説明

生分解性の無機粉末高充填シート及びその製造方法

【課題】使用中は普通の無機粉末高充填シートと同様に使用出来て、廃棄後土中に埋めた時の、生分解性能が優れた生分解性の無機粉末高充填シートを提供する。
【解決手段】無機粉末を粘結材である生分解性有機高分子エラストマーに高充填した薄片3が、複数圧着されて一体化した集合体であって、各薄片の圧着面2,2・・・に沿って生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の早い生分解性有機高分子粉末を存在させた生分解性の無機粉末高充填シート1とした。なお、本物品の製造は、生分解性有機高分子エラストマーに無機粉末を高充填した組成物を、混練りして粉砕の後、粉砕物の表面に、生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の早い生分解性有機高分子粉末を付着させた状態で、ロール圧延機にて圧延圧着する方法で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粉末を有機高分子エラストマーに高充填した可撓性のボンド磁石シート、可撓性の電波吸収体シート、可撓性の磁石の被着体シート、可撓性の電磁波遮蔽シート、可撓性の遮音シート、可撓性の熱伝導シート等に用いられる、可撓性で生分解性を有する無機粉末高充填シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機質粉末を高充填した生分解性の可撓性シートとしては、下記の特許文献に示されるような生分解性のエラストマーに硬質磁性材料粉(磁石材料粉)を練り込んだ可撓性ボンド磁石シート(マグネットシート)や、生分解性のエラストマーに軟質磁性材料粉(電波吸収体材料粉等)を練り込んだ電波吸収体シート等が公知となっている。
そのうち、特許文献1である特開平11−121219には、硬質磁性材料粉である磁石材料粉と粘結材である生分解性プラスチックよりなる生分解性マグネットシートについて提案されている。
また、特許文献2である特開2000−150285には、軟質磁性材料粉である磁性材料粉と粘結材であるプラスチック乃至エラストマーよりなる電波吸収体シート及び電磁波シールドシートであり、其の中に粘結材を生分解性合成樹脂(プラスチック)としたものが提案されている。
さらに、特許文献3である特開2000−150226には、硬質磁性材料粉である磁石材料粉と粘結材として生分解性のエラストマーである天然ゴム及び/またはイソプレンゴムと特定の生分解性樹脂よりなる、可撓性の生分解性マグネットシートについて提案されている。
このように、従来の技術は、何れも磁性材料粉を生分解性の粘結材に練込んだ組成物より成るシートであって、生分解性能は、粘結材の生分解性のみに依存するものとなっていた。
【0003】
【特許文献1】特開平11−121219(第2〜3頁)
【特許文献2】特開2000−150285(第2頁)
【特許文献3】特開2000−150226(第2〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シートを土中に埋めた際に土中の微生物によって生分解されるプロセスは、主にシートの外面から徐々に始まってくるものであるため、従来の技術では、シートが生分解するまでには多くの日数がかかり、特に、シートが厚肉であった場合には、その傾向が顕著になる。
また、生分解性の優れたシートの開発は、地球環境の保全の観点から、市場から強く望まれている背景もある。
【0005】
そこで、本発明は、通常は無機粉末高充填シートと同様に使えて、廃棄後土中に埋めてからの生分解性能が、粘結材によってのみ左右されること無く、より効率の良い生分解性能を奏し得る、可撓性で生分解性の高い無機粉末高充填シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的に、生分解性有機高分子材料の微生物分解は、廃棄後土中の微生物の菌体外分泌分解酵素が吸着し、高分子鎖の化学結合を切断することから始まり、高分子物質の低分子量化によって材料は崩壊し、生成物は更に酵素分解によってモノマー単位で一量体や二量体の低分子量分解生成物になる。その後、分解生成物は微生物体内に取り込まれ、微生物体内のさまざまな代謝経路を経て、各種生体高分子を合成するために用いられたり、あるいはエネルギー生産のために用いられて、炭酸ガス(好気的環境下)やメタン(嫌気的環境下)に変換される。
【0007】
従って、初期段階に於いて土中の微生物が吸着する表面積を大きくすることが、生分解処理に大きく寄与すると考えられる。
一方、生分解性有機高分子エラストマーの生分解性を向上させる手段として、より生分解性の優れる生分解性高分子を併用することが考えられる。
【0008】
この2点に注目して検討を行った結果、生分解性有機高分子エラストマーに、より生分解性の優れる生分解性高分子微粉末を均一に混練分散したシートにするよりも、シートを細区分化するように前記生分解性有機高分子微粉末を存在させることが、生分解処理を加速出来ることを見出すに至った。
それを実施するための態様は、無機粉末と生分解性有機高分子エラストマーである粘結材とからなる組成物を、混練、粉砕して粉砕物とした後、この粉砕物に前記生分解性有機高分子粉末を付着させた状態で、ロール圧延機にて圧延圧着することにより形成される、生分解性有機高分子エラストマーである粘結材に無機粉末を高充填した薄片が、多数圧着一体化された集合体シートとすることで実現することができる。
これにより、土中の微生物が吸着して生分解させやすい生分解性有機高分子粉末を、各薄片の圧着面に沿って存在させることが出来ることに着目し、本発明をなすに至った。
【0009】
具体的には、本発明は、無機粉末を粘結材である生分解性有機高分子エラストマーに高充填した組成物よりなる薄片が、多数圧着されて一体化した集合体シートであって、該集合体シート中の各薄片には、その圧着面に沿って前記生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末を存在させたことを特徴とする生分解性の無機粉末高充填シートとすることで実現させることができる。
【0010】
その場合の好ましい態様としては、生分解性有機高分子エラストマーとして、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、微生物ポリエステル共重合体エラストマーから選ばれた少なくとも1種の生分解性有機高分子エラストマーに、無機粉末35〜65容量%高充填し、生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末として、平均粒子径3〜50μmの澱粉、ポリ3‐ヒドロキシブチレート粉、ポリ乳酸粉、ポリカプロラクトン粉から選ばれた少なくとも1種の生分解性有機高分子粉末とするのがよい。
【0011】
本発明による生分解性の無機粉末高充填シートの製造方法は、生分解性有機高分子エラストマーと無機粉末とから成る組成物を、混練りした後に粉砕して多数の粉砕物とし、これらの粉砕物の各表面に前記生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末を付着させ、各粉砕物をロール圧延機にて圧延圧着することにより、各粉砕物を薄片状となして一体集合体状のシートに成形することで実施できる。
この製造方法によれば、特に生産効率的、経済的に優れたものとなる。
【0012】
なお、上記製造方法においては、前記生分解性有機高分子エラストマーとして天然ゴム、ポリイソプレンゴム、微生物ポリエステル共重合体エラストマーから選ばれた少なくとも1種の生分解性有機高分子エラストマーに、無機粉末35〜65容量%高充填し、前記生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末として、平均粒子径3〜50μmの澱粉、ポリー3‐ヒドロキシブチレート、ポリ乳酸粉、ポリカプロラクトン粉から選ばれた少なくとも1種の生分解性有機高分子粉末とすることが、好ましい態様となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の生分解性の無機粉末高充填シートは、無機粉末を生分解性有機高分子エラストマーに高充填した組成物を薄片状として圧着一体化した集合体シートであるが、各薄片の表面には生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の早い生分解性有機高分子粉末が付着されていて各圧着面に点在することにより、シートを廃棄後に土中に埋めた時に、各薄片の圧着面に沿って水分と微生物の侵入が早期に起こり、シートが亀裂細分化を生じ、微生物の菌体外分泌分解酵素の吸着面積が増大することにより、生分解処理速度を早くすることが出来る。
【0014】
また、公知の生分解性有機高分子エラストマーに、生分解性有機高分子エラストマーより生分解性が優れる特定の生分解性樹脂を練込む方法に比べて、使用する生分解性有機高分子粉末の量が少なくて良い利点がある。
【0015】
なお、本発明の生分解性の無機粉末高充填シートの製造方法によれば、圧延機を用いて圧延圧着によって幅広で長尺物(巻物)を連続的にできる他、他の製造方法に比べて生産効率的、経済的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明による生分解性の無機粉末高充填シートの一例を示す概念模式図を表わしたものであり、図1(a)の斜視図及び図1(b)の拡大断面図に表わされるように、本発明の生分解性の無機粉末高充填シート1は、無機粉末を生分解性有機高分子エラストマーに高充填した組成物を薄片状として圧着一体化した集合体シートであって、該シート中の各薄片3,3...の圧着面2,2...に沿って、生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の早い生分解性有機高分子粉末8,8...を存在させたことを特徴としている。
なお、構成を判り易くするため、本発明による生分解性の無機粉末高充填シート1は、圧延圧着成型後、両端及び前後をカット仕上げした状態で表わしている。
【0017】
図2は、後述する本発明による生分解性の無機粉末高充填シートの圧延圧着成形方法の概念を示す模式図を表わしたものであり、この図に表わされるように、生分解性有機高分子粉末が付着した略球形の各粉砕物5は、圧延ロール4に喰い込まれる近くでは最密充填的(最小の体積に成るように並ぶ)に並んでこの圧延ロール4に喰い込まれ、又、略球形から生分解性有機高分子粉末8が付着した各粉砕物間の間隙を埋めるように変形しつつ薄片状に圧延されるので、略長方形の複数の薄片3が圧着一体化された集合体に成型されることになる。
また、この時、各薄片3,3...に形成される各圧着面2,2...は、必然的に、多数の生分解性有機高分子粉末8,8...が存在したものとなる。
【0018】
更に詳しく述べると、本発明で言う薄片が圧着一体化された集合体シート中の各薄片3,3...の圧着面に沿って生分解性有機高分子粉末8,8...を存在させた、とは、生分解性有機高分子粉末の粒子が点在することを言い、この現象は生分解性有機高分子粉末が付着した略球形の粉砕物が圧延によって薄片となることで表面積が増大し、生分解性有機高分子粉末の単位面積当りの量が減少することによって生じる。
そして、圧延圧着によって生じた薄片相互の圧着面では、粘結材である生分解性有機高分子エラストマーが薄片相互の圧着一体化に寄与することになり、圧着面を通じてエラストマー分子の相互の絡み合いが新しく生成することにより一体化する現象を生じ、多数の薄片による集合体のシートが成形される。
【0019】
この集合体は、混練物を圧延成形によって均質に成形されたものと異なり、前記薄片相互の圧着面には空気、その他ガス、水分・水蒸気が、極微量であるが排除又は内部へ拡散、分散されないで残存することから、生分解性有機高分子粉末の粒子が近接して点在する程度で、圧着面に沿って水分の浸透と微生物の侵入を容易にする作用効果を生じるものと考えられる。
【0020】
従って、土中に埋めてから、該シートの表面から内部に亘って生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の早い生分解性有機高分子粉末が存在する圧着面に沿って水分と微生物の侵入が早期に起こり、該シートが亀裂細分化を生じ微生物の菌体外分泌分解酵素の吸着面積が増大することで、生分解処理速度を早くすることが出来る。
【0021】
なお、本発明の生分解性の無機粉末高充填シートは、薄片が圧着一体化されたシートであって、圧着面に沿って生分解性有機高分子粉末が近接点在したものであれば良く、薄片の形状及び重り具合は図1に限定されるものではない。
【0022】
以下、具体的な構成について詳細に説明する。
【0023】
本発明において使用する生分解性有機高分子エラストマーである粘結材としては、天然ゴム、天然ゴムの主成分である合成ポリイソプレンゴム、微生物ポリエステル共重合体エラストマーであるポリ3‐ヒドロキシブチレートとポリ3‐ヒドロキシバリレートの共重合体(3‐ヒドロキシバリレート分率30モル%以上)、ポリ3‐ヒドロキシブチレートとポリ4‐ヒドロキシブチレートの共重合体(4‐ヒドロキシブチレート分率40モル%以上)、ポリブチレンサクシネート・アジペートなどが挙げられる。
【0024】
本発明において使用する無機粉末は、特に限定されるものではなく、ボンド磁石シートに関しては、Srフエライト、Baフエライト、などのフエライト系磁石材料粉、Mn‐Al磁石材料粉、Sm‐Co系、Nd‐Fe‐B系、Sm‐Fe‐N系などの希土類系磁石材料粉などの硬質磁性材料粉が挙げられ、電波吸収体シートに関しては、Mn‐Znフエライト、Ni‐Znフエライト、マグネタイトなどの軟質磁性材料粉が挙げられ、磁石の被着体シートに関しては、鉄及び鉄の合金系、並びにMn‐Znフエライト、Ni‐Znフエライト、マグネタイトなどのソフトフエライト系などの軟質磁性材料粉が挙げられ、電磁波遮蔽シートに関しては、鉄、Al‐Ni‐Co系、Cr‐Al系、Fe‐Si‐C系、Fe‐Si‐Al系、Mn‐Znフエライト、Ni‐Znフエライト、マグネタイトなどの軟質磁性材料粉が挙げられる。
【0025】
又、遮音シートに関しては、鉄、マグネタイト、酸化鉄などの高比重粉が挙げられ、熱伝導シートに関しては、炭化珪素、窒化硼素、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、マグネシヤ、窒化珪素、窒化アルミニウムなどのセラミック材料粉が挙げられる。
【0026】
これらの無機粉末は、生分解性有機高分子エラストマーに35〜65容量%、好ましくは35〜60容量%の範囲で充填される。35容量%未満では目的とする性能が十分発揮されず、65容量%を超えると圧延機への負荷が大きく成り、厚み精度の低下の他に、可撓性の低下を生じるので好ましくない。
【0027】
本発明の、無機粉末を生分解性有機高分子エラストマーに高充填した組成物には、ゴム・プラスチックに通常用いられる添加剤を同様に用いることができる。例えば、滑剤として、脂肪酸系(ステアリン酸、パルミチン酸など)、脂肪酸アミド系(ステアロアミド、エチレンビス・ステアロアミドなど)金属石鹸(ステアリン酸カルシュウム、ステアリン酸亜鉛など)、高級脂肪酸エステルなどを用いることができ、老化防止剤(酸化防止剤)としては、例えば、フエノール系老化防止剤、硫黄系老化防止剤、リン酸系老化防止剤などを用いることが出来る。
【0028】
本発明において使用する生分解性有機高分子粉末としては、澱粉、ポリ3‐ヒドロキシブチレート、ポリ乳酸粉、ポリカプロラクトン粉、酢酸セルロース粉、キチン粉、キトサン粉、コーングルテンミール粉、木粉、木材パルプ粉などが挙げられ、機械粉砕法、凍結粉砕法、溶剤法(良溶剤へ溶解した後、貧溶剤で沈殿させ回収後乾燥)等の公知の方法で粉砕した平均粒子径3〜50μm、好ましくは5〜40μmで使用できる。
【0029】
平均粒子径が3μm未満では、粉砕費用が高価になる割りには、得られる効果が変わらないので不経済である。50μmを超えると粉砕物への付着性が低下し、また、シート表面の平滑性が低下してくるので好ましくない。
【0030】
一般的にゴム磁石に用いることができる高充填性の優れる粘結材(エラストマー)は、ゴム系の接着剤と同様にブロッキング性が大きいため、粉末を高充填した場合においても粉末が粘結材(エラストマー)に包み込まれることにより、ブロッキング性が低下することは無い。
従って、粉砕物とした場合においてもブロッキング性は大きいものであり、粉砕物に生分解性有機高分子粉末を付着させた後に圧延圧着した時には、粉砕物が薄片状となってその表面に生分解性有機高分子粉末が点在することになるが、付着量を適正に管理することによりブロッキング性を維持することができる。
本発明において使用する生分解性有機高分子粉末の付着させる量は、生分解性有機高分子粉末の粒子径、生分解性有機高分子エラストマーの種類、付着処理の温度、シート成形時の加工温度及び圧下率等によって異なるので、個々に実験によって決めるのが望ましいが、多くの場合は、材料全量に対して2〜7容量%程度が適量である。
適量より少ないと目的の効果が弱くなる場合があり、多いと圧着を阻害する場合を生ずるので好ましくない。
【0031】
次に本発明の生分解性無機粉末高充填シートの製造方法について説明すると、無機粉末と生分解性有機高分子エラストマー、及び、添加剤よりなる配合物を、混練機(例えば、ミキシングロール、加圧ニーダー、混練押出機など)を用いて混練後、粉砕機(例えばハンマーミル、カツターミルなど)を用いて粉砕物とする。
なお、この粉砕物の形状は楕円気味の略球状に形成される。
また、この時の混練条件(温度、時間)は、公知の方法である無機粉末を有機高分子エラストマーに高充填した組成物を製作する場合(例えばマグネットシート)と同様でよく、目安としての温度は、有機高分子エラストマー単独の場合の温度+10〜20°C程度でよい。
【0032】
粉砕物の大きさは、組成物の物性、圧延機のロール径、シートの成型厚み等によって異なるので、個々に試験によって適宜決める事になるが、目安として粉砕機のスクリーン穴径を1mm〜3mm程度にしたものが好ましく、適正値より小さいと圧延圧着不良を生じる場合があり、大きいとロールへの喰い込みが悪くなり圧延成型出来なくなる場合を生じる。
【0033】
該粉砕物と前記生分解性有機高分子粉末を、攪拌機(例えば、リボンブレンダー、タンブラーなど)にて攪拌して粉砕物の表面に生分解性有機高分子粉末を付着させた後、図2に示すような圧延機(2本ロール)にて圧延圧着して、無機粉末を、生分解性有機高分子エラストマーに高充填した組成物よりなる薄片が圧着一体化された集合体シートであって、該シート中の各薄片の圧着面に沿って生分解性有機高分子粉末を存在させた生分解性の無機粉末高充填シートを成形する。
此の時の圧延圧着条件(温度)は、公知の方法である無機粉末を有機高分子エラストマーに高充填した組成物を圧延成型する場合(例えばマグネットシート)の圧延機のロール表面温度+0〜15°Cを目安に粘結材、無機粉末の充填量、生分解性有機高分子粉末の種類及び粒子径等によって適宜決めることに成る。
【0034】
なお、生分解性の無機粉末高充填シートの成形方法は、上述した方法に限ることは無く、ロール圧延機に換えて、プレス成形機にて圧延圧着して行ってもよい。
また、粉砕物を細い丸紐状に押出成形した後に、生分解性有機高分子粉末を付着させて圧延し、その後カッティングして薄片としたものを圧着する方法によって行っても良い。
しかしながら、ロール圧延機にて圧延圧着する方法が、特に生産効率的、経済的に優れたものとなる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の内容を実施例によって、更に詳細に説明するが、本発明はこのような実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
〔無機粉末高充填シートの成形(実施例1〜9、比較例1〜7)〕
〔粉砕物の作成〕
表1に示す実施例1〜9、表2に示す比較例1〜7の配合表に従って、各成分を加圧ニーダーで100〜120°C×15分混練後、ハンマーミル(スクリーンの穴径2.0mm)にて粉砕して粉砕物を得る。次に生分解性有機高分子粉末を付着させるものに就いては、粉砕物と生分解性有機高分子粉末をタンブラーに投入後、7分間攪拌する。
【0037】
〔圧延圧着によるシートの成形〕
直径12インチの2本ロール型圧延機(ロール表面温度70〜90°C)にて、2m/分の速度で1回通して圧延圧着を行い0.5mm厚シートに成形する。
【0038】
なお、実施例(1〜9)、比較例(1〜7)に使用した原材料は次の通りである。
a)天然ゴム:マレーシヤ産、スモークドシート比重0.93
b)ポリイソプレンゴム:日本ゼオン社製、商品名:Nipol IR2200l
比重0.91
c)硫黄系老化防止剤:ジラウリル‐3,3’‐チオジプロピオネート:吉富製薬社製、
商品名:ヨシノックスDLDP
d)滑剤:ステアリン酸:花王製、商品名:ルナックス40
e)Sr‐フエライト粉:日本弁柄社製、商品名:NF‐56平均粒子径1.05μm
比重5.1
f)Mn‐Znフエライト粉:戸田工業社製、商品名:BSF平均粒子径3.2μm比重5.1
g)還元鉄粉:パウダーテック社製、商品名:還元鉄粉、平均粒子径30μm比重7.86
h)マグネタイト粉:チタン工業社製、商品名:BL‐100平均粒子径3μm比重5.1
i)Al‐Ni‐Co粉:住友金属鉱山社製、商品名:TM‐280平均粒子径100μ
比重7.3
j)澱粉(とうもろこし澱粉):日本食品化工社製、商品名:日食コーンスターチ
平均粒子径20μm比重1.0
k)ポリ3‐ヒドロキシブチレート:三菱ガス化学社製、商品名:ビオグリーンを
平均粒子径40μに粉砕、比重1.23
m)ポリ3‐ヒドロキシブチレート:三菱ガス化学社製、商品名:ビオグリーンを
平均粒子径70μに粉砕、比重1.23
n)ポリL‐乳酸:島津製作所製、商品名:ラクティ#9,000を
平均粒子径40μに粉砕、比重1.27
p)ポリカプロラクトン:ダイセル化学工業社製、商品名:プラクセルPH7を
平均粒子径40μに粉砕、比重1.14
q)塩素化ポリエチレン:昭和電工社製、商品名:エラスレン301A比重1.12

【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
〔各性能の評価〕
各実施例及び比較例における無機粉末高充填シートの評価は、以下に示す方法に従って行った。
【0042】
(1)加工性
ロール圧延機にて圧延圧着してシート状に成形する際の加工性(厚み0.5mmにおける)を、成形されたシートによって評価した。
○:シートの表面が平滑で、幅方向及び流れ方向の厚み差が少ない。
(厚みのバラツキが±10%以内)。
△:圧延機への負荷が大きく、シートの幅方向の厚み差が大
(中央部が厚く、両端が薄い)。
×:圧延機への負荷が極めて大きく、シートの両端にクラックを生じてシート成形が
困難。
【0043】
(2)可撓性
厚さ0.5mmに成形したシートを、図4のように直径1mmの丸棒に沿わせて180度折り曲げた時のクラックの有無、程度により評価した。(可撓性試験は、抗張力、伸長率、ゴム状弾性の総合物性であるので、無機粉末高充填シートの実用的評価に好適である)。
○:クラックの発生なし
△:若干クラックを発生
×:割れる
【0044】
(3)生分解性
厚さ0.5mmに成形したシートを100mm角にカットして、埼玉県桶川市下日出谷の畑の土壌に深さ約15cmに埋設し、10ヶ月後(平成17年4月24日〜平成18年2月26日)取り出して評価した。
○:取り出せない程に分解している
△:部分的に分解している
×:全く変化なし
【0045】
(試験結果)
試験結果による各性能の評価を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
各実施例は、表3に示す各実施例と各比較例の試験結果から分かるように優れた性能を呈する。又、各実施例の組成を表1に示し、比較例の組成を表2に示す。
比較例1は、従来の非生分解性の無機粉末高充填シートの代表例としての、マグネットシートであるので、当然生分解性ではない。
【0048】
比較例2は、無機粉末と生分解性有機高分子エラストマーよりなる混練り混合物である生分解性の無機粉末充填シートであり、比較例3は、公知技術である無機粉末と生分解性有機高分子エラストマーと特定の生分解性の優れる生分解性樹脂を併用した混練り混合物である生分解性の無機粉末充填シートであり、各実施例に比べて生分解性が劣る。
【0049】
先行技術である比較例3と実施例6を比較して、両者間の相違点は比較例3が生分解性樹脂を練込んで使用する事と使用量が多いのに対して、実施例6はその粉砕物に生分解性有機高分子粉末(比較例3の生分解性樹脂と同じ組成)を付着させて用いることと使用量が少ないこととにあり、得られる性能は実施例6の方が、加工性、可撓性、生分解性が優れるが、比較例3は、加工性、生分解性が劣る。その原因は、実施例6は前期粉砕物に生分解性有機高分子粉末を付着させて用いることが生分解性に寄与し、その使用量が少ないことが加工性に寄与していると考えられる。
【0050】
比較例4は、無機粉末と生分解性有機高分子エラストマーに実施例7に用いる生分解性有機高分子粉末と同じものを、同量で用いた混練り混合物であるに対して、実施例7はその粉砕物に生分解性有機高分子粉末を付着させて用いる点において異なっている。
そして、得られる性能は実施例7の方が比較例4より、加工性、可撓性、生分解性が優れたものとなっており、その原因は生分解性有機高分子を練込んで用いたことに依ると考えられる。
【0051】
比較例5は、本発明の範囲を超えて、無機粉末を多量充填したもので、圧延機への負荷が大きく製品となるシートが得られない。
【0052】
比較例6は、本発明の範囲を超えて、生分解性有機高分子粉末の平均粒子径が大きい為に、生分解性有機高分子粉末の付着性が劣り、加工性と生分解性とが劣る。
【0053】
比較例7は、本発明に対する適量を超えて、多量の生分解性有機高分子粉末を用いた為に圧延による圧着不良ぎみで、加工性と可撓性とが劣る。
【0054】
それに対して、各実施例は全て各比較例に対して良好な結果を示す。
実施例1〜実施例4は、生分解性有機高分子エラストマーとして天然ゴムを用い、生分解性有機高分子粉末に澱粉を用いて、無機粉末をSrフエライト粉から、Mn‐Znフエライト粉、還元鉄粉粉とマグネタイト粉、Al‐Ni‐Co粉に夫々変化しても本発明の効果が得られることが分かる。
【0055】
なお、実施例1は無機粉末を硬質磁性材料粉であるSrフエライト粉を用いたもので、マグネットシート原反(着磁処理をしてマグネットシートとなる)である。
また、実施例2は無機粉末を軟質磁性材料粉であるMn‐Znフエライト粉を用いたもので、主として電波吸収材シートとして用いられる。実施例3は高透磁率材料として還元鉄粉とマグネタイト粉を用いて、主として磁石の被着体として用いられる。実施例4は無機粉末を特に高透磁率材料の良いAl‐Ni‐Co粉を用いたもので、主として電磁波シール材に用いられる。
【0056】
実施例5〜実施例7からは、生分解性有機高分子エラストマーに天然ゴムを用い、無機粉末を硬質磁性材料粉であるSrフエライト粉を用いて、生分解性有機高分子粉末を澱粉からポリ3‐ヒドロキシブチレート粉、ポリL‐乳酸粉、ポリカプロラクトン粉に夫々変更しても、本発明の効果が得られることが分かる。
【0057】
実施例8からは、実施例7の天然ゴムをポリイソプレンゴムに変更しても、本発明の効果が得られることが分かる。
実施例9からは、生分解性有機高分子粉末の付着処理量を3V%まで減量しても本発明の効果が得られることが分かる。
【0058】
上記各実施例及び各比較例から分かるように、本発明の生分解性の無機粉末高充填シート及び、その製造方法に依れば、可撓性で生分解性に優れた、生分解性の無機粉末高充填シートを容易に製造することが出来る。
即ち、本発明の生分解性の無機粉末高充填シートは、無機粉末を生分解性有機高分子エラストマーに高充填した組成物を薄片状として圧着一体化した集合体シートであるが、各薄片の表面には生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の早い生分解性有機高分子粉末が付着されていて各圧着面に点在することより、該シートを土中に埋めた時に、各薄片の圧着面に沿って水分と微生物の侵入が早期に起こり、該シートが亀裂細分化を生じ、微生物の菌対外分泌分解酵素の吸着面積が増大することにより、生分解処理速度を早くすることが出来る。
【0059】
また、公知の生分解性有機高分子エラストマーに、生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の早い生分解性樹脂を練込む方法に比べて、使用する生分解性有機高分子(生分解性樹脂も含む)粉末の量が少なくても良い性能が得る。
【0060】
また、本発明の製造方法に依れば、圧延機を用いて圧延圧着によって容易に生造することができる。
【0061】
なお、本発明は、各種に変形して実施することが可能である。例えば、本発明の生分解性の無機粉末高充填シートの表面に、表装材として生分解性有機高分子フィルム(例えば、ポリ乳酸フィルム)と生分解性有機高分子エラストマー(例えば天然ゴム系)である接着剤又は粘着剤を用いてラミネートすることが出来るし、裏面にブロッキング防止を目的に、生分解性有機高分子(例えば、ポリ乳酸)と溶剤から成る塗工液をコートすることも出来る。
【0062】
また、本発明の生分解性の無機粉末高充填シートを用いて、積層圧延を行い厚みの厚ものを成形する場合に、積層面の片方又は、両方に生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末を適量付着させることで、土中に埋めてから積層面の剥離を生じ易く出来ることから、厚みが厚くなる事による生分解の遅延を改善する事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
可撓性のボンド磁石シート、可撓性の電波吸収体シート、可撓性の磁石の被着体シート、可撓性の電磁波遮蔽シート、可撓性の遮音シート、可撓性の熱伝導シートなどとして使用後、回収して土中に埋めることで人工的エネルギーを必要としないで、生分解性有機高分子エラストマー及び生分解性有機高分子粉末が、土中の微生物によって短期間で生分解され、殆ど無機粉末と成るので無機粉末原料として再利用することが可能である。
又、ステッカーのような小サイズで少量の場合は、半永久的に有形廃棄物となることなく、土へ同化して無公害化する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の生分解性無機粉末高充填シートの一例を示す概念模式図であり、(a)は斜視図を示し、(b)は拡大断面図を示す。
【図2】本発明の生分解性無機粉末高充填シートの圧延圧着成形方法の概念を示す模式図(側面図)である。尚、図1及び図2には圧着面に存在する生分解性有機高分子粉末の図示を省略している。
【図3】可撓性試験を示す説明図(側面図)である。
【符号の説明】
【0065】
1 無機粉末高充填シート
2 (薄片の)圧着面
3 (集合体シート中の)薄片
4 圧延機のロール
5 (生分解性有機高分子粉末を付着させた)粉砕物
6 試験試料
7 直径1mmの丸棒
8 生分解性有機高分子粉末



【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末を粘結材である生分解性有機高分子エラストマーに高充填した組成物よりなる薄片が、多数圧着されて一体化した集合体シートであって、
該集合体シート中の各薄片には、その圧着面に沿って前記生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末を存在させたことを特徴とする生分解性の無機粉末高充填シート
【請求項2】
前記生分解性有機高分子エラストマーとして、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、微生物ポリエステル共重合体エラストマーから選ばれた少なくとも1種の生分解性有機高分子エラストマーに、無機粉末35〜65容量%高充填し、生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末として、平均粒子径3〜50μmの澱粉、ポリ3‐ヒドロキシブチレート粉、ポリ乳酸粉、ポリカプロラクトン粉から選ばれた少なくとも1種の生分解性有機高分子粉末としたことを特徴とする請求項1に記載の生分解性の無機粉末高充填シート
【請求項3】
生分解性有機高分子エラストマーと無機粉末とから成る組成物を、混練りした後に粉砕して多数の粉砕物とし、
これらの粉砕物の各表面に前記生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末を付着させ、
各粉砕物をロール圧延機にて圧延圧着することにより、各粉砕物を薄片状となして一体集合体状のシートに成形させることを特徴とする生分解性の無機粉末高充填シートの製造方法
【請求項4】
前記生分解性有機高分子エラストマーとして天然ゴム、ポリイソプレンゴム、微生物ポリエステル共重合体エラストマーから選ばれた少なくとも1種の生分解性有機高分子エラストマーに、無機粉末35〜65容量%高充填し、前記生分解性有機高分子エラストマーより生分解性の優れる生分解性有機高分子粉末として、平均粒子径3〜50μmの澱粉、ポリー3‐ヒドロキシブチレート、ポリ乳酸粉、ポリカプロラクトン粉から選ばれた少なくとも1種の生分解性有機高分子粉末としたことを特徴とする請求項3に記載の生分解性の無機粉末高充填シートの製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−41702(P2008−41702A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209956(P2006−209956)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000110893)ニチレイマグネット株式会社 (24)
【Fターム(参考)】