説明

物質の分離方法、及び物質分離装置

【課題】廃電線等の複合材や廃油等の混合物を処理して有用物と不要物とを分離するための物質の分離方法、及び物質分離装置を提供する。
【解決手段】物質分離装置1は廃電線等の複合材や廃油等の混合物を処理するためのものであり、収容槽2と、過熱蒸気発生装置(過熱蒸気発生手段)3とを備える。過熱蒸気発生装置3で作られた過熱蒸気は、過熱蒸気導入部53へ送られ、複数の過熱蒸気導入配管56から処理対象の複合材等に向かって噴射される。複合材等が廃電線等の金属と熱可塑性プラスチック又は合成ゴムとを含むものである場合には、過熱蒸気の作用により、複合材中の熱可塑性プラスチック又は合成ゴムは熱分解ガス化する。一方、複合材中の金属は酸化されることなくそのまま回収可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の分離方法及び物質分離装置に関し、さらに詳細には、過熱蒸気を用いて複数の物質を含む混合物又は複合材を処理して有用物と不要物とを分離する物質の分離方法、及び当該分離方法に用いるための物質分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源有効利用の観点から、廃棄物を有効にリサイクルする要請が高まっている。一方、複数種の材料(例えば、金属とプラスチック)からなる複合材で作られた製品が増えてきており、それらの廃棄物(複合廃棄物)からのリサイクルを困難なものとしている。例えば、電線は銅などの金属線の表面にポリ塩化ビニル(PVA)、ポリエチレン(PE)などの材料からなる被覆物が設けられたものであるが、そのリサイクル、特に電線から銅などの金属を回収するための種々の処理が行われている。電線の廃棄物(廃電線)の処理方法としては、例えば、物理的処理により金属線と被覆物とを分離し、金属線を回収する方法が行われている。当該物理的処理の代表例は人手によるものである。一方、廃電線を燃焼処理することにより被覆物を燃焼させ、金属と被覆とを分離する方法も行われている(例えば、特許文献1,2)。
【特許文献1】特開2000−15218号公報
【特許文献2】特開2002−349831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、人手等の物理的処理によって廃電線を処理する方法は、その処理能力が作業者の数に依存し、大量処理には不適である。一方、廃電線を燃焼処理する方法によれば、大量の廃電線を処理することができる。しかし、この方法では、被覆物は効率よく除去できるが回収すべき金属が酸化してしまう。そのため、目的の金属を回収するためには金属酸化物を別途還元する必要があり煩雑である。
【0004】
また、船舶から出る廃油のように、種々の油成分を含みかつスラッジ等の汚泥を含む混合物の廃棄処理についても、その操作が煩雑で問題となっている。
【0005】
上記課題を鑑み、本発明は、廃電線等の複合材等を処理して有用物と不要物とを効率よく分離するための物質の分離方法、及び物質分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、過熱蒸気との接触で気体に変換する第一物質と、過熱蒸気との接触で気体に変換しない第二物質とを含む混合物又は複合材に、過熱蒸気を接触させて第一物質を気体に変換し、第一物質と第二物質とを分離することを特徴とする物質の分離方法である。
【0007】
本発明は物質の分離方法に関するものであり、過熱蒸気との接触で気体に変換する第一物質と、過熱蒸気との接触で気体に変換しない第二物質とを含む混合物又は複合材を処理対象とし、前記混合物又は複合材を過熱蒸気に接触させて第一物質を気体に変換し、第一物質と第二物質とを分離する。本発明の物質の分離方法では、第二物質を気体に変換して第一物質と分離するので、容易に分離を行うことができる。また、本発明の物質の分離方法では過熱蒸気を使用するので、混合物又は複合材を無酸素状態または無酸素に極めて近い状態で処理することができる。その結果、第二物質の酸化が高度に抑えられ、第二物質を回収したい場合に好適である。さらに、二酸化炭素の発生も高度に抑えられ、環境対策にも有効である。
【0008】
ここで、「物質が気体に変換する」例としては、熱分解ガス化が代表的である。例えば、第一物質が熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、合成ゴム、又は油である場合には、主に熱分解ガス化により気体に変換される。
【0009】
第一物質は、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、合成ゴム、又は油である構成が推奨される(請求項2)。第二物質は、金属、金属酸化物、又は無機質である構成も推奨される(請求項3)。
【0010】
請求項4に記載の発明は、混合物は、廃油であることを特徴とする請求項1に記載の物質の分離方法である。
【0011】
本発明の物質の分離方法では、処理対象が廃油である。かかる構成により、より効率的かつ簡便に廃油から油を回収することができる。さらに、過熱蒸気を使うので廃油からのカーボン生成が抑えられ、分離を容易に行うことができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、複合材は、第一物質として熱可塑性プラスチック又は合成ゴムを、第二物質として金属を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の物質の分離方法である。
【0013】
本発明の物質の分離方法では、処理対象が第一物質として金属を、第二物質として熱可塑性プラスチック又は合成ゴムを含む複合材である。かかる構成により、酸化が高度に抑えられた状態で金属を回収することができ、別途還元する必要がない。ここで、「熱可塑性プラスチック又は合成ゴムと金属とを含む複合材」の例としては、電線、包装等に用いられるアルミニウムラミネート材等の金属ラミネート材、金属製パイプの周りに可塑性プラスチック又は合成ゴムからなる被覆層が設けられた複合材、などが挙げられる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、複合材は、金属線の表面に熱可塑性プラスチック又は合成ゴムからなる被覆物が設けられた電線であることを特徴とする請求項5に記載の物質の分離方法である。
【0015】
本発明の物質の分離方法では、電線を処理対象とする。かかる構成により、電線から被覆物を容易に除去することができ、かつ酸化が高度に抑えられた金属線を回収することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、過熱蒸気は、その温度が150℃〜1000℃の範囲であり、かつ1.0MPa以下の圧力下で製造されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の物質の分離方法である。
【0017】
本発明の物質の分離方法で使用する過熱蒸気は、その温度が150℃〜1000℃の範囲であるので、例えば、第一物質である熱可塑性プラスチックや合成ゴムの熱分解ガス化を効率よく行うことができる。さらに、過熱蒸気は1.0MPa以下の圧力下で製造されたものであるので、その製造が容易である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、過熱蒸気の温度を時間経過と共に漸増又は段階的に上昇させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の物質の分離方法である。
【0019】
本発明の物質の分離方法では、混合物又は複合材に接触させる過熱蒸気の温度を時間経過と共に漸増又は段階的に上昇させる。かかる構成により、第一物質と第二物質とを分離すると同時に、第一物質を構成している複数の成分を、沸点の違いをもって分離・回収することができる。
【0020】
収容槽に混合物又は複合材を収容した後、当該収容槽の内部に所定量の過熱蒸気を導入することにより、混合物又は複合材に過熱蒸気を接触させる構成が推奨される(請求項9)。
【0021】
請求項10に記載の発明は、収容槽の内部に過熱蒸気を導入すると共に収容槽を外部からさらに加熱することを特徴とする請求項9に記載の物質の分離方法である。
【0022】
本発明の物質の分離方法では、混合物又は複合材が収容槽内部で過熱蒸気に接触すると共に収容槽外部からも加熱される。かかる構成により、第一物質の気体への変換(例えば、熱分解ガス化)をより速く進行させることができる。
【0023】
請求項11に記載の発明は、加熱によって腐食性物質を発生しないプラスチックを収容槽に収容した後、収容槽の内部に所定量の過熱蒸気を導入して前記プラスチックを油化し、収容槽の内壁に油膜を形成させる前処理工程を、収容槽に混合物又は複合材を収容する前に行うことを特徴とする請求項9又は10に記載の物質の分離方法である。
【0024】
本発明の物質の分離方法では、混合物又は複合材の処理を開始する前に、収容槽の内壁に油膜を形成させる前処理工程を行う。かかる構成により、混合物又は複合材が有機ハロゲン(例えば、有機塩素)等を含む材料からなり、過熱蒸気の接触によって腐食性物質(例えば、塩化水素)が発生する場合であっても、前処理工程で形成させた油膜によって収容槽内壁が保護され、収容槽の侵食が抑えられる。なお、「加熱によって腐食性物質を発生しないプラスチック」の例としては、有機ハロゲンを含まない各種のプラスチックが挙げられる。
【0025】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の物質の分離方法に用いるための装置であって、混合物又は複合材を収容する収容槽と、過熱蒸気を発生させる過熱蒸気発生手段とを備え、前記収容槽の内部へ前記過熱蒸気発生手段から発生した過熱蒸気を導入可能であることを特徴とする物質分離装置である。
【0026】
本発明は物質分離装置に係るものであり、本発明の物質の分離方法に用いるための装置に関するものである。すなわち、本発明の物質分離装置は、混合物又は複合材を収容する収容槽と、過熱蒸気を発生させる過熱蒸気発生手段とを備え、収容槽の内部へ過熱蒸気発生手段から発生した過熱蒸気を導入可能である。本発明の物質分離装置においては、収容槽に収容された混合物又は複合材(第一物質と第二物質とを含む)に過熱蒸気を接触させることができ、収容槽内で第一物質の気体への変換を行うことができる。さらにこのとき、収容槽内が無酸素状態または無残素に極めて近い状態に保たれるので、金属等の第二物質の酸化が高度に抑えられ、第二物質を回収したい場合に好適である。
【0027】
請求項13に記載の発明は、過熱蒸気発生手段と収容槽の内部とを接続する過熱蒸気導入配管をさらに備え、前記過熱蒸気導入配管を通じて前記過熱蒸気発生手段から前記収容槽の内部に過熱蒸気を導入可能であることを特徴とする請求項12に記載の物質分離装置である。
【0028】
かかる構成により、収容槽内への過熱蒸気の導入がより容易な物質分離装置が提供される。
【0029】
請求項14に記載の発明は、過熱蒸気導入配管を複数個備え、収容槽の内部に複数箇所から過熱蒸気を導入可能であることを特徴とする請求項13に記載の物質分離装置である。
【0030】
本発明の物質分離装置では、過熱蒸気導入配管を複数個備えており、収容槽内へ複数個所から過熱蒸気を導入可能である。かかる構成により、収容槽内の混合物又は複合材により均一に過熱蒸気を接触させることができる。
【0031】
請求項15に記載の発明は、収容槽を外部から加熱する収容槽加熱手段をさらに備えることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の物質分離装置である。
【0032】
かかる構成により、収容槽内における第一物質の気体への変換をより速く進行させることができる。
【0033】
請求項16に記載の発明は、脱ハロゲン化装置をさらに備え、第一物質の気体への変換により発生するガスを脱ハロゲン化処理可能であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項に記載の物質分離装置である。
【0034】
本発明の物質分離装置は脱ハロゲン化装置を備えており、当該脱ハロゲン化装置によって第一物質の熱分解ガス化等により発生するガスを処理できる。かかる構成により、混合物又は複合材の第一物質が有機塩素等の有機ハロゲンを含むものであり、熱分解ガス化等により塩化水素ガス等の有害ガスが発生するおそれがある場合でも、安全に第一物質と第二物質との分離を行うことができる。有機塩素を含む第一物質の例としては、熱可塑性プラスチックであるポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0035】
請求項17に記載の発明は、収容槽は、収容槽の内部を監視するための覗き窓を備えることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1項に記載の物質分離装置である。
【0036】
かかる構成により、収容槽内部の観察を容易に行うことができ、熱分解ガス化反応等の進行状態を目視にてチェックすることが可能となる。
【0037】
請求項18に記載の発明は、収容槽の内壁には、セラミックコーティングが施されていることを特徴とする請求項12〜17のいずれか1項に記載の物質分離装置である。
【0038】
かかる構成により、第一物質が有機塩素等を含むものであり、収容槽内に塩化水素等の腐食性ガスが発生するおそれがある場合でも、収容槽の内壁の腐食を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の物質の分離方法によれば、混合物又は複合材の第一物質(熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、合成ゴム等)を気体に変換(熱分解ガス化等)するので、第一物質を容易に除去することができる。また、混合物又は複合材の処理に過熱蒸気を使用するので、混合物又は複合材を無酸素状態または無酸素に極めて近い状態で処理することができる。その結果、第二物質(金属等)の酸化が高度に抑えられ、第二物質を回収したい場合に好適である。さらに、混合物が廃油である場合には、カーボン生成が抑えられ、分離を容易に行うことができる。
【0040】
本発明の物質分離装置についても同様であり、混合物又は複合材の第一物質を熱分解ガス化するので、第一物質を容易に除去することができる。さらに、混合物又は複合材を無酸素状態または無酸素に極めて近い状態で処理することができ、第二物質の酸化が高度に抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。なお、以下の記載においては、本発明の処理対象である「過熱蒸気との接触で気体に変換する第一物質と、過熱蒸気との接触で気体に変換しない第二物質とを含む混合物又は複合材」を「処理対象物」と呼ぶこととする。図1は本発明の実施形態に係る物質分離装置の内部構造を表す断面図である。図2は図1の物質分離装置がさらに備える脱ハロゲン化装置等を表す正面図である。図3は過熱蒸気導入部の構造を模式的に表す斜視図である。
【0042】
図1に示す様に、本実施形態の物質分離装置1は、収容槽2と、過熱蒸気発生装置(過熱蒸気発生手段)3とを備える。収容槽2は収容槽本体6と上蓋7とからなり、両者はパッキンを介して密封接合されている。収容槽2のサイズは、直径が500mm〜1000mm程度、高さが1000mm〜2000mm程度である。収容槽2はSUS304、SUS316等のステンレススチールで形成されている。なお、物質分離装置1の他の部分も、特に明記しない限り、同様のステンレススチールで形成されている。
【0043】
収容槽本体6の側面には、処理対象物投入部10、触媒・残渣取出部11、内部監視口(覗き窓)12、及び温度センサ14が設けられている。処理対象物投入部10は、処理対象物投入通路15と蓋16とからなる。処理対象物投入通路15は円筒状であり、収容槽2の内部に連通している。蓋16は処理対象物投入通路15の先端に設けられており、開閉可能かつ密封可能なものである。蓋16の一部は耐熱ガラス製であり、収容槽2の内部を目視可能である。処理対象物投入通路15は収容槽本体6の垂直方向の略中央に設けられており、かつ斜め上方に向かって延びている。処理対象物を収容槽2の中に投入する際には、蓋16を開けて処理対象物を入れ、処理対象物投入通路15を介して収容槽2内に投入する。
【0044】
触媒・残渣取出部11は、収容槽本体6の側面であって最下端に設けられている。触媒・残渣取出部11は、触媒・残渣取出通路18と蓋20とからなる。触媒・残渣取出通路18は断面が四角形の筒状であり、収容槽2の内部に連通している。蓋20は触媒・残渣取出通路18の先端に設けられており、開閉可能かつ密封可能なものである。触媒・残渣取出通路18は収容槽本体6から水平方向に延びており、後述する触媒・残渣受器22が触媒・残渣取出通路18を介して出し入れ可能な構成となっている。
【0045】
内部監視口(覗き窓)12は、収容槽2の内部を目視するためのものであり、その一部が耐熱性ガラスで製作されている。内部監視口12は、処理対象物投入部10と触媒・残渣取出部11との間の位置に設けられている。
【0046】
温度センサ14は、後述する過熱蒸気出口57の近傍に設置されており、過熱蒸気出口57から噴出される過熱蒸気の温度を測定するためのものである。
【0047】
なお、図1の物質分離装置1では、便宜上、処理対象物投入部10、触媒・残渣取出部11、内部監視口12、及び温度センサ14が一直線上に設けられているように示しているが、これらの水平方向の配置は任意である。さらに、垂直方向についても、処理対象物投入部10、触媒・残渣取出部11、内部監視口12、及び温度センサ14の配置は図1に示す順番に限定されるものではなく、任意である。また必要に応じて、処理対象物投入部10、触媒・残渣取出部11、内部監視口12、及び温度センサ14を複数個設けてもよい。
【0048】
収容槽2の内部には、触媒・残渣受器22、及び二次触媒充填層23が設けられている。触媒・残渣受器22は収容槽2の底面に置かれた取手付きの「皿」であり、触媒・残渣取出通路18を介して出し入れ可能なものである。本実施形態の物質分離装置1で処理対象物を処理する場合には、触媒・残渣受器22に処理対象物と一次触媒とを載せた状態で、物質分離装置1を運転する。
【0049】
二次触媒充填層23は、収容槽本体6の最上部に設けられている。収容槽2内で発生したガスは、二次触媒充填層23を通過することにより前処理される。二次触媒充填層23に充填されている触媒は、具体的にはゼオライトである。また、収容槽2の上蓋7には、二次触媒充填層23を介して収容槽2の内部と連通する収容槽排気口25が設けられている。また、収容槽排気口25の近傍には、ガスの温度を測定するための温度センサ26が設置されている。
【0050】
収容槽2の内壁にはセラミックコーティングが施されている。そのため、物質分離装置1の運転時に処理対象物から腐食性のガスが発生しても、内壁が腐食することはない。
【0051】
図2に示す様に、物質分離装置1は、さらに脱ハロゲン化装置27を備える。脱ハロゲン化装置27は図1に示す収容槽排気口25と配管24を介して接続されており、二次触媒充填層23を通過したガスが導入される。そして、脱ハロゲン化装置27の作用によりガスが脱ハロゲン化処理される。脱ハロゲン化装置27は、例えば、鉄を有効成分とするものである。
【0052】
図2に示す様に、脱ハロゲン化装置27の排気口28はコンデンサ60に接続されている。これにより、脱ハロゲン化処理されたガスが凝縮され、油分が回収される。凝縮された油分は受液槽61に回収される。さらに、受液槽61は逆火防止用の水封タンク62に接続され、水封タンク62は戻りガス流路63を介して図1に示す外熱加熱用空間31に接続されている。コンデンサ60で凝縮されなかった残余のガスは水封タンク62を経由して戻りガス流路63を流れ、外熱加熱用空間31に入り、排気筒32から排出される。
【0053】
収容槽2の収容槽本体6は、ジャケット様の包囲部材30で囲まれている。そして、包囲部材30と収容槽本体6の底部との間に外熱加熱用空間31が形成されている。外熱加熱用空間31は排気筒32に連通しており、排気筒32は外部に開放している。なお、処理対象物投入部10、触媒・残渣取出部11、及び内部監視口12はいずれも包囲部材30の一部を貫通しており、包囲部材30外から操作可能である。また、包囲部材30と収容槽本体6、処理対象物投入部10、触媒・残渣取出部11、及び内部監視口12との間は密封されており、外熱加熱用空間31は排気筒32を介してのみ外部に開放している。
【0054】
過熱蒸気発生装置(過熱蒸気発生手段)3は、バーナ35と、過熱筒36と、コイル37とを備える。バーナ35はガンタイプのバーナであり、過熱筒36に接続され、過熱筒36の内部を加熱することができるものである。過熱筒36は円筒状の部材であり、その先端は外熱加熱用空間31に連通している。
【0055】
コイル37は過熱筒36の内部に設けられている。コイル37は蒸気が供給されるものである。すなわち、コイル37の一方の端は蒸気供給口50、他方の端部は蒸気排出口51であり、ボイラ38から蒸気供給口50に蒸気が供給される。供給された蒸気はコイル37内を流れ、蒸気排出口51から排出される。蒸気排出口51は配管52を介して後述する過熱蒸気供給ライン55に接続されている。過熱蒸気発生装置3の運転時にはコイル37はバーナ35により加熱され、コイル37を流れて蒸気排出口51から排出される蒸気は過熱蒸気となる。
【0056】
収容槽本体6の周囲であって包囲部材30の内側には、過熱蒸気導入部53が設けられている。図3に示す様に、過熱蒸気導入部53は、過熱蒸気供給ライン55と複数の過熱蒸気導入配管56により構成されている。過熱蒸気供給ライン55はその全体形状が略円形の配管であり、収容槽本体6の処理対象物投入部10と内部監視口12との間の垂直位置に収容槽本体6を巻くように設けられている。過熱蒸気供給ライン55にはコイル37の蒸気排出口51が配管52を介して接続されており、過熱蒸気発生装置3で作られた過熱蒸気が供給される。過熱蒸気供給ライン55は下方向に枝分かれし、複数の過熱蒸気導入配管56が接続されている。過熱蒸気導入配管56は収容槽本体6の壁面を貫通し、その先端部分が収容槽2の内部に開放している。当該先端部分は過熱蒸気出口57として機能する。また、複数の過熱蒸気出口57はいずれも触媒・残渣受器22に向かう方向に開放しており、過熱蒸気出口57から噴出される過熱蒸気は、触媒・残渣受器22に載せた処理対象物および一次触媒に均一に接触することができる。
【0057】
物質分離装置1のサイズは、1.5メートル四方に収まる程度のコンパクトなものである。したがって、例えば、工場の片隅に置いて使用することが可能である。また、既存のボイラをそのまま利用することにより、サイズをさらにコンパクトにすることも可能である。例えば、船舶にはボイラが備えられているのが通常なので、物質分離装置1を船舶内に持ち込むだけで、船舶から出る廃油を処理することができる。
【0058】
次に、処理対象物が廃電線である場合を例として物質分離装置1の作用について説明し、あわせて本発明の物質の分離方法の実施形態について説明する。当該廃電線は、銅線の周りにポリ塩化ビニルからなる被覆物が設けられたものとする。
【0059】
物質分離装置1を用いて廃電線の銅線と被覆物とを分離する手順としては、まず、物質分離装置1の内底面に触媒・残渣受器22を設置する。具体的には、物質分離装置1の蓋20を開けて触媒・残渣受器22を入れ、触媒・残渣取出通路18を介して収容槽2の内部に導入する。このとき、触媒・残渣受器22に一次触媒をあらかじめ入れておく。一次触媒としては、水と反応して水素を生成できるもの(例えば鉄)を採用する。
【0060】
次に、処理対象物投入部10の蓋16を開け、処理対象物投入通路15を介して処理すべき廃電線を収容槽2内に投入する。このとき、廃電線は処理対象物投入通路15に沿って落下し、触媒・残渣受器22上に集められる。これにより、触媒・残渣受器22には廃電線と一次触媒とが載った状態となる。なお、処理すべき廃電線はあらかじめ細かく裁断しておくことが好ましい。これにより、後の過熱蒸気と接触させる工程において、廃電線が過熱蒸気とより均一に接触できるからである。
【0061】
蓋16,20を閉じて密閉状態としたことを確認した後、過熱蒸気発生装置3を運転する。過熱蒸気発生装置3を運転する手順は以下のとおりであり、まず、バーナ35を運転し、過熱筒36内でコイル37を加熱する。この状態で、ボイラ38で作られた蒸気を蒸気供給口50からコイル37に供給する。このとき、ボイラ38から供給される蒸気は1.0MPa(ゲージ圧)以下の低圧のものでよい。ボイラ38からの蒸気が蒸気供給口50に供給されると、コイル37内で蒸気が過熱されて過熱蒸気となり、蒸気排出口51から排出される。作られる過熱蒸気の温度はバーナ35の出力によって調節でき、過熱蒸気が収容槽2内で150℃〜1000℃の範囲となるように調節する。具体的には、温度センサ14による温度測定値が150℃〜1000℃の範囲となるようにすればよい。
【0062】
コイル37で作られた過熱蒸気は過熱蒸気導入部53へ送られる。具体的には、コイル37の蒸気排出口51から配管52を介して過熱蒸気供給ライン55に過熱蒸気が供給される。過熱蒸気供給ライン55に供給された過熱蒸気は枝分かれし、複数の過熱蒸気導入配管56へと送られ、複数の過熱蒸気出口57から過熱蒸気が噴出する。その結果、触媒・残渣受器22に向かって過熱蒸気が噴出され、触媒・残渣受器22上の廃電線と一次触媒に過熱蒸気が接触する。前述のように、噴出される過熱蒸気の温度は150℃〜1000℃の範囲に調節される。これにより、ポリ塩化ビニルからなる廃電線の被覆物が熱分解ガス化し、銅線と被覆物とが分離される。また、過熱蒸気による無酸素状態または無酸素に極めて近い状態で処理対象物が処理されるので、銅線は酸化が高度に抑えられた状態で存在することができ、金属銅としてそのまま回収可能である。
【0063】
一方、バーナ35はコイル37を加熱すると同時に、その熱は過熱筒36の先端から外熱加熱用空間31へと伝わる。その結果、収容槽2は外側からも加熱される。すなわち、本実施形態ではバーナ35が収容槽加熱手段としても機能する。この外熱による加熱は収容槽2の外底面を中心に行われる。外熱による加熱は、過熱蒸気によるポリ塩化ビニルの熱分解ガス化を補助し、熱分解ガス化を速く進行させる役割を有する。外熱の温度は、例えば、過熱蒸気の温度に近い800℃程度とすることができる。
【0064】
被覆物が熱分解ガス化されて発生したガスは、まずゼオライトからなる二次触媒充填層23を通る。これにより、ガス中の一部の有毒性成分が除去される。二次触媒充填層23を通過したガスは排気口28と配管24を経由して、脱ハロゲン化装置27へ送られる。そしてガスは脱ハロゲン化装置27で脱ハロゲン化処理された後、コンデンサ60に送られる。これにより、脱ハロゲン化処理されたガスが凝縮され、凝縮された油分は受液槽61に回収される。さらに、残余のガスは水封タンク62と戻りガス流路63を経由して外熱加熱用空間31へ戻され、排気筒32から排出される。
【0065】
過熱蒸気の収容槽2内への導入量や導入時間は、廃電線を構成する金属や被覆物の種類、廃電線の量などによって適宜決定すればよい。内部監視口12から処理中の廃電線の様子を観察し、被覆物の熱分解ガス化の状態(分離状態)を確認しながら過熱蒸気の導入量や導入時間を決定してもよい。
【0066】
また、廃電線の金属は酸化が高度に抑えられた状態で回収可能となるが、その一部が酸化されることもありうる。その場合でも、金属酸化物として回収して公知の方法で還元することにより、所望の金属を得ることができる。
【0067】
本実施形態では、過熱蒸気供給ライン55から枝分かれした複数の過熱蒸気導入配管56から、収容槽2内に過熱蒸気を導入するが、他の実施形態も可能である。例えば、過熱蒸気導入配管56の先端にシャワーボールを取り付け、シャワーボールの複数の孔から過熱蒸気を噴出させてもよい。この場合には、過熱蒸気導入配管56を複数設ける必要がなく、収容槽本体6を貫通する過熱蒸気導入配管56の数を減らすことができ、収容槽本体6の加工が容易である。
【0068】
本実施形態では触媒・残渣受器22に処理対象物を置いて処理したが、処理対象物が廃油等の液体である場合には、触媒・残渣受器22を使わずに収容槽2の底に廃油等を直接投入して処理してもよい。
【0069】
本実施形態では処理対象物が廃電線であるが、処理対象物の種類にかかわらず、本発明の物質の分離方法を有機化合物を含む処理対象物に適用すると、当該有機化合物からはカーボンと油が生成するのみであり、二酸化炭素は発生しない。これは、本発明では過熱蒸気を用いるので実質的に無酸素状態で処理することとなるからである。この際、カーボンは残さとして回収可能であるが、本発明では過熱蒸気による減容効果が顕著であり、回収されるカーボンは水分含量が少ない高カロリーのものとなる。その結果、当該カーボンは燃焼容易なものとなる。
【0070】
本実施形態では収容槽2の内壁にセラミックコーティングが施されているが、セラミックコーティングを施さない実施形態も可能である。その場合には、収容槽2の内壁の材質がステンレススチールそのものとなるが、本実施形態では収容槽2の内部に多量の過熱蒸気を導入するので、腐食性のガスが発生してもかなり希釈され、高濃度となることはない。例えば、塩化水素ガスや硫酸ガスが発生したとしても、収容槽2内では濃塩酸や濃硫酸となることはなく、極めて低濃度の希塩酸や希硫酸となるにすぎない。その結果、収容槽2の内壁がステンレススチールのままであっても腐食は実質上問題とならず、クラックが発生する可能性も低い。さらに、収容槽2はステンレススチール製ではなく鉄製でも大きな問題はない。例えば、厚手の鉄を採用すれば、ステンレススチールを採用する場合と同様に腐食やクラック発生の問題が起こる可能性は低い。
【0071】
処理対象物の処理を行う前に、収容槽2の内壁を保護するための前処理工程を行う実施形態も可能である。すなわち、まず収容槽2に「加熱によって腐食性物質を発生しないプラスチック」を収容し、過熱蒸気を収容槽2の内部に導入する。当該プラスチックの例としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の有機ハロゲンを含まないプラスチックが挙げられる。すると、これらのプラスチックから油分が生成し、収容槽2の内壁に油膜を形成させることができる。当該油膜は腐食性物質(例えば、塩酸)から収容槽2の内壁を保護する作用を有する。このような前処理工程を行った後に通常の処理対象物の処理を行えば、処理対象物がポリ塩化ビニル等の有機塩素を含むものであっても、塩酸による収容槽2内壁の腐食が抑えられる。この実施形態によれば、収容槽2のセラミックコーティングは不要となり、収容槽2の材質はステンレススチールでもよいし、鉄でもよいこととなる。
【0072】
上記した実施形態では、収容槽2に導入される過熱蒸気として150℃〜1000℃のものを採用しており、基本的に一定温度のものを想定している。しかし、過熱蒸気の温度を時間経過と共に漸増させる(徐々に上昇させる)実施形態や、段階的に上昇させる実施形態も採用できる。本実施形態によれば、気化した複数の成分を沸点の違いをもって分離・回収することができる。具体例を挙げると、ある種の熱硬化性プラスチックは450℃程度の過熱蒸気にいきなり接触させると硬化・収縮してほとんど気化しないが、過熱蒸気の温度を低温(例えば、200℃以下)から徐々に上昇させると、一部の成分が気化する。この際、沸点の違いをもって複数の成分を分離・回収することができる(分留)。例えば、約200℃の時点で軽油、400℃〜450℃の時点でA重油、約600℃の時点でC重油を分離・回収することができる。温度を漸増させる際の温度上昇速度については、処理対象物の種類や回収したい物質の種類に応じて適宜選択すればよい。温度を段階的に上昇させる際も同様であり、各段階の維持温度とそれらの維持時間等については適宜選択すればよい。
この実施形態は、例えば繊維強化プラスチック(FRP)の廃棄物を処理する場合に有効である。すなわち、FRPはグラスファイバー(無機質)の骨材とプラスチックの母材とからなるが、母材が熱硬化性プラスチックであるFRPに過熱蒸気を接触させる際に、過熱蒸気の温度を漸増又は段階的に上昇させると、熱硬化性プラスチックは気化して成分ごとに分留され、グラスファイバーの部分が残る。その結果、FRPが脆くなり物理的破壊が容易となると共に、熱硬化性プラスチックから複数の成分を分離・回収することができる。
なお、本発明の物質の分離方法や分離装置では過熱蒸気を導入して処理対象物を加熱するので、処理対象物に対して均一な温度上昇を実現することができ、上記したような分留を行うのに特に適している。
【0073】
次に、本発明の物質の分離方法ならびに物質分離装置の作用を、処理対象物の種類ごとに説明する。第一の例は、処理対象物が廃電線や金属ラミネート等の金属(第二物質)と熱可塑性プラスチック又は合成ゴム(第一物質)とを含む複合材の場合である。この場合には、過熱蒸気の作用によって熱可塑性プラスチック又は合成ゴムが熱分解ガス化し、金属と分離される。このとき、金属は酸化が高度に抑えられた状態で回収可能である。被覆物は油として回収可能である。
【0074】
ここで、前記金属には特に限定はなく、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム等の全ての金属が本発明における第二物質となり得る。さらに、各種の合金も第二物質となり得る。
【0075】
また、第一物質となる前記熱可塑性プラスチックとしては特に限定はなく、汎用樹脂とエンジニアリングプラスチック(エンプラ)のいずれでもよい。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PE)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の結晶性の汎用性樹脂;ポリ塩化ビニル(PVA)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)等の非結晶性の汎用性樹脂;ポリアミド(PA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、GF強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等の結晶性の汎用エンプラ;ポリカーボネート(PC)、変成ポリフェニレンエーテル(m−PPE)等の非結晶性の汎用エンプラ;ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶性ポリマー(LCP)、ふっ素樹脂(FR)等の結晶性の特殊エンプラ;ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(TPI)等の非結晶性の特殊エンプラ、が熱可塑性プラスチックの例として挙げられる。
【0076】
また、第一物質となる合成ゴムとしては特に限定はなく、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ポリブタジエン(1,2−BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドシンゴム(CO、ECO)、多硫化ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、ふっ化シリコーンゴム(FVMQ)、ふっ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等の合成ゴムが例として挙げられる。
【0077】
処理対象物がアルミニウムラミネート材のようなアルミニウム箔とプラスチックとを含む複合廃棄物の場合には、以下のような効果もある。すなわち、一般に、アルミニウム箔を含む廃棄物を扱う場合には、粉塵爆発が起こる危険性を常に考慮しなければならない。そのために、従来はアルミニウム箔とプラスチックとを予め分離し、別々に処理することが推奨されていた。しかし、本発明の物質の分離方法では過熱蒸気を用いるので、無酸素状態または無酸素に極めて近い状態で廃棄物を処理することとなる。その結果、アルミニウム箔とプラスチックとを含む複合廃棄物をそのまま処理しても、爆発が起こる可能性は極めて低い。なお、アルミニウム箔とプラスチックとを含む複合廃棄物の例としては、コンビニエンスストア等から排出される弁当等の廃棄物が挙げられる。
【0078】
第二の例は、処理対象物がビデオテープ等の複合廃棄物の場合である。ビデオテープは、熱可塑性プラスチック(PET等)、熱硬化性プラスチック、及び金属を含むが、本発明の物質の分離方法によって、熱可塑性プラスチックを熱分解ガス化し、熱硬化性プラスチック並びに金属から分離することができる。なお、金属と熱硬化性プラスチックとの分離は磁石を使用する等の公知の方法で処理後に適宜分離すればよい。なお、過熱蒸気の温度を漸増又は段階的に上昇させる場合には、熱硬化性プラスチックを気化させることもできる。
【0079】
第三の例は、処理対象物が自動車のバンパー等の複合廃棄物の場合である。バンパーは金属とFRPとを含む複合材であるが、本発明の物質の分離方法によってFRPの母材(熱硬化性プラスチック又は熱可塑性プラスチックからなる)が熱分解ガス化し、FRPを骨材(グラスファイバーからなる)だけの状態とすることができる。その結果、FRPが脆くなり物理的破壊が容易となる。従来はバンパー廃棄物をそのままチェーンソー等で切断して破壊していたが、FRPの物理的強度が高く、チェーンソーの歯が壊れやすい問題があった。しかし、バンパー廃棄物に本発明の物質の分離方法を適用することにより、FRPの物理的強度を落とすことができ、バンパー廃棄物を容易に切断できるようになる。処置対象物が自動車のタイヤ(ワイヤー入り)である場合も、同様の効果が得られる。
なお上述したように、母材が熱硬化性プラスチックである場合に過熱蒸気の温度を漸増又は段階的に上昇させると、熱硬化性プラスチックから複数の成分を分離・回収することも可能である。
【0080】
第四の例は、処理対象物が使用済み農業用シートの場合である。農業用シートは熱可塑性プラスチックからなるものが多いが、使用済み農業用シートには土や泥が付着しており、そのリサイクルが困難なものとなっている。しかし、使用済み農業用シートに本発明の物質の分離方法を適用すると、過熱蒸気の作用によって農業用シートが熱分解ガス化し、土や泥と分離できる。その結果、農業用シートから簡単に油を回収することができる。本発明の物質の分離方法によれば、使用済み農業用シートから予め土や泥を取り除く必要がない。
【0081】
第五の例は、処理対象物が廃油の場合である。例えば船舶から出る廃油は、エンジンオイル、軽油、重油等からの廃油にスラッジが混ざった粘度の高いものである。従来は船舶の廃油処理を行う際には、予め遠心分離を行ってスラッジ等の固形分を取り除いていたが、廃油に本発明の物質の分離方法を適用すれば、過熱蒸気の作用で油分が熱分解ガス化し、軽質化された清澄な再生油を回収することができる。この際、C重油由来の廃油をA重油相当品にまで再生することができる。さらに、過熱蒸気を使うことにより処理中のカーボン生成が抑えられ、分離を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施形態に係る物質分離装置の内部構造を表す断面図である。
【図2】図1の物質分離装置がさらに備える脱ハロゲン化装置等を表す正面図である。
【図3】過熱蒸気導入部の構造を模式的に表す斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
1 物質分離装置
2 収容槽
3 過熱蒸気発生装置(過熱蒸気発生手段)
12 内部監視口(覗き窓)
27 脱ハロゲン化装置
35 バーナ(収容槽加熱手段)
56 過熱蒸気導入配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱蒸気との接触で気体に変換する第一物質と、過熱蒸気との接触で気体に変換しない第二物質とを含む混合物又は複合材に、過熱蒸気を接触させて第一物質を気体に変換し、第一物質と第二物質とを分離することを特徴とする物質の分離方法。
【請求項2】
第一物質は、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、合成ゴム、又は油であることを特徴とする請求項1に記載の物質の分離方法。
【請求項3】
第二物質は、金属、金属酸化物、又は無機質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の物質の分離方法。
【請求項4】
混合物は、廃油であることを特徴とする請求項1に記載の物質の分離方法。
【請求項5】
複合材は、第一物質として熱可塑性プラスチック又は合成ゴムを、第二物質として金属を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の物質の分離方法。
【請求項6】
複合材は、金属線の表面に熱可塑性プラスチック又は合成ゴムからなる被覆物が設けられた電線であることを特徴とする請求項5に記載の物質の分離方法。
【請求項7】
過熱蒸気は、その温度が150℃〜1000℃の範囲であり、かつ1.0MPa以下の圧力下で製造されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の物質の分離方法。
【請求項8】
過熱蒸気の温度を時間経過と共に漸増又は段階的に上昇させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の物質の分離方法。
【請求項9】
収容槽に混合物又は複合材を収容した後、当該収容槽の内部に所定量の過熱蒸気を導入することにより、混合物又は複合材に過熱蒸気を接触させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の物質の分離方法。
【請求項10】
収容槽の内部に過熱蒸気を導入すると共に収容槽を外部からさらに加熱することを特徴とする請求項9に記載の物質の分離方法。
【請求項11】
加熱によって腐食性物質を発生しないプラスチックを収容槽に収容した後、収容槽の内部に所定量の過熱蒸気を導入して前記プラスチックを油化し、収容槽の内壁に油膜を形成させる前処理工程を、収容槽に混合物又は複合材を収容する前に行うことを特徴とする請求項9又は10に記載の物質の分離方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の物質の分離方法に用いるための装置であって、混合物又は複合材を収容する収容槽と、過熱蒸気を発生させる過熱蒸気発生手段とを備え、前記収容槽の内部へ前記過熱蒸気発生手段から発生した過熱蒸気を導入可能であることを特徴とする物質分離装置。
【請求項13】
過熱蒸気発生手段と収容槽の内部とを接続する過熱蒸気導入配管をさらに備え、前記過熱蒸気導入配管を通じて前記過熱蒸気発生手段から前記収容槽の内部に過熱蒸気を導入可能であることを特徴とする請求項12に記載の物質分離装置。
【請求項14】
過熱蒸気導入配管を複数個備え、収容槽の内部に複数箇所から過熱蒸気を導入可能であることを特徴とする請求項13に記載の物質分離装置。
【請求項15】
収容槽を外部から加熱する収容槽加熱手段をさらに備えることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の物質分離装置。
【請求項16】
脱ハロゲン化装置をさらに備え、第一物質の気体への変換により発生するガスを脱ハロゲン化処理可能であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項に記載の物質分離装置。
【請求項17】
収容槽は、収容槽の内部を監視するための覗き窓を備えることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1項に記載の物質分離装置。
【請求項18】
収容槽の内壁には、セラミックコーティングが施されていることを特徴とする請求項12〜17のいずれか1項に記載の物質分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−136999(P2008−136999A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134447(P2007−134447)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(597120972)オリエント測器コンピュータ株式会社 (56)
【Fターム(参考)】