説明

熱可塑性樹脂成形品の再成形方法

【課題】何らかの不良により一部に欠陥を有する熱可塑性樹脂の成形品を、極めて簡単な方法によって修復することができる熱可塑性樹脂成形品の再成形方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂成形品の再成形方法は、ゴム材料からなるゴム型2のキャビティ22内に、熱可塑性樹脂の再成形用成形体3における成形必要箇所31を配置する配置工程と、ゴム型2を介してキャビティ22内の成形必要箇所31に電磁波Xを照射し、この成形必要箇所31を加熱して溶融樹脂として溶融させる加熱工程と、キャビティ22内の溶融樹脂を冷却して、成形必要箇所31を再成形した熱可塑性樹脂成形品を得る冷却工程とを行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム型を介して電磁波を照射して熱可塑性樹脂成形品を再成形する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いて所定形状の樹脂成形品を得る方法としては、一般的には、射出成形、ブロー成形、押出成形、プレス成形等の種々の成形方法がある。
これに対し、例えば、特許文献1においては、ゴム製の成形型を用いて、熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品を真空注型法により成形する際に、成形型に対して熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる樹脂成形方法が開示されている。この樹脂成形方法においては、成形型のキャビティ内に溶融状態の熱可塑性樹脂を充填する際に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を、成形型を介して熱可塑性樹脂に照射し、成形型を構成するゴムと熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム製の成形型に比べて、熱可塑性樹脂を積極的に加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−216447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各種の成形方法によって成形した熱可塑性樹脂成形品において、製品の一部が破損、欠損したときには、多くの場合は修復ができずに廃棄せざるを得なかった。また、熱可塑性樹脂の射出成形品において、種々の成形不良が発生した場合には、廃棄又は修復を行う必要が生じている。さらに、熱可塑性樹脂のブロー成形品においては、表面転写不良によって表面が粗くなることがあり、この場合には、サンディング(やすりかけ)を行なって表面を滑らかにする必要が生じている。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、何らかの不良により一部に欠陥を有する熱可塑性樹脂の成形品を、極めて簡単な方法によって修復することができる熱可塑性樹脂成形品の再成形方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に、熱可塑性樹脂の再成形用成形体における成形必要箇所を配置する配置工程と、
上記ゴム型を介して上記キャビティ内の上記成形必要箇所に電磁波を照射し、該成形必要箇所を加熱して溶融樹脂として溶融させる加熱工程と、
上記キャビティ内の溶融樹脂を冷却して、上記成形必要箇所を再成形した熱可塑性樹脂成形品を得る冷却工程とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法にある(請求項1)。
【0007】
第2の発明は、上記熱可塑性樹脂成形品の再成形方法を行って得られたことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品にある(請求項10)。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明の熱可塑性樹脂成形品の再成形方法においては、何らかの不良による成形必要箇所を有する熱可塑性樹脂の成形品を、再成形用成形体とし、この再成形用成形体を再成形して熱可塑性樹脂成形品を新たに製造することができるものである。
具体的には、配置工程として、ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に、熱可塑性樹脂の再成形用成形体における成形必要箇所を配置する。このとき、ゴム型のキャビティは、加熱による膨張、収縮を考慮して再成形用成形体における成形必要箇所の正規寸法形状が得られる形状に形成しておく。
【0009】
次いで、加熱工程として、ゴム型を介してキャビティ内の成形必要箇所に電磁波を照射し、この成形必要箇所を加熱してその周辺を溶融樹脂として溶融させる。このとき、ゴム型を構成するゴム材料と再成形用成形体を構成する熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム型に比べて、再成形用成形体を選択的に加熱することができる(再成形用成形体の加熱量を多くすることができる)。これにより、ゴム型の温度上昇を抑制して、再成形用成形体における成形必要箇所の周辺を溶融させることができる。
【0010】
そのため、再成形用成形体において成形必要箇所の周辺を局所的に溶融させることが容易であり、この溶融した部分をキャビティの形状に沿って再成形することができる。
そして、冷却工程として、キャビティ内の溶融樹脂を冷却したときには、成形必要箇所を再成形した新たな熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。
それ故、第1の発明の熱可塑性樹脂成形品の再成形方法によれば、何らかの不良により一部に欠陥を有する熱可塑性樹脂の成形品を、極めて簡単な方法によって修復することができる。
【0011】
第2の発明の熱可塑性樹脂成形品は、上記熱可塑性樹脂成形品の再成形方法を行って得られたものであり、一部に欠陥を有していた熱可塑性樹脂の成形品から容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例における、ゴム型のキャビティを、再成形用成形体の全体を配置する形状に形成した場合を示す断面説明図。
【図2】実施例における、ゴム型のキャビティを、再成形用成形体における成形必要箇所に対応した部分を配置する形状に形成した場合について、キャビティと成形必要箇所との間に補修用の熱可塑性樹脂を配置する状態を示す断面説明図。
【図3】実施例における、ゴム型のキャビティを、再成形用成形体における成形必要箇所に対応した部分を配置する形状に形成した場合について、補修用の熱可塑性樹脂が再成形用成形体における成形必要箇所に補填される過程を示す断面説明図。
【図4】実施例における、ゴム型のキャビティを、再成形用成形体における成形必要箇所に対応した部分を配置する形状に形成した場合について、再成形用成形体における成形必要箇所の周辺及び補修用の熱可塑性樹脂が、溶融樹脂として溶融する状態を示す断面説明図。
【図5】実施例における、ゴム型のキャビティを、再成形用成形体における成形必要箇所に対応した部分を配置する形状に形成した場合について、キャビティ内の溶融樹脂を冷却して、新たな熱可塑性樹脂成形品を成形した状態を示す断面説明図。
【図6】実施例において、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについての光の透過率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述した第1の発明の熱可塑性樹脂成形品の再成形方法における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記ゴム型は、ゴム材料としての透明又は半透明のシリコーンゴムから形成することができる。このシリコーンゴムの硬度は、JIS−A規格測定において25〜80とすることができる。
【0014】
また、再成形用成形体を構成する熱可塑性樹脂としては、電磁波を吸収し、加熱が促進されるものを用いることができる。
再成形用成形体を構成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性を有する重合体を含むものであれば、特に限定されず、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、ASA樹脂(アクリレート・スチレン・アクリロニトリル樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン樹脂)等のゴム強化スチレン系樹脂、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フッ素樹脂、イミド系樹脂、ケトン系樹脂、スルホン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、感光性樹脂、液晶ポリマー、生分解性プラスチック等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
上記熱可塑性樹脂のうち、再成形用成形体として好適なものとして、ゴム強化スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリカーボネート樹脂のアロイ、ゴム強化スチレン系樹脂及びポリカーボネート樹脂のアロイ、ゴム強化スチレン系樹脂及びポリエステル系樹脂のアロイ等が挙げられる。
【0016】
また、上記配置工程においては、上記キャビティ内に上記成形必要箇所を配置すると共に補修用の熱可塑性樹脂を配置し、上記加熱工程においては、上記成形必要箇所と上記補修用の熱可塑性樹脂とを加熱して溶融樹脂として溶融させ、上記冷却工程においては、上記キャビティ内の溶融樹脂を冷却して、上記再成形用成形体と上記補修用の熱可塑性樹脂とが一体化した熱可塑性樹脂成形品を得ることが好ましい(請求項2)。
この場合には、成形必要箇所の欠陥の程度により、この成形必要箇所に熱可塑性樹脂が不足しているときには、補修用の熱可塑性樹脂を配置して、不足分を補うことができる。そして、成形必要箇所と補修用の熱可塑性樹脂とを溶融させて一体化させることにより、成形必要箇所を再成形した熱可塑性樹脂成形品を精度良く製造することができる。
【0017】
また、上記補修用の熱可塑性樹脂は、粒子状又はペースト状のものであることが好ましい(請求項3)。
この場合には、ゴム型のキャビティ又は再成形用成形体における成形必要箇所に補修用の熱可塑性樹脂を容易に配置することができる。
【0018】
また、上記再成形用成形体は、成形不良品、破損・欠損が生じた成形品であり、上記加熱工程及び上記冷却工程を行って、上記再成形用成形体の成形必要箇所を修復することができる(請求項4)。
ここで、再成形用成形体は、成形不良、破損・欠損が生じた成形品であれば、いかなる成形方法によって成形したものでもよく、その成形方法は何ら限定されるものではない。例えば、ゴム型を介して熱可塑性樹脂に電磁波を照射して成形した成形品、射出成形品、ブロー成形品、プレス成形品、押出成形品等が挙げられ、これら成形品の欠陥箇所を容易に修復することができる。また、成形不良とは、通常言われる成形品の不良現象を挙げることができる。
【0019】
また、上記再成形用成形体は、外観不良、強度不良、形状不良、二次加工不良等の不良が生じた射出成形品とすることができる(請求項5)。
この場合には、ウェルドライン(流動する樹脂同士が融合する部分に生じるライン)、ヒケ(樹脂が成形収縮することによって生じるへこみ、窪み)、シルバーライン(成形品の表面及び表面近くに樹脂の流れ方向に発生する細いラインの束)等の発生による外観不良、ウェルドライン等の発生による強度不良、成形品の反り等による形状不良、塗装、メッキを行った際に生じる表面歪み等による二次加工不良等の不良が生じた射出成形品に対して、上記電磁波照射による再成形を行って、不良を修復した熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。
【0020】
また、上記再成形用成形体は、表面転写不良が生じたブロー成形品とすることもできる(請求項6)。
この場合には、ブロー成形品において表面転写不良が生じたとき、従来のサンディング(やすりかけ)を行なうことなく、上記電磁波照射による再成形方法を行うことによって、ブロー成形品の表面を極めて簡単に円滑にすることができる。そのため、ブロー成形後のサンディング工程を廃止することができ、表面転写に優れたブロー成形品を容易に成形することができる。
【0021】
また、上記加熱工程において用いる上記電磁波は、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波又は0.01〜100mの波長領域を含む電磁波であることが好ましい(請求項7)。
この場合には、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波により、ゴム型に比べて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することが容易である。この理由は次のように考える。
すなわち、ゴム型の表面に照射された0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波は、ゴム型に吸収される割合に比べて、ゴム型を透過して熱可塑性樹脂に吸収される割合が多いと考える。そのため、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波による光のエネルギーが熱可塑性樹脂に優先的に吸収されて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができると考える。
【0022】
また、上記電磁波としては、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波だけでなく、これ以外の領域の電磁波も含まれていてもよい。この場合において、加熱工程において用いる電磁波は、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波を、これ以外の領域の電磁波よりも多く含むことが好ましい。
また、上記熱可塑性樹脂の加熱に、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波を用いる理由は、この波長の領域の電磁波は、ゴム型を透過し易い性質を有する一方、熱可塑性樹脂に吸収され易い性質を有するためである。
【0023】
また、上記電磁波は、0.78〜2μmの波長領域に強度のピークを有していることが好ましい。この場合には、電磁波発生源として、出射する電磁波の波長に所定の分布特性を有するハロゲンヒータ、赤外線ランプ等を用いることができる。
【0024】
また、この場合には、0.01〜100mの波長領域を含む電磁波(マイクロ波又は高周波)により、ゴム型に比べて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することが容易である。この理由は次のように考える。
すなわち、ゴム型の表面に上記マイクロ波又は高周波が照射されたときには、ゴム型及び熱可塑性樹脂には誘電加熱が行われ、これらにおいて生ずる誘電体損失によって、ゴム型及び熱可塑性樹脂が発熱して加熱される。そして、熱可塑性樹脂における誘電体損失が、ゴム型における誘電体損失よりも大きいことによって、熱可塑性樹脂を選択的(優先的)に加熱することができると考える。
【0025】
また、上記電磁波としては、波長が0.01〜100mの領域の電磁波だけでなく、これ以外の領域の電磁波も含まれていてもよい。この場合において、加熱工程において用いる電磁波は、波長が0.01〜100mの領域の電磁波を、これ以外の領域の電磁波よりも多く含むことが好ましい。
また、上記熱可塑性樹脂の加熱に、波長が0.01〜100mの領域の電磁波を用いる理由は、この波長の領域の電磁波は、ゴム型を透過し易い性質を有する一方、熱可塑性樹脂に吸収され易い性質を有するためである。
【0026】
なお、上記加熱工程において用いる上記電磁波は、上記0.78〜2μmの波長領域又は0.01〜100mの波長領域以外の波長領域を含む電磁波とすることもできる。上記再成形方法の発明においては、再成形用成形体における成形必要箇所の周辺を局所的に加熱できればよいため、多くの波長領域の電磁波を使用できると考えられる。この場合、ゴム型に比べて熱可塑性樹脂からなる再成形用成形体を選択的に加熱することができる波長領域の電磁波を用いることができる。
【0027】
また、上記ゴム型のキャビティは、上記再成形用成形体の全体を配置する形状に形成することができる(請求項8)。
この場合には、再成形用成形体の全体を修復することができる。
【0028】
また、上記ゴム型のキャビティは、上記再成形用成形体における成形必要箇所に対応した部分を配置する形状に形成することもできる(請求項9)。
この場合には、再成形用成形体の成形必要箇所のみを溶融させて再成形することにより、再成形用成形体における成形必要箇所を効率的に再成形することができる。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂成形品の再成形方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の熱可塑性樹脂成形品6の再成形方法は、図1、図2に示すごとく、ゴム材料からなるゴム型2のキャビティ22内に、熱可塑性樹脂の再成形用成形体3における成形必要箇所31を配置する配置工程と、図3、図4に示すごとく、ゴム型2を介してキャビティ22内の成形必要箇所31に電磁波Xを照射し、この成形必要箇所31を加熱して溶融樹脂5として溶融させる加熱工程と、図5に示すごとく、キャビティ22内の溶融樹脂5を冷却して、成形必要箇所31を再成形した熱可塑性樹脂成形品6を得る冷却工程とを行うものである。
ここで、図1は、ゴム型2のキャビティ22を、再成形用成形体3の全体を配置する形状に形成した場合を示し、図2〜図5は、ゴム型2のキャビティ22を、再成形用成形体3における成形必要箇所31に対応した部分を配置する形状に形成した場合について、成形必要箇所31の周辺を拡大して示す。
【0030】
以下に、本例の熱可塑性樹脂成形品6の再成形方法につき、図1〜図6を参照して詳説する。
本例の再成形用成形体3は、非晶性樹脂であると共にゴム強化スチレン系樹脂であるABS樹脂からなる。
本例のゴム型2は、透明又は半透明のシリコーンゴムからなる。このゴム型2は、キャビティ22を再成形用成形体3における成形必要箇所31に対応した部分を配置する形状に形成する場合には、再成形用成形体3の成形必要箇所31の正規寸法形状のマスターモデルを液状のシリコーンゴム内に配置し、このシリコーンゴムを硬化させることによって作製することができる。ゴム型2を作製する際には、電磁波照射によるゴム型2の膨張、収縮を考慮することができる。
【0031】
また、ゴム型2は、キャビティ22を再成形用成形体3の全体を配置する形状に形成する場合には、再成形用成形体3の正規寸法形状のマスターモデルを液状のシリコーンゴム内に配置し、このシリコーンゴムを硬化させた後、硬化後のシリコーンゴムを切り開いて、このシリコーンゴムからマスターモデルを取り出すことによって作製することもできる。この場合、図1に示すごとく、ゴム型2は、1つの分割面20を形成して2つの分割型部21を組み合わせて形成することができる。なお、ゴム型2は、成形する熱可塑性樹脂成形品6の形状が複雑な場合は、3つ以上の分割型部21を組み合わせて形成することもできる。
【0032】
本例の再成形方法においては、ゴム型2及び電磁波照射装置1を用いて、何らかの不良による成形必要箇所31を有する熱可塑性樹脂の成形品を、再成形用成形体3とし、この再成形用成形体3を再成形して熱可塑性樹脂成形品6を新たに製造する。
そして、ゴム型2は、成形品のマスターモデル、欠陥がない成形品の良品があれば、これらの表面形状を転写したキャビティ22を形成して作製することができる。一方、マスターモデル、良品がない場合でも、再成形用成形体3の欠陥部分を接着剤、パテ等によって簡易的に手直しし、これをマスターとして表面形状を転写したキャビティ22を形成してゴム型2を作製することができる。
【0033】
図1に示すごとく、電磁波照射装置1は、電磁波(光)Xの発生源11と、この発生源11による電磁波Xをゴム型2の方向へ導くリフレクタ(反射板)12とを有している。本例の電磁波照射装置1としては、近赤外線領域内の約1.2μmの付近に光強度のピークを有する近赤外線ハロゲンヒータを用いる。この近赤外線ハロゲンヒータは、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波Xを発するよう構成されている。
【0034】
また、再成形用成形体3を再成形する際、すなわち熱可塑性樹脂を加熱溶融させて固化させる工程においては、ゴム型2における各分割型部21が開かないように型締めすることが好ましい。具体的には、油圧、電動の装置による金属板等を用いた型締め、クランプ、ネジ等を用いた型締め、ゴム型2の内部(分割型部21同士の間)を真空状態にして大気圧との差を利用した型締め等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂を加熱溶融させる際に電磁波Xの照射を妨げないとの観点より、真空状態を利用した型締めを行うことが好ましい。
【0035】
また、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波(光)Xに対する吸光度(特定の波長の光に対する吸収強度を示す尺度)は、熱可塑性樹脂として用いるABS樹脂の方が、ゴム製のゴム型2として用いるシリコーンゴムよりも大きくなっている。なお、吸光度は、例えば、島津製作所製UV3100を用いて測定することができる。
【0036】
図6は、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについて、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、各シリコーンゴムにおける光の透過率を示すグラフである。同図において、各シリコーンゴムは、200〜2200(nm)の間の波長の光を透過させることがわかる。そのため、この波長の領域である近赤外線(0.78〜2μmの波長領域の光)をシリコーンゴム製のゴム型2の表面に照射すると、当該近赤外線の多くを、ゴム型2を透過させて熱可塑性樹脂に吸収させることができる。そして、ゴム型2に比べて熱可塑性樹脂を選択的に加熱できることがわかる。
【0037】
次に、再成形用成形体3の成形必要箇所31を修復して、熱可塑性樹脂成形品6を再成形する方法及びその作用効果につき詳説する。
熱可塑性樹脂成形品6を再成形するに当たっては、まず、図1、図2に示すごとく、配置工程として、ゴム材料からなるゴム型2のキャビティ22内に、熱可塑性樹脂の再成形用成形体3における成形必要箇所31を配置する。このとき、本例の配置工程においては、キャビティ22と成形必要箇所31との間に粒子状又はペースト状である補修用の熱可塑性樹脂4を配置する。この補修用の熱可塑性樹脂4は、再成形用成形体3を構成する熱可塑性樹脂と同質のものとする。
【0038】
次いで、図1、図3に示すごとく、加熱工程として、電磁波照射装置1に対し、ゴム型2及びゴム型2のキャビティ22内に配置した再成形用成形体3の成形必要箇所31を対向配置する。そして、電磁波照射装置1からゴム型2を介してキャビティ22内の成形必要箇所31及び補修用の熱可塑性樹脂4に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波Xを照射し、図4に示すごとく、この成形必要箇所31の周辺及び補修用の熱可塑性樹脂4を加熱して溶融樹脂5として溶融させる。
ここで、図3は、補修用の熱可塑性樹脂4が再成形用成形体3における成形必要箇所31に補填される過程を示し、図4は、再成形用成形体3における成形必要箇所31の周辺及び補修用の熱可塑性樹脂4が溶融する状態を示す。
【0039】
上記溶融をさせるとき、ゴム型2を構成するゴム材料と再成形用成形体3を構成する熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム型2に比べて、再成形用成形体3を選択的に加熱することができる(再成形用成形体3の加熱量を多くすることができる)。これにより、ゴム型2の温度上昇を抑制して、再成形用成形体3における成形必要箇所31の周辺及び補修用の熱可塑性樹脂4を溶融させることができる。
【0040】
そのため、再成形用成形体3において成形必要箇所31の周辺を局所的に溶融させることが容易であり、この溶融した部分をキャビティ22の形状に沿って再成形することができる。
そして、図5に示すごとく、冷却工程として、キャビティ22内の溶融樹脂5を冷却したときには、再成形用成形体3と補修用の熱可塑性樹脂4とが一体化して、成形必要箇所31を再成形した新たな熱可塑性樹脂成形品6を得ることができる。
【0041】
また、成形必要箇所31の欠陥の程度により、この成形必要箇所31に熱可塑性樹脂が不足しているときには、上記補修用の熱可塑性樹脂4を用いることにより、熱可塑性樹脂の不足分を補うことができる。そして、成形必要箇所31の周辺と補修用の熱可塑性樹脂4とを溶融させて一体化させることにより、成形必要箇所31を再成形した熱可塑性樹脂成形品6を精度良く製造することができる。
【0042】
また、ゴム型2を介して再成形用成形体3に電磁波Xを照射させる度合いは、再成形用成形体3における成形必要箇所31としての欠陥部分が表面付近に留まる場合には、再成形用成形体3の表面が溶融する程度の強度(条件)で電磁波Xの照射を行うことができる。これに対し、再成形用成形体3における成形必要箇所31としての欠陥部分が内部まで到達している場合には、再成形用成形体3の内部が溶融する程度の強度(条件)で電磁波Xの照射を行うことができる。
それ故、本例の熱可塑性樹脂成形品6の再成形方法によれば、何らかの不良により一部に欠陥を有する熱可塑性樹脂の成形品を、極めて簡単な方法によって修復することができる。
【0043】
以下に、上記熱可塑性樹脂成形品6の再成形方法によって修復可能な種々の欠陥(不良)について説明する。
ここで、再成形に用いる再成形用成形体は、成形不良、破損・欠損が生じた成形品であれば、いかなる成形方法によって成形したものでもよく、その成形方法は何ら限定されるものではない。
熱可塑性樹脂成形品6の再成形方法は、ゴム型2を介して熱可塑性樹脂に0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波Xを照射して成形した成形品の成形不良品を修復するために用いることができる。この場合、成形品の形状が複雑であり、熱可塑性樹脂がゴム型2のキャビティ22の全体に行き渡らなかったケースが考えられる。
【0044】
また、熱可塑性樹脂成形品6の再成形方法は、破損・欠損が生じた成形品を修復するために用いることもできる。この場合、破損・欠損が生じた成形必要箇所31に、同質の補修用の熱可塑性樹脂4を配置し、ゴム型2を介して、成形必要箇所31の周辺及び補修用の熱可塑性樹脂4に0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波Xを照射する。これにより、破損・欠損を修復して、初期の製品と同等の強度及び外観を有する製品を復元させることができる。
【0045】
また、熱可塑性樹脂成形品6の再成形方法は、射出成形品に生じた外観不良、強度不良、形状不良、二次加工不良等の不良を修復するために用いることもできる。
射出成形品に生じたウェルドライン、ヒケ、シルバーライン等の発生による外観不良、塗装、メッキを行った際に生じる表面歪み等による二次加工不良の場合には、再成形用成形体3としての射出成形品の表面のみを溶融させる強度(条件)で、ゴム型2を介して不良が生じた成形必要箇所31に0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波Xを照射する。これにより、射出成形に特有の表面不良現象を改善することができる。
【0046】
また、射出成形品に生じたウェルドライン等の発生による強度不良、成形品の反り等による形状不良の場合には、再成形用成形体3としての射出成形品の内部までも溶融させる強度(条件)で、ゴム型2を介して不良が生じた成形必要箇所31に0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波Xを照射する。これにより、欠陥が射出成形品の内部まで到達している場合にも、修復を行うことができる。
このように、上記再成形方法によれば、射出成形現場で発生する各種トラブルを製品の出荷前に改善することができる。
【0047】
また、熱可塑性樹脂成形品6の再成形方法は、ブロー成形品に生じた表面転写不良を修復するために用いることもできる。
ブロー成形現場においては、成形の際に表面転写精度が低いこと(成形品の表面が粗いこと)が問題になっている。そのため、ブロー成形を行ったブロー成形品をサンディング工程を行って、成形品の表面を円滑にしている。しかし、このサンディング工程を行うことにより、工数が増大するだけでなく、微粉が飛散するため健康管理に注意が必要になる。
【0048】
これに対し、表面転写が不十分なブロー成形品を再成形用成形体3とし、表面転写不良が生じた部位を成形必要箇所31として、ゴム型2のキャビティ22にブロー成形品の全体又は成形必要箇所31を配置し、ブロー成形品の全体又は成形必要箇所31に0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波Xを照射する。これにより、ブロー成形品の表面のみを溶融させ、この表面にゴム型2のキャビティ22の形状を転写することにより、ブロー成形品の表面を円滑にして、ブロー成形品に生じた表面転写不良を修復することができる。
このように、上記再成形方法によれば、ブロー成形現場で膨大な工数を消費しているサンディング工程を廃止することができる。そして、表面転写に優れたブロー成形品を安価に得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 電磁波照射装置
2 ゴム型
21 分割型部
22 キャビティ
3 再成形用成形体
31 成形必要箇所
4 補修用の熱可塑性樹脂
5 溶融樹脂
6 熱可塑性樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に、熱可塑性樹脂の再成形用成形体における成形必要箇所を配置する配置工程と、
上記ゴム型を介して上記キャビティ内の上記成形必要箇所に電磁波を照射し、該成形必要箇所を加熱して溶融樹脂として溶融させる加熱工程と、
上記キャビティ内の溶融樹脂を冷却して、上記成形必要箇所を再成形した熱可塑性樹脂成形品を得る冷却工程とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項2】
請求項1において、上記配置工程においては、上記キャビティ内に上記成形必要箇所を配置すると共に補修用の熱可塑性樹脂を配置し、
上記加熱工程においては、上記成形必要箇所と上記補修用の熱可塑性樹脂とを加熱して溶融樹脂として溶融させ、
上記冷却工程においては、上記キャビティ内の溶融樹脂を冷却して、上記再成形用成形体と上記補修用の熱可塑性樹脂とが一体化した熱可塑性樹脂成形品を得ることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項3】
請求項2において、上記補修用の熱可塑性樹脂は、粒子状又はペースト状のものであることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記再成形用成形体は、成形不良品、破損・欠損が生じた成形品であり、
上記加熱工程及び上記冷却工程を行って、上記再成形用成形体の成形必要箇所を修復することを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項5】
請求項4において、上記再成形用成形体は、外観不良、強度不良、形状不良、二次加工不良等の不良が生じた射出成形品であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項6】
請求項4において、上記再成形用成形体は、表面転写不良が生じたブロー成形品であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記加熱工程において用いる上記電磁波は、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波又は0.01〜100mの波長領域を含む電磁波であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項において、上記ゴム型のキャビティは、上記再成形用成形体の全体を配置する形状を有していることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項において、上記ゴム型のキャビティは、上記再成形用成形体における成形必要箇所に対応した部分を配置する形状を有していることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の再成形方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形品の再成形方法を行って得られたことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−37206(P2011−37206A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188540(P2009−188540)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】