説明

熱硬化性樹脂組成物、それを用いたプリプレグ、金属箔および基板

【課題】 高周波用途に適した低比誘電率かつ低誘電損失な誘電特性を備える熱硬化性樹脂組成物であって、該樹脂組成物をプリプレグまたは金属箔に適用した際、その樹脂組成物の量をコントロールすることが容易であり、かつ、プレス時に流動制御が可能となることにより寸法精度を向上させることができる、低コスト性、加工性および信頼性に優れた高性能の熱硬化性樹脂組成物、それを用いたプリプレグ、金属箔および基板を提供する。
【解決手段】 ビニルベンジル系化合物を主成分する熱硬化性樹脂組成物に、5GHzの周波数帯域において比誘電率(ε’)が3.0以下で、かつ誘電正接(tanδ)が0.002以下である熱可塑性樹脂が全樹脂量に対し1〜30重量%含まれている熱硬化性樹脂組成物である。また、それを用いたプリプレグ、金属箔および基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、それを用いたプリプレグ、金属箔および基板に関し、詳しくは、高周波(ギガヘルツ)帯域での使用に好適である、低比誘電率かつ低誘電損失な電子部品用基板に用いられる熱硬化性樹脂組成物、それを用いたプリプレグ、金属箔および基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器の大容量高速化に伴って、それを構成する電子部品に用いられる基板材料についても小型化、高密度化及び高速化に対応するための要求がなされている。具体的には、ギガヘルツ帯域での使用に対応し得る、低比誘電率で低誘電損失な材料が望まれている。
【0003】
従来、プリント配線用基板においては、銅張り積層板の材料としてエポキシ樹脂を用いたものが一般的に用いられてきた。しかし、エポキシ樹脂を用いた基板は、安価で、かつ、加工性やメッキ性に優れている反面、高周波帯域における誘電特性が悪いという欠点があり、上記要請には対応し得ない。また、基板材料としてフッ素樹脂を用いることも提案されているが、フッ素樹脂は誘電特性に優れる反面、加工性や接着性に劣り、また、非常に高価であることから、特殊用途に使用が限定されているのが現状である。
【0004】
現在、これら問題に対応し得る材料として、ポリフェニレンエーテルやBT(ビスマレイミド/トリアジン)レジンが使用されている。しかし、これらの材料は比誘電率(ε’)および誘電正接(tanδ)がフッ素樹脂に比べてかなり大きく、さらにBTレジンについては吸湿性が高く、加工性に劣るため、ギガヘルツ帯、特に5GHz以上の周波数帯域においては誘電特性の面で不十分であった。
【0005】
そこで、ポリフェニレンエーテルやBTレジンよりも優れた誘電特性を有する材料として、特許文献1などに、脂環式オレフィン重合体の熱可塑性樹脂に熱硬化性樹脂、具体的にはエポキシ基含有化合物を混合した樹脂組成物が報告されている。また、同様に誘電特性に優れた材料として、特許文献2には、架橋成分としてスチレン基を有する化合物と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が提案されている。さらに、特許文献3には、高周波数用途に特に適した熱硬化性樹脂としてビニルベンジル系化合物が挙げられており、かかる化合物は機械的強度に優れ、揮発性もなく、優れた誘電特性を有することが報告されている。
【特許文献1】特開2003−22711号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2003−12710号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2001−181460号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリフェニレンエーテルやBTレジンに代わる樹脂としてこれまでに報告されている高周波(ギガヘルツ)帯域用樹脂組成物は、必ずしも満足し得るものではなく、いずれも改良すべき点があった。
【0007】
例えば、特許文献1に記載されている樹脂組成物のように熱可塑性樹脂を主成分とした場合には誘電特性に優れた性能を発揮するが、耐溶剤性および強度等の面で不十分であり、逆に、熱硬化性樹脂を主成分とした場合には大幅に誘電特性を損なってしまうという問題があった。
【0008】
このような問題は、特許文献2に挙げられている樹脂組成物を使用することにより改善されるが、特許文献2に示されるようにスチレン基を有する化合物を架橋成分とした場合、硬化物の強度が低く、特にジビニルベンゼンを使用してプリプレグを作製する場合はジビニルベンゼンの沸点が低いため、プリプレグ中のジビニルベンゼンの量が安定しないという問題があった。
【0009】
また、特許文献3に挙げられている、高周波(ギガヘルツ)帯域での使用に適した熱硬化性樹脂であるビニルベンジル系化合物を使用した場合には、上記の利点はあるものの、溶液化すると粘度が低いためにプリプレグ化した際に樹脂量が少なくなるといった問題があった。また、増粘させるために溶液中の樹脂濃度を増加させると反応が促進され、寿命が著しく短くなるという問題があった。さらに、溶解した樹脂自体が低粘度であるため、プリプレグをプレスした際に樹脂が大量に流れ出し、厚さおよび寸法を制御するのが難しいといった問題もあった。
【0010】
上述のように、これまでは、高周波帯域において特に優れた誘電特性を示し、かつ、加工性や信頼性、コスト性等の面においても良好な性能を示す基板材料は得られていないのが現状である。
【0011】
そこで本発明の目的は、高周波用途に適した低比誘電率かつ低誘電損失な誘電特性を備える熱硬化性樹脂組成物であって、該樹脂組成物をプリプレグまたは金属箔に適用した際、その樹脂組成物の量をコントロールすることが容易であり、かつ、プレス時に流動制御が可能となることにより寸法精度を向上させることができる、低コスト性、加工性および信頼性に優れた高性能の熱硬化性樹脂組成物、それを用いたプリプレグ、金属箔および基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、熱硬化性樹脂としてのビニルベンジル系化合物に着目して鋭意検討した結果、このビニルベンジル系化合物に所定の熱可塑性樹脂を添加することにより、上記目的を達成し得る樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ビニルベンジル系化合物を主成分とする熱硬化性樹脂組成物に、5GHzの周波数帯域において比誘電率(ε’)が3.0以下で、かつ誘電正接(tanδ)が0.002以下である熱可塑性樹脂が全樹脂量に対し1〜30重量%含まれていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のプリプレグは、上記本発明の熱硬化性樹脂組成物がガラスクロスに含浸されてなり、かつ、ガラス成分の占める割合が5〜60重量%であることを特徴とするものである。
【0015】
さらに、本発明の樹脂付き金属箔は、上記本発明の熱硬化性樹脂組成物が塗布されてなることを特徴とするものである。
【0016】
さらにまた、本発明の基板は、上記本発明のプリプレグと金属箔と、または上記本発明の樹脂付き金属箔が積層されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高周波用途に適した低比誘電率かつ低誘電損失な誘電特性を備える熱硬化性樹脂組成物が得られる。また、この樹脂組成物をプリプレグに適用した際には、その樹脂組成物の量をコントロールすることが容易であり、かつ、プリプレグのプレス時に流動制御が可能であることにより寸法精度を向上させることができる。さらに、この樹脂組成物を金属箔に塗布した場合も、プリプレグ同様にプレス時の樹脂流動性が抑制されているため寸法精度に優れた多層基板を提供することができる。その結果、この熱硬化性樹脂組成物は低コスト性に加え、加工性および信頼性にも優れた効果を奏する。また、本発明では、かかる高性能な熱硬化性樹脂組成物を使用することにより、高周波帯域での使用に適した信頼性に優れるプリプレグ、金属箔および回路基板等の電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ビニルベンジル系化合物のモノマーまたはプレポリマーを主成分とする熱硬化性樹脂組成物に対し所定量の特定熱可塑性樹脂が含まれている。ビニルベンジル系化合物は、熱硬化性樹脂として、高周波帯域における誘電特性に極めて優れており、ガラス転移点も180℃付近と高く、しかも硬化に至るまで揮発せず、組成ずれを起こさないという特長を有している一方で、溶液化すると粘度が低く、プリプレグ化した際に樹脂が流れ出し、厚さや寸法を制御することが困難であるなど、ハンドリングに問題があった。そこで、本発明においては、主成分としてのビニルベンジル系化合物とともに所定量の特定熱可塑性樹脂を配合することで、ビニルベンジル系化合物本来の特性を損なわずにハンドリングを改善したものである。
【0019】
ビニルベンジル系化合物として、下記一般式(1)、

(式中、R1は炭素数2〜20の2価の有機基を示し、R2は同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン原子または炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基若しくはアリール基を示し、xは0〜4の整数を示し、mは0〜20の整数を示す)で示されるビニルベンジル化合物を好適に用いることができる。
【0020】
上記一般式(1)で示されるビニルベンジル系化合物は、フルオレン化合物を1種または2種以上、ビニルベンジルハライド、および必要に応じて炭素数1〜20のジハロメチル化合物を、アルカリ存在下で反応させることにより得ることができる。本発明に用いられるフルオレン化合物は、フルオレンおよびその芳香環部分が、アルキル基やアルコキシ基、チオアルコキシ基、アリール基で置換されていてもよい。これらは必要に応じて単独または2種以上混合して使用することができる。
【0021】
また、本発明で用いられるビニルベンジルハライドとしては、m−ビニルベンジルクロライド、p−ビニルベンジルクロライド、m−ビニルベンジルブロマイド、p−ビニルベンジルブロマイド等が挙げられる。これらは単独または2種以上混合して用いてもよく、特に、m−ビニルベンジルクロライド、p−ビニルベンジルクロライドを用いることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明で用いるジハロメチル化合物とは、CH22、または分子中に−CH2X基(但し、Xはハロゲン原子を表す)を2つ以上有する化合物であり、炭素数2〜20であることが好ましい。具体的な化合物例としては、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロへプタン等のハロゲン化アルキル、o−キシリレンジクロリド、4,4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル、1,4−ビス(クロロメチル)ナフタレン等が挙げられる。これらは、分子内環化反応が起こらない範囲内で単独、あるいは2種以上混合して使用してもよい。
【0023】
ビニルベンジルハライドとジハロメチル化合物のハロメチル基との当量比は、特にジハロメチル化合物によるゲル化が起こらない範囲で選択することができ、ビニルベンジルハライド/ジハロメチル化合物比は、1.0/0〜0.1/0.9の範囲が好ましい。ビニルベンジルハライドがこの範囲よりも少ないと、硬化性が低下して、硬化物の物性が大幅に低下してしまう。
【0024】
反応溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,3−ジメトキシプロパン、テトラメチレンスルホン、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等を使用することが好ましい。これらは単独または2種以上混合して用いてもよく、原材料や反応条件に応じて適宜選択される。
【0025】
本発明に用いられるアルカリは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシド、水素化物、水酸化物であり、具体例としては、ナトリウムエトキシド、水素化ナトリウム、ホウ水素化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
本発明で用いるビニルベンジル系化合物は、相間移動触媒、例えば、第4級アンモニウム塩の存在下で、上記フルオレン化合物、ビニルベンジルハライド、およびジハロメチル化合物を、水/有機溶媒混合液中、アルカリ存在下で反応させることによって得ることができる。
【0027】
本発明に係るビニルベンジル系化合物は、作業性等の面から2種以上を混合して用いることも可能であり、誘電特性を損なわない範囲内で適宜選択される。
【0028】
上記ビニルベンジル系化合物を主成分する熱硬化性樹脂組成物に配合する熱可塑性樹脂は、5GHzの周波数帯域において比誘電率(ε’)が3.0以下で、かつ誘電正接(tanδ)が0.002以下のものであればよく、特に制限されるべきものではないが、好ましくはポリスチレン、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリベンゾシクロブテン、石油樹脂等を挙げることができる。これらのうち、機械的強度、特には耐熱衝撃性の観点から、ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。
【0029】
かかるポリフェニレンエーテルは、次の一般式(2)で表される構造単位を骨格に持つ重合体の総称である。かかる構造単位の一種のみからなる単独重合体であっても、二種以上が組み合わされた共重合体であってもよい。
【0030】

(式中、R3〜R6は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または低級アルキル基を表す)
【0031】
本発明において使用する熱可塑性樹脂の分子量は、重量平均分子量で10000〜100000であることが好ましい。重量平均分子量が10000未満の場合、硬化物の強度が低下するといった問題があり、一方、100000を超えると硬化後または溶液中で熱可塑性樹脂が分離し易くなるといった問題がある。
【0032】
また、かかる熱可塑性樹脂は、ビニルベンジル系化合物を主成分する熱硬化性樹脂組成物に、全樹脂量に対し1〜30重量%、好ましくは1〜10重量%の割合で配合する。熱可塑性樹脂の配合割合が1重量%未満であると、プリプレグ化した際の樹脂の流動抑制効果が小さく、厚さおよび寸法の制御を容易に行うことができず、一方、30重量%を超えると熱可塑性樹脂の性質が強くなり過ぎ、耐溶剤性および耐熱性の低下が顕著となる。
【0033】
なお、本発明の熱硬化性樹脂組成物には重合禁止剤を誘電特性を損なわない範囲内で配合することが好ましく、これにより樹脂材料の可使時間を長くすることができる。重合禁止剤は、重合開始剤またはモノマーからできたラジカルと速やかに反応してラジカル種を消失安定化させ、重合反応を停止させる物質として既知のものを使用することができ、特に制限されるべきものではないが、好ましくはヒドロキノン、特にはテトラメチルヒドロキノンの他、2,4−ジニトロフェノール、フェノチアジン等を挙げることができる。かかる重合禁止剤の添加量も特に制限されるべきものではないが、一般には全樹脂量に対して0.01〜1重量%とする。
【0034】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて難燃剤や可塑剤、劣化防止剤等を、本発明の目的を損なわない範囲内で添加することができる。
【0035】
次に、本発明のプリプレグは、上記熱硬化性樹脂組成物を、ガラスクロスに含浸させてなる。熱硬化性樹脂組成物をガラスクロスに含浸させる際には、ビニルベンジル系化合物のモノマーまたはプレポリマーと、上記熱可塑性樹脂と、必要に応じ重合禁止剤等を、トルエンやキシレン等の非極性の有機溶剤に溶解した溶液として使用する。この際には、溶液中に占める熱硬化性樹脂成分および添加剤の割合が、総計で40〜70重量%となるように調製を行う。この熱硬化性樹脂組成物の溶液は、一般にガラスクロス等に含浸してプリプレグとした後、金属箔等と積層して基板化されるが、溶液濃度が40重量%未満であると、プリプレグに含まれる樹脂成分が少ないために誘電特性が低くなってしまう場合があり、一方、溶液濃度が70重量%を超えると、溶媒に対する溶解性が非常に悪くなり、プリプレグおよびプレス品の厚さバラツキが大きくなってしまう。
【0036】
また、プリプレグに用いるガラスクロスの材質には特に制限はなく、プリント基板において通常使用されるものを用いることができ、例えば、縦糸や緯糸の単位長さ当たりの本数、厚さおよび単位面積当たりの重さが、日本工業規格R−3414またはアメリカ軍用規格(MIL規格)に該当するものが挙げられる。また、これらの規格に該当しない範囲のガラスクロスを用いてもよく、ガラス繊維と炭素繊維またはセラミック繊維などのガラス繊維以外の繊維との混合織物であってもよい。このガラス繊維としては、Eガラス(比誘電率ε’=7、誘電正接tanδ=0.003、1GHz)、Dガラス(ε=4、tanδ=0.0013、1GHz)、Hガラス(ε=11、tanδ=0.003、1GHz)、Cガラス、Sガラス、NEガラス等各種のガラス成分組成を持つものを挙げることができる。コスト性と誘電特性とのバランスの観点から、好適にはEガラスを用いる。
【0037】
ガラスクロスの厚みとしては、特に限定されるものではなく、必要に応じて10〜300μm、特には50〜200μm程度、さらには50、100、150、180μmのものを適宜用いることができる。
【0038】
また、ガラスクロスには、糸束内部に含浸した樹脂とガラス繊維との接着性を向上するために、あらかじめ表面処理が施されていることが必要である。かかる表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、アミノシラン系化合物、ビニルシラン系化合物、スチレン系シラン化合物、メタクリルシラン系化合物等のシランカップリング剤を挙げることができる。中でも特に、メタクリルシラン系およびビニルシラン系が、ビニルベンジル系化合物との組み合わせにおいて好適である。メタクリルシラン系化合物としては、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を好適に挙げることができる。
【0039】
ガラスクロスの表面処理に用いるカップリング剤の種類や調合条件およびカップリング剤によるガラスクロスの表面処理方法としては、公知の方法により行うことができる。処理方法としては一般的な浸漬法や噴霧法を使用することができ、超音波を併用した浸漬法(特開昭63−165441号公報)や、ローラジェット脱水機を用いた浸漬法(特開昭63−175165号公報)などを用いることも可能である。
【0040】
また、本発明のプリプレグにおけるガラス成分の占める割合は5〜60重量%、好ましくは20〜60重量%である。この割合が5重量%未満であるとプリプレグの硬化後の寸法安定性や強度が不十分であり、一方60重量%を超えると誘電特性が劣り、好ましくない。
【0041】
次に、本発明の基板は、上記プリプレグと金属箔とが積層されてなるものであり、加熱プレスにより積層板として形成される。
【0042】
基板に使用する金属箔としては、金、銀、銅、アルミニウム等の導電率の良好な金属のなかから好適なものを選定すればよく、特に制限されない。これらの中でも、価格やグレードの多さの面から、銅箔が好適に用いられる。金属箔は電解法、圧延法のいずれの方法で作製されたものでも構わないが、箔ピール強度をとりたい場合には電解箔を、高周波特性を重視したい場合には、表面凹凸による表皮効果の影響の少ない圧延箔を使用することができる。少なくともプリプレグと接する面については表面処理が施されていることが好ましい。金属箔に対する表面処理としては、凹凸を形成するための粗化処理の他、特許第3295308号公報に例示されているような合金層を金属箔表面に形成したものでもよい。金属箔の厚みは8〜70μmが好ましく、12〜35μmがより一層好ましい。
【0043】
プリプレグおよび金属箔を積層して基板を形成する際の成型および熱硬化については、温度100〜250℃、圧力9.8×105〜7.84×106Pa(10〜80kg/cm2)の条件下で、0.5〜20hrの範囲内で行うことが好ましい。なお、基板の成型は、上記範囲内で複数段階に分けて行ってもよい。
【0044】
このようにして得られた本発明の基板は、高周波帯域における誘電特性に優れ、かつ、金属箔、特には銅箔に対して良好な接着性を示す。このような金属箔付き基板にパターニングを施し、コンデンサ、コイル、フィルター等と適宜組み合わせることにより、高性能の高周波用電子部品を得ることができる。
【0045】
また、本発明の樹脂付き金属箔は本発明の熱硬化性樹脂組成物を塗布したものであるが、これをコア基板の上に順次積層して回路を形成することで、高周波帯域での使用に適した多層基板を形成することができる。なお、使用する金属箔としては、前記したものを好適に使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を、実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1〜5
前記一般式(1)(R1=−(CH26−、x=0、m=1)で示されるビニルベンジル化合物(以下「VB樹脂」と称する)と、熱可塑性樹脂(PPE、旭化成工業(株)製、商品名:ザイロンS201A、ε’=2.7、tanδ=0.0014)と、フェノチアジン(関東化学(株)製 試薬(重合禁止剤))とを、下記の表1中に示す割合にてトルエン中に溶解して、熱硬化性樹脂溶液を作製した。これら樹脂溶液を、塗工機を用いて、表面処理されたガラスクロス(旭シュエーベル(株)製 Eガラス)に塗布した後、110℃で1時間乾燥して、これをプリプレグとした。
【0047】
また、VB樹脂は、以下のようにして製造した。
温度調節器、攪拌装置、冷却コンデンサー、滴下ロートおよび酸素吹き込み口を備えたフラスコに、1,6−ビス(9−フルオレニル)ヘキサン207g(0.5モル)、トルエン400g、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド14g、ビニルベンジルクロライド(セイミケミカル(株)製、商品名:CMS−AM、m/p異性体:50/50重量%混合物)152.5g(純度91%、1.0モル)およびフェノチアジン0.3gを仕込み、攪拌しながら40℃まで昇温して均一な溶液にした。これに50重量%NaOH水溶液80g(NaOH、1モル)を加えて、その後70℃で8時間反応させた。次に、フラスコ内容物を2N塩酸で中和した後、蒸留水で2回洗浄し、トルエンを減圧留去後、得られたオレンジ色の粘ちょう液体を真空乾燥することにより、分子量Mw=1500(GPC、ポリスチレン換算)のVB樹脂を得た。
【0048】
次に、このプリプレグを10層積層し、真空熱プレス機にて120℃、150℃、180℃で夫々1時間の条件でステップキュアし、積層板を得た。
【0049】
【表1】

1)ポリスチレン、商品名:ダイヤレックスHF−55(三菱化学(株)製、ε’=2.4、tanδ=0.0003)
【0050】
比較例1〜6
架橋成分としてのジビニルベンゼン、前記実施例1で用いたVB樹脂またはトリアリルイソシアネート(TAIC)と、熱可塑性樹脂とを、下記の表2中に示す割合にてトルエン中に溶解して、熱硬化性樹脂溶液を作製した。これら樹脂溶液を、塗工機を用いて、表面処理されたガラスクロス(旭シュエーベル(株)製 Eガラス)に塗布した後、110℃で1時間乾燥して、これをプリプレグとした。
【0051】
次に、このプリプレグを10層積層し、真空熱プレス機にて120℃、150℃、180℃で夫々1時間の条件でステップキュアし、積層板を得た。
【0052】
【表2】

2)ポリメチルメタクリレート、商品名:スミペックスLG6(ε’=2.9、tanδ=0.033)
【0053】
実施例1〜5および比較例1〜6において得られた積層板に対し、以下の評価を行った。
(1)比誘電率および誘電正接
供試積層板を幅1.2mm、長さ100mmに切断し、これを測定サンプルとした。測定は空洞共振器摂動法を用いて5GHzにて行った。
(2)耐溶剤性
供試積層板を10mm×50mm、厚さ1mmに切断し、これを測定サンプルとした。この測定サンプルを25℃、60%RHで24時間以上放置後重量を測定し、その後、トルエンに浸漬した(超音波10分)。このとき目視で外観変化がなく、重量変化が0.3%以下であるものを○、それ以外を×とした。
【0054】
(3)樹脂流動性
また、別途、ガラスクロス重量35〜40%のプリプレグを使用し、プレス前後の重量変化を下記式に従い算出した。
樹脂流れ量(%)=100×(プレス前重量−プレス後重量)/プレス後重量
ここで、プレス後重量とは、プレス後に流れた樹脂をカットしたときの重量である。プレスは、前述と同様に、プリプレグを10層積層し、真空熱プレス機にて120℃、150℃、180℃で夫々1時間の条件でステップキュアすることにより行った。なお、昇温速度は5℃/min、圧力は9.8×105Pa(10kg/cm2)、各ステップの保持時間は1時間にて行った。上記式に従う樹脂流れ量が15%以下のものを○、15%を超えるものを×とした。これらの評価結果を下記の表3に示す。
【0055】
【表3】

3)VB樹脂とポリフェニレンエーテルが分離したため、基板を作製することができなかった。
【0056】
上記の表3から、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いた積層板は、硬化後において優れた誘電特性および耐溶剤性を示していることが分かる。また、高温下での樹脂流動性も改善されていることが分かる。この結果、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、寸法制御がしやすくなり、高周波帯域での使用に適した信頼性に優れる回路基板等の電子部品を提供することができる。
【0057】
また、重合禁止剤の効果を確認するために、実施例1の樹脂組成物の60重量%トルエン溶液と、フェノチアジンを含まない以外は同様にして作製された樹脂組成物の60重量%トルエン溶液とを、夫々25℃の暗所で30日間密栓保管後、溶液の状態変化を確認した。その結果、フェノチアジンを含むものは変化が認められなかったのに対し、フェノチアジンを含まないものはゲル化しているのが確認された。
【0058】
実施例6、比較例7
樹脂付き金属箔の樹脂流動性を確認するため、実施例6として上記実施例2の熱硬化性樹脂溶液を用い、比較例7として上記比較例3の熱硬化性樹脂溶液を用い、樹脂付き金属箔を夫々作製した。なお、金属箔としては厚さが0.018mmの銅箔(日鉱マテリアルズ社製)を用いた。また、銅箔上に樹脂層が70μm形成されるように塗工し、110℃の乾燥機炉で1時間乾燥させることで樹脂付き銅箔を作製した。
【0059】
得られた樹脂付き銅箔を100mm×100mmに切断し、表面が平滑なフッ素樹脂離型フィルムに挟み、さらにそれをSUS板間に設置した。次に、1.96×106Pa(20kg/cm2)となるように圧力を設定し、5℃/minで120℃まで昇温した後、1時間保持した。樹脂の流れは下記式に従い算出した。
樹脂流れ量(%)=100×(プレス後面積−プレス前面積)/プレス前面積
なお、プレス前面積は100cm2である。
【0060】
算出の結果、実施例6は15%であり、比較例7は37%であった。樹脂流れ量が20%以下であれば、実用上問題ないため、本発明の樹脂付き金属箔は、高温下での樹脂流動性も良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルベンジル系化合物を主成分とする熱硬化性樹脂組成物に、5GHzの周波数帯域において比誘電率(ε’)が3.0以下で、かつ誘電正接(tanδ)が0.002以下である熱可塑性樹脂が全樹脂量に対し1〜30重量%含まれていることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテルである請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が10000〜100000である請求項1または2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ビニルベンジル系化合物が、下記一般式(1)、

(式中、R1は炭素数2〜20の2価の有機基を示し、R2は同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン原子または炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基若しくはアリール基を示し、xは0〜4の整数を示し、mは0〜20の整数を示す)で示されるビニルベンジル化合物である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
重合禁止剤が添加されている請求項1〜4のうちいずれか一項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記重合禁止剤がテトラメチルヒドロキノン、2,4−ジニトロフェノールおよびフェノチアジンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか一項記載の熱硬化性樹脂組成物がガラスクロスに含浸されてなり、かつ、ガラス成分の占める割合が5〜60重量%であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項8】
請求項7記載のプリプレグと金属箔とが積層されてなることを特徴とする基板。
【請求項9】
請求項1〜6のうちいずれか一項記載の熱硬化性樹脂組成物が塗布されてなることを特徴とする樹脂付き金属箔。
【請求項10】
請求項9記載の樹脂付き金属箔が積層されてなることを特徴とする基板。

【公開番号】特開2006−63230(P2006−63230A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249098(P2004−249098)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】