説明

無線通信装置およびその盗難防止方法

【課題】盗難防止装置の取り付け作業が不要となり、顧客の邪魔にならず、かつ、美観を損ねないような盗難防止技術を提供する。
【解決手段】無線通信装置は、データ通信手段と測距手段とを備えた無線通信部と、測距手段により測定された無線通信装置から特定の位置までの距離が盗難警告の出力条件を満たすと盗難警告を出力する警告出力部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置などの盗難防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
最近になり、ウルトラワイドバンド(UWB)が注目されている。UWBで使用される無線信号は、500MHz以上の帯域幅または中心周波数の20%以上となる帯域幅を有している。そのため、大量のデータを高速に通信することができる。
【0003】
一方で、UWBは、精度の高い測距機能を実現しやすいことも知られている。特許文献1によれば、UWBパルスが送信されてから障害物に反射して返ってくるまでの時間を計測することで、障害物まで距離を求める方法が開示されている。
【特許文献1】特開平2003−174368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、販売店においてデジタルカメラや携帯電話等の携帯機器の盗難が多発している。一般に、販売店は、磁気カード型の盗難防止装置を携帯機器の筐体外側に取り付けることで、盗難防止対策を施している。
【0005】
しかしながら、盗難防止装置の取り付け作業は非常に面倒である。加えて、盗難防止装置が取り付けられていると、携帯機器を試用する際に顧客が邪魔に感じたり、携帯機器の美観が損なわれたりするおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、このような課題および他の課題のうち、少なくとも1つを解決することを目的とする。なお、他の課題については明細書の全体を通して理解できよう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る無線通信装置は、データ通信手段と測距手段とを備えた無線通信部と、測距手段により測定された無線通信装置から特定の位置までの距離が盗難警告の出力条件を満たすと盗難警告を出力する警告出力部とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無線通信装置が備える測距機能を応用することで、盗難防止装置の取り付け作業が不要となり、顧客の邪魔にならず、かつ、美観を損ねることなく、好適に盗難を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の一実施形態を示す。もちろん以下で説明される個別の実施形態は、本発明の上位概念、中位概念および下位概念などを理解するために役立つであろう。また、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0010】
[第1の実施形態]
図1は、実施形態に係る盗難防止方法を説明するための概念図である。ここでは、無線通信装置または無線通信装置を搭載した製品の一例としてデジタルカメラ110を取り上げることにする。もちろん、デジタルカメラ110は単なる例示にすぎない。
【0011】
販売店の室内100は、一般に、4つの壁101、102、103、104により囲まれている。また、室内100には、少なくとも1つの出入り口105が設けられている。一般に、デジタルカメラ110が盗難されるときは、この出入り口105を通じてデジタルカメラ110が持ち去られる。よって、出入り口105からデジタルカメラ110までの距離が所定の閾値未満となれば、盗難警告を出力すべきといえる。距離が所定の閾値未満となることは、盗難警告の出力条件の一例にすぎない。例えば、デジタルカメラ110が設置された場所からの距離が所定以上となったことを、盗難警告の出力条件としてもよい。
【0012】
なお、デジタルカメラ110がUWB通信機能を備えている場合、デジタルカメラ110は、PC120とデータ通信することができる。もちろん、PC120も、UWB通信機能を備えることはいうまでもない。なお、PC120は、他の無線通信装置の一例にすぎない。すなわち、PC120は、キャッシュレジスタなど販売店に備えられている一般的な情報処理装置であってもよい。
【0013】
図2は、実施形態に係るデジタルカメラの一例を示すブロック図である。CPU201は、デジタルカメラ110に備えられる種々のユニットを制御する制御装置である。メモリ202は、RAM、ROMまたはハードディスクドライブなどの記憶装ユニットである。メモリ202には、コンピュータプログラムのコードや各種のデータなどが記憶されている。なお、CPU201と種々のユニットは、内部バス203を介して接続されている。
【0014】
通信モード制御部204、データ通信制御部205、測距制御部206、UWB PHY(物理層/無線部)207、および、アンテナ208は、UWBによるデータ通信機能と測距機能とを実現するための主要なユニットである。これらの無線通信に関連するユニットによって無線通信部が実現される。
【0015】
通信モード制御部204は、例えば、UWB PHY207をデータ通信に使用するか、測距に使用するかを制御する。データ通信制御部205は、データ通信に関する種々の制御を行なう。測距制御部206は、UWB PHY207を通じた測距処理を制御する。UWB PHY207は、Wireless USBなどの物理層に相当する無線回路のことである。標準化作業が進んでいるWireless USBも上述したUWB方式を物理層に採用する可能性が高い。Wireless USBでは、スーパーフレームを構成するMAS(メディア・アクセス・スロット)を使用してデータ通信が行われることになりそうである。
【0016】
測距制御部206が測距を行なうタイミングは、データ通信制御部205がデータ通信のためにUWB PHY207を使用していないときであれば、いつでもよい。例えば、スーパーフレームにおいて、65msごとにビーコン区間が挿入されると仮定する。この場合、このビーコン区間を用いて測距を行なえば、データ区間に与える影響がほとんどなくて好ましい。CPU201または測距制御部206が、データ通信制御部205の動作を監視することで、測距の実行タイミング(例:ビーコン区間)を検出し、測距の開始を指示してもよい。なお、データ通信のスループットを低下させることを許容できるのであれば、測距制御部206は、データ通信区間を利用して測距を行なってもよい。
【0017】
アンテナ208は、無指向性のアンテナであってもよいが、測距精度の観点からは、指向性の強いアンテナであることが望ましいだろう。もちろん、アンテナ208の指向性については、例えば、通信モード制御部204が制御する。この場合は、指向性が可変となる。
【0018】
メモリカード制御部209は、デジタルカメラ110から着脱可能なメモリ(例CFカードやSDカードなど)230への情報の書き込みと、メモリ230からの情報の読み出しとを制御する。当該メモリ230は、メモリを収納するためのメモリカードスロット210に挿入される。なお、メモリカードスロット210には、開閉可能なフタ211が設けられている。メモリカード制御部209は、フタ211の開閉を検出する機能も備えていてもよい。この場合、メモリカード制御部209は、フタ211が開いたことまたは閉じたことをCPU201へ通知する。
【0019】
ところで、CPU201は、盗難の監視を行なう盗難監視モードと、盗難の監視を行なわない非監視モードとを備えていてもよい。例えば、デジタルカメラ110が店頭に展示されているときは、CPU201は、盗難監視モードで動作する。
【0020】
盗難監視モードと非監視モードとの切り替えは様々な方法により実現できる。例えば、上述したメモリ230に盗難監視モードを解除するためのキーデータを記憶しておく。CPU201は、このキーデータの読み出しに成功すると、盗難監視モードから非監視モードに切り替える。これにより、キーデータの記憶された特定のメモリカードを持っている人だけが盗難監視機能を無効にすることが可能となる利点がある。
【0021】
なお、CPU201は、非監視モードにおいて、通常どおりデータ通信を許可する一方で、盗難監視モードでは、データ通信の実行を制限してもよい。この場合、非監視モードを通常通信モードと呼ぶことができよう。なお、盗難監視モードでCPU201が動作している場合に、データ通信が完全に禁止されてしまうと不都合が生じるかもしれない。例えば、デジタルカメラ110により撮影された画像を、UWB PHY207を介してプリンタに送信して印刷することすら制限されてしまうからである。よって、盗難監視モードにおいても、データ通信が許容されることが望ましいだろう。
【0022】
USB制御部212は、USBコネクタ213に接続されたUSBメモリ231への情報の書き込みと、USBメモリ231からの情報の読み出しとを制御する。このUSBメモリ231に、盗難監視モードを解除するためのキーデータが記憶されていてもよい。
【0023】
電池フタ検出部214は、電池収納部215についている電池フタ216の開閉を検出し、検出結果をCPU201へ通知する。電池240をデジタルカメラ110から抜き取って持ち去ろうとした場合、まず、電池フタ216が開けられる。よって、盗難監視モード下でCPU201が動作しているときに、電池フタ216が開けられると、盗難警告を出力することが望ましい。電池240は、比較的に盗まれやすい高価な部品だからである。
【0024】
充電制御部217は、充電回路218を通じて、電池収納部215に収納されている電池240を充電する。クレードル接点219は、デジタルカメラ110に対応したクレードルに備えられている電力供給用の金属接点に対応して設けられている。なお、充電制御部217は、クレードル接点219がクレードル側の金属接点と接続されているかを検出してもよい。CPU201は、この検出結果に基づいて、デジタルカメラ110がクレードルに装着されているかどうかを認識できる。なお、デジタルカメラ110がクレードルに装着されているときに電池240を充電することで、電池残量を気にすることなく、盗難を監視することが可能となる。
【0025】
音声出力制御部220は、警告音や警告メッセージなどをスピーカー221から出力する。また、表示制御部222は、液晶表示装置(LCD)223に警告メッセージを表示させたり、液晶表示装置(LCD)223を明滅表示させたりする。なお、CPU201は、LEDなどの発光手段を明滅させることで盗難警告を出力してもよい。当業者であれば、これらが、盗難警告を出力する警告出力部として機能することを理解できよう。このような盗難警告を出力することで、デジタルカメラ100の盗難を防止できよう。
【0026】
操作部224は、スイッチやボタンなどの入力デバイスを備えている。すなわち、操作部224は、ユーザインタフェースの一部として機能する。
【0027】
図3は、実施形態に係る盗難監視モードと非監視モードとの状態遷移図である。盗難監視モード301と非監視モード302とを切り替える方法には、上述したキーデータを用いる方法に加え、例えば、次のような方法がある。
【0028】
・特別のUSBケーブル(USBコネクタ)を使用する方法
・PC120から切り替えを指示する方法
・デジタルカメラ110の操作部224から切り替えを指示する方法。
【0029】
なお、非監視モード302から盗難監視モード301に切り替える方法と、盗難監視モード301から非監視モード302に切り替える方法とは完全に一致していてもよいし、一致していなくてもよい。
【0030】
図3によれば、非監視モード302から盗難監視モード301に切り替える方法として、PC120や操作部224から切り替えを指示する方法が例示されている。一方、盗難監視モード301から非監視モード302に切り替える方法としては、特別のUSBケーブルを用いる方法やキーデータの記憶されたメモリを使用する方法が例示されている。
【0031】
これらの切り替え方法は、一例にすぎず、CPU201は、パスワードの入力による認証処理に成功した場合にのみ、盗難監視モードへの遷移や解除を許可してもよい。また、CPU201は、切り替えを許可するためのキーデータが記憶されたUSBメモリやメモリカードがデジタルカメラ110に装着されていることを、切り替えの条件としてもよい。これらにより、意図しない盗難監視モードの解除を抑制できよう。
【0032】
特別のUSBケーブルとしては、例えば、USBケーブル内でD+の信号線と、D−の信号線とがクロスしているUSBケーブルが考えられる。なお、ケーブルを省略して、USBコネクタのみでモード切り替え用のUSBケーブルを実現してもよい。
【0033】
図4は、実施形態に係る盗難防止方法を示す例示的なフローチャートである。ここでは、PC120から盗難監視モードへの切り替え指示を入力するものとする。また、非監視モードへの切り替えるために、メモリカードに記憶されているキーデータが使用されるものとする。
【0034】
ステップS401において、CPU201は、USBコネクタ213にUSBケーブルが接続されているか否かをUSB制御部212に問い合せて判定する。USBケーブルの他端には、PC120が接続されているものとする。USBコネクタ213にUSBケーブルの一端が接続されていれば、ステップS402へと進む。USBコネクタ213にUSBケーブルが接続されていなければ、CPU201は、待機する。
【0035】
ステップS402において、CPU201は、PC120上で実行されているアプリケーションプログラムから盗難監視モードへの切り替え指示が送信されてくるのを待つ。切り替え指示を受信すると、ステップS403に進む。
【0036】
ステップS403において、CPU201は、動作モードを非監視モードから盗難監視モードに切り替える。
【0037】
ステップS404において、CPU201は、測距制御部205に測距の開始を命令する。測距制御部205は、デジタルカメラ110から特定の位置(例:出入り口や他の無線通信装置)までの距離を測定する。なお、測距制御部205は、スーパーフレームのうちビーコン区間で測距を行なうことが望ましい。これは、データ通信制御部205の通信処理を妨害しないためである。なお、データ通信制御部205の通信処理を停止させる場合、測距制御部205は、データ通信区間においても測距を行なうことが可能となる。
【0038】
ステップS405において、CPU201は、メモリカードスロット210にメモリ230が接続されているかを、メモリカード制御部209に問い合せて判定する。メモリ230が接続されていなければ、ステップS406に進む。
【0039】
ステップS406において、CPU201は、測定された距離が、盗難警告の出力条件に合致するか否かを判定する。例えば、CPU201は、当該距離が、所定の閾値未満か否かを判定する。出力条件に合致しなければ、ステップS404に戻る。なお、この閾値は、メモリ202に記憶されているものとする。もちろん、デジタルカメラ110が展示される電波環境に合わせて閾値を変更してもよい。例えば、変更後の閾値は、操作部224を通じて入力されてもよい。また、CPU201は、PC120上で実行されるアプリケーションプログラムを通じて閾値の変更を受け付けてもよい。
【0040】
出力条件に合致すれば、ステップS407に進み、CPU201は、スピーカー221または液晶表示装置223の少なくとも一方に盗難警告を出力する。
【0041】
一方、ステップS405においてメモリ230が検出されると、ステップS410に進み、CPU201は、メモリ230にキーデータが記憶されているか否かを判定する。記憶されていなければ、盗難監視モードを継続させるために、ステップS406に進む。一方、キーデータが記憶されていれば、ステップS411に進み、CPU201は、動作モードを非監視モードに切り替える。
【0042】
本実施形態によれば、無線通信装置が備える測距機能を応用することで、盗難防止装置の取り付け作業が不要となる利点がある。また、盗難防止装置が無線通信装置の外部に取り付けられていないため、盗難防止装置が顧客にとって邪魔にならない利点もある。さらに、無線通信装置の美観を損ねることもない。また、無線通信装置は、無線通信装置から特定位置までの距離が所定の条件を満たすと盗難警告を出力するため、好適に盗難を防止できる。
【0043】
また、盗難監視モードと非監視モードとを切り替えられるため、必要に応じて盗難監視を実行できる利点がある。
【0044】
また、PC120などの外部の情報処理装置から動作モードの切り替え指示を送信できるため、無線通信装置に触れることなく、動作モードを切り替えることができる利点がある。
【0045】
また、CPU201は、無線通信装置から着脱可能なメモリ230やUSBメモリ231などに記憶されているキーデータに応じて、盗難監視モードと非監視モードとを切り替えることができる。よって、このようなメモリカードを有している者だけが、動作モードを切り替えることができる利点がある。
【0046】
盗難警告としては、例えば、警告音や警告メッセージの出力、LCDやLED等の明滅がある。いずれも、窃盗者を威嚇することができるため、盗難を防止できよう。
【0047】
なお、測距制御部205は、無線通信装置が設置または展示されている室内100の出入り口105から無線通信装置までの距離を測定することが望ましい。一般に、窃盗者は、出入り口105を通じて無線通信装置を持ち出そうとするからである。なお、出入り口105には、便宜上、窓などの進入経路が含まれてもよいことはいうまでもない。また、エレベータやエスカレータの設置位置も出入り口105に該当することはいうまでもない。
【0048】
[第2の実施形態]
上述の実施形態では、デジタルカメラ110など、無線通信装置自体が盗まれることを防止することが可能となる。しかしながら、デジタルカメラ110から電池240が盗難されることがありうる。とりわけ、電池240が、リチウムイオ2次電池などの比較的に高価な電池であれば、盗難のリスクが高まるであろう。そこで、本実施形態では、電池の盗難を防止するための技術について説明する。
【0049】
図5は、実施形態に係る盗難防止方法の一例を示すフローチャートである。ステップS501において、CPU201は、電池フタ216が開いているか否かを判定する。例えば、CPU201は、電池フタ216が開いているか否かを電池フタ検出部214に問い合せる。なお、電池フタ検出部214は、電池フタ216が開いたことを検出すると、割り込み処理などにより、即座にCPU201に対して通知してもよい。開いていることが検出されると、ステップS502へと進む。
【0050】
ステップS502において、CPU201は、現在の動作モードが盗難監視モードか否かを判定する。例えば、CPU201は、メモリ202に記憶されている動作モードを管理するためのフラグを利用してもよい。例えば、盗難監視モードでは、フラグが1となり、非監視モードではフラグが0となる。盗難監視モードでなければ、本処理を終了する。
【0051】
一方、盗難監視モードであれば、ステップS503に進み、CPU201は、盗難警告を出力する。なお、盗難警告の出力方法は、例えば、ステップS407に関して説明した通りである。
【0052】
本実施形態によれば、デジタルカメラ110などの無線通信装置から電池が盗難されることを防止できよう。
【0053】
[他の実施形態]
・クレードルについて
図6A、図6Bは、実施形態に係るデジタルカメラとそのクレードルの一例を示す図である。なお、既に説明した個所には、同一の参照符号が付されている。
【0054】
上述したようにデジタルカメラ110は、クレードル600に対してドッキングすることで、金属接点601を通じて電源が供給される。金属接点601は、デジタルカメラ110の接点219に対して電気的に接続する。
【0055】
充電制御部217は、デジタルカメラ110がクレードル600に結合されると、接点601および接点219通じて供給される電流を用いて、電池240を充電する。
【0056】
このように、クレードル600からデジタルカメラ110に電源を供給することにより、店頭や展示会のデモにおいて長時間にわたち盗難監視モードでデジタルカメラ110を動作させることが可能となる。なお、顧客等が、デジタルカメラ100をクレードル600から外したときは、デジタルカメラ110が電池240によって駆動されることはいうまでもない。
【0057】
・測距方法の具体例
室内において、デジタルカメラ110から所定の位置までの距離を測定する方法は種々存在する。
【0058】
・第1の方法「壁までの距離から出入り口までの距離を測定する方法」
図7は、4つの壁までの距離を測定することで出入り口までの距離を推定する方法を説明するための図である。ここでは、デジタルカメラ110が設置または展示された位置(設置位置)から各壁までの距離をx1、x2、y1およびy2とする。
【0059】
図7から明らかなように、デジタルカメラ110が出入り口に近づく場合は、x1およびy1の値が減少し、かつ、x2およびy2の値が増加してゆく。よって、各壁までの距離の変動に基づいて、設置から出入り口までの距離Lを概ね推定することができる。
【0060】
・第2の方法「3以上の他の無線通信装置までの距離から出入り口までの距離を測定する方法」
第1の方法では、壁までの距離を精度良く測定できることを前提としている。しかしながら、4つの壁までの距離を測るためには、4つの壁からの反射パルスを区別して受信できなければならない。例えば、無指向性のアンテナを使用すると、どの反射パルスがどの壁に対応しているか区別できないおそれがある。また、方向が90°ずつことなる4方向の指向性を有するアンテナを使用したとしても、デジタルカメラ110の向きが顧客により変更されてしまうと、壁と反射パルスとの関係を維持できない。例えば、顧客が撮影した画像を見るためにデジタルカメラ110の背面を上にすると、壁ではなく、床と天井までの距離が測定されてしまう。
【0061】
ところで、展示会場や店頭においては、他の無線通信装置が設置されている場合が多い。例えば、販売店においては、デジタルカメラだけでなく、PCなども多数展示されている。また、UWBなどの無線通信機能が搭載されているPCや室内機器(例:キャッシュレジスタなど)も将来は増加しよう。
【0062】
そこで、第2の方法では、デジタルカメラ110が3以上の他の無線通信装置までの距離を測定することで、室内におけるデジタルカメラ110の設置位置を測位し、設置位置の座標と、出入り口の座標とから出入り口までの距離Lを測定する。
【0063】
図8は、3以上の他の無線通信装置までの距離から出入り口までの距離を測定する方法を説明するための図である。この例では、デジタルカメラ110からPC801、PC802、PC803までの各距離L1、L2およびL3を測定する。また、各PC801、802および803から出入り口までの各距離L1‘、L2’、L3‘も予め測定しておく。測定された各距離L1、L2およびL3が出入り口までの各距離L1‘、L2’、L3‘に一致すると、デジタルカメラ110が出入り口に到達したことになる。
【0064】
なお、出入り口までの各距離L1‘、L2’、L3‘が既知でない場合は、各PCの位置と出入り口の位置とが既知であれば、距離Lを決定できる。すなわち、距離L1、L2およびL3と各PCの座標の値から、デジタルカメラ110の現在位置が決定される。よって、デジタルカメラ110の現在位置と出入り口の位置とから距離Lが算出可能となる。
【0065】
・第3の方法「出入り口に設置された他の無線通信装置との距離を測定する方法」
第2の方法では、デジタルカメラ110が出入り口に近づいたことを検出する精度が、第1の方法よりも改善される方法である。しかし、3以上の他の無線通信装置が必要となる欠点がある。そこで、第3の方法ではさらに単純かつ効率の良い方法について説明する。
【0066】
図9は、出入り口に設置された他の無線通信装置との距離を測定する方法を説明するための図である。出入り口には、無線通信装置901が設置されている。よって、デジタルカメラ110は、無線通信装置901までの距離を測定することで、出入り口までの距離Lを取得できる。例えば、デジタルカメラ110から送信されたパルスを無線通信装置901が返信する。デジタルカメラ110は、無線通信装置901が返信してきたパルスを受信すると、パルスの送信時刻と受信時刻との差から距離Lを算出できる。
【0067】
・測距を行なうための具体的な構成
上述したPHY207の実現方式は、種々存在する。例えば、IR(インパルス無線)−UWB方式、DS(直接拡散)−UWB方式、または、MB(マルチバンド)−OFDM−UWB方式などをPHY207に採用できる。IR−UWB方式は、最も単純な方法であり、搬送波を用いずに微細なパルス幅(0<パルス幅=<1ナノ秒(ns))のパルスを使用する方式である。なお、現時点では、数百ピコ秒(ps)から1ns以下の幅を有するパルスが検討されている。
【0068】
DS−UWB方式およびMB−OFDM−UWB方式は、マルチバンド方式の一種で、UWBで使用する周波数帯を複数のバンドに分割し、各バンドで搬送波を変調する方式である。DS−UWB方式は、直接拡散技術を使用するが、MB−OFDM−UWB方式は、OFDMと周波数ホッピングとを組み合わせて使用する。
【0069】
図10は、実施形態に係る無線部(UWB PHY)の一例を示す図である。ここでは、IR―UWB方式の無線部について説明する。PHY207は、送信部1000と受信部1050を含む。送信部1000において、パルス発生器1001は、入力されたデータに対応するパルス信号を生成する。増幅器1002は、生成されたパルス信号を増幅する。一方、受信部1050において、増幅器1051は、受信したパルス信号を増幅する。相関器1052は、受信したパルス信号からデータを取り出すために、受信したパルス信号とテンプレートパルス信号との相関値を求める。相関値は、基本的に0か1となるので、相関値に基づいてデータが決定される。
【0070】
また、CPU201は、ビーコン区間において、測距制御部206に測距の開始を指示する。測距制御部206は、測距用のUWBパルス信号が無線部1000から送出されてから測距対象物に反射して受信部1050により受信されるまでの時間を測定する。測距制御部206は、この時間を電波の伝播速度と乗算することで距離を算出する。なお、この距離は無線通信装置と測距対象物との間の往復距離となるため、往復距離を2で除算することで、片道の距離が決定される。
【0071】
なお、測距対象物が他の無線通信装置であれば、測距制御部206は、他の無線通信装置が折り返して送信する信号を受信することで、信号の往復時間を測定してもよい。但し、折り返し信号を利用する場合は、反射信号を利用する場合に比較し、測距精度が相対的に低下する傾向にある。
【0072】
複数の無線通信装置が同期して通信する場合は、同期時刻からのビーコン到着のずれ時間に基づいて、測距制御部206は、相手側の無線通信装置まで距離を測定することもできる。但し、複数の無線通信装置間に同期ずれがあると、この測距方法は測距精度が低下してしまう。よって、測距精度に関しては、反射信号を利用する方法が優れているだろう。一般に、測距情報を利用するアプリケーションによって、必要とされる測距精度が異なってくる。そのため、アプリケーションを考慮した上で測距方法を決定してもよい。
【0073】
図11は、実施形態に係る他の無線部の一例を示す図である。ここでは、DS―UWB方式の無線部について説明する。PHY207は、送信部1100と受信部1150を含む。送信部1100の符号変調器1101は、入力されたデータについて位相変調や振幅変調などの1次変調を実行する。拡散変調器1102は、1次変調された信号に対して拡散変調(2次変調)を実行する。一方、受信部1150の拡散復調器1151は、受信した信号を逆拡散する。なお、逆拡散する際には、送信側で使用された拡散符号と同一の拡散符号が用いられる。このような拡散符号の相関演算により、相関ピークが得られる。よって、測距制御部1106は、この相関ピークを用いて、測距を行なうことができる。符号復調器1152は、逆拡散された信号を復調することでデータを抽出する。
【0074】
図12は、実施形態に係る他の無線部の一例を示す図である。ここでは、OFDM―UWB方式の無線部について説明する。送信部1200において、シリアルパラレル変換器(S/P)1201は、入力されたシリアルデータをパラレルデータに変換する。複数の変調器(mod)1201は、各パラレルデータに対して符号変調を実行する。逆フーリエ変換器1203は、符号変調された信号(周波数軸の信号)を時間軸の信号に変換する。一方、受信部1250の低域通過フィルタ(LPF)1252は、受信した信号のうち低域成分を抽出する。フーリエ変換器1252は、抽出された信号をフーリエ変換することで周波数軸上の複数の信号成分に変換する。複数の復調器(dmod)1253は、各信号成分を復調することで、それぞれデータを抽出する。パラレルシリアル変換器(P/S)1254は、パラレルデータをシリアルデータに変換する。
【0075】
ここで、測距に関しては、フーリエ変換器1252からの信号を逆フーリエ変換することで時間軸でのパルス列を抽出する。パルス決定部1256は、複数のパルス列のうち最も早く到達したパルスを決定し、決定したパルスのみを測距制御部206に出力する。よって、測距制御部206は、この最も早く到達したパルスに基づいて測距をすることができる。
【0076】
図13は、実施形態に係るWireless USBのフレームの構成例を示す図である。各フレームの先頭には、ビーコン区間が設けられている。さらに、ビーコン区間に続いて、データ区間が設けられている。なお、n番目のフレームだけでなく、n−1番目のフレーム、n+1番目のフレームも同様の構成である。なお、ビーコン区間は定期的に設けられている。すなわち、PHY207は、定期的(例:65ms)にビーコンを送信する。これは、フレームの長さが一定(例:65ms)であることを意味する。フレームは、例えば、256個のメディア・アクセス・スロット(MAS)に分割されている。ビーコンは、同期やMASを予約するために使用される。なお、データ区間内に設けられているDRP(Distributed Reservation Protocol) WUSBは、Wireless USBのデータが行われるMASである。
【0077】
図14は、実施形態に係る通信路の使用状態と無線通信装置の内部処理との時間的な関係を示す図である。図14が示すように、測距制御部206は、ビーコン区間で、ビーコンの送信と、反射してきたビーコンの受信とをPHY207に実行する。そして、測距制御部206は、データ区間で、PHY207から得られた信号に基づいて距離を決定してもよい。例えば、n番目のフレームで測距を行なう場合、測距制御部206は、次のn+1番目のビーコンを送信するタイミングとなるまでに距離の決定を終了すればよい。
【0078】
このように、1つのフレーム周期内で測距を完了できれば、測距制御部206は、フレームごとに測距を実行できることになる。すなわち、PHY207は、定期的にビーコンを送信するための、定期的に測距を実行できる。
【0079】
さらに、測距制御部206は、定期的に送信されるビーコンに基づいて決定された時間的な距離の変動量から測距対象物の相対速度を測定することができる。例えば、測距制御部206は、n番目のフレームで検出された距離と、n+1番目のフレームで検出された距離との差分をフレーム周期(例:65ms)で除算することで、移動速度を算出できる。なお、この移動速度は、無線通信装置と測距対象物についての相対速度に相当することはいうまでもない。
【0080】
図15は、実施形態に係る測距方法の一例を示すフローチャートである。ステップS1501において、CPU201は、例えば、フレーム周期を計測するタイマーにより、現時点がビーコン区間か否かを判定する。ビーコン区間でなければ、CPU201は、データ通信制御部205にデータの通信を許可し、ステップS1510に進む。
【0081】
ステップS1510において、データ通信制御部205は、PC等から受信したデータがあるか否かを判定する。データがなければ、ステップS1501に戻る。一方、データがあれば、ステップS1511に進み、データ通信制御部205は、データをPHY207に出力する。PHY207は、データ区間内で予約されているMASを使用してこのデータを送信する。その後、ステップS1507に進む。
【0082】
一方、ステップS1501において、ビーコン区間であると判定されると、ステップS1502に進む。ステップS1502において、CPU201は、PHY207にビーコンを送信するよう指示する。また、CPU201は、測距制御部206に測距の開始を指示する。
【0083】
ステップS1503において、PHY207は、最初に帰ってきた反射信号を受信すると、受信したことを表す信号を測距制御部206に出力する。
【0084】
ステップS1504において、測距制御部206は、反射信号を受信したことを表す信号が入力されると、そのときの時刻情報をタイマーから取得する。例えば、タイマーがビーコンを送信するときにリセットされるのであれば、反射信号を受信したときにこのタイマーが示しているカウント値が求めるべき時刻情報に相当する。実際に、この時刻情報は、無線通信装置から測距対象物までをUWBのパルス信号が往復する時間と一致する。
【0085】
ステップS1505において、測距制御部206は、取得した時刻情報に基づいて、無線基地局から測距対象物までの距離を算出する。CPU201は、測距制御部206により算出された距離の情報をメモリ102に記憶してもよい。
【0086】
ステップS1506において、測距制御部206またはCPU201は、過去のフレームで測定された距離と今回算出された距離との差分から、無線通信装置と測距対象物との相対速度を算出する。なお、ステップS1506はオプションである。ステップS1507において、CPU201は、通信を終了すべきか否かを判定する。通信を継続する場合に限り、ステップS1501に戻る。
【0087】
このようにして本実施形態では、盗難が懸念される無線通信装置から所定位置(例:出入り口105)までの距離を好適に取得できる。そのため、盗難が懸念される状況は、この距離と相関性が認められるため、距離にに基づいて盗難警告を出力することが可能となる。
【0088】
測距制御部206は、室内100に設置された3以上の他の無線通信装置(PC801〜803)と通信することで、無線通信装置の現在位置を測位し、測位された現在位置から出入り口までの距離を算出してもよい(図8)。この場合、デジタルカメラ100だけで測距を行なう場合(図7)よりも距離が正確となりうるため、精度良く、盗難を警告できるだろう。
【0089】
とりわけ、測距制御部206は、出入り口付近に設置された他の無線通信装置901と通信することで距離を測定してもよい(図9)。この場合、他の無線通信装置は、1台で済むため、設置作業の負担が軽減されよう。
【0090】
なお、PC801〜PC803や無線通信装置901には、CPU、RAMおよびROMだけでなく、上述したPHY207が備えられていてもよい。PC801〜PC803や無線通信装置901のPHY207は、パルス信号を受信すると、デジタルカメラ100に返信する。なお、PC801〜PC803や無線通信装置901が、測距制御部206を備えていれ場合は、PC801〜PC803や無線通信装置901がデジタルカメラまでの距離を測定し、測定結果をPHY207からデジタルカメラ110に送信してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施形態に係る盗難防止方法を説明するための概念図である。
【図2】実施形態に係るデジタルカメラの一例を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る盗難監視モードと非監視モードとの状態遷移図である。
【図4】実施形態に係る盗難防止方法を示す例示的なフローチャートである。
【図5】実施形態に係る盗難防止方法の一例を示すフローチャートである。
【図6A】、
【図6B】実施形態に係るデジタルカメラとそのクレードルの一例を示す図である。
【図7】4つの壁までの距離を測定することで出入り口までの距離を推定する方法を説明するための図である。
【図8】3以上の他の無線通信装置までの距離から出入り口までの距離を測定する方法を説明するための図である。
【図9】出入り口に設置された他の無線通信装置との距離を測定する方法を説明するための図である。
【図10】実施形態に係る無線部(UWB PHY)の一例を示す図である。
【図11】実施形態に係る他の無線部の一例を示す図である。
【図12】実施形態に係る他の無線部の一例を示す図である。
【図13】実施形態に係るWireless USBのフレームの構成例を示す図である。
【図14】実施形態に係る通信路の使用状態と無線通信装置の内部処理との時間的な関係を示す図である。
【図15】実施形態に係る測距方法の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0092】
100:室内
110:無線通信装置(例:デジタルカメラ)
101〜104:壁
105:出入り口
120:他の無線通信装置(例:PC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信装置であって、
データ通信手段と測距手段とを備えた無線通信部と、
前記測距手段により測定された前記無線通信装置から特定の位置までの距離が盗難警告の出力条件を満たすと盗難警告を出力する警告出力部と
を含むことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記無線通信装置の盗難を監視するための盗難監視モードと、盗難を監視しない非監視モードとを切り替える切り替え部をさらに備え、
前記警告出力部は、前記盗難監視モードにおいて前記測距手段による測定と前記警告出力部による前記盗難警告の出力とを実行させ、前記非監視モードにおいて前記測距手段による測定と前記警告出力部による前記盗難警告の出力とを抑制することを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記無線通信部は、前記データ通信手段によるデータ通信の相手である情報処理装置から、前記盗難監視モードと前記非監視モードとを切り替えるための指示を受信し、
前記切り替え部は、前記指示に応じて、前記盗難監視モードと前記非監視モードとを切り替えることを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記切り替え部は、前記無線通信装置から着脱可能なメモリに記憶されているキーデータに応じて、前記盗難監視モードと前記非監視モードとを切り替えることを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記警告出力部は、警告音を出力する音発生手段、警告メッセージを表示する表示手段または明滅する明滅手段の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記測距手段は、前記無線通信装置が設置または展示されている室内の出入り口から該無線通信装置までの距離を測定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記測距手段は、前記室内に設置された3以上の他の無線通信装置と通信することで前記無線通信装置の現在位置を測位し、測位された前記現在位置から前記出入り口までの距離を算出することを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記測距手段は、前記出入り口付近に設置された他の無線通信装置と通信することで前記距離を測定することを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項9】
前記無線通信装置の電池を収納する収納部と、
前記収納部に設けられたフタが開いたことを検知する検知部と
をさらに含み、
前記警告出力部は、前記盗難監視モードに切り替えられているときに、前記フタが開いたことが検知されると、前記盗難警告を出力することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項10】
データ通信手段と測距手段とを備える無線通信装置または該無線通信装置を搭載した製品の盗難防止方法であって、
前記測距手段により、前記無線通信装置から特定の位置までの距離を測定するステップと
前記測定された距離が盗難警告の出力条件を満たすと、盗難警告を出力するステップと
を含むことを特徴とする盗難防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−228078(P2007−228078A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44300(P2006−44300)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】