説明

燃料電池用樹脂セパレータ及びその製造方法

【課題】高導電性、かつ高強度の燃料電池用樹脂セパレータ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなり、それぞれ両面に、平行する複数の溝、もしくはジグザグ状のつながった溝を形成した燃料電池用樹脂セパレータであって、セパレータの両面に形成された溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂の含有量を、溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上多くしたことを特徴とする燃料電池用樹脂セパレータを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用樹脂セパレータ及びその製造方法に係り、特に、高導電性、かつ高強度の燃料電池用樹脂セパレータ及び燃料電池用樹脂セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池として、図1に示すように、イオン交換膜1と、このイオン交換膜1を燃料極2及び空気極3とで挟んだ単位電池4を、水素ガス流路及び酸素ガス流路となる平行する複数の溝5,6を形成したセパレータ7を介して、複数直列に接続してなるものが知られている。このような燃料電池におけるセパレータ7は、水素やメタノールや酸素(空気)を供給する通路の役目を果たすと共に、上記のように単位燃料電池の間を電気的に接続する集電体として機能させるため、高い電導率(すなわち低い貫通(体積)抵抗率)を有することが要求されている。
【0003】
このような燃料電池用セパレータの製造には、マトリックス樹脂としてフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂又はPPS(ポリフェニレンスルファイド)等の耐熱性エンジニアリング樹脂を用い、導電性材料としてグラファイト等の炭素系導電性材料を高い配合量で充填した樹脂組成物が用いられてきた(例えば、特許文献1。)。
これらの樹脂組成物を用いて、固体高分子電解質型の燃料電池用樹脂セパレータが試作及び製造されているが、現在のセパレータの寸法は、例えば家庭用の湯沸し兼用燃料電池では、概ね、10cm角から30cm角の大きさであり、その厚さは1.5mm〜3mmの範囲が通例である。
【0004】
今後、燃料電池が幅広く利用されていくためには、より低価格の燃料電池用樹脂セパレータを供給することが必要である。
燃料電池用樹脂セパレータをより薄く製造することが、その1つの解決法である。
【特許文献1】特開2000−311695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料電池用樹脂セパレータをより薄く製造した場合、ガス供給用とガス排出用の溝の断面積は所定の面積を確保せざるを得ないため、セパレータの溝の底部間の薄肉部の厚さがより薄くなり、強度が低下するという問題が生ずる。
【0006】
本発明は上述した課題を解決すべくなされたものであって、高導電性、かつ高強度の燃料電池用樹脂セパレータ及び燃料電池用樹脂セパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決に向けて検討を進めた結果、グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなり、それぞれ両面に、平行する複数の溝、もしくはジグザグ状のつながった溝を形成した燃料電池用樹脂セパレータであって、セパレータの両面に形成された溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂の含有量を、溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上多くしたことにより、高導電性、かつ高強度の燃料電池用樹脂セパレータとすることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の燃料電池用樹脂セパレータは、グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなり、それぞれ両面に、平行する複数の溝、もしくはジグザグ状のつながった溝を形成した燃料電池用樹脂セパレータであって、セパレータの両面に形成された溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂の含有量を、溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上多くしたことを特徴とするものである。薄肉部の厚さが0.5mm以下であり、かつ薄肉部の厚さとセパレータの厚さとの比が1:3〜1:10の範囲であることが好ましい。熱硬化性樹脂は、フェノール系樹脂であることが好ましい。
【0009】
本発明の燃料電池用樹脂セパレータの製造方法は、グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなり、それぞれ両面に、平行する複数の溝もしくは連続溝を形成し、両面の溝の底部間の熱硬化性樹脂の含有量を、前記溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上多くした燃料電池用樹脂セパレータの製造方法であって、グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなる導電性の樹脂組成物を調製する工程と、前記樹脂組成物を、キャビティの上下面に、それぞれ平行する複数の溝を有するセパレータ用の成形金型に、射出成形法又は移送成形法により圧入する工程を有し、前記樹脂組成物の配合量がグラファイト粉末86〜96質量%と熱硬化性樹脂4〜14質量%であり、前記成形金型が、セパレータの両面に形成された複数の溝もしくは単一連続溝の底部間の薄肉部の厚さが0.5mm以下であり、かつ前記薄肉部の厚さとセパレータの厚さとの比が1:3〜1:10の範囲となるセパレータを成形するように設計されていることを特徴とする。燃料電池用樹脂セパレータの製造方法において、熱硬化性樹脂は、フェノール系樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなり、それぞれ両面に、平行する複数の溝を形成した燃料電池用樹脂セパレータであって、セパレータの両面に形成された溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂の含有量を、溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上多くしたことにより、薄肉部の強度が増加し、セパレータ全体としての強度が増加するので、高導電性、かつ高強度の燃料電池用樹脂セパレータを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の燃料電池用樹脂セパレータ及び燃料電池用樹脂セパレータの製造方法について説明する。まず、本発明の燃料電池用樹脂セパレータについて説明する。
本発明の燃料電池用樹脂セパレータは、グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなるものである。本発明に用いられるグラファイト粉末と熱硬化性樹脂については後述する。
【0012】
次に、本発明の燃料電池用樹脂セパレータの構成について説明する。
図2は、本発明の燃料電池用樹脂セパレータの断面を表す図である。この燃料電池用樹脂セパレータは、それぞれ両面に、平行する複数の溝5,6が形成され、溝の底部8、溝の縁部9を有する。セパレータの両面の溝5,6の底部8の間に、最も薄い部分、即ち薄肉部10が形成される。
【0013】
この薄肉部10の厚さは、好ましくは0.5mm以下である。
この薄肉部10の熱硬化性樹脂の含有量が溝の縁部9、即ち薄肉部以外の部分の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上高くする。
また、この薄肉部10の厚さとセパレータの厚さ(W)との比は、1:3〜1:10の範囲が好ましい。
なお、本発明の燃料電池用セパレータにおいて、それぞれ両面に形成される、平行する複数の溝5,6は、互いに任意の角度で交差されていてもよい。複数の溝5,6が交差する場合には、直交することが好ましい。
【0014】
図3は、本発明の他の燃料電池用セパレータの断面を表す図である。この燃料電池用樹脂セパレータは、それぞれ両面に、平行する複数の溝5,6が、互いに交差(直交)するように形成されている。図4は、図3の燃料電池用セパレータを上から見た図である。この燃料電池用セパレータは、溝5(6)がセパレータの両面に、互いに交差(直交)するように形成されているので、薄肉部10は、セパレータを上面から見て、1つおきの枡目状に形成されている(図4の符号10を参照)。
この場合、薄肉部10の熱硬化性樹脂の含有量が、溝の縁部、即ち薄肉部以外の全ての部分の熱硬化性樹脂の含有量よりも、5%以上高くなる。
【0015】
図5は、本発明のさらに他の燃料電池用セパレータを上から見た図である。この燃料電池用樹脂セパレータは、それぞれ両面に、ジグザグ状のつながった溝11が形成されている。この溝の端部は、水素ガス又は空気(酸素ガス)等の供給及び/又は排出孔12につながっている。セパレータのそれぞれ両面に形成されたジグザグ状のつながった溝は、互いに交差するように形成することができる。セパレータのそれぞれ両面に形成されたジグザグ状につながった溝の交差する部分が薄肉部となり、熱硬化性樹脂の含有量が、溝の縁部、即ち薄肉部以外の全ての部分の熱硬化性樹脂の含有量よりも、5%以上高くなる。
【0016】
次に、本発明の燃料電池用樹脂セパレータの製造方法について説明する。まず、本発明の燃料電池用樹脂セパレータの製造方法に用いられる成形材料、即ち樹脂組成物について説明する。
本発明の成形材料(樹脂組成物)の構成成分であるグラファイト粉末は、いずれの種類のグラファイト粉末も用いることができる。また、本発明のグラファイト粉末の、平均粒径は、セパレータのそれぞれ両面に形成された溝の底部間の薄肉部の厚さに応じて、適当な平均粒径を選ぶことが可能である。例えば、本発明のグラファイト粉末の平均粒径は、数μm〜数十μmの範囲とすることができる。このうち、3μm〜10μmが好ましく、3μm〜5μmの範囲がより好ましい。
【0017】
樹脂組成物の流動性を改善するため、上記のグラファイト主成分(例えば、平均粒径が10μm程度のもの)に対し、一定量のグラファイトの微細粒子(例えば、平均粒径が0.7μm程度のもの)を加えることが好ましい。
このような、グラファイトの微細粒子の平均粒径は、0.2μm〜1.0μmとすることができる。このうち、0.2μm〜0.7μmの範囲が好ましい。
【0018】
但し、本発明はセパレータの両面の溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂の含有量を溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上多くすることを特徴とするので、薄肉部の厚さに対し、グラファイトの微細粒子を多く配合することは複合化された樹脂の流動性を高くするため好ましくない。
このようなグラファイトの微細粒子の配合量は、微細粒子とグラファイト主成分の、それぞれの平均粒径にもよるが、通常、グラファイト主成分の100質量部に対して0.2質量部〜2質量部の範囲である。
【0019】
グラファイト材料(黒鉛)としては、人造や天然の黒鉛粉末が挙げられる。人造の黒鉛には、石油系コークスと石炭系コークス由来の2種類がある。また、天然のコークスには、鱗片状黒鉛と土状黒鉛がある。また、膨張性の黒鉛も使用可能である。これらのうち、純度の点から人造黒鉛が好ましい。
【0020】
このようなグラファイト材料のうち、平均粒径が10.0μm以下のグラファイト粉末としては、伊藤黒鉛工業株式会社製の鱗片状黒鉛であるRP999(平均粒径3μm)、RP999平均拉径3μm)、RP98(平均粒径10μm)、RP97(平均粒径10μm)、RP90(平均粒径10μm)、SRP98(平均粒径5μm/10μm)、また同社製の土状黒鉛であるAC97(平均粒径7μm)、HAC(平均粒径7μm)、LAC(平均粒径7μm)、AN95(平均粒径3μm/5μm)、AN94(平均粒径5μm)、APK(平均拉径5μm/8μm)、さらに同社製の人造黒鉛であるAGB(平均粒径10μm)、AGBL(平均粒径4μm)、さらにまた同社製の熱分解黒鉛であるPCGS(平均粒径10μm)、PCG(平均粒径10μm)、また同社製の膨張性の黒鉛であるEC1500(平均粒径8μm)、さらに同社製の特殊黒鉛であるSNP・BY(平均粒径10μm)がある。
【0021】
次に、平均粒径が1.0μm以下のグラファイト粉末としては、日本黒鉛株式会社製の土状黒鉛AUP(平均粒径0.7μm)などが挙げられる。
なお、平均粒径が1.0μm以下のグラファイト粉末は、上記の平均粒径が10.0μm以下のグラファイト粉末を、衝撃による粉砕、摩擦による粉砕後に、分級機により分級することによっても調製することができる。
【0022】
なお、主成分としてグラファイト粉末を用いる場合には、種々の性能を改善するために、他の炭素質材料も用いることができる。炭素繊維、各種のカーボンブラック粉末、筒状や球状等のフラーレン粉末、等を用いることができる。
【0023】
微分散性の観点からは、各種の筒状や球状等のフラーレン粉末が好ましい。
これらの炭素質材料の添加量は、通常、グラファイト(黒鉛)100質量部に対して10質量部以下である。添加量を10質量部以上にした場合には、コストが上がる等の不具合が生ずる。
【0024】
次に、本発明の成形材料の構成成分である熱硬化性樹脂は、いずれの種類の熱硬化性樹脂であっても使用することができる。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂のうち、フェノール系樹脂が、価格面及び貫通抵抗率の面から好ましい。
【0025】
フェノール系樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、その他のフェノール由来のポリマー等を使用することができる。
【0026】
また、熱硬化性樹脂のうち、概ね100℃以上の軟化温度(ボール&リング法)を有するものが好ましい。軟化温度が100℃未満であると、溶融粘度が下がりすぎるという不具合が生じるからである。
【0027】
また、樹脂セパレータは、燃料電池の長期的な信頼性の確保のため、特に、イオン性不純物を含まないことが好ましい。そのため、フェノール系樹脂のうち、硬化反応に触媒の必要なノボラック型のフェノール樹脂よりも、触媒を含まず、樹脂自身で硬化反応が完結するレゾール型のフェノール樹脂の方が好ましい。
【0028】
例えば、軟化温度が100℃以上の熱硬化性樹脂としては、群栄化学株式会社製のPSM−4326(軟化温度118−122℃)、PSM−6856(軟化温度105−115℃)、PSF−2803(軟化温度110−120℃)、PSF−2808(軟化温度120−130℃)、荒川化学株式会社製のノボラックフェノール樹脂であるタマノル100S(軟化温度110−130℃)、タマノル200S(軟化温度125−145℃)、レゾール型フェノール樹脂であるタマノル520S(軟化温度115−130℃)、タマノル521(軟化温度100−115℃)、タマノル526(軟化温度115−130℃)、タマノル586(軟化温度118−125℃)、タマノル572S(軟化温度120−130℃)、が挙げられる。
【0029】
さらに、特殊フェノール樹脂を使用することができる。特殊フェノール樹脂としては、三井化学株式会社製の、ミレックスXL(フェノール・p−キシリレングリコールジメチルエーテル重縮合物)、ミレックスXLC(フェノール・p−キシリレングリコールジメチルエーテル重縮合物)、ミレックスRN(変性フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物)、ミレックスRS(変性フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物)、ミレックスVR(フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物)、が挙げられる。また、高分子量のフェノールアラルキル型のレゾール樹脂を用いることも可能である。
【0030】
グラファイト粉末とフェノール系樹脂の配合比は、射出成形を行ったときに、セパレータの両面に形成された溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂の含有量が、この溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも少なくとも5%以上多くなるものでなければならない。
【0031】
本発明の燃料電池用樹脂セパレータは、セパレータの用途に適するために、十分な導電性を有する必要があり、グラファイトを多く配合する必要がある。
しかしながら、グラファイトの配合量が多すぎると、射出成形法において良好な成形品を得ることが困難になる。また、グラファイトの配合量が少なすぎると流動性が上がりすぎ、セパレータの溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂の含有量が、セパレータの溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも多くならない。
【0032】
従って、本発明においては、セパレータの成形材料全量中、グラファイト粉末の配合量は86〜96質量%の範囲、かつ熱硬化性樹脂の配合量は4〜14質量%の範囲となる。グラファイト粉末の配合量は92〜96質量%の範囲、かつ熱硬化性樹脂の配合量は4〜8質量%の範囲がより好ましい。
【0033】
次に、本発明の燃料電池用樹脂セパレータの製造方法に用いられる成形材料の製造方法について説明する。
【0034】
まず、熱硬化性樹脂、例えばフェノール系樹脂を、フェノール系樹脂を溶解できる溶媒、例えばアセトン、メタノール、エタノール又はこれらの混合溶媒に予め溶解する。
【0035】
溶質と溶媒の比率は、グラファイト粉末を、フェノール系樹脂を溶解した溶液で処理、乾燥した後に、概ね黒鉛粉末(グラファイト粉末)の配合量(含有率)が、成形材料全量中86質量%〜96質量%の範囲内に入るように、溶液の濃度の調製が必要である。また、選択したフェノール系樹脂の硬化に触媒が必要な場合には、フェノール系樹脂を予め溶解した溶液に触媒を溶解もしくは分散させておくことにより、硬化を促進することができる。
【0036】
以上の準備の後、万能混合機等の減圧が可能であり、かつ溶媒の使用が可能な混合機にグラファイト粉末を投入し、必要な場合には、グラファイトとマトリックス樹脂(熱硬化性樹脂)の界面親和性を向上させるために、例えばエポキシシランカップリング等のカップリング剤を添加することも可能である。カップリング剤の配合量は、グラファイト100質量部に対し、0.1〜0.5質量部である。
【0037】
また、離型剤、例えばポリエステルワックスを加えることもできる。離型剤の配合量は、グラファイト100質量部に対し、0.1〜0.5質量部である。
【0038】
次に、そのグラファイト粉末、またはカップリング剤で処理したグラファイト粉末に、上記で述べた、適当な濃度のフェノール系樹脂溶液を添加し、その後十分に混合することで、グラファイト粉末の表面をフェノール系樹脂(溶液)で被覆した樹脂被覆グラファイトが得られる。
【0039】
フェノール系樹脂の溶液の添加方法としては、例えばフェノール系樹脂の希薄溶液を予め化学反応容器に入れておき、その溶液中にグラファイト粉末を投入し、一定時間にわたり攪拌した後に、樹脂被覆グラファイト粉末を濾別して、樹脂溶液で被覆されたグラファイト粉末を得る方法、又は高速攪拌機に微細なグラファイト粉末を予め投入し、高速攪拌することで、流動相近似の状態にしておき、これに溶液を噴霧してグラファイトの微粉末を溶液で被覆する方法、等が挙げられる。
【0040】
このようにして得られた溶液で被覆されたグラフイト微粉末を、例えば減圧・加熱して溶媒を除去することにより、樹脂セパレータ用の成形材料が調製できる。
【0041】
本発明の燃料電池用樹脂セパレータの製造方法は、射出成形法により行うことができる。
【0042】
次に、射出成形方法のセパレータ用成形金型については、まずセパレータ部を掘り込んだ射出成形用金型を準備する。この金型は、セパレータ(板)を成形したとき、セパレータの両面に形成された溝の底部間の薄肉部の厚さが0.5mm以下であり、かつ薄肉部の厚さとセパレータの厚さとの比が1:3〜1:10の範囲となるように設計される。
【0043】
射出成形機は、熱硬化性樹脂用の射出成形機であれば、いずれの種類であっても使用することができる。成形時の成形条件は薄肉部と厚肉部の組成が変わりうる条件を選ぶ。
【0044】
また、本発明の燃料電池用樹脂セパレータの製造方法は、移送成形法によっても行うことができる。移送成形機は、熱硬化性樹脂用の移送成形機であれば、いずれの種類であっても使用することができる。射出成形法の方が好ましい。
【0045】
なお、本発明の燃料電池用樹脂セパレータは、固体高分子型(PEFE)燃料電池のセパレータとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
(実施例1−3)
人造黒鉛(平均粒径:10μm) 84.6質量%
土状黒鉛(平均粒径:0.7μm) 9.4質量%
レゾール型フェノール樹脂(軟化点:123℃) 5.8質量%
ポリエステルワックス 0.2質量%
からなる樹脂組成物を、例示の方法により準備し、表1に示した寸法のセパレータ(板)を表1に示した条件で成形し、そしてセパレータ板の溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂量と溝の縁部の熱硬化性樹脂量を比較した。
【0047】
【表1】

【0048】
なお、熱硬化性樹脂量の比較は、セパレータの溝の底部間の薄肉部とその薄肉部と隣り合う溝の縁部とを比較した。
【0049】
(実施例4−6)
人造黒鉛(平均粒径:10μm) 81.0質量%
土状黒鉛(平均粒径:0.7μm) 9.0質量%
レゾール型フェノール樹脂(軟化点:123℃) 9.8質量%
ポリエステルワックス 0.2質量%
からなる樹脂組成物を、例示の方法により準備し、表1に示した寸法のセパレータ板を表1に示した条件で成形し、そしてセパレータ成形板の各部分の樹脂量を比較した。
【0050】
(比較例1−2)
人造黒鉛(平均粒径:10μm) 75.6質量%
土状黒鉛(平均粒径:0.7μm、): 8.4質量%
レゾール型フェノール樹脂(軟化点:123℃) 15.8質量%
ポリエステルワックス 0.2質量%
からなる樹脂組成物を、例示の方法により準備し、表1に示した寸法のセパレータ板を表1に示した条件で成形し、そしてセパレータ成形板の各部分の樹脂量を比較した。
【0051】
(比較例3−4)
人造黒鉛(平均粒径:10μm) 88.2質量%
土状黒鉛(平均粒径:0.7μm) 9.8質量%
レゾール型フェノール樹脂(軟化点:123℃) 1.8質量%
ポリエステルワックス 0.2質量%
からなる樹脂組成物を、例示の方法により準備し、表1に示した寸法のセパレータ板を表1に示した条件で成形し、そしてセパレータ成形板の各部分の樹脂量を比較した。
【0052】
実施例1−6及び比較例1−4のセパレータ成形板の成形結果、即ち成形性、溝の薄肉部と溝の縁部のそれぞれの樹脂量(質量%)、薄肉部樹脂含有量の増加割合(%)、溝の薄肉部と溝の縁部樹脂量より推定される強度(MPa)及び貫通抵抗率(mΩcm)を表2にまとめた。
【0053】
【表2】

:薄肉部樹脂量の増加割合(%)は、薄肉部樹脂量(質量%)から縁部樹脂量(質量%)を引いたものを、縁部樹脂量(質量%)で割り、さらに100倍して求めた。
【0054】
実施例1−6は、薄肉部の樹脂含有量が増加するので、薄肉部の(推定)強度が向上するため、セパレータ全体としての強度が向上した。また、薄肉部の貫通抵抗率は、燃料電池用セパレータとして適当な範囲(20mΩcm以下)であった。
従って、本発明によれば、高導電性、かつ高強度の燃料電池用セパレータを製造できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】燃料電池における単位電池の構成を表す図である。
【図2】本発明の燃料電池用樹脂セパレータの断面を表す図である。
【図3】本発明の他の燃料電池用樹脂セパレータの断面を表す図である。
【図4】図3の燃料電池用樹脂セパレータを上から見た図である。
【図5】本発明のさらに他の燃料電池用樹脂セパレータを上から見た図である。
【符号の説明】
【0056】
1 イオン交換膜
2 燃料極
3 空気極
4 単位電池
5 溝
6 溝
7 セパレータ
8 底部
9 縁部
10 薄肉部
11 溝
12 供給及び/又は排出孔
L 溝の深さ
W セパレータの厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなり、それぞれ両面に、平行する複数の溝、もしくはジグザグ状のつながった溝を形成した燃料電池用樹脂セパレータであって、
前記セパレータの両面の溝の底部間の薄肉部の熱硬化性樹脂の含有量を、溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上多くしたこと
を特徴とする燃料電池用樹脂セパレータ。
【請求項2】
前記薄肉部の厚さが0.5mm以下であり、かつ前記薄肉部の厚さとセパレータの厚さとの比が1:3〜1:10の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用樹脂セパレータ。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂がフェノール系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用樹脂セパレータ。
【請求項4】
グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなり、それぞれ両面に、平行する複数の溝もしくは連続溝を形成し、両面の溝の底部間の熱硬化性樹脂の含有量を、溝の縁部の熱硬化性樹脂の含有量よりも5%以上多くした燃料電池用樹脂セパレータの製造方法であって、
グラファイト粉末と熱硬化性樹脂からなる導電性の樹脂組成物を調製する工程と、
前記樹脂組成物を、キャビティの上下面に、それぞれ平行する複数の溝を有するセパレータ用の成形金型に、射出成形法又は移送成形法により圧入する工程を有し、
前記樹脂組成物の配合量がグラファイト粉末86〜96質量%と熱硬化性樹脂4〜14質量%であり、
前記成形金型が、セパレータの両面に形成された複数の溝もしくは単一連続溝の底部間の薄肉部の厚さが0.5mm以下であり、かつ前記薄肉部の厚さとセパレータの厚さとの比が1:3〜1:10の範囲となるセパレータを成形するように設計されている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用樹脂セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂がフェノール系樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用樹脂セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−128815(P2007−128815A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322211(P2005−322211)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】