説明

焼成炉及びセラミックの焼成方法

【課題】従来の外部加熱による焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができるとともに、焼成された被焼成体の気孔率及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができる焼成炉を提供する。
【解決手段】焼成炉本体11は、絶縁性の断熱材で形成された焼成室13内に、四角筒状のカーボン製のマッフル15が配設されている。マッフル15内には被焼成体17を載置支持する焼成用治具18が配置されている。焼成室13内には、第1電極22及び第2電極23が、マッフル15を上下から挟持するように配置されている。第1電極22及び第2電極23は、交流電源24に電力制御器25を介してそれぞれ接続されている。電力制御器25は、サイリスタ回路を備え、制御装置26からの指令信号に基づいて、マッフル15に供給する電力をオン・オフ制御するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成炉及びセラミックの焼成方法に係り、詳しくは炭化珪素成形体の焼成に好適な焼成炉及びセラミックの焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バス、トラック等の車両や建設機械等で使用されるディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるパティキュレートが環境や人体に悪影響を及ぼすことが問題となっており、この排気ガス中のパティキュレートを捕集して排ガスを浄化するセラミックフィルタ(以下、DPFと称す。)が種々提案されている。このようなDPFとしては、炭化珪素を主成分とする多孔質のハニカム構造体(ハニカムフィルタ)が提案され、また、実施されている。
【0003】
従来、このような多孔質炭化珪素製のDPFを製造する際は、まず、炭化珪素粉末とバインダーと分散液とを混合して成形体製造用の混合組成物を調製した後、炭化珪素成形体を作製する。次に、得られた炭化珪素成形体を乾燥させ、一定の強度を有し、容易に取り扱うことができる炭化珪素成形体の乾燥体を製造する。
【0004】
この乾燥工程の後、炭化珪素成形体を酸素含有雰囲気下において、300〜600℃に加熱し、有機バインダー成分中の溶剤を揮発させるとともに、樹脂成分を分解消失させる脱脂工程を行う。その後、さらに、炭化珪素粉末を不活性ガス雰囲気下、所定の焼成温度(例えば、2000〜2300℃)に加熱することにより焼結させる焼成工程を経て多孔質炭化珪素製のDPFが製造される。
【0005】
そして、このような脱脂後の炭化珪素成形体の焼成に使用する焼成炉として、炉の上下両側にグラファイトヒータを配置した構成のものがある(例えば、特許文献1参照。)。この焼成炉は、図5に示すように、焼成室内に配設された筒状のマッフル(焼成室)51の上下両側に棒状のグラファイトヒータ52が複数本ずつ一定間隔で配設されている。そして、マッフル51内に被焼成体53が載置された焼成用治具54を複数段積み重ねて支持台55上に載置した状態で、グラファイトヒータ52に通電することによりグラファイトヒータ52が発熱して、その熱によりマッフル51内の被焼成体53を加熱する。なお、炉の左右両側にグラファイトヒータを配設した構成のものもある。
【0006】
また、ハニカム構造体の製造方法として、導電性材料でハニカム形状の成形体を成形し、その成形体を非酸化性雰囲気中、ハニカム貫通孔の軸方向の両端を上部電極及び下部電極で挟持して通電することにより、ハニカム形状成形体を加熱焼結する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。そして、炭化珪素質ハニカム構造体の製造方法として、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末及び炭素質物質の所定量を含む混合物をハニカム形状の成形体に成形し、それを通電焼結することが提案されている。
【特許文献1】特開2002−193670号公報(明細書の段落[0008],[0021],[0022]、図1,図5)
【特許文献2】特開平10−52618号公報(明細書の段落[0021]〜[0025],[0036]〜[0038]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載の焼成炉では、被焼成体53はマッフル51の中に配置された焼成用治具54に支持された状態で加熱される。そのため、グラファイトヒータ52の熱が被焼成体53に効率良く伝達されず、焼成完了(焼結完了)までに時間がかかる。また、グラファイトヒータ52が上下あるいは左右の2面にしか配置されないため、炉内の温度ムラによって焼成状態にばらつきが生じ易い。焼成状態にばらつきがあると、焼成された被焼成体(多孔質炭化珪素成形体)53の気孔径にばらつきが存在する。気孔径に大きなばらつきが存在する多孔質炭化珪素成形体は、その曲げ強度にもばらつきが発生するとともに、パティキュレートの捕集効率が劣るという問題もある。
【0008】
一方、特許文献2に記載の加熱方法では被焼結体を一対の電極で挟んで通電するため、グラファイトヒータを使用した外部加熱に比較して焼成時間を短くできる。しかし、この方法で炭化珪素成形体の焼成を行うには問題がある。なぜならば、炭化珪素成形体は、焼成前に300〜600℃で脱脂される。そして、脱脂後の炭化珪素成形体は、機械的強度が低く、壊れ易いため、保形性が不安定となり、そのような状態の炭化珪素成形体を型崩れさせずに電極間に支持(挟持)するのは困難であり、生産性や歩留まりが悪くなる。
【0009】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、従来の外部加熱による焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができるとともに、焼成された被焼成体の気孔径及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができる焼成炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、焼成室と、その焼成室内に設けられるとともに被焼成体を取り囲むマッフルと、前記マッフル内に配置されるとともに被焼成体を載置支持するための治具と、前記マッフル及び治具の少なくとも一方に通電するための電極と、前記電極に電力を供給する電力供給装置とを備えた。
【0011】
この発明では、被焼成体が収容されるマッフル及び被焼成体を載置支持するための治具の少なくとも一方に通電されることにより、マッフル及び治具が加熱されるとともに被焼成体が加熱される。従って、マッフルの外側に配設されたヒータで加熱する外部加熱による焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができる。また、電極が被焼成体に触れないので、マッフル内部の被焼成体を型崩れさせることがない。また、被焼成体が均一に加熱され易くなり、焼成された被焼成体の気孔径及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記治具は、該治具に支持された被焼成体にも通電可能に構成されている。この発明では、被焼成体の材質が導電性の材質であれば、治具を介して被焼成体にも通電されて被焼成体自身も加熱されるため、焼成時間をより短縮できる。炭化珪素は導電性の材質であるため、炭化珪素製のDPFの製造に使用すれば、焼成時間をより短縮できる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記治具は複数段に積層可能に形成されている。この発明では、複数の被焼成体を効率良く焼成することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の発明において、前記マッフル及び治具はカーボンで形成されている。この発明では、マッフル及び治具の材質が導電性で、炭化珪素焼成体の焼成温度である、例えば2000〜2300℃でも充分な耐熱性を有するため、通電可能なマッフル及び治具として好適である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の発明において、前記治具は有底箱状の本体部と、その開口部を覆う蓋部とを備え、前記本体部内に被焼成体が収容された状態で前記蓋部が被焼成体と接触するように形成されている。この発明では、治具に被焼成体が載置支持(収容)された状態で、本体部の底部と蓋部との間に通電すると、被焼成体にも通電される状態となる。従って、マッフル及び治具の少なくとも一方に加えて、被焼成体にも通電する状態で焼成可能な構成が容易になる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の発明において、前記焼成室に不活性ガスを導入するガス導入管を備えている。この発明では、非酸化雰囲気下で焼成を行うのが容易になる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載の発明において、前記マッフルは、前記治具を移動可能とするローラが設けられている。この発明では、被焼成体の焼成位置へのセットや焼成炉からの取り出しが容易になる。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のうちいずれか一項に記載の焼成炉を用いて、前記治具に被焼成体を載置支持した状態で前記マッフル及び治具の少なくとも一方に通電して焼成を行う。この発明では、請求項1〜請求項7のうちの対応する発明と同様な効果が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来の外部加熱による焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができるとともに、焼成された被焼成体の気孔径及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明を多孔質炭化珪素成形体であるDPFの製造に好適な焼成炉に具体化した第1実施形態を図1及び図2に従って説明する。
【0021】
図1(a)に示すように、焼成炉10は四方を壁面で囲まれた焼成炉本体11を有している。焼成炉本体11は、その周壁部分に水冷ジャケット12を備え、水冷ジャケット12で囲まれた空間内に焼成室13が設けられている。水冷ジャケット12は鉄製で内部に冷却水が循環されるようになっている。焼成室13は、断熱材で形成されている。断熱材がカーボン等の導電性の材料で形成されている場合は、水冷ジャケット12と同様に後述する電極22,23と絶縁をとる。焼成室13は、水冷ジャケット12の内側下部に設けられたフレーム14により支持されている。
【0022】
焼成室13の内側には四角筒状のマッフル15が横置き(水平)に配設されている。すなわち、マッフル15は上下左右4つの板状部15aが四角環状に連続した四角筒状をなしている。マッフル15はその下面と焼成室13の下壁面との間にスペーサ16を介して配置されている。マッフル15は、焼成時の最高温度(例えば、2300℃)の高温に耐える抵抗加熱体としてのカーボンで形成されている。
【0023】
マッフル15の下部には、被焼成体17を載置支持するための治具としての焼成用治具18をマッフル15の軸方向に沿って移動可能とするローラ19が設けられている。焼成用治具18は支持台20上に複数段に載置された状態で、支持台20と共にマッフル15の内部に収容可能に構成されている。ローラ19及び支持台20は、前記焼成炉10における焼成時の最高温度(例えば、2300℃)の高温に耐える材質、例えばカーボンで形成されている。マッフル15は、複数積み重ねられた焼成用治具18の1組を、あるいは複数組を2列に収容可能に形成されている。
【0024】
図2に示すように、焼成用治具18は四角箱状に形成され、内部に複数本の被焼成体17が平行に収容可能に構成されている。図1(a),(b)に示すように、焼成用治具18は、被焼成体17を直接、焼成用治具18上に載置するのではなく、焼成用治具18上に載置された導電性の下駄材21の上に被焼成体17を載置するようになっている。そして、焼成用治具18は、下駄材21の上に被焼成体17を載置した状態において、上段側に他の焼成用治具18を積み重ねても、被焼成体17が上段側の焼成用治具18と干渉しない深さに形成されている。
【0025】
焼成室13内には、マッフル15に通電するための電極としての第1電極22及び第2電極23が、マッフル15を上下から挟持するように配置されている。第1電極22及び第2電極23は、炭化珪素成形体の焼成温度に耐える材質(この実施形態ではカーボン)で形成されている。第1電極22及び第2電極23は、交流電源24に電力制御器25を介してそれぞれ接続されている。電力制御器25は、サイリスタ回路を備え、制御装置(コンピュータ)26からの指令信号に基づいて、マッフル15に供給する電力をオン・オフ制御するようになっている。制御装置26は図示しない温度センサ(熱電対)により検出された焼成室13内の温度と、設定温度とに基づいて、電力制御器25に指令信号を出力する。交流電源24、電力制御器25及び制御装置26は両電極22,23に電力を供給する電力供給装置を構成する。
【0026】
焼成炉本体11内の空気は、図示しない真空ポンプにより真空引きされるようになっている。また、焼成炉本体11には、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を導入するためのガス導入管27が設けられており、周壁部分から焼成室13内に不活性ガスが流入するようになっている。
【0027】
次に、前記のように構成された焼成炉の作用を説明する。
炭化珪素粉末とバインダーと分散液とを混合して調製された成形体製造用の混合組成物で作製された炭化珪素成形体が、乾燥工程で乾燥された後、脱脂工程において脱脂されたものが焼成炉での被焼成体17となる。
【0028】
脱脂後の炭化珪素成形体は、機械的強度が低く、壊れ易いため、保形性が不安定となる。従って、脱脂後の炭化珪素成形体を焼成炉での焼成の際に、焼成用治具18に移載する作業を行うと、被焼成体17が型崩れする等して損傷する虞がある。そのような不都合を回避するため、被焼成体17は、脱脂工程の段階で、焼成工程で使用される焼成用治具18に収容された状態で脱脂される。即ち、乾燥工程で乾燥された炭化珪素成形体は、焼成用治具18上に下駄材21を介して載置支持された状態で脱脂処理を受ける。
【0029】
そして、脱脂工程を終了した被焼成体17が収容された焼成用治具18は、支持台20上に複数個積み重ねられた状態で、焼成炉本体11の筒状のマッフル15内に搬入される。搬入は支持台20を押すことにより、ローラ19が転動して支持台20が焼成用治具18と共に安定した状態で移動することにより行われる。
【0030】
被焼成体17の搬入が終了すると、焼成炉本体11の図示しないシャッタが閉じられる。次に焼成炉本体11内が真空引きされた後、ガス導入管27からアルゴンガスが導入される。その後、焼成が開始される。焼成は予め設定された条件(昇温速度、最高温度(2300℃)での保持時間、降温速度等)を満たすように、交流電源24の電力が電力制御器25及び両電極22,23を介してマッフル15に供給されることにより行われる。
【0031】
マッフル15に電力が供給されると、マッフル15は抵抗加熱で発熱する。そして、被焼成体17はマッフル15から発生する熱で加熱される。最高温度(2300℃)で設定時間加熱された後、焼成室13内の温度が所定温度まで降下した後、焼成炉本体11のシャッタが開かれて、被焼成体17が焼成用治具18と共に焼成炉本体11内から取り出される。
【0032】
被焼成体17として、外形寸法が33mm×33mm×167mmのDPFをこの実施形態の焼成炉10で焼成して製造した場合と、従来技術であるマッフル(焼成室)の外側に配設されたグラファイトヒータで抵抗加熱(通電加熱)する焼成炉で焼成して製造した場合について、得られたDPFの曲げ強度、平均気孔径及びそれらのばらつきを測定した。その結果、この実施形態で得られた被焼成体17は、従来品に比較して、曲げ強度のばらつきが小さくなり、気孔径のばらつきも小さくなった。
【0033】
この実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)焼成室13内に設けられるとともに被焼成体17を取り囲むマッフル15に、電極22,23から通電されることにより、マッフル15が抵抗加熱で加熱されて、マッフル15内に収容された被焼成体17が焼成される。従って、マッフルの外側に配設されたヒータで抵抗加熱する従来の焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができる。また、高温にすべき空間の体積(この実施形態ではマッフル15の内部)を小さくすることができ、被焼成体17が均一に加熱され易くなり、焼成された被焼成体17の気孔径及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができる。
【0034】
(2)焼成用治具18は複数段に積層可能に形成されている。従って、複数の被焼成体17を効率良く焼成することができる。
(3)マッフル15はカーボンで形成されている。従って、炭化珪素焼成体の焼成温度である、例えば2200〜2300℃でも充分な耐熱性を有し、抵抗加熱に適した導電性を有するマッフル15を容易に形成することができる。
【0035】
(4)マッフル15の下部(下側の板状部15aの上面)には被焼成体17を載置支持する焼成用治具18を、筒状をなすマッフル15軸方向に沿って移動可能とするローラ19を備えている。従って、被焼成体17の焼成位置へのセットや焼成炉からの取り出しが容易になる。
【0036】
(5)被焼成体17は、箱状の焼成用治具18上に直接載置されるのではなく、下駄材21介して焼成用治具18との間に空間を設けて載置されているため、被焼成体17と焼成用治具18とのくっつきが回避される。
【0037】
(6)焼成炉本体11は、焼成室13に不活性ガスを導入するためのガス導入管27を備えている。従って、非酸化雰囲気下で焼成を行うのが容易になる。
(7)マッフル15は、複数積み重ねられた焼成用治具18の1組を、あるいは複数組を2列に収容可能に形成されているため、1列を収容する構成に比較して、被焼成体17の1個当たりに必要な焼成時間を短くでき、生産性が向上する。
【0038】
(8)被焼成体17は、脱脂工程で使用された焼成用治具18に支持されたまま焼成工程の焼成炉10の焼成位置にセットされる。従って、機械的強度が低く、壊れ易いために保形性が不安定な脱脂後の炭化珪素成形体を焼成する場合でも、被焼成体17の取り扱いが容易になる。
【0039】
(第2実施形態)
次に第2実施形態を図3(a),(b)に従って説明する。この実施形態ではマッフル15だけでなく、被焼成体17及び焼成用治具18にも通電可能に構成されている点が前記第1実施形態と異なっている。以下においては第1実施形態と実質上同一部分は同一の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図3(a),(b)に示すように、この実施形態では、焼成用治具18は有底箱状の本体部18aと、その開口部を覆う蓋部18bとを備えている。焼成用治具18は、本体部18a内に被焼成体17が収容された状態で、蓋部18bが開口部を覆うと、蓋部18bが被焼成体17と接触するように形成されている。本体部18a及び蓋部18bはカーボンで形成されている。従って、焼成用治具18は、焼成用治具18に支持された被焼成体17にも通電可能に構成されている。
【0041】
図3(a)に示すように、マッフル15の上側の板状部15aと、マッフル15内に積み重ねられた状態において最上部の焼成用治具18の蓋部18bとの間には、通電補助部材28が介材されている。通電補助部材28は、前記板状部15aと蓋部18bとの間の距離が多少変動してもそれを吸収可能に、例えば、炭素繊維で形成された織物や不織布で形成されているのが好ましい。
【0042】
この実施形態の焼成炉10では、導電性の材料で形成された蓋部18bを有する焼成用治具18が使用され、被焼成体17は、本体部18aと蓋部18bとに接触する状態で焼成用治具18に収容される。焼成用治具18は、焼成用治具18がマッフル15内に収容された状態において、マッフル15の上側の板状部15aと、下側の板状部15aとの間に、通電補助部材28を介して通電可能な状態で保持される。
【0043】
そして、被焼成体17の焼成時に、両電極22,23に電力が供給されると、前記第1実施形態と同様にマッフル15に通電されるとともに、第1実施形態とは異なり、焼成用治具18にも通電される。また、被焼成体17は本体部18a及び蓋部18bに接触する状態で焼成用治具18内に収容されているため、被焼成体17にも通電可能となる。被焼成体17は炭化珪素成形体のため、カーボンより導電性は悪いが導電体である。従って、被焼成体17にも通電され、被焼成体17自身も通電加熱される。
【0044】
従って、この実施形態では第1実施形態の効果(1)〜(8)の他に、次の効果を有する。
(9)マッフル15のみへの通電によって加熱が行われた第1実施形態に比較して、焼成用治具18及び被焼成体17も通電で加熱される分、焼成時間をより短縮することができる。
【0045】
(10)焼成用治具18に蓋部18bを設けるとともに、通電補助部材28を設けるという簡単な改良で、第1実施形態の焼成炉10に適用できる。
なお、上記実施形態は、例えば次のような別の実施形態(別例)に具体化してもよい。
【0046】
・ マッフル15及び焼成用治具18に通電可能で、被焼成体17には通電しない構成としてもよい。例えば、第2実施形態において、焼成用治具18として、被焼成体17を本体部18a内に収容し、本体部18aの開口部を蓋部18bで覆った状態において蓋部18bと被焼成体17とが接触しないものを使用する。この構成では、蓋部18bは、最上部に配置される焼成用治具18にのみ設けてもよい。
【0047】
・ 焼成炉10は、マッフル15に通電せず、マッフル15内に配置される焼成用治具18のみに通電可能な構成としてもよい。例えば、図4に示すように、第1電極22及び第2電極23を、マッフル15内の焼成用治具18の側面に接触可能に設ける。2列に積み重ねられた焼成用治具18の間には通電補助部材28が介在されている。この構成では、第1電極22及び第2電極23に電力が供給されると、焼成用治具18に通電され、焼成用治具18が加熱されてその熱により被焼成体17が焼成される。
【0048】
・ 第1及び第2実施形態ではガス導入管27の一端を焼成室13の内側に配置したが、図4に示すように、焼成室13の外側に配置してもよい。
・ マッフル15は、複数積み重ねられた焼成用治具18の1組を、あるいは複数組を2列に収容できる形状に限らず、焼成用治具18を1列あるいは3列以上で収容可能な筒状としてもよい。
【0049】
・ 第2実施形態において、蓋部18bが直接被焼成体17と接触する構成に代えて、蓋部18bと被焼成体17との間に炭素繊維あるいは炭素繊維織物を介在させてもよい。この場合、蓋部18bが直接被焼成体17に接触する構成に比較して、被焼成体17に過大な圧力が加わる虞がない。
【0050】
・ バッチ式の焼成炉に限らず、連続式の焼成炉に適用してもよい。連続式の焼成炉の場合には、焼成用治具18が焼成炉の中を入口側から出口側へと一定方向に間欠的に移動して、温度が異なる領域を通過することで被焼成体17の焼成が行われる。即ち、筒状の焼成炉内の温度が入口部から中央部に向かうに従って高くなり、最高温度の領域を過ぎると出口部に向かって次第に低くなるように発熱体(マッフル15及び焼成用治具18)の発熱量が制御される。第1及び第2電極22,23は、温度が異なる領域に対応して複数組設けられ、各第1及び第2電極22,23の組には異なる大きさの電力が供給される。この際、電極と接触する導電性の材料で形成されたローラ等を設けることが望ましい。
【0051】
・ マッフル15は四角筒状に限らず、円筒状や六角筒状としてもよい。
・ 被焼成体17の形状はDPFの場合でも外形が四角柱状に限らず、円柱状あるいは四角柱状以外の多角柱状(例えば、三角柱状、六角柱状)であってもよい。
【0052】
・ 被焼成体17がDPFの場合でも、炭化珪素成形体に限らず、他のセラミック成形体であってもよい。例えば、被焼成体17として主成分をコージェライトとしたりあるいは炭化珪素とシリコン(Si)との混合物としたセラミック成形体であってもよい。被焼成体17の成分(材料)により焼成時の最高温度(最高維持温度)が異なり、被焼成体17がコージェライトを主成分とした場合、大気雰囲気下、焼成温度は1400〜1450℃が好ましい。また、炭化珪素とシリコンとの混合物を主成分とする場合は、窒素ガス、アルゴンガス等の非酸化性雰囲気下、1400〜1800℃の温度で焼成するのが好ましい。従って、焼成される被焼成体17の成分によっては、最高温度が2300℃に達する必要はなく、例えば、最高温度が1500℃又は1800℃であってもよい。
【0053】
・ 被焼成体17はDPFに限らず、他のセラミック製品であってもよい。また、成分も炭化珪素に限らない。
・ 焼成用治具18を支持台20を介してローラ19上を移動させる代わりに、焼成用治具18を直接ローラ19上を移動させる構成としてもよい。しかし、支持台20を使用する方が安定した状態で移動させ易い。
【0054】
・ 焼成炉10内を真空引きした後、不活性ガスを充填する構成に代えて、不活性ガスを充填せずに、単に真空引きするだけでもよい。また、真空引きをせずに、不活性ガスを充填する構成としてもよい。
【0055】
・ マッフル15及び焼成用治具18はカーボン製に限らず、焼成温度に耐えるとともに通電加熱(抵抗加熱)可能な材質(炭化珪素等)であればよい。
・ マッフル15に通電する構成の場合は、焼成用治具18は、導電性の材質ではなく焼成温度に耐える絶縁性のセラミックスで形成してもよい。
【0056】
・ 焼成室13を絶縁性の断熱材で形成してもよい。その場合は両電極22,23と絶縁をとる必要はない。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a)は第1実施形態の焼成炉の模式断面図、(b)は部分拡大図。
【図2】焼成用治具の模式斜視図。
【図3】(a)は第2実施形態の焼成炉の模式断面図、(b)は部分拡大図。
【図4】別の実施形態の焼成炉の模式断面図。
【図5】従来の焼成炉の模式断面図。
【符号の説明】
【0058】
10…焼成炉、13…焼成室、15…マッフル、17…被焼成体、18…治具としての焼成用治具、18a…本体部、18b…蓋部、19…ローラ、22…電極としての第1電極、23…電極としての第2電極、24…電力供給装置を構成する交流電源、25…電力供給装置を構成する電力制御器、26…電力供給装置を構成する制御装置、27…ガス導入管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成室と、その焼成室内に設けられるとともに被焼成体を取り囲むマッフルと、前記マッフル内に配置されるとともに被焼成体を載置支持するための治具と、前記マッフル及び治具の少なくとも一方に通電するための電極と、前記電極に電力を供給する電力供給装置とを備えた焼成炉。
【請求項2】
前記治具は、該治具に支持された被焼成体にも通電可能に構成されている請求項1に記載の焼成炉。
【請求項3】
前記治具は複数段に積層可能に形成されている請求項1又は請求項2に記載の焼成炉。
【請求項4】
前記マッフル及び治具はカーボンで形成されている請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の焼成炉。
【請求項5】
前記治具は有底箱状の本体部と、その開口部を覆う蓋部とを備え、前記本体部内に被焼成体が収容された状態で前記蓋部が被焼成体と接触するように形成されている請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の焼成炉。
【請求項6】
前記焼成室に不活性ガスを導入するガス導入管を備えている請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の焼成炉。
【請求項7】
前記マッフルは、前記治具を移動可能とするローラが設けられている請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載の焼成炉。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のうちいずれか一項に記載の焼成炉を用いて、前記治具に被焼成体を載置支持した状態で前記マッフル及び治具の少なくとも一方に通電して焼成を行うセラミックの焼成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−46865(P2006−46865A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231646(P2004−231646)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】