説明

燃料電池車両

【課題】燃料電池を搭載した燃料電池車両の軽量化とフード下方領域における損傷回避部品の載置の自由度の向上の両立を図る。
【解決手段】燃料電池車両10は、車両前方側に、車台を構成する車両左右のサイドフレームSFと、これに掛け渡されたフレームメンバーFMとを備える。モーター30は、モーター軸芯32を車両の前後方向に向かせた縦置き配置を取り、フードFの下方領域において、車台のフレームメンバーFM・サイドフレームSFに載置・固定される。この際、モーター30は、モーター軸芯32が変速機構40から延びるプロペラシャフト50のシャフト軸の延長線上に並ぶようにされており、こうして並んだモーター30と変速機構40およびプロペラシャフト50は、車両中央において車両前後方向に並ぶ剛体骨格となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を搭載した燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、エンジンとモーターを併用したいわゆるハイブリッド車両の普及が進んでいる。その一方、燃料電池の発電能力の向上やモーターの性能向上により、燃料電池の発電電力で駆動するモーターだけを駆動源とする燃料電池車両もその普及が進みつつある。ハイブリッド車両では、モーターの軸芯とエンジンのクランクシャフトの軸芯とが車両幅方向になるようにモーターをいわゆる横置き載置して、モーターおよびエンジンの駆動力を、モーター・エンジンの最寄りの車軸、その多くは前輪に伝達している。燃料電池車両では、モーターの搭載と車輪へのモーター駆動力の伝達とでハイブリッド車両と共通するため、ハイブリッド車両でのモーター横置き載置を踏襲した前輪駆動式が一般的となっている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−245954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池車両では、ハイブリッド車両におけるエンジンが必要ないため、ハイブリッド車両におけるエンジンルームに相当するフード下方領域には、モーターと変速機構とを搭載すれば足りる。その一方、モーターと前輪との間に介在する変速機構による前輪車軸へのモーター駆動力の変速伝達の都合上、モーターを、前輪車軸に近接して配置せざるを得ないのが実情であった。上記の特許公報では、モーターを前輪車軸のごく近傍に配置している。このため、モーターと車両前端との間には、大きなスペースが空き、このスペースは、車両衝突時に潰れて衝撃緩和を図るいわゆるクラッシュゾーンとなっていた。
【0005】
クラッシュゾーンは車両衝突時に潰れることが不可避な領域なため、燃料電池やその付属機器等の基幹部品であって損傷の回避が望まれる損傷回避部品については、クラッシュゾーン以外のフード下方領域に搭載せざるを得ず、損傷回避部品の搭載スペースが限られていた。しかも、上記の特許公報にあるようにモーターを車両中央に横置き配置しても、基幹部品の損傷回避には、当該部品を取り囲んで保護するためだけのフレームを必要とし、車両重量の増加をもたらすことが危惧される。また、ハイブリッド車両でのモーター横置き載置を踏襲すると、モーターの載置位置は、往々にして車両の幅方向の一方となるため、車両衝突が右或いは左前方で起きるいわゆるオフセット衝突に対しての基幹部品の損傷回避には、その搭載スペースがより限定されるのが実情である。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池を搭載した燃料電池車両の軽量化とフード下方領域における損傷回避部品の載置の自由度の向上の両立を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0008】
[適用1:燃料電池車両]
燃料電池を搭載した燃料電池車両であって、
前記燃料電池の電力を受けて作動し、駆動力を生じるモーターと、
該モーターの駆動力を、加減変速を経て車両駆動力とする変速機構と、
該変速機構の変速した車両駆動力を、車両の後輪に伝達するプロペラシャフトとを備え、
モーター軸芯が車両の前後方向に向くように前記モーターを縦置き配置した上で、前記モーターと前記変速機構とを車両のフードの下のフード下方領域で車台に固定し、前記モーター軸芯が前記変速機構から延びる前記プロペラシャフトのシャフト軸に並ぶようにして、前記モーターと前記プロペラシャフトとを設置した
ことを要旨とする。
【0009】
上記構成を備える燃料電池車両では、車両駆動力を生むモーターを、車両の前輪駆動に用いないので前輪車軸から離すことができ、当該モーターを車両前方側に寄せてクラッシュゾーンを狭くできる。つまり、クラッシュゾーン以外のフード下方領域を広くできる。その一方、モーターと変速機構および当該機構から延びるプロペラシャフトが、モーター軸芯をシャフト軸に並べて、車両の前後方向に並ぶことになる。よって、車両の前方側での衝突に対して、モーターと変速機構とプロペラシャフトの並びが剛体骨格として機能するので、フード下方領域におけるモーター設置箇所を含む車両後方側の損傷を抑制できることになる。そして、こうしたフード下方領域の損傷抑制に当たり、損傷回避が望まれる部品を取り囲んで保護するためだけの特別なフレームを要しない。この結果、上記構成の燃料電池車両によれば、燃料電池を搭載した燃料電池車両の軽量化を図りつつ、フード下方領域における基幹部品等の損傷回避部品の載置の自由度を高めることができる。
【0010】
上記した燃料電池車両は、次のような態様とすることができる。例えば、前記モーター軸芯と前記シャフト軸とが車両中央において車両前後方向に並ぶように、前記モーターと前記変速機構と前記プロペラシャフトとを設置することができる。こうすれば、剛体骨格として機能するモーターと変速機構とプロペラシャフトの並びが車両中央に位置することになるので、損傷回避部品の載置の自由度を高めた上で、オフセット衝突に対しての損傷回避部品の損傷回避の実効性が高まる。
【0011】
また、前記モーターと前記変速機構とを、車両の車室領域より車両前方側の前記フード下方領域に配置することができる。こうすれば、変速機構を車室領域に干渉させないようにできるので、車室領域、特に車両の前列シートの搭乗者の足先回りを広くできる。上記したようにモーター軸芯をシャフト軸に並べるに当たっては、モーター軸芯をシャフト軸に一直線に並ぶようにする場合の他、軸芯同士が若干のオフセットを持って並ぶようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例としての燃料電池車両10の構成を概略的に平面視して車両外観と共に示す説明図である。
【図2】燃料電池車両10を横方向から見てモーター30と変速機構40の配置の様子を示す説明図である。
【図3】燃料電池車両10の利点を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。図1は本発明の実施例としての燃料電池車両10の構成を概略的に平面視して車両外観と共に示す説明図、図2は燃料電池車両10を横方向から見てモーター30と変速機構40の配置の様子を示す説明図である。
【0014】
図示するように、燃料電池車両10は、車両のフードFの下方領域に、燃料電池20と、モーター30と、変速機構40とを配置して備え、プロペラシャフト50を変速機構40から延ばして備える。燃料電池20は、電解質膜の両側にアノードとカソードの両電極を接合させた図示しない膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を備える発電モジュールを積層して構成され、前輪FWとの干渉を避けてフードFの下方領域に配設されている。燃料電池20は、図示しない水素ガス供給系からの水素ガス供給と、図示しない空気供給系からの空気供給(酸素供給)を受けて発電する。モーター30は、図示しない制御装置による電力制御を受けた上で、燃料電池20の発電電力にて駆動する。変速機構40は、車両運転者の所望する変速操作などに対応した制御装置からの制御信号に基づいて、モーター30の駆動力を、加減変速を経て車両駆動力とし、この車両駆動力をプロペラシャフト50に伝達する。プロペラシャフト50は、後輪RWの車軸に設けられたディファレンシャルギヤ52を介して、燃料電池車両10の後輪RWに変速機構40の変速した車両駆動力を伝達する。
【0015】
燃料電池車両10は、車両前方側に、車台を構成する車両左右のサイドフレームSFと、これに掛け渡されたフレームメンバーFMとを備える。モーター30は、フレームメンバーFMへの載置に際して、モーター軸芯32を車両の前後方向に向かせた縦置き配置を取り、フードFの下方領域において、車台のフレームメンバーFMに固定される。しかも、このモーター30は、モーター軸芯32が変速機構40から延びるプロペラシャフト50のシャフト軸の延長線上に並ぶようにされており、こうして並んだモーター軸芯32とプロペラシャフト50、延いては、モーター30と変速機構40およびプロペラシャフト50は、車両中央において車両前後方向に並ぶことになる。また、燃料電池20とモーター30は、こうした配置を採った上で、燃料電池車両10の車室領域VRより車両前方側に位置する。
【0016】
以上説明した本実施例の燃料電池車両10では、車両駆動力を生むモーター30をフードFの下方領域に配置するに当たり、当該モーターを後輪RWの駆動用に用いることで前輪FWの駆動とは無関係とし、前輪車軸から離すことができる。このため、図1や図2に示すように、モーター30を車両前方のフロントグリル付近、詳しくは図示しないラジエータ付近に配置した上で、車台を構成するサイドフレームSFにフレームメンバーFMを介して固定できる。例えば、図示するように、車両幅方向左右のサイドフレームSFを連結するフレームメンバーFMにモーター30を載置して固定する。このため、フロントグリルからモーター30までの距離が短くなり、車両前方衝突の際のクラッシュゾーンCZを狭くでき(図2参照)、クラッシュゾーンCZより車両後方側のフードFの下方領域を広くできる。本実施例では、こうして広くなったクラッシュゾーンCZより車両後方側のフードFの下方領域に燃料電池20を配置し、当該電池を下面で支えつつ車台に固定している。なお、燃料電池20に付随するインバーター等の付属部品も、燃料電池20と共に配置・固定している。
【0017】
その一方、モーター30は、サイドフレームSFおよびフレームメンバーFMを介して車台に固定された上で、モーター30と変速機構40および当該機構から延びるプロペラシャフト50は、車両中央において車両前後方向に並ぶことになる。この際、既述したようにモーター軸芯32は、プロペラシャフト50のシャフト軸の延長線上に並ぶ。よって、車両の前方側での衝突に対して、モーター30と変速機構40とプロペラシャフト50の並びが剛体骨格として機能するので、フードFの下方領域における上記のモーター設置箇所を含む車両後方側の損傷を抑制できる。そして、こうしたフードFの下方領域の損傷抑制に当たり、損傷回避が望まれる燃料電池20等を下面で支えて固定すれば足り、これらを取り囲んで保護するためだけの特別なフレームを要しない。この結果、本実施例の燃料電池車両10によれば、燃料電池20を搭載した燃料電池車両10の軽量化を図りつつ、クラッシュゾーンCZより車両後方側のフードFの下方領域を広くして、当該領域における燃料電池20と言った損傷回避部品(基幹部品)の載置の自由度を高めることができる。
【0018】
また、本実施例の燃料電池車両10によれば、次のような利点もある。図3は燃料電池車両10の利点を説明するための説明図である。本実施例の燃料電池車両10は、モーター軸芯32とプロペラシャフト50のシャフト軸とを車両中央において車両前後方向に並べた上で、モーター30と変速機構40およびプロペラシャフト50についても、車両中央に配置する。このため、剛体骨格として機能するモーター30と変速機構40とプロペラシャフト50の並びが車両中央に位置することになるので、既述した損傷回避部品の載置の自由度を高めた上で、図3に示すように、正面衝突(フルフラップ衝突)のみならず、左右のオフセット衝突に対しても、高い実効性で損傷回避部品の損傷回避を図ることができる。
【0019】
また、本実施例の燃料電池車両10は、モーター30と変速機構40とを、フロントグリル側に配置することで、車両の車室領域VRより車両前方側のフードFの下方領域に収まるように配置できる。このため、図1や図2に示すように、変速機構40を車室領域VRに干渉させないようにできるので、車室領域VRの拡張、特に車両の前列シートの搭乗者の足先回りを広くできる。なお、既存のエンジン車両であれば、エンジン外郭が大きいためにフードFの下方領域、即ちエンジンルーム内をほぼエンジンが占めてしまう都合上、エンジン車両の変速機構は車室領域VRに干渉してしまい、車室領域VRの拡張は望めないのが実情である。
【0020】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記した実施の形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、本実施例では、セダンタイプの後輪駆動車両を例示したが、いわゆるミニバンタイプの後輪駆動車両に適用することができる。ミニバンタイプ車両では、フードFが車両前後方向に短いという車台形状の都合上、クラッシュゾーンCZ自体が狭いので、本発明の実用性が高まる。また、モーター30とプロペラシャフト50とを変速機構40を挟んで車両前後方向に既述したように配設するに当たり、変速機構40の構造上の制約から、モーター軸芯32とプロペラシャフト50のシャフト軸とが車両上下もしくは車両左右方向にある程度オフセットするようにしても良い。
【符号の説明】
【0021】
10…燃料電池車両
20…燃料電池
30…モーター
32…モーター軸芯
40…変速機構
50…プロペラシャフト
52…ディファレンシャルギヤ
F…フード
SF…サイドフレーム
FM…フレームメンバー
VR…車室領域
FW…前輪
RW…後輪
CZ…クラッシュゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を搭載した燃料電池車両であって、
前記燃料電池の電力を受けて作動し、駆動力を生じるモーターと、
該モーターの駆動力を、加減変速を経て車両駆動力とする変速機構と、
該変速機構の変速した車両駆動力を、車両の後輪に伝達するプロペラシャフトとを備え、
モーター軸芯が車両の前後方向に向くように前記モーターを縦置き配置した上で、前記モーターと前記変速機構とを車両のフードの下のフード下方領域で車台に固定し、前記モーター軸芯が前記変速機構から延びる前記プロペラシャフトのシャフト軸に並ぶようにして、前記モーターと前記プロペラシャフトとを設置した
燃料電池車両。
【請求項2】
前記モーター軸芯と前記シャフト軸とが車両中央において車両前後方向に並ぶよう、前記モーターと前記変速機構と前記プロペラシャフトとを設置した請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項3】
前記モーターと前記変速機構とは、車両の車室領域より車両前方側の前記フード下方領域に配置されている請求項1または請求項2に記載の燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235830(P2011−235830A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110856(P2010−110856)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】