説明

無段変速機及び無段変速機の制御装置

【課題】駆動損失の発生を抑えること。
【解決手段】インプットディスク13とアウトプットディスク14との間の回転比たる変速比を無段階に変化させる無段変速機構10と、係合状態にある相互間での差動回転が可能なリングギヤ31,サンギヤ32及び遊星ギヤ33を有する差動機構30と、が入力軸101と出力軸102との間に配設された無段変速機100において、無段変速機構10は、インプットディスク13を駆動力源の出力が伝達される入力軸101に直接連結させる。そして、差動機構30は、共通の回転軸Xを有するリングギヤ31とサンギヤ32の間に回転軸の異なる遊星ギヤ33を双方に係合させて配置したものであり、サンギヤ32をアウトプットディスク14に直接連結させ、リングギヤ31を入力軸101に直接連結させ、遊星ギヤ33を出力軸102に直接連結させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速比を無段階に変化させる無段変速機とその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の回転要素からなる所謂トラクション遊星ギヤ機構により構成された無段変速機が知られている。例えば、下記の特許文献1には、入力ディスクと出力ディスクとで挟持された複数のボール(転動部材)を有し、そのボールの傾転角を調整して変速比を変える無段変速機構と、この無段変速機構の出力軸に回転要素の1つが連結された遊星歯車機構(差動機構)と、を備えた無段変速機が開示されている。具体的に、その特許文献1においては、回転要素の1つであるサンギヤがその出力軸に連結され、キャリアが駆動輪側に連結され、リングギヤが歯車群を介して駆動力源の出力側に連結された遊星歯車機構について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−519349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、その特許文献1の無段変速機は、駆動力源の出力が入力ディスクだけでなくリングギヤにも伝わる構造になっているので、無段変速機構が所定の変速比となったときに、リングギヤとサンギヤが同一回転数になって遊星歯車機構を一体回転させる。これが為、そのときには、遊星歯車機構の潤滑油として所謂トラクションフルードが使われていたとしても、その遊星歯車機構の各回転要素間で回転差が生じていないので、その間で駆動損失が無く、燃費を向上させることができる。しかしながら、その一方で、このときには、リングギヤと駆動力源の出力側とを繋ぐ歯車群において回転差が生じているので、夫々の歯車の間で駆動損失が生じ、その分だけ燃費を悪化させてしまう。特に、この歯車群の潤滑にトラクションフルードが使われたならば、その駆動損失が大きくなり、燃費悪化の可能性が高くなる。尚、そのトラクションフルードとは、転がり面でのトルク伝達を可能にする為に通常のATF(Automatic Transmission Fluid)よりもトラクション係数を高くしたものであり、上記の様な無段変速機構において使われている。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、駆動損失の発生を抑えることが可能な無段変速機と当該無段変速機の制御装置とを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、本発明は、入力部材と出力部材との間の回転比たる変速比を無段階に変化させる無段変速機構と、係合状態にある相互間での差動回転が可能な第1から第3の回転要素を有する差動機構と、が入力部と出力部との間に配設された無段変速機において、前記無段変速機構は、前記入力部材を駆動力源の出力が伝達される前記入力部に直接連結させ、前記差動機構は、共通の回転軸を有する前記第1回転要素と前記第2回転要素の間に回転軸の異なる前記第3回転要素を双方に係合させて配置したものであり、前記第1回転要素を前記無段変速機構の出力部材に直接連結させ、前記第2回転要素を前記入力部に直接連結させ、前記第3回転要素を前記出力部に直接連結させたことを特徴としている。
【0007】
また、上記目的を達成する為、本発明は、入力部材と出力部材との間の回転比たる変速比を無段階に変化させる無段変速機構と、係合状態にある相互間での差動回転が可能な第1から第3の回転要素を有する差動機構と、が入力部と出力部との間に配設された無段変速機の制御装置において、前記無段変速機構は、前記入力部材を駆動力源の出力が伝達される前記入力部に直接連結させたものであり、前記差動機構は、共通の回転軸を有する前記第1回転要素と前記第2回転要素の間に回転軸の異なる前記第3回転要素を双方に係合させて配置したものであり、前記第1回転要素を前記無段変速機構の出力部材に直接連結させ、前記第2回転要素を前記入力部に直接連結させ、前記第3回転要素を前記出力部に直接連結させたものであり、前記変速比を前記第1回転要素と前記第2回転要素とが同一回転数となるように制御することを特徴としている。
【0008】
ここで、前記第2回転要素は、前記第1回転要素よりも前記差動機構における分担トルクが大きいものであることが望ましい。
【0009】
また、前記無段変速機構は、前記入力部材と前記出力部材とに挟持され、且つ、その入力部材と当該出力部材の内の一方の回転に伴い転動して当該回転を他方に伝えると共に、傾転角を変えることで前記変速比を変化させる転動部材を備えたものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る無段変速機は、歯車群等の如き駆動抵抗となり得る箇所をトルク伝達経路上で可能な限り減らしているので、変速機全体を観ても駆動損失の発生が抑えられることになり、トルク伝達効率を向上させることができる。ここで、この無段変速機は、無段変速機構が或る所定の変速比のときに第1回転要素と第2回転要素とが同一回転数になる。そして、このときには、差動機構が差動動作(差動回転)を行わないので、差動機構での駆動損失が無くなり、無段変速機のトルク伝達効率がより良好なものとなる。本発明に係る無段変速機の制御装置は、その同一回転数の状態を変速比制御によって作り出し、無段変速機のトルク伝達効率を更に向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、制御対象となる実施例の無段変速機の構成の一例を示す概念図である。
【図2】図2は、図1の無段変速機の共線図である。
【図3】図3は、制御対象となる実施例の無段変速機の他の構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る無段変速機は、入力部材と出力部材との間の回転比たる変速比を無段階に変化させる無段変速機構と、相互間での回転差による差動動作が可能な第1から第3の回転要素を有する差動機構と、が入力部と出力部との間に配設されたものに関する。この無段変速機においては、その無段変速機構の入力部材を駆動力源の出力が伝達される前記入力部に直接連結させている。そして、差動機構については、共通の回転軸を有する第1回転要素と第2回転要素の間に回転軸の異なる第3回転要素を双方に係合させて配置したものとし、その第1回転要素を無段変速機構の出力部材に直接連結させ、第2回転要素を前記入力部に直接連結させ、第3回転要素を前記出力部に直接連結させる。このように、この無段変速機は、歯車群等の如き駆動抵抗となり得る箇所をトルク伝達経路上で可能な限り減らしているので、変速機全体を観ても駆動損失の発生が抑えられており、トルク伝達効率を向上させることができる。また、この無段変速機は、無段変速機構の変速比が或る所定の大きさとなったときに、第1回転要素と第2回転要素が同一回転数となり、差動機構の各回転要素の回転差が0になって、差動機構の差動動作が停止する。従って、本発明に係る無段変速機においては、そのときに差動機構の差動動作に伴う駆動損失の発生をも抑えることができ、更なるトルク伝達効率の向上が図れる。一方、本発明に係る無段変速機の制御装置は、その変速比のときの無段変速機の特質を考慮して、無段変速機構の変速比を第1回転要素と第2回転要素とが同一回転数となるように制御し、駆動損失の抑制に伴う燃費の向上効果や電力消費量の抑制効果を狙う。以下に、本発明に係る無段変速機及び無段変速機の制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
[実施例]
本発明に係る無段変速機及び無段変速機の制御装置の実施例を図1から図3に基づいて説明する。
【0014】
最初に、本実施例の無段変速機の一例について図1を用いて説明する。図1の符号100は、本実施例の無段変速機を示す。この無段変速機100においては、トルクの入力部を成す入力軸101と出力部を成す出力軸102とが同軸上に配置されている。その入力軸101は、車両の駆動力源の出力側に接続される。その入力軸101と出力軸102は、図1に示す如く、共通の回転軸Xを有する。以下においては、特に言及しない限り、その回転軸Xに沿う方向を軸線方向と云い、その回転軸X周りの方向を周方向と云う。また、その回転軸Xに直交する方向を径方向と云い、その中でも、内方に向けた側を径方向内側と、外方に向けた側を径方向外側と云う。
【0015】
この無段変速機100は、変速部を成す無段変速機構10と、この無段変速機構10を変速動作させるシフト機構20と、出力軸102と共に出力部を成す差動機構30と、を有する。
【0016】
先ず、本実施例の無段変速機構10について詳述する。
【0017】
この無段変速機構10は、サンローラ11と、転動部材としての複数の遊星ボール12と、トルクの入力部材としてインプットディスク13と、トルクの出力部材としてのアウトプットディスク14と、を備え、これらによってトラクション遊星ギヤ機構を成す。
【0018】
そのサンローラ11は、回転軸Xを中心軸とした回転が可能な例えば円筒状の回転体であり、入力軸101や出力軸102と同心円上に配置される。このサンローラ11は、その外周面が遊星ボール12の転動面となり、夫々の遊星ボール12の転動動作に伴って回転する。
【0019】
その夫々の遊星ボール12は、サンローラ11の外周面に回転軸Xを中心にして放射状に略等間隔で配置する。この遊星ボール12は、転動体であり、トラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンに相当する。この遊星ボール12は、完全な球状体であることが好ましいが、例えばラグビーボールの様な断面が楕円形状のものであってもよい。
【0020】
この遊星ボール12は、その中心を通って貫通させた支持軸12aによって回転自在に支持する。例えば、遊星ボール12は、支持軸12aの外周面との間に配設した軸受(図示略)によって、支持軸12aに対する相対回転(つまり自転)ができるようにしている。従って、この遊星ボール12は、支持軸12aを中心にしてサンローラ11の外周面上を転動することができる。
【0021】
この支持軸12aは、その中心軸が回転軸Xを含む平面上に来るよう配設する。この支持軸12aの基準となる位置は、図1に実線で示すように、その中心軸が回転軸Xと平行になる位置である。この支持軸12aは、その基準位置とそこから傾斜させた位置との間を揺動(傾転)させることができる。その傾転は、支持軸12aの中心軸と回転軸Xとを含む平面内で行われる。この傾転動作は、遊星ボール12の外周曲面から突出させた支持軸12aの両端部に取り付けたシフト機構20によって行う。
【0022】
シフト機構20は、その支持軸12aの両端部に夫々取り付けた傾転用アーム21と、この傾転用アーム21を動かす押動部材22と、を備える。
【0023】
その傾転用アーム21は、支持軸12aと遊星ボール12に傾転力を作用させ、その遊星ボール12の回転中心軸、即ち支持軸12aの中心軸を傾斜させる為の部材である。1本の支持軸12aと1個の遊星ボール12には、一対の傾転用アーム21が用意される。例えば、この傾転用アーム21は、回転軸Xに対して垂直方向へと延ばした形に成形及び配設する。そして、この傾転用アーム21は、その径方向外側の端部側を支持軸12aの端部に夫々取り付ける。一対の傾転用アーム21は、一方が径方向外側に移動し、他方が径方向内側に移動することで、支持軸12aと遊星ボール12に傾転力を作用させる。この傾転用アーム21は、キャリア15の円板部に形成した溝に動作可能な状態で収めて保持される。その溝は、傾転用アーム21の本数と位置に合わせ、回転軸Xを中心にして放射状に形成される。尚、この傾転用アーム21は、入力軸101に対しての軸線方向への相対移動と周方向への相対回転をさせぬように配設する。
【0024】
その傾転力は、押動部材22を軸線方向に移動させ、この押動部材22の押動力を傾転用アーム21の径方向内側部分に加えることで発生させる。例えば、支持軸12aを支持する一対の傾転用アーム21の径方向内側の先端部は、その軸線方向にて夫々に対向する壁面が径方向内側に向けて先細り形状になっている。また、押動部材22においては、その軸線方向の両端部の夫々の壁面が各傾転用アーム21の先細り面との接触面となり、その接触面が径方向外側に向けた先細り形状になっている。これにより、傾転用アーム21は、押動部材22の押動力が加わった際に径方向外側へと押し上げられるので、支持軸12aを傾斜させ、これに連動して遊星ボール12を傾転させる。その遊星ボール12の傾転角φは、図1の基準位置を0度とする。
【0025】
このシフト機構20には、その押動部材22を動作させる可動部及び係合部(図示略)が設けられている。その可動部は、軸線方向へと往復移動できるものである。一方、係合部は、押動部材22に係合されたものであり、その可動部と一体になって往復移動する。このシフト機構20においては、その可動部を動作させることで係合部も軸線方向に移動させ、これにより押動部材22を軸線方向に押し動かす。ここで、このシフト機構20は、電動モータ等の電動アクチュエータや油圧アクチュエータなどを可動部の駆動源(図示略)として備えている。その駆動源は、その動作が制御装置1によって制御される。
【0026】
この無段変速機構10には、遊星ボール12と支持軸12aと傾転用アーム21をサンローラ11や入力軸101に対して軸線方向に相対移動させぬよう保持するキャリア15が設けられている。そのキャリア15は、回転軸Xを中心軸とする一対の円板部を有している。その夫々の円板部は、遊星ボール12、支持軸12a及び傾転用アーム21等を軸線方向にて挟む位置に配設し、これらをサンローラ11や入力軸101に対して軸線方向へと相対移動させぬように保持する。また、この夫々の円板部は、入力軸101に対する周方向への相対回転をさせぬように配設する。
【0027】
インプットディスク13とアウトプットディスク14は、夫々の遊星ボール12との間で機械的動力、換言するならばトルクを相互に伝達させ得るものである。インプットディスク13とアウトプットディスク14は、回転軸Xを中心軸とする円環状に成形し、軸線方向で対向させて各遊星ボール12を挟み込むように配設する。
【0028】
具体的に、このインプットディスク13とアウトプットディスク14は、各遊星ボール12の径方向外側の外周曲面と接触する接触面を有している。その夫々の接触面は、遊星ボール12の外周曲面の曲率と同等の曲率の凹円弧面を成しており、回転軸Xから各遊星ボール12との接触部分までの距離が同じ長さになるように形成している。これが為、ここでは、インプットディスク13とアウトプットディスク14の各遊星ボール12に対する夫々の接触角θが同じ角度になっている。その接触角θとは、基準から各遊星ボール12との接触部分までの角度のことである。ここでは、径方向を基準にしている。その夫々の接触面は、遊星ボール12の外周曲面に対して点接触又は線接触している。尚、その線接触における接触線の向きは、上述した遊星ボール12の傾転時の平面に対する直交方向である。また、夫々の接触面は、インプットディスク13とアウトプットディスク14に対して遊星ボール12に向けた軸線方向の力を加えた際に、その遊星ボール12に対して径方向内側で且つ斜め方向の力が加わるように形成されている。
【0029】
ここで、インプットディスク13は、歯車群等の如き駆動抵抗となり得る係合関係にある部分(以下、「駆動抵抗部」という。)を介さずに入力軸101に対して直接連結されており、この入力軸101と一体になって回転する。一方、アウトプットディスク14は、入力軸101に対して相対回転できるように配設する。
【0030】
この無段変速機構10においては、夫々の遊星ボール12の傾転角φが0度のときに、インプットディスク13とアウトプットディスク14とが同一回転数(同一回転角速度)で回転する。つまり、このときには、インプットディスク13とアウトプットディスク14の回転数の比が1になっている。その回転数の比は、この無段変速機構10の変速比γCVPである。一方、夫々の遊星ボール12を基準位置から傾転させた際には、支持軸12aの中心軸からインプットディスク13との接触部分までの距離が変化すると共に、支持軸12aの中心軸からアウトプットディスク14との接触部分までの距離が変化する。これが為、インプットディスク13又はアウトプットディスク14の内の何れか一方が基準位置のときよりも高速で回転し、他方が低速で回転するようになる。例えばアウトプットディスク14は、遊星ボール12を一方へと傾転させたときにインプットディスク13よりも低回転になり(増速)、他方へと傾転させたときにインプットディスク13よりも高回転になる(減速)。従って、この無段変速機構10においては、その傾転角φを変えることによって、インプットディスク13とアウトプットディスク14との間の回転数(回転角速度)の比である変速比γCVPを無段階に変化させることができる。尚、ここでの増速時には、図1における上側の遊星ボール12を紙面時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール12を紙面反時計回り方向に傾転させる。また、減速時には、図1における上側の遊星ボール12を紙面反時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール12を紙面時計回り方向に傾転させる。ここで、その変速比γCVPについては、接触角θと傾転角φとを用いて下記の式1で求められる。
【0031】
【数1】

【0032】
この無段変速機構10には、インプットディスク13又はアウトプットディスク14の内の少なくとも何れか一方を各遊星ボール12に押し付けて、インプットディスク13及びアウトプットディスク14と各遊星ボール12との間に挟圧力を発生させる押圧部(図示略)が設けられている。その押圧部は、無段変速機構10における入出力間のトルク伝達を維持させる為の軸線方向の力(押圧力)を発生させることで、その間に挟圧力を生じさせる。例えば、この押圧部は、電動アクチュエータや油圧アクチュエータ等の駆動源であってもよく、配設対象のインプットディスク13又はアウトプットディスク14の回転に伴い押圧力を発生させるトルクカム等の機構であってもよい。この無段変速機構10においては、その押圧部を動作させて押圧力を発生させることで、インプットディスク13及びアウトプットディスク14と各遊星ボール12との間に挟圧力が生じ、その間に摩擦力が発生する。これが為、この無段変速機構10では、インプットディスク13の回転に伴い夫々の遊星ボール12が転動し、その夫々の遊星ボール12の自転による回転トルクがアウトプットディスク14に伝わって、そのアウトプットディスク14を回転させる。または、この無段変速機構10においては、アウトプットディスク14の回転に伴い夫々の遊星ボール12が転動し、その夫々の遊星ボール12の自転による回転トルクがインプットディスク13に伝わって、そのインプットディスク13を回転させることも可能である。
【0033】
差動機構30は、係合状態にある相互間での差動動作(差動回転)が可能な第1から第3の回転要素を有するものである。例えば、この差動機構30は、共通の回転軸Xを有する第1回転要素と第2回転要素の間に回転軸の異なる第3回転要素を双方に螺合させて配置した遊星ギヤ機構として構成する。この差動機構30においては、アウトプットディスク14と係合関係にあるものを第1回転要素、インプットディスク13と係合関係にあるものを第2回転要素、出力軸102と係合関係にあるものを第3回転要素とする。
【0034】
具体的に、この差動機構30は、回転要素として、回転軸Xを中心軸とする円筒部の内周面に歯面が形成されたリングギヤ31と、回転軸Xを中心軸とする円筒部の外周面に歯面が形成されたサンギヤ32と、そのリングギヤ31とサンギヤ32の歯面間に配設されて夫々に噛み合う複数の遊星ギヤ33と、を有する。夫々の遊星ギヤ33は、遊星ギヤキャリア34によって連結されている。そして、その遊星ギヤキャリア34には、出力軸102が一体になって回転するよう駆動抵抗部を介さずに直接連結されている。従って、この差動機構30においては、遊星ギヤキャリア34を介して出力軸102と係合関係にある夫々の遊星ギヤ33が第3回転要素となる。
【0035】
この無段変速機100においては、駆動抵抗部を介さずにリングギヤ31をインプットディスク13と入力軸101に対して直接連結させ、これらを一体になって回転させる。これが為、本実施例の差動機構30においては、そのリングギヤ31が第2回転要素となる。また、この無段変速機100では、同じく駆動抵抗部を介さずにサンギヤ32をアウトプットディスク14に対して直接連結させ、これらを一体になって回転させる。これが為、本実施例の差動機構30においては、そのサンギヤ32が第1回転要素となる。
【0036】
このように、この無段変速機100においては、入力軸101に入力された駆動力源側からの出力トルクがリングギヤ31とインプットディスク13とに分配される構造になっている。ここで、その入力軸101における入力トルクを「Tin」、リングギヤ31に分配されるトルクを「T1」、インプットディスク13に分配されるトルクを「T2」とすると、その夫々の分配トルクT1,T2は、下記の式2,3の如くなる。その式2,3において、「ρ」は、リングギヤ31の歯数Zrとサンギヤ32の歯数Zsの比である(ρ=Zs/Zr)。そのトルクの分配比は、式2,3からも明らかなように無段変速機構10の変速比γCVPに応じて変化する。
【0037】
【数2】

【0038】
【数3】

【0039】
また、アウトプットディスク14における出力トルクT3は、下記の式4の通りになる。この出力トルクT3は、そのままサンギヤ32の回転トルクとなる。
【0040】
【数4】

【0041】
この無段変速機100の出力トルクToutは、分配トルクT1と出力トルクT3と差動機構30の歯車比によって決まる。つまり、この無段変速機100の入出力間(入力軸101と出力軸102との間)の回転数の比は、無段変速機構10の変速比γCVPだけで決まらず、差動機構30の歯車比(即ち差動回転の影響)も考慮する必要がある。ここでは、この回転数の比が無段変速機100の最終的な変速比γとなる。この無段変速機100の変速比γは、下記の式5から導かれる。
【0042】
【数5】

【0043】
ところで、上述した分配トルクT1は、リングギヤ31等の差動機構30を介して、つまり無段変速機構10を介さずに出力軸102に伝達される。
【0044】
ここで、この種の無段変速機構10は、同程度の体格(大きさ)のものと比べると、歯車群でトルクを伝えるものよりも伝達トルク容量が低くなる。また、差動機構30は回転要素によって分担トルクの大きさが異なるが、この無段変速機構10は、最も大きな分担トルクに合わせて上述した押圧部の押圧力を設定しなければならず、トルクの伝達効率が落ちる。ここで云う分担トルクとは、インプットディスク13とアウトプットディスク14とが同一回転数のときに差動機構30を差動回転させずに一体回転させる為のものである。尚、ここでは、インプットディスク(Din)13及びアウトプットディスク(Dout)14と夫々の遊星ボール12との間の微小な滑り(所謂クリープ)が発生していないと仮定しているので、図2の共線図における等速時の状態が該当する。入力トルクTinpgが同じ場合、リングギヤ31とサンギヤ32の夫々の分担トルクTring,Tsunは、下記の式6,7のようになる。通常は、乗用車の自動変速機に用いられる遊星歯車機構のリングギヤ31の歯数Zrとサンギヤ32の歯数Zsの比ρが1よりも小さく、例えば0.3〜0.6程度である。これが為、リングギヤ31は、サンギヤ32よりも分担トルクが大きいことが判る。そして、このことから、無段変速機構10においては、サンギヤ32と係合関係にあるアウトプットディスク14に押圧部から過剰な押圧力が加わることとなり、トルクの伝達効率が悪化する。尚、その図2の共線図は、等速時の他に、遊星ボール12を増速側に傾転させたとき(増速時)と減速側に傾転させたとき(減速時)についても示している。
【0045】
【数6】

【0046】
【数7】

【0047】
しかしながら、この無段変速機100は、入力トルクTinの一部(分配トルクT1)が無段変速機構10を介することなくリングギヤ31に伝えられる構造になっているので、入力トルクTinの全てが無段変速機構10を介して出力されるものと比して、トルク伝達効率が向上している。更に、この無段変速機100は、その入力トルクTinの一部が歯車群等の駆動抵抗部を介さずに直接リングギヤ31に伝達される構造となっているので、かかるトルク伝達経路上で駆動損失が無く、その入力トルクTinの一部を損失無くリングギヤ31に伝えることができる。また更に、この無段変速機100は、アウトプットディスク14の出力トルクT3が駆動抵抗部を介さずに直接サンギヤ32に伝達される構造となっているので、かかるトルク伝達経路上でも駆動損失が無く、その出力トルクT3を損失無くサンギヤ32に伝えることができる。これらのことから、この無段変速機100は、トルク伝達効率が良好なものとなっている。従って、この無段変速機100は、駆動力源に内燃機関等のエンジンを用いるならば燃費が向上し、駆動力源に電動モータを用いるならば電力消費量が抑えられる。特に、この無段変速機100においては、無段変速機構10の変速比γCVPが所定の大きさ(本構造ではγCVP=1)のときに、リングギヤ31とサンギヤ32が同一回転数で回転し、差動機構30が差動回転せずに一体となって回転するので、その差動機構30における駆動損失も無くなる。故に、このときの無段変速機100は、その動作形態の中で最も良好なトルク伝達効率となって、最良の燃費の向上効果や電力消費量の抑制効果を得ることができる。かかる効果は、差動機構30の潤滑にトラクションフルードが使われようとも同じように得ることができる。
【0048】
また、その入力トルクTinの一部でリングギヤ31の分担トルクを受け持つことから、無段変速機構10においては、分担トルクの小さいサンギヤ32の分のトルクだけを受け持てばよく、入出力間の伝達トルクが小さくなるので、押圧部の押圧力を低く抑えることができる。これが為、この無段変速機構10は、トルクの伝達効率が向上する。従って、無段変速機100は、その伝達トルク容量が増加する。
【0049】
以上示した無段変速機100は、良好なトルク伝達効率を確保できるだけでなく、伝達トルク容量を増加させることもできる最良のものとして例示した。ここで、無段変速機の伝達トルク容量の増加を目的としないのならば、図3に示す無段変速機110の様に構成してもよい。
【0050】
その無段変速機110は、上述した無段変速機100に対して、リングギヤ31の連結先をアウトプットディスク14に変更すると共に、サンギヤ32の連結先を入力軸101とインプットディスク13に変更したものである。この無段変速機110においても、駆動抵抗部を介することなく入力軸101とインプットディスク13を直接サンギヤ32に連結させ、且つ、駆動抵抗部を介することなくアウトプットディスク14を直接リングギヤ31に連結させる。
【0051】
従って、この無段変速機110は、入力トルクTinの一部(分配トルクT1)が無段変速機構10を介することなくサンギヤ32に伝えられる構造になっているので、入力トルクTinの全てが無段変速機構10を介して出力されるものと比して、トルク伝達効率が向上している。更に、この無段変速機110は、その入力トルクTinの一部が駆動抵抗部を介さずに直接サンギヤ32に伝達される構造となっているので、かかるトルク伝達経路上で駆動損失が無く、その入力トルクTinの一部を損失無くサンギヤ32に伝えることができる。また更に、この無段変速機110は、アウトプットディスク14の出力トルクT3が駆動抵抗部を介さずに直接リングギヤ31に伝達される構造となっているので、かかるトルク伝達経路上でも駆動損失が無く、その出力トルクT3を損失無くリングギヤ31に伝えることができる。これらのことから、この無段変速機110は、無段変速機100と同様に、トルク伝達効率が良好なものとなり、燃費の向上効果や電力消費量の抑制効果が得られる。特に、この無段変速機110においても、無段変速機構10の変速比γCVPが所定の大きさ(本構造ではγCVP=1)のときには、無段変速機100と同様に、その動作形態の中で最も良好なトルク伝達効率となって、最良の燃費の向上効果や電力消費量の抑制効果を得ることができる。
【0052】
ここで、上述した2つの無段変速機100,110を比較する。先に例示した無段変速機100は、無段変速機110に対して伝達トルク容量の増加と云う効果も持っている。これが為、この無段変速機100は、同じ大きさの伝達トルク容量にするのであれば、無段変速機110よりも体格を小さくすることができ、小型化に有用である。また、この無段変速機100は、同程度の体格であれば、無段変速機110よりも伝達トルク容量を増やすことができる。
【0053】
以上示したように、本実施例の無段変速機100,110は、無段変速機構10や駆動抵抗部を介さずに入力トルクTinの一部(分配トルクT1)を直接出力軸102側へと出力させ、且つ、駆動抵抗部を介さずにアウトプットディスク14の出力トルクT3を直接出力軸102側へと出力させて、駆動損失を可能な限り低く抑えているので、トルク伝達効率が良好なものとなり、燃費向上や電力消費量の抑制を図ることができる。更に、この無段変速機100,110は、変速比γCVPが上述した所定の大きさのときに差動機構30における駆動損失も無くなるので、最良のトルク伝達効率に伴う最良の燃費の向上効果や電力消費量の抑制効果となる。また、無段変速機100については、差動機構30の各回転要素の中で最も分担トルクの大きいもの(リングギヤ31)を入力軸101とインプットディスク13に直接連結し、その分担トルクの大きい回転要素に対して入力トルクTinの一部を伝達させる構造を採っているので、無段変速機構10においては分担トルクの小さい回転要素(サンギヤ32)に合わせた低い押圧部の押圧力で事足りる。これが為、この無段変速機100は、無段変速機構10におけるトルクの伝達効率が向上することになるので、伝達トルク容量を増加させることができる。
【0054】
ここで、制御装置1は、燃費の向上効果や電力消費量の抑制効果を狙って構成してもよい。この制御装置1は、所定の条件の下で燃費の向上や電力消費量の抑制を図れるように、その条件のときにリングギヤ31とサンギヤ32を同一回転数で回転させるよう無段変速機構10の変速比γCVPを所定の大きさ(本構造ではγCVP=1)に制御する。その所定の条件とは、燃費の向上効果や電力消費量の抑制効果を得たいとき又はその効果を優先させたいときの条件であり、車両における所定の走行条件や駆動力源における所定の運転条件等である。例えば、定速走行時には、駆動輪側で大きな駆動力を必要としないので、無段変速機構10の変速比γCVPをそのような大きさ(つまり無段変速機100,110の変速比γを1)にしても車両の動力性能に不都合は生じない一方、本制御を行うことで燃費向上等の効果が得られる。これが為、所定の走行条件としては、定速走行時が考えられる。また、駆動力源が電動モータの場合には、駆動輪側で大きな駆動力を必要とする発進時等の低速走行時も所定の走行条件に該当する。この場合には、本制御を行っても電動モータの出力制御によって必要な駆動力を確保することができるからであり、その駆動力の確保の為に要する電力消費量と本制御を行わないことによる電力消費量とを比較して、電力消費量の少なくなる方を適宜選択させるようにすればよい。また、所定の運転条件としては、駆動力源がエンジンの場合のフューエルカット時で且つ所謂エンジンブレーキに相当する車両減速度を必要としないときが考えられる。このときには、本制御によって燃費を向上させることができるのみならず、無段変速機100,110に起因する車両減速度の増加を抑えることができる。
【0055】
また、上述した差動機構30はシングルピニオン式のものを例に挙げたが、差動機構については、所謂ダブルピニオン式の遊星歯車機構(図示略)であってもよい。この場合にも、上述した無段変速機100,110や制御装置1と同様の効果を得ることができる。この場合には、例えば、入力軸101とインプットディスク13を一方のリングギヤに直接連結し、そのリングギヤに螺合されている遊星ギヤのキャリアに出力軸102を直接連結し、アウトプットディスク14をサンギヤに直接連結する。または、これに替えて、入力軸101とインプットディスク13をサンギヤに直接連結させ、且つ、アウトプットディスク14を上記のリングギヤに直接連結させたものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明に係る無段変速機及び無段変速機の制御装置は、駆動損失の発生を抑制させる技術として有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 制御装置
10 無段変速機構
11 サンローラ
12 遊星ボール
13 インプットディスク
14 アウトプットディスク
30 差動機構
31 リングギヤ
32 サンギヤ
33 遊星ギヤ
34 遊星ギヤキャリア
100,110 無段変速機
101 入力軸
102 出力軸
X 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部材と出力部材との間の回転比たる変速比を無段階に変化させる無段変速機構と、係合状態にある相互間での差動回転が可能な第1から第3の回転要素を有する差動機構と、が入力部と出力部との間に配設された無段変速機において、
前記無段変速機構は、前記入力部材を駆動力源の出力が伝達される前記入力部に直接連結させ、
前記差動機構は、共通の回転軸を有する前記第1回転要素と前記第2回転要素の間に回転軸の異なる前記第3回転要素を双方に係合させて配置したものであり、前記第1回転要素を前記無段変速機構の出力部材に直接連結させ、前記第2回転要素を前記入力部に直接連結させ、前記第3回転要素を前記出力部に直接連結させたことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記第2回転要素は、前記第1回転要素よりも前記差動機構における分担トルクが大きいものであることを特徴とした請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記無段変速機構は、前記入力部材と前記出力部材とに挟持され、且つ、該入力部材と当該出力部材の内の一方の回転に伴い転動して当該回転を他方に伝えると共に、傾転角を変えることで前記変速比を変化させる転動部材を備えたものであることを特徴とした請求項1又は2に記載の無段変速機。
【請求項4】
入力部材と出力部材との間の回転比たる変速比を無段階に変化させる無段変速機構と、係合状態にある相互間での差動回転が可能な第1から第3の回転要素を有する差動機構と、が入力部と出力部との間に配設された無段変速機の制御装置において、
前記無段変速機構は、前記入力部材を駆動力源の出力が伝達される前記入力部に直接連結させたものであり、
前記差動機構は、共通の回転軸を有する前記第1回転要素と前記第2回転要素の間に回転軸の異なる前記第3回転要素を双方に係合させて配置したものであり、前記第1回転要素を前記無段変速機構の出力部材に直接連結させ、前記第2回転要素を前記入力部に直接連結させ、前記第3回転要素を前記出力部に直接連結させたものであり、
前記変速比を前記第1回転要素と前記第2回転要素とが同一回転数となるように制御することを特徴とした無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記第2回転要素は、前記第1回転要素よりも前記差動機構における分担トルクが大きいものであることを特徴とした請求項4記載の無段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記無段変速機構は、前記入力部材と前記出力部材とに挟持され、且つ、該入力部材と当該出力部材の内の一方の回転に伴い転動して当該回転を他方に伝えると共に、傾転角を変えることで前記変速比を変化させる転動部材を備えたものであることを特徴とした請求項4又は5に記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−153645(P2011−153645A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14409(P2010−14409)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】