説明

照明装置及びこの照明装置を備えたズーム顕微鏡

【課題】ズーム倍率に依らず良好な照明を行うことができる照明装置とこれを備えたズーム顕微鏡を提供すること。
【解決手段】標本面10a側から順に、対物レンズ11とアフォーカルズーム13系とを有するズーム顕微鏡30に設けられ、アフォーカルズーム系13及び対物レンズ11を介して標本面10aを照明する照明光学系を備えて構成される照明装置において、アフォーカルズーム系13のズーミングに応じて照明光学系の光源18側に形成される照明光学系の射出瞳の位置と略一致するように光源18位置を変更可能に構成した照明装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸落射型の照明装置、及び、この照明装置を備えたズーム顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にズーム光学系はズーミングに際し、標本面と像面位置の共役関係(以後「像面の共役関係」という)は維持されるが、瞳位置の共役関係は変化してしまうという現象が生じる。特に、対物レンズの像側でアフォーカルズーム系の標本面側に開口絞りを有するズーム顕微鏡の場合、像面の共役関係は当然保たれるが、ズーミングにより射出瞳位置が変化してしまうので、同時に瞳面の共役関係も保つのは装置の構成上極めて困難であり、瞳面の共役関係が変化するのはやむを得ない現象となる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−178440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、ズーム系においては、ズーミングに際し像面の共役関係が保たれるのは当然であるが、光学系を構成する際のもう一つの重要な要素である瞳面の共役関係は変動するのが一般である。ズーム系と観察用鏡筒部の間から照明光を導入する反射照明装置の場合、ズーミングによる瞳変動は照明状態に影響を与えてしまい好ましくない。
【0004】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、ズーム倍率に依らず良好な照明を行うことができる照明装置を提供することを目的とし、さらに、この照明装置を備えたズーム顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明に係る照明装置は、標本面側から順に、対物レンズとアフォーカルズーム系とを有するズーム顕微鏡に設けられ、前記アフォーカルズーム系及び前記対物レンズを介して前記標本面を照明する照明光学系を備えて構成される照明装置において、前記アフォーカルズーム系のズーミングに応じて前記照明光学系の光源側に形成される前記照明光学系の射出瞳の位置と略一致するように前記光源位置を変更可能に構成したことを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係るズーム顕微鏡は、標本面側から順に、対物レンズとアフォーカルズーム系と、前記照明装置とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ズーム倍率に依らず良好な照明を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面を参照して説明する。
【0009】
図1は、本実施形態の照明装置を備えたズーム顕微鏡の構成を示す図である。図2は、ズーミングによる照明光学系の射出瞳位置の変化と光源ユニットの位置変更について説明する図であり、(a)はズーム1倍のときを示し、(b)はズーム7.5倍のときを示す。図3は、アフォーカルズーム系のレンズ構成を示す断面図である。
【0010】
まず、本実施形態の照明装置(同軸落射型の反射照明装置)及びこれを備えたズーム顕微鏡の全体的構成について説明する。
【0011】
図1に示すように、ズーム顕微鏡30は、標本面10a側から順に、対物レンズ11、開口絞り12、アフォーカルズーム系13、及び、結像レンズ(第二対物レンズ)14が光軸上に並んで構成されており、アフォーカルズーム系13と第二対物レンズ14との間に反射照明装置20が配置されている。開口絞り12が対物レンズ11の瞳(射出瞳)である。
【0012】
アフォーカルズーム系13は、後述のように第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3、第4レンズ群G4を有し、第2レンズ群G2と第3レンズ群G3を光軸に沿って移動させることによりズーミングを行う。
【0013】
反射照明装置20は、光ファイバ等から構成される光源18と拡散板G6とを含む光源ユニット16、続いてコレクタレンズG5、視野絞り(視野絞り面10c)、結像レンズ15、並びに、ハーフミラー19がこの順でアフォーカルズーム系13側へ光軸上に並んで構成されており、アフォーカルズーム光学系13の光軸と反射照明装置20の光学系の光軸とが直交し、これらの光軸が直交する位置にハーフミラー19が位置するように配置されている。
【0014】
なお、本実施形態では反射照明装置20の光源18は光ファイバの射出端として説明するが、これに限定されるものではなく、光源18にはLEDまたはハロゲンランプ等も使用可能である。光源18が光ファイバの射出端である場合、反射照明装置20とは別の図示しない発光源からの光を、直接またはレンズを通して光ファイバに導入し、光ファイバ内を伝播した光が、その射出面から射出する構成となる。前記別の発光源は、ハロゲンランプやチップ型LEDなどを使用する。
【0015】
このような構成のズーム顕微鏡30において、光源18から放射された光は拡散板G6で拡散され、コレクタレンズG5により視野絞り面10cを一様に通過して結像レンズ15により平行光束に変換され、ハーフミラー19に入射する。ハーフミラー19は、一部の光を反射し、残りの光を透過する光学部材であり、このハーフミラー19で反射された光は、アフォーカルズーム系13及び開口絞り12を通過して対物レンズ11で集光され、標本面10aに照射される。そして、この標本面10aで反射した光は、対物レンズ11、開口絞り12及びアフォーカルズーム系13を通過して平行光束になり、ハーフミラー19に入射して一部の光が反射され、残りの光が透過し、透過した光が第二対物レンズ14で集光されて、像面10bに標本面10aの像が結像される。
【0016】
次に、ズーミングによる照明光学系の射出瞳位置の変化と光源ユニットの位置変更について説明する。
【0017】
上述のようなズーム顕微鏡30において、アフォーカルズーム系13、結像レンズ15及びコレクタレンズG5による開口絞り(対物レンズの瞳)12の共役関係を考える。このとき、照明光学系の射出瞳、即ちアフォーカルズーム系13からコレクタレンズG5に到る照明光学系による開口絞り12の像の光軸上位置が、アフォーカルズーム系13のズーミングにより変化しなければ、この射出瞳位置と光源18の光源面LS(以下、光源面を光ファイバの射出端面として説明するが、拡散板面を光源面としてもよい)とが一致するように構成することで、いわゆるケーラー照明を実現して良好な照明を行うことができる。つまりこの場合は、アフォーカルズーム系13のズーム倍率に依らずケーラー照明は維持され、対物レンズの瞳である開口絞り12と光源面LSとの共役関係、及び標本面10aと像面10bと視野絞り面10cとの共役関係は保たれる。
【0018】
ところが、一般にズーミングにより開口絞り12の像(照明光学系の射出瞳)位置は移動してしまう。例えば、ズーム顕微鏡30が、低倍側が1倍で、8倍のズーム比を有する場合、ズーム倍率が1倍のときの開口絞り12のアフォーカルズーム系13と結像レンズ15による像位置が視野絞り面10cを起点として光源18方向に40mmとなるが、ズーム倍率が8倍のときには400mmとなるものがある。ズーム倍率の変化により開口絞り12の像位置が変化するため、実際に使用する光源面(光ファイバの射出端面)LSの位置と、開口絞り12のアフォーカルズーム系13からコレクタレンズG5に到る光学系による像である照明光学系の射出瞳位置とが大きく異なることになる。つまりこのままでは、開口絞り12と光源面LSとの共役関係を保つことができなくなり、ケーラー照明を維持できなくなる。
【0019】
このように、照明装置を構成する光学系の設計においては、照明光学系の射出瞳位置の変化を考慮しながら対処する必要がある。ズーミングによる照明光学系の射出瞳位置変化の影響により、照明装置としてはケーラー照明に近い場合からクリティカル照明に近い場合までどちらとも言えない中間の状態を含めて変化してしまう。従って、光源には、配光角特性の一様性及び発光面の一様性の双方が求められる。ケーラー照明では発光面の一様性は必ずしも必要なく、クリティカル照明では角度特性の一様性は必ずしも必要でないが、ズーミングの状態によっては中間的な状況となるため双方が必要となる。
【0020】
そこで本実施形態においては、図1、図2に示すように、光源ユニット16は、コントローラ40により制御される駆動部50によって、アフォーカルズーム系13のズーミングに応じてコレクタレンズG5と光源面(光ファイバの射出端面)LSの間隔が変化するように位置変更可能であり、アフォーカルズーム系13からコレクタレンズG5に到る照明光学系の射出瞳と光源面LSとが略一致するように配置される構成としている。
【0021】
コントローラ40は、アフォーカルズーム系13の倍率を設定するとともに、その倍率に応じて駆動部50を制御し、光源ユニット16を光軸に沿って移動させ、ズーミングによって移動した照明光学系の射出瞳に光源面LSを一致或いは極力近づけるようにする。図2に示す矢印の基端側が、アフォーカルズーム系13が低倍端(例えば1倍)にあるときの拡散板G6の位置を示し、この矢印の先端側が、アフォーカルズーム系13が高倍端(例えば7.5倍)にあるときの拡散板G6の位置を示している。図2に示した光線の通り方からも判るように、このような構成の本実施形態によれば、ズーム倍率に依らず開口絞り12と光源面LSとの共役関係を保ち、ケーラー照明を維持することができる。
【0022】
また、本実施形態では拡散板G6が設けられているため、光源面LSの構造により面内に強度分布が存在する場合でも、その分布が標本像と重なって見えることのないようにすることができる。よって照明状態をより良好に保つことができる。
【0023】
なお、本実施形態では、照明光学系の射出瞳と光源面LSとを略一致させるために、光源ユニット16の位置を変更する構成であるが、光源18のみを光軸に沿って移動する構成としてもよい。
【0024】
また、本実施形態では制御手段としてコントローラ40を設け、駆動部50を制御して光源ユニット16の位置を変更する構成としている。ここで、コントローラ40は、アフォーカルズーム系13の例えば第2レンズ群G2の移動量から必要な光源移動量を算出するようにしてもよいし、ルックアップテーブルを用いるようにしてもよい。或いは、コントローラ40を設けず、光源ユニット16を例えば第2レンズ群G2に連動させる機械的な制御手段及び駆動部にしてもよい。
【0025】
次に、本実施形態のアフォーカルズーム系13の具体的な構成例と数値実施例について説明する。
【0026】
図3に示すように、アフォーカルズーム系13は、開口絞り面SP(上述の開口絞り12に相当)側から順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL1と両凸レンズL2とが貼り合わされた接合レンズ及び物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL3からなる第1レンズ群G1と、両凹レンズL4、両凸レンズL5と両凹レンズL6とが貼り合わされた接合レンズ及び両凹レンズL7からなる第2レンズ群G2と、両凸レンズL8及び両凸レンズL9と物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL10とが貼り合わされた接合レンズからなる第3レンズ群G3と、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL11と物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL12とが貼り合わされた接合レンズからなる第4レンズ群G4とから構成され、第2レンズ群G2及び第3レンズ群G3を光軸に沿って移動させることにより、ズーム倍率(アフォーカル倍率)を変更可能に構成されている。
【0027】
以下の表1に、開口絞り面SP(図1の12)からコレクタレンズG5までの光学系の諸元値を示す。表1の(数値例)において、mは面番号を示し、rはレンズ面の曲率半径を示し、dはレンズ面間の間隔を示し、νdは各レンズ硝材のアッベ数を示し、ndはd線(587.6nm)に対する屈折率を示している。表中の面番号1〜21は図3に示す面番号1〜21に対応している。また、表中の面番号22〜24は結像レンズ15に対応し、面番号25は視野絞り面FSに対応する。更に表中の面番号26,27はコレクタレンズG5に対応している。(可変データ)において、fはアフォーカルズーム系13全体の焦点距離を示し、Bfはバックフォーカスを示している。この場合バックフォーカスBfはコレクタレンズG5から上述した照明光学系の射出瞳までの距離である。
【0028】
なお、以下のすべての諸元値において、掲載されている焦点距離f、曲率半径r、面間隔dその他の長さの単位は、特記の無い場合一般に「mm」が使われるが、光学系は比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されることはなく、他の適当な単位を用いることもできる。
【0029】
(表1)

(数値例)
m r d νd nd
1 ∞ 15.0000 SP
2 120.1967 2.0000 39.57 1.80440 L1
3 48.7980 3.0000 82.56 1.49782 L2
4 -509.0866 0.5000
5 50.4610 3.0000 82.56 1.49782 L3
6 3179.8129 d1
7 -108.0082 1.5000 35.71 1.90265 L4
8 25.8194 2.0000
9 32.8474 3.5000 23.78 1.84666 L5
10 -19.0003 1.0000 60.29 1.62041 L6
11 31.8448 1.5000
12 -25.9839 1.5000 35.71 1.90265 L7
13 228.2515 d2
14 838.2380 6.0000 82.56 1.49782 L8
15 -31.9728 0.2000
16 136.9685 6.0000 82.56 1.49782 L9
17 -39.2120 2.0000 28.55 1.79504 L10
18 -92.0449 d3
19 -339.8016 5.5000 36.24 1.62004 L11
20 -40.8020 1.5000 39.57 1.80440 L12
21 -124.4210 58.017
22 93.0000 8.0000 60.29 1.62041 結像レンズ15
23 -39.0000 3.0000 35.28 1.74950
24 -110.0000 96.0000
25 ∞ 19.0000 FS
26 21.0000 3.0000 64.10 1.51680 コレクタレンズG5
27 -21.0000 Bf

(可変データ)
ズーム1倍時 ズーム7.5倍時
f 100.0000 750.0000
d1 2.6024 60.3676
d2 22.8372 2.5051
d3 43.3588 5.9257
Bf 8.5000 18.9000
【0030】
この表1に示されるように、アフォーカルズーム系13の標本面10a側15mmの位置に開口絞り面SP(12)が配置されているとき、この開口絞りSPのアフォーカルズーム系13からコレクタレンズG5に到る照明光学系による像(照明光学系の射出瞳)は、アフォーカルズーム系13の焦点距離fが100mm(1倍に相当)のとき、コレクタレンズG5の後方8.5mm(Bf)の位置に形成され、アフォーカルズーム系13の焦点距離fが750mm(7.5倍に相当)のとき、コレクタレンズG5の後方18.9mm(Bf)の位置に形成される。よって、このようにズーミングによって移動する照明光学系の射出瞳に光源面LSを一致或いは極力近づけるように光源ユニット16を光軸に沿って移動させれば、ケーラー照明を維持することができる。
【0031】
以上のように、本実施形態の照明装置及びこれを備えたズーム顕微鏡によれば、大きなスペースと複雑な構成が必要になる像面及び瞳面の双方の共役関係を保ったズーム系とすることなく、ズーミングによる照明光学系の射出瞳の移動による照明状態への好ましくない影響を防ぎ、ズーム倍率に依らず標本面に対して効率のよい照明を行うことができる。
【0032】
なお、上述の実施形態は例に過ぎず、上述の構成に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜修正、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態の照明装置を備えたズーム顕微鏡の構成を示す図である。
【図2】ズーミングによる照明光学系の射出瞳位置の変化と光源ユニットの位置変更について説明する図であり、(a)はズーム1倍のときを示し、(b)はズーム7.5倍のときを示す。
【図3】アフォーカルズーム系のレンズ構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10a 標本面
10c 視野絞り面
11 対物レンズ
12 開口絞り(対物レンズの瞳)
13 アフォーカルズーム系
15 反射照明系結像レンズ
16 位置変更可能な光源ユニット
18 光源
20 反射照明装置
30 ズーム顕微鏡
40 コントローラ
50 駆動部
G5 コレクタレンズ
G6 拡散板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本面側から順に、対物レンズとアフォーカルズーム系とを有するズーム顕微鏡に設けられ、前記アフォーカルズーム系及び前記対物レンズを介して前記標本面を照明する照明光学系を備えて構成される照明装置において、
前記アフォーカルズーム系のズーミングに応じて前記照明光学系の光源側に形成される前記照明光学系の射出瞳の位置と略一致するように前記光源位置を変更可能に構成したことを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記光源位置を変更するための駆動部と当該駆動部を制御するための制御部を更に有することを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記光源は、LED、ハロゲンランプ、又は光ファイバの射出端のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記光源は、拡散板を含んでユニット化されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項5】
標本面側から順に、対物レンズとアフォーカルズーム系と、請求項1から4のいずれか1項に記載の照明装置とを有することを特徴とするズーム顕微鏡。
【請求項6】
前記対物レンズの瞳が、前記アフォーカルズーム系の前記標本面側に設けられた開口絞りであることを特徴とする請求項5に記載のズーム顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−117624(P2010−117624A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291792(P2008−291792)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】