説明

生物活性物質送達用の浸透性金属材料の医療デバイス

生物活性物質を患者の体組織へと送達するための、ステントなどの医療デバイス、及びそのような医療デバイスの製造方法が記載されている。該医療デバイスは、その表面上に被覆層を有する。被覆層は、複数の孔を有する金属、及び該孔中に散布された生物活性物質を含む。孔は、被覆層の外表面へと繋がっている。被覆層は、2種以上の金属(金及び銀など)を含む被覆組成物を、医療デバイスの表面に塗布し、かつ一種の金属を除去して細孔性の被覆層を形成することによって、形成してもよい。本公開の医療デバイスの上記の被覆層は、表面領域が増大されており、そのため、そうした被覆を有しない医療デバイスより多量の生物活性物質を装填することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して、患者の体細胞組織への、生物活性物質の送達に有用な医療デバイス、及びそのような医療デバイスの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、表面に繋がる複数の孔を有する金属含有被覆層を有し、かつ生物学的活性材料が該孔中に散布された医療デバイスに関するものである。また本発明は、医療デバイス上のそのような被覆層の提供方法に関するものである。
【0002】
(発明の背景)
植込み可能なステントなどの医療デバイスは、生物活性物質を、特に再狭窄の治療用途に、患者の体組織へと直接送達するのに使用されてきた。
最近の研究は、より高投与量の生物活性物質が、再狭窄治療により効果的であることを示している。しかしながら、そうした医療デバイスを使用して、十分な量の生物活性物質を体組織へと送達して患者を適切に治療するのは、困難が伴う。これらの困難は、多くの要因によって起こり得る。例えば、生物活性物質が医療デバイスの表面に付着するのは問題である。
【0003】
さらに、十分な生物活性物質を医療デバイス上に組む込むことは、デバイスの表面領域が制限されているため、限界がある。具体的には、ステントに塗布可能な生物活性物質の量は、生物活性物質が付着することができる表面領域の量によって制限されている。従って、より多量の生物活性物質を医療デバイス中、あるいは医療デバイス上に組み込めるよう、より大きな表面領域を備える医療デバイス、又は医療デバイス向けの被覆を持つことが望ましい。
【0004】
生物活性物質を、特に高容量で医療デバイスに塗布することの別の困難とは、例えばバースト効果(burst effect)で、生物活性物質が標的組織にあまりに急速に放出されるのを防ぐことである。より大容量の生物活性物質が医療デバイスに塗布された場合、該物質の制御放出を確保することがより困難になる。さらに、生物活性物質が医療デバイスに塗布された場合、患者への何らかのリスクを最小化するため、送達及びデバイスの配置を監視することが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、所望量の生物活性物質を送達できる医療デバイスが必要である。また、植込み部位で医療デバイスを監視できるようX線不透過性の、そのような医療デバイスも必要である。さらに、より大きな表面領域を備え、該医療デバイスから経時的制御放出を行う十分な量の生物活性物質の組込みが可能な、医療デバイスの製造方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
上記の、及びその他の目的は本発明によって達成される。ある実施態様において、本発明は、生物活性物質を患者の体組織へ送達するための被覆された医療デバイスを提供する。被覆された医療デバイスは、表面を有する医療デバイスを含み;かつ被覆層は少なくとも該表面の一部分上に配置される。被覆層は、外表面を含み、また該被覆層の表面に繋がる、すなわち表面接続された、複数の孔を有する生物適合性金属をも含む。生物活性物質は孔に収められる。孔は、望ましくは微小孔、又はナノ細孔である。
【0007】
別の実施態様において、生物活性物質を患者の体組織へと送達するための、被覆された医療デバイスの製造方法が開示される。特異的には、本発明の方法は、表面を有する医療デバイスの提供、及び表面の少なくとも一部分へ、生体適合性を有する第一の金属を含む被覆組成物を塗布することを含む。被覆組成物の被覆層は、外面を備えた医療デバイスの表面上に形成される。被覆層は、被覆層の外面に繋がる複数の孔を有する第一の金属を含む。生物活性物質は孔の中に分散されるか、単に配置される。被覆組成物は、第二の金属をさらに含んでもよく、該第二の鉄を除去すること、例えば酸を被覆組成物に加えることによって被覆層を形成してもよい。本発明の方法に基づいて製造された被覆医療デバイスもまた、開示されている。
【0008】
さらに別の態様において、生物活性物質を患者の体組織へ送達するための、X線不透過性被覆の施された医療デバイスの製造方法が開示されている。本発明の方法は、表面を有する医療デバイスの提供;及び該表面へ第一及び第二の金属を含む被覆組成物を塗布することを含む。第二の金属は除去されて、表面上に被覆層を形成し、この時被覆層は外表面を備える。また、被覆層は、複数の孔を有する第一の金属を有し、該孔は被覆層の外表面に繋がる。生物活性物質が、孔中に散布されている。
【0009】
被覆層の外表面に繋がる、被覆層中の複数の孔によって、本発明は表面領域が増大し有利である。被覆層の外表面に繋がっていることによって、孔から生物活性物質を放出することを容易にする。従って、本発明は、表面領域の増大により、より大量の生物活性物質が医療デバイスに投入されるのを可能にする医療デバイスを提供する。さらに、本発明は、生物活性物質がデバイス中およびデバイスの被覆層のより深部に散布され、かつよりゆっくりと放出されるか経時制御的に放出されることを可能にする、被覆された医療デバイスを提供する。また、本発明は、X線不透過性のそうした医療デバイスも提供する。
【0010】
(詳細な説明)
本発明の被覆された医療デバイスは、表面を有する医療デバイスを含む。好適な医療デバイスは、ステント、外科用ステープル、中心静脈カテーテル及び動脈カテーテルなどのカテーテル、ガイドワイヤー、カニューレ、心臓ペースメーカーリード及びリードチップ、細動除去器又はリードチップ、植込み型血管アクセスポート、血液保存用バッグ、血液チューブ、心臓用又は他用途の接木、大動脈内バルーンポンプ、心臓弁、心臓血管縫合糸、完全人工心臓及び心室補助ポンプ、特別の身体上のデバイスの血液酸素付加装置、血液フィルタ、血液透析ユニット、血液かん流ユニット又はプラズマフェレーシス・ユニットなどを含むが、それらに限定されない。
【0011】
本発明に特に好適な医療デバイスは、医療用途の任意のステントを含み、このことは当業者に知られている。好適なステントは、例えば、自己拡張ステント及びバルーン膨張ステントなどの血管ステントを含む。自己拡張ステントの例は、Wallstenの米国特許第4,655,771号及び第4,954,126号、及びWallstenらの第5,061,275号に示されている。適切なバルーン膨張ステントの例は、Pinchaskiらの米国特許第5,449,373号に示されている。
【0012】
好適なステントの骨組みは、当業界に公知の様々な方法を介して形成することができる。骨組みは、溶接、鋳型成形、レーザー切断、電子成形されてもよく、或いは、連続構造を形成するために巻かれるか編み込まれたフィラメント又はファイバーを含んでもよい。
【0013】
本発明に好適な医療デバイスは、セラミック、ポリマー、及び/又は金属材料から作成される。好適なポリマー材料には、限定されないが、ポリウレタン及びそのコポリマー、シリコーン及びそのコポリマー、エチレン酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー、アクリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸−ポリエチレンオキシドコポリマー、セルロース、コラーゲン、及びキチンを含む。好適な金属材料は、チタンを基とする金属及び合金(ニチノール、ニッケル−チタン合金、熱記憶合金材料など)、ステンレス鋼、タンタル、ニッケル−クロム、もしくはElgiloy 及び Phynoxなどのコバルト−クロム−ニッケル合金を含む特定のコバルト合金を含む。また金属材料は、例えばWO 94/16646において公開されている被覆複合材フィラメント(clad composite filaments)も含む。
【0014】
本発明において、医療デバイスの表面の少なくとも一部は被覆層で覆われている。被覆層は、実質的にポリマー材料を含まない。この被覆層は、該医療デバイスの表面に最も近接する被覆層の表面に対面する、外表面を有する。被覆層は、複数の孔を有する第一の金属を含み、該金属は生体適合性を有する。好適な第一の金属は、金、プラチナ、ステンレス鋼、タンタル、チタン、イリジウム、モリブデン、ニオブ、パラジウム、又はクロムであるが、それらに限定されない。望ましい第一の金属は、金である。
【0015】
望ましくは、第一の金属はX線不透過性物質である。医療デバイスはX線、又はX線透視法下で可視であるであるように、X線不透過性物質を含むことは望ましい。X線不透過性である、好適な第一の金属は、金、タンタル、プラチナ、ビスマス、イリジウム、ジルコニウム、ヨード、チタン、バリウム、銀、スズ、これらの合金、あるいは類似の物質である。
【0016】
さらに、第一の金属中の孔は、被覆層の外表面と連結、あるいは連通している。表面に繋がる孔を有することは、該孔中に配置された生物活性物質が孔から放出、例えば溶出されるのを促進する。また、孔は個別の、相互連結した、あるいはあるパターンで配置される。さらに、孔は任意の形状又はサイズを有することもあるが、望ましくは微小孔、もしくはナノ細孔である。加えて、孔は導管、間隙路、又は微細な溝のような形状であり得る。
【0017】
図1は、本発明の被覆を備えた医療デバイスの一部分の横断面である。医療デバイス10は、表面20を備える。被覆層30は、医療デバイスの表面の少なくとも一部上に配置される。被覆層は、外表面40を含む。被覆層は、複数の孔50を有し、複数の孔は被覆層40の外表面に繋がっている。生物活性物質60は、表面に繋がる孔50の中に存在する。この図に示された通り、孔は異なる形状とサイズを有し得る。
【0018】
図2a及び図2bは、金フィルムの外表面へ繋がる孔を備えた金フィルムの走査電子顕微鏡写真(SEM)である。図2aは、複数のナノ細孔を有する金フィルムの横断面図である。図2bは、金フィルム平面図であり、孔が金フィルムの外表面に繋がっているのを示している。
【0019】
生物活性物質は、被覆層中の孔の中に収納、あるいは分散されている。「生物活性物質」という用語は、薬剤などの治療薬、及び遺伝子物質、並びに生物由来物質をも包含する。好適な遺伝子物質は、DNA、RNA、及びRNAiなどのアンチセンス核酸分子に加えて、DNA又はRNAを含み、有用なタンパク質をエンコードしたDNA/RNA、及びウイルス・ベクター及び非ウイルス・ベクターを含む、ヒトの体内挿入することを意図したDNA/RNAなどに限定されない。好適なウイルス・ベクターは、アデノウイルス、ヘルパー依存型アデノウイルス(gutted adenovirus)、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス、アルファウイルス(セムリキ森林ウイルス、Sindbisなど)、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、生体外修正細胞(例えば、幹細胞、繊維芽細胞、筋芽細胞、衛星細胞、周皮細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、マクロファージ)、複製可能ウイルス(例えば、ONYX-015)、及びハイブリッドベクターを含む。好適な非ウイルス性ベクターは、タンパク質透過ドメイン(PTD)などの配列を標的としてもしなくても、人口染色体及びミニ染色体、プラスミドDNAベクター(例えばpCOR)、カチオン性ポリマー(例えばポリエチレンイミン、ポリエチレンイミン(PEI)グラフトコポリマー(例えばポリエーテル−PEI及びポリエチレンオキシド−PEI)、中性ポリマーPVP、SP1017(SUPRATEK)、脂質又は脂質複合体(lipoplexes)、ナノ粒子及びミクロ粒子を含む。
【0020】
好適な生物由来物質は、細胞、酵母、バクテリア、タンパク質、ペプチド、サイトカイン、及びホルモンを含む。好適なペプチド及びタンパク質の例には、成長要因(例えば、FGF, FGF-I、FGF-2、VEGF、内皮細胞分裂成長因子、及び上皮細胞増殖因子、形質転換成長因子α及びβ、血小板由来の内皮成長因子、血小板由来の成長因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞成長因子及びインスリン様成長因子)、転写因子、プロテインキナーゼ、CD阻害剤、チミジンキナーゼ、及びBMP-2, BMP-3, BMP-4, BMP-5, BMP-6 (Vgr-1), BMP-7 (OP-I), BMP-8, BMP-9, BMP-IO, BMP-Il, BMP-12, BMP-13, BMP-14, BMP-15, and BMP-16などの骨形態形成タンパク質(BMP's)を含む。現在、望ましいBMPはBMP-2, BMP-3, BMP-4, BMP-5, BMP-6, BMP-7である。これらの二量体タンパク質は、ホモ二量体、ヘテロ二量体、又はこれらの組み合わせとして、単独もしくはその他の分子と共に提供され得る。細胞は、ヒト由来(自系、又は同種異系)、又は動物起源(異種)であることができ、所望であれば、遺伝子組み換えを行って移植部位の関心を引くタンパク質を送達する。送達メディアは必要に応じて調製し、細胞機能と生存性を維持することができる。細胞は、骨髄全体、骨髄由来の単一核細胞、前駆細胞(例えば、内皮前駆細胞)、幹細胞(例えば間葉細胞、造血細胞、神経細胞)、多能性幹細胞、線維芽細胞、マクロファージ、及び衛星細胞を含む。
【0021】
生物活性物質は、ヘパリンなどの抗血液凝固剤、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、及びPPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)などの非遺伝性治療薬;例えばエノキサパリン、アンジオペプチン(angiopeptin)、又は平滑筋細胞増殖を阻害する能力を有するモノクローナル抗体、ヒルジン、アセチルサリチル酸、タクロリムス、エベロリムス、アムロジピン、ドキサゾシンなどの抗増殖剤;グルココルチコイド、ベタメタゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、ロシグリタゾン、ミコフェノール酸及びメサラミンなどの抗炎症剤;パクリタキセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、メトトレキサート、アザチオプリン、アドリアマイシン及びマイトマイシンなどの抗新生物薬/抗増殖剤/抗縮瞳剤;エンドスタチン、アンギオスタチン、チミジンキナーゼ阻害剤、タキソール及びその類似体又は誘導体;リドカイン、ブピバカイン及びロピバカインなどの麻酔剤;D-Phe-Pro-ArgクロロメチルケトンRGDペプチド含有化合物、ヘパリン、抗トロンビン化合物、血小板受容体アンタゴニスト、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン(アスピリンもまた鎮痛薬、解熱薬、抗炎症薬として分類される)、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤、トラピジル又はリプロスチンなどの抗血小板剤、及びダニ抗血小板ペプチドなどの抗凝固剤;特定の細胞の成長を阻害し、アポトーシスを引き起こすRNA代謝物又はDNA代謝物として分類される、5-アザシチジンなどのDNA脱メチル化薬;成長因子、血管内皮増殖因子(FEGF、全てのタイプはVEGF-2を含む)、成長因子受容体、転写活性化因子、及び翻訳促進剤などの脈管細胞成長促進剤;抗増殖剤、成長因子阻害剤、成長因子受容体アンタゴニスト、転写抑制体、翻訳抑制体、複製阻害剤、阻害性抗体、成長因子をターゲットとする抗体、成長因子及び細胞毒素を含む二官能性分子などの血管細胞成長阻害因子;コレステロール低下剤、血管拡張剤、及び内因性血管作用機構の阻害剤;プロブコールなどの抗酸化剤;ペニシリン、セフォキシチン、オキサシリン、トブラマイシン、エベロリムス及びラパマイシン(シロリムス)などのマクロライドなどの抗生物質製剤;酸性及び塩基性の線維芽細胞成長因子、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)及び17-ベータエストラジオールなどのエストロゲンを含む血管新生物質;及びジゴキシン、ベータ阻害薬、カプトプリル及びイナロプリル、スタチン及び関連化合物を含むアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤などの心不全のための薬剤が含まれる。
【0022】
望ましい生物活性物質には、ステロイドなどの抗増殖薬、ビタミン、及び再狭窄阻害剤が含まれる。望ましい再狭窄阻害剤には、タキソール、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、パクリタキセル誘導体、及びそれらの混合物などの微小管安定剤が含まれる。例えば、本発明における使用に好適な誘導体には、2'-グルタリル-タキソール、 2'-グルタリル-タキソールトリエタノールアミン塩、 N-(ジメチルアミノエチル) グルタミンを伴う2'-O-エステル、及び N-(ジメチルアミノエチル) グルタミド塩酸塩を伴う2'-0-エステルが含まれる。
【0023】
その他の望ましい生物活性物質には、ラパマイシン(シロリムス)などの免疫抑制剤に加え、ニトログリセリン、亜酸化窒素、抗生物質、アスピリン、ジギタリス、グリコシドが含まれる。
生物活性物質の量は、患者の必要に応じて調節することができる。一般的に、生物活性物質の使用量は、用途又は選択された生物活性物質によって変化することもある。当業者は、所望の投与量を実現するため、いかにして特定の生物活性物質の量を調節するかを理解するであろう。
【0024】
被覆層は、任意の厚さであってもよいが、好ましくは約1.0から約50ミクロンの厚みを有する。厚みのある被覆層は、より多量の生物活性物質を組み込むのに望ましいこともある。さらに、厚みのある被覆層は、生物活性物質が被覆層の深部へ浸透し、被覆層内の孔からよりゆっくりと経時的に放出することを可能にする。
【0025】
本発明の医療デバイス被覆を製造するには、始めに被覆組成物を医療デバイスの表面の少なくとも一部に塗布する。被覆組成物は、前述の通り、生体適合性を有する第一の金属を含む。また、被覆組成物は、第二の金属を含む。第一の金属と同様、第二の金属は望ましくは生体適合性を有する。好適な第二の金属には、銀、金、アルミニウム、タンタル、プラチナ、ビスマス、イリジウム、セレン、硫黄、スズ、ジルコニウム、ヨード、チタン、バリウム、クロム、カルシウム、銅、マグネシウム、カリウム、鉄、ナトリウム、及び亜鉛が含まれるが、それらに限定されない。第二の金属は、中空球又は多様なサイズの細断した管などの粒子状とし得る。第二の金属が除去されると、下記の通り、形成された孔のサイズは、第二の金属粒子のサイズによって決定される。例えば、第二の金属の中空球が除去されると、球の空洞のサイズは形成された孔のサイズを決定する。望ましくは、第一と第二の金属は、異なる金属である。該2種の金属は、金と銀との合金などの合金を形成することができ、ここで金は第一の金属であり、銀は第二の金属である。また、2種の金属は機械的混合物、又は混合物の形態であり得る。下記の通り、第二の金属は除去され、孔を形成する。従って、金属は、第二の金属の除去を促進するためには、異なる化学的性質又は物理的性質を有しているべきである。例えば、第二の金属は、電気化学的により活性(例えば第一の金属より耐食能力が低い)であるべきである。
【0026】
別の実施態様において、第二の金属は、第一の金属より低い融点を有しているべきである。また別の実施態様において、第二の金属は、第一の金属より高い蒸気圧を有しているべきである。また別の実施態様において、第二の金属は第一の金属より、選んだ溶媒に溶かされ易い。
【0027】
被覆組成物を、任意の適切な方法によって、医療デバイスの表面の少なくとも一部に塗布し、方法には浸漬、スプレー、塗装、電気メッキ、蒸発、プラズマ気相成長、陰極アーク蒸着、スパッタリング、イオン注入、静電気的方法、電気メッキ、電子化学的方法、これらの組合せ、又は同様の方法などがあるが、それらに限定されない。
被覆組成物を医療デバイスの表面の塗布した後、複数の孔を有する被覆層を、被覆組成物から形成する。被覆層を任意の好適な方法によって形成する。例えば、被覆組成物が第一及び第二の金属を含有する場合、被覆層を、当業者に公知の任意の適切な方法によって、第二の金属を除去することで形成する。
【0028】
例えば、第二の金属の選択的溶解などの脱合金工程によって、第二の金属を第一の金属から除去する。この方法では、被覆組成物を、第二の金属を除去する酸に曝す。このようにして、第一の金属は、好ましくは、酸に曝されても溶解しない金属であり、第二の金属は酸に溶解する金属である。任意の好適な酸を第二の金属の除去に使用できる。当業者は、第二の金属の除去に使用する適切な濃度及び反応条件を理解するであろう。例えば、第二の金属が銀であれば、硝酸を35%までの濃度、及び華氏120度(48.9℃)までの温度で使用してもよい。また、華氏80度(26.7℃)での硝酸及び硫酸混合物(95%/5%)への浸漬工程を使用してもよい。反応条件を変化させて、被覆層の形状、分布、及び奥行きを変えてもよい。
【0029】
ある実施態様において、第一の金属と第二の金属は、二相構造を形成した。一相は、ほとんど第二の金属を含む。一相は、選択的かつ化学的に粉砕される。この相の形態を、熱処理による化学的除去用に最適化してもよい。例えば、長針状、又は内部樹枝状の相形態は、球状の相形態に比べて、治療薬の浸透及び放出により適したネットワークを創出するかもしれない。
【0030】
あるいは、第二の金属を陽極除去することができる。例えば、銀は、15%までの硝酸を含む希釈硝酸浴槽を使用して、被覆組成物から陽極除去してもよい。この時、陽極はメッキを施したステント、陰極はプラチナである。直流10Vまでの電圧を電極に印加することができる。溶液の化学的性質、温度、印加電圧、工程時間を変化させて、被覆層の形状、分布、及び奥行きを変えてもよい。別の実施例において、1平方フィート当たり10-20 アンペアのTechnic Envirostrip Agを、ステンレス鋼の陰極と共に使用してもよい。
【0031】
さらに、第二の金属が第一の金属より低い融点を有するのであれば、第二の金属が液化し、固体の第一の金属から除去可能になるように、第一の金属及び第二の金属で被覆されたデバイスをある温度まで加熱することができる。そうした工程に好適な金属の例は、プラチナ、金、ステンレス鋼、チタン、タンタル、及びイリジウムなどの高融点の第一の金属のうちの1つを含み、アルミウム、バリウム、及びビスマスなどの融点が低めの第二の金属と組み合わせる。
【0032】
別の実施態様において、第一及び第二の金属で被覆されたデバイスを真空条件下で加熱すると、第二の金属が気化し、固体の第一の金属から除去されるように、第二の金属は、第一の金属より高い蒸気圧を有する。この技術のための金属の例は、プラチナ、金、チタン、タンタル、イリジウム、モリブデン、ニオブ及び パラジウムなどの第一の金属の中の1つであり、クロム、アルミウム、バリウム、ビスマス、カルシウム、銅、マグネシウム、及びカリウムなどの融点が低目の第二の金属の中の1つと組み合わせる。
【0033】
ある実施態様において、微細な金属粉末、又はビーズを被覆表面に付着させてもよい。接着剤を使用して、金属粉末を表面上に接着してもよい。また金属粉末をある温度まで加熱し、共に拡散接合してもよい。ろう付け用合金、及び拡散接合活性剤を接着剤に含めて、被覆に有害となるより低めの温度領域で、拡散接合を促進してもよい。脱合金工程、及びナノ細孔性構造の形成の更なる説明には、Erlebacherらの「脱合金におけるナノ細孔性の進化」 Nature, vol. 410, March 22, 2001, 450-453頁を参照されたい。
【0034】
第二の金属を被覆組成物から除去した後、外表面を含む被覆層、及び複数の孔を有する第一の金属は、医療デバイスの表面上に残存する。孔は被覆の外表面に繋がっている。生物活性物質を、任意の適切な方法によって被覆層の孔中に分散し、その方法には、浸漬被覆、スプレー被覆、スピン被覆、プラズマ蒸着、凝縮、電気化学的方法、蒸発、プラズマ気相成長、陰極アーク蒸着、スパッタリング、イオン注入、又は流動床の使用などがあるが、これらに限定されない。孔中の生物活性物質の分子を分散するには、被覆層内の孔のサイズを修正する必要があるかもしれない。孔のサイズは、熱処理などの任意の適切な方法によって修正してもよい。
【0035】
別の方法において、細孔の形成を促進する工程パラメータと共に、第一の金属を含む被覆上への真空プラズマ溶射を使用して、複数の孔を有する被覆層を被覆上に形成してもよい。これらの工程パラメータは、当業者に公知である。孔のサイズは、封入されたガスが被覆内にどれだけ存在するかによって、変化することもあり得る。
ステントなどの本発明に基づいた医療デバイスは、生物活性物質の所望の放出特性を提供するように製造することができる。例えば、医療デバイスの表面に塗布した被覆組成物の量、被覆層を形成するのに使用された技術及び反応条件を調節して、被覆層の厚みと細孔性を変化させることができる。厚み及び/又は細孔性を増大させることによって、より多量の生物活性物質が被覆層内に分散されるであろう。
【0036】
本発明の医療デバイス及びステントを、任意の適切な医療処置に使用してもよい。医療デバイスの送達は、当業者に周知の方法を使用して達成することができる。
本明細書に記載された説明は例示を目的とし、限定が目的ではない。変更及び改良が、記載の実施態様に行われてもよく、それでも本発明の範囲内にあるであろう。さらに、明らかな変更、改善、あるいは変異を、当業者は思い付くであろう。また、上記の全ての引用文献は、全体として、当公開に関する全ての目的のために、本明細書に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明は、以下の図面を参照しながら説明される。
【図1】図1は、本発明の被覆を有する医療デバイスの横断面図である。
【図2a】図2aは、表面に繋がる孔を含む金フィルム横断面の、走査電子顕微鏡写真である。
【図2b】図2bは、表面に繋がる孔を含む金フィルム平面の走査電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性物質を患者の体組織へと送達するための被覆された医療デバイスであり:
表面を有する医療デバイス;
表面上の少なくとも一部に配置された被覆層、このとき前記被覆層が外表面、及び前記被覆層の前記外表面に連結された複数の孔を含み、生体適合性を有する金属を含む、;及び
前記孔中に収容された生物活性物質;
を含む、前記記載の医療デバイス。
【請求項2】
前記孔がナノ細孔である、請求項1記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記被覆層が実質的にポリマー材料を含まない、請求項1記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記医療デバイスがステントである、請求項1記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記金属が金、プラチナ、ステンレス鋼、チタン、タンタル、イリジウム、モリブデン、ニオブ、パラジウム、又はクロムを含む、請求項1記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記生物活性物質が、抗血液凝固剤、抗血管形成剤、抗増殖剤、抗生物質製剤、成長因子、免疫抑制剤、放射化学物質、又はそれらの組合せを含む、請求項1記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記抗増殖剤が、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、又はパクリタキセル誘導体を含む、請求項6記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記抗生物質製剤が、シロリムス、又はエベロリムスなどのマクロライドを含む、請求項6記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記金属がX線不透過性である、請求項1記載の医療デバイス。
【請求項10】
生物活性物質を患者の体組織へと送達するための、被覆された医療デバイスの製造方法であり:
表面を有する医療デバイスを提供すること;
表面の少なくとも一部に、生体適合性を有し、少なくとも表面の一部上に被覆層を形成する、第一の金属を含む被覆組成物を塗布すること、ここで前記被覆層は外表面を有し、前記第一の金属は、前記被覆層の前記外表面に連結された複数の孔を有する;及び
生物活性物質を前記孔内に配置すること;
を含む、前記記載の方法。
【請求項11】
前記孔がナノ細孔である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記被覆層が実質的にポリマー材料を含まない、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記医療デバイスがステントである、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記第一の金属が金、プラチナ、ステンレス鋼、チタン、タンタル、イリジウム、モリブデン、ニオブ、パラジウム、又はクロムを含む、請求項10記載の方法。
【請求項15】
前記生物活性物質が抗血液凝固剤、抗血管形成剤、抗増殖剤、抗生物質製剤、成長因子、免疫抑制剤、放射化学物質、又はそれらの組合せを含む、請求項10記載の方法。
【請求項16】
前記抗増殖剤がパクリタキセル、パクリタキセル類似体、又はパクリタキセル誘導体を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記抗生物質製剤がシロリムス、又はエベロリムスなどのマクロライドを含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記第一の金属がX線不透過性である、請求項10記載の方法。
【請求項19】
前記被覆組成物がさらに第二の金属を含み、及び前記被覆層が前記第二の金属を除去することによって形成される、請求項10記載の方法。
【請求項20】
前記第二の金属を酸に曝すことによって、前記第二の金属を除去する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記第一の金属が金を含み、前記第二の金属が銀を含む、請求項19記載の方法。
【請求項22】
請求項10記載の方法に基づいて製造された、被覆された医療デバイス。
【請求項23】
患者の体組織へ生物活性物質を送達するための、X線不透過性の被覆された医療デバイスの製造方法であり:
表面を有する医療デバイスを提供すること;
前記表面に、生体適合性を有する第一の金属、及び第二の金属を含む被覆組成物を塗布すること;
前記第二の金属を除去して、前記表面上に被覆層を形成すること、ここで前記被覆層は外表面を含み、前記被覆層は前記被覆層の外表面に繋がる複数の孔を有する前記第一の金属を含む;及び
生物活性物質を前記孔中に配置することを含む、前記記載の方法。
【請求項24】
前記孔がナノ細孔である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記第一の金属が金を含み、前記第二の金属が銀を含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記第一の金属が金、プラチナ、ステンレス鋼、チタン、タンタル、イリジウム、モリブデン、ニオブ、パラジウム、又はクロムを含む、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記第二の金属が、銀、アルミウム、バリウム、ビスマス、クロム、カルシウム、銅、マグネシウム、カリウム、鉄、ナトリウム、イリジウム、セレン、硫黄、スズ、又は亜鉛を含む、請求項23記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate


【公表番号】特表2008−500886(P2008−500886A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515524(P2007−515524)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/019225
【国際公開番号】WO2005/117753
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(305011097)ボストン サイエンティフィック リミテッド (7)
【Fターム(参考)】