリ圧路54に作動油を圧送し、プライマリ圧路54からセカンダリ圧路55に作動油を圧送する。また、オイルポンプ51とプライマリ圧路54およびセカンダリ圧路55との間には油路切換弁56が設けられる。油路切換弁56は、プライマリ圧路54に作動油が圧送される際には、オイルポンプ51とセカンダリ圧路55とを連通させ、セカンダリ圧路55に作動油を圧送される際には、オイルポンプ51とプライマリ圧路54とを連通させる。これにより、変速時にプライマリ圧路54やセカンダリ圧路55からオイルポンプ51に向けて作動油を還流させることができ、滑らかな変速動作が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリを備える無段変速機の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される無段変速機は、入力軸に設けられるプライマリプーリと、出力軸に設けられるセカンダリプーリと、これらのプーリに掛け渡される駆動ベルトとを備えている。プライマリプーリやセカンダリプーリは、それぞれに固定シーブとこれに対向する可動シーブとを備えており、可動シーブの背面側にはプライマリ室やセカンダリ室が区画されている。そして、プライマリ室やセカンダリ室に対して作動油を供給制御することにより、可動シーブを軸方向に移動させて駆動ベルトの巻き付け径を変化させることができ、入力軸から出力軸に対する無段変速が可能となっている。
【0003】
一般的に、駆動ベルトの張力を制御するセカンダリプーリには、オイルポンプから吐出された作動油が、ライン圧制御弁を介してライン圧に調圧された後に供給されている。セカンダリプーリに供給されるライン圧は目標変速比や入力トルク等に基づき調圧され、セカンダリプーリのクランプ力は駆動ベルトにスリップを生じさせない大きさに調整されている。また、駆動ベルトの巻き付け径を制御するプライマリプーリには、ライン圧を減圧することで変速制御圧に調圧された作動油が供給されている。プライマリプーリに供給される変速制御圧は目標変速比に基づき調圧され、プライマリプーリのクランプ力は目標変速比に応じて調整されることになる。
【0004】
ところで、車両制動時には停車前にダウンシフトを完了させる必要があるため、急制動時には素早くダウンシフトを実行させる必要がある。ここで、ダウンシフトの変速速度はセカンダリプーリに対する作動油の供給速度に左右されることから、想定される変速速度に合わせてオイルポンプの吐出性能を引き上げることが必要となっている。しかしながら、急制動を想定してオイルポンプの吐出性能を引き上げることは、通常走行時において過剰な吐出性能をオイルポンプが有することになるため、車両の燃費性能を悪化させる要因となっていた。
【0005】
また、アップシフト時には、プライマリプーリに対してセカンダリプーリよりも大きなクランプ力が要求される。ここで、プライマリプーリに供給される変速制御圧は、セカンダリプーリに供給されるライン圧を減圧して得られる圧力であることから、プライマリプーリのクランプ力をセカンダリプーリよりも高めるためには、プライマリ室の大型化を図る必要がある。しかしながら、プライマリ室の大型化を図ることは、プーリの回転イナーシャを増大させることから、車両の走行性能を低下させる要因となっていた。
【0006】
これらの問題を解消するため、プライマリ室とセカンダリ室との間で作動油を移動させる変速用ポンプを備えた油圧制御装置が提案されている(たとえば、特許文献1〜3参照)。これにより、ダウンシフト時にはプライマリプーリからセカンダリプーリに作動油を案内することができるため、変速速度を維持したままオイルポンプの吐出容量を引き下げることが可能となる。また、セカンダリ圧に比べてプライマリ圧を高く設定することができ、プライマリ室の小型化を図ることが可能となる。
【特許文献1】特表2002−523711号公報
【特許文献2】特開2001−108084号公報
【特許文献3】特開2005−226730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された油圧制御装置にあっては、ダウンシフト時におけるプライマリ圧の急激な低下を回避するため、ダウンシフト時にはブレーキトルクを発生させながら変速用ポンプを回転させ、プライマリ室からセカンダリ室に作動油を移動させる必要がある。このように、変速用ポンプを作動させるためには駆動源となる電動モータを回生運転させる必要があり、電動モータの制御回路の複雑化を招く要因となっていた。
【0008】
また、特許文献2に記載された油圧制御装置にあっては、プライマリ圧路とセカンダリ圧路との間に変速用ポンプが設けられるとともに、プライマリ圧路内が低圧となるアップシフト時には逆止弁を介してプライマリ圧路に作動油が供給され、セカンダリ圧路内が低圧となるダウンシフト時には逆止弁を介してセカンダリ圧路に作動油が供給される構成を有している。しかしながら、逆止弁を介して低圧側に作動油を供給する構成では、プライマリ室やセカンダリ室から排出される作動油量を適切に調整することができないため、変速機の変速動作を阻害する要因となっていた。
【0009】
さらに、特許文献3に記載された油圧制御装置にあっては、プライマリ圧路内が低圧となるアップシフト時にはプライマリ圧路に作動油を供給する一方、セカンダリ圧路内が低圧となるダウンシフト時にはセカンダリ圧路に作動油を供給する油路切換弁が設けられている。しかしながら、この油路切換弁は、プライマリ圧路やセカンダリ圧路からのパイロット圧によって作動する2位置切換弁であるため、プライマリ圧路とセカンダリ圧路との間に設けられる変速用ポンプがフェイル状態に陥った場合には、油路切換弁の動作が不安定となって車両走行に支障を来すおそれがある。
【0010】
本発明の目的は、変速用ポンプを備えた油圧制御装置において、滑らかな変速動作を達成するとともに、変速用ポンプのフェイルセーフ機能を組み込むことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の無段変速機の油圧制御装置は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリを備える無段変速機の油圧制御装置であって、エンジンに駆動され、作動油を吐出するオイルポンプと、前記プライマリプーリに接続され、前記プライマリプーリに作動油を案内するプライマリ圧路と、前記セカンダリプーリに接続され、前記セカンダリプーリに作動油を案内するセカンダリ圧路と、前記プライマリ圧路と前記セカンダリ圧路との間に設けられ、前記セカンダリ圧路から前記プライマリ圧路に作動油を圧送するアップシフト状態と、前記プライマリ圧路から前記セカンダリ圧路に作動油を圧送するダウンシフト状態とに作動する変速用ポンプと、前記オイルポンプと前記プライマリ圧路および前記セカンダリ圧路との間に設けられ、前記オイルポンプと前記セカンダリ圧路とを連通させる第1供給状態と、前記オイルポンプと前記プライマリ圧路とを連通させる第2供給状態と、前記オイルポンプと前記プライマリ圧路および前記セカンダリ圧路の双方とを連通させる第3供給状態とに切り換えられる油路切換機構とを有し、前記油路切換機構は、前記変速用ポンプがアップシフト状態のときに第1供給状態に切り換えられ、前記変速用ポンプがダウンシフト状態のときに第2供給状態に切り換えられ、前記変速用ポンプが停止状態のときに第3供給状態に切り換えられることを特徴とする。
【0012】
本発明の無段変速機の油圧制御装置は、前記油路切換機構は、前記プライマリ圧路からの作動油によって第1供給状態に切り換えられ、前記セカンダリ圧路からの作動油によって第2供給状態に切り換えられる油路切換弁であることを特徴とする。
【0013】
本発明の無段変速機の油圧制御装置は、前記油路切換機構は、前記プライマリ圧路と前記オイルポンプとの間に設けられるプライマリ側逆止弁と、前記セカンダリ圧路と前記オイルポンプとの間に設けられるセカンダリ側逆止弁とを備え、前記プライマリ側逆止弁は、前記オイルポンプから前記プライマリ圧路に向かう作動油の流れを許容する連通状態と、前記プライマリ圧路から前記オイルポンプに向かう作動油の流れを遮断する遮断状態とに作動する逆止弁部を備えるとともに、前記セカンダリ圧路からの作動油によって前記逆止弁部の遮断状態を解除する解除部材を備えるパイロット操作逆止弁であり、前記セカンダリ側逆止弁は、前記オイルポンプから前記セカンダリ圧路に向かう作動油の流れを許容する連通状態と、前記セカンダリ圧路から前記オイルポンプに向かう作動油の流れを遮断する遮断状態とに作動する逆止弁部を備えるとともに、前記プライマリ圧路からの作動油によって前記逆止弁部の遮断状態を解除する解除部材を備えるパイロット操作逆止弁であることを特徴とする。
【0014】
本発明の無段変速機の油圧制御装置は、前記変速用ポンプは、前記オイルポンプからの作動油を動力源とする油圧モータによって駆動されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、変速用ポンプがセカンダリ圧路からプライマリ圧路に作動油を圧送する際にはオイルポンプとセカンダリ圧路とを連通させ、変速用ポンプがプライマリ圧路からセカンダリ圧路に作動油を圧送する際にはオイルポンプとプライマリ圧路とを連通させる油路切換機構を設けるようにしたので、変速時にプライマリ圧路やセカンダリ圧路からオイルポンプに向けて作動油を還流させることが可能となる。これにより、アップシフトやダウンシフトを滑らかに実行することが可能となる。
【0016】
しかも、変速用ポンプが停止したときには、油路切換機構によってオイルポンプからプライマリ圧路とセカンダリ圧路との双方に作動油が案内されるため、変速用ポンプがフェイル状態に陥った場合であっても、変速比がロー状態やオーバードライブ状態に大きく振れることがないため、急減速を回避することができるとともに、再発進が可能な変速比を保つことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車両に搭載される無段変速機10を示すスケルトン図である。図1に示すように、無段変速機10は、エンジン11に駆動されるプライマリ軸12と、これに平行となるセカンダリ軸13とを有している。プライマリ軸12とセカンダリ軸13との間には変速機構14が設けられており、セカンダリ軸13と駆動輪15との間には減速機構16や差動機構17が設けられている。
【0018】
プライマリ軸12にはプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20は固定シーブ20aと可動シーブ20bとによって構成されている。可動シーブ20bの背面側にはプライマリ室21が区画されており、プライマリ室21内のプライマリ圧Ppを調整してシーブ幅を変化させることが可能となっている。また、セカンダリ軸13にはセカンダリプーリ22が設けられており、このセカンダリプーリ22は固定シーブ22aと可動シーブ22bとによって構成されている。可動シーブ22bの背面側にはセカンダリ室23が区画されており、セカンダリ室23内のセカンダリ圧Psを調整してシーブ幅を変化させることが可能となっている。プライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とには駆動ベルト24が巻き掛けられており、シーブ幅を変化させて駆動ベルト24の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸12からセカンダリ軸13に対する無段変速が可能となっている。
【0019】
このような変速機構14に対してエンジン動力を伝達するため、クランク軸25とプライマリ軸12との間にはトルクコンバータ30および前後進切換機構31が設けられている。トルクコンバータ30は、クランク軸25にフロントカバー32を介して連結されるポンプインペラ33と、このポンプインペラ33に対向するとともにタービン軸34に連結されるタービンランナ35とを備えている。このトルクコンバータ30内には作動油が供給されており、トルクコンバータ30は作動油を介してポンプインペラ33からタービンランナ35にエンジン動力が伝達される構造となっている。また、トルクコンバータ30内には、走行状態に応じてクランク軸25とタービン軸34とを直結するロックアップクラッチ36が設けられている。
【0020】
前後進切換機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列40、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を備えている。これら前進クラッチ41や後退ブレーキ42を制御することにより、エンジン動力の伝達径路を切り換えることが可能となっている。後退ブレーキ42を開放して前進クラッチ41を締結することにより、タービン軸34の回転がそのままプライマリ軸12に伝達され、車両を前進走行させることが可能となる。また、前進クラッチ41を開放して後退ブレーキ42を締結することにより、遊星歯車列40を作動させてプライマリ軸12の回転方向を逆転させることができ、車両を後退走行させることが可能となる。なお、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を開放することにより、タービン軸34とプライマリ軸12とは切り離され、前後進切換機構31はプライマリ軸12に動力を伝達しないニュートラル状態となる。
【0021】
図2は本発明の一実施の形態である無段変速機10の油圧制御装置50を示す回路図である。図2に示すように、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ22に作動油を供給するため、無段変速機10にはエンジン11に駆動されるオイルポンプ51が設けられている。このオイルポンプ51の吐出口に接続されるライン圧路52は、オイルポンプ51から吐出された作動油をライン圧PLに調圧するライン圧制御弁53に接続されている。また、プライマリプーリ20のプライマリ室21に作動油を供給するため、プライマリプーリ20にはプライマリ圧路54が接続されている。さらに、セカンダリプーリ22のセカンダリ室23に作動油を供給するため、セカンダリプーリ22にはセカンダリ圧路55が接続されている。なお、ライン圧制御弁53は電磁圧力制御弁となっており、後述する制御ユニット70からの制御電流に応じてライン圧PLの大きさを制御することが可能となっている。
【0022】
また、ライン圧路52とプライマリ圧路54およびセカンダリ圧路55との間には、ライン圧PLに調圧された作動油の供給経路を切り換える油路切換機構としての油路切換弁56が設けられている。この油路切換弁56は3位置に移動する図示しないスプール弁軸を備えている。このスプール弁軸は、ライン圧路52とプライマリ圧路54とを連通させてライン圧路52とセカンダリ圧路55とを遮断するダウンシフト位置、ライン圧路52とセカンダリ圧路55とを連通させてライン圧路52とプライマリ圧路54とを遮断するアップシフト位置、ライン圧路52をプライマリ圧路54とセカンダリ圧路55との双方に連通させる中立位置に移動可能となっている。
【0023】
油路切換弁56には、スプール弁軸をアップシフト位置に向けて付勢するバネ部材57と、スプール弁軸をダウンシフト位置に向けて付勢するバネ部材58とが設けられており、これらのバネ部材57,58によってスプール弁軸は中立位置に保持されている。また、油路切換弁56には、プライマリ圧路54から分岐するパイロット圧路59が接続されており、プライマリ圧Ppによってスプール弁軸をアップシフト位置に向けて付勢することが可能となっている。さらに、油路切換弁56には、セカンダリ圧路55から分岐するパイロット圧路60が接続されており、セカンダリ圧Psによってスプール弁軸をダウンシフト位置に向けて付勢することが可能となっている。
【0024】
このような弁構造を採用することにより、プライマリ圧路54内のプライマリ圧Ppがセカンダリ圧路55内のセカンダリ圧Psを上回る場合には、油路切換弁56のスプール弁軸がアップシフト位置に切り換えられ、ライン圧PLはセカンダリプーリ22に向けて供給される(第1供給状態)。また、プライマリ圧Ppがセカンダリ圧Psを下回る場合には、油路切換弁56のスプール弁軸がダウンシフト位置に切り換えられ、ライン圧PLはプライマリプーリ20に向けて供給される(第2供給状態)。さらに、プライマリ圧Ppとセカンダリ圧Psとがほぼ一致する場合には、油路切換弁56のスプール弁軸が中立位置に切り換えられ、ライン圧PLがプライマリプーリ20とセカンダリプーリ22との双方に向けて供給される(第3供給状態)。
【0025】
また、プライマリ圧路54とセカンダリ圧路55との間には、電動モータ61によって駆動される変速用ポンプ62が設けられている。後述する制御ユニット70からの制御電流に応じて電動モータ61を正転させることにより、セカンダリ圧路55からプライマリ圧路54に作動油を圧送するアップシフト状態で変速用ポンプ62を作動させることが可能となる。このように変速用ポンプ62をアップシフト状態で作動させることにより、プライマリ圧Ppをセカンダリ圧Psよりも高めることが可能となる。また、制御ユニット70からの制御電流に応じて電動モータ61を逆転させることにより、プライマリ圧路54からセカンダリ圧路55に作動油を圧送するダウンシフト状態で変速用ポンプ62を作動させることが可能となる。このように変速用ポンプ62をダウンシフト状態で作動させることにより、セカンダリ圧Psをプライマリ圧Ppよりも高めることが可能となる。
【0026】
続いて、油圧制御装置50の変速動作について説明する。ここで、図3はアップシフト時における油圧制御装置50の作動状態を示す回路図であり、図4はダウンシフト時における油圧制御装置50の作動状態を示す回路図である。図3に示すように、アップシフトを実行する場合には、電動モータ61を正転させることにより、変速用ポンプ62がアップシフト状態に切り換えられる。これにより、セカンダリ圧路55からプライマリ圧路54に作動油が圧送されるため、プライマリ圧Ppがセカンダリ圧Psよりも高められる。そして、プライマリプーリ20のシーブ幅が拡げられる一方、セカンダリプーリ22のシーブ幅が狭められるため、変速比をオーバードライブ側に変化させるアップシフトが実行される。また、パイロット圧路59を介して油路切換弁56には高められたプライマリ圧Ppが供給されるため、油路切換弁56のスプール弁軸はアップシフト位置に切り換えられる(第1供給状態)。これにより、セカンダリ圧路55にはライン圧PLが供給されるため、変速用ポンプ62をアップシフト状態で駆動した場合であっても、セカンダリ圧Psを不要に低下させることがなく、セカンダリプーリ22のクランプ力を適切に確保することが可能となる。
【0027】
一方、図4に示すように、ダウンシフトを実行する場合には、電動モータ61を逆転させることにより、変速用ポンプ62がダウンシフト状態に切り換えられる。これにより、プライマリ圧路54からセカンダリ圧路55に作動油が圧送されるため、セカンダリ圧Psがプライマリ圧Ppよりも高められる。そして、プライマリプーリ20のシーブ幅が狭められる一方、セカンダリプーリ22のシーブ幅が拡げられるため、変速比をロー側に変化させるダウンシフトが実行される。また、パイロット圧路60を介して油路切換弁56には高められたセカンダリ圧Psが作用するため、油路切換弁56のスプール弁軸はダウンシフト位置に切り換えられる(第2供給状態)。これにより、プライマリ圧路54にはライン圧PLが供給されるため、変速用ポンプ62をダウンシフト状態で駆動した場合であっても、プライマリ圧Ppを不要に低下させることがなく、プライマリプーリ20のクランプ力を適切に確保することが可能となる。
【0028】
また、図2に示すように、電動モータ61を停止させて変速用ポンプ62を停止状態に切り換えた場合には、プライマリ圧Ppとセカンダリ圧Psとの圧力差ΔPが解消されるため、油路切換弁56のスプール弁軸は中立位置に切り換えられる(第3供給状態)。これにより、ライン圧PLがプライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とに向けて供給されるため、プライマリ圧Ppおよびセカンダリ圧Psは共にライン圧PLに向けて収束する。すなわち、プライマリ室21とセカンダリ室23との受圧面積が等しい場合には、変速比はほぼ1に調整されることになる。
【0029】
なお、変速用ポンプ62の1回転当たりの吐出量をVp、電動モータ61の駆動トルクをTpとすると、変速用ポンプ62によって調整されるプライマリ圧Ppとセカンダリ圧Psとの圧力差ΔPは以下の式(1)によって表される。すなわち、変速用ポンプ62を駆動する電動モータ61の駆動トルクを制御することにより、圧力差ΔPを調整して変速比を自在に制御することが可能となる。
ΔP=Tp・2π/Vp …(1)
【0030】
以下、電動モータ61やライン圧制御弁53を制御する制御ユニット70による無段変速機10の変速制御について説明する。ここで、図5は制御ユニット70を示すブロック図である。図5に示すように、制御ユニット70には各種センサから車両状態を表す信号が入力されており、これらの入力信号に基づき、制御ユニット70は電動モータ61およびライン圧制御弁53に対する制御信号を演算する。車両状態を表す信号を検出する各種センサとしては、プライマリプーリ20の回転数を検出するプライマリ回転数センサ71、セカンダリプーリ22の回転数を検出するセカンダリ回転数センサ72、車速Vを検出する車速センサ73、スロットルバルブのスロットル開度Toを検出するスロットル開度センサ74、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ75等がある。
【0031】
制御ユニット70は、目標プライマリ圧Ppを算出するため、目標プライマリ回転数算出部76、目標変速比算出部77、油圧比算出部78、目標プライマリ圧算出部79を備えている。目標プライマリ回転数算出部76は、車速Vとスロットル開度Toに基づき変速特性マップを参照して目標プライマリ回転数Npを算出し、目標変速比算出部77は、目標プライマリ回転数Npと実セカンダリ回転数Ns’とに基づいて目標変速比iを算出する。次いで、油圧比算出部78は、目標変速比iに対応する目標プライマリ圧Ppと目標セカンダリ圧Psとの油圧比(Pp/Ps)を算出し、目標プライマリ圧算出部79は、この油圧比に目標セカンダリ圧Psを乗算して目標プライマリ圧Ppを算出する。
【0032】
また、制御ユニット70は、目標プライマリ圧Ppをフィードバック制御するため、実変速比算出部80、フィードバック値算出部81、加算部82を備えている。実変速比算出部80は、実プライマリ回転数Np’と実セカンダリ回転数Ns’とに基づいて実変速比i’を算出し、フィードバック値算出部81は、実変速比i’と目標変速比iとに基づいてフィードバック値Fを算出する。次いで、加算部82において目標プライマリ圧Ppにフィードバック値Fが加算され、目標プライマリ圧Ppはフィードバック制御される。そして、目標プライマリ圧Ppは電流制御部83に入力されることになる。
【0033】
さらに、制御ユニット70は、目標セカンダリ圧Psを算出するため、入力トルク算出部84、必要セカンダリ圧算出部85、目標セカンダリ圧算出部86を備えている。入力トルク算出部84は、エンジン回転数Neとスロットル開度Toとに基づいて、エンジン11からプライマリ軸12に入力される入力トルクTiを算出し、必要セカンダリ圧算出部85は、目標変速比iに基づいて必要セカンダリ圧を算出する。入力トルクTiと必要セカンダリ圧とは目標セカンダリ圧算出部86に入力され、目標セカンダリ圧算出部86によって目標セカンダリ圧Psが算出される。そして、目標セカンダリ圧Psは電流制御部83に入力されることになる。
【0034】
次いで、電流制御部83は、目標プライマリ圧Ppと目標セカンダリ圧Psとの圧力のうち低い方の圧力に基づいて、ライン圧制御弁53に対する制御電流を演算して供給する。これにより、ライン圧制御弁53によって調圧されるライン圧PLは、目標プライマリ圧Ppと目標セカンダリ圧Psとの低い方に相当する圧力に調整されることになる。また、電流制御部83は、目標プライマリ圧Ppと目標セカンダリ圧Psとの圧力差ΔPに基づいて、電動モータ61に対する制御電流を演算して供給する。この制御電流によって電動モータ61を駆動することにより、目標プライマリ圧Ppと目標セカンダリ圧Psとの圧力のうち高い方の圧力が得られるように、変速用ポンプ62によって圧力差ΔPが調整されることになる。
【0035】
これまで説明したように、プライマリ圧路54とセカンダリ圧路55との間に変速用ポンプ62を設けるようにしたので、プライマリ室21やセカンダリ室23における受圧面積の拡大を回避することができ、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ22の大型化を回避することが可能となる。すなわち、変速用ポンプ62を用いることにより、プライマリ圧Ppとセカンダリ圧Psとの大きさを自在に設定することができるため、低い圧力で大きなクランプ力を得るためにプライマリ室21またはセカンダリ室23を大きく設定する必要がなく、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ22の大型化を回避することが可能となる。これにより、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ22の回転イナーシャを軽減することができ、車両の走行性能を向上させることが可能となる。また、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ22の大型化を回避して、無段変速機10の小型化を達成することが可能となる。
【0036】
また、変速用ポンプ62を作動させる変速時には、作動油を無駄に排出することなく、低圧側から高圧側に作動油を移動させるようにしたので、作動油の消費量を抑制してオイルポンプ51の負荷を軽減することが可能となる。これにより、オイルポンプ51の小型化を図ることができ、車両の燃費性能を向上させることが可能となる。特に、プーリ20,22が停止してエンジン11がアイドリング状態となる停車時においては、トルクコンバータ30の増幅トルクによる駆動ベルト24の滑りを防ぐためにセカンダリ圧Psを高める必要があるが、この場合であっても変速用ポンプ62を用いてセカンダリ圧Psを高めることができるため、オイルポンプ51およびエンジン11の負荷を軽減することが可能となっている。このように発進時におけるエンジン負荷を軽減することができるため、車両の発進性能を高めることが可能となる。また、オイルポンプ51のみでセカンダリ圧Psを得ようとした場合には、低いアイドリング回転数で高い吐出圧を得る必要があるため、オイルポンプ51において作動油の発熱を招くことになるが、このような問題点を解消することも可能となる。
【0037】
また、アップシフト時にはセカンダリ圧路55とライン圧路52とが油路切換弁56を介して連通するため、セカンダリ圧Psの不要な低下を回避することができるだけでなく、セカンダリ圧路55からライン圧路52に作動油を還流させることが可能となる。さらに、ダウンシフト時にはプライマリ圧路54とライン圧路52とが油路切換弁56を介して連通するため、プライマリ圧Ppの不要な低下を回避することができるだけでなく、プライマリ圧路54からライン圧路52に作動油を還流させることが可能となる。これにより、アップシフトやダウンシフトを滑らかに実行することが可能となる。ここで、図6は可動シーブ20b,22bのストロークと変速比との関係を示す線図である。図6に示すように、プライマリプーリ20に設けられる可動シーブ20bのストロークと、セカンダリプーリ22に設けられる可動シーブ22bのストロークとは一致していない。このため、プライマリ室21とセカンダリ室23との受圧面積が一致している場合であっても、変速比によってはプライマリ室21に供給される作動油量とセカンダリ室23から排出される作動油量とが一致しない状況が発生し、変速比によってはプライマリ室21から排出される作動油量とセカンダリ室23に供給される作動油量とが一致しない状況が発生することになる。すなわち、プライマリ圧路54やセカンダリ圧路55からライン圧路52に作動油が還流しない構造(逆止弁等)であった場合には、供給油量と排出油量とが一致しない変速領域において、可動シーブ20b,22bの移動が不可能となって変速不能に陥るおそれがある。しかしながら、本発明の油圧制御装置においては、前述したように、アップシフト時にはセカンダリ圧路55からライン圧路52に作動油を還流させることができ、ダウンシフト時にはプライマリ圧路54からライン圧路52に作動油を還流させることができる構造であるため、アップシフトやダウンシフトを滑らかに実行することが可能となる。
【0038】
さらに、図2に示すように、変速用ポンプ62が停止した場合には、油路切換弁56のスプール弁軸が中立位置に切り換えられるため、プライマリ圧Ppとセカンダリ圧Psとがライン圧PLに向けて収束する。これにより、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とのクランプ力が一致するため、車両は変速比が1となる走行状態で安定することになる。したがって、変速用ポンプ62やこれを駆動する電動モータ61がフェイル状態に陥った場合であっても、変速比がロー状態やオーバードライブ状態に大きく振れることがないため、急減速を回避することができるとともに、再発進が可能な変速比を保つことが可能となる。このように、油圧制御装置50はフェイルセーフ機能を備えることになり、車両の安全性を向上させることが可能となる。
【0039】
続いて、本発明の他の実施の形態である無段変速機10の油圧制御装置90について説明する。ここで、図7は本発明の他の実施の形態である無段変速機10の油圧制御装置90を示す回路図である。また、図8はアップシフト時における油圧制御装置90の作動状態を示す回路図であり、図9はダウンシフト時における油圧制御装置90の作動状態を示す回路図である。なお、図7〜図9において、図2に示す部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図8に示すように、油圧制御装置90には、変速用ポンプ62を駆動する油圧モータ91が設けられている。この油圧モータ91にはオイルポンプ51から吐出される作動油が動力源として用いられている。また、油圧モータ91には一対の給排油路92,93が接続されており、油圧モータ91を正転させる際には、給排油路92から給排油路93に作動油が案内され、油圧モータ91を逆転させる際には、給排油路93から給排油路92に作動油が案内されることになる。この油圧モータ91の駆動状態を制御するため、油圧モータ91とライン圧路52との間にはモータ制御弁94が設けられている。モータ制御弁94は3位置に移動する図示しないスプール弁軸を備えている。このスプール弁軸は、ライン圧路52と給排油路92とを連通させる正転位置、ライン圧路52と給排油路93とを連通させる逆転位置、ライン圧路52を給排油路92と給排油路93との双方に連通させる停止位置に移動可能となっている。
【0041】
また、モータ制御弁94には、スプール弁軸を正転位置に向けて付勢するバネ部材95と、スプール弁軸を逆転位置に向けて付勢するバネ部材96とが設けられており、これらのバネ部材95,96によってスプール弁軸は停止位置に保持されている。また、油路切換弁56には、スプール弁軸を正転位置に向けて吸引するソレノイド部97と、スプール弁軸を逆転位置に向けて吸引するソレノイド部98とが設けられている。これらのソレノイド部97,98には制御ユニット70から制御電流が供給されており、制御ユニット70によって油圧モータ91の作動状態を制御することが可能となっている。
【0042】
図8に示すように、ソレノイド部97に対して通電を施すことにより、モータ制御弁94のスプール弁軸は正転位置に切り換えられ、油圧モータ91および変速用ポンプ62が正転駆動される。これにより、プライマリ圧Ppがセカンダリ圧Psよりも引き上げられ、変速比をオーバードライブ側に変化させるアップシフトが実行される。一方、図9に示すように、ソレノイド部98に対して通電を施すことにより、モータ制御弁94のスプール弁軸は逆転位置に切り換えられ、油圧モータ91および変速用ポンプ62が逆転駆動される。これにより、セカンダリ圧Psがプライマリ圧Ppよりも引き上げられ、変速比をロー側に変化させるダウンシフトが実行される。なお、モータ制御弁94は油圧モータ91に対して供給する作動油量を調整可能な流量制御弁となっており、制御ユニット70からの制御電流に応じて油圧モータ91の駆動トルク等を制御することが可能となっている。
【0043】
このように、変速用ポンプ62を油圧モータ91によって駆動することにより、電動モータを使用した場合に比べて油圧制御装置90のコストを引き下げることが可能となる。また、オイルポンプ51から吐出される作動油によって油圧モータ91を駆動することにより、オイルポンプ51には油圧モータ91分の負荷が作用することになるが、オイルポンプ51だけでプライマリ圧Pp等を得ようとした場合に比べてオイルポンプ51の吐出圧を引き下げることが可能となる。これにより、オイルポンプ51の動力損失を低減することができるとともに、オイルポンプ51の容積効率を向上させることが可能となる。さらに、モータ制御弁94のスプール弁軸はバネ部材95,96によって停止位置に保持されるため、モータ制御弁94がフェイル状態に陥った場合であっても、油圧モータ91および変速用ポンプ62を停止させることができ、変速比をほぼ1に収束させることが可能となる。このように、油圧制御装置90はフェイルセーフ機能を備えることになり、車両の安全性を向上させることが可能となる。なお、油圧制御装置90を用いた場合であっても、前述した油圧制御装置50によって得られる効果と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0044】
続いて、本発明の他の実施の形態である無段変速機10の油圧制御装置100について説明する。ここで、図10は本発明の他の実施の形態である無段変速機10の油圧制御装置100を示す回路図である。また、図11はアップシフト時における油圧制御装置100の作動状態を示す回路図であり、図12はダウンシフト時における油圧制御装置100の作動状態を示す回路図である。なお、図10〜図12において、図7に示す部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
図10に示すように、油圧モータ91に作動油を供給制御するモータ制御弁94には、プライマリ圧路54から分岐するパイロット圧路101が接続されており、プライマリ圧Ppによってスプール弁軸を逆転位置に向けて付勢することが可能となっている。また、油路切換弁56には、セカンダリ圧路55から分岐するパイロット圧路102が接続されており、セカンダリ圧Psによってスプール弁軸を正転位置に向けて付勢することが可能となっている。
【0046】
このような弁構造を採用することにより、変速用ポンプ62によって発生する圧力差ΔPが、異常に大きくなる不安定現象を回避することができ、油圧制御装置100の安定性を向上させることが可能となる。ここで、図11および図12に示すように、変速用ポンプ62を正転させるアップシフト時や逆転させるダウンシフト時には、制御ユニット70からソレノイド部97,98に対して制御電流が供給され、モータ制御弁94のスプール弁軸は正転位置や逆転位置に移動した状態となっている。このとき、スプール弁軸はプライマリ圧Ppによって逆転位置に向けて付勢され、スプール弁軸はセカンダリ圧Psによって正転位置に向けて付勢されている。すなわち、スプール弁軸には圧力差ΔPに応じた推力が作用するため、圧力差ΔPが所定の上限値を上回って増大した場合には、スプール弁軸は停止位置に向けて移動することになる。これにより、変速用ポンプ62を駆動する油圧モータ91の駆動トルクが引き下げられ、増大した圧力差ΔPを低下させることが可能となる。このように、圧力差ΔPを安定させることができるため、変速比の制御精度を向上させることが可能となる。なお、油圧制御装置100を用いた場合であっても、前述した油圧制御装置50によって得られる効果と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0047】
続いて、本発明の他の実施の形態である無段変速機10の油圧制御装置110について説明する。ここで、図13は本発明の他の実施の形態である無段変速機10の油圧制御装置110を示す回路図である。また、図14はアップシフト時における油圧制御装置110の作動状態を示す回路図であり、図15はダウンシフト時における油圧制御装置110の作動状態を示す回路図である。なお、図13〜図15において、図2に示す部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図13に示すように、ライン圧路52とプライマリ圧路54との間には、油路切換機構を構成するプライマリ側逆止弁111が設けられている。このプライマリ側逆止弁111は、ハウジング112とこれに収容される弁体113および解除部材114とを有している。ハウジング112には、ライン圧路52が接続される入力ポート112a、プライマリ圧路54が接続される出力ポート112b、セカンダリ圧路55から分岐するパイロット圧路115が接続されるパイロットポート112cが形成されている。このプライマリ側逆止弁111は、パイロット操作逆止弁として機能することになる。パイロットポート112cに導入されるセカンダリ圧Psがライン圧PLを下回る場合には、図13に示すように、ライン圧PLによって解除部材114が弁体113から離されるため、弁体113によって構成される逆止弁部116は、入力ポート112aから出力ポート112bへの流れを許容する一方、出力ポート112bから入力ポート112aへの流れを遮断する逆止弁として機能することになる。すなわち、逆止弁部116は、ライン圧路52からプライマリ圧路54に向かう作動油の流れを許容する連通状態と、プライマリ圧路54からライン圧路52に向かう作動油の流れを遮断する遮断状態とに作動可能な状態となっている。一方、パイロットポート112cに導入されるセカンダリ圧Psがライン圧PLを上回る場合には、図15に示すように、セカンダリ圧Psによって解除部材114が弁体113を押し込むため、逆止弁部116は入力ポート112aと出力ポート112bとを連通することになる。すなわち、解除部材114によって逆止弁部116の遮断状態は解除され、プライマリ圧路54からライン圧路52に向かう作動油の流れが許容される状態となる。
【0049】
図13に示すように、ライン圧路52とセカンダリ圧路55との間には、油路切換機構を構成するセカンダリ側逆止弁121が設けられている。このセカンダリ側逆止弁121は、ハウジング122とこれに収容される弁体123および解除部材124とを有している。ハウジング122には、ライン圧路52が接続される入力ポート122a、セカンダリ圧路55が接続される出力ポート122b、プライマリ圧路54から分岐するパイロット圧路125が接続されるパイロットポート122cが形成されている。このセカンダリ側逆止弁121は、パイロット操作逆止弁として機能するようになっている。パイロットポート122cに導入されるプライマリ圧Ppがライン圧PLを下回る場合には、図13に示すように、ライン圧PLによって解除部材124が弁体123から離されるため、弁体123によって構成される逆止弁部126は、入力ポート122aから出力ポート122bへの流れを許容する一方、出力ポート122bから入力ポート122aへの流れを遮断する逆止弁として機能することになる。すなわち、逆止弁部126は、ライン圧路52からセカンダリ圧路55に向かう作動油の流れを許容する連通状態と、セカンダリ圧路55からライン圧路52に向かう作動油の流れを遮断する遮断状態とに作動可能な状態となっている。一方、パイロットポート122cに導入されるプライマリ圧Ppがライン圧PLを上回る場合には、図14に示すように、プライマリ圧Ppによって解除部材124が弁体123を押し込むため、逆止弁部126は入力ポート122aと出力ポート122bとを連通することになる。すなわち、解除部材124によって逆止弁部126の遮断状態は解除され、セカンダリ圧路55からライン圧路52に向かう作動油の流れが許容される状態となる。
【0050】
図14に示すように、アップシフトを実行する場合には、電動モータ61を正転させることにより、変速用ポンプ62がアップシフト状態に切り換えられる。これにより、セカンダリ圧路55からプライマリ圧路54に作動油が圧送されるため、プライマリ圧Ppがセカンダリ圧Psよりも高められる。そして、プライマリプーリ20のシーブ幅が拡げられる一方、セカンダリプーリ22のシーブ幅が狭められるため、変速比をオーバードライブ側に変化させるアップシフトが実行される。また、パイロット圧路125を介してセカンダリ側逆止弁121には高められたプライマリ圧Ppが作用するため、プライマリ圧Ppによって解除部材124が弁体123を押し込み、入力ポート122aと出力ポート122bとが連通状態に保持される。これにより、セカンダリ圧路55からライン圧路52に作動油を還流させることができ、アップシフトを滑らかに実行することが可能となる。
【0051】
図15に示すように、ダウンシフトを実行する場合には、電動モータ61を逆転させることにより、変速用ポンプ62がダウンシフト状態に切り換えられる。これにより、プライマリ圧路54からセカンダリ圧路55に作動油が圧送されるため、セカンダリ圧Psがプライマリ圧Ppよりも高められる。そして、プライマリプーリ20のシーブ幅が狭められる一方、セカンダリプーリ22のシーブ幅が拡げられるため、変速比をロー側に変化させるダウンシフトが実行される。また、パイロット圧路115を介してプライマリ側逆止弁111には高められたセカンダリ圧Psが作用するため、セカンダリ圧Psによって解除部材114が弁体113を押し込み、入力ポート112aと出力ポート112bとが連通状態に保持される。これにより、プライマリ圧路54からライン圧路52に作動油を還流させることができ、ダウンシフトを滑らかに実行することが可能となる。
【0052】
なお、油圧制御装置110を用いた場合であっても、前述した油圧制御装置50によって得られる効果と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、前述の説明では、図13に示す油圧制御装置110においては、電動モータ61によって変速用ポンプ62が駆動されているが、これに限られることはなく、前述した油圧モータ91によって変速用ポンプ62を駆動しても良い。また、前述の説明では、プライマリ室21とセカンダリ室23との受圧面積が一致している例を挙げて説明しているが、プライマリ室21とセカンダリ室23との受圧面積が相違する無段変速機に対しても、本発明の油圧制御装置50,90,100,110を有効に適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】車両に搭載される無段変速機を示すスケルトン図である。
【図2】本発明の一実施の形態である無段変速機の油圧制御装置を示す回路図である。
【図3】アップシフト時における油圧制御装置の作動状態を示す回路図である。
【図4】ダウンシフト時における油圧制御装置の作動状態を示す回路図である。
【図5】制御ユニットを示すブロック図である。
【図6】可動シーブのストロークと変速比との関係を示す線図である。
【図7】本発明の他の実施の形態である無段変速機の油圧制御装置を示す回路図である。
【図8】アップシフト時における油圧制御装置の作動状態を示す回路図である。
【図9】ダウンシフト時における油圧制御装置の作動状態を示す回路図である。
【図10】本発明の他の実施の形態である無段変速機の油圧制御装置を示す回路図である。
【図11】アップシフト時における油圧制御装置の作動状態を示す回路図である。
【図12】ダウンシフト時における油圧制御装置の作動状態を示す回路図である。
【図13】本発明の他の実施の形態である無段変速機の油圧制御装置を示す回路図である。
【図14】アップシフト時における油圧制御装置の作動状態を示す回路図である。
【図15】ダウンシフト時における油圧制御装置の作動状態を示す回路図である。
【符号の説明】
【0055】
10 無段変速機
11 エンジン
20 プライマリプーリ
22 セカンダリプーリ
50 油圧制御装置
51 オイルポンプ
54 プライマリ圧路
55 セカンダリ圧路
56 油路切換弁(油路切換機構)
62 変速用ポンプ
90 油圧制御装置
91 油圧モータ
100 油圧制御装置
110 油圧制御装置
111 プライマリ側逆止弁(油路切換機構,パイロット操作逆止弁)
114 解除部材
116 逆止弁部
121 セカンダリ側逆止弁(油路切換機構,パイロット操作逆止弁)
124 解除部材
126 逆止弁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリおよびセカンダリプーリを備える無段変速機の油圧制御装置であって、
エンジンに駆動され、作動油を吐出するオイルポンプと、
前記プライマリプーリに接続され、前記プライマリプーリに作動油を案内するプライマリ圧路と、
前記セカンダリプーリに接続され、前記セカンダリプーリに作動油を案内するセカンダリ圧路と、
前記プライマリ圧路と前記セカンダリ圧路との間に設けられ、前記セカンダリ圧路から前記プライマリ圧路に作動油を圧送するアップシフト状態と、前記プライマリ圧路から前記セカンダリ圧路に作動油を圧送するダウンシフト状態とに作動する変速用ポンプと、
前記オイルポンプと前記プライマリ圧路および前記セカンダリ圧路との間に設けられ、前記オイルポンプと前記セカンダリ圧路とを連通させる第1供給状態と、前記オイルポンプと前記プライマリ圧路とを連通させる第2供給状態と、前記オイルポンプと前記プライマリ圧路および前記セカンダリ圧路の双方とを連通させる第3供給状態とに切り換えられる油路切換機構とを有し、
前記油路切換機構は、前記変速用ポンプがアップシフト状態のときに第1供給状態に切り換えられ、前記変速用ポンプがダウンシフト状態のときに第2供給状態に切り換えられ、前記変速用ポンプが停止状態のときに第3供給状態に切り換えられることを特徴とする無段変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の無段変速機の油圧制御装置において、
前記油路切換機構は、前記プライマリ圧路からの作動油によって第1供給状態に切り換えられ、前記セカンダリ圧路からの作動油によって第2供給状態に切り換えられる油路切換弁であることを特徴とする無段変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の無段変速機の油圧制御装置において、
前記油路切換機構は、前記プライマリ圧路と前記オイルポンプとの間に設けられるプライマリ側逆止弁と、前記セカンダリ圧路と前記オイルポンプとの間に設けられるセカンダリ側逆止弁とを備え、
前記プライマリ側逆止弁は、前記オイルポンプから前記プライマリ圧路に向かう作動油の流れを許容する連通状態と、前記プライマリ圧路から前記オイルポンプに向かう作動油の流れを遮断する遮断状態とに作動する逆止弁部を備えるとともに、前記セカンダリ圧路からの作動油によって前記逆止弁部の遮断状態を解除する解除部材を備えるパイロット操作逆止弁であり、
前記セカンダリ側逆止弁は、前記オイルポンプから前記セカンダリ圧路に向かう作動油の流れを許容する連通状態と、前記セカンダリ圧路から前記オイルポンプに向かう作動油の流れを遮断する遮断状態とに作動する逆止弁部を備えるとともに、前記プライマリ圧路からの作動油によって前記逆止弁部の遮断状態を解除する解除部材を備えるパイロット操作逆止弁であることを特徴とする無段変速機の油圧制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無段変速機の油圧制御装置において、
前記変速用ポンプは、前記オイルポンプからの作動油を動力源とする油圧モータによって駆動されることを特徴とする無段変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−96287(P2010−96287A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268200(P2008−268200)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】