説明

無段変速装置

【課題】前後進切り替え装置と切り替えクラッチとを用いることなく、逆転、ニュートラル、正転の低速から高速まで大変幅広い領域をカバーすることのできる小型の無段変速装置を提供する。
【解決手段】第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構20、30の2つの入力軸側固定プーリ23、33を、背中合わせにした状態で一体的に結合固定する。さらに、出力軸側固定プーリ35と出力軸側可動プーリ24との間に、遊星歯車機構40のプラネタリキャリア入力軸420に連なった出力軸側可動プーリ34と、遊星歯車機構40のサンギヤ入力軸410に連なった出力軸側固定プーリ25とを、背中合わせにした状態で相対回転可能、かつサンギヤ入力軸410上を一体的に移動可能に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無段変速装置に関し、特に、2つの巻き掛け式無段変速機構と、2つの入力成分を融合させて1つの出力成分とする遊星歯車機構とを備えた無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の無段変速装置にあっては、入力軸と出力軸との間に、ベルトまたはチェーンとそれを挟持する入力軸側及び出力軸側のプーリ(可動プーリ、固定プーリ)を備えた2つの巻き掛け式無段変速機構(バリエータ)を並列させ、各変速機構から出力される2つの出力成分を遊星歯車機構に入力して融合させ、1つの出力成分として出力するように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭52−79172号公報
【特許文献2】特開昭63−9770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の無段変速装置にあっては、前後者共に、プーリ幅を変えて変速比制御を行うために、4つの可動プーリの背部にはプーリ移動装置(例えば、油圧室、油圧シリンダまたは駆動モータ等)がそれぞれ設けられている。このため、入出力軸は長くなり、無段変速装置が大型化するので車載性が悪いという問題がある。
また、2つの巻き掛け式無段変速機構から出力される2つの出力成分をそれぞれ遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとに入力させて、プラネタリキャリアから1つの出力成分として出力するように構成されている。このため、サンギヤとリングギヤとは速度差はあるものの同一の回転方向となるので、プラネタリキャリアはそれにしたがって回転(正転)するものの、逆転、ニュートラルはできないので、前後進切り替え装置と切り替えクラッチとが必要になるという問題がある。
【0005】
そこで、この発明は、上記した従来技術が有している問題点を解決するためになされたものであって、前後進切り替え装置と切り替えクラッチとを用いることなく、逆転、ニュートラル、正転の低速から高速まで大変幅広い領域をカバーすることのできる小型の無段変速装置を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、ベルトまたはチェーンの側面を、入力軸側の可動及び固定プーリと出力軸側の可動及び固定プーリとで挟んで、前記可動プーリ背面側のプーリ移動装置によって前記可動プーリを移動させて前記ベルトまたは前記チェーンを左右から押し付け、その摩擦力によって動力を伝達する2つの巻き掛け式無段変速機構と、前記2つの巻き掛け式無段変速機構の2つの出力成分を入力して融合させ、1つの出力成分として出力する遊星歯車機構と、を備えた無段変速装置において、
前記2つの入力軸側固定プーリは、背中合わせにされた状態で一体的に結合固定していることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、2つの入力軸側固定プーリは、背中合わせにされた状態で一体的に結合固定しているので、2つの入力軸側可動プーリの背面側にそれぞれプーリ移動装置を設けても、従来よりも入力軸の全長を短くすることができる。これにより、無段変速装置を小型化することができる。
【0008】
上記目的を達成するため請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成において、前記一方の出力軸側固定プーリと他方の出力軸側可動プーリとの間に、前記遊星歯車機構のプラネタリキャリア入力軸またはリングギヤ入力軸に連なった一方の出力軸側可動プーリと、前記遊星歯車機構のサンギヤ入力軸またはプラネタリキャリア入力軸に連なった他方の出力軸側固定プーリとを、背中合わせにした状態で相対回転可能、かつ前記サンギヤ入力軸上または前記プラネタリキャリア入力軸上を一体的に移動可能に設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、他方の出力軸側可動プーリの背面側に設けたプーリ移動装置によって、出力軸側に設けられた2組のプーリのプーリ幅を変化させる。これにより、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、従来よりも出力軸側の長手方向(軸方向)が短くなるので、無段変速装置をより小型化することができる。さらには、出力軸側において従来よりも可動プーリを移動させるためのプーリ移動装置を1つ削減することができるので、無段変速装置の構成をより簡素化することができると共に、コストを削減することができる。
また、無段変速装置は、無限の変速幅をもつようになるので、エンジンの最も燃費の良い領域を使って、クラッチ無しで発進から最高速まで加速することが可能となると共に、前後進切り替え装置と切り替えクラッチとを用いることなく、逆転、ニュートラル、正転の低速から高速まで大変幅広い領域をカバーすることができるようになる。
【0010】
上記目的を達成するため請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明の構成において、変速の制御は、前記2つの入力軸側可動プーリをそれぞれ移動させるための油圧バランスをコントロールすることにより行い、前記ベルトまたは前記チェーンの張力は、前記2つの入力軸側可動プーリと前記他方の出力軸側可動プーリとをそれぞれ移動させるための圧力絶対値によって行う圧力制御油圧機構を備えていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、圧力制御油圧機構により、変速の制御は、2つの入力軸側可動プーリをそれぞれ移動させるための油圧バランスをコントロールすることにより行い、ベルトまたはチェーンの張力は、2つの入力軸側可動プーリと他方の出力軸側可動プーリとをそれぞれ移動させるための圧力絶対値によって行われる。これにより、請求項2に記載の発明の作用効果に加えて、第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構を同時に可変することによって、変速応答性を2倍に向上できると共に、同じ総ギア比では、一方のバリエータ変速比幅を小さく設定できるので、ベルトまたはチェーンの耐久性や伝達効率の良い変速域を使用することができるようになる。
【0012】
上記目的を達成するため請求項4に記載の発明は、ベルトまたはチェーンの側面を、入力軸側の可動及び固定プーリと出力軸側の可動及び固定プーリとで挟んで、前記可動プーリ背面側のプーリ移動装置によって前記可動プーリを移動させて前記ベルトまたは前記チェーンを左右から押し付け、その摩擦力によって動力を伝達する2つの巻き掛け式無段変速機構と、前記2つの巻き掛け式無段変速機構の一方の出力をサンギヤに入力し、前記2つの巻き掛け式無段変速機構の他方の出力を、前記サンギヤと係合するピニオンギヤを支持するプラネタリキャリアに入力すると共に、前記サンギヤと前記ピニオンギヤに係合するリングギヤから1つの出力成分として出力する遊星歯車機構と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、2つの巻き掛け式無段変速機構から出力される2つの出力成分をそれぞれ遊星歯車機構のサンギヤと、ピニオンギヤを支持するプラネタリキャリアとに入力させて、リングギヤから1つの出力成分として出力するように構成されている。このため、サンギヤとプラネタリキャリアとの速度差に応じて、リングギヤの回転方向を逆方向、或いは回転を停止させることが可能となる。したがって、無段変速装置は、無限の変速幅をもつようになるので、エンジンの最も燃費の良い領域を使って、クラッチ無しで発進から最高速まで加速することが可能となると共に、前後進切り替え装置と切り替えクラッチとを用いることなく、逆転、ニュートラル、正転の低速から高速まで大変幅広い領域をカバーすることができるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の無段変速装置によれば、逆転、ニュートラル、正転の低速から高速まで大変広い領域をカバーすることができるので、交通機関のトランスミッションのみならず、農業工作機械、工業工作機械、航空機用、船舶用の動力伝達装置等、幅広い分野で利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る無段変速装置を図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る無段変速装置の概略構成を示した模式図、図2は、図1のスケルトン図、図3は、無段変速装置の変速マップデータ、図4は、図3の変速マップデータを用いた変速制御の一例を示す図である。
【0016】
無段変速装置10は、図1に示されるように、入力軸11、出力軸12、第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構20、30、遊星歯車機構40、圧力制御油圧機構50を備えている。
【0017】
詳述すると、入力軸11は、図示しないエンジン出力軸(クランク軸)から出力された駆動力(回転、トルク)を無段変速装置10に入力する動力伝達軸である。この入力軸11と出力軸12との間には、入力軸11から伝達された駆動力を無段変速するように並列された第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構20、30と、これら第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構20、30から出力される2つの出力成分を入力して融合させ、1つの出力成分として出力軸12に伝達する遊星歯車機構40とが配設されている。
【0018】
第1の巻き掛け式無段変速機構20は、ベルト(またはチェーン)21の側面を入力軸側の可動及び固定プーリ22、23と、出力軸側の可動及び固定プーリ24、25とで挟んでベルト21を左右から押し付け、その摩擦力によって動力を伝達する。
第2の巻き掛け式無段変速機構30も、第1の巻き掛け式無段変速機構20と同様に、ベルト(またはチェーン)31の側面を入力軸側の可動及び固定プーリ32、33と、出力軸側の可動及び固定プーリ34、35とで挟んでベルト31を左右から押し付け、その摩擦力によって動力を伝達する。
【0019】
第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構20、30の入力軸側固定プーリ23、33は、互いに背中合わせにされた状態で、例えば機械的結合や冶金的結合、或いは一体形成により一体的に結合固定された状態で、入力軸11上に抜け止め固定されている。
【0020】
可動プーリ22は、入力軸11上にボールスプライン嵌合していると共に、この可動プーリ22の背面には、制御ユニット51の制御下にあるプーリ移動装置としての油圧室26、油圧シリンダ27、図示しない油圧回路、油圧制御弁が設けられている。これにより、可動プーリ22は、制御ユニット51の制御信号に基づいて入力軸11上を移動する。
【0021】
これと同様に、可動プーリ32も、入力軸11上にボールスプライン嵌合していると共に、この可動プーリ32の背面には、制御ユニット51の制御下にあるプーリ移動装置としての油圧室36、油圧シリンダ37、図示しない油圧回路、油圧制御弁が設けられている。これにより、可動プーリ32は、制御ユニット51の制御信号に基づいて入力軸11上を移動する。
また、入力軸11の軸内部には、入力軸11に沿って可動プーリ22、32を移動させるための油圧を油圧室26、36に対して給排するための油路110、111がそれぞれ設けられている。
【0022】
このように、2つの入力軸側固定プーリ23、33は、背中合わせにされた状態で一体的に結合固定しているので、2つの入力軸側可動プーリ23、33の背面側にそれぞれプーリ移動装置を設けても、従来よりも入力軸11の全長が短くなり、無段変速装置10の小型化が図られることとなる。
【0023】
第1の出力軸側可動プーリ24と第2の出力軸側固定プーリ34との間には、遊星歯車機構40のサンギヤ入力軸410上にボールスプライン嵌合によって移動可能に連なった第1の出力軸側固定プーリ25と、遊星歯車機構40のプラネタリキャリア入力軸420内周にボールスプライン嵌合によって移動可能、かつサンギヤ入力軸41上に相対回転可能に連なった第2の出力軸側可動プーリ35とが背中合わせにされた状態で、スラストベアリング13を介して相対回転可能に一体的に連結されている。
【0024】
すなわち、一体化された第1の出力軸側固定プーリ25と第2の出力軸側可動プーリ35とは、サンギヤ入力軸41上を移動可能に設けられていると共に、第1の巻き掛け式無段変速機構20の出力成分は、遊星歯車機構40のサンギヤ41に入力され、第2の巻き掛け式無段変速機構30の出力成分は、遊星歯車機構40のプラネタリキャリア42に入力される。
【0025】
第1の出力軸側可動プーリ24は、出力軸11と同軸の回転軸14にボールスプライン嵌合していると共に、その背面には、制御ユニット51の制御下にあるプーリ移動装置としての油圧室28、油圧シリンダ29、図示しない油圧回路、油圧制御弁が設けられている。また、回転軸14の軸内部には、回転軸14に沿って可動プーリ24を移動させるための油圧を油圧室28に対して給排するための油路140が設けられている。
【0026】
これにより、可動プーリ24が制御ユニット51の制御信号に基づいて回転軸14上を移動することにより、出力軸側の可動プーリ24と固定プーリ25のプーリ溝幅、及び、可動プーリ34と固定プーリ35とのプーリ溝幅を変化させることが可能となっている。また、出力軸12〜回転軸14(出力軸側)の長手方向が短縮化され、入力軸11の短縮化と相俟って、無段変速装置10の小型化が図られることとなる。
【0027】
遊星歯車機構40は、シングルプラネタリ式が用いられており、サンギヤ41が第1の巻き掛け式無段変速機構20から出力される出力成分の入力を担当し、サンギヤ41に噛み合うピニオンギヤ43を支持するプラネタリキャリア42が第2の巻き掛け式無段変速機構30から出力される出力成分の入力を担当し、ピニオンギヤ43と噛み合うリングギヤ44が出力を担当している。そして、サンギヤ41には、出力軸12と同軸のサンギヤ入力軸410、プラネタリキャリア42には、サンギヤ入力軸410に相対回転可能に支持されたプラネタリキャリア入力軸420、リングギヤ44には出力軸12がそれぞれ連なっている。
なお、遊星歯車機構40は、シングルプラネタリ式のみに限定されるものではなく、ダブルプラネタリ式を用いてもよい。
【0028】
圧力制御油圧機構50は、制御ユニット51、各プーリ移動装置(油圧室26、28、36、油圧シリンダ27、29、37、油圧回路、油圧制御弁)を備えている。なお、プーリ移動装置は、油圧式に限定されるものではなく、例えば、駆動モータを用いた電気式であってもよい。
【0029】
制御ユニット51は、マイクロプロセッサと各種入出力ポートとを備え、中央演算部が、ROMによりファームウェア化されている種々のアプリケーションプログラムを実行することにより、各種マップデータ(図3に一例を図示)と各種車載センサで検出されたエンジン負荷(アクセル開度)、エンジン回転数、変速比(車速)とに基づいて、2つの入力軸側可動プーリ22、32の作動圧と、出力軸側可動プーリ24の作動圧とを変化させ、第1及び第2の巻き掛け式無段変速機20、30のそれぞれのプーリ溝幅を制御するようになっている。変速の制御は、2つの入力軸側可動プーリ22、32をそれぞれ移動させるための油圧バランスをコントロールすることにより行い、ベルト21、31の張力は、2つの入力軸側可動プーリ22、32と1つの出力軸側可動プーリ24とをそれぞれ移動させるための圧力絶対値によって行う。
【0030】
ここで、図3のマップデータの求め方を説明する。
図2に示されるように、入力軸11から伝達された駆動力は、第1の巻き掛け式無段変速機20(以下、バリエータ20)の入力プーリ(可動及び固定プーリ22、23、以下同様)と、第2の巻き掛け式無段変速機30(以下、バリエータ30)の入力プーリ(可動及び固定プーリ32、33のこと、以下同様)とにより分割され、各バリエータ20、30のベルト21、31を介してバリエータ20の出力プーリ(可動及び固定プーリ24、25のこと、以下同様)、バリエータ30の出力プーリ(可動及び固定プーリ34、35のこと、以下同様)に伝達される。この状態をバリエータ20の入力プーリ、バリエータ30の入力プーリの回転数をNI、バリエータ20の出力プーリの回転数をNS、バリエータ30の出力プーリの回転数をNC、バリエータ20の変速比R1、バリエータ30の変速比R2とすると、
NS=NI/R1 …(式1)
NC=NI/R2 …(式2)
【0031】
バリエータ20の出力プーリの出力成分は遊星歯車機構40のサンギヤ41、バリエータ30の出力プーリの出力成分はプラネタリキャリア42にそれぞれ入力されて融合され、1つの出力成分としてリングギア44から出力される。
この状態を、サンギヤ41の歯数をZS、リングギヤ44の歯数をZR、リングギヤ44の回転数をNRとすると、
ZS*NS+ZR*NR=(ZS+ZR)*NC …(式3)
が成立し、これより
NR={(ZS+ZR)/RS−ZS/R1}/ZR*NI …(式4)
となる。
ここで、ZR/ZS=R3とすると、
NR={(1+1/R3)/R2−1/R3/R1)*NI …(式5)
となる。
この式5から入力回転数NIに対する出力回転数NRギア比は、
NR/NI=(1+1/R3)−1/R3/R1 …(式6)
これをR1とR2とを変数とし、R3を定数(例えば、72/48=1.5)とすると図3のマップデータが得られる。
以上、図3のマップデータの求め方を説明した。
【0032】
さらに、制御ユニット51は、第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構20、30、すなわち2組のバリエータ20、30の変速比が同じ変速比で達成可能な変速比の場合は、2組のバリエータ20、30の変速比が等しくなるように制御する。また、片方のバリエータの変速比が上限或いは下限に達した場合は、図4の実線矢印で示されるように、他方のバリエータのみで変速を行う。
さらには、2組のバリエータ20、30の変速比が同じでは達成できない変速比が目標変速比になった場合は、図4の点線矢印で示されたように、一方のバリエータの変速速度を下げたり、停止したり、変速方向を逆にするようになっている。
【0033】
これにより、無段変速装置10は、無限の変速幅をもつようになるので、エンジンの最も燃費の良い領域を使って、クラッチ無しで発進から最高速まで加速することが可能となると共に、前後進切り替え装置と切り替えクラッチとを用いることなく、逆転(逆転ギヤ比は、1:1位まで拡張可能)、ニュートラル、正転の低速から高速(増速側は入力に対して4倍ぐらいまで取れる)まで大変幅広い領域をカバーすることができるようになる。しかも、変速は、連続的に行われるため、変速ショックは皆無である。
また、2組のバリエータ20、30を同時に可変することによって、変速応答性を2倍に向上できると共に、同じ総ギア比では、一方のバリエータ変速比幅を小さく設定できるので、ベルト21、31の耐久性や伝達効率の良い変速域(レンジ)が使用できるようになる。
さらにまた、本無段変速装置10をハイブリッド車に組み合わせることで、低車速での回生ブレーキ時における効率を向上させることができる。
【0034】
以上述べたように本発明の無段変速装置によれば、2つの入力軸側固定プーリ23、33は、背中合わせにされた状態で一体的に結合固定しているので、2つの入力軸側可動プーリ22、32の背面側にそれぞれプーリ移動装置を設けても、従来よりも入力軸11の全長を短くすることができる。これにより、無段変速装置10を小型化することができる。
【0035】
また、本発明によれば、第1の巻き掛け式無段変速機構20の出力軸側可動プーリ24の背面側に設けたプーリ移動装置によって、出力軸側に設けられた2組のプーリ24、25及び34、35の各プーリ幅を変化させる。これにより、従来よりも出力軸側の長手方向(軸方向)を短くすることができるので、無段変速装置10をより小型化することができる。また、出力軸側において従来よりも可動プーリを移動させるためのプーリ移動装置を1つ削減することができるので、無段変速装置10の構成をより簡素化することができると共に、コストを削減することができる。また、無限の変速幅をもつようになるので、エンジンの最も燃費の良い領域を使って、クラッチ無しで発進から最高速まで加速することが可能となると共に、前後進切り替え装置と切り替えクラッチとを用いることなく、逆転、ニュートラル、正転の低速から高速まで大変幅広い領域をカバーすることができるようになる。
【0036】
また、本発明によれば、圧力制御油圧機構50により、変速の制御は、2つの入力軸側可動プーリをそれぞれ移動させるための油圧バランスをコントロールすることにより行い、ベルトまたはチェーンの張力は、2つの入力軸側可動プーリと他方の出力軸側可動プーリとをそれぞれ移動させるための圧力絶対値によって行われる。これにより、第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構20、30を同時に可変することによって、変速応答性を2倍に向上できると共に、同じ総ギア比では、一方のバリエータ変速比幅を小さく設定できるので、ベルト21、31の耐久性や伝達効率の良い変速域(レンジ)が使用できるようになる。
【0037】
また、本発明によれば、第1及び第2の巻き掛け式無段変速機構20、30から出力される2つの出力成分をそれぞれ遊星歯車機構40のサンギヤ41と、ピニオンギヤ43を支持するプラネタリキャリア42とに入力させて、リングギヤ44から1つの出力成分として出力するように構成されている。このため、サンギヤ41とプラネタリキャリア42との速度差に応じて、リングギヤ44の回転方向を逆方向、或いは回転を停止させることが可能となる。したがって、無段変速装置10は、無限の変速幅をもつようになるので、エンジンの最も燃費の良い領域を使って、クラッチ無しで発進から最高速まで加速することが可能となると共に、前後進切り替え装置と切り替えクラッチとを用いることなく、逆転、ニュートラル、正転の低速から高速まで大変幅広い領域をカバーすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態に係る無段変速装置の概略構成を示した模式図である。
【図2】図1のスケルトン図である。
【図3】無段変速装置の変速マップデータである。
【図4】図3の変速マップデータを用いた変速制御の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10…無段変速装置
11…入力軸
12…出力軸
20…第1の巻き掛け式無段変速機構(バリエータ)
21…ベルト
22…入力軸側可動プーリ(入力プーリ)
23…入力軸側固定プーリ(入力プーリ)
24…出力軸側可動プーリ(出力プーリ)
25…出力軸側固定プーリ(出力プーリ)
26、28…油圧室(プーリ移動装置)
27、29…油圧シリンダ(プーリ移動装置)
30…第2の巻き掛け式無段変速機構(バリエータ)
31…ベルト
32…入力軸側可動プーリ(入力プーリ)
33…入力軸側固定プーリ(入力プーリ)
34…出力軸側可動プーリ(出力プーリ)
35…出力軸側固定プーリ(出力プーリ)
36…油圧室(プーリ移動装置)
37…油圧シリンダ(プーリ移動装置)
40…遊星歯車機構
41…サンギヤ
42…プラネタリキャリア
44…リングギヤ
50…圧力制御油圧機構
51…制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトまたはチェーンの側面を、入力軸側の可動及び固定プーリと出力軸側の可動及び固定プーリとで挟んで、前記可動プーリ背面側のプーリ移動装置によって前記可動プーリを移動させて前記ベルトまたは前記チェーンを左右から押し付け、その摩擦力によって動力を伝達する2つの巻き掛け式無段変速機構と、前記2つの巻き掛け式無段変速機構の2つの出力成分を入力して融合させ、1つの出力成分として出力する遊星歯車機構と、を備えた無段変速装置において、
前記2つの入力軸側固定プーリは、背中合わせにされた状態で一体的に結合固定していることを特徴とする無段変速装置。
【請求項2】
前記一方の出力軸側固定プーリと他方の出力軸側可動プーリとの間に、前記遊星歯車機構のプラネタリキャリア入力軸またはリングギヤ入力軸に連なった一方の出力軸側可動プーリと、前記遊星歯車機構のサンギヤ入力軸またはプラネタリキャリア入力軸に連なった他方の出力軸側固定プーリとを、背中合わせにした状態で相対回転可能、かつ前記サンギヤ入力軸上または前記プラネタリキャリア入力軸上を一体的に移動可能に設けたことを特徴とする請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項3】
変速の制御は、前記2つの入力軸側可動プーリをそれぞれ移動させるための油圧バランスをコントロールすることにより行い、前記ベルトまたは前記チェーンの張力は、前記2つの入力軸側可動プーリと前記他方の出力軸側可動プーリとをそれぞれ移動させるための圧力絶対値によって行う圧力制御油圧機構を備えていることを特徴とする請求項2に記載の無段変速装置。
【請求項4】
ベルトまたはチェーンの側面を、入力軸側の可動及び固定プーリと出力軸側の可動及び固定プーリとで挟んで、前記可動プーリ背面側のプーリ移動装置によって前記可動プーリを移動させて前記ベルトまたは前記チェーンを左右から押し付け、その摩擦力によって動力を伝達する2つの巻き掛け式無段変速機構と、
前記2つの巻き掛け式無段変速機構の一方の出力をサンギヤに入力し、前記2つの巻き掛け式無段変速機構の他方の出力を、前記サンギヤと係合するピニオンギヤを支持するプラネタリキャリアに入力すると共に、前記サンギヤと前記ピニオンギヤに係合するリングギヤから1つの出力成分として出力する遊星歯車機構と、を備えたことを特徴とする無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−14015(P2009−14015A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173082(P2007−173082)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】