説明

無段変速機用プッシュベルトの支持リングの形成方法

基本材料のストリップを提供するステップと、ストリップをリング(8)状に曲げるステップと、溶接によりストリップの末端(21、22)を互いに固定するステップとを含む、無段変速機のプッシュベルトのリング(8)を製造する方法。形成されるリング(8)の縁部における不均一性を防止するために、ストリップの対向する側に配置される、溶接補助具(31、32)を適用する。溶接(41)は一方の溶接補助具(31、32)で開始され、この溶接(41)は他方の溶接補助具(31、32)で終了する。溶接工程の後、溶接補助具(31、32)をリング(8)から分離する。曲げられた多数のストリップを一列に配置し、単一の溶接動作による溶接で閉じることが可能である。さらに、一列に並ぶ複数のリング(8)の外側のリング(8)を溶接補助具として用いて、この列以外のリング(8)のみをプッシュベルトに適用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機用の閉ループ状のプッシュベルトにおける横断要素のキャリアとして機能するリングの形成方法に関し、
基本材料のリボン形状ストリップを提供するステップと、
ストリップを曲げることにより閉リングを形成し、その際、ストリップの末端を互いに対向配置するステップと、
リング状に形成されたストリップ(9)の末端(21、22)を溶接により互いに固定するステップと、を含む。
【背景技術】
【0002】
無段変速機用のプッシュベルトは周知である。通常、そのようなプッシュベルトは、比較的多数の横断要素を支えるための、2セットの無端の閉ループ状リングを含む。リングは相対的に平らで幅広である。すなわち、リングの内周と外周との間の半径方向距離が、軸方向の寸法に対して相対的に小さい。プッシュベルトにおいて横断要素は、リングの全周に沿って連続的に配置され、これにより、運転中、プッシュベルトの動きに関連した力を伝達することが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
無段変速機において、プッシュベルトは2つの共働プーリー間に配置される。運転中、プッシュベルトは一方のプーリーから他方のプーリーにトルクを伝達し、無断変速比を実現する。
【0004】
無段変速機の運転中、プッシュベルトのリングは曲げ力と牽引力を受ける。曲げ力は、実質的に、リングの厚さと、リングがプーリーに存在するときにリング部が曲げられる程度とによって決定される。牽引力は、実質的に、プッシュベルトが両プーリー間に掛けられる張力によって決定される。
【0005】
前記曲げ力および牽引力の結果として、リングの材料疲労はプッシュベルトに起こりうる故障の一因となりうる。疲労は、使用された材料の種類と品質に関連する。例えば、材料の不均一性の結果としてヘアクラックが生じうる。通常、ヘアクラックの発生は、表面における大きな曲率の結果として、張力の大きな集中が生じる場所で最初に起こる。したがって、高い表面品質を有する材料のリングを製造することが重要である。
【0006】
要求される高い表面品質を有する基本材料は、結果として得られるリングの左右面の寸法に適合する適切な幅と厚さを備えて供給されてもよい。この基本材料を適切な長さのストリップに切り取り、ストリップを曲げてリング状にし、溶接によりストリップの末端を互いに固定することによって、硬化および延伸のような、いくつかの仕上げ工程後、プッシュベルトに適用可能であるリングが実現される。しかしながら、融接を適用する溶接により末端を互いに固定する工程において、材料の収縮の結果として、溶接シーム端部で不完全部が生じる。材料のこの収縮は、溶接浴内の溶融物質の表面張力、および溶接浴内に発生する可能性のある流動の表面張力の結果である。その結果、リングの両側で、リングの幅方向、すなわち軸方向にへこみが生じる。そのようなへこみを有するリングを無段変速機用のプッシュベルトで使用する場合、へこみにおける張力集中の結果として運転中にヘアクラックが容易に生じ、リングの破損をもたらしうる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、高い表面品質を有する基本材料のストリップを備える無段変速機用のプッシュベルトのリングを製造することであり、その際、溶接によるストリップの末端の接合中にへこみが生じることを防止する。
【0008】
本発明ではこの目的を達成するために、溶接に先立ち、当接する末端の位置で、ストリップの対向する側で、イン側溶接補助具およびアウト側溶接補助具をストリップに対向配置してリングを形成する方法が提供される。その際、溶接工程はイン側溶接補助具内で開始されるとともに、アウト側溶接補助具内で終了する。そして、溶接されたリングおよび溶接補助具は、溶接後に互いに分離される。
【0009】
本発明の手段の結果として、溶接中の材料の収縮の結果としてリングの縁部にへこみが形成されることは防止される。溶接補助具が、溶接されるリングに対向配置されることにより、リング材料に対する空気の移行部は、溶接方向においてどこにも生じない。溶接はイン側溶接補助具内のどこかで開始され、その結果、あたかも溶接が材料内で、リングに対するイン側溶接補助具の移行部においても、絶えず行なわれているように見える。アウト側溶接補助具に対するリングの移行部についても同じことが言える。溶接浴内の溶融物質は、表面張力の影響下で、リングのそれぞれの縁部に対して収縮する傾向にはない。その結果として、リングの縁部の位置では、溶接シームがリング内でリングと同一に見える。しかしながら、上記ステップの結果として、溶接補助具は溶接によりリングに固定される。したがって、本発明による方法の最終ステップとして、さらに溶接補助具がリングから分離される。
【0010】
リング状に溶接されるための2つまたはそれ以上のストリップが溶接補助具間に配置されると好適である。当然ながら、リングと溶接補助具との間の移行部についての上記の利点は、2つのリング間の移行部にも適用することができる。これにより、原則として、無制限の数のリングを単一の溶接動作で溶接することが可能である。
【0011】
別の方法として、溶接補助具は、同じ基本材料を含む、リング状に溶接されるストリップにより同様に形成されてもよい。溶接される1セットのリングに連続的に新しいリングを付加することにより、リングの溶接工程を連続工程で行なうことが可能である。その場合、後に実行されるリングの分離もまた、連続工程で行なうことが可能である。
【0012】
溶接を適用する目的で少なくとも1つのリングが挟持される際、リングの内周に位置するリングの領域が、溶接を適用する領域に対応する位置で自由にされていることが好ましい。
【0013】
本発明による方法は、(プラズマ)アーク溶接、レーザ溶接および電子ビーム溶接などの融接方法の適用に適している。
【0014】
溶接補助具がリング状に溶接されるストリップと同じ材料を含むと好適である。なぜなら、そのような場合、物理的な意味のみならず材料の組成の意味においても、溶接補助具とリングとの間に実質的に移行部がないことが保証されるからである。溶接補助具がリング状に溶接されるストリップによって形成される場合、形成されるリングが同一であるとすると、確実にこのケースとなる。
【0015】
尚、完全を期すため、形成される溶接側で、溶接補助具の表面が、少なくとも形成される溶接の位置においてリング表面と同一平面を形成する。その結果、溶接補助具とリングとの間には実質的に移行部がなくなる。溶接補助具の厚み寸法が、少なくとも溶接されるリングの厚み寸法と同じであると好適である。溶接補助具をリングへ良好に接続するために、リングに面する溶接補助具の側面が、溶接が適用される表面に対して実質的に垂直向きである平らな境界面を構成すると好適である。
【0016】
また本発明は、本発明の方法に従って製造された少なくとも1つのリングを備えるプッシュベルトに関する。
【0017】
さらに、本発明は、上記プッシュベルトを備えた無段変速機に関する。
【0018】
本発明の種々の態様、特徴および利点を、図面を参照しながら以下の記述によりさらに説明する。なお、以下の記述において、同一の参照符号は同一または同様の構成部品を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、例えば自動車において採用される無段変速機を概略的に示す。無段変速機は参照符号1によって概略的に示されている。
【0020】
無段変速機1は、別個のプーリーシャフト2、3に配置された2つのプーリー4、5を備える。閉ループ状の無端プッシュベルト6はプーリー4、5の回りに配置され、プーリーシャフト2、3間でトルクを伝達するように機能する。各プーリー4、5は2つのプーリーシーブを備え、プッシュベルト6は前記2つのプーリーシーブ間に狭持される。これにより、摩擦の働きを受けながら、プーリー4、5とプッシュベルト6との間に力が伝達されうる。
【0021】
プッシュベルト6は、少なくとも1つの無端のキャリア7を備え、キャリア7は通常、多数のリングからなる。キャリア7の全長に沿って、複数の横断要素10が配置され、この横断要素10は相互に隣接している。便宜上、図1には、これらの横断要素10のうちの数個のみを示す。
【0022】
図2は、金属合金のストリップ9を示し、ストリップ9は、溶接に先立ちリング状に曲げられ、その際、末端21、22はまだ互いから自由である。溶接工程において、ストリップ9の末端21、22は、互いに対向配置され、その後、末端21、22は溶接により互いに固定される。これにより、閉リング8が実現される。閉リング8は、原則としていくつかの仕上げ工程の後、プッシュベルト6に適用可能である。
【0023】
無段変速機1のプッシュベルト6用キャリア7の製造においては、通常、このストリップは厚さ1mm未満であり、圧延/延伸後、例えば0.4mmまたは0.2mmとなる。ストリップ9がマルエイジング鋼製であると好適である。
【0024】
図3は、溶接により相互に連結された末端21、22の位置で、溶接されたリングの細部を示す図である。図2に示すように、丸く曲げられた金属製ストリップは、融接の適用による、現状技術に従った溶接工程によってリング状に溶接されている。溶接は図3内の矢印で示される方向に行なわれる。これにより実現された溶接シーム23の外周を点線で示す。
【0025】
図3は、溶接シーム23の両方の縁部にへこみ24、25が存在することを明白に示す。溶接シーム23と、へこみ24、25との双方は、誇張して相対的に大きめに描かれている。実際には、溶接シームおよびへこみは、リングの横寸法に対してはるかに小さい。
【0026】
へこみ24、25は、溶接中、矢印で示された溶接方向で材料が収縮した結果として発生している。この収縮は、溶接浴内の溶融金属の表面張力、および溶接浴内に起こる可能性のある流動による表面張力の結果であるとともに、溶接継手の最初と最後の双方で、溶接シームの端部が、空気に対する金属の移行部となる位置で発生する。
【0027】
図4は、本発明による溶接構成を概略的に示す図である。この図では、図2に示すように、丸く曲げられた金属のストリップ9の互いに対向配置された末端21、22が描かれている。イン側溶接補助具31およびアウト側溶接補助具32は、互いに対向配置された末端21、22の位置でリング8に対向配置される。続いて、末端21、22は溶接により相互に連結されており、その際、溶接工程はイン側溶接補助具31内で開始されるとともに、アウト側溶接補助具32内で終了している。図4において、溶接が行なわれる方向を矢印で示す。溶接補助具31、32の双方の範囲内に延在する溶接シーム41を、その外周で点線により示す。溶接シーム41は、誇張して相対的に幅広に描かれている。実際には、溶接シーム41はリング8の横寸法に対してはるかに狭い。
【0028】
溶接後、溶接補助具31、32およびリング8は、例えば分割または切断による除去によって互いから分離される。溶接シーム41の位置でのリング8の領域は、場合により適切な仕上げ工程を必要とする。
【0029】
本発明に従う方法は、(プラズマ)アーク溶接、レーザ溶接および電子ビーム溶接のような融接の分野で適用可能である。
【0030】
本発明は、互いに隣接して配置される複数のリング8を溶接する可能性を提供する。この目的を達成するため、曲げられた多数のストリップ9は、互いに当接する溶接補助具31、32の間に配置可能である。この工程において、リング8は単一の溶接動作で形成される。溶接の後、リング8は互いから分離される。
【0031】
本発明の構想内で、一列に並ぶ複数のリング8の外側のリング8を溶接補助具として適用することも可能である。その場合、個別の溶接補助具を適用する必要はない。そのような場合、この外側のリング8はプッシュベルト6に適用できないが、他の全てのリング8は適用可能である。
【0032】
上記においては、無段変速機1用のプッシュベルト6のリング8を製造する方法が述べられている。この方法は、基本材料のストリップ9を提供するステップと、ストリップ9をリング8状に曲げるステップと、溶接によりストリップ9の末端21、22を互いに固定するステップと、を含む。形成されるリング8の縁部における不均一性を防止するために、イン側溶接補助具31およびアウト側溶接補助具32を適用し、これをストリップ9の対向する側に配置する。溶接41は、イン側溶接補助具31内で開始される一方、溶接41は、アウト側溶接補助具32内で終了する。溶接工程の後、溶接補助具31、32はリング8から分離される。曲げられた多数のストリップ9を一列に配置し、これらを単一の溶接動作により閉じることが可能である。さらに、一列に並ぶ複数のリング8の外側のリング8を溶接補助具として用い、この列以外のリング8のみをプッシュベルト6に適用することが可能である。
【0033】
本発明は上述の実施形態の例に限定されず、添付の特許請求の範囲に定めた本発明の保護範囲内で様々な修正および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】プッシュベルトを有する無段変速機の側面の概略図である。
【図2】溶接に先立ち、リング状に曲げられたストリップの斜視図である。
【図3】現状技術に従った溶接継手の細部の概略図である。
【図4】本発明に従った溶接構成の概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 無段変速機
2、3 プーリーシャフト
4、5 プーリー
6 プッシュベルト
7 キャリア
8 閉リング
9 ストリップ
10 横断要素
21、22 末端
23 溶接シーム
24、25 へこみ
31 イン側溶接補助具
32 アウト側溶接補助具
41 溶接シーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本材料のリボン形状のストリップ(9)を提供するステップと、
該ストリップ(9)を曲げることにより閉リング(8)を形成し、その際、前記ストリップ(9)の末端(21、22)が互いに対向配置されるステップと、
リング状に形成された前記ストリップ(9)の末端(21、22)を溶接により互いに固定するステップと、を含む、
無段変速機(1)用の閉ループ状のプッシュベルト(6)内で横断要素(10)のキャリア(7)として機能するリング(8)の形成の方法であって、
溶接に先立ち、当接する前記末端(21、22)の位置で、前記ストリップ(9)の対向する側で、イン側溶接補助具(31)およびアウト側溶接補助具(32)が前記ストリップ(9)に対向配置され、溶接工程が、前記イン側溶接補助具(31)内で開始されるとともに前記アウト側溶接補助具(32)内で終了し、溶接された前記リング(8)および前記溶接補助具(31、32)が、溶接の後に互いから分離される、方法。
【請求項2】
リング(8)状に溶接される少なくとも2つのストリップ(9)が、前記溶接補助具(31、32)間に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イン側溶接補助具(31)および前記アウト側溶接補助具(32)のうちの少なくとも1つが、リング(8)状に溶接されるストリップ(9)によって形成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ストリップ(9)の配置と、該ストリップ(9)のリング(8)への溶接と、該リング(8)の互いからの分離とが、連続工程で行なわれる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶接が、(プラズマ)アーク溶接、レーザ溶接、または電子ビーム溶接のような融接工程の手段により行われる、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記溶接補助具(31、32)が、リング(8)状に溶接される前記ストリップ(9)と同じ材料を含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの記載に従う前記方法に沿って製造された少なくとも1つのリング(8)を含む、プッシュベルト(6)。
【請求項8】
請求項7に記載の該プッシュベルト(6)を含む、無段変速機(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−519830(P2009−519830A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545517(P2008−545517)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【国際出願番号】PCT/NL2006/000639
【国際公開番号】WO2007/073158
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(506124642)ロバート ボッシュ ジーエムビーエイチ (12)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Postfach 300220, 70442 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】